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Perceiving affordances for switching two actions, stepping

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The Japanese Journal of Psychology 1994, Vol. 64, No. 6, 469-475 資 料

“ま た ぎ” と “く ぐ り” の ア フ ォ ー ダ ン ス 知 覚1

早稲田大学 三 嶋 博 之

Perceiving affordances for switching two actions, "steppingover" and "passing-under"

Hiroyuki Mishima (Department of Basic Human Sciences, School of Human Sciences, Waseda University, Mikajima, Tokorozawa 359)

J. J. Gibson (1979/1986) proposed that animals perceive 'affordances', which are the functional utilities based on the properties of both the animals and the environment. If this is the case, animals should make judgements about what to do referring to the capability of their own action system. In this study, I examined a perceptual boundary between "stepping-over" and "passing-under" for two groups -the tall group and the short group . Subjects were individually requested to judge whether they would "stepover" or "passunder" a bar presented in front of them

which was varied in height. I found that the mean bar-height to leg-length (B/L) ratio at the perceptual action-switching-point is invariant, or 1.07, for each group. This result suggests that animals perceive affordances in controlling action, which means that the environment for animals is structured as to various levels of action,

Key words: affordances, action, perceptual boundary.

人 間 は,環 境 か らい かな る情 報 を読 み とつてい るの

で あ ろ うか.私 た ちは,日 常場 面 に おい てな んの戸 惑

い もな く,階 段 をの ぼ つた り,コ ップ をつか んだ り,

狭 い間 隙 を通 り抜 けた りしてい る.こ れ は まさ に,私

た ちが 日常 的 に,あ る特定 の場 面 に おい て,そ の行 為

が可 能 で あるか どうか を知 覚 して い る とい う ことに他

な らず,し たが つて,環 境 の特 性 と,自 己の行 為遂 行

能力 につい ての情 報 を同 時 に知 覚 してい る とい う こと

で あ る(Gibson, 1977, 1979/1986; Turvey, Shaw,

Reed, & Mace, 1981). Gibson (1966, 1977, 1979/1986)

は,こ の よ うな環 境 か ら提 示 され,行 為 者 に特 定 の行

為の 可能性 を与 え る情 報 を “ア フ ォー ダ ンス(afford

ance)” と呼 んだ.

従来,知 覚研 究 の主 要 な関心 は,行 為 者 の外部 に存

在 す る環境 の物 理 的特 性,例 え ば “高 さ”や “幅”,“奥

行 き” とい つた特 性 それ 自体 を網膜 な どの感 覚器 が い

か に受 容 す るか,と い う点 に もつば ら集 中 して きた.

しか しなが ら,私 た ちの実 際 の,少 な く とも知覚 行為

の研究 に対 して,そ の よ うな物 理的 単位 を無 批判 に適

用 す る こ とが妥 当で あ るか につい て は疑 問が もたれ て

い る(Gibson, 1979/1986; Turvey et al., 1981).私 た

ち は環 境 の特性 を知 覚 してい るが,そ れ は環境 の物理

的 な特 性 のみ を知覚 して い るの で はな く,自 己 につ い

ての特 性 を も参 照 した ア フ ォー ダ ンス を知 覚 してい る

ので はな いか.例 え ば,椅 子 はそ の座 面 の “高 さ” そ

れ 自体 によ つて椅子 として の機 能が特 定 され るので は

ない.そ こに座 る主体 が関与 して,す なわ ち,あ る特

定 の身体 のサ イズ の行為 者 が その身体 の ス ケール か ら

見 て “座 れ る高 さ” で あ る ときに その椅子 の “椅子 ”

としての機 能が 特定 され る.し たが つて,ア フ ォー ダ

ンス は個 体 や種 に とつて固有 で あ り,そ の行為 者 と環

境 との 関係 で測 定 され な けれ ば らない(Gibson, 1979/

196),

この ような,行 為 者 と環境 の適 合 に も とつ いた情 報

が 行 為 の基 礎 とな つて い る こ と を示 す研 究 は,人 間

に限 らず様 々 な種 につ い て行 われ て い る.例 え ば,

カエル の跳 び 出 し行 為 は,前 方 の植物 の茎 の 問 な どの

跳 びぬ け よ う としてい る間隙 が,カ エル の頭部 の幅 の

1.3倍 よ り狭 くな る と急 激 に減 少 す る ことが明 らか に

されて い る(Ingle & Cook, 1977).ま た,カ マ キ リの

捕食 行動 の生 起 が,前 肢 のサ イ ズ によ る捕 獲能 力 に依

存 して い る こ と(Holling, 1964)や,カ サ貝が その天

敵 であ るエ ッチ ュウバ イ(貝)か ら逃 げ るか,逆 に攻

1 本論文 は, 1992年 に早稲 田大学 人間科学部人間基礎科 学科へ

卒業論文 として提 出 した もの を一部修正 した ものであ る.ま た,

本 研究 は,早 稲 田大学人 間科学 部佐々木正人 に対 する1992年 度

文部省科学研究費(重 点領 域,感 性情報処理 の情 報学 ・心 理学的

研 究,課 題番号04236219)の 援助 を一部受 けた.

470  心 理 学 研 究 第64巻  第6号

撃 を仕返 す か はそれ ぞれ の体 長比 に依存 してい る こと

(Branch, 1979)が わ か ってい る.

人 間 に関 す る,ア フォー ダ ンスの考 えに も とつ く研

究は, 1984年にWarrenに よつて明確なフレームワー

クが示されて以来,その成果が積み重ねられつつある. Warrcnは こ こで,行 為 者 と環 境 の適合 の指 標 として,

π を利 用 して の ア フ ォー ダ ンス の解 析 をお こな つ

た.π 数 は,環 境 と行為 者 の特性 の,単 位 な しの比 を も

つて表 され る.も しこ こで,環 境 の特性 をE,行 為 者

の特性 を 護 とし,そ れ らが同 じ単位 を持 つ な らば,π

数 は

π=E/A  (1)

によ つてあ らわ され,そ れは行 為者 と環 境 の不変 の適

合 の有効 な指標 とな る.

この よ うな 考 え方 に よ る 実 際 の研 究 と し て は,

Warrenに よ る “手 を使 わ ず に のぼ る こ との で きる高

さ”(Warren, 1984)に つ いて の アフ ォーダ ン ス知 覚 の

実験 をは じめ として,“座 る こ との で きる高 さ との ぼる

こ との で きる高 さ”(Mark, 1987)や,“ 通 り抜 けられ

る間隙”(Warren & Whang, 1987),“ 腕 の届 く対 象 の

距離 ”(Carello, Grosofsky, Reichel, Solomon, &

Turvey, 1989),“座 る ことので き る高 さ”(Mark, Balliett,

Craver, Stephan, & Fox, 1990)な ど,さ まざ まな 日常

的 知覚行 為 のユ ニ ッ トにつ いて行 われ て い る.

Warren (1984)に よる “手 を使 わ ず にのぼ る こ との

で き る高 さ” の ア フ ォー ダ ンス知 覚 に関 す る実験 で

は,身 長 の高低 に関係 な く,階 段 の高 さが 脚 の長 さの

0.88倍 を越 える と,“(手 を使 わ ず に)の ぼ る こ とがで

きる” との知覚 が 急激 に な され な くな る こ とが 明 らか

に され た.ま た,エ ネル ギー消費 の面 で もつ とも有 利

な階段 の高 さが,も つ と もの ぼ りや すい 階段 として知

覚 さ れ る こ と も 示 さ れ て い る.同 じWarrenと

Whamに よ る “通 り抜 け られ る間 隙” に関 す る研 究

(Wafren & Whang, 1987)で は,被 験 者 に実際 に 間隙 を“通 り抜 け”させ

,動 的 な場 面 での知覚 を観 察 してい る.

その結果,肩 を左 右 に回 す こ とな く通 り抜 け る ことが

で き る と知 覚 され る道 幅 が,体 格 に関 係 な く肩 幅 の

1.30倍 で ある こ と,そ してそれが 目の高 さ による情報 に

埋 め込 まれ てい る可能 性 が あ るこ とが示 された.“ 腕

の届 く対 象 の距離 ”の知 覚 の実 験(Carello et al., 1989)

で は,こ の ような ア フォー ダ ンスの知覚 が,腰 を曲 げ

る ・曲 げ ない な どの身体 の 自由度 の変化 に対 して敏 感

であ り,そ れ ぞれ の状 況 に応 じたア フ ォーダ ンス の知

覚 が な され る ことが明 らか に され た.ま た, Markら

は,足 にブ ロ ックを履 かせ た被験 者 に “座 る ことので

きる高 さ” を判 断 させ る実験(Mark et al.' 1990)で,

移 動 す る,見 回す とい つた探 索的 な情 報収 集活 動 が,

ア フ ォー ダ ンスの ピック ア ップに重 要 な役 割 を果 た し

てい る こ とを示 した.

以上 の先 行研 究 はい ずれ も “登 る” や “座 る” な ど

のあ る特定 の行 為 が限定 的 に設定 された とき,そ れが

可 能 か否 かが行 為者 の 身体 の特性 を参 照 した かた ちで

知 覚 され る こ とを良 く示 してい る.し か しなが ら,上

記 の ような実験 場面 とは異 な って 日常 場面 で は,あ る

行 為 それ 自体 の達成 が 意図 され た ので はな い場 合 に,

あ るい は,あ る行 為が 明確 に意 図 され た として もそ の

過 程 で,複 数 の可換 な行為 が重 な り合 つて い る ことが一般 的で あ る

.例 えぼ,道 具立 てが 整 つて いれ ぼ紙 は

ナ イ フで もハ サ ミで も切 る こ とが で きる.近 年,“ コー

ヒー をいれ る”“身支 度 を整 え る”とい つた 日常的 な場

面 の観察 を通 じて,よ り複 雑 な 言 わ ばア フ ォー ダ

ンスの交 錯 した 場 面 での行 為 の性質 を探 ろ う とす

る動 きが見 られ る(Reed, & Schoenherr, 1992; Schwartz,

Reed, Montgomery, Palmer, & Mayer, 1991). 20歳

か ら61歳 の健 常 者 を被 験者 とした “コー ヒー をい れ

る”場面 の観 察 の結果,“ 躊 躇2”動作 に代表 され る “マ

イ クロ ・ス リ ップ” と呼 ばれ る微細 な行 為 の ス リ ップ

が ほ ぼ1分 に1個 の割合 で見 られ,そ の割 合 は場 面 の

複 雑 さ に応 じて増 加 す る こ とが 示 され た(Reed &

Schoenherr, 1992).こ の事例 は,知 覚 と行 為 を考 え る

上 で場 面 とその複雑 さが,換 言 すれ ば複数 の行 為 のユ

ニ ッ トの,重 な り合 つた アフ ォー ダ ンス 問の競 合 が無

視 で きない もので あ る こ とを示 唆す る.

したが っ て,本 研 究 で は,従 来 の実験 的 なア フ ォー

ダ ンス研究 で 取 り上 げ られ て きた よ うなあ る一つ の行

為で切 りと られ た場面 で はな く,複 数 の行為 の ユニ ッ

トが 重 な り合 つた場面 を設 定 す る ことで そ こによ り日

常的 な アプ ロー チの還 流 を試 み る.具 体 的 に は横 に渡

されたバ ー を “また ぐ” か “くぐる” か によ つて よけ

て通 り抜 ける とい う二 つ の行為 が重 な り合 う場面 にお

い て,そ れ らの行 為 のユ ニ ッ トが行 為者 の周 囲 に視覚

的 に展 開す る光学 的情 報 の中 で どの よ うに特 定 され る

か を検討 す る.

実 験

目 的

本 研 究 は,一 連 の ア フ ォ ー ダ ン ス 研 究(Carello et

al., 1989; Mark, 1987; Mark et al., 1990; Warren,

2 Reed & Schoenherr (1992)は “コ ー ヒ ー い れ ”場 面 で の “躊

躇 ”を, 例 えば ある対象 に リーチ ングを開始 し,途 中いったん そ

れ を中断 し,再 び同 じ対象 に リーチ ング を開始す るよ うな行動 に

対 して あてはめている.他 に,あ る対象 に リー チングを開始 し,

途中で リー チングの方向が他の対 象へ移 る “軌道 の変化”,そ れ

に伴 う “手 のかたちの変化”,当 該 の 目的 と関係 ない ものへの一

時的 な “接触” な どを “マイ クロ ・スリップ” と定 義 してい る.

三 嶋:“ ま た ぎ” と “く ぐ り” の ア フ ォ ー ダ ン ス知 覚  471

1984; Warren & Whand, 1987)の 拡 張 で あ り,大 地

(床面)に 対 して平 行 に位置 す る障害 の 回避行 為 を検 討

し,複 数 の 可能 な行為 の ユニ ッ トがい か に知 覚 され る

か を探 る ことを 目的 とす る.

日常 的環 境 にお いて,棚 や,横 に繁 った木 の枝 な ど,“また ぐ”

,あ るい は “く ぐる” ことに よって 回避 すべ

き障害 は,多 数 散在 してい る.そ して,こ れ らを どの

ように回避 す るか,す なわ ち,脚 を引 き上 げて “また

ぎ”越 す か,首 や腰 を曲 げて “く ぐり” ぬ けるか は,

お もに,そ の 障害物 と行 為者 との幾何 学 的,運 動 力学

的関係 に よって高 度 に制 約 ・ガイ ドされ て い る と考 え

られ る.歩 行 姿勢 を維 持す る とい う点で,障 害が 充分

に低 い位 置 にあ る場合 “また ぎ”越 す ほ うが よ り有利

で あ るが,障 害が 行為 者 の脚 の長 さ よ り高 い位置 にあ

る場 合 は “くぐり” ぬ ける ほ うが よ り適 応 的で あ る.

本 研究 で は,床 面 に対 して平 行 な棒状 の障 害物 を上

下 させ る ことに よ り,“ また ぐ” と “く ぐる” とい う質

的 に異 な る二つ の行 為の ア フ ォー ダ ンスが どの よ うに

知 覚 され るのか を,二 つの行 為 のカ テゴ リカ ルな転 換

点 を探 る ことに よ り検 討 す る.ア フォー ダ ンスの知 覚

は,す なわ ち,お こな うべ き行為 の知 覚 で ある.も し,

それ が適応 的 に知覚 され るな らぼ,“ くぐり”よ りも歩

行 姿勢 を大 き く崩 す こ とな く障害 を回避 で きる “また

ぎ”越 しを導 くよ うな知 覚が な され るで あ ろ う.し た

が って,障 害物 の 高 さ(B)と 行 為者 の脚 の長 さ(五)

の比 が1と 近似 す る とき,す なわ ち,

B/L≒1  (2)

とな る とき,二 つの ア フォー ダ ンス知 覚 の転 換 が起 こ

る と予想 され る.ま た, B/Lは 環境 と行 為者 の 関係 を

内包 した値 で あ り,行 為者 の絶 対的 な サ イズ には影響

さ れ な い と考 え ら れ る(Warren, 1984; Warren &

Whang, 1987).こ れ らの仮説 に立 ち,実 験 は,身 長 の

異 な る2群 につ いて行 い,そ れ らを相 互 に比 較 す る.

方 法

被 験 者  男子大 学 生 を,身 長 を基 準 として14人 選 出

した.う ち7人 は長 身群 と し,他 の7人 は短 身群 とし

た.長 身群 の7人 は,平 均 身長が181.6cm(SD=2.89

cm),短 身群 の7人 は,平 均 身長 が163.5cm(SD=2.28

cm)で あった.こ れ らはパ ーセ ンタイル順 位 に換 算 す

る と,長 身群 が約98パ ーセ ンタイ ル順 位,短 身群 が約

10パ ー セ ンタイ ル順位 で あ った3.

装置  幅1.8m,高 さ2.55mの 黒 色 の枠 を, 4cm幅

(横枠 は3cm幅)の ス チール製L字 型支 柱 を用 いて床

か ら垂直 に立 ちあが る よ うに作 成 し, 1.5cm角 の角材

に白色 と黒色 の ビニ ール テー プ を巻 き付 けた もの をバ

ー として 横 に渡 した.バ ー は, 55cmか ら105cmま で

5cm間 隔 で,床 か らの高 さを調整 で きる ように した.

実験 は, 7.8m×9.8mの 部 屋 を43.9m×9.8mに ア

コー デ ィオ ンカー テ ンで仕切 って行 われ た.実 験装 置

か ら7mの 位 置 を被験 者 の観察 点 とし,被 験者 か ら見

て実験 装 置 の背景 にな る壁 は4天 井 か ら床 上5cmま

で光沢 の少 ない乳 白色 の カー テ ンで覆 われ た.背 景 の

壁 と実験 装置 との距離 は2mで あ った.

手 続 き  実 験 装置 の7m手 前 に靴 を脱 い だ被 験 者

を立 たせ て,実 験 装置 のバ ー の高 さ を変 化 させ,通 行

の障 害 であ るバ ー を “く ぐって” よけ るか “またい で”

よけ るか,二 件法 で評 定 させ た.教 示 は “前方 に通行

の障 害 にな ってい るバー が あ ります.バ ーの 向 こう側

へ行 か な けれ ばな らな い とき に,ど ち らか と言 えば,

く ぐり ます か?ま た ぎ ます か?バ ー の高 さ を変 え

てい き ます の で,ど ち らの行 為が,自 然 で楽 にお こな

え るか,そ れ ぞれ につ いて ‘く ぐる ’か ‘また ぐ ’かで

答 えて下 さい” とい う形 式 で行 った.想 定 され る “歩

き” の速度 につ いて は “自然 で あ る こ と”以外 は特 に

明示 しなか ったが,跳 躍 した り,バ ー に手 をか けて飛

び越 える ような行 為 は考 え る必 要が な い こ とを補 足説

明 した(実 際 に,バ ー は体 重 をか け られ るほ どの強度

は持 た ない ので その よ うな行為 は行 えない).

被 験者 は,個 別 に実験 に参加 した. 1セ ッ トあた りに

提示 す るバ ーの高 さは, 55cmか ら105cmの 範 囲 で,

5cm間 隔 とした.バ ー の高 さ を操作 して い る ときは,

被験 者 に 目 を閉 じてい て もらった.実 験 中,被 験 者 は

実験 者 を含 む他 の人 を見 る ことはなか った.バ ー の高

さの提 示順 序 は ラン ダマ イズ し, 1人 の被 験 者 に対 し

て5セ ッ ト(計55試 行)を 連 続的 に行 った.フ ィー ド

バ ック は行 わ なか った.実 験 は, 1人 につ き約30分 で

終 了 した.

実験 終 了後,身 長(H),被 験者 の股 下高(L),つ ま先

立 ちを した ときの股 下 高(Lmax),目 の高 さ(E)を 測 定

した.一 回の 実験 に ついて,提 示 した高 さそれ ぞれ に

つ いて5つ の回答値 が得 られた.そ れ らの値 か ら,“ ま

た ぐ”“くぐる”それ ぞれ につ いて の,高 さご との回答

率が 計算 された.

結 果

実 験終 了後 に測 定 した被験 者 の 身体 計 測値 をTable

1に 示 す.

長 身群(Tall)・ 短 身群(Shirt)の,バ ー の各 提示 高

で の “また ぐ-く ぐる”の判 断率 の変 化 をFlgure 1に 示

した.

バ ー の 提 示 範 囲 の う ち,長 身 群(Tall)・ 短 身 群

(Short)共 に “また ぐ-く ぐる”の判 断率 が,連 続 して

100%も し くは0%に 飽 和 して い る部 分(55, 100, 105

3 パ ーセ ンタイル順位 は,“体 力 ・運 動能力調査報告書”(文 部

省体育局, 1988)の20歳 男子のデー タをも とに換算 した.

472  心 理 学 研 究 第64巻  第6号

cm)を 除 いて,“ グルー プ(被 験者 間配 置)× バ ー の高

さ(被 験者 内配 置)”の分 散分 析 を行 った. Figume 1よ

り,長 身群(Tall)と 短 身群(Short)の チ ャー トは相

似 形 であ り,そ れ ぞれ横 軸 につ いて平 行移 動 した よう

な形 にな って い る ことが わ か るが,分 散 分析 の結果 か

らも,グ ル ー プに よ り主効 果 が有 意(F(1,12)=7.951,

p<.05),バ ー の高 さに よる主効 果が有 意(F(9,108)=

52.143, p<.01),バ ー の高 さ とグル ー プの一 次 の交互

作 用 が有 意(F(9,108)=3.079, p<.01)で あ った.短

身群 に比 べ て,長 身群 の “また ぐ-く ぐる”の転換 点 が

よ り高 い こ とが示 され た.

Table 1

Anthropometric data for the two groups

a) N=7 for each group .b) standing height (stature) .C) leg length (crotch height).

d) leg length with standing on tiptoe .e) standing eye height (pupillary height)

Figure 1. Mean percentage of judgements as a fundtion of bar height.

Figure 1は,長 身群 と短 身群 にお け る“また ぐ-く ぐ

る”の判 断率 の変化 を,バ ーの高 さ(cm)を 単位 とした

軸 に描 い た グラ フで あるが,こ れ らを身体 を参 照 した

単 位(π 数)を 軸 として描 き直 した のがFignre 2で あ

る. Figure 2で は,長 身群 と短 身群 の グ ラフが ほぼ相

似形 で重 な りあ って い る.

Figure 2. Mean percentage ofjudgements as a function of bar height to leg length (B/L) ratio.

さ らに,長 身群 と短 身群 にお ける “また ぐ-く ぐる”

の 転換 点 の平 均値 を,バ ー の高 さ を基 準 に し た もの

(switching bar height)と,自 己 の身体 を内包 した π数

を基 準 に した もの(switching B/L)の それ ぞれ につ い

て算 出 した(Table 2).当 該 の行為 に使 用 す る部 位 が

三 嶋:“ ま た ぎ ” と “く ぐ り” の ア フ ォ ー ダ ン ス知 覚  473

知覚 の基 準 となる と考 え られ る(Mark, 1987)た め,

こ こで は,脚 の長 さ を分析 の基 準 として用 いて い る.

Table 2Means and standard deviations of switching bar height

and switching B/L ratios for the two groups

a) N=7 for each group.

b) B /L=bar height to leg length ratio.

t検 定 を 行 っ た 結 果, Switching bar heightに お い て,

2群 の 差 は有 意(t(12)=3.00, p<.05)で あ っ た.ま た,

Switching. B/Lに お い て は,有 意 な 差 は 認 め ら れ な か

っ た(t(12)=-.115, ns).よ っ て,“ ま た ぐ-く ぐ る”

の 行 為 の転 換 点 は,身 長 の 高 低 に か か わ ら ず

B/L=1.07(SD=.106L)  (3)

で あ る と 言 え る(B/L=1.07は 長 身 群 と短 身 群 の

Switching B/Lを 平 均 し た値 で あ る).こ れ は 実 際 の 脚

の 長 さ(L)よ り も大 き い 値 で あ る が,

B/Lmax(=.98)<L<B/L(=1.07)<Lmax/L(=1.09)

 (4)

で あ り,つ ま さ き立 ち を す れ ば “ま た ぐ” こ との で き

る 値 で あ る た め,妥 当 と見 な せ る.

考 察

実験 の結 果,床 面 に対 して水 平 に位 置 す る障 害 を“また ぐ” こ とに よ

っ て よけ るか,“ く ぐる” こ とに よ

って よ けるか の判 断は,障 害 の高 さが 脚 の長 さ に対 し

て1,07倍 とな る とき視 知 覚 的転 換 をむ か え,な お か

つ,そ れが 身長 の高低 に関係 な く不 変 で あ る ことが 示

された.こ の とき,障 害 の高 さの脚 の長 さ に対 す る比

とは,環 境 につ い ての情報 と自己 につ い ての情報 とを

共 に内包 した値 で あ り,こ の ような アフ ォー ダ ンスの

代表値 としての π数 の知 覚研 究 にお ける重 要 性が,一

連 の 先 行 研 究(Carello et al., 1989; Mark, 1987;

Mark et al., 1990; Warren, 1984; Warren & Whang,

1987)と と もに実 証 され た.

短 身群 と長 身群 で は,障 害物 の “見 え” は異 な る.

それ はす な わち,自 己の 身体 の情 報 が光 学 的情 報 の 中

に埋 め込 まれ て い る とい う こ とで あ り,換 言 す れ ば,

環 境 につ い ての情報 と自己 につい ての情 報 を共 に知覚

して い る とい うこ と,さ らに進 んで 言 え ば,こ れ ら二

重 の情 報 に よって織 りな され た “行 為 の可能性 ” を知

覚 して い る とい うこ とで あ る.本 実験 にお い て,被 験

者 の脚 の長 さの 数値 を 目の高 さの 数値 に置 き換 えた

場合,“ また ぐ” と “くぐる” の転 換 点 は,長 身群 に

お い てB/E=0.519 (SD=0,040E),短 身群 に お い て

B/E=0.512 (SD=0.056E)で あ り,脚 の長 さ を用 い た

とき とほぼ 同様 の傾 向が み られた(t(12)=0.273, ns) .

この結 果 は,知 覚 者が 自己の行 為遂 行能 力,よ り直接

的 には 自分 の脚 の長 さの情 報 を内包 す る“環境 の見 え”

を利用 して い る可 能性 を示 唆 す る.

知覚 が質 的 に,す なわ ちカ テ ゴ リカ ル に変 化 す るあ

る固有 の値 の存 在 は,知 覚 が単 な る物 理 量 の検 出で は

な く,価 値 や 意味,す なわ ち行 為 の可能 性 を含 む もの

で ある こ とを示唆 す る.こ れ は知 覚 が行 為志 向的 で あ

る こ とを意 味 し,知 覚 が そ もそ も能 動的 で あ る ことを

示 す. Gibson (1966, 1979)は この ような知覚 を,そ

れ と連 続 した 自己 の行為 を も包括 した “知 覚 系” とい

う システ ム によ って達成 され る もの として再定 義 した

が,こ の概 念 は知覚 を “感覚 入力 に対 す る推論 や知 識

との照合 な どの何 らか の心 的操作 の結 果 ”で あ る とす

る伝 統 的 な知覚 理論 と対 立 す る.本 実 験 の結果 は,視

覚 的 な情 報 の 中 に埋 め込 まれた行 為 の可能 性 の直接 的

な知 覚 を支 持 す る もの であ り,ま た,環 境 が行 為 をユ

ニ ッ トとして分 節化 してい る こ とを示 唆 す る.

また,π 数B/L=1.07 (SD=.106L)≒1の 結 果 が 示

す よ うに,“ また ぐ” と “くぐる”とい う二 つ の可能 な

行為 が設 定 され た場面 で は,“ また ぐ”とい うよ り適 応

的 な行為 の ユニ ッ トに関 す るア フ ォー ダ ンスが 有効 と

な る よ うで あ る.し か し,こ こで の標 準 偏 差(SD=

.106L)はMark (1987)ら の実験 で得 られた “座 る こ

とので きる高 さ”の標 準 偏差(SD=.002L,)と 比較 して

大 きな もの とな って い る.こ れ は二 つ の可能 な行 為 が

重 な り合 っ た 場 面 で の 知 覚 的 な “躊 躇(Reed &

Schoenherr, 1992)” と言 え る もの で はな いだ ろ うか .

通 常,躊 躇 の よ うな ス リップない しエ ラー と呼 ばれ る

もの は,注 意(attention)の 低下 よって行 為 の生成 の レ

ベ ル で生起 す る もの として考 え られ て い る(Norman ,

1981).知 覚 レベ ルで の躊躇 の生 起 は,本 質 的 に(行 為

者 と相 補 的 な)環 境 の 情報 が行 為 の転換 を “ア フ ォー

ド” して い る とい う主 張 を導 く.

と ころで,こ の ような ア フォー ダ ンス は,静 的 な観

察 によ って充 分 に知 覚 され得 るのだ ろうか.静 的 な観

察 によ って得 られ る情報 は,環 境 と行 為者 の幾 何 学的

関係 に制約 ・ガ イ ドされ る行 為 の可能 性 につ い ての情

報 で あ り,運 動 力学 的 な もので は ない.本 実験 で得 ら

れ たB/L=1.07 (B/Lmax=0.98)の 値 は,身 体 の幾 何

学 的特徴 か らみて また ぐこ との で きる ほぼ最大 値 で あ

り,実 際 に障害 を また ぎ越 す場合 は,よ り小 さい値 に

なる と考 え られ る.静 的条件 におい て,実 際 に行為 し

474  心 理 学 研 究 第64巻  第6号

た場合 の限 界 よ りもむ しろ,身 体 の幾 何学 的特徴 に よ

る 行 為 の 限 界 を知 覚 す る傾 向 は,他 の 同 様 な 実 験

(Warren, 1984; Warren & Whang, 1987)で も見 られ

る.し か しなが ら,こ れ は 固定的 な もの では な く実験

計 画上 の特 性 であ り,む しろ知覚者 は身体 の 自由度 な

どの制約(本 実験 にお いて は足 首 の 自由度や 障害 を“飛

び越 え る”可 能性)に 敏 感 で あ る(Carello et al., 1989)

ことを示す と考 えるのが 妥 当 と思 われ る.よ り動的 な

条件 にお け るア フォー ダ ンス知 覚 の考察 は,そ れ に適

した計 画 に よる実験 が必 要 であ るが,本 実験 の結 果 か

らも身体 と環境 の幾何 学 的関 係が,動 的 な状 況 での 適

応 的 な行 為 を保証 す る情 報 にな ってい る こ とが読 み取

れ る.本 実験 で は π数B/L=1.07 (SD=.106L)の 結 果

を得 た が,そ れ は統計 的 な値 で あ り,実 際 に はそ こに

個人 差 も埋 め込 まれ て い る.知 覚 が行為 と切 り離 され

ていた とす れ ば,π 数 が1.07か ら大 き く外 れた人 に と

って は実際 の行為 遂行 の上 で 問題 となる.そ の ような

人 は,実 際 に は また げ ない障 害 を また こう とした り,

く ぐれ な い障 害 を くぐ ろ う とした りす る こ とに な ろ

う.し か し,実 際の行 為 の遂行 場面 で その ような こ と

が起 こる とは考 え に くい.実 際 の行 為場 面 で は,行 為

の 中で よ り多 くの情報,す なわ ち環 境 と行為 者 の運 動

力学 的 関係 を含 む情報 が抽 出 され,そ の結果,障 害 の

回避 行為 は本 実験 で の π数 の標準 偏差(.106L)が 示 す

ところ よ りも適応 的 となる はずで あ る.ア フ ォーダ ン

スは,そ れ 自体,行 為 につい ての予 期 を含 んで お り,

行為 と連 続 して い る.行 為 の 中で の知覚 は,よ り多 く

の有 効 な情報 を環 境 か ら ピックア ップ し,こ の よ うな

知覚 系 は環境 に同調 的で あ る と考 え られ る.

要 約

長 身群7人,短 身群7人 の2群 の被験 者 に対 して,

眼前7mに,高 さ55cmか ら105cmの 問 で上 下 す る

バ ー を提 示 し,そ れ を “また ぐ” のが良 い か,“ くぐ

る” の が良 いか判 断 を求 めた。

実 験 の結果,“ また ぐ”と “くぐる”の知 覚 的境界 は,

バ ーの高 さを基準 に した場 合 には2群 で有意 に差 が見

られたが,バ ー の高 さ を被 験者 の脚 の長 さで割 った値

(pi-number)を 基 準 に した場合 には2群 に差 は見 られ

な か った.

これ らの結 果か ら,長 身群 と短 身群 は と もに,自 己

の脚 の長 さの1,07倍 の高 さ にあ る棒 を “また ぎ行 為”

と “くぐ り行 為” の知 覚 的境界 と して お り,行 為 者 は

自己の行 為遂 行能 力 を参照 した適応 的 な情 報,す な わ

ち,ア フ ォーダ ンス を知覚 してい る こ とが示 され た.

この こ とは また,環 境 自体 が行 為 をユニ ッ トと して分

節化 してい る こ とを示 唆 す る.

引 用 文 献

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