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1 2020/01/07 文責:平田瑞貴 Temporal Construal Effects on Abstract and Concrete Thinking: Consequences for Insight and Creative Cognition Journal of Personality and Social Psychology 2004, Vol. 87, No. 2, 177–189 Jens Förster, Ronald S. Friedman, Nira Liberman Abstract* 本研究では参加者の時間的解釈(近い未来 vs 遠い未来)を操作することによって、抽象的な思考が促 進されるか否かについて6つの実験から調査する。 理論的には、心的表象[mental representations]が解釈されるレベルが変化することで思考の具 体性が変化するとされる「解釈レベル理論[Construal Level Theory/CLT]」を用いる 【実験1~3】では、「1年後」の自分の人生とタスク解決を想像した参加者は、「次の日」条件の 参加者よりも一連の洞察タスクのパフォーマンスが向上した 【実験 4~5】では、抽象的な創造的パフォーマンスを促進させることが分かった 【実験 5】では時間解釈タスクと創造性タスクが無関係でも影響が発生することを示した また【実験 6】では遠い時間の視点が、分析的な推論を阻害することを明らかにした -------------------- *発表者注 本論文は以下の 2 点を主に主張している 時間的解釈(近い未来 vs 遠い未来)を操作することによって、抽象的な思考が促進されること タスク自体が時間的解釈に関連しないものであっても、事前に時間的距離のイメージを与えること で抽象的な思考を促進できること 導入では、 を解釈レベル理論[Construal Level Theory]の理論によって、 を処理シフト[processing shift]の理論によって説明しようとしている 実験は、 を明確に示すために様々な要因を調整しながら行っているため、結果として複雑にな っている箇所が多い 討論では、本論文の主張を越えて、解釈レベル理論や処理シフトに関する枠組みの整理にまで踏み込 んでいるため長文にわたっている 本輪講は特に、発想を促進させる操作可能な独立変数に関する知見の獲得を目的としている。そのた め解釈レベル理論や諸変数に関しては元論文以上に踏み込んで議論したいと考えている

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2020/01/07

文責:平田瑞貴

Temporal Construal Effects on Abstract and Concrete Thinking:

Consequences for Insight and Creative Cognition

Journal of Personality and Social Psychology 2004, Vol. 87, No. 2, 177–189

Jens Förster, Ronald S. Friedman, Nira Liberman

Abstract*

本研究では参加者の時間的解釈(近い未来 vs 遠い未来)を操作することによって、抽象的な思考が促

進されるか否かについて6つの実験から調査する。

理論的には、心的表象[mental representations]が解釈されるレベルが変化することで思考の具

体性が変化するとされる「解釈レベル理論[Construal Level Theory/CLT]」を用いる

【実験 1~3】では、「1 年後」の自分の人生とタスク解決を想像した参加者は、「次の日」条件の

参加者よりも一連の洞察タスクのパフォーマンスが向上した

【実験 4~5】では、抽象的な創造的パフォーマンスを促進させることが分かった

【実験 5】では時間解釈タスクと創造性タスクが無関係でも影響が発生することを示した

また【実験 6】では遠い時間の視点が、分析的な推論を阻害することを明らかにした

--------------------

*発表者注

本論文は以下の 2 点を主に主張している

① 時間的解釈(近い未来 vs 遠い未来)を操作することによって、抽象的な思考が促進されること

② タスク自体が時間的解釈に関連しないものであっても、事前に時間的距離のイメージを与えること

で抽象的な思考を促進できること

導入では、①を解釈レベル理論[Construal Level Theory]の理論によって、②を処理シフト[processing

shift]の理論によって説明しようとしている

実験は、①・②を明確に示すために様々な要因を調整しながら行っているため、結果として複雑にな

っている箇所が多い

討論では、本論文の主張を越えて、解釈レベル理論や処理シフトに関する枠組みの整理にまで踏み込

んでいるため長文にわたっている

本輪講は特に、発想を促進させる操作可能な独立変数に関する知見の獲得を目的としている。そのた

め解釈レベル理論や諸変数に関しては元論文以上に踏み込んで議論したいと考えている

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洞察と創造性は「人格特性[personality trait]」だと考えられた(eg. Eysenck, 1993; Simonton, 1991)

一方、近年、洞察と創造性に影響する多くの「状況要因[situational factors]」が発見されてきた。

状況要因は個人内[within individual]・個人間[between individual]双方で異なるものである

状況要因は社会的文脈[social context]にも大きな影響を受ける

例:ポジティブな気分の誘発により、ニュートラルな気分の条件に比べて創造性が向上する*

(e.g., Isen, Daubman, & Nowicki, 1987; Murray, Sujan, Hirt, & Sujan, 1990; see also, Clore,

Schwarz, & Conway, 1994; Hirt, McDonald, & Melton, 1996; for reviews, see Isen, 2000; Wyer,

Clore, & Isbell, 1999)

例:消費(consumption)中で典型的にみられる体の姿勢など、動機付けに関連する微妙なキュー

でさえ、回避動機付けに関連するキューと比較して洞察と創造的な生成の両方を強化すること

が示されている(Friedman & Förster, 2000, 2002)

例:外部報酬の提供と社会的評価の期待によって創造性がどのように損なわれるかが示されて

いる(Amabile, 1996, for a review)

これらの「状況要因」に関するパラダイムに基づいて、時間的展望[temporal perspective](Liberman

& Trope, 1998; Trope & Liberman, 2003)も創造的認知の洞察と側面に影響を与えるかを検討する

--------------------

*発表者注:コメディ映画や予期せぬ報酬を与えた(ポジティブな気分が誘発された)実験群は、統制群に

比べ、①ろうそく問題(洞察問題)の正答率が高く(Isen, Daubman, & Nowicki, 1987)、②単語連想課題に

おける多様性が大きい(Isen, Johnson, Mertz & Robinson, 1992)

①ポジティブ感情による課題理解手法の変化との関連性(Ashby, 1997)や、②ポジティブな感情

が記憶の検索キューとして働く際に活性化する多様でよく整理された過去のポジティブな思考

材料の有用性(Russ, 2000)などが主張されている

--------------------

Construal Level Theory

解釈レベル理論(CLT; Liberman & Trope, 1998; for a review, see Trope & Liberman, 2003):

ターゲットイベントまでの時間的距離*(temporal distance)が、イベント の心的表象(mental

representations)を変えるため、将来のイベントに対する人々の反応が変わることを提案する理論

具体的には、時間的距離が大きい(1 年後等)ほど、①抽象的、②一般的、③非文脈化された特徴

の観点(高レベルの解釈)からイベントが表現される可能性が高くなる

一方、時間的距離が小さい(明日等)ほど、①具体的、②文脈的、③付随的な詳細の観点(低レベ

ルの解釈)から表現される

例:時間的距離が会議についての考えに与える影響

1 年後の会議:「新研究を学ぶ」など、より上位の目標の観点から考える

明日の会議:「ズボンにアイロンをかける」など、従属的で具体的な目標の観点から考える

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解釈レベル理論は、人々が典型的に時間的距離に比例した利用可能な知識量や行動分岐数の違いか

ら生じるヒューリスティックとして捉えられている。(Liberman, Sagristano& Trope, 2002; Liberman

& Trope, 1998; see Trope & Liberman, 2003, for a review)

日常生活で、イベントの具体的段取りや詳細は時間的に近づくにつれ利用可能になるため

解釈レベルによるヒューリスティックは個人内で一般化されており、同じ情報が与えられても遠い

将来のイベントに対しては高レベルの解釈、近未来のイベントについて考える場合に低レベルの解

釈を利用し続ける

--------------------

作者注*

解釈レベル理論:時間的距離に限定されず、心理的に存在する距離に対しては幅広く適応され、代表例と

して以下の 4 点が挙げられている

①時間的距離(明日 vs1 年後)

②空間的距離(物理的遠さ vs 物理的近さ(Liberman,2009)/大阪 vs リオデジャネイロ(谷口,池上,2018)

③社会的距離(交際関係 vs 仕事上の関係(Liberman,2009))

④仮想性

--------------------

解釈レベル理論の知見は以下のような実験が裏付けをしている (Liberman & Trope, 1998;

Nussbaum, Trope & Liberman, 2003)

① ある実験(Liberman & Trope, 1998, Study 1, Part 1)では、参加者に「来年」または「明日」のさまざ

まな活動(SF の本を読んだり、試験を受けるなど)に従事することを想像させ、説明させた

説明内容の分析は以下の基準(Hampson, John, & Goldberg, 1986)で行った

(1) 高レベルの説明(superordinate/high-level descriptions):

「行動による説明(“[description] by [activity]”)」という構造に適合する

例:「SF の本を読む」という活動を「自分の視野を広げる」と説明した場合、高レベル

の説明の構造に当てはまる([I broaden my horizons] by [reading a science fiction book])

(2) 低レベルの説明(subordinate/ low-level descriptions):

「説明による行動(“[activity] by [description]”)」という構造に適合する

例:「SF の本を読む」という活動を「ページをめくる」と説明した場合、低レベルの説

明の構造に当てはまる([I read a science fiction book] by [flipping pages])

解釈レベル理論の知見と一致して、「来年」の条件ではより高レベルの(抽象的な)記述を使用し、

「明日」の条件では低レベルの(具体的な)記述を使用した

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② 続く実験(Liberman & Trope, 1998, Study 1, Part 2)では、参加者が活動に関して具体的なものか抽

象的なものかどちらの言いかえを利用するかについて選択させた

例:「ドアに鍵をかける」という活動に対し、「家を安全に保つ」という高レベルの(抽象的な)説

明の選択肢と、「鍵を鍵穴に入れる」という低レベルの(具体的な)説明の選択肢を用意した

活動については「来年のある日、~」「明日、~」という時間表記をし、時間的展望を操作した

解釈レベル理論の知見と一致して、「来年」の条件ではより高レベルの(抽象的な)説明を選択し、

「明日」の条件では低レベルの(具体的な)説明を選択した

③ 別の実験(Nussbaum et al., 2003, Study 1)では、時間的展望がグループ分類に与える影響を検討した

「数か月後の週末」または「今週末」に実施されるイベント(例:キャンプ旅行、バザー(yard

sale)での買い物、ニューヨークへの訪問)を想像させ、イベントに関連する 38 個のオブジェク

ト(キャンプ旅行の場合:テント、歯ブラシ、懐中電灯など)を、適切だと思われる数の相互排

他的かつ網羅的なグループに分類するよう指示した

分類したグループの数を集計した結果、「数か月後の週末」の条件では少ないカテゴリ数での分類(つ

まり広く抽象的なカテゴリでの分類)を行っていた

④ 社会的な分類プロセス*[social categorization processes]においても、解釈レベル理論のロジックは適

用されている(Nussbaum et al. ,2003)

時間的距離の遠い行動は抽象的な特性(高レベルの解釈)に起因し、時間的距離の近い行動は具

体的な状況に起因する(低レベルの解釈)可能性が高いことを示した

グローバルな特性の概念(外向性[extraversion]、感情安定性[emotional stability]など)は、

より一般的で文脈に依存しないため、高レベルの解釈を構成する

一方、状況固有の状態の推論は低レベルの解釈を構成する

したがって時間的距離の遠い行動においては、グローバルな特性をより重要と考え、状況固

有の状態はより軽視する対応バイアス[correspondence bias]が発生する

行動の具体的解釈と抽象的解釈の区別は、人の知覚の研究においても中心的な重要性を持って

いる(Gilbert & Malone, 1995; Heider, 1958; Jones & Davis, 1965; Trope, 1986)

知覚者は同じ行動情報に基づいても、さまざまな抽象化レベルで推論を引き出すことが可能で

ある(Trope、1989; Trope&Liberman、1993)。

これらの発見は、近い将来の視点が比較的具体的で特定のオブジェクト表現を促進するのに対し、遠

い将来の視点は抽象的および一般的なオブジェクト表現を促進することを示唆している

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Temporal Perspective: Influences on Insight and Creativity

創造性課題は問題要素の抽象的な解釈が解決の糸口となりうる(see, e.g., Finke, 1995; Ward, 1995)

例:「代替使用テスト[alternative uses tests]」の創造性(Friedman & Förster, 2002; Schoppe, 1975)

「挨拶する理由」を考える際、「挨拶」というターゲットを「社交の方法」や「コミュニケ

ーションにおけるジェスチャー」というように高いレベルに抽象化して考えると、「手を振

る」や「声をかける」といった低いレベルに具体化した考えよりも独創的な回答につながる

①高いレベルの解釈は、実際のオブジェクトからより遠く離れた多様な解釈にアクセ

スできる可能性がある一方、②低いレベルの解釈は、一般的なに解釈のみにアクセスの

みにつながることが多く、革新的な発想を妨げる(see Marsh, Ward, & Landau, 1999)

ただし、問題が要求するソリューションによって必要とされるレベルが異なることも考え

られる(「挨拶する方法」を考えることは、「挨拶する理由」とは異なるのではないか)

洞察課題においても同様に、問題要素の抽象的な解釈から着想を得られる可能性がある

例:「高い塔からロープを使って逃げる囚人」*に関する古典的な洞察問題

高い塔から逃げる囚人を想像してください。この囚人はロープのみを持っています。しか

し、このロープは窓から地面の二分の一の長さしかありません。この囚人はロープを半分に

してそれらを結ぶことで塔から逃げました。どうして逃げることができたのでしょうか。

正答は発表者注の下側

この問題を具体的なイメージで「ロープを結ぶ」と考えるのではなく、「タワーを下る道を

見つける」と抽象的に考えることで、この問題を解決することが容易になる

--------------------

*発表者注:

Polman & Emich(2011)は上記の洞察問題について、「囚人が捕まっていること」を想像させる条件と

「自分が捕まっていること」を想像させる条件に分けて実験を行った

結果、「囚人」条件では 66%が正解したのに対し、「自分」条件では 48%しか正解できなかった

発表者はこの実験について、解釈レベル理論の仮想的距離が「囚人」条件では「自分」条件より

も遠かったため、抽象的思考をもたらしたと考えることができると考察している

--------------------

正答:より合わさったロープを縦方向に解き、それらを結べばほぼ地面までの長さとなる

以下の2要件を合わせると、遠い時間の視点は洞察と創造的思考の両方を高める仮説が立てられる

① 問題要素の抽象的な表現によって創造性が高められること

② イベントに対する遠い時間の視点が抽象的な表現傾向を生むこと

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ロープの例(画像は発表者が https://naka3ws.jp/2018/03/より引用)

イベントを考慮する際に遠い将来について考えるだけで、後続の創造性タスクに(意図や意識がなく

ても)適用される抽象的な精神表現への傾向を引き出すことが提案される

処理シフト[processing shift] (Schooler, 2002; Schooler, Fiore, & Brandimonte, 1997)

1 つのタスクに取り組む過程でアクティブ化された認知手続き[cognitive procedures]がアクティブ

のまま継続されるため、後続のタスクに転送[transferred]される現象

アクティブ化された手続きが後続の処理に有益である結果をもたらす場合には、「相応な転送

[Transfer-appropriate]」処理シフトであったとする

手続きが後続の処理を損なう結果をもたらす場合には「不相応な転送[transfer-inappropriate]」

処理シフトであったとする

先述した仮説を言い換えると、「遠い将来の時間の見通しは、洞察課題や創造性課題に関して相応な

転送処理シフトを引き起こす」ということができる

仮説を立証するには「相応な転送処理シフト」が発生する場合のみでなく、「不相応な転送処理シフ

ト」が発生する場合についても考えなくてはならない

具体的で低レベルの表現がパフォーマンスにとって有益な場合、遠い将来の時間の見通しはパ

フォーマンスに抑制的な影響をもたらすはずである

そのようなケースの 1 つとして、分析的な問題解決[analytical problem solving]が考えられる

分析的問題解決は具体的なアルゴリズムと問題表現への可用性判断[availability]と固執性

[adherence]に大きく依存する

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Overview of the Experiments

本研究では時間的解釈(近い未来 vs 遠い未来)を操作したうえで、洞察(実験 1~3)、創造的生成(実験

4・5)、および分析問題解決(実験 6)におけるパフォーマンスを測定し、以下の仮説を検討する

(1) 遠い将来の視点は、洞察におけるパフォーマンスに有益な影響を与える【実験 1~3】

(2) 遠い将来の視点は、創造的な生成におけるパフォーマンスに有益な影響を与える【実験 4・5】

(3) 遠い将来の視点は、分析的な問題解決におけるパフォーマンスを阻害する【実験 6】

【実験 1】では導入部で引用した例を含め、3 つの古典的な洞察の問題をテストする

Schooler et al (1993)はこれらの問題が洞察問題における 3 要件を満たすとしている

① 平均的な問題解決者[average problem solve]によって最終的に解決可能と理解される

② 解決の過程でインパスが生じ、方法選択の不確実性が高い状態を生み出す可能性が高い

③ 「aha」体験(インパスが突然克服され、解決策[solution]( Ohlsson、1984)が長期にわたる

解決策の努力の後に突然発見される状態)を生み出す可能性が高い

【実験 2】では Snowy Pictures Task (SPT; Ekstrom, French, Harman, & Dermen, 1976)を用いる

洞察問題における 3 要件を満たす、視覚洞察的なテストとされる

SPT は「文脈依存的な精神セットの破壊[breaking context induced mental set]」が必要とされる

【実験 3】では Gestalt Completion Test (GCT; Ekstrom et al., 1976)を用いる

洞察問題における 3 要件を満たす、視覚洞察的なテストとされる

GCT は「刺激セットの再構築[restructuring of a stimulus set]」が必要(Schooler & Melcher, 1995)

SPT と GCT が必要とするそれぞれの要素は創造性タスクの基本的プロセスに当たる

【実験 4】では参加者の半分に、「誰かにあいさつするための創造的な理由」を、残りの半分には、

「誰かにあいさつする創造的な方法」を考案させた(see Schooler et al., 1993)

「どのように[how]」が軸である場合には「なぜ[why]」が軸である場合よりも抽象的な思考が

関与しない可能性がある

創造的生成のすべての側面が抽象的思考に基づいているわけではないことを主張する

【実験 5】では「植物に水やりする方法」と「部屋を改善する方法」について、ストーリーの主人公

が創造的な方法を見つけるのを助けるよう依頼した

先行研究に基づき、「植物に水やりする方法」は具体的な表現を、「部屋を改善する方法」は抽象

的な表現を必要とすると考えられる(Vallacher & Wegner,1989)!!!n 実験 4 の結果を別ドメイン

で再現することが期待される

【実験 6】では遠い時間の観点から利益を得ないことが推測される「分析推論タスク」を用いた

遠い時間の視点があらゆるタスクに取り組む意欲を単に高めるという別の説明を除外すること

を意味する(see Friedman & Förster, 2000)

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時間的距離を操作するために、すべての実験(【実験 4・5】を除く)は以下の手順が実施された

明日または 1 年後の自分の人生を想像する(【実験 4】を除く)

明日または 1 年後の自分が解くことを想定しながら各実験の課題に取り組む(【実験 5】を除く)

タスクに直接時間的距離が関係する場合、時間的距離が強力に作用することが考えられる

一方【実験 5】では処理シフトについて重要な視点を提供する

【実験 1】

Method

Participants

35 名(女性 18 名,男性 17 名):21 の異なる国出身の様々な専攻の国際大学ブレーメンの 1 年生

慎重な座席配置で正行為を防止し、参加者はランダムに条件に割り当てられた

実験は英語で行われたのち、結果に性別の影響はなかった

Procedure

参加者は「想像力と知的パフォーマンス[imagination and intellectual performance]」に関する簡単な

研究に参加するように求められ、以下の手順で実験に参加した

洞察力[insight]も創造性[creativity]も募集や実験開始時点で明示的には言及されていない

① 小冊子が渡され 5 分間、実験条件に応じて明日、または 1 年後にタスクを解くことを想像する

タスクは、短い例を使用して簡単に説明された

② リッカート尺度[Likert scale]を用いて実験結果に交絡しうる要因について 9 件法で尋ねる

(1) 現在の気分[mood](「あなたは今どう感じていますか?[How do you feel right now?”]」)

気分が洞察と創造性に影響することが示されたため(Isen, Daubman, & Nowicki, 1987)

(2) パフォーマンスへの期待[expectancies](「次のタスクでどの程度うまくいくでしょうか?

[“How well will you perform on the following task?]」)

タスクへの感覚は時間解釈にも影響される可能性があるため(Liberman&Trope, 1998),

(3) タスクへの好み[likeing](「次のタスクを解決するのはどれほど好ましいでしょうか?[How

much would you like to solve the following task right now?]」)

③ 各 2 分間ずつ、計 3 問の洞察問題に解答する

④ リッカー度尺度を用いて実験結果に交絡しうる要因について 9 件法で尋ねる

(1) 現在の気分

(4) 想像難度[difficulty](「明日から 1 年後の課題を想像するのはどれくらい難しかったか

[(“How difficult was it to imagine doing the task tomorrow/a year from now]」)

タスクに取り組む意欲を高めたり、損なったりする可能性がある

⑤ デブリーフィングを行う

想像力のタスクと洞察力の測定値との関係について疑いを表明した参加者はいなかった

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Task

実験 1 では以下 3 つの洞察課題が用いられた

① 「高い塔からロープを使って逃げる囚人」に関する洞察問題

② 「紀元前のコイン」に関する洞察問題

アンティークコインのディーラーが、美しいブロンズコインの購入を申し出ました。 コイ

ンの片側には皇帝の頭があり、紀元前544 年の日付があります。 他方に刻印されています。

ディーラーはコインを調べましたが、買う代わ

りに警察に電話しました。 なぜでしょうか。

解答:紀元前にイエスは生まれていなかったので、その当時の硬貨には「紀元前」の印は付

けることができないため

③ 3 つの円だけを動かして三角形を下に向ける問題

Results and Discussion

Performance on insight problems

解決された問題の数(提示された 3 つのうち)を合計して、スコアを計算した

遠い将来の条件の参加者(M= 1.28、SD =1.18)は、近い将来の条件の参加者(M = 0.35、SD

= 0.70)よりも多くの問題を解決しました。t(33)= 2.80、p <.01

Mood, liking, expectancies, and difficulty

タスクの難易度を除き、実験グループ間で差はなかった

参加者は、1 年後(M= 4.56、SD = 2.53)、を想像したときよりも翌日(M= 6.35、SD= 1.66)

に想像したときの方が課題を解決するのが難しいと報告した t(33)= 2.47 p< .02。

分散分析(ANOVA)の結果、共変量として難易度を入力した場合、時間の観点の効果は同

様に信頼性が高く、難易度が効果を媒介することはなかった

参加者が明日(近い将来の視点で)課題を実行するのを想像するのと比較して、参加者が今から 1 年

後に課題を想像したとき(遠い未来の視点)、洞察問題を解決する能力が促進された

気分、成功の期待、タスクの好み、または主観的なタスクの難易度によって媒介されず、遠い未来の

時間の展望が抽象的な思考への処理シフトを誘発するという最初の証拠を提供した

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【実験 2】

言葉による思考を要求する洞察問題ではなく、知覚的な洞察問

題として Snowy Pictures Task (SPT; Ekstrom, French, Harman,

& Dermen, 1976)を用いた

参加者は視覚的なノイズのパターンから、身近なオブジェクト

(鳥など)の画像を抽出する(Friedman&Förster、2000、2002

を参照)(右図は発表者が用意)

インパスが生じ、継続的な努力でそれを解決しうる課題である

(Schooler & Melcher, 1995; Schooler et al.,1993)

Moritz et al.(2014)

Examples: a hidden sailboat;

具体的な意味を与えていく(たとえば、「線と点の束」を捉える)よりも、画像を抽象的に解釈してい

く(犬かどうかを確認する)ほうがよいパフォーマンスが得られるとされる(Ekstrom et al.,1976)

【実験 2】では、参加者が次の日または 1 年後にそれを行うことを最初に想像することなく、単にタ

スクを完了するコントロールグループを追加した

「今日」と比較した「明日」の解釈は具体性の点でそれほど変わらないと推測される

推測通りであれば、【実験 1】の結果が、時間的距離の近さによる抑制作用でなく、時間的距離

の遠さによる促進作用によるものであったことを証明することができる

Method

Participants

42 名(女性 18 名,男性 24 名):心理学以外の分野を専攻しているブレーメン地域の高校・大学生

2 時間のセッションで個別に作業し、参加に対して 14 ユーロの報酬が支払われた

結果に性別の影響はなかった

Procedure

参加者は「知覚と集中 [perception and concentration]」に関するいくつかの研究に参加するように

求められ、20 分の無関係なタスクののち、以下の手順で実験に参加した

① 小冊子が渡され 5 分間、3 条件のうち 2 条件では「明日」「1 年後」の自分の生活の想像と後続

のタスクを解くことに関する想像に従事させられる

SPT タスクは「一定の時間内にできるだけ多くの問題を解決することが重要である」「いく

つかのパズル」として説明された

タスクが「人格の重要な側面」を測定すると言われ、雪の絵の一例が与えられた

もう一つの条件においてはこの段階をスキップした

② 実験 1 と同様に、(1)現在の気分[mood]、(2)パフォーマンスへの期待[expectancies]、(3)タスク

への好み[likeing]を 9 件法で測定する

③ 3 分間 SPT タスクを取り組む

12 枚の写真が含まれており、条件を知らない実験者が時間を測定した

④ 実験 1 と同様に(1)現在の気分[mood]、(4)想像難度[difficulty]を測定する

⑤ デブリーフィングを行い、賃金を支払い、解放した

時間解釈操作と SPT との関係について疑いを表明した参加者はいなかった

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Results and Discussion

SPT insight scores

正しく識別できた画像(12 個中)の数を加算することにより、SPT insight scores を計算した

仮説通り、「1 年後」条件の参加者(M = 7.86, SD = 2.35)は、「明日」条件(M = 5.93、SD = 5.93)

および「今日」条件(M = 5.93、SD = 1.07)に比べ多くの画像を識別した F(2,39)= 4.85、p <.02

仮説通り、コントラスト分析[Contrast analyses]によると以下の結果が得られた

「1 年後」条件と「明日」条件間には有意差が見られた t(39)= 2.70、p <.02

「1 年後」条件と「今日」条件間には有意差が見られた t(39)= 2.70、p <.02、

「明日」条件と「今日」条件間には有意差が見られなかった t < 1

Mood, liking, expectancies, and difficulty

これらの分析は、私たちの操作に起因する大きな違いを反映しなかった

洞察問題の解決に対する将来の時間の展望の促進効果に関する追加の証拠を提供した

動機付けや気分変数によって媒介されなかった

【実験 3】

知覚的洞察の異なる尺度である Gestalt Completion Test (GCT;

Ekstrom et al., 1976)を用いた

参加者にはおなじみのオブジェクトの断片化された一連の写真

が掲示され、各断片を閉じることで回答が可能になる(右図は発

表者が用意)

右図:Trope & Liberman(2010)

Identifying the pictures (from top right to bottom left: a boat, a rider

on a horse, a rabbit, a baby) requires visual abstraction.

Method

Participants

45 名(女性 26 名,男性 19 名):ドイツの高校・大学生

最大 3 人が同じ部屋でテストし、2 時間で 14 ユーロの報酬が支払われた

2 人は実験者のエラーのため、1 人は継続を拒否したため分析から除外した

結果に性別の影響はなかった

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Procedure

参加者は「知覚と集中 [perception and concentration]」に関するいくつかの研究に参加するように

求められ、30 分の無関係なタスクののち、手順で実験に参加した

① 小冊子が渡され 5 分間、3 条件のうち 2 条件では「明日」「1 年後」の自分の生活の想像と後続のタ

スクを解くことに関する想像に従事させられる

GCT タスクは「創造性タスク」として記述されていた

タスクが「視線の取り方」の事前テストとして、GCT タスクで用いる画像の一例が与えられた

タスクが人格の重要な側面を捉えるものであるとし、モチベーションを向上させた

もう一つの条件においてはこの段階をスキップした

② 実験 1 と同様に、(1)現在の気分[mood]、(2)パフォーマンスへの期待[expectancies]、(3)タスクへの

好み[likeing]を 9 件法で測定する

③ 2 分間 GCT タスクを取り組む

課題は、机の上に平らに置かれた 2 枚の 8.5 インチ 11 インチの用紙に印刷されていた

10 項目の GCT 課題について解答を行わせた

④ 実験 1 と同様に(1)現在の気分[mood]、(4)想像難度[difficulty]を測定する

⑤ デブリーフィングを行い、賃金を支払い、解放した

(ア) 時間解釈操作と GCT との関係について疑いを表明した参加者はいなかった

Results and Discussion

GCT insight scores

正しく識別された画像(10 個中)の数を合計することにより、GCT 洞察スコアを計算した。

「1 年後」条件の参加者(M = 8.64、SD = 1.15)は、「明日」条件(M = 7.36、SD = 1.45)または

「今日」条件(M = 7.43, SD = 1.40)よりも多くの正答をした F(2, 39) = 4.08; p < .03

仮説通り、コントラスト分析[Contrast analyses]によると以下の結果が得られた

「1 年後」条件と「明日」条件間には有意差が見られた t(39)= 2.40; p <.03

「1 年後」条件と「今日」条件間には有意差が見られた t(39)= 2.54; p <.02

「明日」条件と「今日」条件間には有意差が見られなかった t < 1

Mood, liking, expectancies, and difficulty

グループ間で有意な差は認められなかった

洞察問題の解決に対する将来の時間の展望の促進効果に関する追加の証拠を提供した

動機付けや気分変数によって媒介されなかった

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【実験 4】

実験 4 では創造的な生成タスクを使用して、【実験 1~3】の収束結果を拡張しようとした

実験は「代替使用テスト[alternative uses tests]」を基に作られ、創造性のタスクが抽象的思考に依存

する程度を操作するために参加者の半分が具体的なソリューション(誰かに挨拶する創造的な「方

法」)を生成し、他の人が抽象的なソリューション(個人が誰かに挨拶する「理由」)を生成するよう

タスクを組み立てた(Schwarz, and Gschneidinger’s, 1985, and Vallacher and Wegner’s, 1989)

たとえば、「本を読む」は「ページをめくる」または「自分を楽しませる」と識別できる

「ページをめくる」はより具体的で、「自分を楽しませる」はより抽象的

すなわち「方法」の創造性タスクより「理由」の創造性タスクが時間的操作の影響を受けやすい

と考えた

Participants

52 名(女性 32 名,男性 20 名):心理学以外の分野を専攻しているブレーメン地域の高校・大学生

最大 3 人が同じ部屋でテストし、2 時間で 14 ユーロの報酬が支払われた

3 人の参加者は、すべての質問に答えられなかったため、分析から除外した

結果に性別の影響はなかった

Procedure

参加者は「創造性を含むいくつかの問題[a study on severalissues, including creativity.]」に関する研

究に参加するように求められ、経済的な理由から 50 分の無関係なタスクの後、実験に参加した

① 小冊子が渡され 5 分間、後続のタスクを解くことに関する想像に従事させられる

② 実験 1 と同様に、(1)現在の気分[mood]、(2)パフォーマンスへの期待[expectancies]、(3)タスクへの

好み[likeing]を 9 件法で測定する

③ 2 分間 「1 年後[明日]、~をすることで誰かに挨拶します(方法条件/具体条件)」または「1 年後[明

日]、~をするために誰かに挨拶します(理由条件/抽象条件)」[a year from now [tomorrow],I will greet

someone because [by] _____.]というフレーズの穴埋めによる回答をさせた

誰かに挨拶する創造的な方法か、創造的な理由を考えるか、を教示された

【実験 1~3】と異なり一般的な生活の想像することを追加で求められなかった

実験目的での使用を超えて、たとえば人々が創造的思考を改善したい場合など、日常生活でも比

較的適用できると思った

④ 実験 1 と同様に(1)現在の気分[mood]、(4)タスクの難度[difficulty]を測定する

Results and Discussion

Creative generation

解答は 2 人の独立した専門家によって 1(まったく創造的ではない)から 7(非常に創造的)までの

規模で評価され、その平均を創造性スコアとして利用した

評価者の信頼性を高めるために、解答の例をいくつか受け取り、基準について議論した。なおそ

の際専門家は実際の仮説を知らなかった(Cronbach’s α = .84)

また解答数も集計し分析を行った

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創造性スコアを分散分析すると、以下の結果が得られた

主効果はなかった (all Fs < 2.52; ps >.11)

有意な交互作用が得られた F(1, 45) = 11.96; p < .01

具体的には、「1 年後×理由」条件が他の全ての条件に比べて創造的であった

時間的距離/課題条件 抽象条件[abstract] 具体条件[concentrate]

1 年後[distant] M = 4.16, SD = 0.58 M = 3.07, SD = 0.77;

明日[near] M = 3.14, SD = 0.76 M = 3.53; SD = 0.86

単純コントラスト分析によると、「1 年後条件」と比較して「明日条件」が強化されたのに対し

t(45) = 3.40, p < .01,;、具体的な反転傾向は有意ではなかった t(45) = 1.51; p > .13.

解答数を分散分析すると、以下の結果が得られた

「理由条件(M = 8.37, SD = 3.15)」が「方法条件(M = 6.92, SD = 2.48)」に比べ多くの解決策

を出していた F(1, 45) = 3.44; p <.08.

他の有効な効果はみられなかった(all Fs = 1.33; all ps > .25).

Mood, liking, expectancies, and difficulty

以下の指標において有意差が観測された

「1 年後」条件(M = 6.92, SD = 2.28)におけるタスクが「明日」条件(M = 4.92, SD = 2.21)にお

けるタスクよりも(3)好まれた[liking]F(1, 45) = 8.48; p <.01

「1 年後」条件(M = 5.92, SD = 1.95)が「明日」条件(M = 4.72, SD = 2.21);)よりもパフォーマ

ンスに(2)期待[expectancies]が持たれた F(1, 45) = 3.88; p < .06,

「明日×方法」条件と「1 年後×理由」条件は「明日×理由」条件と「1 年後×方法」条件に比

べ主観的な難易度[difficulty]が低く、相互作用が見られた F(1, 45) =4.54; p < .04

時間的距離/課題条件 抽象条件[abstract] 具体条件[concentrate]

1 年後[distant] M = 5.83; SD = 1.99 M = 4.92; SD = 1.89),

明日[near] M = 4.83, SD = 2.62 M = 6.50; SD = 1.88

これらの影響は予測されておらず、他のどの研究でも再現されなかった

実験 4 の結果は、手元の創造性タスクが抽象的な思考(挨拶の理由を考える)を要求している場

合にのみ、創造性に対する遠い未来の時間の展望の促進的影響がみられることを示唆している

実験 1~4 は、遠い時間の解釈が洞察と創造的思考を促進するという私たちの主要な仮説を強く

支持しているが、処理シフトの仮定に対するより強力な証拠を提供する必要がある

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【実験 5】

処理シフトの主張を考慮すれば、近いまたは遠い将来の人生について考えるだけで、表現の抽象化の

傾向を活性化することができると考えられる

実験 5 では、参加者は、今から明日、来年の実験課題に取り組むことを想像するように求めず、代わ

りに、彼らは人生のさまざまな時点で一般的なことを考えるように単に指示された

Participants

138 名(女性 78 名,男性 60 名):心理学以外の分野を専攻しているブレーメン地域の大学生

最大 3 人が同じ部屋でテストし、2 時間で 14 ユーロの報酬が支払われた

3 人は実験者のミスのため、2 人はタスク継続を拒否したため分析から除外した

結果に性別の影響はなかった

Procedure

参加者は「創造性を含むいくつかの問題[a study on severalissues, including creativity.]」に関する研

究に参加するように求められ、経済的な理由から 45 分の無関係なタスクの後、実験に参加した

① 2 分間、1 年後(遠い未来)または明日(近い未来)の生活をある程度詳細に想像させた

制御条件の参加者は時間の指摘を受けなかった

② 実験 1 と同様に、(1)現在の気分[mood]、(2)パフォーマンスへの期待[expectancies]、(3)創造性タス

クへの好み[likeing]を 9 件法で測定する

創造性タスクに関する簡単な説明がなされた

③ 「Miller さんは彼女の工場が好きです。彼女が植物に水をやる方法(具体条件)/部屋をさらに改善

する方法(抽象条件)に関して、できるだけ多くの創造的な方法を見つけるのを手伝ってください」

という課題について解答させた

本課題では Behavior Identification Form (Vallacher & Wegner, 1989)を参考にしている

④ 実験 1 と同様に(1)現在の気分[mood]、(4)創造性タスクの難度[difficulty]、また(5)生活を想像する

タスクの好ましさを加えて測定する

⑤ デブリーフィングを行い、賃金を支払い、解放した

時間解釈操作と創造性タスクとの関係について疑いを表明した参加者はいなかった

Results and Discussion

Creative generation.

創造性評定は実験 4 と同様に行われた

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創造性スコアの分散分析から以下の結果が得られた

時間的展望の主な効果を明らかにした F(2, 127) = 25.05; p < .01

参加者は今から 1 年後の生活(M = 3.40)を想像すると、統制条件(M = 2.46)の参加者

と明日の生活を想像した参加者(M = 2.46)と比較して、より創造的な解答をした

この主効果は、時間的距離と課題条件の相互作用を反映した F(2, 127) = 10.13; p < .01 も

のでもあり、特に「1 年後×抽象」条件の参加者が最も創造的であった

単純なコントラスト分析では以下の結果が得られた

1 年後条件での抽象的なタスクの創造性が向上した(t(127) = 4.23; p < .001)のに対し、統

制条件と明日条件では有意差はなかった(ts = 1.53; ps > .12)

抽象条件では 1 年後の条件での創造性は、明日条件 t(127)= 7.30, p <.01、及び統制条件

t(127)= 6.84。 p < .01 と比べて創造性が向上していたのに対し、具体条件では有意差は

なかった

その他有意差が観測されるものはなかった

解決策の数について有意差はみられなかった Fs = 1.25, and F(2, 127) = 1.96; p > .14

Mood, liking, expectancies, and difficulty

自己報告に関する分散分析は以下の 2 項目について有意差を示した

(4)創造性タスクの難易度に関する時間的距離の主効果 F(2,127) = 8.23; p < .01,

統制条件における創造性タスクの難易度を他 2 条件よりも高く見積もった

(3)創造性タスクへの好みに関する時間的距離の主効果 F(2,133) = 3.80; p < .03.

明日条件における創造性タスクへの好ましさを他 2 条件より高く見積もった

時間的距離/主観尺度 創造性タスクの難易度 創造性タスクへの好み

1 年後 M = 5.87、SD = 1.86 M = 5.41、SD = 2.22

明日 M = 6.28、SD = 2.11 M = 6.19、SD = 2.17

統制 M = 4.59、SD = 2.10 M = 4.84、SD = 2.43

ただし創造性の分析で共変量として入力された場合ではこれらの結果が媒介することはなかった

【実験 5】の結果は【実験 4】の結果と収束し、手元の創造性タスクが抽象的な思考を比較的要求し

ている場合にのみ、遠近の時間的視点が創造的生成を促進することを示唆している

創造性に影響を与える方法で認知処理をシフトするには、遠い未来と近い未来の生活について考え

るだけで十分であることを示唆している

処理シフトが意図しないものであったという仮説を強化するものである

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【実験 6】

タスクのパフォーマンスを成功させるために具体的な低レベルの表現が必要な場合、近い将来に比

べて遠い将来の視点は抑制的な影響を与えるはずである

実験 6 では抽象ヒューリスティックではなく、具体的なアルゴリズムの順守に依存する the Graduate

Record Examination(GRE)分析テストの一部を実施した(Amabile, 1996; Friedman & Förster, 2000).

遠い時間の視点でパフォーマンスが低下することを予想した

遠い時間の視点が特定の条件下でパフォーマンスを損なうことを発見することは、問題の効果

は動機の単純な違いによるものではなく、むしろ処理スタイルの違いによるものであるという

主張に支持を与える

Method

Participants

60 名(女性 42 名,男性 18 名):心理学以外の分野を専攻しているブレーメン地域の高校・大学生

2 時間のセッションで個別に作業し、参加に対して 14 ユーロの報酬が支払われた

結果に性別の影響はなかった

Procedure

参加者は「知覚と集中 [perception and concentration]」に関するいくつかの研究に参加するように

求められ、タスク以外について実験 2 と同じ手順で実験は実施された

タスクは GRE から借用され、ドイツ語のネイティブスピーカーによってドイツ語に翻訳された

4 つの論理パズルで構成されていました(Friedman & Förster, 2000; Experiment 7)

時間的視点の操作とタスクのパフォーマンスとの関係は疑われなかった

Results and Discussion

GRE scores

一元配置分散分析により正答数と時間的距離(1 年後,明日,統制条件)を比較した

予測通り、1 年後条件の参加者(M =1.00, SD =0.74)は、統制条件(M 1.74、SD 0.99)や明日条件(M

1.65、SD 0.99)の参加者に比べ有意に正答数が少なかった F(2,55)=3.69; p <.04。

単純コントラスト分析では 1 年後条件 vs.統制条件(t(55) =2.48; p<.02)、1 年後条件 vs.明日条

件(t(55) = 2.22; p < .04)の有意差が確認された。統制条件 vs.明日条件は有意でなかった(t< 1)

Mood, expectancies, liking, and difficulty.

有意差はみられなかった

以上より【実験 6】は、処理スタイルが目前の問題の解決に適していない場合、遠い時間の視点がパ

フォーマンスに有害な影響を与える可能性があることを示唆している

具体的な低レベルの処理に対する比較的重い要求を課す分析的推論は、遠い将来の時間的展望によ

って生み出される抽象的な精神的表現への傾向によって妨げられる

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General Discussion

本研究の結果は、遠い未来について考えることは、後続のタスクに移される抽象的な精神的表現への

処理シフト(Schooler、2002; Schooler et al。、1997)を引き出すという私たちの主張を支持する

遠い時間の視点が、洞察力(実験 1~3)と抽象的な創造的パフォーマンス(実験 4~5)を向上させる

ことが明らかになった

加えて【実験 5】では時間解釈タスクと創造性タスクが無関係でも影響が発生することを示した

また【実験 6】では遠い時間の視点が、分析的な推論を阻害することを明らかにした

また遠い時間の視点が量ではなく品質に影響を与え(実験 4・5)、分析的推論問題のパフォーマンス

を向上させるのではなく減少したという事実(実験 6 を参照)は、時間的展望の効果は、努力や生産

性を強化する一般的な傾向を表していないことを示唆している

代替の説明を除外するために、6 つの実験すべてにおいて、タスクの好み[liking]、パフォーマンス

期待値[expectancies]、および気分[Mood]の測定値を含めた。

結果としてこれらの変数による媒介の統計的証拠は見つからなかった

言い換えると、これらの変数の変化は、パフォーマンスに対する時間的視点の影響を駆動しない

ことを示唆している

一方で、タスクの主観的実行可能性[subjective feasibility]または望ましさ[desirability]の側面の

影響を考慮しておらず、主観的な重要性に影響を与える可能性がある(Liberman &Trope, 1998)

時間的距離の操作を弱め、後続のタスクへの影響を損なう可能性がある対策が多すぎる場合に

注意しつつ、媒介変数になりうる要因を調査していく必要がある

Implications for CLT

時間的視点の変化は、処理スタイルの一般的変化(たとえば、イベントやオブジェクトを抽象的に解

釈する傾向)に関連、意図なしに無関係な後続タスクのパフォーマンスに影響を与える可能性がある

解釈レベル理論に関する多くの文献は時間的距離の操作をしている(Trope & Liberman, 2003, for a

review),が、実際には精神的距離の一般的理論で、時間の次元に縛られない(Lewin,1951)

間的に近接して提示された同じタスクと比較して、遠くに提示された創造性タスクのパフォー

マンスは向上すると推測している(空間的距離)

時間的に離れている場合のように、ヒューリスティックは空間的距離を抽象的な表現に関連付けて

時間とともに進化した可能性があると仮定している

空間的な距離では、個人はローカルのユニットよりもグローバルなユニット(木ではなく森林、

(Trope & Liberman, 2003)に集中する傾向があるため *発表者注:NAVON タスク

空間的距離においても処理シフトを駆動することができると考えている

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現在、遠い過去からの思い出を検索することが最近の過去からの思い出を検索するよりも創造的な

思考につながるかどうかの調査を行っている

時間的距離について考える傾向の慢性的な個人差が、どのように創造的および分析的な問題解決に

効果をもたらすかを調べる計画も進行中である

一時的な解釈が創造性に影響を与えるという事実も、意思決定に重要な意味を持つ可能性がある

問題をより創造的に見ると、その多面的な性質を考慮することになる。

創造的思考モードの人々は、アクセスしやすい知識に基づいて判断を下す可能性が低く、そ

の後、固定されたバイアスを回避する可能性があります(Strack&Mussweiler、1997)

確立された経験則に頼る代わりに従来のヒューリスティックに過度に依存することによっ

て生じるバイアスを避けるために、より型破りな方法を見つけようとするかもしれない

時間的視点、創造的思考、意思決定の間の相互関係を調査するには、より多くの研究が必要である

Processing Shifts and Creativity: Beyond Temporal Construal

パフォーマンスに対する時間的解釈は、1 つの認知活動への関与が後続のタスクのパフォーマンスに

影響する処理シフトを自動的に誘発する

創造性は、①問題要素、②イベント、③オブジェクトの特徴、④タスクの要求内容を含んだ以前のパ

フォーマンスなどによって肯定的または否定的に「プライミング」される可能性がある

自動性に関する社会認知研究は、特定の概念や目標の表現とは対照的に、処理ルーチンの微妙な活性

化が社会の認識、判断、行動に影響を与える可能性のある方法の探索から利益を得る可能性がある

Alternative explanations.

処理シフトの概念は、特定の状況キューが定性的に異なる処理スタイルを直接生成できることを示

唆する自己規制[self-regulation]の多くの理論がいくつか存在し、今回はそのうち 2 つを検討する

① Epstein’s Cognitive–Experiential Self Theory (CEST; Epstein, 1991, 1994).

人々は情報を合理的または経験的に処理する程度を時間とともに変化させるという理論

(1) 合理的システム[rational system]は主に意識レベルで動作し、意図的、分析的、主に言語的

で、比較的自由に影響を及ぼす

(2) 経験的システム[experiential system]は自動、事前意識、全体的、連想的、主に非言語的で

あり、感情と密接に関連していると想定される

経験的システムが合理的システムと比較して使用されている場合、タスクに取り組む際の創造

的思考と分析的思考の側面から検討することができる

一方で、「1 年後の自分の人生について考える」ことは、「明日自分の人生について考える」とい

うタスクと比較して、合理的なモードよりも体験的処理モードに関連しているとは考えにくい

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翌日に発生する事柄についての思考は、切迫感を強く感じさせ、感情的に喚起する可能性がある

CEST が現在の結果を簡潔に説明できるとは考えにくい

② Higgins’s (1997) regulatory focus theory (RFT)

RFT は、2 つの定性的に異なる動機付けのオリエンテーション、発展を達成するための動機付

け(食欲をそそるなど)を伴う昇進フォーカスと、安全を確保するための動機付け(害からの保

護など)を伴う予防フォーカスを区別する

Higgins(1997)は、昇進フォーカスによって引き出されるものは創造的思考を強化し、予防フォ

ーカスによって引き出されることは創造的思考を損なう可能性があることを主張している

昇進または予防に関する迷路のタスクを実施した(Friedman &Förster, 2004)

どちらの条件でも、迷路内に閉じ込められた漫画のマウスを描いて、参加者に正しい経

路をたどってマウスの抜け道を見つけるように依頼した

昇進キューの状態では、スイスのチーズが迷路の外にあると描写された

迷路の脱出を食料の獲得という「昇進」に焦点を当てて考えさせ、活性化させる

予防キューの状態では、フクロウが迷路の上をホバリングしていると描写された

迷路の脱出を安全の確保という「予防」に焦点を当てて考えさせ、活性化させる

昇進迷路を完了した参加者は、予防迷路を完了した参加者よりも洞察と創造的な生成

タスクでより良いパフォーマンスを示した

半球の差次的活性化が効果を一部媒介するという証拠も発見された(Friedman&

Förste, 2004)

Derryberry and Tucker(1994)の理論化に基づいて、予防的動機付けの手がかり

と比較して、昇進的動機付けが右半球の相対的な活性化を引き起こすと主張した

このことは線二等分タスク(Milner, Brechmann, & Pagliarini, 1992)およびキメラ

顔タスク(Levy, Heller, Banich, & Burton, 1983)からも裏付けられている

時間的視点の変化は、規制の焦点に対する影響の違いにより、抽象的思考と具体的思考に影響を

与えることができるのだろうか

Pennington and Roese(2003)は、遠い将来の時間の展望が昇進の目標に対する懸念を高め

る一方で、近い将来の時間の展望が予防目標に対する懸念を高める可能性があるという証

拠を加えました。

時間的視点の変化が差別的規制焦点の活性化を介して抽象的思考と具体的思考への処理シ

フトを誘発するか、規制的焦点が差別的精神距離の誘発を介してこれらの処理シフトを引

き起こすか、またはその両方かは不明である

CEST と RFT は、処理シフトの概念を支持し、これにより、特定の思考モードと動機付け

システムのアクティブ化が引き継がれ後続のタスクの抽象処理と具体処理に影響を与える

これらの変数を時間的観点に関連して調査し、それらが相互に、また独自に洞察と創造的

認知にどのように影響するかを判断することは価値がある