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157 Graduate School of Policy and Management, Doshisha University 概 要 子ども家庭福祉において子育て家庭を取り 巻くネットワーク形成の取り組みが活発化する 社会福祉協議会による子育てネットワーク への期待も高まりを見せているしかし高齢障がい領域への取り組みが中心となる社会福祉 協議会の子育てネットワークへの参画は希少で あり研究動向も活発とは言い難い加えて全国社会福祉協議会の調査からは社会福祉協 議会による子育てネットワークは、「他のネッ トワークにより代替されるとの認識により形成が妨げられている状況が読みとれるその ような状況において本稿では社会福祉協議会 をふくめ市内に 3 つの子育てネットワークが 存在する新宮市を事例に社会福祉協議会保護児童対策連絡協議会子育て支援センター による各子育てネットワークの担い手の相違と 関係性について検討しているその結果新宮 市の事例からは社会福祉協議会による子育て ネットワークは他に代替され得る性質のもので はなく相互に補完し合いながら重層的に要 保護児童子育て家庭地域住民に対する支援 を行っていく性質を有することが示唆された1問題の所在 子ども家庭福祉においてはかねてから子育 ての孤立化や児童虐待への対応が問題視されて きた同時に発生原因が複合的であることの 多い課題への対応は専門機関や専門職のみに よるアプローチの限界が指摘されているその ような中制度から漏れ落ちるニーズに対応す るためまた課題が顕在化する前の予防の観 点からも子育て家庭を取り巻くネットワーク 形成 1 の取り組みが活発化している 2 このよ うな近年の子育てネットワークの動向に着目す る山縣中谷2013国内で初めて文献の 中に子育てネットワークが現われるのは 1980 年代後半でありそれは地域における 子育て機能の低下に危機感を抱いた図書館を中 心とする社会教育からの提言であったことを指 摘する 3 加えて同時期大阪府貝塚市にお いて公民館が関わりながら子育てに関する住 民グループが地域で子育てネットワークを形成 していく過程も初期の動きとして記録されて いる 4 このように当初社会教育やインフォーマ ルな領域から発生した子育てネットワークは子育ての孤立児童虐待等が社会問題化するに *本稿の作成にあたり貴重なご助言をいただきました査読者の先生方に心から御礼申し上げます1 子ども家庭福祉においてネットワークという切り口から実践政策の検討を試みた牧里山野2009では、「ネットワークはさまざまな意味と対象の規定があるが共通点として、「ネットワーク疑念は単に集まることではなく開放性や相互性主体性が あり協働に取り組み結果として新しいものが生まれることにあると指摘する牧里山野200914))。 2 このような子育て家庭を取り巻くネットワークの歴史に関しては山縣中谷2013が詳しい3 手塚英男1998)「地域の子育てネットワークと図書館」『現代の図書館262)、80-3また山縣中谷2013では2005 年時点 における先行研究のサーベイから子育てネットワークの経緯を1 ~1995 漠然としたイメージを持ちつつ子育ての困難さ に対応していくため互いにつながり合う必要性を認識し始めた時期2 1996~2000 子育てサークル支援者や専門職間の 連携などさまざまな意味合いを持つ子育てネットワークが誕生する時期3 2001~2005 子育て支援と相まって社会 的な欲求を満たす子育てインフラとして認識されつつある時期に区分している4 村田和子1990)「親がつながる地域づくり貝塚市 子育てネットワークの会から」『月刊社会教育3410)、109-17社会福祉協議会による子育てネットワークの意義 東根 ちよ

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157Graduate School of Policy and Management, Doshisha University

概 要

 子ども家庭福祉において、子育て家庭を取り巻くネットワーク形成の取り組みが活発化する中、社会福祉協議会による子育てネットワークへの期待も高まりを見せている。しかし、高齢、障がい領域への取り組みが中心となる社会福祉協議会の子育てネットワークへの参画は希少であり、研究動向も活発とは言い難い。加えて、全国社会福祉協議会の調査からは、社会福祉協議会による子育てネットワークは、「他のネットワークにより代替される」との認識により、形成が妨げられている状況が読みとれる。そのような状況において、本稿では社会福祉協議会をふくめ、市内に 3つの子育てネットワークが存在する新宮市を事例に、社会福祉協議会、要保護児童対策連絡協議会、子育て支援センターによる各子育てネットワークの担い手の相違と関係性について検討している。その結果、新宮市の事例からは、社会福祉協議会による子育てネットワークは他に代替され得る性質のものではなく、相互に補完し合いながら、重層的に要保護児童、子育て家庭、地域住民に対する支援を行っていく性質を有することが示唆された。

1.問題の所在

 子ども家庭福祉においては、かねてから子育ての孤立化や児童虐待への対応が問題視されてきた。同時に、発生原因が複合的であることの多い課題への対応は、専門機関や専門職のみによるアプローチの限界が指摘されている。そのような中、制度から漏れ落ちるニーズに対応するため、また、課題が顕在化する前の予防の観点からも、子育て家庭を取り巻くネットワーク形成 1の取り組みが活発化している 2。このような近年の子育てネットワークの動向に着目する山縣・中谷(2013)は、国内で初めて文献の中に「子育てネットワーク」が現われるのは1980年代後半であり、それは、地域における子育て機能の低下に危機感を抱いた図書館を中心とする社会教育からの提言であったことを指摘する 3。加えて、同時期、大阪府貝塚市において、公民館が関わりながら子育てに関する住民グループが地域で子育てネットワークを形成していく過程も、初期の動きとして記録されている 4。 このように、当初、社会教育やインフォーマルな領域から発生した子育てネットワークは、子育ての孤立、児童虐待等が社会問題化するに

*本稿の作成にあたり貴重なご助言をいただきました査読者の先生方に、心から御礼申し上げます。1 子ども家庭福祉において「ネットワーク」という切り口から実践・政策の検討を試みた牧里・山野(2009)では、「ネットワーク」にはさまざまな意味と対象の規定があるが、共通点として、「ネットワーク疑念は単に集まることではなく、開放性や相互性、主体性があり、協働に取り組み、結果として新しいものが生まれることにある」と指摘する(牧里・山野(2009:14))。

2 このような子育て家庭を取り巻くネットワークの歴史に関しては、山縣・中谷(2013)が詳しい。3 手塚英男(1998)「地域の子育てネットワークと図書館」『現代の図書館』26(2)、80-3。また、山縣・中谷(2013)では、2005年時点における先行研究のサーベイから、子育てネットワークの経緯を、第 1期(~1995年)漠然としたイメージを持ちつつ子育ての困難さに対応していくため、互いにつながり合う必要性を認識し始めた時期、第 2期(1996~2000年)子育てサークル、支援者や専門職間の連携など、さまざまな意味合いを持つ「子育てネットワーク」が誕生する時期、第 3期(2001~2005年)子育て支援と相まって、社会的な欲求を満たす子育てインフラとして認識されつつある時期に区分している。

4 村田和子(1990)「親がつながる地域づくり―貝塚市 “子育てネットワークの会” から」『月刊社会教育』34(10)、109-17。

社会福祉協議会による子育てネットワークの意義

東根 ちよ

東根 ちよ158

の子育てネットワークへの参画も期待されている。しかし、実態では要対協への社協の参画は 6割弱にとどまることに加え 8、研究動向を見ると、要対協や子育て支援センターが中心に組織される子育てネットワークは先行研究や事例検討が活発である一方 9、社協の子育てネットワークに焦点を当てる先行研究は多くない 10。これには、地域福祉の実践研究においては、高齢者福祉に対するものが中心になりがちであり、子ども家庭福祉をめぐる考察が少ないという研究上の課題が存在する。一方、冒頭で述べたとおり、子ども家庭福祉においても専門職によるサポートのみならず地域福祉を意識したコミュニティベースの取り組みが求められており、そこには社協が果たす役割も大きい。昨今の子どもや子育て家庭の課題への対応に、地域福祉的アプローチは不可欠であり、社協の子育てネットワークは、これらを具現化する取り組みであるというのが本稿の背景にある問題意識である。社協による子育てネットワークの実情と意義について論じることは、地域福祉の実践研究に対して幾ばくかの示唆を示すものである。 本稿が着目するのは、和歌山県新宮市社協による子育てネットワーク「子育てあんしんネットしんぐう(旧称:新宮市児童虐待防止連絡会)」(以下、あんしんネット)である。新宮市は和歌山県東南端に位置する総人口 2万 9,860人、高齢化率 35.0%の地域であり 11、市内には、あんしんネット、要対協のほか、子育て支援セン

伴い、徐々に子ども家庭福祉における政策課題としても捉えられるようになった。1994年、いわゆるエンゼルプラン 5ではこの傾向が顕著となる。地域子育て支援センターが「子育てネッ

4 4 4 4 4

トワークの中心として4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

保育所等に」(傍点筆者)整備されることが明記され、「子育て中の夫婦が身近に育児相談に出向き、保育サービスの情報提供、地域の子育てサ-クルへの参加などが可能となるよう」な役割が期待されるようになった。つづいて、2000年に児童虐待防止法が施行されると、虐待への対応には地域子育て支援センターを中心とする「ゆるやかな」ネットワーク対応では不十分であることから、2004年の改正では養護問題に専門的に対応する要保護児童対策連絡協議会(別称:子どもを守る地域ネットワーク 6)(以下、要対協)が設立されるようになる。 以上の過程を経て、現在、地域における子育てネットワークには、子育てサークルから発生した当事者同士によるインフォーマルなもの、保育所や子育て支援センターを中心に構築されるもののほか、専門職を中心とする要対協など、多様な形態が存在する。そのような中、本稿では、これまでの研究動向においてあまり着目されて来なかった市区町村社会福祉協議会(以下、社協)による子育てネットワークを取り上げることで、社協による子育てネットワークの意義を論じる。 周知のとおり、社協は地域福祉の推進に取り組む機関として法的に位置づけられ 7、地域

5 1994年 12月、文部、厚生、労働、建設の 4大臣合意により策定された「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」(通称:エンゼルプラン)。エンゼルプランでは、子育てを国、地方公共団体、企業や地域社会も含めた社会全体で支援していくことをめざし、政府が今後 10年間に取り組むべき基本的方向と重点施策を定められた。

6 要保護児童及びその保護者に関する情報その他要保護児童の適切な保護を図るために必要な情報の交換を行うとともに、要保護児童等に対する支援の内容に関する協議を行うため、児童福祉法 25 条の 2(2004年の児童福祉法改正)に基づき設置された協議会であり、市町村の児童福祉主管課や児童相談所等の関係機関、関係団体及び児童の福祉に関連する職務に従事する者等により構成される。要対協に関しては、「虐待防止ネットワークの内容には地域差があったが、要保護児童対策地域協議会の成立により、ネットワークを国レベルのシステムとして一律に機能させることが可能となり、その結果、地域の取り組みがレベルアップすると期待された」との評価もある(加藤(2013:39))。

7 社会福祉法 109条 市町村社会福祉協議会は、1又は同一都道府県内の 2以上の市町村の区域内において次に掲げる事業を行うことにより地域福祉の推進を図ることを目的とする団体であつて、その区域内における社会福祉を目的とする事業を経営する者及び社会福祉に関する活動を行う者が参加し、かつ、指定都市にあつてはその区域内における地区社会福祉協議会の過半数及び社会福祉事業又は更生保護事業を経営する者の過半数が、指定都市以外の市及び町村にあつてはその区域内における社会福祉事業又は更生保護事業を経営する者の過半数が参加するものとする(下線部筆者)。

8 厚生労働省(2015)「子どもを守る地域ネットワーク等の調査結果について(平成 25年度調査)」によると、2013年 4月 1日時点における社協の参画率は 56.0%となっている。

9 例えば、地方公共団体が取り組む子育て支援ネットワークの事例として三鷹市があり、同市に関しては多くの先行研究が存在する(松田博雄・山本真実・熊井利広編(2003)『三鷹市の子ども家庭支援ネットワーク』ミネルヴァ書房など)。

10 管見の限り、神里博武(2003)「社会福祉協議会と子育て支援」『現代社会学部紀要』1(1)、47-54。松井裕子(2002)「社会福祉協議会が行う児童虐待予防活動」『月刊福祉』85(13)、34-7。などにとどまる。

11 和歌山県健康福祉部(2017)「平成 29年度 和歌山県における高齢化の状況」

社会福祉協議会による子育てネットワークの意義 159

だろうか。本節では、全社協の動向と調査をもとに、社協による子育てネットワークの概況について確認したい。

2. 1  2002-2006 年度:助成事業による児童虐待の取り組み推進

 社協による子育てネットワークに関する取り組みが顕著になったきっかけの一つに、2002年度に全社協が創設した助成事業「社会福祉協議会活動振興基金」(以下、振興基金)がある。振興基金は、これまでの福祉制度では対応困難であった「新たな福祉課題」に取り組む社協の支援を目的に創設された。この助成事業で新たな福祉課題として指定されたのは、「児童虐待防止」「精神保健福祉支援」「ホームレス支援」「高齢者虐待防止」の 4分野である。全国社会福祉協議会(2007)によると、これら 4分野のうち、児童虐待防止に取り組んだ社協が最多となっている(図表 1)。 また、助成期間終了後、取り組みの定着状況を把握するため実施された調査 14によると、4分野のうち、助成期間終了後も取り組みが継続している割合は「児童虐待防止」が 91.4%と最も高い(図表 2)。児童虐待に関する取り組みは、助成対象とされた他分野に比べ、取り組みやすく継続しやすい性質であった様子がうかがえる。 一方、「児童虐待防止」のうち、継続していない 8.6%の社協は、取り組みを継続していない主な理由として「自治体主体となって虐待防止対策協議会などを立ち上げ、児童相談所、福

ターが取り組む子育て支援コミュニティ連絡会(以下、コミュニティ連絡会)の 3つの子育てネットワークが重層的に存在している。この特徴に着目し、本稿では、社協が取り組む子育てネットワークと他のネットワークの担い手の相違と関係性について明らかにすることで、社協の子育てネットワークの意義について論じる。なお、子育てネットワークには定まった定義が存在しないが 12、本稿では、「子ども・子育て支援の関係機関や、子ども・子育て支援に関心を持つ人が、各々の特性を活かしながら、互いに連携し合い課題解決に向けた取り組みを行う組織体」と定義したい。研究方法は、新宮市社協から提供いただいた議事録、会議資料のほか、職員の方に対するヒアリング調査 13に基づいている。 本稿の構成は以下のとおりである。第 2節では、社協による子育てネットワークの全国的な概況について確認し、第 3節では、新宮市社協による子育てネットワークの経緯と現状について確認する。最後に、第 4節において他のネットワークとの担い手の相違と関係性を明らかにすることで、社協による子育てネットワークの意義について考察する。

2. 社会福祉協議会による子育てネットワークの概況

 高齢、障がい分野における取り組みが多い社協において、これまで子育てネットワークへの参画や取り組みはどのように推進されてきたの

12 山縣・中谷(2013)では、「子育てネットワーク」が変化し、発展していく存在であるゆえに、その捉え方は時期や見解により異なるとともに、実践者が「子育てネットワーク」を語るときにおいても必ずしも一致したものを示していないことを指摘している(山縣・中谷(2013:32-3))。

13 ヒアリングは半構造化面接により、新宮市社協の地域福祉部児童虐待防止事業担当者に対して実施した。ICレコーダーによる録音にご了承いただき、音声データーの文書化を行っている。なお、ヒアリング日時は 2014年 2月 5日(水)13:30~ 14:50(第 1回ヒアリング)、2014年 7月 4日(金)13:00~ 13:40(第 2回ヒアリング)である。

14 調査名は、『「社会福祉協議会活動振興事業」実施社協における事業の定着状況等に関する調査』。調査結果は、全国社会福祉協議会(2007:96-102)。

精神保健福祉支援 児童虐待防止 ホームレス支援 高齢者虐待防止 計

社協数 133 174 24 15 346

図表 1 振興基金の取り組み状況

出所:全国社会福祉協議会(2007:7)

東根 ちよ160

虐待への対応を目的とした取り組みが進行する中、2009年度には全社協内に「要保護児童対策地域協議会と地域子育て支援に関する委員会」が立ち上げられた。加えて、同委員会では「市町村社協を中心とした地域における子育て支援の推進、ネットワークの構築・強化および要保護児童対策地域協議会との連携・協働推進をはかることを目的」(全国社会福祉協議会(2010:1)16)に全国の社協に対するアンケート調査 17

を実施している。 同調査では、社協の子育てネットワークの現状を問う設問があるが、地域の子育て支援を目的とした連絡会・会議等の設置状況(要対協を除く)に対し、「社協が設置する連絡会・会議等がある」と回答した割合は、全体のわずか7.5%だった(図表 3)。

祉事務所を中心としたネットワークが整備されたため、社協が運営してきた協議会は廃止した。」「子育て支援センターが整備されたことによって、社協に対する相談が減少した。」「事業終了後は、民生委員・児童委員(協議会)が独自に取り組んでいる。」をあげている 15。つまり、他機関によるネットワークが開始されたことを不継続の理由としており、このような状況からは社協のネットワークが「他のネットワークにより代替される」と認識されている様子が読み取れる。

2. 2  2009 年度:全社協委員会による調査結果からみる概況

 振興基金をきっかけに、社協における児童

継続している社協 継続していない社協 合計精神保健福祉支援 14(82.4%) 3(17.6%) 17

児童虐待防止 53(91.4%) 5 (8.6%) 58

ホームレス支援 1(25%) 3 (75%) 4

高齢者虐待防止 4(80%) 1 (20%) 5

図表 2 振興基金による取り組みの継続状況

出所:全国社会福祉協議会(2007:96)

15 全国社会福祉協議会(2007:97)16 調査結果がまとめられた最終的な報告書において、「地域における社協の役割は、子育て支援活動の強化による虐待予防」(傍点筆者)と明記されており(全国社会福祉協議会(2010)、はじめに)、児童虐待に対する社協の役割は、振興基金では「防止」とされていたが、同委員会では「予防」に変化している。

17 調査名は「子ども家庭福祉関係事業等への取り組み状況調査」

図表 3 地域の子育て支援の推進を目的とした連絡会等の設置状況(要対協を除く)

出所:全国社会福祉協議会(2010:13)をもとに筆者作成

社会福祉協議会による子育てネットワークの意義 161

 このような状況において、本稿で取り上げる新宮市は、市内に社協、子育て支援センター、要対協の各機関が取り組む 3つの子育てネットワークが重層的に存在している。本節では、いかにして現在の状況になり得たのかという経緯に加え、どのような認識に基づき各ネットワークが存在しているのか、その現状について確認したい。

3. 1 経緯

3. 1. 1  2003-2004 年度:全社協による助成事業の取り組み

 現在新宮市内に存在する 3つの子育てネットワークのうち、最も早く立ち上がったネットワークが、2003年 11月に開始された社協によるあんしんネットである。きっかけは第 2節で述べた全社協による振興基金である。2003年度から振興基金の「児童虐待防止」にあたる取り組みとして「新宮市児童虐待防止連絡会(現:あんしんネット)」を立ち上げたのが始まりであった。

(1)開始当初の議論 全国的概況として、社協による子育てネットワークに関しては「他のネットワークにより代替される」という認識が見られる中、あんしんネットの開始当初に行われた議論や視点に関して、ヒアリングでは次のように述べられている。

 加えて、社協として子育て支援を目的とした連絡会等を設置していない(要対協を除く)社協に理由を問う設問では、その理由として61.1%が「他に組織がある」と回答しており(図表 4)、同調査結果からも、社協による子育てネットワークの形成を妨げる要因として「他のネットワークにより代替される」との認識が見て取れる。 以上のように、社協は地域における子育てネットワークへの参画や取り組みが期待される一方で、社協が主体となるネットワークを構築しているところは少数にとどまり、背景には「他のネットワークにより代替される」という認識がある。このような社協を取り巻く全国的概況がありながらも、社協独自の子育てネットワークを形成している新宮市にはどのような実情があるのだろうか。つづいて確認しよう。

3. 「子育てあんしんネットしんぐう」の経緯と現状

 第 2節で確認したとおり、社協は地域における子育てネットワークの形成に係る役割を期待されながらも、社協として独自に構築するネットワークが存在するのは全体のわずか 7.5%にとどまっている。加えて、社協によるネットワークが存在しない理由として「他に組織がある」(61.1%)と回答するなど、「他のネットワークにより代替される」ことが意識されていた。

図表 4 社協として子育て支援を目的とした連絡会等を設置していない理由(要対協を除く)

出所:全国社会福祉協議会(2010:14)をもとに筆者作成

東根 ちよ162

ティア団体が、社協が設置する「新宮市災害ボランティアセンター」の中核を担ったことから、近年、災害ボランティアの取り組みが注目されているが、その活動拠点となっているのが、2003年 6月に社協に併設する形で立ち上げられた「新宮市ボランティア・市民活動センター」だった。あんしんネットは同センターの立ち上げ直後である同年 11月に開始されている。そのため、あんしんネットに関しても、同センターに登録するボランティアが積極的に関わりを持てるよう社協がコーディネートを行うことになった 20。加えて、あんしんネットの具体的活動は加入団体から選出された有志で構成される「推進委員会」が担っている。社協は事務局としての役割を担うにとどまり、実質的には推進委員会が運営するという形態は、新宮市ボランティア・市民活動センターの運営形態と同一である。 このように、児童虐待防止に係る全社協の助成事業として開始されるとともに、災害ボランティアの立ち上げも相まったことが活動推進の原動力となった様子がうかがえる 21。

3. 1. 2  2005-2006 年度:児童虐待防止対策の本格化

 振興基金による 2年間の助成を終え、あんしんネットは 2005年度に名称を「新宮市児童虐待防止連絡会」から現在の「子育てあんしんネットしんぐう」に改称するとともに、社協の一事業として継続されることになった。社協事業となった後、あんしんネットは民間助成を得て、2005~ 2006年度に本格的な児童虐待防止対策に取り組むことになる。 この時期、児童虐待防止推進月間 22には推進委員会における協議をもとに「子育て電話相談 23」「垂れ幕掲示」「あいさつ運動」が実施さ

    児童虐待防止の関係であれば、主任児童委員、民生委員事業でやってもらったほうがいいんじゃないという話にもなりました。なぜ社協が児童虐待防止事業をやらなければならないのかというのが…(略)…どうも違和感があった。…(略)…例えば、保健センターの児童担当であったり、福祉の中の児童課だったり、児童相談所もあってやってるのに、なんでということで大分悩みました。結局は最終的には、社協は色々な方法を使って、それにかかるネットワークを沢山作る。そして何かの際には、そのネットワークがつながっていって、活動分野が違ってもまちづくりをしていくというところをめざしているから、その児童虐待防止というか、子育て支援。その当時は虐待防止ということで、そこを使って社協は社協のネットワークを作っていこうかということで、…(略)…児童虐待というか、健全育成というところで社協が果たす役割はあるかもしれないねということでした 18。

 つまり、あんしんネットの立ち上げに際しても「他のネットワークにより代替されるのではないか」との議論が生じる中、開始につながる視点となったのが、①複数のネットワークの必要性、②児童虐待防止よりも広く「子育て支援」に果たす役割があるという点であった様子がうかがえる。

(2)原動力となるボランティア 当時、あんしんネットの立ち上げや活動の原動力となったのが地域におけるボランティアの存在である。新宮市社協を印象づける出来事として、2011年に発生した紀伊半島大水害 19をあげることが出来る。同水害では複数のボラン

18 第 1回ヒアリング19 2011年 8月 25日に発生した大型台風第 12号に起因する豪雨。紀伊半島の 3,000箇所を超える地区で土砂災害が発生し、新宮市も甚大な被害を被った。

20 あんしんネットの役職は当初から、会長は新宮市社協会長、副会長は新宮市福祉事務所長および新宮市ボランティア・市民活動センター会長となっている。役職の選出からも「新宮市ボランティア・市民活動センター」の役割が大きいことが分かる。

21 全国社会福祉協議会(2007)において、あんしんネットの取り組みが「小地域での研修会を通じた地域住民の意識啓発」として紹介されている(全国社会福祉協議会(2007:61))。

22 厚生労働省では 2004年から毎年 11月を児童虐待防止推進月間と定め、児童虐待防止のための広報・啓発活動など種々な取組を集中的に実施している。

23 2005年度には、「多胎児同士のコミュニティの紹介」相談が 1件であり、2006年度にはケース化する困難事例のほか、全 3件への対応が行われている。

社会福祉協議会による子育てネットワークの意義 163

はという話しになりました 26。

 以上のように、あんしんネットの経緯を確認すると、2003年度以降、「全社協による助成事業の時期」「児童虐待防止対策が本格化する時期」から、要対協やコミュニティ連絡会の立ち上げにより「児童虐待防止から子育て支援に移行する時期」を経ていることが分かる。つづいて、現状について確認しよう。

3. 2  現状

3. 2. 1  構成と活動内容

 当初 61団体が参画するネットワークとして開始されたあんしんネットは、現在 91団体から構成されている(図表 5)。行政関係機関、保育所、幼稚園、小中学校だけでなく、教育・福祉機関の保護者会、育友会、児童館、民生児童委員協議会や新宮市ボランティア・市民活動センターに登録する団体が加入している。また、既述のとおり、加入団体の中から有志による「推進委員会」が組織され、主任児童委員のほか、ボランティアや行政関係者が推進委員として活動している。なお、子育て支援センターによるコミュニティ連絡会とは加入団体の重なりも見られるが、保護者会や育友会のほか、ボランティア団体が多く加入している点があんしんネットの特徴である。加えて、あんしんネットには、インフォーマルなボランティアや保護者会などの当事者も、福祉・教育専門機関と同比率で加入している。 現在の活動内容は、年 1回の総会および研修会 27のほか、年数回の推進委員会である。また、児童虐待防止推進月間におけるあいさつ運動やオレンジリボンキャンペーンが推進委員会の主な取り組みであり、新宮市内における子育て支援機運の醸成が現在の主たる目的となっている。

れている。特に 2006年度に関しては児童虐待に係る研修会が年14回 24、活発に行われるなど、児童虐待防止対策が本格化した。そのような中、2006年度に新宮市内において、要対協とともに子育て支援センターを中心とするコミュニティ連絡会という、公的性質の強い 2つの子育てネットワークが立ち上げられた。

3. 1. 3  2007 年度-現在:児童虐待防止から子育て支援へ

 要対協とコミュニティ連絡会の発足以降、あんしんネットの取り組みの基軸は児童虐待防止から「子育て支援」に移行することになる。2005~ 2006年度に実施されていた電話相談が中止され、2007年度からは、あいさつ運動や意識啓発活動に特化した取り組みにシフトしている。また、推進委員会や研修会の開催回数も落ち着きをみせ、要対協やコミュニティ連絡会と連携した取り組みが推進されるようになった。これが、現在の子育てネットワークの状況だが、あんしんネットと他のネットワークとの関係性について、ヒアリングでは次のように述べられている。

    要保護児童対策協議会もやる事は沢山あり…(略)…虐待防止の啓発のところも、本当は子育て支援センターで行わなければなりませんが、日々の業務が大変で、ケース化 25しているケースやグレーゾーンのケースが沢山ありますので、そこの家庭訪問やケース会議だけできめ細やかな PR活動は出来ないという話で。逆に社協では、ケース化したものはプロではないため出来ないが、そこに行かないような子育て支援やサロンなどを団体さんと一緒にやったりということは出来るということで、一緒にやったらいいんじゃない。役割分担をして、お互い課題意識、問題意識を共有して協働でやってますよというスタイルでいいので

24 その前後、2005年度および 2007年度は年 1回の開催である。25 ケースワークの対象となることを示している。ケースワークとは、主に面接を中心とする専門職による社会福祉の援助活動である。26 第 1回ヒアリング27 研修会は親子参加型、関係機関対象、推進委員対象の 3種類となっている。

東根 ちよ164

…(略)…やっぱり市がもっているネットワークと、うちがもっているネットワークの相互補完というところです。市が出来ないところを社協が担ったり、社協が出来ないところを市が担ったりという関係性もあると思います 30。

 既述のとおり、他のネットワークにより代替されるのではないかという議論はあんしんネットの立ち上げ時にも行われていた。そのような中においても、取り組みが開始し、なおかつ継続されている背景には、社協が取り組む子育てネットワークと要対協やコミュニティ連絡会は、代替ではなく補完し合うものであるという認識がある。社協による子育てネットワークは「他のネットワークにより代替される」との認識が多くの地域で見られるが、新宮市では市によるネットワークでは、現実的に予防等への取り組みが困難な中、子育て支援機運の醸成や虐待防止に対応する必要性からあんしんネットが継続されている。 また、あんしんネットは当初、振興基金の児童虐待防止事業として開始されたが、その後、要対協やコミュニティ連絡会が立ち上がる中、目的は児童虐待防止から児童虐待予防

4 4

へと変化

3. 2. 2  他のネットワークとの関係

 つづいて、あんしんネットと要対協やコミュニティ連絡会との関係性について、ヒアリングから確認したい。

    要保護児童対策協議会は、明らかに専門的な視点から見てケース 28ですというものについて虐待と捉えて活動をしています。ケースにならなければ動きませんし、限りなくグレーなところじゃなければ動きません。ですが、あんしんネットのほう…(略)…社協の場合、行政と違い、「予防」の部分に資する、貢献できるところが大きいのだと思う。そう考えたとき、子育て支援についても、虐待の背景にある子育てのしづらさや地域環境がおそらくあるから、その要因として考えられるものにどう介入して、予防するのかというところが仕事だと思う。行政のできる範囲は限られていて、日々、家庭訪問、記録、会議を開いてと大変。その中で、予防とか啓発ということを出来るかといった時に、実際には大変 29。

    確かにうちも要保護児童対策のネットワークと重なっている人もおられますが、

出所:筆者作成

10

3.2 現状

3.2.1 構成と活動内容

当初 61 団体が参画するネットワークとして開始されたあんしんネットは、現在 91 団体

から構成されている(図表5)。行政関係機関、保育所、幼稚園、小中学校だけでなく、教

育・福祉機関の保護者会、育友会、児童館、民生児童委員協議会や新宮市ボランティア・

市民活動センターに登録する団体が加入している。また、既述のとおり、加入団体の中か

ら有志による「推進委員会」が組織され、主任児童委員のほか、ボランティアや行政関係

者が推進委員として活動している。なお、子育て支援センターによるコミュニティ連絡会

とは加入団体の重なりも見られるが、保護者会や育友会のほか、ボランティア団体が多く

加入している点があんしんネットの特徴である。加えて、あんしんネットには、インフォ

ーマルなボランティアや保護者会などの当事者も、福祉・教育専門機関と同比率で加入し

ている。

図表5 あんしんネットの構成

※図中の数字は、加入団体(者)数を示している。

出所:筆者作成

現在の活動内容は、年1回の総会および研修会27のほか、年数回の推進委員会である。

また、児童虐待防止推進月間におけるあいさつ運動やオレンジリボンキャンペーンが推進

委員会の主な取り組みであり、新宮市内における子育て支援機運の醸成が現在の主たる目

的となっている。

27 研修会は親子参加型、関係機関対象、推進委員対象の3種類となっている。

小中学校14

行政機関14

幼稚園3

保育所12

児童館5

民生児童委員協議会8

保育所保護者会8

幼稚園育友会8

ボランティア活動団体9

小中学校育友会8

ボランティアセンター1

市社協1

主任児童委員14ボランティア活動者5

行政関係6

役員

役員

役員

推進委員会

図表5 あんしんネットの構成

28 ケースワークの対象となることを示している(前掲注 25参照)。29 第 1回ヒアリング30 第 2回ヒアリング

小中学校14

行政機関14

幼稚園3

保育所12

児童館5

民生児童委員協議会8

保育所保護者会8

幼稚園育友会8

ボランティア活動団体9

小中学校育友会8

ボランティアセンター1

市社協1

主任児童委員14ボランティア活動者5

行政関係6

役員

役員

役員

推進委員会

社会福祉協議会による子育てネットワークの意義 165

よびコミュニティ連絡会は事務局がいずれも市であるのに対し、あんしんネットは社協が事務局を担っている。さらに違いが見られるのは「主な活動者」である。上記 2つのネットワークは専門職が主な活動者であるのに対し、あんしんネットはボランティアや児童委員が推進委員会を組織しながら運営を行い、社協は事務局として推進委員会を支えている。また、あんしんネットは当初、児童虐待防止への取り組みを目的に組織されたが、現状では児童虐待への関わりは低く、より広く地域の子育て機運の醸成を担っている。この点は、コミュニティ連絡会においても行われているものの、専門職が活動をし、図表 7のようにあくまでも保護者を対象としたコミュニティ連絡会においては、子育て世代でない層への働きかけが困難である。その点に対し、あんしんネットは世代を超えた地域の子育て機運の醸成を担っている。なお、コミュニティ連絡会にも子育て機運の醸成は期待されているが、現実的には日々の業務により十分に対応しきれていないという実情が存在する。また、子育て世代以外のボランティア・民生委員が関わり、世代を超えた子育て機運の醸成を担えるのは、あんしんネット特有のものである。

4. 2  各ネットワークの関係性

 つづいて、各々のネットワークの関係性を把握するため、各ネットワークの目的と対象を図式化したものが図表 7である。要対協の対象および目的は法律上明確であり、対象は要保護児童等とされている 31。法的には、被虐待児に限らず非行児童なども含まれるが、あくまでも

するとともに、より広く地域における子育て機運の醸成を担っている。現在、市内では 3つの子育てネットワークが重層的に存在し、それらは相互に補完する関係性が築かれているといえるだろう。これまでの内容を踏まえ、第 4節では 3つの子育てネットワークの相違と関係性について確認したい。

4. 考察

 新宮市内には現在、市が組織する要対協およびコミュニティ連絡会、社協が事務局を担うあんしんネットという、子育てに関する 3つのネットワークが存在している。加えて、「他のネットワークにより代替されるのではないか」という議論が生じながらもあんしんネットが継続しているのは、地域における子育て機運の醸成に、要対協やコミュニティ連絡会が対応しきれていないという実情の結果である。各々のネットワークは類似する役割を担っているように見えながらも、現状では相互に補完し合いながら機能している。 本節では各ネットワークの相違と関係性について示した上で、そこから導き出される他の地域への示唆について考察を行いたい。

4. 1 各ネットワークの相違

 重なり合う要素も多い 3つのネットワークだが、これまでの内容をふまえ、事務局、主な活動者、専門性、虐待への関わりの観点から相違を図式化すると図表 6のようになる。要対協お

事務局 主な活動者 専門性 虐待への関わり要対協

市 専門職有 高

コミュニティ連絡会 有(一部無) 中あんしんネット 社協 ボランティア・児童委員 無 低

図表 6 3 つのネットワークの相違

出所:筆者作成

31 児童福祉法 25条の 2 地方公共団体は、単独で又は共同して、要保護児童の適切な保護又は要支援児童若しくは特定妊婦への適切な支援を図るため、関係機関、関係団体及び児童の福祉に関連する職務に従事する者その他の関係者(以下「関係機関等」という。)により構成される要保護児童対策地域協議会(以下「協議会」という。)を置くように努めなければならない。

2 協議会は、要保護児童若しくは要支援児童及びその保護者又は特定妊婦(以下「要保護児童等」という。)に関する情報その他要保護児童の適切な保護又は要支援児童若しくは特定妊婦への適切な支援を図るために必要な情報の交換を行うとともに、要保護児童等に対する支援の内容に関する協議を行うものとする。

東根 ちよ166

トワークが重層的に存在する新宮市の実情について確認してきた。その結果、新宮市内において社協が取り組む子育てネットワークは、図表6や図表 7のように、要対協や子育て支援センターによるものとは異なる視点や機能をもちながら運営されていることが明らかになった。全国的には、社協による子育てネットワーク形成には「他のネットワークにより代替される」という認識が妨げとなっている中、実際には世代を超えた地域の子育て機運の醸成や虐待予防に要対協や自治体が日々の業務に加え十分に対応しきれておらず、担える範囲に限界も存在している。一方、新宮市内においては、社協による子育てネットワークと市によるネットワークは、「代替ではなく補完し合う」という認識のもと機能しており、各々が重層的に重なり合う必要性をあんしんネットの事例は示唆している。

5. おわりに

 児童虐待予防における地域子育て支援の意義について論じる加藤(2010)では、「社会福祉協議会が虐待予防の領域を中心的に担い、要保護児童対策地域協議会活動への橋渡しの役割を担える特性があると考えられ」、「地域全体を把握し、自主的な形でボランティアと協働できる

ケース化 32した児童虐待事例への対応が中心的な役割となっている。 次に、コミュニティ連絡会の対象者を見ると、主として「保護者」を対象としている。新宮市(2010)33によると、コミュニティ連絡会は「子育て家庭の孤立を防ぎ、子育てを社会全体で支えていく」ことをめざし、「既存のグループや機関を組織化して子育て支援ネットワークを形成し、有機的なつながりの中で子育て家庭の様々なニーズに、まち全体で子育て支援を行えるようにしていく」ために構築されている 34。そのため、コミュニティ連絡会は保護者を対象とし、その目的は「子育て支援」といえるだろう。 最後に、あんしんネットの対象は、要保護児童や保護者にとどまらない。地域全体の子育て支援機運の醸成のほか、推進委員会を組織するボランティアのネットワークとしても機能している様子がうかがえ、広く「住民」を対象としている。また、目的はネットワーク形成を主としており、他のネットワークよりも広範である。

4. 3  「子育てあんしんネットしんぐう」からの示唆

 本稿では、「他のネットワークにより代替される」という認識のもと、社協が主体となる子育てネットワークが形成される地域は少数にとどまる中、市内に社協を含む 3つの子育てネッ

32 前掲注 2533 新宮市(2010)「新宮市次世代育成支援後期行動計画」34 前掲注 33、56頁。

14

図表7 3つのネットワークの関係性

【目的】 【対象(範囲)】

児童虐待対応 要保護児童(狭)

子育て支援 保護者(中)

 ネットワーク形成 住民(広)

新宮市要保護児童対策地域協議会

子育て支援コミュニティ連絡会

子育てあんしんネットしんぐう

出所:筆者作成

4.3 「子育てあんしんネットしんぐう」からの示唆

本稿では、「他のネットワークにより代替される」という認識のもと、社協が主体となる

子育てネットワークが形成される地域は少数にとどまる中、市内に社協を含む3つの子育

てネットワークが重層的に存在する新宮市の実情について確認してきた。その結果、新宮

市内において社協が取り組む子育てネットワークは、図表6や図表7のように、要対協や

子育て支援センターによるものとは異なる視点や機能をもちながら運営されていることが

明らかになった。全国的には、社協による子育てネットワーク形成には「他のネットワー

クにより代替される」という認識が妨げとなっている中、実際には世代を超えた地域の子

育て機運の醸成や虐待予防に要対協や自治体が日々の業務に加え十分に対応しきれておら

ず、担える範囲に限界も存在している。一方、新宮市内においては、社協による子育てネ

ットワークと市によるネットワークは、「代替ではなく補完し合う」という認識のもと機能

しており、各々が重層的に重なり合う必要性をあんしんネットの事例は示唆している。

5.おわりに

児童虐待予防における地域子育て支援の意義について論じる加藤[2010]では、「社会福祉

協議会が虐待予防の領域を中心的に担い、要保護児童対策地域協議会活動への橋渡しの役

割を担える特性があると考えられ」、「地域全体を把握し、自主的な形でボランティアと協

働できる社会福祉協議会は予防的子育て支援活動の事務局をなっていくことが可能」(加藤

[2010:8])であると指摘されるなど、社協の子育てネットワークへの参画に対する期待は

出所:筆者作成

図表 7 3 つのネットワークの関係性

社会福祉協議会による子育てネットワークの意義 167

援―全国調査にみる「子育てネットワーク」』明石書房社会福祉協議会は予防的子育て支援活動の事務局をなっていくことが可能」(加藤(2010:8))であると指摘されるなど、社協の子育てネットワークへの参画に対する期待は大きいものがある。さらに近年、この期待はますます高まる傾向にあり、2014年には全国社会福祉協議会(2014)において「子ども育ちを支える新たなプラットホーム」が提示され、さらなる「包括化」が主張され始めるなど、新たな展開を迎えている。 一方、ひるがえって地域の実態を見れば、社協の子育てネットワークには「他のネットワークにより代替される」という認識が存在している。そのような状況下では、特異ともいえる新宮市社協の子育てネットワークの取り組みについて、本稿は着目してきた。新宮市の実態からは、他のネットワークがコミュニティベースの子育て機運の醸成や虐待防止に対応しきれていない実情において、社協の子育てネットワークは「他のネットワークに代替」される性質のものではなく、相互に補完し合う性質のものである可能性が浮かび上がる。加えて、新宮市社協の取り組みは、近年の子ども家庭福祉を取り巻く問題に対する地域福祉的アプローチを具現化するものであり、これまで高齢者分野に偏りがちであった地域福祉の実践研究に対しても示唆の多い取り組みと言えるだろう。

参考文献

柏女霊峰(2007)「児童虐待問題と社会福祉協議会への期待」『社会福祉協議会活動振興事業報告書 地域社会のつながりの再構築に向けて』32-6。柏女霊峰・田中由実(2016)「子育て支援のネットワークをどう組むか」『児童心理』 70(19)、146-51。加藤曜子(2010)「虐待予防における地域子育て支援の意義と目的」『市区町村社協における虐待予防のための地域子育て支援の展開』3-9。加藤曜子(2013)「要保護児童対策地域協議会の課題」『流通科学大学論集 人間・社会・自然編』25(2)、39-52。全国社会福祉協議会(2004)「児童虐待の防止に向けて―社会福祉協議会の実践」全国社会福祉協議会(2007)「社会福祉協議会活動振興事業報告書―地域社会のつながりの再構築に向けて」全国社会福祉協議会(2010)「市区町村社協における虐待予防のための地域子育て支援の展開」全国社会福祉協議会(2014)「子どもの育ちを支える新たなプラットホーム―みんなで取り組む地域の基盤づくり」牧里毎治・山野則子編著(2009)『児童福祉の地域ネットワーク』相川書房山縣文治監修・中谷奈津子編(2013)『住民主体の地域子育て支