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一般社団法人日本整形外科スポーツ医学会

ORTHOPAEDICSPORTSMEDICINE

Japanese Journal of

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目 次

<第37回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」>  1.緒 言

総合せき損センター整形外科  前田  健     1

<第37回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」>  2. スポーツ復帰のための腰椎手術療法―内視鏡椎間板ヘルニア摘出の有用性― 

Return to Sports After Minimally Invasive Endoscopic Surgery帝京大学溝口病院整形外科  出沢  明ほか   3

<第37回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」>  3. スポーツ選手の腰椎椎間板ヘルニアに対する内視鏡下後方手術の実際 

Micro Endoscopic Discectomy for Lumbar Disc Herniation in Athletes大阪市立大学整形外科  中村 博亮ほか   11

<第37回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」>  4. プロスポーツ選手の腰部障害と治療 

Lumbar Disorder and Treatment Associated with the Professional Athletes Engaged in Baseball and Soccer Games

JA広島総合病院  藤本 吉範ほか   15

<第37回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」>  5. 腰椎椎間板ヘルニアに対する経皮的内視鏡下髄核摘出術(PED)を施行した 

トップレベル運動選手の復帰 A Report of Recovery After Percutaneous Endoscopic Discectomy (PED) for Lumbar Disc Herniation in Top Level Athletes

いちはら病院筑波大学医学医療系人間総合科学研究科  辰村 正紀ほか   22

<第37回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」>  6. 内視鏡下椎間板摘出術(MED法)後の超早期リハビリテーション・プログラム 

The Very Early-Stage Rehabilitation Program After Lumbar Discectomy (MED Method)

医療法人スミヤ角谷整形外科病院リハビリテーション科  貴志 真也ほか   29

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<学術プロジェクト研究助成論文>  7. 少年野球選手の肘関節痛発症に関する前向き調査 

―危険因子の検討とガイドラインの検証― Prospective Study of Elbow Pain and Verification of Guideline in Schoolchild Baseball Players

徳島大学医学部運動機能外科学  松浦 哲也ほか   38

  8. スポーツによる肘離断性骨軟骨炎に対する骨軟骨柱移植術 Osteochondral Autograft Transplantation for Osteochondritis Dissecans of the Elbow in Athletes

鈴鹿回生病院整形外科  福田 亜紀ほか   44

  9. 内側円板状半月板損傷の小経験 Medial Discoid Meniscus:4 Cases Report

昭和大学医学部整形外科  貴島  健ほか   48

10. 内側型野球肘患者の疼痛出現相における投球フォームの違いと理学所見について The Pitching Form and Physical Examination of Different Painful Throwing Phases in Patient with Medial Type Baseball Elbow

横浜市スポーツ医科学センター  坂田  淳ほか   55

11. ヒラメ筋肉離れ後の血腫増大により重症化したバレーボール選手の1例 Serious Soleus Muscle Strain due to Increasing Hematoma, A Case Report of a Volleyball Player

筑波大学整形外科  西田 雄亮ほか   63

12. 野球選手の肘内側側副靱帯損傷に対する保存的治療のスポーツ復帰 The Results of Conservative Therapy of Medial Collateral Ligament Injury in Baseball Players

日本鋼管病院スポーツ整形外科  渡邊 幹彦ほか   67

13. スポーツで受傷した上腕二頭筋長頭腱完全断裂に対し手術治療を施行した2例 Complete Rupture of the Long Head of Biceps Brachial Tendon Injured by Sporting Activities -Two Case Reports

北里大学北里研究所病院スポーツクリニック  齊藤 良彦ほか   72

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14. スポーツ選手に発生した足舟状骨疲労骨折の手術経験 Evaluation and Operative Treatment of Tarsal Navicular Stress Fracture in Athletes

昭和大学附属豊洲病院整形外科  富田 一誠ほか   79

15. プロサッカー選手に生じた半腱様筋腱遠位部腱断裂の1例 Distal Semitendinosus Tendon Rupture in Professional Football Player:  A Case Report

昭和大学藤が丘病院整形外科  高木  博ほか   84

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腰痛や坐骨神経痛に悩まされるスポーツ選手は多いが,とくにトップアスリートやプロ選手になると事態は時として深刻である.十分なパフォーマンスを発揮できない状態が続けば選手生命を脅かされる状況になるが,かといって体にメスを入れること自体が選手生命の終焉と考える選手も多い.彼らにとって手術は究極の最終手段であるが,不幸にして手術を選択せざるをえなくなった場合は,いかに早くスポーツ復帰が果たせるか,また,いかに発症前のパフォーマンスを回復できるかが,とくにプロ選手にとっては至上命題である.今回は,主に腰椎椎間板ヘルニアの手術療法とリハビリテーションについて,5名の専門家に演題をいただき,大変有意義なディスカッションが行なわれた.

帝京大学附属溝口病院整形外科の出沢先生からは,PEDの有用性について印象深い報告があった.Love法や MEDとは根本的に異なる PEDは,極めて低侵襲であり,局所麻酔下に術後一泊入院で行なえることが示された.この低侵襲性は,とくにスポーツ選手においては非常に魅力的となるだろう.また,椎間板の HIZ(high intensity zone)病変に対するラジオ波凝縮術(Disc─Fx)についても言及があり,スポーツ選手に生じる頑固な腰痛の治療法の1つとして今後期待される.

大阪市立大学整形外科の中村博亮先生からは,スポーツ選手に対する MEDについて,過去の文献も踏まえた詳細な報告がなされた.入院期間は術後約1週間であり,PEDと比べるとやや長いが,スポーツへの復帰率76%,スポーツ復帰時期が術後1〜4ヵ

月と,良好な成績が示されている.JA広島総合病院整形外科の藤本先生は,プロ選

手らを身近に診療してこられた経験を通して,腰椎疾患の予防と早期からの保存的治療について,専門的な見地から報告された.プロ選手に対しては細かいリハビリプログラムが用意されているが,治療方針を決めるうえで,とくにトレーナーとの連携の重要性が強調された.腰椎椎間板ヘルニアに対する手術としては,主に顕微鏡視下手術を選択している.術後14〜16週での復帰をめざすとしているが,術後頻回に選手と接し不安を和らげるよう努めている姿勢が印象的であった.

筑波大学整形外科の辰村先生からは,腰椎椎間板ヘルニアに対して PEDを行ったトップレベルのスポーツ選手4名の詳細な報告がなされた.4例とも合併症なく術後3〜4ヵ月でスポーツ復帰しており,あらためて PEDの有用性が示された.

最後に角谷整形外科病院リハビリテーション科の貴志先生は,理学療法士の立場から MED術後後療法に関して興味深い報告をされた.厳密に計画された超早期リハビリテーションにより,非コンタクト系スポーツでは4〜6週,コンタクト系スポーツでは8〜10週での競技復帰が可能としている.その競技復帰の早さは注目に値するだろう.さらに,遠隔地からの患者に対して,地元でのリハビリ継続ができるよう専属トレーナーとの連携についても言及された.

ディスカッションでは,いくつかの有意義な議論がなされた.まずスポーツ選手に対する手術のタイ

第 37回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」

緒  言

前田  健 Takeshi Maeda

    

前田 健〒820─8508 飯塚市伊岐須550─4総合せき損センター整形外科TEL 0948─24─7500

総合せき損センター整形外科Department of Orthopaedic Surgery, Spinal Injuries Center

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ミングである.これは個々の症例により異なるであろうが,出沢先生,藤本先生,貴志先生の3名は,一般の患者に比べて早いタイミングでの手術を勧められ,中村先生と辰村先生は一般人と概して変わりないとした.とくに,MMT4以下になった時点で手術を考慮する(藤本先生),術前の有症状期間が長すぎると術後の経過が思わしくない傾向がある(貴志先生)などの意見が印象に残った.手術方法は PED,MED,micro─Love法の3種類の方法でなされている.低侵襲性という観点からは明らかにPEDに軍配があがるだろう.局所麻酔下で可能であり,術後1〜2泊の入院期間で済むことは,スポーツ選手ならずとも魅力的である.本邦ではまだなじみが浅いが,今回の報告から,正しく手術が行なわれれ

ば,PEDは有用かつ安全であることが示された.問題は術者にとって経験のない視野に対する不安とラーニングカーブの長さであろうが,韓国や欧州での広がりを考慮すると,今後本邦でもPEDが普及していくものと思われる.ただ,ヘルニア再発のリスクを避けながら,手術侵襲の多少の違いでスポーツ復帰を早めることができるか,というエビデンス構築は今後の課題であろう.貴志先生が示されたように,トップアスリートであっても厳密なリハビリが行なわれれば,MEDでも(恐らく Love法でも)早期のスポーツ復帰が可能なのである.スポーツ選手に対する手術において,術後のリハビリテーションやトレーナーなどとの連携の重要性が再認識された.

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はじめに

一般的にスポーツ選手の腰痛は椎間板ヘルニア,椎間板症,分離症などのように腰痛を起こしている部位によって分類するが,その原因を特定することは困難なことが多い.スポーツ選手が求める腰痛の治療のゴールは,一般の人と異なり非常に高いレベ

ルにある.したがって,皮膚切開のみでなくアプローチ起因障害(approach related morbidity)を最小限にして,神経根に対する影響を可及的に少なくすることが大切である.また長期の入院はスポーツ選手にとってトレーニングを休むことになり handy-capとなる.そこで日帰り手術(DS;Day Surgery,Outpatient Surgery,Same Day Surgery,Ambula-tory Surgery)の体制はスポーツ選手のみならず,

第 37 回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」

スポーツ復帰のための腰椎手術療法 ―内視鏡椎間板ヘルニア摘出の有用性―

Return to Sports After Minimally Invasive Endoscopic Surgery

出沢  明  Akira Dezawa 小杉 辰夫  Tatsuo Kosugi

● Key wordsMicroendoscopic discectomy:Transforaminal discectomy:Interlaminar discectomy:Percutaneous discectomy:Lumbar disc herniation

●要旨スポーツマンに対し,椎間板ヘルニアの腰椎手術後の復帰のカギは,アプローチ起因障害

を可及的に減らすことである.そして日帰り手術(DS;Day Surgery,Outpatient Surgery,Same Day Surgery,Ambulatory Surgery)により早期の社会復帰をめざす.経皮的内視鏡椎間板ヘルニア摘出術(PELD;Percutaneous Endoscopic Lumbar Discectomy)は椎間孔の外側からアプローチする方法と椎弓の間からアプローチする方法がある.拡張器(ダイレイター)で腔を作り,腔を維持し25〜30°の内視鏡と解像度の優れた VTR画面をみながら行なう PELD法,さらに Disc Fx法は contained typeのヘルニアに対して有用な手技である.術後の回復や術後鎮痛薬の使用量からみて患者の満足度は高く,顕微鏡椎間板ヘルニア摘出術や MED法と比較してより最小手術侵襲手術手技である.低侵襲手技によるスポーツ選手に対する日帰り手術は,21世紀のスポーツ医療の中心となると確信している.本術式は,今後 MED法や顕微鏡手技に十分に変わりうるものと思われる.

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出沢 明〒213─8507 川崎市高津区溝口3─8─3帝京大学溝口病院整形外科TEL 044─844─3333

帝京大学溝口病院整形外科Department of Orthopaedic Surgery, University Hospital, Mizonokuchi, Teikyo University

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一般患者でも医療システムから海外では急速な進歩を遂げている.米国では70%が日帰り手術に移行しているのは医療保険システムの違いによる.1983年のmedicareの入院医療の包括支払い(prospective payment system)の導入により,外来での手術に移行する割合が多くなった.今回は内視鏡椎間板ヘルニア摘出術(MED;Microscopic Endoscopic Discec-tomy)と経皮的内視鏡椎間板ヘルニア摘出術(PELD;Percutaneous Endoscopic Lumbar Discectomy)とDisc Fxについて解説する .

MEDは1993年に Destandauにより開発され,その後1997年に Smith and Forlyらにより現在のシステムが改善された.1998年9月にわが国に輸入されるが,その1年前にわれわれは独自の注射器のシステムで行ってきた.PELDは1981年の土方らによる経皮的髄核摘出術(PN;Percutaneous Nucleotomy)から発展し,内視鏡が導入され,さらに髄核より後方の椎間板ヘルニアに直接到達する手技に変化してきた.したがって MEDと比較する際は,現在のtransforaminal に直接椎間板ヘルニアに到達してヘルニア摘出を行なう手技と比較しなければならない(表1).

1.PELD法Safety triangle zone (Bamuda triangle)

神経根の背側と上関節突起腹側と下位椎体の上縁に囲まれた範囲である.下位レベルに移行するに従いその範囲は狭小化する.とくに神経根の位置と後根神経節の位置が重要になる.高齢者になるに従い椎間板狭小化が進むと,この triangle zoneの面積は狭くなり,とりわけ高さが減少する.したがってcannulaが大きくなると exiting nerve rootを損傷する危険性が増すので要注意である.手術手技と Pitfall

麻酔法:原則として全身的影響が少なく安全性が高い1%リドカインによる局所浸潤麻酔で行なって

いる.患者はモニター画面をみながら手技をリアルタイムに観察でき,その病態の説明も直接できる点で非常に有用である.またソセゴンやドルミカムにより疼痛のコントロールをする場合がある.しかし患者によっては疼痛に非常に過敏に反応する人がおり,全身麻酔を余儀なくされる場合がある.必ずこの手技を始めるにあたり局所麻酔で行ない,どの操作が患者の神経根の刺激症状や疼痛が起こるのかを認識する必要がある.最低50例局所麻酔で施行してから全身麻酔に移行すべきである.決していきなり全身麻酔で行なってはならない.日帰り手術の麻酔のガイドラインが参考となる.

われわれは局所麻酔下に可及的に椎間板ヘルニアの部位(とくに椎間孔から外側ヘルニア)にピンポイントで到達して,脊椎の構築構造を破綻せずにヘルニア摘出を行なう低侵襲手技を2003年に導入した.切開創は6mmで皮下縫合は1針でいわゆるバンドエイドサージリーにより日帰り手術が可能となった.

手術器械(図1):scope,cannula,Scope holder,blunt obturator,Stylet,Kerrison rongeur,pitu-itary rongeur,高周波バイポーラ凝固装置,high speed bur,管流水,排水処理装置(Kaisar drape)が必要となる.

各種アプローチについて解説する(図2).1)Extraforaminal approach 椎間孔外アプローチPosterolateral approach とtransforaminal approach,

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図1 各種スコープ器具各種 PELDの器具径が2.5mmまでの working in-strument, bipolar coagulator, pituitary rongeurが必要となる.

6° 25 °

表1 MED,Disc Fx,PELDの違い傷の大きさ 16mm 3mm 6─8mm入院期間 7day 0 1day麻酔 全身 局所 局所,硬膜外,(全身)腔維持 解放 還流 還流操作法 wonder joystick joystick

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2種類のアプローチがある.後側方の正中より10〜11cmの部位から刺入し,

safety triangle zoneに入る後側方アプローチ(pos-terolateral approach;後側方法)と,ほぼ体軸に対して前額面にアプローチして椎間孔に真横から到達する方法(transforaminal approach;経椎間孔法)がある.

① Posterolateral approach方法(後側方法)腹臥位で透視下に正中より10〜15cmの長さで30〜

40°斜めに刺入してsafety triangle zoneに到達する.椎間板の後側方より traversing nerve root(L4/5では L5神経根)の除圧を行なう.比較的容易で安全に施行可能であるが直接 subligamentous herniationのヘルニアを掴むことは難しい.局所麻酔を行ない,L1─S1の椎間孔外よりのアプローチが可能であるが,L5─S1に対するアプローチでは工夫が必要となる.腸骨翼が canulaの刺入を妨げるために,poste-rolateralから椎間孔に到達する経路は方向性が限定

される.Cannula先端のカットする角度が異なり,とくに L5─S1のアプローチには L5横突起の尾側の骨性処置が問となる.硬膜外の血管の止血がポイントでもある.椎間孔外と椎間孔内までのヘルニア摘出と突出椎間板繊維輪と髄核の摘出が可能となる.

Pitfall:刺入角度がつき頭側に cannulaが傾くとexiting nerve root の損傷の危険性が高くなる.また椎間板ヘルニアの同定がしにくくなる.

② Transforaminal approach(経椎間孔法)(図3)椎間孔の内部まで入り,黄色靱帯を切除して椎間

板の繊維輪後縁,後縦靱帯,硬膜管を側面より観察しながらヘルニアを掴んでくるもので,究極の最小侵襲手技による椎間板ヘルニア摘出術である.Sub-ligamentous,transligamentous herniationの摘出が可能であり,sequestrationによるヘルニア摘出もスコープや鉗子の開発で可能となってきた.その刺入にはほぼ体幹の側面(5〜10°後方)からアプローチするために,腹囲の差により刺入のポイントが若干変わる.しかし太った人や痩せた人の差がなくアプローチが可能である.合併症は過度に前方に針先を傾けたことによる腹腔内臓器損傷と,腸管を穿刺した針先によると思われる椎間板炎が報告されている.また術者のレ線被曝が問題となる.また exiting nerve root(たとえば L4/5では L4 root)への刺激と思 わ れ る 一 過 性 の 神 経 過 敏 症 状(dysesthesia,numbnessなど)の出現頻度が若干高い.しかし MEDの術後の血腫の心配も少なく,また侵襲もはるかにMEDより少なく抜糸の心配やドレーンの留置などの必要はない.ヘルニア反応膜や後縦靱帯の腹側より慎重に入り,椎間板ヘルニアの摘出を行なう側面より硬膜管,traversing nerve root,後縦靱帯,反

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図2 経皮的腰椎椎間板ヘルニアに対する各種アプローチ

図3 transforaminal approachで施行するシェーマ

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応膜,椎間板ヘルニアをみて神経根にさわらず側面よりヘルニアを摘出する究極の手技である.しかしPN法にレーザーを用いて医学的にも社会的にもわが国では問題になっている.この手技は神経根周辺での手術操作であり決してレーザーを十分に経験をつまないで用いることは薦めない.

Pitfall:直接硬膜管の側方に到達するために,まず黄色靱帯の処理,次に硬膜管周辺の血管の処理が必要となる.その際に有効な止血方法は surgicellのcotton typeが有用である.止血されないのに無意味な bipolar coagulationは控えたい.

2)Interlaminal approach 経椎弓間アプローチ(図4)

本方法は L5─S1の椎弓間の幅広い若年者や女性に適応となる.黄色靱帯の切除を極めて慎重に行なうことが必要である.Side firing laserや cannulaの先端で展開しながら神経根の外側に入り,または神経根の腋窩部に入り椎間板に到達する経路である.神経根や硬膜管の展開ができないためにヘルニアの位置によって限界がある.したがって migrationするヘルニア,中心性ヘルニアについては適応外である.また狭窄症に伴うヘルニアは操作を慎重に行ない,硬膜管の外側から前後像の透視を確認しながら椎間板腔に到達する.この手技は非常に PEDの手技に習熟した人が行なうべきであり,MEDとはアプローチが同じであるが技術的にははるかに難しいことを認識しておくべきである.

2.MED®(Microendoscopic surgery)法黄色靱帯を温存する内視鏡椎間板ヘルニア切除が

スポーツ選手に有用である.適応は外側陥凹部狭窄(lateral recess stenosis,

subarticular stenosis)や内側椎間孔狭窄,中心型狭窄や内側部椎間孔内へ及ぶヘルニアが該当する.腹臥位で棘突起より1cm外側で16mmの切開をする.dilatorを用いて徐々に筋層を展開する.目的とする椎弓間の上位椎弓の下縁が展開の中心となる.切除する程度は椎間板の位置する方向と患者の前弯の程度により異なる.透視か術前の側面フィルムで確認しておく.ケリソンパンチ(Kerrison rongeur)を挿入し,上位椎体の椎弓下縁を切除する.椎弓が厚く固い場合は椎弓の下縁の一部をノミで落とし,薄くしてからケリソンパンチで切除すると手技は容易である.椎弓の周辺の軟部組織をバイポーラで焼却し,切除した後に黄色靱帯の起始部を鋭匙かノミで剝離切離する.上位椎弓の外側に到達し,椎間関節の移行部を切除する.上位の椎弓の切除の範囲は,理論的に椎間板の傾とヘルニアの方向により決まる.したがって L4─5─S1は1portalで方向を変えることにより可能な場合がある.神経根の外側に到達する手技は,上関節突起の内側に付着する黄色靱帯が指標となる.特殊なスクレーパーか鋭匙で黄色靱帯を切除する.メスで後縦靱帯を切開しヘルニアを摘出する.神経根の肩に到達するには,椎弓根を触知して神経根の走行を推定することがこの手技のポイントである.

図4 interlaminar approachと target organに近接した場合の画像の拡大

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3.Disc─FX System(図5)Disc─FX Systemは安全で迅速かつ効果的な腰椎

椎間板切除用に開発された透視下で行なう手技で,マニュアルでの組織除去,髄核のアブレーション,繊維輪のモデュレーションなど機能な治療オプションがある.内視鏡での観察や画像保存も可能である.

適応は contained typeの椎間板ヘルニアである.禁忌は Non Contained typeの椎間板ヘルニア,50%以上の薄さになっている椎間板症,変形腰椎症である.利点は最小侵襲で短い治療時間(20〜30分)で回復が早い.局所麻酔で行なえるために日帰り手術が可能(術後2〜3時間で退院)である.レーザー治療と

図5  Disc Fxの器具とバイポーラによる髄核の蒸散と繊維輪の modurationのしくみ

BIPOLAR TURBO –

BIPOLAR HEMO –

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異なり,後方の脱出したヘルニアに直接椎間板の内側から蒸散することができ,また神経に対しても安全である.とくに contained typeで HIZ(High Inten-sity Zone)のある場合にこの手技は有用で,術後徐々に HIZが消失する傾向にある(図6).

結 果

L4/5より頭位側での MED®と PELDの posterolat-eral approach(PL),transforaminal approach(TF)の比較検討を行なった.

スポーツ選手症例数は MED® が66例,PELDは

58 例,Disc Fxは6例 で あ る. 術 後 の 症 状 改 善Macnabによる改善率を図に示す(図7).一応のスポーツ復帰は MED®が平均35日,PELDは14日,Disc Fxは8日であった.

考 察

1.PELD手技の pit fallPELDは exiting nerve rootの損傷をいかに防ぐか

である.正確に safety triangle zone に到達して椎間孔内に靱帯,黄色靱帯を確認して処理をする.その際に不用意な bipolar といえども電気凝固は慎重に行ない exiting nerve rootの ganglionを刺激しないことである.また椎間孔内の処置が終了して traversing nerve rootを確認し後縦靱帯,椎間板ヘルニアの反応膜を同定して側面から正確な処置を行なうことが大切である.

MED®はきちんとしたランドマークにより,現在処理を行っている部位がどこで,椎弓をどの程度切除をする必要があるか確認する.そのためにも椎弓根の頭位側を神経根プローブで確認することをすすめる.また神経根を同定してからヘルニアの処置を行なう.その際にすぐにパンチなどで掴む操作は非常に危険であり,押し出すイメージの操作が安全な操作であることを心がける.骨切除が多くなるに従い,術後の血腫が起きやすくなるのでドレーン留置に心がける.

図6 HIZ

26歳プロアイスホッケー(Sリーグ)

図7 成績

excellent

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2.黄色靱帯温存する内視鏡椎間板ヘルニア切除本手技の目的は,従来の確立された手技の顕微鏡

視下椎間板切除術法に多様性を求めた手技の開発であり,立体感覚(認識)が欠如しているために,顕微鏡に変換して初めて神経根と黄色靱帯の鑑別が可能であった症例もあり,内視鏡の解像度に大きく影響されることは否めない.また米国で始まった Smith and Foleyらによる内視鏡ヘルニア摘出術も,実際に側方から常に透視化でコントロールを行ない,深度と高位を確認しているのが実際である.Casperの開創器を用いる方法や小筋鉤で脊柱起立筋を展開して行なう方法と比較すると,脊柱起立筋を棘突起から剝離(detach)する必要はなく,多裂筋の輝度変化が少なく最小侵襲手技と思われる.とくに脊柱管内片側に寄ったヘルニアは内側黄色靱帯や内側の椎弓を温存し,外側の一部のみ切除し神経根に接触しない方法が可能となった.今後は顕微鏡と内視鏡がともに発展していくためにも,両者の利点欠点を見極めてその術者とその手術の環境設備に最も適した手技を選択するべきと考える.そして明るく拡大された視野のもとで正確な手技の習得が必要となろう.

3.スポーツ復帰と日帰り手術スポーツ選手の腰痛治療は,患者の満足度は非ス

ポーツ選手とまったく異なる.高いレベルの回復を求めるために背筋への損傷,神経根操作の最小手術侵襲が求められる.また自然治癒力を求めた保存療法はトレーニングの障害となっていると,早期の現場復帰を求め,確実な非侵襲的治療を求める人が多い.医療の質を高め,医療の評価する体制からの日帰り手術の特性は,患者の早期社会復帰に伴う総医療費の抑制があげられる.そして手技が単純化されDPCにはじまる医療の標準化が図られる.また効率性を追求し,手術前後の外来医療,在宅医療など医療関連機関のネットワーク体制の拡充など,21世紀の人により優しい医療という課題の実現で先鞭をつける可能性を秘めている手技である.医療の効率性,標準化,技術や質の向上といった観点で,日帰り手術は啓蒙推進するうえで有用な位置づけとなろう.とくにわが国では少子高齢化社会と核家族化が進みDSの需要は高まりをみせるであろう.すみやかな質の高い,合併症のない低侵襲手技により術後のケア

が在宅でも可能となる.軽微な術後疼痛と高い整容性などにより患者の身体的,経済的,精神的,時間的負担を軽減して高度な QOLの獲得にあたる.

結 語

スポーツマンに対し,椎間板ヘルニアの腰椎手術後の復帰のカギはアプローチ起因障害を可及的に減らすことである.拡張器(ダイレイター)で腔を作り,腔を維持し25〜30°の内視鏡と解像度の優れたVTR画面をみながら行なう PELD法,さらに Disc Fx法は contained typeのヘルニアに対して有用な手技である.低侵襲手技によるスポーツ選手に対する日帰り手術は,21世紀のスポーツ医療の中心となると確信している.

文 献

1) Kafadar A et al:Percutaneous endoscopic transforaminal lumbar discectomy:a critical appraisal. Minim Invasive Neurosurg, 49:74─79, 2006.

2) Ruetten S et al:An extreme lateral access for the surgery of lumbar disc herniations in-side the spinal canal using the full─endoscopic uniportal transforaminal approach─technique and prospective results of 463 patients. Spine, 30:2570─2578, 2005.

3) Yang SC et al:Transforaminal epidural ste-roid injection for discectomy candidates:an outcome study with a minimum of two─year follow─up. Chang Gung Med J, 29:93─99, 2006.

4) Choi G et al:Percutaneous endoscopic inter-laminar discectomy for intracanalicular disc herniations at L5─S1 using a rigid working channel endoscope. Neurosurgery, 58(1 Sup-pl):ONS59─68, 2006; discussion ONS59─68.

5) Marotta N et al:A novel minimally invasive presacral approach and instrumentation tech-nique for anterior L5─S1 intervertebral discec-tomy and fusion:technical description and

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case presentations. Neurosurg Focus, 20:E9, 2006.

6) Schwender JD et al:Minimally invasive transforaminal lumbar interbody fusion

(TLIF):technical feasibility and initial re-sults. J Spinal Disord Tech, 18:S1─S6, 2005.

7) Tsou PM et al:Posterolateral transforaminal selective endoscopic discectomy and thermal annuloplasty for chronic lumbar discogenic pain:a minimal access visualized intradiscal surgical procedure. Spine J, 4:564─573, 2004.

8) Yeung AT et al:In─vivo endoscopic visualiza-tion of patho─anatomy in painful degenerative conditions of the lumbar spine. Surg Technol Int, 15:243─256, 2006.

9) Salehi SA et al:Transforaminal lumbar inter-body fusion:surgical technique and results in 24 patients. Neurosurgery, 54:368─374, 2004; discussion 374.

10) 出沢 明ほか:脊椎内視鏡の歴史と現状と展望〜内視鏡前方固定術から内視鏡椎間板ヘルニア

日帰り手術まで〜.脊椎脊髄ジャーナル,17:620─625, 2004.

11) 出沢 明ほか:スポーツの日帰り手術—経皮的内視鏡椎間板ヘルニア摘出 PELD(Percutane-ous Endoscopic Lumbar Discectomy).臨スポーツ医,23:1337─1344, 2006.

12) 出沢 明:日帰り手術内視鏡椎間板ヘルニア摘出.臨スポーツ医,23:276─280, 2006.

13) Dezawa A et al:New minimally invasive dis-cectomy technique through the interlaminar space using a percutaneous endoscope. Asian Journal of Endoscopic Surgery, 4:94─98, 2011.

14) Sasaoka R et al:Takaoka Objective assess-ment of reduced invasiveness in MED. Com-pared with conventional one─level laminotomy. Eur Spine J, 15:577─582, 2006.

15) Hoogland T et al:Transforaminal posterolat-eral endoscopic discectomy with or without the ombination of a low─dose chymopapain:a prospective randomized study in 280 consecu-tive cases. Spine, 31:E890─897, 2006.

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11

はじめに

腰椎椎間板ヘルニア症例に対する手術的治療においては,脊柱管内に突出したヘルニア塊を摘出すること自体は,神経の周囲環境を整備するという目的に合致した操作である.しかし,より表層の構造である皮膚や筋膜あるいは筋肉という解剖学的構造については,症状発現因子でないにも関わらず,ヘルニア摘出の経路であるという理由により,その切離を余儀なく

される.スポーツ選手ではこの不必要な切開を必要最小限にとどめる努力が必要になる.この目的にあった方法として,顕微鏡下手術と内視鏡下手術があり,いずれも術野を観察する視点と光源が,術者自身の頭部よりも目標に近いために皮膚切開を小さくすることができる.とくに内視鏡下手術は,この両者が創内にはいるため,より小皮切による手術的加療が可能で,スポーツ選手に対してはより好ましい.本法の実際およびわれわれが経験したスポーツ選手の手術例についてその手術成績を報告する.

第 37 回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」

スポーツ選手の腰椎椎間板ヘルニアに対する 内視鏡下後方手術の実際

Micro Endoscopic Discectomy for Lumbar Disc Herniation in Athletes

中村 博亮1) HiroakiNakamura 金田 国一2) KunikazuKaneda 吉田  玄2) GenYoshida 寺井 秀富1) HidetomiTerai 島田 永和2) NagakazuShimada

● Key wordsLumbardischerniation:MicroEndoscopicDiscectomy:Athlete

●要旨われわれはスポーツ選手の腰椎椎間板ヘルニア手術適応症例にMicroEndoscopicDiscec-tomy(以下MED)を施行してきた.対象症例は21例で,年齢は平均18.2歳,罹患椎間は L3/4間1例,L4/5間12例,L5/S間8例であった.スポーツレベルはすべて学生スポーツのレベルで,サッカー,バレーボールが最も多かった.JOAスコアーは術前平均13.4点が術後27.4点に改善し,その改善率は平均89.8%であった.また21例中,18例が元のスポーツレベルへ復帰し,その復帰率は86%,復帰までの期間は平均3.0ヵ月であった.スポーツ選手に対するMED後の予後は良好で,スポーツ復帰に支障をきたすものではないことが判明した.

     1

中村博亮〒545─8585 大阪市阿倍野区旭町1─4─3大阪市立大学整形外科TEL06─6645─3851

1)大阪市立大学整形外科DepartmentofOrthopaedicSurgery,OsakaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine

2)島田病院整形外科DepartmentofOrthopaedicSurgery,ShimadaHospital

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手術方法と症例

1.内視鏡下後方手術の実際実際の手術手技について解説する.術者は患者の

ヘルニア優位側に立ち,モニター画面と正対して,画面をみながら手術操作を進める.まず手術椎間を手術用透視装置(イメージ)正面画像で同定し,この部位に約2cmの皮膚切開を加える.筋膜切開の後,直径が徐々に太くなるダイレーターを使用して,順次これを動かしながらかぶせていくことで,筋層間を拡大する.その後円筒形のレトラクターを設置し,この中に直径3mmあるいは4mmの内視鏡を挿入して,この内視鏡によって映し出される術野画像をモニター画面上で観察しながら手術操作を進める.椎弓間開窓および神経根周囲の操作は通常のヘルニア摘出と同様で,頭尾側の椎弓付着部から黄色靱帯を剝離した後摘出し,神経根を愛護的に内側によけた後,ヘルニア塊を摘出する.

2.症例スポーツ選手に対する手術症例は21例で,年齢は14歳から22歳,平均18.2歳,罹患椎間は L3/4間1

例,L4/5間12例,L5/S間8例であった.手術症例のスポーツレベルはすべて学生スポーツのレベルで,競技種目については種々存在し,サッカー,バレーボールが最も多かった(表1).スポーツ選手の術前経過を検討すると,発症から手術までは平均4.3ヵ月,硬膜外ブロックの回数は2.8回であった.

結 果

手術中に確認できたヘルニアのタイプは表2に示すごとくで,subligamentousextrusionが最も多くなっていた(表2).JOAスコアーは術前平均13.4点が術後27.4点に改善し,その改善率は平均89.8%であった.術後の入院期間は平均7日間で,元のスポーツへの復帰率は85.7%,復帰までに要した期間は術後1から4ヵ月平均3.0ヵ月であった.術後療法としては,術翌日離床のあと,2日後からは積極的に筋力トレーニングを取り入れ,2ヵ月後にはスポーツ部分復帰,3ヵ月後には完全復帰をめざした.

考 察

1. スポーツ選手に対する手術的治療の妥当性についてHsuら1)は,342名のプロスポーツ選手の治療成績について報告している.226名に手術的治療がなされ元のスポーツへの復帰率は81%であった.また

     1

表1 手術的治療を施行したスポーツ選手の競技種目競技種目

武道 球技 その他合気道 1 サッカー 4 スキー 1剣道 1 バレーボール 3 陸上 1柔道 1 硬式野球 2 レーシングカート 1

ソフトボール 1バスケット 1バトミントン 1ラグビー 1フラッグフットボール 1硬式テニス 1

表2 術中所見によるヘルニアの型分類Type No.

Subligamentousex. 13Transligamentousex. 7Sequestration 1

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Weistrofferら2)の報告では症例数は少ないものの,手術的治療を行なった症例群において元のスポーツレベルへの復帰率がより高かったと報告している.また岩本ら3)は review論文で,microdiscectomy後のスポーツ復帰率が,保存的治療に比較してより高かったと報告している.ほかにもプロスポーツ選手に対する手術的治療後の良好なスポーツ復帰率を報告している論文が散見される4,5).これらの報告から,スポーツ選手に対する手術的治療はスポーツ復帰に障害となるものではないことが判断できる.

2. スポーツ選手に対する低侵襲手術の有意性について松永ら6)の報告では,いわゆるLove法に比較して,

PercutaneousDisectomyのほうが,復帰率はより良好で,復帰までの期間も短いことが報告されている.Love法後のスポーツ復帰率について過去の報告を参照すると,40%から80%,平均72%,期間も2.7ヵ月から6.0ヵ月であった7〜13).MEDについての報告を参照すると,貴志らの報告14)ではスポーツへの復帰は2ヵ月以内で,その比率は80%,われわれの今回の検討では3ヵ月,86%で,MEDにおいてより復帰率が高く,復帰までの期間も短いことがわかる.スポーツ選手に対する手術的治療の侵襲はより少

ないことが好ましいが,腰椎後方手術の手術侵襲について検討した報告は少ない.われわれの研究データ15)では,MED,Microdiscectomy,Openlamino-tomyの3種類の術式を比較すると,術翌日の CRPはMEDとmicrodiscectomyにおいてともに,open例と比較して有意にその値が低値を示していた.手術後の血中インターロイキン値を経時的に測定した結果では24時間後のデータにおいて,MEDにおけるインターロイキン値はmicrodiscectomyと比較して優位に低値を示しており,その低侵襲性が確認された.

3.スポーツ復帰までの術後療法について術後の後療法については,術後早期からのexerciseprogramが,機能性の維持,疼痛の改善,機能性の向上に有効であるという報告がなされている16,17).しかしスポーツ選手に限った報告は少ない.スポーツ選手に対する腰椎手術後の予後特殊性を考えると,

術後に筋力あるいは持久力の低下を可能な限り最小限に抑えるために,すみやかにトレーニングを開始することが重要である.貴志ら14)は,椎間板ヘルニアの鏡視下手術後のリハビリテーションプログラムを具体的に解説しており,麻殖生ら18)は術後早期からのアスレチックリハビリテーションの実行を推奨している.エビデンスの少ない領域であり,今後信頼性の高いエビデンスの構築が望まれる.

文 献

1)HsuWKetal:Theprofessionalathletespineinitiative:Outcomesafterlumbardischernia-tion in342eliteprofessionalathletes.SpineJ,11:180─186,2011.

2)WeistrofferJKetal:Return─to─playrates innational football league linemenafter treat-mentforlumbardiskherniation.AmISportsMed,39:632─636,2011.

3) IwamotoJetal:ThereturntoSportsactivityafterconservativetreatmentorsurgicaltreat-ment inathleteswith lumbardischerniation.AmJPhysMedrehabil,89:1030─1035,2010.

4)HsuWL:Performance─baedoutcomesfollow-inglumbardiscectomyinProfessionalathletesin theNationalFootball league. Spine, 35:1247─1251,2010.

5)AnakwenzeOAetal:Athleticperformanceoutcomesfollowinglumbardiscectomyinpro-fessionalbasketballplayers.Spine, 35:825─828,2010.

6)MatsunagaSetal:Comparisonofoperativeresultsof lumbardischerniation inmanuiallanors and athletes. Spine 1993, 2222─2226,1993.

7)伊藤淳二ほか:腰椎椎間板ヘルニア手術後のスポーツ復帰からみた手術法の選択.臨スポーツ医,17:201─206,2000.

8)長谷川和寿ほか:スポーツが誘因と考えられた小児腰椎椎間板ヘルニアの追跡調査.日整会スポーツ医会誌,7:210─215,1988.

9)阿部総一郎ほか:腰部スポーツ障害における手

     1

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     1

術的治療の検討.臨スポーツ医,7:210─216,1990.

10)富永積生ほか:発育期スポーツによる腰痛症例の分析と予後.島根中病医誌,17:170─183,1990.

11)付岡 正ほか:スポーツ選手の Love法の術後調査.整スポ会誌,18:17─21,1998.

12)米澤元實ほか:Love法を用いた手術療法.臨スポーツ医,10:1305─1309,1993.

13)高橋光彦ほか:腰椎椎間板ヘルニア術後のスポーツ復帰の比較検討.経皮的髄核摘出術とLOVE法の比較.整スポ会誌,17:35─41,1997.

14)貴志真也ほか:特集 スポーツ外傷の最新の知見と治療.スポーツ選手の椎間板ヘルニアに対する鏡視下リハビリテーション.整・災外,46:

1201─1209,2003.15) SasaokaRetal:Objectiveassessmentofre-

duced incvasiveness inMED.comparedwithconventionalone─level laminotomy.EurSpineJ,15:577─582,2006.

16)DolanPetal:Canexerecisetherapyimprovetheoutocmeofmicrpdiscectomy.Spine, 25:1523─1532,2005.

17)OsteloRWetal:Rehabilitationafter lumbardisc surgery:anupdate cochrane review.Spine,34:1839─1848,2009.

18)麻殖生和博ほか:特集:スポーツ外傷・障害身障実戦マニュアル.Ⅱ.部位別疾患 腰椎椎間板ヘルニア.MBOrthop,23:81─86,2010.

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第 37 回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」

プロスポーツ選手の腰部障害と治療Lumbar Disorder and Treatment Associated with the Professional Athletes

Engaged in Baseball and Soccer Games

藤本 吉範1〜3)YoshinoriFujimoto 宇治郷 諭4) SatoshiUjigo 奥田 晃章5) TeruakiOkuda 石井 雅也6) MasayaIshii 吉崎  健7) KenYoshizaki

● Key wordプロ野球,Jリーグ,腰痛,保存療法Professionalbaseball:Japanprofessionalfootballleague:Lowbackpain:Conservativetreatment

●要旨プロスポーツ選手にとって腰痛は代表的な体幹機能の障害である.不適切な治療は他部位の障害を惹起し,パフォーマンスの低下を招来する可能性がある.プロスポーツ選手の腰痛管理に最も重要なことは腰部障害の予防,早期発見と治療である.コアエクササイズを中心としたアスレティックリハビリテーションは,腰部障害の防止,プレーパフォーマンスの向上,さらには選手寿命の延長につながる重要な腰痛のプライマリケアと考えられる.また,チームドクターおよびトレーナーの機能的な連携が重要であり,選手個人の腰部障害に対する教育と自覚のもとにエクササイズの積極的な励行が重要であることはいうまでもない.

     1

藤本吉範〒738─8503 廿日市市地御前1─3─3JA広島総合病院TEL0829─36─3111

1)JA広島総合病院JAHiroshimaGeneralHospital

2)広島東洋カープ・サンフレッチェ広島チームドクターMedicalDoctorforHIROSHIMATOYOCARPandSANFRECCEHIROSHIMA

3)中国地区・広島県サッカー協会理事Director,HiroshimaFootBallAssociation

4)JA広島総合病院整形外科DepartmentofOrthopaedicSurgery,HiroshimaGeneralHospital

5)奥田整形外科皮膚科医院OkudaOrthopaedicDermatologicalClinic

6)広島東洋カープ・トレーナー部1軍チーフトレーナーChiefTraineroftheMajorTeam,HIROSHIMATOYOCARP

7)サンフレッチェ広島・チーフアスレティックトレーナーChiefAthleticTrainer,SANFRECCEHIROSHIMA

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はじめに

スポーツ選手の体幹機能は,プレーのパフォーマンスを維持,向上させるための主軸を担っている.腰痛は代表的な体幹機能の障害であり,不適切な治療によってほかの部位にも障害を惹起し,さらなるパフォーマンスの低下を招来する可能性がある.しかしながら,スポーツ選手の腰部障害に関するまとまった報告は少なく,腰痛の実践的治療法に関する情報も乏しい.筆者らは広島東洋カープ,サンフレッチェ広島の

選手に対する年間を通じた医学的サポートを行なっている.重症例には外科的治療の介入が必要であるが,最も重要なことは腰部障害の予防,早期発見と治療である.本稿ではプロスポーツ選手の腰部障害に対するプライマリケアについて述べる.

腰痛に対するプライマリケア

1.プレー中止の判断プロスポーツ選手は試合での貢献度と結果ですべ

てが評価される.このため,選手は多少の腰痛があっても練習を続け,腰痛が増悪した時点で初めてトレーナーに申告することが少なくない.選手が「プレーができる」と言えば治療を行ないながらプレーを継続させる.しかし,プレーの質が明らかに低下した場合,選手と話し合ったうえでプレーを中止させる.説明の内容は,医学的な根拠に基づくデータを示し選手の十分な了解を得なければならない.筆者らのプレー中止の判断基準は,神経症状が出現した場合,下肢伸展挙上テストにおいてプレーに支障をきたす制限を認める場合,腰椎可動域の制限,オーバーヘッドスクワットによる連鎖運動能力の低下で判断している.プレー中止を指示した場合,選手には復帰見込み

期間と治療内容を説明する.リハビリテーション中は選手の意欲を引き出し,計画どおりに治療を進めることが大切である.仮に治療が長期に及べば,症状は改善しても選手はチーム内でのポジションを失うことになったり,大事な試合に間に合わなくなったりすることもあるため,保存的治療にこだわるこ

となく外科的治療の介入も考慮しなければならない.

2.安静従来,急性腰痛症に対する治療の主体は安静とされてきた.しかし,数々の無作為コントロール試験によって長期の安静に明らかな医学的根拠がないことがわかってきた1).Deyoらは,長期の安静は筋肉の萎縮,心肺機能の低下,骨塩量の低下,血栓症の危険性などを引き起こすと報告し,神経障害のない急性腰痛患者には長期間の安静よりも2日程度の安静を推奨している2).また,複数の腰痛治療ガイドラインを検討したKoesらの報告でも,急性腰痛には長期のベッド上安静を避けることが推奨されている3).筆者らも急性腰痛を発症した選手には安静期間は最小限とし,アスレティックリハビリテーションを積極的に行なっている.

3.薬物療法1)内服薬厚生労働省が作成した腰痛症の治療指針では,薬

物療法として非ステロイド性消炎鎮痛薬,筋弛緩薬,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン®)が推奨されている4).非ステロイド性消炎鎮痛薬(Non─SteroidalAnti─

InflammatoryDrugs:NSAIDs)は,急性腰痛症に対する医学的根拠は証明されているが,慢性腰痛に対する十分な医学的根拠は得られていない5).NSAIDsの副作用として,長期内服による胃潰瘍だけでなく,創傷治癒の初期反応である白血球の遊走を阻害し,筋,靱帯,腱,軟骨の治癒過程を遅延させることが報告されている6).多量のNSAIDsの服用はプロスタグランディン合成を阻害することで急性腎不全を生じることがある.筆者らは,“ジクロフェナクナトリウム ”や “ロキソプロファンナトリウム ”などのNSAIDsを使用している.これらの薬剤は,腰痛発症後の急性期もしくは痛みがあるときに頓用で内服することが多い.2)注射疼痛誘発部位(トリガーポイント)に局所麻酔剤とステロイド剤を注射する局所ブロック,仙骨裂孔からの硬膜外ブロック,坐骨神経ブロック,神経根(造

    

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影)ブロックなどがある.神経根ブロックについては,薬剤注入による除痛効果をもとに責任高位の診断ができる.しかし,EBM上の腰痛に対する注射療法の効果はいまだ明確ではない7).腰椎椎間板ヘルニアの場合,安静,NSAIDs,硬

膜外ブロック,神経根ブロックなどの保存的加療を数週間行なうことで多くは軽快する.一般的に膀胱直腸障害や下肢筋力低下などの麻痺症状を呈す症例や上記保存治療に抵抗する症例は手術適応と考えられ,プロスポーツ選手も同様と考えている.当施設では椎間板ヘルニアなど根性疼痛を有するプロスポーツ選手を加療する機会が多い.下肢痛によりプレーの質が低下する場合,神経根ブロックによる除痛効果によりプレーに復帰できることも多く,プロスポーツ選手にとって非常に有用な治療と考える.ただし,効果のない場合にはいたずらに保存治療にこだわらず手術に踏み切るタイミングも重要である.3)ドーピングトップアスリートへの投薬は,ドーピング違反に

あたらないか考慮されなければならない.NSAIDsの1つであるジクロフェナクナトリウムや貼布薬であるケトプロフェンは禁止薬物には該当しないが,副腎皮質ホルモンであるデキサメサゾンは禁止薬物に該当するため,その使用に注意する必要がある8)

(表1).世界アンチドーピング機構(WorldAnti─DopingAgency:WADA)が,国際レベルのスポーツにおけるドーピング行為を監視している.故意のドーピングがある一方で,ドーピング目的で使用するつもりがなくても,市販の風邪薬や栄養ドリンク,漢方薬などを服用しただけでドーピング陽性になることがある.知識,情報不足による「うっかりドーピング」を防止するためには,ドーピングの知識のある医師,薬剤師に相談するよう選手に指導する必要がある.筆者らは選手が服用しているすべての薬剤,サプ

リメントはチーム・トレーナーに報告させており,ドーピングに関しては厳密に管理している.緊急でほかの医療機関を受診するときは,禁止薬物のリストを選手に携帯させたり,場合によってはチームドクターが当該医療機関の医師と直接連絡を取って対応している.

4.装具療法装具療法は,局所の安静,腰椎の運動制限,筋力補助などの目的で使用される.装具は大別して,体幹装具(軟性および硬性)と腰部固定帯(腰痛帯)の2つがある.いずれも,発症後間もない急性期がよい適応である.一方で装具療法の効果に関して,結果は一致していない.使用装具,使用期間等を明確にした文献もなく,現在のところ腰痛症に対する装具療法の有効性は証明されていない.プロスポーツの現場では,競技種目,トレーナーの考えにより装具の使用状況は異なってくる.プロ野球選手では腰部固定帯単独,もしくはキネシオテープという伸縮性のあるテープと併用しており,プロサッカー選手ではアスレティックリハビリテーションによる体幹筋力強化が主体で,装具は用いていない.

     1

表1 注意すべき禁止物質常に禁止されている物質S1.蛋白同化薬男性化ステロイド薬:筋肉増強作用例:メチルテストステロン(一部の強精剤に含まれる)

S2.ペプチドホルモン,成長因子および関連物質例:成長ホルモンエリスロポエチン(造血作用)インスリン(血糖降下作用)

S3.ベータ2作用薬例:喘息吸入薬

S4.ホルモン拮抗薬と調節薬S5.利尿薬とほかの隠蔽薬禁止薬物を用いていることを隠蔽する作用のある薬例:利尿薬プロベネシド(痛風治療薬)

競技会時に禁止される物質S6.興奮薬例:エフェドリン,メチルエフェドリン(一部の鎮咳薬,総合感冒薬,漢方薬,サプリメントなどに含まれる)エチレフリン(低血圧治療薬)ストリキニーネ(一部の胃腸薬に含まれる)

S7.麻薬S8.カンナビノイドS9.糖質コルチコイド例:デキサメタゾン,プレドニゾロン(経口使用,静脈内使用,筋肉内使用は禁止)

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5.理学療法1)物理療法わが国では神経症状を有さない腰痛に対して牽引

療法,温熱療法などが処方されていることが多い.牽引療法の効果には,筋攣縮の緩和,腰椎前弯の減少,心理的効果などがある.本療法の目的は脊柱を牽引することではなく,牽引による腰椎局所の安静や間歇牽引による局所マッサージ効果にある.Clarkeらのレビューによれば,腰痛症に対する牽引療法は急性期,慢性期を問わず,その効果を否定されていた9).温熱療法に関しては,表在温熱療法の効果に対するエビデンスが Frenchらによって,後述する運動療法と組み合わせることで疼痛,機能を改善させうるとした報告がある10).プロスポーツの現場では,疼痛をコントロールす

るための治療として経皮的電気神経刺激(transcuta-neouselectricalnervestimulation:TENS),ホットパック,超音波,鍼治療なども行なっている.関節の可動域制限を認めた場合にはモビライゼーションを併用することもある.各関節の可動域向上のために問題点である短縮した筋肉のストレッチングや拮抗筋の強化,代償行為によってオーバーワークになっている補助筋肉のマッサージを行なっている.また,ストレッチポール,スティックを用いた筋膜リリース(myofascialrelease)などを実行し,筋緊張をとるようにしている.さらにリラックスしてきた筋肉に対しては神経筋コントロールを再教育するために,主導筋の収縮と拮抗筋のストレッチングを応用した自動的個別化ストレッチング(activeisolatedstretch)で機能回復を行なっている.2)運動療法運動療法に関して,Haydenらは急性腰痛症に対

する運動療法には効果はないが,慢性腰痛症に対して効果があるとしており,有効性を結論づけている.Rainvilleらは中等度の腰痛患者に対して脊椎柔軟性,傍脊柱筋,心血管系の持久力を改善し,腰痛に対する過度の不安を和らげることによる除痛効果があると報告している.運動療法は,一般的に発症早期(3〜7日)の急性期には適応外である.しかし,プロスポーツの現場では早期よりアスレティックリハビリテーションを行なっている.痛みの原因になっていると考えられる

筋スパスムをとる目的で,痛みの許容範囲内で動かし,早期機能回復につなげている.実際には体幹部,下肢の関節のストレッチングやモビライゼーション,コアエクササイズなどが行なわれている.体幹筋は,運動方向のコントロールの役割を担う表層筋と腰椎の分節的安定性に寄与する深層筋に分けられる.コアエクササイズにより深層筋を優先的に鍛えることで体幹・骨盤の安定化を図っている(図1).

プロスポーツ選手の腰部障害

1.広島東洋カープ2000〜2005年の6年間における腰部障害発生件数

は86件であった.腰痛の誘因は投球練習が17件と高頻度であり,ポジション別腰痛発症頻度は,投手が30件と最も頻度が高かった.投手は頻回の投球動作による腰椎への回旋負荷が大きく,椎弓根疲労骨折などの腰部障害の発生頻度が高いものと考える.MRIは X線検査で異常を認める以前に椎弓根周囲の骨髄浮腫として初期変化をとらえることができるため,腰部障害の初期診断と初期治療に非常に有用である(図2).28件(33%)は短期間の休養で復帰可能であったが,58件(67%)は復帰までにアスレティックリハビリテーションが必要であった.なお,腰椎椎間板ヘルニアによる運動麻痺の合併2選手,慢性的腰部神経根障害1選手には顕微鏡下腰椎手術を行なった.

2.サンフレッチェ広島2003年〜2009年の7年間におけるサンフレッチェ

広島のトップ・ユース選手の腰部障害発生件数は24件,年間3〜4件であった.多くは一過性の腰痛であったが,腰椎椎間板ヘルニアによる下肢運動麻痺を合併した2選手に顕微鏡下腰椎手術を行なった.

腰椎手術後のアスレティックリハビリテーション

1. プロ野球選手のアスレティックリハビリテーション・プロトコール手術後翌日より歩行を開始し術後2週で退院とな

る.退院後は中周波(electricalmusclestimulation:EMS)を使用し腰椎に負担をかけず大腿四頭筋の強

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化を開始する.術後5週より腹筋の等尺性収縮,下肢の徒手抵抗運動,肩内在筋筋力強化を行なう.同時に体幹・下肢を中心に固有受容性神経筋促通法(proprioceptiveneuromuscular facilitation:PNF)を開始する.術後8週よりプール内での運動,ジョギング,股関節周囲筋力強化とストレッチングなどを開始する.術後9週より50〜60%の力で走る快調走を開始,ジョギングからスプリントに徐々に移行する.また,スピードや瞬発力などの運動能力を向上させるためにアジリティ・トレーニングを開始する.この時期より,バッティングや投球に不可欠である体幹の捻り動作を徐々に開始する.術後10週よりバットやボールを使ったティー打撃を開始する.

さらに,プライオメトリックトレーニングで下半身を重点的に強化する.術後11週より守備練習に参加し,術後12週よりフリー打撃を開始する.この時期より上肢のプライオメトリックトレーニングを開始し,ティー打撃を200球に増やす.術後16週より合同練習に参加させる.

2. Jリーグ選手のアスレティックリハビリテーション・プロトコール術翌日より歩行を開始し,術後2週で退院となる.退院後は毎日1時間のプール内歩行を開始する.神経筋コントロールの回復,体全体の安定感を高めるコアエクササイズによる体幹筋力の強化を行なう.

elbow-toe hand-knee( )

back bridge( ) side bridge( )

図1 コアエクササイズ※スポーツと腰痛−メカニズムとマネジメント 金原出版より抜粋

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全身筋肉の運動連鎖コントロール(Totalkineticchaincontrol)の向上によって術後の腰痛緩和と柔軟性を改善させる.術後5週より,持久力改善のために歩行負荷増強,股関節周囲筋の筋力訓練を開始する.術後6週よりジョギングと歩行をミックスしたものを開始し,術後7週より CybexOrthotronを用いた等張性運動により,大腿部の筋力強化を開始する.術後8週よりジョギングを開始し,プライオメトリックトレーニングを行ない筋力の改善を図る.また,ラダートレーニングを開始する.術後12週よりアジリティートレーニングを開始し,術後14週で練習に合流する.

腰部障害の予防,早期発見

1.腰部メディカルチェックサンフレッチェ広島の選手は,リーグおよびカッ

プ戦に出場するトップ選手28名(19〜35歳,平均25歳),育成組織であるユース選手35名(広島県立吉田高校1〜3年生),ジュニアユース選手50名(中学1〜3年生)より構成されている.腰部メディカルチェックをトップ選手は入団時と毎年シーズン開始前,ユース選手には高校入学時と毎年新学期前に行なっている.メディカルチェックの内容は,指尖床

間距離,下肢伸展挙上テストなどのタイトネステストを主体として行なっている.阿部らは,タイトネス陽性のスポーツ選手は腰痛の発生率が高く,注意すべきと報告している11).腰部タイトネスが持続する選手には,MRIによる腰椎の精査を行なっている.入学時のメディカルチェックで,ユース選手の31%に腰椎分離を認めたが,腰痛のため長期の練習離脱を来たした選手はいなかった12).

2.最重要課題は腰部障害の予防,早期発見腰部障害の予防のためには,コーチングスタッフとトレーナーによる選手のフィジカル・コンディションに関する密な情報交換が重要である.練習前には個々の選手に適した運動負荷を調整し,練習後にはプール,低負荷のランニング等のリカバリートレーニングを行ない障害を予防する必要がある.また,定期的にトレーナーが全選手の柔軟性,関節,姿勢,神経筋のコントロールを評価し,選手自身に問題点を認識させ改善を指導している.腰部障害の初期症状は,選手の「腰が重い,張る,硬い」等の非特異的自覚症状として出現する.他覚的には姿勢異常(アッパークロス症候群:姿勢異常の1つで,肩の挙上および前方突出,肩甲骨の外旋と外転,前方へ突き出された頭部など,いわゆる猫

図2 椎弓根骨髄浮腫20歳,男性.プロ野球選手.投球練習中に腰痛が出現.投球動作,体幹回旋時に腰痛が持続.単純 X線 (a.),MRI T1強調像 (b.) では明らかな異常を認めない.MRI T2脂肪抑制像 (c.) で左側L4椎弓根の高信号領域を認める (矢印).

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背の姿勢のこと),体幹筋の柔軟性低下を認める.連鎖運動の悪化により,体幹はアンバランスとなりオーバーヘッドスクワットテストはぎこちなくなる.腰椎骨盤股関節複合体の安定性の悪化は腰部の負担を増加させる.トレーナーは腰部障害の初期徴候を早期に発見し,姿勢の再教育,連鎖運動の強化,コアエクササイズなどのアスレティックリハビリテーションを行なう.

おわりに

プロスポーツ選手の腰痛にはアマチュア選手と異なり一過性の腰痛が多い.慢性腰部障害保持者は自然淘汰されプロ選手にはなれないためと思われる.一方,プロスポーツ選手の場合,連日の遠征や過酷な試合日程による腰部障害はまれでない.腰部障害の早期発見とコアエクササイズを中心としたアスレティックリハビリテーションは,腰部障害の防止,プレーパフォーマンスの向上,さらには選手寿命の延長につながる重要な腰痛のプライマリケアと考えられる.プロスポーツ選手の腰痛管理には,チームドクターおよびトレーナーの機能的な連携が重要であり,選手個人の腰部障害に対する教育と自覚のもとにエクササイズの積極的な励行が重要であることはいうまでもない.

文 献

1)Gilbert JR et al:Clinical trial of commontreatments for lowbackpain in familyprac-tice.BrMedJ(ClinResEd),291:791─794,1985.

2)DeyoRAetal:Howmanydaysofbedrest-foracutelowbackpain?Arandorllizedclini-caltrial.NEnglJMed,315:1064─1070,1986.

3)KoesBWet al:ClinicalGuidelines for theManagement ofLowBackPain inPrimaryCare:An InternationalComparison. Spine,26:2504─2514,2001.

4)白井康正:科学的根拠(EvidenceBasedMedi-cine;EBM)に基づいた腰痛診療のガイドラインの策定に関する研究(厚生科学研究費補助金(21世紀型医療開拓推進研究事業)),2001.5)vanTulderMWetal:Nonsterioidalanti─in-flammatorydrugs for lowbackpain:asys-tematicreviewwithin the frameworkof theCochraneCollaborationBackReviewGroup.Spine,25:2501─2513,2000.

6)Maroon JCet al:Natural antiinflammatoryagents forpain relief inathletes.NeurosurgFocus,21:E11,2006.

7)NelemansPJetal. Injectiontherapy forsub-acuteandchronicbenignlowbackpain.Spine,26:501─515,2001

8)奥脇 透:アンチドーピングのための頻用薬の知識.臨スポーツ医,25:488─491,2008.

9)ClarkeJAetal:Traction for low─backpainwithorwithoutsciatica.CochraneDatabaseSystRev,2007.

10)FrenchSDetal:ACochranereviewof su-perficialheatorcoldforlowbackpain.Spine,31:998─1006,2006.

11)阿部 均ほか:アメリカンフットボール,ラグビー選手における腰部メディカルチェックについて.臨スポーツ医,19:1451─1455,2002.

12)寛田 司ほか:スポーツ選手のための腰椎装具の実際 臨床医としての意見.臨スポーツ医,19:1201─1206,2002.

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背 景

腰椎椎間板ヘルニアに対する治療は保存療法が有効とされており,これは運動選手に対しても同様で

ある 1).疼痛によるパフォーマンスの低下が生じるため保存療法抵抗性の腰椎椎間板ヘルニアは手術適応となるが,従来の手術法は運動選手にとっては競技を離れる期間ができることや椎間関節や傍脊柱筋へのダメージがあるといった理由により手術を回避

第 37 回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」

腰椎椎間板ヘルニアに対する経皮的内視鏡下髄核摘出術 (PED)を施行したトップレベル運動選手の復帰

A Report of Recovery After Percutaneous Endoscopic Discectomy (PED)for Lumbar Disc Herniation in Top Level Athletes

  辰村 正紀1,2)  Masaki Tatsumura  安部 哲哉3)  Tetsuya Abe  天野 国明4)  Kuniaki Amano  坂根 正孝2)  Masataka Sakane

● Key words運動選手,腰椎椎間板ヘルニア,経皮的内視鏡下髄核摘出術Athelete:Lumbar Disc Herniation:Percutaneous Endoscopic Discectomy(PED)

●要旨保存療法に抵抗性の腰椎椎間板ヘルニアに対する治療として経皮的内視鏡下髄核摘出術

(Perctaneous Endoscopic Discectomy:PED)を施行したスポーツ選手4例の術後経過を調査した.結果4症例中3症例で術後3ヵ月以内に自覚的に100%のパフォーマンスを発揮することができ,早期のヘルニア再発も認めなかった.本術式は従来法に比べ椎間関節を温存でき,Micro Endoscopic Discectomy(MED)法より傍脊柱筋へのダメージが少ないため,早期復帰を望む運動選手に対する治療に非常に有用であると考える.

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辰村正紀〒300─3295 つくば市大曽根3681いちはら病院TEL 029─864─0303/FAX 029─864─3678E─mail [email protected]

1)いちはら病院 Ichihara Hospital

2)筑波大学医学医療系人間総合科学研究科 Graduate School of Comprehensive Human Sciences, Faculty of Medicine, University of Tsukuba

3)つくばセントラル病院 Tsukuba Central Hospital

4)茨城西南医療センター病院 Ibaraki Seinan Medical Center Hospital

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する傾向が強く,復帰後も疼痛をもちながらスポーツを継続する選手も多くいる 2).運動選手にはその侵襲を軽減できるMicro Endoscopic Discectomy(MED)法が好ましいとされているが 3,4),さらに小皮切で行なうことができる経皮的内視鏡下髄核摘出術(Per-cutaneous Endoscopic Discectomy:PED)があり,傍脊柱筋に対しても低侵襲であるため PEDは運動選手に適した手術法の1つとされている 5).PEDは一般的に経椎間孔的に椎間板にアプローチをするが,これはHijikataの Percutaneous Nucleotomy(PN)法 6)と同様のアプローチであり,Yeungらが応用し内視鏡を用いヘルニアを摘出する方法として確立した 7).今回われわれが経験した PEDを施行後に競技復

帰したトップレベルの運動選手を4例の競技復帰までの術後経過を報告する.

目 的

保存療法に抵抗する腰椎椎間板ヘルニアに対しPEDを施行後に競技復帰したトップレベル運動選手の競技復帰までの術後経過を報告する.

対 象

3ヵ月以上の保存療法で効果を得られなかった腰椎椎間板ヘルニアに対して PEDを施行した運動選手4例を対象とした.アプローチは2例で一般的な経椎間孔アプローチを用い,腸骨翼が干渉する L5/S1高位に関しては椎弓間アプローチを用いた 8,9).なお術後の後療法は術後1週までは軟性コルセット装着し日常生活のみを許可し,3週目から体幹ストレッチやジョギングなどの運動開始を許可した.その後はそれぞれ専門競技が異なるため,痛みの程度に合わせて負荷トレーニングの再開を許可した .

症 例

症例1:24歳 女性(柔道,日本代表レベル)主訴は腰痛および左下肢痛.SLRテストは左30°

で陽性.ヘルニアの高位はL5/S1であり(図1a,b),局所麻酔下に経椎間孔アプローチでヘルニアを摘出.術後3週でジョギング開始,術後4週で稽古復帰(打

ち込み)開始,術後6週で投げ込み開始,術後8週で乱取り開始できた.術後12週で自覚的には100%のパフォーマンスとなり,全日本実業団選手権大会に出場し個人戦3位.術後20週で全日本体重別選手権大会(講道館杯)優勝をおさめた.術後半年の時点でも再発なく(図1c,d),術後2年で競技生活から退いた.

症例2:14歳 男性(器械体操,全国中学校体育大会出場レベル)主訴は腰痛および右下肢痛.SLR右20°で陽性.ヘルニアの高位は右 L5/Sで(図2a,b),経椎間孔アプローチは不能と考え,年齢的にも中学生でもあり全身麻酔下に椎弓間アプローチでヘルニアを摘出.術後4週で床運動の練習開始,術後8週で自覚的には100%のパフォーマンスとなった.術後12週で全国中学校体育大会に出場した.術後1年2ヵ月の時点でも症状なく(図2c,d)競技を継続している.

症例3:22歳 男性(ラグビー,全国大学選手権出場校スターティングメンバーでポジションはプロップ)主訴は左下肢痛,SLR左40°で陽性.ヘルニアの高位は左 L4/5で(図3a,b),局所麻酔下に経椎間孔アプローチでヘルニアを摘出.術後経過,術後4週でジョギング再開.術後8週でトップリーグ加盟チームに入団し,ダッシュ可能となった.術後12週で試合形式の練習を開始した.術後9ヵ月の時点でも再発はなく(図3c,d),試合に出場している.

症例4:28歳 男性(バレーボール,Vチャレンジリーグ所属チーム所属)主訴は腰痛および右下肢痛,SLRテストは右30°

で陽性.ヘルニアの高位は右 L5/Sで(図4a,b),局所麻酔下に椎弓間アプローチでヘルニアを摘出.術後4週で筋力トレーニング開始し,術後6週でボールを使用した練習を開始.下肢痛および腰痛は術後消失したが,術後12週の時点で右肩腱板断裂を罹患し,実践練習に至らぬまま引退となった .

考 察

腰椎椎間板ヘルニアに対する低侵襲手術のなかに

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PEDやPD(Percutaneous Discectomy)やPLLD(Per-cutaneous Lumbar LASER Disk Decompression)などの経皮的アプローチがある.後者は透視のみで

先端のオリエンテーションを確認し髄核を蒸散するのに対して,PEDは椎間板までのアプローチは透視下に行なうものの,鏡視下に確認しながらヘルニア

     2 22

図1a MRI T2強調画像術前水平断 図1b MRI T2強調画像術前矢状断

図1c 摘出ヘルニア 図1d MRI T2強調画像最終観察水平断

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を摘出するため直接的で,しかも安全である.また脱出ヘルニアを直接摘出せずに椎間板内の減圧を目的とする手技と比べ,直接ヘルニアを摘出するPEDは確実性も高い.直径7mm外套管はMED法で必要な外筒(16〜

18mm)よりさらに細く,傍脊柱筋群に対する侵襲

はさらに少ない.医原性の筋損傷や筋圧挫による筋委縮や筋力低下は,運動選手にとってパフォーマンスに直結することもあり,椎間板に到達するまでの低侵襲性は非常に重要である.またPEDは局所麻酔で行なうことも可能であり,全身麻酔と比べ負担が少ないこともメリットの1つ

図2c MRI T2強調画像最終観察水平断 図2d MRI T2強調画像最終観察矢状断

図2a MRI T2強調画像術前水平断 図2b MRI T2強調画像術前矢状断

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といえる.ただし小児患者など手術に対し不安の強い場合は全身麻酔下がよいと考えられる.アプローチに関しては椎間板ヘルニアの高位が

L4/5より近位では経椎間孔アプローチを用いるこ

とが一般的である 7).しかし L5/S1にアプローチを行なう場合,後外側からでは腸骨翼が刺入する外筒管とする干渉するため,MED同様に椎弓間からアプローチし椎間板ヘルニアを摘出する方法が報告さ

図3a MRI T2強調画像術前水平断 図3b MRI T2強調画像術前矢状断

図3c MRI T2強調画像最終観察時水平断 図3d MRI T2強調画像最終観察矢状断

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れている 8,9).とくにDezawaらはこの方法で神経根腋窩部にmigrateしたヘルニアに対しても安全に摘出できるとしている 9).今回経験した症例では筋力低下はなかったが,SLRが陽性で患側下肢の tightnessによるパフォーマンス低下を訴えていた.また下肢痛のみならず腰痛を伴う症例も4例中3例と多かった.下肢筋 tightnessおよび腰痛のいずれも術後早期より改善しており,低侵襲なアプローチと直接的なヘルニア摘出が効果を生み出したと考えている.椎間板ヘルニアの再発に関してはMED法におけ

る報告ではあるが,内視鏡手術における椎間板ヘルニアの術後早期の再手術率は約10%とされており 10),再発の時期に関してもLOVE法に比べ早期の再発が多いとされる 11).その再発率の高い原因の1つとして,低侵襲手術では術後疼痛が少ないために早期に活動性が高くなることがあげられている 12).早期復帰を希望するアスリートに活動制限をし続けるというのは困難であり,自験4例では術後3週からの負荷トレーニングを許可し,ほかの傷害が出現しなかった3症例で術後3ヵ月以内にパフォーマンスは自覚的に100%に回復していた.また再発危険因子の1つと指摘されている 13,14),

MRIにおける椎体終板の輝度変化(Modic change) 15)

を今回の4例では認めなかったこともヘルニア再発がみられなかった一因と考える.

結 語

保存療法に抵抗する腰椎椎間板ヘルニアに罹患した運動選手でPEDを施行された4例の術後経過を調査した.全例で3週目からトレーニングを再開し,3症例では3ヵ月以内にパフォーマンスが回復し,満足な競技復帰が実現できていた.PEDは従来法およびMED法に比べ椎間関節や傍脊柱筋に対する侵襲が低く,早期復帰を望む運動選手に対する有用な治療法の1つである.

文 献

1)  Iwamoto J et al:Short─term outcome of con-servative treatment in athletes with symptom-atic  lumbar disc herniation. Am J Phys Med Rehabil, 85:667─674, 2006.

2) 岡村良久:腰椎椎間板ヘルニアの保存的治療法とその適応.日本腰痛会誌,9:102─106,2003.

図4a MRI T2強調画像術前水平断 図4b MRI T2強調画像術前矢状断

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3) 中村博亮ほか:腰椎に対する内視鏡下後方手術の実際.日本臨床スポーツ医学会誌, 18:393─395,2010.

4) 麻殖生和博ほか:【スポーツ外傷・障害診療実践マニュアル】部位別疾患 腰椎椎間板ヘルニア.MB Orthopaedics,23:81─86,2010.

5) 出沢 明ほか:スポーツの日帰り手術─経皮的内視鏡椎間板摘出術 PELD(Percutaneous En-doscopic Lumber Discectomy)─.臨スポ,23:1337─1344,2006.

6) Hijikata S:Percutaneous nucleotomy. A new concept  technique and 12 years’  experience. Clin Orthop Relat Res, 238:9─23, 1989.

7) Yeung AT et  al:Posterolateral  endoscopic excision  for  lumbar disc herniation :surgical technique, outcome, and complications  in 307 consecutive cases. Spine, 27 :722─731, 2002.

8) Choi G et al:Percutaneous endoscopic  inter-laminar discectomy  for  intracanalicular disc herniations  at L5─S1 using  a  rigid working channel endoscope. Neurosurgery, 58:59─68, 2006.

9) Dezawa A et al:New minimally invasive dis-

cectomy technique  through  the  interlaminar space using a percutaneous endoscope. Asian Journal  of  Endoscopic  Surgery  4:94─98, 2011;

10) 鳥越一郎ほか:腰椎椎間板ヘルニアに対するLove法と内視鏡下ヘルニア摘出術(MED法)の中期成績の比較検討.Journal of spine Re-search, 2:1338─1341, 2011

11) 石井 賢ほか:内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術の早期再発例の検討─従来法との比較─.日脊会誌,17:183,2006.

12) 松本守雄ほか:内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術の短・中期成績.臨整外,39:1525─1530,2004.

13) 佐久間吉雄ほか:内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術における術後再発危険因子の検討.Jour-nal of spine Research, 2:1333─1337, 2011.

14) Kim JM et al:Recurrent lumbar disc hernia-tion after  successful PELD. Minim  Invasive Neurosurg, 50:82─85, 2007.

15) Modic MT et al:Degenerative disk disease; Assessment of changes in vertebral body mar-row with MR imaging. Radiography, 166:193─199, 1988.

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第 37 回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」

内視鏡下椎間板摘出術(MED法)後の 超早期リハビリテーション・プログラム

The Very Early─Stage Rehabilitation Program After Lumbar Discectomy (MED Method)

貴志 真也1) ShinyaKishi 岩渕 和人1) KazutoIwabuchi 野村 和教2) KazunoriNomura 左海 伸夫3) NobuoSakai 吉田 宗人4) MunehitoYoshida

● Key wordsスポーツ選手,MED法,超早期リハビリテーション・プログラムSportsPlayers:MEDmethod:Theveryearly─stagerehabilitationprogram

●要旨筆者らは2000年よりスポーツ選手の腰部椎間板ヘルニアに対するMED後の早期スポーツ復帰をめざしたリハ・プログラムを紹介してきた.今回,MED後の超早期リハ・プログラムの有用性について検討した.加えて県外から受診したスポーツ選手にMEDを施行し,術後短期間で通院した後に,他施設との連携によるリハビリテーション継続プログラムを実施した症例についても紹介する.2000年1月〜2001年12月の間にMED後,従来の早期リハ・プログラムを行なったスポー

ツ選手15名(男子13名,女子2名:A群)と2006年9月からMED後,超早期リハ・プログラムを施行したスポーツ選手10名(男子7名,女性3名:B群)を対象に,B群のタイトハムストリングス(下肢伸展挙上テスト)の改善度とMED後の術後スポーツ復帰期間についてA群,B群の間で比較することで超早期リハ・プログラムの有用性を検討した.タイトハムストリングスは,術前51.0±14.3°に比べ術後翌日69.0±7.4°,術後4週81.5±5.8°と術前に比べ有意に改善した.スポーツ復帰期間は,従来のリハビリテーションが平均2.3±0.5ヵ月で,超早期リハビリテーションは,2.0±0.8ヵ月と両群で有意な差は認められなかったが術後早期にスポーツ復帰を果たせている.その要因として,手術による神経根の除圧と術後翌日から行なう積極的リハ・プログラムでタイトハムストリングスが改善されたこと,遠方の県外選手では,術前からその選手の専属トレーナーと情報交換していることで,専門スポーツに必要な身体的機能の改善に向けた具体的なリハビリテーションが実施できたことが大きいと考えられた.

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貴志真也〒640─8343 和歌山市吉田337角谷整形外科病院リハビリテーション科TEL073─433─1161E─mailshinya─[email protected]

1)医療法人スミヤ角谷整形外科病院リハビリテーション科DepartmentofRehabilitasion,SumiyaOrthopaedicHospital

2)医療法人スミヤ角谷整形外科病院整形外科DepartmentofOrthopaedicSurgery,SumiyaOrthopaedicHospital

3)医療法人スミヤ 角谷リハビリテーション病院SumiyaRehabilitasionHospital

4)和歌山県立医科大学整形外科DepartmentofOrthopaedicSurgery,WakayamaMedicalUniversity

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緒 言

われわれは,2000年よりスポーツ選手の腰部椎間板ヘルニアに対する内視鏡下椎間板摘出術(microend-scopicdiscectomy:以下MED)後の早期スポーツ復帰をめざしたリハビリテーション・プログラム(リハ・プログラム)1,2)ならびに2006年から実施している超早期リハ・プログラム3)を紹介してきた.最近では,当院でのMED手術を目的として,遠方より(とくに県外)当院を受診するスポーツ選手が増えてきている.しかしながら,そのような選手では,術後のリハビリテーションを通院で行なうことが困難であり,MEDの利点を最大限生かすためにも,リハビリの継続が可能な環境を整えてやる必要がある.

目 的

今回,MED後の超早期リハ・プログラムの有用性について検討し,若干の考察を加えて報告する.加えて県外から受診したスポーツ選手にMEDを施行し,術後短期間で通院した後に,他施設との連携によるリハビリテーション継続プログラムを実施した症例についても紹介する.

対 象

2000年1月〜2001年12月の間にMED後,従来の

早期リハ・プログラム(表1─1)を行なったスポーツ選手15名(男子13名,女子2名:以下A群)と2006年9月からMED後,超早期リハ・プログラムを施行したスポーツ選手10名(男子7名,女性3名:以下B群)を対象とした.A群の平均年齢は17.6歳(13〜21歳),B群の平均年齢は20.9歳(18〜28歳)であった.各群の競技種目は表3に示す通りであった.また B群のうち,県外から受診した者は7名(男子4名,女子3名)であった.

方 法

超早期リハ・プログラムの有用性を検討するために,今回はMED後のタイトハムストリングスの改善度を指標とした.その測定には下肢伸展挙上テスト(SLRT)を行ない,測定は術前,術後翌日,術後2週,術後4週のタイミングで行なった(反復測定分散分析:Bonferroni多重比較検定).さらに,術後スポーツ復帰期間についてA群,B群の間で比較した(対応のない t検定).有意水準は5%未満とした.

超早期リハビリテーション・プログラムについて(表1─2)

1.術前評価疼痛チェック,神経学的チェック,タイトネステスト4)による柔軟性チェック,座位,立位,歩行の姿勢を矢状面,前額面でチェックする.骨盤前傾位

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表1─1 従来の早期リハビリテーション・プログラム経過日数

手術日 3日後 10日後 2週間後 3週間後 5週間後 8週間後リハメニュー

メディカル 起立,歩行許可

腰痛体操(腹背筋力も含む),ストレッチ,マッサージリハビリテーション

メディカルプールでの水中訓練

&アスレティックマットでの腹背筋力,協調性訓練

リハビリテーションバルーンでの腹背筋力,協調性訓練

アスレティックランニング,マシーントレーニングなど

リハビリテーション

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で腰椎前弯と胸椎後弯の増強,骨盤後傾位で腰椎前弯減少などのアライメント異常があれば,術後の離床における姿勢保持の指導を行なう.また術後から競技復帰までのリハ・プログラムについて選手本人および競技指導者に紙面を用いて十分に説明しておく.

2.術後評価,リハ・プログラム術後リハビリテーションは①訓練準備期,②回復

期,③復帰期の3段階で行なっている.①訓練準備期(手術当日〜術後2週)術後5時間で離床を許可している.その後疼痛チ

ェック,神経学的チェック,座位・立位・歩行時の姿勢と安定性を評価する.骨盤前傾位で腰椎前弯と胸椎後弯が増強している場合や骨盤後傾位で腰椎前弯が減少している場合などアライメントに問題があれば姿勢改善トレーニングを開始する(図1).術後3日よりメディカルリハビリテーションを開

始する.まず,タイトネステストで柔軟性をチェックし,とくに脊椎と股関節の可動性についてチェックする.それらの評価に基づいて腰痛体操,体幹(と

くに胸背部)と下肢のストレッチを1回約30〜40分,1日に2〜3回行なう.さらに,手術部位を避けて胸椎から上位腰椎および殿部から下肢を重点的にマッサージ,脊椎モビライゼーションを1日2〜3回追加して行なう.次に術後10日からアクアエクササイズ5)

を開始する.柔軟性や姿勢の改善が遅れている症例に対しては,セラピストとの個別療法(マッサージ,脊椎モビライゼーションなど)の回数を1日2〜3回に増やす.さらに,PNFトレーニング6)や神経モビライゼーション7)などの特殊テクニックを痛みのない範囲で追加して行なう.アクアエクササイズは理学療法士の監督指導の下に StepⅠからⅣまでを段階的に行なう(表2).ステップアップについては1週間ごとにチェックし5〜10セットを容易に行なえることを目標にしている.②回復期(術後2週〜5週)術後2〜3週でタイトネステストによる柔軟性を再度チェックし,タイトハムストリングスが改善していれば脊柱機能検査Kraus─Webertest変法8)を行ない,腹筋力,腰背筋持久力をチェックする.その結果をもとに術後4週以内に,Kraus─Webertest変法

     2 2

表1─2 超早期リハビリテーションプログラム手術当日 翌日 3日後 10日後 2週間後 3週間後 4週間後 5週間後 6週間後 8週間後

メディカル リハビリテーション アスレティック リハビリテーション

訓練準備期 回復期 復帰期起立,歩行許可

姿勢改善トレーニング

腰痛体操(腹背筋力も含む) ストレッチ,マッサージ

水中訓練

コア トレーニング

アウフバウ マットトレーニング

バルーントレーニング

エルゴメーター,ランニング マシーントレーニング

SAQトレーニングダッシュ,ジャンプ

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2

     2 2

でCランク以上に達するように体幹筋力および持久力訓練やアウフバウトレーニングやバルーンでの体幹安定性強化トレーニング(図2)を開始する.疼痛が原因で柔軟性が改善されていない症例,筋力・持久力の改善が遅れている症例については,Kraus─Weber変法と体幹筋力,持久力訓練を1週間遅らせ,痛みに対する徒手療法(マッサージ,脊椎モビライゼーション,PNFストレッチ,神経モビライゼーションなど)を積極的に行なう.一方疼痛はないが,

純粋に柔軟性の改善が得られていない症例や筋力・持久力の改善が遅れている症例については,柔軟性が改善されていなくてもプログラム通りの訓練を進める.③復帰期(3週〜8週)協調性が改善していれば術後3週からスポーツ種

目特性に合わせたトレーニング(スピード,パワー,敏捷性,心肺持久力など)を開始する(図3).違和感や疼痛がなくバランスのとれたフォームが戻ってい

図1 姿勢改善トレーニング1 頚部ストレッチング

片側の手は顎にもう一方の手は後頭部に置き,顎を後上方へ,後頭部は前下方へ動かす.2 チン イン トレーニング運動(胸鎖乳突筋,斜角筋などのトレーニング)

a):術後姿勢b):胸椎を伸展するc):顎を引く

3 ウインギングエクササイズ(肩甲骨の柔軟性改善,肩甲帯筋の筋活動改善a):肘を90°曲げ,肩の高さまで上げた状態で両方の前腕の外側をくっつける.b):a)の状態から肘の高さを保ったまま手掌を外に向けながら前腕を開く.その時,できるだけ胸を張る.c):b)の状態から手を上にあげる.

4 腹横筋トレーニング・ 腰(下位腰部)の下にタオルもしくはセラピストの手を入れ,そのタオルや手を下の床に押し付けるように

お腹を凹ます.5 多裂筋トレーニング

・ 側臥位の姿勢になる.次いで上の骨盤の後上腸骨棘を指先にかけて下方へ引き下げ,多裂筋へストレッチを加えた後,軽く上方へ戻す.その時に多裂筋への収縮を促す.

6 骨盤底筋ストレッチング・ 骨盤底筋の緊張度に合わせて硬式テニスボール,野球軟式ボール,野球硬式ボールの上に肛門が乗るよう

に座わり骨盤を左右前後に揺らす.7 体幹深層筋の柔軟性と筋力改善トレーニング

・ 吸気は胸式で大きく行い,呼気は腹式呼吸で小刻みに速く行い,腹部(へそ)と肛門に意識して力を入れる.

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     2 2

れば,その時点で競技復帰を許可する.競技復帰の目標は術後8週以内である.その後,練習状況を報告させるとともに身体状況を定期的にチェックする.協調性については,痛みがなく,姿勢が崩れない範囲でトレーニングを進める.

3.県外スポーツ選手の場合県外スポーツ選手が当院でMEDを受ける場合,全例において専属のトレーナーや地元の病院の担当PTが存在している.その場合,術前にその専属トレーナーや地元の担当 PTと選手を中心に上記のリハ ・プログラムの説明と今後の計画について相談しておく.術後(MED施行3日後)は,当院から術前

表2 アクアエクササイズプログラム

StepⅠ水中歩行(前後左右の歩行)を25m×2水泳(クロールでゆっくりと一定のスピードで泳ぐ)を25m×2

5〜10セットを週3回以上行う

StepⅡ

水中大股歩行(前後)を25m×2スクワットを10〜30回スクワッテングツイストを30〜50回水泳(クロールでゆっくりと一定のスピードで泳ぐ)を25m×2

StepⅢ

水中大股歩行(前後)を25m×2スクワットを10〜30回スクワッテングツイストを30〜50回水泳(クロールでできるだけ速く泳ぐ)を25m×2

StepⅣ

StepⅢのプログラムに PNFパターンを取り入れたカウンターアクティビティ様歩行を追加し距離や回数を少しずつ増加する

図2 体幹安定性強化トレーニング1.ETポジション保持2.ETポジション保持からの一側下肢挙上3.バランスボールの上に乗って水の入ったボールを上下縦と左右横に振る4.ボールの変わりにエアロバーを使い左右に振る5.スクワット6.サイドランジ7. 足部が床に着かない不安定な座位保持から重さ2〜3kgのメディスンボ

ールのキャッチング&スロー8.サイドブリッジからの下肢挙上&上肢挙上9.バルーン上での on elbowポジションからの体幹回旋

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     2 2

評価,手術所見,術後評価,リハビリの状況を写真や動画を用いて電子メールでトレーナーや PTに提供し,その情報をもとに問題点の抽出,解決策,訓練方法などリハビリテーションの意見交換をしながら当院ならびに地元でのリハビリテーションを行なっている.また,メディカルリハビリテーション期では,アスレティックトレーナーが,アスレティックリハビリテーション期では当院の理学療法士がリハビリテーション現場に見学に行くことがある(図4).

結 果

腰部椎間板に特徴的な柔軟性低下,とくにTight-nesstest中の SLRTによるタイトハムストリングスの評価は,術前51.0±14.3°に比べ術後翌日の評価では69.0±7.4°,術後4週では81.5±5.8°と術前に比べ有意に改善した(図5).

スポーツ復帰までの期間は,従来のリハビリテーションが平均2.3±0.5ヵ月で,超早期リハビリテーションは,2.0±0.8ヵ月と両群で有意な差は認められなかった(表3).

考 察

今回の調査よりわれわれが行なっているMED後の超早期リハ・プログラムは,従来の早期リハ・プログラムに比べ早期スポーツ復帰に有意な差は認められなかった.しかし,当院で競技復帰までの超早期リハビリテーションを施行した県内選手は平均1.3±0.3ヵ月でスポーツ復帰を果たした.また,県外のスポーツ選手に対しても,復帰に3ヵ月要したサッカー選手は術後1ヵ月で状態がよくなったが,出身が海外であり,帰国した際に症状が悪化した症例である.さらに,レスリング選手は中腰の姿勢・

図3 競技復帰へのトレーニング(競技特性を考慮した SAQトレーニングとマシーン・バーベルによる筋力トレーニング)1.ロープ登り2.バーベルでのデッドリフト3.ミニハードルによるサイドステップ4.ベンチプレス5.レッグエクステンション&カール

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     2 2 9

タックル・人を持ち上げる動作など腰部に負担の加わる要素が多い競技特性により,復帰期間が3.5ヵ月と遅れた症例である.その2症例を除くと平均1.6±0.4ヵ月と術後2ヵ月以内にスポーツ復帰を果たしている.このことより,超早期リハ ・プログラムは早期スポーツ復帰に効果があったと思われる.その要因として,術後翌日から姿勢改善トレーニングを取り入れたこと,早期のタイトハムストリングス改善を目的としたトレーニングを行なったことの2点が大きく影響したものと考えられる.まず姿勢改善ト

図4 県外選手に対するリハ ・プログラム継続の連携システム

図5  SLRTの平均値によるタイトハムストリングスの変化**:p<0.01,*:p<0.05

表3 競技復帰までの期間超早期リハビリテーション

(n=10)従来の早期リハビリテーション

(n=15)県内 2ヵ月 野球 (男子)

サッカー (男子) 1.5ヵ月 2ヵ月 野球 (男子)サッカー (男子) 1.5ヵ月 2ヵ月 野球 (男子)陸上長距離(男子) 1ヵ月 2ヵ月 野球 (男子)

県外 2ヵ月 野球 (男子)サッカー (男子) 3ヵ月 2ヵ月 野球 (男子)レスリング(男子) 3.5ヵ月 2ヵ月 野球 (男子)ラグビー (男子) 2.5ヵ月 2ヵ月 野球 (男子)野球 (男子) 1.5ヵ月 2.25ヵ月 野球 (男子)ライフセーバー(女子) 1.5ヵ月 2.5ヵ月 バスケット(女子)ソフトボール(女子) 1.5ヵ月 2.5ヵ月 柔道 (男子)ソフトテニス(女子) 2ヵ月 2.5ヵ月 テニス (男子)

2ヵ月 陸上(やり投げ)(男子)3.75ヵ月 バレーボール(女子)3.25ヵ月 サッカー (男子)

平均スポーツ復帰

2.0±0.8ヵ月

2.3±0.5ヵ月 平均スポーツ復帰

ns

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     2 2 0

レーニングについて,MED後翌日の姿勢を観察すると,図6に示すような座位・立位姿勢(頭部前方位,胸背部後弯位,骨盤後傾位の姿勢)がとられており,立ち上がりや歩行時に骨盤が前方へ動揺するなど体幹の不安定性が認められていた.このことについてNeumann9)は以下のように考察している.すなわち,このような姿勢は,頭頚部の理想的な姿勢を保持するための張り綱として作用する頭半棘筋,肩甲挙筋,胸鎖乳突筋,前斜角筋の4筋の働きのバランスが悪くなることで生じており,大後頭直筋の緊張が亢進することで,頭部前方位,肩甲帯筋の筋活動低下が生じ,これが胸背部を後弯位とし,さらには脊柱起立筋と腹直筋の活動低下により骨盤が後傾位となる.したがって,このような姿勢が改善されない限り,これらの筋群は筋力低下とともに相反する筋群の筋緊張を招くと考えられる.つまり手術後3日目に行なうリハビリテーションおよびその後のリハ・プログラムを効果的に行なうためには,前述した体幹筋のインバランスなどの問題を早期に解決し,姿勢改善を行なう必要があると思わる.実際に,手術翌日から姿勢改善トレーニングを取り入れた超早期リハ・プログラムを開始した結果,目的とする姿勢改善が早期に得られ,その姿勢改善はその後のコア・トレーニングを早期かつ積極的に促進し

た.それにより,横隔膜と骨盤底筋の柔軟性および筋活動性向上に伴う脊椎分節的安定性が得られ,さらに積極的な柔軟性,筋力トレーニングを中心としたプログラムの追加を可能にし,スポーツに必要な能力(柔軟性・筋力・持久力・協調性など)の獲得に貢献したと考えられる.また,タイトハムストリングスは骨盤後傾した不良な座位姿勢の原因となり,この姿勢は腰部椎間板に悪影響を及ぼすとされている10).したがって,腰部椎間板ヘルニアのリハビリテーションを考えるうえでは柔軟性の観点で,とくにタイトハムストリングスの改善が重要となる.当院の症例では,9割のスポーツ選手は手術翌日から神経根症状の改善とともに SLRが改善している.さらに,術後の殿部・下肢後面のマッサージ,ストレッチングを積極的に行なうことで術後1〜2週には平均 SLR75°以上に改善している.SLRの改善が遅れている選手についても,担当理学療法士がマッサージ,ストレッチング,神経モビライゼーションなどの徒手療法を1日2回行なうことにより3〜4週で改善している.このことから,手術による神経の除圧,その後の積極的なリハビリテーションによりタイトハムストリングスは改善できると思われる.以上のようなリハ ・プログラムをスムーズに行な

図6 手術後翌日の姿勢

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ううえで,当院に通院可能な選手であればスポーツ復帰まで当院でリハビリを継続して行なえるが,県外(とくに遠方)のスポーツ選手では困難である.しかし,今回われわれは,術前から選手の専属トレーナーや選手の地元の PTと情報交換し,医師(Dr)・理学療法士(PT)・アスレティックトレーナー(AT)間での連携をはかることで,当院ならびに地元でのリハ ・プログラムを円滑に行なうことが可能となった.また,専属トレーナーとの情報交換は,専門スポーツに必要な身体的機能の把握と,その改善に向けた具体的かつ効果的なリハビリテーションに有用であった.われわれが行なっている超早期リハ・プログラムは,当院で直接術後リハビリテーションを行なえない県外のスポーツ選手に対しても,術後の早期スポーツ復帰には効果的であったと考えられた.

文 献

1)貴志真也ほか:スポーツ選手の椎間板ヘルニアに対する鏡視下手術後のリハビリテーション.整・災外,46:1201─1209,2003.

2)貴志真也ほか:若年スポーツ選手に対する後方進入内視鏡下椎間板切除術(MED法)後のリハビリテーション・プログラムについての検討.

整スポ会誌,23:29─34,2001.3)貴志真也ほか:腰部椎間板切除術(MED法)後の超早期リハビリテーション・プログラムの効果とその検討.日臨スポーツ医会誌,17:255─263,2009.

4)岡村良久ほか:発育期スポーツ傷害に対するメディカルチェックの必要性.臨スポーツ医,9:1017─1022,1995.

5)細田多穂:水中運動療法.理学療法ハンドブック,協同医書出版社,東京:1176─1196,1997.

6)柳澤 健,乾 公美:疾患別 PNF,スポーツ障害.PNFマニュアル,181─219,南江堂,東京:2005.

7)バトラー,伊藤直榮(訳):バトラー・神経モビライゼーション─触診と治療手技.協同医書出版社,東京:167─204,2000.

8)大槻伸吾:ダイナミック運動療法.実践スポーツクリニック,文光堂,東京:56─67,1996.

9)DonaldA.Neumann:体軸骨格:骨と関節構造.筋骨格系のキネシオロジー,医歯薬出版,東京:267─325,2006.

10)WilkeHJetal:Newinvivomeasurementsofpressures in the intervertebraldisc indailylife.Spine,24:755─762,1998.

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はじめに

わが国の国民的スポーツともいえる野球では年少時からプレーする選手が多く,少年野球も盛んに行なわれている.われわれが実施している小学生選手

を対象とした野外検診結果からみると部位別では肘関節の障害が最も多く 1),なかには小学生にしてすでに変形性肘関節症を呈する選手もいる.こうした現状を踏まえると,少年野球肘の発生要因を探り,障害発生を予防することが是非とも必要である.少年野球肘の発生要因に関しては古くから検討さ

学術プロジェクト研究助成論文

少年野球選手の肘関節痛発症に関する前向き調査 ─危険因子の検討とガイドラインの検証─

Prospective Study of Elbow Pain and Verification of Guidelinein Schoolchild Baseball Players

  松浦 哲也1)  Tetsuya Matsuura  鈴江 直人1)  Naoto Suzue  柏口 新二2)  Shinji Kashiwaguchi  岩瀬 毅信3)  Takenobu Iwase  有澤 孝吉4)  Kokichi Arisawa  安井 夏生1)  Natsuo Yasui

● Key words野球肘,予防,前向き調査

●要旨少年野球肘の発生要因を検討するとともに,ガイドラインに示されている投球数が妥当な

ものか検証した.肘関節痛の既往がない少年野球選手449名を前向きに1年間追跡し,年齢,ポジション,週間練習日数,年間試合数と投手に関しては1日と週間の全力投球数が,肘関節痛の発症にどの程度関与しているのかロジスティック回帰分析を行なった.年齢の12歳,ポジションの投手,捕手,年間試合数の「100試合より多い」の4項目が肘関節痛発症の危険因子であった.また投手では,全力投球数が1日50球,1週間200球をこえると有意に肘関節痛の発症率が高くなっており,日本臨床スポーツ医学会からの提言は妥当なものと判断された.

     3 3

松浦哲也〒770─8503 徳島市蔵本町3─18─15徳島大学医学部運動機能外科学TEL 088─633─7240E─mail [email protected]─u.ac.jp

1)徳島大学医学部運動機能外科学 Department of Orthopedics, The University of Tokushima Graduate School

2)東京厚生年金病院整形外科 Department of Orthopaedic Surgery, Tokyo Kosei─nenkin Hospital

3)国立病院機構徳島病院整形外科 Department of Orthopaedic Surgery, Tokushima National Hospital

4)徳島大学予防医学 Department of Preventive Medicine, The University of Tokushima Graduate School

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れており 2〜8),近年ではロジスティック回帰分析による報告が散見される 6〜8).Lymanらは,まず9〜12歳の298名の投手を対象に前向きに2シーズン調査を行ない,肘関節痛の発症に関与する因子として年齢,身長,体重などをあげた 6).次いで9〜14歳の476名の投手を対象に前向きに1シーズン調査を行ない,スライダー,1試合ないしは1シーズンの投球数も肘関節痛の発症に関与していると報告した 7).さらにHaradaらは投手以外も含めた9〜12歳の294選手を対象に検診を行ない,超音波検査での内側上顆や小頭の異常に関与する因子として投手,年齢11歳以上,身長150cm以上,毎日練習を報告した 8).しかしながらいずれの報告も調査開始時点での障害の有無には触れておらず,症状や障害のない選手における危険因子は何なのかが明らかではない.また少年野球肘の発生予防に対するアプローチに

は,投球フォームや下肢・体幹を含めた全身機能に対する質的アプローチ 9,10)と,投球数等に対する量的アプローチ 5)がある.このうち量的アプローチとして,1995年に日本臨床スポーツ医学会から,小学生では1日50球,週200球以内に投球数を制限すべきとの提言がなされた 11).これは徳島県での野外検診で,肘のX線像異常が投手で野手の約3倍にみられ,1日の平均全力投球数が投手では約150球,野手では約1/3の50球程度であるという結果に基づいている 5).しかしながら,これは後ろ向き調査の結果であり,以後も前向き調査が行なわれていない.そこで本研究では,肘関節痛の既往がない少年野

球選手を前向きに1年間追跡し,肘関節痛の発症要因を検討するとともに,ガイドラインに示されている投球数が妥当なものか検証した.具体的には年齢,ポジション,週間練習日数,年間試合数と投手に関しては1日と週間の全力投球数が,肘関節痛の発症にどの程度関与しているのかについてロジスティック回帰分析を行なった.

対象と方法

平成19年7月に徳島県の小学生軟式野球チームを対象として実施した検診を受診した621名のうち,肘の疼痛既往がなかった選手449名を対象とした.対象449名の年齢別内訳は7歳5名,8歳26名,9歳

68名,10歳152名,11歳198名であった.1年後の平成20年7月にアンケート調査を行ない,肘関節痛の有無,ポジション,週間練習日数,年間試合数を尋ねた.さらに投手には1日および週間の全力投球数についても質問した.次に肘関節痛の発症要因として年齢,ポジション,週間練習日数,年間試合数と投手に関しては1日および週間全力投球数を選択し,肘関節痛発症との相関性を,肘関節痛の有無を目的変数,前記6因子を説明変数として,ロジスティック回帰分析により分析した.なお,投手の全力投球数ではガイドラインに準じて1日50球,週200球を境に2項に区切った場合と全力投球数を連続数値のまま量的変数とした場合の両者について検討した.肘関節痛発症リスク因子の解析は,単変量解析に

より調整しないオッズ比(non─adjusted odds ratio),および多変量解析を行なって調整したオッズ比(ad-justed odds ratio)を算出し,各因子と肘関節痛発症との相関性を評価した.なお,ロジスティック回帰分析はStatistical Analysis System(SAS, Version 8.2)を用いて行なった.

結 果

1.全選手を対象にした検討対象449名のうち,平成20年度の調査で肘関節痛を訴えたのは137名(30.5%)であった.a)単変量解析(調整しない肘関節痛発症オッズ比)肘関節痛発症に関与する要因の単変量解析結果を

表1に示した.肘関節痛発症要因として,12歳(p<0.001),投手(p<0.0001),捕手(p<0.001),内野手(p=0.05),年間試合数が100試合より多い(p<0.01)に統計学的有意差が認められた.b)多変量解析(調整した肘関節痛発症オッズ比)肘関節痛発症に関与する要因の多変量解析結果を

表2に示した.単変量解析の結果,肘関節痛の発症に関与していると考えられた要因のうち,年齢の12歳の調整したオッズ比は1.91(95%信頼区間:1.04〜3.63,p<0.05),ポジションの投手の調整したオッズ比は4.27(95%信頼区間:2.16〜9.03,p<0.0001),捕手の調整したオッズ比は3.76(95%信頼区間:1.62〜9.06,p<0.01),年間試合数の「100試合より多い」の調整したオ

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0

ッズ比は2.62(95%信頼区間:1.30〜5.49,p<0.01)と統計学的に有意な相関性を示した.しかし,単変量解析において有意な相関性を認めた内野手については統計学的に有意な相関性は認められなかった.

2.投手のみを対象にした検討上記のように全選手を対象にした多変量解析の結

果,統計学的に有意な相関性を最も強く示したのは投手であり(p<0.0001),投手のみを対象にして説明変数に1日および週間の全力投球数を加えて検討

を行なった.投手149名のうち肘関節痛を訴えたのは66名(44.3%)であった.a)1日の全力投球数に関する解析(表3)1)50球を境に2項に区切った場合の解析50球を境に2項に区切った場合の単変量解析では,肘関節痛発症要因として50球より多い(p<0.05)に統計学的有意差が認められた.続いて年齢(連続数値),週間練習日数,年間試合数も説明変数に加えた多変量解析の結果では,年間試合数の「70試合以上」の調整したオッズ比は2.47(95%信頼区間:1.24

     3 3

表1 肘関節痛発症に関与する要因(単変量解析)要因 n(%) オッズ比 95%信頼区間 有意確率

学年 ≦10歳   99(22.0) 111歳 152(33.9) 1.83   1. 00〜3.47   0. 0612歳 198(44.1) 2.74   1. 55〜5.05   <0.001

ポジション 投手 149(33.2) 5.17   2. 68〜10.71   <0.0001捕手   51(11.4) 4.55   2. 03〜10.65   <0.001内野手 159(35.4) 2.04   1. 03〜4.30   0. 05外野手  90(20.0) 1

週間練習日数 ≦3日   85(18.9) 14〜5日 294(65.5) 1.46   0. 85〜2.60   0. 196〜7日   70(15.6) 1.92   0. 96〜3.89   0. 07

年間試合数 <50試合  64(14.2) 150〜69試合 150(33.4) 0.85   0. 43〜1.75   0. 6570〜99試合 113(25.2) 1.59   0. 80〜3.27   0. 19100試合< 122(27.2) 2.59   1. 34〜5.25   <0.01

表2 肘関節痛発症に関与する要因(多変量解析)要因 オッズ比 95%信頼区間 有意確率

学年 ≦10歳 111歳 1.29 0.68〜2.53   0. 4412歳 1.91 1.04〜3.63   0. 04

ポジション 投手 4.27 2.16〜9.03   <0.0001捕手 3.76 1.62〜9.06   <0.01内野手 1.85 0.91〜3.95   0. 10外野手 1

週間練習日数 ≦3日 14〜5日 1.33 0.74〜2.46   0. 366〜7日 1.62 0.78〜3.43   0. 20

年間試合数 <50試合 150〜69試合 0.95 0.46〜2.01   0. 8970〜99試合 1.44 0.70〜3.06   0. 33100試合< 2.62 1.30〜5.49   <0.01

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     3 3

〜5.02,p<0.05),投球数の「50球より多い」の調整したオッズ比は2.44(95%信頼区間:1.22〜4.94,p<0.05)と,統計学的に有意な相関性を示した.2)連続数値とした場合の解析連続数値とした場合の単変量解析では,投球数が

多いほど統計学的に有意に(p<0.05)肘関節痛が発症していた.続いて年齢(連続数値),週間練習日数,年間試合数も説明変数に加えた多変量解析の結果では,年間試合数の「70試合以上」の調整したオッズ比は2.38(95%信頼区間:1.20〜4.82,p<0.05),投球数の調整したオッズ比は1.01(95%信頼区間:1.00〜1.02, p<0.05)と,統計学的に有意な相関性を示した.b)週間全力投球数に関する解析(表4)1)200球を境に2項に区切った場合の解析200球を境に2項に区切った場合の単変量解析で

は,肘関節痛発症要因として200球より多い(p<0.05)に統計学的有意差が認められた.続いて年齢(連続数値),年間試合数も説明変数に加えて多変量解析

を行なった.なお週間練習日数は週間全力投球数に直接関与する因子なので説明変数から除いた.その結果,年間試合数の「70試合以上」の調整したオッズ比は2.41(95%信頼区間:1.22〜4.87,p<0.05),投球数の「200球より多い」の調整したオッズ比は2.04(95%信頼区間:1.03〜4.10,p<0.05)と,統計学的に有意な相関性を示した.2)連続数値とした場合の解析連続数値とした場合の単変量解析では,投球数が多いほど統計学的に有意に(p<0.05)肘関節痛が発症していた.続いて年齢(連続数値),年間試合数も説明変数に加えた多変量解析の結果では,年間試合数の「70試合以上」の調整したオッズ比は2.40(95%信頼区間:1.21〜4.86,p<0.05),投球数の調整したオッズ比は1.00(95%信頼区間:1.00〜1.01,p<0.05)と,統計学的に有意な相関性を示した.

表3 1日の全力投球数と肘関節痛発症との関係50球を境に2項に区切った場合(単変量解析)要因 n(%) オッズ比 95%信頼区間 有意確率≦50球 87(58.4) 150球< 62(41.6) 2.34 1.21〜4.60 0.0150球を境に2項に区切った場合(多変量解析)要因 オッズ比 95%信頼区間 有意確率年齢 0.90 0.58〜1.41 0.64週間練習日数 <5日 1

5日≦ 1.24 0.63〜2.46 0.54年間試合数 <70試合 1

70試合≦ 2.47 1.24〜5.02 0.01投球数 ≦50球 1

50球< 2.44 1.22〜4.94 0.01連続数値とした場合(単変量解析)要因 n(%) オッズ比 95%信頼区間 有意確率投球数 149(100) 1.01 1.00〜1.02 0.04連続数値とした場合(多変量解析)要因 オッズ比 95%信頼区間 有意確率年齢 0.92 0.59〜1.44 0.71週間練習日数 <5日 1

5日≦ 1.29 0.66〜2.55 0.47年間試合数 <70試合 1

70試合≦ 2.38 1.20〜4.82 0.01投球数 1.01 1.00〜1.02 0.04

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     3 3

考 察

これまでにロジスティック回帰分析を用いて少年野球肘の発生要因を評価している研究は少なくない 6〜8).しかしながら,いずれの研究も対象のなかに肘関節痛の既往を有する選手を含んでおり,肘関節痛の既往がある選手を対象から除いている点が本研究の特徴である.本研究では肘関節痛の発症に関与する因子として

年齢,ポジション,週間練習日数,年間試合数を選択し,ロジスティック回帰分析を行なった.ロジスティック回帰分析において算出されるオッズ比は,ある要因(危険因子)をもった人が,もたない人に比べて何倍リスクを被りやすいかを示す指標であり,疾病の発症に関与する要因の強さを数量で表現できる.単変量解析の結果,年齢が12歳,ポジションが投手,捕手,内野手,年間試合数が「100試合より多い」,について肘関節痛発症と有意な相関性が認められた.しかし因子間で相互に関連性があると,ほかの変数との交絡によって単変量解析の結果が見かけ上有意になったり,逆に真のリスク因子が見逃さ

れたりする.そこで変数相互の交絡の影響を調整する目的で複数の変数を同時にモデルに含める調整した解析(多変量解析)を行なった.多変量解析の結果,ポジションの内野手は調整後有意性が消失していたが,年齢の12歳,ポジションの投手,捕手,年間試合数の「100試合より多い」の4項目は95%信頼区間が1のラインをまたがず,1以上の値を示し,それらの調整したオッズ比の有意性が認められた.年齢に関しては過去の報告でも11歳あるいは12歳以上の選手に障害が多いとされている 6,8).わずか2〜3歳の違いで明らかに肘関節痛の発生頻度が異なるのは,Lymanらが述べているように11〜12歳の選手の多くは,6つの二次骨化中心がすべて出現して骨化進展しており,投球動作によってこれら二次骨化中心がストレスを被りやすいためと考えられる 6).ポジションで投手が危険因子であるとの報告は多

い 1〜5,8).ただしロジスティック回帰分析を行なっているのはHaradaらの報告のみで,投手は投手以外の選手に比べ4.5倍危険であるとしている 8).本研究では外野手を基準にした場合に投手では4.27倍の危険因子であった.さらに統計学的に有意確率の値が小さい変数ほど肘関節痛発症との関連が強い因子と

表4 週間全力投球数と肘関節痛発症との関係200球を境に2項に区切った場合(単変量解析)要因 n(%) オッズ比 95%信頼区間 有意確率≦200球 73(49.0) 1200球< 76(51.0) 2.01 1.05〜3.91 0.04200球を境に2項に区切った場合(多変量解析)要因 オッズ比 95%信頼区間 有意確率年齢 0.90 0.58〜1.41 0.63年間試合数 <70試合 1

70試合≦ 2.41 1.22〜4.87 0.01投球数 ≦200球 1

200球< 2.04 1.03〜4.10 0.04連続変数とした場合(単変量解析)要因 n(%) オッズ比 95%信頼区間 有意確率投球数 149(100) 1.00 1.00〜1.01 0.02連続変数とした場合(多変量解析)要因 オッズ比 95%信頼区間 有意確率年齢 0.91 0.58〜1.42 0.66年間試合数 <70試合 1

70試合≦ 2.40 1.21〜4.86 0.01投球数 1.00 1.00〜1.01 0.02

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3

     3 3

いえるため,本研究で用いた検討項目のうち投手は最も肘関節痛発症の関連性が強い因子であるといえる.また今回の検討では,捕手も肘関節痛発症の危険因子であり,原因として投球数が投手とほぼ同等であることが考えられた.ほかの投球環境として週間練習日数と年間試合数

について検討してみると,週間練習日数には有意な関連性はみられなかったが,年間試合数では「100試合より多い」に有意な相関性がみられた.すなわち肘関節痛の発症には練習日数よりも試合数が関与していることがわかった.小学生では週末や祝日に試合を消化しなければならずシーズンオフや雨天中止があることも考慮すると,100試合消化するには連日あるいは1日2〜3試合の日程を組まざるをえない.スケジュールそのものに無理があるうえ,少子化の影響で選手数が少なく休養がとれないことも障害発生を助長していると推測される.Haradaらは年間試合数について検討していないが,週間練習日数では7日になると危険であると報告している 8).今回の検討では週間練習日数と肘関節痛の間に関連を見出せなかったが,Haradaらの練習日数には試合日が含まれ,われわれの検討では練習日と試合日が分けられていることが両者の違いになっている可能性がある.投手のみを対象にして1日および週間の全力投球

数と肘関節痛発症との関連を検討すると,1日50球,1週間200球をこえると有意に肘関節痛の発症率が高くなっていた.したがって日本臨床スポーツ医学会から出されている小学生では1日50球,週200球以内に投球数を制限すべきとの提言 11)は妥当なものだと判断される.しかしながら投球数を連続数値として検討した結果では投球数が増えるほど肘関節痛の発症も増えており,1日50球,週200球以内なら安全というものではないことは留意すべきである.また多変量解析の結果,投手では年間試合数が70試合より多くなると危険であり,全選手を対象にした場合に比べて少ない試合数で危険となる.投手ではほかの選手より投球機会が多いことから少ない試合数で肘関節痛を発症しやすいことがわかる.

結 語

少年野球選手では肘関節痛発症の危険因子として,

12歳,投手,捕手,年間試合数の「100試合より多い」があげられる.1日および週間の全力投球数と肘関節痛発症との関連を検討すると,1日50球,1週間200球をこえると有意に肘関節痛の発症が高くなっており,日本臨床スポーツ医学会からの提言は妥当なものだと判断される.

本研究は日本整形外科スポーツ医学会平成20年度研究助成事業(学術プロジェクト)の一環として実施された.

文 献

1) 松浦哲也ほか:少年野球肘検診─障害の早期発見・早期治療と予防をめざして─.関節外科,27:1089─1095,2008.

2) 前田利治ほか:中学野球選手の肘関節障害について.日整会誌,36:645─647,1962.

3) Adams JE:Bone  injuries  in very young ath-letes. Clin Orthop, 58:129─140, 1968.

4) 高槻先歩:中学野球部員における肘関節障害について.臨床整形外科,11:649─658,1976.

5) 岩瀬毅信ほか:少年野球肘の実態と内側骨軟骨障害.土屋弘吉ほか編,整形外科Mook,金原出版,東京:61─82,1983.

6) Lyman S et al:Longitudinal  study of elbow and shoulder pain  in youth baseball pitchers. Med Sci Sports Exerc, 33:1803─1810, 2001.

7) Lyman S  et  al:Effect  of  pitch  type,  pitch count, and pitching mechanics on risk of elbow and shoulder pain  in youth baseball pitchers. Am J Sports Med, 30:463─468, 2002.

8) Harada M et al:Risk  factors  for elbow  inju-ries among young baseball players. J Shoulder Elbow Surg, 19:502─507, 2010.

9) 岩堀裕介:投球肩・肘障害に対するメディカルチェックとフィードバック効果.骨・関節・靱帯,19:229─240,2006.

10) 大槻伸吾ほか:投球障害予防のためのシステム.中部整災誌,38:1713─1714,1995.

11) 日本臨床スポーツ医学会整形外科学術部会編:野球障害予防ガイドライン.文光堂,東京:1998.

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     4

はじめに

肘関節の離断性骨軟骨炎(以下肘OCD)は,野球などの投球動作時に上腕骨小頭へ圧迫剪断ストレスが繰り返し加わることにより発症し,病期によりさまざまな治療法が報告されている.初期病変では投球中止などの保存療法により治癒することが多いが,進行すると病巣部の分離,脱落が進行するため手術療法が選択されることが多い.進行期・末期の病変

では病巣部の癒合が期待できず,放置すると関節面の不適合を生じ関節症変化が進行するため,関節面の再建が必要とされている 1).近年,骨軟骨柱移植術が肘関節にも応用され良好な治療成績が報告されている.今回,われわれは,スポーツによる肘OCDに対する骨軟骨柱移植術の治療成績および骨軟骨柱採取膝への影響について検討したので報告する.

福田亜紀〒513─8505 鈴鹿市国府町112番地鈴鹿回生病院整形外科TEL 059─375─1212/FAX 059─375─1717E─mail [email protected]─u.ac.jp

1)鈴鹿回生病院整形外科 Department of Orthopaedic Surgery, Suzuka Kaisei Hospital

2) 三重大学大学院医学系研究科スポーツ整形外科学講座 Departments of Orthopedics and Sports Medicine, Mie University Graduate School of Medicine

スポーツによる肘離断性骨軟骨炎に対する 骨軟骨柱移植術

Osteochondral Autograft Transplantation forOsteochondritis Dissecans of the Elbow in Athletes

  福田 亜紀1)  Aki Fukuda  西村 明展2)  Akinobu Nishimura  加藤  公2)  Ko Kato  藤澤 幸三1)  Kohzo Fujisawa

● Key wordsElbow:Osteochondritis dissecans:Osteochondral autograft transplantation

●要旨スポーツによる肘離断性骨軟骨炎に対する骨軟骨柱移植術の治療成績を検討した.対象は,13肘(右10肘,左3肘)で全例男性,平均年齢14.4歳(14〜17歳),術後経過観察期間平均34.1ヵ月(24〜56ヵ月)であった.術前後の肘関節可動域は,屈曲が121.9°から133.4°,伸展は−16.3°から2.6°に改善し,JOA scoreは術前79.7点が術後94.9点に改善した.骨軟骨柱採取膝の疼痛は術後6ヵ月以内に消失し,Lysholmスコアーも術後6ヵ月で正常化し,採取部障害は認められなかった.スポーツによる肘離断性骨軟骨炎における関節軟骨の再建には,本術式が有用であると考えられた.

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対象および方法

対象は,2005年11月より2008年8月までにスポーツによる肘OCDに対して骨軟骨柱移植術を施行し,術後2年以上経過した13例13肘である.全例男性であり,手術時平均年齢は14.4歳(12〜17歳),患側は右10肘,左3肘,スポーツ種目は野球が12肘,陸上(やり投げ)1肘であった.術後経過観察期間は平均34.1ヵ月(24〜56ヵ月)であった.病巣部の長径は平均14.4±3.1mm(10〜19mm)であった.手術適応は,岩瀬の病期分類 2)の分離後期以降の

症例で,病巣部の直径が約10mm以上であり遊離骨軟骨片の不安定性が強い症例とした.手術は,全身麻酔下仰臥位,肘関節外側アプローチにて施行した.病巣部を新鮮化した後,対側(投球動作などにおける非軸足側)の膝関節外顆非荷重部より径6〜8mm,長さ15mmの骨軟骨柱を採取した.上腕骨小頭部の骨軟骨欠損部へ1〜3本(平均2.2本)の骨軟骨柱を病変部に移植した(図1).術後3週間外固定後,可動域訓練を開始し,術後6ヵ月にてスポーツ復帰を許可した.検討項目は,単純X線による岩瀬の病期分類 2),戸祭の部位分類 3),移植骨軟骨柱の癒合の有無,術前後の肘関節可動域,臨床評価として日整会肘関節疾患治療成績判定基準(以下 JOA score)および骨軟

骨柱採取膝の疼痛の有無および膝関節機能(Lysholm score)について評価した.統計学的検討にはMann─Whitney検定を用い,有意水準5%以下を有意とした.

結 果

術前単純X線による病期分類では,分離後期が3例,遊離体期が10例であり,部位分類では病巣部が中央に限定されている中央型が10例,病巣部が外側辺縁部にまで達し,上腕骨小頭外側骨皮質の欠損および破壊を伴う外側型が3例であった.術後,移植骨軟骨柱は全例で母床と癒合し,偽関節例は認められなかった.肘関節可動域は,屈曲が術前平均121.9±17.1から術後平均133.4±7.5°,伸展は術前平均−16.3±13.7から術後平均2.6±4°に有意に改善が認められた.JOA scoreは術前平均79.7点が術後平均94.9点に有意に改善した.中央型の JOA scoreは術前77.3点が術後96.2点,外側型では術前81.7点が術後91点に改善し,部位による術後成績の差は認められなかった.全例スポーツ復帰が可能であったがポジションやスポーツ種目などを変更した症例が4例に認められた.術後,採取部膝の疼痛を認めた症例は13例中6例

であり,平均年齢は14.5歳(12〜17歳),骨軟骨柱移植本数は1〜3本(平均2本)であった.採取部膝の疼痛は術後徐々に軽減し,術後6ヵ月以降に疼痛を認

     4

図1 手術所見上腕骨小頭部の骨軟骨欠損(a)および自家骨軟骨柱移植術(b)

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めた症例はなかった.術後3,6,12,24ヵ月でのLysholmスコアー はそれぞれ99.2±4.9,100,100,100であり,術後6ヵ月で膝関節機能は正常化していた. 

考 察

肘OCDは病期によりさまざまな治療法が報告されており,初期病変では,投球中止などの保存療法により治癒することが多い.しかしながら,進行期・末期の病変では,病巣部の分離脱落が進行するため手術療法が選択される.手術方法としては病巣部の状態に応じて,病巣掻爬術,骨軟骨片固定術,自家骨軟骨柱や肋軟骨移植による関節面の再建術などが選択される.病巣部の小さい症例では侵襲の少ない病巣掻爬術に加えてドリリングなどにより良好な治療成績が報告されているが,10mmを超える大きな病巣では,長期的に変形が進行するため関節面の再建が必要であると考えられている 1).関節軟骨は再生能力に乏しく,その障害は関節機

能に大きな影響を及ぼすことから,可能な限り硝子軟骨による修復を図ることが望ましい.近年,関節軟骨の再建方法として,非荷重部より採取した骨軟骨柱を骨軟骨欠損部へ移植する自家骨軟骨柱移植術が開発され,膝関節のみならず肘関節,足関節などにも応用されている.自家骨軟骨柱移植術は,硝子軟骨による再建が可能であり,移植骨軟骨片の安定性もよく,良好な癒合,生存が得られるなどの利点がある.近年,骨軟骨柱移植術が肘離断性骨軟骨炎にも応用され良好な治療成績が報告されている 4〜7).自験例においても,術後良好な機能回復を認め,スポーツ復帰が可能であった.スポーツによる進行期の肘離断性骨軟骨炎における関節軟骨の再建には,本術式が有用であると考えられた.しかしながら本術式には採取部の犠牲,障害など

の欠点もある.採取部は組織学的にも線維軟骨でしか修復されず 8),修復線維軟骨の過形成による障害をきたした症例も報告されている 9).また,術後の疼痛,血腫,感染,膝関節機能低下などの報告例もあり,採取部の障害に対する注意が必要である 10〜12).われわれは,採取部の障害をできるだけ少なくするために,投球動作時の非軸足側である反対側の膝か

ら骨軟骨柱を採取している.その結果,自験例では採取部膝の疼痛や膝関節機能障害をきたした症例は認められなかった.短期的には骨軟骨柱採取による障害は認められなかったが,今後,採取部膝への長期的な影響などを検討する必要があると考えられた.

結 語

スポーツによる肘OCDに対する骨軟骨柱移植術の治療成績および骨軟骨柱採取膝への影響について検討した.スポーツによる肘OCDに対する骨軟骨柱移植術は,術後成績も良好であり,採取部の障害も認められなかった.スポーツ選手の進行期・末期肘OCDにおける関節軟骨の再建には,本術式が有用であると考えられた.

文 献

1) Takahara M et al:Long term outcome of os-teochondritis dissecans of the humeral capitel-lum. Clin Orthop Relat Res,  363:108─115, 1999.

2) 岩瀬毅信ほか:上腕骨小頭骨軟骨障害.整形外科Mook. 54,金原出版,東京;26─44,1988. 

3) 戸祭正喜ほか:上腕骨小頭離断性骨軟骨炎症例に対する骨釘移植術.日肘会誌,13:63─64, 2006.

4)  Iwasaki N et  al:Autologous  osteochondral mosaicplasty for capitellar osteochondritis dis-secans in teenaged patients. Am J Sports Med, 34:1233─1239, 2006.

5) Ovesen J et al:The clinical outcomes of mo-saicplasty  in the treatment of osteochondritis dissecans of  the distal humeral capitellum of young athletes.  J Shoulder Elbow Surg,  20:813─818, 2011.

6)  Shimada K et al:Reconstruction with an os-teochondral autograft for advanced osteochon-dritis  dissecans  of  the  elbow. Clin Orthop Relat Res, 435:140─147, 2005.

7) Tsuda E et al:Osteochondral autograft trans-plantation for osteochondritis dissecans of the 

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capitellum in nonthrowing athletes. Arthrosco-py, 21:1270, 2005.

8)  Iwasaki N et al:Donor site evaluation after autologous osteochondral mosaicplasty for car-tilaginous  lesions  of  the  elbow  joint. Am  J Sports Med, 35:2096─2100, 2007.

9) LaPrade RF et al:Donor─site morbidity after osteochondral autograft  transfer procedures. Arthroscopy, 20:69─73, 2004.

10) Hangody L et al:Autologous osteochondral mosaicplasty. Surgical technique. J Bone Joint 

Surg Am, 86:65─72, 2004.11) Paul J et al:Donor─site morbidity after osteo-chondral autologous transplantation for lesions of the talus. J Bone Joint Surg Am, 91:1683─1688, 2009.

12) Reddy S et al:The morbidity associated with osteochondral  harvest  from  asymptomatic knees  for  the  treatment of osteochondral  le-sions of  the talus. Am J Sports Med, 35:80─85, 2007.

     5

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はじめに

外側円板状半月板(LDM)の発生率は成書によると3〜5%とされ比較的よく遭遇する病態であるが,内側円板状半月板(MDM)はまれな疾患であり,その報告は少ない.今回,われわれは MDM損傷の3例4膝に対して鏡視下半月板亜全切除(亜全摘)を施行し良好な経過を得たので,若干の文献的考察を加えて報告する.

症例と方法

1998年〜2011年の13年間に当科および関連施設で経験した3例4膝を対象とした.性別は男性4膝で,右膝2膝,左膝2膝であった.

手術時年齢は平均30歳(13〜49),術後経過観察期間は平均4.5年(11ヵ月〜12年5ヵ月)であった.これらの症例に対し亜全摘を行ない,手術前後の日整会半月板治療成績判定基準(JOAスコア)や自覚症状,Xp所見,MDMの形態などについて検討した.手術方法は2ポータルを用い,不安定性のない辺縁部の

貴島 健 〒142─8666 東京都品川区旗の台1─5─8昭和大学医学部整形外科教室TEL 03─3784─8000

1)昭和大学医学部整形外科 Department of Orthopedic Surgery, Showa University School of Medicine

2)雨宮病院整形外科 Department of Orthopedic Surgery, Amemiya Hospital

3)貴島整形外科 Kijima Orthopedic Clinic

4)佐々木病院整形外科 Department of Orthopedic Surgery, Sasaki Hospital

内側円板状半月板損傷の小経験Medial Discoid Meniscus:4 Cases Report

貴島  健 1)  Takeshi Kijima 富田 一誠 1)  Kazunari Tomita 稲垣 克記 1)  Katsunori Inagaki 雨宮 雷太 2)  Raita Amemiya 貴島  稔 3)  Minoru Kijima 堀之内達郎 4)  Tatsurou Horinouchi

● Key words内側円板状半月板,鏡視下半月板亜全切除

●要旨内側円板状半月板(MDM)はまれな疾患であり,今回われわれは両側発症例を含めて3例

4膝を経験したので報告する.いずれの症例に対しても鏡視下半月板亜全切除(亜全摘)を行ない,スポーツ復帰や JOAスコア改善といった良好な臨床経過を得られた.MDMに対して亜全摘は有効な治療法と考えられるが,変形性関節症の発生に注意した長期的な経過観察が必要である.

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みを残して切除する鏡視下半月板亜全切除を行なった.手術翌日より疼痛自制内での歩行訓練,可動域

(ROM)訓練を開始した.

症 例

症例1:49歳 男性主訴:左膝荷重時痛現病歴:以前より主訴を自覚していたが放置して

いた.徐々に症状が増悪してきたため当科を受診した.初診時所見:ROMは屈曲145°/伸展0°で健側との

差はなかった.関節水症を認めた.大腿周径は右41cm,左40.5cmと0.5cmの差を認めた.関節裂隙の圧痛は認めなかったが McMurrayテストでは内側痛を認めた.JOAスコアは70点であった.

手術所見:内側半月板は顆間隆起まで達する完全型 MDMであり中節に横断裂を認めた(図1).残存部の異常可動性を残さないように亜全摘した.

経過:術後12年5ヵ月での最終診察時には自覚症状はなかった.立位単純 X線では内側関節裂隙の狭小化を認め Kellgren─Lawrence分類 GradeⅢの変形性関節症(以下,OA)であったが,ROM制限や大腿四頭筋萎縮は認めず JOAスコアも95点に改善した

(図2).

症例2:13歳 男性主訴:右膝荷重時痛,キャッチング現病歴:明らかな原因なく以前から主訴を自覚し

ていたが,野球の試合中に方向転換した際に症状が増強し,その2日後に当科を受診した.

初診時所見:ROMは屈曲140°/伸展0°であり,健側屈曲145°/伸展0°と比べて5°の屈曲制限を認めた.関節水症は認めなかった.大腿周径は右41cm,左42cmと1cmの差を認めた.関節裂隙圧痛はなかったが McMurrayテストで内側痛を認めた.JOAスコアは65点であった.立位単純 X線では内側関節裂隙の開大,大腿骨内顆の低形成,脛骨 cuppingを認めた(図3).

手術所見:内側半月板は脛骨関節面の半分ほどをおおっており完全型 MDMであった.中節から後節にかけての大腿骨側に若干の表面不整があり prob-ingにて不安定性が認められ,水平断裂と考えられた(図4).異常可動性を残さないよう亜全摘を行なった(図5).

経過:術後1年6ヵ月の最終診察時には自覚症状は消失し ROM制限や大腿四頭筋萎縮はみられなかった.JOAスコアも100点に改善しており野球への復帰もはたした.

    

図1 症例1:手術図完全型 MDMであり,中節に横断裂を認めた.図中破線のように亜全摘を行なった.

図2  症例1:術後12年5ヵ月の立位単純 X線写真内側関節裂隙の狭小化を認めた(矢印).

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0

症例3─左:28歳 男性主訴:左膝荷重時痛,キャッチング現病歴:原因不明で主訴が出現し,1ヵ月後に当

科を受診した.初診時所見:ROMは屈曲150°/伸展0°,関節水症

は認めなかった.大腿周径は40cmで左右差はなかった.内側関節裂隙に圧痛があり McMurrayテストでは内側クリックのみを認めた.JOAスコアは50点であった.MRIでは MDMの水平断裂を認めた

(図6).手術所見:内側半月板は脛骨関節面のほぼ全体を

おおう完全型 MDMであり中節から後節にかけての辺縁部に縦断裂を認めた(図7).残存部に異常可動性を残さないよう亜全摘を行なった(図8).

経過:術後3年の最終診察時,階段昇降時に若干の疼痛を自覚し McMurrayテストでは内側クリックを認めたが,ROM制限や大腿四頭筋萎縮,関節水症はなく,JOAスコアも90点に改善していた.

症例3─右:29歳 男性主訴:右膝荷重時痛,キャッチング現病歴:左膝手術の2年4ヵ月後,明らかな原因

がなく主訴が出現し,その1ヵ月後に当科を受診した.

初診時所見:ROMは屈曲150°/伸展0°,関節水症

     4

図3 症例2:術前の立位単純 X線写真内側関節裂隙の開大,大腿骨内顆の低形成,脛骨 cuppingを認めた(矢印).

図4 症例2:手術所見顆間隆起まで達する完全型 MDMであり(①),中節に水平断裂を認めた(②).前節の観察(③).

図5 症例2:手術所見破線のごとく亜全摘を行なった.切除後の後節

(④),中節(⑤),前節の観察(⑥).

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1

は認めなかった.大腿周径は右39cm,左40cmと1cm差を認めた.関節裂隙圧痛はなかったが Mc-Murrayテストで内側痛と内側クリックを認めた.

JOAスコアは40点であった.MRIでは MDMの水平断裂を認めた(図9).

手術所見:内側半月板は脛骨関節面のほぼ全域を

    

図7 症例3:手術所見顆間隆起まで達する完全型 MDMであり(①,②),中節に縦断裂を認めた(③).

図8 症例3:手術所見破線のごとく亜全摘を行なった.後節(④),中節(⑤),前節(⑥)の観察.

図9  症例4:術前 MRI T2強調画像前額断MDMの水平断裂を認めた(矢印).

図6  症例3:術前 MRI T2強調画像前額断MDMの水平断裂を認めた(矢印).

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おおう完全型 MDMであり中節に水平断裂を認めた.亜全摘を行なった(図10).

経過:術後4ヵ月の最終診察時,階段昇降時に軽度の疼痛がありMcMurrayテストで内側痛を認め,大腿周径は右39cm,左40cmと術前と同様であった.JOAスコアは75点に改善した.

結 果

1998年から2011年の13年間でわれわれが経験したMDMの発症頻度は,半月板手術総数3,525膝中4膝で0.11%であり,1例は両側発症例であった.臨床症状は4膝で荷重時痛,3膝でキャッチングを認めた.ロッキングを訴える症例はなかった.レントゲン所見は1例で内側関節裂隙の開大を,1例で脛骨cuppingを認めた.関節鏡視での MDMの形態は4膝で完全型であった(表1).

JOAスコアは手術前後で平均56.3点から90点に改善した(図11).

考 察

内側円板状半月板は1941年に Caveら 1)が報告して以来,これまでの発生頻度は0.068 2)〜0.3% 3)とまれな疾患とされている(表2) 2〜9).さらに今回われわれは両膝発症例を1例経験したが,調べ得た範囲での両側発症例の報告は国内外合わせて49例と少ない

(表3) 3,10〜17).臨床的特徴として発症年齢は平均28歳と比較的若年であるとされている 18).症状としては引っかかり感やロッキング,関節水症を呈する症例の報告が多い 3).Xp所見としては内側関節裂隙の拡大,大腿骨・脛骨内顆の低形成,脛骨 cuppingなど 1,5,11,12,18〜20)が指摘されている.

円板状半月板の特性として膠原繊維の配列異常のために内部に歪みが生じやすく 20),形態的に大腿骨顆部に適合しておらず膝関節運動時に歪みやすい 9).これらの性質によって円板状半月板は損傷されやすいと考えられる.

さらに内側半月板は冠状靱帯や内側側副靱帯深層,前・後角部での脛骨との結合など周囲組織との結合が外側半月板よりも強固であり可動性が少なく,膝関節運動の回旋軸は膝関節内側にあるため内側半月板は損傷されやすいとされている 21).また,日本人に多い内反変形膝では膝関節外側よりも内側への負荷が大きくなることも内側半月板の易損傷性の原因と考えられる.

これらのことから MDMには易損性があり外傷などの明らかな誘因がなくとも発症するものと考えられる.

    

図10 症例4:手術所見顆間隆起まで達する完全型 MDMであり(①),中節に水平断裂を認めた(②).

表1  自験例における発症頻度,臨床症状,Xp所見,形態,術式

頻度 4/3,525膝(0.11%)

臨床症状荷重時痛 4膝キャッチング 3膝ロッキング 0膝

Xp所見内側関節裂隙の開大 1膝脛骨 cupping 1膝

形態完全型 4膝不完全型 0膝

術式 鏡視下亜全摘出術 4膝

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診断には MRIが有用とされている.矢状断像で内側半月板前角〜後角の連続性が5mmスライス画像で3スライス以上にわたって確認される場合に MDMが示唆される.さらに冠状断像において全スライスで顆間部まで達する場合には完全型 MDMと診断される 22).

自験例においても全症例において明らかな原因なく発症しており,1例を除き若年発症であった.発症頻度や臨床症状,Xp所見もこれまでの報告と同様であり,2症例では MRIが診断に有用であった.これらの臨床像,Xp所見を認める際には MDM損傷を念頭において MRIでの精査を行なっていくこと

が重要であると思われた.切除術式に関しては症例数が少ないために見解は

一致していない.形成的部分切除術の報告がみられるが,術後に症状が残存した症例報告もあり 11,17,23),成績は一定していない.一方,亜全摘によって良好な成績を得たという報告もあり 3,6,24〜27)自験例でも亜全摘によって経過良好となっている.

しかしながら長期的な経過観察のなかで OA発症に注意する必要がある.亜全摘,形成的部分切除を含めて半月板切除後に OA進行を認めた報告がある 3,11,14,28,29).加齢による自然経過の可能性もあるが,自験の1症例にも術後 OA変化を認めているの

図11 症例ごとの手術前後での JOAスコアの変化

表2 内側 MDMの発症頻度報告年 報告者 症例数(膝/膝) 頻度(%)2011 松田,王寺 6/2,220 * 0.3  1998 藤井ら 1/539 * 0.18 1994 双木ら 2/389 * 0.51 1989 三浦ら 3/2,600   0.12 1986 藤沢ら 4/561 * 0.71 1982 Dickason et al. 10/14,731 * 0.0681969 Nathan et al. 3/1,219 * 0.25 1948 Smillie et al. 7/10,000 * 0.07 

*半月板手術総数

表3 両側 MDMの報告例報告年 報告者 症例数2011 Cho. J 1例2011 Ahn et al. 1例2011 Nam 1例2011 松田 王寺 5例2010 岡本ら 1例2010 Kim& Lubis 1例2010 金澤ら 2例2010 石松ら 1例2009 渥美ら 1例

2007年までの報告で35例

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     8

で長期的な経過観察が必要である.

文 献

1) Cave EF et al:Congenital discoid meniscus a cause of internal derangement of the knee. Am J Surg, 54:371─376, 1941.

2) Dickason JM et al:A series of ten discoid medial menisci. Clin Orthop Relat Res, 168:75─79, 1982.

3) 松田秀策ほか:膝関節内側円板状メニスクス損傷例の検討.整形外科,62:19─23,2011.

4) 藤井紘三ほか:内側円板状半月板断裂の1例.臨床今治,11:8─10,1998.

5) 双木 慎ほか:内側円板状メニスクスの2例.東北整災紀要,38:89─91,1994.

6) 三浦 敦ほか:内側円板状メニスクスの2症例の経験.関節鏡,14:135─140,1989.

7) 藤沢義之:鏡視下円板状半月板形成的切除術.整形外科,27:992─1000,1986.

8) Nathan PA et al:Discoid meniscus A clinical and pathologic study. Clin Orthop, 64:107─113, 1969.

9) Smillie IS:The congenital discoid meniscus. JBJS, 30B:671─682, 1948.

10) Cho J et al:Bilateral complete discoid medial meniscus a case report. J Knee Surg, 1:67─70, 2011.

11) Ahn JH et al:Anomalies of the discoid medial meniscus. Orthopedics, 34:139, 2011.

12) Nam TS:Bilateral discoid medial menisci two different types in one patient and bony chang-es on the medial tibial plateau. J Korean Ortho Assoc, 46:172─176, 2011.

13) 岡本正則ほか:人工膝関節置換術施行時に確認された両膝内側円板状半月の1例.信州医学雑誌,58:132, 2010.

14) Kim SJ et al:Medial and lateral discoid me-nisci a case report. Sports medicine Arthrosco-

py Rehabilitation Therapy&Technology, 2:21, 2010.

15) 金澤知之進ほか:内側円板状半月損傷を呈した3例.JOSKAS,35:301,2010.

16) 石松哲郎ほか:内側円板状メニスクスの治療経験.JOSKAS,35:302, 2010.

17) 渥美 覚ほか:両膝関節に発生した内側円板状半月板損傷の1例.整形外科,60:347─349,2009.

18) Marchetti ME et al:Bilateral discoid medial menisci of the knee. Am J Orthop, 36:317─321, 2007.

19) 平井直文ほか:両膝内側円板状半月の1例.整形外科,58:681─684, 2007.

20) Cui JH et al:Collagenous fibril texture of the discoid lateral meniscus. Arthroscopy, 23:635─641, 2007.

21) 坂巻豊教ほか:内側円板状半月損傷について.整形外科,25:1179─1183,1974.

22) Silverman JM:Discoid menisci of the knee; MR imaging appearance. Radiology, 173:351─354, 1989.

23) Lee BI:Bilateral symptomatic discoid medial meniscus:report of three cases. Knee Surg Sports Traumatol Arthrsc, 15:739─743, 2007.

24) 本田剛久ほか:内側円板状半月の1例.東北整形災害外科紀要,45:283,2001.

25) 清水邦明ほか:内側円板状半月損傷の1例.スポーツ障害,2:17─18,1997.

26) 山口拓嗣ほか:両膝内側円板状半月の一例.関西関節鏡・膝研究会誌,4:28─30,1993.

27) 金谷整亮ほか:内側円板状半月の1症例.関西関節鏡・膝研究会誌,1:22─24,1990.

28) 千葉大輔ほか:形成的部分切除を行った内側円板状半月の1例.東北膝関節研究会会誌,20:53─56,2010.

29) 恩田 啓ほか:両膝内側円板状半月板の2症例.東北整災紀要,43:70─73,1999.

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はじめに

野球選手の肩・肘の障害は,成長期の野球選手において多く発生する 1,2).Lymanら 1)は9〜12歳の投手の肩・肘の障害調査を行なった結果,肘の痛みの危険因子として,高学年,低い身長,重い体重,試合中の75球以上の球数,ゲーム中の腕の疲労感,チ

ーム練習以外での投球などをあげた.またFleisigら 3)

は9〜14歳の野球選手に対し,10年間における前向き調査を行ない,投球回数が年間100イニング以上にのぼる野球選手の重篤な肩・肘の障害の発生率は,それ以下の選手の3.5倍になると報告している.野球肘の発生には,これらの成長期の問題や投球数の問題以外に,投球動作の不良も野球肘の病因として考えられている 4〜7).しかしながら,問題となるフ

坂田 淳〒222─0036 横浜市港北区小机町3302─5日産スタジアム内横浜市スポーツ医科学センターTEL 045─477─5065

横浜市スポーツ医科学センター Yokohama Sports Medical Center

内側型野球肘患者の疼痛出現相における 投球フォームの違いと理学所見について

The Pitching Form and Physical Examination of Different PainfulThrowing Phases in Patient with Medial Type Baseball Elbow

  坂田  淳  Jun Sakata  鈴川 仁人  Makoto Suzukawa  赤池  敦  Atsushi Akaike  清水 邦明  Kuniaki Shimizu  青木 治人  Haruhito Aoki

● Key words野球肘,投球,機能

●要旨内側型野球肘患者の疼痛が出現する相における投球フォームの特徴の違いと関連する理学所見について検討したので報告する.内側型野球肘患者110例(平均11.8歳)を対象とした.投球時の疼痛出現相を聴取し,全身の理学検査と高速度カメラを用いた投球フォームの評価を行ない,疼痛出現相による特徴の違いを検討した.Arm Cocking相で疼痛を有す選手においては “肘下がり ”,Arm Acceleration相〜Arm Deceleration相で疼痛を有す選手においては肩甲平面からの逸脱と骨盤回旋の早期終了が,各相で疼痛を引き起こすフォームの特徴としてあげられた.内側型野球肘患者のフォームの問題は,疼痛を訴える相により特徴が分かれ,全身の理学所見や運動連鎖に起因する可能性が示唆された.

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ォームに関する報告はさまざまで,バイオメカニカルな研究結果によるものから,考察レベルに留まるもの,データに基づかないものまであり,一定のコンセンサスが得られていないのが実状である.一方,Fleisigら 8)によると投球時,肘外反トルクは二峰性であり,Arm Cocking相における肩最大外旋の直前と,Arm Acceleration相からArm Deceleration相におけるリリース直後に肘外反トルクが増大すると報告している.われわれは,従来より症例によって疼痛を訴える相が異なること,また疼痛を訴える相により,フォームの特徴が異なることを多く経験している.本研究の目的は,内側型野球肘患者の疼痛が出現する相における投球フォームの特徴の違いとそのフォームが起こる運動連鎖や関連する理学所見について検討することである.

対象と方法

2009年4月から2010年12月までに当センターを受診した内側型野球肘患者189例中,全身の理学検査と高速度カメラでの投球フォーム撮影を行ない,完全復帰までフォロー可能であった110例(9〜15歳,平均11.8歳)を対象とした.初診時の問診(図1)により投球時にどの瞬間に肘に痛みがあったかを聴取した.また投球再開時に高速度カメラで撮像した本人の映像を見せ,受診前に疼痛を感じていた場面で止めてもらうことで,再度疼痛が出現していた相を確認した.得られた痛みの出る投球相により,Arm Cocking相で痛い症例とArm Accelerationから Arm Deceleration相にかけて痛い症例に分類した.理学検査は肘・肩・股・体幹の可動域とアライメント,肩甲骨内転筋力,下肢バランス能力を評価した(表1).以下にその詳細を述べる.肩後方タイトネスの評価はTylerら 9)の測定方法を用いた.浅指屈筋筋力は,握力計に第4指のみをかけ,PIP関節を屈曲し数値を計測,健側の値から患側の値を引いた値を浅指屈筋筋力低下として算出した 10).肩甲骨内転筋力は,Micro FETを用い,評価した.ベッド上腹臥位となり,頭頂部に手を添え,片側肩甲骨内転位を保持させる.上腕骨外側上顆に抵抗を加え,肩甲骨のwingingが起きるまで力を加えた.また下肢バランス能力は,Pliskyら 11)の Star Excur-sion Balance Test(SEBT)を行なった.また,肘外反ストレステストとMoving Valgus Stress Test 12)時の疼痛(肘外反時痛)消失後に,高速度カメラ(Sony

     6

図1 投球時の疼痛出現相の評価に用いた図質問:投げる時はいつ痛いですか?(痛い場面に◯,一番痛い場面に◎,複数回答可)

表1 理学検査項目肘運動時痛肘屈曲・伸展・他動外反

不安定性肘外反ストレステスト・moving valgus stress test(MVST)

可動域・柔軟性肘屈曲・伸展・前腕回内外・手関節掌背屈・肩2nd内外旋・肩後方タイトネステスト・体幹回旋・股関節屈曲・伸展・内外旋(屈曲位)

上肢筋力握力・浅指屈筋筋力・肩甲骨内転筋力

下肢バランス能力star excursion balance test(SEBT)

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製,200fbs)を用い,投球フォームをチェックした.まずタオルを用いたシャドーピッチングを行ない,疼痛がないことを確認し,実際のボールをネットに向かって投球し,2方向より計4回撮像した. 撮像した動画をもとに表2に示した項目について,おのおのその現象が「ある」か「ない」かの二段階で評価した.フォームの評価は,評価するポイントを上肢,体幹,骨盤・下肢に分け,投球相ごとに行なった.stride相では,上肢は投球側肩早期外旋,非投球側はグローブの高さや,踏込み足接地前の早期の運動開始について,体幹は,伸展や,体幹の早期回旋(“身体の開き ”)の有無,骨盤・下肢は,骨盤の後傾とインステップ・アウトステップの有無について評価した.Arm Cocking相では,上肢はHyper Angulationや肘下がりの有無,体幹は非投球側への過剰な側屈や骨盤に対する体幹の非投球側への偏位(“上体の突っ込み ”)の有無,骨盤・下肢は骨盤の早期の前方移動について評価した.Arm Acceleration

からFollow─through相では,肩甲平面からの逸脱,骨盤回旋の早期終了,骨盤の投球側への偏位,踏込み足の外傾や屈曲減少の有無を評価した.この研究に先立ち,表2の評価項目の検者間信頼性について,Kappa係数を用い検討した.検者は2名,健常野球選手33例を対象とし,表2の評価項目をそれぞれ評価した.得られたKappa係数は表3に示す.検討項目は,①疼痛が出現する相に影響するフォームの特徴について,②①で得られた疼痛出現相に関連するフォームの特徴に影響する因子についてである.統計は尤度比による変数増加法による多重ロジスティック回帰分析を用いた.検討①については,従属変数をArm Cocking相:1,Arm Acceleration相〜Arm Deceleration相:0とし,独立変数をフォームで評価した項目とした.また検討②については,検討①で得られた疼痛出現相に関連したフォームを

     6

表2 投球フォームの評価項目Stride相 Arm Cocking相 Arm AccelerationからFollow─through相

上肢

投球側肩の早期外旋

グローブの高さ

グローブの早期運動開始

肘が肩の高さまで上がる前に,肩が外旋し,母指が上を向く両肩の高さまでグローブが上がらない踏込み足接地前にグローブが引かれ,母指が上を向く

Hyper Angulation

肘下がり

両肩のラインよりも肘を後方に引き,肩の水平外転が増大する肩の外転角が減少し,両肩のラインよりも肘が下がる

肩甲平面からの逸脱

肩水平内転増大し,両肩のラインよりも肘が前方に位置し,肘屈曲位のままリリースする

体幹

伸展

身体の開き

踏込み足を振り上げた際,骨盤に対して体幹が後方に位置する踏込み足接地前に,体幹の非投球側への回旋が開始する

非投球側への過剰な側屈

上体の突込み

両腸骨稜のラインよりも両肩のラインが側方に傾斜する骨盤の中心に対して体幹の中心が非投球側に偏位する

骨盤・下肢

骨盤後傾

インステップ

アウトステップ

骨盤後傾位のまま前方にステップする(投球側股関節屈曲減少)軸足のつま先ラインを越えて,踏込み足踵部が三塁側につく投球方向に対し,足が一塁側につく

骨盤の早期の前方移動(早期の重心移動)

踏込み足接地時に,骨盤の中心が両足部の中心よりも前方に位置する

骨盤回旋の早期終了骨盤の投球側への偏位踏込み足の外傾膝屈曲減少

骨盤が投球方向に正面あるいは三塁側を向いたままリリースを迎えてしまう踏込み足の直上に骨盤が位置せず,投球側に偏位する踏込み足の下腿が非投球側に傾斜する踏込み足の膝がリリースの前に伸展する

※右投げの場合

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従属変数に,その他のフォームの特徴と全身の理学所見を独立変数として,統計学的に検討した.危険率は5%とした.なお,多重ロジスティック回帰分析を行なう際,事前に2変量解析(差の検定,相関係数,分割表の検定)を行ない,p>0.25以上の変数を除外し,変数を絞り込んだ.

結 果

Arm Cocking相で疼痛を訴えた者は56例,Arm Acceleration相〜Arm Deceleration相で疼痛を訴えた者は54例であった.疼痛出現相とフォームの関連について,結果を表4

に示す.モデルχ 2検定の結果は p<0.01で有意であり,各変数とも有意(p<0.05)であった.判別的中率は77.3%であった.回帰式は Score=0.433+1.157×肘下がり−1.262×肩甲平面逸脱−1.194×骨盤回旋早期終了となった.従属変数がArm Cocking相:1,Arm Acceleration 相〜Arm Deceleration 相:0であるため,係数が正のものはArm Cocking相,負のものはArm Acceleration相〜Arm Deceleration相の特徴を示す.すなわち,Arm Cocking相で疼

痛を有す選手においては “肘下がり ”,Arm Accel-eration相〜Arm Deceleration相で疼痛を有す選手においては肩甲平面からの逸脱と骨盤回旋の早期終了が,各相で疼痛を引き起こすフォームの特徴としてあげられた.Arm Cocking相に疼痛が生じるフォームの特徴としてあげられた “肘下がり ”のフォームに影響する因子について検討した結果を表5に示す.モデルχ 2検定の結果は p<0.01で有意であり,各変数とも有意(p<0.05)であった.判別的中率は76.0%であった.回帰式は Score=−2.843+2.752×Hyper An-gulation+1.752×上体の突っ込み+1.706×非投球側への側屈であった.以上より,“肘下がり ”と関連がみられたフォームの特徴として,Arm Cocking相でのHyper Angulation,非投球側への体幹側屈,“上体の突っ込み ”があげられた(図2ABC).Arm Acceleration相〜Arm Deceleration相に疼

痛が生じるフォームの特徴として,肩甲平面の逸脱,骨盤回旋の早期終了があげられた.肩甲平面からの逸脱に影響する因子について,肩甲平面から逸脱したフォームと関連がみられたものとして,Stride相でのグローブの高さと “身体の開き ”,体幹回旋可

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表3 投球フォームの評価と Kappa係数投球相 部位 特徴 Kappa係数

Stride相

上肢投球側肩の早期外旋 0.75 実質的な一致グローブの高さ 1.00 完全な一致グローブの早期運動開始 0.73 実質的な一致

体幹伸展 1.00 完全な一致身体の開き 0.94 ほぼ完全な一致

骨盤・下肢骨盤後傾 0.76 実質的な一致インステップ 0.52 中等度の一致アウトステップ 0.87 ほぼ完全な一致

Arm Cocking相

上肢Hyper Angulation 0.69 実質的な一致肘下がり 0.82 ほぼ完全な一致

体幹非投球側への過剰な側屈 0.88 ほぼ完全な一致上体の突っ込み 0.76 実質的な一致

骨盤・下肢 骨盤の早期の前方移動 0.82 ほぼ完全な一致

Arm Accerelation〜Follow─through相

上肢 肩甲平面からの逸脱 0.85 ほぼ完全な一致

骨盤・下肢

骨盤回旋の早期終了 0.76 実質的な一致骨盤の投球側への偏位 0.53 中等度の一致踏込み足の外傾 1.00 完全な一致膝屈曲減少 0.82 ほぼ完全な一致

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動域があげられた(表6,図2D).モデルχ 2検定の結果は p<0.01で有意であり,各変数とも有意(p<0.05)であった.判別的中率は72.8%であった.回帰

式は Score=1.558+1.197×グローブの高さ+1.314×身体の開き−0.25×体幹回旋可動域であった.骨盤回旋の早期終了に影響する因子については,踏み込み足股関節内旋のみであった(表7).回帰式はScore=1.171−0.68×踏み込み足股関節内旋可動域となり,係数が負であるため,内旋可動域が狭いほど骨盤回旋の早期終了が起こりやすい.その他のフォームとの関連はみられなかった.

考 察

当センターにおける小・中学野球選手の内側型野球肘に対する治療方針を述べる.全例投球休止を指示し,ついでレントゲン所見と超音波所見を経時的に追いながら,臨床所見をもとに問題点を抽出する.理学療法にて肘関節周囲の機能の改善を図りながら,

     6

表4 疼痛出現相とフォームの関連偏回帰係数 有意確率 オッズ比

肘下がり  1.157 .014 3.179肩甲平面逸脱 −1.262 .008   . 283骨盤回旋早期終了 −1.194 .014   . 303定数    .433 .339 1.541モデルχ 2検定 p<0.01判別的中率 77.3%

図2 フォームの異常A.Hyper AngulationB.“上体の突っ込み ”C.非投球側への側屈D.グローブの高さ,“身体の開き ”

表5 “肘下がり ”のフォームに影響する因子偏回帰係数 有意確率 オッズ比

Hyper Angulation  2.752 0.001 15.676上体の突っ込み  1.752 0.040   5. 764非投球側への側屈  1.706 0.038   5. 504定数 −2.843 0.001   0. 058モデルχ 2検定 p<0.01判別的中率 76.0%

表6 肩甲平面から逸脱するフォームに影響する因子偏回帰係数 有意確率 オッズ比

グローブが低い  1.197 0.019 3.312身体の開き  1.314 0.005 3.721体幹回旋全可動域  −.025 0.047 0.975定数  1.558 0.284 4.748モデルχ 2検定 p<0.01判別的中率 72.8%

表7  骨盤回旋が早期に終了するフォームに影響する因子

偏回帰係数 有意確率 オッズ比踏込み足股内旋可動域 −0.68 0.001 0.935定数   1.171 0.036 3.225

モデルχ 2検定 p<0.01判別的中率 70.0%

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肩甲帯・体幹・下肢機能に対して治療的介入を行なう.また,肘関節外反ストレス時の疼痛(肘外反時痛)消失後に,高速度カメラを用い,投球フォームをチェックする.まずタオルを用いたシャドーピッチングを行ない,疼痛がないことを確認し,実際のボールをネットに向かって投球し,フォームを撮影する.その動作と理学所見をもとに,肘関節へのストレスを減弱させるべく,投球動作の指導を行なう.投球再開基準は①単純X線・超音波検査所見の悪化がないこと,②肘完全可動域の獲得と肘外反時痛がないこと,③危険性の少ないフォームを獲得していることである.ここでいう危険性の少ないフォームとは,Arm Cocking相において十分に肩を外転し,“肘が下がらない ”ことと,Acceleration相での肩甲平面を逸脱しない投球動作のことを指す.これらの投球再開基準を満たした後,塁間以下の投球から再開し,塁間,塁間全力投球,そして競技復帰まで1週ごとに段階的に投球パフォーマンスを増大していく.その間,画像所見や症状の再燃がなく,危険性の少ないフォームが維持できていることを確認している.近年,バイオメカニカルな研究により,投球動作

の不良と肘外反トルクとの関連が明らかにされている.Aguinaldo& Chambersら 4)は,体幹回旋の開始時期が非投球側足部接地前(平均59Nm)であると,接地後(平均42Nm)よりも肘外反トルクは有意に大きいとしている.またDavisら 6)は内旋位での肩外転減少や “身体の開き ”が生じる不良なフォームが肘外反トルクを増大させると報告している.しかしながら,このようなキネマティクスの異常が連続する運動の中でなぜ起こるのか,重要視されるWind─upや Stride相からの運動連鎖という視点での検討は十分でない.また,いずれも肩最大外旋時の肘外反トルクのみを検討していることになる.前述のとおり,肘外反トルクは二峰性であり 8),臨床的にも内側型野球肘患者において,肘内側の疼痛を訴える瞬間を問診すると,“胸を張った瞬間 ”(≒Arm Cocking相)や “肘を前に出したとき ”(≒Arm Acceleration相),“リリースの瞬間 ”(≒Arm Accel-eration相〜Arm Deceleration相)など,症状を訴える相はさまざまである.実際に,今回の110例のうち,Arm Cocking相で疼痛を訴えた症例は56例,

Arm Acceleration相からArm Deceleration相で疼痛を訴えた症例は54例であり,その割合はほぼ1:1であった.このことから,内側型野球肘患者に生じる投球フォームの問題は単一ではなく,また疼痛を訴える相により,その特徴が異なることが考えられた.本研究において,Arm Cocking相で疼痛を有す選手においては “肘下がり”,Arm Acceleration相〜Arm Deceleration相で疼痛を有す選手においては肩甲平面からの逸脱と骨盤回旋の早期終了が,各相で疼痛を引き起こすフォームの特徴としてあげられた.Albrightら 5)も,肘に症状を訴える選手の73%に,肩の外転角が減少したいわゆる “肘下がり ”や肘屈曲位でリリースしている者がみられたとしており,本研究に合致する.“肘下がり ”が起こると,Davisら 6)の報告のよう

に,Arm Cocking相での外反トルクが増大する.また,肩の十分な外転が起きずに体幹の回旋が起こることで,肩の水平外転が増大し,肩の前方構成体が引き伸ばされる.結果として,肩甲上腕関節の外旋方向への動きが制限される.過去の報告より,投球時の肘外反ストレスは肩最大外旋角度と相関しており 4,7),また投球動作時の肩外旋方向への運動は肘関節の外反と肩甲上腕関節の外旋の要素を含んでいる 13)

とされている.このことから,肩外旋方向への動きが制限された状態でArm Cocking相を向かえると,肘関節による代償が起こり,さらに強い外反ストレスが加わる可能性がある.このような “肘下がり ”が起こりうる原因について,本研究の結果より,“肘下がり ”と関連がみられたフォームの特徴として,Arm Cocking相での Hyper Angulation,非投球側への体幹側屈,“上体の突っ込み ”があげられた.これは,非投球側への側屈や “上体の突っ込み ”により両肩のラインが傾き,ボールをもった手の位置が空間内に留まることで,相対的に “肘が下がる ”可能性がある.また,Hyper Angulationにより肩外転が十分に行なえず,“肘下がり ”になる場合も考えられる.Arm Acceleration相〜Arm Deceleration相での肘関節にかかるストレスと,肩甲平面からの逸脱したフォームとの関連は,この相における肘外反トルクについて検討したバイオメカニカルな報告がなく,力学的に不明である.しかしながら,肘関節の内側

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支持機構に直接加わる負荷に対する組織ごとの外反制動作用への貢献が,肘屈曲角度によって変化すること 14)が関連している可能性がある.Søjbjergら 15)

はMCLを切除し,1.5Nmの外反トルクを加えた際の肘外反角度の増加を屈曲0〜140°まで10°単位で測定した.結果,肘屈曲0〜20°と120〜140°までは外反角度の増加はみられなかったとしている.また,肘屈曲角の増加により回内屈筋群による外反制動の効果が減少すること 16,17)が報告されている.よって,肩甲平面から逸脱した肘屈曲位でのリリースは,肘関節の内側支持機構におけるMCLに対し,とくにストレスがかかる可能性がある.肩甲平面から逸脱したフォームになる要因として,体幹回旋可動域制限や,“身体が開く ”ことがあげられた.体幹可動域制限や早期に体幹回旋が開始されると,結果的に体幹回旋が早期に終了する.これにより,リリース前に肩の水平内転が著しく増大し,肩甲平面から逸脱したフォームになっている可能性が考えられる.Arm Acceleration相で疼痛が生じる原因のもう1

つに骨盤回旋の早期終了があげられた.これは,投球時の骨盤回旋の早期終了により,Arm Acclerela-tion相における体幹・上肢による急激な力発揮が起き,結果として肘にストレスが加わっている可能性がある.また,骨盤回旋の早期終了の要因には踏む込み足股関節の内旋制限があり,踏み込み足股関節を中心とした十分な骨盤回旋運動が阻害されることが原因として考えられる.以上より,内側型野球肘患者のフォームの問題

は,疼痛を訴える相により特徴が分かれ,全身の理学所見や運動連鎖に起因する可能性が示唆された.本研究の限界として,対象者はいずれも野球肘を

発症した後の選手であるため,そのフォームの特徴が障害発生の原因となりうるものなのか,疼痛が発症した結果から起こりうるものなのかが推察の域を出ないことがあげられる.しかしながら,ほかの報告をみても,本研究の結果得られたフォームの問題は肘関節内側にストレスのかかりやすいフォームであり,またこれらの項目であげられたフォームの問題を改善することで全例競技復帰が可能となっており,1年後の再発率も4.2%と低い 18).このことから,このフォームは疼痛によって変化したフォームでは

なく,各選手固有の問題を有するフォームであり,かつ疼痛が出現する以前のフォームを反映していると考えている.したがって,このフォームを分析することで内側型野球肘発生の risk factorを同定できる可能性がある.今後は3次元動作解析によるキネマティクス・キネティクスデータを算出し,これらのフォームの違いによる各疼痛出現相での肘関節にかかるストレスを比較検討することや,障害発生以前のフォームの問題について,前向きに調査を行ない,疼痛発生の原因となりうるフォームの問題について,明らかにしていきたいと考えている.

文 献

1) Lyman S et al:Longitudinal  study of elbow and shoulder pain  in youth baseball pitchers. Med Sci Sports Exerc, 33:1803─1810, 2001.

2) Olsen SJ 2nd et al:Risk factors for shoulder and elbow injuries in adolescent baseball pitch-ers. Am J Sports Med, 34:905─912, 2006.

3) Fleisig GS  et  al:Risk  of  serious  injury  for young baseball pitchers:a 10─year prospec-tive  study. Am J Sports Med,  39:253─257, 2011.

4) Aguinaldo AL et al:Correlation of  throwing mechanics with  elbow valgus  load  in  adult baseball pitchers. Am J Sports Med, 37:2043─2048, 2009.

5) Albright JA et al:Clinical  study of baseball pitchers:correlation of injury to the throwing arm with method  of  delivery. Am J Sports Med, 6:15─21, 1978.

6) Davis JT et al:The Effect of Pitching Biome-chanics on the Upper Extremity in Youth and Adolescent Baseball Pitchers. Am J Sports Med, 37:1484─1491, 2009.

7) Werner SL et al:Relationship between throw-ing mechanics and elbow valgus in profession-al baseball pitchers.  J Shoulder Elbow Surg, 11:151─155, 2002.

8) Fleisig GS et al:Kinetics of baseball pitching with  implications about  injury mechanisms. 

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Am J Sports Med, 23:233─239, 1995.9) Tyler TF et al:Reliability and validity of a new method of measuring posterior shoulder tightness. J Orthop Sports Phys Ther, 29:262─269; discussion 270─274, 1999.

10) 坂田 淳ほか:内側型野球肘症例の初回臨床所見と投球再開時期との関連.日肘関節会誌,16:9─12,2009.

11) Plisky PJ et al:Star Excursion Balance Test as  a predictor  of  lower  extremity  injury  in high school basketball players. J Orthop Sports Phys Ther, 36:911─919, 2006.

12) O’Driscoll  SW  et  al:The  “moving  valgus stress test” for medial collateral ligament tears of the elbow. Am J Sports Med, 33:231─239, 2005.

13) Mihata T et al:Elbow valgus  laxity may re-sult in an overestimation of apparent shoulder external rotation during physical examination. 

Am J Sports Med, 36:978─982, 2008.14) Morrey BF et al:Articular and  ligamentous contributions to the stability of the elbow joint. Am J Sports Med, 11:315─319, 1983.

15)  Søjbjerg JO et al:Experimental elbow  insta-bility after transection of the medial collateral ligament. Clin Orthop Relat Res, 186─190, 1987.

16) Lin F  et  al:Muscle  contribution  to  elbow joint valgus stability.  J Shoulder Elbow Surg, 16:795─802, 2007.

17) Udall  JH  et  al:Effects  of  flexor─pronator muscle loading on valgus stability of the elbow with an intact, stretched, and resected medial ulnar  collateral  ligament.  J Shoulder Elbow Surg, 18:773─778, 2009.

18) 赤池 敦ほか:野球肘の画像診断,治療と予防 内側型野球肘の保存的療法における復帰基準と理学療法について.整スポ会誌,30:238,2010.

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はじめに

肉離れは,スポーツ現場でよく経験する外傷の1つであるが,その臨床像は非常に多彩である.今回,肉離れ後に血腫の増大により重症化した1例を経験したので報告する.

症 例

18歳,男性.関東大学1部リーグに所属する大学のバレーボール部員(レシーバー).

主訴は右下腿後面の痛み.バレーボールの練習後に右下腿後面の腫脹と疼痛を自覚するようになった.この状態が10日ほど続いた後,練習中に疼痛が増強し,走ることが困難になったため,翌日整形外科外来を初診した.

西田雄亮〒305─8575 つくば市天王台1─1─1筑波大学整形外科TEL 029─853─3219/FAX 029─853─3214E─mail [email protected]

1)筑波大学整形外科 Department of Orthopaedic Surgery, University of Tsukuba

2)杏林大学整形外科 Department of Orthopaedic Surgery, Kyorin University

ヒラメ筋肉離れ後の血腫増大により重症化した バレーボール選手の1例

Serious Soleus Muscle Strain due to Increasing Hematoma,A Case Report of a Volleyball Player

西田 雄亮 1)  Yusuke Nishida 西野 衆文 1)  Tomofumi Nishino 林  光俊 2)  Mitsutoshi Hayashi

● Key wordsMuscle strain:Hematoma:Volleyball

●要旨症例は18歳男性,主訴は右下腿後面の痛み.バレーボールの練習後に右下腿後面の腫脹

と疼痛を自覚し,この状態が10日ほど続いた後,練習中に疼痛が増強した.初診時,右下腿後面には腫脹,圧痛があり,足関節背屈にて疼痛が増強した.診断は経過や MRI所見から,右ヒラメ筋の肉離れを発症後,同部位にできた血腫が増大したものと考えられた.安静のみで症状は徐々に改善し,1ヵ月の局所安静ののち,段階的に練習復帰した.今回の経験から,軽度の肉離れと判断して,短期間で練習復帰させると,さらなる症状の悪化を招くこともあるため,注意深い経過観察が必要である.

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初診時の自覚症状として,右下腿後面に安静時の違和感および軽度の疼痛があり,歩行により悪化して,跛行がみられた.視診上は右下腿が中央から遠位にかけて腫脹し,前外側と後面に皮下出血がみられた(図1).右下腿後面近位3分の1から中央には圧痛があり,一部に硬結を触れたが跳動は認めなかっ

た.理学所見では,足関節および足趾の自動運動は可能であったが,他動的に足関節を背屈させると下腿後面の痛みが増強した.足関節の可動域は,背屈が左右ともに10°,底屈が左右ともに40°であった.足部の表在および深部感覚は異常なく,末梢循環も保たれていた.また,左下腿にも症状は軽いものの後面中心の違和感および圧痛,足関節を他動的に背屈させると増強する痛みがあった.

画像所見では,単純 X線像で明らかな骨折を疑わせる所見はなく,軟部組織陰影の増大が認められたが,ガス像はなかった.単純 CT像では,右ヒラメ筋内に高輝度の病変が存在し,その周囲は低輝度となっていた.また,左ヒラメ筋外側にも一部低輝度な領域があった(図2).MRIでは,右ヒラメ筋全体が脂肪抑制 T2WI像,T2WI像,T2 * WI像で境界明瞭な高信号を呈していた.近位の内部には同条件で低信号を呈する長径100mmの紡錘状の腫瘤性病変を認め,T2 * WI像の低信号域はヘモジデリン沈着を示唆することから,陳旧性の血腫と考えられた.筋腱移行部の腱膜等に明らかな損傷はなかった.また,左ヒラメ筋でも同条件で不均一な高信号変化がみられた(図3).

     3 3 6

図1 初診時両下腿の外観(1a:前面,1b:後面)右下腿中央から遠位にかけて腫脹があり,矢印で示す部位に皮下出血がみられる.

図2  単純 CT画像(2a:横断像,2b:前額断像,2c:矢状断像)右ヒラメ筋内に高輝度な病変が存在し(矢印),その周囲に低輝度な領域がある.左ヒラメ筋外側にも一部低輝度な領域がみられる.

a. 横断像 b. 前額断像 c. 矢状断像 (右のみ)

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血液検査では初診時に CK,LDHの上昇があったが,経過とともに改善した.白血球や CRP,ヘモグロビン,凝固系の値に異常はなかった(表1).

右下腿の病変は,ヒラメ筋内に陳旧性の血腫と考えられる病変が存在すること,ヒラメ筋全体がMRIの脂肪抑制 T2WI像などで高信号を呈していることから,経過と併せて,ヒラメ筋の肉離れを発症後,同部位にできた血腫が増大したものと診断した.また,左下腿はストレス増大によりヒラメ筋の遅発性筋痛をきたしたものと考えられた.

治療として,右下腿は血腫ドレナージや筋膜切開による減圧も考慮したが,明らかな神経血管障害が

なく,画像所見から血腫の穿刺は困難と考えたため,安静にて経過観察の方針とした.また,臨床所見や侵襲を考慮して,区画内圧測定は行なわなかった.

その後,症状および血液検査所見ともに徐々に改善したため保存的加療を継続した.10日目の超音波でのフォローアップでは血腫の縮小を確認した.そして,1ヵ月の局所安静ののち,段階的に練習復帰し,2ヵ月後に完全復帰した.

考 察

肉離れは,打撲などの直達外力により骨付近の複数の筋に障害が及ぶ筋挫傷とは異なり,自家筋力(拮抗筋力)または広義には介達外力によるものも含め,抵抗下に筋が過伸展される遠心性収縮によって発症する 1).受傷機転は全力疾走中や切り返しなどの動作時に多く,一筋に限局した変化が起こる.奥脇によると MRIにより,肉離れは3つのタイプ(Ⅰ型:筋腱移行部の血管損傷のみ,Ⅱ型:筋腱移行部(とくに腱膜)の損傷,Ⅲ型:筋腱付着部の断裂)に分類される 2).一般的に,Ⅰ型では出血によって筋の内圧が上昇して痛みを誘発するものの,筋機能にはほとんど影響せず,1〜2週でスポーツが可能となる.Ⅱ型では筋腱移行部の損傷により機能的な障害が明らかとなり,損傷の程度によるが,復帰に1〜3ヵ月

(平均6週間)かかる.さらにⅢ型になると,筋腱付着部の損傷により筋機能は著しく損なわれ,手術療法も必要となる.

本症例において,受傷機転や部位,症状からは肉離れと考えて矛盾しない.MRI所見からは筋腱移行部の損傷がないためⅠ度に分類される.打撲や骨折などの接触性の外傷はなかったが,肉離れを発症した後も練習を継続したため,続発性に血腫が形成された.そして,その後も練習を休止せずに継続したため,血腫が増大して重症化した.理学所見では,

     3 3 6

図3 MRI画像(3a:矢状断像,3b:横断像)右ヒラメ筋全体が脂肪抑制 T2WI像,T2WI像,T2 * WI像で境界明瞭な高信号を呈し,近位の内部に同条件で低信号を呈する腫瘤性病変を認める.左ヒラメ筋でも同条件で不均一な高信号変化がみられる.

a. 矢状断像(右のみ) b. 横断像

脂肪抑制 T2WI 像

脂肪抑制 T2WI 像

T2WI 像

T2*WI 像

表1 血液検査所見の経過WBC Hb AST ALT LDH CK CRP

初診日 6,700/μl 12.9g/dl 38U/l 85U/l 591U/l 757U/l 0. 1mg/dl2日後 7,500 12.9 26 56 475 325 0.18日後 6,500 12.3 27 35 414 339 0.1

PT,APTTは正常範囲内,尿検査異常なし

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右下腿が著しく腫脹しており,MRIの脂肪抑制 T2WI像などでヒラメ筋が筋膜内部に一致して高信号を呈していることから,同部位で肉離れの病変に加えて,組織圧上昇による筋の浮腫性変化があったと考えられる 3,4).

本症例では疼痛や違和感はあったものの神経血管の圧迫症状や所見はなく,慎重な経過観察で保存的に加療することができた.

また一方で,経過中に左下腿にも負荷がかかり,左ヒラメ筋の遅発性筋痛をきたしたと考えられる.遅発性筋痛は,不慣れな運動や久々の運動後,またはスポーツ選手や愛好家であっても高強度の運動後に生じることが多く,運動24〜72時間後に痛みのピークを迎え,その後徐々に消失することが多い.病態としては,運動により筋内水分量の遅発的な上昇

(浮腫)をきたし,MRIの T2WI像における信号強度の増加として捉えられる 5).本症例でも,左ヒラメ筋が脂肪抑制 T2WI像,T2WI像,T2 * WI像で不均一な高信号変化を呈しており,この特徴に矛盾しなかった.

今回のような症例では,軽度の肉離れと判断して短期間で練習復帰した場合,さらなる症状の悪化を招きかねないため,注意深い経過観察が必要といえる.

文 献

1) 奥脇 透:【スポーツ外傷を主体とした外傷の画像診断】肉離れの MRIと臨床.臨画像,24:897─907,2008.

2) 奥脇 透:肉離れの治療(保存).Orthopae-dics,23:51─58,2010.

3) 須川 勲ほか:MRIによる肉離れの診断と鑑別疾患.臨スポーツ医,12:621─628,1995.

4) 林 光俊:下腿筋(腓腹筋・ヒラメ筋)断裂.戸山芳昭,アトラス骨・関節画像診断3.外傷.中外医学社,東京:134─136,2011.

5) 柳沢 修ほか:T2強調 MR画像と遅発性筋痛との関連性について.日臨スポーツ医会誌,12:27─32,2004.

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はじめに

野球選手の上肢の障害は肩・肘が圧倒的に多い.そのなかでも肘内側側副靱帯損傷(以下肘MCL損傷)は頻度,重症度において重要なものの1つである.治療は症例によって観血的治療が行なわれる 1)

が復帰に時間を要し,競技生活を考え保存的治療を選択せざるを得ないケースも多い.

目 的

本研究の研究は野球選手の肘MCL損傷に対する保存的治療の有効性をポジション,罹病期間,画像所見によって違いがあるかどうか調査検討することである.

渡邊幹彦〒210─0852 川崎市川崎区鋼管通り1─2─1日本鋼管病院スポーツ整形外科TEL 044─333─5591

1)日本鋼管病院スポーツ整形外科 Department of Orthopaedic and Sports Medicine, Nippon Koukan Hospital

2)昭和大学整形外科 Department of Orthopaedic Surgery, Showa University School of Medicine

3)広尾整形外科 Hiroo Orthopedics Clinic

野球選手の肘内側側副靱帯損傷に対する 保存的治療のスポーツ復帰

The Results of Conservative Therapy of Medial Collateral Ligament Injuryin Baseball Players

  渡邊 幹彦1)  Mikihiko Watanabe  米川 正悟1)  Shougo Yonekawa  服部 麻倫1)  Mari Hattori  栗山 節郎1)  Setsuro Kuriyama  稲垣 克記2)  Katsunori Inagaki  小関 博久3)  Hirohisa Koseki

● Key words野球,肘内側側副靱帯損傷,保存的治療

●要旨肘内側側副靱帯損傷の保存的治療におけるスポーツ復帰障害因子を見つけることを目的とした.高校生以上の野球選手40例を対象とし,平均年齢は18.1歳であった.新鮮例12例,陳旧例は28例であった,ストレスX線健患差2mm以上が8例,MRIでの上腕骨付着部高・中間信号域は28例に認めた.新鮮例は1〜2週間のギプス固定後,陳旧例はただちに運動療法に移行,3〜6ヵ月での復帰を目指した.スポーツ復帰を果たしたのは24例(60%)であり,投手の復帰率が悪かった.ストレスX線やMRIの異常所見とスポーツ復帰率に相関は認めなかった.

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対 象

2005年から2008年までに受診した野球選手は延べ4,259名であった.肘の障害で受診した選手は延べ1,433名,実選手数615名であった.肘MCL損傷と診断された選手は203名であった.このうち肘MCL損傷と肘部管症候群の合併例は除き,高校生以上の競技選手でストレスX線,MRI検査までを行なった選手は83名であった.スポーツ復帰までの追跡が可能であった40例(フォローアップ率48.7%)を対象とした.平均年齢は18.4歳(15〜24歳)であった.野球レベルは社会人野球5名,大学野球20名,高校野球15名であり,ポジジションは投手27名,捕手2名,内野手5名,外野手6名であった.内側側副靱帯損傷の診断基準は投球時の肘内側部痛とmoving val-gus stress test 2)が陽性なものとした.過去に既往がなく,比較的明らかな投球でのエピソードがあり,3週以内に受診したものを新鮮例と判断し,それ以外のものを陳旧例(再発例を含む)とした.新鮮例が12例,陳旧例が28例であった.新鮮例では1週間から2週間のギプス固定を行なうが,陳旧例は固定せず,ただちに運動療法に移行し,圧痛が軽快した時点で投球リハビリを開始した.治療開始後3〜6ヵ月での復帰を目指した.平均経過観察期間は12.8ヵ月(2〜48ヵ月)であった.

方 法

①ストレスX線:30°屈曲位・1kg負荷での gravi-ty test 3)に準じたストレスX線撮影を行ない(図1,2),健患差で検討した.②MRI:MRIは GE社製1.5T SIGNAの T2強調画像,冠状断撮影で内側側副靱帯の上腕骨付着部,尺骨付着部の信号強度を高・中間信号域を異常所見,低信号域を正常所見とした(図3).③スポーツ復帰率:疼痛なく元のポジションまで復帰できた選手を復帰と判定した.運動療法は前腕の回内外と手指の屈筋群のストレッチと筋力強化と同時に肩関節外転位での内外旋可動域のストレッチを行ない,とくに外転位での外旋可動域を広げるようにした.③保存的治療にてスポーツ復帰を果たした(以下:

     7

図1 Gravity Testに準じたストレス X線

図2 Gravity Testに準じたストレス X線左右を比較し,健患差を>2mm,1mm,0mmで測定.0mm,1mm:不安定性なし2mm<:不安定性あり

30° test+1Kg

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復帰群)と疼痛が残存したり,元のポジションでのスポーツ復帰が果たせなかったりした(以下:不可群)の2群にわけ,ポジション,罹病期間,ストレスX線所見による不安定性の有無,MRI異常所見の有無の4項目についてFisher’s exact testにて統計学的検討を行なった.危険率5%を有意とした.

結 果

①ストレスX線:患側における増加は平均0.56mm(0〜2.2mm)であり,健患差1mm未満が26 例,1mm以上2mm未満が6例,2mm以上が8例であった.

②MRI所見:上腕骨付着部に高・中間信号域が28例(70%),低信号域が12例(30%)であった.一方,

尺骨側付着部に高・中間信号域は10例(25%),低信号域が30例(75%)であった.上腕骨側,尺骨側ともに低信号域であったものが40例中8例(20%)であった.上腕骨側に異常所見が多かった.③スポーツ復帰率:疼痛なくスポーツ復帰を果たしたのは24例(60%)であり,復帰までの期間は平均3.75ヵ月(2〜8ヵ月)であった.不可は16例(40%)であった.14例は疼痛が残存し,2例はポジションを変更していた.投手27例中復帰は13例(48.1%)のみ,一方野手は13例中11例(84.6%)が復帰を果たし,投手の復帰率が有意に低かった(図4).投手が成績不良因子と考えられた.新鮮例は12例中10例(83.3%)が復帰し,陳旧例では28例中14例(50%)のみで,陳旧例の復帰率が低かったが,統計学的有意差は認めなかった(図5).

     7

図3 MRI T2 強 調 画 像(TR3000/TE 82.4)冠状断面像(GE社 1.5T SIGNA)で撮像.上腕骨付着部と尺骨付着部の信号強度を,高信号域(HIGH:H),中間信号域(INTERMEDIATE:I),低信号域(LOW:L)で評価.高信号,中間信号群:異常,低信号群:正常とした

図4 ポジションとスポーツ復帰投手の復帰率は野手に比較して有意に低い.投手はスポーツ復帰障害因子

=0.040p

図5 罹病期間とスポーツ復帰新鮮例の方が保存的治療に反応する傾向.しかし陳旧例でも約半数が復帰

p=0.079

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70

投手の新鮮例7例中5例(71.4%)は復帰していた.ストレスX線での健患差2mm以上を不安定性あ

りとした.不安定性なしは32例,不安定性ありは8例であった.不安定性なしの32例中復帰したのが20例(62.5%),不安定性ありの8例中復帰したのが3例(37.5%)であった.不安定性があるものの復帰率が低い傾向にあったが,統計学的有意差は認めなかった(図6).MRI所見では上腕骨側異常所見あり28例中復帰が16例(57.1%),異常所見なしの12例中復帰が8例(66.7%)であり,両群に有意な差を認めなかった.また,尺骨側異常所見ありの10例中復帰6例(60%),異常所見なしの30例中復帰が18例(60%)であり,これも両群に有意な差を認めなかった(図7,8).MRIにて上腕骨側,尺骨側とも異常を認めなかった8例中復帰が6例であった.

考 察

投球動作により肘の内側には過大な負担がかかり,さまざまな障害を発生させる 1,4).肘MCL損傷の診断に画像検査が用いられるが不安定性の評価は簡単ではない.Schwabらは Gravity testが有用とし 3),Leeらは健患差での評価を薦めている 5).われわれもそれを応用し,1kgの負荷での健患差を評価している.今回の検討ではストレスX線にて2mm以上の不安定性を認めた群のスポーツ復帰率(8例中3例:37.5%)は不安定性を認めなかった群のスポーツ復帰率(32例中20例:62.5%)より,低かったが有意差は認めなかった.不安定性があっても37.5%は復帰でき,不安定性がなくても37.5%は復帰できなかったところに野球選手の肘MCL損傷治療の難しさがある.MRIについては鈴木 6)は上腕骨側のT2強調画像による高信号は撮像時期を問わず保存的治療の成績不良の危険因子としている.一方,Rettigら 7)は肘MCL損傷の保存的治療において31例中13例(41.9%)がスポーツ復帰を果たし,病歴,理学所見との相関は認めなかったとしている.Timmermanら 8)は野球選手肘MCL損傷25例の術前MRI異常所見は sensi-tivity 57% specifi city 100%だったとしてMRI上異常所見を認めなくても損傷を受けている例があることを報告している.今回の症例でも不安定性を認めなかった32例中12例(37.5%)が復帰できなかったが,これらはMCL深層不全断裂の可能性がある 8,9).

     74

図6 ストレス X線所見とスポーツ復帰ストレス XP健患差による不安定性とスポーツ復帰は相関しない.

p

図7 MRI異常所見とスポーツ復帰(上腕骨側)MRIの異常所見とスポーツ復帰は相関しない.

N.S

p=0.73

図 8 MRI異常所見とスポーツ復帰(尺骨側)MRIの異常所見とスポーツ復帰は相関しない.

N.S

p=1.0

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7

より精彩な診断技術の確立が必要である.野球選手の肘障害の治療において渡會ら 10)は前腕

の回内と肘の伸展をスムーズに行なえるような教育が必要と述べ,戸野塚ら 11)も野球肘の保存的治療において局所所見との相関はみられず,肩甲胸郭機能など全身的なコンディショニングが競技復帰に重要としている.今回の検討で投手のスポーツ復帰率が低かった.

コンディショニングによってある程度の代償は可能でも,投手の場合は高いパフォーマンスの発揮は難しく,競技レベルを考えて観血的治療を考慮する必要があると考えられた.今回の対象83例中フォローアップ可能だったのは40例にとどまり,治療中断例が多数存在した.より精細な診断技術も含めてフォローアップの向上が治療成績向上には重要である.

ま と め

野球選手における肘MCL損傷の保存的治療のスポーツ復帰率は60%であった.新鮮例,および投手以外の陳旧例では試みていい治療と考えられた.

文 献

1)  Jobe FW et al:Reconstruction of  the Ulnar Collateral Ligament  in Athletes. J Bone Joint Surg Am, 68:1158─1163, 1986.

2) O’Driscoll SW et al:The “Moving Valgus Stress Test” for  Medial Collateral Ligament Tears of 

the Elbow. Am J Sports Med, 33:231─239, 20053)  Schwab GH et al:Biomechanics of elbow  in-stability:The role of the medial collateral lig-ament. Clin Orthop, 146:42─52, 1980.

4)  Johnston J et al:Elbow Injuries to the Throw-ing Athlete. Clin  Sports Med,  15:307─329, 1996.

5) Lee GA et al:Elbow Valgus Stress Radiogra-phy  in an Uninjured Population. Am J Sports Med, 26:425─427, 1998.

6) 鈴木克憲:野球選手の肘内側側副靱帯損傷:MRI所見と予後.日肘会誌,11:37─38, 2004.

7) Rettig AC et al:Nonoperative  treatment of ulnar  collateral  ligament  injury  in  throwing athletes. Am J Sports Med, 29:15─17, 2001.

8) Timmerman LA et al:Preoperative Evalua-tion of the Ulnar Collateral Ligament by Mag-netic Resonance  Imaging and Computed To-mography Arthrography  . Am J Sports Med, 22:26─32, 1994.

9) Timmerman LA et al:Undersurface Tear of the Ulnar Collateral  Ligament  in Baseball Players. A Newly Recognized Lesion. Am J Sports Med, 22:33─36, 1994.

10) 渡會公治ほか:投球フォームと肘障害.日肘会誌,12:7─8, 2005.

11) 戸野塚久紘ほか:少年期肘内側障害に対する保存療法における理学療法の重要性.整スポ会誌,31:171─175, 2011.

     7

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     2 27

はじめに

上腕二頭筋は,肘関節の屈曲筋,前腕の回外筋であり,同時に腱板とともに上腕骨頭を肩甲骨関節窩の中心に安定化させる stabilizerとしても働いている.スポーツ活動において,上腕二頭筋長頭腱(以下,

LHB)の完全断裂が認められることがある.しかし,LHBに完全断裂が生じてもADL上重大な機能障害を残すことはまれであり,その治療法については年齢や職業,スポーツなどの患者側の背景が影響し,外固定なしの保存療法 1,2)から観血的療法 3〜5)に至るまでさまざまな意見がある.今回,手術治療により早期スポーツ復帰を果たした2症例を経験したので報告する.

齊藤良彦〒108─8642 東京都港区白金5─9─1北里大学北里研究所病院スポーツクリニックTEL 03─3444─6161/FAX 03─5791─6319E─mail [email protected]─u.ac.jp 

北里大学北里研究所病院スポーツクリニックKitasato University, Kitasato Institute Hospital, Sports clinic

スポーツで受傷した上腕二頭筋長頭腱完全断裂 に対し手術治療を施行した2例

Complete Rupture of the Long Head of Biceps Brachial Tendon Injured bySporting Activities ─Two Case Reports

  齊藤 良彦  Yoshihiko Saito  月村 泰規  Yasunori Tsukimura  長島 正樹  Masaki Nagashima  阿部  均  Hitoshi Abe

● Key words上腕二頭筋長頭腱,スポーツ選手,手術療法

●要旨上腕二頭筋長頭腱(以下 LHB)に完全断裂が生じてもADL上重大な機能障害を残すことはまれであるため,その治療法については保存療法から観血的治療に至るまでさまざまな意見がある.今回,LHB完全断裂に対して keyhole法による固定術を行なった2スポーツ選手について報告した.2症例とも良好な固定と機能の回復が得られた.本術式はほかの術式と比較して簡便であり,確実に LHB近位部断端を引き上げて固定でき,早期に可動域および筋力訓練を行なえることから,スポーツ選手にとって有用な治療法の1つであると考えられる.しかし,LHBの加齢に伴う変性を基盤とする場合,再断裂の危険性も残しており,今後も長期に経過をみていく必要がある.

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症 例

症例1:24歳 男性.アメリカンフットボール(以下,AF)のディフェンスバック(以下,DB)の選手.主訴:上腕二頭筋の筋腹の下降.既往歴・家族歴

に特記事項なし.現病歴:AFの試合にてタックルをした際に受傷

した.当院のチームドクターが診察し,上腕二頭筋筋腹の下降を認め,LHB断裂疑いで当科受診となった.初診時所見:右上腕近位部に皮下出血斑を認め,

右上腕二頭筋の筋腹は末梢に下降していた(図1).

上腕二頭筋徒手筋力検査でMMT4と筋力低下を認めた.知覚や循環障害は認められなかった.画像所見:MRIにおいて結節間溝レベルにLHB近位端は認められず,断端は末梢に退縮していた(図2).単純X線において明らかな骨傷や骨棘形成,骨硬化などの変性変化は認められなかった.診断:以上の所見より,LHB完全断裂と診断した.治療:AF選手であり,タックルなどコンタクトプレイ時のパフォーマンス低下が危惧された.また,受傷後長期経過した際にはLHB断端が退縮し,改善できない可能性がある . このため,本人と相談のうえ,早期手術を選択した.手術所見:手術は delto─pectoral approachで侵入

     2 277

図1 初診時

患側:上腕二頭筋々腹の下降 健側:上腕二頭筋々腹の下降は認められない

図2 MRI所見

T2WI 脂肪抑制 axial 像T2WI 脂肪抑制 coronal 像

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し,結節間溝を展開すると,多量の血腫を認め,LHB近位断端は同部に確認できなかった.上腕二頭筋のmilkingにより末梢に退縮した腱断端を認めた(図3a).腱の断端は線維化しており,吻合するだけでは癒合不全から再断裂の危険性を残すため,術式はkeyhole法を選択した.結節間溝に形態異常や骨棘形成などは認められな

かった.結節間溝の底部で上腕横靱帯を縦切し,結節間溝にエアトームで keyholeを作成し,近位端をボール状に締結したうえで,ほどけないように縫合した(図3b).ボール状に締結した中枢端を keyholeに入れて,肘関節を伸展させることで腱断端を固定した(図3c).術後経過:術後は肘関節100°屈曲位,前腕中間位

にてシーネ固定とした.術後1週で角度制限のない肘関節屈曲・伸展自動運動ならびに角度制限のない

前腕回内外自動運動を6から7割程度の力で開始した.術後2週で外固定を完全除去し,全方向での自他動的可動域訓練を開始した.術後3週で関節可動域は完全に回復し,MMTも術前4から5に回復した.JOAスコアも術前68点から92点に回復した.以後AF復帰に向けた筋力トレーニングおよび agility train-ingを行ない,術後5週で競技復帰となった.術後6ヵ月での所見では,上腕二頭筋々腹の下降は消失した(図4).

症例2:64歳 男性.競技:ゴルフ.主訴は右肘屈曲時の筋力低下.既往歴・家族歴に特記事項なし.ゴルフのスイングにて受傷し,愁訴のもと,最近ゴルフの飛距離が落ちたことも気になっており,受傷後1ヵ月半で当科受診となった.

     2 27

図3 症例1術中所見

(a)末梢に退縮した LHB断端 (b)LHB断端の締結 (c)LHB断端の key hole への挿入

図4 術後6ヵ月上腕二頭筋筋腹の下降は解消し,その外見上の筋量も健側と変わらない

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初診時所見:右上腕二頭筋の筋腹は末梢に下降するとともに限局性に膨隆していた(図5).上腕二頭筋徒手筋力検査でMMT4と筋力低下を認めた.知覚および循環障害は認められなかった.画像所見:MRIにて結節間溝レベルに LHBは認

められず,末梢に退縮しており,断端は肥厚していた(図6). 単純X線において明らかな骨傷や骨棘形成,骨硬化などの変性変化は認められなかった.診断:以上の所見より,LHB完全断裂と診断した.治療:ドライバースイング時の右上肢の脱力感を認めており,ドライバーの飛距離も低下していた.受傷後1ヵ月半が経過しているが,上腕筋の筋力バランスの回復によってゴルフのスイングの安定,飛距

離の改善につながると考え,また,患者本人も手術を強く希望しているため手術とした.64歳で腱の変性も強いと考えられ,受傷後1ヵ月半が経過していること,競技種目がゴルフであることをも考慮し,LHB再建術(key hole法)を予定した.手術所見:症例1と同様にdelto─pectoral approachで侵入すると結節間溝より10cm末梢に退縮し,肥厚した LHB断端を認めた.結節間溝の形態異常や骨棘形成などは認められなかった.LHB近位端は瘢痕化しており,変性が著しく,近位端から遠位方向に2cmは切除を余儀なくされ,腱部分が短縮したため,結節間溝から3cm末梢にエアトームで key holeを作成した.近位端をボール状に締結し,近位に引き上げ(図7a),keyholeに入れ,肘を伸展させ固定

     2 27

図5 初診時において右上腕二頭筋筋腹の下降を認める

図6 MRI所見

T2WI 脂肪抑制 axial 像T2WI 脂肪抑制 coronal 像

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した(図7b).術後経過:術後は肘関節100°屈曲位,前腕中間位にてシーネ固定とした.術後2週で角度制限のない肘関節屈曲・伸展自動運動ならびに角度制限のない前腕回内外自動運動を6から7割程度の力で開始した.術後3週で外固定を完全除去し,全方向での自他動的可動域訓練を開始した.術後4週で関節可動域は完全に回復し,MMTも術前4から5に回復した.JOAスコアも術前58点から92点に回復した.術後6週でゴルフ復帰となった.術後6ヵ月の所見では上腕二頭筋々腹の下降は消

失した(図8).

考 察

LHB完全断裂は,主に,腱の変性による脆弱化を基盤に,結節間溝の狭窄・骨棘形成による摩耗,上腕横靱帯による摩耗,強度の強い運動・労働など機械的刺激が加わって生じると考えられている 4,6,7).腱板断裂が背景にある場合には腱板機能を代償するための過剰負荷が原因となることもある 8).受傷メカニズムは肘関節の屈曲を強制して発生することが多いが,明らかな受傷機転が認められないこともある.症例1は先行する変性変化は認められ

     2 2

図7 症例2術中所見

(b)LHB断端の key hole への挿入(a)LHB断端の近位への引き上げ

図8  術後6ヵ月において上腕二頭筋筋腹の下降は解消し,その外見上の筋量も健側と変わらない

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     2 2

ず,明らかな外傷の既往がある外傷性断裂と考えられる.一方,症例2は経年変化である LHBの変性を基盤に微細な外力で発生した典型例と考えられる.LHB断裂の治療法について,ADL上の機能障害は

少ないとして,保存療法を提唱するものが多い 1,2,12).これに対して信原は上腕二頭筋の筋力減退を残すため積極的に手術を勧めている 6).Marianiらは手術例,非手術例の予後調査における筋力測定の結果,非手術例においては,肘伸展力,前腕回内力,握力については健側と差がないが,肘屈曲力では8%,前腕回外力では21%の減少が認められたと述べている 9).われわれはスポーツの種目や職種によっては今回のように観血的治療が有効と考える.AFではコンタクト時の個人能力としてのパフォーマンスが大切であり,症例1では十分な肘屈曲力の回復が必要であった.症例2では上腕筋の筋力バランスの回復に伴うと考えられるゴルフのスイングが安定し,飛距離も受傷前と同じ距離まで回復したことから,ゴルフにも有効であったと考えられる.手術法は完全断裂の場合,結節間溝に固定する方

法(keyhole法 3),Hitchcock法 4))や烏口突起に固定する方法(De Palma法 5))が一般的である 10)(図9).本症例では,keyhole法を選択した.keyhole法はFroimsonが最初に論述した方法で,Hitchcock法と同様に結節間溝内に長頭腱を固定するため,腱の走行は生理的な位置にすることができる.またボール状にした腱断端を keyholeに引っ掛けるだけで,筋の緊張度を決めやすく,術後も早期に可動域訓練ができる点で他法より優れていると思われる.さらに

骨弁の作成も不要でHitchcock法より簡便であると思われる 11).このため,今回の2症例では keyhole法を選択した.2症例とも術後早期にスポーツ復帰を果たし,key-

hole固定部の疼痛ならびにLHB断端のkey holeからの脱転などによる上腕二頭筋筋腹の下降は認められなかった.また,単純X線での keyholeの著明な拡大は認めず,短期成績は良好であった.以上より,本術式はほかの術式と比較して簡便であり,確実に LHB近位部断端を引き上げて固定でき,早期に可動域および筋力訓練を行なえることから,スポーツ選手にとって有用な治療法の1つであると考えられる.しかし,LHBの加齢に伴う変性を基盤とする場合,再断裂の危険性も残しており,今後も長期に経過をみていく必要がある.

文 献

1) Carroll RE et al:Rupture of biceps brachii. A conservative method  of  treatment.  J Bone Joint Surg [Am], 49─A:1016, 1967.

2) Phillips BB et al:Ruptures of the proximal bi-ceps  tendon  in middle  agedpatients. Orthop Rev, 22:349─355, 1993.

3) Froimson AI et al:Keyhole  tenodesis of bi-ceps origin at the shoulder. Clin Orthop, 112:245─249, 1975. 

4) Hitchcock HH et al:Painful shoulder; Obser-

図9 手術方法OS NOW No15. 肩関節疾患の手術療法より引用

Keyhole 法 Hitchcock 変法 De Palma 法

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7

     2 2 2

vations on the role of  the tendon of  the  long head of  the biceps brachii  in  its causation.  J Bone Joint Surg, 30─A:263─273, 1948.

5) De Palma AF:Surgery of  the shoulder. 3 rd ed. JB Lippincott, Philadelphia:211─241, 512─558, 1983.

6) 信原克哉:上腕二頭筋長頭腱損傷について.整形外科,23:111─119, 1972.

7) 奥山繁夫:上腕二頭筋長頭腱皮下断裂.災害医学,XVI─5:388─396, 1973.

8) Lowe WR:Keyhole Technique for Tenodesis of the Biceps Tendon. Oper Tech Sports Med, 

15:7─9, 20079) Mariani EM et al:Rupture of  the  tendon of the  long head of  the biceps brachii,  surgical versus  nonsurgical  treatment.  Clin Ortho, 228:223─239, 1988. 

10) 三笠元彦:上腕二頭筋長頭腱断裂の手術法.MB Ortho, 8:65─71, 1995.

11) 太田晴康:上腕二頭筋長頭腱皮下断裂に対するKey hole tenodesisの小経験.関東整災誌,24:640─643, 1993.

12) 上野武久:上腕二頭筋長頭腱皮下断裂の治療法.臨床整形外科,12:438─441, 1977.

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はじめに

スポーツ活動中の足の痛みはよく遭遇する病態である.疲労骨折は,下肢に比較的多くみられ,足部では中足骨に最も多い.舟状骨疲労骨折は,1981年に田中 1)らが本邦で初めて1例報告して以来注目され,

現在では散見されるようになった.しかし,その視点で診察しなければ診断に至らない可能性がある.とくに初期の単純X線像では,診断が困難であり,いまだに診断に難渋するところである.治療法に関しては,保存的に骨癒合が得られる 2)と報告されているが,骨癒合率,その時期は報告によってさまざまである.周知のごとく,スポーツ選手にとって治

富田一誠〒135─8577 東京都江東区豊洲4─1─18昭和大学附属豊洲病院整形外科TEL 03─3534─1151

1)昭和大学附属豊洲病院整形外科 Department of Orthopedic Surgery, Showa University Toyosu Hospital

2)昭和大学医学部整形外科学教室 Department of Orthopedic Surgery, School of Medicine, Showa University 

3)昭和大学藤が丘リハビリテーション病院スポーツ整形外科 Department of Sports Medicine, Showa University Fujigaoka Rehabilitation Hospital

4)日本鋼管病院スポーツ整形外科 Department of Sports Medicine, Nihon Koukan Hospital

5)雨宮病院 Amemiya Hospital

スポーツ選手に発生した足舟状骨疲労骨折の手術経験Evaluation and Operative Treatment of Tarsal Navicular Stress Fracture

in Athletes

  富田 一誠1)  Kazunari Tomita  渡邊 幹彦2,4)  Mikihiko Watanabe  和田 一佐2)  Kazusa Wada  雨宮 雷太2,5)  Raita Amemiya  筒井 廣明3)  Hiroaki Tsutsui  稲垣 克記2)  Katunori Inagaki

● Key words足舟状骨,疲労骨折,スポーツ選手Tarsal navicular:Stress fracture:Athlete

●要旨スポーツ活動中に発生した足舟状骨疲労骨折5例の治療経験から,スポーツ選手に対する治療法を検討した.平均年齢18歳の競技レベル選手5例に,最終的に全例手術療法を行なった.3例の偽関節例には自家骨移植を行ない,平均3.8ヵ月で骨癒合が得られた.JOA scoreは術前平均75点から最終97点に改善し,全例元のスポーツレベルへ復帰した.早期に発見できた初期の疲労骨折は保存療法の選択も可能であるが,選手側の状況も考慮して,陳旧例や偽関節例に対しては,早期に確実な骨癒合を得るために積極的な手術療法が有用と考えた.

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0

療期間,復帰時期は重要な問題で,治療法選択時に悩むところである.今回スポーツ活動中に発生した足舟状骨疲労骨折

の治療を経験したので,その診断と治療結果を検証し,スポーツ選手に対する治療法の問題点を検討した.

対象と方法

スポーツ活動が原因で足に痛みがあり,当科および関連施設で足舟状骨疲労骨折と診断し,治療を行なった5例を対象とした.内訳は,男性4例,女性1例.平均年齢18歳(17〜20歳).右2足,左3足.平均観察期間22ヵ月(4ヵ月〜3年)であった(表1).その種目特性,画像診断,骨折型(Saxena分類 3)(表2)),発症から診断までの期間,治療方法とその結果,臨床成績(JOA score)について検討した.

結 果

競技とそのレベルは,高校野球1例,大学野球1例,大学駅伝1例,大学剣道1例,大学テニス1例であり,すべて競技会レベルであった.駅伝選手は,20km程度を連日練習で走りこんでいた.野球選手は1人が右投げピッチャーの軸足で,前方へ体重移動する際の蹴り足となり,もう1人の選手は走塁に特徴の

ある選手で,盗塁の際にベースを蹴ったり,ベースランニングの際にベースを踏んで方向を変え,次の塁の方向へ蹴り出す足であった.テニス選手は右打ちで,サーブや通常のストロークの際に重心をためて,一気に前方へ体重移動する際の蹴り足であり,フォアやバックでは,体重を支え踏ん張る足であった.剣道では,左足が体さばきの中心で,後方以外の方向への体重移動時に蹴る足であり,後方に下がってすぐに前方へ移動する際には,左足で反対方向へ運動エネルギーを変える重要な足である.いずれもその種目,ポジションの体重移動時の蹴り足側であり,その種目特性がみられた.初診時の単純X線像では,5例中発症後約2年経過した2例しか診断できず,発症約1〜2ヵ月の2例と約2年経過した1例は初診時には診断できなかった.単純CT検査では全例が診断できた.単純CT像によるSaxenaの骨折型では,TypeⅡが1例,TypeⅢが4例で進行例が多かった.全例明らかな外傷はなく,前医なく当科を初診したのが2例(発症から約1ヵ月が1例,約2年が1例)で,前医で診断がつかずに当科を受診したのが3例(発症から約2ヵ月後に当科を初診したのが1例で,約2年が2例)であった.前医では,異常なし,扁平足変化,捻挫などの診断を受けていた.当科の第1例目である駅伝選手は,Saxena分類のTypeⅡで,痛みが軽度であったために,走行フォームチェック,筋力トレーニング,関節可動域訓練,ランニング中止の保存療法を行なった.一時チーム練習に合流できたが,再び痛みが出現し画像上骨癒合が得られていなかったために,最終的に手術を行なった.その結果,全例観血的治療(Cannulated screw固定:2例,Headless screw固定:3例)を行ない,

    

表1 対象症例

症例 年齢 種目 受傷側 利き手 外傷歴発症から初診まで

初診時X線像

初診時単純CT像

Saxena分類

MRI像術前JOA

保存療法

手術療法

自家骨骨移植

免荷期間

骨癒合観察期間

最終JOA

1 19陸上(駅伝)

左 なし 1ヵ月 不明 疲労骨折 Ⅱ 疲労骨折 72 1年間screw固定

なし 1W 4M 36M 100

2 18野球(投手)

右右投右打

なし 約2年 偽関節 偽関節 Ⅲ 施行せず 83 なしscrew固定

腸骨 1W 5M 26M 100

3 17野球

(内野手)左

右投右打

なし 約2年 偽関節 偽関節 Ⅲ 施行せず 69 なしscrew固定

腸骨 2W 6M 19M 93

4 18 テニス 右 右打 なし 2ヵ月 不明 疲労骨折 Ⅲ 疲労骨折 83 なしscrew固定

なし 1W 2M 4M 100

5 20 剣道 左 なし 約2年 不明 偽関節 Ⅲ 偽関節 68 なしscrew固定

腸骨 2W 2M 24M 91

表2 Saxenaの分類Saxenaの分類

TypeⅠ invade only the dorsal navicular cortexTypeⅡ propagate into the navicular bodyTypeⅢ extend to a second cortex of the navicular

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1

偽関節例3例に腸骨より自家骨移植を行なった.平均3.8ヵ月(2〜6ヵ月)で全例骨癒合を獲得し,疼痛はなく,元のスポーツレベルへ復帰を果たした.JOA scoreは,術前75点から最終97点へ改善がみられ,とくに痛み,歩行能力,日常生活動作が改善した.

代表症例

20歳女性.高校3年生時に,剣道中に明らかな外傷はないが左足痛が出現し,その後も剣道はできたが痛みが継続していた.近医を受診し単純X線検査を受けたが,捻挫の診断であった.その後も剣道を続けると痛みが増悪し,少し休むと痛みは改善した.大学で剣道部に入ったが,正座ができず,痛みがあり,休みがちで1年の途中から剣道ができなくなり,2年の夏に当科を受診した.単純X線像では,舟状骨に骨棘があり,変形性距舟関節症をきたしていた.単純CT像で,舟状骨に大きなギャップを伴う偽関節を認めた(図1).舟状骨疲労骨折後の偽関節の診断のもと,腸骨から自家骨移植を行ない,Head-less screw 2本にて偽関節部を固定した.術後2週よりギプスにて縦横アーチを作成し,部分荷重を開始した.術後約2ヵ月で骨癒合を認め(図2),痛みなく荷重歩行が可能になり,剣道に復帰し,大学生最後の試合にも出場できた.剣道での左足は,前述のごとく,体さばきの中で非常に負担のかかる側である.

その際の左足には,足関節底屈運動だけでなく,軽度の足部回内,下腿外旋運動も含まれる.本患者はもともと構えた時点で下腿が外旋し,左足が開き気味であることを注意されていた.疲労骨折の方向が,背側から底外側に起こることは,こうした底屈運動に回内外旋運動が働いたためではないかと考えた.高校時代の毎日の稽古で,とくに正しくない足構えで繰り返したストレスが蓄積し疲労骨折を起こし,発見が遅れ偽関節に陥ったと考えた.

考 察

疲労骨折は骨の同一部位に繰り返しの最大下の外力によって正常骨組織の結合中断をきたすもの 4)であり,現在ではスポーツ界に広く認識されている.足舟状骨は,Orava 5)らが全疲労骨折の2.4%,Bennell 6)

らは,陸上競技選手全疲労骨折の15%と報告し,High risk stress fractureの1つとしてあげられている 7).しかし,本疲労骨折は診断が難しく,発症から診断までに時間を要する 8,9).原因としては,痛くても程度によっては運動することができ病院の受診が遅れる傾向にあることや,発症して10日から3週間後に単純X線上の変化が現れ 10),その診断率が18.2〜26%と低いこと 8,9,11)などがあげられる.われわれの経験でも,5例中3例が約1〜2年経過した陳旧例で,偽関節を呈していたのはOrava 5)らの報告と同様であった.

    

図1 20歳女性.術前画像所見

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舟状骨は,距骨骨頭を凹面で受け,長さ角度の違う第1・2中足骨,楔状骨を凸面で受け,さらに後脛骨筋が作用するため,その近位と遠位(地面)からねじれ力が作用する.また足の縦横アーチの頂点を形成し,力学的な要 “keystone”となる.一方,中央1/3の血行が比較的粗であり 12),形状と血流分布から中央1/3は解剖学的弱点であるといえる.足の回外から回内への運動で,水平断では,5〜10°内側から外側へ,矢状断で約45°下方へスライドするといわれ,これらの解剖学的特徴は,ほとんどの疲労骨折が近位背側骨皮質から後外側へ骨折線が生じることと一致する.蹴り出し,ジャンプ動作で,Shear stress 13,14),Impingement force 15)などと表現される力が,同一部に繰り返し集中するために舟状骨疲労骨折が発生すると考えられる.診断に関して,何よりその病歴から疑う目が必要

である.Khan 11)らは,舟状骨上長母趾伸筋腱内側の圧痛点をN─Spotと称し,Fitch 13)らは,舟状骨背側外側半分の圧痛点の重要性を報告した.単純X線では診断が困難であり,筆者もKiss 16)や横江 9)らの提唱するようにCT検査が非常に有用と考える.CT画像によりその病期と治療方針を決定することができる.MRI検査,核医学検査などは,必ずしも必要な検査ではないが,偽関節部の状態を評価して骨移植が必要か否かの判断材料にはなるだろう.足舟状骨疲労骨折に対する保存療法は,活動を制

限するだけでは不十分であり 17),6〜8週間の免荷が

必要であるといわれ,Khan 2)らをはじめ多くの論文が保存療法による良好な成績を報告している.われわれは,mal─use, overuseで疲労骨折が発生すると考え,初期に前述のような保存療法を行なっていたが,骨癒合が得られなかった.毎日20km走っているような選手が2ヵ月間免荷することは受け入れ難いことであり,それを説得するに十分な根拠が必要となる.一方で Fitch 13)らは,強く手術療法を勧め,Sexena 3)らや Coris 15)らは,保存療法に比べ手術療法のほうがスポーツ復帰が早かったと報告した.骨癒合が得られなかった症例は,過去の報告で保存療法に多かった.Torgらは,31の論文と23のレポートのレビューから,免荷による保存療法と手術療法に治療成績,復帰までの時間に差はなく,手術療法の優位な点はみられなかった 17)とまとめているが,データ内の骨折型と病期が不詳であり,全舟状骨疲労骨折の治療成績や復帰の時期に差がないかは疑問が残る.治療方法を決めるうえで,スポーツ選手かどうか,

その競技レベルがどうかは重要な要素である.スポーツ選手の治療法を考える場合には,たとえば大学1年生と3年生では選手環境が違い,治療に費やせる時間やタイミングが異なる.選手側の社会的状況も考慮する必要があると考える.われわれが経験したような,骨癒合の遷延例は避けたい.現在のスポーツ選手に対する治療法は,新鮮なSexena分類 TypeⅠ・IIでは,まず6週間のギプス

    

図2 術後画像所見

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固定免荷歩行による保存療法を行ない,画像上骨癒合を認めなければ,すみやかに手術療法へ移行する.TypeⅢ,陳旧例(TypeⅠ・IIも含めて),偽関節例に対しては,積極的に手術療法を勧めたいと考えている.骨硬化しているような偽関節例では,骨移植が必要である.スポーツ選手に対しては,積極的な手術療法により,免荷期間を短縮し,早期に確実な競技復帰を実現できるように治療を進めていきたい.今後症例を増やし,早期のスポーツ復帰の方法を探求し,長期観察により再発や二次性変化の有無などにも着目していきたい.

ま と め

1. スポーツ選手の足舟状骨疲労骨折5例の治療成績について検討した.

2. 1例は1年間のスポーツ制限の保存療法で骨癒合が得られなかった.

3. 3例の偽関節に対する自家骨移植術を含む,5例のスクリュー固定による手術療法にて全例骨癒合が得られ,元のスポーツレベルに復帰できた.

4. 早期に診断することが最も重要で,CT検査が有用であった.

5. 陳旧例,偽関節例などは,選手の状況も考慮し,積極的に手術療法を行なうことですみやかなスポーツ復帰が期待できる.

文 献

1) 田中稲見ほか:足の舟状骨の疲労骨折の1例.東北整災紀要,24:24─31,1981.

2) Khan KM et al:Outcome of conservative and surgical management of navicular stress  frac-ture in athletes. 86cases proven with computer-ized tomography. Am J Sports Med, 20:657─666, 1992.

3)  Saxena A et al:Navicular Stress Fractures:A Prospective Study on Athletes. Foot Ankle Int, 27:917─921, 2006. 

4) 藤巻悦夫:疲労骨折の発生とバイオメカニクス.臨スポーツ医,10:873─881,1993.

5) Orava S et al:Delayed Unions and Nonunions 

of Stress Fractures  in Athletes. Am J Sports Med, 16:378─382, 1988.

6) Bennell KL et al:The Incidence and Distribu-tion of Stress Fractures in competitive Track and Field Athletes. A Twelve─month prospec-tive Study. Am J Sports Med,  24:211─217, 1996.

7) McBryde AM:Stress Fractures.  In:Baxter DE, ed. The Foot and Ankle in Sport. Mosby─Year Book, St Louis, MO:81─93, 1995. 

8) Torg JS et al:Stress Fractures of the Tarsal Navicular. A Retrospective Review of Twenty─one cases.  J Bone Joint Surg, 64A:700─712, 1982.

9) 横江清司ほか:足舟状骨疲労骨折の診断と治療.整スポ会誌,21:58─63,2001.

10) Goergen TG et  al:Tarsal Navicular Stress Fractures. Am J Roentgenology, 136:201─203, 1981.

11) Khan KN, et al:Clinical sports medicine. Syd-ney:467─469, 1993.

12) Waugh W:The ossification and Vasculariza-tion of  the Tarsal Navicular and  their Rela-tionship to Kohler’s Disease. J Bone Joint Surg, 40B:765─777, 1958.

13) Fitch KD et al:Operation  for Non─union of Stress Fracture  of  the Tarsal Navicular.  J Bone Joint Surg, 71B:105─110, 1989.

14) Mann JA et al:Evaluation and Treatment of Navicular  Stress Fractures,  Including Non-unions, Reviosion Surgery, and Persistent Pain after Treatment. Foot Ankle Clin N Am, 14:187─204, 2009.

15) Coris EE et al:Tarsal Navicular Stress Frac-tures. Am Fam Physician, 67:85─90, 2003.

16) Kiss ZS et al:Stress Fractures of the Tarsal Navicular Bone:CT Findings in 55 cases. Am J Roentgenology, 160:111─115, 1993.

17) Torg JS et al:Management of Tarsal Navicu-lar  StressFractures:Conservative Versus Surgical Treatment:A Meta─Analysis. Am J Sports Med, 38:1048─1053, 2010.

     7

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     88

はじめに

スポーツ選手において大腿ハムストリングの肉離れはよくみられるが,多くは筋肉内の損傷や筋腱移行部での損傷であり,腱断裂が起こることは少ない 1).そのなかでも半腱様筋腱遠位の腱断裂の報告はまれである.今回われわれはプロサッカー選手に生じた半腱様筋腱遠位付着部での腱断裂を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

症 例

症例:25歳男性 J1リーグ所属プロサッカー選手主訴:左大腿後面痛現病歴:2009年8月公式戦の試合中ダッシュをして方向転換時に左下肢を股関節屈曲,膝関節伸展位で着地した際に,左大腿後面中央から遠位部にブチッとした感じと強い痛みが出現しプレー不可能となり交代した.受傷時身体所見:左大腿後面中央内側から遠位膝窩部にかけて強い圧痛と腫脹を認めた.

高木 博昭和大学藤が丘病院整形外科〒227─8501 横浜市青葉区藤が丘1─30TEL 045─974─6365/FAX 045─974─4610

1)昭和大学藤が丘病院整形外科 Department of Orthopaedic Surgery Showa University Fujigaoka Hospital 

2)浦和レッドダイヤモンズ Urawa Red Diamonds 

プロサッカー選手に生じた 半腱様筋腱遠位部腱断裂の1例

Distal Semitendinosus Tendon Rupture in Professional Football Player:A Case Report

  高木  博1)  Hiroshi Takagi  仁賀 定雄2)  Sadao Niga

● Key wordsSemitendinosus:Tendon rupture:Football

●要旨スポーツ選手において大腿ハムストリングの肉離れはよくみられるが,多くは筋肉内の損傷や筋腱移行部での損傷であり半腱様筋腱遠位部腱断裂の報告は非常にまれである.今回われわれは男性プロサッカー選手に生じた半腱様筋腱遠位部腱断裂で,痛みが残存した症例を経験した.残存する痛みの原因は,半腱様筋および腱の短縮ための機能不全が考えられた.体幹と下肢協調運動および筋力トレーニングとランニングフォームの改善を中心にした運動療法を行なうことによって,ハムストリング全体の機能が改善され痛みがなくなり,サッカーに復帰可能となった.

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受傷翌日MRI所見:半腱様筋内から遠位の筋腱移行部に,T2脂肪抑制冠状断像において大腿中央から下腿内側まで広範囲の高信号域を認めた(図1─a).T2脂肪抑制軸位断像では健側半腱様筋部と比較すると,患側半腱様筋があるべき遠位部分は高信号域になっていた.この画像をretrospectiveに見直すと,高信号域中央に腱成分と考えられる低信号域が認められている(図1─b).

治療経過

半腱様筋の筋肉および筋腱移行部の損傷と診断し治療を開始した.受傷後3週までは患部安静のうえ,患部外の股関節・体幹筋力トレーニングを行なった.受傷3週以降に患部ストレッチとアイソメトリックでの筋力トレーニングを開始した.受傷6週MRIでは高信号域は縮小するも残存していたが,症状はなくなっておりジョギングを開始した.受傷8週のMRIにて高信号域のさらなる縮小(図2─a,b)と腱成分と考えられる低信号域を認め(図2─b,c),スパイク装着しランニングを開始した.この時点では腱成分と考えられる低信号域は,血腫の減少と筋腱移行部の修復により認められ,損傷した腱成分は

修復してきたと考えていた.その後約2週間(受傷2ヵ月半程度)で練習に合流した.合流1ヵ月後の試合にて同側の半膜様筋膜の損傷で1ヵ月離脱した.翌シーズン開始直後1月に左膝窩内側後面の痛みで2週間離脱した.3月にも同部に痛みが再発し離脱した.このころからランニングのペースを上げると膝窩下腿後面と坐骨結節からハムストリング共同腱部に痛みが生じるため練習復帰が困難になった.7月に共著者である他 J1クラブチームドクターに相談し診察を受けた.前年8月からの経過とMRIを ret-rospectiveに再評価して,初回受傷が半腱様筋腱の遠位部腱完全断裂であったことを指摘された.2010年7月のMRIにて半腱様筋腱は肥厚し断端が短縮したまま膝窩内側に癒着し,半腱様筋自体も短縮していた(図3─a,b,c).痛みは筋自体および腱成分の短縮治癒のための半腱様筋の機能不全が原因で起こっていると考えた.すなわち半腱様筋機能不全が存在するため,坐骨結節からハムストリング近位共同腱部と膝窩下腿後面の腱が短縮し癒着した部分に負荷が集中し,痛みを生ずると思われた.また機能不全によるランニングフォームの乱れも二次的に生じており,ランニング時に骨盤の左への回旋運動が少なくなっていた.したがって,体幹と下肢を連動して動作する協調運動および eccentricなハムストリング

     8

図1 受傷翌日 MRI所見a. 半腱様筋内から筋腱移行部に,近位は大腿中央から遠位は下腿内側まで

広範囲の高信号域を認める.b. 健側半腱様筋部と比較し,患側半腱様筋遠位部は高信号域になっている

(点線円内).この画像を retrospectiveに見直すと,高信号域中央に腱成分と考えられる低信号域が認められている(矢印).

a

T2脂肪抑制冠状断像 T2脂肪抑制軸位断像

b

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筋力トレーニング(図4─a,b)にて,ハムストリング全体の機能向上を目的とした運動療法を開始した.また上下肢と骨盤回旋が連動したランニングフォームを指導した.協調運動が容易にできるようになり,さらにランニングフォームも改善することに伴い痛

みは軽減し,8月末に練習合流,9月中旬の受傷13ヵ月で試合に再復帰した.再復帰後の1ヵ月間で公式戦4ゴールした.その後症状の再発なく,経過は良好である.

    

図2 受傷8週 MRIa.高信号域の縮小を認める(円内).b.高信号域の縮小を認め(円内),腱成分と考えられる低信号域を認める(矢印).

T2脂肪抑制軸位断像 T2脂肪抑制冠状断像 T1冠状断像

a b c

図3 受傷11ヵ月 MRIa. 健側に比して肥厚した半腱様筋腱を認め(矢印),半腱様筋の短縮が認められる

(矢頭).(点線は図3bのレベル,実線は図3cのレベルを示す.)b. 同レベルの健側で認められる半腱様筋は患側には認められず(点線円内),肥厚

した腱成分が認められる(矢印).c. 遠位では同レベルの健側に認められる半腱様筋腱(矢印)が患側には認められて

いない.

a

b

cプロトン冠状断像

プロトン軸位断像

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考 察

大腿ハムストリングの肉離れはスポーツ選手において多く認められるが,多くは筋肉内の損傷や筋腱移行部での損傷であり,腱の完全断裂は少ない.中川ら 2)は近位共同腱断裂の手術例を報告している.また大腿二頭筋腱の遠位付着部の腱損傷の報告 3,4)も散見される.しかし半腱様筋腱の遠位部腱断裂の報告は極めてまれであり,われわれの渉猟した範囲では邦文での報告はなく,英文で3つの報告 5〜7)で,計31症例が認められたのみであった.報告例はすべてプロレベルのスポーツ選手であり,種目はサッカー,ラグビー,アメリカンフットボール,ホッケー,野球であった.受傷起点はランニングやスプリントなどであり,その肢位までの詳しい記述はなかった.大腿ハムストリングに強い力がかかる肢位は,本症例のように股関節屈曲,膝関節伸展位である.ランニングやジャンプの着地などでのこの肢位における eccentricな自家筋力により筋腱損傷が発生すると考えられる 8).本症例を含め半腱

様筋腱遠位部の腱断裂はプロレベルの選手の報告しかないことより,半腱様筋腱遠位部の腱断裂が生じるためには,トップアスリートがもつ強い自家筋力が関連している可能性が考えられた.さらに筋肉や筋腱移行部の損傷でなく腱断裂が生ずるのは,本症例のように急なストップや方向転換により瞬間的に腱を牽引する大きな力が生ずるためではないかと思われた.治療は保存療法と手術療法が報告されている.保存療法は安静の後,筋力トレーニングを行なってスポーツ復帰をさせたと記述されている.手術療法は損傷した半腱様筋腱の tenotomyが報告されている.Tenotomyによる治療を初めて報告したのは Schil-

dersら 5)である.保存療法にて症状が続いていた4症例に対して,肥厚して短縮した半腱様筋腱が痛みの原因となっていると判断し,肥厚した腱そのものを切除して症状をとる目的で施行している.その発想の原点は,前十字靱帯再建術の際に半腱様筋腱を採取しても,術後その部位に問題が出ることはなくスポーツに復帰しているということであったと述べている.彼らはTenotomyにて全員が問題なくスポ

    

図4 体幹・下肢協調運動,筋力トレーニングa.片足立ち体幹移動訓練b.バランスボールを用いた体幹・下肢協調運動,筋力トレーニング

a b

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ーツ復帰したと報告した.Sekhonら 6)は保存療法で問題なくスポーツ復帰し

たと報告しているが,Schildersら 5)や Cooperら 7)は保存療法では治療成績が不良であるため手術療法を勧めている.さらにCooperらは25例の自験例の治療結果から,新鮮例においても手術をすべきであると述べている.本症例においては,当初筋腱移行部の損傷と考え,安静の後筋力トレーニングを行ない,サッカーに必要な動きを確認して練習に復帰する従来通りの保存療法にて加療を行なった.その結果,いったん競技には復帰できたが,半腱様筋と腱の短縮および周囲への癒着のための機能不全の状態となり,ハムストリングに負荷がかかると痛みが生ずるようになったと考えられた.この状態を改善するために,体幹と下肢協調運動および eccentricな筋力トレーニングなどの運動療法が必要となった.施行した運動の中心は,マーカーを用いた片足立ちでの体幹移動訓練とバランスボールを用いた体幹・下肢協調運動および筋力トレーニングである.どちらも半腱様筋の機能不全を単独で改善させる目的ではなく,ハムストリング全体としての機能を改善するための,全身協調運動となっている.他の報告やわれわれが当初施行した,安静の後筋力トレーニングを行ないスポーツに必要な動きを確認して練習に復帰する従来通りの保存療法では,半腱様筋および腱の短縮ための機能不全の状態は改善されず,痛みが残存したのではないかと考えられた.今回筆者は,受傷直後のMRIにおいての高信号域を筋肉自体の出血と判断してしまった.しかしのちほど retrospectiveに検討すれば,損傷を受けた腱自体が短縮して肥厚していること,遠位部で腱の連続性が失われていることが確認できた.出血が大量にあって筋・腱の形状を見極めにくい場合は,初回撮影のみで腱性部損傷の診断をすることは難しい.したがって,初回撮影時の画像および受傷機転,理学

所見などから腱性部損傷の疑いがある場合は,経時的にMRI画像を確認し,出血が引いた時点での筋・腱の形状や損傷部分の短縮・肥厚などの所見を注意深く見て判断していくことが必要であると考えている.

文 献

1) 奥脇 透:ハムストリング肉離れ.臨スポーツ医,25:93─98,2008.

2) 中川祐介ほか:プロサッカー選手に生じたハムストリング腱断裂・筋腱移行部損傷・腱膜損傷の検討.JOSKAS,35:696─704,2010.

3) Fortems Y et al:Isolated complete rupure of biceps  femoris  tendon.  Injury,  26:275─276, 1995.

4) Kusma M et al:Isolated avulsion of  the bi-ceps  femoris  insertion─injury patterns  and treatment options:a case report and  litera-ture review. Arch Orthop Trauma Surg, 127:770─780, 2007.

5)  Schilders E et al:Partial rupture of the distal semitendinosus tendon treated by tenotomy  ─A previously undescribed entity. The Knee, 13:45─47, 2006.

6)  Sekhon JS et al:Rupture of  the distal  semi-tendinosus  tendon –A report of  two cases  in professional Athletes.  J Knee Surg, 20:147─150, 2007.

7) Cooper DE et al:Distal semitendinosus rup-tures in elite─level athletes –Low success rate of nonoperayive treatment. Am J Sports Med, 38:1174─1178, 2010. 

8) 仁賀定雄ほか:肉離れの発生機序(サッカー).MB Orthop,23(12):15─25,2010.

    


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