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真のチーム医療の構築を目指して チーム医療と信念対立 Hirohisa Shimizu -Concept Book-

チーム医療と信念対立 ハンドアウト改訂版2014.03.13

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Page 1: チーム医療と信念対立 ハンドアウト改訂版2014.03.13

真のチーム医療の構築を目指して

チーム医療と信念対立

Hirohisa Shimizu

-Concept Book-

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Concept Bookについて

本冊子は、真のチーム医療構築を目指して立ち上げた「チーム医療と信念対立」プロジェクトについての開発背景・開発経過を記しています。また、当プロジェクトのプレゼンやワークショップのハンドアウトでもあり、各々のワ

ークショップでは解説しきれなかった内容を補完する目的もあります。当Concept Bookは、このプロジェクトの経過によって随時、増補されていきます。そのバージョンアップの情報、およびワークショップの情報などは、Face BookやSlide

Shareでお知らせ致しますので、Followしてみて下さい。

Hirohisa Shimizu

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AHA ACLS G2005 Team Dynamics

チーム医療の定義チーム医療とは、患者を中心に各種の医療専門職が、共通の理念を基盤に、それぞれの専門性を活かし、共有した目標に向かって協働して医療を実践することである。(「チーム医療と看護」川島みどり著)上記の「それぞれの専門性を活かし」というのがポイント!

実情しかし、現状のチーム医療の大半は、医師がチームリーダーとなり(例外もありますが)他の職種はリーダーの考え(医学寄りの信念)の基にサポートするというのが実際。あくまで医師中心のチーム。

チーム医療というと聞こえがよいが、コメディカルは医師のサポート役(手足)であり、多職種であることの強みが活かされていない。(*コメディカルという言葉自体が医師中心であることを示している。)

しかし、それぞれの専門性を活かすのは、医学的アプローチ(思考)だけでは不十分。看護学的アプローチ(思考)などの各職種毎のアプローチが共通理念の基に同時的に働いているのが理想。* 例えば、医師は臨床推論的に鑑別診断を重視する。看護師は生理的・フィジカルアセスメント(超急性期でなければ、現場の調整(コミュニケーション・倫理な

ど)も含まれる)から重症を見抜くアプローチ。

* 共通理念は患者安全、共通目標は「患者の重症に早く気付き、安定させる」。

すなわち、そこには信念対立が存在するわけです。それを無理矢理、医師側の信念側に持ってきているのが現状。(信念対立を否定しようとする)

開発背景

現状「チーム医療」と言われて久しいが、「チーム医療とは?」と

いう解釈が不明確なままに、言葉だけが独り歩きしている感がある。アメリカ心臓協会(AHA)では、心肺蘇生コースにおいて「チー

ムダイナミックス」という概念を提唱し、浸透(?)したように見える。しかし、「チームダイナミックス」はトレーニ

ングコースの「急変シナリオ」の中でのチームリーダー中心の役割分担に過ぎない。

これは、本当のチーム医療なのか?

Episode 0

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目指すべきは、、、多職種がミッションのもとに、そ

れぞれの特性を活かしつつ、相乗的

に協働するチーム医療。それぞれのパートを活かしつつ共

通コードの上で臨機応変に対応して

いく。

そう、まるでJazz sessionのような、、、

Gapを埋めるには?我々は、まず多職種間の信念の違

いを明らかにすることを第1歩と考えた。

同質性を前提としたチームワークから異質性を前提としたチームビルディングへ!

まずは、互いの職種間の信念対立を解明するためのワークショップの

企画がStartした。1)コース目標

★それぞれの職種によるアプローチ(信念)の違いを理解する。★互いの信念を尊重したうえでの多職種間のディスカッションができる。 2)コース手法①各職種毎のグループに分かれてもらう。(医師・看護師・薬剤師・など、医師を上級医組と研修医組に分ければ指導医研修にも応用可能)②各テーブル毎に「気付きコース」で使用しているビデオ*(信念対立が明らかになるように、なるべく重症過ぎない症例の方が望ましい。)*病院に到着した患者の様子を模擬患者(役者)を使って撮影した映像で、映像から様々な症状・徴候を評価することを目的として制作。③各テーブル毎にDVDを視て、どういう思考でこの患者にどうアセスメントし、行動するかをまとめる(アプローチ法は定型化せず、自由に )(マインドマップなど使うと、定型的なアプローチにならず、思考の部分まで見える化できそう)④各テーブル毎に発表してもいいし、

ある程度の時間で「ワードカフェ」のようメンバーを入れ替えるのも良し。⑤各職種の信念対立を明らかにする。(ここで、各職種が混ざったグループ分けに再編し、ディスカッションしてもらってもよい)

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やってみた!

試作コース開催2012年1月16日~26日にかけて当

院に救命士の再教育研修の一環とし

て、「プレホスピタルとホスピタルの信念対立」と銘打ち、救命士と当院看護師とのグループワークショップを計

4回開催した。

開催報告「チーム医療とは何か?」という

問いから、ワークショップStart。「個人個人の能力を協力して行う」など、予想された回答のなか印象的だったの

は、ある救命士から出た「自分らは、いつも1つのチームとして動いてい

る。よって、あえて『チーム医療』を意識したことはない。」との回答。

これは我々の「チーム医療は異質性を前提とする」という持論と偶然にも一致するものであった。

続いて、今回のルール説明。特に縛られることなく、自由に「気づいた

点」「知りたい点」「どう行動する?」などを各グループ毎で話し合ってもらうよう説明した。

患者(今回は呼吸苦とアナフィラキシーショック)DVD*を映写し、そ

れぞれのグループで話し合い、その後グループ毎に発表してもらった。(*我々が現在、開発中の「救急外来医学

コース」の導入DVD を使用)

結果それぞれの職種の発表をホワイト

ボードにまとめると、評価方法において、職種の違いを認めた。

特に、患者評価の部分において両者の違いが毎回見受けられた。

救急隊の場合、職務上、素早く推定疾患(重症度だけでない)を導き出し病院選定、搬送するという職務があ

る。そのため、話せる患者に対しては、疾患に結びつけるためのいわゆる

「Closed Question」(OPQRSなどの症状に特化した問診)を用いる傾向にある。

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一方、看護師側は、疾患を推論するというより、重症度について生理

学的に評価する。つまり、患者に最初に接触するプ

レホスピタルの救命士の方が、後に接

する病院側の看護師よりも臨床推論的アプローチを用いているという事

が興味深い点であった。(また、今回「看護師→医師」

「救命士→医師」という報告も行ってもらったが、アプローチの違いがそのまま報告様式にも表れる結果と

なった。)これは、現在の救急隊の業務のな

かで「病院選定」というものが重要な位置を占めており、生理学的重症

度だけでなく、疾患によって選定する(逆に言えば患者を受けてもらえ

る)必要があるからであり、このアプローチはむしろ医師のアプローチに近い。また、最近の救急活動のコ

ミュニケーションに関する書籍を見ても、医師側が救急隊に「予想され

る疾患名」を求めている。

追加モジュール今回、救急隊と病院側の信念対立

の場面として多いと思われる「患者

収容要請の電話」にスポットをあて、「理想的な患者収容要請と

は?」について話し合ってみた。方法として「救急活動コミュニケ

ーションスキル(坂本哲也 他著)」

を用いて、書籍中で、良い例・悪い例

とされる報告について話し合ってもらった。

書籍中で「良い例」とされる報告例は様々な疾患に結びつくKeyword

が散りばめられているが、救命士の

グループからは「こんなに疾患を断定していいのか?」「医師によって推測

疾患名を求める場合と、疾患名を出すと機嫌を損ねる場合がある。」との意見が出た。

この書籍中の「良い例」は医師によって書かれたものであり、医師側

の信念に近づけようと取れなくもない。今後、医師グループ含めたワークショップ開催の必要性を示唆すると

言えよう。

看護師の患者評価

救命士の患者評価

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多職種による信念対立ワークショップの開催今回は、救命士と看護師のみの参

加であったが、今後この試みを多職

種、また同職種であっても、「指導医VS研修医」「急性期病棟看護師VS

慢性期病棟看護師」など、様々な医

療スタッフ 参加のワークショップを開催していきたい。

また、今回のワークショップでは、評価・報告の違いを明らかにするものにとどまったが、今後もっ

と、それぞれの職種毎の思考にまでお互いが気づくようなファシリテー

ションが必要と感じられ、今後の課題と思われた。医師中心のチーム医療からの脱却

現在「チーム医療」と呼ばれているものは、医師がリーダーで他の職種

は「チームメンバー」という名の医師の手足となり、医師の価値観・アプローチに基づいて行動している。

医師と看護師の役割について興味深い記述がある。*それは、看護師

の活動は「治療的環境を整えること」すなわち「安楽で心地よい物理的環境を作り出すことから、説明し

たり、安心させたり、理解したり、支えたり、受け入れたりするとい

う、より直接的に養育的な活動にまでわたる。これらの行為は、患者の緊張度を低め、患者に直接的満足感

を与えるというところに主たる意味がある。」といい、また、「診察し

たり、診断したり、処方したり、治療したりという医師の活動は、直接的には患者に満足を与えない。患者

はこれらの活動が回復にとって必要であるとは理解しているが、それ自

体は、困惑させる、痛みのある、不安を引き起こすものであると、感じている。」とある。(川島みどり著 

「チーム医療と看護」看護の科学社)

(*M.ジョンソン&マーチン 稲田八重子他訳「看護婦の役割につい

ての社会的分析ー看護の本質、現代社1981.)

つまり、医師という職種は診断・

治療における専門職であって、全体を見て、場をコーディネイトするとい

うのに必要なGeneralな視点は持ち合わせていないということになる。そういった意味において、医師は

治療の指示をだす「コマンダー」にはなり得ても「チームリーダー」には

決して適任とは言えない。チームリーダーは場面により、変

化、時には看護師が、時にはケアマ

ネーシャーが、また患者自身がリーダー(在宅療養などの場合)とさえな

り得るのである。今後、それぞれの職種の「信念対

立」を解明することによって「医師

中心のチーム医療からの脱却」「異質性を前提としたチームの構築」に

つなげていきたい。

今後の展開

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「信念対立解明アプローチ」@チーム医療推進協議会

2012年2月6日にチーム推進医療協議会主催で行われた京極真先生の

講演を聴いてきました。今回は特に「チーム医療における信念対立」について講演頂き、京極先生ともお話

しする機会も持つことができ、今後、我々の活動のなかでご指導頂こ

うと思っております。

『チーム医療」における信念対立チーム医療を行うにあたって信念

対立が生じる場面は、

①患者と専門職中心という相反する信念の衝突

②チーム医療のリーダー的役割を巡る信念の衝突

③コミュニケーションの価値を巡る信念の衝突

などである。

信念対立解明京極氏は「解決よりも解明を重

視」と強調する。

解明とは、「問題が発生する条件を変えることによって、問題が問題

化しないように終わらせること」で、時として問題をさらに強化させてしまう解決とは異なるものである。

信念対立解明アプローチ

Episode 1

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チーム医療における信念対立の問題点我々は、ついつい「チーム医療の

実践方法」という方法論から学習し

ていく。そうすると「正しい実践」(実際には、実践はやってみなければ分からない)があるという確信に

ため、信念対立が起こりやすくなる。

チーム医療における信念対立解明アプローチ重要なのは、「方法論」でなく、

「目的」から入り、それを共有することである。つまり、「きっかけは

何?」「状況は?」「何の為に?」「目的は?」といった問いかけか

ら、共通の目的・状況を共有することが重要。

次に、そこから「さしあたり(実際には確実な実践は存在しないの

で)有効なやり方は?」と方法を探っていく。

「誰がリーダーか?」「患者中心?専門職中心?」チーム医療において最も信念対立

が起こりやすい問題だが、この回答は、状況と目的によって変わる。

つまり、「状況と目的」によってチーム医療のやり方を変える必要がある。一方、このやり方は多様性を保証

できる反面、チームを突き動かすドライバーに欠けるとも言える。そこ

で、重要なのが共通の状況・目的の共有である。実際には、「我々(私)の今の状況は、〇〇〇

だけど、、、」などと、言語化し、強調していく行為が重要である。こ

れが、京極氏の言う「回路を繋いでいく」作業となる。京極氏は著書の中で、信念対立解

明アプローチを「解明術壱号」「解明術弐号」「解明術参号」に分け

(次ページスライド参照)、解明術壱号は「契機と志向性を意識化する」行為で、解明術参号は「人々の

回路を繋ぐ(共通の状況・目的の共有)」行為であると説明している。

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今後のチーム医療のあり方京極氏の主張のように、チーム医療

のやり方は、状況と目的によって変わる

べきと思われる。(例1:「超急性期」なのか?「慢性期」なのか?)(例2:心肺蘇生においてはACLSのような一人

のコマンダーをリーダーとしたアルゴリズム的が適しているが、慢性期疾患で

は、Ns中心のチームが適しているかもしれない)つまり、チームの方法論を一定化す

るのでなく、多様性に富んだチーム医療(その部分においては認知プロセスの強

化が重要かもしれない)そして、チームの多様性を保証する

一方で、今まで以上に共通した状況・目

的の共有を図ることが重要となる。今後、今までのようなアルゴリズム

をなぞるようなシナリオベースのシミュ

レーション訓練だけでは不十分で、そのための方法も再度検討していく必要があ

ると感じた。今後、様々な方々の意見を伺いなが

ら、より良い方向性が見いだせればと思

います。

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チームビルディングワークショップ

チーム医療プロジェクト真のチーム医療構築のために、ま

ず第一歩として「信念対立解明アプ

ローチ」ワークショップの開発に着手したが、もちろんそれだけでは不十分である。

今回、我々は「チーム医療プロジェクト」の構成要素として、多職種

や立場の違いによって生じる信念対立を解明する①「信念対立解明アプローチ」ワークショップ。異質性を前

提としたチームビルディングに重点をおいた②「チームビルディング」ワー

クショップ。また、「真のチーム医療構築」のためには、個々の変化だけでは不十分であり、「組織をどう、

変革・成長させていくか?」に趣をおいた③「ホールシステムアプローチ

(学習する組織)」ワークショップ(仮)を3本柱として考えた。

「チームビルディング」ワークショップ開発「チームビルディング」ワークシ

ョップを企画するのあたり、理想のチームビルディングの姿、および、現

状とのGapを埋めるための方略をブレインストーミングした。

コンセプト:「異質性を前提としたチーム医

療」というコンセプト。そのためには、「信念の多様性を保証」では、

片手落ちで、チームとして協働的に動くために、より強い「目的・状況の共有」が重要となる。「尊重」「共

感」「対話」というキーワードが考えられ、特にディベートではない「対

話(ダイアローグ)」が重要と考えられた。一方で、「目的・情報の共有手段」は具体的にどうするかが検討

課題となった。

コース目標:下記の項目をコース目標として挙

げた。

①病態変化(の予兆)に気づくことが出来る。

②適切な初期対応(処置・報告・招集)ができる。③Communicationと適切な役割分担

ができる。

④リスクを最小限にする場のコン

トロールが出来る。この目標を大きく分けると2つの状

況確認と安定化すなわち①患者の状況確認・安定化

②場の状況確認・安定化であり、特に②については今までの既存のコースでは、あまり触れられな

かった部分であり、今回重要視する部分である。

①患者の状況確認と安定化患者の急変の予兆を早期に認識するいわゆる「気付き」からはじまり、

適切にACDAサイクルをまわすのは、既存コースでも示されてきたが、今回

のワークショップでは、チームリーダーは医師以外を想定しているため、「Decision Making」を重要視した。

医師以外の職種(おもにNs)がDecision Makingをする際には、様々

な障壁が存在する。今回のワークショップでは、この部分をいかに克服するかがkeyの1つと

言える。

Episode 2

Page 12: チーム医療と信念対立 ハンドアウト改訂版2014.03.13

②場の状況確認と安定化今回の構想の特徴でもあるが、今ま

では医療的指示を出す「コマンダー」が「チームリーダー」であった。しかし、医療的指示が適切であって

も「チーム医療」はうまく機能しない。コマンダー=リーダーで必ずしも

ある必要はなく、上手く場をコントロールする能力がリーダーには求められる。そのために、

①Task Management

②Situation Awareness

③Communication

という能力が必要であり、これらをコース内にどう埋め込み、評価してい

くかが課題である。

Decision Making

Page 13: チーム医療と信念対立 ハンドアウト改訂版2014.03.13

コース方略従来の超急性期病態のコースにあ

るようなアルゴリズムをなぞるよう

な方法はとらない。なぜなら、今回の目指すべきチー

ムとは、病態や経過によって臨機応

変に変化していくチームであり、それは、施設によっても(組織体系・マ

ンパワー・地域性など)目指すべき形態が変化するものであり、それは画一化されたアルゴリズム至上主義の

コースでは達成出来ないからである。(部分的にはアルゴリズムを用いる

部分もあるかもしれない)実際には、

①ある場面(従来のコースよりは時間

的に余裕があるような病態から導入を考えている)を想定したストーリ

ー(DVDなどで提示)を導入として用いる。②①の提示ストーリーを題材として

「異質性を前提としたチームビルディング」について話し合う。(以下)

a)「それぞれの職種の立場で発揮できる力(処置・報告・処置)はなにだ

ったか?」(自身・他者の役割)について話し合う。b)「この場の共通した目標は何だった

か?」を話し合う。c)「協働するとは何か?」を話し合

う。③提示ストーリーについて、気付き→Categorize→Decision Making→報

告(患者の評価・安定化だけでなく、場を評価し、安定化することも

同時に行う)の流れをNsをリーダーとしてやってみる。方法としては、

a)マネキンを使ったシミュレーションb)机上訓練:災害医療訓練(例:

Hospital MIMMS)のように、それぞれの施設にあったマンパワー・組織形態・急変時対応体制に沿って、(Dr

がすぐに来ない場合やDrが専門医の場合、研修医の場合など、その施設

毎によくあるケースを設定)話し合

う。時間軸によってチーム形態も変化(災害医療時の「折りたたみ可能

な組織」のように)c)チームビルディングのロールプレイ:それぞれが医師役・Ns役などを

演じる。(それぞれの職種・職歴・性格などの背景を設定)その後、お

互いに気づいた点をディスカッション。

今後の課題今後、試作コースを展開しなが

ら、改善点を見いだしていくことに

なるが、現時点での問題点は、「チームビルディング」ワークショップの評価方法をどうするかという点。

また、この「チーム医療構想」には、組織側の変革も必須であり、現

在、「ホールシステムアプローチ(学習する組織)」ワークショップも企画中である。

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毎日のように繰り返される不毛な会議。医療関係者は対話・問題解決が苦手。とかく方法論の議論に陥りやすい

信念対立解明アプローチ入門編として職種毎の信念の違いを明らかに

し、理解した上で、真のチーム医療を

構築するには信念対立解明が必要となる。しかし、我々、医療関係者は対話

や問題解決が苦手であり、結論の出ない(結論が出ても全員の総意でなく、意見の強い者の意見が押し通る場面な

ど多々みられる)不毛な会議など、その典型例である。

医療者どおしの議論はとかく方法論に陥りやすい。

問題とは、「望まれた事柄と認

識された事柄の相違」であり、問題解決には「目標」と「現状」の把握が先決であり重要となる。しかし、医療者どおしの議論は、とかく方法論に陥

りやすく、これはチーム医療における信念対立においても同様である。そこ

で、まず「信念対立」に限らず、問題が生じた際の問題解決アプローチを学ぶことから始めてみた。

組織ファシリテーションとして既存のコースや教材は、大部分が

個人それぞれのスキル(認知・運動ス

キルやコミュニケーションスキルなど)を向上させるのが目的であり、草木(人材)一本一本を対象にしたもの

と言える。一方、今回の問題解決アプ

ローチの改善は、いわゆる組織の

「場」(Social Field)を耕す行為と言え

る。「真のチーム医療」を実現するに

は、個々のスキルアップも重要だが、問題(望まれた事柄と認識された事柄

の相違)が生じた際に、対話がしやすい「場」であることが重要で、そのような「場」でなければ、多職種のスキル

の総和以上のものを生み出すことは難しい。今回の「問題解決アプローチ」

を組織毎に行うことが、真のチーム医療を構築する組織づくりに有効と考えた。

コース方略の転換

Social Fieldを耕す

Episode 3

Page 15: チーム医療と信念対立 ハンドアウト改訂版2014.03.13

ワークショップ方略思考ツールの利用

1.MIND MAP1-1 Mind Mapとは?

ワークショップツール今回、我々は受講生の深層の意識にアプローチするために様々なツールを利用した。

具体的には

1)MindMap(職種毎の信念対立を明らかにする)

2)デザイン思考(問題解決)

3)U理論(深層心理・思考へのアプローチ)などのいくつかのツールを組み合わせて利用した。

Mind Mapについてマインドマップは、英国の教育者トニー・ブザンが開発した自然な形で脳の力を引き出す思考技術です。それはまさに自然を模倣したかのように放射状にノートを取る方法で、思考が整理され、記憶力が高まり、発想力が飛躍的に向上するなど、さまざまな能力を高めることができます。ビル・ゲイツ、アル・ゴアをはじめとするグローバルリーダーが活用していることでも有名で、また、IBM、ディズニー、BMW、ナイキなどの国際企業では研修が行われ、マインドマップで会議が行われることもしばしばです。

1-2 Mind Map活用の利点Mind Map活用の利点

Mind Mapは複雑に同時進行する思考・行動を表すのに適していると言えます。

また、MindMapは、右脳も活用することから、行動に表れない水面下のスキルや思考経路を表現で

きることから、本人達も気づかない各職種毎の思考経路・視点の違いなどを表出するのに適しており、今回、自分達も気づかない信念対立を明らかにする

のに有効なツールであった。

Page 16: チーム医療と信念対立 ハンドアウト改訂版2014.03.13

2.問題解明ツールデザイン思考・U理論の応用今回、信念対立を解明する第一歩として、問題解決

のアプローチ法を学ぶワークをまず取り入れた。

我々、医療者どおしの議論は、とかく方法論に終始しがちになる。今回のワークでは、例題を通して表面的な問題の捉え方でなく、「問題を抱えているのは誰

か?」「あなたの問題の本質は何か?」という問いを突き詰めることにより、それぞれの固定観念の枠組み

を越えた問題の本質を捉える事が出来た。また、信念対立を「解決でなく解明」するために

は、お互い、「行動→態度→価値観」さらには、本人

さえも自覚していない深層心理まで掘り下げることが必要である。これには「U理論」および「デザイン思

考」のツールが効果的であると考えた。とくにデザイン思考で使われる「共感マップ」は対立相手側が「何を見て」「何を感じて」「何を考え」「何を聞いて」

「何の行動をとるか?」という事を相手(時に自分)の立場に立って、表出するツールであり、コレが京極氏

の言うところの「諸志向」「諸契機」の掘り下げ、「連携可能性の確保」(共通認識・共通目標の確認)に有用であると思われた。

共感マップ

U理論

デザイン思考

Page 17: チーム医療と信念対立 ハンドアウト改訂版2014.03.13

職種による視点の違いをMIndMapで描出今回は、NST研修の一環でもある

ことから、NSTの症例呈示を行い、

それぞれの職種のグループ毎で、気になる点(重視したい点)をMindMap

で抽出。それぞれMIndMapを全員で

鑑賞(ただ、字面だけ追うのでなく、まるで草花を観賞するかのよう

にMindMapのブランチの分かれ方・伸び方まで五感で感じるように)し、その後お互い感じた事をシェア

した。それぞれが職種毎の視点の違いを感じたようだった。(相対可能

性の確保)

共感マップを用いた対立解明次に、個人個人で信念対立のケー

スを挙げてもらい、その中からグル

ープで一例ずつ選んでもらった。「NST導入したいNsと抵抗する

Nsの対立」や「上司と部下の対立」

「プライベートでの同性どおしの対立」に至までテーマは多岐にわたっ

た。それぞれのケースについて、グル

ープ毎に対立相手が「何を見て」「何

を感じて」「何を考え」「何を聞いて」その結果「どういう行動をとっ

てるのか?」という項目毎に、相手の立場になって「共感マップ」上に展

開。その上で、自分の「共感出来る部分と出来ない部分」を洗い出し、

それぞれを深層心理まで掘り起こすようにファシリテーション(U理論やNLPの技法を利用)することで、そ

の場(他のグループ含めて)(時には自ずから)から、解明策が発現し

た。(連携可能性の確保)

共感マップの今後の活用展開職場での学習、また職場の組織・

環境改善をするためには、デブリーフ

ィングで、気づいたこと、疑問、発見、学びを安心してグループで話し合

える事である

ワークショップ開催

「チーム医療と信念対立」ワークショップ開催 今回、我々は当院で行われた「NST専門療法士研修」のカ

リキュラムの中で「チーム医療と信念対立」ワークショップを開催した。参加者は、医師・看護師・薬剤師・検査技師・栄養士・事務職と職種は多岐に及んだ。

MindMap

共感マップ

Episode 4

Page 18: チーム医療と信念対立 ハンドアウト改訂版2014.03.13

デブリーフィングの方法については、いくつかあるが2008年ピッツバ

ーグ大学医学部のWISERシミュレーションセンターでは、AHA(アメリ心臓協会)と共同開発し、デブリーフ

ィングの方法を3つの段階に分けた「G.A.Sメソッド」(別表)を提唱し

ている。このG(情報収集)の段階で共感マ

ップを使用することで、表面的な情報

にとどまらず、思考経路の深い部分ま

で掘り下げ事ができ、より効果的なデブリーフィングが出来ると考えら

れ、今後活用予定である。

今後の展開今回は「信念対立解明アプローチ」入門

編という位置づけで、解明術のまえに「問題解明アプローチ」 を学ぶワークショップを展開した。

今後は、この入門編の続編として実際の臨床現場における信念対立ケースを題材に

「解明アプローチ」ワークショップを検討中である。具体的には、

①まずは良くある信念対立場面のDVDを上映し、これを題材に解明アプローチの方法

を学ぶ。②次に、それぞれが抱えている信念対立

ケースにたいして解明を行っていく。

このワークショップ個人個人がOff the

Job Trainingとして学ぶというよりも、施設

毎で開催することにより、組織ファシリテーションともなり有効であると感じており、今後、施設毎の開催を検討中である。

また、このような「信念対立解明アプローチ」ワークショップ受講後に、Episode2で触れ

た「チームビルディング」ワークショップを経験することで、ワークショップが効果的となり、より活発な対話が期待でき、実臨床に

も役立つものと思われる。

Page 19: チーム医療と信念対立 ハンドアウト改訂版2014.03.13

真のニーズへのアプローチ「信念対立解明アプローチ」を行

うに当たって、共通の目的を掘り下

げていくことが重要であることは前述した。今まで、対立相手の人物象

を掘り下げニーズを探るために「共感マップ」などのツールを活用してきた。このツールは人物象を掘り下げ

ていくのに有用であるが、対立相手の深層心理の臨み(ニーズ)に辿り着

き対立解明に至るまでには、使いこなしの慣れが必要で、ファシリテーターの介入が必要であった。

氷山モデルオランダの教育学者F.コルトハー

ヘンは「教師教育学」の中で「氷山

モデル」というものを用いて説明している。どうしても、我々は目に見える行動のみに注目しがちだが、その

深層には、思考があり、その深層に感情・(意識下・無意識下の)望み

(ニーズ)が存在する。

信念対立を解明する上で、この表面の行動ばかりに注目してしまう

と、対立は解明されない。逆に言えば、自分(実は対立を起こしているのは、自分に向き合ってない事が問

題で、それにより事実を歪めている事が多々ある)と相手の思考・感情

と掘り下げていく事で、お互いのニーズへ辿り着く事が出来る。意外なことに、対立する相手と自

分のニーズは一致している(実は自分の真のニーズに向き合っていないため

に、同じニーズをもった相手に過剰に反応してしまう。)場合が多い。同じようなモデルはピーターセン

ゲの「学習する組織」の中でも述べられており、氷山の一角である「出

来事」だけに目を向けるだけでなく、その深層を掘り下げていくのが重要であり、「メンタルモデル」への

アクセスの重要性を述べており、これはオットーシャマーの「U理論」に

通ずる。

コース改訂(リアリスティックアプローチの応用)

Episode 5

F.Korthagen

氷山モデル

Page 20: チーム医療と信念対立 ハンドアウト改訂版2014.03.13

PDCAサイクル

ALACTモデルまた、コルトハーヘンはこの氷山

モデルをALACTモデルを提唱する中

で用いている。ALACTモデルとは、「経験における理想プロセス」として、提唱されている。

よく医療現場で用いられているPDCAサイクルとの違いは「省察」と

いう部分を強調し、踏み込んでいる点である。(従来のPDCAサイクルでは、CHECK(監査)の質が保証されな

い)コルトハーヘンは、「経験による

学びの理想的プロセスとは、行為と省察が代わる代わる行われるものである。」とし、経験による学びのプ

ロセスを5つの局面に分けた。第1段階の「行為(action)」に始まり、第2段

階の「行為の振り返り(looking back

on action)」、第3段階の「本質的な諸相への気付き(awareness of

essential aspects)」、第4段階の「行為の選択肢の拡大(creating alternative

methods of actions)」、第5段階の「試行(trial)」へと続く。このモデルの特徴は、第3段階の「本質的な諸相

への気付き」の後に「行為の選択肢の拡大」が続く点であり、これによ

り、第5段階の「試行」は第1段階の「行為」と異なり、ALACTモデルの次の円の第1段階の「行為」となる。

つまり、理想的な省察は、延々と続くスパイラルのようにALACTモデル

上を動き続ける。省察を促すことの最終的な目標は、学習者がALACTモデルのサイクルを自立的に辿れるこよ

うになることである。つまり、自ら成長する能力を身につける事にな

る。この理想的な省察により経験による学びのスパイラルを延々と動かす事が、複雑さと不安定さをもった医

療現場において「省察的実践家」を育成するのに適していると考える。

(*D.ショーンは、建築デザイナー、精神療法家(医師)、自然科学者、都市プランナー、企業のマネジャー

の仕事を観察し、専門職が現実に直面する問題状況においてはその複雑

さと不安定さによって把握そのものが困難であり、しかもさらにその把握には価値観の葛藤も避けがたいと

述べている。その上で、この既存の

知の「適応」に対して、より複雑な状況の中で新しい状況把握のフレーム

を求めるプロセスが重要であるとし、これを「行為の中の省察」と呼び、これを実践する人々を「省察的

実践家(reflective practitioner)」と呼んだ。)このALACTモデルにおける第2

段階 (行為の振り返り(looking back

on action) )から、第3段階 (本質的な諸相への気付き(awareness of

essential aspects))を適切に行う為に、感情・ニーズの描出は非常に重要

である。言い換えると、感情・ニーズの描出を含めた省察は、このALACTモデルの

を推進し、「自ら学習し成長する組織」形成へ繋がると言える。

実際、現場での日々の振り返りツールとしても、自己省察能力を上げる為に非常に有効であり、今までの目

に見える行動ばかり重視しがちな振り返りに較べて、有効であり、今ま

での振り返りと違って個人で省察を行うのにも適している。

ALACTモデルの利用(経験学習・組織成長の面から)

ALACTモデル

Page 21: チーム医療と信念対立 ハンドアウト改訂版2014.03.13

信念対立解明の実際

リアリスティックアプローチの応用では、実際に「信念対立解

明」において、コルトハーヘンのリアリスティクアプローチを応用していくか述べていこう。前述したように、「信念対立解明」においてお互

いの共通のニーズにまで辿り着くのは重要である。この際、「氷山モデ

ル」の各層即ち、「行動」→「思考」→「感情」と表出させていくこ

とが、「ニーズ」に辿り着く上で重要となる。

NVC(Non-violent Communication)しかし、実生活において我々は、

「感情」を現すことが実に下手であ

る。「感情」のボキャブラリーが少

ないのだ。マーシャル.B.ローゼンバーグは著書「NVC~~人と人との関

係にいのちを吹き込む法~」の中で、現代人の感情について表記してい

る。~我々は、生きていく上で、どん

な瞬間も身体を使って、何らかのニー

ズを満たそうとしている。そのニーズは当然、満たされる場合もあれば、

満たされない場合もある。そして、本来、満たされれば祝うし、満たされなければ悼むのである。それが、

次なるエネルギーの循環を生み出す。」しかし、実際には我々は感情

より先に、「~すべき。」とか「~した方が良い。」という評価のほうを優先させ、自分の感情に蓋をして

しまう。そうしてしまうと、祝う事をしないので、満たされない場合だ

けにフォーカスがあたるばかりか、

その場合の「悼む」という感情にさえも蓋をして、「イライラしている自

分」や「相手」を攻撃するのであ

る。~(いわゆるViolent

Communication)

感情の再学習このようなViolent

Communicationは、「価値観」どお

しの争い(正確には、その人の価値

観に基づいた「判断の声」による争い)となり、信念対立解明には

結びつかない。しかし、われわれは、自分の「判断の声」に支配され

て生活していることが多い。自分の感情と向き合う機会が少ないし、感情を表すボキャブラリーが実に少な

い。そのため、自分の感情と向き合うトレーニングが必要となる。

Page 22: チーム医療と信念対立 ハンドアウト改訂版2014.03.13

感情再学習トレーニングでは、実際に、感情の再学習トレー

ニングをどう行うかみていきたい。

1)信念対立シナリオを用いた練習:実際によくある「信念対立の場面シナリオ」を用いた練習。

①まずは、練習として、よくある「信念対立の場面シナリオ」を用意す

る。このシナリオには、対立の当事者の会話だけでなく、「行動」「思考」「感情」などが、それぞれの立場で日

記のように綴られている。(つまりは、登場人物の人数の数だけ、非腟の

場面についてシナリオが存在する)このシナリオに、氷山モデルの層に従って「行動」「思考」「感情」とマーカ

ーなどを使って色分けする。その上

で、登場人物それぞれの深層のニーズは何かについて話し合う。

②次に、また、「信念対立の場面シナリオ」を使用するが、①との違いは、このシナリオには、目に見える行

動と会話以外は描かれていない。学習者は、それぞれの登場人物の会話の行

間を埋めるが如く、「思考」「感情」を挿入していく。その上で、登場人物それぞれのニーズにアクセスする練習を

行う。2)ロールプレイによる信念対立解明

1)-②と同様のシナリオを用いて、今度は、それぞれの登場人物の役をロールプレイで演じてみる。この際、演

じながら、自分の中に湧き上がってくる感情に注意し、向き合い、味わい尽

くすことが重要。そうしながら、役を

演じきった後で、自分の中から沸いてくるニーズを捕らえる。次に役割を交代

して、同様に演ずる。そして、それぞれの役を演じた時に沸いてきたニーズについて話し合う。(深刻な対立ほ

ど、そのニーズは共通している場合が多い。)

そして、対立解明の方法について対話する。実際にやってみると「自分の感情と

向き合う」ということ、そして、それを表現する難しさを感じる。そのた

め、最初は、感情の表現のリストなどを用いて練習すると良い。

感情リスト

エンパシーサークル(ニーズカード)

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Uプロセスを用いた信念対立解明Episode 6

なぜ、信念対立は解明が難しいのか?信念対立は医療現場に限らず起こり

得る。そして、「信念対立解明」に対し

ていくつかのワークショップを開催してきたが、実際に臨床現場において解明するのは難しい。それは、何故だろうか?

以下の要素を考えてみた。1)問題の複雑性

2)歪曲レンズの存在3)メンタルモデルの存在

1)問題の複雑性問題は、その性質によって、①ジグ

ソーパズル型問題と②ルービックキューブ型問題に分けられる(実際には、両者

が混在している)①ジグソーパズル型問題(技術的な

問題(煩雑な問題):課題解決に高い技

能が求められても対象だけにフォーカスし問題解決出来る。(例:ロケットを月

に飛ばす)*PDCAサイクルを回すことで解決が可能。②ルービックキューブ型問題(複雑

な問題)(適応を要する課題):自分自

身が、問題の原因の一部として組み込まれていたり、問題の全貌が解らない為

に、「認知の死角」にも原因が存在する。(例:子育て、人間関係)医療現場における問題(信念対立含

む)は、一見同一な問題に見えても実は複雑さと不安定さによって把握そのもの

が困難であり、しかもその把握には価値観の葛藤も避けがたい。(D.ショーン「省察的実践とは何か」)

そして、その複雑さ故に、自分が問題の当事者という事を忘れて部外者の仮

面をかぶりやすく、これが信念対立解明を難しくする。

「実は皆が当事者」

2)歪曲レンズの存在

誰もが生活している中で、ある一言でカチンときたり、ある相手の言動に

は、なぜかイライラしたりするといった経験はないだろうか?そんな時、我々は事実をありのまま

に観ているのだろうか?

実は、我々はすべての現象(見えるもの、見えないもの含めて)を認知でき

るわけではない。特に、自分の行動(表面的なものだけでなく、雰囲気など含

む)と相手の認知は「自分では認知出来ない領域」となる。相手も同様であり、我々はお互い盲点を持った状態でコミュ

ニケーションを取ってるのである。このGapは、コミュニケーションの量だけで

は埋められない。(フォローしようとすればするほど、悪循環にはまっていく経験は誰にもあるだろう)

煩雑な問題と複雑な問題

Page 24: チーム医療と信念対立 ハンドアウト改訂版2014.03.13

認知に限らず、我々の脳は全てを捉えている訳ではない。音声にしても、

聴きたい音だけを増幅したり、実際に見えていない部分を補完する機能を持つ。認知の部分について我々は、相手

の言動を「ありのまま」に受け取らずに歪曲したレンズ(以降、深層歪曲レ

ンズ)を通して捉える場合がある。これは、決して悪い作用ばかりで

なく、医療においては批判的吟味など

有用である場合もある。それでは、先程述べた我々が「カ

チン」と来る場合はどんなレンズを通っているのだろうか?

この場合の深層歪曲レンズは以下のようなレンズを通るとされる。

「私は相手に…

①攻撃されている。②見下されている。

③否定されている。④解ってもらえていない。

⑤避けられてる。このような場合、我々は、批判・

侮辱・自己弁護・逃避などの反応的態

度を取るとされる。(ジョン.M.ゴッドマン)これは、自己防衛のための反応

の一つでもあるのだが、時として人間関係をより複雑にしてしまう。まさ

に、自分も問題の片棒を担いでいると言える。

3)メンタルモデルの存在我々は目に見える行動のみで問題

を捉えがち(しかも、歪曲レンズを通して)だが、それは、氷山の一角に過

ぎず、その深層には思い込みや固定概念といった意識・無意識の前提(メン

タル・モデル)が存在する。このメンタルモデルの存在が対立を

深める原因になっており、この深層に

アクセスする事が信念対立解明において重要である。

Uプロセスを用いたワークショップデザイン今回、我々は、ワークショップをリ

デザインするのにあたり、O.シャーマー

の提唱する「U理論」を基に組み立てた。

Uプロセスの活用今回は、ワークショップ全体のデザ

インとしてUプロセスを使用した。

Uプロセスとは、まずありのままを観る事から始まる。通常、我々は物事を観察したり、人の意見を聞くときには、

自分の価値観などと照らし合わせながら、「評価・判断の声(VOJ)」を持ちな

がら観ている。このVOJや「あきらめの声(VOC)」を保留(Co-intiating)する事によって、「あるがままを観て感じる」

事が出来る。そして、「個々が十分に感じ、それを共有する」(Co-Sensing)。そ

の際に、お互いの固定概念・思い込みと

いったメンタルモデルを手放し、そこから現れるものを具現化・実体化していく

(Co-Creating)。今回のワークショップでは、Uプロ

セスの各段階を踏むのに適したワークを

配置するとともに、各々のワークの構成も「話す・聴く→感じる・共有する→一

緒に創り出す」という「小さなUプロセス」を踏むように構成した。

ワークショップのリ・デザイン

Page 25: チーム医療と信念対立 ハンドアウト改訂版2014.03.13

Uプロセス

リニューアルワークショップ開催

Uプロセスを用いたリニューアルワークショップ

Page 26: チーム医療と信念対立 ハンドアウト改訂版2014.03.13

NVC(Non-Violent Communication)「ありのままを観て、感じる」ため

には、「感情・ニーズへのアクセス」が

重要である。我々は、目に見える行動の深層に思考・感情・ニーズがある。しかし、我々は幼少期から感情を抑えること

を教えられ育ってきた。そのため、「~せねば」とか「こうあらねば」という

「評価・判断の声(VOJ)」が先立ち、自分の感情と向き合うことを阻んでいる。

今回は、NVC(Non Violent

Communication)で使われるエンパシー

サークルという手法を用いた。これは、3~4人一組となり、それぞれが、ストーリーテリングを行う。その上で、見えて

くる感情・ニーズを表出するのをグループのメンバーがサポートする手法で、内

省に対して慣れていない参加者でもサポートを得ることで、比較的容易に自分の感情・ニーズにアクセスしやすい。

ワークショップ構成

リアリスティック・アプローチの応用オランダの教育学者F.コルトハーヘ

ンは「教師教育学」の中で「氷山モデ

ル」というものを用いて説明している。どうしても、我々は目に見える行動のみに注目しがちだが、その深層には、思考

があり、その深層に感情・(意識下・無意識下の)望み(ニーズ)が存在する。

信念対立を解明する上で、この表面の行動ばかりに注目してしまうと、対立は解明されない。逆に言えば、自分(実

は対立を起こしているのは、自分に向き合ってない事が問題で、それにより事実

を歪めている事が多々ある)と相手の思考・感情と掘り下げていく事で、お互いのニーズへ辿り着く事が出来る。

今回のワークでは、お互いの実際にあった信念対立の場面のシナリオを持ち

寄ってもらい、実際の目に見える言動の行間の思考・感情を埋めていく作業を行った。

その上で、お互いのロールを取るワーク

を行いながら、その中で新たに出てくる感情・ニーズと向き合い、解明策を探し

ていく。対立が深刻なほど、実はお互い同じニーズから発生している事が多く、この作業を深く掘り下げる事が重要とな

る。

氷山モデル

F.Korthagen

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メンタルモデルへのアプローチ(ITC MAPの利用)

実際にこの「信念対立解明」を行っていくと、最後の障壁となる

のは、お互いの思い込みや固定概念などのメンタルモデルの存在である。これには、ちょっとした思い

込みから、幼少期のトラウマから生じるものなど、多種多彩であ

る。今回は、メンタルモデルに比較

的容易にアクセスできるImmunity

to Change(ITC) MAPを用いてワークを行った。

ITC MAPITC MAPとは、発達心理学の権

威ロバート・ギーガンの提唱するもので、プラットフォームを用い

て、比較的容易にメンタルモデルにアクセスできる。

①まず、各々の困っている問題を呈示し、その改善目標を抽出する。

②その改善目標を阻害している自らの行動を抽出。

③②の阻害行動を取らないとしたら、不安や怖れになることを抽出し、そこから、自分の意識下に

ある裏の目標を導き出す。④③の裏の目標から、メンタル

モデルを読み取る。急に、全ての人がメンタルモデ

ルに辿り着くわけではないが、少

しのサポートで辿り着く事が出来、自己トレーニングが出来る利

点がある。

Uプロセスの応用

医療現場への応用このUプロセスは、「信念対立解明」だけでなく、医療現場での

様々な問題解決に応用可能である。

深刻な対立場面だけでなく、「ありのままを観て、感じる」だけでも、患者さんとの共感や日々の会議に今までにない変化を及ぼし、医療者自身も自分で歪曲して作り上げたストーリーに苦しむ事から解放され

るのではないだろうか?