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認知バイアスと 双条件付確率 高橋 達二 東京電機大学理工学部情報システムデザイン学系 20140218() 16:00–17:00 HRI-JP, 和光市, 埼玉県

2014 02 feb-18-tue-hri-jp-高橋達二-認知バイアスと双条件付確率

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認知バイアスと 双条件付確率高橋 達二

東京電機大学理工学部情報システムデザイン学系 2014年02月18日(火) 16:00–17:00

HRI-JP, 和光市, 埼玉県

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自己紹介東京電機大学理工学部 (鳩山キャンパス)

情報システムデザイン学系 助教

2010年度より「内部観測研究室」を主宰

卒業生:学士計 40 名、修士計 8 名

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関心人間と機械の違いを考え(哲学)、実験して(心理学)、明らかにし(理学)、役立てる(工学)

機械学習・人工知能

生物とくに人間にインスパイアされた強化学習

情報工学

メタヒューリスティクス

認知心理学

人間の思考と推論

とくに条件文「~ならばー」にフォーカス

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人間認知のモデリングの必要性

今後のロボットや情報システムはユーザーの行動や意図を予測してより使い易く!

経験則によるインターフェイスのデザインだけでなく、人間のモデルが欲しい!

人間の誤解や失敗の傾向を理解する必要

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研究内容人間と機械の違いを考え、実験で明らかにし、応用

主な研究テーマ

テーマ1(機械学習・人工知能):

認知バイアスの適応性

テーマ2(認知心理学・確率論理学):

人間の論理学

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研究テーマ1:認知バイアスの適応性機械学習・人工知能

生物とくに人間にインスパイアされた学習・探索手法

人間の因果関係に関する直感のモデルを使用

不確実な環境への適応

不確実性・揺らぎの積極的な活用による非定常性の克服

人工知能学会

JSAI 2014 OS-3 「内部観測と探索」

JSAI 2013 OS-24 「内部観測と推論」

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人間認知のトイモデル認知を、合理的な基準からの逸脱に着目してモデリング!

数学的な法則を基準として使い、そこからのズレを要点とする:機械との違い(認知バイアス)!

主要な特性をできるだけ単純に実装すべき!

分析と応用が易しいように!

人間の直感をモデリング!

これも単純な方が良いのと、人間の方策や戦略は教育や文化で獲得され、多様かつ限定的すぎる

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認知のトイモデルとしての”LS”篠原修二ら!(2007)!が提案した!LS!(loosely!

symmetric)!モデルを採用・一般化!

認知バイアスをモデリングしている!

たんなる二事象の共起情報上の関数で単純!

人間の因果的直感を忠実に再現!

因果的直感は適応のための意思決定と行動の基礎

篠原修二, 田口亮, 桂田浩一, & 新田恒雄. (2007). 因果性に基づく信念形成モデルとN本腕バンディット問題への適用. 人工知能学会論文誌, 22(1), 58–68.

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LS!モデル(概要)条件付確率!P(5|5)!と同様の形式の確率的な関数!LS(5|5)!

事象!p!と!q!の共起情報上で定義!

p!から!q!への関係の強さを!LS(q|p)!とする!

LS!は人間の因果的直感を最も忠実に記述する(40以上の既存のモデルよりも優れたデータフィット)

後事象q ¬q

前事象 p a b¬p c d

P (q|p) = a

a+ b

LS(q|p) =a+ b

b+dd

a+ bb+dd+ b+ a

a+cc

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因果関係の帰納的推論!

人間がいかに!p!から!q!への因果関係の強さを評価するか!

事象!q!に着目し、p!は!q!を結果として起こす原因の候補!

人間の因果直感の関数形!f(a,$b,$c,$d)!として考える!

「合理的基準」は!∆P

�P = P (q|p)� P (q|¬p)

LS!モデル(記述性)

後事象q ¬q

前事象 p a b¬p c d

LS(q|p) =a+ b

b+dd

a+ bb+dd+ b+ a

a+cc

Experiment AS95 BCC03.1 BCC03.3 H03 H06 LS00 W03.2 W03.6r for LS 0.95 0.98 0.98 0.98 0.97 0.85 0.95 0.85r for ΔP 0.88 0.92 0.84 0.00 0.71 0.88 0.28 0.46r 0.9 0.96 0.96 0.97 0.94 0.73 0.91 0.72

Meta analysis as in Hattori & Oaksford (2007)

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2本腕バンディット問題LS!を強化学習の価値関数として用いる!

エージェントは行動の選択肢を人間の因果直感に従って価値付けし、たんにgreedyに行動を選択!

短期的にも長期的にも良い適応(速さと正確さの既存のトレードオフを破る)

1 5 10 50 100 500 10000.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

step

Accuracyrate

LSCPToWH0.5LSMH0.3LSMH0.7L

バンディット問題については 後のスライドで説明します

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LS!モデルの特性LS!は人間の因果直感に近く、強化学習の価値関数としてうまく働く なぜ?!

分析から!LS!が次の認知特性を実装していることが分かる:!

図地分割と地の不変性!(視覚のような!Takahashi!et!al.,!2010)!

相対評価!

心理学:!Tversky!&!Kahneman,!Science,!1974,!脳科学:!Daw!et!al.,!Nature,!2006.!

特異・非対称なリスクに対する態度(プロスペクト理論)!

心理学:!Kahneman!&!Tversky,!Am.,/Psy.,!1984,!脳科学:!Boorman!et!al.,!Neuron,!2009!

満足化!satisficing!!

心理学:!Simon,!Psy./Rev.,!1954,!脳科学:!Kolling!et!al.,!Science,!2012.

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主要な人間の認知バイアス満足化!satisficing:!最適化せず、満足化する!

最適解を探すのでなく、ある基準よりも良いものが見つかれば探索をやめる!

相対評価:!!

状態や行動を、他の状態や行動との比較において評価!

非対称なリスク態度!

利益と損失を非対称に見る:損切りがつらい

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脳科学 Kolling et al., Science, 2012 Boorman et al., Neuron, 2009 Daw et al., Nature, 2006心理行動科学 Simon, Psy. Rev., 1956 Kahneman & Tversky, Am. Psy., 1984 Tversky & Kahneman, Science, 1974

期待確率 75% = 75% 25% = 25%

過去の当たり外れ

○×○○○×○○○○○○○×○○○×○×

○×○○×○×××○×××××××○×××○×○

×○××

信頼性を考慮した主観価値

> <

5/20 の当たりよりも 1/4 の当たりに可能性を見て賭ける

特性 C : 相対評価

絶対評価 (期待値)

相対評価 (シーソー)で素早くA以外を探索

特性 A : 基準充足化

Aの価値

Bの価値

基準以上のマシンの差は追求せず

A B

基準

基準

基準以下マシンのみなら基準以上のマシンを求めて良く探索

BA

基準以上でリスク回避

3/4 の当たりよりも15/20 の当たりをより信頼

特性 B : 信頼性/リスク考慮基準以下でリスク追求

「反射効果」

Aの価値だけ下げる

Bの価値も上げる

Aの収穫をして外れた基準50%

満足化

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脳科学 Kolling et al., Science, 2012 Boorman et al., Neuron, 2009 Daw et al., Nature, 2006心理行動科学 Simon, Psy. Rev., 1956 Kahneman & Tversky, Am. Psy., 1984 Tversky & Kahneman, Science, 1974

期待確率 75% = 75% 25% = 25%

過去の当たり外れ

○×○○○×○○○○○○○×○○○×○×

○×○○×○×××○×××××××○×××○×○

×○××

信頼性を考慮した主観価値

> <

5/20 の当たりよりも 1/4 の当たりに可能性を見て賭ける

特性 C : 相対評価

絶対評価 (期待値)

相対評価 (シーソー)で素早くA以外を探索

特性 A : 基準充足化

基準以上のマシンの差は追求せず

A B

基準

基準

基準以下マシンのみなら基準以上のマシンを求めて良く探索

選択

BA

基準以上でリスク回避

3/4 の当たりよりも15/20 の当たりをより信頼

特性 B : 信頼性/リスク考慮基準以下でリスク追求

「反射効果」

Aの価値だけ下げる

Bの価値も上げる

Aの収穫をして外れた基準50%

非対称なリスク態度

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脳科学 Kolling et al., Science, 2012 Boorman et al., Neuron, 2009 Daw et al., Nature, 2006心理行動科学 Simon, Psy. Rev., 1956 Kahneman & Tversky, Am. Psy., 1984 Tversky & Kahneman, Science, 1974

期待確率 75% = 75% 25% = 25%

過去の当たり外れ

○×○○○×○○○○○○○×○○○×○×

○×○○×○×××○×××××××○×××○×○

×○××

信頼性を考慮した主観価値

> <

5/20 の当たりよりも 1/4 の当たりに可能性を見て賭ける

特性 C : 相対評価

絶対評価 (期待値)

相対評価 (シーソー)で素早くA以外を探索

特性 A : 基準充足化

基準以上のマシンの差は追求せず

A B

基準選択

基準

基準以下マシンのみなら基準以上のマシンを求めて良く探索

選択

BA

選択

基準以上でリスク回避

3/4 の当たりよりも15/20 の当たりをより信頼

特性 B : 信頼性/リスク考慮基準以下でリスク追求

「反射効果」

Aの価値だけ下げる

Bの価値も上げる

Aの収穫をして外れた基準50%

相対評価

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3つの認知特性

これら3つが合わさって非常に効率的な満足化!

ベストの行動と2番目に良い行動の間に満足化の基準を置くことで、満足化は最適化となる!

この特徴を活かしたまま、モデルを一般化する

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バイアス項

満足化基準を可変にした一般化!LS!

(LSVR)

可変基準

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n本腕バンディット問題/(nABP)強化学習の最も単純な枠組み!

情報探索と情報活用のジレンマと速さと正確さのトレードオフを最もシンプルに体現!

ゴールは、n種類の行動があり、それぞれが未知の報酬確率を持つ!

一本腕バンディットは普通のスロットマシン、報酬を与える!

(勝ち)!か与えない!(負け)!か!

n/本腕バンディットはアームを!n!本持ち、それぞれ報酬確率が異なる

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n本腕バンディット問題の指標正確さ!(accuracy)!

最適(報酬確率が最も高い)な行動を選択している平均割合!

後悔!(regret,!期待損失):!!

最初から最適な行動を選択していた場合と比較して実際にどのくらい損をしているか!

正確さがずっと!1.0!である試行の結果との差

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結果1n=100, 各行動の報酬確率は [0,1] から一様にランダムに設定.

0e+00 2e+05 4e+05 6e+05 8e+05 1e+06

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

Steps

Accu

racy

rate

LSLS-VRUCB1-tuned

LS γ= 0.999LS-VR γ= 0.999UCB1-tuned γ= 0.999

0e+00 2e+05 4e+05 6e+05 8e+05 1e+060

510

15

Steps

Expe

cted

loss

LSLS-VRUCB1-tunedLS γ= 0.999LS-VR γ= 0.999UCB1-tuned γ= 0.999

正確さ:最高 後悔:最低

Kohno & Takahashi, 2012; in prep.

行動の数が多ければ多いほど LSVR

のパフォーマンスは良くなる

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非定常バンディット問題報酬確率がプレイ中に変化する!

変化の仕方1!(同期):!全ての行動の報酬確率が一気に変わる!

変化の仕方2!(非同期):!各行動の報酬確率が、ある小さな確率で変わる

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結果2 (非定常バンディット)n=16, 報酬確率は [0,1] から。!

確率は 10,000 ステップ毎に完全にリセットされる

0 10000 20000 30000 40000 50000

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

Steps

Accu

racy

rate

LSLS-VRUCB1-tuned

LS γ= 0.999LS-VR γ= 0.999UCB1-tuned γ= 0.999

0 10000 20000 30000 40000 50000

050

100

150

200

250

300

Steps

Expe

cted

loss

LSLS-VRUCB1-tunedLS γ= 0.999LS-VR γ= 0.999UCB1-tuned γ= 0.999

Kohno & Takahashi, in prep.正確さ:最高 後悔:最低

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結果3 (非定常バンディット)

正確さを最も良くキープ

n=20, 報酬確率は [0,1] から!各行動の報酬確率は確率 0.0001 でリセット

0 10000 20000 30000 40000 50000

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

Steps

Accu

racy

rate

LSLS-VRUCB1-tuned

LS γ= 0.999LS-VR γ= 0.999UCB1-tuned γ= 0.999

よく試していない行動がたまたま最適に変化し、最適と思い何度も行った行動が非最適となっても、新しい最適行動を選択!!報酬が決定論的ならむしろ不可能!!非定常環境で、不確実性から来る揺らぎを活かして効率的に探索・

行動

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結果のまとめ選択肢が多ければ多いほど!LSVR!が優れる

0e+00 2e+05 4e+05 6e+05 8e+05 1e+06

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

Steps

Accu

racy

rate

LSLS-VRUCB1-tuned

LS γ= 0.999LS-VR γ= 0.999UCB1-tuned γ= 0.999

定常的

0 10000 20000 30000 40000 50000

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

Steps

Accu

racy

rate

LSLS-VRUCB1-tuned

LS γ= 0.999LS-VR γ= 0.999UCB1-tuned γ= 0.999

非定常(同期変化)

LSVR!は非定常な環境の変化に追従できる

0 10000 20000 30000 40000 50000

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

Steps

Accu

racy

rate

LSLS-VRUCB1-tuned

LS γ= 0.999LS-VR γ= 0.999UCB1-tuned γ= 0.999

非定常(非同期変化)

非定常と不確実という二つの難問に対して、後者から来る揺らぎを非定常性の克服に利用できる

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議論

人間の認知バイアスは、組み合わせると:!

不確実性の下での適応に寄与!

不確実性から来る揺らぎを非定常な環境への適応に活用

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着目した3つの認知バイアスの脳科学との対応

満足化 satisficing

Kolling et al., Science, 2012. 価値の相対評価

Daw et al., Nature, 2006. 特異なリスク評価

Boorman et al., Neuron, 2009.

研究テーマ1: まとめ一見不合理な、人間の認知にみられるバイアスには、不確実な環境への適応、進化の過程でのサバイバルに有用であった、という合理性あり

工学的に応用可能:機械学習・ロボット制御

脳科学(機械学習器としての脳)にも関係

PFC と vmPFC の機能のモデリング

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バンディット問題の応用

★囲碁・将棋AIなどでのモンテカルロ木探索!

★オンライン広告!(A/B!テストのバンディット化)!

★医学:治療法テストのデザイン!

★強化学習一般

Game-tree

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ロボット運動学習事前知識全くなし、超粗視化の下での試行錯誤からの運動学習(大車輪運動の獲得)free$joint�

ac,ve$joint�

Real$Robot$ Simulator$

1st$joint$(free)�

2nd$joint$(ac,ve)� 1st$link�

2nd$link�

200#

300#

400#

500#

600#

0# 20# 40# 60# 80# 100#

Learning#steps#[#/1000#steps]�

Acqu

ired#reward#pe

r#1000#step

s� Typical(case� Average(of(100(trials�

200#

300#

400#

500#

600#

0# 20# 40# 60# 80# 100#

LS>Q#Q#

Uragami, D., Takahashi, T., Matsuo, Y., Cognitively inspired reinforcement learning architecture and its application to giant-swing motion control, BioSystems, 116, 1–9. (2014)

P10�

P0�P1�P2�

P3�P4�P5�P6�P7�

P8�P9�

P11�P12�P13�P14�

P15�P16�

P17�P18�P19�P20�P21�

P22�P23�

Posi%on'State'

3π� .3π�0

W6�W5�W4�W3�W2� W1�W0�

[rad/s]�

Velocity'State'

R0�R1�

R2�R3�R4�

0'[rad]�

5/6π'[rad]�

Posture'State'

A1�

A2�

A0�

Ac%on'

r'='0�

r'='1�

r'='|θ%p'/'π|�

Reward'

4.0'[rad/s]�

.4.0'[rad/s]�0.0'[rad/s]�

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研究テーマ2:人間の論理学

認知心理学:  人間の思考と推論の統合理論の構築に向けて

条件文「~ならばー」にフォーカス

論理学に合わない人間は非論理的か?

条件文のモデリング

ロボット・情報システムへの応用?

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形式論理と人間の論理違い:

世界も認識も不確実

行動・意思決定・介入が重要

条件文が形式論理と人間の論理で、とても違う

法則、ルール、因果関係の表現に条件文が重要

条件文にフォーカス

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条件文のモデリングの重要性多くのルールは条件文「pならばq」で表現

ロボットとの対話インターフェイスで

ロボットが人間に合わせるにも、逆にも、重要

条件文は「嘘でも妄想でもないが、事実から離れた話」、仮想・仮説的思考を可能に

条件表現を持たない人間の言語は存在しない

推論と不可分

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推論の形式と条件文の関係推論の三形式 (C.S.Peirce)

演繹 条件文を前提として使用:三段論法

帰納 条件文を形成:データ(共起情報など)から法則を形成

アブダクション 条件文を遡り、結果から原因を探る

deduction induction abduction

premise 1 p p q

premise 2 p→q q p→q

conclusion q p→q p

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目次古典論理学

問題:「ならば」がヘン

不確実性を認める三値論理

「ならば」の適切な取り扱い

確率論理と賭け

発展:双条件付確率の導入

まとめ

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古典論理学とその問題

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古典論理学

論理回路など、コンピュータの基礎

コンピュータの論理、0/1の論理

0: false (F) 1: true (T)

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論理結合子T=真, F=偽

A かつ B

A AND B B=T B=F

A=T T F

A=F F F

A または BA OR B B=T B=F

A=T T TA=F T F

NOT A

A=T F

A=F T

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古典論理における条件文論理学における従来の条件文の扱い

「A ならば B」を「Aでない、またはBである」とする

数学における条件文

「A ならば B」であれば、A は B の十分条件、 B は A の必要条件

実質含意 material implication (IMP) と呼ばれる

「A IMP B」 ⇔ 「(NOT A) OR B」

A IMP B B=T B=F

A=T T F

A=F T T

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古典論理における条件文論理学の初学者が最初につまずき、いつまでも納得いかないところ: 直感・日常言語と合わない

しかしそれをもって人間が論理的でないとか言うのはおかしい

論理学の初学者は本当に非論理的なのか?

A IMP B B=T B=F

A=T T F

A=F T T

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実質含意のパラドックス実質含意的に言えば、

前件が偽なら無条件に条件文が正しい

後件が真でも無条件に条件文が正しい

とすると、

前件が偽だから「人間が存在しなければ、かえるは哺乳類である」が真になる

後件が真だから「明日宝くじが当たれば、1+1=2である」も真になる

そんなバカバカしい条件文が正しくなってしまう

A IMP B B=T B=F

A=T T F

A=F T T

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人間の条件文前件が真で後件も真ならば、条件文は正しい

前件が真で後件が偽ならば、条件文は正しくない

前件が偽ならば、条件文は正しくも正しくなくもない

Wason 1966, ... 

If A then B B=T B=F

A=T T F

A=F I I

I: irrevelant 無関係

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「欠陥条件文 defective conditional」条件文は、正しくも正しくなくもない場合がある

前提が成立しない(前件が偽である)場合

真理値表に穴、キズがある(TでもFでもない値が出てくる)

If A then B B=T B=F

A=T T F

A=F I I

I: irrevelant 無関係

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不確実性を認める 三値論理

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不確実性を認める三値論理真理値として、

真 (T: true)

偽 (F: false)

のほかに

不明 (U: uncertain)

も認める

ここでどのように論理結合子 (AND, OR, NOT, …) を定義するか

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不確実性を認める三値論理AかつB B=T B=F

A=T T F

A=F F F

AまたはB B=T B=F

A=T T T

A=F T F

AでないA=T F

A=F T

AならばB B=T B=F

A=T T F

A=F T T

B

AかつB T U F

T T U F

A U U U F

F F F F B

AまたはB T U F

T T T T

A U T U U

F T U FAでないT F

A U UF T B

AならばB T U FT T U F

A U U U UF U U U

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三値論理と確率論イタリアの de Finetti (1937) が主観確率の理論を構築する際に作っていた三値論理と一致

主観確率と賭けの密接な関係

賭けで考えると非常に直観的

不確実性の下での行動は全て賭けと呼べるB

IF A THEN B T U FT T U F

A U U U UF U U U

BB|A T U F

T T U FA U U U U

F U U U

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de Finetti による条件文の理解条件文を条件付賭け conditional bet で考える

太郎が「もしオバマが再選されれば、アメリカの景気は良くなる」

これを聞いた花子が、「そうじゃない」と反論

じゃあ賭けようか、という流れは想像しやすい

ある人の主観的確率が確率論の公理を遵守しているかは賭けの勝ち負けの言葉で明確に表現できる (The Dutch book argument)

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条件付賭け (de Finetti)太郎:「オバマ再選→アメリカ景気向上」に賭ける

花子:「太郎は正しくない」=に賭ける

前提が成立したら、あとは結論と一致

オバマが再選されて景気が向上したら、太郎の勝ち

オバマが再選されたが景気向上しなければ、太郎の負け=花子の勝ち

オバマが再選されたが景気向上したかどうか分からないなら、賭けは未決着

オバマが再選されたか分からなければ、賭けは未決着

オバマが再選されなければ、賭けは不成立

賭けの前提が成立しなければ、賭けは不成立

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条件付賭けの真理値表太郎:「(O)オバマ再選→(A)アメリカ景気向上」

花子:太郎は正しくない:O→Aの否定が正しい (O→¬A)

太郎側から見て

O=T, A=T なら (O→A)=T

O=T, A=F なら (O→A)=F

O=T, A=U なら (O→A)=U

O=U なら (O→A)=U

O=F でも (O→A)=U

BIF A THEN B T U F

T T U FA U U U U

F U U U

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de Finetti による条件文の確率論への導入「AならばB」が真か偽だけでなく、不確実 (恐らく; 多分; もしかしたら) でもありうると考える → 確率

「AならばB」の正しさ: Aが起こったときBがどのくらい起こりやすいかの度合い

「AならばB」の確率は条件付確率 P(B|A)

複文である条件文も一種の文である

事象の複合体である「B|A」も一種の事象と認める

条件付事象 conditional event

P (If A then B) = P (B|A) =P (A \B)

P (A)

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条件文=条件付事象の心理学的サポートP(If A then B)=P(B|A) という方程式は The Equation と呼ばれてきた (e.g., Edgington (1995))。

この等式の実験的な正しさは多くの研究で示されている

e.g., Evans et al., 2007; Politzer et al., 2010, Baratgin et al., 2013 このモデリングは真理値表で考えると欠陥条件文と完全に対応

A=T, B=T の場合は確率の分子と分母両方に入る

A=T, B=F の場合は確率の分母にのみ入る

A=F の場合は確率を考えるとき無視するB|A B=T B=F

A=T T F

A=F I I

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三値論理的の心理学的サポート

事象それ自体が不確実(まだ分からない、未知、不明)であることも考える

Jean Baratgin, Guy Politzer, David Over, 高橋らが行っている

B|A B=T B=F

A=T T F

A=F I I

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発展: 双条件付確率の導入

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条件文の使用に関するバイアス「火があれば煙が立つ」

ならば

「煙が立っていれば火がある」(逆命題)

とも思う

「原因ならば結果」と「結果ならば原因」が言えるときに最も原因から結果への因果関係が強いと感じる

対称性推論

心理学:転換バイアス、双条件解釈、…

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双条件文と双条件付事象「「AならばB」かつ「BならばA」」

=「(AまたはB)ならば(AかつB)」

AならばBを B|A と書くとき、 (B|A)かつ(A|B) を B||A と書く

これは高橋の因果帰納のモデルである pARIs と一致

pARIs: proportion of assumed-to-be rare instances  Takahashi et al., 2011, submitted 

David Over がパリのワークショップで pARIs と双条件付事象の確率の同一性を指摘 → 共同研究へ

B||A := (A ! B) ^ (B ! A) = A ^B|A _B

B||A B=T B=F

A=T T F

A=F F I

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双条件文の確率=双条件付確率条件文の確率は条件付確率

双条件文の確率は双条件付確率

P (A ! B ^ C ! D)

=P (ABCD) + P (D|C)P (ABC) + P (B|A)P (CDA)

P (A _ C)

P (B||A) := P (A ! B ^B ! A)

=P (A ^B)

P (A _B)

=P (ABAB) + P (B|A)P (ABA) + P (A|B)P (BAB)

P (A _B)

McGee, 1989; Kauffman, 2009; Gilio & Sanfilippo, in press, 2013

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双条件文の確率=双条件付確率演繹(真理値表タスク)の実験で頻発

帰納(因果帰納タスク)ではLSと同等=最もデータに合う

アブダクション(仮説形成)では、対称性によりそれを可能とする

P (B||A) := P (A ! B ^B ! A) =P (A ^B)

P (A _B)

deduction induction abduction

premise 1 p p q

premise 2 p→q q p→q

conclusion q p→q p

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「双条件付確率 biconditional probability」双条件付事象の確率 P(B||A) を双条件付確率と呼ぶことを提唱

Takahashi 2013; Yokokawa & Takahashi 2012; Takahashi & Yokokawa, submitted; Baratgin, Over, Politzer, & Takahashi, in preparation 

心理学的に半世紀謎であった「defective biconditional」パターンを説明

統計学 (生態学, 情報工学) でよく用いられる Jaccard index と一致 (確率論理的な意味を付与)

心理学的には類似性の指標と一致 Tversky index of similarity

Tversky (1977) (See also: Gregson, 1975; Sjöberg, 1972)  他にも別経路での妥当な導出が可能

probable equivalence, or the probabilistic indentity of two sets A and B, P(A=B) by Kosko (2004) 

P (B||A) =P (A ^B)

P (A _B)

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まとめ

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研究テーマ2: まとめ人間の論理学

不合理なものと思われてきたが、世界も認識も不確実で、真偽が決定できない場合もあることを考慮すればむしろ合理的

昔から、人間は二値的な古典論理ではなく、20世紀にやっと定式化された確率論理を使ってきた

人間は不確実性に対応した条件文を用いる

双条件文に対応する双条件付確率という概念により、人間の様々な推論を統合的に理解できる可能性

心理学・統計学・情報工学の指標の論理的意味

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LS!and!pARIs

★ pARIs!almost!coincides!with!LS!under!extreme!rarity!(lim!d→∞).

LSR(q|p) = limd!1

LS(q|p) ⇡ pARIs