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P29 船舶操縦性予測モデルの標準化に関する研究委員会 報告書 平成24年3月

P29 船舶操縦性予測モデルの標準化に関する研究委 …6.操縦流体力係数のデータベース 80 6.1 九大データの整理式[古川] 80 6.2 中速商船・漁船船型の操縦流体力データベースと操縦運動の一推定法[芳村]

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P29 船舶操縦性予測モデルの標準化に関する研究委員会

報告書

平成24年3月

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委員名簿

氏 名 勤務先

委員長 安川 宏紀 広島大学大学院工学研究院

幹事 田中 進 広島大学大学院工学研究院

委員 芳村 康男 北海道大学大学院水産学研究科

委員 石橋 篤 東京海洋大学海洋工学部

委員 長谷川和彦 大阪大学大学院工学研究科

委員 片山 徹 大阪府立大学大学院工学研究科

委員 小林 英一 神戸大学海事科学部

委員 土岐 直二 愛媛大学大学院理工学研究科

委員 平田 法隆 広島大学大学院工学研究院

委員 古川 芳孝 九州大学大学院工学研究院

委員 寺田 大介 広島商船高等専門学校商船学科

委員 三好 潤 水産総合研究センター水産工学研究所

委員 岸本 隆 三井造船昭島研究所

委員 金子 唯明 IHI-MU 基本設計部 流力性能グループ

委員 大森 拓也 IHI 技術開発本部 船舶海洋技術開発部

委員 山下 力蔵 住友重機械マリンエンジニアリング営業開発本部性能開発 G

委員 牧野 功治 ユニバーサル造船 技術研究所 流体研究室

委員 一瀬 哲也 今治造船株式会社 丸亀事業本部 造船設計グループ

委員 黒岩 良太 三菱重工業長崎研究所

委員 宮崎 英樹 海上技術安全研究所流体性能評価系運動性能研究グループ

委員 橋詰 泰久 西日本流体技研

注:勤務先は,本委員会開始時のものである。

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活動記録

回 期日 場所 出席者数 発表等件数

1 2010.7.28-29 広島大学 15名 11件

2 2010.11.17-18 九州大学 15名 14件

3 2010.3.17-18 大阪大学 18名 14件

4 2011.6.28-29 北海道大学 19名 14件

5 2011.11.28-29 海上技術安全研究所 15名 15件

6 2012.3.29-30 広島大学 16名 13件

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目 次

1.緒 言[安川] 1

2.船の操縦運動の数学モデル 2

2.1 基礎となる考え方[安川] 2

2.2 運動方程式と流体力の数学モデル[安川] 2

2.3 操縦運動シミュレーション計算に必要なデータの整理[安川] 7

2.4 実施すべき水槽試験と流体力係数の決定法:CMT をベースとする場合[安川] 9

2.5 実施すべき水槽試験と流体力係数の決定法:PMM をベースとする場合[橋詰] 14

2.6 補遺 26

2.6.1 非線形流体力係数の座標変換[土岐] 26

2.6.2 舵増速モデルの誘導[土岐] 30

2.6.3 流体力計測上の留意点[芳村] 35

3.流体力の数学モデルの検証 42

3.1 CFD を用いた船体と舵間の相互干渉影響の研究[福井] 42

3.2 バラスト時の舵直圧力[芳村] 50

3.3 バラスト状態における舵直圧力の水槽試験結果[安川] 58

3.4 操縦運動時の船体・舵干渉係数について[安川] 61

4.CMT をベースとした操縦運動シミュレーション計算例 64

4.1 KVLCC2 を対象とした水槽試験結果[安川] 64

4.2 解析[安川] 67

4.3 シミュレーション計算[安川] 70

5.PMM をベースとした操縦運動調査例 76

5.1 回流水槽における PMM 試験例[橋詰] 76

5.2 試験結果[橋詰] 78

6.操縦流体力係数のデータベース 80

6.1 九大データの整理式[古川] 80

6.2 中速商船・漁船船型の操縦流体力データベースと操縦運動の一推定法[芳村] 89

7.結 言[安川] 104

注:[ ]は筆者(敬称略)を意味する。

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1.緒 言

船の操縦運動予測モデルは,日本独自の MMG モデルと呼ばれるものがベースとなっている。し

かしながら,詳細を見ると,各大学や機関で微妙に異なっているのが実状である。その結果,計

算に必要な流体力係数の定義が異なる場合があり,論文等で公表された流体力係数等のデータが,

他の機関ではそのままでは使用できないという問題が生じている。操縦運動研究の効率良い発展

を促すためには,我が国における船舶操縦運動予測モデルの標準化を行う必要があると考えられ

る。そこで,本研究委員会では,産官学が集まり,船の操縦運動予測に関する標準モデルを策定

し,あわせて水槽試験による流体力係数を決定する方法や流体力データベースの考え方について

の標準化を行うとともに,流体力係数決定のための手順書の整備を行うことを目的とした。

国際水槽試験会議(ITTC)では,標準的な操縦運動予測モデルや水槽試験に関する手順書

(procedure)が作成されている。ただそれらは,既に古くなっていたりして,国内では使われな

い場合が多い。本研究委員会の活動は,ITTC の活動を先取りし,我が国独自の操縦運動予測モ

デルの策定,関連した水槽試験の手順書作成等を行うものと見ることもできる。

本活動の意義は,操縦運動予測モデルの標準化を行うことにより,流体力係数等の各種データ

の融通性が向上し,我が国の操縦運動研究の効率良い発展を促す点にある。現時点では最も進ん

でいると考えられる我が国操縦性予測技術を一層強固にできると考えている。

本研究委員会では,国内造船所,大学,研究所等における関係者が定期的に集まり,その都度

タスクを決め,その成果をもとに議論しながら,次を実施した。

1. 現在我が国にいくつか存在する操縦運動予測モデルの整理統合を行い,我が国独自の

標準モデルを策定する。

2. 策定された標準モデルに従い,旋回運動試験(CMT)等をベースとした流体力係数を決定

する手順書を作成する。

3. この手順書に従い,既発表の流体力係数の再解析を行い,新しい流体力係数のデータ

ベースを作成する。

以下に成果を報告する。

1

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2 船の操縦運動の数学モデル

基礎となる 1軸 1舵船の操縦運動を表す運動方程式と船に作用する流体力の数学モデルについて述べる。

2.1 基礎となる考え方

特徴は,船のミドシップ位置に原点をとった座標系を用いることにある。船の運動を考えるとき,船の

重心を原点にとった座標系で考えることが多い。それは,運動方程式は重心位置もしくは重心位置まわり

で考える必要があるからである。一方,船に作用する流体力を考えるとき,船のミドシップ位置で考える

方が便利なことが多い。例えば,載荷状態を変化させて流体力を計測するとき,載荷状態によって船の重

心 (浮心)位置が変化するため,検力計の位置を載荷状態毎に変えるのは面倒である。ミドシップ位置をベースにするとそのような煩雑さが無くなる。また,得られた流体力特性を整理するときも,ミドシップ

位置で計測されたデータの方が,着力点を表すパラメータ等でまとまりがよいことが期待される。このよ

うな観点から,ミドシップベースの座標系の下で考えることとする。

数学モデルを考えるにあたり,次のような基礎仮定を設ける。

• 船は剛体として取り扱う。

• 流体力は,準定常的に取り扱える。

• 前進速度を有する操縦運動を考える。離着桟運動 (その場旋回や横移動等)やプロペラ逆転停止運動は取り扱わない。

• 船速は比較的遅い 1軸 1舵船とする (滑走するような高速艇は対象としない)。

• GM が比較的大きく,船体横傾斜の影響は無視できるものとする。

• 舵角やプロペラ回転数は与えられるとする。トルクリッチは考えない。

• 船のミドシップをベースとした座標系で考える。

2.2 運動方程式と流体力の数学モデル

2.2.1 座標系

Fig.1に示したような船のミドシップ位置に固定された座標系 o − xyz を考える。船のミドシップ位置

oに原点を一致させ,船の前方に x軸方向を,船体横方向に y軸をとる。空間に対し鉛直下向きに z軸を

とる。従って,x − y 平面は静水面に対し平行となる。一方,空間に固定された座標系 o0 − x0y0z0 を考

える。x0 − y0平面を静水面に一致させ,z0軸を鉛直下方にとる。x0軸に対し x軸の成す角度を方位角と

し,ψと表す。また,Fig.1に示すように,舵角を δ,ミドシップ位置での斜航角を β とする。

2.2.2 運動方程式

静水面上における船の操縦運動 (surge, sway, yawに関する運動)に関する解くべき運動方程式は次のように表される。

m(u− vr) = Fx

m(v + ur) = Fy

IzG r = Mz

⎫⎪⎪⎪⎬⎪⎪⎪⎭

(1)

2

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o

U

u

xx

y

y

-vmβ

ψδ

r

0

0

o0

Fig.1: 座標系

ここで,mは船の質量,IzG は重心周りの慣性モーメントである。Fx, Fy は船に働く前後力と横力,Mz

は重心まわりの回頭モーメントである。式中 ˙ は時間に関する常微分を意味する。未知数は,前進速度成分 u,横方向速度成分 v,回頭角速度 rの 3つである。この 3つは船の重心位置で定義される値であることに注意が必要である。

ここで,船のミドシップ位置における速度成分を考える。その場合,uと rには変化は見られない。し

かし,横方向速度成分はミドシップ位置と重心位置では値が異なり,次のような関係がある。

vm = v − xGr (2)

ここで,vm はミドシップ位置での横方向速度成分,xG は浮心の長さ方向位置座標である (ミドシップよりも前方が正)。そのときのミドシップ位置での斜航角 β は次式で表される。

β = tan−1

(−vm

u

)(3)

また,合成された速度 U は,次で定義される。

U =√u2 + v2

m (4)

(1)式において,(2)を用いて vを消去して,vm に関する運動方程式に変換すると次式が得られる。

m(u− vmr − xGr2) = Fx

m(vm + xGr + ur) = Fy

IzG r = Mz

⎫⎪⎪⎪⎬⎪⎪⎪⎭

(5)

ここで,Fx, Fy,Mz は CMT(Circular Motion Test)で計測できる流体力成分を用いて表示することを考える。また,付加質量の vと rの連成項は小さいとして無視すると,Fx, Fy, Mz は次のように表される。

Fx = −mxu+myvmr +X

Fy = −myvm −mxur+ Y

Mz = −Jz r +Nm − xG(Y −myvm −mxur)

⎫⎪⎪⎪⎬⎪⎪⎪⎭

(6)

3

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ここで,mx, my は x方向ならびに y方向の付加質量,Jz はミドシップまわりの付加慣性モーメントであ

る。(6)式右辺のX , Y , Nmはそれぞれ付加質量成分を除く,前進力, 横力, ミドシップまわりの回頭モーメントである。

以上をまとめると次のようになる。

(m+mx)u − (m+my)vmr − xGmr2 = X

(m+my)vm + (m+mx)ur + xGmr = Y

(IzG + x2Gm+ Jz)r + xGm(vm + ur) = Nm

⎫⎪⎪⎪⎬⎪⎪⎪⎭

(7)

なお,上式の最後の式は,次のようにも表すことができる。

(IzG + Jz)r − xG(my vm +mxur) = Nm − xGY (8)

これらが基礎となる運動方程式である。

X,Y,Nmは次の形で表す。

X = XH +XR +XP

Y = YH + YR

Nm = NH +NR

⎫⎪⎪⎪⎬⎪⎪⎪⎭

(9)

添え字H,R, P はそれぞれ船体,舵,プロペラを意味する。それらは,水槽試験で計測された船体ミドシッ

プ位置における流体力特性を使用して表示する。

2.2.3 主船体に働く流体力

主船体に作用する流体力は,次のように表示する。

XH = (1/2)ρLdU 2 X ′H(v′m, r

′)

YH = (1/2)ρLdU 2 Y ′H(v′m, r

′)

NH = (1/2)ρL2dU2 N ′H(v′m, r′)

⎫⎪⎪⎪⎬⎪⎪⎪⎭

(10)

式中,ρは水の密度,Lは船長,dは喫水,U は船速である。r′は無次元回頭角速度 (r′ ≡ rL/U )である。X ′

H , Y ′H , N ′

H は次のように表す。

X ′H(v′m, r

′) = X ′0 +X ′

vvv′2m +X ′

vrv′mr

′ +X ′rrr

′2 +X ′vvvvv

′4m

Y ′H(v′m, r

′) = Y ′0 + Y ′

vv′m + Y ′

rr′ + Y ′

vvvv′3m + Y ′

vvrv′2mr

′ + Y ′vrrv

′mr

′2 + Y ′rrrr

′3

N ′H(v′m, r

′) = N ′0 +N ′

vv′m +N ′

rr′ +N ′

vvvv′3m +N ′

vvrv′2mr

′ +N ′vrrv

′mr

′2 +N ′rrrr

′3

⎫⎪⎪⎪⎬⎪⎪⎪⎭

(11)

式中,X ′0は直進時の抵抗係数,Y

′0 , N ′

0は定常的な横力と回頭モーメント係数,X′vv, Y ′

v , N ′v 等は操縦流

体力微係数である。

直進航行時の船体抵抗の表記については,3次元外挿法を用いる。3次元外挿法では,相当平板の摩擦抵抗式 Cf に,形状影響係数K,造波抵抗係数 rW を用いて,次式で計算する。

X0 = −(1/2)ρ∇2/3u2[{Cf (1 +K) +ΔCf}S/∇2/3 + CW

]Cf = 0.4635 (log10Re)

−2.6

⎫⎬⎭ (12)

ここで,∇は船の排水容積,S は船の浸水面積,Reはレイノルズ数である。CW は∇2/3をベースに無次

元されており,通常水線長 Lwl をベースとしたフルード数によって整理される。ΔCf は粗度修正係数で

ある。上に示した Cf の式は,シェンヘルの式の簡易版である。

4

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2.2.4 プロペラによる流体力

プロペラによる流体力は次のように表す。

XP = (1 − t)T (13)

tは推力減少率である。そのとき,プロペラが発生する推力 T は次式で表される。

T = ρn2PD

4P KT (JP ) (14)

ここで,DP はプロペラ直径である。プロペラ推力の単独特性KT は次式で表す。

KT (JP ) = k2J2P + k1JP + k0 (15)

ただし,k2, k1, k0はプロペラ推力の単独特性を表す係数である。プロペラに関する前進係数 JP は次式で

表す。

JP =u(1 − wP )nPDP

(16)

式中の wP は有効伴流率であり,プロペラ位置での操縦運動による幾何学的な流入角 βP (≡ β− �′P r′)の関

数として (ただし,�′P は船長 Lで無次元化されたプロペラの前後位置座標),例えば,次のように表す [1]。

wP = wP0 exp(C0β

2P

)(17)

ここで,wP0は直進時の有効伴流率, C0は特性を表す実験定数である。広島大学では,(17)式を用いることが多いが,種々の表示方法が提案されている。

2.2.5 舵による流体力

操舵によって発生する流体力XR, YR, NRは具体的に次のように表す。

XR = −(1 − tR)FN sin δ

YR = −(1 + aH)FN cos δ

NR = −(xR + aHxH)FN cos δ

⎫⎪⎪⎪⎬⎪⎪⎪⎭

(18)

ここで,tR, aH , xH は船体と舵の干渉を表す係数であり,船体・舵干渉係数と呼ぶ。FN は次のように表

される。

FN = (1/2)ρAR U2R fα sinαR (19)

式中,ARは舵面積,fαは舵の舵直圧力勾配係数である。URは舵への流入速度,αRは舵への流入角であ

る。そのとき,URと αR は次式で表される。

UR =√u2

R + v2R (20)

αR = δ − tan−1

(vR

uR

)� δ − vR

uR(21)

uR は舵に流入する速度成分,vR はプロペラ後流中での横方向速度成分である。vR は舵位置での船の操

縦運動による幾何学的な流入角 βR(≡ β − �′Rr′,ただし �′Rは船長 Lで無次元化された舵の前後位置座標)

に整流効果を表す係数 γRを導入した式で表す。

vR = U γR βR (22)

5

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γR は右舷側と左舷側で異なる値をとることが多く,その結果,左右での旋回運動に違いが生じることに

なる。uRは次式を用いる。

uR = ε u(1 − wP )

√√√√η

{1 + κ

(√1 +

8KT

πJ2P

− 1

)}2

+ (1 − η) (23)

εは舵位置とプロペラ位置での伴流係数の比を意味する。κは実験定数,ηはプロペラ直径 (DP )と舵高さ(HR)の比 (= DP /HR)である。

2.2.6 船体固定系と空間固定系における速度成分の関係式

先に述べた運動方程式を解いて u, v, rが求まったとしても,船の位置や方位が得られたわけではない。

それらは空間固定系に対する値として求める必要がある。船体固定系重心位置における速度成分と空間固

定系における速度成分との関係は次のように表される。

dx0

dt= u cosψ − v sinψ (24)

dy0dt

= u sinψ + v cosψ (25)

これに dψ/dt = rという微分方程式を加えて,x0, y0, ψに関する式がそろうことになる。

なお,ミドシップ位置における航跡を考えるときには,次のような関係となる。

dx0

dt= u cosψ − vm sinψ (26)

dy0dt

= u sinψ + vm cosψ (27)

6

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2.3 操縦運動シミュレーション計算に必要なデータの整理

操縦運動シミュレーション計算に必要なデータを整理する。Table 5に示した項目は拘束模型試験によって決定することができる。その具体的な方法を次節以降に述べて行く。

Table 1: 船の主要目と付加質量項目 単位 備考

垂線間長 L m

幅 B m

平均喫水 d m

船の質量 m kg 船の排水量から求めることができる。

浮心位置 xG m ミドシップよりも前方を正

慣性モーメント IzG kg· m2 慣動半径を与えて決める。

長さ方向の付加質量 mx kg 元良チャートもしくは理論計算で。

横方向の付加質量 my kg 元良チャートもしくは理論計算で。

付加慣性モーメント Jz kg· m2 元良チャートもしくは理論計算で。

Table 2: 船の抵抗推進性能関連項目 単位 備考

水線長 Lwl m

浸水面積 S m2

排水容積 ∇ m3

粗度修正係数 ΔCf –

造波抵抗係数 rW – 抵抗試験結果より

形状影響係数 K – 抵抗試験結果より

推力減少率 t – 自航試験結果より

直進時の有効伴流率 wP0 – 自航試験結果より

Table 3: プロペラ関連項目 単位 備考

プロペラ直径 DP m

プロペラ推力のオープン特性 k0, k1, k2 –

プロペラの長さ方向位置 �P m

7

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Table 4: 舵関連項目 単位 備考

舵スパン長 HR m

舵面積 AR m2 マリナー舵の場合は可動部だけの値 [2]

舵アスペクト比 Λ – マリナー舵の場合はホーンを含めた全面積 [2]

舵直圧力勾配係数 fα – 藤井の式 [3](6.13Λ/(2.25 + Λ))を使用

プロペラ直径・舵高さ比 η – DP /HRで計算

Table 5: 流体力微係数項目 単位 備考

船体・舵干渉係数 tR, aH , x′H –

微係数 X ′vv, X

′vr, X

′rr, X

′vvvv –

微係数 Y ′v , Y

′r , Y

′vvv, Y

′vvr, Y

′vrr, Y

′rrr –

微係数 N ′v, N

′r, N

′vvv, N

′vvr, N

′vrr, N

′rrr –

運動時の有効伴流率の係数 C0 –

舵への流入速度関連 ε, κ –

整流係数関連 γR, �′R –

Table 6: その他項目 単位 備考

運動初期値 (u, v, r) m, m, rad/s

位置,方位初期値 (X0, Y0, ψ) m, m, rad

舵角 (δ) rad 舵角変化として入力

プロペラ回転数 (nP ) rps

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2.4 実施すべき水槽試験と流体力係数の決定法:CMTをベースとする場合

数学モデルにおける流体力微係数を求めるために実施する拘束模型試験の概要を述べる。

2.4.1 試験の種類

模型船には,プロペラ,舵を装着する。プロペラは回転させた状態で試験を実施する。船の設定船速 U0

を決め,船速 U0 のシップポイントもしくはモデルポイントにおけるプロペラ回転数 nP を定める。この

プロペラ回転数 nP でプロペラを回転させた状態で試験を実施する。計測時,船のトリムとシンケージは

フリーとすることを原則とする。

本船の抵抗,自航性能,ならびに使用するプロペラのオープン特性は既知とする。それを踏まえて,次

の試験を実施する。

(1)荷重度変更直進時操舵試験(2)斜航試験,旋回運動試験 (Circular Motion Test; CMT)(3)斜航・旋回運動時操舵試験 (整流係数試験)

荷重度変更直進時操舵試験は,操舵した状態で模型船を直進航行させ,そのときの流体力を計測するも

のである。これにより,船体舵干渉係数 (tR, aH , x′H)や舵位置での前後方向速度成分を計算するための κ

や εを求めることができる。プロペラ荷重度を変更する方法として,具体的には,

• プロペラ回転数一定のまま,船速を変更する

• 船速を一定のまま,プロペラ回転数を変更する

の 2つが考えられるが,旋回運動を想定するとき前者の方が望ましいように思われる。なお,シップポイント,モデルポイントのどちらにもカバーできるように,幅広くプロペラ荷重度を設定しておくことが望

ましい。広島大学では,シップポイントをベースに試験を実施することとしており,そのとき船速 (U)はU0, 0.85U0, 0.7U0の 3種類変更させる。そして,それぞれにおいて,舵角を −35deg~35degの間を 5degピッチで変化させて計測を行っている。

斜航試験ならびに CMTは,船体斜航状態もしくは定常旋回状態において,模型船に作用する流体力を計測するものである。舵角はゼロとする。これにより,操縦運動時の船に作用する流体力特性やプロペラ

位置伴流率を求めることができる。具体的には,斜航試験では,ミドシップ位置における船体斜航角 βを

−20deg~20degまで 5degピッチ程度で変化させる。CMTでは,βを適宜付けながら,r′を−0.8~0.8まで 0.2ピッチ程度で変化させる。β や r′の取りうる範囲や大きさについては,対象とする船の操縦運動を予測して決定する。プロペラ位置伴流率は推力一致法にて求める。

斜航・旋回運動時操舵試験 (整流係数試験)は,斜航,旋回状態において舵角を種々変更させ,模型船に作用する流体力を計測するものである。計測結果から,舵直圧力の総和がゼロとなる舵角 (δFN0)とその舵角まわりの舵角に対する舵直圧力の傾斜を求め,それらの結果から舵位置での流入速度成分を求める。

2.4.2 計測項目

必要な計測項目は次の通りである。

• 船に作用する前後力,横力,ミドシップまわりの回頭モーメント (X , Y , Nm)

• 舵直圧力 (FN )

• プロペラ推力 (T )

9

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船速 (U),プロペラ回転数 (nP ),舵角 (δ),ミドシップ位置の船体斜航角 (β),回頭角速度 (r)は,水槽試験時にそれら諸量を計測して取り扱うことが望ましい。必要があれば,プロペラトルク,舵抵抗,舵トル

ク等の計測を追加する。

2.4.3 無次元化

計測された諸量については,力は (1/2)ρLdU 2で,モーメントは (1/2)ρL2dU2で割って無次元化する。

Lは垂線間長,dは平均喫水である。また,速度成分は U で,長さ成分は Lで割って無次元化する。′の付いた記号は,無次元化された値であることを意味する。

次に,実施された拘束模型試験結果を用いて,数学モデルにおける流体力係数を決定する方法を具体的

に述べる。

2.4.4 船体・舵干渉係数の決定法

荷重度変更直進時操舵試験結果を用いて,tR, aH , x′H を決定する。直進航行状態での試験であるので,β = r′ = 0であり,船体横力 (YH)や回頭モーメント (NH)はゼロのはずである。従って,次の関係式が成り立つ。

X ′ = X ′0 + (1 − t)T ′ − (1 − tR)F ′

N sin δ

Y ′ = −(1 + aH)F ′N cos δ

N ′m = −(x′R + aHx

′H)F ′

N cos δ

⎫⎪⎪⎪⎬⎪⎪⎪⎭

(28)

X ′, Y ′, N ′m, T

′, F ′N は計測値であり,既知となる。上の式から,次のことが分かる。

• X ′0は舵角とは無関係であり (X ′

0は主船体部の抵抗係数,舵抵抗は含まない),また (1− t)T ′も舵角には無関係と仮定する。すると,−F ′

N sin δに対するX ′の傾きが 1− tRとなる。実際には,舵角が

付くと T ′は増加する傾向があるが,その影響は tRが代表することになる。tRは操舵による舵抵抗

減少ならびにプロペラ推力の増加を表す係数という意味となる。

• −F ′N cos δに対する Y ′の傾きが 1 + aH である。aH は舵直圧力成分による横力に対する船に作用す

る横力の増加率を意味する。

• −F ′N cos δに対するN ′

mの傾きが x′R + aHx′H である。なお,x

′R = −0.5とする。x′H は横力増加成

分の着力点を意味する。

多くの計測例によると,それぞれの傾きは線形式として近似できることが分かっている。すなわち,ある

プロペラ荷重度に対して,tR, aH , x′H はほぼ定数とみなすことができる。なお,一般に,荷重度が増加す

ると,aH は小さくなり,x′H の絶対値も小さくなる。実際には,tR, aH , x′H は操縦運動 (β, r′)とともに変

化する可能性があるが,その影響はあまり大きくないようである。

2.4.5 操縦流体力微係数の決定法

斜航試験,CMT試験結果を用いて,操縦流体力微係数を決定する。CMT試験を実施すると,前後力,横力,ミドシップ位置での回頭モーメントの計測値に,旋回運動に伴う慣性力成分が混入することに注意

が必要である。その結果,実際の計測値 (Xmea, Ymea, Nmea)は,(8)式で表されるX , Y , Nm とは異な

10

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り,次のような成分からなる。

X ′mea = X ′

H +X ′R +X ′

P + (m′ +m′y)v

′mr

′ + x′Gm′r′2

Y ′mea = Y ′

H + Y ′R − (m′ +m′

x)u′r′

N ′mea = N ′

H +N ′R − x′Gm

′u′r′

⎫⎪⎪⎪⎬⎪⎪⎪⎭

(29)

計測された前後力 (X ′mea)と横力 (Y ′

mea)には旋回運動に伴う遠心力成分が混入することが分かる。X ′mea

における (m′ + m′y)v′mr

′,Y ′mea における −(m′ + m′

x)u′r′ が付加質量成分を含めた広義の遠心力成分である。

船体に作用する操縦流体力微係数を決定するためには,遠心力成分を除去した X ′H , Y ′

H , N ′H だけを取

り出す必要がある。u′ � 1と近似して,CMTは δ = 0での計測結果であることを鑑みると,上の式は次のように変形できる。

X ′H + (m′ +m′

y)v′mr′ + x′Gm

′r′2 = X ′mea − (1 − t)T ′

Y ′H − (m′ +m′

x)r′ = Y ′mea + (1 + aH)F ′

N

N ′H − x′Gm

′r′ = N ′mea + (x′R + aHx

′H)F ′

N

⎫⎪⎪⎪⎬⎪⎪⎪⎭

(30)

ここで,

X∗′H = X ′

H + (m′ +m′y)v′mr

′ + x′Gm′r′2

Y ∗′H = Y ′

H − (m′ +m′x)r′

N∗′H = N ′

H − x′Gm′r′

⎫⎪⎪⎪⎬⎪⎪⎪⎭

(31)

とおくと,

X∗′H = X ′

mea − (1 − t)T ′

Y ∗′H = Y ′

mea + (1 + aH)F ′N

N∗′H = N ′

mea + (x′R + aHx′H)F ′

N

⎫⎪⎪⎪⎬⎪⎪⎪⎭

(32)

が得られる。上の式中,t, tR, aH , x′H は前節で決定した値を用いることとすれば,FN や T は,X ′mea,

Y ′mea, N ′

meaとともに計測しているので,X∗′H , Y ∗′

H , N∗′H は求めることができる。

X∗′H , Y ∗′

H , N ′H は,(11)式を参照すると,次のように v′m と r′ の関数で表される。

X∗′H (v′m, r′) = X ′

0 +X ′vvv

′2m + (X ′

vr +m′ +m′y)v′mr′ + (X ′

rr + x′Gm′)r′2 +X ′

vvvvv′4m

Y ∗′H (v′m, r′) = Y ′

0 + Y ′vv

′m + (Y ′

r −m′ −m′x)r′ + Y ′

vv′3m + Y ′

vvrv′2mr

′ + Y ′vrrv

′mr

′2 + Y ′rrrr

′3

N∗′H (v′m, r′) = N ′

0 +N ′vv

′m + (N ′

r − x′Gm′)r′ +N ′

vvvv′3m +N ′

vvrv′2mr

′ +N ′vrrv

′mr

′2 +N ′rrrr

′3

⎫⎪⎪⎪⎬⎪⎪⎪⎭

(33)

これらに対して,最小自乗法を用いて,フィッティング精度が最も高くなるように各項の係数を決め,操

縦流体力微係数を求める。なお,(X ′vr +m′ +m′

y), (X ′rr + x′Gm

′), (Y ′r −m′ −m′

x), (N ′r − x′Gm

′)の項には,質量や付加質量の項が混入している。質量は模型船の重量が分かれば既知であるから,除去すること

が可能であるが,m′xとm′

y の項は,別途理論や実験によって求める必要があり,CMTを実施しただけではこれらの影響を除去することはできない。

2.4.6 操縦運動時の有効伴流率の決定法

操縦運動時の有効伴流率を決定する。CMTで計測されたプロペラ推力のデータを用いて,推力一致法で有効伴流率を求める。(14)式にプロペラ推力の単独特性 KT を表す (15)式を代入して,無次元化する

11

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と,次式が得られる。

T ′ =(nPDP

U

)2D2

P

Ld

(k2J

2P + k1JP + k0

)(34)

これは,JP に対する 2次式になっており,解析的に解くことができる。その解を JP0とすれば,JP0は

JP0 =U cosβ(1 − wP )

nPDP(35)

と定義されるので,wP は次式で計算できる。

wP = 1 − JP0nPDP

U cosβ(36)

wP は β と r′ の関数であり,プロペラ位置での操縦運動による幾何学的な流入角 βP (≡ β − �′P r′)の関

数として整理できる。

2.4.7 整流係数の決定法

整流係数試験の計測結果を用いて,整流係数 γR,長さ方向位置の無次元値 �′Rを求める。(19)式を無次元化して,(20)式と (21)式より

F ′N =

AR

Ld(u′2R + v′2R )fα sin (δ − v′R/u

′R) (37)

が得られる。この式を舵角 δで微分する。

∂F ′N

∂δ=AR

Ld(u′2R + v′2R)fα cos (δ − v′R/u

′R) (38)

今,種々の操縦運動時 (種々の βや r′のとき)に,F ′N = 0となるような舵角 δFN0を求める。そのとき,

δFN0 = v′R/u′Rであるので,その関係式から (38)式は

∂F ′N

∂δ

∣∣∣∣δ=δF N0

=AR

Ldu′2R(1 + δ2FN0)fα (39)

となり,

u′R =

√∂F ′

N

∂δ

∣∣∣∣δ=δF N0

Ld

AR

1fα(1 + δ2FN0)

(40)

が得られる。整流係数試験では,設定された斜航角 (β)や回頭角速度 (r)において,δFN0とその舵角での

∂F ′N/∂δが計測されるので,u

′Rは既知となる。

そのとき,v′R は v′R = u′RδFN0の式を用いて計算できる。一方,v′R は

v′R = γR(β − �′Rr′) (41)

と表されるので,この関係式から,γR と �′Rを求めることができる。

2.4.8 κと εの決定法

荷重度変更直進時操舵試験結果を用いて,舵位置とプロペラ位置での伴流係数の比 ε,実験定数 κを求

める方法について考える。

荷重度変更直進時操舵試験においては,β = r′ = 0であるから,v′R = 0である。従って,(38)式から

∂F ′N

∂δ

∣∣∣∣δ=0

=AR

Ldu′2R fα (42)

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が得られる。この式より,

u′2R =∂F ′

N

∂δ

∣∣∣∣δ=0

Ld

AR

1fα

(43)

が得られる。一方,u′2R は,(23)式より次のように表すことができる。

u′2R = ε2 (1 − wP )2η

{1 + κ

(√1 +

8KT

πJ2P

− 1

)}2

+ (1 − η) (44)

上の式において,εと κを種々変更して,荷重度変更直進時操舵試験によって得られる u′2R に最も一致するような εと κの組み合わせを求める。解を得るには,一般に,繰り返し計算を必要とする。

参考文献

[1] 平野雅祥:初期設計段階における船の操縦運動計算法について,日本造船学会論文集 第 147号 (1980),pp.144-153.

[2] Hirano, M., Takashina, J., Moriya, S. and Fukushima, M.: Open Water Performance of Semi-Balanced Rudder, 西部造船会々報第 64号 (1982), pp.93-101.

[3] 藤井 斉,津田達雄:自航模型船による舵特性の研究 (2),造船協会論文集第 110号 (1961), pp.31-42.

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2.5 実施すべき水槽試験と流体力係数の決定法:PMM をベースとする場合

2.5.1 PMM を用いた場合の実施すべき水槽試験

本節では PMM を用いた操縦性能調査で実施すべき水槽試験について述べる。

1) PMM 装置について

PMM 装置には速度一定の電車上に固定された Y 電車で横移動を制御する小振幅 PMM や簡

易式大振幅 PMM と主電車の速度を同期させて制御することで船体の速度を一定に保てる大振

幅 PMM がある。両者では船体に与えられる運動に差がある[1]ため、解析式は異なる。回流水

槽において PMM 試験を行う場合は前者と同様に横運動の分だけ船速が変化するが更に模型船

の質点の運動と対水運動の差にも配慮した解析が必要となる[2]。

PMMの駆動方式には 1軸のモータでY電車の往復運動とYawing運動を同時に制御するメカ

ニカルタイプと 2 軸のモータでそれぞれを制御する独立タイプがある。メカニカルタイプでは

モータの回転数を一定に保持することと、運動伝達のギアのバックラッシュを抑えることが重要

である。独立タイプには AC サーボモータが用いられることが多いが、運動への振動影響が出な

いようにサーボゲインを調整する必要がある。

2) PMM 試験での計測項目

PMM 試験では以下の項目について計測がなされる。

主船体 前後方向の力 X,横方向の力 Y,鉛直軸まわりのモーメント N

推進器 回転数 n,推力 T,(トルク Q)

舵 舵角δ、直圧力FN,(軸力FT,舵トルクQR)

船体運動 Y電車の位相ysig,方位角ψsig

PMMをはじめとする拘束模型試験には、主船体の検力は船体中央で行う方法と重心で行う方

法がある。検力システムのセッティングをどちらで行ったかによって解析式が異なることに注意

が必要である[3]。一般的な自航動力計は回転数,推力,トルクを出力するがPMM試験において

プロペラ流入速度の同定に推力一致法を用いるのであればトルクの計測は不要である。舵角試験

における船体と舵の干渉係数aH,xHの解析では舵に作用する 2 方向の力のうち、FNのみを用い

るのが一般的であるため、比較的小さな値であるFTの計測は行わない場合もある。PMM試験で

はフーリエ積分等によって位相解析を行うため、船体に与えられる強制運動は精度良く計測され

る必要がある。Yawing試験の解析にはysigとψsigの何れを用いても良い。

Fig.1 に制御、計測システムの一例を示す。

3) 模型船の拘束形式

模型船は検力計とパンタグラフを介して PMM から拘束される。パンタグラフによる模型船

の拘束状態は次のように設定される。

Surge, Sway, Yaw : 固定

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Pitch : 自由

Roll, Heave : 固定か自由かを実験ごとに選択

PC

A/D

FN

Fx

Fy Mz

T

ysig

ψsig

1ch

2ch 3ch

4ch

5ch

Manual Operation

Servo Driver

Servo Motor (ψ)

Motion Control Board

SG

AMP

LC

Servo Motor (y)

T M Motor

Driver System Pulse Counter

n

AMP

Fig.1 Measurement System

4) 試験項目と内容

PMM を用いた試験項目には次のようなものがある。

A) 抵抗試験

B) 自航試験

C) 舵角試験

D) 斜航試験

E) 操舵付き斜航試験

F) Pure Swaying 試験

G) Pure Surging 試験

H) Pure Yawing 試験

I) 斜航角付き Yawing 試験

A)~E)の所謂Static試験についてはCMTと差は無いのでここでの記述は割愛する。Pure

Swaying試験では斜航する船体に作用する流体力の他、船体横方向の負荷質量myとそのモーメ

ント成分の微係数 を得ることが出来る。加速度に比例した流体力の調査が可能であることが

PMMによるDynamic試験の特徴の 1 つである。Pure Surging試験は停止させた曳航電車上で模

型船の方位を水槽に直交させ、Y電車に往復運動させることで設定される。その場合、模型船は

.vN

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その場でSurging運動を与えられるため前方への加速度と後方への加速度による負荷質量の平

均値を得ることとなる。水路幅が模型船寸法に対して十分でない場合等は元良チャート[4]や計

算で負荷質量を同定する方法も一般的である。Yawing試験では回頭角加速度位相成分の解析か

ら鉛直軸周りの付加慣性モーメントJzzが得られる。ただし、事前に気中での模型船の振動周期

計測等の方法により、模型船自体の慣性モーメントIzzを調査しておく必要がある。

Pure Yawing 試験からは針路安定性に大きな影響を持つ回頭角速度位相の微係数 Yr,Nr,と非

線形成分が得られる。斜航角付き Yawing 試験からは回頭角速度と横流れ速度の連成で作用する

流体力の微係数を求めることが出来る。

5) PMM 試験計画例

参考のために PMM による Dynamic 試験計画の一例を示す。

F) Pure Swaying 試験

船速 : 対象船舶の調査が必要な速力と同じ Froude 数の速度

Sway振幅 : 正弦関数状の往復運動において振幅y0の値を 5 通り程度変更する。

運動周期 : 船体自身が撹乱した流場による Memory 影響を受けないように長くと

り、検力値が十分な精度で計測されるように短く設定する[5]。

Lpp が 2.0m では 10sec 前後、4.0m では 15sec 前後に設定される場合

が多い。

G) Pure Surging 試験

船速 : 曳航電車は停止、回流水槽の場合は流速 0。

Surge振幅 : 正弦関数状の往復運動において振幅x0の値を 5 通り程度変更する。

運動周期 : その場での往復運動であるため Memory 影響は避けがたいが Pure

Sway 試験と同じ周期を設定することが多い。

H) Pure Yawing 試験

船速 : Pure Sway 試験に同じ。

横移動振幅 : 正弦関数状の往復運動においてy0の値を 5 通り程度変更する。

運動周期 : Pure Sway 試験と同じ周期に設定される場合が多い。

Yaw 振幅 : 船速、横移動振幅、運動周期を決定すると自動的に Yaw 振幅は決定さ

れる。最も大きな回頭角速度振幅の無次元値ro’の値が実船の最大舵角で

の定常旋回運動に相当する 1.0 前後であることが理想的であるが多くの

場合、PMM装置の能力の制限から 0.5 程度までの範囲で行われる。

I) 斜航角付き Yawing 試験

船速 : Pure Yawing 試験に同じ。

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運動周期 : Pure Yawing 試験に同じ。

横移動振幅 : Pure Yawing試験において設定された 5 通りのy0のうち、中間の値に

固定しながら斜航角を 5,10,15,20,25,30degと設定する斜航角シリーズ

と、斜航角を 15degとしてPure Yawing試験と同じ 5 通りのr0を設定す

るrシリーズの両方を実施する。

Yaw 振幅 : 船速、横移動振幅、運動周期を決定すると自動的に Yaw 振幅は決定さ

れる。

6) PMM 試験で留意すべき点

PMM の準備、試験実施の際に留意すべき点をまとめる。以下の指摘の中には PMM のみでは

なく、拘束模型試験全般に必要な点も含まれている。

・PMM 装置の駆動モータの回転を強制運動に伝達する機械系のバックラッシュを無くし、運動

の位相遅れや振動の影響を避ける。PMM 試験では横運動と Yaw 運動の位相の同期が特に重

要であるがメカニカルタイプの場合、機械調整でそれを確保することになる。

・検力計は模型船側に固定される方法と PMM 側に固定される方法があるが、前者の場合、模

型船の Heel によって検力計やパンタグラフの重力成分が出力に加算される。それを避けるた

めには Hell 固定で試験を行うか、パンタグラフにカウンターウエイトを設定して重力成分を

キャンセルさせる必要がある。

・舵検力計の場合、Hell 影響をキャンセルさせることは比較的難しいため、模型舵の水中重量

と検力計の下半分の重量の和が極力 0 になるように設定されることが望ましい。種々の制限

でそれが出来ない場合には Hell 固定での試験を行うべきである。

・PMM 試験では検力計の下半分から模型船全ての質量に比例した慣性力が計測される。この質

量は模型船の排水量分の質量より大きいため、解析に用いる質量の算定には注意が必要である。

・PMM 試験ではフーリエ積分等で位相解析を行うため、複数のデータがそれぞれに異なる位相

ズレを持って計測されることは避けなければならない。検力計出力のアンプの持つアナログ

フィルターは基本的にかけずに計測する方が良い。

2.5.2 PMM を用いた水槽試験による流体力係数の決定法

1) 曳航水槽での PMM 試験による場合

PMMを用いる試験の解析でCMTと異なるのはPMMのアクチエータを駆動させて行う

Dynamic試験についてである。そこで本節ではPure Swaying試験からの船体横方向の付加質量

my、Pure Yawing試験からの線形微係数Yr,Nrを例にとってDynamic試験での流体力微係数の決

定方法について述べる。

・Pure Swaying 試験の解析

曳航水槽での PMM を用いた Pure Sway 試験で模型船は次の運動を与えられる。

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0=u& , ,cUu = tyy O ωsin= ,

tyyv O ωω cos== & ,

tyyv O ωω sin2−== &&& ,

0== rr &

cU :曳航電車の走行速度, :Sway 運動の振幅 Oy

ω :Swaying 運動の周波数, t :時間 計測された流体力の 1 周期間 )/( ωπ20~ のフーリエ解析により、

1) dttYYs ωπω sin)(/ −∫= E

を求め、

2) dttvmmYs y ωπω sin/)( &∫+−=

を解析する。具体的にはフーリエ積分で得られた 1)式の値を に基づいて最

小二乗法にかけ、得られた傾斜が

dttv ωπω sin/ &∫

ymm + となるのでそれから。m を差し引いて を得る。そ

れを次式で無次元化する。

ym

)5.0/( 2dLm'm yy ρ= 3) 計測された物理量を試験流速で無次元化し、付加質量の無次元値を求める方法もあるが、横運

動の分だけ変動する船体速度を用いる無次元化が煩雑なため、模型寸法の有次元値で解析する方

法を示した。 PMM 試験で検力計で計測される力 EY− には舵に作用する力も含まれている。従って解析さ

れた付加質量m は船体及び舵に作用する付加質量である。 'y

・Pure Yawing 試験の解析

Pure Yawing 試験で PMM 装置の作る運動は次の通りである。

tyy Oc ωsin= ,

v tkUtyy cOcc ω ω ωcoscos === & , )/( cO Uyk ω=

v , tUktyy cOcc ωωωω sinsin2 −=−== &&&

)cos(tan 1 tk ωϕ −=

: PMM の Y 電車の位相,速度,加速度 ccc vvy &,,

ϕ : 回流水槽の上流に対する模型船の方位

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曳航水槽における Pure Yaw での模型船の速度、加速度 は次のように

なる。

,,,, vuvu && rr &,

βω cos)cos1( 2/122 tkUu c += 4) 5) 6)

βω sin)cos1( 2/122 tkUv c +−=

βωωωω coscossin)cos1( 2/1222 tttkkUu c−+−=&

8) 9) 10)

βωωωω sincossin)cos1( 2/1222 tttkkUv c−+=&

ttkkr ωωω sin)cos1( 122 −+−=

ttktkkkr ωωωω cos)cos1)(sin1( 2222222 −+++−=&

ここで、無次元化に用いる代表流速として平均船速 を求める。 は式 37)で得られ

るものであり、1 周期間に変動する対水速を級数展開し高次の項を無視したものである。

mU mU

)64/34/1( 42 kkUU cwcm −+=Yaw試験で計測された力-YE、モーメント-NE、舵直圧力FNは次式で無次元化される。

11) )5.0/(' 2mEE LdUYY ρ−=−

12) )5.0/(' 22mEE dULNN ρ−=−

13) )5.0/(' 2mNN LdUFF ρ=

フーリエ解析の中で線形微係数 Yr’,Nr’を得るため、次の処理を行なう。ただし、積分区間

は ωπ /20~ である。 14) dttYY Es ωπω sin)'(/' −∫= 15) dttNN Es ωπω sin)'(/' −∫= 16) dttFF NNs ωπω sin)'(/' ∫=

'については、 'の成分を差し引くことで Hull のみの値 を得、解析に

用いる。その際、舵角試験で得られた干渉影響係数を用いる。

,' SS NY NSF ',' HSHS NY

Pure Yaw 試験での解析式は次のように導かれる。

dttrYdttrYdttrummY rrrrxHS ωπωωπωωπω sin'/'sin'/'sin''/)''(' 3∫+∫+∫+−=dttrYdttrY rrrr ωπωωπω sin'/'sin'/' 3∫+∫+ 17)

18) dttrNdttrNdttu'r'π'ωm'x'N rrrrGHS ωπωωπωω sin'/'sin'/'sin/ 3∫+∫+∫−=

以上の式を用い、試験結果から を最小二乗法で求める。 ',',',' rrrrrrrr NNYY

19

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2) 回流水槽での PMM 試験の場合

回流水槽で PMM 試験を行う場合は曳航水槽での試験との違いに留意が必要である。

・運動の定義

水流が設定された回流水槽に浮かぶ物体の持つ対地運動と対水運動には差がある。物体の対

地運動が無い所謂 Static 試験の場合は対水運動のみを考慮すればよく、比較的単純である。模

型船を用いた抵抗・自航試験、斜航試験、舵角試験等がそれに当たる。他方、PMM 試験等で模

型船を Dynamic に動かした場合、対地運動と対水運動を区別して解析する必要がある。ここで

は対地運動と区別するため、対水運動の項目には添え字 を用いることにする。両者を次に比

較する。

f

運動項目 対地運動 対水運動

前後方向速度・加速度 uu &, ff uu &,

横方向速度・加速度 vv &, ff vv &,

回頭角速度・角加速度 rr &, rr &, 回頭に関しては対地運動と対水運動が一致するため区別しない。

・無次元化

解析で用いる物理量の無次元化は次のとおりとする。

, , )5.0/(' 2dLmm ρ= )5.0/(' 4dLIzzIzz ρ=

, )5.0/(,',' 2fLdUYXYX ρ=

)5.0/(' 22fdULNN ρ=

, fUu,vu',v' /= )/ Lr/(Ur' f= ,

, )/2 L/(Uv,u'v',u f&&&& = )//( 22 LUr'r f&& =

ρ : 水の密度, : 船体の質量 m : 船体の慣性モーメント,ZZI L : 垂線間長

: 船体中央の喫水, : 対水速度 d fU

に関しても同様の無次元化を行う。 は の合速度である。 ,, ff vu ff vu && , fU ,, ff vu

20

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・運動方程式

船体重心周りの運動方程式は次式のようになる。

)( GGGG rvumX −= &

)( GGGG ruvmY += &

GZZGG rIN &=

: X-Y 平面内重心周りの慣性モーメント ZZGI

船体重心周りの速度成分uG,vG,rGと船体中心まわりの速度成分u,v,rの関係は次の通りである。

uuG =

rxvv GG +=

rrG =

ただし、 : 船体前後方向の重心位置 Gx

また、船体中央周りに作用する力とモーメントX,Y,Nで重心周りの力とモーメントを表すと、

28) 29) 30)

19) 20) 21)

22) 23) 24)

25) 26) 27)

XX G =

YYG =

YxNN GG −=

22)~27)式を 19)~21)式に代入し、次式を得る。

)( 2rxvrumX G−−= &

)( rxurvmY G && ++=

)( urvmxrIN GZZ ++= && ・操縦運動を表現する数学モデル

PMM 試験において 28)~30)式の左辺で示される流体力の表現には次の数学モデルを用いる。

Trrffuufvvvvvvfyvrfx XrXuuXvXvXrvmXumX +++++++−= 242 ||)(&

ENR XTtFt +−+−− )1(sin)1( δ 31)

2233 )( rvYrvYrYrumYvYvYrYvmY fvrrfvvrrrrfxrfvvvfvrfy +++−++++−= &&

ENH YFa ++− δcos)1( 32)

2233 rvNrvNrNrNvNvNrJvNN fvrrfvvrrrrrfvvvfvzzfv ++++++−= &&&

ENHHR NFxax ++− δcos)( 33)

21

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: PMM による船体中心に作用する強制力、モ-メント EEE N,Y,X28)~30)式、31)~33)式から X,Y,N を消去し計測される力、モーメントを表現する。

422 )()( fvvvvfvvfyvrfXGE vXvXrvmXumrxvrumX ++−+−−−−=− &&

TtFtrXuuX NRrrffuu )1(sin)1(|| 2 −+−−++ δ 34)

rumYvYvYrYvmrxurvmY fxrfvvvfvrfyGE )()( 3 −++++−++−=− &&&& &

δcos)1(223NHfvrrfvvrrrr FarvYrvYrY +−+++ 35)

33)()( rNrNvNvNvNurvmxrJIN rrrrfvvvfvfvGzzzzE ++++++−+−=− &&& &

δcos)(22NHHRfvrrfvvr FxaxrvNrvN +−++ 36)

・Yawing 試験の解析

Static 試験の解析式は CMT のそれらに同じであるため、ここでは回流水槽における PMM を

用いた Dynamic 試験の Yawing 試験の解析式を示す。

Yawing 試験での運動は次のように与えられる。

tyy Oc ωsin= ,

tkUtyyv cwcOcc ωωω coscos === & , )/( cwcO Uyk ω=

, tUktyyv cwcOcc ωωωω sinsin2 −=−== &&&

)cos(tan 1 tk ωϕ −=

: PMM の Y 電車の位相,速度,加速度 ccc vvy &,,

ϕ : 回流水槽の上流に対する模型船の方位

Pure Yawing 試験での模型船の対地運動の速度、加速度を は次のように

なる。

,,,, SSSS vuvu && SS r,r &

ϕsinCS vu = 37)

38)

ϕcosCS vv = 39)

{ }122 )cos1(sincoscossin

*sincos−+−−=

−=

tkkttUk

rvvv

CWC

CCS

ωϕωϕωω

ϕϕ&&

22

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{ }1)2cos21(coscossinsin

cossin

−++−=

+=

tkkttcwcUk

rcvcvsu

ωϕωϕωω

ϕϕ&&

40) 41) 42)

ttkkrS ωωω sin)cos1( 122 −+−=

ttktkkkrS ωωωω cos)cos1)(sin1( 2222222 −+++−=&

斜航角β を保った Yaw 試験での運動は次のように与えられる。

43) ββ sincos SS vuu +=

44)

45)

46)

47)

ββ cossin SS vuv +−=

ββ sincos SS vuu &&& +=

ββ cossin SS vuv &&& +−=

Srr =

Srr && =

43)~48)式に 37)~42)式を代入することによって添え字 S を用いる表現を無くすことが出来

る。この後は添え字の無い項目は対地運動を意味することとする。

ここで、速度・加速度を平均船速 を用いて無次元化する。 は式 49)で得られるもので

あり、1 周期間に変動する対水速を級数展開し高次の項を無視したものである。

mU mU

49) )64/34/1( 42 kkUU cwcm −+=

48)

50)

54)

51)

52) 53)

一方、対水運動は次のように設定される。

βω cos)cos1( 2/122 tkUu cwcf +=

βω sin)cos1( 2/122 tkUv cwcf +−=

βωωωω coscossin)cos1( 2/1222 tttkkUu cwcf−+−=&

βωωωω sincossin)cos1( 2/1222 tttkkUv cwcf−+=&

対水の回頭運動は対地運動のそれに等しいため は、32),33)式で得られる。 r,r &

Yawing 試験で計測された力、モーメントは次式で無次元化される。

)5.0/(' 2mEE LdUXX ρ=

55)

56)

57)

)5.0/(' 2mEE LdUYY ρ=

58) 23

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)5.0/(' 22mEE dULNN ρ=

)5.0/(' 2mNN LdUFF ρ=

)5.0/(' 2mLdUTT ρ=

フーリエ解析では次の処理を行なう。ただし、積分区間は ωπ /20~ である。

dtXX EO )'(2/' −∫= πω 59) dtYY EO )'(2/' −∫= πω

dtNN EO )'(2/' −∫= πω

dtFF NNO )'(2/' ∫= πω

dtTTO )'(2/' ∫= πω

dttXX Ec ωπω cos)'(/' −∫=

dttYY Ec ωπω cos)'(/' −∫=

dttNN Ec ωπω cos)'(/' −∫=

dttFF NNc ωπω cos)'(/' ∫=

dttTTc ωπω cos)'(/' ∫=

dttXX Es ωπω sin)'(/' −∫=

dttYY Es ωπω sin)'(/' −∫=

dttNN Es ωπω sin)'(/' −∫=

dttFF NNs ωπω sin)'(/' ∫=

dttTTs ωπω sin)'(/' ∫=

'N,'Y,'X,'N,'Y,'X SSSOOO については、 の成分を差し引くことで Hull の

みの値 を得、解析に用いる。その際、舵角試験で得られた干

渉影響係数を用いる。 も解析の対象ではあるが舵力の成分を差し引く作業は行わない。

従ってそれらの項目から解析される微係数 は船体のみではなく、舵に作用する流体力の

影響も含んだものとなる。

'F,'F,'T,'T NSNOSO

'N,'Y,'X,'N,'Y,'X HSHSHSHOHOHO

'',NY CC

'J'Y ZZr ,&

60)

61)

62) 63)

74)

73)

65)

66)

67)

68)

69)

70)

71)

72)

64)

Pure Yaw 試験での解析式は次のように導かれる。

dt''|uu'Xdtr''ωX'X ffuurrHO |2/2/ 2 ∫+∫= πωπ 75)

76)

77)

dtt'r')ωY'm'x('Y rGC ωπ cos/ && ∫+−=

dtt'r')ωJ'(I'N ZZZZC ωπ cos/ &∫+−=

dttrumdttrudttvmY fxHS ωπωωπωωπω sin''/')sin''/sin'/('' ∫−∫+∫−= &

78) 24

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dttrYdttrY rrrr ωπωωπω sin'/'sin'/' 3∫+∫+

)sinsin dttu'r'ω/πdtωt'v/'(m'x'N GHS ωπω ∫+∫−= & dttrNdttrN rrrr ωπωωπω sin'/'sin'/' 3∫+∫+

以上の式を用い、試験結果から を最小二乗法で求める。 尚、

は斜航試験の

'N,'N,'Y,'Y,'J,'Y,'X rrrrrrrrzzrrr &

'uuX deg0=β で求めたものを用い、 項から差し引いた残りの成分から微

係数 を解析する。

'X HO

'X rr

斜航角付き Yawing 試験での解析式は次のようになる.

dtt'r'v/'X

dtωt'r'v/'mdtωtv'r'mdtωtu/m''X

fvr

fyHs

ωπω

πωπωπω

sin

sinsin/'sin

∫=

∫−∫−∫+ & 79)

80) dt'r'v/'Ydt'v/'Ydt'v'ωY'Y fvrrfvvvfvHO

2322/ ∫=∫−∫− πωπωπ

dtt'r'u/'mdt)ωtu'r'ω/πdtωtv/m('Y fxHS ωπωπω sinsinsin ∫+∫+∫+ & 81) 82) 83)

dtrvYdttrYdttrY fvvrrrrr ''/'sin'/'sin'/' 23 ∫=∫−∫− πωωπωωπω

dt'r'v/'Ndt'v/'Ndt'v'ωN'N fvrrfvvvfvHO2322/ ∫=∫−∫− πωπωπ

)sin''/sin/(''' dttrudttvxmN GHS ωπωωπω ∫+∫+ &

dtrvNdttrNdttrN fvvrrrrr ''/'sin'/'sin'/' 23 ∫=∫−∫− πωωπωωπω

から、 v と r の連成によって生じる微係数、 を 70)~74)式を用い

て求める。ただし、 は Pure Yaw 試験から求めたものを用いる。また、

については斜航試験で求められた値を用いる。

',',',',' vvrvrrvvrvrrvr NNYYX'N,'N,'Y,'Y rrrrrrrr

',', N',' vvvvvvvv NYY

参考文献

[1] 小瀬邦治、湯室彰規、芳村康男:“操縦運動の数学モデルの具体化”、第 3 回操縦性シンポ

ジウムテキスト第 3 章、昭和 56 年 12 月

[2] 橋詰泰久、松井志郎:“回流水槽における PMM 試験に関する一考察”、西部造船会々報第

87 号、平成 6 年 3 月

[3] 例えば 小川陽弘、浜本剛実:“操縦運動の数学モデルの基礎”、第 3 回操縦性シンポジウ

ムテキスト第 2 章、昭和 56 年 12 月

[4] 元良誠三:“船体運動に対する付加質量及び附加完成モーメントについて その 2 前後動に

対する付加質量”、日本造船学会論文集第 106 号、昭和 35 年

[5] 岡本洋、山上順雄、鬼木博文:“船舶の操縦性における模型試験法と実践の性能の推定”、

関西造船協会誌 第 164 号、昭和 52 年 3 月

25

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2.6 補遺

2.6.1 非線形流体力係数の座標変換

我国における研究結果を横通ししてMMGモデルの更なる発展を図るための議論をする中で,

データベースの共有化,流体力計測結果の座標系の統一という話が出た.「流体力計測のための

強制動揺試験を Midship 周りで実施」を標準にするという考え方は実験手順を簡単にするとい

う観点から賢明なやり方だと評価できるが,現実に Midship 周りと重心周りの強制動揺試験結

果が存在しているのであるから,座標変換をしなければ実験結果の有効活用につながらない.そ

こで,非線形の流体力まで含めた流体力係数の座標変換式を求めてみた. キチンと式を展開したつもりではあるが,同じ船型(例えば SR-108 や Series 60 船型などは各

所で実験をしていると期待できる)で重心周りと Midship 周りの実験結果があれば,この結果を

使って変換して対比し,式の妥当性を確認しておくのが望ましい. (1) 座標系 x, y方向の移行運動とz軸周りの回転運動のみを考え,船体前方にx軸、右舷方向にy軸、鉛直

下方にz軸を取る.x-z平面が船体左右対称面に一致するのは議論の余地が無く,座標原点の上下

位置はここでの議論に関係が無いから,座標原点の前後位置だけが残る.そこで,Midshipを座

標原点とした場合に,重心のx座標をxGと書くことにする. (2) 流体力の表現 強制動揺試験によって求められた流体力の内,x軸方向の力は座標系に依存しないので,y 軸

方向の力と z 軸周りのモーメントを扱う.y 軸方向の力:Y と z 軸周りのモーメント:N を三次

形式で表現し

[1] 3

rrr2

vrr2

vvr3

vvvrv

3rrr

2vrr

2vvr

3vvvrv

rNrvNrvNvNrNvNN

rYrvYrvYvYrYvYY

⋅+⋅⋅+⋅⋅+⋅+⋅+⋅=

⋅+⋅⋅+⋅⋅+⋅+⋅+⋅=

と書くものとする.これが Modship 周りの強制動揺試験によって求められたものであるとする

と, v もrも「Modship 周り」という注釈付きになるので添え字"M"を付けると,z 軸周りのモー

メントが座標系に依存するのは当然である.また,y 軸方向の運動による y 軸方向の力の係数は

座標系に依存しないが,y軸方向の力の内で rに依存する成分については座標系に依存するので,

[2] 3Mrrr,M

2MMvrr,MM

2Mvvr,M

3Mvvv,MMr,MMv,MM

3Mrrr,M

2MMvrr,MM

2Mvvr,M

3MvvvMr,MMvM

rNrvNrvNvNrNvNN

rYrvYrvYvYrYvYY

⋅+⋅⋅+⋅⋅+⋅+⋅+⋅=

⋅+⋅⋅+⋅⋅+⋅+⋅+⋅=

と書いて区別する.これと,重心周りの強制動揺試験によって求められたもの(此方は添え字"G"を付けて区別する)

[3] 3Grrr,G

2GGvrr,GG

2Gvvr,G

3Gvvv,GGr,GGv,GG

3Grrr,G

2GGvrr,GG

2Gvvr,G

3GvvvGr,GGvG

rNrvNrvNvNrNvNN

rYrvYrvYvYrYvYY

⋅+⋅⋅+⋅⋅+⋅+⋅+⋅=

⋅+⋅⋅+⋅⋅+⋅+⋅+⋅=

との関係を求めるのが,ここでの問題である. (3) 強制動揺試験の結果 模型船に横流れ速度:v と旋回角速度:r を強制的に与え,その際に模型

船体に作用する反力を計測して,流体力係数を求めるのが此処でいう強制

動揺試験である.

26

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Midship周りでvM, rMの運動速度が与えられた時,重心周りの運動速度:vG, rGは [4] MGMGMG rr,rxvv =⋅+=

となる。 [4]式を[3]式に代入して v と r に対して三次の項までを取ると,第一式より

[5]

3M

3Gvvv

2Gvvr,GGvrr,Grrr,G

2MM

2GvvvGvvr,Gvrr,G

M2

MGvvvvvr,G3

MvvvMGvr,GMv

3Mrrr,G

2MMGMvrr,G

M2

MGMGM2

Mvvr,G

3MG

2MGMMG

2M

3Mvvv

Mr,GMGMv

3Grrr,G

2GMGMvrr,GG

2MGMvvr,G

3MGMvvvGr,GMGMv

3Grrr,G

2GGvrr,GG

2Gvvr,G

3GvvvGr,GGvG

r)xYxYxYY(

rv)xY3xY2Y(

rv)xY3Y(vYr)xYY(vY

rYr)rxv(Y

r})rx()rx(v2v{Y

})rx()rx(v3)rx(v3v{Y

rY)rxv(YrYr)rxv(Yr)rxv(Y

)rxv(YrY)rxv(Y

rYrvYrvYvYrYvYY

⋅⋅+⋅+⋅++

⋅⋅⋅⋅+⋅⋅++

⋅⋅⋅⋅++⋅+⋅⋅++⋅=

⋅+⋅⋅+⋅+

⋅⋅+⋅⋅⋅+⋅+

⋅+⋅⋅⋅+⋅⋅⋅+⋅+

⋅+⋅+⋅=

⋅+⋅⋅+⋅+⋅⋅+⋅+

⋅+⋅+⋅+⋅+⋅=

⋅+⋅⋅+⋅⋅+⋅+⋅+⋅=

を得,第二式より

[6]

3M

3Gvvv,G

2Gvvr,GGvrr,Grrr,G

2MM

2Gvvv,GGvvr,Gvrr,G

M2

MGvvv,Gvvr,G3

Mvvv,GMGv,Gr,GMv,G

3Mrrr,G

2MMGMvrr,G

M2

MGMGM2

Mvvr,G

3MG

2MGMMG

2M

3Mvvv,G

Mr,GMGMv,G

3Mrrr,G

2MMGMvrr,GM

2MGMvvr,G

3MGMvvv,GMr,GMGMv,G

3Grrr,G

2GGvrr,GG

2Gvvr,G

3Gvvv,GGr,GGv,GG

r)xNxNxNN(

rv)xN3xN2N(

rv)xN3N(vNr)xNN(vN

rNr)rxv(N

r})rx(rxv2v{N

})rx()rx(v3rxv3v{N

rN)rxv(NrNr)rxv(Nr)rxv(N

)rxv(NrN)rxv(N

rNrvNrvNvNrNvNN

⋅⋅+⋅+⋅++

⋅⋅⋅⋅+⋅⋅++

⋅⋅⋅⋅++⋅+⋅⋅++⋅=

⋅+⋅⋅+⋅+

⋅⋅+⋅⋅⋅+⋅+

⋅+⋅⋅⋅+⋅⋅⋅+⋅+

⋅+⋅+⋅=

⋅+⋅⋅+⋅+⋅⋅+⋅+

⋅+⋅+⋅+⋅+⋅=

⋅+⋅⋅+⋅⋅+⋅+⋅+⋅=

を得る. Midship周りの力とモーメント:YM, NMの組合せと,重心周りの力とモ

ーメント:YG, NGの組合せの関係は

[7] MGGM

GM

YxNN,YY

⋅+==

であるから,[7]式の第一式に[2]式のYMと[5]式のYGを代入すれば

[8]

3M

3Gvvv

2Gvvr,GGvrr,Grrr,G

2MM

2GvvvGvvr,Gvrr,G

M2

MGvvvvvr,G3

MvvvMGvr,GMvG

3Mrrr,M

2MMvrr,MM

2Mvvr,M

3MvvvMr,MMvM

r}xYxYxYY{

rv)xY3xY2Y(

rv)xY3Y(vYr)xYY(vYY

rYrvYrvYvYrYvYY

⋅⋅+⋅+⋅++

⋅⋅⋅⋅+⋅⋅++

⋅⋅⋅⋅++⋅+⋅⋅++⋅==

⋅+⋅⋅+⋅⋅+⋅+⋅+⋅=

27

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より,対応する項の係数を等置すれば

3

Gvvv2

Gvvr,GGvrr,Grrr,Grrr,M

2GvvvGvvr,Gvrr,Gvrr,M

Gvvvvvr,Gvvr,MGvr,Gr,M

xYxYxYYY

xY3xY2YY

xY3YY,xYYY

⋅+⋅+⋅+=

⋅⋅+⋅⋅+=

⋅⋅+=⋅+=

[9]

を得る. 次に、[7]式の第二式に[2]式のNMとYMを代入し,更に[6]式のNGを代入すれば

[10]

3M

3Gvvv,G

2Gvvr,GGrrr,Mvrr,Grrr,G

2MM

2Gvvv,GGvrr,Mvvr,Gvrr,G

M2

MGvvr,Mvvv,Gvvr,G3

MGvvvvvv,G

MGr,Mv,Gr,GMGvv,G

3Mrrr,M

2MMvrr,M

M2

Mvvr,M3

MvvvMr,MMvG

3M

3Gvvv,G

2Gvvr,GGvrr,Grrr,G

2MM

2Gvvv,GGvvr,Gvrr,G

M2

MGvvv,Gvvr,G

3Mvvv,GMGv,Gr,GMv,G

MGG3

Mrrr,M

2MMvrr,MM

2Mvvr,M

3Mvvv,MMr,MMv,MM

r}xNxNx)YN(N{

rv}xN3x)YN2(N{

rv}x)YN3(N{v)xYN(

r}x)YN(N{v)xYN()rYrvY

rvYvYrYvY(x

r}xNxNxNN{

rv)xN3xN2N(

rv)xN3N(

vNr)xNN(vN

YxNrN

rvNrvNvNrNvNN

⋅⋅+⋅+⋅+++

⋅⋅⋅⋅+⋅+⋅++

⋅⋅⋅+⋅++⋅⋅++

⋅⋅+++⋅⋅+=

⋅+⋅⋅+

⋅⋅+⋅+⋅+⋅⋅+

⋅⋅+⋅+⋅++

⋅⋅⋅⋅+⋅⋅++

⋅⋅⋅⋅++

⋅+⋅⋅++⋅=

⋅+=⋅+

⋅⋅+⋅⋅+⋅+⋅+⋅=

より,対応する項の係数を等置すれば

[11]

Gvvv,G2

Gvvr,GGrrr,Mvrr,Grrr,Grrr,M

2Gvvv,GGvrr,Mvvr,Gvrr,Gvrr,M

Gvvr,Mvvv,Gvvr,Gvvr,MGvvvvvv,Gvvv,M

Gr,Mv,Gr,Gr,MGvv,Gv,M

xNxNx)YN(NN

xN3x)YN2(NN

x)YN3(NN,xYNNx)YN(NN,xYNN

⋅+⋅+⋅++=

⋅⋅+⋅+⋅+=

⋅+⋅+=⋅+=

⋅++=⋅+=

を得る.YvとYvvvは両者で同じであるが,それ以外の流体力係数については,[9]式と[11]式が重

心周りの強制動揺試験で得た係数をMidship周りの場合の係数に変換する式となる. (4) 追記 以上を委員会に提出した際、「こうした変換をするというのは妥当なのだろうか?」という討論

があった。「これが妥当で無ければ操縦性能の非線形シミュレーション自体が成り立たない」と思

って居たので深く考えて居なかったが、線形の世界で重ね合わせができることに慣れ過ぎている

面もあるので、妥当性についてキチンと考えてみる必要があろう。 先ず「非線形システムなのに、線形重ね合わせのようなことをしているのではないか」という疑

問があると思うが、これに対する答えは「していない」である。想定される範囲のvに対してY(v) とN(v)を三次式で近似し、想定される範囲のrに対してY(r)とN(r)を三次式で近似し、両者を加

えてY(v,r)とN(v,r)の三次式近似を得るとしたら大間違いであるが、ここでやって居るのは、想

定される範囲のvとrの組合せをカバーするように(vとr が定常な場合の)Y(v,r)とN(v,r)の実験値

を求め、その結果をvとrの三次項までの数式で近似しているのだから、重ね合わせではなく、vとrの組合せに対応するY(v,r)とN(v,r)の値を求めているのである。実験はvAとA点周りの回転rA

28

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に対して行われ、解析結果として多項式近似の係数が得られているのであるが、vAとrAの組合せ

はvBとrBの組合せに変換可能であるから、Y(vA,rA), N(vA,rA)という実験結果はY(vB,rB), N(vB,rB)に変換できる。これをvBとrBの多項式で近似すれば所期の結果が得られるのであるが、上に書い

たことはそれを近似式の係数レベルでやって居ることに相当する。 次に「操縦運動は、緩慢とは言え加減速運動を伴う。それを定常状態の流体力だけで記述して

良いのか」という疑問が有り得る。これに対する回答は「操縦運動が準定常運動だというのは最も

基本的な仮定であって、加減速の影響は無視し得ると考えている」ということであろうと思われ

る。飽くまで「加減速の影響が全く無いということではないが、無視しても有意な問題は発生し

ない」という仮定であるから、顕著な加減速が発生したり、Memory Effect が強く表れるような

特殊な場合にもこれで良いという保証は無い。VLCC の Ballast condition では Memory Effectが強く表れる傾向があるし、Shallow water 状態では流出渦の Memory Effect が強く表れると

言われている。 以上をまとめると次の通りである。 操縦運動の非線形シミュレーションを行うには、先ず想定される操縦運動の範囲を決め、その

範囲内の要素運動の組合せについて模型船に定常の強制動揺を与えて流体力を計測し、流体力の

近似式を作成して微係数を求める。必ずしも模型試験を行う必要は無く、類似船のデータから流

体力微係数を推定するとか、CFD 計算で等価なデータを得るとか、別の手法で求めても良い。

シミュレーション計算では各 Time step において運動速度から近似式で流体力を計算し、運動

方程式に相当する微分方程式を解いて操縦運動を求めるが、流体力を計算する段階では運動速度

の組合せに近い模型実験の結果を参照して内挿値を得るのと同じことをしているので、「操縦運

動が緩慢で、加減速の影響を無視して良い」という仮定が成り立ちさえすれば、極めて妥当な計

算をして居ることになる。

29

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2.6.2 プロペラ増速モデルの誘導

MMG の操縦運動モデルでは、運動量理論を用いてプロペラ推力と Slip 流れの関係を導き、

舵に当る流れ(プロペラの後流)の速度を求めている。その背景について改めて詳細ノートを残し

て置こうと考える。以下の記述は、Principles of Naval Architecture (PNA)の最新版(Second Revision)の Volume II P.132 と P.133 の説明を基に、一部 PNA の初版も参照して作成し、適宜、

補足説明を加えたものである。 (1) 記号 A0:プロペラ円盤の面積(=πDPP

2/4) a:プロペラ円盤における増速率 b:無限後流における増速率 CT:プロペラ荷重度(Thrust loading factor) DP:プロペラ直径 Echg:単位時間における断面 1 と断面 3 の間の流体の運動エネルギーの変化 Ein:単位時間に断面 1 の流管部分から入って来る運動エネルギー Eout:単位時間に断面 3 の流管部分から出て行く運動エネルギー J:プロペラの前進係数 KT:プロペラ単独特性における推力係数 Mchg:単位時間における断面 1 と断面 3 の間の流体の運動量の変化 Min:単位時間に断面 1 の流管部分から入って来る運動量 Mout:単位時間に断面 3 の流管部分から出て行く運動量 nP:プロペラの回転数 p1:プロペラから十分離れた場所における圧力 p2:プロペラ円盤上における圧力(上流側) p3:プロペラ円盤上における圧力(下流側) Q:プロペラ円盤を単位時間に通過する流量(流体の体積) s:Slip ratio(スリップ比) T:プロペラ推力 VA:プロペラ前進速度(プロペラから十分上流に離れた場所における流速) W:プロペラ推力によって単位時間になされる仕事 ηI:プロペラ効率(この場合は理想効率なので添字"I"が付いている) ρ:流体の密度 (2) プロペラの運動量理論 プロペラの運動量理論は Rankine(1865)、Greenhill(1888)と R.E. Froude(1889)に由来する。

ここでプロペラは単なる円盤で、その前後で圧力の飛躍を発生させる機構と見做されているが、

どのようにして圧力を増加させるのかという点については論じられない。 基本仮定は以下の通りである。

プロペラ円盤はそこを通る流体を一様に加速する。したがって、それによって発生する推力

はプロペラ円盤に一様に分布する。 流体には摩擦が無いとする。 周囲の流体は無限に広がっている。

30

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最初の仮定より、プロペラ円盤を通る流管の断面積は下流へ行くほど小さくなる。この流管収

縮はプロペラ円盤の前後で突然に起こるのではなく、流れの変化はプロペラ円盤の外側の上流側

と下流側の限定された範囲で発生する。 (a) 運動量の変化と推力 面積A0のプロペラ円盤が、静止流体中を前進速度VAで進んでいる場合を考える。この相対関

係を変えて、図に示すように「静止しているプロペラ円盤に一様流速VAの流れが流入する」と見

ても同じことである。ここで流れは右から左に向かって流れており、流れと直交する断面 1 か

ら 3 がある。断面 2 がプロペラ円盤と一致して

おり、断面 1 と断面 3 はプロペラ位置から十分

上流および下流にあって、プロペラの作動によ

る流れの変化の影響が無視できるような横断

面である。 プロペラ位置から十分上流にある断面 1にお

いて流速は一様にVAであり、圧力も一様である

が、この圧力をp1と書く。一方、プロペラ位置

から十分下流にある断面 3 において、プロペラ

円盤を通って来た流管内の流速はVAより大き

くなっているので、それをVA・(1+b)と書く。流

体はこの増速分の幾らかをプロペラ円盤に到

達する前に得ている筈であるから、プロペラ円

盤を通る時の流速をVA・(1+a)と書く。 流管内の圧力は、プロペラ円盤より十分上流の断面 1 ではp1であるが、プロペラ円盤に近付く

につれて流速が上がるのでBernoulliの定理より圧力は下がって来る。プロペラ円盤の位置では

圧力が突然上昇してp1より高くなるが、後流に至るにつれて次第に低下して断面 3 ではp1になる。 プロペラ円盤を単位時間に通過する流量:Q は Q = VA・(1+a)・A0 [1] であるから、単位時間に断面 1 の流管部分から入る運動量は Min = ρ・VA・Q [2] であり、断面 3 の流管部分から出て行く運動量は Mout = ρ・VA・(1+b)・Q [3] であるので、単位時間における運動量の変化は Mchg = ρ・VA・b・Q = ρ・VA2・A0・(1+a)・b [4] となる。これは断面 1 と断面 3 で囲まれた流体部分に作用する力(=プロペラ推力:T)に外なら

ないので、 T = ρ・VA2・A0・(1+a)・b [5] を得る。 (b) エネルギー保存則、増速率 流体の摩擦を無視しているので、運動エネルギーの増加量は単位時間になされた仕事に等しい。

単位時間に断面 1 の流管部分から入って来る運動エネルギーは Ein = ρ・VA2・Q/2 [6]

31

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であり、断面 3 の流管部分から出て行くエネルギーは Eout = ρ・V A2・(1+b)2・Q/2 [7] であるから、単位時間における運動エネルギーの増加量は、 Echg = ρ・V A2・{(1+b)2-1}・Q/2 = ρ・V A2・(2b+b2)・Q/2 = ρ・V A2・b・(1+b/2)・Q = T・V A・(1+b/2) [8] となる。 これがプロペラ推力によって単位時間になされる仕事 W = T・VA・(1+a) [9] に等しいので、 T・VA・(1+a) = T・VA・(1+b/2) [10] したがって、 a = b/2 [11] を得る。すなわち、プロペラ円盤位置においては、無限後方における流速増加分の半分だけ流速

が増加していることになる。 (c) Bernoulli の定理 当然ではあるが、上と同じ結果を Bernoulli の定理から得ることも出来る。同じ Principles of Naval Architecture でも初版(Vol.II の P.127 から P.129)では、円管内で作動する場合から論じ

ているが、Bernoulli の定理を使って以下のように説明している。 プロペラ円盤を通る流管を、断面 1 から断面 2 の上流側まで、断面 2 の下流側から断面 3 ま

での二つの区間に分けて Bernoulli の定理を適用すると、先ず断面 1 から断面 2 の上流側までで

は ρ・VA2/2 + p1 = ρ・V A2・(1+a)2/2 + p2 [12] を得、断面 2 の下流側から断面 3 まででは ρ・VA2・(1+b)2/2 + p1 = ρ・VA2・(1+a)2/2 + p3 [13] を得る。辺々差し引けば p3 - p2 = ρ・VA2・(1+b)2/2 - ρ・VA2/2 = ρ・VA2・(2・b+b2)/2 = ρ・VA2・b・(1+b/2) [14] を得るが、これにA0を掛けると (p3 - p2)・A0 = ρ・VA2・A0・b・(1+b/2) [15] となる。この式の左辺は断面 2(即ちプロペラ円盤)の下流側と上流側の差圧に円盤の面積を掛け

た値であるから、プロペラ推力に外ならない。 プロペラ推力は運動量の出入りから[5]式で求められているので、[5]式と[15]式を等置すれば T = ρ・VA2・A0・(1+a)・b = ρ・VA2・A0・b・(1+b/2) [16] となるので、此方からも[11]式が得られる。 (d) プロペラ効率(理想効率)、スリップ比 プロペラはVA・(1+a)の流れの中で推力:Tを発生しているので、プロペラが実際にしている仕

事はT・VA・(1+a)である。しかしマクロに見ると、プロペラは推力:Tを発生しながらVAの速度

で前進しているのであるから、T・VAなる仕事をしていることになる。これらの仕事の比がプロ

ペラ効率であって ηI = T・VA/T・VA・(1+a) = 1/(1+a) [17] となる。

32

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ここで、プロペラによる流速の増加分:b・VAをSlip velocityと呼び 、プロペラ前進速度:VA

との比をSlip ratio:sと書けば s = b・VA/VA = b = 2a [18] であるから ηI = 1/(1+s/2) = 2/(2+s) [19] を得る。 この理論では

プロペラ円盤上の荷重度が均一である。 プロペラボスが無く、プロペラ円盤の全域が推力に寄与している。 プロペラ後流中に旋回流が無い。 流体に摩擦が無い。

とされていて、何れも現実に比べると効率が高くなる方向で、これ以上高い効率が得られる状況

は考えられない。そのため、このηIを「推進器の理想効率」と呼んでいる。 (e) プロペラ荷重度との関係 プロペラ荷重度(Thrust loading factor):CTを

2/VA

TC 2A0

T ⋅⋅ρ= [20]

で定義する。これは、推力を(プロペラ前進速度による動圧)×(プロペラ円盤の面積)で割った係

数になっている。[16]式と[18]式より CT = 2・b・(1 +b/2) = 2・s・(1 +s/2) = s・(2 +s) [21] を得るが、

1 + CT = 1 + s・(2 +s) = (1 + s)2 )0s1(s1C1 T >++=+⇒ Q [22]

であるから、 [19]式に代入すれば、効率とプロペラ荷重度の関係が

T

I C112++

=η [23]

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0

0 1 2 3 4

Efficiency

Thrust Loading Factor

のように得られるが、具体的に計算すると図のよう

になる。この式は異なったプロペラに対して効率を

比較する際の単純な基準を与えており、実用面で非

常に大きな意味を持っている。これより、「プロペ

ラ荷重度が高いプロペラは低いプロペラより効率

が低い」とか、「他の条件が大差無ければ直径の大き

なプロペラの方が高効率である」などが言える。 5

Ideal Efficiency

(3) MMG の関連 (a) プロペラによる流れの加速 次に MMG で使っている「プロペラによる流れの加速」について考える。この点について PNAには記述が無いが、要は Slip velocity を求めれば良い。 無限後流中の速度はVA・(1+b)であるから、[18]式と[22]式より

TAATA

A C1VV)b1(,C1s1V

V)b1(+⋅=⋅++=+=

⋅+ [24]

33

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を得る。(2)ではプロペラ荷重度:CTを使ったが、プロペラ特性を表すのに通常使われる係数は

2P

2A

2T

PP

A4

P2

PT DV

TJK

DnVJ,

DnTK

⋅⋅ρ=⇒

⋅=

⋅⋅ρ= [25]

であって MMG ではこちらを使っているので、換算する。[20]式と[25]式より

TT2P

2A

02

A4

P2

A2T C

8C

DV2/AV

DVT

JK

⋅π

=⋅⋅⋅ρ

⋅⋅ρ=

⋅⋅ρ= [26]

を得るので、[24]式より、プロペラの後流速度:(1+b)・VAは

2T

AA JK81VV)b1(⋅π

⋅+⋅=⋅+ [27]

となる。 (b) 実験式の在り方

確かにこれが正しい帰結ではあろうが、どうせ実験修正係数を加味するのに、推力係数が平方

根の中に入ったような複雑な式を使わなければならないのか、という気がするのは否めない。 一方、[16]式と[25]式より

4

)2/b1(bD

)2/b1(bADV

TJK

2P

02

P2

A2T +⋅⋅π

=+⋅⋅

=⋅⋅ρ

= [28]

を得る。したがって、b/2 を無視すれば

A

A2T

VbVb)2/b1(b

JK4 ⋅

=≈+⋅=⋅π⋅ [29]

であるから、

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

⋅π⋅

+⋅≈⋅+ 2T

AA JK41VV)b1( [30]

を得る。[30]式の方が[27]式より簡単な形だから実験修正係数を加味して使うなら[30]式の方が

良いとも考えられるが、どちらを使うかは実験結果と対比して(実験データの範囲で平方根の傾

向が見られるか否かを判断して)決めるべきだと考える。

34

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2.6.3 流体力計測上の留意点

1)拘束運動の確認 PMM や CMT を実施する X-Y-ψ電車

(CPMC)はかなり精度が高く設計されて

いるが,電車の走行運動は微妙に設定値

と異なる。これが機械的な仕組の旋回腕

試験などと大きく異なる点である。特に

斜航角は右図に示すように X-Y 電車で

作られる速度ベクトルと旋回テーブルの

旋回角との差であるから,3軸の制御の

どれかにわずかの遅れが存在しても,斜

航角は設定値と大幅に異なる結果となる。 Vy (Y 電車速度)

Vx X 電車速度

β 旋回角

曳引電車の拘束運動 Fig.2.6.3.1 はある角水槽の試験中の平

均の曳航速度と斜航角を,それぞれ設定

値から差し引いた誤差特性の例を示す。

CMT斜航角誤差(deg)

-2

-1

0

1

2

-25 -20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20 25

旋回角速度(deg/s)

CMT速度誤差(m/s)

-0.010

0.000

0.010

0.020

0.030

0.040

-25 -20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20 25旋回角速度(deg/s)

Fig. 2.6.3.1 CMT 中の平均斜航角と速度誤差の特性

35

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この特性を考慮しない(設定値を用いた)場合と電車の拘束運動を計測し解析した場合で流体力

微係数がどのように異なるかの一例を Table 2.6.3.1 に示す。CMT 中の斜航角の誤差は最大でも

2°程度であったが,解析した微係数は,斜航角の微係数より r に関する微係数が大きく異なるこ

とがわかる。 Table 2.6.3.1 CMT 電車の走行特性を考慮した場合としない場合の解析される流力微係数の違

い 「うしお丸」船体延長・増トン船型の例

拘束運動を計測した解析結果

設定値で解析

X'ββ -0.1238 -0.1122 X'βr-my -0.2040 -0.1857 X’rr -0.0182 -0.0268 X'ββββ 0.8212 0.6883

Y'β 0.5325 0.5303

Y'r-mx 0.0098 -0.0132 Y'βββ 1.3040 1.2911 Y'ββr 0.1444 0.2116 Y'βrr 0.5920 0.7364 Y'rrr 0.0092 0.1687

N'β 0.1187 0.1206 N'r -0.0586 -0.0747 N'βββ 0.4082 0.4193 N'ββr -0.5892 -0.5966 N'βrr -0.0020 -0.0002 N'rrr -0.0191 0.0029

以上より,角水槽における CMT 電車の平均走行特性を設定値にできる限り一致させるよう制

御調整することが重要である,機構的には設定値と完全に一致させることは不可能に近い。これ

に費やす費用や労力も膨大である。 したがって,流体力を解析する際,必ず電車の走行状態を流体力計測と同期して時々刻々計測

し,電車の走行結果を流体力解析に反映するという方法が不可欠になる。

36

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2)計測される力に含まれる検力計の慣性力とその控除 検力計内部には少なからず質量が存在するため,検力計で検出される力には,検力計に作用

する加速度に応じて慣性力が混入する。模型船の力を正しく計測するには,この慣性力を控

除する必要がある。今,船体中央からxC にある検力計(x軸方向の質量をmGX, y軸方向の質量

をmGY, z軸方向の慣性2次モーメントをIGZ)の受感部に採用する力(検力計で計測される水平

3分力力)をXE, YE, NE,また模型船に作用する水平3分力をXC, YC, NCとすると,検力計の運

動方程式は以下となる。

(2.6.3.1) ⎪⎭

⎪⎬

+−=+−=++−=−

CECGZ

CECCGYCGY

CECCGXCGX

NNrIYYrumvm

XXrvmum

&

&

&

ただし, は検力計に作用する加速度成分, は速度成分である。したがっ

て,実際に模型船を拘束する水平3分力をXCCC rvu &&& ,, CCC rvu ,,

C, YC, NCは次式となる。

⎪⎭

⎪⎬

+=++=

−+=

CGZEC

CCGYCGYEC

CCGXCGXEC

rINNrumvmYY

rvmumXX

&

&

&

(2.6.3.2)

(1) 1点ゲージ方式の場合

一点ゲージ式の場合は拘束位置と計測位置が一致しているので,上式は計測位置の加速度成

分: と加速度成分, で書き直すことができる。すなわち mmm rvu && ,, CCC rvu ,,

⎪⎭

⎪⎬

+=++=

−+=

mGZEC

mmGYmGYEC

mmGXmGXEC

rINNrumvmYY

rvmumXX

&

&

&

(2.6.3.3)

また,CMT では であるから, 0=== mmm rvu &&&

⎪⎭

⎪⎬

=+=

−=

EC

mmGYEC

mmGXEC

NNrumYY

rvmXX (2.6.3.4)

ここで,検力計の位置が船体中央の場合は,

であり,( ) であ

るから,(2.6.3.4)式は 0=mx ),,(,, rvurvu mmm =

xm

(um, vm, rm)

⎪⎭

⎪⎬

=+=

−=

EC

GYEC

GXEC

NNurmYY

vrmXX (2.6.3.5)

となる

37

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(2) 2点ゲージ方式の場合 2点ゲージ方式で拘束試験を行った場合,以下のように控除を行う。すなわち,二つの拘束

点の位置を,回転中心を原点としてx軸方向に新たに�軸を定義し,この座標をξm1, ξm2とする。

また,それぞれの検力計のx軸方向の質量をmGX1, mGX2, y軸方向の質量をmGY1, mGY2とする。回転

中心からξの位置にある速度と加速度成分は,

(um, vm, rm)

xmξ1ξ2

⎪⎭

⎪⎬

=+=

=

mC

mmC

mC

rrrvv

uuξ (2.6.3.6)

⎪⎭

⎪⎬

=+=

=

mC

mmC

mC

rrrvv

uu

&&

&&&

&&

ξ (2.6.3.7)

であり,この関係を(2.6.3.2)式に代入すると,この位置における検力系で計測される力が以下

のように求まる。ただし,この場合,モーメントは2つの横力から求めるので,モーメントの

式は不要になる。すなわち,

( )( ) ⎭

⎬⎫

+++=+−+=

mmGYmmGYEC

mmmGXmGXEC

rumrvmYYrrvmumXX

11111

11111

&&

&

ξξ

(2.6.3.8)

( )( ) ⎭

⎬⎫

+++=+−+=

mmGYmmGYEC

mmmGXmGXEC

rumrvmYYrrvmumXX

22222

22222

&&

&

ξξ

(2.6.3.9)

上式から,2点ゲージ式における実際の模型船拘束力は次式に書き表すことができる。

(2.6.3.10)

( ) ( )( ) ( )

( ) ( ) ( )( )

( ) ( ) ( )( ) ⎪

⎪⎪⎪⎪⎪

⎪⎪⎪⎪⎪⎪

+++++++=

+=++

+++++=+=

+−+−

+++=+=

mmGYGY

mGYGYmGYGYEmEm

CCC

mmGYGY

mGYGYmGYGYEE

CCC

mGXGXmmGXGX

mGXGXEE

CCC

rummrmmvmmYxYx

YYNrumm

rmmvmmYYYYY

rmmrvmm

ummXXXXX

2211

222

21122112211

22111

21

22112121

211

2221121

2121

21

ξξξξξξ

ξξ

ξξ

ξξ

&&

&&

&

38

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CMT では 0=== mmm rvu &&& であるから,

( ) ( ) (

( ) ( )

( ) ( ) ⎪⎪⎪⎪

⎪⎪⎪⎪

+++=+=

+++=+=

+−+−+=

+=

mmGYGYEE

CmCmC

mmGYGYEE

CCC

mGXGXmmGXGXEE

CCC

rummYYYxYxN

rummYYYYY

rmmrvmmXX

XXX

22112211

2211

2121

21

222112121

21

ξξξξ

ξξ ) (2.6.3.11)

また,拘束回転中心が船体中央の場合は, ( ) ),,(,, rvurvu mmm = であるから,(2.6.3.11)式は

(2.6.3.12)

( ) ( ) (

( ) ( )

( ) ( ) ⎪⎪⎪⎪

⎪⎪⎪⎪

+++=+=

+++=+=

+−+−+=

+=

urmmYYYxYxN

urmmYYYYY

rmmvrmmXX

XXX

GYGYEE

CmCmC

GYGYEE

CCC

GXGXGXGXEE

CCC

22112211

2211

2121

21

222112121

21

ξξξξ

ξξ )

となり,検力計の慣性力を控除する必要がある。 なお,3点ゲージ方式の場合も,同様な取扱い方で,検力計の慣性力を控除する式を導くことが

できる。ただし,複数の検力計で流体力を計測する場合,拘束装置の可動部が慣性力として混入

する場合があり,拘束機構を精査して上記と同様にこれらの慣性力を除く必要がある。

3)計測される力に含まれる模型船の慣性力とその控除 水平面の操縦運動を記述する場合,船体重心に固定した移動座標を用いると,基本となる運動

方程式は以下の(2.6.3.13)式である。

(2.6.3.13) ⎪⎭

⎪⎬

==+=−

GGZZ

GGGG

GGGG

NrIYrmuvmXrmvum

&

&

&

ここで,船体中央の速度成分を rvu ,, とし,ここから模型船の船体中心線上の前方xGに模型船

の重心,また模型船の拘束位置をxm として,それぞれの速度成分を および

とすると,速度成分と加速度成分の関係式は次式となる。 GGG rvu ,, mmm rvu ,,

速度成分の関係式

( ) ( )2222mmmmGGGG

mG

mmmGGG

mG

rxvurxvuU

rrrrxvrxvv

uuu

−+=−+=

⎪⎭

⎪⎬

==−=−=

==

(2.6.3.14)

39

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加速度成分の関係式

⎪⎭

⎪⎬

==−=−=

==

mG

mmmGGG

mG

rrrrxvrxvv

uuu

&&&

&&&&&

&&&

(2. 6.3.15)

v

u

r

vm

um

rm

xmxG

vG

rG

また,船体中央,船体重心,船体拘束位置における外力を ( )NYX ,, , ( )GGG NYX ,, ,およ

び とすると,力の関係式は次式となる。 ( mmm NYX ,, )

(2.6.3.16) ⎪⎭

⎪⎬

+=+===

==

mmmGGG

mG

mG

YxNYxNNYYY

XXX

以上の関係から,拘束位置における運動方程式は次式となる。

( ){ }( ){ }

( ) ⎪⎭

⎪⎬

−+==+−−=−−−

mGmmmZZ

mmmmGmm

mmmGmmm

YxxNrIYrmurxxvmXrrxxvmum

&

&&

&

(2.6.3.17)

すなわち,

( ){ }( ){ }( ) ( ){ }[ ] ⎪

⎪⎬

=+−−−−=+−−=−−−

mmmmGmmGmmZZ

mmmmGmm

mmmGmmm

NrmurxxvmxxrIYrmurxxvmXrrxxvmum

&&&

&&

&

(2.6.3.18)

これを整理すると次式が得られる。

( )( ){ }( ){ } ( ) ( ) ⎪

⎪⎬

=−−−−−+

=+−−=−+−

mmmGmmGmmGmZZ

mmmmGmm

mmGmmmm

NruxxmvxxmrxxmI

YrmurxxvmXrxxmrmvum

&&

&&

&

2

2

(2.6.3.19)

ここで,拘束位置における拘束力を ( )CCC NYX ,, とすると,

( )( ){ }( ){ } ( ) ( ) ⎪

⎪⎬

−=−−−−−+

−=+−−−=−+−

CmmmGmmGmmGmZZ

CmmmmGmm

CmmGmmmm

NNruxxmvxxmrxxmI

YYrmurxxvmXXrxxmrmvum

&&

&&

&

2

2

(2. 6.3.20)

あるいは,

40

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( )( ){ }( ){ } ( ) ( )

⎪⎪

⎪⎪

−−=−−−−−+

−=+−−−=−+−

⊗ Cm

mmGmmGmmGmZZ

CmmmGmm

CmGmmmm

NYxNruxxmvxxmrxxmI

YYrmurxxvmXXrxxmrmvum

&&

&&

&

2

2

(2.6.3.21)

これより,解析すべき船体中央における流体力 ( )NYX ,, は,

( )( ){ }

( ){ }[ ]( ){ } ( ) ( ) ⎪

⎪⎪

−−−−−++

+−−++=+−−+=

−+−+=

mmGmmGmmGmZZ

mmmGmmCmC

mmmGmmC

mGmmmmC

ruxxmvxxmrxxmI

rmurxxvmYxNNrmurxxvmYY

rxxmrmvumXX

&&

&&

&&

&

2

2

(2.6.3.22)

すなわち,

( )( ){ }

( ){ }[ ]( ){ } ( ) ⎪

⎪⎪

+−−−++

−−++=+−−+=

−+−+=

mmGmGmmGmZZ

mGmmCmC

mmmGmmC

mGmmmmC

rumxvxxmrxxmI

rxxvmYxNNrmurxxvmYY

rxxmrmvumXX

&&

&&

&&

&

2

2

(2.6.3.23)

となり,船体中央における流体力 ( を船体中央の運動)NYX ,, ( )rvu ,, あるいは ( )rU ′,, β で表

現することになる。 ここで,CMT 中の流体力は定常旋回中であることから ( )0,, =mmm rvu &&& なので,

( )

⎪⎭

⎪⎬

++=+=

−+−=

mmGCmC

mmC

mGmmmC

rumxYxNNrmuYY

rxxmrmvXX 2

(2.6.3.24)

また,斜航中の流体力は旋回運動を伴わず, 0=mr なので,

⎪⎭

⎪⎬

+===

CmC

C

C

YxNNYYXX

(2.6.3.25)

となる。 以上のように、個々の計測システムによって計測される力には種々の慣性力が混入する

ことから、これらを適切に除去し、操縦流体力とすることが必要である。

41

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3.流体力の数学モデルの検証

3.1 CFD を用いた船体と舵間の相互干渉影響の研究

3.1.1. はじめに

VLCC 等の肥大船は船型的に針路安定性が低下する傾向がある。これは稀に海難事故を引き

起こし、タンカーやケミカル船の場合は重大な海洋汚染に繋がる場合もある。このことからも

IMO は船舶が満たすべき操縦性基準を定めており、設計段階での操縦性能評価は重要である。 船舶の操縦性能評価には操縦シミュレーションが一般的に用いられ、MMGモデルは最も知ら

れた操縦モデルのひとつである。1)MMGモデルでは船体流体力を船体、舵、プロペラそれぞれ

の単独での流体力、及び各要素間の相互干渉を用いて表す。これら相互干渉は数学式内では係数

として表現されるが、これらの係数はその妥当性が確認されていても、その物理的意味は未解明

のものもある。 IMO 操縦性基準を満足するためには操縦性能の正確な評価、ひいては上記のような係数の物

理的意味の解明が重要となり、CFD は操縦運動時の船体まわり流場を詳細に解析する効果的な

手法のひとつである。私たちの研究グループは操縦モデル内で用いられる干渉影響などを表す係

数の物理的意味の解明を目的に、CFD を用いた操縦運動時の流場解析を行っており、本報では

1 軸の舵付き肥大船を対象に流体力の数値計算結果、及び船体・舵間の干渉影響について検討を

行った結果について報告する。 3.1.2. 操縦モデル

はじめに操縦運動の座標系を Fig. 1 に示す。

Fig.1 Coordinate System

ここで、O-x0,y0:空間固定座標系、G-x,y:船体固定座標系、ψ:方位角、u, v:船速のx, y方

向成分、U:船速の合速度、r:回頭角速度、X, Y, N:船体に働く前後力、横力、回頭モーメン

ト、β:斜航角、δ:舵角、FN, FT:舵直圧力・接線力、T:プロペラスラスト。

42

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本紙では MMG モデル内で用いられる係数について検討を行っており、流体力、及び回頭モ

ーメントは以下のように表される。 ( ) ( )( ) ( )( ) RHZZZZ

RHxy

PRHyx

NNrJI

YYurmmvmmXXXvrmmumm

+=+

+=+++

++=+−+

&

&

&

(1)

ここで、m, mx, my:船の質量、付加質量、IZZ, JZZ:慣性モーメント、及び付加慣性モーメン

ト、XH, YH, NH:船体単独の流体力、モーメント、XR, YR, NR:船体単独の流体力、モーメント、

XP:プロペラスラスト。 (1)式で表される船体の要素毎の流体力のうち、舵力について見ると、干渉影響を含んだ形で

(2)式のように、また(2)式内の FN は(3)式のように表される。

( )( )( ) δ

δδ

coscos1sin1

NHHRR

NHR

NRR

FxaxNFaYFtX

+−=+−=−−=

(2)

( ) ( rlvuUUAfF

RRRR

RRRN

′′+′−==

γδααρ α

2sin21)

(3)

ここで、tR:前後方向の舵干渉力係数、aH:横方向の舵干渉力係数、xH:横方向の舵干渉力

作用位置、xR:舵前後位置、ρ:水の密度、fα:舵直圧力係数勾配、αR:舵流入迎角、AR:舵可

動部面積、uR:前後方向の舵流入流速、UR:舵流入合速度、v’:無次元横流れ速度(=v/U)、r’:無次元回頭角速度(=rL/U)、γR:整流係数、l’ R:舵位置の修正係数。

上記の舵干渉係数の他にも MMG モデル内では様々な係数が扱われているが、それらの中に

はその物理的意味が未解明のものがあり、例えば舵干渉係数は船体に働く干渉力と舵に働く干渉

力がまとめて舵力の一部として扱われている。本報ではこれらの係数のうち、舵の干渉係数につ

いて着目し、次章以降で検討を行っていく。 3.1.3. 計算方法

本研究では肥大船型を対象とした操縦運動時の数値計算を実施した。運動は拘束旋回試験と同

様に斜航角 β、無次元回頭角速度 r’を一定とした定常計算とし、それぞれ-0.4<r’<0.4、-20deg.<β<20deg.で変化させて行った。

CFDコードには (独 )海上技術安全研究所開発の“SURF” (Solution algorithm for Unstructured RaNS with FVM)2)を、格子作成には商用ソフトである“Gridgen”を用いた。格

子トポロジーはH-O、最小格子間隔は境界層方向で 2.0×10-6、格子セル数は両舷で 400 万セル

とした。格子の概形図をFig.2 に示す。

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Fig. 2 Computational Grid

計算条件として、レイノルズ数Re=2.612×106 (U=0.85m/s)とし、乱流モデルにはk-ω SSTモ

デルを用いた。また自由表面影響は考慮せず、二重模型流れの計算を行った。計算格子要目、及

び計算条件をTable 1 に示す。

Table 1 Principals of Computational Grid and Numerical Conditions 格子トポロジー H-O 最小格子間隔 2.0×10-6

格子セル数 400 万セル(両舷) レイノルズ数 2.612×106

乱流モデル k-ω SST 3.1.4. 計算結果

はじめに裸殻状態の計算結果について、その計算精度の検討を行った。Fig.3 に無次元の横力

Y’、及び回頭モーメント N’の結果と IHI 試験水槽で実施した試験結果との比較を示す。

Fig.3 The Comparison of Lateral Force and Moment with EFD

CFD は横力を過小評価する傾向が見られ、特に r’=1.0 や β=20deg.のような運動の大きい範囲

ではその傾向が大きく見られるが、これは CFD では考慮されていない造波抵抗の影響が含まれ

ていることが原因と考えられる。ただし、全体として計算結果は試験結果の傾向をよく捉えてお

り、誤差も 10%程度と CFD は十分な精度で流体力を推定できていることが確認できた。

44

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次に舵付き状態の計算を実施し、舵単体の力と船体・舵間に働く干渉力について検討を行った。

計算で使用される格子形状は計算安定化などの目的で部分的に省略、簡略化される場合があるが、

本研究では舵の干渉影響、及びそれが船体のどの部分に起因しているのかなどを検討するため、

舵まわり形状の再現性を部分的に変えた複数の格子を用いて行った。Fig. 4 に各格子の舵まわり

形状図を示す。

Fig. 4 The Shape Around the Rudder (upper left: based grid, upper right: grid with shaft,

lower: grid with horn) Fig. 4 左側に示した based grid はプロペラシャフトやラダーホーンを省略した格子であり、

真ん中の格子は based grid にプロペラシャフトを付加した格子となっている。これら 2 つの格

子は実際の舵の可動部と非可動部を一体として作成しており、操舵状態の計算時は舵全体が回転

した形状となる。右側の格子はさらにラダーホーンを再現した格子となっており、舵前縁の上半

分がホーンとして模型船と同様に操舵時も動かないように作成している。 上記の格子を用いて直進操舵計算を実施した結果について、まずFig. 5 に無次元舵力の水槽試

験結果との比較を示す。Fig. 5 から舵直圧力FNはどの格子についても 3%程度以内の誤差で水槽

試験結果と一致していることがわかる。接線力FTについては水槽試験では舵角が±20deg.より

大きい範囲では推力として働いており、ホーン付き格子ではこの傾向が捉えられている。しかし、

舵・ホーン一体型の格子では大舵角時も抵抗となっており、これは単純に操舵によって全体が動

くことで抵抗が増加していることが原因と考えられる。

Fig. 5 The Comparison of Rudder Force with EFD

45

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次に船体・舵間の干渉係数tR、aH、xHについて検討を行う。これらの係数はMMGモデル内で

(2)式のように記述され、プロペラなしの場合は(1)式、(2)式を用いて次式のように表される。た

だし、ここでX、Y、Nは(1)式の左辺である。

( )( )( ) δ

δδ

coscos1sin1

NHHRH

NHH

NRH

FxaxNNFaYYFtXX

+−=+−=−−=

(4)

舵角によらず船体単独の流体力は一定とすると、操舵時の舵直圧力の変化に対する全体流体力

の変化から舵干渉係数は求めることができる。舵干渉係数について、水槽試験結果、及び各格子

の計算結果から解析した値の比較をTable 2 に示す。ただし、FNの値は実験、計算ともホーン部

を含めた値となっており、また舵に働く干渉力も含まれていることに注意されたい。

Table 2 The Interaction Coefficients EFD based grid with shaft with horn tR 0.254 0.130 0.115 0.272 aH 0.433 0.278 0.031 0.338 xR+aHxH [m] -2.681 -2.220 -1.853 -2.310 xH /Lpp -0.537 -0.381 -0.028 -0.389

まずtRについて見ると、実験・計算ともに正の値となっているが、これは(3)式で表されるよ

うに操舵によって舵力による抵抗が小さくなっていることを示している。定量的にはbased grid、シャフト付き格子は同程度の値で、ともに試験結果より過小評価しており、シャフト部の再現に

より与える影響は小さいことが確認できる。その一方でホーン付き格子の結果は試験結果とも近

い値となっており、ホーン部の再現がtRによって表される現象に影響を与えていることが推定で

きる。 aHは、CFDではどの格子でも過小評価しているが、こちらでもホーン付き格子が最も試験結

果と近い値となっており、このことからホーン部の再現がaHにも影響を与えていることが推定

できる。シャフト付き格子の結果は他に比べて悪い結果となっているが、これについてはシャフ

ト格子のシャフトを含む船尾の一部がFig. 4 からもわかるように、非構造格子で作成されている

影響が考えられる。ただし、本検討ではこのことによる格子依存性の検討は十分に行えておらず、

この結果がシャフトの有無によるものか、格子の差によるものかなどの検討は今後の課題である。

最後にxHについて見ると、他の係数同様ホーン付き格子が最も試験に近い値となっている。 上記の結果を検討するため、操舵時の船体まわり流場の現象について確認を行う。まず Fig. 6

にホーン付き格子について操舵時の船体表面圧力分布を示す。この結果から舵角が大きくなると

ともにオーバーハング部の圧力回復が小さくなり、船体抵抗が増加しているであろう様子がわか

る。

46

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Fig.6 The Contour of Pressure on The Ship-Hull in The Grid with Horn

Fig. 7 には各格子について舵角 20deg.、35deg.の結果から 5deg.の圧力分布を差し引いて解析

した、操舵による船体表面圧力の変化量を示す。ただし、計算収束上の問題からホーン付き格子

については 20deg.の代わりに 25deg.の結果を用いている。Fig. 8 には同様のコンターを船底方

向から見た図を示す。 Fig. 7 から船尾右舷側に圧力上昇が見られ、舵角が大きくなるのに伴い、圧力上昇も大きくな

っている様子がわかる。この船体右舷側の圧力は-Y方向の力として船体に働いており、式(2)からもaHで表される現象を表していることがわかる。ホーンがない格子ではこの圧力上昇が船尾

左舷側にも強く表れており、これは一体舵では本来ホーンにあたる部分が操舵によって左舷側を

向くことで発生していると思われ、この左舷の圧力上昇はaHを小さくする方向に働いており、

Table 2 の係数の値の傾向と一致している。 Fig. 8 からはFig. 6 で見られた操舵によるオーバーハング部の圧力低下が確認できるが、各格

子の分布を比較するとホーン付き格子では圧力低下量が小さくなっていることがわかる。これは

単純にホーン部が非可動であるため、舵の陰になる部分が減っているためと考えられるが、これ

によってホーン付き格子でtRの推定値が試験結果に近くなる傾向が説明できる。この格子による

差はtRの現象そのものを表しているわけではないが、CFDで検討する際にはホーンの有無が推定

結果に影響を与えることを示している。

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The based grid

The grid with shaft

The grid with horn

Fig.7 The Variation of the Pressure from Condition of 5deg Rudder Angle (backward view)

The based grid The grid with shaft

The grid with horn Fig.8 The Variation of the Pressure from Condition of 5deg Rudder Angle (bottom view)

Port

Stb.

Port

Stb.

Port

Stb.

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以上の結果から、船体・舵間の干渉力は MMG モデル内では舵力の一部として扱われている

が、これには船体に働く力も含まれており、操縦性能を正確に評価するためには数学モデルの表

現方法の見直しも必要となる可能性が示唆された。またラダーホーンの有無は舵干渉影響に関係

しており、CFD を用いた評価を行う際にはホーン部を含めた検討を行うべきである。 3.1.5. まとめ

本報では肥大船型を対象に裸殻状態、及び舵付き状態で数値計算を実施し、以下のことが明ら

かになった。 (1) 操縦運動時の裸殻流体力は CFD により水槽試験に近い値が推定可能であり、舵直圧力につ

いても高い精度で推定できた。また舵接線力についてはラダーホーンを考慮することで試験

の傾向を捉えられた。 (2) 船体・舵間の干渉係数tR 、aH は操舵による船尾部、及びオーバーハング部の圧力変化とし

て表れる。 (3) さらにホーンがない場合、実際の干渉力と反対方向の力も発生することを確認し、正確な推

定を行うためにはホーンを考慮する必要があることがわかった。 参考文献 [1] 小瀬邦治, 湯室彰規, 芳村康男:操縦運動の数学モデルの具体化 -船体・プロペラ・舵の相

互干渉とその表現, 第 3 回操縦性シンポジウム, 1981, pp.27-80. [2] Hino, T., “Navier-Stokes Computations of Ship Flows on Unstructured Grids,” Proc. of

the 22nd Symp. on Naval Hydro., (1998) [2] 野中晃二, 原口富博, 上野道雄, et al. :船舶の操縦性能評価技術に関する研究, 海上技術安

全研究所報告, 2003, pp.97-114

49

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3.2 バラスト時の舵直圧力

貨物船の空荷あるいは半載などの状態では、推進器を没水させるためにバラスト水を搭載して

航行することになる。この載荷状態では、舵の上端は水面に露出することが多い。こうした状態

の操縦性能の推定については満載状態に準じて行われるが、舵力については、舵面積はもとより、

舵の揚力係数なども満載状態と同じ特性がそのまま使用されることが多い。この背景には、船の

停止状態で舵が水面上に露出していても、航走すると船尾波や舵前面の水面盛り上がりによって、

舵が没水した状態になるであろうとの考えに基づいている。しかし、バラスト状態の航走時にお

いて、舵はなお水面上に露出する場合がほとんどで、舵の流場状態が満載状態と大きく異なるに

もかかわらず、これらに関する研究例がほとんど無く、文献(1)にデータはなく僅かに記載され

る程度であるのが現状である。

本節では、以上のような背景から、バラスト状態の船舶の操縦性能をより正確に推定することを

目的として、舵の上端が水面上に露出する場合を含む舵の単独特性についてまず明らかにする。

このため大型の模型舵を製作し、水中を含む種々の没水状態について詳細な模型実験を行い、

その結果を解析するとともに、舵の流体力特性の推定方法についても検討を行った。

3.2.1 模型実験

1)模型舵

模型舵はTable 3.2.1 に示すようなアスペクト比Λ(=H/c, H:舵高さ, c:弦長)が 1.25 で翼厚比

t/c=0.194 の矩形舵を製作した。舵断面形状はFig. 3.2.1 に示すように、船舶設計便覧に記載され

る標準断面形状(2) とした。舵軸位置は別途シリング舵との違いを比較する目的で、通常よりや

やオーバーバランスとなる舵前縁から弦長(舵長さ)の 37.5%の位置にφ12mmの舵軸を配置した。

なお、乱流促進として舵前端から 8%弦長の箇所を中心として幅 18mm幅の# 100 サンドペーパー

を貼り付けた。模型舵の写真をFig. 3.2.2 に示す。

Table 3.2.1 Dimension of rudder model.

Rudder height H m 0.300 Rudder length (=chord length) c m 0.240

Pintle from leading edge a m 0.090 Rudder area AR m2 0.072 Thickness ratio t/c 0.194 Aspect ratio Λ=H/c 1.25

8.4 15.3 20.2 23.3 19.0

c =240 a =90

Fig. 3.2.1 Rudder model section (unit:mm).

Fig. 3.2.2 Rudder model.

2) 実験方法と装置

実験は北海道大学水産学部の大型水理

50

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実験水槽(長水槽)にて、前述の模型舵の

舵軸を3分力計に固定し、回転装置、昇降

装置を介して曳引電車に取付けた。舵角は

迎角に対する全体的な特性を把握する目

的で-5°~90°の範囲とし、舵力の変化が大

きい最大揚力付近ではピッチを細かくし、

各舵角に対する定常の舵前後力FT、直圧力

FNおよび舵軸周りのモーメントMPを計測

した。これらの力の座標系を舵角δと共に

Fig. 3.2.3 に示す。また、舵の没水深度は以

下の5種類とした。これらの状態をFig.

3.2.4 に示す。

(1) 全没状態(舵上端の没水深度が 0.3m) (2) dR=0.30mで全没だが舵上端が水面の状態

(3) dR=0.25mで舵上端が 0.05m露出状態

(4) dR=0.20mで舵上端が 0.10m露出状態

(5) dR=0.15mで舵上端が 0.15m露出状態

δ FTMP

dR

H

ca

FN

U

Fig. 3.2.3 Co-ordinate system.

曳航速度Uは臨界レイノルズ数を超える 1m/s (Re=2.4×105)とした。なお、(1)の全没状態の舵

力の計測に際しては、舵軸が水中にあることから、別途舵軸状態だけの力を別途計測し、これ

を舵付きの計測結果から控除した。模型実験装置の写真をFig.5 に示す。検力計は汎用の精密型

3分力計(LMC-3504- 200N, Fx:200N/ Fy:200N/ Mz: 80Nm)を使用し、舵角は電動サーボ駆動方

式で 0.1°の精度で設定できるようにした。

turn table

3-component oad cell

rudder model

(5) dR =0.15m (4) dR =0.20m (3) dR =0.25m

(1) fully immersed

0.30m

(2) dR=0.30m

Fig. 3.2.4 Immersion of rudder model.

Fig. 3.2.5 Arrangement of model test.

51

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3.2.2 実験結果と解析

計測したFT , FNを各深度における静止状態の没水舵面積ARi(=c×dR)を用い、次式で無次元化し

てFig. 3.2.6 に示す。ただし、(1)の全没状態の舵面積は従来どおりAR (=c×H)で無次元化している。

MPはFNで除して舵直圧力の作用位置xPとし、これを舵の弦長cで無次元化して示す。いずれも横

軸は舵角δである。

( )⎪⎪⎪

⎪⎪⎪

=′

=′

=′

cFMx

UAFF

UAFF

NPP

RiNN

RiTT

2

2

2

ρ

(3.2.1)

また、上記のF’T , F’Nから、舵の揚力係数CLと抗力係数CDは座標変換して次式で表すことがで

きる。

(3.2.2) ⎭⎬⎫

′+′−=

′+′=δδ

δδsincos

cossin

NTD

NTL

FFCFFC

1) 舵の前後力FT

F’Tはマイナス方向が抵抗側になる。完全に没水した状態では舵角 0°付近は舵の摩擦抵抗など

でマイナスであるが、10°付近からプラス側に転じる。しかしFig. 3.2.7 の抗力係数CDはマイナス

になることはなく、依然抵抗側である。舵角 23°付近では揚力の失速に伴って急激にマイナス

-0.2

-0.1

0

0.1

0.2

-10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90δ rudder angle (deg)

F' T H=0.15mH=0.20mH=0.25mH=0.3Fully Immersed

△ d R=0.15m◇ d R=0.20m□ d R=0.25m○ d R=0.30m● fully immersed

-0.5

0

0.5

1

1.5

-10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90δ rudder angle (deg)

F' N

dR=0.15mdR=0.20mdR=0.25mdR=0.3Fully ImmersedBeaufoy's

△ d R=0.15m◇ d R=0.20m□ d R=0.25m○ d R=0.30m● fully immersed

Beaufoy's

-0.2

-0.1

0

0.1

0.2

-10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90δ rudder angle (deg)

x' PH=0.15mH=0.20mH=0.25mH=0.3Fully ImmersedJossel's

△ d R=0.15m◇ d R=0.20m□ d R=0.25m○ d R=0.30m● fully immersed

Joessel's

Fig. 3.2.6 Measured rudder force components and acting point for various immersed condition.

52

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-0.5

0

0.5

1

1.5

-10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90δ rudder angle (deg)

C L H=0.15mH=0.20mH=0.25mH=0.3Fully Immersed

△ d R=0.15m◇ d R=0.20m□ d R=0.25m○ d R=0.30m● fully immersed

-0.5

0

0.5

1

1.5

-10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90δ rudder angle (deg)

C D

H=0.15mH=0.20mH=0.25mH=0.3Fully Immersed

△ d R=0.15m◇ d R=0.20m□ d R=0.25m○ d R=0.30m● fully immersed

Fig. 3.2.7 Measured CL and CD for various immersed condition.

Condition (2) dR=0.30m (face side) (back side)

Condition (3) dR=0.25m (face side) (back side)

Condition (4) dR=0.20m (face side) (back side)

Condition (5) dR=0.15m (face side) (back side)

Fig. 3.2.8 Photographs of wave profiles during experiments for various immersed condition

(rudder angle=15°).

53

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側となり、CDもこの角度でステップ的に増加する。その後、舵角の増加と共に舵の前後力は減

少して 90°ではプラス側になるが、この時の抗力の主体は次に示すFNであり、CDは 1.2 程度に達

する。これに対して、舵の没水深度が浅くなると、舵角零付近におけるF’Tは増加する。これは、

Fig. 3.2.8 に示すように、舵が水面上に露出して造波抵抗が発生することによるもので、またこ

れを舵面積で無次元化しているため、没水深度が浅くなるとF’Tの絶対値が大きくなる方向にな

っている。CDにもこの傾向が現れ、完全没水状態に比べて全般的に大きいが。舵角 60°以上では

完全没水状態の特性に漸近する。

2) 舵直圧力FN

完全没水状態の直圧力特性は舵角15°までほぼ直線的に増加するが、それ以上では増加が鈍り、

23°付近で失速現象が現れる。これをFig. 3.2.7 に示す揚力係数CLで見ると、失速後は再びCLが増

加し、40°~50°で最大揚力係数になり、その後は 90°に向けて零に近づく。これに対し、舵の没

水深度が浅くなると、いずれの没水深度においても顕著な失速現象が現れない。完全没水状態よ

りもCLが大きくなり、舵角 30°付近で最大揚力となって、最大揚力係数も完全没水状態を上回る

結果となる。この一因として、試験状態における舵の左右の写真をFig. 3.2.8 に示すが、舵が水

面に露出すると舵の背面(back side)の圧力低下に応じて水面が低下することにより、舵の背面剥

離が軽減されるのではないかと推測される。ただし、この点は流線観測あるいはCFDなどで今後

検討する必要があろう。なお、舵角 50°以上では没水深度に関係なく、完全没水状態とほとんど

一致する特性になることがわかる。

因みに、舵直圧力の推定式としてBeufoy式(2)

(3.2.3) δsin8.58 2UAF RN =

が造船設計の現場で現在も広く使用されるが、この特性を実験結果と同様に(3.2.1)式で無次元化

してFig. 3.2.6 のF’Nの図に破線で示す。これを完全没水状態の計測結果と比較すると、Beufoy式

による推定は、失速までは実験結果に比べて 2/3 程度と小さいながら、失速後から舵角 90°に至

る特性は概ね計測結果によく合うことがわかる。舵のアスペクト比などの関数を含まない極めて

単純な推定式であるが、大舵角を含む舵直圧力の全体的な特性を表現できることが確認できる。

3) 舵直圧力の作用位置xP

舵直圧力の作用位置は、操縦性能の推定には直接関係しないが、舵の設計に際して舵軸位置の

決定に重要である。全没水状態における作用位置は、舵角零付近では舵軸から弦長の 17%程度

前方側に位置しており、舵角 15°まではこの付近にあるが、それ以上では後方に移動し、23°付

近の失速で急激に弦長の 10%程度ジャンプする。失速後の直圧力作用位置は徐々に後方に移動

して、90°では舵軸後方の弦長の 15%の位置に達する。これに対し、舵の没水深度が浅くなると、

小舵角においては、完全没水状態より弦長の 10%程度後方に位置し、舵角 30°以上では前述の完

全没水状態とほぼ同じ作用位置になっていることがわかる。

舵直圧力の作用位置の推定式として現在も造船設計で使用される 1873 年のJoessel式(2) がある。 δsin305.0195.0 +=cx (3.2.4)

この式における舵直圧力の作用位置xは、舵の前縁を原点としているので、舵軸を原点としてFig.

3.2.6 のx’Pの図に破線で示す。この推定特性を完全没水状態の計測結果と比較すると、Joessel式

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による推定は、失速角前後では実験値とやや違いがあるものの、それ以外の広範な舵角に対して

よく一致し、古典的な推定式ながら、舵軸周りの舵力モーメントの推定に有効なことが再確認で

きる。

3.2.3 没水深度が小舵角の直圧力係数勾配に及ぼす影響

前述の無次元直圧力係数F’Nを舵角-5°~10°の範囲で拡大表示し、各状態について舵角に対して

直線近似した特性をFig. 3.2.9 に示す。この図から各状態の直圧力係数勾配fαを求めた結果をTable

3.2.3 の左列に示す。

Table 3.2.3 Comparison of fα , measured and Fujii’s form

Condition Measured

Geometric aspect ratio

Effective aspect ratio

Fuji's fα

Fully immersed 2.068 1.250 - 2.189 dR=0.30m 2.779 1.250 2.500 3.226 dR=0.25m 2.716 1.042 2.083 2.947 dR=0.20m 2.510 0.833 1.667 2.609 dR=0.15m 2.206 0.625 1.250 2.189

-0.4

0

0.4

0.8

-10 0 10 20

δ rudder angle (deg)

F' NH=0.15mH=0.20mH=0.25mH=0.3Fully Immersed

△ d R=0.15m◇ d R=0.20m□ d R=0.25m○ d R=0.30m● fully immersed

Fig. 3.2.9 Measured rudder normal force coefficient within the small rudder angle

for various immersed condition.

0

1

2

3

4

0 1 2

Λ effrctive aspectratio

3

f α

H=0.15mH=0.20mH=0.25mH=0.3Fully Immersed

Fujii's △ d R=0.15m◇ d R=0.20m□ d R=0.25m○ d R=0.30m● fully immersed

Fig. 3.2.10 Derivatives of rudder normal force coefficient fα, measured and predicted.

種々の舵アスペクト比Λに対するfα は次式の藤井式(3) が実績もあり良く使用される。この特

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性をFig. 3.2.10 に示す。

( ) ( )Λ+Λ= 25.213.6αf (3.2.5)

完全没水状態の実験結果を同図の●印および Table 3.2.3 の上段に比較するが、この推定式による

値と実験結果は良く一致していることがわかる。

これに対し、舵の没水深度が浅く、舵の上端が水面に露出するdR=0.15m~0.25mの状態では、

幾何学的なアスペクト比を用いると、(5)式で計算されるfα は小さく、水面の鏡像効果を考慮し

てアスペクト比を 2 倍とし、これを(5)式における有効アスペクト比として計算すると、Table 3

あるいはFig. 3.2.10 に示すように実験結果に概ね一致し、元良の記載(1)のとおりになる。ただし、

舵の上端が水面すれすれになるdR=0.30mの状態では、舵アスペクト比を2倍にするとfα がやや

過大になる。これは、Fig. 3.2.8 の上図に示すように、舵のface側で盛り上がった水が舵上端をback

側へ越流し、この分、揚力が低下するためと考えられる。

3.2.4 この節のまとめ

バラスト状態の船舶の操縦性能をより正確に推定するため、舵の上端が水面上に露出する場合

の舵特性を明らかにすべく、舵の単独試験を行った。本研究で得られた主な結論を以下に要約す

る。

1) 舵の上端が水面上に露出する場合の舵直圧力推定に際し、舵面積は船体停止状態における没

水面積を用いると、直圧力係数勾配の推定に必要なアスペクト比は、水面の鏡像効果を考慮

して没水部分の幾何学的アスペクト比の2倍を用いる必要がある。

2) ただし、舵の上端部分が水面に近く、舵の face 側で盛り上がった水が舵上端を back 側へ越流

する場合は、上記のアスペクト比を用いると直圧力をやや過大に推定する。

3) 舵の上端が水面上に露出する場合は、失速現象が顕著に表れず、最大揚力係数が全没状態よ

りも増加することが確認された。この現象は、舵の背面の圧力低下に応じた水面低下が、舵

の背面剥離を軽減するものと推測される。ただし、この点はレイノルズ数やフルード数の影

響を含め、流線観測、あるいは CFD などで今後検討する必要があろう。

以上の結論は、舵力を推定する無次元

係数としての特徴であるが、Fig. 3.2.7 の

揚力係数から実際の力となる有次元の揚

力をFig. 3.2.11 に参考までに比較する。

小舵角の揚力は、概ねdR=0.25mで完全没

水状態とほぼ同等となり、このアスペク

ト比の舵においては、舵高さの 20%程度

の水面露出状態で、完全没水した状態と

等価になる。一方、この状態における最

大揚力は、有次元値でも完全没水状態よ

り大きくなり、舵としては有利なことを

示している。

-10

0

10

20

30

40

-10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90δ rudder angle (deg)

L (N) △ d R=0.15m◇ d R=0.20m□ d R=0.25m○ d R=0.30m● fully immersed

Fig. 3.2.11 Comparison of dimensional lift force.

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参考文献

(1) 元良誠三:船体運動力学,応用力学講座 17, 共立出版(日本船舶海洋工学会から電子訂正版

として再版),pp.40, 1959.8

(2) 関西造船協会編:造船設計便覧,第 4 版,pp.435 -441, 1993

(3) 藤井 斉・津田達雄:自航模型による舵特性の研究(2),造船協会論文集, 第 110 号, pp.31-42,

1961.12

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3.3 バラスト状態における舵直圧力の水槽試験結果

広島大学船型試験水槽において,3種の船について,満載状態(DF)とともにバラスト状態(NB)における直進航行時操舵試験(通称,舵角試験)を実施した。その水槽試験結果について報告する。 3.3.1 水槽試験の概要

水槽試験に使用した模型船の主要目,舵の要目,前進速度(U)を Table 1 に示す。

Table 1 模型船の主要目 ( 上左:バラ積み船(B/C),上右:自動車運搬船(PCC), 下:タンカー(KVLCC2) )

Load cond. Design Full(DF)

Normal Ballast(NB)

Load cond. Design Full(DF)

Normal Ballast(NB)

Lpp 3.867m Lpp 2.350m B 0.672m B 0.445m dm 0.235m 0.104m dm 0.112m 0.087m df 0.235m 0.075m df 0.112m 0.081m da 0.235m 0.133m da 0.112m 0.094m

舵高さ 0.188m 舵高さ 0.104m 舵面積 0.0205m2 舵面積 0.00883m2 舵面積比 1/44.4 1/19.6 舵面積比 1/29.8 1/23.2

U 1.075m/s 1.150m/s U 1.215m/s 1.258m/s

Load cond. Design Full(DF)

Normal Ballast(NB)

Lpp 2.909m B 0.527m dm 0.189m 0.087m df 0.189m 0.081m da 0.189m 0.094m

舵高さ 0.144m 舵面積 0.0113m2 舵面積比 1/48.7 1/30.9

U 0.760m/s 0.785m/s 船種は,バラ積み船(B/C),自動車運搬船(PCC),タンカー(KVLCC2)の3つである。B/C と

PCC は実船が存在するものである。KVLCC2 のバラスト状態は著者がそれらしく決めたもので

ある。水槽試験は,プロペラが作動する状態で行われた。B/C と PCC は Ship point で,KVLCC2は Model point で計測を行った。表中における舵面積にはホーン部の面積を含む。B/C と

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KVLCC2 はマリナー舵模型を有し,その可動部に作用する舵直圧力を計測した。PCC は普通の

台形型の舵を有する。 水槽試験では,舵角(δ)を,-35deg~+35degの間を 5deg毎に,変更して,舵直圧力を計測し

た。計測された舵直圧力(FN)は,ρ, AR(舵面積), U2ベースで無次元化して表示する。 3.3.2 水槽試験結果

B/C (ship point)

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

-40 -20 0 20 40

δ(deg)

FN

'

DF-FN'

NB-FN'

PCC (ship point)

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

-40 -20 0 20 40

δ(deg)

FN

'

DF-FN'

NB-FN'

KVLCC2 (model point)

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

-40 -20 0 20 40

δ(deg)

FN

'

DF-FN'

NB-FN'

Fig.1 異なる載荷状態における舵直圧力の比較 (上左:B/C,上右:PCC,下:KVLCC2)

試験結果から分かることを整理すると,次の通りである。 • NB の FN’ の絶対値は,DF のそれよりも小さい傾向がある。バラスト状態では,舵の上部

が水面から出ているからであると考えられる。

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• PCC の FN’ には大舵角時に失速の傾向が見られる。実船においても失速が生じているかど

うかは不明であるが,単なる実験上の問題,すなわち模型舵が小さすぎた可能性がある。 • B/C,PCC と比べて,KVLCC2 の FN’ の絶対値は約 40%大きい。これは KVLCC2 のみが

Model point における計測であるからと考えられる。Model point は,Ship point の場合と

比較して,荷重度が高く,プロペラへ流入する速度が大きくなるからである。 • Model point と Ship point,舵角試験において,どちらを選ぶべきなのか,頭の痛い問題で

ある。Ship point を選ぶと,プロペラの荷重度を実船と一致させることができるが,模型船

の伴流は実船のそれよりも大きいため,舵への流入速度は遅くなり,舵力が小さくなること

が予想される。実船の舵力を模型船のそれと等価にするのならば,Model point の方が良い

ように思われる。

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3.4 操縦運動時の船体・舵干渉係数について

3.4.1 まえがき

MMG モデルに従うと,操舵によって発生する前後力(X),横力(Y)と回頭モーメント(N)は,次

のように表される。

⎪⎭

⎪⎬

+−=+−=−−=

δδ

δ

cos)(cos)1(

sin)1(

NHHR

NH

NR

FxaxNFaY

FtX (1)

ここで,FNは舵直圧力,δは舵角,xRは舵直圧力の作用前後位置座標である。また,tR, aH, xHは

船体・舵干渉係数と呼ばれるものであり,通常,直進航行時の舵角試験と呼ばれる試験によって

決定される。しかしながら,操縦運動を行いながら操舵したときの干渉係数が,直進航行時の値

で代用できるのか,十分な検証は行われていないように思われる。 本報告では,SIMMAN2008 の一環として海技研にて実施された KVLCC1, KVLCC2 と呼ば

れる船型を対象とした斜航時ならびに定常旋回時の拘束模型試験結果をもとに,船体・舵干渉係

数を実験的に求め,それに及ぼす操縦運動の影響について述べる。

3.4.2 水槽試験の概要と結果

(1) 対象船 SIMMAN2008 の一環として海技研にて実施された KVLCC1, KVLCC2 と呼ばれる船型を対

象とした。2 船の模型船主要目を Table1 に示す。2 船の主要目は同じであり,わずかに船尾フレ

ームラインが異なる。船速は 0.760m/s,船長ベースのフルード数で 0.142,プロペラはモデルポ

イントで回転させた状況で試験が実施された。

Table 1 KVLCC1, KVLCC2 模型船の主要目 Lpp (m) 2.9091 B (m) 0.5273 D (m) 0.2727 d (m) 0.1891

Displacement (m3) 0.2349 Cb 0.8098

LCB(%), fwd+ 3.48 (2) 斜航・旋回時時の舵角試験結果 ここでは,KVLCC2 を用いた場合の斜航・旋回時の舵角試験結果を示す。Figs.2,3 は,横軸

に舵直圧力のcosδをとり,そのときの無次元化されたY, Nを図示したものである。Fig.2 は斜航

角が-16deg~16degの間を変化している。Fig.3 は無次元回頭角速度r’ が-0.6~0.6 の間を変化し

ている。舵直圧力のcosδ成分に対して,Y’, N’ はほぼ直線となっていることが分かる。これら

61

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のグラフの傾きから,船体・舵干渉係数aH, xH が求まる。

KVLCC2

-0.2

-0.15

-0.1

-0.05

0

0.05

0.1

0.15

0.2

-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03

-FN' cosδ

Y'-15.933

-7.944

7.92

15.917

0

KVLCC2

-0.06

-0.04

-0.02

0

0.02

0.04

0.06

-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03

-FN'cosδ

N'-15.933

-7.944

7.92

15.917

0

Fig.2 舵直圧力の cosδ成分に対する Y’と N’の変化 (斜航角シリーズ)

KVLCC2

-0.2

-0.15

-0.1

-0.05

0

0.05

0.1

0.15

0.2

-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03

-FN'cosδ

Y'

0.6

-0.6

0

KVLCC2

-0.08

-0.06

-0.04

-0.02

0

0.02

0.04

0.06

0.08

-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03

-FN'cosδ

N'

0.6

-0.6

0

Fig.3 舵直圧力の cosδ成分に対する Y’と N’の変化 ( r’ シリーズ)

(3) 斜航・旋回時時のaHとxH

Fig.2,3 の結果から,aHとxHを求めた。さらに,船体と舵を平板翼とみなした場合の揚力面理

論計算による結果も図示している。Fig.4 に斜航角に対するaHとxHの変化を示す。理論計算なら

びに実験結果ともに,斜航角の絶対値が大きいほど,aHとxHは大きくなる傾向がある。xHが大

きくなるということは,干渉流体力が船の前方に移動することを意味する。KVLCC2 の斜航角

16degの結果をもとに,操舵時の横力と回頭モーメントの斜航角による増加率を計算すると,横

力は 23%,回頭モーメントは 9%となる。Fig.5 にr’ に対するaHとxHの変化を示す。理論計算な

らびに実験結果ともに,r’ の絶対値が大きいほど,aHとxHともに大きくなる傾向がある。

62

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0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

-20 -10 0 10 20β(deg)

aH

KVLCC2

KVLCC1

cal

-0.5

-0.45

-0.4

-0.35

-0.3

-0.25

-0.2

-0.15

-0.1

-0.05

0

-20 -10 0 10 20

β(deg)

xH'

KVLCC2

KVLCC1

cal

Fig.4 aHとxHに及ぼす斜航角の影響

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

-1 -0.5 0 0.5 1r'

aH

KVLCC2

KVLCC1

cal

-0.5

-0.45

-0.4

-0.35

-0.3

-0.25

-0.2

-0.15

-0.1

-0.05

0

-1 -0.5 0 0.5 1

r'

xH'

KVLCC2

KVLCC1

cal

Fig.5 aHとxHに及ぼすr’ の影響

(4) 斜航・旋回時時のtR

Fig.6 に斜航・旋回時時のtRの試験結果を示す。図を見る限り,斜航角やr’ に対するtRの変化

は複雑であり,明確な傾向を捉えることはできなかった。

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

-20 -10 0 10 20β(deg)

tR

KVLCC2

KVLCC1

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

-1 -0.5 0 0.5 1r'

tR

KVLCC2

KVLCC1

Fig.6 tRに及ぼす斜航角とr’ の影響

3. まとめ

KVLCC1, KVLCC2 と呼ばれる船型を対象とした斜航時ならびに定常旋回時の舵角試験結果

をもとに,船体・舵干渉係数に及ぼす操縦運動の影響について調査した。その結果,次のことが

分かった。 • 斜航角やr’ の絶対値が大きいほど,aHとxHともに大きくなる傾向がある。その増加は,

横力換算で 23%, 回頭モーメントで 9%程度となる。 • tRに及ぼす斜航角やr’ の影響は複雑であり,今回の調査では明確な傾向を捉えることは

できなかった。 今後は,今回明らかとなった操縦運動にともなう船体・舵干渉係数の変化が,操縦運動シミュレ

ーション計算に及ぼす影響を把握する必要があろう。

63

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4 CMTをベースとした操縦運動シミュレーション計算例

4.1 KVLCC2を対象とした水槽試験結果

4.1.1 対象とする船

海上技術安全研究所で行われた拘束模型試験結果に対する解析例を示す。計測値はWeb[1]から取り出すことができる。対象とした船は,KVLCC2と呼ばれるものであり,その主要目を Table 1に示す。実船と模型船とのスケール比は 1/110.0である。載荷状態は Design Fullである。また,Table 2に模型プロペラ,模型舵の主要目ならびにその単独特性に関するパラメータを示す。本船はマリナー舵を有する。

水槽試験における船速 U は 0.76m/sとし,プロペラ回転数はモデルポイントとしている。

Table 1: 対象船の主要目

実船 模型船

垂線間長 Lpp 320.0m 2.9091m幅 B 58.0m 0.5273m

平均喫水 d 20.80m 0.1891m浮心位置 xG 11.20m 0.102m方形係数 Cb 0.8098 0.8098排水容積 ∇ 312623m3 0.2349m3

Table 2: 左:模型プロペラの主要目, 右:模型舵の主要目

プロペラ直径 DP 0.0896mプロペラの前後方向位置 �′P -0.48プロペラ推力特性 k0 0.2931プロペラ推力特性 k1 -0.2753プロペラ推力特性 k2 -0.1385

舵高さ HR 0.1436m舵平均コード長 BR 0.0786m舵アスペクト比 Λ 1.827

プロペラ直径・舵高さ比 η 0.624舵面積 AR 0.0093m2

舵揚力勾配係数 fα 2.747

表中の舵面積の値は,Hirano等 [2]に従い,マリナー舵の可動部のみをとっている。一方,舵平均コード長や舵アスペクト比は,ホーンを含む全舵に対する値である。舵揚力勾配係数 fαは藤井の式 [3]を用いて計算した。

4.1.2 水槽試験結果

(1) 荷重度変更直進時操舵試験結果

Fig.1に荷重度変更直進時操舵試験結果を示す。本試験では,舵角 δとプロペラ回転数 nP に対する前後

力係数 (X ′),横力係数 (Y ′),回頭モーメント係数 (N ′m),舵直圧力係数 (F ′

N ),プロペラ推力係数 (T ′)の変化を把握する。プロペラ回転数が増えると,X ′, Y ′, N ′

m, F ′N , T ′の絶対値は増加する。

(2) CMT試験結果

Fig.2にCMT試験結果を示す。本試験では,斜航角 βと無次元回頭角速度 r′に対する前後力係数 (X ′mea),

横力係数 (Y ′mea),回頭モーメント係数 (N ′

mea),舵直圧力係数 (F ′N ),プロペラ推力係数 (T ′)の変化を把

64

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−40 −30 −20 −10 0 10 20 30 40

−0.04

−0.02

0

0.02

0.04

np=14.48rpsnp=17.95rpsnp=24.87rps

X’

δ (deg)

−40 −30 −20 −10 0 10 20 30 40

−0.06

−0.04

−0.02

0

0.02

0.04

0.06

np=14.48rpsnp=17.95rpsnp=24.87rps

Y’

δ (deg)−40 −30 −20 −10 0 10 20 30 40

−0.02

−0.01

0

0.01

0.02

np=14.48rpsnp=17.95rpsnp=24.87rps

N’m

δ (deg)

−40 −30 −20 −10 0 10 20 30 40

−0.04

−0.02

0

0.02

0.04

np=14.48rpsnp=17.95rpsnp=24.87rps

F’N

δ (deg)

−40 −30 −20 −10 0 10 20 30 400

0.02

0.04

0.06

0.08

np=14.48rps

np=17.95rps

np=24.87rps

T’

δ (deg)

Fig.1: 荷重度変更直進時操舵試験結果

−20 −10 0 10 20

−0.15

−0.1

−0.05

0

0.05

0.1

0.15

r’ =−0.8r’ =−0.6r’ =−0.2r’ =0r’ =0.2r’ =0.6r’ =0.8

X’mea

β (deg)

−20 −10 0 10 20

−0.4

−0.3

−0.2

−0.1

0

0.1

0.2

0.3

0.4r’ =−0.8r’ =−0.6r’ =−0.2r’ =0r’ =0.2r’ =0.6r’ =0.8

Y’mea

β (deg)

−20 −10 0 10 20

−0.15

−0.1

−0.05

0

0.05

0.1

0.15r’ =−0.8r’ =−0.6r’ =−0.2r’ =0r’ =0.2r’ =0.6r’ =0.8

N’m

β (deg)

−20 −10 0 10 20

−0.04

−0.03

−0.02

−0.01

0

0.01

0.02

0.03

0.04

r’ =−0.8r’ =−0.6r’ =−0.2r’ =0r’ =0.2r’ =0.6r’ =0.8

F’N

β (deg)

−20 −10 0 10 200

0.01

0.02

0.03

0.04

r’ =−0.8r’ =−0.6r’ =−0.2r’ =0r’ =0.2r’ =0.6r’ =0.8

T’

β (deg)

Fig.2: CMT試験結果

65

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握する。なお,実際には,r′ = ±0.4等における計測も実施しているが,グラフが煩雑になるため省いている。

(3) 整流係数試験結果

Fig.3に,整流係数試験で求めた δFN0 と ∂F ′N/∂δ の計測結果を示す。斜航試験で求めた場合 (r′ = 0)

の結果と定常旋回状態 (β = 0)での結果を示している。実際には,δFN0や ∂F ′N/∂δを直接求めるのは困

難であるため,次のような手順で求めた。

(1)舵角を 3つほど変えてそのときの舵直圧力を計測する。この 3つの舵角は,舵直圧力がゼロとなるように,うまく選ぶ必要がある。

(2)舵角と舵直圧力に関する 3つの計測結果から,舵直圧力がゼロとなるような舵角 δFN0 を補間で求

める。

(3)同様に,舵角と舵直圧力に関する 3つの計測結果を線形で近似してその傾きをとり,舵直圧力の舵角に対する傾き (∂F ′

N/∂δ)を求める。

Fig.3を見ると,斜航角 β もしくは r′ の増加とともに,δFN0 も大きくなることが分かる。それに対し

て,∂F ′N/∂δの結果は,斜航角 β もしくは r′ に対して,大きくは変化しないようである。

−20 0 20

−20

−10

0

10

20 δFN0 (deg)

β (deg)−1 0 1

−20

−10

0

10

20 δFN0 (deg)

r’

−20 0 200

0.02

0.04

0.06

0.08 dFN’/dδ

β (deg)−1 0 1

0

0.02

0.04

0.06

0.08 dFN’/dδ

r’

Fig.3: 整流係数試験における δFN0と ∂F ′N/∂δの計測結果

66

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4.2 解析

以上の計測結果をもとに,数学モデルで用いられる流体力係数を求める。

4.2.1 船体・舵干渉係数の解析例

荷重度変更直進時操舵試験において,船速を一定のまま,プロペラ回転数 (nP )を 3種類変更した。Fig.4に干渉流体力係数を算出するのに用いたグラフを示す。−F ′

N sin δを横軸にとり縦軸にX ′をとったもの,−F ′

N cos δ を横軸にとり縦軸に Y ′ ならびに N ′m をとったものである。横軸に対する傾きが船体・舵干渉

係数となる。Table 3に干渉流体力係数の解析値を示す。nP によって係数は異なるものとなるが,nP (すなわち,プロペラ荷重度)に対する変化は一様ではない。

−0.006 −0.004 −0.002 0

−0.03

−0.02

−0.01

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05X’

−F’N sinδ

nP = 14.48rps

nP = 24.87rpsnP = 17.95rps

y=0.664x−0.009

y=0.613x

y=0.596x+0.028

−0.04 −0.02 0 0.02 0.04

−0.04

−0.02

0

0.02

0.04 Y’

−F’N cosδ

nP = 14.48rps

nP = 24.87rps

nP = 17.95rps

y=1.436x

y=1.312x

y=1.342x

−0.04 −0.02 0 0.02 0.04

−0.02

−0.01

0

0.01

0.02 Nm’

−F’N cosδ

nP = 14.48rps

nP = 24.87rps

nP = 17.95rps

y=−0.6383x

y=−0.6448x

y=−0.6134x

Fig.4: 干渉流体力係数の解析例

Table 3: 干渉流体力係数の解析値

nP tR aH x′H14.48rps 0.336 0.436 -0.317

17.95rps 0.387 0.312 -0.464

24.87rps 0.404 0.342 -0.332

4.2.2 操縦流体力微係数の解析例

Fig.5に,解析によって得られたX∗′H , Y ∗′

H , N∗′H を示す。その結果をもとに,最小自乗法で求めた操縦流

体力微係数の結果を,Table 4に示す。得られた微係数によるフィッティング精度を確認するため,2.2.3の (11)式による計算結果 (破線で表示)を Fig.5に併記している。フィッティング精度は十分である。

4.2.3 操縦運動時の有効伴流率の解析例

CMT試験で得られたプロペラ推力の計測結果を用いて,操縦運動時の有効伴流率を求める。Fig.6に,求めた有効伴流率を示す。図中,2.2.4の (17)式を用いて求めた有効伴流率とのフィッティングを示す。そこで使用した係数は wP0 = 0.45, C0 = −2.1である。Fig.6を見ると,伴流率の解析結果は,横軸の βP に

対して大きく左右非対称であり,フィッティングのラインに対してばらつきが大きい。

67

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−20 −10 0 10 20

−0.15

−0.1

−0.05

0

0.05

0.1

0.15 XH*’

β (deg)

r’ =0r’ =0.2r’ =0.6r’ =0.8

r’ =−0.2r’ =−0.6r’ =−0.8

−20 −10 0 10 20

−0.4

−0.3

−0.2

−0.1

0

0.1

0.2

0.3

0.4 YH*’

β (deg)

r’ =0r’ =0.2r’ =0.6r’ =0.8

r’ =−0.2r’ =−0.6r’ =−0.8

−20 −10 0 10 20

−0.15

−0.1

−0.05

0

0.05

0.1

0.15 N’H

β (deg)

r’ =0r’ =0.2r’ =0.6r’ =0.8

r’ =−0.2r’ =−0.6r’ =−0.8

Fig.5: 主船体に作用する流体力の解析例 

Table 4: 得られた操縦流体力微係数

X ′0 -0.0218 Y ′

0 0.001 N ′0 0.000

X ′vv -0.040 Y ′

v -0.315 N ′v -0.137

X ′rr + x′Gm

′ 0.021 Y ′r −m′ −m′

x -0.233 N ′r − x′Gm

′ -0.059X ′

vr +m′ +m′y 0.518 Y ′

vvv -1.607 N ′vvv -0.030

X ′vvvv 0.771 Y ′

vvr 0.379 N ′vvr -0.294

Y ′vrr -0.391 N ′

vrr 0.055Y ′

rrr 0.008 N ′rrr -0.013

−0.8 −0.4 0 0.4 0.80

0.4

0.8

1.2

1.6

wP/wP0

βP (rad)

Exp.fitting

Fig.6: 有効伴流率の解析例

68

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4.2.4 整流係数の解析例

Fig.3の計測結果をもとに,整流係数を求める。Fig.7に,4.4節で述べた方法で求めた舵への流入速度(v′R, u′R)の解析結果を示す。整流係数は,βR の正負によって明らかに異なっており,βR < 0においてγR = 0.395,βR > 0において γR = 0.640となる。�′R は −0.710であった。u′R は βR によらず一定に近

い値となっていることが分かる。

−0.8 −0.4 0 0.4 0.8

−0.4

−0.2

0

0.2

0.4 −v’R

βR (rad)

y=0.395x

y=0.640x

−0.8 −0.4 0 0.4 0.80

0.4

0.8

1.2

u’R

βR (rad)

Fig.7: 舵への流入速度の解析結果

4.2.5 κと εの解析例

荷重度変更直進時操舵試験によって得られた舵直圧力 F ′N と,κ と ε を決めたことによる舵直圧力の

フィッティングの結果を Fig.8に示す。解析の結果,ε = 1.09, κ = 0.499となった。実際には,わずかながら当て舵があるため,その分フィッティングの結果と差異が見られる。

−40 −20 0 20 40

−0.04

−0.02

0

0.02

0.04

Exp. nP=14.48rpsExp. nP=17.95rpsExp. nP=24.87rps

F’N

δ (deg)

fitting

Fig.8: 異なるプロペラ荷重度における舵直圧力係数の解析結果

69

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4.3 シミュレーション計算

4.3.1 計算法の検証:自由航走模型試験結果との比較

以上の方法で操縦運動シミュレーション計算に必要な係数を全て決定すれば,旋回運動や zig-zag運動のシミュレーション計算が可能となる。KVLCC2模型船を対象に,そのような運動シミュレーション計算を実施し,検証のため,水槽試験結果と比較を行う。

比較を行う自由航走模型試験結果として,オランダ水槽 (MARIN)で実施された Lpp =7.000mの模型船を用いた試験結果を使用する [1]。シミュレーション計算に用いる流体力係数は,Lpp =2.9091mの模型船を用いて,海上技術安全研究所で実施された試験結果をもとに決定されたが,この模型船を用いた自由

航走模型試験は行われていない。Lpp =7.000mの模型船を用いた自由航走模型試験における模型プロペラの特性は不明であったため,拘束模型試験で用いられたプロペラの特性をそのまま用いた。アプローチ船

速は,U0 = 1.179m/s(Lppベースのフルード数で 0.142)であった。また,直進航行時の有効伴流係数に縮尺影響を考慮し,wP0 = 0.4とした。

(1) 舵角 35deg旋回

Fig.9に,舵角 ±35degにおける旋回航跡の比較を示す。定常旋回に至る初期状態での航跡の計算値は,水槽試験結果と良い一致を示している。しかしながら,定常旋回半径の計算値は,試験結果よりも小さい

傾向があり,その傾向は左旋回において顕著である。左右の旋回半径が異なるのは,主に整流係数 (γR)の違いによるため,シミュレーション計算における左右の旋回における整流係数の違いが大きすぎる可能性

がある。

Fig.10に,旋回運動時の δ, u, vm, rの時刻歴変化の比較を示す。u, vm, rの計算値は水槽試験結果と良い一致を示しているように見えるが,Fig.9に示したように航跡の計算値は,水槽試験結果と差異があることを考えると,時刻歴結果のわずかな差異が航跡では比較的大きな差異となることが分かる。

Table 5に,旋回縦距 (AD)と旋回圏 (DT )の比較を示す。Fig.9に示したように航跡の計算値は水槽試験結果と差異があることを考えると,計算による旋回性能指数 (AD, DT )は水槽試験のそれと比較的良い一致を示している。その理由は,定常旋回に至る初期状態において,計算値は水槽試験結果と良い一致を

示しているためであると考えられる。

−4 −2 00

2

4Cal.

Exp.

Y0 /L

X0 /L

0 2 40

2

4 Cal.

Exp.

Y0 /L

X0

/L

Fig.9: 35deg旋回航跡の比較

70

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0 30 60 90 120 150−40−30−20−10

0

0 30 60 90 120 1500

0.40.81.2

0 30 60 90 120 1500

0.10.20.3

0 30 60 90 120 150

−4

−2

0

Cal. Exp.

time(s)

δ (d

eg)

u (m

/s)

v m (

m/s

)

time(s)

time(s)

r (d

eg/s

)

time(s)

0 30 60 90 120 1500

10203040

0 30 60 90 120 1500

0.40.81.2

0 30 60 90 120 150−0.3−0.2−0.1

0

0 30 60 90 120 1500

2

4

Cal. Exp.

time(s)

δ (d

eg)

u (m

/s)

v m (

m/s

)

time(s)

time(s)

r (d

eg/s

)time(s)

Fig.10: 35deg旋回運動の時刻歴結果の比較 (左:δ = −35deg,右:δ = 35deg)

Table 5: 旋回性能指数の比較

AD/L(35deg) DT /L(35deg) AD/L(-35deg) DT /L(-35deg)

Cal. 3.30 3.33 3.15 3.03

Exp. 3.25 3.34 3.11 3.08

(2) zig-zag運動

Fig.11に,10deg/10degならびに-10deg/-10deg zig-zag運動の時刻歴結果の比較を示す。また,Fig.12に,20deg/20degならびに-20deg/-20deg zig-zag 運動の時刻歴結果の比較を示す。10/10ならびに-10/-10zig-zag運動の方位 (ψ)と舵角 (δ)の計算結果を見ると,方位の行き過ぎ角の絶対値が小さく,その分操舵のタイミングが早くなっている。Table 6に 10/10zig-zag運動の行き過ぎ角を示す。計算結果は,第 1行き過ぎ角 (1st OSA)で 2~3deg小さく,第 2行き過ぎ角 (2nd OSA)で 5~7deg小さい。このように行き過ぎ角が小さくなる理由は,船体の運動減衰が大きすぎる (例えば,Y ′

v やN ′rの絶対値が大きすぎる)こ

とが考えられるが,35deg旋回を見る限り,運動減衰が大きすぎることは考えにくいように思われる。一方,20/20ならびに-20/-20zig-zag運動の方位と舵角の計算結果は,10/10zig-zag運動と比較すると,

水槽試験結果との一致度は良好である。Table 7に 20/20zig-zag運動の行き過ぎ角を示す。それでも,行き過ぎ角の計算値は,水槽試験結果よりもわずかに小さい。zig-zag運動の行き過ぎ角を,数度以内の誤差で精度良く計算することの難しさが分かる。

Table 6: 10/10 zig-zag運動の行き過ぎ角の比較

1st OSA(10Z) 2nd OSA(10Z) 1st OSA(-10Z) 2nd OSA(-10Z)

Cal. 5.3deg 15.2deg 7.5deg 10.0deg

Exp. 8.2deg 21.9deg 9.5deg 15.0deg

71

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0 30 60 90−40−20

020

0 30 60 900.8

11.21.4

0 30 60 90−0.2

0

0.2

0 30 60 90−2

02

Cal. Exp.

time(s)

δ, ψ

(de

g)u

(m/s

)v m

(m

/s)

time(s)

time(s)

r (d

eg/s

)

time(s)

0 30 60 90−40−20

020

0 30 60 900.8

11.21.4

0 30 60 90−0.2

0

0.2

0 30 60 90−2

02

Cal. Exp.

time(s)

δ, ψ

(de

g)u

(m/s

)v m

(m

/s)

time(s)

time(s)

r (d

eg/s

)

time(s)

Fig.11: 10deg/10deg zig-zag運動の時刻歴結果の比較 (左:10/10zig-zag,右:-10/-10zig-zag)

0 30 60 90−40−20

02040

0 30 60 90

0.8

1.2

0 30 60 90−0.2

00.2

0 30 60 90−4−2

024

Cal. Exp.

time(s)

δ, ψ

(de

g)u

(m/s

)v m

(m

/s)

time(s)

time(s)

r (d

eg/s

)

time(s)

0 30 60 90−40−20

02040

0 30 60 90

0.8

1.2

0 30 60 90−0.2

00.2

0 30 60 90−4−2

024

Cal. Exp.

time(s)

δ, ψ

(de

g)u

(m/s

)v m

(m

/s)

time(s)

time(s)

r (d

eg/s

)

time(s)

Fig.12: 20deg/20deg zig-zag運動の時刻歴結果の比較 (左:20/20zig-zag,右:-20/-20zig-zag)

72

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Table 7: 20/20 zig-zag運動の行き過ぎ角の比較

1st OSA(20Z) 1st OSA(-20Z)

Cal. 21.0deg 24.4deg

Exp. 23.7deg 25.1deg

4.3.2 実船の操縦運動シミュレーション

前節で,船の操縦運動をおおよそ予測できることが分かったので,次に実船を対象とした操縦運動シミュ

レーションを行う。KVLCC2実船の主要目は Table 1に示している。Lpp = 320mの VLCCである。アプローチ船速は U0 =15.5knである。本船は,実船としては建造されておらず,従って,実船におけるトライアル結果は存在しない。

(1) 舵角 35deg旋回

Fig.13に,舵角 35degの旋回航跡の比較を示す。図中,L = 320mと記載したものが実船のシミュレーション計算結果,L = 7.00mと記載したものが模型船のシミュレーション計算結果であり,Fig.9に示した計算結果と同じものである。実船の旋回航跡は外側にふくらんだようなものとなり,旋回縦距や旋回圏

が大きくなっている。これは旋回性能が悪化したことを意味する。Table 8に実船と模型船における旋回縦距 (AD)や旋回圏 (DT )の比較を示す。

−4 −2 00

2

4

Y0 /L

X0 /L

L = 320m

L = 7.00m

0 2 40

2

4

Y0 /L

X0

/L

L = 320m

L = 7.00m

Fig.13: 35deg旋回航跡の計算結果の比較

Table 8: 旋回性能指数の計算結果の比較

AD/L(35deg) DT /L(35deg) AD/L(-35deg) DT /L(-35deg)

L =320m 3.66 3.74 3.49 3.41

L =7.00m 3.30 3.33 3.15 3.03

73

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Fig.14に,船速低下率 U/U0,無次元化された回頭角速度 r′(≡ rL/U ),船体斜航角 β の時刻歴結果の

比較を示す。横軸は,無次元化された時間 t′がとっており,t′ ≡ tU0/Lと定義される。定常旋回状態にお

いて,U/U0,r′の絶対値,βの絶対値は,実船の方が小さくなる。実船の U/U0が小さくなり,船速低下

が大きくなる理由は,実船では全抵抗に占める摩擦抵抗成分の割合が減って,斜航や旋回による抵抗増加

の影響を大きく受けるためと考えられる。また,実船における r′ と β の絶対値が小さくなる理由は,プ

ロペラ荷重度が小さくなり,舵力が見かけ上小さくなったためであると考えられる。

0 10 20 30 40 500

0.40.81.2

0 10 20 30 40 500

0.40.81.2

0 10 20 30 40 500

10

20

t’

U/U

0−

r’

t’

− β

(deg

)

t’

L = 320mL = 7.00m

0 10 20 30 40 500

0.40.81.2

0 10 20 30 40 500

0.40.81.2

0 10 20 30 40 500

10

20

t’

U/U

0r’

t’β

(deg

)

t’

L = 320mL = 7.00m

Fig.14: 35deg旋回運動の計算結果の時刻歴結果の比較 (左:δ = −35deg,右:δ = 35deg)

(2) zig-zag運動

Fig.15に,10/10zig-zagならびに 20/20zig-zag運動の時刻歴計算結果の比較を示す。この場合も,実船の方が少し針路不安定となり,舵の応答が遅くなる。その結果,実船の行き過ぎ角が模型船のそれよりも

大きくなる。

0 10 20−40−20

020

δ, ψ

(de

g)

t’

L = 320m L =7.00m

0 10 20−40−20

02040

δ, ψ

(de

g)

t’

L = 320m L =7.00m

0 10 20−40−20

020

δ, ψ

(de

g)

t’

L = 320m L =7.00m

0 10 20−40−20

02040

δ, ψ

(de

g)

t’

L = 320m L =7.00m

Fig.15: zig-zag運動の時刻歴結果の比較 (左:10/10zig-zag,右:20/20zig-zag)

本シミュレーション計算では,レイノルズ影響の違いによる摩擦抵抗ならびに有効伴流率の違いを除き,

実船と模型船における操縦流体力特性に変化はないとしている。ここでの計算結果は,そのような仮定の

下で求められたものであることに留意する必要がある。模型船の結果と比較すると,実船の方が zig-zag運動の行き過ぎ角は大きくなり,旋回性能に関する指標も大きめの値となる。これは針路安定性ならびに

74

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Table 9: 10/10 zig-zag運動の行き過ぎ角の比較

1st OSA(10Z) 2nd OSA(10Z) 1st OSA(-10Z) 2nd OSA(-10Z)

L =320m 5.9deg 20.0deg 8.7deg 12.9deg

L =7.00m 5.3deg 15.2deg 7.5deg 10.0deg

Table 10: 20/20 zig-zag運動の行き過ぎ角の比較

1st OSA(20Z) 1st OSA(-20Z)

L =320m 21.8deg 26.1deg

L =7.00m 21.0deg 24.4deg

旋回性ともに悪化するものであった。このように,模型船による自由航走模型試験結果は,甘めの結果と

なっていることに注意が必要である。今後は,実船レベルでのシミュレーション計算の妥当性確認を行う

ことが必要不可欠である。

参考文献

[1] http://www.simman2008.dk/

[2] Hirano, M., Takashina, J., Moriya, S. and Fukushima, M.: Open Water Performance of Semi-Balanced Rudder, 西部造船会々報第 64号 (1982), pp.93-101.

[3] 藤井 斉,津田達雄:自航模型船による舵特性の研究 (2),造船協会論文集第 110号 (1961), pp.31-42.

75

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5. PMM をベースとした操縦運動調査例

5.1 回流水槽における PMM 試験例

1) 供試模型

回流水槽で行われた PMM 試験を紹介する。供試模型は Lpp=2.0m の KVLCC2 とした。海技

研で実施された CMT には同船型の 2.9m 模型が用いられている。両者を Table1 に比較する。

Table 1 Principal particulars of model ship

Item Model Ship(KVLCC2)

Tested at NMRI FEL

Lpp (m) 2.9091 2.000

B (m) 0.5273 0.3625

d (m) 0.1891 0.1300

Disp. (m3) 0.2349 0.07630

Cb 0.8098 0.8095

lcb (%Lpp) 3.48 3.54

Wet.S (m2) 2.2475 1.0616

Bilge Keel None None

2.0m 模型の船首部には乱流促進用スタッドが施されている。ホーンは可動部として舵と一体

化されている。Table 2 に模型プロペラの要目を比較する。

Table 2 Principal particulars of model propeller

Item Model Propeller

Tested at NMRI FEL

Z 4 4

Dp (m) 0.0900 0.0625

P/Dp 0.721 0.700

2) 試験装置

・回流水槽

試験は船型開発用回流水槽で行われた。その特徴を Table 3 に示す。

76

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Table 3 Principal particulars of CWC

Item Particulars

Type Vertical type CWC with 2 impellers

Overall size L14.8m x B2.0m x H5.2m

Test section size L6.0m x B2.0m x d1.0m

Maximum speed 1.9 m/s

・PMM 装置

試験に用いた PMM の特徴を Table 4 に示す。

Table 4 Principal particulars of motion control device

Item Particulars

Type Depended 2 axis type

Overall size L0.8m x B2.4m x H0.8m

Y carriage full range ±0.8m

Yawing full angle ±50deg

Driving motors AC servo motor 750w x 2 Units

77

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5.2 試験結果

1) 斜航試験結果

Fig.1 に斜航試験結果を示す。縦軸はそれぞれ船体横方向の流体力とモーメントである。何

れも舵力の成分は差し引かれた結果である。図中に破線で示したのは海技研における

Lpp=2.9091m 模型の CMT で得られた結果である。モーメントにやや差が認められるが近い

結果が得られている。

-30 -20 -10 0 10 20 30 -30 -20 -10 0 10 20 30

PMM in CWC

CMT

Fig.1 Results of Oblique Towing Test

2) Pure Yawing Test 結果

Fig.2 に Pure Yawing 試験で得られた結果を示す。

Fig.2 Results of Pure Yawing Test

-0.6 -0.5 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0.0 -0.6 -0.5 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0.0

Fig.2の縦軸はそれぞれ77)式、78)式で示された回頭角速度位相の力とモーメントの項である。

横軸は回頭角速度振幅の無次元値rs’をとった。図中に破線で示したのは海技研でのCMTで得ら

れた微係数Yr’,Yrrr’, Nr’,Nrrr’,を 77)式、78)式に代入して得られた値である。Nの非線形性

に若干の差が認められるものの回流水槽でのPMM試験結果はCMTの結果と良い一致を見せて

いる。

本章では 2.5 節に示した解析式に基づき、同型の肥大船型について実施された CMT 結果と比

較することで回流水槽での PMM 結果の評価を試みた。その結果、まずまずの一致を見たが非

78

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線形流体力を含む操縦性能流体力の推定を行うためには側壁影響の見極め等、更なる調査が必要

である。

79

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6.操縦流体力係数のデータベース

6.1 九大データの整理式

九州大学において拘束模型試験を実施した表 6.1.1 に示す 12 隻の模型船(SR108,Esso Osakaおよび文献[1]中の Ship A~Ship I)の合計 27 載荷状態(いずれも等喫水状態)に対する横力お

よび回頭モーメントの計測結果の無次元値 HY ′ および HN ′ を対象として,以下に示す 3 次モデル

に基づいて再解析を行った。

⎪⎭

⎪⎬⎫

′′+′′′+′′′+′′+′′′−′+′′=′

′′+′′′+′′′+′′+′′−′−′+′′=′3223

3223

)(

)(

rNrvNrvNvNrmxNvNN

rYrvYrvYvYrmmYvYY

rrrvrrvvrvvvGrvH

rrrvrrvvrvvvxrvH (6.1.1)

ここで, , ,…,vY ′ rY ′ rrrN ′ 等は操縦流体力微係数,v′ , r′ は船体中央位置における船の 軸方向速度

および回頭角速度の無次元値, ,y

m′ xm′ は船の質量および x 軸方向付加質量の無次元値, は船

体中央を原点とする船体固定座標系における重心位置座標の無次元値である。 Gx′

図 6.1.1~図 6.1.3 に,表 6.1.1 に示した 12 隻の模型船の合計 27 載荷状態に対して,(6.1.1)式に基づく解析より得られた操縦流体力微係数を用いて計算した横力および回頭モーメントと

模型試験による計測値を比較した結果を示す。

表 6.1.1 九州大学において拘束模型試験を実施した船型の一覧

船名 船種 載荷状態 L (m) B (m) md (m) bC Full load 0.163 0.572 SR108 Container C. Ballast 3.0 0.435 0.094 0.518 Full load 0.170 0.831 Esso Osaka VLCC Ballast 2.5 0.408 0.080 0.793 Full load 0.134 0.522 Ship A Car C. Ballast 2.5 0.482 0.111 0.491 Full load 0.140 0.698 Ship B Cargo C. Ballast 2.5 0.419 0.082 0.666 Full load 0.156 0.835 Ship C ULCC Ballast 2.5 0.466 0.076 0.802 Full load 0.100 0.714 Half load 0.093 0.707 Ship D LNG C. Ballast

2.5 0.409 0.086 0.703

Full load 0.157 0.802 Ship E VLCC Ballast 2.5 0.436 0.077 0.761 Full load 0.130 0.566 Half load 0.107 0.540 Ship F Container C. Ballast

2.5 0.386 0.085 0.516

Full load 0.158 0.651 Ship G Cargo C. Ballast 2.5 0.376 0.072 0.574 Full load 0.171 0.773 Ship H Cargo C. Ballast 2.5 0.408 0.071 0.711 Full load 0.102 0.557 Half load 0.093 0.537 Ship I RO/RO Ballast

2.5 0.367 0.083 0.512

Full load 0.183 0.821 Ship J ULCC Ballast 2.5 0.556 0.089 0.783

80

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−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3750: r' = 0.4615: r' = 0.5454

: r' = 0.0000: r' = 0.3750: r' = 0.4615: r' = 0.5454

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3750: r' = 0.4615: r' = 0.5454

: r' = 0.0000: r' = 0.3750: r' = 0.4615: r' = 0.5454

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.4750: r' = 0.6375: r' = 0.8000

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.4750: r' = 0.6375: r' = 0.8000

(a) SR108, Full load (b) SR108, Ballast (c) Esso Osaka, Full load

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.4750: r' = 0.6375: r' = 0.8000

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.4750: r' = 0.6375: r' = 0.8000

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

(d) Esso Osaka, Ballast (e) Ship A, Full load (f) Ship A, Ballast

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

(g) Ship B, Full load (h) Ship B, Ballast (i) Ship C, Full load

図 6.1.1 流体力の計測結果と操縦流体力微係数を用いた計算結果の比較(その 1)

81

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−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

(a) Ship C, Ballast (b) Ship D, Full load (c) Ship D, Half load

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.5400: r' = 0.7700: r' = 1.0000

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.5400: r' = 0.7700: r' = 1.0000

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.5400: r' = 0.7700: r' = 1.0000

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.5400: r' = 0.7700: r' = 1.0000

(d) Ship D, Ballast (e) Ship E, Full load (f) Ship E, Ballast

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

(g) Ship F, Full load (h) Ship F, Half load (i) Ship F, Ballast

図 6.1.2 流体力の計測結果と操縦流体力微係数を用いた計算結果の比較(その 2)

82

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−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

(a) Ship G, Full load (b) Ship G, Ballast (c) Ship H, Full load

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

(d) Ship H, Ballast (e) Ship I, Full load (f) Ship I, Half load

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

(g) Ship I, Ballast (h) Ship J, Full load (i) Ship J, Ballast

図 6.1.3 流体力の計測結果と操縦流体力微係数を用いた計算結果の比較(その 3)

83

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続いて,表 6.1.1 に示した 12 隻の模型船の合計 27 載荷状態に対する操縦流体力微係数を対象

として,船型要素によって構成されるパラメータに基づく整理式を構築した。 まず,横力に関する操縦流体力微係数を整理した結果を図 6.1.4 に示す。このとき,各操縦流

体力微係数の整理式は次式により与えられる。

{ }

{ } ⎪⎪⎪⎪

⎪⎪⎪⎪

−−=′

+−−=′−+−=′

+−−−=′

+−=′−′−′−−=′

0507.0/612.0/576

0726.0)1(647304/348)/(0117

791)1(565)1(0217

0221.07510945.0971

2

2

2

BdCBdC.Y

/BCd.Y.LBC.LBC.Y

./BCd./BCd .Y

B/LC.mmYB/LC.Y

babarrr

bvrr

bbvvr

bbvvv

bxr

bv

σσ

(6.1.2)

ここで,L は船長,B は船幅,d は喫水, は方形係数である。また,bC )1/()1( pawaa CC −−=σ で

あり,C , は船体中央より後方の船体を対象として定義される水線面積係数および柱形係数

である。 wa paC

次に,回頭モーメントに関する操縦流体力微係数を整理した結果を図6.1.5に示す。このとき,

各操縦流体力微係数の整理式は次式により与えられる。

0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20−0.60

−0.40

−0.20

0.00Y'v

Cb B / L 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20

−0.40

−0.30

−0.20

−0.10

0.00Y'r − m' − m'x

Cb B / L (a) vY ′ (b) xr mmY ′−′−′

0.02 0.07 0.12 0.17−8.00

−6.00

−4.00

−2.00

0.00

2.00Y'vvv

d (1 − Cb) / B 0.05 0.10 0.15 0.20

−3.00

−2.00

−1.00

0.00

1.00

2.00Y'vvr

Cb B / L (c) vvvY ′ (d) vvrY ′

0.02 0.07 0.12 0.17−1.60

−1.20

−0.80

−0.40

0.00

Y'vrr

d (1 − Cb) / B 0.02 0.06 0.10 0.14 0.18

−0.20

−0.10

0.00

0.10

Y'rrr

σa d Cb / B (e) vrrY ′ (f) rrrY ′

図 6.1.4 横力に関する操縦流体力微係数

84

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{ }{ }

{ } ⎪⎪⎪⎪

⎪⎪⎪⎪

−+−=′

−=′−+−=′

−+−=′

×−=′′−′

−=′

170.0/172/347

250.0/242092/526/689

992.0/912/740

772.0542

2

2

2

2

LBC.LBC.N

BdCσ.N.LBC.LBC.N

BdC.BdCσ. N

kk.mxN

kN

bbrrr

bavrr

bbvvr

babavvv

Gr

v

σ (6.1.3)

ここで, である。 Ldk /2=

最後に,(6.1.2)式および(6.1.3)式を用いて計算した操縦流体力微係数を用いて計算した横力お

よび回頭モーメントと模型試験による計測値を比較した結果を図 6.1.6~図 6.1.8 に示す。 参考文献 1. Inoue, S., Hirano, M. and Kijima, K. : “Hydrodynamic Derivatives on Ship

Maneuvering”, International Shipbuilding Progress, 28 (321) (1981)

0.05 0.07 0.09 0.11 0.13 0.15−0.20

−0.10

0.00N'v

k 0.05 0.07 0.09 0.11 0.13 0.15

−0.10

−0.05

0.00N'r − x'G m'

k (a) vN ′ (b) mxN Gr ′′−′

0.02 0.06 0.10 0.14 0.18

−1.20

−0.80

−0.40

0.00

0.40

0.80N'vvv

σa d Cb / B 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20

−1.00

−0.80

−0.60

−0.40

−0.20

0.00

0.20N'vvr

Cb B / L (c) vvvN ′ (d) vvrN ′

0.02 0.06 0.10 0.14 0.18

−0.25

−0.15

−0.05

0.05

0.15

0.25N'vrr

σa d Cb / B 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20

−0.08

−0.06

−0.04

−0.02

0.00

0.02N'rrr

Cb B / L (e) vrrN ′ (f) rrrN ′

図 6.1.5 回頭モーメントに関する操縦流体力微係数

85

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−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3750: r' = 0.4615: r' = 0.5454

: r' = 0.0000: r' = 0.3750: r' = 0.4615: r' = 0.5454

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3750: r' = 0.4615: r' = 0.5454

: r' = 0.0000: r' = 0.3750: r' = 0.4615: r' = 0.5454

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.4750: r' = 0.6375: r' = 0.8000

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.4750: r' = 0.6375: r' = 0.8000

(a) SR108, Full load (b) SR108, Ballast (c) Esso Osaka, Full load

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.4750: r' = 0.6375: r' = 0.8000

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.4750: r' = 0.6375: r' = 0.8000

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

(d) Esso Osaka, Ballast (e) Ship A, Full load (f) Ship A, Ballast

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

(g) Ship B, Full load (h) Ship B, Ballast (i) Ship C, Full load

図 6.1.6 流体力の計測結果と操縦流体力微係数の整理式を用いた計算結果の比較(その 1)

86

Page 91: P29 船舶操縦性予測モデルの標準化に関する研究委 …6.操縦流体力係数のデータベース 80 6.1 九大データの整理式[古川] 80 6.2 中速商船・漁船船型の操縦流体力データベースと操縦運動の一推定法[芳村]

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

(a) Ship C, Ballast (b) Ship D, Full load (c) Ship D, Half load

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.5400: r' = 0.7700: r' = 1.0000

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.5400: r' = 0.7700: r' = 1.0000

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.5400: r' = 0.7700: r' = 1.0000

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.5400: r' = 0.7700: r' = 1.0000

(d) Ship D, Ballast (e) Ship E, Full load (f) Ship E, Ballast

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

(g) Ship F, Full load (h) Ship F, Half load (i) Ship F, Ballast

図 6.1.7 流体力の計測結果と操縦流体力微係数の整理式を用いた計算結果の比較(その 2)

87

Page 92: P29 船舶操縦性予測モデルの標準化に関する研究委 …6.操縦流体力係数のデータベース 80 6.1 九大データの整理式[古川] 80 6.2 中速商船・漁船船型の操縦流体力データベースと操縦運動の一推定法[芳村]

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

(a) Ship G, Full load (b) Ship G, Ballast (c) Ship H, Full load

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

(d) Ship H, Ballast (e) Ship I, Full load (f) Ship I, Half load

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1

0.0

0.1

0.2

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02

0.02

0.06

YH'

β(deg.)

NH'

β(deg.)

(a) Lateral force

(b) Yawing moment

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

: r' = 0.0000: r' = 0.3125: r' = 0.6250: r' = 0.9615

(g) Ship I, Ballast (h) Ship J, Full load (i) Ship J, Ballast

図 6.1.8 流体力の計測結果と操縦流体力微係数の整理式を用いた計算結果の比較(その 3)

88

Page 93: P29 船舶操縦性予測モデルの標準化に関する研究委 …6.操縦流体力係数のデータベース 80 6.1 九大データの整理式[古川] 80 6.2 中速商船・漁船船型の操縦流体力データベースと操縦運動の一推定法[芳村]

6.2 中速商船・漁船船型の操縦流体力データベースと操縦運動の一推定法

1)はじめに 船舶の操縦性能の推定に関して、タンカー、バラ積み船など大型肥大船型を対象とした操縦性

能の推定方法の研究は数多いが、コンテナ船やPCC、フェリーといった船型を対象とした操縦性

能推定法の研究は数少ない。こうした船は、フルード数が高いことからCbが 0.6 前後とやせてお

り、針路安定性が良好で、Z試験のオーバーシュートの操縦性基準にほとんど抵触しないことに

よると考えられる。しかし、針路安定性が過度に良好な船では逆に旋回性能が低下し、旋回圏が

大きくなって操縦性基準を満足しない場合も考えられる。特にバラスト状態は船尾トリムとなり、

この場合の針路安定性はさらに良くなる方向となって、旋回圏がより大きくなることが予想され

る。

一方、漁船船型は一般商船に比べるとサイズは小型であるものの、船速は十数ノットでフルー

ド数は 0.3~0.4 もあり、L/Bは小さく幅広ながら、中速商船と似たようなCbが採用されている。

また、載荷状態の違いによる通常のトリム変化に加えて、漁船特有のイニシャルトリムやフォー

ルスキールを有するという特徴もあり、中速商船と同様、トリムに対する取扱いが重要である。

以上の背景を踏まえ、本報ではまず、中速商船や漁船船型を対象とした操縦流体力のデータベ

ースを整理することから開始する。これらのデータには、データベースの信頼性の観点から計測

条件や解析方法が明記されているものを中心に選ぶ。また、推進器と舵についても1軸1舵を基

本とする。続いて、この流体力データベースを基に、船の主要目から操縦流体力を推定する回帰

モデルを検討する。このモデル化はデータベースに大きく依存し、一般的に使用できるという保

証はないが、モデル化に当たっては可能な限り流体力学的な特徴を活用する。さらに、この新し

いモデルにより操縦運動のシミュレーションを行い、こうした船型で従来から活用されてきた

1990 年の貴島モデル[1]による推定結果と比較し、本推定法の有効性を確認する。

2)操縦運動数学モデル

操縦運動を表す数学モデルの基本はMMG[2]に準じ、そのモデルを以下に要約する。操縦運動

は船体重心を原点とした座標系で表し、重心における船体前後方向、横方向の速度成分、および

回頭角速度をそれぞれuG, vG, rGとし、付加質量を含めた運動方程式を次式で示す。

( ) ( )( ) ( )( ) ⎪

⎪⎬

−=+

=+++

=+−+

YxNrJI

Yrummvmm

Xrvmmumm

GGzzzz

GGxGy

GGyGx

&

&

&

ただし、m、I

(6.2.1)

でzzは船の質量と旋回の慣性モーメント

x

y

あり、mx, my, Jzzは船体前後方向の付加質量、横方向

の付加質量および旋回運動の付加慣性モーメントを

表す。定常流体力X, Y, Nの表現に関しては、Fig. 6.2.1

の座標系に示すように、統一して船体中央を原点と

して表記する。また、xGは船体重心のx軸座標であり、

船体中央から前方にある場合をプラスと表記する。

定常流体力はMMGの考え方に従い、付加慣性力およFig. 6.2.1: 座標系

89

Page 94: P29 船舶操縦性予測モデルの標準化に関する研究委 …6.操縦流体力係数のデータベース 80 6.1 九大データの整理式[古川] 80 6.2 中速商船・漁船船型の操縦流体力データベースと操縦運動の一推定法[芳村]

び船体・舵・プロペラの各定常流体力成分に

分離して次式で表現する。

++=++=

PRH

PRH

NNNNYYYY (6.2.2)

主船体の定常流体力

⎪⎭

⎪⎬

⎫++= PRH XXXX

は、加速度項を含めて以下の多項式で表現する。ただし、 ( )ULrr =′ 主船体に働く流体力 、

( )Uv1sin −−= は船体中央における無次元角速度と斜航角であり、運動方程式に 心の

して表現する。また、(6.2.1)式中の(m

β おける重

速度成分と区別 yvGrG), (myuGrG)は流体力の計測において定

常流体力と分離しない場合もあり、uG=u, vG=v+xGr, rG=rの関係を用い、これらを含めて次式で表

す。

( ) ( ){ }

( ){ }

{ } ⎪⎪⎪⎪⎪⎪

⎪⎪⎪⎪⎪⎪

′′+′′+′′+′+′′+′×

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛=

′′+′′+′′+′+′′−′+′×

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛=−

′+′′′+′+′′−′+′+′×

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛=+

3223

22

3223

2

4220

2

2

2

2

rNrNrNNrNN

UdLN

rYrYrYYrmYY

ULdrumY

XrmxXrmXXX

ULdrvmX

rrrrrrr

emH

rrrrrrxr

emGGxH

yGrryr

emGGyH

ββββ

ρ

ββββ

ρ

βββ

ρ

βββββββ

βββββββ

βββββββ

(6.2.3)

ただし、ρ :水の密度 キールを

B.L

W.Lemd :フォールス

含む船体中央喫水

( )Lxx

dLmmm emyxy =′ 22/, ρm

GG

x

=′

′ ,

プロ

Fig. 6.2.2 漁船のキールラインと喫水・トリム ペラの定常流体力

プロペラの力は前後方向の推力が主な力であり、直進時の推力減少係数(1-t)を用いて次式で表

ρ (6.2.4)

ただし、DP:プロペラ直径

数J=(1-w)u/(nDP)の関数)

によって変化することが知られているが、操舵による変

する。

X ( )

⎪⎭

⎪⎬

==

−=

00

1 24

P

P

PTP

NY

nDKt

n :プロペラ回転数

KT:推力係数(前進定

1-w:プロペラの有効伴流係数

なお、プロペラ推力は操舵や旋回・斜航

initial trim =(da-df)

K.Ldf

false keel depth=(dem-dm)

dda d mem

false keel

90

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化は後述する舵力の前後方向の干渉と合わせて表現する。また、旋回・斜航運動が大きくなると

一般に w が減少する傾向にあるが、後述する旋回・斜航中の舵流入速度(6.2.8)式における(1-w)

の旋回・斜航運動による変化は小さくなるという実験結果[6],[9]が多いことから、本報では舵力

に主眼を置いて、(1-w)の運動に対する変化は無視する。

舵の定常流体力

-メントXR、YR、NRは次式のように、舵角をδ、無次元舵直圧力をF’N として

舵による力やモ

式で表す。

⎪⎪⎪

⎪⎪⎪

′⎟⎠⎞

⎜⎝⎛′+′−=

′⎟⎠⎞

⎜⎝⎛+−=

′⎟⎠⎞

⎜⎝⎛−−=

δρ

δρ

δρ

cos2

)(

cos2

)1(

sin2

)1(

22

2

2

NemHHRR

NemHR

NemRR

FUdLxaxN

FULdaY

FULdtX

(6.2.5)

ただし、tR , aH , x’H は舵と船体との干渉係数を表し、(1-tR)の中には、前述の操舵による推力変化

分が含まれている。また、無次元舵直圧力FN’ は次式で表す。

RRem

R UfAF αsin2′=′ N Ld α (6.2.6)

ここに、AR : 舵面積(可動部) の勾配(藤井式)fα : 舵単独の直圧力係数 ( )( )λλ += 25.213.6

λ: 舵のアスペクト比

また、船 の有効流速U’Rと有効流向αRは次式で表す。 速Uで無次元化した舵

⎪⎪⎭

⎪⎪⎬

⎫= 22

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛′′−

−=

′+′′

R

RR

RRR

uv

vuU

1tanδα (6.2.7)

ただし、u’R, v’RはU’Rの船体前後方向成分と横方向成分であり、次式で表す。

( ){ }( ) ( ) ⎪⎭

⎪⎬⎫2

′′+−≅′′−′=′

−+−++−=′

RRRRR

TR

lrlrvv

JKwu

βγγ

ηπκηε )1(1/811)1( 2 (6.2.8)

ここに、η = DP /H, (H:舵高さ)

流の増速率) κ = kx/ε, (kx:プロペラ後

ε:有効伴流係数比 ( ) ( )( )wwR −−= 11

γR:船体の整流係数 る係数

なお、KT の推力係数と前進定数である。また、舵の有効伴流係数

l’R:旋回角速度に対す

, Jは(6.2.4)式に示したプロペラ

(1-wR)、プロペラ後流の増速率kxおよびγR, l’R は、前述の(1-w)と同様、本報では一定と取扱い、操

縦運動の関数としない。

91

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3)流体力微係数・干渉係数のデータベース タベースを作成するに当たっては、データベー

心が明確なもの

が明確なもの

こ 水量は、設計する造

隻 13 状態の模型船の要目を Table 6.2.1 に示す。F1,F2 は実船

Table 6.2.1 データベースに採用した模型船の主要目 Ship Model F1 F2 SR108 KCS PCC TS

1軸1舵の中速商船、漁船の操縦流体力のデー

の信頼性の観点から以下の条件で実施された拘束試験データとした。

(1) 模型船の主要目が明記されたもの

(2) 拘束位置、拘束運動、モーメント中

(3) 計測系の慣性力が適切に控除され、流体力の解析方法

れらの条件を満足する操縦流体力データは意外と少ない。特に模型船の排

船所の機密保持の立場から意識的に空白にされる場合が多く、運動を議論するのにも関わらず質

量が不明といった状況にある。

データベースとして選択した 11

総トン数が 80~160 トンの日本のかけまわし式トロール漁船[3]で、船尾トリムが大きい。FUa,

FUbは北欧のトロール漁船で載荷状態を変えたものであり、L/Bが2.6という超幅広船型である。

これらは本報で新たに追加実験した。R1~R2 は著者の大学の漁業調査練習船[4]もしくは計画船

で、船型は漁船というより中速商船に近い。R4a, R4b も漁業調査練習船[5],[6]である。SR108 は

旧型のコンテナ船で、多くの実験結果があるが、ここでは松本ら[7]の実験結果を引用した。た

だし、主船体流体力モデルについては、パラメータが斜航角βでなく v’で解析されていることか

ら(6.2.3)式で再解析を行った。KCS は MOERI の設計したパナマックス型コンテナ船で、ITTC25

期で操縦性推定のバリデーションの対象となった船型であり、海上技術安全研究所で実施された

実験結果[8]を引用した。PCC は著者がかつて実施した実験結果[9]である。また TS は航海訓練

所の練習船「青雲丸」で矢吹らの実験結果[10]を引用した。なお Table 6.2.1 において、baseline trim

とは計画喫水からのトリム(商船における通常のトリム)であり、initial trim は Fig. 6.2.2 に示し

たように漁船などで計画状態におけるキールラインのAPとFPにおける喫水の差を表している。

FUa FUb R1 R2 R3 R4a R4b

Kind of Ship Japanese Fishing essel g V Fisher aining esea ssel er Seiun-

VEuropean

Fishin essel y Tr or R rch Ve Contain Ship PCC maruLpp (full scale) 57. 53.0 131.0 26.85 26.16 26.16 5 27.5 33.74 53.0 175.0 230.0 180.0 05.0 Model Scale 1/15 1/12.2 1/20 1/20 1/29 1 1 1/14.6 1/17.7 /21.4 /21.4 1/35 1/75.5 1/60 1/24.5Lpp (=L,m) 2. 1. 1. 5 3.0667 2.2000 3080 1.3080 9828 1.8816 1.9062 2.4801 2.4801 .0000 3.0464 0000 4.2900 B (m) 0. 4933 0.4834 0. 5000 0.5000 0.4138 0.4447 0.4407 0.4960 0.4960 0. 7257 0.4265 0.5367 0.7313 d (m,molded) 0.1677 0.1789 0.2036 0.2000 0.1517 0.1779 0.1469 0.1830 0.1802 0.2429 0.1430 0.1367 0.2435 keel depth (m) 0.0293 0.0410 0.0250 0.0250 0.0103 0.0205 0.0169 0 0 0 0 0 0

dem (m) 0.1970 0.2199 0.2286 0.2250 0.1621 0.1984 0.1638 0.1830 0.1802 0.2429 0.1430 0.1367 0.2435 ▽ (m3 ) 0.1227 0.1509 0.0851 0.0803 0.0715 0.1004 0.0785 0.1389 0.1358 0.495 0.1209 0.1206 0.3877xG (m) -0.1807 -0.2250 -0.0698 -0.0319 -0.0372 -0.0400 -0.0305 -0.1379 -0.1455 -0.0905 -0.0450 -0.0422 -0.0918B.L. trim (m) 0.1580 0.1413 0.0500 0.0000 0 0 0 0.0828 0.0889 0.0285 0 0 0Init. trim (m) 0.0533 0.0574 0.0375 0.0375 0 0.0547 0.0452 0 0 0 0 0 0keel trim (m) 0.0187 0 0 0 0 0.0137 0.0113 0 0 0 0 0 0total trim (m) 0.2300 0.1986 0.0875 0.0375 0 0.0684 0.0565 0.0828 0.0889 0.0285 0 0 0L/B 4.189 4.551 2.616 2.616 4.79 7.143 5.590 5.866 2 4.231 4.326 5.000 5.000 6.890 d /B em 0.399 0.455 0.457 0.457 0.392 0.446 0.372 0.369 0.363 0.334 0.335 0.255 0.333 Cb (by dem) 0.611 0.645 0.569 0.546 0.538 0.604 0.570 0.617 0.613 0.562 0.651 0.548 0.508 Cb/(L/B) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0.1459 .1418 .2177 .2180 .1122 .1429 .1319 .1234 .1225 .0815 .0911 .0980 .0865 total trim/dem 1.168 0.903 0.383 0.394 0 0.345 0.345 0.452 0.493 0.117 0 0 0 D (m) p 0.1800 0.1696 0.1022 0.1250 0.1052 0.1300 0.1073 0.1350 0.135 0.1857 0.1046 0.095 0.192A /LdR em 1/23.5 1/19.6 1/27.4 1/27.0 1/37.5 1/28.6 1/37.9 1/37.6 1/36.9 1/45.8 1/54.9 1/39. 11 /46.8Dp/H (=η) 0.971 0.955 0.749 0.838 1.000 0.904 0.904 0.913 0.913 0.844 0.798 0.794 0.960

92

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また、ke は ke が 後 に パーしてい 合 り、 F ー

em

b em

で実施され、流体力

は全て船

R

(6.2.9)

なお、一部の模型船のx’Hが(-)と表示しているのは、aHがほとんど零となる場合で、x’Hが解析

できない

Table 6.2.2 操縦流体力データベース

ship model F1 F2 FUa FUb R3 R4a R4b SR108 KCS PCC TS

el trim false el自体 船体前 方向 テー る場 であ APと Pのキ ル

深さの差を表す。したがって、全体のトリムは上記の三つを加えたものとなる。また、d は船

体中央の型喫水dに船体中央におけるfalse keelの深さを加えたもので、実質的な船体中央喫水で

ある。Table 6.2.1 のC や舵面積比はいずれもこのd で無次元化している。

これら 13 状態の流体力はいずれも定常拘束運動を与える斜航試験・CMT

体中央における拘束運動と旋回モーメントで解析されている。各模型船の船体流体力微

係数、干渉係数をTable 6.2.2 に示す。これらの解析方法については、直進試験から複数のプロペ

ラ荷重度に対して自航要素を求めた後、直進状態の舵角試験によって(6.2.8)式の舵有効流速のパ

ラメータを求める他、舵直圧力と船体に作用する流体力との関係から(6.2.6)式の干渉係数を解析

する。ただし、干渉係数は模型船の自航点における値を採用する。また船体の整流係数γ は舵直

圧力が零となる付近の斜航試験・CMTから文献 2)の方法で解析する。続いて主船体の流体力に

ついては、舵・プロペラ付き斜航試験・CMTの解析の場合、同時に計測された舵直圧力及びプ

ロペラ推力に上記の干渉係数を用いて、以下の方法で舵・プロペラの力を控除し、実質的に主船

体のみの流体力としている。なお、流体力の無次元化は(6.2.3)式と同じである。

⎪⎭

⎪⎬

′′+′+′=′′++′=′

′−−′=′

NHHRH

NHH

H

FxaxNNFaYY

TtXX

)()1(

)1(

ことによる。また、SR108 模型船の船体整流係数は定義が明確でないため空欄とした。

R1 R2

Hull derivatives X'ββ 0.0112 0770 1116 .1101 .0065 .0082 .0500 .0549 .0504 .0457

'yy

-0.1392 0. 0. -0 -0 -0.1010 -0 -0.0677 -0 -0 -0 -0X'βr-m -0.1317 -0.2084 -0.3765 -0.3136 -0.0984 -0.2362 -0.1552 -0.1446 -0.1489 -0.1031 -0.1084 -0.1232 -0.1139 X'rr+x'Gm' -0.0482 -0.0225 -0.0171 0.0216 -0.0081 -0.0122 -0.0062 0.0125 0.0104 -0.0003 -0.0120 0.0171 0.0186 X'ββββ 0.2144 0.1121 -0.3450 -0.6715 0.6347 -0.1575 0.4858 0.3190 1.2564 -0.0219 -0.0417 0.5917 0.5227 Y'β 0.8812 0.7699 0.6928 0.6163 0.4666 0.5482 0.4814 0.4079 0.4285 0.3040 0.2252 0.2629 0.3805 Y'r-m'x 0.2558 0.1753 0.1040 0.0873 0.0585 0.0980 0.0866 0.0889 0.0783 0.0862 0.0398 0.0261 0.0080 Y'βββ 0.5316 1.8851 0.7598 1.1722 1.5618 1.3732 1.1277 1.2750 1.2769 1.3354 1.7179 1.5504 2.3050 Y'ββr 1.1707 0.4800 -0.0594 -0.0838 -0.5124 0.1729 0.0580 -0.3438 -0.2556 -0.6556 -0.4832 -0.6533 -1.6470 Y'βrr 0.6076 0.6719 0.4814 0.4678 0.8509 0.2878 0.5180 0.5000 0.4192 0.7012 0.8341 0.7384 1.0900 Y'rrr 0.0367 0.0231 -0.0198 -0.0550 -0.0370 -0.0380 -0.0017 -0.0600 -0.0296 -0.0286 -0.0050 -0.0566 -0.0881 N'β -0.0015 0.0833 0.1560 0.1839 0.1591 0.1140 0.1070 0.1017 0.0995 0.0726 0.1111 0.0977 0.1497 N'r -0.0843 -0.1007 -0.0618 -0.0602 -0.0604 -0.0575 -0.0601 -0.0760 -0.0832 -0.0456 -0.0465 -0.0505 -0.0795 N'βββ

actions

0.3021 0.2898 0.2281 0.2139 0.4681 0.2826 0.3380 0.2240 0.1433 0.1714 0.1751 0.1731 0.3350 N'ββr -0.4755 -0.7811 -0.4272 -0.4582 -0.8230 -0.4585 -0.5209 -0.4271 -0.3162 -0.5236 -0.6167 -0.6273 -0.7705 N'βrr -0.0622 0.0574 0.0024 0.0197 0.1447 0.0567 0.0007 0.0339 0.0200 0.0686 0.0512 0.0954 0.2121 N'rrr -0.0172 -0.0269 -0.0063 -0.0124 -0.0404 0.0051 -0.0164 -0.0248 -0.0062 -0.0302 -0.0387 -0.0353 -0.0502 Inter 1-tR 0.856 .055 .820 .548 .883 .883 .709 .777 0.710 0.742 0.753 0.659

0.967 1.164 0. 5 0. 5

1 0 0 0 0 0 01+aH 1.000 1.067 1.437 1.294 1.000 1.000 1.276 1.226 1.237 1.361 1.419 1.236 x'H - - -0.364 -0.383 - - -0.380 -0.377 -0.480 -0.436 -0.467 -0.462 Ε 1.179 1.272 88 88 1.206 1.210 0.921 0.956 1.214 1.033 Κ 0.664 0.452 0.385 0.456 0.565 0.565 0.509 0.512 0.631 0.633 0.457 0.676 kx 0.642 0.526 0.454 0.580 0.500 0.500 0.614 0.620 0.581 0.605 0.555 0.699 l'R -0.996 -1.023 -0.774 -1.359 -0.976 -0.976 -0.670 -0.723 -1.100 -0.755 -0.946 -0.947 γR (+turning) 0.414 0.409 0.687 0.342 0.513 0.513 0.499 0.498 0.492 0.514 0.394 γR (-turning) 0.410 0.251 0.544 0.323 0.513 0.513 0.453 0.415 0.338 0.268 0.312 γR (mean) 0.412 0.330 0.615 0.333 0.513 0.513 0.476 0.457 0.415 0.391 0.353

93

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0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0.0 0.4 0.8 1.2

trim/d em

Y' β /Y' β 0

Merchant ShipsFishing Vessels

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

0.0 0.4 0.8 1.2trim /d em

N' β /N' β 0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

0.0 0.4 0.8 1.2

trim/d em

(Y' r-m' x)/(Y' r-m' x)0

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0.0 0.4 0.8 1.2

N' r/N' r0

trim/d em

Fig. 6.2.3 船体流体力の線形微係数

-0.2

-0.1

0.0

0.1

0.2

0.0 0.1 0.2 0.3Cb/(L/B)

X' ββ

0.0

1.0

2.0

-0.2

0.0

0.2

0.4

0.6

0.4 0.5 0.6 0.7Cb

N' βββ

3.0Y' βββ

L/B0.0 2.0 4.0 6.0 8.0

-0.4

-0.2

0.00.0 0.1 0.2 0.3

Cb/(L/B)

X' β r-m' y-1.0

-0.5

0.00.0 0.1 0.2 0

-2.0

-1.0

0.0

1.0

2.0Y' ββ r .3Cb/(L/B)

N' ββ r

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

(trim/d em )/Cb

-0.08

-0.04

0.00

0.04

0.0 0.1 0.2 0.3

Cb/(L/B)

X' rr +x' G m' y 0.0

0.4

0.8

1.2

0 1 2 3 4

(1-Cb)L/B

Y' β rr

-0.1

0.0

0.1

0.2

0.3

0 1 2 3 4(1-Cb)L/B

N' β rrMerchant ShipsFishing Vessels

-1.4

-0.7

0.0

0.7

1.4

0.0 0.1 0.2 0.3

Cb/(L/B)

X' ββββ

-0.2

0.0

0.2

0.0 0.5 1.0 1.5

trim/d em

Y' rrr

-0.10

-0.05

0.00

0.05

0.0 0.1 0.2 0.3

Cb/ (L/B )

N' rrr

Fig. 6.2.4 船体流体力の非線形微係数

94

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主船体の流体力微係数

(1) 線形微係数

線形微係数は、1990 年の貴島らのモデル[1]をベースに表示することとし、Fig. 6.2.3 には線形

微係数を、(6.2.10)式に示す貴島の等喫水における推定値で除して、(trim/dem)に対して示す。ま

た、図中の○印は中速商船のデータ、●印は漁船のデータであることを示す。

( )( ) ( )

⎪⎪

⎪⎪

+−=′

=′=′−′

+=′

20

0

0

0

54.0

5.04.15.0

kkN

kNBLCmYBLCkY

r

bxr

b

β

β π

(6.2.10)

ここに、L:垂線間長、B:型幅、k=2dem/Lである。 対象とした船型はCbが 0.6 前後であるためか、等喫水状態の線形微係数は上記の貴島式で比較

的よく合っている。トリム付きのデータは主に漁船船型であるが、(6.2.10)式とトリムに対する

修正という形で表現することができる。こうした表現を行うと、N’β のトリム変化については、

貴島の修正式1)にほぼ一致した特性となっているが、その他の微係数についてはかなり異なる。

ただし、これらの船型については等喫水状態のデータが無いため、同一船型でトリムに対する線

形微係数の変化がこうした特性になるかについては明確でなく、データベースの更なる蓄積が必

要であろう。なお、Fig. 6.2.3 に示す各図の曲線は、後述する(6.2.12)式のトリムに対する線形微

係数の変化モデルを表し、Y’についてはトリムの二次式、N’についてはトリムの一次式で表現し

ている。

(2) 非線形微係数

非線形微係数をFig. 6.2.4 に示す。図中の○印は中速商船のデータ、●印は漁船のデータであ

ることを示す。各図の横軸にはL/BやCbといった船体主要目の比率をとっているが、これらは回

帰分析によって最も相関係数の高いものをパラメータとして採用した。このパラメータに対して

各非線形微係数を直線近似し、その結果を各図の直線で示すが、その特性は物理的根拠に乏しく

相関も劣ることは否めない。前述の線形微係数は、トリムによるアスペクト比の変化や流体力の

作用中心の移動などによって、ある程度理論的に導ける要素があるが、非線形微係数は、こうし

た統計的な整理しかできないのが現状である。ただし、(X’βr-mx) は基本的に船の付加質量に関

係する微係数であることから、船体の無次元質量に相当するCb/(L/B) との相関がかなり強いこと

を示している。なお、各図に示す直線は、後述する(6.2.14)~(6.2.16)式の近似特性を示している。

船体・プロペラ・舵の干渉係数

(1) 舵力の船体との干渉係数

(1-tR), (1+aH), x’Hの干渉係数をFig. 6.2.5 の上段に示す。等喫水の場合の(1-tR) は 0.7 程度である

が、船尾トリムが大きい漁船などでは相対的に舵面積が大きくなり、船体の干渉が小さくなるた

めか、(1-tR)は増加する傾向がある。

(1+aH)は従来Cbに依存する傾向2)があり、貴島モデル1)でもCbをパラメータにモデル化されてい

るが、本報ではCb/(L/B)に対して表示する。なお、この値は○印で示すコンテナ船やPCCといっ

た商船ではやや大きくなっているが、これらの舵はほとんどホーン付きのマリーナ舵であり、模

型試験において大きなホーンは船体に固着され、この部分に働く力が船体の力として計測される

95

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ため、見かけ上、操舵による干渉が増える結果になっていると考えられる。これに対して●印で

示す漁船はシューピース付きの舵であり、ホーン面積は小さいため(1+aH)が同図の破線に示すよ

うにやや小さくなる傾向にある。

舵直圧力のaH 倍の干渉力の作用点となるxHは力学的にも船尾付近にあり、垂線間長Lで無次元

化したx’Hはどの船も概ね-0.4~-0.5 付近に位置していることがFig. 3.3 上段右図から確認できる。

これに対して貴島モデルの推定値はCbに対して-1.8 から 0 近くまで変化する結果となり、これら

の計測データとは全く異なる特性になっている。

(2) 舵有効流速の係数ε、kx

(6.2.8)式中の舵有効流速の係数εとkxをFig. 6.2.5 の中段に示す。ここでkxは、 εκ=xk (6.2.11)

となるが、この値は従来から無限後方を 1.0 とするとプロペラ背後の舵位置では 0.6 程度と取り

扱われており、この図からも概ねその値に近い結果となっている。

プロペラと舵位置における有効伴流係数の比ε はプロペラ有効伴流係数(1−w)に依存する傾向

がある。Fig. 6.2.5 中段右図には、今回の供試船だけでなく、著者が過去に計測した多くの模型

実験から得られたε を(1−w)に対してプロットしているが、プロペラの有効伴流係数(1−w)が小さ

い船ではε が大きくなる傾向にある。これは、プロペラの有効伴流が強い程、舵位置における流

速の回復が早まるからであろうと考えられる。漁船船型も同様な傾向にあるが、プロペラ直径や

舵面積が船体に比べて大きいためか、やや異なったグループを形成している。

(3) 舵有効流向の係数γR、l’R

舵有効流向の係数γR、l’R はFig. 6.2.5 の下段の図に示す。船体整流係数γRは旋回性能や針路安定

性に大きな影響を与えることから、その推定には細心の注意が必要である。このγRはTable 3.2 に

示したように、左右の旋回運動でその値が異なる。これは1軸1舵の船ではプロペラ後流が左右

非対称になることに起因している。こうした背景から、左右の特性を別々に整理することが望ま

しいが、ここでは左右の平均値をCb/(L/B) に対してプロットする。平均的なγRはCb/(L/B)に対し

て増加する傾向を示している。γRは小さい値ほど整流効果が大きいことを示すが、Cbが小さく

(L/B)の大きい船ではこの効果が大きいことを裏付けている。なお、貴島モデルではプロペラの

整流効果を含めた藤井の整流係数γ を用いているが、γRとの関係は ( )RR uUγγ = で記述でき、こ

れをCb/(L/B) に対して推定式を与えている。

(3.4)同図にはuR/U=1.0 としてこの推定特性を破線で示すが、供試船のデータと全く異なり、

Cb/(L/B)の増加に対して減少する推定となっている。このように計測データと異なる背景は貴島

モデルにおける整流係数が模型試験結果によるものではなく、実船の操縦性能を総合的に合わせ

るための修正係数という位置付けになっており、タンカーなどの肥大船への適用で針路安定性が

低下して旋回性能が強くなる局面をこの係数でカバーしようとした結果、Cb/(L/B)の大きい船の

整流係数を小さくして舵の針路安定性効果を弱めざるを得なかったものと推測される。

lRの係数は物理的には舵位置(=-0.5L)に対応するが、Fig.3.3 下段の右図に示すように、船の垂

線間長で無次元化したl’Rは概ね-0.9 程度で、実際の舵位置の2倍近い値となっている。この点は

貴島モデルでも-1.0 を採用しており、今回のデータとほぼ同様な結果になっている。

96

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0.0

0.5

1.0

1.5

0.0 0.5 1.0 1.5

trim/d em

1-t R

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0.0 0.1 0.2 0.3

Cb/(L/B)Merchant ShipsFishing Vessels

1+a H

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.00.0 0.1 0.2 0.3Cb/(L/B)

x' H

Kijima 90(L/B=5)

0.0

0.5

1.0

0.0 0.1 0.2 0.3

Cb/ (L/B )

k x

0

0.5

1

1.5

2

0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

1-w

ε(=( 1

-wR)/

( 1-w

))

Merchant ShipsFishing Vessels

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

0.0 0.1 0.2 0.3

Cb/(L/B)

γ R

Kijima 90(u' R =1)

-1.5

-1.0

-0.5

0.00.0 0.1 0.2 0.3

Cb/ (L/B )

l' R

Fig. 6.2.5 船体・舵・プロペラ間の干渉係数

4)操縦流体力各係数の数式表現と操縦運動推定精度 以上の流体力のデータベースをもとに、操縦運動を推定する一手法を以下に示す。前節に示し

た流体力微係数や干渉係数の一部は理論的な背景に裏付けされたものもあるが、多くは統計的な

相関を示しているに過ぎない。この意味から流体力のモデル化はデータベースに大きく依存し、

一般的に使用できるという保証は得がたい。しかし、データベースの母集団を増やす一方、より

物理的根拠に基づいたモデル化を行うことによって、汎用的な数学モデルに発展させることが可

能であろう。本節では、中速商船、漁船を対象として、操縦流体力をモデル化し、操縦運動を計

算する一手法について検討した結果を示す。

流体力微係数の数式化

(1) 主船体流体力の線形微係数

線形微係数は、(6.2.4)式に示した等喫水における貴島モデルの ( ) 0000 ,,, rxr NNmYY ′′′−′′ ββをベース

として次式で表現する。

( )( ) (( )

( ) ⎪⎪

⎪⎪

′+′=′

′−′=′

′+′−′=′−′

′+′=′

τ

ττ

τ

ββ

ββ

33.0185.01

82.11

54.01

0

0

20

20

rr

xrxr

NNNN

mYmY

YY

) (6.2.12)

97

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ただし、τ'=trim/demである。上式のトリムに対する線形微係数の変化特性はデータベースに対し

て最小自乗法を適用してFig. 6.2.3 の実線に示す。線形微係数の推定によって微小運動時の旋回

および斜航に対する流体力の作用点がそれぞれ求まる。

( )⎪⎪⎭

⎪⎪⎬

′−′+′′−

=′

′=′

rx

rr Ymm

Nl

YN

ββ

(6.2.13)

(6.2.12)式で推定した線形微係数、および(6.2.13)式の作用点の無次元位置の推定結果を、計測

結果と比較して Fig. 6.2.6 に示す。図中の実線が推定と実測の相関を表す直線である。同図には

また貴島モデルによる推定結果を×印で比較し、実測との相関を破線で示すが、線形微係数の推

定精度が改善されている。

0.0

0.5

1.0

1.5

0.0 0.5 1.0 1.5

Measured Y' β

Pred

icted

Y' β

Presented modelFishing Vesselkijima90 model

Kijima 90

presented

-0.1

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

-0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4

Measured N' β

Pred

icted

N' β

Presented modelFishing Vesselkijima90 model

Kijima 90 presented

-0.1

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

-0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

Measured l' β

Pred

icted

l'β

Presented modelFishing Veselkijima90 model

Kijima presented

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4

Measured Y' r -m' x

Pred

icted

Y' r-

m' x

Presented modelFishing Vesselkijima90 model

Kijima 90presented

0.0

0.1

0.2

0.0 0.1 0.2

Measured N' r

Pred

icted

N' r Presented model

Fishing Vesselkijima90 model

Kijima 90

presented

0

2

4

6

0 2 4 6

Measured l' r

Pred

icted

l'r

Presented modelFishing Veselkijima90 model

Kijima 90

presented

Fig. 6.2.6 船体流体力の線形微係数の推定と実測の比較

(2) 主船体流体力の非線形微係数 非線形微係数は、前節にも述べたように、物理的な根拠が明確でないため、これらを数式化す

ることは困難であるが、Fig. 6.2.4 の各図の実線で示した特性を用いる。すなわち、

( )( )

( )( ) ⎪

⎪⎪

+−=′

+−=′′+′

+−=′−′

−=′

10.168.6008.0085.0

08.091.118.015.1

BLCXBLCmxX

BLCmXBLCX

b

byGrr

byr

b

ββββ

β

ββ

(6.2.14)

98

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( )⎪⎪

⎪⎪

−′=′

+−=′

−′=′

+=′

051.0069.011.0126.0

75.097.048.0185.0

τ

τ

β

ββ

βββ

rrr

brr

br

YBLCY

CYBLY

(6.2.15)

( )( )

( ) ⎪⎪

⎪⎪

−=′

−−−=′

−=′

+−=′

056.025.0098.01075.0

76.055.166.069.0

BLCNBLCN

BLCNCN

brrr

brr

br

b

β

ββ

βββ

(6.2.16)

(3) 舵・船体・プロペラの干渉係数

干渉係数についてもFig. 6.2.5 の各図の実線で示した特性を数式化して次式に示す。ただし、

物理的な特徴が比較的明確でx’H、l’R, kx はほとんど船型に対して変化がないので、これらは一定

と取り扱う。また、舵面積比やホーンサイズの違いなどから、漁船のaHとε については別途数式

を与える。

( )( )

⎪⎪⎭

⎪⎪⎬

−=′⎩⎨⎧

=

+′=−

4.0,2.1,6.3

61.032.01

H

b

bH

R

xvesselfishingforBLC

shipmerchantforBLCa

t τ

(6.2.17)

( )( )( )

⎪⎪⎪

⎪⎪⎪

==⎩⎨⎧

−−−−

=

+=−=′

55.0,193.081.1,182.126.2

14.006.29.0

εκ

ε

γ

x

bR

R

kvesselfishingforw

shipmerchantforwBLC

l

(6.2.18)

操縦運動の推定結果と推定精度

前述のモデルを用いて旋回試験をシミュレーションした結果の一例(PCC、KCSコンテナ船)を

Fig. 6.2.7 に示す。図中には、本数式モデルによる推定結果を実線で示す他、拘束模型実験デー

タによる推定(original data)を破線、貴島モデルによる推定を点線で比較する。自由航走模型試験

結果はPCCについては文献 9)、KCSコンテナ船は 11)からそれぞれ引用して示す。貴島モデルに

よる中速商船の旋回圏は従来から大きくなることが指摘されている12)が、この比較でも自由航走

試験の約 1.3~1.4 倍の旋回圏と大きくなっている。これに対し、本提案のモデルによる推定結果

は、拘束模型試験データを用いた推定と合わせて、実測と良く合っており、ここに示した数式モ

デルの有効性が確認できる。

99

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-1

0

1

2

3

4

0 1 2 3 4 5

Free-runningPresented modeloriginal MMGKijima90

-1

0

1

2

3

4

0 1 2 3 4 5Free-runningPresented modeloriginal MMGKijima90

(ship model PCC) (ship model KCS)

Fig.6.2.7 舵角 35°旋回試験航跡の推定と実測の比較

Fig. 6.2.8 はデータベース中の供試船に対して、右 35°舵角旋回試験の縦距と旋回圏、および 10°Z

試験の第一オーバーシュートをそれぞれ計算した結果であり、拘束模型実験データによる計算結

果 (original data) に対して表示する。図中の○印は中速商船、●印は漁船の推定をそれぞれ示し、

これらの相関関係を合わせて実線で示す。一方、貴島モデルによる計算結果は同図の×印で示す。

ただしこの計算に際しては、貴島モデルの線形微係数のトリム変化がFig. 6.2.3 に示した特性よ

り過大で誤差が拡大するため、通常の baseline trimのみで計算し、漁船特有のinitial trimとkeel trim

は含めないこととした。また、北欧型の幅広漁船FUa, FUbの計算においては、Cb/(L/B)が大きい

ためε およびγ がマイナスになってシミュレーションが実施できないことから、貴島モデルによ

る計算対象船から除外した。

0

2

4

6

0 2 4 6

Measured Advance in L PP

Pred

icted

adva

nce i

n LPP

Presented model do. with fishinf vesselkijima90 model

0

2

4

6

0 2 4 6

Measured DT in L PP

Pred

icted

DT i

n LPP

Presented model do. with fishing vesselkijima90 model

0

5

10

15

20

0 5 10 15 20

Measured 1st OVS

Pred

icted

1st O

VS

Presented model do. with fishing vesselkijima90 model

(Advance) (Tactical diameter) (1st Overshoot of 10/10 Z-test)

Fig.6.2.8 舵角 35°の縦距・旋回圏、10°Z試験の第1オーバーシュートの推定と実測の比較

100

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Table 6.2.3 推定誤差の RMS Kijima model 90 Presented model Merchant Ships

Advance (L) 0.39 0.11 Transfer (L) 0.41 0.09 Tactical dia.(L) 0.81 0.19 1st overshoot (deg) 1.00 0.81

Fishing Vessels Advance (L) 0.68 0.20 Transfer (L) 0.57 0.14 Tactical dia.(L) 1.06 0.26 1st overshoot (deg) 3.68 1.41

本数式モデルによる旋回運動の推定は、同図に示すように、実測データによる計算結果と比較

的良い一致を示していることがわかる。10°Z 試験の第一オーバーシュートの推定については、

やや過大となる傾向にあるが、誤差のバラツキは少ない。これらの推定誤差の RMS (root mean

square)を Table 6.2.3 に中速商船と漁船船型に分けて要約する。

本推定法による誤差は貴島モデルに比べてかなり小さく、漁船を含む中速商船の操縦推定に有効

であることを示している。ただし、適用できる主要目の範囲はこれを導いたデータベースに依存

するから、主要目は以下の範囲であり、タンカーなどの肥大船は対象外になる。

,46.025.0,1.76.2 <<<< BdBL em 17.10,65.051.0 <=′<<< emb dtrimC τ

船舶の計画段階で操縦性能を推定するに際し拘束模型試験を行うと、多くの労力と時間が必要

である。1990 年に公表された貴島モデルは、船の主要目が与えられると数学モデルの全ての係

数が求められ、操縦運動がたちまち計算できるという点で極めて画期的な研究成果であった。そ

の後、船型も時代と共に変遷し、IMOで操縦性基準が決議されると、針路安定性に乏しいタンカ

ー、バルカーといった肥大船の操縦運動推定への要請が高まり、貴島モデルもこれらの肥大船に

ウエイトを置いて改訂が重ねられてきた13~16)。その一例として、船尾フレームライン形状を表

すパラメータにCpa, Cwaなどが採用されている。しかし、この方法は確かに肥大船では有効であ

るが、コンテナ船などの中速船や漁船の多くの船型ではCwa がもともと大きく、σa

(=(1-Cwa)/(1-Cpa))が零に近い場合もあり、V型船尾フレームライン形状という取扱いとなって、操

縦推定精度を逆に悪くする結果にもなっている。本報に提示した一推定法は必ずしもベストとは

言えないが、こうした船型の操縦性能の推定精度の向上に役立つことが期待される。

5)おわりに 本報では中速商船や漁船船型を対象として、操縦流体力のデータを収集してデータベース化し、

大きな船尾トリムを含むこうした船型の操縦流体力の特徴を明らかにした。続いて、これらのデ

ータベースを基に、船の主要目から操縦流体力を推定する数式モデルの検討を行い、この数式モ

デルを用いて操縦運動の推定を行い、既存の研究成果と比較検討しその推定精度を確認した。主

な結論を以下に要約する。

101

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(1) 主船体流体力の線形微係数は、船尾トリムの少ない中速商船では従来の貴島モデルで比較的

良く推定できるが、トリムの大きい漁船船型に対しては針路安定側へ過大に推定し、結果と

して旋回圏を過大に推定する結果となる。

(2) 船体・プロペラ・舵の種々の干渉係数の多くは物理的根拠にもとづいて検討すると、従来か

ら示されるほどの船型影響は現れず、kx、x’H、l’Rなどは一定と見なしても差し支えない。γRは

Cb/(L/B)に対してやや変化する傾向はあるが、従来ほどの変化は見られない。

(3) これらデータベースにもとづいて操縦流体力係数の数式モデルを導入し、これを用いて操縦

運動を推定した結果、旋回運動、Z 試験のオーバーシュートが従来の方法より誤差が 1/2~1/3

程度に推定できる。

以上のごとく、データベースをできるだけ忠実に数式化することによって、操縦性能を精度よく

推定することが可能になり、本報に示した一推定法は中速商船、漁船船型の操縦性能の推定に有

効と思われる。

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102

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Page 108: P29 船舶操縦性予測モデルの標準化に関する研究委 …6.操縦流体力係数のデータベース 80 6.1 九大データの整理式[古川] 80 6.2 中速商船・漁船船型の操縦流体力データベースと操縦運動の一推定法[芳村]

7.結 言

本活動により,船の操縦運動予測モデルの標準化を行うとともに,その標準化されたモデルの

下で,船体に作用する横力と回頭モーメントの微係数に関する多くのデータを収集することがで

きた。そのような成果を踏まえて,今後の課題について述べる。

(1) 操縦性に関わる流体力係数データベースの拡充と整理法の検討

今回収集した流体力のデータは,船体に作用する横力と回頭モーメントの微係数だけであり,

操縦運動シミュレーション計算を行うには十分ではない。例えば,船体に作用する前後力に

関する微係数,舵力に関わる係数,船体と舵の干渉に関する係数等のデータの収集は行われ

ていないからである。今後,これらのデータ収集を行う必要がある(なお,基礎となるモデル

は統一化されたので,データを集めるという作業だけでよい)。また,収集したデータの整理

は,今回一応行っているものの,どのような形で整理すべきか,検討が必要であるように思

われる。

(2) 横傾斜を伴うようなやせ型船の予測モデルの構築

客船やコンテナ船のような比較的 GM の小さな船は,操縦運動と横傾斜運動が連成し,その連

成影響は無視できないことが知られている。横傾斜を伴うようなやせ型船の操縦運動予測モ

デルを構築するとともに,それに関わる流体力データの収集を行う必要がある。

(3) 回流水槽をベースとした操縦運動の予測

回流水槽は,船型開発の現場において,今や欠かすことのできないものとして確立している。

しかしながら,船の操縦性能を調査するツールとしては,不十分であるように思われる。本

報告において,回流水槽を使用した場合の操縦流体力を把握し,解析する方法が述べられて

いる。ただし,それらの適用例が少なく,精度についての確認が十分でないことが問題の一

つとしてあげられる。ここで述べた方法を下に,回流水槽をベースとした操縦運動の予測を

行い,予測精度の確認を行って,回流水槽を船の操縦性能を調査・検討するツールとして確

立させる必要がある。

(4) 浅水域を航行する船の予測モデル

今回議論したのは,深水域における操縦性に関するものである。港湾のような浅水域におい

ては,深水域における操縦流体力特性と大きく異なることが知られている。今回行ったよう

な成果を基に,浅水域における操縦運動モデルを確立させ,流体力のデータ収集を行う必要

がある。

今後とも,活動を続けて行きたい。

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