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平成 30年 7月豪雨(西日本豪雨)における鋼製透過型砂防堰堤(小野川)の土石流捕捉状況について
JFE 建材株式会社 〇山口 聖勝,吉田 一雄,松元 志津佳,水山 高久
(一財)砂防・地すべり技術センター 嶋 丈示
1. はじめに
平成 30 年 7 月豪雨では,7 月 5 日から本州付近に停滞する梅雨前線の活動が活発になり,九州から東海にかけて
の広い範囲で断続的に非常に激しい降雨があり,各地で記録的な豪雨となった。この豪雨により,48 時間降雨量で
123 箇所,72 時間降雨量で 119 箇所が観測史上 1 位を記録した。この記録的な豪雨により土砂災害は西日本を中心
に多発し,広範囲で経済・物流にも甚大な影響を及ぼし,平成最大の被害が発生した「広域災害」であった 1)。
兵庫県において,西播磨県民局龍野土木事務所管内の小野川に設置された小野川堰堤(J-スリット堰堤)が,平成
30 年 7 月豪雨により発生した土石流・流木を捕捉した。そこで,本稿ではその捕捉状況と除石中に確認できた土砂・
流木の堆積状況及び除石後の部材の損傷状況について報告する。
2. 小野川堰堤(J-スリット堰堤)について
小野川堰堤は平成 28 年 8 月に竣工し,約 2 年後の
平成 30 年 7 月豪雨において,鋼製透過型砂防堰堤の
最大の特長である空き容量を確保した状態で土石流・
流木を確実に捕捉した。堰堤下流には要配慮者利用施
設を含む保全対象があるが,本堰堤で土砂・流木を捕
捉したことにより,下流への被害を未然に防止した。
以下に堰堤諸元と豪雨前後の状況を示す。
3. 捕捉状況について
土石流捕捉直後の小野川堰堤は,鋼製高さ 6.7m の
空き容量分が満砂し,透過部捕捉面近傍には高さ方向
全体に多くの流木が確認(写真-3)できた。さらに透
過型堰堤頂部より上部に流木が3m~5m程度捕捉され
(写真-4),その影響で両袖部の袖天端まで土砂・流木
が堆積(写真-5)した。その施設効果量は,計画捕捉
量約 5,500m3 に対して,それを遥かに越える約
8,000m3 であった 2)。鋼製透過型砂防堰堤は水と流木
を分離して水のみを堰堤下流に流すため,流木のみを
透過部捕捉面で効果的に捕捉できる。よって,一旦捕
捉された流木は流水により再流出しない。このことか
ら,鋼製透過型砂防堰堤が土砂とともに流出する流木
に対しても捕捉効果の高いことが確認できた。
4. 堆積状況について
土石流捕捉後に除石計画に基づいて安全に除石作業
が進められ,除石中に土砂・流木の捕捉状況が調査さ
れた(写真-6~8)。
調査結果に基づいて作成された土砂・流木の堆積状
況を縦断図に示す(図-1)。流木が土石流とともに流れ
てくる場合には,最初に流木が堰堤に到達して捕捉さ
れ,次に流木+土砂が堆積し,その上流側に礫+土砂
が堆積していることが確認できた。
捕捉された流木は,直径が 0.3m~0.5m 程度,長さ
が 5m~10m 程度であった。除石で確認できた礫の直
径は 0.5m~1m 程度であり,2m~2.5m 程度の巨礫も
写真-1 豪雨前の状況 写真-2 豪雨後の状況
写真-4 捕捉状況(下流側) 写真-5 捕捉状況(上流側)
写真-3 透過部捕捉面の状況(下流側より)
km2 kN/m
m
m3/s m
m m
m/s m
スリット純間隔 1.09
水通し幅 10.0土石流流速 6.79
土石流流体力 150.72
最大礫径 1.10
鋼製高さ 6.7
流域面積 2.24
渓床勾配 1/5.3
土石流ピーク流量 227.53
土石流水深 1.98
表-1 堰堤諸元
R2-009
- 95 -
含まれており,堰堤近くの元河床近くにあったので,
土石流先頭部に含まれていた礫と推測される。
5. 除石後の部材損傷状況について
除石が終了した段階で J-スリット堰堤の部材損傷
状況について調査を実施した。その結果,塗装の一部
に剥れは見受けられたが,巨礫の衝突による上流面
(捕捉面)の鋼管の凹みや削れ,ボルトの破損もなく
過度な損傷は見あたらなかった。また丁寧な除石作業
の結果,重機による部材損傷も見あたらなかった。過
度な部材損傷がなかったのは,土石流の先端部に流木
が混入し,最初に透過部捕捉面が流木で閉塞したこと
により巨礫の衝突がなかったためであり,流木が緩衝
材の役目を果たした結果である。
また,捕捉面を支える下流部材は,不透過型砂防堰
堤の下流面で多く施工されている越流落下した土砂
や礫が衝突しにくい 1:0.2 の勾配を採用している。下
流足元の部材は礫の衝突に対して凹みにくくするた
め,上流部材と同じ鋼管径と板厚としている。
捕捉後の現地調査の結果,下流部材には通過した礫
や越流落下した土砂・礫の衝突による損傷もなく,ま
た衝突した痕跡も見受けられなかった。このことから,
J-スリット堰堤の下流部材は通過する礫や越流落下
する土砂・礫に対して安全であることが確認できた。
6. まとめ
本堰堤は,平成 25 年 4 月に設計,平成 28 年 8 月に
竣工,平成 30 年 7 月に土石流・流木捕捉という時系
列となっており,土石流・流木対策の整備が迅速に実
施され,かつ,施設効果が早期に発現したことにより,
下流の保全対象を土砂災害から守った事例である。
近年,流木による甚大な災害が増加しており,平成
29年 7月九州北部豪雨では過去最大級の流木災害が発
生したことを受け,国土交通省では流木対策を強力に
推進することとしている。鋼製透過型砂防堰堤は本事
例のように流木捕捉効果の高い堰堤であり,国土強靭
化のため,今後益々鋼製透過型砂防堰堤の計画・施工
が増加すると予想される。
今後は,地域住民の方々の安全・安心の確保に向け,
本事例のような施設効果を周知していくことが重要と
考える。
謝辞:本報告をするにあたり,土石流・流木の捕捉状
況や除石状況の貴重なデータを兵庫県砂防課並びに西
播磨県民局龍野土木事務所より提供頂いた。ここに記
して謝意を表します。
参考文献 1) 国土交通省:平成 30 年 7 月豪雨による土砂災害概要〈速
報版〉Vol.6,平成 30 年 7 月 31 日時点,2018
2) 国土交通省:平成 30 年 7 月豪雨における砂防施設効果
事例,【土石流】兵庫県宍粟市波賀町小野の事例,2018
写真-6 除石着手前 写真-7 水通し底面付近
写真-8 水通し底面下 3m 写真-9 除石完了
写真-10 除石後の部材の状況
上流部材(捕捉部材)の状況 下流部材の状況
上流部材上部 上流足元部材 下流足元部材
図-1 堆積状況(縦断図)
鋼製
高さ
670
0
3000 7000 20000
計画堆砂勾配i=1/8
200
0300
0
49500
流木
土砂
4800
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