15
人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(sentimental novel18世紀半ばから人気を保っていたジャンル 成長小説(Bildungsroman)とは反対の傾向をもつ 人間が成長する過程で生来備わっている自然な感情が 抑圧されると考える 1790年代になると小説の中でsensibilityの危険性が特に 女性登場人物に対して説かれるようになる ゴシック小説であるAnn Radcliffe The Mysteries of Udolpho (1794)には、主人公が父親から感傷におぼれる ことの危険性を警告される場面がある

人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

人気があった小説のサブジャンル

①感傷的な小説(sentimental novel)

18世紀半ばから人気を保っていたジャンル

成長小説(Bildungsroman)とは反対の傾向をもつ

→人間が成長する過程で生来備わっている自然な感情が抑圧されると考える

1790年代になると小説の中でsensibilityの危険性が特に女性登場人物に対して説かれるようになる

ゴシック小説であるAnn Radcliffe 作 The Mysteries of Udolpho (1794)には、主人公が父親から感傷におぼれることの危険性を警告される場面がある

Page 2: 人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

②ゴシック小説(gothic novel)

城や修道院などの中世的な世界を舞台に超自然的なできごとを語り、登場人物を通して読者に恐怖や憎悪などの激しい感情を経験させる

しばしば男性による女性の監禁や殺害が起こる

孤独な人間の病的な内面と社会から隔絶された舞台設定が対応している

ジャンルとしては衰退するが、その影響は残る

ヴィクトリア朝時代の小説にもしばしばゴシック的な人物が登場する(Mr Rochester、Heathcliffなど)

Jane Austenは感傷的な小説とゴシック小説を批判する立場から小説を書いた

Page 3: 人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

Jane Austen (1775-1817)

Hampshire州のSteventonで生まれる

父親は裕福な牧師だった

文学が唯一の娯楽であった家庭で育つ

Richardson、Fielding、Sterne、Frances Burneyらの小説やWalter Scott、Cowper、Crabbeらの詩を愛読する

何人か求婚者がいたが、結局結婚はしなかった

1801年、Bathに引っ越す

1806年、Southamptonへ移り住む

1809年、Hampshire州Chawtonへ転居する

1817年、Winchesterで死去、死因はAddison’s disease(慢性副腎機能不全)

Winchester Cathedralに埋葬される

Page 4: 人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

JANE AUSTEN (1775-1817)

Page 5: 人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

著作(創作順)と主人公

Sense and Sensibility (1811) (執筆1795-97)

Elinor and Marianne Dashwood

Northanger Abbey (1818) (執筆1798)

Catherine Morland

Pride and Prejudice (1813) (執筆1796-97)

Fitzwilliam Darcy and Elizabeth Bennett

Mansfield Park (1814) (執筆1811)

Fanny Price

Emma (1816) (執筆1814-15)

Emma Woodhouse

Persuasion (1818)

Anne Elliott

Page 6: 人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

WordsworthはAustenの作品を「人生の見事な模写」(an admirable copy of life)とみなしながらも興味を示すことはなかった(Edith Coleridge, ed. Memoirs and Letters of Sara Coleridge, Vol. I)

Charlotte BrontëはAustenについて、 ‘the Passions are perfectly unknown to her; she rejects even a speaking acquaintance with that stormy Sisterhood’ と述べ、Austenの小説における感情描写の不十分さに対して不満を表している(Letter to W.S. Williams, 12 April 1850)

Austenの小説は、Fanny [Frances] Burneyによる上流階級を描いた喜劇的な家庭小説(Evelina: or, A Young Lady‘s Entrance into the Worldなど)を継承している

Page 7: 人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

みずからが熟知している狭い世界の中で人間の本質を描こうとした

‘3 or 4 families in a country village is the very thing to work on’ (Letter to Anna Austen, 9 September 1814)

ほとんどの登場人物が田舎の裕福な中産階級(gentry)に属する

⇒土地、財産、階級ですべてが決まる社会が小説の背景となる

同時代の革命、戦争、反動的な政策、女性の権利拡張運動からの影響は見られない

Page 8: 人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

シンデレラ物語(ペロー童話やグリム童話)のパターンを踏襲する

⇒つねに美徳は勝利を収める

階級、財産、知力、美に対する良識、愛、善の優越性を描く

良識、愛、善には結果的に階級、財産、知力、美がともなうというプロット構成をとる

主人公の結婚は個人と社会の調和を象徴する

⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

Page 9: 人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

Pride and Prejudice (1813)

偏見と高慢によっておたがいを誤解していたElizabeth BennettとFizwilliam Darcyが相互理解に達し、結婚するまでを描く

Jane BennettとCharles Bingleyの結婚、William CollinsとCharlotte Lucasの結婚との対比によってElizabethとDarcyの結婚の意味合いを際立たせるプロット構成をとっている

アイロニーを駆使した語りを特徴とする

Emma (1816)

‘a heroine whom no-one but myself will much like’ (James Edward Austen-Leigh, A Memoir of Jane Austen)とAusten自身が述べている主人公Emma Woodhouseがself-delusionから抜け出しself-recognitionに達するまでを描く

self-recognitionを達成した褒美はGeorge Knightleyとの結婚

Page 10: 人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

Walter Scott (1771-1832)

Edinburghで弁護士の家に生まれた

1795年、Margaret Charlotte Carpenterと結婚

1805年、古来の伝説にもとづいた詩The Lay of the Last Minstrelを発表、人気作家となる

1810年、16世紀を舞台にした物語詩The Lady of the Lakeを刊行する

1811年、仕事上での借金がかさみほとんど破産状態に陥る

Byronの人気を見て詩を書くことをやめ、小説執筆を始める

1814年のWaverley以降ほぼ年1作のペースで小説を発表する

Abbotsfordで豪勢な生活を送る

晩年は借金に追われ続けながらも大量の仕事をこなし続ける

1832年、イタリアで療養中体調が悪化、Abbotsfordに戻りそこで死去する

Page 11: 人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

ROYAL BANK OF SCOTLAND TEN POUND NOTE

Page 12: 人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

主要著作

The Lay of the Last Minstrel (1805)

スコットランド南部に伝わる伝説にもとづく物語詩

The Lady of the Lake (1810)

16世紀のスコットランドを舞台にした物語詩

Waverley (1814)

1745年に起きたジャコバイトの反乱を背景に反乱に加わったイングランド人士官Edward Waverleyの運命を描く

Rob Roy (1817)

18世紀初頭のスコットランドが舞台

伝説の人物Rob Royが政治と恋愛が絡むいとこ同士の争いに巻き込まれる

Page 13: 人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

The Heart of Midlothian (1818)

タイトルはEdinburghの監獄を意味する

1730年代に設定されたJeannie DeanとEffie Deanの姉妹を中心とする物語

子殺しの疑いで死刑を宣告されたEffieを救うためJeannieはスコットランドからロンドンまで徒歩で旅をし、王妃に妹への恩赦を求める

Effieは解放され、子供の父親であったGeorge Stauntonと結婚、死んだと思っていた子供は誘拐されて生きていることがわかる

息子を探しに来たStauntonをその息子が知らずに殺してしまう

Ivanhoe (1819)

12世紀のイングランドが舞台

Richard Iとその弟Johnの権力闘争、サクソン人とノルマン人の対立を背景にIvanhoeの愛と冒険に満ちた人生を描く

サクソン人の味方としてRobin Hoodも活躍する

中世趣味の流行をもたらした

Page 14: 人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

地方小説(regional novel)というジャンルを確立

アイルランドの小説家Maria Edgeworthからの影響がある

歴史小説(historical novel)というジャンルを創始

歴史の再構成→歴史のフィクション化

ノスタルジックな過去の理想化に耽溺することはない

中世趣味(medievalism)の流行の創始者

登場人物の騎士道精神はヴィクトリア朝時代の男性にとって行動規範となる

世界的な影響力をもった作家

Page 15: 人気があった小説のサブジャンル ①感傷的な小説(c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ttanji/Lecture2014/BLH2014 (13).pdf⇒Neo-ClassicismとRomanticismの均衡状態が達成される

ロマン主義の幕切れからVictoria朝の幕開けまで

ロマン派第二世代の早逝(Byron、Shelley、Keatsはみな1820年代前半に死去)

1820年代後半から1830年代にいたる時代は文学の停滞期→Victoria朝への過渡期

政策の変化(反動から寛容へ)

1828年、審査法(Test Act)および地方自治体法(Corporation Act)の廃止→非国教徒に対す差別の撤廃 1829年、カトリック解放令(Catholic Emancipation Act)→カトリック教徒に公職への道が開かれる 1832年、選挙法改正法(Reform Act)→新興都市に議席があたえられた 1833年、工場法(Factory Act)→労働時間が規定される 同年奴隷制が廃止される 1834年、改正救貧法(Poor Law Amendment Act)→中央政府が救貧行政を管理する 1835年、都市自治体法(Municipal Corporation Act)→市議会の設置、地方自治制度の始まり

王室の不人気

George III (1738-1820) 1811年精神に異常をきたす George IV (1762-1830) 怠惰な浪費家 William IV (1765-1837) 人気のない王室内で唯一人気があった Victoria (1819-1901) 17歳で即位、期待を一身に集める