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1 「JA 広島総合病院 緩和ケアマニュアル」 目次 I はじめに 1, 目的 「JA 広島総合病院 緩和ケアマニュアル」は実際に JA 広島総合病院医療者がすぐに使える事を目的 として作成した。内容は緩和ケア普及のための地域プロジェクト(OPTIM)等を元に作成された。 2, 使用上の注意 1) 患者、家族へパンフレットを用いて説明する場合は OPTIM (http://gankanwa.umin.jp/pamph.html)を印刷して主治医の許可のもと使用する。 Ⅱ 評価・・・当院で使用している評価ツール a) STAS-J の使い方 別ファイル stas-j 参照 b) 「疼痛評価シート」「疼痛フローチャート」の使い方は 院内 HP→緩和ケア科ホームページ内に示す Ⅲ 症状マネジメント 1, 疼痛 (1) 非オピオイドの導入------------------------------------------------------- 5 (2) オピオイドの導入--------------------------------------------------------- 8 (3) 残存増強した痛みの治療-------------------------------------------------- 14 (4) オピオイドの副作用対策--------------------------------------------------- 21 a 眠気 b せん妄 c 嘔気 d 便秘 (5)オピオイド計算表--------------------------------------------------------- 27 (6)オピオイドスイッチング----------------------------------------------------- 28 2, 呼吸器症状(1)呼吸困難(2)咳漱・喀痰(3)胸水(4)死前喘鳴------―---------- 29 3, 消化器症状(1)嘔気嘔吐(2)腹部膨満感・腹水(3)イレウス--―――---―――― 39 4, 全身症状(1)倦怠感(2)食欲不振(3)高カルシウム血症---------------------- 53 5, 精神症状(1)せん妄(3)うつ病(3)不眠--------------------------―-------- 61 Ⅳ 緩和ケアのスキル 1, 持続皮下注---------------------------------------------------------- 69 2, 鎮静---------------------------------------------------------------- 71 3, 家族ケア(2013 年度作成)パンフレットあり-----------------------------―-- 73 4, エンゼルケア--------------------------------------------------------- 89 本ガイドブック作成、完成にあたり査読スタッフ 平成 24 年 2 月 1 日 小松弘尚・松本千香子・桐生浩司・香山茂平・近藤丈博・高石美樹 平成 26 年 12 月 4 日 小松弘尚・松本千香子・桐生浩司・香山茂平・河野秀和・高石佳幸・礒貝明彦 がん治療支援・緩和ケアチーム、緩和ケア委員会

「JA広島総合病院 緩和ケアマニュアル」...1 「JA広島総合病院 緩和ケアマニュアル」 目次 I はじめに 1, 目的 「JA広島総合病院 緩和ケアマニュアル」は実際にJA広島総合病院医療者がすぐに使える事を目的

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1

「JA 広島総合病院 緩和ケアマニュアル」 目次

I はじめに

1, 目的

「JA 広島総合病院 緩和ケアマニュアル」は実際に JA 広島総合病院医療者がすぐに使える事を目的

として作成した。内容は緩和ケア普及のための地域プロジェクト(OPTIM)等を元に作成された。

2, 使用上の注意

1) 患者、家族へパンフレットを用いて説明する場合は OPTIM

(http://gankanwa.umin.jp/pamph.html)を印刷して主治医の許可のもと使用する。

Ⅱ 評価・・・当院で使用している評価ツール

a) STAS-J の使い方 別ファイル stas-j 参照

b) 「疼痛評価シート」「疼痛フローチャート」の使い方は 院内 HP→緩和ケア科ホームページ内に示す

Ⅲ 症状マネジメント

1, 疼痛

(1) 非オピオイドの導入------------------------------------------------------- 5

(2) オピオイドの導入--------------------------------------------------------- 8

(3) 残存増強した痛みの治療-------------------------------------------------- 14

(4) オピオイドの副作用対策--------------------------------------------------- 21

a 眠気 b せん妄 c 嘔気 d 便秘

(5)オピオイド計算表--------------------------------------------------------- 27

(6)オピオイドスイッチング----------------------------------------------------- 28

2, 呼吸器症状(1)呼吸困難(2)咳漱・喀痰(3)胸水(4)死前喘鳴------―---------- 29

3, 消化器症状(1)嘔気嘔吐(2)腹部膨満感・腹水(3)イレウス--―――---―――― 39

4, 全身症状(1)倦怠感(2)食欲不振(3)高カルシウム血症---------------------- 53

5, 精神症状(1)せん妄(3)うつ病(3)不眠--------------------------―-------- 61

Ⅳ 緩和ケアのスキル

1, 持続皮下注---------------------------------------------------------- 69

2, 鎮静---------------------------------------------------------------- 71

3, 家族ケア(2013 年度作成)パンフレットあり-----------------------------―-- 73

4, エンゼルケア--------------------------------------------------------- 89

本ガイドブック作成、完成にあたり査読スタッフ

平成 24 年 2 月 1 日 小松弘尚・松本千香子・桐生浩司・香山茂平・近藤丈博・高石美樹

平成 26 年 12 月 4 日 小松弘尚・松本千香子・桐生浩司・香山茂平・河野秀和・高石佳幸・礒貝明彦

がん治療支援・緩和ケアチーム、緩和ケア委員会

2

3

Ⅲ、症状マネジメント

1.疼痛

●疼痛の治療は WHO のがん疼痛治療法(WHO ラダー)に沿っている。治療の流れに沿って、「疼痛(1)非オピ

オイドの開始」「疼痛(2)オピオイドの導入」「疼痛(3)残存・増強した痛みの治療」を示している。

●「疼痛(2)オピオイドの導入」では、弱オピオイド・強オピオイドの開始について述べた。「よくある質問集」では、

「嘔吐した」「眠気が強い」「意識障害・精神症状が生じた」「効果がない」などの対応を示した。

●「疼痛(3)残存・増強した痛みの治療」では、オピオイドの投与されている患者での痛みの残存・増強に対する対

応について述べた。「疼痛が1日中ある(持続痛が緩和されていない)」か、「持続痛は緩和されているが1日に何

度か痛みがある(突出痛が緩和されていない)」かに分けて治療を示した。

●オピオイドを投与している患者にみられる眠気・せん妄・嘔気の対応については「疼痛(4)オピオイドの副作用対

策」で述べた。 便秘については「消化器症状(3)便秘」で述べた

4

●WHO 方式がん疼痛治療法の5原則

○WHO が推奨するがん疼痛治療法の5則は以下のとおりである。

● がん性疼痛には、持続痛、突出痛がある。(痛みのパターン)

突出痛には、 ①予測できる痛み(体動痛など)、②予測できない痛み、③定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)が

ある。

●がん疼痛には、内臓痛、体性痛、神経障害性疼痛がある。(痛みの性質)

治療の方針 基本的な治療方針

持続痛

「1 日を通してずっと痛い」

オピオイドを増量する

突出痛

「たいていはいいが時々痛くなる」

レスキューを使う

内臓痛 腹部腫瘍の痛みなど局在があいまいな鈍い

痛み オピオイドが効きやすい

体性痛 骨転移など局在のはっきりした明確な痛み 突出痛に対するレスキューの使用が重要になる

神経障害性

疼痛

神経叢浸潤、脊椎浸潤など びりびり電気が走るような・しびれる・じんじ

んする痛み

難治性でオピオイドに加えて鎮痛補助薬を必要と

することがある

5

1 「どこが痛みますか」と聞き疼痛部位を診察

2 「いつから痛みがありますか」と聞き、以前からの疼痛かを確認

3 画像検査を確認

4 胃潰瘍、腎障害、出血傾向を確認

WHO ラダーに沿って非オピオイドを開始する

●NSAIDsまたはアセトアミノフェンの定期投与

●レスキューの指示

●胃潰瘍の予防

「がんの痛みが心配なとき」のパンフを用いて説明・ケアを行う

効果判定期間1~3日

「症状なし」

「現在の治療に満足している」

(STAS‐J≦1)

●NSAIDs またはアセトアミノフェンを用いる。

●レスキュー指示を行う

●NSAIDsを使用するときは、抗潰瘍薬を併せて投与する。

●まず原疾患の治療(外科的治療、化学療法、放射線療法)を考える。 ●NSAIDs またはアセトアミノフェンの定期投与 ○薬剤 の選択 表 III-1-1

・鎮痛効果と副作用から選択する。ボルタレンは鎮痛効果は強力だが消化管障害が強い。 ・胃潰瘍、腎障害があるときはアセトアミノフェンを投与する。

●レスキューの指示 ○疼痛の悪化に備えてレスキュー指示を出す。

1)NSAIDs の1日 大投与量(例:ボルタレン 100mg/日、ロピオン 150mg/日) を超えない範囲で NSAIDs 1回分。

2)超えればアセトアミノフェンかオピオイドを使用する。 ○レスキューが必要な場合は NSAIDs 単独での鎮痛が不十分であるので、オピオイドの導入に移行する。 ●胃潰瘍の予防 ○サイトテック、プロトンポンプ阻害薬または高用量の H2 ブロッカーを併用する。

●1~3日で効果を判定し、鎮痛不十分であればオピオイドを開始する。

オピオイドの導入

疼痛(2)オピオイドの導入

NO

疼痛(1)非オピオイドの開始

6

(1)NSAIDS の開始

経口投与ができる

胃潰瘍・腎障害 なし あり

定期投与

鎮痛効果が中程度 モービック(10mg)1.5 錠 朝 ハイペン(200mg)2 錠 朝・夕 ロキソニン(60mg)3 錠 分 3

鎮痛効果が強い ボルタレン SR(37.5mg)2 カプセル 朝・夕

カロナール(200mg)4~8 錠 分 4

レスキュー

(1)アセトアミノフェン 0.5 ~ 1g 1日量で 4g まで or NSAIDs 1回分追加 ( 大投与量を超えないとき)

(2)オキノーム(2.5mg)1 包 or コデイン錠(20mg)1 錠(1%コデイン散 2g)or トラマール(25mg)1 カプセル 1 日 4 回まで

経口投与ができない 座薬 静注・皮下投与

定期投与 ボルタレン坐薬(25mg) 3 個/日分 3(8時間ごと)

ロピオン(50mg/A) 0.5~1A+生食 100mL 点滴

× 3 回/日(8 時間ごと)

レスキュー

(1)アンヒバ坐薬(200mg)2個 1日量で4g1回まで or NSAIDs 1回分追加( 大投与量を超えないとき)

(2)アンペック坐薬(10mg)0.5~1個 2時間あけて反復 1日2回まで or モルヒネ0.3mL(3mg)皮下注 or

モルヒネ0.3mL(3mg)+生食100mL 点滴呼吸数≧10回/分なら30分あけて反復1日2回まで

医療用麻薬をすぐに用意できないとき レペタン坐薬(0.2mg)0.5~1個 1時間あけて反復 1日2回まで or レペタン(0.2mg/A)0.5A 皮下注 呼吸数≧10回/分なら30分あけて反復 1日2回まで

表 III-1-1 NSAIDs とアセトアミノフェンの特徴

半減期 高血中濃度到達時間(時間) 胃腸障害 カロナール 2.5 0.5 - ポンタール 2.3 2 ± プロピオン酸系 ロピオン(静注薬) ロキソニン

5.8 1.2

0.1 0.5

+ +

アリール酢酸系

ボルタレン ボルタレン SR ハイペン

1.2 2.3* 1.3 6*

2.7 6.0 1 1.4

+++ ++ ++ +

インドール酢酸系 インフリー 6.5 5.6 ++ オキシカム系 モービック 28* 7 + *1日2回以下の投与で鎮痛を維持することが可能(医療用医薬品調べ)

(1)非オピオイドの開始

7

○痛みの状況の確認:「疼痛評価シート」を使うなどして、痛みやその苦痛について,継続して確認する。

・ツールは、患者の体調や理解力に応じて使用する。 ・ツールを用いた場合は、どのような頻度で使用するか、そして痛みを上手に伝えてもらうことでケアや治療

がよりよく進められることを説明する。 ○気持ちのサポート:痛みがあると、不安や誤解のために痛みを表現することをためらうことがある。痛みについて

の正しい理解を促し、痛みを伝える必要性を伝える。患者が話すつらさに共感して聞くようにする。 ○痛みについての説明:痛みの原因、対処方法、痛みの緩和目標について患者・家族・主治医・看護師・その他の

スタッフで共有する。 ○疼痛緩和方法の検討:痛みがつらい時間や食事他の薬との兼ね合い、患者の好みや病状に応じて、使用経路

(剤形)や使用時間を検討する。 ○疼痛閾値を高める:疼痛緩和を促すケアを一緒に考える。

パンフ「がんの痛みが心配なとき」(疼痛 1)の「こんなケア、工夫をします」

○睡眠の誘導:痛みがあると不安や不眠になりやすいので、積極的な気分転換やリラックスの方法を検討する

→ パンフ「ぐっすり眠れないとき」(不眠1) ○リラックス・気分転換:痛みがあると、痛みに意識が集中しそのことが痛みを増強させることがあるので、他に集

中できること、リラックスにつながることなどを話し合う。 ○痛みについての説明:痛みの原因、対処方法、痛みの緩和目標について患者・家族・主治医・看護師・その他の

スタッフで共有する。 ○環境調整:疼痛が増強するような体動を避けた日常生活、寝床の工夫など。 ○装具や補助具の工夫:コルセット、頸椎カラー、歩行器、杖などの使用を検討する。

8

1 経口投与は可能か?

2 腎障害はないか?

WHO ラダーに沿ってオピオイドを開始する

●オピオイドの定期投与

●レスキューの指示

●嘔気・便秘の予防

(弱オピオイドまたは強オピオイドを開始する)

「医療用麻薬(モルヒネなど)をはじめて使用するとき」のパンフを用いて説明・ケアを行う

効果判定期間1~3日

「症状なし」

「現在の治療に満足している」

(STAS‐J≦1)

エッセンス

● オピオイドの定時投与、レスキューの指示、嘔気・便秘の対策を行う。

● 非オピオイドは中止しないで併用する。

● 腎障害があるときは、モルヒネは使用しない。

● 錐体外路症状を避けるため、制吐薬は嘔気がなければ 1~2週間で中止する。

疼痛(2)オピオイドの導入

Q1 嘔吐した

Q2

眠気が強い

Q3

意識障害・精神症状

を生じた

Q4

効果がない

Q5

患者が使いたくないQ6

家族が説明してほし

くない

NO

疼痛(3)残存・増強した痛みの治療

9

● オピオイドの定期投与

○ 「毎食後」「疼痛時」ではなく、時間を決めて定期的に投与する。

○ 非オピオイド鎮痛薬は中止しないで、併用する。

○ 経口投与できるか、腎障害の有無でオピオイドを選択する。代謝産物が蓄積するため腎障害ではモルヒネ

は使用しない。 表 III-1-2、表 III-1-3

○ 体格が小さい、高齢者、全身状態が不良な場合は半量から開始する。

● レスキューの指示

○ 疼痛の悪化に備えて、必ずレスキュー指示を出す。

○ 徐放製剤と同じ種類のオピオイドを用いる。

○ 1日 大使用回数を超えた場合は定期投与の増量を検討する。

内服 1 時間あけて反復可。1日 4回まで

○予測できる突出痛に対するレスキュー薬投与のタイミング

・経口投与:30~60 分前

・皮下投与:15~30 分前

・静脈内投与:直前

・フェンタニル口腔粘膜吸収剤:10~30 分前

● 嘔気・便秘の予防

○ 嘔気時として制吐薬の頓用を処方する。嘔気・嘔吐の可能背の高い場合、継続する場合は、定期的に併用

する。1~2週間後に嘔気がなければ中止する。

治療目標

● 1~3日で効果を判定する。

● 腎障害がある、75 歳以上、認知症がある、精神症状のリスクが高い、オピオイドを導入できないときは緩和ケ

アチームにコンサルテーションする。

投 与 量 : 内服・坐薬はオピオイド1日量の6分の1(10~20%)、持続注射は1時間量

を早送り (使用後効果なく呼吸数≧ 10 回/分、眠気(-)なら 50%増量してよい)

反復条件 : 呼吸数≧10 回/分

反復間隔 : 内服・坐薬は 1時間、早送り注射は 30 分

1 日の最大使用回数 : 定期投与量の 25~100%を目安に指示する

内服 1 時間あけて反復可。1日 4回まで

早送り注射 呼吸数≧10 回/分なら 30 分あけて反復可。1日 6回まで

10

表 III-1-2 オピオイドの選択

経口投与ができる

腎障害 なし あり

定期投与 トラマール(25mg)

4 錠 分 4

(6 時間ごと)

コデイン錠(20mg)

4 錠 分 4

(6 時間ごと)

徐放性モルヒネ

20mg/日

12 or 24 時間ごと*

オキシコンチン(5mg)

2 錠 分 2

12 時間ごと

レスキュー トラマール(25mg)1C コデイン錠(20mg)1 錠 オプソ(5mg)1 包 オキノーム(2.5mg)1 包 2 時間あけて反復

1 日 4 回まで

1 時間あけて反復 1 日 4 回まで

嘔気の予

±ノバミン(5mg)1 ~ 3 錠

便秘の予

防 酸化マグネシウム 1.5g/日 分 3

* MS コンチン(10mg) 2 錠 分 2(12 時間ごと)など

経口投与ができない 腎障害 なし あり

定期投与 アンペック坐薬

(10mg)1.5 個/日

分 3

(8 時間ごと)

モルヒネ

持続皮

下・静注

10mg/日

オキファスト

持続皮下

・静注

10mg/日

フェンタニル

持続皮下

・静注

0.2mg/日

フェントステープ 1mg

*オピオイド初回使

用は適応外

レスキュー

1 回分

2 時間あけて反復

1 日3回まで

1 時間量を早送り

30 分あけて反復

1 日 6 回まで

イーフェン 50μg

バッカル投与 4 時間開けて 1 日 4 回まで

嘔気の予防

●嘔気の可能性が高い場合

・ナウゼリン坐薬(60mg)2 個/日 分 2

Or

・ノバミン(5mg)0.5~1A/日を持続投与

Or

・セレネース(5mg) 0.3~0.5A/日を持続投与

便秘の予防 なし

表 III-1-3 オピオイドの薬理作用 腎障害での使用 眠気 嘔気 便秘

モルヒネ

経口,坐薬,

注射

不可

オキシコドン

経口,注射

注意

フェンタニル

経皮,注射

+

+

±

コデイン

経口

肝代謝を受けモルヒネになって作用する

トラマール

経口,注射

注意

+

+

±

*いずれも注意しながら使用する(オキシコドン:腎不全時に注意。トラマール:投与間隔を延長)

11

処方例

例 1 経口投与(1)オキシコンチンで開始

ハイペン(200mg) 2 錠 分 2

オキシコンチン(5mg)2 錠 分 2(12 時間ごと)

±ノバミン(5mg) 2 錠 分 2(12 時間ごと,オキシコンチンの内服時間に合わせる)

酸化マグネシウム 1.5g 分 3(「便の硬さに合わせて調節してください」と注記する)

疼痛時、オキノーム(2.5mg)1包 1時間あけて 1日4回まで

例 2 経口投与(2)コデイン or トラマールで開始

カロナール(200mg)9 錠 分 3

コデイン錠(20mg) 4 錠 or トラマール(25mg) 4 カプセル 分4(6時間ごと)

ノバミン(5mg)3 錠 分 3

酸化マグネシウム 1.5g 分3(「便の硬さに合わせて調節してください」と注記する)

疼痛時 コデイン錠(20mg)1 錠追加 トラマール(25mg)1 カプセル追加

1 時間あけて 1日 4 回まで 2 時間開けて 1日 4 回まで

例 3 坐薬

ジクロフェナクナトリウム坐薬(25mg)3 個/日 分 3 +アンペック坐薬(10mg)1.5 個/日 分3

(8時間ごと)

疼痛時、アンペック坐薬(10mg)1回分を追加 2 時間あけて 1日 3 回まで

例 4 静脈注射

モルヒネ 1mL(10mg)+生食 23mL 1mL/時間(10mg/日)

オキファスト 1mL(10mg)+生食 23mL 1mL/時間(10mg/日)

フェンタニル 4mL(0.2mg)+生食 20mL 1mL/時間(0.2mg/日)

疼痛時、1 時間分早送り 呼吸数≧10 回/分なら 30 分あけて反復可 1日6回まで

例 5 皮下注射

モルヒネ 5mL(50mg)+生食 5mL 0.1mL/時間(12mg/日)

オキファスト 5mL(50mg)+生食 5mL 0.1mL/時間(12mg/日)

フェンタニル 10mL(0.5mg) 0.1mL/時間(0.12mg/日)

NSAIDs は(ジクロフェナクナトリウム坐薬,ロピオンに変更して)継続

疼痛時、1時間分早送り 呼吸数≧10 回/分なら 30 分あけて反復可 1日6回まで

12

○オピオイドの理解:オピオイドに対する抵抗感や誤解の有無を聞き、適切な理解を促す。医療者側から一方的

に説明するよりも、「麻薬というとびっくりされる方が多いのですが、どういう心配をされていますか?」など

と 患者・家族の認識を確認しながら説明をしたほうが、よいコミュニケーションが継続できる。 ○オピオイド導入の必要性の説明:オピオイドが今の疼痛を緩和するために適切な薬剤であることを理解し開始

することで、疼痛マネジメントが円滑に進められる。 ○痛みの状況の確認:「疼痛の評価シート」を使うなどして、痛みやその苦痛について、確認する。 ○レスキューの説明:定期使用のオピオイドに合ったレスキューを選択する。レスキューの必要性、方法、

評価について説明する。 ○薬剤使用のチェック:オピオイドは定期使用が原則。定期使用しているか、飲み忘れがないかを、残薬の数を数

えるなどして確認する。オピオイド使用開始後、1~ 3 日以内に必ずオピオイドの使用状況、効果と副作用

について確認、その後の確認の必要性についてもアセスメントし、診療録に記載する。 ○副作用対策:

・ 便秘 : オピオイド使用中は対策を続ける必要がある。浸透圧性下剤(便を軟らかくする)と大腸刺激性

下剤の併用を検討。 ・ 嘔気 : オピオイドの導入時のみ対策が必要であり、1 ~ 2 週間で消失することが多い。 ・ 眠気 : オピオイドを開始後 1 ~ 3 日に多くみられるが、自然軽快する。オピオイド以外の要因による

眠気に注意する。 ○日常生活の指導:オピオイドを使用していても食事、仕事、旅行が可能であることや、基本的に運転を控えるこ

とを話し合う。 ○疼痛緩和方法の検討:痛みがつらい時間や食事、他の薬との兼ね合い、患者の好みや病状に応じて、使用経

路(剤形)や使用時間を検討する。 ○睡眠の誘導:痛みがあると不安や不眠になりやすく、また不眠があると痛みを強く感じるため、夜間良眠できる

よう検討する。 ○リラックス・気分転換:痛みがあると、痛みに意識が集中しそのことが痛みを増強させることがあるので、他に集

中できること、リラックスにつながることなどを話し合う。

13

嘔吐した

評価・治療 ●制吐薬は処方されているか

いいえ→ノバミン(5mg)3 錠 分 3 を処方

はい →・決められたように飲んでいないなら、内服するよう指導

・制吐薬を追加処方

☞ オピオイドの副作用対策 c)嘔気

トラベルミン 3 錠 分 3 or セレネース(0.75mg) 1 錠 眠前を追加する

●嘔吐仕手色時出来ない状況か はい → 輸液

●便秘か はい →浣腸など

説明 嘔気は通常 1~2 週間以内に収まることを説明する

眠気が強い

評価・治療

●オピオイドの使用量が間違っていないか確認する

●呼びかければはっきり覚醒して文章で会話できるかを確認する

できない→診察を行う できる→ 経過観察

説明 眠気は通常数日以内に治まることを説明する

意識障害・精神症状を生じた

●オピオイドを中止し、診察を行い評価する

効果がない

●眠気・嘔気があるか ☞ オピオイドの副作用対策 a)眠気

ない

●レスキューの使用効果があるか

ない →オピオイドの無効な痛みの可能性がある。コンサルテーション。

ある → オピオイドを増量する

コデイン 80mg/日→120mg/日→モルヒネ 20mg/日に変更

オキシコンチン 10mg/日→15mg/日→20mg/日→30mg/日→40mg/日

モルヒネ 20mg/日→30mg/日→40mg/日→60mg/日

患者がオピオイドを使いたくない

●なぜオピオイドを使用したくないのかを患者に確認する。

●もともと病気になっても薬を使わなかった、オピオイドを使用することで病状が進んでしまうと不安に感じる、オピ

オイドについての誤解をしているなどの理由がある。

●オピオイドについての誤解は、麻薬中毒になる、幻覚が出る、寿命が縮まるなどである。しかし、がん性疼痛に

オピオイドを使用したときの中毒の発生率は 1%以下、初回投与の精神症状の出現率は 5%以下、また、オピオ

イドの使用量と生命予後に有意義な相関が認められていない。

家族が患者に説明してほしくない

●なぜ聞かせたくないと思っているのかを確認し、理由に対処する。

●「もし伝えなかったとしたらどういう不都合が生じるか」「患者が も余市量を受けるために今、何をつたえたらい

いか」に焦点を当てる。

●「強い痛み止め」のようなあいまいな表現は使わず、オピオイドは安全で有効であることを説明する。

Q

Q

Q

Q

Q

Q

ある

14

1「今まで痛かったところと同じですか?と聞く

2医療者が「疼痛評価シート」を書く

・「痛みは一日中ずっとありますか、をれともたいて

いはいいけど、時々ぐっと痛くなりますか?」

・「吐き気・眠気・便秘はどうですか?

疼痛(3)残存・増強した痛みの治療

評価

嘔気・眠気・便秘が強い時は嘔

気・眠気・便秘のページを参照

15

持続痛の治療のポイント 処方例

エッセンス

・眠気・嘔気が生じない範囲で 30 ~ 50% 増量する。

STEP1~STEP3 放射線治療・神経ブロックの適応をアセスメントする

STEP1 NSAIDs

● 非オピオイド系鎮痛薬(アセトアミノフェン,NSAIDs)を 大投与量まで増量する。

STEP2 定期オピオイドの増量

● 1 日中続く痛みが軽くなるか,眠気・嘔気が生じるまでオピオイドを増量

する。オピオイドの投与量に絶対的な上限はない。

● 増量幅は,経口モルヒネ換算120mg/日以下の場合は50%,120mg/日以上の場合・体格の小さい者

・高齢者・全身状態が不良の場合は30%とする。強い痛みのときは前日に追加投与したレスキュー使用量

の合計量を上乗せしてもよい。

● 増量間隔は,1~3日(デュロテップMT パッチは3日)。

●定期オピオイドを増量したら,レスキューも計算して処方し直す。

STEP3 オピオイドスイッチング・鎮痛補助薬

● オピオイドスイッチング,鎮痛補助薬についてアセスメントする。

治療目標

●1~3日で効果を判定する。

●痛みがなく夜眠れることを 初の目標にし、安静時に痛みがないこと、動いても痛みがないことを次の

目標にする

突出痛の治療のポイント 処方例

エッセンス

・定期的にオピオイドを投与されていても70%の患者が突出痛を経験し,

定期的なオピオイドの増量だけでは突出痛をなくすことはできない。

・計算量のレスキューを,反復条件・反復間隔・1日 大投与回数を

明示して処方する。

・レスキューの使用方法を患者に指導する。

STEP1~STEP3 放射線治療・神経ブロックの適応をアセスメントする

STEP1

●非オピオイド系鎮痛薬(アセトアミノフェン,NSAIDs)を 大投与量まで増量する。

●骨転移の場合,動揺性を減らす(手術・コルセットなどの装具使用)。

●定期オピオイドの服薬前に痛くなる「薬の切れ際の痛み」の場合,定期オピオイドを増量する。

または,投与間隔を短くする。

STEP2

●レスキューを正しく処方

○1日の合計オピオイド量の1/6(10~20%)をレスキューとして処方する。

○反復条件,反復間隔,1日 大投与回数を明示する。レスキューの指示

●レスキューの使い方の指導

ケアのポイント

○痛みの回数や強さは日によって違うので,レスキューの使用方法を患者が習得することが

も重要である。「痛みが強くなってからではなく,少し痛いと感じたら早めに使用する」「体を動かす前や

入浴前にあらかじめ使用する」「痛くなったらすぐ飲めるように薬剤を手元においておく」。

STEP3 定期オピオイドの慎重な増量

● 定期的オピオイドの増量を30%ずつ行う。生活に支障のある眠気をきたさないように,

経過を慎重に観察する。

16

治療目標

●1~3日で効果を判定する。突出痛の回数が1日3回以下を目安とする

例 1 経口オピオイド

オキシコンチン 20mg/ 日、疼痛時オキノーム 2.5mg を5回使用

オキシコンチン 20mg/日を 50%増量して 30mg/日とする。レスキューは1日量 30mg/日の6分の

1で5mg とする。

例2 フェンタニル貼布剤

デュロテプ MT パッチ 8.4mg/3 日(フェントステープ 4mg/日)、疼痛時モルヒネ錠 20mg を4回使用

デュロテップ MT パッチ 8.4mg を 50%増量して、12.6mg とする。レスキューは、デュロテップ MT パッ

チ 12.6mg はモルヒネ 180mg/日に相当するので、その6分の1で 30mg/回(モルヒネ錠(10mg)3

錠、オプソ(10mg)3包)とする。

例3 持続静脈注射・皮下注射

モルヒネ持続静脈・皮下注射 24mg/日、疼痛時1時間分早送りを6回使用。

モルヒネ 24mg/日を 50%増量し 36mg/日とする。レスキューは1時間分で 1.5mg になる。

17

例 1 経口オピオイド

オキシコンチン 80mg/日、ハイペン(200mg)2錠が投与されている場合

① 非オピオイド鎮痛薬の強化

ロキソブロフェン(60mg)3 錠 分 3±

カロナ-ル 200mg 6 錠分3に変更

② レスキューの処方

疼痛時

①.オキノーム 15mg 1 時間あけて反復可 1 日 4 回まで

② ジクロフェナクナトリウム坐薬 25mg1 個 ①が効果ないとき 1 日 1 回まで

● レスキュー量の算出方法:オキシコンチン 80mg/日の 6 分の 1 で 13mg/回、簡便のため

15mg/回とした。

(5)オピオイド計算表 16p

例2 フェンタニル貼布剤

デュロテップ MT パッチ 12.6mg/3 日(フェントステープ 6mg/日)、ロキソブロフェン(60mg)3 錠が投

与されている場合

① 非オピオイド鎮痛薬の強化

ロキソブロフェン 3 錠を、ジクロフェナク SR(37.5mg)2 カプセル 分 2± カロナ-ル 200mg 6

錠分 3 に変更

② レスキューの処方

疼痛時

①.アンペック坐薬(20mg)1 個 2 時間あけて反復可 1 日 4 回まで

② ジクロフェナクナトリウム坐薬(25mg)1 個 ①が効果ないとき 1 日 1 回まで

● レスキュー量の算出方法:

デュロテップ MT パッチ 12.6mg(フェントステープ 6mg) =モルヒネ 180mg/日の 6 分の 1 で

モルヒネ経口 30mg/回 =アンペック坐薬 20mg/回

(5)オピオイド計算表 16p

18

○レスキューの使用の説明:オピオイドにより鎮痛を行う患者の70%にレスキューの使用が必要で

ある。時々強い痛みが出現することは も適切にオピオイドを定期投与したとしても生じる。レスキ

ューを使うタイミングについて、患者・家族が理解し、患者家族が主体的に使用できるように説明し

ていく。

※レスキューを使用することにより、鎮痛薬の必要量が早く見積もれること、突出痛による苦痛へ対

応できることを説明する。レスキューを使いこなせることで、患者の自分で痛みの対処ができる感覚

が高められ、生活や治療への意欲が増すことが期待される。

○疼痛緩和方法の検討:痛みがつらい時間や食事、他の薬との兼ね合い、患者の好みや病状に応

じて、使用経路(剤形)や使用時間を検討する。

○疼痛閾値を高める:疼痛緩和を促すケアを一緒に考える。

○睡眠の誘導:痛みがあると不眠になりやすく、また不眠があると痛みを強く感じるため、夜間良眠

できるように検討する。

○リラックス・気分転換:痛みがあると、痛みに意識が集中しそのことが痛みを増強させることがある

ので、他に集中できること、リラックスにつながることなどを話し合う。

○環境調整:疼痛が増強するような体動を避けた日常生活、寝床の工夫など。

○装具や補助具の工夫:コルセット、頸椎カラー、歩行器、杖などの使用を検討する。

19

残存・増強した痛みの治療 FAQ

FAQ1 フェンタニル貼布剤を増量しても鎮痛効果がない

●フェンタニル貼布剤が正しく貼付されているか、交換されているか確認する。

●安静時痛か突出痛かを評価する。

突出痛→レスキューを確実に使用できるよう指導する。

○「びりびり電気が走る・しびれる・じんじんする」かを患者に尋ねる。

あ る→鎮痛補助薬を投与する。 ○神経ブロックの適応について専門医の意見を得る。

●オピオイドの増量手段の選択肢

○フェンタニル貼布剤を増量する。

○モルヒネ*・オキファストに変更する。

○モルヒネ*・オキファストを併用する。

○フェンタニル・オキファスト持続静注・皮下注を併用する。 *腎機能障害のあるときはオキシコドンを使用する。

処方例

FAQ2 しびれる痛みがとれない

●麻痺の前駆症状の可能性について神経所見・画像検査を確認し、整形外科手術、放射線治療の適応をコンサ

ルテーションする。

●非オピオイド鎮痛薬を 大量併用し、オピオイドを眠気・嘔気が生じない量まで増量する。

●鎮痛補助薬を使用する。

FAQ3 レスキューを使用してもよくならない ●使用しているタイミングを聞く。「痛みがひどくなるまで待って使っている」なら、効き始めるまでに30分~1時間

かかるので、「痛み始めで使用する」よう指導する。

●レスキューを実際にしようするまでに時間がかかっていないか聞く。

○自宅であれば、枕元などすぐ手の届くところに薬剤を置く。

○入院中であれば、シリンジポンプやPCAなどを用いて早送りできるようにする。坐薬・内服を処方しておき、

患者の自己管理とする方法もよい。

●レスキューが吸収されていることを確認する。1)坐薬の場合、挿入後すぐに排便がないか、直腸内に残便が

ないか。2)経口の場合、嘔吐や消化管閉塞・下痢がないか確認し、吸収しやすい投与経路に変更する。

●レスキュー使用後 大の効果が予測される時間に「よくなっているか」「眠気はあるか」を確認する。

フェントステープ 8mg を定期投与。疼痛時モルヒネ 40mg を 1 日 4 回使用

例 1 フェンタニル貼布剤でもう一段増量する

フェントステープ 8mg を 10mg→12mg→14mg、3 日ごとに増量する)

例2 モルヒネを併用する

フェントステープ 8mg はモルヒネ 240mg/日なので、30%増量分を上乗せする意図で、フェンタニル貼布剤に加え

て、MS コンチン 60mg/日を併用する。さらに除痛が不十分であれば、MS コンチンを 60mg/日→120mg/日→

180mg/日と増量する。

例3 モルヒネやオキシコドンに変更する

デュロテップパッチ MT16.8mg をモルヒネやオキシコドンに段階的に置き換える

例4 フェンタニル持続静注・皮下注を併用する

フェントステープ 8mg はフェンタニル持続静注・皮下注 2.4mg/日であるので、30%増量するとフェンタニル

0.72mg/日になる。フェンタニル 持続静注・皮下注 0.6mg/日から開始し、必要に応じて 0.9mg/日→1.2mg/日まで

増量する。皮膚からの吸収が不良なときに有効な場合がある。

20

眠気があるが効果がない→オピオイドが無効な痛みなのでコンサルテーション。

眠くもなく効果もない→●レスキューの投与量が6分の1以下であれば6分の1に増量。

●6分の1ならレスキュー量を50%増量。

FAQ4 痛みが移動する

●痛みの原因が何かを画像所見から確認。多発性骨転移であれば、複数の痛みを同時に体験することはある。

●「激痛になったかと思うとしばらくすると治まる」場合、神経障害性疼痛の可能性があるため、緩和ケアチー

ムにコンサルテーションする。

●意識障害がないか確認する。ぼんやりしている、見当識障害がある場合はせん妄の治療を行う。

●「夜間に痛みが増強する、何かをしているときには痛みを訴えない」は一般的である。安易に精神的要因と判

断しない。

21

疼痛(4)オピオイドの副作用対策 a)眠気

オピオイドスイッチング

22

●他の原因の治療 ○オピオイド開始時のノバミン、セレネースは、嘔気がなければ中止する。 ○日中のベンゾジアゼピン系薬剤は減量・中止、または投与時間を就寝前に変更できることがある。 ○腎障害があるときは代謝産物が蓄積するため、モルヒネは減量・変更する。 ●オピオイドの減量 ○痛みがなければオピオイドを 20%ずつ減量する。、減量した後疼痛が悪化していないことを確認する。 ○痛みがあれば非オピオイド系鎮痛薬を強化し、鎮痛できればオピオイドを 20%減量する。

非オピオイド系鎮痛薬(NSAIDs、アセトアミノフェン)を強化する方法 ・NSAIDs またはアセトアミノフェンの投与量を増量 ・鎮痛効果の強い NSAIDs に変更 ・NSAIDs とアセトアミノフェン 2~4g/日を併用

●モルヒネ、オキシコドンをフェンタニルに変更する。

●オピオイドの硬膜外・クモ膜下投与、神経ブロックなど麻酔科的鎮痛によりオピオイドの全身投与の減量・中止が

可能かコンサルテーションする。 治療目標

●3~7日で評価する。眠気と痛みのバランスに患者が満足していることを目標とする。

●原因がわからない、オピオイドの変更の仕方がわからない、経口モルヒネ換算で 120mg/日以上のオピオイドを

変更するときはコンサルテーションする。

スイッチング

23

疼痛(4)オピオイドの副作用対策 b)せん妄

スイッチング

24

●抗精神病薬の頓用 ☞ III-5 精神症状 せん妄症状にすぐ対応できるように、抗精神病薬の頓用指示を出す。

不穏時 1 時間あけて反復可 1 日 3 回まで

経口 セレネース(0.75mg)1 錠

or リスパダール液(0.5mg)1 包

or クエチアピン(25mg)1 錠

or ジプレキサ(2.5mg)

静脈・皮下 セレネース(5mg/A)0.5A 皮下注・点滴 クエチアピン、ジプレキサは高血糖に注意、リスパダールは腎機能低下時は投与注意

●他の原因の治療

○せん妄の出現前1週間に投与を開始・増量された薬剤の減量・中止を検討する。 ○ベンゾジアゼピン(抗不安薬・睡眠薬)はせん妄を惹起することが多いので中止する。中止できない場合は、抗

精神病薬と併用する。 ○腎障害があるときは代謝産物が蓄積するため、モルヒネは減量・変更する。 ○原因が同定できない場合、画像検査で脳転移を除外する。 ●オピオイドの減量 ○痛みがなければオピオイドを 20%ずつ減量する。減量した後、疼痛が悪化していないことを確認する。痛みが

あれば非オピオイド系鎮痛薬を強化し、鎮痛できればオピオイドを 20%減量する。

●オピオイドスイッチングを行う。 または、抗精神病薬の定期投与を行う。 ☞ III-5 精神症状

●オピオイドの硬膜外・クモ膜下投与、神経ブロックなど麻酔科的鎮痛によりオピオイドの全身投与の減量・中止が

可能かコンサルテーションする。

●3~7日で評価する。せん妄の消失を目標とする。

●原因がわからない、オピオイドの変更の仕方がわからない、モルヒネ相当で 120mg/日以上のオピオイドを変更

するとき、せん妄が改善しないときはコンサルテーションする。

スイッチング

25

疼痛(4)オピオイドの副作用対策 C)嘔気

スイッチング

(SNRI,抗がん剤)

26

●他の原因の治療 ○腎障害があるときは代謝産物が蓄積するため、輸液など脱水の治療を行い、モルヒネは減量・変更する。

●オピオイドの減量 ●制吐薬の経口投与 ○「動くと気持ち悪くなる」ときは抗ヒスタミン薬、「食後に気持ち悪くなる」ときは消化管蠕動促進薬、「1日中気持

ち悪い」ときはドーパミン受容体拮抗作用のある薬剤を投与する。

動くと嘔気がする ヒスタミン拮抗性薬

トラベルミン 3 錠 分 3 (嘔気が強まる時間帯に合わせて投与)

食後に嘔気がする 消化管蠕動促進薬

ナウゼリン(10mg)3 ~ 6 錠 or メトクロプラミド (5mg)3~6 錠

分 3 食前 (食後ではなく食前に投与)

1 日中嘔気がする ドーパミンやセロトニン受容体拮 抗作用のある薬剤

ノバミン(5mg)3 錠 分 3

or セレネース(0.75mg)1 錠 眠前 or ジプレキサ(2.5mg)1 錠 眠前で開始 1 ~ 3 日ごとに 5mg →.7.5mg 眠前まで増量 or リフレックス(15mg)0.5 錠 眠前で開始

1 ~ 3 日ごとに 15mg 眠前まで増量

or リスパダール液(0.5mg)1 包 眠前で開始 1 ~ 3 日ごとに 1mg → 1.5mg 眠前まで増量

●オピオイドスイッチングを行う。 または、 STEP1 で使用した制吐薬と作用機序の違う薬剤に変更する、または、追加する。

●制吐剤の非経口投与 III-3消化器症状、または、神経ブロックなどによりオピオイドの全身投与の減量・中止

が可能かコンサルテーションする。 治療目標

●3~7日で評価する。嘔気がなく経口摂取できることを目標とする。

●原因がわからない、使用したことのない制吐薬を処方する、どの制吐薬を選択するかわからないときはコンサル

テーションする 消化器症状(4)便秘

スイッチング

疼痛(4)オピオイドの副作用対策 d)便秘

27

●経口・坐薬

定期弱オピオイド 定期強オピオイド レスキュー(mg/回)

非麻薬 経口

トラマール

カプセル

(mg/日)

経口

コデイン

(mg/日)

経口モルヒネ

・モルヒネ錠

・MS コンチン

(mg/日)

経口

オキシ

コンチン

(mg/日)

デュロテップ

MT パッチ

(mg/3日)

3 日張り替え

フェントス

テープ

(mg/日)

1 日張り替え

モルヒネ オキノーム

経口 坐薬

75 10 2.5

120 20 5 5 2.5

150 ・ レ ス キ ュ ー

はコデイン

・120mg 以降

は他のオピオ

イドに変更

30 20 2.1 1 5 5 2.5

40 30 5 5 5

300 60 40 4.2 2 10 5 5

・レスキューはトラマール 1 日 4 回まで ・300mg 以降 は他の オピオイドに 変更

90 60 6.3 3 15 10 10

120 80 8.4 4 20 10 15

180 120 12.6 6 30 20 20

240 160 16.8 8 40 20 30

*定期オピオイドとレスキューオピオイドの量に相関性がないため、それぞれをタイトレーションする。

*レスキューのイーフェンとアブストラルについては定期オピオイドの量に関係なく、一番少ない量(イーフェン:50

μg・アブストラル:100μg)で開始し、タイトレーションする必要がある。

●非経口麻薬

○トラマールカプセル(mg)は他のオピオイドと併用禁

初回は 1 回 25mg を 4 回(朝・昼・夕・眠前)~3 回(朝・昼・夕)/日 100mg/日程度で開始

ベースアップは 200mg/日 → 300mg/日 以後は他のオピオイドに完全変更

トラマールのレスキューはトラマール 1 日 4 回まで 間隔は 2 時間開けたら使用しても良い。

力価:トラマール 300mg=内服モルヒネ 60mg=内服オキシコンチン 40mg

○コディン力価:コディン 60mg=経口モルヒネ 10mg

●皮下・静脈

○持続投与の1時間分を早送り。

○効果がなく、かつ、呼吸数≧10 回/分、眠気・嘔気がなければ、1.5~2 時間分を使用しても良い。

●レスキューに使用できるオピオイド

塩酸モルヒネ散

オプソ 5,10mg

塩酸モルヒネ錠 10mg

アンペック坐薬 10,20,30mg

オキノーム散 2.5,5mg

○オキシコンチン、MS コンチン、デュロテップ MT パッチの様な徐放性オピオイドを、疼痛増量時のレスキュー

として使用してはならない。

●増量間隔:速放性製剤、持続静注・持続皮下注では 24 時間、徐放性製剤では 48 時間、フェンタニル貼布剤

では 72 時間を原則とする。

疼痛(5)オピオイド計算表

28

適応となる状態

●鎮痛が十分でない、または、副作用のためにオピオイドの種類を変更するとき。 方法

●力価表に従って現在のオピオイドと等価の新しいオピオイドの投与量を求める。 疼痛(5)オピオイド計算表

*ただし、等鎮痛力価量から 25~50%減量し変更すること。

●経口モルヒネ 60mg/日以上の場合は、換算の個体差によって疼痛・副作用が増強する可能性がある。1 度に変

更せずに 30%~50%ずつ徐々に置き換える。徐々に変更する過程で、2 つのオピオイドを併用して構わない。 ●疼痛時指示を変更する

●変更後は、と痛と眠気の観察を行う。

・痛みが増強したら 30%増量する。

・眠気が出たら 20%減量する。

●モルヒネ・オキシコドンからフェンタニル貼布剤への変更の時の注意 ○フェンタニル貼布剤の血中濃度が上昇するのに時間がかかるため、変更後 12~24 時間は鎮痛が悪化する事

が多い。1)レスキューの指示を出し、2)患者の疼痛が悪化したら血中濃度が安定するまでレスキューを使うよ

うにする。

○先行オピオイドを減量・中止するタイミング

○モルヒネ・オキシコドンによる腸管吸収が減少するため、腸動亢進を生じやすい。 ・下剤の量を調節する ・蠕動痛が起こった場合には、アンペック坐薬・モルヒネ静脈・皮下投与のレスキューか、ブスコパンの静脈・皮

下投与を行う ・腸閉塞による疼痛の場合には、フェンタニル貼布剤に変更すると腸動亢進による疼痛が悪化する事があるの

で、他の方法を優先する。

12時間徐放性オピオイド 内服と同時に貼付し、次回より減量(中止)

24時間徐放性オピオイド 内服の12時間後に貼付し、次回より減量(中止)

オピオイド注射 貼付6時間後減量(中止)

疼痛(6)オピオイドスイッチング

29

2.呼吸器症状

1)定義 呼吸困難とは、呼吸時の不快な感覚と定義される主観的症状である。がんの種類や病態を問わず発

現頻度が高く、 緩和困難な症状のひとつである。呼吸不全とは、低酸素血症(動脈血酸素分圧≦

60Torr)と定義される客観的病態である。呼吸困難は呼吸不全と必ずしも一致せず、血液ガスや重症

度とも相関しない。呼吸困難の頻度は末期がん患者では 50%、肺がんでは 70%である。

2)原因 呼吸困難の原因は大きく4つに分類される。

①肺病変

・原発性肺がん、転移性肺腫瘍の増大

・胸水、心嚢水

・がん性リンパ管症

・気道狭窄、閉塞

・肺炎

②抗がん治療の影響

・放射線性肺臓炎

・抗がん剤の骨髄抑制による貧血や感染

・抗がん剤の心毒性による心不全、肺線維症

③がんの進行にともなうもの

・悪液質や呼吸筋疲労による胸郭運動不足

・貧血

・発熱

・疼痛

・腹水や便秘などによる横隔膜挙上

④心理・精神的要因

・不安、恐怖

・抑うつ

3)治療

呼吸器症状(1)呼吸困難

●抗不安薬の追加 ●苦痛緩和のため の鎮静

● の頓用

「息切れ、息苦しさに困ったとき」のパンフを用いて説明・ケアを行う

30

呼吸困難の原因とステロイド・オピオイド・抗不安薬以外の治療

原因 治療

1.頻度が高いもの

がん性リンパ管症

肺内転移

腫瘍による無気肺

感染症

胸水

腹水

心不全

疼痛

貧血

抗生物質、ドレナージ(膿瘍)

胸水ドレナージ

腹水ドレナージ

利尿薬、輸液減量

鎮痛

輸血

2. 頻度が低いもの

気胸

気道狭窄

COPD・気管支喘息

心嚢水

上大静脈症候群

不安(パニック障害)

胸腔ドレナージ

ステント、放射線治療

β 刺激薬、気管支拡張薬

心嚢ドレナージ、利尿薬

放射線治療、ステント

ベンゾジアゼピン系抗不安薬、SSRI

・酸素・・・低酸素血症を合併するとき、または、低酸素血症がなくとも使用後に患者が呼吸困難が

緩和したと評価すると きに用いる。酸素マスクやカニューレによる拘束感や口渇を増悪

させない工夫をする。

・輸液・・・生命予後が数週間と考えられる患者では、胸水、気道分泌、肺水腫による呼吸困難の悪

化を防ぐために 500 ~ 1000mL/日以下に減量する。

・咳嗽と喀痰の対応

・ステロイド

ステロイドの定期投与を行う。

・モルヒネ・抗不安薬の頓用

*モルヒネまたは抗不安薬を呼吸困難時に処方する。

*モルヒネは呼吸困難に対して緩和効果が認められている。頻呼吸の患者に対して呼数

を 12 ~ 20 回/分程度に減少させることで呼吸困難を和らげることを目的として使用する。

*モルヒネを使用しにくい場合は、抗不安薬かコデインを使用する。コデインは肝代 謝を受け

てモルヒネに変換 されて効果を生じるため、特に咳が強い場合、1%コデイン散2g またはコデ

イン錠(20mg)1錠を呼吸困難時に投与する。

・治療目標を相談

*モルヒネは全身状態のよい患者では重篤な副作用を生じないが、呼吸不全を合併している患者で

は傾眠で苦痛 を和らげることを目標とする場合がある。患者・家族と治療目標を相談する。

*モルヒネの定期投与

①開始量は、オピオイドが投与されていない患者で経口 10 ~ 20mg/日、注射 5 ~ 10mg/日とする。

オピオイドが投与されている患者では使用されているオピオイド量の 20%を増量・追加する。

②呼吸数≧ 10 回/分で傾眠を許容できる範囲で苦痛が緩和されるまで 20%ずつ増量する。頻呼吸

の患者に対して呼吸数を 12 ~ 20 回/分程度に減少させることで呼吸困難を和らげることを目

的として使用する。

31

・抗不安薬の追加

呼吸困難の緩和治療としての抗不安薬は、不安を抑制することによって呼吸困難を緩和することを

目的とする。意識が低下した場合は減量・中止する。

治療目標

・まず呼吸困難がないことを目的とするが、呼吸不全を合併する場合は傾眠を前提とせずに苦痛を 緩

和することは達成できない場合がある。傾眠と呼吸困難のバランスに患者・家族が満足できること

を目標とする。

・原因が特定できない、モルヒネの投与が適切か判断できない、はじめて呼吸困難にモルヒネを投 与

する、モルヒネの増量で呼吸困難が緩和されないときはコンサルテーションする。

(1) オピオイドが投与されていない患者の呼吸困難

定期投与 呼吸困難時

ハイコート

(1) 漸減法

4 ~8mg/日を 3~5 日間投与し、効果がある場合には、

効果の維持できる 小量に漸減(0.5 ~4mg/日)。効果

がない場合は中止

(2)漸増法

0.5mg/日から開始し、0.5mg ずつ 4mg/日まで増量

内服

オプソ(5mg )1 包/回

or ソラナックス(0.4mg)0.5 錠

坐薬

アンペック坐薬(10mg)0.5 個

注射

モルヒネ0.2mL(2mg)皮下注1 日

2 回まで

内服

オプソ(5mg)3 包 分 3(8 時間ごと)

or MS コンチン(10mg)2 錠 分 2

(12 時間ごと)

坐薬

アンペック坐薬(10mg)1.5 個/日 分 3

(8 時間ごと

持続静注

モルヒネ 0.5mL(5mg)+生食 23.5mL 1mL/ 時間(5mg/

日)

持続皮下注

モルヒネ 2mL(20mg)+生食 2mL 0.05mL/ 時間(6mg/

日)

内服

1)オプソ 1 回分を追加

呼吸数≧10 回/分なら 1 時間あ

けて反復可 1 日 2 回まで

2)ソラナックス(0.4mg)1 錠

坐薬

1)アンペック坐薬(10mg)0.5 個

呼吸数≧10 回/分なら 1 時間あ

けて反復可 1 日 2 回まで

注射

早送り 1 時間分

呼吸数≧10 回/分なら 30 分あ

けて反復可 1 日 4 回まで

抗不安薬を STEP2 に追加

内 服

ソラナックス(0.4mg)1 ~ 3 錠 分 1 ~分 3

or ワイパックス(0.5mg)1 ~ 3 錠 分 1 ~分 3

or デパス(0.5mg)1 ~ 3 錠 分 1 ~分 3

坐薬

ダイアップ坐薬(4mg)1 ~ 3 個/日 分 1 ~分 3

舌下

ジアゼパム注射薬(10mg/A)orドルミカム注(5mg/A)0.25A

~ 1.5A/日 分 1 ~分 3

持続静注・皮下注

ドルミカム 2.5mg/日から開始。眠気を許容できる範囲で、

10mg/日まで増量。意識が低下すれば中止

処方例

32

①オピオイド力価表に 従って投与されているオピオイドがモルヒネで何 mg になるかを計算し、20%

を増量・追加する量とする。全身状態が不良なときは少量から開始する

②モルヒネの経口・静脈・皮下投与で定期投与の指示を出す。

③呼吸困難時の指示を出す。

投与量、反復条件、反復間隔、1 日 大使用回数は疼痛時と同じか全身状態が不良なこと

が多いので、少なめから開始する。

④開始後、呼吸数、眠気、嘔気、苦痛を観察し、投与量を調整する。

例 1 デュロテップ MT パッチ 16.8mg/3 日(フェントステープ 8mg/日)で鎮痛を行っている患者で

モルヒネ持続静注を追加

①デュロテップ MT パッチ 16.8mg・フェントステープ 8mg =モルヒネ静脈投与 120mg/日相当なの

で、20%のモルヒネ 24mg/日を追加する。

②定期投与の指示を出す。フェンタニル貼布剤に追加して、モルヒネ 2mL(20mg)+生食 22mL1mL/

時間で開始(20mg/日)

③呼吸困難時の指示を出す。

早送り 1 時間分 呼吸数≧10 回/分なら 30 分あけて反復可 1 日 4 回まで。

(注) 少量のモルヒネで有効なことがあるので、全身状態が不良なときはより少量から使用する。

例 2 オキシコンチン 40mg/日で鎮痛を行っている患者でモルヒネ持続皮下注に変更

①オキシコンチン 40mg/日= モルヒネ皮下投与 30mg/日なので、20%増量すると 36mg/日となる。

開始量は少なめの 24mg/日として増減する。

②定期投与の指示を出す。オキシコンチンを中止して、モルヒネ 5mL(50mg)0.1mL/時間で開始

(24mg/日)

③呼吸困難時の指示を出す。

早送り 1 時間分 呼吸数≧10 回/分なら 30 分あけて反復可 1 日 4 回まで。

例 3 オキシコンチン 40mg/日で鎮痛を行っている患者でモルヒネ内服に変更

①オキシコンチン 40mg/日=モルヒネ経口 60mg/日なので、20%増量すると 72mg/日となる。開始

量は少なめの 60mg/日として増減する。

②定期投与の指示を出す。MS コンチン 60mg 分 2(12 時間ごと)

③呼吸困難時の指示を出す。

オプソ(10mg)1 包 or モルヒネ(10mg)1 錠 呼吸数≧10 回/日なら 1 時間あけて反復可

1 日 3 回まで。

33

評価方法 患者が感じている呼吸困難の程度を量的に評価して、治療・ケア介入の効果を認識し、経時的な病状進行

に伴う経過を把握する(図参照)。呼吸困難は主観的症状であるため、その評価は患者自身の言葉を用いる

ことが基本である。評価ツールだけではなく、患者の表情や身体状態の細やかな観察をすることにより総合

的に判断していく。

1)数字によるスコア

(Wong-Baker によるフェース・スケール)

0:全く息苦しくない 1:ほとんど息苦しくない 2:軽い息苦しさ

3:中等度の息苦しさ 4:高度の息苦しさ 5:耐えられない息苦しさ

2)呼吸困難を生じさせる労作の程度の評価

進行がん患者の生活レベルに合わせた評価の目安(一つの試案)

食事 排泄 会話

0:苦しくない 椅子座位 トイレ 息切れなし

1:動くとやや苦しい ベット上座位 ポータブル 長く話すと息切れ

2:動くとかなり苦しい 休みながら ポータブル介助 すぐ息切れ

3:安静でも苦しい 食べられない 尿器 できない、したくない

志真泰夫、ターミナルケア 5:272.1995 より

5.看護ケアのポイント

○呼吸困難の状況の確認:呼吸困難の状況を確認する。 ○呼吸困難についての説明:呼吸困難の原因、対処方法、緩和目標について患者・家族・主治医・看護師・その

他のスタッフで共有する。 ○環境調整:患者が好む環境を調整する。低温、気流(外気、うちわ、扇風機)があることを好まれることが多い。

また、酸素吸入を続けながら移動が可能な部屋の整備を行う。ナースコールが常に手元にあるようにする。

○衣類の工夫:寝衣、寝具による胸郭への圧迫を避ける。

○姿勢の工夫:起座位や健側の肺を上にした姿勢など、呼吸困難が軽くなるような姿勢をとれるよう、ベッドの背も

たれを高くできるよう、クッションや座椅子などを使う。

○食事の工夫:食事による負荷が減らせるよう咀嚼や嚥下が容易な半流動食を考慮する。

○酸素の使用:酸素療法は酸素飽和度の改善、自覚症状としての呼吸困難感の軽快が認められる場合に実施す

る。酸素療法の使用法を指導する。(どんなときに使うのか。食事、排便、労作時など)酸素マスク、カニューレ

の不快感に対処する。酸素吸入中は、口腔や鼻粘膜が乾燥するので、いつでも水分(氷片)を摂れるようにす

る。

○呼吸法、呼吸リハビリテーション:適応(全身状態が比較的良好で、予後予測2~3カ月以上)について検討し、

口すぼめ呼吸や、腹式呼吸を指導する。リラックス効果もある。ただし、呼吸困難が強い場合は、かえって呼吸

困難を助長させることにつながりかねないので、無理をしない。

○不安への対応:呼吸困難に伴う不安、恐怖を理解し、患者への関心を寄せ、可能な限りそばに付き添う。また、

頓用の抗不安薬の使用も検討する。

○睡眠の誘導:睡眠の重要性を指導する。眠ってしまっても、呼吸が止まることがないことや、常に呼吸状態につ

いて観察することを伝え、安眠を促す。 ○リラックス・気分転換:呼吸困難があると、呼吸に意識が集中しそのことが呼吸困難を増強させることがあるので、

他に集中できること、リラックスにつながることなどを話し合う。

34

1)定義 咳嗽:さまざまな刺激により咽頭の閉鎖および呼吸筋の急激な収縮で胸腔内圧が上昇し、引き続いて

咽頭の開放とともに急激な気流が引き起こされ排気する一連の流れをさす。

喀痰:過剰分泌された気道分泌物である。気道分泌液は正常では約 100ml/日とされている。何らかの

原因で過剰産生される場合、咳と一緒に上気道に排出される。

2)原因 迷走神経の求心性線維を介して延髄の咳中枢に伝えられることにより、不随意的に咳嗽反射として

起こる。主に咽頭、中枢気道、胸膜、横隔膜などからの刺激が咳の原因となる。

がん自体の症状としてみられる場合

原発性肺がん、気管・気管支原性腫瘍

転移性肺腫瘍・気管支腔内転移

がん性リンパ管症

頭頸部腫瘍:上顎がん、咽喉頭がん、甲状腺がん

上部食道がんなど

経過中、あるいは治療の合併症としてみられる場合

上気道感染

気管食道瘻などの瘻孔形成、気管支炎

肺炎、肺化膿症、膿胸

間質性肺炎:薬剤性、放射線性

心不全 続発性気胸

肺塞栓:腫瘍塞栓

3)治療

咳嗽の治療

●ACE 阻害薬を服用している場合は中止を検討する。

●通常の鎮咳薬で効果がない場合

○1%コデイン散4~8g 分4,または、コデイン錠(20mg)4錠 分4

夜間に悪化することが多いので、毎食後のみではなく眠前にも投与する。

コデイン散の内服が大変なときは、コデイン錠(20mg)に変更する。

●効果がない場合

○コデイン錠(20mg)6錠まで増量する。

○コデイン 120mg/日は肝臓で代謝されてモルヒネ 20mg/日内服と同じ効果を生じる。コデイン

120mg/日まで増量したら、モルヒネ徐放錠 20mg/日に変更し、眠気・嘔気がないことを確認しな

がら 50%ずつ増量する。通常モルヒネ 60mg/日までで鎮咳される。

喀痰の治療 ●びまん性汎細気管支炎、肺炎など合併症の治療。去痰薬。

●頭頸部がん、反回神経麻痺、脳転移のために唾液を誤嚥している場合、頻脈・腸管麻

痺・口渇を生じない範囲 で、(1)ブチルスコポラミン(20mg/A)1~2A を眠前に点滴、(2)ブチ

ルスコポラミン(20mg/A)1~4A/日持続静注・皮下注。

●喀痰排出を目的とした呼吸リハビリテーションについて相談。

●死亡直前の気道分泌

○抗コリン薬が 40 ~ 60%で有効。すでに出現した気道分泌を消失させる効果は乏しい

ので、気道分泌の生じはじめに早期に開始する。すでに存在する分泌物は吸引で対応する。

○注射薬が使用できないときは、「アトロピン点眼薬」2~3 滴/回を 1 日 2~4 回舌下投与しても良い。

呼吸器症状(2)咳嗽・喀痰

35

気道分泌に対する薬物療法

頓用 持続投与

ブチルスコ

ポラミン

(20mg/A)

1A 皮下注・静注 20mg/日 持続静注・皮下注で開始

頻脈・口渇の許容できる範囲で、1 日ごとに 40mg/日

→60mg/日→ 80mg/日→120mg/日まで増量

○効果的に排痰できるようにする

1)体位の工夫:起座位、前屈位をとらせる

理学療法:腹式呼吸法を指導する。また、タッピング、バイブレーション、体位ドレナージを試

みる。

○上気道の刺激を減少させる

1)環境の整備:室温、湿度(加湿器の使用)、換気を考慮する

2)水分補給:温かい飲み物をのませる。ネブライザーを使用する

3)その他:飴玉、トローチなどを適宜なめてもらう。

36

1)定義

胸水とは、胸腔に水がたまった状態を胸水と定義する。胸水は通常、壁側胸膜の血管から生じ 0.01

ml/kg/時の速度で生産され、壁側のリンパ管から再吸収される。再吸収の最大量は 0.02~0.40m

l/kg/時で 700ml/日の再吸収が可能とされる。

2)原因

間質の微小循環水圧の上昇または浸透圧の減少、肺容量の減少、炎症、微小血管の透過性の亢進、

腫瘍の胸膜への転移、腹水の胸膜腔への直接的あるいは間接的流入により生じる。また、リンパ流の

閉塞、胸管閉塞、胸膜への直接浸潤によって生じる。血性のがん性胸水の場合、腫瘍による直接的な

血管浸潤や血管新生により生じ、腫瘍の生産する血管内皮増殖因子が血管新生、血管透過性の亢進、

局所進展に大きく寄与している。

3)治療

胸水の原因、貯留速度、症状の程度、全身状態、予後によって治療は異なる。

無症状の場合、経過を観察しながら定期的に評価する。

・胸水穿刺:単回胸水穿刺排液は呼吸困難緩和に有効であるが、1L 以上の急激な排液は再

膨張性肺水腫を引き起こす可能性があるので注意を要する。がん性胸水の場合、90%以上の患者で

胸水は 1 週間以内に再貯留し、再穿刺を必要とするため、持続的胸腔ドレナージおよび胸膜癒着術

を検討する。予後が短い場合、繰り返しの穿刺排液で症状緩和をはかる。

・胸腔チューブ挿入:胸水穿刺排液後、症状緩和が得られ、肺の再膨張が良好な場合には、胸腔チュ

ーブを挿入する。

・ 利尿剤:両側漏出性胸水には有効、ただし悪液質に伴う低蛋白血症を伴っている場合には有効性

は低い。

・胸膜癒着術:がん性胸水の場合、胸腔チューブ挿入のみでは、胸水の再貯留が必ずおこるので胸膜

癒着術を併用する。タルク(保険未収載)ピシバニール、ミノサイクリン(ミノマイシン)などを

用いる。疼痛を伴うので、局所麻酔薬の注入を併用する。1時間クランプ後、持続吸引を実施する。

胸水排液 100ml/日となったところで、胸腔ドレナージを抜去する。癒着後は拘束性肺障害を生じ、

発熱・胸痛が主たる有害現象であるが、時に薬剤性肺炎を併発することがあるので注意が必要であ

る。

胸腔穿刺やドレナージの際には、クッションやオーバーテーブルを使用して安楽な体位を保てるよ

うに工夫をする。胸腔内にドレナージが留置されている間は、陰圧が維持されることを確認する。

安楽な体位を工夫する。患側を下にして体位交換を行う。上半身を挙上する。(呼吸困難のケア参照)

呼吸器症状(3)胸水

37

1)定義 原因 ・死前喘鳴とは死が切迫した時期(死亡数時間前~数日前)に気道内分泌物が増加して、その振動によ

って下咽頭から喉頭にかけて「ゴロゴロ」と音がする状態をいう

・ 死前喘鳴の発現頻度は 40~60%であり、その発現時期は死亡 57 時間前(平均値)、23 時間前(中央

値)と報告されている。

マネジメント

・感染、腫瘍、輸液過剰、誤嚥などによる分泌増加に対して、分泌抑制剤は有効でない

・抗コリン作動剤により死前喘鳴の改善率は 50~80%である

方針

死前喘鳴が発現する頃は、患者の意識が低下しているので、患者にとって苦痛でないことが多い。

しかし、家族や周囲の者にとっては苦痛で耐えがたい場合があり、治療の対象となる。多くは体

位変換や分泌物の吸引、またブスコパンの投与で対処できるが、時には何を行っても改善がみら

れない場合があり、この場合、家族に患者は苦しくないことを十分説明する。

2)治療

・死前喘鳴の対応としては、体位変換と分泌物の吸引がある

セミ・ファーラー位をとらせる。体位変換によって分泌物の流失を促す。口腔や咽頭の分泌物

を吸引する。(意識のある場合、吸引は患者にとって苦痛である)

原因の治療

輸液過剰:500ml/日以下へ減量、フロセミド

肺炎:抗生物質、ステロイド ケア 薬物療法 ・・・60%で有効

ブスコパン 2~10A/日 (緩和できない場合) 鎮静

呼吸器症状(4)死前喘鳴

38

39

3.消化器症状

1)定義

進行性がん患者における悪心は通常多因性である。

・4つの解剖学的中枢(中枢神経系、前庭系、CTZ[chemoreceputor trigger zone]、内臓)が

嘔気・誘発要因。・4つの神経伝達物質受容体(ムスカリン、ドパミン、ヒスタミン、セロト

ニン)が関与すると考えられている。

2)原因

①末梢性刺激

胃内容停滞、便秘・宿便、腸閉塞、肝腫大、大量腹水、肝胆道系・膵臓の炎症性疾患、舌・咽頭へ

の刺激、せき、術後、局所消化管刺激物(非ステロイド性抗炎症薬、抗生物質、鉄剤など)

② 化学受容体引金帯の刺激

薬物(オピオイド、抗がん薬、抗けいれん薬など)、電解質異常(高カルシウム血症、低ナトリウム

血症)、全身性疾患(腎不全、肝不全、感染症、ケトアシドーシスなど)、放射線治療

③ 大脳皮質の刺激

頭蓋内圧亢進、脳腫瘍、髄膜炎、脳出血、脳梗塞、不快なにおい・味、不安・恐怖、心因性嘔吐

④ 前庭神経核の刺激

乗り物酔い、中耳炎、メニエール病、聴神経腫瘍

図) 嘔気・嘔吐の原因

薬剤

オピオイド・NSADs・ジゴキシン・抗コリン作動薬・

抗生剤・化学療法剤・鉄剤など

嘔気・嘔吐

転移・浮腫・脳圧亢進

消化管

閉塞・便秘・潰瘍

放射線療法

前庭器官の障害

電解質異常

高 Ca 血症・低 Na 血症

自律神経障害 臓器不全

尿毒症・肝不全

消化器症状(1)嘔気・嘔吐

40

3)治療

●制吐薬を頓用で使用しながら、原因の治療を行う。

● も関与していると思われる病態を同定し、制吐薬を1つ選択する。

●効果がなければ、1~2日ごとに 30 ~ 50%ずつ副作用のない範囲で 大投与量まで増量する.

● 大投与量で改善が得られない、または、眠気・錐体外路症状の副作用が生じた場合、(1)制吐薬を変更

する、または、(2)他の作用機序をもつ薬剤・ステロイドを併用する。

41

作用機序に応じた制吐薬

作用機序 有効な病態 臨床症状 薬剤の種類 薬剤

前庭神経 ①脳転移・がん性髄膜

②オピオイド

●動くと悪化する

●めまいを伴う 抗ヒスタミン薬 トラベルミン **

アタラックス P **

化学受容体

(CTZ)

①オピオイドなどの薬

②腎障害

③高カルシウム血症

●1 日を通して気持ち悪

●オピオイドの血中濃度

にあわせて憎悪

ドーパミン受

容体拮抗薬

セレネース *

消化管蠕動の低下 ①オピオイド

②肝腫大・腹水による

消化管運動の低下

●食後に増悪する

●便秘や消化管ガスの

増加

消化管蠕動促

進薬

ナウゼリン

メトクロプラミド

消化管蠕動の亢進 消化管閉塞 ●蠕動痛がある 抗コリン薬 ブチルスコポラミン

ドーパミン、セロトニ

ン、ヒスタミンなど複

数の受容体に作用

(注)

原因が複数または特定できない 複数の受容体

の拮抗薬

ノバミン **

リスパダール *

ジプレキサ **

ルーラン **

炎症・サイトカインの

抑制

悪液質 ●中程度の炎症反応

●悪質液を伴う

ステロイド ハイコート

注:眠気の強さを示す。なし:なし,* :弱い、** :中程度、*** :強い ジプレキサは口腔内崩壊錠、リスパダール液は舌下投与が可能で、嘔気があっても服用しやすい。

定期薬 嘔気時

前庭神経 経口 トラベルミン 3 錠 分 3 静脈・皮下 トラベルミン or アタラックス P(25mg/A)持続静

注 1A/日から開始。眠気のない範囲で、4/日まで増量

経口 トラベルミン 1 錠 静脈 トラベルミン or アタラッ

クス P(25mg/A)1A 点滴

化学受容

器引金帯

(CTZ)

経口 セレネース(0.75mg)1 錠 眠前で開始。 1 ~ 3 日ごとに 1.5mg 眠前まで増量

静脈・皮下 セレネース(5mg/A)持続静注・皮下注 0.5A/日から開始 眠気、錐体外路症状のない範囲で、1A/日まで増量

経口セレネース (0.75mg)1 錠

静 脈 ・ 皮 下 セ レ ネ ー ス

(5mg/A) 0.3A 皮下注・点滴

42

消化管蠕動

の低下

経口 ナウゼリン(10mg)3 ~ 6 錠 分 3 食前 坐薬 ナウゼリン坐薬(60mg)2 個/日 分 2 静脈・皮下 メトクロプラミド(10mg/A)持続静注・皮下注 2A/日から開始。蠕動痛、錐体外路症状のない範囲で、6A/日ま

で増量

経口 ナウゼリン(10mg)2 錠

坐薬 ナウゼリン坐薬(60mg)

1 個 静脈・皮下 メトクロプラミド注

(10mg/A)1A 静注・皮下注

消化管蠕動

の亢進 ブチルスコポラミン(20mg/A)持続静注・皮下注 2A/日から開

始。 頻脈・腸管麻痺・口渇のない範囲で、6A/日まで増量

ブチルスコポラミン(20mg/A)1A 静注・皮下注

複数の受容

体の拮抗薬

経口 ノバミン(5mg)3 錠 分3 or ジプレキサ(2.5mg)1 錠

眠前で開始。 1 ~ 3 日ごとに 5mg → 7.5mg 眠前まで増量 Or リフレックス(15mg)0.5 錠 眠前で開始。1~3 日ごとに

15mg まで増量 or リスパダール液(0.5mg)1 包眠前で開始。 1 ~ 3 日ごとに 1mg → 1.5mg まで増量

静脈ノバミン(5mg/A)持続静注 1A/日から開始。 眠気、錐体外路症状のない範囲で、2A/日まで増量

経口 各 1 回分を追加 静脈ノバミン(5mg/A)1A 点

滴・筋筋注

ステロイド ハイコート ①漸減法 4 ~ 8mg/日を 3 ~ 5 日間投与し、効果がある場合には、効果の維持できる 小量に漸

減(0.5 ~ 4mg/日)。効果がない場合は中止 ②漸増法 0.5mg/日から開始し、0.5mg ずつ 4mg/日まで増量

点滴:生食 100mL に溶いて点滴、または、生食 20mL に溶解し緩徐に静注

制吐剤の副作用とその対策

●制吐薬を使用する場合は、以下の副作用を観察,対応する。

○眠気 「眠気はうとうとしてちょうどいいぐらいですか? それとも不快な感じですか?」と聞き、不快なら

1)制吐薬の減量、2)眠気の少ない制吐薬への変更を行う。

○錐体外路症状 ドーパミン受容体に拮抗する薬剤では、パーキンソン症候群、アカシジアが生じうる。減

量・中止する。

○ジプレキサは高血糖を生じる可能性がある。

○嘔気嘔吐の状況の確認:嘔気嘔吐の状況を確認する。

○嘔気嘔吐についての説明:嘔気嘔吐の原因、対処方法、緩和目標について患者・家族・主治医・看

護師・その他のスタッフで共有する。

○環境調整:嘔気嘔吐を誘発するような、においへの配慮を行う。吐物の臭気を部屋にとどめない、閉

鎖式のドレナージ回路、食事のにおい、香水のにおいを避ける。温かい食物はにおいが強くなるので注

意する。衣類による締め付けがないかも確認する。

○食事の工夫:食べられるものを食べられるときに摂取するよう勧める。胃の停滞時間が長い脂肪性の

食品は避けるようにする。また、嘔気嘔吐が強い間は食事を控え、無理強いしないように指導する。症状

43

が緩和されてから、症状が悪化しない食事を患者・家族とともに検討する。

○口腔ケア:毎日口腔内を観察して、口内炎、口腔内汚染の有無を確認し、さらに、水分や氷片を用意し

口渇への対処を行う。

○便秘対策:嘔気嘔吐が便秘による場合は、積極的に排便管理を行う。もともと、患者の生活習慣の中

にある便秘対策を確認し、それを生かしながら薬剤によるマネジメントの必要性も伝えていく。

○リラックス・気分転換:嘔気嘔吐があると、そのことに意識が集中し、さらに嘔気・嘔吐を増強させるこ

とがあるので、他に集中できること、リラックスにつながることなどを話し合う。

44

1)定義 腹腔内に液体が貯留する病態であり、通常約 100ml 存在する。がん治療や緩和医療を行う際は、

腹水の原因・特性など多くの情報を検討することが重要である。 2)原因 ①腫瘍の増大

肝転移、腹腔内腫瘍、リンパ節腫脹 ②腹水

下腿浮腫 癌性腹膜炎、門脈圧亢進症、リンパ管閉塞、低蛋白血漿

③腸閉塞 腫瘍の直接浸潤、壁外性の圧迫 薬物使用(オピオイド、抗コリン薬など) 便秘 手術後の癒着、放射線療法後の繊維化

④便秘 ⑤腸内ガスの貯留

脊髄圧迫、障害 癌性腹膜炎、腸閉塞、高カルシウム血漿 原因となる薬物使用

⑥副腎皮質ステロイド薬の副作用 ⑦消化管穿孔

3)治療

消化器症状(2)腹水・腹部膨満感

45

●化学療法、シャント術の適応について、専門家に相談する。

●非薬物療法を行う。塩分制限、水分制限を検討する。

●輸液:経口摂取量がほとんどない状況では 1000mL/日を目安とする。

2000mL/日以上の輸液は、腹水を増悪させる可能性が高い

●開始前に、血液検査を行い、腎機能、ナトリウム、カリウムを確認する。

がん性腹水の場合、利尿薬の効果は不確実で、効果出現に1~2週間必要であり、電解質異常を生じる可能性が

高い。したがって、1)確実な症状緩和が必要、2)腎障害・電解質異常がある、3)1日の半分以上をベッド上で過ご

している場合には、腹水ドレナージを優先する

●レニン-アンギオテンシン系を抑制するため、カンレノ酸ナトリウムを用いる。

カンレノ酸ナトリウム 50 ~ 100mg/日、フロセミド 20 ~ 40mg/日で開始し、1週間後に腎機能・電解質を確認し、

投与量を調整する。

開始

調節

ナトリウムが低下

(≦130)

カリウムが上昇

(≧5.5)

腎機能以上を

生じた場合

カンレノ酸

ナトリウム 50~100mg/日

- 減量・中止1~3

日後に再検

減量・中止

フロセミド 20~40mg/日 減量 増量

●「張り感」「張りによる痛み」に有効な場合がある。疼痛で使用する使用量の 30~50%で開始して、

効果があり、眠気がないことを確認して 30%ずつ慎重に漸増する。

●1000 ~ 2500mL/ 回のドレナージを、患者の自覚する症状に合わせて行う。

○腹部膨満の状況の確認:「お腹の張り」の状況を確認する。

○腹部膨満についての説明:腹部膨満の原因、対処方法、緩和目標について患者・家族・主治医・看護師・その

他のスタッフで共有する

○姿勢の工夫:腹部に緊張がかからない姿勢を選ぶ。上半身を高くし、膝の下に枕を入れる。

このときベッドの高さは、腹部の緊張が和らぎ、楽になると感じる高さにする。または、

体を横に向け、枕などを抱く。

※同じ向きしかとれない場合は、褥瘡に注意する。可能な場合は体圧分散マットレスの使用を考慮する。

(ア)衣類の工夫:ゆったりとした衣類を着て、腹部を締め付けないようにする。

(イ)便秘対策:腹部膨満があると常に残便感があったり、便意がはっきりしなかったりすることがある。排便管理を

しっかり行い、失禁がないように、または、失禁があってもすぐに対応する。

(ウ)食事の工夫:少量ずつ1日5~6回に分けて食べる。腸管内で発酵しやすい炭酸飲料や食品(豆、牛乳、さつ

46

まいもまど)はガスが発生しやすいので控える。

(エ)温罨法(ホットパック):腹部を温めることで,リラックスする。また、背部温罨法は排便を促すことになる。

(オ)マッサージ:腹部を軽くさするように行う。ただし、お腹が張ってつらいときは、さすることでかえってつらくなる場

合もあるので、患者の好みに合わせて行う。また、腰が痛くなることも多いので、腰のマッサージも適宜行う。

(カ)リラックス・気分転換:腹部膨満があると、そのことに意識が集中し、余計に苦痛を増強させることがあるので、

他に集中できること、リラックスにつながることなどを話し合う。

(キ)スキンケア:お腹が張って皮膚が弱くなっている場合があるので、皮膚を清潔にして傷つかないようにする。ク

リームやワセリンなどで保湿を行う。

(ク)環境調整:腹部膨満により、ベッドから起き上がりにくくなったり、姿勢のバランスを崩して転んだりすることがあ

るため、スリッパや履物は脱げにくいものにする。

※利尿薬を使っている場合は排尿間隔が短くなるので、トイレに通うことが大変であれば、ベッド位置を調整し

たり、必要に応じてポータブルトイレなどを準備したりする。

47

1)定義

腫瘍の増大や多臓器への浸潤により腸管が圧迫され、腸管に閉塞が生じることで、水分

(唾液・消化液)の貯留と腸管内腔への水分・Na 分泌が起こる。その結果、腸管内圧が上昇し、

嘔気・嘔吐、吃逆、腹部膨満、腹痛などの症状が起こる状態。

2)原因

① 機械的閉塞

内腔閉塞:腫瘍、便秘、宿便、食物塊

腸管外性:がん性腹膜炎、腹腔内腫瘍、腸管癒着

② 機能性閉塞

脊髄損傷、麻痺性(オピオイド、抗コリン作動薬)

③ 混合性閉塞

3)治療

消化器症状(3)イレウスによる嘔気嘔吐

「嘔き気・嘔吐があるとき」のパンフを用いて、説明・ケアを行う

(メトクロプラミド)

.ブチルスコポラミン

48

●手術適応・内視鏡的治療の適応を外科・消化器科に相談する。

●輸液:1000mL/日+異常喪失量を目安に行う。2000mL/日以上の輸液は腹水、浮腫、胸水を

悪化させることが多い。

●鎮痛:鎮痛の治療ステップに従って行う。腸管運動抑制はフェンタニルに比してモルヒネ・オキシコドンが強いた

め、鎮痛を優先するときにはモルヒネ・オキシコドンを、不完全閉塞で蠕動を維持したいときはフェンタニルを優

先する。

※蠕動痛があるときは、抗コリン薬(ブチルスコポラミン)を追加する。

2A/日から開始。頻脈、腸管麻痺がない範囲で 6A/日まで増量。

●消化管ドレナージ:経鼻胃管の使用は患者の意向を確認する(留置,間欠的挿入、使用せ

ずに嘔吐のいずれか)。全身状態が良好な場合、胃瘻(PEG)や経食道的胃瘻(PTEG)を検

討する。

●不完全閉塞ではメトクロプラミドを投与する。蠕動が亢進している場合、メトクロプラミドを投与した後に腹痛

を生じる場合は、消化管蠕動促進薬は使わない。

●サンドスタチンとハイコートを併用し、3~7日で効果を判定する。無効であれば中止する。

●眠気と嘔気のバランスについて患者の意向をふまえながら、制吐薬を投与する。

定期投与 嘔気時

●メトクロプラミド(10mg/A)持続静注・皮下注 1A/日

から開始。蠕動痛、錐体外路症状がない範囲で、慎重に

6A/日まで増量

●ナウゼリン坐薬(60mg)2 個/日 分 2

メトクロプラミド(10mg/A)1A

静注・皮下注

or ナウゼリン坐薬(60mg)1 個

●サンドスタチン *

0.3mg/日 持続皮下・静脈注射、間欠的皮下・静脈注射

(0.1mg × 3)

●ハイコート

4 ~ 8mg/日 分 1(朝)~分 2(朝・昼)で開始。

3 ~ 5 日で効果がみられれば 0.5 ~ 4mg/日に減量

維持。効果がなければ中止

アタラックス P(25mg/A)1A

or セレネース(5mg/A)0.3A 皮

下注・点滴

or ノバミン(5mg/A)1A 点滴・

49

●アタラックス P(25mg/A)持続静注 1A/日から開始。

眠気ない範囲で、4A/日まで増量

●セレネース(5mg/A)持続静注・皮下注 0.5A/ 日から開

始。眠気、錐体外路症状がない範囲で、1A/日まで増量

●ノバミン(5mg/A)持続静注 1A/ 日から開始。

眠気、錐体外路症状がない範囲で、2A/日まで増量

●ジプレキサザイディス(5mg)1 錠 眠前

筋注

*<サンドスタチン使用の場合> 250 ~ 500mL の維持輸液で 24 時間投与、または、持続皮下注を行う。高カロリー輸液を行っ ている場合は、1)維持液に混注して側管から投与する、2)持続皮下注射を追加する、3)高カロ リー輸液に混注する(効果減弱)。入院では、1 日 3 回の静脈投与でもよい。

50

1)定義

3 日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態(日本内科学会)

腸管内容物の通過が遅延・停滞し、排便に困難を伴う状態(日本緩和医療学会)。

2)原因

①がんによるもの(直接の影響)

消化管閉塞(腸管内の腫瘍、腹部・骨盤腫瘍からの外圧迫)、脊椎損傷、高カルシウム血症

②がんによるもの(二次的な影響)

経口摂取不良、低繊維食、脱水、虚弱、活動の低下、混乱、抑うつ、排便環境の不整備

③薬剤性

オピオイド、スコポラミン臭化水素酸塩、フェノチアジン系抗精神病薬、三環系抗うつ薬、制酸薬(カル

シウム、アルミニウム含有)、利尿剤、抗けいれん薬、鉄剤、降圧薬、抗がん剤

④併存疾患

糖尿病、甲状腺機能低下症、高カリウム血症、腸ヘルニア、憩室、直腸ヘルニア、裂肛、肛門狭窄、脱肛、

痔瘻、腸炎

3)治療

STEP1 STEP2 STEP3

「便が出にくいとき」のパンフを用いて、説明・ケアを行う

●便を軟らかくする浸透圧性下剤と、腸蠕動運動を亢進させる大腸刺激性下剤(センノシド)がある。

●便が硬いときは浸透圧性下剤、硬さはいいが出ないときは大腸刺激性下剤を使用する。

消化器症状(4)便秘

便秘の治療ステップ

●浸透圧性下剤

●大腸刺激性下剤を追加

●その他の下剤

●経直腸的処置

・座薬

・グリセリン浣腸

・摘便

51

浸透圧性下剤

●塩類下剤(酸化マグネシウム)を用いる。漸減することが多いが、2~3g/日で処方し便が軟らかくなったら

減量してもよい。腎機能障害時の高マグネシウム血症に注意する。

大腸刺激性下剤を追加

●センノシドで調節が難しいときは、微調整しやすいラキソベロンを用いる。

●センノシド・ラキソベロンで腹痛を生じるときは、ラクツロースやアミティーザを用いると腹痛を生じにくい。

●がん性腹膜炎の場合、癒着や狭窄があり蠕動運動を亢進させることで腹痛が悪化することが多い。大腸刺激

性下剤より浸透圧性下剤を優先する。食事内容は、低残渣のものに変更するよう指導する。

商品名 使用量

浸透圧性下剤 酸化マグネシウム

ラクツロース

1~3g 分 3

15~60ml〈分 2~3〉

大腸刺激性下剤 センノシド

ピコスルファート

1~4 錠

3~30 滴

○便秘の状況の確認:回数、便の硬さを確認する。必ず腹部の触診をし、腹部の状況や便塊が触れないか

を確認する。医師と相談し、腹部 X 線で便秘の状況を確認した方が良い場合もある。

○便秘についての説明:便秘の原因、対処方法、緩和目的について患者・家族・主治医・看護師・その他のスタッ

フで共有する。

○日常生活の工夫:患者のもともとの排便習慣や、取り入れているケアを聞き、それを生かしながら、体調に

支障がなければ歩行や運動を生活に取り入れる。

○マッサージ:定期的に腹部マッサージを取り入れたり、背部の温罨法(後腹膜神経叢への刺激)を行ったり

する。

○食事の工夫:食事や水分摂取の程度を確認し、治療に応じて、可能な範囲で水分の摂取を勧めたり、食物

繊維の多い食品の摂取を勧める。水分摂取が可能な場合は、飲水量が 1 日 1L 以上となるように心がけ

る。

*毎日、飲酒する習慣のあった方が急に飲酒を中止することで、便秘に傾くことがある。

○生活指導:便意を感じたらすぐに対処し、我慢させないようにする。トイレまで行けない場合は、ポータブル

トイレ便器を設置、それも難しければ床上排泄とする。排泄の際の周囲の環境(他の患者や時間帯)を調

節する。下肢が支持されないと腹圧がかけにくいため、足台などを使い、足の支持を行う。

食物繊維の多い食品:穀類・いも・豆類など

52

53

4.全身症状

1)定義 末期癌の 60~90%にみられる.患者のQOLを著しく損ねるもの.

進行癌の倦怠感について Holley は「エネルギーの減退を感じる主観的な感覚を特徴とする状態で身

体的・心理的な側面を持っている」と定義.

2)原因と治療

化学療法、放射線治療 治療が終了すると改善する

免疫療法、薬剤

貧血 輸血

低栄養 栄養補助食品、糖質、アミノ酸類の点滴

低ナトリウム血症、低カリウム血症 電解質の補正

高カルシウム血症

低酸素血症、呼吸不全 酸素投与、ステロイド

発熱 クーリング、解熱剤

浮腫 利尿剤、体位の工夫

リンパ浮腫 リンパマッサージ

感染症 抗菌薬 など

不眠、心因反応、抑うつ 睡眠薬、精神安定剤、抑うつ薬

不安、喪失感 カウンセリング など

がん悪液質 副腎皮質ステロイド

エリスロポエチン、プロゲステロン製剤

治療・対策 原因が治療に伴うもの

原因に対する対症療法が可能なも 治療・対策

精神的原因 治療・対策

治療・対策 終末期の症状に関連すること

全身症状(1)倦怠感

54

●原因の治療

○痛み、貧血、感染症、高カルシウム血症の治療を行う。 ●非薬物療法

○倦怠感に対する有効な薬物療法は限られているので、エネルギー温存療法など

の生活指導が重要である。

●予後予測が3ヵ月未満の場合、スロイドを投与する。

(1)漸減法

ハイコート 4 ~ 6mg/日を 3 日間投与し、効果ある場合は、効果のある 少量に漸減(0.5 ~4mg/日)。

効果のない場合は中止する

(2)漸増法

0.5mg/日から開始し、0.5mg ずつ 4mg/日まで増量

看護ケア(他職種とのチームアプローチが望ましい)

・ 身体的ケア…清潔行為 口腔保清

ADL/セルフケア…転倒予防 活動と休息のバランス考慮 排泄方法の配慮

適度な自動・他動運動 睡眠の確保 セルフコントロール感維持

・ 環境整備…面会が過度にならないよう希望にあわせる 大声・物音を避ける

自力体交出来ない患者は必要な物を手の届く範囲に配置

・ 食事の工夫…食事形態や内容を栄養士と話し合い、好きな物を好きなときに食べられるよう工夫

適度な水分補給

・ 気分転換…心理・社会的側面からくるストレスには気分転換

散歩など自然へのふれあいや行事への参加 大切な人と時間を過ごす

記念日を取り入れる・作業療法など楽しみが見つけられるよう工夫

・ 快の感覚を高めるケア

アロマセラピー…患者の好む香りを用いる

マッサージ、リフレクソロジー、足浴など

55

○倦怠感の状況の確認:「だるさ(疲れ)」の状況を確認する。また、倦怠感は、気持ちのつらさ(抑うつの症

状)として表現されることもあるので、質問票の裏の「こころの状態」についても確認していく。

○倦怠感についての説明:倦怠感の原因、対処方法、緩和目標について、患者・家族・主治医・

看護師・その他のスタッフで共有する。

○リラックス・気分転換:倦怠感があると、そのことに意識が集中し、余計に倦怠感を増強させる

ことがあるので、他に集中できること、リラックスにつながることなどを話し合う。

○環境調整:患者のエネルギーの消耗が 小になるような環境づくりを行う。

○エネルギー温存療法

・1日の生活の中で患者のエネルギーを配分する

・生活動作、仕事、作業などに優先順位をつける

・1日の中で少しずつ何回かに分けて、安静時間,休息をとる

・生活の中で必要なものが手に届きやすいように配置する

・清潔ケアを自分で行えたとしても、体力温存のために援助を受ける

・生活の工夫:生活の中の運動や休息のバランスをとる。適度な運動は気分転換になった

り、良質な睡眠につながる

○睡眠誘導

○家族ケア:倦怠感のある患者をケアする家族の思いを傾聴し、患者の援助を家族と一緒に考える。

○抑うつに対するケア:精神症状のケアの項参照

56

1)定義 食欲不振は、食物を取りたいという意欲が低下もしくは消失した状態。進行がん患者にみ

られる食欲不振は、がん悪液質によることが多い。

2)原因 状況要因 食習慣の変化 病室の環境

医学的要因 1 癌による症状

疼痛 悪心 嚥下困難 口内炎 味覚障害 電解質異常 尿毒症 感染症 悪液質

2 消化器の病変

胃内容の停滞 腹水 消化管狭搾・閉塞など

3 治療によるもの

薬剤性(モルヒネ、抗癌剤) 放射線治療 高カロリー輸液など

4 精神的要因 不安 うつ状態 対人関係など

3)治療 <原因の治療>

複数の原因が重なっていることが多く、全ての原因を取り除くことは容易ではないが、原因の除去が

可能ならば、優先して実施する。例えば、便秘による腹部膨満感や嘔気が原因であれば、便秘の治療

が食欲を改善する。

<薬以外の治療法>

食事について具体的に助言する。例えば、栄養価よりも患者の嗜好を優先させること、食事の量には

こだわらないこと、消化がよく口あたりがよい食べ物(麺類、酢の物、果物など)を用意することなど

である。

●食事は患者によって重大な意味があり、身体的・精神的苦痛を生じるため、包括的な支援が重要である。

●薬物療法

消化管運動

促進薬

ナウゼリン(10mg)3~6錠 食前

or メトクロプラミド(10mg/A) 静注1A ×3 毎食前 持続静注・皮下注 3~ 6A/日

ステロイド

ハイコート

(1)漸減法

4~6mg/日を3~5日間投与し、効果がある場合は、効果のある 小量に漸減(0.5 ~

全身症状(2)食欲不振

メトクロプラミド

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4mg/日)。効果がない場合は中止する

(2) 漸増法 0.5mg/日から開始し、0.5mg ずつ4mg/日まで増量

ヒスロン

ヒスロン H 400 ~ 600mg/日

保険適応がなく、致命的な血栓症を生じる可能性があるため、投与を検討するときは専門

家にコンサルテーションする

STEP1 は STEP2、STEP3 と併用してよい。六君子湯を用いてもよい。

○食欲低下の状況の確認:「食欲不振」の状況を確認する。

○食欲低下についての説明:食欲低下の原因、対処方法、緩和目標について、患者・家族・

主治医・看護師・その他のスタッフで共有する。食欲低下の原因に合わせて、食事を摂るこ

とを強要しない、食事が摂れなくても、体調の管理が可能であること、食事量だけが健康の指

標ではないことなどを話し合う。

○食事の工夫:患者の好みに合わせた食事内容の検討(個別対応食、デザートの工夫)、盛りつ

けや食事回数、食事時間の検討、食器への配慮{小茶碗、食器の材質(プラスチック、ABS 樹

脂製よりも陶器製を選択)、食器の色、食材ごとのバランスを配慮}、食事は楽しく、食事を制限し

ない(栄養価や量にこだわらない)、温かいものは温かく、冷たいものは冷たくする。

○味覚異常:味覚の変化は、放射線治療や歯の問題、薬剤に関連している。化学療法を受けてい

るがん患者には頻繁に、味覚の変化、特に苦味の感覚の変化が生じやすい。原因は口腔内乾

燥による味蕾の感受性低下や亜鉛欠乏によるものが多い。対策として口腔内保清、食事の工

夫、亜鉛の投与などを行う。

味覚異常の場合:1回の食事量を減らし間食を摂る。空腹時に食事を摂る。気分のいいときに食事を摂る。

好きな料理を試す。金属味や苦味があるときは、砂糖を含まないレモン汁、ガム、ミントを使用する。料理

にスパイス、ソースを加えるなども。

○便秘対策:食欲の低下が便秘による場合は、積極的に排便管理を行う。もともと患者が生活習

慣に取り入れている便秘対策を生かしながら、薬剤によるマネジメントの必要性も伝えていく。 ○口腔ケア、抑うつ、不安、疼痛、嘔気嘔吐による症状の対策については、各頁参照。

58

(3)高カルシウム血症

1)定義

高カルシウム血症は最も頻度の高い腫瘍随伴症候群の1つで悪性腫瘍の進行に伴って高頻度に発症

する。原因として腫瘍細胞から産生される副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)や様々なサイトカ

インなどによって骨吸収が促進されたり腎でのカルシウムの再吸収が抑制されたりすることによって

起こる。

2)原因

1、悪性腫瘍の産生する液性因子の作用よるもの。

2、腫瘍細胞の骨融解亢進によるもの。

3、異所性副甲状腺ホルモン産生。

悪性腫瘍による高カルシウム血症は、体内からの癌細胞から産生される副甲状腺ホルモン関連タンパ

ク質や、さまざまなサイトカインなどによって骨吸収が促進されたり、腎臓でのカルシウムの再吸収

が抑制されることによって起こる。

3)症状

軽度の場合、食欲不振・全身倦怠感・口渇・便秘・多尿などがみられる。

高カルシウム血症が進行すると、悪心・嘔吐・脱水・傾眠・意識障害や混乱などが出現する。

4)治療

補正カルシウム値

補正カルシウム値(mg/dl)=カルシウム値(mg/dl)+[4-アルブミン値(g/dl)]

補正カルシウム値 10.3 mg/dl 以上が高カルシウム血症。12 mg/dl 以上は治療の対象。

■原疾患の治療

■ビスホスホネート製剤

●ゾメタ 4mg を生食 100ml に溶解し 15 分以上かけて点滴静注(1~2週間ごとに下がるまで反復)

●長期のビスホスフォネートの投与で下顎骨壊死が起こることが報告されているので、歯科スクリー

ニングを推奨

■エルシトニン

●すでに症状のある場合は、80IU+生食 100mL 静注 毎日を 5~10 日併用。

●エスケープ現象を生じると考えられているので、長期投与は有効性が落ちる。

■補 液

全身症状(3)高カルシウム血症

59

●細胞外液補充のため、生食 1~1.5L と適時ラシックスが古典的。

●終末期では、2L 以上になると心不全リスクを伴なうので、生食 500~1500ml/日とやや少なめの投与

で十分。

・脱水の補正:補液による脱水の是正と尿中へのカルシウム排泄をはかる。

・腎機能の保持:脱水が改善されたらフロセミドなどループ利尿薬を併用して尿量を確保する。

・過剰な骨吸収の抑制:ビスホスフォネート製剤は骨吸収を抑制させる。緊急時にはカルシトニン製

剤の投与を行う。カルシトニン製剤をビスホスフォネート製剤と併用することにより早期に高い効果

が期待できる。カルシトニン製剤は破骨細胞の活性を抑制し骨吸収を減少させる。

高カルシウム血症のある患者では非特異的な症状が出現する。それらの変化に注意しながら血中カ

ルシウム値と血清アルブミン値を含めた血液検査を定期的に実施し早期に対応できるようにする。

60

61

5.精神症状

1)定義

急性に発症し、数時間~数日間持続する意識障害をいう。 軽度から中等度の意識混濁に、幻覚、妄想、興奮などの様々な精神状態をいう。

2)原因

腫瘍による直接効果 脳腫瘍、脳転移、髄膜播種

臓器不全による代謝性脳症 肝不全、腎不全、肺換気障害、甲状腺機能異常

電解質異常 高カルシウム血症、低ナトリウム血症

治療の副作用 手術、化学療法、放射線療法

薬剤性

抗がん剤、オピオイド類、ステロイド、インターフェロン、免疫抑制剤、睡

眠薬、

感染症 肺炎

血液学的異常 貧血

栄養障害 全身性栄養障害

腫瘍随伴症候群 遠隔効果、ホルモン産生腫瘍

3)治療

発症原因の除去や身体的治療を行いながら、抗精神病薬を不穏時に頓用で使用する。

精神症状(1)せん妄

●他の抗精神病薬

or 抗精神病薬とベンゾジアゼピ

ンの併用

●苦痛緩和のための鎮静

意識が混乱したときのパンフを用いて説明・ケアを行う

62

抗精神病薬を夕方から眠前に定期的に投与し、毎日増量・減量する。パーキンソン症候群、アカシジア、

悪性症候群を生じる可能性があるため副作用出現に注意する。

● 鎮静作用のある抗精神病薬に変更するか、あるいは、夜間不眠がある場合は STEP 2の抗精神病薬にベン

ゾジアゼピン系睡眠薬を併用する。

● ベンゾジアゼピン系睡眠薬としては、超短時間型(ハルシオン、マイスリーなど)は耐性や離脱症状を生じ

やすい。呼吸抑制に注意する。注射薬が使用できない場合、ダイアップ坐薬、ワコビタール坐薬を使用す

る。

● 死亡直前期の肝不全、低酸素血症など臓器不全によるせん妄では苦痛緩和のための鎮静を検討する。

定期 不穏時

なし 経口

リスパダール液(0.5mg)1 包

or クエチアピン(25mg)0.5 錠

注射

セレネース(5mg/A)1A 点滴 眠前

3時間かけて。入眠すると中止

経口

●リスパダール液(1mg)1 包 眠前で開始。

1 ~ 3 日ごとに 2 → 3 → 4mg まで増量

●クエチアピン(25mg)眠前で開始。

1 ~3 日ごとに 25 → 50 → 100mg まで増量

●ジプレキサ(2.5mg)眠前で開始。

1 ~ 3 日ごとに 5 → 7.5 → 10mg まで増量

注射

●セレネース(5mg/A)1A 点滴眠前で開始。

1 ~ 3 日ごとに 2 → 3A まで増量

経口

1回分を追加

呼吸数≧ 10 回/分なら 1 時間あ

けて 3 回まで

注射

1 回分追加

呼吸数≧ 10 回/分なら 1 時間あ

けて 3 回まで

注射

●セレネース(5mg/A)1A+ロヒプノール 1A 点滴 3 時

間かけて。入眠すると中止。

●コントミン(25mg/A)特患 0.5A(5mg)筋注

注射

1 回分追加

呼吸数≧ 10 回/分なら 1 時間あ

けて 3 回まで

●セレネース、ロヒプノールの注射薬は生食 100ml に混注して点滴。

63

●リスパダールは口腔内崩壊錠であるため飲水不要である。

●クエチアピン、ジプレキサは高血糖を生じうるため、病名に糖尿病がある人は禁忌。

○せん妄の状況の確認:状況を確認する。

○せん妄についての説明:せん妄の原因、対応方法、緩和目標について患者・家族・主治医・看護師・その他のス

タッフで共有する。

○睡眠誘導:睡眠の確保、睡眠パターンの正常化。

○時間感覚の回復:時間の感覚を大事にする、時間の意識化。時計やカレンダーを見えるところに置く。テレビ・ラ

ジオをつける。食事、入浴、散歩、睡眠など規則正しい生活。おはようございます、おやすみなさい、などの時間を

含むコミニケーションを意識的におりこむ。記念日(誕生日、結婚記念日)などの行事を大切にする。

○環境調整:安心できる環境づくり。思い出の品物、大事にしているものをそばに置く。患者にとって安心・信頼で

きる人がそばにいる。昼と夜の区別がつくように室内の明るさを調節する。

強い(不快)刺激となるような騒音や明るさは避ける。

○コミュニケーションの工夫:話ははっきり、ゆっくり、わかりやすく。プライドを傷つけない。話を否定したり間違い

を強く指摘しない。説得しない。メガネ、補聴器、義歯を使用する。

○さまざまな症状の緩和:痛み、吐き気、便秘、呼吸苦などのつらい症状は取りのぞく。きゅうくつな衣服、寝具、

部屋の温度など不快な状況の改善。

○安全、事故(転倒・転落、熱傷、切傷など)への配慮:患者の負担を評価しながら、優先順位を決定する。点滴・

ルートが視野に入らないようにする。点滴ルートを袖やズボンの中に通す、点滴を見えない位置に置く。点滴を行

う時間の検討。ルート・ドレーンは 小限にする。障害物、危険物(ハサミ・ナイフなど)の除去。体位変換などを計

画し、褥瘡などの二次障害を予防する。

○口腔ケア:毎日口腔内を観察して、口内炎、口腔内汚染の有無を確認し、さらに口渇への対処を行う。

○家族ケア:患者の病状に対する説明を行い、家族の患者への対応方法を指導し、家族ができることを一緒に探

す。家族のつらさを理解し、声かけを行っていく。家族が実行できる患者へのケアなどを一緒に探す。

64

(2)うつ病

1)定義

ストレスによる「気持ちのつらさ」が長期化し、重症化して、正常の範囲を超えた病的な状態。

抑うつ気分、意欲低下、活動低下が強い場合にうつ病を考える。

うつ病と正常範囲の中間に位置する連続的な病態を、適応障害と捉えることが多く、抑うつ状態と、不安障害

が含まれる。

2)原因 進行・再発がん

痛みなどの身体症状の不十分なコントロール

自分の病状・病気の知識不足、認識不足

化学療法・放射線療法など治療に伴うストレス

3)治療

●心配の内容に応じた精神的な支援が重要である。

● どの薬剤も同様の効果が期待できる。高齢者や臓器障害を有していることが多いことから、蓄積性を考

え、半減期が短いものを使用する。

● いずれかを投与する。効果が発現するまで 大量を3週間継続する。

● 処方経験が乏しい場合は早めに心療内科へ紹介する。

精神症状(2)うつ病

NaSSA

or SSRI

or SNRI

65

効果の判定・副作用の評価

リーゼ(5mg)2~3錠 分2~3

デパス(0.5mg)2~3錠 分2~3

ワイパックス(0.5mg)2~3錠 分2~3

ソラナックス(0.4mg)2~3錠 分2~3

1 週間後に、患者の「楽になった」との評

価がなければ STEP2 へ

眠気、ふらつき、転倒、倦怠感が強ければ

減量

NaSSA

リフレックス(15mg)1錠 夕から開始

→45mg まで増量

SSRI

ジェイゾロフト(25mg)1錠 夕から開始

→75mg まで増量

SNRI

サインバルタ(20mg)1錠 夕から開始

→60mgまで増量

● 大量を投与後 3 週間後に、患者の

「楽になった」との評価がなければ

STEP2 の 他 剤 に 変 更 、 ま た は

STEP3

● 嘔気、焦燥、不眠といった副作用の出

現に注意

● 嘔気は 1 週間で耐性を生じるので可

能な限り継続。焦燥、不眠が生じれば

中止

精神的ケア

●むやみに批判、解釈、助言せず、まずは患者の訴えに耳を傾け、患者自身が現実を受け入れていく過程を援助

する。

● 家族のサポートが乏しいなどの問題が関与している場合には、それに対する介入を行う。

○気持ちのつらさ状況の確認:「つらさの寒暖計」を使うなどして、気持ちのつらさの状況を確認する。

○気持ちのつらさについての話し合い:治療などの意思決定の援助、悩み・心配事・問題点を整理し明確にする。

過去のストレス対処法を話し合い、試してみる。生活上の重要事項に優先順位をつける。

○リラックス・気分転換:気がまぎれる日常の活動を計画し、実践する(散歩、軽い運動など)。心理社会的介入(ス

トレスマネジメント、リラクゼーション、サポートグループなど)、休息の重要性を患者や家族に説明する。

○家族ケア:患者への対処の仕方を助言し、患者の支援に対する協力を得る。

○支持的なコミュニケーション:患者・家族が対象となる。患者・家族が聞き手にわかってもらえたと思えるような対

話を行う。患者・家族の話を聴くときは、相槌を打ちながら、医療者としての判断や評価を差し挟まずに聴き、患

者・家族の感情・思考・意思を整理し明確にする。対話中の沈黙も大切にし、患者・家族に考える間を与え、医療

者が一方的に話さないようにする。質問をするときは、患者・家族が自由に感情・思考・意思を表現できるように、

開かれた質問を用いる。

66

○睡眠誘導:睡眠を確保する。

○さまざまな症状の緩和:痛み、不眠、嘔気、便秘、呼吸困難などのつらい症状は取り除く。

○家族ケア:患者・家族のサポートグループを紹介する。

「つらさの寒暖計」図1

67

(3)不眠

1)定義

睡眠が不良であるという主観的自覚。①入眠困難②中途覚醒③熟眠困難④早期覚醒の4つに分類され、これら

が通常、単独または合併して出現する。

「よく眠っていた」と医療者が客観的に評価していても、患者の評価とは異なることがあり、原則的には、患者自

身による評価を 優先して考えることが基本である。

2)原因

身体的要因

疼痛、悪心、嘔吐、下痢、消化管閉塞、痰、咳、呼吸困難感、低酸素血症、頻尿、

尿閉、発熱、発汗、掻痒、倦怠感など

精神的要因 抑うつ、不安、せん妄など

薬剤性要因

ステロイド、中枢神経刺激薬、抗がん剤、抗不安薬や睡眠薬やオピオイドなどの退

環境要因 環境変化、物音、同室者との関係、医療処置など

3)治療

内服できる場合

2 回目の評価 定期

入眠障害 ルネスタ(2mg)1 錠

*高齢者は 0.5 錠

不眠時 0.5 錠追加

入眠障害 マイスリー(5mg)1 錠に変更(10mg まで増量

可)

中途覚醒 ブロチゾラム(0.25mg)1 錠に変更

2 回目の評価 定期

中途覚醒 ブロチゾラム

(0.25mg)1 錠

不眠時 0.5 錠追加

入眠障害を合併 マイスリー(10mg)1 錠に変更

or マイスリー(10mg)1 錠を追加

中途覚醒持続 ロヒプノール(1mg)1 錠に変更

内服できない場合

座薬 筋注

ダイアップ坐薬(4 mg or6mg)

ワコビタール坐薬(15mg or30mg)

(小児の痙攣止めに使用)

1 個

大 3 個/日

(1)ジアゼパム 1 A 筋注

点滴静注

(2)ロヒプノール(2mg/A)0.25 ~ 0.5A

or ドルミカム(10mg/A)0.25 ~ 0.5A

大量 1A まで生食 100mL に混注して点滴

3 時間かけて

精神症状(3)不眠

68

○不眠の状況の確認:「睡眠」について4段階で状況を確認する。

○不眠についての説明:不眠の原因、対処方法、緩和目標について、患者・家族・主治医・看護師・その他のスタ

ッフで共有する。夜間の睡眠が必要なことや、睡眠薬は安全に使用できることなども説明する。また、睡眠薬を使

用する場合は、効果を評価(覚醒状態、午前中の眠気など)する。

○さまざまな症状の緩和:さまざまな症状が原因となり、睡眠の妨げになっていることが少なくない。それぞれの症

状緩和を適切に進めていく。

○生活の工夫:不眠の要因となる生活習慣について話し合い、可能であれば是正するよう指導する(寝酒、夕食

後のカフェイン(お茶・コーヒー・チョコレート・健康飲料)摂取、遅い時間の食事、睡眠前の水分摂取、15 時以降の

長い昼寝、就寝前の熱い風呂。

日中の過ごし方の工夫(起床時に日光を取り入れる。散歩などの気分転換をするなど)を行う。

○環境調整:眠りやすい環境(適切な温度、明るさ、寝具、寝衣、遮音)、リラクゼーション(深呼吸法、漸進的筋弛

緩法、軽いストレッチ、アロマテラピー、音楽)など、患者の意向に合わせて取り入れる。

○リラックス・気分転換:不眠があると、そのことに意識が集中し、さらに不眠を増強させることがあるので、他に集

中できること、リラックスにつながることなどを話し合う。「自力で眠らなければならない」という思い込みがあれば、

薬剤の使用の有効性を説明する。

69

Ⅳ、 緩和ケアのスキル 1.持続皮下注入(CSI)

●電動あるいはディスポーザブルの小型のシリンジポンプを用いることで薬

剤を持続的に少量ずつ皮下に注入する薬物投与法である

●皮下に投与された薬物は、皮下の毛細血管から吸収され、静脈内に移行

する。数分で効き始め、10~20 分で 大血中濃度に達する。薬剤の血中濃度は波がなく、一定である

●効果や副作用は静脈内投与と同等である

●1ml/h 以上 1 箇所の部位から投与されると発赤や硬結などの原因となり安定した吸収が得られない

●鎮痛剤経口投与が困難な患者への疼痛緩和

●服用が困難となったとき

●迅速な症状コントロールが必要なとき

●同様の効果を得ながら副作用を軽減させたいとき

●持続的な効果を必要とするとき

●薬剤の血中濃度が安定

●器材がコンパクトで ADL を阻害しにくい

●不慮の過量投与や全身感染を生じにくい

●在宅での使用が比較的簡便である

●CSI 装置(テルモ TE361)

●消毒用アルコール綿

●イントロカンセーフティ 24G (難しければ 27G 翼付針で良い 患者の自己抜針,看護師の針刺し事故に注意)

●JMS 延長チューブ 1m 1~2 本 (1 本で内腔 0.8ml)(1000mm フリーロック ETP-1PVC フリー)

●ロック付きシリンジ 10ml ●フィクソルムストレッチ 0.5cm×3cm 2 枚 ●マルチフィックス 2 枚

●CSI のコンセントを使用せず,電池で対応する場合 24 時間毎(10:00 等)に 1 回 70 分以上充電した電池に交換

●電源を入れる、切る場合、設定を変える場合、事故防止のため看護師 2 人で確認を行う

●巡視時( 低各勤務 1 回) 穿刺部の針の屈曲、穿刺部の発赤硬結、抜針、接続外れなどの異常の有無を観察

● 終巡視で薬液の残量を確認

●モルヒネを開始、増量した場合、眠気や特に眠っている場合を除いて呼吸回数 10 回/分は慎重投与 昼間 8 回

/分以下は注意!減量も考慮

●使用方法について不明な点は平日 8:30~17:00 は緩和ケア担当(5873)か、休日夜間は西 8 階スタッフへ。

①薬剤を注射器に用意する。シリンジとエクステンションチューブを接続。シリンジを固定する押し子を完全にセット

し,早送りをしながらルートに薬液を満たす

②テルフィュージョン小型シリンジポンプ TE-361 使用方法のポイント①~⑧へ

③開始時に血中濃度を上げるために 1 時間量早送りをする

特徴

目的

適応となる状態

CSI のメリット

必要物品

穿刺部位の選択:

前胸部,腹部,大腿部など。皮下脂肪組織が厚く,固

定がしやすく,できる限り日常の動作に不便を感じない

部分(特に前胸部,腹部)に穿刺する。

CSI 使用に際して注意事項

手順

70

●週一回針の差し替えは日時を決めて行う(入浴希望日に合わせる等)

●次回差し替え日( / ) とワークシート等に記入

●穿刺部の針の屈曲、穿刺部の発赤硬結、抜針、穿刺部周囲からの液漏れがあれば適宜差しかえを行う

①レスキューボタンを押す

①停止ボタンを押す

②注射器を取り外し,取り外した注射器と新しい注射器の患者名,薬液名が一致していることを確認後,新しい注

射器をセットする

③充填を行い,スライダーが押し子を押した状態にする

• 押し子とスライダーの間,フランジとスリットの間に隙間があると,開始後しばらくの間,薬液は注入されないた

め充填が必要となる

• 充填の方法:早送りボタンを押して,注射器先端または注射針先端から薬液が出てくることを確認する

④取り外した注射器からチューブを外し,外したチューブを新しくセットした注射器に接続する

⑤注射器内の薬液量を確認後,開始ボタンを押す

生理食塩水 5ml+オキファスト 5ml 計 10ml 0.1ml/h(12mg/日)で開始 レスキューは 1 時間量を使用

レスキューの間隔は呼吸回数>8 回/分を確認し 30 分開ければ再度使用可

以後 1 日 6 回以上レスキュー使用する,痛みのタイプが内臓痛で現在のオキファスト量では十分な効果が得

られていない場合 1~3 日おきに 1.3 倍~1.5 倍していく。又は、前日使用したトータル量を翌日のベース量に

する

上記メニューの増量(例) 0.15ml/h=18mg/日

0.2ml/h= 24mg/日

生理食塩水 5ml+塩酸モルヒネ 5ml 計 10ml 0.05ml/h(6mg/日)で開始 レスキューは 1 時間量を使用

レスキューの間隔は呼吸回数>8 回/分を確認し 30 分開ければ再度使用可

以後 1 日 6 回以上レスキュー使用したり、現在のモルヒネ量では十分な効果が得られていない場合 1~3 日

おきに 1.3 倍~1.5 倍していく。又は、前日使用したトータル量を翌日のベース量にする

上記メニューの増量(例) 0.1ml/h=12mg/日

0.15ml/h=18mg/日

*1ml/h 以上の注入速度になると皮下で吸収できる限界となります。濃くして増量します

*高齢者や衰弱の強い方、呼吸困難に対しては 5~6mg/日で開始し 1.3~1.5 倍ずつ増量

*3~4日分作らない(感染の問題あるため)

●12 時間効果のある内服オピオイドから CSI への変更について:オピオイドの 終内服後 12 時間より CSI 開始

●デュロテップパッチからCSI、持続静注フェンタニルへの変更など何かあれば、緩和ケアチームにコンサルトする

針の差し替えについて

レスキュー(早送り)の方法(テルモ TE361 の場合)

注射器の交換方法

CSI を用いた疼痛に対する初回オキファスト投与 指示(例)

CSI を用いた呼吸困難に対する初回塩酸モルヒネ投与 指示(例)

71

Ⅳ、緩和ケアのスキル 2.苦痛緩和のための鎮静

苦痛緩和を目的として患者の意識を低下させる薬物を投与すること、あるいは、苦痛緩和のために投与した薬剤

によって生じた意識低下を意図的に維持すること。

* 睡眠障害に対する睡眠薬の投与は含まれない。

* 積極的安楽死とは全く異なる行為である。

●持続的鎮静:中止する時期をあらかじめ定めずに、意識の低下した状態を維持する。

●間欠的鎮静:一定時間意識の低下をもたらした後に薬剤を中止・減量して意識が低下しない時間を確保する。

●深い鎮静:言語的・非言語的コミュニケーションができないような、深い意識の低下を目標として薬剤投与量の

調整を行う。

●浅い鎮静:言語的・非言語的コミュニケーションができる程度の、軽度の意識の低下を目標として薬剤投与の調

整を行う。

① 妥当性:鎮静は、以下の 3 条件を満たす場合に妥当と考えられる。

・ 意図:目的が苦痛緩和であること。

・ 自律性:患者に意思決定能力がある場合、鎮静の益と外について知らされた上で意思表示があること。患

者に意思決定能力がない場合、患者の価値観に照らし合わせ鎮静が適切であると推定できること。家族の

同意があること。

・ 相応性:苦痛が耐えがたい状況で鎮静以外では苦痛緩和方法がなく、意識を下げるという害に甘んじてで

も鎮静を必要とする状態であること。

*鎮静が予後を短縮する可能性がある場合:前項の諸条件を満たしていれば鎮静は倫理的に妥当である。

② 安全性:他職種が同席するカンファレンス等で身体状況を確認し、医療チームの合意のもとに安全性を検

討する。

① 耐え難い苦痛の評価

患者自身が耐えられないと表現する苦痛や、患者自身が表現できない場合には、患者の価値観に照らして、患

者にとって耐え難いことが家族や医療チームにより十分推測されるような苦痛であること。

② 鎮静の対象となり得る苦痛

治療抵抗性の苦痛(せん妄、呼吸困難、過剰な気道分泌、疼痛、嘔気・嘔吐、倦怠感、けいれん、ミオクローヌス、不

安、抑うつ、心理・実存的苦痛)。ただし、不安、抑うつ、心理・実存的苦痛が深い持続的鎮静の単独適応となる

ことは例外的で、判断は慎重に行うべきである。

① 3)の鎮静の要件(倫理的妥当性と安全性)について話し合いを行う。

② 鎮静薬の選択

・深い持続的鎮静に用いる第一選択薬はミダゾラム(ドルミカム®)である。ミダゾラム(ドルミカム®)が有効でな

い場合には、ほかの薬剤{フルニトラゼパム(ロヒプノール®)、ハロペリドール(セレネース®)、プロポフォール、

1)鎮静の定義

2)鎮静の分類

3)鎮静の要件(倫理的妥当性と安全性)

4)医学適応の検討

5)鎮静の開始

72

デクスメデトミジンなど}を使用する。オピオイドは意識の低下をもたらす作用が弱いため深い持続的鎮静として

用いる薬剤としては推奨しない。ただし、目的を持った上で鎮静に併用してもよい。

・ 投与経路は経口薬の内服は不可能という前提から、注射剤を推奨する。しかし、患者の状態や薬剤の選択

(利用可能な薬剤)に応じて、内服薬・座薬の使用を妨げるものではない。

③ 鎮静の説明

鎮静について本人、家族へ説明を行う。別紙「患者さん・ご家族に対する鎮静についての説明文書」を用いて説

明しても良い。

④ 具体的な鎮静の方法

鎮静のための薬剤は、原則として少量で緩徐に開始し、苦痛緩和が得られるまで投与量を漸増する。

静脈内投与で初回ドルミカム®投与 指示(例) ~深い持続的鎮静~

生理食塩水 100ml+ドルミカム®1A(10mg)2ml を 10ml/h(1mg/h24mg/日)で開始。レスキューは 1 時間量/回早送

りを使用。レスキューの間隔は呼吸回数>8 回/分を確認し 30 分開ければ再度使用可 ←コピー&ペーストして良い

以後 1 日 6 回以上レスキューを使用する、現在のドルミカム®で十分な効果が得られていない場合 4 時間は開け

て増量を 1.3~1.5 倍に増量していく。

上記メニューを増量時は 15ml/h=1.5mg/h(36mg/日)

20ml/h=2.0mg/h(48mg/日)

25ml/h=2.5mg/h(60mg/日) など

* 高齢者や衰弱の強い方に対しては 5ml/h(0.5mg/h 12mg/日)で開始し 1.3~1.5 倍ずつ増量

* 1 日分づつ毎日作成する(感染の問題があるため)

* 血管確保が困難である場合や、少量ずつ皮下に注入したい場合 CSI を使用する方法もある。

① 苦痛の程度、意識水準、鎮静による有害事象、鎮静以外の方法で苦痛が緩和される可能性、病態、家族の

希望の変化について、定期的に評価する。

② 患者に対する看護ケア:鎮静開始前と同じように誠実に患者の尊厳に配慮して声かけや環境調整などのケ

アを行う。不快な症状の出現を注意深く観察し、口腔・目のケア、清拭、排泄、褥瘡ケアに関しては、患者・

家族の意思、治療目的(苦痛緩和)から見た患者の益と害を判断の基準として行う。

③ 家族に対する看護ケア:家族の心配や不安を傾聴し、悲嘆や身体的・精神的負担(鎮静決定後の心の揺れ

など)に対する支援を行う。特に、家族が患者のためにできること(そばにいる、声をかける、手足にやさしく

ふれる、好きだった音楽を流すなど)をともに考える。経過に従って予測される変化などを十分に説明する。

●鎮静の妥当性についてカンファレンス開催時や、細かな調整が必要な時は緩和ケアチームにコンサルトする。

文献:日本緩和医療学会:苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン 2010 年版

緩和ケア普及のための地域プロジェクト(厚生労働科学研究 がん対策のための戦略研究)ステップ緩和ケア 2008 年版

JA 広島総合病院 緩和ケア科 20110819

6)鎮静開始後のケア

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Ⅳ、緩和ケアのスキル 3.家族ケア(各ターミナルステージにおける家族のケア)

① ターミナル前期 (生命予後:数か月)

1) 病名告知に関する悩みへのケア

現在わが国においては、がんと診断されてすぐに本人に告知されるということは次第に増えている。し

かし、家族に先に伝えられて、患者に病名や病状を告げるべきかどうかで思い悩む家族は、いまだに少な

くない。医療従事者の考えを家族に押し付けるのではなく、どうするのが患者にとって もよいか家族とと

もに考える姿勢が大切である。

2) 高齢者や子どもへの病名告知

家族の中の高齢者や子どもに、患者が末期の状態であるということが知らされていない場合がある。し

かし、近い将来、患者の死に直面させられるわけであり、しかも、心の準備なく直面させられると非常に酷

なことになる。

「患者の死が近いことを知らせることは、かわいそうである。」という配慮からであろうが、突然の死に遭遇す

る方がより悲惨である。たとえ悲しくとも、心の準備ができるので死が近いことを知らされている方がよい。

3) 死の受容への援助

家族が患者の死を受け入れることができるように援助を始めることが重要である。具体的には「つらいこ

とですが、残りの月日がそれほど長くありません。できるだけのことはしますが、治すことは不可能です。今

から心の準備をして下さい」というような言葉を情を込めて家族に話すことである。

②ターミナル中期(生命予後:数週間)

1) 予期悲嘆への配慮

予期悲嘆とは、やがて患者が死を迎えるであろうことを予期するために家族が嘆き悲しむことをいう。こ

れはきわめて当然の反応である。予期悲嘆と呼ばれる種類の嘆き悲しみを十分に表現できなかった場合

は、患者の死後、病的な悲嘆の状態を経験する事がある。それゆえ、予期悲嘆を十分に表現できるように

援助する必要がある。

悲しみを表現してもよいのだ、涙を流してもよいのだという気持ちが持てるように、スタッフは心がける必要

がある。プライバシーを保つことができるような部屋を用意し、家族が思いきり泣けるように配慮する。

この予期悲嘆は患者の死とともに終わり、それ以後は死別後の悲しみが始まる。

2) 延命と苦痛緩和の葛藤への配慮

家族の共通の望みは、「できるだけ長生きしてほしいこと」と同時に、「苦しめたくはないということ」であ

る。患者がしだいに衰弱し苦痛が増してくると、家族は延命よりも苦痛の緩和を望むようになる。

苦痛緩和のための手段をとるときは、それによって患者の命を縮めることはないことをしっかりと家族に説

明する必要がある。また、家族に「命を短くしてしまった」という罪責感を持たせないようにする必要がある。

③ターミナル後期(生命予後:数日)

1) 看病疲れへの配慮

この時期になると、家族は身体的にも精神的にもかなり疲れてくる。特に患者にずっと付き添っている家

族の疲労は想像以上である。「お疲れになったでしょう」「大変ですね」「私たちがみていますから少し休まれ

たらいかがですか」などというような、優しい言葉が大切である。スタッフが看病疲れに気づき、それに対し

て優しい言葉かけをしてくれるということそのものが、家族の大きな支えになる。

2) 蘇生術についての話し合い

末期がんの状態で次第に衰弱し、心停止の状態になったときには、胸骨圧迫などの蘇生術は施さないの

74

が原則である。患者・家族とあらかじめ蘇生術について十分話し合っておくことが重要である。

たとえば「とても辛いことなのですが、日にちの問題になりつつあります。患者さんに負担をかけることはし

たくないので、心臓マッサージや人工呼吸などは控えたいのですが、それでもいいですか」というように、感

情を“共有”しながら説明する必要がある。

④死亡直前期 (生命予後:数時間)

1) 死亡直前の症状の説明

患者が死亡する前に家族にとって気になる症状に呼吸の変化としんぎんがある。

死が近づくにつれ呼吸状態は不安定になり、努力呼吸、肩呼吸などが始まる。この時期になると患者の意

識は低下しており、患者は苦しみから解放されている。

しかし、苦しそうな息づかいをしている患者を見て家族がいたたまれなくなる。このような時には「衰弱がす

すむとあのような息づかいになります。しかし、患者さんはもう苦しみからは解放されています。みていてこ

ちらが苦しくなりますが、患者さんは苦しくありませんから安心してください」というような説明をするとよい。

死が近づくにつれてしんぎんが始まり、なかなか止まらないときがある。このような

ときには「からだが弱ってくると声帯のあたりが不安定になって、あのような声が出るのです。決して苦しみ

の表現ではありませんから安心してください」というような説明をするとよい。

2) 家族にできることを伝える

患者が弱り、呼びかけにも応じなくなると、家族はどうしてよいかわからなくなる。ただじっと、何もしないで

患者のそばにいることはとてもつらいことである。そのようなときに「時々手や足を撫でてあげてください。そ

して時々呼びかけてあげてください。それで患者さんは安心されますから」というように勧めるとよい

3) 聴覚は残ることを伝える

死の直前まで聴覚は残っている。たとえ、呼びかけに対する反応がみられなくても、耳は聞こえていると

考えて患者に対応する方がよい。家族に対しては「 後まで耳は聞こえます。ただ呼びかけても、からだが

弱っているので、聞こえているという反応がないだけです。ですから、患者さんが疲れない程度に時々呼び

かけてあげてください」と言うのがよい。

次ページに「大切な方へ寄り添うご家族へ」家族用冊子があります。

カラー印刷等して実際の場面で使用可能です。

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意識が混乱したとき (せん妄)

JA 広島総合病院 緩和ケア委員会

2014 年 1 月 1 日

もう

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意識が混乱したとき(せん妄)

「せん妄」とはどのような症状ですか?

・体調が悪い

・手術の後

・新しいくすりが体に合わない

・50~70%の方は治療により回復します

せん妄の時は患者さんにこのような変化があります

・ 場所や時間の感覚が鈍くなる 病院にいるか自宅にいるかわからない

・ 体についている治療のための管を知らずに抜いてしまう

・ 幻覚が見える

・ 昼と夜の感覚が鈍くなる 昼間眠ってよる眠れない

・ 何度もベッドから起きあがって落ち着きがない

・ 話していることのつじつまが合わない

・ 起こりっぽくなったり、時にはあらっぽくなる

治療の目標

・せん妄状態がなくなる

意識はやや混濁しているが落ち着かない様子が和らいで夜間眠れる

こんな治療をします

・原因となっている薬の変更や、脱水の治療を行います

症状に対してはこのように対処します

・眠れない時、落ち着かない時に頓服で

神経が落ち着く薬を使います

・定期的に神経が落ち着く薬を使っても

眠れない時・落ち着かない時は

追加で頓服を使います

77

意識が混乱したとき(せん妄)

こんなケア・工夫をします

●場所、時間の感覚を取り戻す

・時計やカレンダーを見えるところにおく

・日付や時間を何気なく会話の中に盛り込む

・家族の写真をおく

●会話

・ つじつまの合わない会話であっても、否定しないようにします

・ 会話を否定されると、かえって患者さんは苦痛を感じることがあります

・ 混乱した会話であってもご家族なら分かることもあります

・ 内容を聞いてどのようなことを話しているか、医師や看護師に教えてください

・ ちぐはぐな会話をしていることを、おかしいと指摘することがかえって患者さんの気

持ち、誇りを傷つけることがあります

●環境を整える

・ 昼間は日光を取り入れ明るくし、適度な運動や刺激(TV、会話、散歩など)をする

●安全

・ 刃物(ナイフ、はさみ)、ライター、ポットを患者さんの周りにおかない(一時期別の

場所に保管する)

・ ベッドを低くする

●口の荒れ

・ 口の中を毎日確認します

・ 口の渇きが強いことが多いので、こまめにお手入れをします

・ あれていれば、適切な処置をします

●ご家族に手伝っていただけること

・ 患者さんの意識が混乱している時は、ご家族の協力が大きな助けになります

・ 意識の混乱している間はできるだけつきそう

・ 患者さんの代わりにケアや治療のことを医師や看護師と話しあう

・ せん妄について、わからないこと、心配していること、患者さんの対応で困って

いることがあれば教えてください

・ 夜、眠れなかったり、日中話があわないことがあれば教えてください。

78

79

大切な人に寄り添う

ご家族へ

JA 広島総合病院 緩和ケア委員会

2014 年 1 月 1 日

80

大切なひとに 1

★ 点滴について考えるとき

体にどのようにどのようなことが起こっているのでしょう?

病状が進んでくると、病気そのもののために徐々に

食事や水分を取る量が少なくなってきます。

これは病気そのものに伴う症状で

「食事がとれないか

ら病気がすすむ」

「食べる気持ちがないから」ではありません。

ご家族もつらいお気持ちやご心配になられると思います

このようなお気持ちは当然のことです。

ひとりで考え込まずにそばにいる誰かにお気持ちをお話ください。

医師や看護師にいつでも相談してください

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大切な人に 2

ご家族はこんなことをしてあげてください

少しでも食べさせてあげたい

・食べやすい形、固さなどの工夫や、少量で栄養がとれるもの

(栄養補助食品)などもあります。栄養士と看護師と一緒に工夫してみましょう。

・食事の時間を楽しくすることで食欲につながることもあります。患者さんのお気に入

りの食べ物を持ち寄ったり、ご家族で一緒に食事をされるのも良いでしょう。

できることはすべてしてあげたい

・食事が十分とれなくても口の渇きをいやすため氷片、

かき氷、アイスクリームを差し上げたり、うがいや

口の中を綺麗にすると喜ばれることが多いです。

・食事をすることは難しくても、マッサージ、ご家族の

ことを話す、お気に入りの音楽をかけるなど食事のことの

他にも患者さんが喜ばれることがないか一緒に探しましょう。

知っておいてください

●脱水傾向になることが苦痛の原因になることはほとんどありません

むしろ、患者さんにとってやや水分が少ない状態の方が苦痛を和らげることが多い

です。

●逆にむくみや胸水・腹水があるときは点滴を減らすことがつらい症状を和らげること

になる場合があります。

●点滴などで水分や栄養分を入れたとしてもうまく利用出来ないので体の回復には

つながりません。

●逆にお腹や胸にみずがたまるなどの副作用がでる場合があります。

82

大切な人に 3

こんなケア・工夫をします

●患者さんが苦しくなく過ごせるように、薬を調節して使います

・痛みや吐き気、息苦しさなどがあるときは、

薬を使って楽に過ごせるようにします。

・身の置き所がない、落ち着かない場合には、

薬を使って眠るようにすることもできます。

・状態によっては薬の副作用が強く出ることもありますが、

そのときは変化をその都度お伝えします。

・点滴をすることで、逆に体がむくんだり息苦しさが増すことがあるので、

点滴の量を調節したりします。

●日々の生活が安楽に過ごせるようにお手伝いします

・床ずれができないよう、定期的に体の向きをかえたり、

マットを交換したりします。

・患者さんの状態に合わせて、体を拭いたり髪や手足を

きれいにします。

●ご家族の心配が少なく、ご希望がかなえられるようにお手伝いします

・ご家族の心配事やご希望をその都度伺います。気になることや希望があれば、

遠慮せず看護師に声をおかけください

これからどうなるのでしょうか

1週間前頃~の変化 1、2日~数時間前の変化

だんだんと眠られている時間が長くなっていきます

夢と現実があいまいな状態になることがあります。

その時できること、話しておきたいことは先送りせず、今伝えておく様にしましょう。

どうしてこのような症状が起こるのでしょう?

・体が弱ると、うとうとと眠りが深くなるようになります。

そうすると、唾液がうまく飲み込めなくなるため、

のどに唾液がたまって「ゴロゴロ」する状態になります。

・この症状は、約40%の方に起こります。

・自然な経過のひとつです。

ゴロゴロ

83

大切な人に 4

★ 意識が混乱したとき

つじつまが合わず、いつもと違う行動をとるとき

※このような状態をせん妄といいます

どうしてこんなことがおこるのでしょうか?

●がんが進行した方の 70%以上の方におこります。

*「くすり」や「麻薬」が主な原因ではありません。

*体の痛みが強すぎて興奮状態になるのではありません。

*患者さんの心が弱かったり、性格が原因ではありません。

*精神病や認知症(痴呆)や「気がおかしくなった」ではありません。

興奮状態になるとどうしていいのか…

●すぐに看護師をお呼びください。

●看護師は口の渇きや排泄などの不快なことがないかを

確認して対応します。

●何かお薬が必要か相談します。

お薬には、ウトウトできるくらいの弱いものから、

完全に眠れるものまで何段階かありますので、ご意向と状態をみて決めます。

●つじつまがあわない時は、患者さんの言うことを否定せずつきあい、安心できるよう

な会話をしてください。「間違いを正す」ことは患者さんを傷つけることがあります。

酸素が少なくなったり、肝臓や腎臓の

働きが悪くなって有害な物質が排泄さ

れなくなるので、脳が眠るような状態

になるからです。 3割の方は一時期

「興奮状態」になり

ます。

オロオロ

興奮が激しいときは、

お薬を使うことでウト

ウトしてきます。

ウトウト

7割の方は自然とウトウトするよう

になります。

84

大切な人に 5

睡眠薬や鎮痛薬を使うと寿命が縮まるのでしょうか?

●ほとんどの場合、苦しさの原因となっていることそのものが生命機能の維持が難し

いことを示します。例えば「呼吸が苦しい」のは体を維持するだけの酸素を肺にとり

こめないことが原因なので、睡眠薬や鎮痛薬を使わなかったとしても生命の危機が

訪れます。

●睡眠薬や鎮痛薬を使ったと使わなかった方とで「いのちの長さ」に差はないことが

確かめられています。

医学的な根拠は全くありません

ご家族もつらいお気持ちになられると思います

例えばこのようなお気持ちを感じる方もいらっしゃいます。

ひとりで考え込まずに、そばにいる誰かにお気持ちをお話ください。

医師や看護師にいつでも相談してください。

ご家族はこんなふうにしてあげてください

モルヒネは

寿命を縮める

ひとりでみているのが心配 代わりにいろいろ

なことを決めない

といけないことが 十分なことをしてあげ

られない

他の人に迷惑をかけ

てしまう

どうしていいの

か分からない

こんなつらそう

なら早く楽にし

てあげたい…

もうクタクタで休みたい!

このような

お気持ちは

当然のことです

手足をやさ

しくマッサー

ジする

患者さんのお

気に入りの音

楽を流す

いつものように

ご家族で普段の

お話をされる

唇を水や好きな飲

物などでやさしくし

めらせてあげる

85

大切な人に 6

こんな心配はありませんか?

何か話しているがよく分からない

●どのようなことを話そうとしているのか想像してみてください。本当にあった昔のこと、

今気がかりになっていることやしておきたいこと、あるいは口の渇きやトイレに行きた

いと伝えようとしていることもあります。

●時間や場所が分かりにくくなることは多いですが、ご家族のことが分からなくなるこ

とはめったにありません。

疲れてクタクタになってしまった…

●まず、あなた自身が休めるような工夫を看護師とご相談ください。

他のご家族にも協力してもらいましょう。看護師もお手伝いします。

●日中患者さんが休まれているときは、それに合わせてお休みください。

自分が決めることが負担だ…

●「患者さんが以前に望まれていたこと」でご存じのことを教えてください。

ご家族に全て決めていただく必要はありません。

一緒に相談して一番よいと思われることをしていきましょう。

そばで何をしていいか分からない、話ができないことがつらい・・・

●普段通りに声をかけたり、体をマッサージしたり、ただ部屋の中でご家族が話しして

いる声が聞こえるだけでも、患者さんは安心されることが多いです。

大事です。家族の状態にあわせて適宜休んでください

メモ

86

87

一緒に考えましょう

★これからどこでどのように過ごしていきたいですか

(※患者さんがおはなしできないときは、以前の意思をお知らせください)

□できるだけ苦しくなく穏やかにすごしたい

□ご家族に囲まれて過ごしたい

□できるだけ家族でみてあげたい

■過ごしたい場所

□病 院 □自 宅 □介護施設 □その他( )

■付き添いをしたい・一緒にいてあげたい人

●できるだけご希望に沿って過ごせるようにサポートしていきます。

●患者さんのお体の状態によっては、ご希望の療養場所への移動が負担となること

もあります。

心臓や呼吸がとまるとき/とまっているのに

気がついたときどうしたらよいでしょうか?

●突発的な不整脈や事故ではなく、全身の状態が悪くなった患者さんの場合、人工

呼吸や心臓マッサージなどの心肺蘇生で回復できることはほとんどありません。

●人工呼吸や心臓マッサージそのものが患者さんにとっては苦痛となる可能性があ

ります。

●直前までお元気たった場合を除くと、心肺蘇生は行わずに静かに見守ってあげる

のがよいと思います。

●事前に医師や看護師と話し合っておきましょう。

JA 広島総合病院 緩和ケア委員会

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Ⅳ、緩和ケアのスキル 4.エンゼルケア

Ⅰ目的

1. 遺体の清拭、整容、その他のケアを通して患者さんの尊厳を保つ

2. 家族が悲嘆のプロセスを歩んでいくときの慰め

Ⅱ 必要物品

1. 全身清拭用物品…洗面器かバケツ、湯、タオル(患者さんのもの,又は病院用)沐浴剤やアロマオイル

陰部洗浄用物品…ボトル、湯、石けん、ハイゼガーゼ

簡易洗髪する場合…ボトル、湯、オムツ、シャンプー、タオル、ドライヤー

2. マウスケアセット…歯ブラシ(患者さんのもの)、トゥースエッテ又はガーゼ、コップ

義歯の場合:義歯用安定剤

3. 美容用品…櫛、ヘアブラシ、電気カミソリ、剃刀(2枚刃)+シェービングクリーム(石けん)、エンゼルメイクセ

ット(IDプチ)爪切り

4. 詰め物をする場合の体腔用処置物品…セーフティーキット 手袋、ビニール袋

5. 創部などの処置用物品…必要に応じてシリンジ(ピンク)、包帯、ガーゼ、メフィックス、ガーゼ付き被覆保護

剤(ベンジン)

6. 着替え用衣類…本人が生前に準備していたもの、家族が着せたいもの、バスタオル,オムツ

7. 看護者用必要物品…プラスチックエプロン、ディスポのゴム手袋、マスクなど

8. その他…ゴミ袋 顔用の白布 家族への説明書

※ 各病棟によって、物品は異なり、内容については検討の必要がある。

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* 家族に声をかける。手足清拭やお顔のメイクは一緒に行いたいか確認する

* 予め準備している着替えがあるか確認 準備されている場合はそれに着替える

* 看護師の準備:マスク、ディスポの手袋、プラスチックエプロンの使用

手順 方法 根拠など

1.管類を取り除く (1) 身体に挿入されている管類を外す。

●胃管などが挿入されている場合は、圧に注意し

てやさしく吸引し、内容物を体内から除去し

た後で抜去する。

●ペースメーカーや埋め込み式静脈ポートなど、

体に埋め込まれている管類は、現在では除

去の必要のない場合が多いが、家族の希望

や火葬場によっては除去の必要がある。

※家族と相談し、除去しない場合は、葬儀担当

者に管類が入っていることを伝える。

※生前の姿に少しでも近

づくように施行

*出血傾向のある場合CV

ルートは抜去しなくてもよ

い.キャップを付け,ガーゼ

+被覆保護剤などで被う.

抜去しない場合は家族へ

その旨を伝えておく.

2.身体を清潔にする

口腔ケア

髭剃り

洗髪

(1)全身清拭

① 鼻・耳や耳裏を蒸しタオルや綿棒を用いて清

② 口腔内は、歯ブラシと洗浄水、吸引を用い、

口腔内を十分に、また優しく洗い流す。

③ 眼は、眼脂を除去

④ 陰部は、お湯・石鹸で洗浄。

⑤ 体は湯の中に沐浴剤などを入れ 患者用タ

オルで清拭する.

(2) 髭剃り

シェービングクリームを使用、電気カミソリ(又

は T 字型カミソリ)使用し施行後は油分(IDプ

チ用保湿下地クリーム)をのばす

(3) 洗髪

必要に応じて 頭部に紙オムツ(家族の了承

を得て)を敷き、微温湯を入れたボトルで簡易

洗髪を行う.

(4) 手浴・足浴

必要に応じて、実施する。家族に声をかけ一

緒に行っても良い.

※清拭の場合、家族と相

談して、使用する湯の中に

沐浴剤や数滴アロマオイ

ル使用

※長期入浴ができなかっ

た場合、鼻・耳・耳裏に汚

れが目立つ。

※口腔内の汚れや出血が

少しでも残っていると遺体

からの異臭が強く、そのう

え詰め綿をした場合はさら

に異臭を放つ。

*ひげ剃り後の革皮様化

現象の防止 対策が必要

(左記の方法で行うように)

※ 眼 の 汚 れ も 異 臭 の 原

因。

※清潔ケアにオムツを使

用する場合は、使用の意

図を説明し、家族に了承を

得る。

エンゼルケア手順

91

3.体液や排出物

の流出を防ぐ

詰め物を行う対象

・直前まで食事している

・腹水・下血・吐血

・家族の希望時

基本的に詰め物はしないが.家族の意向に沿っ

ていく.

●出血への対策

遺体から出血がある場合、留している血液がな

くなるまで断続的に出血することが多く、いったん

止血しても再出血する事がある。

外観に注意しながら、家族に出血の可能性と

その際の対処の仕方を説明しておく。

対処方法は、使い捨てのビニール手袋を使用し

て、ティッシュペーパーなどで拭き取り、使用後の

手袋は破棄する。

●感染対策

ユニバーサルプレコーションにて実施する。

※死後は便を排出する反

射・蠕動運動がないため、

内容物は流出しない。異臭

は体内での腐敗が原因。

詰め物をしても、体内の腐

敗が進み、内圧が上昇す

る と 、 詰 め 綿 は 押 し だ さ

れ、栓にはならない。

死亡した場合、からだか

ら出た血液中のウイルス

は、増殖、繁殖することは

ないが、生存している。

4.更衣し,オムツを着用する 予め準備されていればそれに着替える.ない場

合は寝衣に着替える.

5 エンゼルメイクを行う 「時間の経過と共にお顔の血色が変化してきま

すので穏やかな表情が保てるように顔色を整え

ながらメイクさせていただいてよろしいですか?」

と説明する.手順は別紙参照

6. 冷却する

詰め物をしない場合は①腹部②胸部へアイスノ

ン又は氷袋(タオルで包む)を置く

腐敗による漏出予防のた

めには,4 時間以内に冷却

開始

敗血症など感染症などは

できるだけ早い時間に冷

却を.

7.家族へ説明書を渡し 説

明する

●手のバンドを使用しなかった場合は固定してい

ないため移動時に注意してもらうように家族と葬

儀社に説明しておく.

●腐敗予防のために冷却していること,詰め物を

していない場合はオムツを持ち帰ってもらう.

2012 年 1 月 25 日 緩和ケア委員会作成

2014 年 7 月修正

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ご家族の方へ

ご家族の皆様のご心痛をお察しいたします。

私たちは、少しでもご生前の面影を残したいと思い、退院の身支度をさせてい

ただきました。帰られてから告別式までの間に、患者様ご本人に起こりやすい

事と対処方法について記入させていただきました。ご参照ください。

* 患者様のことでお困りのことがありましたら遠慮なく病院へご相談下さい。

連絡先(JA 広島総合病院 0829-36-3111 内線 )

顔色について 最期まで表情が保てるように化粧させていただきましたが

時間とともに多少顔色が変化する場合があります。口紅は重

ねて時々つけてください。頬や耳たぶに血色を重ねていただ

いて構いません

浸出液について 鼻や耳、お尻、口などから体内にたまっているものが出てく

る場合があります。出血や、浸出液などが出てきた場合必ず

ゴム手袋を着用し拭ってください。(感染防止)

拭い取ったものは、ビニール袋にいれて処理してください。

鼻出血などの場

出血しやすい状況になることもあります。

出血した場合、吸収力のあるパットなどを当てて対処してく

ださい。

必ず止まりますのであわてないで大丈夫です。

背中に座布団を当てて体を横向きにすると流れやすくなり

ます。

開口について あごの下に口が閉じるようにタオルなど当ててある場合、そ

のままでも構いませんが、気になるようでしたらはずしてい

ただいて結構です。筋肉が一時的に硬くなっても時間の経過

と共に(48 時間後)再び柔らかくなることがあります。再

び当ててくださって構いません。

室温について 身体が痛みやすいので体温を低く保つように業者の方が手

配してくださいますが、室温にも注意してください。

夏期は特に冷房を強くかけてください。

冬期は暖房の温度に注意し通常より控えめにお願いします。

その他 私たちは、退院される身支度で準備いたしましたので、告別

式への準備は改めて業者の方のご指示があると思います。

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【文献】 1)木澤義之,3 ステップ実践緩和ケア,青海社,2013 2)余宮きのみ,がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン,金原出版,2014 3)日本緩和医療学会、がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン 2011 年版、金原出版、2011