Upload
others
View
1
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
Study on regulation of splicing by humanimmunodeficiency virus type1 (HIV-1) Vprprotein
著者 橋爪 智恵子内容記述 "February 2007"--Cover
Thesis (Ph. D. in Science)--University ofTsukuba, (A), no. 4309, 2007.3.23Includes bibliographical references (p. 29-38)
発行年 2007URL http://hdl.handle.net/2241/91389
-38�-
氏 名(本籍) 橋はし
爪づめ
智ち
恵え
子こ
(長 野 県)
学 位 の 種 類 博 士(理 学)学 位 記 番 号 博 甲 第 4309 号学位授与年月日 平成 �9 年 3 月 23 日学位授与の要件 学位規則第 4 条第 � 項該当審 査 研 究 科 生命環境科学研究科学 位 論 文 題 目 Study on Regulation of Splicing by Human Immunodeficiency Virus
Type1 (HIV-1)Vpr Protein(ヒト免疫不全ウイルス � 型(HIV-�)Vpr タンパク質によるスプライシング制御に関する研究)
主 査 筑波大学教授(連携大学院) 獣医学博士 間 陽 子
副 査 筑波大学教授 理学博士 漆 原 秀 子
副 査 筑波大学教授 薬学博士 永 田 恭 介
副 査 筑波大学助教授(連携大学院) 理学博士 三 好 浩 之
論 文 の 内 容 の 要 旨
後天性免疫不全症候群(AIDS)の病原ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス � 型(HIV-�)はレトロ
ウイルスである。構造遺伝子,調節遺伝子の他に,アクセサリー遺伝子 nef,vpu,vpr,vif を有し,中で
も vpr 遺伝子産物はウイルス感染効率の上昇及び HIV-� 潜伏感染細胞からのウイルス産生を惹起するため,
AIDS 発症の鍵として注目されている。Vpr タンパク質は 96 アミノ酸残基,�4kDa であり,核移行,細胞
周期の G2 期停止,アポトーシスおよび転写活性化等を惹起するといった多機能性が報告されているが,そ
れらの機能に関わる細胞内因子が同定されている例は少数である。
当研究室で,Vpr 相互作用細胞内因子の単離が yeast two hybrid 法を用いて試みられ,spliceosome-
associated protein �45(SAP�45)が初めて見出された。SAP�45 は,スプライシングに関係する因子であ
ることから,Vpr をヒト子宮頚癌細胞 HeLa に発現させ,α-globin2 pre-mRNA を reverse transcriptase-
polymerase chain reaction(RT-PCR)で解析したところ,イントロン � の蓄積が確認された。本研究では,
先行研究で確認された Vpr 存在下でのα-globin2 pre-mRNA イントロン � の蓄積が,Vpr の新規機能,即ち,
スプライシング制御によって起こるか否か,さらには Vpr によるスプライシング制御が SAP�45 との相互
作用を介して発揮されるか否か,その機能発揮の際に,Vpr がスプライソソームに与える影響の分子機序を
解明することを目的とした。
最初に GST pull down 法および免疫沈降法を行ったところ,Vpr と SAP�45 の相互作用が in vitro およ
び in vivo において確認できた。次に蛍光抗体法によって,Vpr と SAP�45 は核内で部分的に共局在してい
ることが明らかとなった。続いて,免疫沈降法により,Vpr は U�-70K 及び U2B”とは相互作用している
が,SAP�45 と直接結合する SAP49 とは相互作用していないこと,GST pull down 法及びノーザンブロッ
ト法により,Vpr は U2 及び U�snRNP と相互作用していることが確認できた。さらに,蛍光抗体法により,
Vpr は核スペックル局在マーカー SC35 と核内で部分的に共局在していることが示された。以上の結果から,
Vpr がスプライソソーム中に存在することが立証された。
【169】
-382-
次に,S� nuclease 法を行い,Vpr が細胞内でβ-globin pre-mRNA の蓄積を促進していることが確認でき
た。続いて,β-globin pre-mRNA を用いた in vitro スプライシング反応を行い,Vpr 存在下でスプライシ
ングが阻害されることを見いだした。即ち,Vpr はスプライシング反応自体を標的としていることを初めて
明らかにした。さらに,非変性ゲル泳動による解析では,Vpr はスプライソソームの初期形成を抑制し,そ
れ以降の複合体形成を阻害する可能性が示唆された。
Vpr によるスプライシング阻害が Vpr と SAP�45 との相互作用を介して惹起されるかを調べた。まず,
SAP�45 との相互作用が著しく低下した Vpr 点変異体を作成し,in vitro スプライシング反応を行ったとこ
ろ,これら変異体はスプライシング阻害能が野生型 Vpr に比較して低下していた。さらに,野生型 Vpr の
存在下において,SAP�45 と SAP49 との結合が減弱したのに対し,変異体では結合が回復していた。さらに,
in vitro 合成した SAP�45 及び SAP49 を抗 SAP�45 抗体で免疫沈降したところ,GST-Vpr の添加によって,
SAP�45 と SAP49 の結合率が著しく低下した。従って,Vpr と SAP49 は SAP�45 に対して競合的に結合す
ることが証明された。
本研究により,Vpr はスプライシングを制御するという新たな機能を有することが証明された。その分子
機序として,スプライソソームにおいて Vpr が SAP�45 と相互作用することによって,SAP�45-SAP49 複
合体の形成を抑制する結果として,β-globin pre-mRNA のスプライソソーム形成の初期過程を抑制する可
能性が示された。
審 査 の 結 果 の 要 旨
本研究は,Vpr が細胞側の pre-mRNA のスプライシングを阻害するという新たな機能を世界に先駆けて
明らかにしたものである。Vpr をヒト子宮頚癌細胞 HeLa に発現させるとα-globin2 pre-mRNA のイント
ロン � が蓄積するという先行研究から得られた成果に着目し,困難な in vitro スプライシング反応系を立
ち上げ,Vpr がスプライシング反応自体を阻害していることを初めて立証した点は高く評価される。さら
に,スプライソソームにおいて Vpr が SAP�45 と相互作用することによって,スプライソソーム形成の初
期過程を抑制するという機序は様々な工夫をこらしたアプローチから証明されたものであり,新規性に富
むものである。特に,競合阻害実験によって,Vpr のスプライシング制御が Vpr と SAP�45 の結合により,
SAP�45-SAP49 複合体形成を阻害することによっておこることを世界で初めて立証した功績は極めて大き
く,ウイルス学のみならずスプライシング研究に大きく貢献するものと思われる。
よって,著者は博士(理学)の学位を受けるに十分な資格を有するものと認める。