2019/08/13慈恵ICU勉強会古賀 貴博
IVCを見て輸液を判断してもいいのか?
動機
・以前からエコーに興味があった(特に心エコー).
・血圧が低い + IVC虚脱があれば輸液を行い, 血圧が上昇することが多かった.
・IVCが拡張していれば, ボリュームが多いと考えて利尿薬を投与していた(心不全が多い).
・日々の診療でIVCを用いることが多かったが, これは正しいのか?
はじめに
・重症患者では, 絶対的・相対的にボリュームが低下している.(敗血症, 出血, アナフィラキシーなど)
Orso D, et al. Intensive Care Med. 2018; 5: 1-10
・不十分もしくは過剰な輸液は有害である.Ansari B.M, et al. Anaesthesia. 2016; 71: 94-105
・ショック(心原性ショックを除く, 特に敗血症性ショック)の蘇生期において, 輸液投与はfirst-lineの治療法である.
Jozwiak M, et al. Ann Transl Med. 2018; 6(18): 352-362
過剰輸液の弊害
・重症患者における過剰輸液は, 人工呼吸期間を延長させ, 死亡率も上昇させる.
Monnet X, et al. Ann Intensive Care. 2016; 111
・特に敗血症1), 急性肺障害2), 腹腔内圧亢進3), AKI4)で死亡率が上昇する.
1)Micek ST, et al. Crit Care. 2013; 17: R246
2)Murphy CV, et al. Chest. 2009; 136: 102-9
3)Kirkpatrick AW, et al. Intensive Care Med. 2013; 39: 1190-206
4)Payen D, et al. Crit Care. 2008; 12: R74
・ICU入室後72時間で1L/日のプラスバランスは, 死亡率を10%上昇させる.
Wiedemann HP, et al. N Engl J Med. 2006; 354: 2564-2575
・輸液不足は組織低灌流を引き起こし, 臓器機能を悪化させる.
・積極的に輸液することで組織低酸素や臓器不全の進行を改善させ,28日死亡率を改善させる.
Marik PE, et al. Ann Intensive Care. 2011; 1: 1-9
輸液不足の弊害
Levy MM, et al. Chest. 2004; 124(suppl): 120S
Lopes MR, et al. Crit Care. 2007; 11: R100
・ハイリスク手術が行われた患者に対し, 輸液で心拍出量を保つことで術後合併症や入院日数を減らす.
Kalantari K, et al. Kidney International. 2013; 83: 1017-28
輸液負荷の有効性を正確に予想できるツールが必要である→Swan-Ganz catheterを用いたPAWPやCVPが登場した
・中心静脈圧(central venous pressure: CVP)・肺動脈楔入圧(pulmonary artery wedge pressure: PAWP)
→陽性的中率: 47%(CVP), 54%(PAWP)と有効性が乏しいOsman D, et al. Crit Care Med. 2007; 35:64-8
しかし
非侵襲的なエコーが広く用いられるようになった
1980年代より敗血症患者を中心に, ICUでエコーが使用され始めた.
強心薬に依存しているseptic shock + septic cardiomyopathy例に繰り返しエコーを行って救命できた.Ozier Y, et al. Crit Care Med. 1984; 12(7): 596-9
Predicting fluid responsiveness with echocardiography・LV/RV size・LVEDP(MV inflow)・LVOT VTI variation・IVC size/IVC diameter variation → 容易に習得でき, 再現性あり
Dopplerを用いるので術者間で差が出る
IVC径/呼吸性変動と輸液反応性の関係を観察した研究が多く発表された
本日の内容
①輸液反応性について
②IVCを用いた輸液反応性の予測
③他の輸液反応性の予測方法
④臨床的意義
-IVCは輸液反応性を予測できるか?-輸液反応性があれば輸液をするべきなのか?
本日の内容
①輸液反応性について
②IVCを用いた輸液反応性の予測
③他の輸液反応性の予測方法
④臨床的意義
-IVCは輸液反応性を予測できるか?-輸液反応性があれば輸液をするべきなのか?
輸液反応性とは
・輸液負荷より1回心拍出量(SV)または心拍出量(CO)が10~15%以上増加すること.
Cecconi M, et al. Curr Opin Crit Care. 2011; 17: 290-295
・血圧の変化はあてにできない.Pierrakos C, et al. Intensive Care Med. 2012; 38: 422-428
・左室収縮能が低下するほど輸液反応性は悪くなる.Monnet X, et al. Ann Intensive Care. 2016; 6: 111-21
Marik PE, et al. British Journal of Anaesthesia. 2014; 112(4): 617-20
Frank-Starling曲線とMarik-Phillips曲線(前負荷-肺血管外水分量曲線)
左方移動する
ーーーーーー
ーーーーー
a: 輸液負荷でCO増加は大きく, 肺血管外への水分の漏出は少ない
Extravascular lung water(EVLW): 肺血管外水分量
b: 輸液負荷でCO増加は小さく, 肺血管外への水分の漏出は多い
ARDS,膵炎, 熱傷*
*Lee WL, et al. N Engl J Med. 2010; 363: 689-91
ーーーーー
本日の内容
①輸液反応性について
②IVCを用いた輸液反応性の予測
③他の輸液反応性の予測方法
④臨床的意義
・IVCは輸液反応性を予測できるか?・輸液反応性があれば輸液をするべきなのか?
IVCはコンプライアンスの良い血管であり, 特に拡張しやすい.特にhypovolemia症例で見られる.
Comolet R. Abrege Masson. 1984: 36-53
Barbier C. Intensive Care Med. 2004; 30(9): 1740-1746
Barbier C. Intensive Care Med. 2004; 30(9): 1740-1746
【目的】人工呼吸患者のIVC呼吸性変動(dIVC)は, 輸液負荷の効果を予測できるか.
【方法】単施設前向き研究, 23人のICU患者(>18歳), 敗血症性ショックsBP<90mmHg呼吸器: TV 8.5±1.5 ml/kg, PEEP 4±2 cmH2O, plateau pressure 15±2 cmH2Oデキストラン 7ml/kg投与30分後にIVC呼吸性変動を測定する.IVC: 肝静脈より上流で測定する dIVC=(IVCmax-IVCmin)/IVCminResponder; fluid expansionでCI≧15% Nonresponder; fluid expansionでCI<15%
輸液負荷前
dIVC閾値: >18%感度: 90%, 特異度: 90%陽性尤度比: 9.0, 陰性尤度比: 0.11
AUC(dIVC): 0.91±0.07
AUC(CVP): 0.57±0.13
エコーでのIVC評価に影響を与える10の因子
Via G, et al. Intensive Care Med. 2016; 42: 1164-1167
呼吸器設定
呼吸努力
肺の過膨張
<8ml/kg
Via G, et al. Intensive Care Med. 2016; 42: 1164-1167
腹腔内圧上昇
心タンポナーデ
右室梗塞
右心機能, 重症TR
血栓, 機械的圧迫, ECMO, IVCFなど
影響因子ごとに考えると, IVCは輸液反応性の予測に有用なのか?
人工呼吸
Xiang S, et al. Anesth Analg. 2018; 127(5): 1157-1164
【データ】Medline, Embase, Cochrane Library, Web of Science database(English)【研究】12研究(n=753)
共通sBP<90mmHg尿量低下末梢冷感網状皮疹
敗血症 58%血管作動薬 76%
感度: 0.73(95% CI, 0.60-0.84)特異度: 0.82(95% CI, 0.69-0.91)AUC: 0.85(95% CI, 0.81-0.88)
TV≧8ml/kg, PEEP≦5cmH2O全体 TV<8ml/kg, PEEP>5cmH2O
感度: 0.80(95% CI, 0.69-0.88)特異度: 0.94(95% CI, 0.77-0.99)AUC: 0.88(95% CI, 0.85-0.90)
感度: 0.66(95% CI, 0.41-0.85)特異度: 0.68(95% CI, 0.61-0.75)AUC: 0.70(95% CI, 0.66-0.74)
サブグループ解析:TV≧8ml/kg, PEEP≦5cmH2OであればΔIVCは輸液反応性を予測できる.
TV≧8ml/kg, PEEP≦5cmH2O➣ΔIVC >16%±2%
TV<8ml/kg, PEEP>5cmH2O➣ΔIVC >14%±5%
自発呼吸
Airapetian N, et al. Critical Care. 2015; 19: 400-7
【目的】自発呼吸患者において, IVC径とIVC呼吸性変動(cIVC)は輸液反応性を予測できるか.
【方法】2ICU, 前向き, 59人の自発呼吸がある患者循環不全の徴候(sBP<90mmHg, 頻拍, 斑状皮疹), 尿量<20ml/h or 0.5ml/kg/h, AKI,L/Dで細胞外脱水仰臥位でTTE用いてbaselineのVTI, SV, CO, IVC径, IVC呼吸性変動を測定し, PLR2分後に再測定, 仰臥位に戻して生理食塩水500ml投与した15分後に再測定する.IVC: 右房から2cmで測定する cIVC=(IVCmax-IVCmin)/IVCmaxResponder; fluid expansionでCO≧10% Nonresponder; fluid expansionでCO<10%
baseline・IVCmin; Responders < Nonresponders・cIVC; Responders > Nonresponders
PLR後と輸液負荷後のCO変化だけが相関関係あり
baselineでcIVC>42%は特異度(97%), 陽性的中率(90%)高いが, 感度(31%)が低い.
49%
腹腔内圧
【目的】呼気終末IVC径(IVCEE)は輸液反応性を予測できるか.腹腔内圧(IAP)の関与はどうか.
【方法】5ICU, 前向き, 540人(117人がIVCEE得られず除外)の人工呼吸患者, ショック原因は様々低血圧(sBP<90mmHg or MAP<65mmHg), 組織低灌流の徴候あり, 代謝性アシドーシス(pH<7.35, BE<-5mmol/l), Lac>2mmol/l, ScvO2<70%TTEでbaselineのIVCEE, VTI, IAPを測定し, PLR1分後にVTI≧10%上昇で輸液反応性あり.IVC: 右房から2cmで測定する
Vieillard-Baron A , et al. Intensive Care Med. 2018; 44: 197-203
輸液反応性あり:172人(41%)
IAP: 10(7-13) mmHgPEEP: 5(3-7) cmH2O
IAP≧12mmHg: 129人(30%)
15%
輸液反応性と関連性乏しい
AUC: 0.662 AUC: 0.570AUC: 0.620
IVCEE
輸液反応性は予測できない
不整脈
【目的】不整脈+自発呼吸患者で, IVC径, IVC呼吸性変動(cIVC)は輸液反応性を予測できるか.
【方法】2ICU, 前向き, 自発呼吸のある55人の不整脈患者(29人: af, 26人: PAC >6/min), sepsis 低血圧(sBP<90mmHg, 高血圧が併存している場合はbaselineから>40mmHg低下),尿量<0.5ml/kg/hが1時間以上, HR>100/min, 斑状皮疹TTEでbaselineのIVC径, cIVC, VTIを測定し, 4% gelatin 500ml投与30分後に再測定する.IVC: 肝静脈-IVC合流部から1.5-2cmで測定する or 右房から3-4cmで測定するcIVC=(IVCmax-IVCmin)/IVCmaxResponder; fluid expansionでVTI≧10% Nonresponder; fluid expansionでVTI<10%
Bortolotti P, et al. Ann Intensive Care. 2018; 8: 79-90
standardized inspiration: 深吸気(-5 to -10mmH2O), <5秒
Preau S, et al. Crit Care Med. 2017; 45(3): e290-e297
cIVC-st
iIVC-sp
cIVC-sp
iIVC-st
cIVC-st
iIVC-st
cIVC-sp
iIVC-sp
cIVC-st iIVC-st cIVC-sp iIVC-sp
閾値 ≧39% <11mm ≧37% <14mm
感度 93% 83% 66% 79%
特異度 88% 88% 85% 81%
陽性反応的中率
89% 87% 80% 78%
陰性反応的中率
93% 84% 70% 82%
AUC 0.93 0.93 0.82 0.86
gray zone 39-48% 9-13mm
↓ ↓
↓ ↓
53%
人工呼吸器 自発呼吸
腹腔内圧 不整脈(af, PAC>6/min)
Meta-analysis(設定: TV≧8ml/kg, PEEP≦5cmH2O)
ΔIVC: >16%
感度80%,特異度94%, AUC: 0.88
Anesth Analg. 2018; 127(5): 1157-1164 Critical Care. 2015; 19: 400-7
介入前のΔIVC: >42%
感度31%,特異度97%陽性的中率90%, 陰性的中率59%AUC: 0.62
輸液反応性を予測できる輸液反応性を予測できない
Intensive Care Med. 2018; 44: 197-203
介入前のIVCEE: ≦13%
感度24.4%,特異度≧80%, 陽性的中率67.7%, 陰性的中率64%AUC: 0.57
輸液反応性を予測できない
(IAP≧12mmHg)
介入前のcIVC-st: ≧39%, iIVC-st: <11mm
輸液反応性を予測できるが, 現実的ではない Ann Intensive Care. 2018; 8: 79-90
(深吸気, <5s) (自発呼吸)
感度93%,特異度88%, 陽性的中率89%, 陰性的中率93%AUC: 0.93感度83%,特異度88%, 陽性的中率87%, 陰性的中率84%AUC: 0.93
cIVC-st
iIVC-st
輸液反応性を予測できない
介入前のcIVC-sp: ≧37%, iIVC-sp: <14mm
感度66%,特異度85%, 陽性的中率80%, 陰性的中率70%AUC: 0.82感度79%,特異度81%, 陽性的中率78%, 陰性的中率82%AUC: 0.86
cIVC-sp
iIVC-sp
本日の内容
①輸液反応性について
②IVCを用いた輸液反応性の予測
③他の輸液反応性の予測方法
④臨床的意義
-IVCは輸液反応性を予測できるか?-輸液反応性があれば輸液をするべきなのか?
輸液反応性の予測方法
静的指標
人工呼吸管理中のheart-lung interactionを用いた動的指標
輸液チャレンジ
Marik PE, et al. British Journal of Anaesthesia. 2014; 112(4): 617-20
SVC
Charbonneau H, et al. Critical Care. 2014; 18: 473-481
【目的】SVC呼吸性変動(ΔSVC)とIVC呼吸性変動(ΔIVC)の輸液反応性を比較する.
【方法】単施設前向き, ICU, 人工呼吸管理(VC, TV 8-10ml/kg)されたseptic shock患者44人循環不全(低血圧, 尿量低下, 頻拍, 網状皮疹), 臓器不全(肝・腎機能障害, 乳酸アシドーシス)7ml/kgの6%ヒドロキシエチルデンプンを15分で投与し, その前後でパラメーターを測定するIVC: TTEで肝静脈-IVC合流部のすぐ上で測定する ΔIVC=(IVCmax-IVCmin)/IVCminSVC: TEEで測定する ΔSVC=(SVCmax-SVCmin)/SVCmaxResponder; fluid expansionでCI≧15% Nonresponder; fluid expansionでCI<15%
IVC
SVC
59%
ΔSVC閾値: >29%感度: 54%(95% CI, 35-73)特異度: 94%(95% CI, 83-105)
NR: nonrespondersR: responders
NR: nonrespondersR: responders
Intensive Care Med. 2004; 30: 1734-1739ΔSVC閾値: >36%
感度: 42%(95% CI, 23-61)特異度: 100%(95% CI, 100-100)陽性的中率: 100%(95% CI, 100-100)陰性的中率: 55%(95% CI, 38-72)
ΔIVC閾値: >21%感度: 38%(95% CI, 19-57)特異度: 61%(95% CI, 38-84)
ΔSVCAUC: 0.74(95% CI, 0.59-0.88)
ΔIVCAUC: 0.43(95% CI, 0.25-0.61)
ΔSVCのほうが輸液反応性を予測できる.ΔSVCは輸液反応性の予測が難しい.
デメリット経食道心エコーが必要である.
right parasternal view
supraclavicular view
Arisha MJ, et al. Echocardiography. 2017; 34: 1919-1929
Kosaka M, et al. J Vasc Access. 2019; 20: 19-23
Ugalde D, et al. Intensive Care Med. 2019; 45: 1052-1054
方法1. 第2-4肋間, 左傍胸骨にあてる2. マーカーを頭側へ向ける3. 矢状方向から冠状方向へ30-45°傾ける
大動脈
SVCCV
*攪拌した生食
SVC呼吸性変動
66人にTTE施行し, 77%でSVCを観察できた.(BMI低い, COPDは観察困難)
SVC呼吸性変動を16人で比較した.➣TTEとTEEは有意に相関関係あり.
(p<0.001, r2=0.9425)
TEEなしでSVCを評価できる可能性あり
Jugular vein
Guarracino F, et al. Critical Care. 2014; 18: 647-654
【目的】内頸静脈(IJV)の呼吸性変動は輸液反応性を予測するのに効果的か.
【方法】単施設前向き研究, 人工呼吸器管理された敗血症患者50人呼吸器設定: Pplat <30cmH2O(中央値20), TV 6-8ml/kg, PEEP 6cmH2O(中央値6)7ml/kgの晶質液を30分で投与し, その前後でパラメーターを測定するIJV: 半臥位(ヘッドアップ30°), 輪状軟骨レベル, プローベで圧迫しないように計測するIJV distensibility=(吸気時の最大径-呼気時の最小径)/呼気時の最小径Responder; fluid expansionでCI≧15% Nonresponder; fluid expansionでCI<15%
Responders: n=30(60%)
T0:輸液負荷前T1: 輸液負荷後
IJV distensibility閾値: >18%感度: 80%(95% CI, 61.4-92.3)特異度: 95%(95% CI, 75.1-99.9)
PPV閾値: >12.5%感度: 96%(95% CI, 82.8-99.9)特異度: 55%(95% CI, 31.5-76.9)
IJV distensibilityAUC: 0.915(95% CI, 0.801-0.975)
PPVAUC: 0.852(95% CI, 0.723-0.936)
IJV呼吸性変動は輸液反応性を予測できる.
IJV distensibity >9.9% + PPV >12% → 感度: 100%, 特異度: 95%
IJV distensibityとPPVを組み合わせることでさらに輸液反応性を予測できる
本日の内容
①輸液反応性について
②IVCを用いた輸液反応性の予測
③他の輸液反応性の予測方法
④臨床的意義
-IVCは輸液反応性を予測できるか?-輸液反応性があれば輸液をするべきなのか?
IVCは輸液反応性を予測できるか?
・人工呼吸患者のみIVCを見て輸液を判断できる可能性あり.IVC
・経胸壁心エコーでもSVCを観察できるという論文もあり.
・ΔIVCより輸液反応性を予想できるが, ΔSVCの診断精度は低い.SVC
・経食道心エコーが必要になる.
・NPPVや呼吸様式, asthma/COPD, 右心負荷症例は不明.
人工呼吸患者
➣SVCはTTEでも評価で可能性があり, IVCよりもまだよい診断ツールか
輸液するか迷ったときにIVCを評価してもあまり意味がない
Theerawit P, et al. Critical Care. 2016; 36: 246-251
人工呼吸患者
2)Soubrier S, et al. Intensive Care Med. 2007; 33: 1117-241)Durairaj L, et al. Chest. 2008; 133: 252-63
3)De Backer D, et al. Intensive Care Med. 2005; 31: 517-234)Wyler von Ballmoos, et al. Critical Care. 2010; 14: R111
・洞調律1)
・自発呼吸なく, 調節換気されている2)
・TV>8ml/kg3)
・右心不全なし4)
PPV・SVV
輸液反応性の評価はPPV・SVVで十分
IVJ・高い精度で輸液反応性を予想できる.・PPVと組み合わせるとさらに精度が高くなる.・但し, 評価方法は定まっていない.
人工呼吸患者
IVDI: inferior vena cava distensibility index
IVDI=(IVCmax-IVCmin)/IVCmin
PLR・aortic blood flow≧10% → 感度: 97%, 特異度: 94%, AUC: 0.96・人工呼吸, 自発呼吸, 不整脈患者でも輸液反応性を予測できる.
Monnet X, et al. Critical Care. 2006; 34(5): 1402-1407
人工呼吸: PPV or SVV or PPV+IJV自発呼吸, 不整脈: PLR
まとめ
・IVCを用いた輸液反応性の診断精度は低い.人工呼吸患者では有用かもしれないが, 多くの状況で役に立たない.
・人工呼吸患者の輸液反応性を評価するにはPPVやSVVで十分である.IJVも有用であるが, 評価方法はまだ決まっていない.
・自発呼吸, 不整脈のある患者の場合, PLRで輸液反応性を評価する.
輸液反応性があれば輸液をするべきなのか?
輸液反応性
NR: non-respondersPR: persistent respondersTR: transient responders
Roger C, et al. Critical Care. 2019; 23: 179-188
37 patients(TR)
4 patients
輸液反応性があっても, 30分後には49%がNRとなる.➣輸液反応性は時間依存性である
Michard F, et al. Chest. 2002; 121: 2000-2008重症患者の50%にしか輸液反応性がない.
初期から大量に輸液し, その後に昇圧剤を使用する大量輸液
初期の輸液は制限し, 早期から昇圧剤を使用する輸液制限
VS
大量輸液
1990年代の敗血症性ショックの院内死亡率は40-50%
Rivers E, et al. N Engl J Med. 2001; 345: 1368-77
2001年にEGDTが発表された
CVPが8-12 mmHgになるように晶質液500mlを30分ごとにボーラス投与
院内死亡率標準治療群: 46.5%、EGDT群: 30.5% (p=0.09)
20-30 ml/kg in 30min
➣EGDTが発表されて以降, アメリカで早期に大量に輸液する方針が採用され, その後10年間でEGDTプロトコールを使用することで死亡率を低下させるという研究が数多く発表された.
ProCESS: Protocolized Care for Early Septic Shock
ARISE: Australasian Resuscitation in Sepsis Evaluation
ProMISe: Protocolized Management in Sepsis
否定的な3つのtrial
EGDTで示された死亡率の低下は輸液投与ではなく, より早期(特に3時間以内)に適切な抗菌薬を投与していることに関連している.
Kalil AC, et al. Crit Care Med. 2017; 45: 607-614
さらに
EGDT ProCESS ARISE ProMISe
Publish 2001 2014 2014 2015
期間 1997.3-2000.3 2008.3-2013.5 2008.10-2014.4 2011.2-2014.7
国/施設数 US/1 US/31 AUS1・NZ/51 UK/56
症例数 263 1341 1600 1260
APACHEⅡ EGDT: 21.4UC: 20.4
EGDT: 20.8UC: 20.7
EGDT: 15.4UC: 15.8
EGDT: 18.7UC: 18.0
6h以内の抗菌薬投与率(%)
89 97 100 100
輸液蘇生量 20-30 ml/kg 20 ml/kg 1000 ml 1000 ml
6h輸液量(ml)
EGDT: 4981UC: 3499
EGDT: 2800UC: 2300
EGDT: 2515UC: 2591
EGDT: 2000UC:1784
全死亡率(%) EGDT: 33UC: 50
EGDT: 21UC: 19
EGDT: 19UC: 19
EGDT: 29UC: 29
主要評価項目(%)
院内死亡率EGDT: 30.5
UC: 46.5
60日死亡率EGDT: 21.0
UC: 18.9
90日死亡率EGDT: 18.6
UC: 18.8
90日死亡率EGDT: 29.5
UC: 29.2
それぞれ明らかな差なしUC: usual care
完全にEGDTを否定できるものではない
Nguyen HB, et al. Critical Care. 2016; 20: 160-165
➣大量輸液 vs 輸液制限の効果を比較できない.
一見, 輸液が少なく見えるが
ランダム化前に輸液されており, 合計4-5Lほど輸液されている.
ProCESS ARISE ProMISe
ED到着からランダム化されるまでの時間 EGDT: 197minUC: 185min
EGDT: 2.8hUC: 2.7h
EGDT: 2.7hUC: 2.8h
・大量輸液を行うことで昇圧剤の使用を控えられる.➣不整脈, 心筋酸素需要↑, 腎/腸管虚血などの害を減らせる
Anantasit N, et al. Crit Care Med. 2014; 42:1812-20
Byrne L, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2018; 198(8):1043-1054
16匹の羊NR: noradrenaline and vaspressin (n=8)
FR: 40ml/kg of 0.9% saline, 1h → noradrenaline and vaspressin (n=8)
(43.5±6.2 kg) 目標MAP: 60-65mmHg
動物実験ではあるが, FR群の方が昇圧剤の必要量が増している
輸液制限
敗血症において過剰輸液やプラスバランスは死亡率を増加させる, という報告が多数あり.
1. FACTT: Fluid and Catheter Treatment TrialWiedemann HP, N Engl J Med. 2006; 354: 2564-2575
呼吸器管理されている急性肺障害, n=1000(85% sepsis)
Conservative vs Liberalmean cumulative fluid balance after 7 days: -136ml vs 6992ml, p<0.01
60日死亡率は有意差なし水分制限群の方が人工呼吸器を使用しなかった日数が長い
➣急性肺障害患者に対する保守的な体液管理を支持する結果となった
2. Simplified Severe Sepsis Protocol TrialAndrews B, JAMA. 2017; 318: 1233-1240
n=212, sepsis+hypotension(sBP≦90mmHg or MAP≦65mmHg)
Usual Care群の方が院内死亡率低い
・Sepsis Protocolランダム化から1時間以内に晶質液2L, 体液過剰(JVP上昇)がなければ4時間で2Lまで追加投与可.最初の2Lで血圧が低ければDOA(10μg/kg/min).
・Usual Care輸液、昇圧剤、輸血は臨床医の判断.
3. CLASSIC: Conservative versus Liberal Approach to fluid therapy of Septic Shock in Intensive CareHjortrup PB, Intensive Cre Med. 2016; 42: 1695-1705n=151, septic shock
6時間以内に≧30 ml/kg(IBW)投与されてからランダム化
・Fluid Restriction: 輸液250-500ml1)NAD投与してもMAP<50mmHg2)Lac>4mmol/L3)斑状皮疹が膝蓋部を超える4)尿<0.1ml/kg/hr
・Standard Care: SSCG 2012に準ずる
➣輸液制限群ですべての項目(90日死亡率, 虚血イベント, AKI)で有益な傾向あり➣AKI増悪は輸液制限群で有意に減少している
SSCG 2012 SSCG 2016
EGDT: CVPを用いた輸液
3時間以内に少なくとも30ml/kgの晶質液Rhodes A, Intensive Cre Med. 2017; 43: 304-377
Dellinger RP, Crit Cre Med. 2013; 41(2): 580-637
・AKI stageⅠ(AKIN)に対して>1 L/dayの輸液を行うと, AKI stageⅢへの増悪と死亡率が有意に高くなる.(63.5% vs 23.3%, p=0.001, and 43.5% vs 24.8%, p=0.004, respectively)・水分量のみがAKI stageⅢへの増悪と関連している.(OR 1.8 per 1L; 95% CI, 1.1-8.8; p=0.02)
Raimundo M, et al. Shock. 2015; 44: 431-7
AKI
Zhang Z, et al. Critical Care. 2019; 23: 112-121 改変
ICU入室後から6時間の尿量<0.5 ml/kg/hであるAKI患者
: volume responsiveの可能性↑
: volume responsiveの可能性↓
XGBoost modelurinary creatinineが最も重要な指標
ノルエピネフリン
・エンドトキシンショックのラット実験で, 早期にノルエピネフリンを投与することでMAP, 動脈血流量, 持続的な腸間膜血流を改善させ, 輸液量も減らせた.
・ヒトの研究では, 早期にノルエピネフリンを投与することで目標血圧への達成時間や死亡率でよいアウトカムが示されている(後ろ向き研究).
Sennoun N, Crit Cre Med. 2007; 35: 1736-1740
Morimatsu H, Resuscitation. 2004; 62:249-254
・蘇生輸液後の早期にノルエピネフリン投与を受けた敗血症性ショック患者において, 前負荷が増加し,心拍出量が増加した.
Hamzaoui O, Crit Cre. 2010; 14: R142
Spiegel R, Clin Exp Emerg Med. 2016; 3(1): 52-54
輸液
輸液: 全容量を増加させ, 結果的にstressed volumeを増加させる.
NAD: stressed volume/unstressed volume比を上昇させ,全容量は変化しないが, stressed volumeを増加させる.
NAD
エビデンスは不足している
「輸液制限+早期の昇圧剤投与」
最近は
特に, 昇圧剤の使用タイミングについては大きな前向き研究がない
Permpikul C, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2019; 199(9): 1097-1105
P: ERを受診した18歳以上の敗血症性ショック患者(MAP<65mmHg)I: 早期にノルエピネフリン投与(0.05μg/kg/min, 24h)C: プラセボ(5%Glu)O: 敗血症性ショック診断6時間後のショックコントロール率定義: 持続してMAP>65mmHg(15分ごとに測定) + 十分な組織灌流
尿>0.5ml/kg/hの持続(2時間連続で)
初期から乳酸値>10%低下or
【Trial Design】・第2相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験・単施設: Siriraj Hospital, Mahidol University, Bangkok, Thailand・期間: 2013年10月~2017年3月
ER到着からノルエピネフリン投与開始までの時間Early Norepinephrine群: 93min vs Standard Treatment群: 192min
各時間での輸液投与量に差なし
診断後6時間までのショックコントロール率: 76.1% vs 48.4% (p<0.001)28日/院内死亡率に有意差なし
人工呼吸器/RRT, organ support-free daysに有意差なし
診断後6時間までの目標血圧, 尿量, 乳酸クリアランスを達成した割合➣Early Norepinephrine群ですべて有意に高い
初期治療から目標血圧+十分な組織灌流を達成するまでの時間: 4.45h vs 6.02h (p<0.001)
ハザード比0.69(95% CI, 0.41-1.16; p=0.16)
心原性肺水腫/新規不整脈Early Norepinephrine群で有意に低い
28日死亡率に有意差なし
下肢/腸管虚血に有意差なし
・敗血症性ショック患者に対して早期に少量NADを投与することで,6時間後のショック離脱率を有意に改善した.
・死亡率に有意差はなかった.1)phaseⅡの単施設研究, 2)主要評価項目が死亡率ではない, 3)輸液速度を規定していないことで治療結果に影響を与えた可能性がある
・早期にNADを投与することで輸液量を減少させられる可能性があったが, 本研究では有意な減少を認められなかった.
1)SSCG 2012に準じてCVPなどを指標に輸液投与された2)不十分な前負荷状態での重篤な合併症(過剰な血管収縮)を避けるため,
NADは少量で投与されていた➣前負荷と血管収縮を最適化できず, 組織低灌流時間を改善させられたが, 輸液量を減少させられなかった.
まとめ
・「輸液反応性があれば輸液する」というのは間違えで, むしろ有害となりえる.
・敗血症性ショックの蘇生輸液量はまだわかっていないが, 少なくとも初期蘇生輸液後の過剰輸液は避けるべき.
・早期にNADを併用することで, 腸管虚血などの有害事象を増やすことなくショックからの離脱を早め, 組織灌流も改善させる可能性がある.
・早期NAD併用と死亡率の関連は, 今後の研究に期待したい.
・目標血圧に達しないときに輸液追加ではなく, 早期NAD投与は選択肢として考慮してもよさそう.