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― 17 ― 外国語教育 ―理論と実践― 第42号 平成28年 3 月31日発行 <論 文> 日本人英語学習者にとって wh - 疑問文の 何が難しいか 発達指標の構築を目指した予備調査<要 旨> 英語学習者にとって,特定の文法項目が難しいとはよく言われる。しかし,それ らの項目の具体的に「どのような点が」難しい(あるいは易しい)のかについては あまり議論されてこなかった。本稿では wh - 疑問文の習得過程において,何が習得 が容易で,また何が難しいのかを調査し, wh - 疑問文における発達指標の構築を目 指した予備調査を行う。その結果をもとに実験的に言語発達指標の構築を試みる。 <キーワード> 文法の発達指標,文法項目における習得難易度, wh - 疑問文の習得 1.は じ め に 日本の英語教育ではコミュニケーション能力の育成を目指し,1980 年代にコミュニカティブ・ アプローチに基づいた英語指導法が導入された。コミュニカティブ・アプローチでは,文法の 指導は最小限にとどめる,あるいは全く行わないという立場を採る。つまり,文法指導に時間 を割かずとも多くの意味のやりとりを通じて学習者自身は文法を習得できるという考え方であ る。そのため,教育現場においてはコミュニケーション能力の基盤となる文法指導がおろそか にされる傾向にあった。しかし,新学習指導要領では「読む」「聞く」「書く」「話す」の四技能 を統合的に活用できるコミュニケーション能力の育成が提案され,さらに,その四技能の基盤 となる能力として文法力の育成も注目されるようになってきた。もともと日本の英語教育では 文法シラバスに基づいて教科書が作られる傾向があったが,そのシラバスでは文法の発達段階 が考慮されているわけではない。そもそも英語の文法の発達段階を示す指標が存在しないので ある。もし,学習者の文法の発達段階を示す指標を構築できれば,英語の文法項目について「い

日本人英語学習者にとってwh-疑問文の 何が難しいか日本人英語学習者にとってwh-疑問文の何が難しいか ― 19 ― refrigerator?などの文が含まれる。「三人称単数現在形-s」はWhat

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― 17 ―

外国語教育 ―理論と実践― 第42号

平成28年 3 月31日発行

<論 文>

日本人英語学習者にとってwh- 疑問文の何が難しいか

—発達指標の構築を目指した予備調査—

吉 田 智 佳

 <要 旨>

 英語学習者にとって,特定の文法項目が難しいとはよく言われる。しかし,それ

らの項目の具体的に「どのような点が」難しい(あるいは易しい)のかについては

あまり議論されてこなかった。本稿ではwh- 疑問文の習得過程において,何が習得

が容易で,また何が難しいのかを調査し,wh- 疑問文における発達指標の構築を目

指した予備調査を行う。その結果をもとに実験的に言語発達指標の構築を試みる。

 <キーワード>

 文法の発達指標,文法項目における習得難易度,wh- 疑問文の習得

1.は じ め に

 日本の英語教育ではコミュニケーション能力の育成を目指し,1980 年代にコミュニカティブ・

アプローチに基づいた英語指導法が導入された。コミュニカティブ・アプローチでは,文法の

指導は最小限にとどめる,あるいは全く行わないという立場を採る。つまり,文法指導に時間

を割かずとも多くの意味のやりとりを通じて学習者自身は文法を習得できるという考え方であ

る。そのため,教育現場においてはコミュニケーション能力の基盤となる文法指導がおろそか

にされる傾向にあった。しかし,新学習指導要領では「読む」「聞く」「書く」「話す」の四技能

を統合的に活用できるコミュニケーション能力の育成が提案され,さらに,その四技能の基盤

となる能力として文法力の育成も注目されるようになってきた。もともと日本の英語教育では

文法シラバスに基づいて教科書が作られる傾向があったが,そのシラバスでは文法の発達段階

が考慮されているわけではない。そもそも英語の文法の発達段階を示す指標が存在しないので

ある。もし,学習者の文法の発達段階を示す指標を構築できれば,英語の文法項目について「い

― 18 ― 外 国 語 教 育

つ,何を,どの段階で」導入すればよいかが分かる可能性がある。

 本稿は文法の発達指標構築を目指した研究の一環をなすものであり,その一歩としてwh- 疑

問文を取り上げる。wh- 疑問文の「何が習得できていて」「何が習得できていないのか」につい

て予備調査を行う。本稿は次のように構成されている。第2節でwh- 疑問文の発達段階,ある

いは発達上の誤りを扱った研究を概観する。第3節で実験と実験結果を,第4節で実験結果に

ついて検討し,第 5 節で結論を述べる。

2.wh- 疑問文の習得研究 個別の文法項目の習得において,「どの(操作)段階」が難しいのかを調査し,その順序付け

を試みた研究は筆者の知る限りほとんど存在しないが,参考になる記述や先行研究がある。そ

れらを順に概観する。

2.1 白畑(2015)

 白畑(2015, 183-201)では研究結果を実際の指導に生かすために,中学校と高等学校で学習す

る文法項目を(1)の 8 つに分類している(1)

 (1)a.もともと誤りが少なく,誤っていても一時的であるため,さほど時間をかけなくても

     よい項目

   b.日本人英語学習者にとって非常に習得が困難な項目

   c.日本人英語学習者にとって比較的習得が困難な項目

   d.規則そのものは簡単であるが,長期間誤りの続く項目

   e.(日本語と比較しながら)相違を教えるべき主な項目

   f.意味のある文脈の中で繰り返して練習するのがよさそうな文法項目

   g.概念そのものをまず指導すべき項目

   h.説明が足りなかったために誤りをしていた / 習得が遅かった項目

上記の(1)の中でwh- 疑問文に関連する項目を抜き出したものが(2)である(2)

 (2)

 矢印の下側に行くほど習得が難しく,誤りが長期間続くということである。wh- 疑問文の

場合の「主語と be 動詞の(人称・数)の一致」にはたとえば,What fruits are(*is)in the

(2)

主語とbe動詞の(人称・数の)一致

wh-疑問文でのwh語の位置

三人称単数現在形 -s

wh-疑問文での助動詞do/does/did

進行形や受動態のbe動詞

― 19 ―日本人英語学習者にとってwh- 疑問文の何が難しいか

refrigerator? などの文が含まれる。「三人称単数現在形 -s」は What comes(*come)to your

city this weekend? などの文に関与する項目である。「進行形や受動態の be 動詞」もwh- 疑問文

中に生じる。たとえば,Why are you crying?/When was it broken? などである。白畑(2015)

はwh- 疑問文については一つの実験としては取り上げていないと述べつつ,他の研究結果から

導かれた(1)をもとにして,英語では「wh 語を文頭に移動する」という規則を誤る日本人英

語学習者は滅多にいないと指摘し,(3a)-(3c)の例を挙げている(3)

 (3)a.What did Taro buy at the department store?

   b.*What φ Taro buy at the department store?

   c.*What is/are/do Taro buy at the department store?

     (白畑,2015:192)

 (3b)は助動詞(does あるいは did)が脱落した事例であり,(3c)は助動詞の助動詞の形式を誤っ

た事例である。白畑(2015)は(3b)のようなタイプの事例が観察されることは少なく,頻繁

に起こる誤りは((3c)のように)助動詞の形式を誤ったものであることを指摘している。

2.2 Lee(2008)

 Lee(2008)は英語を専攻とする韓国人大学生 41 名を対象に,(4b)と(5b)のようなwh- 疑

問文の倒置(inversion)において習得の違いが見られるかどうかを調査している。

 (4)a.What are you making? 

   b.*What you are making?

 (5)a.Why is he laughing?

   b.*Why he is laughing?

 (4)の what は動詞 making の項(argument)であるのに対し,(5)の why は項ではなく,

付加詞(adjunct)である(4)

。母語獲得研究では,項を問うwh- 疑問文と付加詞を問うwh- 疑問文

を比較すると,前者の方が後者よりも早く習得されるという。(以下,この差異を「項―付加詞

間の非対称性(argument-adjunct asymmetry)」と呼ぶ)。その理由として英語母語話者の子供

は(5)の構造を正しい構造(=(6))ではなく,一時的に誤った構造(=(7))を構築するためだ

と主張している(Erreich, 1984;Stomswold, 1990)(5)

。(4)の場合に(7)のような誤った構造を

構築しないのは,wh 語(what)が項であるため,普遍文法(Universal Grammar)の原理に違

反してしまうためであると説明する。

― 20 ― 外 国 語 教 育

 (6)Why is she smiling という文における付加詞 why の移動

 (7)*Why she is smiling? という文における why の IP 付加

 Lee(2008)はこの仮説に基づいて,第二言語習得の場合にも同じように「項―付加詞間の非

対称性」が観察されるかを調査した。その結果,「項―付加詞間の非対称性」が観察され,第二

言語学習者も母語話者と同様に学習の初期段階においては(5)の場合にのみ,一時的に誤って(7)

の構造を構築してしまうため,(5b)のような誤りを犯すと説明している。

2.3 宮本(2012)

 宮本(2012)は(8)のように疑問詞とそれ以外の要素を含む目的語全体が文頭にある疑問文

の習得に焦点を当て,(9)のような誤りをする日本人英語学習者(9 歳もしくは 10 歳の子供;

英語学習歴 4 年から 9 年)は(10)のような構造を構築しているのではないかという仮説を立

てている(6)

 (8)How many books did John buy?

 (9)*How many did John buy books?

 (10)[DP[NP[QP[how many][NP[N’[N books]]]]]

 さらに,宮本(2012)は how many で始まる疑問文は特定性(specificity)に関して 2 種類(「特

定的(specific)」と「非特定的(unspecific)」があるとしている。まず,特定性について見てお

きたい。

CP Whyi C’ C IP Aux Spec I’ isj Subj I VP

she tj V’ ADV 付加詞 V ti smiling

IP Why IP IP付加 Spec I’ Sub I VP she is smiling

― 21 ―日本人英語学習者にとってwh- 疑問文の何が難しいか

 (11)I saw two boys at the park. (非特定的)

 (12)Several children entered the museum.(特定的)

    I saw two boys at the movies.

 (11)は非特定的な状況における使用例である。「(ある)二人の男の子」と述べているだけで,

どの子供たちであるかは特定化されていない。一方,(12)は特定的な状況における使用例で,

two boys は先行する文中で紹介されている子供たちのうちの二人の男の子を指すことができる。

この特定性の違いを(10)の構造に反映させたものが(13)と(14)である。

 (13)非特定的な状況の場合

    [DP[NP[QP[how many][NP[N’[N books]]]]](=(10))

 (14)特定的な状況の場合

    [DP Op[QP[how many][NP[N’[N books]]]]]

 (13)では how many のみの移動は認められるのに対し,(14)では Op(erator)があるため,

how many のみの移動は阻止される。つまり,非特定的な状況においてのみ,(15)のような文

の生成が予測されるということである。

 (15)*How many did John buy books?(=(9))

 この仮説に基づいて実験を行った結果,特定性に関して仮説が予測するほどの明白な結果は

見られなかったが,「特定的な状況」と「非特定的な状況」を区別する必要性は認められたと報

告している。さらに,宮本(2012:227)は日本語と英語の数詞の違いに着目し,(15)のような

誤りを起こす学習者は英語の数詞が述語の性質を持つと考えていた可能性があると述べている。

 (16)a.男子学生は三人だ。

    b.*The male students are three.

 (16a)と(16b)を比較すると,日本語の数詞の場合には連結詞 (copula) と共に用いられる。

連結詞と共に用いられる要素は形容詞のような述語であることから(16a)は日本語の数詞が述

語の性質を持つことを示している。つまり,(16a)の「三人だ」の部分を疑問詞化すると,(17)

のようになり,ここでの「何人ですか」は(16a)の「三人だ」と同様に述語だと考えることが

できる。

 (17)男子学生は何人ですか?

― 22 ― 外 国 語 教 育

 この前提が正しく,このような前提を持つ日本人英語学習者であれば,英語の how many を

日本語の数詞と同様だと考えている可能性があるとし,(15)のような誤りは日本語の数詞の性

質を英語の how many に転移(=負の転移)させたためであると示唆している。

2.4 先行研究のまとめ

 上記の先行研究から(18)のことが示唆された。

 (18)a.wh 語の文頭への移動は学習者にとって簡単である。

    b.wh- 疑問文中でも be 動詞の人称と数の一致は比較的簡単である。

    c.wh- 疑問文における助動詞は脱落させることが多い。

    d.wh- 疑問文において助動詞の正しい選択は難しい。

    e.項(argument)の部分を問うwh- 疑問文と付加詞(adjunct)の部分を問うwh- 疑

     問文では前者の方が後者よりも簡単である。

    f.how many と他の要素が動詞の目的語となっているwh- 疑問文において学習者が how

     many だけを文頭に移動するという誤りは,非特定的な状況の場合に起こりやすい。

 上記で見てきた先行研究はwh- 疑問文の発達指標の構築を目指すにあたり,非常に有意義な

示唆を与えてくれるが,異なる研究であるため,当然のことながら,対象者も調査項目も同じ

ではない。したがって,習得難易度を特定化するためには,同一の対象者に対して同一項目を

調査する必要がある。

3.実験

 本節では第3節で概観したそれぞれの先行研究から得られた結果(あるいは予測)を検証す

ると同時に,日本人英語学習者にとってwh- 疑問文における習得の難しい項目と,さほど難し

くない項目を特定化し,順序付けを試みる。しかしながら,wh- 疑問文と言っても,単純なwh-

疑問文から間接疑問文などのような複雑なものもある。さらに,それぞれの疑問文に含まれる

動詞や時制,助動詞の有無など,細かな要因を考慮しなければならないため,一度の実験でwh-

疑問文に関するすべての項目の習得難易度を調査することは非常に難しい。したがって,今回

は先行研究で示唆された結果(の一部)を中心に検証すると同時に,実験的に習得難易度の特

定化を試みる(7)

 本実験では先行研究の成果に基づいて「wh- 疑問文の何が難しくて,何が容易なのか」を調べ

るために,(19)のリサーチクエスチョンを立てる。

 (19)リサーチクエスチョン

    a.日本人英語学習者はwh 語の文頭への移動をどの程度正しく判断できるか。

    b.日本人英語学習者はwh- 疑問文における be 動詞の人称と数の一致をどの程度正しく

― 23 ―日本人英語学習者にとってwh- 疑問文の何が難しいか

     判断できるか。

    c.日本人英語学習者はwh- 疑問文における be 動詞以外の動詞(一般動詞)の人称と数

     の一致をどの程度正しく判断できるか。

    d.日本人英語学習者はwh- 疑問文においてどの程度助動詞の脱落に気付くか。

    e.日本人英語学習者はwh- 疑問文における主語と助動詞 (be 動詞 ) の倒置をどの程度正

     しく判断できるか。その判断の中に「項と付加詞の非対称性」が観察されるか。

    f.日本人英語学習者にとってwh 語をどの位置(主部・補語・付加詞)から抜き出した

     場合が容易(あるいは難しい)か?

    g.how many などの数量詞と他の要素が動詞の目的語となっているwh- 疑問文において,

     数量詞だけを文頭に移動するという誤りをどの程度正しく判断できるか。how many +

     名詞(N)とそれ以外の場合(たとえば,whose+N や what+N など)との違いが観

     察されるか。

3.1 調査協力者とデータ収集方法

 本研究の調査協力者は同じ大学に通う大学生(1 年生 24 名,2 年生 4 名,3 年生 5 名,4 年生 3 名)

36 名である。その 36 名に対して文法性判断テストを実施した。調査協力者の TOEIC 平均スコ

アは 333 点である(8)

。データ収集は以下に述べる文法性判断テストによって行われた。問題数は

全部で 150 問(調査項目に関する問題数 116 問と錯乱文 34 文)から構成されている。時間は無

制限としたが,実際には休憩をはさみながら 45 分から 60 分間で回答がなされた。

 回答方法は 5 段階のスケール選択方式になっている。各例文に1から5までのスケールが付

いている。「1」は文法的に「間違っている」,「2」は「間違っていると思う」,「3」は「わか

らない」,「4」は「正しいと思う」,「5」は「正しい」を表しており,それぞれの例文に対し,「1」

から「5」のいずれかの番号を一つだけ選んで〇で囲む。さらに,「1.間違っている」と「2.

間違っていると思う」を選ぶ際には例文中に「間違っている(と思う)」箇所に下線を引くよう

に指示した。なお,回答中に単語,あるいは文の意味がわからない場合にはその都度質問に答

えた。

 次に,テスト例文についてである。今回の調査対象はwh- 疑問文の中でも単純wh- 疑問文とし,

各例文の動詞の時制はすべて単純現在時制(法助動詞を含まない)の例文に統一した。疑問詞

は単独では what,when,where,why,how の5種類を使用し,2語で1つの疑問詞の役割を

果たすものとして how long,how old,how often の3種類を使用した。さらに,疑問詞と名詞

がセットになったものとして what+ 名詞,whose+ 名詞,how many+ 名詞,how much+ 名詞

の4種類を使用した。例文中の動詞は自動詞文に使用したものは be 動詞,come,go,fall の4

単語,他動詞文に使用したものは have,contain,like,need,get の5単語である。いずれの

例文にもコンテクストは与えていない。wh 句の元位置については,主語,目的語,補語,付加

詞(=修飾語)のそれぞれの位置を,wh 句の移動先については,文頭,あるいはそれ以外の位

置(たとえば文末)に移動した例文を作成した。

― 24 ― 外 国 語 教 育

3.2 分析と結果

 本調査の分析では,正しい文を「正しい」と判断し,誤った文を「誤っている」という正し

い判断を下した人数を集計した。つまり,正しい文に関して「5(正しい)」と「4(正しいと

思う)」と答えたものをまとめて集計し,誤った文に関して「1(誤っている)」と「2(誤っ

ていると思う)」と答えたものをまとめて集計した。「その他」は「3(わからない)」と答えた

人数である。

 第一に,「日本人英語学習者はwh 語の文頭への移動をどの程度正しく判断できるか」につい

てである。【表1】はwh 語の文頭への移動に関して正しく判断した人数,誤った判断を下した人数,

「わからない」と答えた人数(「その他」として記載)をそれぞれ表している(9)

   【表 1】wh 語の文頭移動における習得度

 「wh- 語が文頭にあるのが正しい」ことについては疑問詞によって正答率が異なり,what

(100)> how long(97.2)(補語)> how old(91.7)> why(82.9)> what+N(75.0)> how,

whose+N(共に 72.2)> how long(63.9)(付加詞)> how often(61.1)であった(10),(11)

。how long

が 2 か所あるが,一つは補語の位置から移動した場合であり,もう一つは付加詞の位置から移

動した場合である。前者の方が後者よりも正答率が高かった。また,「wh- 語が文頭以外の位置(た

とえば,文末)にあると間違いである」ことについても調査したところ,疑問詞によって正答

率が異なり,次のような結果であった。what(80.6)>how(77.8)>why(75.0)>how long(69.4)(付

加詞)> whose+N(68.6)> how old(66.7)> how long(63.9)(補語)> what+N, how often(共

に 61.1)であった。ここでもやはり how long に関しては補語と付加詞の場合で前述したのと同

じ違いが見られた。

 第二に,wh- 疑問文中の主語と述語動詞の数の一致における習得度についてである。主語と

例文 正答者数(%)

誤答者数(%)

その他(%)

補語

の位

置か

らの

wh-

移動

wh

語1

What is this? 36(100) 0 0?This is what? 29(80.6) 7(19.4) 0How is your mother? 26(72.2) 8(22.2) 2(5.6)*Your mother is how? 28(77.8) 7(19.4) 1(2.8)

wh

語2

How long is this string? 35(97.2) 0 1(2.8)*This string is how long? 23(63.9) 10(27.8) 3(8.3)How old is your sister? 33(91.7) 3(8.3) 0*Your sister is how old? 24(66.7) 9(25.0) 3(8.3)

wh-

語+

名詞

(N

) What color is your lucky color? 27(75.0) 8(22.2) 1(2.8)?Your lucky color is what color? 22(61.1) 9(25.0) 5(13.9)Whose bag is this? 26(72.2) 10)27.8) 0*This is whose bag? 24(68.6) 10(28.6) 1(2.9)

付加

詞位

置か

らの

wh-

移動 1

語 Why is she here? 29(82.9) 4(11.4) 2(5.7)*She is why here? 27(75.0) 6(16.7) 3(8.3)

wh

語2

How long is he in Japan? 23(63.9) 12(33.3) 1(2.8)*He is how long in Japan? 25(69.4) 11(30.6) 0How often is there a full moon? 22(61.1) 8(22.2) 6(16.7)*There is a full moon how often? 22(61.1) 8(22.2) 6(16.7)

― 25 ―日本人英語学習者にとってwh- 疑問文の何が難しいか

be 動詞の一致に関する結果を【表 2】に,主語と一般動詞の場合の一致に関する結果を【表 3】

に示す。

   【表 2】wh- 疑問文中の主語と述語動詞の一致についての習得度(be 動詞の場合)

   【表 3】wh- 疑問文中の主語と述語動詞の一致についての習得度(一般動詞の場合)

 【表 2】の「単数主語のwh 句を単数 be 動詞(is)で一致させること」については,主語の

wh 句によって正答率が異なり,what(91.3)> whose+N(83.3)> what+N(80.6)> how

much+N(55.6)の順であった。一方,「複数主語のwh 句を複数の be 動詞(are)で一致させ

ること」については,how many+Ns(69.4)> what+Ns(58.3)であった。「単数主語を複数

be 動詞(are)で呼応」させた誤り,あるいは「複数主語を単数 be 動詞(is)で呼応」させた

誤りに対して「誤っている」と正しく判断した割合は whose+N(75.0)> what(72.2)> how

many+Ns(44.4)> how much+N(30.6)であり,正しい文を正しいと判断した正答率よりは

低かった(12)

。【表 3】の自動詞の場合は,how many+Ns(77.8)> whose+N(61.1)> what+N,

how much+N(共に 50.0)> what(47.2)の順で正しい文を正しいと判断している。それに対

して,誤文を誤文であると判断した場合の正答率はかなり低く,what(34.3)> how much+N

例文 正答者数(%)

誤答者数(%)

その他(%)

be動

What is in the box? 33(91.3) 3(8.3) 0?What are in the box? 26(72.2) 10(27.8) 0What food is in the refrigerator? 29(80.6) 7(19.4) 0What fruits are in the refrigerator? 21(58.3) 8(22.2) 7(19.4)Whose book is on the desk? 30(83.3) 6(16.7) 0*Whose book are on the table? 27(75.0) 9(25.0) 0*How many books is on the bookshelf? 16(44.4) 16(44.4) 4(11.1)How many books are on the bookshelf? 25(69.4) 10(27.8) 1(2.8)How much money is in the envelope? 20(55.6) 14(38.9) 2(5.6)*How much money are in the envelope? 11(30.6) 20(55.6) 5(13.9)

例文 正答者数(%)

誤答者数(%)

その他(%)

自動

What comes to your city this weekend? 17(47.2) 18(50.0) 1(2.8)*What come to your city this weekend? 12(34.3) 17(48.6) 6(17.1)What drink comes with the dish? 18(50.0) 8(22.2) 10(27.8)Whose friend comes to the party? 22(61.1) 12(33.3) 2(5.6)*Whose friend come to the party? 10(27.8) 4(11.1) 22(61.1)*How many people comes to the party today? 8(22.2) 2(5.6) 26(72.2)How many people come to the party today? 28(77.8) 3(8.3) 5(13.9)How much rain falls around here in the rainy season in Japan? 18(50.0) 13(36.1) 5(13.9)*How much rain fall around here in the rainy season in Japan? 10(28.6) 9(25.7) 16(45.7)

他動

What has a lot of influence on that result? 12(34.3) 10(28.6) 13(37.1)*What have a lot of influence on that result? 10(27.8) 17(47.2) 9(25.0)What food contains a lot of vitamins? 24(66.7) 10(27.8) 2(5.6)*What food contain a lot of vitamins? 11(30.6) 18(50.0) 7(19.4)Whose book has a lot of information about kabuki? 12(33.3) 15(41.7) 9(25.0)*Whose book have a lot of information about kabuki? 10(27.8) 15(41.7) 11(30.6)How many students have their own PCs? 25(69.4) 5(13.9) 6(16.7)*How many students has their own PCs? 17(47.2) 15(41.7) 4(11.1)

― 26 ― 外 国 語 教 育

(28.6)> whose+N(27.8)> how many(22.2)であった。他動詞の場合は,how many+Ns(69.4)

> what+N(66.7)> what(34.3)> whose+N(33.3)の順で正しい文を正しいと判断できて

いる。一方,誤文に関しては正答率が低く,how many+Ns(47.2)> what+N(30.6)> what,

whose+N(共に 27.8)の順であった。

 第三に,「wh- 疑問文中の助動詞の脱落に対する敏感度」についての結果が【表4】である。

   【表 4】wh- 疑問文中における助動詞の脱落に対する敏感度

 wh 語が補部で助動詞を含む文に関しては how many+Ns(86.1)> how much+N(80.6)>

what(75.0)> whose+N(66.7)> what+N(36.1)の順で正しい文を正しいと判断したのに対

し,助動詞を脱落させた誤文に関しては,whose+N(71.4)> what(61.1)> what+N(58.3)

> how many+Ns(55.6)> how much+N(41.7)とやや逆の傾向を見せた。つまり,助動詞脱

落に関してはあまり敏感ではないことを示唆する結果であった。wh 語が付加詞の場合(動詞が

自動詞の場合)は,why(97.2)> when(91.7)> where(83.3)> how(80.6)> how often (69.4)

例文 正答者数(%)

誤答者数(%)

その他(%)

wh-

語の

元位

置が

補部

他動

What does he have in his hand? 25(75.0) 6(16.7) 3(8.3)*What he have in his hand? 22(61.1) 11(30.6) 3(8.3)What subject does she like best? 13(36.1) 19(52.8) 4(11.1)*What subject she like best? 21(58.3) 12(33.3) 3(8.3)Whose book does she have in her hand? 24(66.7) 10(27.8) 2(5.6)*Whose book she have in her hand? 25(71.4) 4(11.4) 6(17.1)How many books does she have in her room? 31(86.1) 3(8.3) 2(5.6)*How many books she have in her room? 20(55.6) 15(41.7) 1(2.8)How much money does she need? 29(80.6) 6(16.7) 1(2.8)*How much money she need? 15(41.7) 20(55.6) 1(2.8)

wh-

語の

元位

置が

付加

自動

When does he come to your house? 33(91.7) 1(2.8) 2(5.6)*When he come to your house? 16(44.4) 19(52.8) 1(2.8)Where does he go after school? 30(83.3) 4(11.1) 2(5.6)*Where he go after school? 21(58.3) 14(38.9) 1(2.8)Why does she go to the hospital? 35(97.2) 1(2.8) 0*Why she go to the hospital? 15(41.7) 20(55.6) 1(2.8)How does he come to school? 29(80.6) 6(16.7) 1(2.8)*How he come to school? 16(44.4) 18(50) 2(5.6)How often does he come to your house? 25(69.4) 4(11.1) 7(19.4)*How often he come to your house? 15(41.7) 18(50) 3(8.3)

他動

When does he have breakfast? 25(69.4) 9(25.0) 2(5.6)*When he have breakfast? 27(75.0) 9(25.0) 0Where does he play soccer on Sundays? 29(80.6) 6(16.7) 1(2.8)*Where he play soccer on Sundays? 19(52.8) 16(44.4) 1(2.8)Why does she have such an expensive necklace? 25(71.4) 9(25.7) 1(2.9)*Why she have such an expensive necklace? 19(52.8) 10(27.8) 7(19.4)How does she get to the necklace? 25(69.4) 5(13.9) 6(16.7)*How she get the necklace? 20(55.6) 12(33.3) 4(11.1)How often does your father take you to the park? 22(61.1) 8(22.2) 6(16.7)*How often your father take you to the park? 17(47.2) 14(38.9) 5(13.9)

― 27 ―日本人英語学習者にとってwh- 疑問文の何が難しいか

とかなり高い割合で正しい文を正しいと判断したのに対し,助動詞が脱落した誤文に関しては,

where(58.3)> when, how(共に 44.4)> why, how often(共に 41.7)の順で誤文だと正しく

判断を下した割合は低かった。wh 語が付加詞の場合(動詞が他動詞の場合)には,where(80.6)

> why(71.4)> when, how(69.4)> how often(61.1)であり,自動詞文の場合ほどではな

いが,正文に関しては正しい判断をした。しかし,誤文に関しては when(75.0)> how(55.6)

> where, why(52.8)> how often (47.2)とやや正答率が低かった。つまり,wh 語の元位置

に関係なく,助動詞の脱落に関してはあまり敏感ではない,言い換えれば,きちんと習得でき

ていないということを示唆している。

 第四に,「wh- 疑問文における主語と助動詞の倒置の習得度」に関する結果を【表 5】に示す。

   【表 5】wh- 疑問文における主語と助動詞(be 動詞)の倒置の習得度

 wh 句の元位置が補語の場合,how long(97.2)> how old(91.7)> what+N(75.0)> how,

whose+N(共に 72.2)と比較的高い正答率で正しい文を正しいという判断を下した(13)

。一方,誤

文に関する判断は how(77.8)> how old(75.6)> whose bag(72.2)> how long(61.1)>

what+N(60.0)であった。wh 句の元位置が付加詞の場合は,why(82.9)> how long(63.9)

> how often(61.1)と補語の場合と比べてやや低い正答率であった。さらに誤文の判断に関し

ては,how often(47.2)> how long(45.7)> why(44.4)とかなり低い正答率であった。wh

句の元位置が補語と付加詞の場合を比較すると,付加詞の場合の方が正文と誤文のいずれの場

合においても正答率が低い。

 第五に,「どの位置(主語・目的語・補語・付加詞)からのwh 句の抜き出しが容易(あるいは困難)

か」に関する結果が【表 6】である。

例文 正答者数(%)

誤答者数(%)

その他(%)

wh-

句の

元位

置が

補語

1語 How is your mother? 26(72.2) 8(22.2) 2(5.6)

*How your mother is? 28(77.8) 7(19.4) 1(2.8)

wh

語2

How long is this string? 35(97.2) 0 1(2.8)*How long this string is? 22(61.1) 13(36.1) 1(2.8)How old is your sister? 33(91.7) 3(8.3) 0*How old your sister is? 24(75.6) 10(29.4) 0

wh-

語+

名詞

What color is your lucky color? 27(75.0) 8(22.2) 1(2.8)*What color your lucky color is? 21(60.0) 11(31.4) 3(8.6)Whose bag is this? 26(72.2) 10)27.8) 0*Whose bag this is? 26(72.2) 1(2.8) 9(25.0)

wh-

句の

元位

置が

付加

1語 Why is she here? 29(82.9) 4(11.4) 2(5.7)

*Why she is here? 16(44.4) 17(47.2) 3(8.3)

wh

語2

How long is he in Japan? 23(63.9) 12(33.3) 1(2.8)*How long he is in Japan? 16(45.7) 17(48.6) 2(5.7)How often is there a full moon? 22(61.1) 8(22.2) 6(16.7)*How often there is a full moon? 17(47.2) 15(41.7) 4(11.1)

― 28 ― 外 国 語 教 育

   【表 6】wh 語の抜き出し位置(主語・目的語・補語・付加詞)と習得度

 同一のwh 句の抜き出しに関して,主語と補語の位置の違いによる正答率を比較してみると,

what(補語:75.0)> what(主語:34.3),what+N(主語:66.7)> what+N(補語:63.9),

whose+N( 補 語:66.7) > whose+N( 主 語:33.3),how many+Ns( 補 語:86.1) > how

many+Ns(主語:69.4),how much+N(補語:80.6)> how much(主語:58.3)と what+N

の場合を除いては補語の場合の方が主語の場合よりも正答率が高かった。付加詞の位置からの

抜き出しに関しては,where(80.6)> why(71.4)> when, how(共に 69.4)> how often(61.1)

であった。しかしながら,この数値だけでは付加詞からのwh 句の抜き出しと,主語位置,ある

いは補語位置からwh 句を抜き出した場合との比較はしづらい(14)

 最後に,「wh 句内のwh 語とそれ以外の構成要素の結びつき」に関する結果を【表 7】に示す。

 正しい文を正しいと判断したのは how many+Ns(86.1)> how much(80.6)> whose+N(66.7)

> what+N(63.9)の順であった。一方,誤文を誤文と正しく判断したのは how many+Ns(44.4)

> whose+N(40.0)> what+N(36.1)> how much+N(19.4)の順であり,いずれもかなり低

い正答率であった。2語でwh 語を構成している how far,how long,how old,how often を含

んだ正しい文の場合を比較してみると,how long(97.2)> how old(91.7)> how long(63.9)

> how often(61.1)> how far(58.3)という正答率であった。さらに,これらの語句を含んだ

誤文の場合を見ると,how long(付加詞:83.3)> how old(58.3)> how often(52.8, 36.1)>

how far(42.9)> how long(補語:41.7)であり,wh 語+名詞の場合よりも正答率が高い(15)

つまり,wh 語と名詞の間には何らかの切れ目があると感じている可能性が示唆される。

例文 正答者数(%)

誤答者数(%)

その他(%)

主語

位置

What has a lot of influence on that result? 12(34.3) 10(28.6) 13(37.1)What food contains a lot of vitamins? 24(66.7) 10(27.8) 2(5.6)Whose book has a lot of information about kabuki? 12(33.3) 15(41.7) 9(25.0)How many students have their own PCs? 25(69.4) 5(13.9) 6(16.7)How much information about the crime contains a new piece of evidence? 21(58.3) 6(16.7) 9(25.0)

補語

位置

What does he have in his hand? 27(75.0) 6(16.7) 3(8.3)What subject does she like best? 23(63.9) 8(22.2) 5(13.9)Whose book does she have in her hand? 24(66.7) 10(27.8) 2(5.6)How many books does she have in her room? 31(86.1) 3(8.3) 2(5.6)How much money does she need? 29(80.6) 6(16.7) 1(2.8)

付加

詞位

When does he have breakfast? 25(69.4) 9(25.0) 2(5.6)Where does he play soccer on Sundays? 29(80.6) 6(16.7) 1(2.8)Why does she have such an expensive necklace? 25(71.4) 9(25.7) 1(2.9)How does she get the necklace? 25(69.4) 5(13.9) 6(16.7)How often does your father take you to the park? 22(61.1) 8(22.2) 6(16.7)

― 29 ―日本人英語学習者にとってwh- 疑問文の何が難しいか

   【表 7】wh 句内のwh 語とそれ以外の構成要素の結びつきに関する習得度

これらの結果より,(19)のリサーチクエスチョンに対する解答を(20)に整理する。

 (20)リサーチクエスチョンに対する解答

    a.「日本人英語学習者はwh 語の文頭への移動をどの程度正しく判断できるか」につい

     ては,疑問詞によって異なるが what の場合は 100%,正答率が一番低い how often の

     場合でも 61.1% であった。

    b.「日本人英語学習者はwh- 疑問文における be 動詞の人称と数の一致をどの程度正し

     く判断できるか」については,疑問詞の種類によって異なるが,「単数主語のwh 句

     を is で一致させること」については what の正答率が 91.3% と一番高く,how much+N

     の 55.6%が一番低かった。さらに,「複数主語のwh 句を are で一致させること」に

     ついては how many+Ns が 69.4%,what+Ns が 58.3%であった。

    c.「日本人英語学習者はwh- 疑問文における be 動詞以外の動詞(一般動詞)の人称と数

     の一致はどの程度正しく判断できるか」については自動詞の場合には how many+Ns

     の 77.8% が一番高く,what の 47.2%が一番低かった。他動詞の場合は,how many+Ns

     が69.4%と高く,whose+N が33.3%と一番低かった。誤文に関しては自動詞の場合も,

     他動詞の場合も正答率が低く,主語のwh 句と述語動詞の一致は難しいということを

     示唆する結果であった。

    d.「日本人英語学習者はwh-疑問文においてどの程度助動詞を脱落させるか」については,

     wh 語が補語の場合,助動詞を脱落させた誤文では whose+N の場合の 71.4%が一番

     高く,how much+N の場合の 41.7%が一番低かった。wh 語が付加詞の場合(動詞

例文 正答者数(%)

誤答者数(%)

その他(%)

wh-

語+

名詞

What subject does she like best? 23(63.9) 8(22.2) 5(13.9)*What does she like subject best? 13(36.1) 19(52.8) 4(11.1)Whose book does she have in her hand? 24(66.7) 10(27.8) 2(5.6)*Whose does she have book in her hand? 14(40.0) 14(40.0) 7(20.0)How many books does she have in her room? 31(86.1) 3(8.3) 2(5.6)*How many does she have books in her room? 16(44.4) 18(50.0) 2(5.6)How much money does she need? 29(80.6) 6(16.7) 1(2.8)*How much does she need money? 7(19.4) 28(77.8) 1(2.8)

wh-

語が

2語

How far is it to Tenri station? 21(58.3) 12(33.3) 3(8.3)*How is it far to Tenri station? 15(42.9) 15(42.9) 5(14.3)How long is this string? 35(97.2) 0 1(2.8)*How is this string long? 15(41.7) 16(44.4) 5(13.9)How old is your sister? 33(91.7) 3(8.3) 0*How is your sister old? 21(58.3) 10(27.8) 5(13.9)How long is he in Japan? 23(63.9) 12(33.3) 1(2.8)*How is he long in Japan? 30(83.3) 3(8.3) 3(8.3)How often is there a full moon? 22(61.1) 8(22.2) 6(16.7)*How is there a full moon often? 19(52.8) 11(30.6) 6(16.7)How often does your father take you to the park? 22(61.1) 8(22.2) 6(16.7)*How does your father take you often to the park? 13(36.1) 16(44.4) 7(19.4)

― 30 ― 外 国 語 教 育

     が自動詞)は where の場合の 58.3%が高く,why と how often の場合の 41.7%が一

     番低かった。wh 語が付加詞の場合(動詞が他動詞)には,when の場合の 75.0%が

     一番高い正答率を示し,how often の場合の 47.2%が一番低かった。これらの結果か

     ら「助動詞の脱落に関してはあまり敏感ではない(=習得できていない)」というこ

     とが示唆された。

    e.「日本人英語学習者はwh- 疑問文における主語と助動詞(be 動詞)の倒置をどの程度

     正しく判断できるか」については,wh 句の元位置が補語の場合,how long が 97.2%

     と一番高く,一番低い whose+N でも 72.2%と比較的高い正答率であった。逆に,誤

     文に関しては how の 77.8%が一番高く,what+N が 60.0%と一番低かった。wh 句の

     元位置が付加詞の場合は,whyが82.9%と一番高く,how often が61.1%と一番低かった。

     誤文に関しては,how often(47.2%)> how long(45.7%)> why(44.4%)といず

     れもかなり低い正答率であった。wh 句の元位置が補部と付加詞の場合を比較すると,

     付加詞の場合の方が正文と誤文のいずれにおいても正答率が低いことが判明した。

     つまり,「項と付加詞の非対称性」が観察されたことになる。

    f.「日本人英語学習者にとってwh 語をどの位置(主部・補語・付加詞)から抜き出した

     場合が簡単(あるいは難しい)か」については,what+N の場合を除いては,補語の

     位置からのwh 句を抜き出した場合の方が主部位置から抜き出す場合よりも簡単だと

     いうことを示唆した。付加詞の位置からの抜き出しに関してはこの数値だけからは

     明らかにはならなかった。

    g.「how many などの数量詞と他の要素が動詞の目的語となっているwh- 疑問文におい

     て学習者が数量詞だけを文頭に移動するという誤りはどの程度生じるか」について

     は,正しい文を正しいと判断したのは how many+Ns が 86.1%,how much が 80.6%

     と比較的高い正答率であった。数量詞ではないが,whose+N は 66.7%,what+N は

     63.9%であった。一方,誤文を誤文と判断したのは how many+Ns(44.4%),whose

     +N(40.0%),what+N(36.1%),how much+N(19.4%)といずれもかなり低い正

     答率であった。

4.考察

 第3節で疑問詞が異なれば,同一の項目であっても正答率が異なるということが示唆された。

本稿が目指す言語指標の構築への貢献という観点に立てば,上記の調査結果を何らかの方法で

習得難易度に反映させなければならない。まず,調査した項目を A-F に整理し,その後でどの

ように習得難易度を特定するかについて述べたい。A-F は前節で行った実験結果を項目別に整

理したものである。

 A:wh- 疑問文においてwh 語を文頭(節頭)に置かねばならない。

― 31 ―日本人英語学習者にとってwh- 疑問文の何が難しいか

 B:wh- 疑問文において,主語と述語動詞の数を一致させねばならない。

 C:wh- 疑問文において,補部,あるいは付加詞からの wh- 移動の際に,助動詞を脱落させて

   はならならない(16)

 D:wh- 疑問文において,主語と助動詞(be 動詞)を倒置させねばならない。

 E:wh- 疑問文において,「主語」「補語」「付加詞」のどの位置からの移動が一番容易であり,

   あるいは難しいか(17)

 F:wh- 疑問文において,wh 句の一部分ではなく,wh 句全体を移動させねばならない。

 習得難易度の特定化にあたり,第3節の調査結果,「正しい文を正しいと判断した割合」と「誤っ

た文を誤っていると判断した割合」に加え,その両者の「重なり部分」に着目した。「重なり部

分」とは,「正しい文を正しいと判断し,かつ,誤った文を誤っていると(正しく)判断した調

査協力者の全体の(協力者)数に占める割合」ということである。この割合は少なくともターゲッ

トとする項目を含んだ例文(の一部分)については正しい知識を持っていることを表し,その「重

なり部分」が高い正答率の位置にあればあるほど,その項目に関して習得している人数が多い

ことを示す。この度合いに基づいて A-F の項目における習得難易度の特定化を試みる。

正答率(%) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 A1: wh句が文頭にある正文を「正しい」と

判断

A2:wh句が文末にある誤文を「誤っている」

と判断

B1:主語と動詞の一致について単数主語を

単数動詞で正しく呼応したものを「正しい」

と判断(be動詞の場合)

B2:主語と動詞の一致について複数主語を

複数動詞で正しく呼応したものを「正しい」

と判断(be動詞の場合)

B3:主語と動詞の誤った一致を「誤ってい

る」と判断(be動詞の場合)

B4:主語と動詞の一致について正しく呼応

したものを「正しい」と判断(自動詞の場

合)

B5:主語と動詞の一致について誤った一致

を「誤っている」と判断(自動詞の場合)

B6:主語と動詞の一致について正しく呼応

したものを「正しい」と判断(他動詞の場

合)

36.1

69.4 33.3

47.2 27.8

71.4 41.7

97.2

58.3 41.1

69.4

86.1

80.6 61.1

75.0 47.2

B7:と動詞の一致について誤った一致を「誤

っている」と判断(他動詞の場合) C1:あるべき助動詞が含まれている正文を

「正しい」と判断( からの抜出) C2:あるべき助動詞が含まれていない誤文

を「誤っている」と判断( からの抜出) C3:あるべき助動詞が含まれている正文を

「正しい」と判断(付加詞からの抜出) (自動詞の場合) C4:あるべき助動詞が含まれていない誤文

を「誤っている」と判断(付加詞からの抜

出)(自動詞の場合) C5:あるべき助動詞が含まれた正文を「正し

い」と判断(付加詞からの抜出) (他動詞の場合) C6:あるべき助動詞が含まれていない誤文

を「誤っている」と判断(付加詞からの抜

出)(他動詞の場合)

100 61.1

80.6 61.1

91.3 55.6

58.3 69.4

75.0 30.6

77.8 47.2

34.3 22.2

0

補部

補部

― 32 ― 外 国 語 教 育

   【表8】wh- 疑問文における項目の習得難易度

 なお,【表8】において,黒い矢印線は「正しい文を正しいと判断した正答率(の範囲)」を

示し,グレーの矢印線は「誤った文を誤っていると判断した正答率(の範囲)」を表す。ここで

矢印線に幅があるのは(たとえば,A1 のところでは黒い矢印線は 61.1% から 100% に及んでい

る),wh- 疑問文であっても疑問詞が異なれば,その正答率が異なるためである。つまり,A1 では,

what が文頭にある文を正しいと判断した調査協力者は全員,つまり 100% であり,how long の

場合には 97.2%,how often の場合には 61.1% などのように,疑問詞の種類によって結果に違い

があったことを表している。

 次に,具体的に【表8】を見ていこう。項目 A については A1 と A2 を見てみよう。「正しい

文を正しいと判断」し,かつ「誤った文を誤っていると判断」している部分(ここでは□で囲っ

ている部分を指し,これを「重なり部分」と呼ぶ)は 61.1% から 80.6% であった。このことは

wh- 疑問文において,wh 語を文頭に置くことについては疑問詞の違いによる正答率の違いはあ

るが,比較的高い割合で(61.1% から 80.6%)習得できていることを示している。

 項目 B については動詞(be 動詞・自動詞・他動詞)の種類によってさらに細かく見ていく。

be 動詞の場合には B1-B3 が示すように主語と述語動詞の一致については 58.3% から 69.4% の習

得率である。一方,B4 と B5 を見ると,自動詞の場合には「重なり部分」が全く見られない。

つまり,「正しい文を正しく,かつ,誤った文を誤っていると判断できない」ことを表している。

言い換えれば,項目 B(自動詞の場合)に関しては習得ができていないということになる。さらに,

 項目 B(他動詞)の場合には B6 と B7 が示すように,be 動詞の場合よりは低く,33.3%-47.2%

の習得率である。be 動詞の場合と一般動詞の場合との違いがあるのは予想できるが,一般動詞

の自動詞と他動詞の間でこのような習得率の違いが生じるには何か理由があると考えられる。

この点については後に検討する。

正答率(%) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 D1:主語と助動詞(be 動詞)が正しく倒置さ

れた文を「正しい」と判断(補語の場合)

D2:主語と助動詞(be 動詞)が倒置されてい

ない誤った文を「誤っている」と判断(補

語の場合)

D3:主語と助動詞(be 動詞)が正しく倒置さ

れた文を「正しい」と判断(付加詞の場合)

D4:主語と助動詞(be 動詞)が倒置されてい

ない誤った文を「誤っている」と判断(付

加詞の場合)

E1:主語位置からのwh-移動の習得度

E2:補語位置からのwh-移動の習得度

E3:付加詞位置からのwh-移動の習得度

F1:wh語+名詞を1まとまりにして文頭移

動した正しい文を「正しい」と判断

F2:wh 語+名詞のwh 語のみを文頭移動さ

せた誤文を「誤っている」と判断

F3:2単語からなるwh語を1まとまりにし

て文頭へ移動した正しい文を「正しい」と

判断

F4:2単語からなるwh語を1単語だけ文頭

へ移動した誤文を「誤っている」と判断

97.2

0

72.2

77.8 60.0

61.1 82.9

47.1 44.4

33.3 69.4

86.1 63.9

61.1 80.6

86.1 63.9

44.4 19.4

97.2 58.3

83.3 41.7

― 33 ―日本人英語学習者にとってwh- 疑問文の何が難しいか

 次に項目 C ついては,C1 と C2 が示すように,補語からのwh- 移動の際には 41.7%-71.4% の

習得率である。同項目で付加詞からのwh- 移動(自動詞)の場合は,C3 と C4 が示すように,

重なり部分がないため,習得できていないことを表している。付加詞からのwh- 移動(他動詞)

の場合には C5-C6 が示すとおり,61.1%-75.0% の習得率である。統語的に同じ付加詞からの移動

でありながら,なぜこのような習得率に差異が見られるのだろうか。

 項目 D については,D1 と D2 が補語からのwh- 移動の場合を,D3-D4 が付加詞からのwh- 移

動の場合を示している。前者の場合には 72.2%-77.8% と比較的高い習得率を示しているのに対し,

後者の場合には重なり部分がないため,この項目に関しては習得できていないことを示してい

る。この結果からは Lee(2008)の結果と同様に「項 - 付加詞間の非対称性」が観察された。

 項目 E については,E1-E3 を見る限り,主語位置からのwh- 移動が一番難しいということが

示唆されるが,補語と付加詞からの移動についてはやや補語からのwh- 移動の方が,付加詞か

らの移動よりも容易であることが伺える。つまり,補語からのwh- 移動>付加詞からのwh- 移

動>主語からのwh- 移動習得率が高いと言える。

 最後に項目 F についてである。F1-F2 が示すように,両者の間に「重なり部分」がない。さらに,

F2 が示すように,誤りを誤りだと判断できる度合いがかなり低いため,習得困難な項目である

ことが示唆される。また,how many+ 名詞と how much+ 名詞の場合には数量詞と名詞の間に

何らかの切れ目があると考えていることを示す結果であった。これは宮本(2012)が主張する

ように,数量詞(how many/how much)を述語と捉えている可能性がある。一方,how old や

how often, how far などについては 58.3%-83.3% という比較的高い習得率であることから,それ

ぞれ 2 単語の間には切れ目はなく,1つのまとまりであると考えていることが伺える。これら

の結果をまとめると次のようになる。

【習得が容易である項目】

 ・項目 A:wh- 疑問文においてwh 語を文頭(節頭)に置かねばならない(18)

 ・項目 B-1,B-2:wh- 疑問文において,主語と述語動詞(be 動詞)の数を一致させねばならない。

 ・項目 D-1,D-2:wh- 疑問文において,主語と助動詞(be 動詞)を倒置させねばならない(補

  語からのwh- 移動の場合)。

【習得が難しい項目】

 ・項目 B-4,B-5:wh- 疑問文において,主語と述語動詞(自動詞)の数を一致させねばならない。

 ・項目 C:wh- 疑問文において,補語からのwh- 移動の際に,助動詞を脱落してはならならない。

 ・項目 D-3,D-4:wh- 疑問文において,主語と助動詞を倒置させねばならない(付加詞からの

  wh- 移動の場合)。

 ・項目 F:wh- 疑問文において,wh 句の一部分ではなく,wh 句全体を移動させねばならない

  (数量詞(how many / how much)+ 名詞の場合)

― 34 ― 外 国 語 教 育

【同一項目内での習得難易度】

 ・項目 E:補語からのwh- 移動→付加詞からのwh- 移動→主語からのwh- 移動の順で習得が

  難しい

 本稿では項目 A から項目 F の習得難易度を特定化しようと試みたが,先行研究で既に言及さ

れていること(あるいは,その一部)しか判明しなかった。それには少なくとも4つの問題点

が考えられる。第一に,調査のスタート地点の問題である。本稿は予備調査であり,探究的位

置づけを採ったため,先行研究で報告されている点の検証をスタート地点にした。しかし,実

証的研究では理論的裏付けがなければ仮説が支持されたとしても,それは偶然そうなったとし

か言えず,一般化はできない。したがって,ある言語理論(たとえば生成文法理論)において,

wh- 疑問文がどのように生成されるのか,その生成過程に関与する操作(たとえば,wh- 移動や

「主語と述語動詞の一致」など)の難易度やそれぞれの操作の関連性についても検討し,それら

に基づいて仮説を形成することから始める必要性があった。

 第二に,分析上の問題である。本稿では調査協力者を英語の習熟度別に分けなかった(19)

。仮に,

ある一定数の調査協力者を英語の習熟度別に調査を行っていれば,習得率による分布はもっと

明確になった可能性がある。さらに,今回の協力者の個別のデータを詳細に観察すれば,習得

率による分布は明確にならずとも,本稿での結果とは異なる傾向が見えた可能性がある(20)

 第三に,実験方法の問題である。実験方法はスケール式による文法性判断テストのみを採用

した。それは一つにはさまざまな項目を一度に調査しようとしたためであり,そのためには実

験文が多くなった。少しでも調査協力者の負担を少なくしようとしたため,誤り訂正の方法を

採用せずに下線を引いていただく方法を採ったが,逆に,誤りの箇所に下線が引かれていなかっ

たり,一文すべてに下線が引かれてあるなど,具体的にどの部分を誤っていると判断している

のかが判別できず,分析の手がかりが掴めなかった。実験文も 150 文と多すぎたため,真剣に

は取り組んでいたと判断したが,かなり負担をかけたため,質のよいデータが収集できたかど

うかについては疑問が残る。

 第四に,例文に採用する動詞などに問題があった点である。たとえば,項目 B「wh- 疑問文に

おいて,主語と述語動詞の数を一致させねばならない」では,述語動詞が be 動詞である場合と

一般動詞の違いがあるというなら,妥当性のある結果と言えるかもしれない。しかし実際には,

一般動詞の中で他動詞か自動詞かの違いによって正答率の違いが生じた。その理由として be 動

詞は is/are,他動詞の場合は has というように,動詞の形が変化してしまうものであったのに

対し,自動詞の場合には -s を付けるだけで動詞の形式が大きく変化するものではなかったこと

が考えられる。事実,他動詞の中でも contains と -s をつけるべきところでは -s に注意を払って

いないと思われる点が観察された。つまり,詳細な点を観察するためには,例文の動詞一つに

関しても細心の注意を払わねばならないということである。以上の少なくとも 4 点が本稿の不

十分な点であり,今後改善すべき点である。

 最後に,本稿ではなぜこのような結果が生じたのか予測できない点を指摘しておく。項目 C

に関して,統語的に同じ付加詞からの移動でありながら,助動詞の脱落に関して他動詞の場合

― 35 ―日本人英語学習者にとってwh- 疑問文の何が難しいか

と自動詞の場合で習得率に差異が見られたことである。それはなぜなのかが疑問点として残る。

上記の問題点の改善と共に今後の課題としたい。

5.おわりに

 本稿ではwh- 疑問文の習得過程において,具体的に「どのような点が」難しい(あるいは易

しい)のかについて,先行研究で指摘された点を中心に調査した。結果としては既に先行研究

で示唆されている記述と大きく変わるような結果は得られなかったが,同一の調査協力者を対

象に,実際に実験を行い,検証を試みた点で先行研究とは大きく異なる。いくつか不備な点があっ

たため,結果としては不十分なものではあったが,習得難易度を特定化する方法を検討し,そ

の方法によって実験データを整理することにより,今回の調査方法の改善点も見出すことがで

きた。今後は本稿での反省を土台に,日本人英語学習者のwh- 疑問文の習得過程における発達

指標への構築に向けてさらなる調査を実施する予定である。

謝   辞

 投稿に際して貴重なご指摘をくださった静岡県立大学の須田孝司先生,匿名の査読委員の方々に心より感謝申し上げたい。なお,本稿に不備があればその責任はすべて筆者にある。

注(1)紙面の都合上,白畑 (2015, 183-201) に挙げてある文法項目に関しては列挙していない。(2)(2)は白畑(2015)の分類に基づいて筆者がwh- 疑問文に関連のある項目を抜き出してまとめたものである。(3)日本語と英語のwh- 疑問文にはいくつかの統語的な違いがある。第1に,日本語の場合にはwh 語(こ

こでは「何を」)は文中(=(1a)),文頭(=(1b))に生じてもよいのに対し,英語の場合には(2)が示すようにwh 語(ここでは「What」)は文頭にしか生じることができない。

   (1)a.あなたはデパートで何を買ったの?     b.何をあなたはデパートで買ったの?   (2)a.What did you buy at the department store?     b.*Did you buy what at the department store?     第2に,日本語の場合には(3a)のように「いくつのリンゴ」が一つの構成素をなしていてもよいし,   (3b)のように数量詞(=いくつ)が名詞(=リンゴを)と別個の構成素をなしていても構わない。     一方,英語の場合には(4b)が示すように how many と apples を離すと非文になる。   (3)a.あなたはいくつのリンゴを買ったの?     b.あなたはリンゴをいくつ買ったの?   (4)a.How many apples did you buy?     b.*How many did you buy apples?     第3に,日本語の場合には主語名詞句の人称と数に合わせて動詞の形態を変える必要はないが,   英語の場合には主語名詞句に合わせて,動詞の形態を変えなければならない。   (5)a.冷蔵庫の中にはどんな食べ物があるの?      b.冷蔵庫の中にはどんな(種類の)果物があるの?   (6)a.What food is in the refrigerator?     b.What fruits are in the refrigerator?     第4に,日本語の場合には(たとえば,目的語の位置にある要素を尋ねたい場合)助動詞を必要と   せずにwh- 疑問文が作られるのに対し(=(7)),英語の場合には主語名詞句の人称と数,時制に合わせた   助動詞の挿入が必要となる(=(8a))。つまり,助動詞を脱落させた文は(8b)のように非文となる。

― 36 ― 外 国 語 教 育

さらに,助動詞の選択を誤ると(8c)のように非文になる。   (7)  彼は手に何を持っているの?   (8)a.What does (*do) he have in his hand?     b.*What φ he have in his hand?     c.*What is he have in his hand?

(4)項(argument)は動詞などの述語の主語や補語,目的語になる要素を表し,付加詞(adjunct)は述語の主語でも補語でもない要素を表す。IP(Inflectional Phrase)は屈折要素を主要部(head)にした句,一般的には節(clause)のことである。

(5)樹形図は Lee (2008, 629-630)を引用した。(6)詳細は Yamada & Miyamoto (2010)を参照。(7)今回の調査では(18d)の「wh - 疑問文における助動詞の選択」に関しては対象外とした。なぜなら,

今回のスケール式の文法性判断テストによって調査するには適さない項目であると判断したためである。この点を調査するためには,作文などの方法を採用するか,あるいは,文法性判断テストを採用するにしても,問題数をもっと少なくして,誤りを訂正するような形式で調査すべき項目であると考える。

(8)調査協力者 36 名のうち,19 名は TOEIC ではなく,ACE Placement Test(英語運用能力評価協会(ELPA)のテスト)を受けており,ACE Placement Test のスコアを同社が作成している「英語プレイスメントテストと他のテストとの成績比較表」に基づいて TOEIC スコアに換算した。協力者全員が同時期に同じ試験を受けていなかったことと,協力者のうち 4 名が TOEIC スコアで 600 点を超えている(600点~ 630 点)と報告していたが,それ以外は英語の習熟度に大きな差異が見られなかったため,習熟度別に分けずに分析を行った。

(9)いずれの回答もない問題に関しては,回答のあった人数でパーセンテージを出している。(10)本文中の N は名詞(単数名詞)を,Ns は複数名詞を表す。ただし,表中,もしくはその区別が特に必要

とされない箇所では,区別をせずに N とのみ記す。(11)( )内の数字は正答率を示している。(12)what+N については,誤文の例文を入れていなかったため,比較の対象から外されている。(13)what については,*What this is? という文が考えられるが,その例文を入れていなかったため,what

については比較の対象から外されている。(14)この点については第 4 節で比較し,習得難易度の特定化を試みる。(15)How does your father take you often to the park? の正答率が低いのは,often を how often から分離

したものとしてではなく,頻度を表す副詞として解釈した可能性がある。(16)be 動詞も加えるべきところであるが,本実験では加えていなかったため,今後の課題としたい。(17)今回の調査ではこの項目に関してはこの項目内の習得難易度のみを特定化するため,他の部分との記

述方法が異なっている。(18)A2 の正答率が A1 ほど高くないのは,例文に問題がある可能性がある。たとえば,Your sister is how

old?は “My sister is 85 years old. Huh? Your sister is how old?”というコンテクストが与えられれば(つまり,clarification questions としては),正しい文になる。本調査ではこの文を非文として分析したが,この文を正しいと判断した人もいた。

(19)調査協力者については註 8 を参照。(20)この点に関しては,次に続く論文において個別データを詳細に分析する予定である。

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