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IIC-12-106

車載モータを搭載した電気自動車のドライブシャフト振動

抑制制御を用いた駆動力制御法

角谷勇人∗,藤本博志(東京大学)

Driving Force Control Method Using Suppression Control of Driving-shaft

Vibration for Electric Vehicle with On-board Motor

Hayato Sumiya∗, Hiroshi Fujimoto (The University of Tokyo)

Abstract

The vehicle which is driven by an on-board motor has differential gear and driving-shaft. This vehicle can not

provide fast feedback responses due to driving-shaft resonance at about 10 Hz. Therefore, in this paper, we propose

vibration suppression control based on 2 degree of freedom controller which does not generate the resonanse in a

drive-shaft. In addition, driving force control method, which is a kind of traction control, is adopted at the outer

loop of proposed control system. The effectiveness of the proposed method is verified by simulation and experiment.

キーワード:駆動力制御,駆動力オブザーバ,電気自動車,振動抑制(driving force control, driving force observer, electric vehicle, vibration suppression )

1. 序 論

地球環境問題の観点から電気自動車(EV: Electric Vehi-

cles)や,ハイブリッド自動車が大きく取り上げられている。特に EVは,走行時の温室効果ガスの排出が無いなど環境性能に対し非常にメリットがある。環境面で注目されている EVは,モータを駆動力とするため高い制御性を持つ。それらは,小型高出力のため分散配置ができ,駆動力差を用いることが可能であり,力行だけでなく回生も出来ることである。さらに,トルク応答が内燃機関と比較し数百倍速く,トルク値が電流の測定により正確な検出ができることである。これらの特徴は車両姿勢制御の面で非常に有効であり,多くのトラクション制御や車両安定化制御の研究が行われている (1)~(4)。特にインホイールモータを搭載した電気自動車は高速高

性能なトルク応答や各輪独立駆動といった優位点を最大限に利用して様々な走行方法が提案されている (2) (5) (6)。しかしながらインホイールモータはコストや信頼性の問題があり,現在発売されている電気自動車は車載モータとディファレンシャルギヤを搭載したものが一般的である。車載モータも内燃機関自動車と比較し制御面で大きなメリットがあるが,ドライブシャフトにおいて低い周波数で捻れによる共振が発生するため,高応答なフィードバック制御を行うことが難しいと言われている。実際,共振が発生しないようなトルク指令値を作成した制振制御法は提案されているが,路面状況に応じたイナーシャ変動によって生じる共振周波数変動まで考慮されていない (3)。また,車載モータとディファレンシャルギヤを搭載した電気自動車の駆動力制御法が提案されているが,実験において駆動力の追従特性が悪化しており,ドライブシャフトにおける捻り振動やバックラッシの影響と考えられている (7)。

図 1 実験車両 FPEV4-Sawyer

Fig. 1. Experimental vehicle FPEV4-Sawyer.

本稿では,ディファレンシャルギヤ及びドライブシャフトのモデル化を厳密に行い捩れ振動の影響を確認する。本稿で扱うディファレンシャルギヤモデルは,捻れ振動を模擬するために二慣性系としてモデル化し,路面状況によりイナーシャが変動するため共振周波数が変化する。共振周波数が変動するため従来提案されている制振制御を実装することは難しい (8)。そこで,共振周波数の変動を考慮したディファレンシャルギヤモデルの逆モデルを用いた制振角速度制御法を提案する。この制振角速度制御系はドライブシャフトの低い周波数での共振によりフィードバック制御を実装することが難しいことから可能な限りフィードフォワード制御にて指令値追従を行い,フィードバック制御はモデル化誤差や外乱の抑圧を行うことで高応答性を確保する。また,そのアウターループにトラクション制御として提案されている駆動力制御 (7)を実装し車載モータを搭載した電気自動車における高応答トラクション制御の提案を行う。その有効性をシミュレーションと実験より示す。

2. 実験車両

本稿では実験車両として著者らの研究グループで製作を

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V!TFd

図 2 一輪車両モデルFig. 2. One wheel vehicle model.

−1 −0.5 0 0.5 1

−0.2

−0.1

0

0.1

0.2

0.3

Slip ratio λ

Fric

tion

coef

ficie

nt µ

λpeak−p

λpeak−n

図 3 µ− λ曲線Fig. 3. µ− λ curve.

行った FPEV4-Sawyerについて述べる。本実験車両は同一の車両という条件下で様々な駆動源の比較を行うという目的で製作したものである。そのため,実験車両は前輪サブフレーム,後輪サブフレーム,メインフレームという 3つのフレームから構成され,前後輪のサブフレームを取り替えることで駆動源を交換することが可能である。本稿では,車載モータにおけるドライブシャフトの振動

抑制を取り扱うため,前輪部を非駆動輪,後輪部を車載モータのフレームを装着した後輪駆動車とした。車載モータは最大トルク 180 Nmであり,その動力がディファレンシャルギヤ,ドライブシャフトを介して駆動輪に伝わる構造となっている。Fig. 1に実験車両の外観図を示す。

3. 自動車の運動方程式〈3・1〉 車両モデル 本節では車両モデルについて説明する。車両モデルは Fig. 2に示す一輪車両モデルが左右二輪に搭載された自動車を想定する。車輪の運動方程式は次式となる。

Jωω̇ = T − rFd · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (1)

ここで,Jω は車輪のイナーシャ,ω は車輪の回転角速度,T はモータトルク,Fd は駆動力であり,左右輪それぞれに成立する。左右の駆動力 FdRL,FdRRと車速 V との関係は次式となる。

MV̇ = FdRL + FdRR · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (2)

ここで,M は車両重量である。駆動力 Fd はタイヤ路面摩擦係数 µにタイヤの垂直抗力 N をから得られる。

FdRL = µLNRL · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (3)

FdRR = µRNRR · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (4)

また,車輪の角速度 ωRL,ωRR にはそれぞれ次式の関係式が成立する。

!mTm JmFdRL FdRR

�sRR!RL !RR!p

Ring gear Pinion gear

Motor

Left wheel Right wheelksRRSide gearTM

ksRLgmd

�sRL

Bm!L!M

図 4 捩れ振動を考慮したディファレンシャルギヤモデルFig. 4. Differential gear model considering torsional

oscillation.

TM 1JMs+BM1sBa k lashKs

!L!M

1JL(�)s+BL+ � �s++ +�

Mr2 _�gps 1Jpss + ++�!RL!RRrFdRRrFdRL +�

図 5 ディファレンシャルギヤモデルのブロック図Fig. 5. Block diagram of differential gear model.

VωRL = rωRL · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (5)

VωRR = rωRR · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (6)

ここで,VωRL,VωRR は左右輪の車速,rはタイヤ半径である。また,各輪スリップ率 λRL,λRRは次式で定義される。

λRL =VωRL − V

max (VωRL , V, ϵ)· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (7)

λRR =VωRR − V

max (VωRR , V, ϵ)· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (8)

ここで,ϵは零割を防ぐための定数である。また,摩擦係数 µと λの関係にはMagic Formulaを用いる (9)。

〈3・2〉 ディファレンシャルギヤモデル 本節では,捻れ振動を考慮したディファレンシャルギヤについて述べる。ディファレンシャルギヤのモデルを Fig. 4に示す。ディファレンシャルギヤはモータから発生した回転が減速機を介してインプットギヤ,リングギヤを回転させる。その回転が左右のサイドギヤからドライブシャフトへ伝わり,左右輪が回転するという機構になっている。その力の伝搬においてサイドギヤから左右車輪までのドライブシャフトにて捩れ振動が発生し,バックラッシも存在する。そこで本稿はモータからディファレンシャルギヤまでの

剛性は十分高いとし,モータからリングギヤまでを一つの慣性,サイドギヤから左右の車輪までをもう一つの慣性とした二慣性系としてモデル化を行う。尚,本稿において左右のドライブシャフトの剛性KsRL,KsRR及びバックラッシ θsRL,θsRR を等しいものとする。

Ks = KsRL = KsRR · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (9)

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10−2

10−1

100

101

102

−100

−50

0

50

Freqency [Hz]

Mag

unitu

de [d

B]

10−2

10−1

100

101

102

−200

0

200

Frequency [Hz]

Pha

se [d

eg]

PM (s)PMn(s)

図 6 実験車両の周波数応答(TM → ωM)Fig. 6. Frequency response of experimental vehicle.

θs = θsRL = θsRR · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (10)

ここで,Ks はドライブシャフトの剛性,θs は二つの慣性の間のバックラッシである。モータからリングギヤまでのイナーシャを JM,粘性摩擦項を BM,入力トルクを TM,回転角速度を ωM とし,同様にサイドギヤから左右の車輪までのイナーシャを JL,粘性摩擦項を BL,回転角速度をωL とする。それぞれの運動方程式が次式となる。

JM ω̇M = TM −BMωM − ksθs · · · · · · · · · · · · · (11)

JL (λ) ω̇L = ksθs −BLωL +Mr2λ̇ωL · · · · · · · · · (12)

JM =Jm

g2md

+ Jinput + Jring + Jpinion · · · · · (13)

JL0 = 2Jside + 2Jdrive + 2Jω · · · · · · · · · · · · (14)

JL (λ) = JL0 +Mr2 (1− λ) · · · · · · · · · · · · · · · (15)

ここで,JM はドライブシャフト軸におけるモータ,インプットギヤ,リングギヤ,ピニオンギヤのドライブ軸周りの合計イナーシャ,JL0 はドライブシャフト軸におけるサイドギヤ,ドライブシャフトと左右車輪の合計イナーシャ,JL は JL0 と式(1),式(2),式(5)~式(8)より導出される車両の粘着走行時のダイナミクスを考慮した車輪側のイナーシャである。モータの回転角速度 ωm とリングギヤの回転角速度 ωM,モータトルク Tm とリングギヤへ伝わるトルク TM には,モータとインプットギヤ間のギヤ比gmd を考慮すると次式の関係がある。

ωM = gmdωm, TM =Tm

gmi· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·(16)

また,本稿では直進時のみ検討しているためピニオンギヤの回転は無いとする。そのため,ωLと左右の車輪速には次式の関係がある。

ωL = ωRL = ωRR · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (17)

ここで,ωRR,ωRL は左右の車輪速である。〈3・3〉 周波数特性 ディファレンシャルギヤモデルにおける周波数特性を考える。スリップ率に時間変動がない,すなわち λ̇ = 0と仮定するとモータトルクからリングギヤ周りの回転角速度までの伝達関数 PMn(s)は次式となる。

10−2

10−1

100

101

102

−100

0

100

Mag

unitu

de [d

B]

10−2

10−1

100

101

102

−100

0

100

Frequency [Hz]

Pha

se [d

eg]

λ = 0.0λ = 0.2λ = 1.0

図 7 周波数特性(TM → ωM)Fig. 7. Frequency response of nominal model.

ωM =JL (λ) s2 +BLs+Ks

a3 (λ) s3 + a2 (λ) s2 + a1 (λ) s+ a0TM

= PMn(s)TM · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (18)

また,モータトルクから,車輪の回転角速度までの伝達関数 PLn(s)は次式となる。

ωL =Ks

a3 (λ) s3 + a2 (λ) s2 + a1 (λ) s+ a0TM

= PLn(s)TM · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (19)

尚,伝達関数における a3~a0 は次式となる。a3 (λ) = JMJL (λ)

a2 (λ) = (JL (λ)BM + JMBL)

a1 (λ) = (BMBL + JMKs + JL (λ)Ks)

a0 = (BM +BL)Ks

· · · (20)

粘性摩擦を無視すると共振周波数 fr,反共振周波数 fa はそれぞれ次式で表される。

fr =1

√Ks

JL (λ)

(1 +

JL (λ)

JM

)· · · · · · · · · · · · · · · (21)

fa =1

√Ks

JL (λ)· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (22)

Fig. 6に実験車両の周波数応答を示す。周波数特性は実験車両をジャッキアップさせた無負荷状態でトルクをサインスイープで入力をし取得した。Fig. 6 より反共振周波数fa = 3.1 Hz,共振周波数 fr = 7.1 Hz,であることが確認できる。尚,ジャッキアップ時の車輪のイナーシャは λ = 1.0

に相当する。Fig. 6より得られた共振周波数,反共振周波数及び設計

値を用いて式(21),式(22)よりモータ側イナーシャJM,車輪側イナーシャJL,捻れ係数Ks,粘性摩擦項 BM,BL

を同定した。Fig. 7にそれらのパラメータを用いた周波数応答を示す。スリップ率 λ = 0.0,λ = 0.2,λ = 1.0に応じてイナーシャが変動するため反共振周波数及び共振周波数が変化している。

4. 制御系設計 (7) (10)

本稿で提案する駆動力制御法は,インナーループにスリッ

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1(JM+JL)sJnsLPFrFdTM !L

1rF̂d+ �+ �

図 8 駆動力オブザーバのブロック図Fig. 8. Block diagram of driving force observer.

1sKi 1r+++ � y !�L Motor angularspeed ontroller Vehi leplant�!L

TM VDriving for eobserverF̂d

F �d!M or !Lgmd

図 9 駆動力制御のブロック図Fig. 9. Block diagram of driving force controller.

プ率に応じた角速度制御器があり,そのアウターループに駆動力オブザーバから推定された駆動力をフィードバックし制御を行う駆動力制御系という構成になっている。〈4・1〉 駆動力制御法

〈4・1・1〉 駆動力オブザーバ 本節では駆動力オブザーバに関して述べる。駆動力オブザーバのブロック図を Fig.

8に示す。駆動力オブザーバを構成するに当たり,ディファレンシャルギヤは捻じれ振動の発生しない剛体とし,車輪側のイナーシャは式(14)におけるダイナミクスを考慮しない JL0 として考える。剛体として考えると,車輪と駆動力の関係は次式となる。

(JM + JL0) ω̇L = TM − rFd · · · · · · · · · · · · · · · · · · (23)

つまり,駆動力は次式となる。

Fd =1

r(TM − (JM + JL0) ω̇L) · · · · · · · · · · · · · · · (24)

発生トルク及び負荷側の回転角速度が検出できればオブザーバを構成することが可能となる。尚,本稿では電流制御系は十分早いとしトルク指令値と検出した車輪速から駆動力を推定する。〈4・1・2〉 駆動力制御系 本節では駆動力制御系を説明する (7) (10)。駆動力制御とは,駆動力がスリップ率の関数であることからスリップ率指令に応じて負荷側の回転角速度ωLを制御して総駆動力を制御するトラクション制御である。Fig. 10に駆動力制御系のブロック図を示す。インナーループに角速度制御系がありそのアウターループに駆動力オブザーバとスリップ率制御に基づく駆動力制御系を構成する多重ループ構造となっている。タイヤ路面間にはFig. 3に示すような関係があるため,スリップ率を λpeak−n ≤ λ ≤ λpeak−p

の範囲で制御することで駆動力を制御することが可能とな

CFF (s)M(s) CFB(s) P(s)!�L !MT �

+ �+ + !LV

r!L�Vmax(V;r!L;")�!�MTfri tion+

図 10 二自由度制御による速度制御のブロック図Fig. 10. Block diagram of angular velocity controller.

る。駆動力制御における操作量 yは,制動時のスリップ率の定義とする。

y =Vω

V− 1 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·(25)

駆動力制御器は積分制御器を用いる。車輪速制御系への指令値 ωL は操作量 y と車体速 V より算出する。

ω∗L =

1

r(V + V y)· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (26)

駆動力制御器の積分器に積分値の上限 ymax 及び下限 ymin

を設け,yの値を ymin ≤ y ≤ ymaxに制限することでスリップ率を制限することができる。ymaxには最大の駆動力が発生すると考えられる λpeak−p に対応する yを,ymin には最大の制動力が発生すると考えられる λpeak−n に対応する y

を設定する。また,積分器の初期値 y0には非駆動状態を想定し y0 = 0 (λ = 0)を与える。〈4・2〉 角速度制御(従来法) 本節では,駆動力制御のインナーループに関して述べる。従来法における角速度制御系は,ディファレンシャルギヤを剛体モデルとして設計する (7)。ディファレンシャルギヤが剛体であるとするとωL = ωM と考えられることから,指令値を ω∗

L = ω∗M とし

てモータの角速度指令値を与え負荷側の角速度をフィードバックして制御する。ディファレンシャルギヤを剛体モデルと仮定すると,モータの回転運動方程式は次式となる。

ωM =1

(JM + JL0) sTM · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (27)

このモデルに対して重根となるように比例積分制御器を用い極配置設計を行う。〈4・3〉 制振角速度制御(提案法) 本節では提案法における駆動力制御系のインナーループである制振角速度制御に関して述べる。制振角速度制御は捻れ振動を抑えるフィードフォワード制御と外乱やモデル化誤差を抑圧するフィードバック制御で構成される二自由度制御を用いる。フィードフォワードコントローラは静止摩擦補償と共振が発生しないようなトルク指令値を生成し応答速度を向上させ,フィードバックコントローラは極を十分遅くすることで共振を発生させずかつモデル化誤差や外乱抑圧特性を向上させる。〈4・3・1〉 フィードフォワード制御器 本節では,フィードフォワード制御器に関して述べる。速度指令からトルク指令を生成するフィードフォワードコントローラは,次

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式で与えられる。

CFF (s) = G(s)P−1Ln (s)

=a3 (λ) s

3 + a2 (λ) s2 + a1 (λ) s+ a0

KS (τs+ 1)3·(28)

G(s) =1

(τs+ 1)3· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·(29)

T ∗ = CFF (s)ω∗L + Tfriction · · · · · · · · · · · · · ·(30)

ここで,Gはノミナル化後の特性を示す伝達関数,Tfriction

は静止摩擦補償を行うトルクである。モデル化誤差や外乱が無ければ ωL = Gω∗

L となる。

〈4・3・2〉 フィードバック制御器 本節では,フィードバック制御器について述べる。フィードバック制御器において,モータ回転角速度 ωM をフィードバックし制御する。フィードバック制御器の指令値は規範モデルM (s)を介して与え,コントローラは PI 制御器を用いた。規範モデルM (s)は次式で与えられる。

M(s) = G(s)P−1Ln (s)PMn(s) · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (31)

=JLs

2 +BLs+Ks

Ks (τs+ 1)3· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (32)

尚,フィードバックコントローラ CFB(s)は〈4・2〉節と同様の設計法を用いた。

5. シミュレーション

〈4・1〉節で示した駆動力制御のシミュレーションを行った。駆動力制御系における駆動力オブザーバの時定数を 70

ms とし,インナーループの制振角速度制御系のフィードフォワードコントローラの時定数を τ = 0.05 s,フィードバックコントローラの極 pole = −2π×0.3 rad/s,駆動力制御のゲインを Ki = 5.0 × 10−4 とした。シミュレーションでは,極や駆動力制御のゲインをあげることは可能だが実験と同じ値を用いた。積分器の積分値制限は ymax = 0.25,ymin = −0.2とした。駆動力指令値は時定数 0.2 sの一次のローパスフィルタを介して入力し t = 0− 10 sまでは 1000

N,t = 10−15 sまでは 0 N,t = 15−20 sまでは 500 Nを入力した。路面状況は µ = 1.0の理想的な高 µ路とし,静止摩擦補償は行わなかった。シミュレーション結果を Fig.

11に示す。Fig. 11(a)より従来法と比較して提案法の追従特性が非常

に向上してる。これは提案法を用いたことによりインナーループの追従特性が向上したためである。Fig. 11(b),Fig.

11(c)に操作量 y とスリップ率 λを示す。駆動力指令値に応じて操作量が変化し,スリップ率も適切に制御されている。Fig. 11(d)~Fig. 11(g)に車速及びモータ及び負荷側の回転角速度を示す。提案法と従来法を比較すると,提案法の方が車速が上がっており,角速度指令値への追従特性も向上している。また,Fig. 11(f)において,わずかであるが振動が発生している。これは従来法においてフィードバックにより共振が起きていると考えられる。

6. 実 験シミュレーションと同様の条件で実験を行った。実験で

は 2節に示した実験車両を用い,駆動輪及び非駆動輪に外付けのエンコーダを装着し,車体速及び車輪速を取得した。実験はシミュレーションと同様に高 µ路で駆動力制御を行った。実験では,ドライブシャフトの共振,実験車両の通信遅れ,外付けエンコーダの振動,トルク制御周期の長さなどの影響によりフィードバック制御の帯域をあげることができない。そこで,車両の静止摩擦補償を行うため提案法におけるフィードフォワードコントローラに静止摩擦補償Tfrictionを加えた。尚,その値は角速度指令値に追従できるようにオフラインで同定した。その結果を Fig. 12に示す。

Fig. 12(a)より従来法と比較して提案法の追従特性が非常に向上してる。これは提案法である制振角速度制御器を用いたことによりインナーループの速度指令への追従特性が向上したためである。しかしながら提案法では,振動が発生している。制振角速度制御におけるフィードフォワードコントローラにスリップ率を用いており,Fig. 12(c) に示すようにスリップ率のわずかな振動が駆動力へ表れてしまったためである。Fig. 12(b),Fig. 12(c)に操作量 yとスリップ率 λを示す。駆動力指令値に応じて操作量が変化し,スリップ率も適切に制御されている。従来法においてスリップ率の振動が大きくでてしまっているのは,加速が鈍くスリップ率の演算がしっかりと行われていないためである。Fig. 12(d)~Fig. 12(g)に車速及びモータ及び負荷側の回転角速度を示す。提案法と従来法を比較すると,提案法の方が車速が上がっており,角速度指令値への追従特性も向上している。

7. 結 論本稿では,車載モータとディファレンシャルギヤを搭載

した電気自動車における制振角速度制御法を適応した駆動力制御法を提案した。ドライブシャフトにおける共振を抑制しシミュレーション及び実験から駆動力指令値への追従特性が向上したことを確認した。今後の課題として低 µ路や急峻な路面 µの変化に対応することなどがあげられる謝 辞最後に本研究の一部は文部科学省科学研究費補助金(基

盤研究 A,課題番号: 22246057)によって行われたことを付記する。

参考文献(1) Y. Hori: “Future vehicle driven by electricity and con-

trol – research on four-wheel-motored “UOT electric

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(2) E. Katsuyama: “Decoupled 3d moment control by in-

wheel motor”, 2011 JSAE Annual Congress (Spring),

No. 3-11, pp. 1–6 (2011).

(3) T. Karikomi, K. Ito, H. Kawamura and T. Kume:

“Hightly-responsice acceleration control for the newly

developed ev”, 2011 JSAE Annual Congress (Spring),

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0 5 10 15 20

0

500

1000

1500

Time [s]

Driv

ing

forc

e [N

]

F∗

d

F̂dconv.

F̂dprop.

(a) 駆動力

0 5 10 15 20

−0.2

−0.1

0

0.1

0.2

0.3

Time [s]

y

yconv.

yprop.

(b) 操作量 y

0 5 10 15 20−0.01

−0.005

0

0.005

0.01

0.015

0.02

Time [s]

Slip

rat

io

λconv.

λprop.

(c) スリップ率

0 5 10 15 200

2

4

6

8

10

Time [s]

Vel

ocity

[m/s

]

VVωRL

VωRR

(d) 速度(従来法)

0 5 10 15 200

2

4

6

8

10

Time [s]

Vel

ocity

[m/s

]

VVωRL

VωRR

(e) 速度(提案法)

0 5 10 15 200

5

10

15

20

25

30

35

40

Time [s]

Ang

ular

spe

ed [r

ad/s

]

ω∗

MωL

(f) 角速度(従来法)

0 5 10 15 200

5

10

15

20

25

30

35

40

Time [s]

Ang

ular

spe

ed [r

ad/s

]

ω∗

MωM

ω∗

LωL

(g) 角速度(提案法)

図 11 シミュレーション結果Fig. 11. Simulation results.

0 5 10 15 20

0

500

1000

1500

Time [s]

Driv

ing

forc

e [N

]

F∗

d

F̂dconv.

F̂dprop.

(a) 駆動力

0 5 10 15 20

−0.2

−0.1

0

0.1

0.2

0.3

Time [s]

y

yconv.

yprop.

(b) 操作量 y

0 5 10 15 20−0.01

−0.005

0

0.005

0.01

0.015

0.02

Time [s]

Slip

rat

io

λconv.

λprop.

(c) スリップ率

0 5 10 15 20

0

2

4

6

8

10

Time [s]

Vel

ocity

[m/s

]

VVωRL

VωRR

(d) 速度(従来法)

0 5 10 15 20

0

2

4

6

8

10

Time [s]

Vel

ocity

[m/s

]

VVωRL

VωRR

(e) 速度(提案法)

0 5 10 15 20

0

5

10

15

20

25

30

35

40

Time [s]

Ang

ular

spe

ed [r

ad/s

]

ω∗

MωL

(f) 角速度(従来法)

0 5 10 15 20

0

5

10

15

20

25

30

35

40

Time [s]

Ang

ular

spe

ed [r

ad/s

]

ω∗

MωM

ω∗

LωL

(g) 角速度(提案法)

図 12 実験結果Fig. 12. Experimental results.

No. 55-11, pp. 5–8 (2011). (in Japanese).

(4) M. Kamachi and K. Walters: “A research of direct yaw-

moment control on slippery road for in-wheel motor

vehicle”, in Proc. International Battery, Hybrid and

Fuel Cell Electric Vehicle Symposium, pp. 2122–2133

(2006).

(5) T. Suzuki and H. Fujimoto: “Slip ratio estimation and

regenerative brake control without detection of vehicle

velocity and acceleration for electric vehicle at urgent

brake-turning”, The 11th IEEE International Work-

shop on Advanced Motion Control Proceedings, pp.

273–278 (2010).

(6) H. Sumiya and H. Fujimoto: “Distribution method of

front/rear wheel side-slip angles and left/right motor

torques for range extension control system of electric

vehicle on curving road”, Proc. 1st Internatinal Elec-

tric Vehicle Technology Conference, No. 20117208.

(7) 吉村, 藤本:“車載モータとディファレンシャルギヤを搭載した電気自動車のスリップ率制御に基づく駆動力制御法”, 電気学会産業計測制御研究会, No. IIC-11-137, pp.

19–24 (2011).

(8) 堀:“外乱オブザーバによる軸ねじれ系制御”, 日本ロボット学会誌特集号, 13, 8, pp. 1096–1102 (1995).

(9) H. B.Pacejka and E. Bakker: “The magic formula tyre

model”, Tyre models for vehicle dynamics: proceedings

of the 1st International Colloquium on Tyre Models for

Vehicle Dynamics Analysis, pp. 1–17 (1991).

(10) 吉村, 藤本:“インホイールモータを搭載した電気自動車の駆動トルク制御法”, 電気学会論文誌 D, 131, 5, pp.

721–728 (2011).

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