がんと療養
口こうくう
腔トラブルを少なくがん治療を乗り越えるために
がん治療と口内炎口内炎や口のトラブルの対処の仕方
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がんの治療中には、さまざまな口のトラブルが起こります。抗がん剤治療を受けると、口の粘膜が赤くなり痛みが出る口内炎、味が変わる、感じにくくなる味
みかく
覚障しょうがい
害などの症状が出ます。 放射線治療では、口の周囲に放射線が当たると、強い口内炎や長期間にわたって口が乾く症状が出ますし、口やのどの大きな手術では、傷
きずぐち
口が膿う
んで感染が起こることがあります。 口内炎がひどくなると、痛みのために水分や食事をとることができなくなり、大変つらいものです。がん治療を受ける患者さんの多くが、このような口のトラブルが少ないように願い、がん治療中や治療後も、なるべく自然な形で口から栄養をとり続けたいと希望しています。 この冊子が、これから始まるがん治療で乗り越えなければならない口のトラブルがなるべく少なく、また治療中や治療後の口のトラブルに正しく対処するための手助けとなれば幸いです。
はじめに
この冊子は、がん治療に向き合っていく患者さんとご家族に、口内炎を中心とする口のさまざまなトラブルの対処法をQ&A(質問と答え)の形にまとめています。あなたが関心のある質問のページだけを読んでいただくこともできます。
目 次
はじめに
がん治療と口内炎 Q1:�がん治療で起こる口内炎はどんな症状ですか?�… 1
Q2:�口内炎の症状は治療方法により�違いがありますか?�………………………………… 2
Q3:�口内炎の痛みはどうしたら軽くなりますか?�…… 6
Q4:�口内炎があるとき食事はとることが�できますか?�………………………………………… 9
Q5:�口内炎があるとき口の掃除は必要ですか?�…… 11
その他の口のトラブル Q6:�抗がん剤や放射線治療による味覚の変化には�
どう対処したらよいのですか?�………………… 13
Q7:�抗がん剤治療や放射線治療中に、口に起こる�他の病気はありますか?�………………………… 14
頭とうけいぶ
頸部がん治療を受ける患者さんへ Q8:�抗がん剤と放射線の同時治療終了後、口やのどに�
どのような障害が残りますか?�………………… 15
Q9:�口やのどのがんの手術で事前の口の掃除は�必要ですか?�……………………………………… 17
コラム 放射線がかかった部分の歯の抜歯に注意� …………… 18� 骨の転
て ん い
移を抑える点滴治療で、顎あご
に痛みが�…………… 19
がんの冊子 がん治療と口内炎
1
● がん治療による口内炎 がん治療で起こる口内炎は、治療が口の粘膜に影響して起こります。抗がん剤治療では、口内炎を起こしやすい薬剤の投与を受けたとき、放射線治療では、口の粘膜に放射線が直接当たるときに口内炎が起こります。 写真は、強い抗がん剤治療を受けた患者さんの頬
ほほ
の粘膜の状態です。粘膜は腫れ気味で赤くなり、表面は少しでこぼこになり、粘膜の一部がはがれて潰
かいよう
瘍ができています。痛みも強く、食事も口からとることができないほどです。これががん治療で起こる口内炎です。
頬の粘膜に歯型がついたようになり、その上には潰瘍ができています。
がん治療と口内炎
(写真)抗がん剤治療による口内炎
がん治療で起こる口内炎はどんな症状ですか?
治療開始後、1週間ほどすると出てくる口の粘膜の赤みや腫
は
れ、そして痛みが出る症状です。
Q1
A
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2
ここでは、(1)抗がん剤治療の場合の口内炎、(2)放射線治療の場合の口内炎、そして(3)抗がん剤と放射線の同時治療の口内炎の3つを順に説明します。標準的な口内炎の経過を説明しますが、抗がん剤や放射線の治療の内容、また個人の体質により、軽い症状ですんだり、強い症状が出たりすることをご理解ください。
口内炎の症状は治療方法により違いがありますか?
(1)抗がん剤治療だけの場合、(2)放射線治療だけの場合、(3)抗がん剤と放射線の同時治療の場合3つの治療法で、口内炎の強さ、口内炎のできる期間などに違いがあります。
Q2
A
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がんの冊子 がん治療と口内炎
3
〈1〉抗がん剤治療の口内炎
抗がん剤が投与されると4、5日経過したころに口の粘膜に変化が出始めます。粘膜が、腫
は
れぼったくなって、ピリピリした感じがします。7 ~12日経過すると、粘膜が赤くなり、その一部がはがれて潰
かいよう
瘍ができます。この時期が口内炎の症状のピーク(炎症による痛みが一番強い時期)になります。 ピークを過ぎると、約1週間で粘膜が再
さいせい
生し、元どおりの粘膜に戻ります。口内炎の出る期間は約 2 週間(口内炎の始まりからピークまで1週間、ピークから粘膜が治るまで1週間)になります。抗がん剤治療は、2、3 週おきに繰り返し行われることが多く、そのたびに口内炎が出る可能性があります。
▲粘膜が赤くなり、
一部がはがれる
▲抗がん剤投与開始
▲口の粘膜が
腫れぼったい感じ
▲粘膜の赤み、
潰瘍の強い時期
▲粘膜の再生が進み、
治癒する
抗がん剤の点滴が行われる日
1週目 2週目 3週目 4週目
抗がん剤の点滴が行われる日
口内炎の期間(約2週間)
1 2 3 4 5 6 7日目 10~12日ごろ 21~28日ごろ
0●●●●●がん治療と口内炎
4
〈2〉放射線治療の口内炎 (頭
とう
頸けい
部ぶ
がんの患者さん向け)
頭から首の範囲のがん(頭頸部がん)治療を受ける場合で、口の周囲に放射線がかかる患者さんが対象になります。放射線治療は毎日少しの量の放射線を6 ~ 7 週間かけて照射します。放射線治療の口内炎は、ふつう治療開始後 2 週間ごろから始まります。抗がん剤のみの場合と比べて口内炎の症状が強く、また長期間続きます。 この治療では、放射線治療中に4 ~ 5 週間の口内炎の期間、治療終了後に口内炎が治るまで約 2 週間かかります。合わせると口内炎の出ている期間は約 8 週間になります。
▲口の粘膜が熱を持った感じ
1週目 2週目 3週目 4週目 5週目 6週目 7週目 8週目
▲放射線治療開始
▲粘膜が赤くなり、
一部がはがれて潰瘍
▲粘膜の赤み、
潰瘍、痛みが強い時期
▲治療終了後、
2週間ほどで粘膜は戻る
放射線治療の行われる週
口内炎の期間(約8週間)
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がんの冊子 がん治療と口内炎
5
〈3〉抗がん剤と放射線の同時治療の口内炎 (頭頸部がんの患者さん向け)
頭頸部がん治療を受ける場合で、口の周囲に放射線をかけながら、同時に抗がん剤治療を行う患者さんが対象になります。前ページの放射線治療と同時に、抗がん剤の投与が、1週目、4 週目、(場合によって7 週目も)に行われますので、抗がん剤のみ、放射線治療のみの場合と比べて、口内炎の症状が最も強く、また長期間続きます。 この治療では、放射線治療中に5 ~ 6 週間の口内炎の期間、治療終了後に口内炎が治るまで約 4 週間かかります。合わせると口内炎の出ている期間は8 ~12 週間になります。
▲口の粘膜が熱を持った感じ
1週目 2週目 3週目 4週目 5週目 6週目 7週目 8週目
▲放射線・抗がん剤治療開始
▲粘膜が赤くなり、
一部がはがれて潰瘍
▲粘膜の赤み、
潰瘍、痛みが強い時期
▲治療終了後、
4週間ほどで粘膜は戻る
放射線治療の行われる週
口内炎の期間(約8~12週間)
抗がん剤の点滴が行われる日
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6
● 口内炎の痛み 口内炎には強い痛みが伴います。特に口の粘膜からのどの粘膜に口内炎が広がると、形のある食べ物ばかりでなく、水などの液体をとることもつらく困難になってきます。この状態が長期間続くと、栄養不足や脱水状態になります。
● 口内炎の症状に合わせて痛み止めを使います 担当医は、患者さんの口を診察したり、患者さんから痛みの具合を聞いたりして、症状に合わせてうがい薬や痛み止めを処方します。
この冊子では、口内炎を炎症の強さで3つの段階(軽い・やや強い・強い)に分けています。この3つの段階に合わせて痛みの対処法を説明します。
口内炎の痛みはどうしたら軽くなりますか?
局所麻酔薬の入ったうがい薬や痛み止め、さらに医療用麻薬を使って軽くすることができますので、担当医にご相談ください。
Q3
A
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がんの冊子 がん治療と口内炎
7
口内炎の状態
◎ 口の中がザラザラする
◎ のどに違和感がある
口内炎 強い
◎ 口の中が痛くて話せない
◎ 痛くてのみ込めない 食事ができない
口内炎 やや強い
◎ 口の中がヒリヒリする 痛い◎ のみ込むと痛い 食事はできる
口内炎 軽い
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8
痛みの対処法
うがい+痛み止め+医療用麻薬痛み止めと医療用麻薬の両方を 決められた時間に服用します
食前に局所麻酔薬を混合した水でうがいをすることもあります
うがい
うがいを1日3回以上しましょう
口を閉じてブクブクうがい水(ぬるま湯)か生理食塩水をペットボトルにつくっておく
うがい+痛み止め
痛みが強いとき、効き目の早い医療用麻薬を追加でのむこともあります
うがいに加えて痛み止めを1日3回服用します
※�生理食塩水は、食塩9gを1ℓの水に溶かしてつくります。※�医療用麻薬による中毒の心配はありません。
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がんの冊子 がん治療と口内炎
9
口内炎があるとき食事はとることができますか?
口内炎が「軽い」であれば食事はできます。「やや強い」以上になると一時的に食事をとることが難しくなります。 (⇒P7「口内炎の状態」、P8「痛みの対処法」)
Q4
A
● 口内炎と食事の関係◎「軽い」口内炎では、食事をとることはできます。 「軽い」口内炎であれば、痛みはそれほど強くはありません。食前に痛み止めを使えば、食事は口からとることができます。しかし治療の影響で、吐き気やだるさが強くなり、味覚の変化や異常が出て食欲がわかないために食事が進まないこともあります。◎「やや強い」以上の口内炎では、食事をとるのが少し難しくな ります。 「やや強い」以上の口内炎になると、痛みの対策を十分に取っていても、食事をとることが難しくなります。口内炎が口だけにできた場合は、痛み止めを使えば、食べ物をのみ込みやすくなります。 頭
とう
頸けい
部ぶ
がんの患者さんの場合、のどに口内炎が強く出ると、のど全体がしびれた状態になり、のみ込みもスムーズにできなくなります。この状態では、食べ物が気管に入り、肺炎を起こす危険性が高くなりますので、点滴をしたり、胃に直接管を入れて栄養補給、水分補給を行います。
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● 口内炎にやさしい食べ物、刺激になる食べ物 口内炎ができると、痛みで食べることが難しくなりますが、口から食事をとることができる間は、少しでも刺激の少ないものを、食べやすい形で食べることが大切です。● 口内炎ができたときの食事の工夫 ・ 熱いものは避け、人肌程度に冷ましてから食べると刺激が少
なくなります。 ・ 塩分や酸味、香辛料を多く含む食事、食品は控えましょう。 ・ 食べやすくするために、軟らかく煮込んだり、とろみをつけた
り、裏ごしをしたりしてみましょう。 ・ 口内炎が強く、食事をあまりとることができないときは濃厚
流動食(バランス栄養飲料)や栄養補助食品を利用しましょう。
おかゆ 冷や奴 バナナ 牛乳 アイスクリームミルクシェーク 液体栄養剤 プリン ゼリーミキサー食(味付けはうす味で)水分が多く、軟らかいもの
刺激が少ない食べ物
カレーライス キムチ 酢の物 生野菜 トマト酸味の強い果物(イチゴ、レモン、キウイフルーツ)飲み物(オレンジジュース、グレープフルーツジュース、アルコール)ざらざらして乾いた食べ物(クラッカー、ナッツ、せんべいなど)塩、こしょうなどの香辛料の入ったもの
刺激が強い食べ物
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がんの冊子 がん治療と口内炎
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口内炎があるとき口の掃除は必要ですか?Q5
A 口内炎があるときも口の掃除やケアは必要です。なるべく粘膜を傷つけないように掃除しましょう。
● 口内炎と口の掃除の必要性 口内炎がある時期は、粘膜の痛みも強く、抗がん剤や放射線の影響で体力も落ちています。歯磨きをしたり、うがいをしたりするのがつらくなります。 しかし口の掃除を行わないと、口腔内が不衛生になり、細菌がふえて、唾
だ え き
液と一緒に細菌が気管に入り込み、肺炎を起こすことがあります。また、口内炎の潰
かいよう
瘍の部分から細菌が血管に入り込み、血管を通して全身に広がり、高熱を出したりします。このようにならないように、口内炎があるときも、口の中を清潔に保つようにしましょう。
● 口内炎のあるときの口の掃除方法 私たちの普段の生活と同じで、がん治療中も歯ブラシ、歯磨き剤を使った歯磨きを行います。口内炎があると、歯ブラシの頭の部分が粘膜に当たって痛みが強く出たり、歯磨き剤が粘膜にしみたりします。できるだけ粘膜に刺激の少ない方法で歯磨きをする方法を次のページでご紹介します。
0●●●●●がん治療と口内炎
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● 粘膜に刺激の少ない歯磨き方法 歯ブラシは、「やわらかめ」と表示のあるもので、毛の生えた部分(ヘッド)が小さいものを選んで使います。 歯磨き剤がしみたり、痛く感じたりするようであれば、歯磨き剤は使わずに水だけで磨くとよいでしょう。● 口内炎が強い場合の口の掃除方法 口内炎が強くなると、歯磨きはかなり難しくなります。粘膜が痛くて口を大きく開けることができません。小さなヘッドの歯ブラシで口内炎のある部分を避けて、歯、歯の周囲の歯ぐきの部分だけをていねいに磨きます。 体調がわるく、歯磨きをすると吐き気がする、歯ブラシで磨くと粘膜から出血する危険性がある、口内炎の痛みが強くて磨けないなど、口の掃除ができない場合は、無理をしないでぬるま湯(体温程度)、または生理食塩水を使って、ぶくぶくうがいを行います。口内炎が治ってきたら歯磨きを再開するようにしてください。● 義歯(入れ歯)を使用している場合 口内炎が出るまでは、義歯(入れ歯)を使うことができます。夜間は義歯をはずし、義歯用のブラシで水洗いして、義歯ケースに保管しましょう。 口内炎が出てきたら、義歯の使用を控えましょう。入れ歯がないと、食べ物をかむことができない場合は、担当の看護師に相談して、食事を軟らかいものや、小さく刻んだものにしてもらいましょう。
注意! 市販の洗口液、液体歯磨き剤でアルコールを含んでいるものは粘膜を刺激するため、使用を控えるようにします。
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がんの冊子 がん治療と口内炎
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抗がん剤や放射線治療による味覚の変化にはどう対処したらよいのですか?
味覚の変化により食欲がなくなることがあるので、香りのよい食事をとったり、友人や家族と一緒にお話ししながら食事をとったりして気分を変えるのもよいでしょう。
Q6
A
● 味覚の変化 抗がん剤治療中に味覚(特に苦味や塩味)の変化が起こることがあります。原因は、舌にある味覚の細胞が抗がん剤の影響を受けて、味を感じにくい状態になるからです。味覚が変わると、食欲が急になくなり、栄養不足を起こしやすくなります。また食事ができないことで気分も落ち込み気味になります。 味覚の変化の対処法は、まだよいものが見つかっていません。水でうがいを繰り返し行い、口の不快感をなるべく少なくします。また香りのよい食事をとるのもよいでしょう。抗がん剤による味覚の変化は、抗がん剤治療が終了してから1ヵ月程度で回復します。 放射線治療の場合は、味覚の細胞に与える影響も強いため、味覚の変化が強く出ます。「全く味がしない、何を食べても砂をかんでいるようだ」と表現するほどの味覚の変化が起きる場合があります。味覚の回復には3 ~ 4ヵ月、場合によっては1年以上かかる場合もあります。 (⇒P9 Q4:口内炎があるとき食事はとること
ができますか?)
その他の口のトラブル
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抗がん剤治療や放射線治療中に、口に起こる他の病気はありますか?
口内炎が出るときに、口やのどの粘膜や歯肉の粘膜に白っぽいカビのようなものがつく、カンジダ性口内炎という症状が出ることがあります。
Q7
A
● カンジダ性口内炎 細菌の一種で、カビの仲間であるカンジダ菌が原因の口内炎です。この菌は、健康な人の口の中にも認められる菌ですが、抗がん剤の治療で体力が落ち、抵抗力がなくなると急に増殖する菌です。この口内炎は、粘膜がピリピリする、チクチクするなどの症状があります。 がん治療中、体力が落ちて口の掃除が十分にできないとき、ただの口の汚れとして見すごされてしまうことがあります。自分で口の中を観察したときに、粘膜や歯の周囲の歯肉に白いものが多くついていれば、担当医や看護師に相談してください。カビに効果のある軟
なんこう
膏や内服液を使うと治すことができます。
抗がん剤治療・放射線治療中に上の顎
あご
の粘膜に白いものが付着して厚みを増しています。顕微鏡検査で、カンジダ菌のかたまりとわかりました。
(写真)上うわあご顎の粘膜のカンジダ性口内炎
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がんの冊子 がん治療と口内炎
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頭と う
頸け い
部ぶ
がん治療を受ける患者さんへ
抗がん剤と放射線の同時治療終了後、口やのどにどのような障害が残りますか?
放射線の影響で口とのどは唾だ え き
液を出す細胞がダメージを受けて、唾液の出にくい状態が長く続きます。また、のどの周囲の感覚や運動が鈍り、のみ込みがうまくできない状態が一時的に起こります。
Q8
A
● 口こうくうかんそう
腔乾燥症状 放射線が口の周囲に当たると、唾液を出す細胞がダメージを受け、唾液が出にくい状態になります。そうなると口やのどがカラカラに乾いたり、唾液がねばねばしてくる症状が出てきます。 実際には、食べ物をかんでのみ込もうとしても、パサパサとして食べ物がまとまらずのみ込めない、夜中に口が乾いて目が覚めてしまう、唾液の殺菌作用がなくなり、虫歯が一気にふえるなどの症状が起こります。 対処の仕方は、ペットボトルに水を入れて持ち歩き、何回もうがいをしたり、市販の口腔保湿剤を使ったりして口の中を長い時間湿らせます。担当医の判断で塩酸ピロカルピンという唾液腺を刺激して唾液を出す薬(公的医療保険適用)が処方される場合もあります。
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● のみ込みの障害(嚥え ん げ
下障しょうがい
害) 抗がん剤と放射線の同時治療は、頭頸部のがん組織や周囲の正常組織を切り取らず、できる限り機能を残してがんを治すことを目的とした治療です。この治療が終わると、口やのどの周囲には口内炎があり、しびれた状態が残ります。この時期は、食べ物をのみ込んでもスムーズにのどから食道へ送り込まれず、間違って気管に入り込む誤
ご え ん
嚥という症状が多くみられます。 誤嚥すると口やのどの炎症を起こす細菌が肺に入り込み、肺炎を起こす可能性があります。口からの食事が始まるときには、誤嚥が起こらないことを確認します。
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がんの冊子 がん治療と口内炎
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口やのどのがんの手術で事前の口の掃除は必要ですか?
手術前に口の掃除は必ず行いましょう。口やのどの大きな手術は、歯科医院で口の中をきれいにしてから行うと、傷口の感染が少なくなること、また食道がんの手術でも肺炎が減ることが報告されています。
Q9
A
● 口やのどの手術の感染を減らす 頭
とうけいぶ
頸部がんで、口やのどに比較的大きながんがある場合は、自分の体の一部を手術で切り取った部分に当てて縫い合わせる組
そ し き
織移いしょく
植治ちりょう
療を行います。この手術は、口の中で細菌が非常に多い状況で行われるために、感染を起こすことがよくありました。しかし手術前に、歯科医院で口の中を掃除しておくと感染が減り、その結果、早く食事を再開できることが報告されています。食道がんの手術でも、手術前に歯磨きを1日数回ていねいに行うと、手術後の肺炎が減少することがわかっています。
注意!�がん治療がいったん始まってから歯科医院を受診する場合は、がん治療の担当医に相談しましょう。がん治療によっては、歯科治療を延期したほうがよい場合があります。がん治療の経過を書いた紹介状を書いてもらい、かかりつけの歯科医院を受診するとよいでしょう。
0●●●●●頭頸部がん治療を受ける患者さんへ
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● がん治療前に歯科医院を受診する 口内炎の起こりやすい抗がん剤治療を受ける場合や、口やのどの放射線治療や手術を受ける場合には、治療を開始する1~2 週間前に、かかりつけの歯科医院を受診して、歯石の除去や、簡単な歯の治療をすませておきましょう。また歯科衛生士に自分に合った歯磨きの仕方を指導してもらいましょう。 がんと診断された時期は、気持ちも落ち着かず、治療のための準備で忙しくなりますが、口のチェックや掃除の処置も、がん治療に必要な治療のひとつと考え、かかりつけの歯科医院を受診するようにしましょう。
コラム 放射線がかかった部分の歯の抜歯に注意
患者Aさんからの質問 Aさんは、のどのがんの治療で抗がん剤と放射線の同時治療を受けて、もう3年になります。最近、治療前から少しぐらつきがあった奥歯が、痛み始めました。そこでかかりつけの歯科医院を受診しましたが、歯科医師から、「この歯は放射線が当たっているかもしれないので、抜歯はできない。」という説明を受けました。「抜歯ができないのは、本当でしょうか?」
答え 本当です。いったん放射線が当たった部分の顎あごの骨は、
非常に感染を起こしやすい状態です。抜歯が原因で骨に感染が起こることがあり、基本的に抜歯ができません。ですから、なるべく抜歯をしないような処置を続けていきます。どうしても抜歯が必要と判断された場合、歯科・口腔外科を受診し、治療してもらいましょう。
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がんの冊子 がん治療と口内炎
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コラム 骨の転て ん い
移を抑える点滴治療で、顎あご
に痛みが
患者Bさんからの質問 乳がんの骨の転移に対して、転移の広がりを抑えるための薬(ビスフォスフォネート剤)の点滴治療を毎月1回行っていたBさん。10回目の点滴を終了したころ、歯科医院で右下の奥歯を抜歯したら、傷口の治りがわるく、そのうち顎の痛みが強くなってきました。「なぜ傷の治りがわるいのでしょうか?」
答え 最近、乳がん、肺がんなどで骨に転移した場合は、骨転移を抑えるビスフォスフォネート剤の注射が行われるようになってきています。この治療では、100人に1人くらいの割合で、顎の骨に感染を起こすことがわかってきました。Bさんの場合も抜歯のあとに、顎の骨に炎症が起こったと考えられます。原因はまだわかっていませんが、抜歯が骨の感染を最も引き起こしやすいといわれています。この治療を受けている患者さんで、顎に持続する鈍い痛みが出たり、歯ぐきから膿
うみが
出て口の中が苦く感じたりする場合は、早めにがん治療の担当医や看護師、または薬剤師や歯科医師に相談してください。
コラム
協力:大田 洋二郎(静岡県立静岡がんセンター 歯科口腔外科)�国立がん研究センターがん対策情報センター 患者・市民パネル
� ※協力者の所属は第1版発行時のものです。
がんの冊子がんと療養シリーズ(5種)がん治療と口内炎、がんと心、がんの療養と緩和ケア、がん治療とリンパ浮腫、 もしも、がんと言われたら
各種がんシリーズ(34種) 小児がんシリーズ(11種)社会とがんシリーズ(3種)相談支援センターにご相談ください、家族ががんになったとき、身近な人ががんになったとき
患者必携がんになったら手にとるガイド*
別冊�『わたしの療養手帳』
患者さんのしおり(『がんになったら手にとるガイド』概要版)もしも、がんが再発したら*
国立がん研究センターがん対策情報センター作成の冊子
全ての冊子は、がん情報サービスのホームページで、実際のページを閲覧したり、印刷したりすることができます。また、全国のがん診療連携拠点病院の相談支援センターでご覧いただけます。*の付いた冊子は、書店などで購入できます。そのほかの冊子は、相談支援センターで入手できます。詳しくは相談支援センターにお問い合わせください。
がんの情報を、インターネットで調べたいとき近くのがん診療連携拠点病院や相談支援センターをさがしたいとき◆◆◆がん情報サービス
http://ganjoho.jp/
携帯電話でも見てみたいとき◆◆◆がん情報サービス 携帯版
http://ganjoho.jp/m/(携帯電話専用アドレス)
がんの冊子 がんと療養シリーズ がん治療と口内炎
編集・発行 独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター印刷・製本 図書印刷株式会社
2009 年 4月 第 1版第 1刷 発行2012 年 3月 第 2版第 1刷 発行
国立がん研究センターがん対策情報センター〒104-0045東京都中央区築地5-1-1
「相談支援センター」について相談支援センターは、がんに関する質問や相談にお応えします。がんの診断や治療についてもっと知りたいとき、不安でたまらないとき、いっしょに考え、情報をさがすお手伝いをします。窓口は全国の「がん診療連携拠点病院」にあります。その病院にかかっていてもいなくても、無料で相談できます。
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がん治療と口内炎
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国立がん研究センターがん対策情報センター