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ROAD TEST No 5139 Ferrari F12 Berlinetta フェラーリF12ベルリネッタ かつてフェラーリには、フロントにV12エンジンを積んだ偉大なモデルがいくつも存在した。 マラネッロはこのF12で、過去の輝ける栄光を現代に甦らせることに成功したのであろうか。 photo: Stan Papior WE LIKE 素晴らしくて衝撃的なエンジンとパフォーマンス、扱いやすいツーリング時のマナー、日常での使いやすさ フロントバンパー両脇のフラップは、ブレー キの温度が上昇すると開く。必要なときには 冷却風を導入し、その必要がないときには閉 じて空気抵抗を軽減するのである。 ブレーキは最新世代のカーボンセラミック ディスクを備える“CCM3”を標準装備とし た。フェード耐性が高く、また15kmもの距 離の使用に耐える。 エアロブリッジはF12のもっとも目にとまる デザイン要素である。ウィンドスクリーンの 付け根付近に流れるエアを下方へ導いてボ ディの側面へと流し、抵抗を減らしつつダウ ンフォースを生み出すための造形だ。 ホイールベースは2720mmで、 599よりも30mm短縮さ れた。これが、よりダイレクトなハンドリングを意図してク イックに設定されたステアリングと組み合わされ、議論の 種となっている。 092 AUTOCAR 03/2014

ROAD TEST No 5139 Ferrari F12 Berlinetta...Ferrari F12 Berlinetta ROAD TESTMODEL TESTED テスト車両概要 モデル名:フェラーリF12ベルリネッタ 車両本体価格:362

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Page 1: ROAD TEST No 5139 Ferrari F12 Berlinetta...Ferrari F12 Berlinetta ROAD TESTMODEL TESTED テスト車両概要 モデル名:フェラーリF12ベルリネッタ 車両本体価格:362

ROAD TEST No 5139

Ferrari F12 BerlinettaフェラーリF12ベルリネッタ

かつてフェラーリには、フロントにV12エンジンを積んだ偉大なモデルがいくつも存在した。マラネッロはこのF12で、過去の輝ける栄光を現代に甦らせることに成功したのであろうか。photo: Stan Papior

WE LIKE 素晴らしくて衝撃的なエンジンとパフォーマンス、扱いやすいツーリング時のマナー、日常での使いやすさ

フロントバンパー両脇のフラップは、ブレーキの温度が上昇すると開く。必要なときには冷却風を導入し、その必要がないときには閉じて空気抵抗を軽減するのである。

ブレーキは最新世代のカーボンセラミックディスクを備える“CCM3”を標準装備とした。フェード耐性が高く、また15万kmもの距離の使用に耐える。

エアロブリッジはF12のもっとも目にとまるデザイン要素である。ウィンドスクリーンの付け根付近に流れるエアを下方へ導いてボディの側面へと流し、抵抗を減らしつつダウンフォースを生み出すための造形だ。

ホイールベースは2720mmで、599よりも30mm短縮された。これが、よりダイレクトなハンドリングを意図してクイックに設定されたステアリングと組み合わされ、議論の種となっている。

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Ferrari F12 Berlinetta ROAD TEST

MODEL TESTED ◎テスト車両概要

●モデル名:フェラーリF12ベルリネッタ●車両本体価格:3620.0万円●日本発売時期:2012年7月5日●最高出力:740ps/8500rpm●最大トルク:70.4kgm/6000rpm●0-97km/h加速:3.0秒●113-0km/h制動距離:37.4m●最大求心加速度:1.16G●テスト平均燃費:4.6km/ℓ●二酸化炭素排出量:350g/km

WE DON’T LIKE シャープすぎるステアリング、丁寧に扱わないとサーキットで減りが速いタイヤ、オプションの価格

 フェラーリは過去60年近く、V12をフロントに積んだGTスポーツカーを造り続けているが、新型F12がもっとも影響を受けているのは、おそらく1964年の275GTBである。 その275以降も、フェラーリは同様のV12搭載FRモデルを、デイトナの愛称で知られる365GTB/4、550マラネッロ、575M、599と造り続けてきた。 だが、デイトナと550のあいだには、23年のギャップがある。そのあいだ、フェラーリはフロントエンジンV12のコンセプトを捨てて、

HISTORY フロントエンジンの復権

テスタロッサなどのフラット12ミドシップを試み続けた。しかし、ついにはFRへの回帰を決断し、今にいたるのである。

リヤトレッドは1618mmで、599と同一だ。しかしリヤタイヤは599よりも幅が10mm広い315mmである。

このグリルは、リヤホイールアーチ内に流れ込んだ空気を負圧で上へ抜くためのもので、その気流を後方へと送ることでスポイラーとしての効果を生み出している。

リヤサスペンションとトランスアクスルギヤボックスの設計変更によって、リヤのオーバーハングを599よりも80mm短縮し、またトランクのスペースも拡げた。

ディフューザーのデザインについてはテスターの評価が分かれたが、これを好む人は、ボディパネルへ食い込ませることでディフューザーの幅を稼ぎ、また後付け感を和らげている点を評価した。

F12のスタイリングは、275GTBに少なからぬ影

響を受けている。

093www.autocar.jp

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ON THE INSIDE

COMMUNICATIONSコミュニケーションこのクルマのさまざまなシステムは、やや簡素なセレクターを右手で操作し、計器盤右側の液晶ディスプレイ上で選択できる。操作ロジックはもっと直感的にしてほしいが、接続オプションは充実している。Bluetooth電話は信頼性良好。

NAVIGATIONGPSナビゲーション標準装備のGPSナビは、使いやすさの点で最良の部類に属するとはいえないが、前世代フェラーリの装備に比べると格段によくなった。地

図は計器盤右側のスクリーンに表示され、進行方向の指示を伝達する。最善なプレミアムブランドのシステムに比べると、入力にはかなり時間がかかる。フェラーリは音声認識機能が備わっているというが、それはテストに価するほどわかりやすいものではなかった。

ENTERTAINMENTエンターテインメントUSBおよびBluetoothオーディストリーミングが利用できる。テスト車両が装備していたプレミアムシステムはずば抜けて優れているというわけではない。これを追加する価値はリセールバリューを高める目的にのみある。

このボタンを押すと磁性流体ダンパーが“凹凸の多い道”に合わせたセッティングに切り替わる。これはマネッティーノとは独立しており、ドライバーが望めば、レースまたはTRCオフモードとソフトなサスペンションセッティングを組み合わせることが可能だ。

カップホルダーは1個で、ドアポケットも小さいが、センターコンソール下のトレーがそれを補う。だが、滑らない加工がされていたらもっといい。

ジェットエンジンのようなエアベントは目新しいが、もう少しスペシャル感がほしい。不必要な重さやメタリック感は必要ないが、安っぽく、いかにも樹脂製な質感だ。

094 AUTOCAR 03/2014

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2720mm963mm 951mm

4618mm

1273mm

48% 52%

950mm min

1110mm max

850m

m m

in95

0mm

max

320 litres

0.29

1942mm

1659mm 1600mm

170m

m

35m

m

Cent

re

Ferrari F12 Berlinetta ROAD TEST

室内にはシートがふたつしかないが、その後方には小さくてソフトなバッグとコートを置く程度には十分なスペースがある。収納ネットは嬉しい装備だ。

トランクは標準状態でも350ℓの容積を持つが、キャビンの仕切りを取り外し、シートを前方にスライドさせると、最大で500ℓまで拡大する。

シートはサポート性に優れ、また、見た目よりも快適だ。ポジションは低く、脚を真っ直ぐに伸ばせる。その場合、踵はほとんどヒップと同じ高さとなる。

WHEEL AND PEDAL ALIGNMENT ステアリングホイールとペダルの配置

FRONT試験場での確認は行えなかったが、ボディの隅を確認するのは簡単なことではない。

HEADLIGHTS残念ながら、夜間テストを行う勇気は奮えなかった。

HOW BIG IS IT? サイズはどれくらい?

VISIBILITY TEST 視認性テスト

ヒール&トウ操作の必要がないため、フェラーリはブレーキペダルとスロットルペダルを少し離した位置に置いた。ペダルの踏み間違いをしたくはない類のクルマとしては、適切な処置である。 幅:820-1300mm

奥行き:660-1050mm

高さ:400mm

095www.autocar.jp

自動車業界において、18カ月という期間はとても長い。それはフェラーリのような希少性の高

さを売りにしているメーカーにとっても同様である。フェラーリがF12ベルリネッタを2012年のジュネーブ・ショーの前日に発表したとき、純粋な加速、フィオラノのテストコースでの周回、それどころかどんな場所での走行においても、フェラーリのロードゴーイングモデルとして史上最速であるという謳い文句は衝撃的だった。 しかし、フェラーリはその後、F12ベルリネッタに対する畏敬の念を失わせるようなモデルを何台か発表した。とくに大きな話題となったのが、963psを誇る“あの”ハイブリッドカーである。 それによって相対的にはいささか影が薄くなったかもしれないF12だが、単独で見れば間違いなく画期的なモデルだ。そんなフェラーリにわれわれはイタリヤで試乗し、比較テストでランボルギーニの同等モデルをやすやすと退けるのを目の当たりにし、さらに2013年度のベストドライバーズカーのタイトルを

僅差で逃す姿を見てきた。そしてついに今回、巧みに造形されたそのボディの中身を徹底的に精査するチャンスが到来した。 4000万円近い代金を支払える人のみならず、多くがF12はどれほどの能力を秘めているのか大きな関心を抱いているはずである。その全貌を明らかにしようではないか。

DESIGN&ENGINEERING意匠と技術★★★★★★★★★★ F12は矛盾を抱えている。先駆者であると同時に先祖返りでもあるからだ。これはフェラーリにとって初となる“ダウンサイズ”されたスーパーGTであり、この種のモデルとしてははじめて、先代に比べて低く、短く、狭く、そして軽くなった。だがデザインにおいては、比較的最近の550や575M、599のような力強い姿とは異なる方向に向かい、1960年代のフロントエンジンモデルのようにフェミニンな路線を志

向しているように思える。275GTBに比べれば全長は200mm以上長いが、短いオーバーハングがそのマスを視覚的に小さくしており、また、キャビンが後方寄りに位置することでクラシックなスポーツカーのシルエットを形作っている。 599と比べると、F12はスカットルとシートポジション、そしてエンジンマウント位置が低く、その結果としてロールセンターが低い。パッケージングの進化のおかげで、リヤにマウントされたトランスアクスルギヤボックスとサスペンションのスペースが小さくなり、リヤのオーバーハングは短いが、重量配分はリヤ寄りにシフトしている。 スカリエッティ製のモノコック式アンダーボディは

12種類のアルミ合金で作られており、599に比べて全体で70kgの軽量化と、ねじり剛性の20%の向上を達成している。ボディ外皮もアルミ製で、そのパネルはフェラーリ独自の“引き算によるエアロダイナミクス”に則って造形されたものだ。 ボンネットに刻まれた弧を描く溝はエアロブリッジ

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274km/h

13.7s

257km/h

11.8s

241

10.2s

225

8.8s

177

5.7s

193

6.6s

209

7.6s

48km/h 64 80 97 113 129 145 161

1.4s 1.8 3.12.2 2.6 5.03.6 4.3s

10s5s0

274km/h

19.3s

257km/h

16.3s

241km/h

13.8s

225km/h

12.0s

177

7.6s

193km/h

8.8s

209km/h

10.3s

48km/h 64 80 97 113 129 145 161

1.5s 2.0 3.7s2.5 3.0 6.5s4.5s 5.4s

10s5s0 15s

48-0km/h

48-0km/h

80-0km/h

80-0km/h 113-0km/h

113-0km/h

37.4m

58.6m28.4m

19.6m

10.7m

7.4mDRY

WET

20m10m 40m30m0 50m

 F12のグリップのすさまじさにはため息が出る。パワーの強大さも同様である。それらとわずかに後方寄りとされた重量配分、後輪駆動、ムチを打つようなスロットルレスポンス、そして超シャープなステアリングを組み合わせると、ドライバーを釘付けにするハンドリングとなる。

 ステアリングがきわめてクイックで軽いため、F12は、そのボディサイズはともかくとして、ターンイン時にはまるで重さを感じさせず、挙動はキビキビしている。その後は、ドライバーが望めば安定したアンダーステアへと落ち着く。 だが、途方もないパワーを蓄えているの

は紛れもない事実であり、それが即座に得られるので、右足を踏み込むだけで、どんな速度域でも、どのギヤであっても、どんな程度のアンダーステアにでも持ち込むことができる。そのとき、ドライバーは運転を完全に掌握している状況でなければならない。なぜなら、スロットルとステアリン

グはいずれも圧倒的に獰猛でダイレクトなレスポンスであり、そのため不安定な状況に陥ることもあり得るからだ。 とはいえ神経を張り詰めていれば、このクルマはあくまでも忠実で、バランスがよく、恐れることなく簡単にスロットルで操れるクルマだとわかる。

Start/finishT1T2

T4

T3

T5 T6

T7

T8

■ドライサーキットフェラーリF12ベルリネッタラップタイム:1分8秒6ブガッティ・ヴェイロン・スーパースポーツ参考タイム:1分8秒5

フェラーリはF12に458イタリアと同程度の速さを期待していたようだが、それどころか部分的には少なくとも0.3秒は速い。ハイスピードでオーバーステアに転じる際のスリップが、458ほど攻撃的ではないからだ。

Start/finishT1

T2

T3

T4

T5T6

T7

TRACK NOTES サーキットテスト

ON THE LIMIT 限界時の挙動

フェラーリF12ベルリネッタ

ブレーキは驚異的で、フェードの兆候は感じられない。113km/hからは37.4mで停止。たいていのクルマは50m近い距離を必要とするところだ。

T2でのクイックな方向転換において、F12はとても活発だ。

■ウェットサーキットフェラーリF12ベルリネッタラップタイム:1分22秒9ブガッティ・ヴェイロン・スーパースポーツ参考タイム:1分11秒6

実際に走らせるまで、フェラーリはF12のウェット条件におけるパフォーマンスには、ドライのときほど興味がないだろうと思っていた。ウェットセッティングでESPをオン状態に保つと、すべては良好である。

トラクションコントロールはウェットサーキットでは頻繁に作動する。ストレートエンドに向かう129km/hでの走行中でさえでそうなのだ。

ブレーキングについては、ドライ時の素晴らしさとは反対に、おおいに失望させられた。113km/hからの停止に60m近い距離を必要とする。

■発進加速テストトラック条件:乾燥路面/気温15℃0-402m発進加速:11.0秒(到達速度:215.0km/h)0-1000m発進加速:19.7秒(到達速度:273.3km/h)

ブガッティ・ヴェイロン・スーパースポーツ

■制動距離97-0km/h制動時間:2.18秒

ON THE ROAD

096 AUTOCAR 03/2014

と呼ばれる。機能的デザインの構成要素で、ウィンドスクリーンの付け根から気流をそらし、ホイールアーチまわりの空気抵抗減少に寄与している。その結果、200km/hで発生するダウンフォースは123kg

に達するが、空気抵抗係数は0.3を切る。F12のスタイリングは、われわれの経験からいうと万人受けするものではないが、そのデザインが機能に基づいているのは否定できない。 カーボンセラミック製ブレーキと磁性流体式ダンパーは標準装備される。6.3ℓV12は自然吸気の直噴ユニットである。最高出力は740ps、最大トルクは70.4kgmだ。組み合わされるギヤボックスは7段デュアルクラッチ式である。

INTERIOR室内★★★★★★★★★☆ 全体のサイズは小さくなったにもかかわらずキャビンスペースは拡大しているというフェラーリの主張は、第一印象によって追認される。レザー張りのスポーツシートに座ると、ヒップが深く包まれる感覚だ。このシートは薄く、スポーティな見た目をしているが、サポート性に優れるだけでなく、長距離でもきわめて快適な座り心地を提供してくれる。そして、身長が平均よりも高い人でも、頭が天井の内張に接したりはしない。脚を真っ直ぐ伸ばせば、踵はほとんどヒップの位置と同じ高さだ。ドライビングポジションは見事で、ステアリングコラムはたいていの人にフィットできるアジャスト幅を備えている。 ふたつのシートの後方には、コートと買い物袋を置くには十分の空間があり、荷物を固定するネットが用意されている。その後方にあるトランクの容量は最大500ℓと、スーパーカーの基準で見ると大型だ。ハッチも大きく、ゴルフバッグさえ楽に積める。 いくつものスイッチが付いたステアリングホイールは、扱いに少々慣れが必要だ。458に乗ったあとでさえそう感じられ、万人向けではない。ウィンカースイッチは理にかなった移設だが、ワイパーとヘッド

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Ferrari F12 Berlinetta ROAD TEST

その巨大なボディサイズにもかかわらず、F12は低速でも扱いやすい。

 F12ベルリネッタのボンネットを開けると、見慣れないふたつの突起物が目に入る。各シリンダーヘッドの前方部に付いているもので、バルブギヤの駆動システムとは関係なさそうだ。その正体はレゾネーターで、吸気がシリンダーに向かう途中、そこで“プレチャージ”される。フェラーリによれば、このプロセスは燃焼効率を高め、低速トルクを増強するという。 それは、この6262ccのV12に投じられたクレバーな設計においては、ほんの一要素にすぎない。直噴と正確な燃焼制御によってこのオーバースクエアエンジンは、アストン・マーティン・ヴァンキッシュのそれより23%も高い13.5:1の圧縮比で、ノッキングせずに動作する。また、排気は触媒コンバーターの必要がないほどクリーンだ。 740psという最高出力も目を引く。これよりも高いパワーの市販車を望むなら、少なくともF12の3倍の額を支払わなければならない。だが、70.4kgmという最大トルクも重要だ。しかも、そのトルクの80%は、わずか2500rpmから発生されるのである。

UNDER THE SKIN 熟慮の設計

各シリンダーヘッドの前方部分にある赤く塗られた突起物はレゾネーターで、燃焼効率を高めている。

13.5:1の圧縮比はガソリンエンジンとしては高い。もしフェラーリの先進の燃焼制御がなかったら、異常燃焼を起こしていたかもしれない。

097www.autocar.jp

ライトのスイッチについてはそうは思えなかった。幸いなことに、フェラーリはギヤシフトパドルをステアリングホイールではなく、コラムに取り付けることを伝統としており、ステアリングに角度を与えた状態でも操作しやすい。 フェラーリの組み付けと仕上げの水準は向上し続けているが、F12のキャビンについては、上級感と差別化の点でやや不満を感じた。458のオーナーからすれば、見覚えある部分がいくつもあるはずだ。多くのテスターが不満を感じたわけではないが、4000

万円近い大枚をはたいたオーナーは、共通の部分がもっと少ないことを期待しているかもしれない。

PERFORMANCE動力性能★★★★★★★★★★ もしこの評価項目に10を超える星が用意されていたなら、われわれは迷わずそれを付けていただろう。近頃はターボチャージャーと電気モーターによる補助がもてはやされつつあるが、月まで飛んでいかんばかりに回る自然吸気のV12エンジンには素晴らしく古風なデカダンスが存在する。自動車業界において、同様なV12はほかにランボルギーニとアストン・マーティンにしかないが、F12のエンジンは、高回転域のパワーと低回転域の扱いやすさの両方を兼ね備えている点において際立っている。最近テストしたどの大排気量ユニットよりもキビキビしていて、レスポンスに優れる。 数字もそれを裏付けるものだ。最高出力740ps

を8250rpmで発生するのはともかく、70.4kgmのピークトルクを発生する6000rpmまでもが、アストン・マーティンV12ヴァンテージSの最高出力発生回転数より750rpm低いだけだ。かつて、フェラーリを買うのはエンジンに金を払うことで、車体はタダで付いてくるようなものといわれた。今はそこまでとは思わないが、F12においてパワートレインこそが傑出した特徴であるのは確かだ。 加速タイムは、わずかにリヤ寄りの重量配分と優

れたローンチコントロールシステムの恩恵もあり、

0-97km/hで3.0秒ジャスト、0-161km/hで6.5秒を記録した。最近ロードテストしたクルマでこの水準を提供できるのは、ブガッティ・ヴェイロン・スーパースポーツだけである。適切なギヤで48km/hから加速すると、その2.3秒後には113km/hに到達する。4速には50km/h以下でもシフトでき、そのまま200km/

h以上まで加速できるが、この高いギヤで同じ加速を試みても、わずか4.6秒しかかからない。パワーとシフトスピードにおいては、F12のドライバーはさらに上を望むはめにはならずにすみそうだ。F12の

DCTユニットは、スピードとスムーズさにおいて一級品である。

RIDE&HANDLING乗り心地と操縦安定性★★★★★★★★☆☆ 最近のフェラーリのすべてがそうであるように、

F12のステアリングもきわめて軽く、とてもクイックである。これは、満タン状態で実測1715kgという車重から想像するより機敏に感じられるようにと、マラネッロが意図的に仕立てたものだ。ステアリングのロック・トゥ・ロックはわずか2回転で、旋回半径も普通である。F12はフェラーリのほかのモデルと共通

するDNAが与えられているように感じる。 低速域では、そのおかげでF12は気楽に運転できる。磁性流体ダンパーはソフト方向とハード方向のセッティングを備えているが、両方とも実際に使える。なぜなら、どちらも極端ではないからだ。扱いづらさを感じさせるとしたら、ウィンドスクリーン先の物理的サイズの量りにくさくらいのものだろう。 とはいえ、プログレッシブなつながりのクラッチと扱いやすいエンジンにより、常にパワーの蓄えがあってしかもそれが簡単に引き出せるため、ゆったりと流しているだけなら、ステアリングホイールのマネッティーノを保守的なESPモードにセットしたままでも損はない。控えめなペースでさえ電子デバイスが頻繁に介入し、ステアリングのクイックさとリンクして、V12ヴァンテージSなどよりも気の緩んだ走りに陥ることは少ない。 スピードを上げたときも同様だ。違うのはそれが、高い速度に応じて必然的に、より素早く起きる点だ。乗り心地は巧みにコントロールされ、郊外の道を走るときでもスピードを制限するのは乗り心地やハンドリングの悪化ではなく、視界と法律だけである。それほどまでにF12の能力レベルは高い。 サーキットでは、走行速度を制限するのはありあまるパワーとドライバーの精神力である。パワー不足

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0 02000 800060004000 10,0000

Engine (rpm)

70.4kgm/6000rpm

740ps/8250rpm

Powe

r out

put (

ps) Torque (kgm

)

28

55

83

111

203

14101

41304

69507

97710

608

406

811

92 litres

12345

85km/h 8700rpm

121km/h 8700rpm

163km/h 8700rpm

204km/h 8700rpm

6 314km/h 8700rpm

256km/h 8700rpm

7 340km/h*7110rpm* claimed

一部バックナンバーは www.autocar.jp に掲載されています。

■発進加速実測車速mph(km/h) 秒

30(48) 1.5

40(64) 2.0

50(80) 2.5

60(97) 3.0

70(113) 3.7

80(129) 4.5

90(145) 5.4

100(161) 6.5

110(177) 7.6

120(193) 8.8

130(209) 10.3

140(225) 12.0

150(241) 13.8

160(257) 16.3

■エンジン駆動方式:縦置き後輪駆動形式:V型12気筒,6262ccブロック/ヘッド:アルミ軽合金ボア×ストローク:φ94.0×75.2mm圧縮比:13.5:1バルブ配置:4バルブDOHC最高出力:740ps/8250rpm最大トルク:70.4kgm/6000rpm許容回転数:8700rpm馬力荷重比:454ps/tトルク荷重比:43.2kgm/t比出力:118ps/ℓ

■メカニカルレイアウト長大なV12エンジンがレイアウトのキモだ。航空産業の産物である合金やトランスアクスルレイアウトは、この巨大なエンジンを前に積みながらも46:54の前後重量配分を実現するための手段とも規定できる。

■燃料消費率オートカー実測値 消費率総平均 4.6km/ℓツーリング 6.3km/ℓ動力性能計測時 1.3km/ℓメーカー公表値 消費率市街地 4.0km/ℓ郊外 8.9km/ℓ混合 6.7km/ℓ燃料タンク容量 92ℓ現実的な航続距離 420kmCO₂排出量 350g/km

■サスペンション前:ダブルウィッシュボーン /コイル+スタビライザー後:マルチリンク /コイル+スタビライザー

■ステアリング形式:ラック&ピニオン(電動アシスト)ロック・トゥ・ロック:2.00回転最小回転半径:na

■ブレーキ前:φ398mm通気冷却式ディスク後:φ360mm通気冷却式ディスク

■シャシー/ボディ構造:アルミモノコック車両重量:1630/1715kg(実測)抗力係数:0.29ホイール:(F)9.5J×20,(R)11.5Jx20タイヤ:(F)255/35R20,(R)315/35R20ミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2スペアタイヤ:補修キット■変速機形式:7段DCTギヤ比/1000rpm時車速〈km/h〉①3.07/9.8②2.18/13.8③1.62/18.7④1.28/23.5⑤1.02/29.5⑥0.83/36.0⑦0.63/47.8最終減速比:4.37

■静粛性アイドリング:58dB3速最高回転時:90dB3速48km/h走行時:67dB3速80km/h走行時:70dB3速113km/h走行時:75dB

■安全装備ABS, ESC, EBD, F1-Trac, E-Diff3Euro N CAP/ na

注意事項:馬力荷重比とトルク荷重比の計算にはメーカー公称車両重量を使用しています。 © Autocar2014.テスト結果は権利者の書面による承諾なしに転用することはできません。

48-120km/h加速は、あまりの速さに息を呑む間に完了するだろう。

2011年にテストしたブガッティ・ヴェイロンSSより、実測値は成人男性4人分ほど軽かった。

ROAD TEST

2,3sec

280kg

■今月の数字

■最高速

SPECIFICATIONS 計測テストデータ

DATA LOG

■エンジン性能曲線

■中間加速〈秒〉mph(km/h) 2nd 3rd 4th 5th 6th 7th

20-40(32-64) 1.3 2.2 - - - -

30-50(48-80) 1.2 2.0 2.4 3.2 - -

40-60(64-97) 1.2 1.6 2.3 3.1 4.1 5.4

50-70(80-113) 1.3 1.6 2.1 3.0 4.1 5.4

60-80(97-129) - 1.6 2.1 2.9 4.0 5.5

70-90(113-145) - 1.7 2.1 2.7 3.8 5.4

80-100(129-161) - - 2.1 2.7 3.6 5.3

90-110(145-177) - - 2.1 2.7 3.6 5.1

100-120(161-193) - - 2.3 2.8 3.7 5.0

110-130(177-209) - - - 3.0 3.7 5.1

120-140(193-225) - - - 3.2 3.9 5.3

130-150(209-241) - - - 3.5 4.1 -

140-160(193-257) - - - - 4.6 -

098 AUTOCAR 03/2014

を感じるだろうサーキットを訊かれても、われわれには思い当たらない。トラクションは直線ではとても強力だが、コーナリングフォースが加わると、パワーがリヤタイヤを圧倒する。だが、比較的忠実で楽しい、

F12のフロントエンジン車らしいハンドリングにひとたび慣れてしまえば、タイヤが扱える以上のパワーを使うことが、まるでこのクルマの本能であるように思えてくる。ステアリングがクイックで、そのうえ過度にセンシティブであるにもかかわらずだ。つまり、

V12ヴァンテージSやポルシェ911 GT3とは違い、

F12の操作性は優れたステアリングの恩恵によるものではないのである。

BUYING&OWNING購入と維持★★★★★★★☆☆☆ これはフェラーリであり、しかもV12である。バリューや価格、ランニングコストに関する議論は余計なお世話だろう。しかしながら、その数字は驚くべきものだ。F12のリストプライスは3620万円で、これはランボルギーニ・アヴェンタドールなどのほかのスーパーカーよりも安いが、実質的にはそれらよりも高額である。本体価格は出発点にすぎず、その値段で変える状態でファクトリーやディーラーを出る個体はまずないからだ。特別塗装だけでも250万円以上かかり、今回のテスト車両の場合、販売価格は難なく

5000万円の大台に乗る。 もちろん、その後は維持費がかさむ。フェラーリは

6年間のメンテナンスプログラムを用意しているとはいえ、これはガソリン代と税金の支払いの助けにはならない。現在の価格水準で92ℓのタンクを無鉛ハイオクで満タンにするには、1万5000円程度は必要になる。われわれが記録した4.6km/ℓの平均燃費に基づくと、それでわずか400km少々しか走れないのだ。F12が備えるV12エンジンの壮大なパフォーマンスをもっと頻繁に享受しはじめると、われわれがサーキットで記録した1.7km/ℓにまで下げるのは造作もないことだ。

Page 8: ROAD TEST No 5139 Ferrari F12 Berlinetta...Ferrari F12 Berlinetta ROAD TESTMODEL TESTED テスト車両概要 モデル名:フェラーリF12ベルリネッタ 車両本体価格:362

Ferrari F12 Berlinetta ROAD TEST

緩やかなカーブであっても、完全な直線路とのトラクションの差は著しい。直線路では2速でもフルパワーを与えられるが、横方向のGが加わると、5速でもタイヤが滑り出す。 マット・プライアー

一部のテスターは、F12の乗り心地が少々硬いと感じた。個人的には、このレベルのパフォーマンスを備えたクルマとしてはまったくの許容範囲である。しかし、それも“凹凸の多い道”用ボタンあってのことだが。 マット・ソーンダース

ROAD TEST

AUTOCAR VERDICT ●オートカーの結論

Ferrari F12 Berlinetta「V12前置きフェラーリのあるべき姿を体現した、 あらゆる点においてスリリングなマシーン」

今回のテストの前、われわれは駆動輪がふたつのクルマに740psものパワーが本当に必要だろうかと疑

問に感じることがあった。たとえスーパーカーだとしても、ここまでの馬力が必要なのだろうかと。もちろん、F12はこのパワーのすべてを必要不可欠としているわけではない。だが、多すぎるパワーも、ときとして喜ばしいものなのだという事実に気づいた。間違いなくこのV12ユニットの獰猛さこそが、フロントエンジンのスーパーカーとしてもっとも強烈な存在であるこのF12ベルリネッタのキャラクターを決

定し、強調しているのだ。 そう、スーパーカーである。GTカーではない。われわれが両者の違いにこだわっている点をご理解いただきたい。F12はきわめて居住性の高い室内と、まずまずの大きさのラゲッジスペースを持つ。ふざけた燃費でも、実用的な航続距離を稼ぐ巨大な燃料タンクを備えている。だがF12は、本質的にはそのパフォーマンスによって決定づけられるクルマだ。なんと素晴らしいパフォーマンス、そしてなんと衝撃的な体験だろう。

TESTERS’ NOTES●テスターのひと言コメント

★★★★★★★★★☆

No 5139

エンジンは1種類、仕様もひとつしかないが、オプションは限りなくある。リセールバリューを考えるなら、賢く選択する必要がある。そうでないなら、自分の好きなように選べばいい。

SPEC ADVICE●購入にあたっての助言

JOBS FOR THEFACELIFT●マイナーチェンジ時に望むこと

・ステアリングの手応えを増して、ギヤ比を落としてほしい。・ステアリングホイールを丸くして、いくつかのボタンをなくしてほしい。・もう少しパワーをアップしてほしい……というのは冗談。

われわれはこう考える

その素晴らしさはここまでに述べたとおり。F12に肩を並べるクルマはない。それが事実である。

ブラックシリーズならばヴァンキッシュを逆転できるかもしれないが、F12を超えるのは無理だと思われる。

価格とパワーと存在感ではF12に肩を並べるが、運動能力の魅力ではその比ではない。

英国製F12。おそらく本家よりも見た目は魅力的だが、それ以外はまるでおよばない。

ターボがモアトルクとより優れた燃費をもたらしているが、これもF12の敵ではない。

2nd 5th

結論

車両価格最高出力最大トルク0-97km/h加速最高速度燃料消費率(混合)車両重量(公称値)CO₂排出量

★★★★★★★★★☆ ★★★★★★★★☆☆ ★★★★★★★★☆☆ ★★★★★★★★☆☆ ★★★★★★★☆☆☆

3620.0万円 3149.475万円 2490.0万円 2446.0万円 4197.375万円740ps/8250rpm 573ps/6750rpm 571ps/6800rpm 560ps/6500-6750rpm 700ps/8250rpm70.4kgm/6000rpm 63.2kgm/5500rpm 66.3kgm/4750rpm 76.5kgm/2100-4250rpm 70.4kgm/5500rpm3.0秒 4.1秒(0-100km/h公称) 3.7秒(0-100km/h公称) 3.1秒(0-100km/h公称) 2.9秒(0-100km/h公称)340km/h 295km/h 320km/h 318km/h 350km/h6.7km/ℓ 6.9km/ℓ 7.6km/ℓ 10.3km/ℓ 6.3km/ℓ1630kg 1739kg 1710kg 1605kg 1575kg350g/km 335g/km 308g/km 227g/km 398g/km

MERCEDES-BENZSLS AMG coupéメルセデス・ベンツSLS AMG coupé

LAMBORGHINIAVENTADORランボルギーニアヴェンタドール

ASTON MARTINVanquish coupéアストン・マーティンヴァンキッシュ・クーペ

PORSCHE911 Turbo Sポルシェ911ターボS

TOP FIVE

FERRARIF12 BerlinettaフェラーリF12ベルリネッタ

3rd 4th1st

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