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95 石油技術協会誌 第 85 巻 第 2 (令和 2 3 月)95 100 Journal of the Japanese Association for Petroleum Technology Vol. 85, No. 2March, 2020pp. 95100 講   演 Lecture Copyright © 2020JAPT 1. 三大産油国による史上最高の原油生産 21 世紀に入ってからの最大の資源エネルギーを取り巻 く革命といえる,米国のシェール・ガスとシェール・オイ ルの開発により,米国は 2018 年に 1973 年以来 45 年ぶりに, 世界最大の原油生産国となり,米国とサウジアラビア,ロ シアの三大原油生産国は,原油生産の覇権の争奪戦を展開 している(図 1)。 米国の原油生産量は,1970 年代にピークをつけた後, 減退を続け,21 世紀に入ってからも,原油生産量の減少 に歯止めがかからなかった。しかし,2010 年以降に,原 油価格が 1 バレル(bbl100 ドル超に高騰し,シェール・ オイルの生産の活発化とともに,原油生産量 1は,増加 に転じた(図 2)。 米国は,世界最初の商業油田の開発国として,世界の石 油産業に君臨したものの,米国本土 48 州の在来型石油の 開発は成熟化し,原油生産は減退の一途をたどるという, オイル・ピーク論がけん伝されていた。確かに,米国本土 の陸上油田と沖合い油田の原油生産量は,21 世紀に入っ て,原油価格が上昇基調にあっても,減少を続けた。2008 年頃の米国の原油生産量は,原油(Crude Oil)に加えて, コンデンセート(粗製ガソリン), LP ガス(液化石油ガス) 最近の石油・天然ガス-資源経済のトレンドについて 岩 間 剛 一 **,† Received February 12, 2020accepted March 5, 2020The Recent Trend of Natural Resources Economics Regarding Oil and Gas Development Kouichi Iwama AbstractThe United States of America has become the world biggest oil producer again in 2018. The reason is the shale gas and shale oil revolution. USA, Saudi Arabia and Russia are producing oil over 10 million barrels per day. Now, the world oil producing countries are watching not oil peak in supply side but oil peak in demand side. The 21st century is both environment protection century and natural gas century. The world oil demand will become over 100 million barrels per day in 2040. The oil and natural gas development industry is required to explore oil and natural gas, considering the protection of environment. KeywordsShale Oil, Shale Gas, Oil Peak in Demand Side, Crude Oil Prices, OPEC Plus, ESG Investment, Non Fossil Fuel 令和元年 10 17 日,令和元年度石油技術協会秋季講演会「変貌 する石油・天然ガス開発 -最近の資源経済のトレンド」で講演 This paper was presented at the 2019 JAPT Autumn Meeting entitled Transformation of oil and natural gas development: recent trends in resource economicsheld in Tokyo, Japan, on October 17, 2019. ** 和光大学経済経営学部 The Faculty of Economics and Business Management, Wako University Corresponding authorE-Mail[email protected]4u.or.jp 1厳密に定義すると, BP 統計とEIA 統計, International Energy Agency (IEA) 統計における Oil の定義は異なる。BP 統計は,原油(Crude Oil)に NGL(天然ガス液)を含んでおり,数値が大きくなる。 1 三大産油国の原油生産量(単位:百万 bbl/d右パネルは 2018 年の原油生産量推移(左パネルのグ ラフ中の四角で囲った部分の拡大図)[U.S. Energy In- formation AdministrationEIA),https://www.eia.gov/ todayinenergy/detail.php?id=37053cited 2018/09/12.

最近の石油・天然ガス-資源経済のトレンドについて2018/09/12  · 96 最近の石油・天然ガス-資源経済のトレンドについて 石油技術協会誌

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    石油技術協会誌 第 85巻 第 2号 (令和 2年 3月)95~ 100頁Journal of the Japanese Association for Petroleum Technology

    Vol. 85, No. 2(March, 2020)pp. 95~100

    講   演Lecture

    Copyright © 2020, JAPT

    1. 三大産油国による史上最高の原油生産

    21世紀に入ってからの最大の資源エネルギーを取り巻く革命といえる,米国のシェール・ガスとシェール・オイ

    ルの開発により,米国は 2018年に 1973年以来 45年ぶりに,世界最大の原油生産国となり,米国とサウジアラビア,ロ

    シアの三大原油生産国は,原油生産の覇権の争奪戦を展開

    している(図 1)。米国の原油生産量は,1970年代にピークをつけた後,減退を続け,21世紀に入ってからも,原油生産量の減少に歯止めがかからなかった。しかし,2010年以降に,原油価格が 1バレル(bbl)100ドル超に高騰し,シェール・オイルの生産の活発化とともに,原油生産量 1)は,増加

    に転じた(図 2)。米国は,世界最初の商業油田の開発国として,世界の石

    油産業に君臨したものの,米国本土 48州の在来型石油の

    開発は成熟化し,原油生産は減退の一途をたどるという,

    オイル・ピーク論がけん伝されていた。確かに,米国本土

    の陸上油田と沖合い油田の原油生産量は,21世紀に入って,原油価格が上昇基調にあっても,減少を続けた。2008年頃の米国の原油生産量は,原油(Crude Oil)に加えて,コンデンセート(粗製ガソリン),LPガス(液化石油ガス)

    最近の石油・天然ガス-資源経済のトレンドについて*

    岩 間 剛 一**,†

    (Received February 12, 2020;accepted March 5, 2020)

    The Recent Trend of Natural Resources Economics Regarding Oil and Gas Development

    Kouichi Iwama

    Abstract: The United States of America has become the world biggest oil producer again in 2018. The reason is the shale gas and shale oil revolution. USA, Saudi Arabia and Russia are producing oil over 10 million barrels per day. Now, the world oil producing countries are watching not oil peak in supply side but oil peak in demand side. The 21st century is both environment protection century and natural gas century. The world oil demand will become over 100 million barrels per day in 2040. The oil and natural gas development industry is required to explore oil and natural gas, considering the protection of environment.

    Keywords: Shale Oil, Shale Gas, Oil Peak in Demand Side, Crude Oil Prices, OPEC Plus, ESG Investment, Non Fossil Fuel

    * 令和元年 10月 17日,令和元年度石油技術協会秋季講演会「変貌する石油・天然ガス開発 -最近の資源経済のトレンド」で講演 This paper was presented at the 2019 JAPT Autumn Meeting entitled “Transformation of oil and natural gas development: recent trends in resource economics” held in Tokyo, Japan, on October 17, 2019.

    ** 和 光 大 学 経 済 経 営 学 部 The Faculty of Economics and Business Management, Wako University

    † Corresponding author:E-Mail: [email protected]

    1) 厳密に定義すると,BP統計とEIA統計,International Energy Agency (IEA)統計における Oilの定義は異なる。BP統計は,原油(Crude Oil)にNGL(天然ガス液)を含んでおり,数値が大きくなる。

    図 1 三大産油国の原油生産量(単位:百万 bbl/d)右パネルは 2018年の原油生産量推移(左パネルのグラフ中の四角で囲った部分の拡大図)[U.S. Energy In-formation Administration(EIA),https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=37053](cited 2018/09/12).

  • 最近の石油・天然ガス-資源経済のトレンドについて96

    石油技術協会誌 85巻 2号(2020)

    を加えても,670万 bbl/d程度にまで減少し,原油だけでは,500万 bbl/d程度にとどまっている(BP,2019)。

    2. シェール・オイルの登場によるオイル・ピーク論の払拭

    もともと,オイル・ピーク論について冷静に考察すると,

    個々の油田について,原油埋蔵量の半分を生産した時点に

    おいて,原油生産量はピークに達し,原油生産量は,釣鐘

    型曲線(Bell Curve)を描く(本村,2005)(図 3)。オイル・ピーク論は,米国シェルの石油技術者キング・

    ハバート氏が,1956年において提唱した理論であり,米国本土 48州の原油生産は,1970年頃にピークとなり,減少に向かうという予測であった(Hubbert, 1956)。論文発表当時は,米国は世界最大の原油生産国として,原油生産

    が増加していたことから,ほとんど注目されなかったもの

    の,実際に 1971年をピークに,米国本土 48州の原油生産が減少したことから,2008年の原油価格高騰期には,オイル・ピーク論は,世界中のエネルギー専門家に大いに注

    目されるところとなった。しかし,オイル・ピーク論につ

    いては,その後のシェール・オイルの生産量増加により,

    2つの点において,理論的な課題を抱えていると筆者は,考えている。第 1にオイル・ピーク論は,個々の油田の貯留層における原油埋蔵量と原油生産履歴の関係について

    は,理論的な説明ができるものの,対象地域を拡大し,多

    数の油田の総合的な原油生産履歴を正確に解明していると

    はいえない。第 2にすでに発見され,開発されている油田の生産曲線の説明はできるものの,それに加えて,発見さ

    れているものの未開発の油田,将来的に新たに発見される

    油田については,的確な説明とはなっていない。つまり,

    米国本土 48州の在来型油田は,ほぼ開発されており,その集合に限定するならば,オイル・ピーク論は当てはまる

    ものの,米国本土 48州においても,シェール・オイル,深海部油田などの新たな発見が行われ,開発可能な油田に

    よる原油生産量の増加を正確に説明することはできない。

    要するに,ハバートのオイル・ピーク論は,「地球は有限

    であるから,いつかは資源は枯渇する」という当たり前の

    ことをいっているのに過ぎないとも考えられる。21世紀

    に入り,中国,インドをはじめとした新興経済発展諸国の

    高度経済成長により,原油価格は高騰した(図 4)。原油価格が 1バレル 10ドル~ 20ドル程度の 1990年代

    には考えられなかった,原油価格 1バレル 100ドルが,現実のものとなった。原油価格が,1バレル 100ドルを超えると,従来の技術では経済性がないと考えられていた非在

    来型油田の開発への取り組みが行われるようになる。その

    代表が,米国のシェール・ガス,シェール・オイル,ブラ

    ジルのプレソルト油田である。米国ノース・ダコタ州のバッ

    ケン油田においては,硬い岩盤(頁岩:けつがん)に石油

    成分が含まれているという,シェール・オイルの存在は,

    60年以上前から知られていた。しかし,在来型油田の開発技術を用いた場合には,生産コストが,1バレル 100ドル以上とされ,経済合理性がないと考えられてきた。しか

    し,原油価格が 1バレル 100ドル超の時代となり,オイル・ピーク論が台頭してくると,米国の企業家精神(Frontier Spirit)は,シェール・オイルの開発に取り組むようになる。米国の中堅・中小石油企業といえるチェサピーク,ミッ

    チェル・エナジーなどは,水圧破砕(Fracturing),水平掘削(Horizontal Well)などの技術を用い,経済的にシェール・オイルを採取することに成功した。米国の有望なシェー

    ル・オイル鉱区の生産性は,2020年 1月時点においても,向上している(図 5)。

    図 2 米国の原油生産量(単位:千 bbl/d)(BP, 2019)図 3 油田の生産曲線

    図 4 主要原油価格(単位:ドル /bbl)[New York Mercantile Exchange(NYMEX)などからのデータを基に作成]

  • 岩 間 剛 一 97

    J. Japanese Assoc. Petrol. Technol. Vol. 85, No. 2(2020)

    これまでも,石油・天然ガス産業は,何度となく繰り返

    された資源枯渇論を克服してきた。1970年代の 2度にわたる石油危機時には,中東からの原油供給途絶の危機に直

    面し,原油価格が 1バレル 3ドルから 1バレル 36ドルと,12倍も高騰し,北海油田,アラスカ油田の開発に取り組んだ。21世紀に入ってからの,中東の地政学リスク,中国をはじめとした新興経済発展諸国による石油消費量の増

    加,原油価格の高騰に際して,米国のシェール・オイルの

    開発技術が進歩した。このように,ある財の価格が上昇し,

    財の供給不足に直面した場合には,技術的なブレーク・ス

    ルーが行われ,財の供給が増加するという,一種の市場メ

    カニズムが,21世紀の国際原油市場においても働いたと考えることができる。

    3. 石油・天然ガス開発のトレンド

    2020年時点においては,原油価格 1バレル 100ドルを前提として開発された油田の生産が好調となっている。 米国の原油生産量は,歴史的にも過去最高となっている (図 6)。シェール・ガス,シェール・オイルの開発当初は,チェ

    サピーク,アナダルコなどの中堅・中小石油企業が中心と

    なっていたものの,米国のシェール・ガス生産,シェール・

    オイル生産が本格化すると,エクソンモービル,シェブ ロンなどのメジャー(国際石油資本)も,パーミアン鉱区

    などの権益を取得し,シェール・オイル開発を強化してい

    る。また,BP,ロイヤル・ダッチ・シェルなどは,米国メキシコ湾深海部油田の開発に注力している。米国の原油

    生産量は,2019年 12月時点において,1,300万 bbl/dに達しており,サウジアラビア,ロシアを含めて,3か国が 1,000万 bbl/dを超える原油生産を行い,ノルウェー,ブラジルなどの沖合い油田の開発も進展している。ただし,米国の

    原油生産量の増加と米国の原油輸出の増加は,OPECの国際石油市場におけるシェアを低下させ,世界の原油生産に

    占める OPECのシェアは,1970年代の 50%超から,2018年には 30%台にまで低下している(図 7)。

    国際原油市場における OPECの地位の相対的な低下は,OPECの盟主サウジアラビアだけが,スイング・プロデューサー(生産調整役)を積極的に果たしても,原油

    価格を安定化させることができないことを意味する。そ

    のため,2019年 7月には,サウジアラビアをはじめとした OPEC加盟国とロシアをはじめとした非 OPEC加盟国が,協調して原油生産量の削減を行う枠組みを恒久化し

    た 2)。OPEC加盟国と非 OPEC加盟国による OPECプラスによる原油生産量は,IEA(国際エネルギー機関)による統計においては,2019年 11月時点で OPEC加盟国の原油生産量が 2,966万 bbl/d,非 OPEC加盟国の原油生産量が1,857万 bbl/d 3)と,合計 4,823万 bbl/dとなり,世界の原油生産量の 50%に達する。サウジアラビアをはじめとした OPEC加盟国は,原油価格下支えのために,150%に達する減産遵守率を維持している(表 1)。

    OPECプラスは,原油生産量シェアで 50%を超えており,

    図 5 米国のシェール・オイル鉱区の生産性(単位: bbl/d)(EIA, ht tps://www.eia .gov/petroleum/dri l l ing/

    archive/2020/01/)(cited 2020/01/21)

    図 6 米国の原油生産量(単位:百万 bbl/d)(E I A,h t t p s : / / w w w. e i a . g o v / t o d a y i n e n e r g y / d e t a i l .

    php?id=38992)(cited 2019/04/09)

    図 7 地域別原油生産量(単位:千 bbl/d)(BP, 2019)

    2) 2019年 7月 2日 OPECと非 OPECの閣僚会合 3) 非 OPEC加盟国の原油生産量には,NGL(天然ガス液)が含まれるため,

    厳密には原油生産量が実際よりも上方にふれる

  • 最近の石油・天然ガス-資源経済のトレンドについて98

    石油技術協会誌 85巻 2号(2020)

    サウジアラビアとロシアという二大原油生産国の協調の

    もと,原油価格を維持する姿勢を強化している。2019年12月 5日の OPEC総会と 12月 6日の OPECプラスを加え た会合において,協調減産幅を 120万 bbl/dから 50万bbl/d拡大して,2020年 1月 1日から 170万 bbl/dの協調減産を実施している。サウジアラビアは,サウジアラビ アの国営石油企業サウジアラムコの IPO(新規株式公開)における株価引き上げを目指して,OPEC全体で 210万bbl/dの協調減産に前向きで取り組むことを表明している。OPECプラスによる協調減産幅の強化は,2020年に入ってからの原油価格下支え要因となっている。OPECプラスによる協調減産は,原油価格を引き上げ,米国に加えて,

    ノルウェー,ブラジル,ガイアナなどの新規油田の開発 を促している。ブラジルの原油生産量は,増加基調にある

    (図 8)。ブラジルにおいては,大西洋沖合いのサントス堆積盆地,

    カンポス堆積盆地などの有望なプレソルト(海底下の岩

    塩層の下にある炭酸塩の貯留層の石油・天然ガス)油田が

    発見されており,2019年 1月に就任したボルソナロ大統

    領も鉱区開放に積極的な姿勢を見せている。沖合い油田の 開発に FPSO(浮体式生産・貯蔵・積み出し設備)を投入しており,ブラジルの原油生産量は,2017年の 270万bbl/dから,2024年には 387万 bbl/d,ブラジル政府の目標としては 10年間のうちに 550万 bbl/dに引き上げることとしている。ブラジルは,有力産油国として世界の原油

    生産量の 3%を占めるようになっており,2020年 1月には,OPECとの協調に参加する動きを見せている 4)。ブラジルのアルブケルケ鉱業・エネルギー大臣は,サウジアラビア

    との協議に前向きの発言を行っている。

    同じ中南米のガイアナも,21世紀に入り,150億バレルという,世界的にも有望なガイアナ堆積盆地が発見されて

    おり,2015年から,エクソンモービルが探鉱・開発を始めている。リザ油田などの 10か所以上の油田開発が行われており,FPSOを用いた開発を強化している。ガイアナ政府は,2025年の原油生産量を 75万 bbl/d以上とする計画を持っている(図 9)。サウジアラビアも,サウジアラムコの国内証券市場に

    おける IPO(新規株式公開)を行い,経済構造改革の原資 を得ている。サウジアラビアは,将来的にも,1,200万bbl/dの原油生産能力を維持していくために,マルジャン油田,ズルーフ油田などの沖合い油田の生産能力を拡大し

    ている。サウジアラビアの原油生産コストは,1バレル 2.8ドル~ 4.1ドルと,米国のシェール・オイルと比較して,強いコスト競争力がある。このコスト競争力と,油田開発

    における炭酸ガス排出量が少ないという強みをいかし,今

    後の油田開発を行っていく。UAE(アラブ首長国連邦)も,海外の石油企業との連携を強化し,沖合い油田の開発を強

    表 1 OPEC加盟国の原油生産実績(単位:百万 bbl/d)(IEA, 2019a)

    加盟国従来の目標 生産量

    2019年 10月生産量

    2019年 11月生産量

    原油生産能力 余剰生産能力

    アルジェリア 1.20 1.02 1.03 1.05 0.02アンゴラ 1.52 1.37 1.28 1.45 0.17コンゴ 0.35 0.35 0.35 0.00エクアドル 0.43 0.47 0.52 0.55 0.03赤道ギニア 0.12 0.12 0.12 0.00ガボン   0.21 0.19 0.22 0.03イラン 3.34 2.15 2.13 3.80 1.67イラク 4.69 4.65 4.90 0.25クウェート 2.22 2.63 2.69 2.86 0.17リビア 1.47 1.16 1.16 1.17 0.01

    ナイジェリア 1.67 1.80 1.77 1.80 0.03サウジアラビア 8.05 10.20 9.90 12.00 2.10

    UAE 2.32 3.09 3.09 3.40 0.31ベネズエラ 2.15 0.70 0.78 0.78 0.00OPEC合計 30.00 29.96 29.66 34.45 3.12

    4) 日本経済新聞 2020年 1月 29日朝刊図 8 ブラジルの原油生産量(単位:千 bbl/d)(BP, 2019)

  • 岩 間 剛 一 99

    J. Japanese Assoc. Petrol. Technol. Vol. 85, No. 2(2020)

    化している。UAEは,アブダビを中心に,油田開発を行い,2020年に 400万 bbl/d,2030年に 500万 bbl/dに引き上げることを目標として掲げている。UAEは,2019年に陸上油田 2か所,沖合い油田 3か所の鉱区入札を実施し,原油生産能力の増強を行っている。UAEの原油生産量は,増加基調にある(図 10)。もっとも,2019年には,米中貿易戦争による世界経済の減速懸念から,2018年と比較し,原油価格が下落したことにより,米国のシェール・オイルに関しては,米国の

    中堅・中小石油企業の資金繰りが悪化し,30社程度の企業が連邦破産法第 11条 5)の申請を行っている。さらに,メジャーの 1つであるシェブロンは,アパラチア鉱区のシェール・オイル資産を含めて,100億ドル超の減損を2019年に計上している。米国テキサス州などの金融機関は,原油価格の下落による石油収入の減少に備えて,石油

    企業に対する融資審査を厳格化している。こうした,シェー

    ル・オイル開発に対する逆風にもかかわらず,米国の多数

    の中堅・中小石油企業は,順調にシェール・ガス開発,シェー

    ル・オイル開発を続けており,2020年 1月時点のシェール・ガス生産量は,過去最高に達しており,米国北東部が暖冬

    に見舞われていることから,ルイジアナ州ヘンリー・ハブ

    渡しの天然ガス価格は,百万 Btu当り 2ドルを割り込んでいる。米国の 2020年のシェール・ガス生産量,シェール・オイル生産量は,さらに増加することが見込まれている。

    4. 石油開発を取り巻く大きなトレンド

    世界の石油需要を,長期的に考えると,先進国の石油消

    費量は,横ばいもしくは減少し,途上国の石油消費量は 増加することから,IEAなどの見通しにおいても,1億bbl/dを超える(図 11)。世界の石油消費量は,21世紀初頭には,8,000万 bbl/d

    程度であったものが,2030年~ 2040年に向けて,1億bbl/dに増加する。1億 bbl/dの石油需要を満たすためには,持続的な新規油田の開発が必要となる。IEAは,米国のシェール・オイルの生産量が,2020年代にはピークとなる可能性があると予測しており,2040年までに,新規の石油・天然ガス開発に 10兆ドル(約 1,100兆円)に達する投資が必要とされ,現時点における原油価格では,必

    要な投資が行われず,原油価格が,将来的には高騰する可

    能性があるとしている。世界の石油・天然ガス開発投資は,

    米国のシェール・オイルとサウジアラビアの陸上油田の消

    耗戦による原油価格下落により,低迷している。2014年の世界の投資額 8,000億ドルから,2016年には 4,000億ドルに減少し,2019年も 5,000億ドル程度にとどまっている。今後も,石油・天然ガス開発を取り巻く大きなトレンドに

    は,さまざまな動きが見込まれる。第 1に脱化石燃料,脱石油への動きが挙げられる。ESG(環境・社会・企業統治)投資の広がりにより,炭酸ガスを排出する企業への投資を

    引き揚げる(ダイベストメント)の動きがある。当初は,

    炭酸ガス排出量が多い石炭生産企業,石炭火力発電企業が

    対象であったものの,2020年時点においては,同じく炭酸ガスを排出する石油企業もダイベストメント(投資撤退)

    の対象となりつつある。2019年の世界における炭酸ガス排出量は,過去最高となっている(IEA, 2019b)。世界の炭酸ガス排出などは増加基調にある(図 12)。欧米諸国の機関投資家のなかには,新規油田開発への投

    資に慎重な動きもでてきている。そのため,エクソンモー

    ビルなどの石油企業も,業績と比較して,株価の上値が抑

    えられている。今後の石油・天然ガス開発企業は,いかに

    環境に配慮した油田開発を行っているかを,投資家に丁寧

    に説明し,新規油田開発のための資金調達を円滑に行う必

    5) 日本の民事再生法に相当する

    図 9 ガイアナの原油生産計画(単位:千 bbl/d)(ガイアナ政府計画)

    図 10 UAEの原油生産量(単位:千 bbl/d)(BP, 2019)

    図 11 世界の石油需要見通し(単位:百万 bbl/d) (IEA, 2019b)

  • 最近の石油・天然ガス-資源経済のトレンドについて100

    石油技術協会誌 85巻 2号(2020)

    要がある。第 2に石油から天然ガスへの切り替えが挙げられる。天然ガスは,単位熱量当りの炭酸ガス排出量が,石

    炭の半分程度と,地球環境に優しいエネルギーといえる。

    硫黄酸化物の排出もない。21世紀は,環境の世紀であるとともに,天然ガスの世紀であると見ることもできる。中

    国をはじめとした新興経済発展諸国も,地球温暖化対策,

    大気汚染防止策として,石炭火力発電から天然ガス火力発

    電への切り替えを行っている。こうした,環境に優しい天

    然ガスの消費量は,2040年に向けて大きく増加することが見込まれている(図 13)。今後は,油田開発に加えて,天然ガス田開発の強化が求められる。

    地球温暖化対策は,人類にとって,解決すべき喫緊の課

    題であり,地球環境保護に異論はない。太陽光発電,風力

    発電をはじめとした再生可能エネルギーの発電コストが低

    下し,ロイヤル・ダッチ・シェルなども,洋上風力発電事

    業の拡大をはかっているものの,持続的な世界経済の発展,

    低コストで快適な生活の維持には,今後の 20年間も,石油と天然ガスは必要不可欠なエネルギーであることは間違

    いない。地球環境保護と両立しながら,低炭素社会に適合

    した,環境に優しい新規の油田開発,天然ガス開発が求め

    られているのである。

    SI単位換算係数

      bbl × 1.589874* E- 01 = m3

      Btu × 1.055056* E+ 03 = J*は正確な値

    参 考 文 献

    本村真澄,2005:ピークオイル説を検証する,季報エネルギー総合工学,28(2),75–82.

    BP, 2019:Statistical Review of World Energy 2019.Hubbert,M.K., 1956:Nuclear energy and the fossil fuels.

    Shell Development Company, Publication No. 95, 1–40.International Energy Agency, 2019a:Oil Market Report

    December 2019, International Energy Agency.International Energy Agency, 2019b:World Energy Outlook

    2019, International Energy Agency.

    図 12 世界の炭酸ガス排出量(単位:億トン)(BP, 2019)

    図 13 世界の天然ガス消費量見通し(単位:10億立方メートル)(IEA, 2019b)