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平成27年度調査報告 地球温暖化対策技術普及等推進事業 メキシコ南部におけるCCS-EOR事業実現可能性調査 2016年3月 株式会社 日本総合研究所 三菱重工業 株式会社 国際石油開発帝石 株式会社

地球温暖化対策技術普及等推進事業 メキシコ南部に …平成27年度調査報告 地球温暖化対策技術普及等推進事業 メキシコ南部におけるCCS-EOR事業実現可能性調査

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平成27年度調査報告

地球温暖化対策技術普及等推進事業

メキシコ南部におけるCCS-EOR事業実現可能性調査

報 告 書

2016年3月

株式会社 日本総合研究所

三菱重工業 株式会社

国際石油開発帝石 株式会社

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「地球温暖化対策技術普及等推進事業」報告書

- 目 次 -

1. 本調査の背景・目的 ..................................................... 1

1.1. 本調査の背景........................................................... 1

1.1.1. エネルギー改革の進捗状況 ............................................... 1

1.1.2. メキシコの気候変動に関する状況・政策 ................................... 7

1.1.3. メキシコ政府の CCS関連政策 ............................................ 14

1.2. 本調査の目的.......................................................... 18

2. 二国間クレジット制度と連携した CCS 事業の促進に向けた政策 .............. 21

2.1. メキシコ国内の排出権取引制度との連携 .................................. 21

2.2. CCUSセンター運営への協力 ............................................. 22

3. CCS普及促進に向けた事業計画 .......................................... 23

3.1. CCS-EOR事業内容の検討 ................................................ 23

3.1.1. CCS-EOR事業の事業構造・ステークホルダー分析 .......................... 23

3.1.2. 商業段階での CCS-EOR事業内容の検討 .................................... 26

3.1.3. CO2回収装置の検討 ..................................................... 29

3.1.4. CCS事業を想定したファイナンスの検討 .................................. 35

3.1.5. 実証段階での CCS-EOR事業内容の検討 .................................... 38

4. 本プロジェクトに適用可能な排出削減方法論の検討、同方法論を用いた排出削減

見込量の試算 ......................................................... 41

4.1. MRV方法論の分析 ...................................................... 41

4.1.1. 米国 The American Carbon Registryにおける CCS-EOR方法論の分析 ......... 41

4.1.2. CDMにおける方法論の分析 .............................................. 42

4.1.3. JCMにおける方法論の検討状況 .......................................... 43

4.1.4. ISO/TC265の検討状況 .................................................. 43

4.2. 排出削減方法論の検討 .................................................. 44

4.3. 排出削減量の試算 ...................................................... 59

5. 事業化した場合の経済効果及び相手国への影響の分析 ...................... 62

5.1. CO2(排出権)価格の事業性への影響分析 ................................... 62

5.2. CCS-EOR事業によるメキシコの原油生産への影響分析 ...................... 63

5.3. CCS-EOR事業によるメキシコの温室効果ガス排出量への影響分析 ............ 64

6. 相手国関係者等の JCMに対する理解の増進や関係強化の取組 ................ 65

6.1. 実施概要 ............................................................. 65

6.2. 意見交換・見学の実施内容 .............................................. 66

6.3. 技術交流活動結果の概要 ................................................ 69

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6.3.1. CO2回収装置関連 ....................................................... 69

6.3.2. CO2貯留サイト関連 ..................................................... 69

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用語説明

略称等 正式名称・意味等

CCA California Carbon Allowance:カリフォルニア州排出権取引制度におけ

る排出権

CCS Carbon Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留

CCUS Carbon Capture, Utilization, and Storage:二酸化炭素回収・利用・

貯留

CELs Certificados de Energías:クリーンエネルギー証書(メキシコ・エネル

ギー転換法(LET:Ley de Transicion Energetica)に基づいて発行され

る証書)

CENACE Centro Nacional de Control de Energía:メキシコ・国家エネルギー管

理センター

CER Certified Emission Reductions:認証排出削減量(京都メカニズムの一

つである CDM(Clean Development Mechanism)プロジェクトを実施するこ

とにより発行される排出権)

CFE Comisión Federal de Electricidad:メキシコ・国営電力会社

CNH Comisión Nacional de Hidrocarburos:メキシコ・国家炭化水素委員会

CRE Comisión Reguladora de Energía:メキシコ・エネルギー規制委員会

EOR Enhanced Oil Recovery:原油増進回収(地下に賦存する原油の回収率を

高める技術)

INDC Intended Nationally Determined Contribution:約束草案

MMSCFD Million standard cubic feet per day: 百万立方フィート/日(ガス流量

の単位)

PEMEX Petróleos Mexicanos:メキシコ・国営石油会社

SEMARNAT Secretaría de Medio Ambiente y Recursos Naturales:メキシコ・環境

SENER Secretaría de Energía:メキシコ・エネルギー省

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- 1 -

1.本調査の背景・目的

1.1. 本調査の背景

1.1.1. エネルギー改革の進捗状況

ペニャ・ニエト大統領は 2012年 12月に就任して以降、公約に掲げていたエネルギ

ー改革を精力的に推し進めている。エネルギー改革は、これまで憲法によって保護さ

れてきた石油・ガス・電力部門に大きな変革をもたらしている。

ペニャ・ニエト政権発足からわずか 1年で、連邦議会と州議会でのエネルギー改革

関連の法案が可決され、2013年 12月には憲法を改正し、市場開放への道筋をつけた。

近年の原油価格下落による影響や国内電力・石油市場を独占してきた CFEや PEMEX等

による抵抗が懸念されたが、現時点では概ね当初の方針通りに進められている。

図表 1 エネルギー改革前の PEMEX、CFEに関する制度的枠組み

出所:CRE資料

図表 2 エネルギー改革後の PEMEX、CFEに関する制度的枠組み

出所:CRE資料

Executive Branch

Secretaries(Ministries)

SHCP(Treasury)

SENER(Energy Ministry)

CRE

CNH

Descentralized Entities

PEMEX

CFE

Symbology:Policy MakerRegulatorOperator--- Autonomous agency

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PEMEX や CFE は、エネルギー改革以前は「分権的公共団体(Decentralized public

entity)」に位置づけられていたが、現在では「国営生産企業(State owned productive

company)」となっており、従来よりも政府としての影響力が軽減されている。

2016年 1月には SENER(エネルギー省)が電力セクターにて独占的に事業を行ってき

た CFE再構築へ向けた具体案について発表した。CFEは国営企業として残るものの、4

社から 6 社程度の発電会社が中心となり、資本や人的関係の無い送電、配電、基本的

な供給サービスを提供する子会社へ再編されることとなった1。また、系統運用につい

ては、CFEに代わり CENACEが担当し、電力取引市場へのアクセスや送電費用などの面

で CFEとその他の新規参入企業が公平な競争が出来る環境が整備された。

図表 3 エネルギー改革前の電力セクターと CFEの役割

出所:CRE資料

図表 4 エネルギー改革後の電力セクターと CFEの役割

出所:CRE資料

1 2016 年 1 月 5 日 SENER プレスリリース “La Secretaría de Energía emite los Términos para la estricta separación legal de la Comisión Federal de

Electricidad (CFE)”

<http://www.gob.mx/sener/prensa/la-secretaria-de-energia-emite-los-terminos-para-la-estricta-separacion-legal-de-la-comision-federal

-de-electricidad-cfe>

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現時点において、PEMEXは、PEMEX Exploration and Productionや PEMEX Gas and Basic

Petrochemicals など、石油・ガス生産・利用プロセスに応じた子会社にて構成されて

いる。エネルギー改革において収益性の向上が課題として示されたことを受け、PEMEX

Upstreamや PEMEX Industrial Transformationなどの 7つの子会社へ再編されること

となった。しかし、原油価格下落の影響から厳しい経営状況下にあるため、人員削減

に一部着手したものの、既存事業のスリム化や事業の再編はまだ本格化していない。

図表 5 PEMEXグループの再編

出所:PEMEX資料

図表 6 エネルギー改革による石油・ガス産業の開放の概要

出所:PEMEX資料

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エネルギー改革の中でも特に高い関心を集めてきた石油資源開発の民間開放につ

いては、PEMEX が引き続き単独で開発・生産を行うラウンドゼロ鉱区と民間企業が入

札を経て開発・生産するラウンドワン鉱区に分けられ、2014年 12月にラウンドワン・

第 1 フェーズ(浅海)への入札が CNH(国家炭化水素委員会)によって公示された。そ

の後、第 2 フェーズ(浅海)、第 3 フェーズ(陸上)の入札から落札者公示までが終

了しており、現時点では第 4フェーズ(深海油田)の入札対象鉱区が公示されている。

鉱区開放は大きなスケジュールの遅延もなく進められている。しかし、第 1フェー

ズでは入札にかけられた 14 鉱区のうち最終的に落札されたのは 2 鉱区のみに終わっ

た。第 2 フェーズの状況はやや改善され、5 鉱区のうち 3 鉱区が落札された。第 1 フ

ェーズ、第 2フェーズでは生産物分与契約が採用され、落札した企業は営業利益に対

する一定割合のロイヤルティー、探査期間契約料が課せられることになった。第 3フ

ェーズでは生産物分与契約ではなく、ライセンス契約が採用された。第 1、第 2 フェ

ーズの対象エリアは浅海であったが、第 3 フェーズの対象は陸上であったため、より

幅広い企業の参加が可能となったことに加えて、応札企業の参加条件が緩和されたこ

とにより、入札にかけられた全 25 鉱区が落札され、入札は好調に終わった。原油価

格の下降傾向が続く中、第 4 フェーズでは、メキシコ湾深海油田の 10 鉱区が入札に

かけられることが発表され、外資系企業の注目を集めている。これらのラウンドワン

鉱区入札に関する情報は CNHのウェブサイトで随時公開されており(鉱区の詳細デー

タへはデータアクセス申請・利用料の支払いが必要)、透明性は担保されている。

図表 7 ラウンドワン進捗状況

出所:SENER “Programa Quinquenal de Licitaciones Para la Exploracion y

Extraccion de Hidrocarburos 2015-2019”、CNH Websiteを基に日本総研作成

第1フェーズ(探鉱案件)

第2フェーズ(生産案件)

第3フェーズ(生産案件)

第4フェーズ(探鉱案件)

想定資源量(原油換算100万バレル)

687 - - 10,889

埋蔵量(原油換算100万バレル)

-1P(確認): 1432P(推定): 3553P(予測): 671

1,882 -

総面積 (km2) 4,222 281 777 24,000各鉱区の面積 (km2) 116-500 42-68 7-135 1,678-3,287入札対象鉱区数 14 5鉱区(9エリア) 25 10立地 浅海 浅海 陸上 深海契約方式 生産物分与契約 生産物分与契約 ライセンス契約 ライセンス契約落札日 2015年6月15日 2015年9月30日 2015年12月15日 未定落札鉱区 第2、第7鉱区 第1、第2、第4鉱区 全25鉱区 未定

落札社数1

(1コンソ)3

(1企業、2コンソ)17

(11企業、6コンソ)未定

落札社・3社コンソ(Sierra Oil &Gas, Talos Energy,Premier Oil)

・Eni International・2社コンソ(PanAmerican Energy, E&PHidrocarburos yServicios)・2社コンソ(FieldwoodEnergy, Petrobal)

・Diavaz Offshore・Santa Campos Maduros・Renaissance Oil・2社コンソ(GeoEstratos, Geo EstratosMxoil Exploracion yProduccion)           など

未定

応札社数7

(3企業、4コンソ)9

(5企業、4コンソ)40

(26企業、14コンソ)未定

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2015 年 12 月に SENER が発表した、「炭化水素の探査・掘削 5 ヶ年計画(Programa

Quinquenal de Licitaciones Para la Exploracion y Extraccion de Hidrocarburos

2015-2019)」によると、2015年から 2019 年で随時ラウンド 1、2、3、4を実行してい

く方針で、入札対象エリア(探査、掘削含む)の炭化水素資源の合計埋蔵量は原油換

算 104,788.6 百万バレル(うち、確定埋蔵量は原油換算 65,945 百万バレル、推定埋

蔵量は原油換算 38,844百万バレル)。入札対象エリアの総面積は 235,070 km2となる。

図表 8 2015年~2019年 入札対象探査・掘削エリアの埋蔵量と面積

出所:SENER “Programa Quinquenal de Licitaciones Para la Exploracion y

Extraccion de Hidrocarburos 2015-2019”を基に日本総研作成

図表 9 ラウンドワン 入札区域

出所:SENER “Programa Quinquenal de Licitaciones Para la Exploracion y

Extraccion de Hidrocarburos 2015-2019”

ラウンド埋蔵量

(P1確認、P2推定含む)

(原油換算百万バレル)

面積(km2)

1 70,095.3 34,074.12 14,796.2 75,342.83 12,276.5 61,557.14 7,620.6 64,095.9

合計 104,788.6 235,070.0

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SENER はエネルギー改革の進展によって、PEMEX 単独で原油生産するケースと比べ

て 2018 年には 0.5 百万バレル/日、2025 年には 1.0 百万バレル/日の増産が見込める

と予測している。ただし、この予測は原油価格が 1バレルあたり 100 USD前後、PEMEX

原油生産量が約 2.5百万バレル/日の前提で算出されている。

図表 10 実際の原油生産量と予測

出所:SENER “Programa Quinquenal de Licitaciones Para la Exploracion y

Extraccion de Hidrocarburos 2015-2019”

PEMEX 単独の場合

エネルギー改革の場合

実際の原油生産量

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1.1.2. メキシコの気候変動に関する状況・政策

(1)温室効果ガス排出量

メキシコにおける 2010 年の温室効果ガス排出量は 748 百万 t-CO2(MtCO2e)で、こ

れは 1990年と比較して 33%の増加となっている。2001年から 2010年の年平均増加率

は 2.6%である。分野別では、交通、廃棄物及び一時的放出・フレアガス排出分野の排

出量が伸びている。これらの分野が増加した背景には、一人当たり GDPの伸びや都市

化の影響がある。分野別では、エネルギー分野の温室効果ガス排出量が最も多く、1990

年から 2010年にかけて排出は 58%増加、年平均増加率は 2.3%となっている2。

図表 11 温室効果ガス排出量の推移

出所:National Climate Change Strategy 10-20-40 Vision

(2)約束草案(INDC)

メキシコは 2012 年に気候変動基本法(Ley General de Cambio Climatico: LGCC)

を公布し、途上国では始めて気候変動対策に関する法的枠組みを整備した。同法では

長期的な温室効果ガス排出削減目標として、2050 年までに 50%削減(2000 年比)す

2 National Climate Change Strategy 10-20-40 Vision

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るとしている。これは、2015年にフランスで開催された COP21へ向けて、メキシコが

UNFCCC(国連気候変動枠組条約)事務局へ提出した約束草案の中でも引き継がれてい

る。なお、メキシコは途上国の中でも約束草案を最初に提出しており、気候変動へ取

り組む積極的な姿勢を世界へアピールしている。約束草案で提示された温室効果ガス

排出削減目標は下記の通り。

図表 12 メキシコ約束草案(温室効果ガス排出削減目標)

削減目標 2030 年までに、温室効果ガスと短寿命気候汚染物質(Short-Lived

Climate Pollutants: SLCPs)の排出量を合わせて BAU 比 25%削減(GHG

は 22%削減、黒色炭素粒子は 51%削減)

条件付削減

目標

国際的炭素価格、技術協力、低コスト金融資源へのアクセスと技術の移

転などについての世界的合意があれば、上記の温室効果ガスと短寿命気

候汚染物質の排出量の削減目標を 25%から 40%削減まで引き上げること

が可能(GHGは 36%削減、黒色炭素粒子は 70%削減)。

出所:UNFCCC資料を基に日本総研作成

図表 13 2020年・2050年へ向けた温室効果ガス削減目標

出所:2014年 SEMARNAT “National Climate Change Strategy 10-20-40 vision”

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(3)国家気候変動戦略(ENCC)と気候変動特別計画(PECC)

ペニャ・ニエト大統領は気候変動基本法の下、温室効果ガス削減目標を達成するた

めの戦略として、「 10 年後、20 年後、 40 年後へ向けた国家気候変動戦略

(ENCC:Estrategia Nacional de Cambio Climatico)」(SEMARNAT)を 2013年に発表。

同戦略は長期的な目標と戦略を示しており、①気候変動適応策、②温室効果ガス低排

出/削減策、二つのテーマに分けられている。気候変動適応に対しては 3 つの方針、

温室効果ガス低排出/削減に対しては 5 つの方針を定めており、それぞれの方針に対

する行動項目が記載されている。ただし、具体的な数値目標や行動の実行スケジュー

ル等は示されておらず、あくまで長期的な方向性を明らかにすることで、各政策へ反

映していくことを主としている。

2014 年にはより短中期的な視点から、SEMARNAT が取りまとめた「気候変動特別計

画 2014-2018(PECC: Programa Especial de Cambio Climatico)」を発表しており、2018

年までに達成すべき 5 つの目標と 10 の数値目標を具体的に提示している。同計画は

国全体の開発方針を示した「国家開発計画(PND: Plan Nacional de Desarrollo)」

や前述した「国家気候変動戦略」の方針と一貫性を保って策定されている。現在は、

本計画で挙げられた数値目標達成へ向けて気候変動に対する取り組みが行われてい

る。

図表 14 2013年「国家気候変動戦略」の目標と戦略

目標 戦略

気候変動

適応策

A1: 気候変動の影響を受ける社会のレジリエンス向上と脆弱性の低減、

A2: 気候変動の影響を受ける生産システムと戦略的経済基盤のレジリエンス向上と脆弱

性の低減

A3: 持続可能なエコシステムの利用、保護、維持

温室効果

ガス

低排出/

削減策

M1: クリーンエネルギーへのエネルギー移行加速

M2: 効率的で責任ある消費計画による、エネルギー強度の低減

M3: モビリティシステム、廃棄物管理、低カーボンフットプリントを含むモビリティシス

テムと共に、

持続可能な都市へ移行

M4: 二酸化炭素吸収量の維持・向上を目指し、農業、森林分野の成功事例を促進する

M5: 短寿命気候汚染物質(SLCPs)の排出削減と健康・福祉の推進

出所:National Climate Change Strategy 10-20-40 Visionを基に日本総研作成

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図表 15 2014年「気候変動特別計画」の目標

目標

目標 1: 国民と生産セクターの脆弱性を低減し、それらと戦略的経済基盤のレジリエンス向上

目標 2: 気候変動適応と温室効果ガス排出削減のため、持続可能な環境・エコシステムの保護、再構

築、管理

目標 3: 競争力ある経済と低排出開発へ向けた、温室効果ガス削減

目標 4: 短寿命気候汚染物質の排出削減と健康・福祉の推進

目標 5: 効果的手段と州・市区町村、議会、社会との協調による、国家気候変動政策の確立

出所:National Climate Change Strategy 10-20-40 Visionを基に日本総研作成

なお、SENERは「エネルギーの持続的利用のための国家計画(Programa Nacional para

el Aprovechamiento sustentable de la Energia 2014-2018)」で、2050 年までの温

室効果ガス削減目標を達成するための手段として、炭素回収・隔離技術をその一つに

位置づけている。具体的には、再生エネルギーで 42%、エネルギー効率化で 36%、燃

料代替で 19%、炭素回収・隔離で 3%、原子力で 1%の温室効果ガス排出削減を目指し、

2050年の目標を達成するシナリオを描いている。

(4)炭素税

メキシコ政府は気候変動対策の一つとして、2014年から炭素税を導入している。同

税はペニャ・ニエト大統領が就任後に行った財政改革の一環として掲げられ、2013年

に議会で承認された。炭素税の目的はクリーンエネルギーの利用を促進し、化石燃料

による CO2 排出低減を図ることであり、ラテンアメリカではメキシコで最初に導入さ

れ、チリでも今後導入される見込みである。メキシコの炭素税は、化石燃料の販売、

輸入に係る製造者、生産者、輸入業者に対して課せられる。税額は化石燃料の種類に

よって異なり、それぞれの化石燃料価格の 3%が割合として設定されている。なお、メ

キシコ政府の税額に関する当初案では 5.70 USD/t-CO2e であったが、その後 3.21

USD/t-CO2e へ引き下げられた。現時点で天然ガスは課税対象として含まれていない。

納税方法として CDM プロジェクトによって創出された CER(排出権)を利用して支払う

ことも認められている(対象プロジェクトは CDMのみ)。3

3 2014 年 6 月 OECD, ”Mexican fiscal reform environmental taxes”

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図表 16 化石燃料種別 炭素税

出所:OECD, June 2014, ”Mexican fiscal reform environmental taxes”

SEMARNATによると、炭素税を導入した初年度は 5億 USD(約 575億円)の税収が得ら

れたが、2015年度は 4.5億 USD(約 518億円)程度を想定しており、これはメキシコ政

府が当初見込んでいた税収 10億 USD(約 1,150 億円)の半分程度である。PEMEXの 2014

年における国内売上規模は642億USD(7兆3,830億円)であったことをふまえると0.8%

程度のコスト増加要因であったが、産業界からは同税に対する不満等は表明されてお

らず、産業競争力等への影響は限定的であったと見込まれる。なお、同税は導入され

てから 2 年が経過した段階であり、今後、経済環境等を踏まえて税率等の見直しが実

施される予定である。

(5)排出権取引制度

気候変動基本法(LGCC)に基づいて設置された気候変動に関する省庁横断委員会は、

その役割として義務的な排出権取引制度を創設できることとなっている。また、約束

草案にて示された条件付き削減目標を達成するためには、新たな市場メカニズムの構

築が必要としており、その中には排出権取引制度も含まれると考えられる。現時点で

は、排出権取引制度についてメキシコ政府は EU-ETS 等で採用されている最も一般的

なキャップ・アンド・トレード型排出権取引制度を実施するとは表明していない。し

かし、実施に向けた準備は様々な形で進められている。

2014年に炭素税を導入して炭素価格付けをしたのに続き、2015年からは年間 25,000

t-CO2eの温室効果ガスを排出する排出者に対して、その温室効果ガス排出量を政府に

報告する国家排出量登録簿(RENE:Registro Nacional de Emisiones)を開始している。

本制度では、約 3,000の排出者が CO2、CH4、N2O、SF6、PFCs、HCFCs、NF3、黒色炭素粒

子の年間排出量を政府へ報告する義務があり、3 年ごとに第三者検証を受けることも

義務づけられている。本制度により主要な排出者の温室効果ガス排出量が把握可能と

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なり、キャップ・アンド・トレード型排出権取引制度を実施する際に、排出者毎の排

出量上限を設定する際の基準とすることが可能である。

排出権取引制度の内容については、2015年 7月に SEMARNAT事務次官の Rodolfo Lacy

氏が 2017 年にメキシコにおいて排出権取引市場を創設すること、それらの排出権は

California州、Quebec州、Ontario州の排出権取引制度とリンクさせることを表明し

た。更に 2015 年 10 月にはペニャ・ニエト大統領が Quebec 州を訪れ、メキシコ政府

と Quebec州との間で排出権取引制度について研究するための協定を締結している。

これらの動きの背景としては、EU-ETSが排出権の需給バランスが崩れたことにより

機能不全に陥っていることと、EU-ETSに代わる実効性を持った排出権取引制度が、メ

キシコから地理的に近い北米各州で実施されていたため、接近しやすかったことが挙

げられる。メキシコとしては、自国で創出された排出権の用途や規制としての排出権

取引制度に実効性を持たせるために、北米各州の排出権取引制度を想定・参考にして

制度構築を進めると見込まれる。

(6)エネルギー転換法

ペニャ・ニエト政権が取り組んできたエネルギー改革の一環として、2015 年 12 月

にエネルギー転換法(LET:Ley de Transicion Energetica)が公布された。同法の主

な目的は、持続可能なエネルギー利用、クリーンエネルギー調達の義務化、汚染物質

の排出削減であり、気候変動対策を総合的に進める内容となっている。中でも、2018

年までに発電における再生可能エネルギーの割合を 25%にすることを義務付けており、

その割合を 2021 年には 30%、2024年には 35%へ段階的に引き上げていくことが明記さ

れている。

2014 年時点でメキシコの総発電量(301,462 GWh)のうち、再生可能エネルギーの

占める割合は 18.2%であり4、上述の数値は野心的な目標設定であると言える。なお、

この高い目標設定を含む同法の施行は、メキシコの電力料金を上昇させ、産業競争力

の低下に繋がるとし、メキシコ鉄鋼産業などから強い反対を受けている。2016年 2月

には AHMSA社(鉄鋼)と Deacero社(鉄鋼)が同法に対する訴訟を起こしており、全国機

械金属・鉄鋼産業労働者組合も訴訟の準備を進めている模様である5。

同法では、数値目標を掲げると同時に、再生可能エネルギーの利用促進を図る仕組

みとしてクリーンエネルギー証明書(CELs)の取り扱いについても触れている。これ

により、これまで注目されてきた CELs の運用がついに開始されることとなる。CELs

は、既に 2014 年 8 月 11 日付官報で公布された電力産業法の第 3 章第 121 条から 129

条で規定されており、クリーンエネルギー発電事業者に対して、エネルギー規制委員

会(CRE)が発電量に応じた CELsを発行し、2016年 1月末から開始される予定の電力

4 2015 年 SENER “Prospectiva de Energias Renovables 2015-2029” P54 5 2016 年 2 月 15 日 Vanguardia 紙”Industriales del acero se amparan contra la Ley de Transicion Energetica”

<http://www.vanguardia.com.mx/articulo/industriales-del-acero-se-amparan-contra-la-ley-de-transicion-energetica>

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卸売市場で自由に売買される。電力卸売市場に参加出来る資格のある、電力の大口需

要家(需要電力が 5MW 以上かつ年間の消費電力量が 20GWh 以上)は、1 年間の総消費電

力量の一定比率以上の電力量に相当する CELs を取得し、償却6しなければならない。

CELs の取得・償却義務は 2018 年から開始され、その割合は、毎年第 1 四半期に翌年

以降の 3 年間分について公表するとしている。SENERは、2015年 3月 31日に 2018年

からの割合を公表しており、2018 年の総供給電力量に占める CELs の割合は 5%とな

った。

初めての CELs 市場取引は 2016年 3月に行われることが予定されており、CFEが 15

年又は 20年の長期契約で 500MW 規模、6.3 百万 MWh 分の CELs と 6.3 百万 MWh 分のク

リーンエネルギー発電量をセットで購入する意向を 2016 年 1 月に表明している7。具

体的な購入価格は、クリーンエネルギー発電量に対して 47 USD/MWh、CELs に対して

24 USD/MWh、合計で約 70 USD/MWh を上限として設定しており、この価格設定は毎年

段階的に引き下げられる予定。CFE の今回の電力購入価格については、国際的な価格

(90 USD/MWh)と比べて約 20%低いとし、発電コストが 100 USD/MWh を超えているい

くつかの太陽光発電事業にとっては不利な状況であるとの報道もあった8。入札不調も

懸念されたが、2016年 1月に始まった入札資格の事前申請には 103 の企業・組織が応

募しており、合計 830MW規模で 109百万 MWh分の CELs、102百万 MWh のクリーンエネ

ルギー発電量の申請があった。これは、今回公募した CELs、発電量の枠を上回る結果

であった。クリーンエネルギー発電の種類としては太陽光発電、風力発電などが含ま

れている。CENACEが申請者の技術・経験等を審査し、通過した者は 3 月 28日に入札、

3 月 31日には結果が公示される。第二回の CELs、クリーンエネルギー入札は 2016年

の第二四半期に行われる予定9。

上記の通り、大口需要家は 2018年より総使用電力量に占める 5%をクリーンエネル

ギーで調達する義務が課せられるため、消費電力量の高い鉄鋼産業などではクリーン

エネルギープロジェクトへ投資しクリーンエネルギーを自己調達することで、CELs取

得コストを抑えようとする動きも見られている。例えば、Deacero 社(鉄鋼)は風力発

電会社 8 社、バイオガス発電会社 3 社、太陽光発電会社 4 社と電力契約し 2016 年か

ら 2017 年の間に運用を開始すると発表。AHMSA 社(鉄鋼)は 136 百万 USD を投資し、

コージェネレーション発電プラント 3機を導入する計画であり、余剰電力については

電力卸売市場で売る方針を明らかにしている10。このように、メキシコ企業における

クリーンエネルギーへの投資意欲は現在高まりつつある。この CELs の運用が今後電

力価格にどれほどの価格上昇インパクトを与えるか、CELsの市場取引が計画通りに進

6 CELs は電力卸売市場で取得した後、他の需要家に転売することが可能だ。電力の大口需要家が取得した CELs を自らの義務履行のために使用することを

「精算」と呼び、精算後の CELs は市場で取引することはできない。未清算の CELs であれば何回でも転売することは可能。 7 2016 年 2 月 14 日 SENER プレスリリース” Nutrida participación en la fase inicial de la primera subasta de largo plazo del Mercado eléctrico”

<https://www.gob.mx/sener/prensa/nutrida-participacion-en-la-fase-inicial-de-la-primera-subasta-de-largo-plazo-del-mercado-electrico> 8 2016 年 1 月 28 日 Reforma 紙”CFE publishes prices for long-term electricity tender” 9 2016 年 2 月 14 日 SENER プレスリリース” Nutrida participación en la fase inicial de la primera subasta de largo plazo del Mercado eléctrico”

<https://www.gob.mx/sener/prensa/nutrida-participacion-en-la-fase-inicial-de-la-primera-subasta-de-largo-plazo-del-mercado-electrico> 10 2015 年 12 月 29 日 Reforma 紙”Steel and mining companies turn to renewable energy”

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むか、産業界が必要とする CELs が十分に市場へ供給されるかなど不透明な点もある

が、CELsはメキシコにおけるクリーンエネルギー発電比率を増加させると見込まれる。

1.1.3. メキシコ政府の CCS関連政策

メキシコ政府の CCS関連政策として、前述した 2013年「国家気候変動戦略」と 2014

年「気候変動特別計画」では下記の目標設定と行動を策定しており、エネルギー利用

の効率化には欠かせない技術として CCS は認識されている。「気候変動特別計画」で

は、PEMEXの原油生産量が減少傾向にあることから、CO2の利用を含めた CCS-EORを原

油増産技術として位置づけ、導入へ向けて取り組んでいくことを示している。

図表 17 2013年「国家気候変動戦略」における CCS関連部分

目標 M2 効率的で責任ある消費計画による、エネルギー強度の低減

行動 M2.9<効率化技術>

プロジェクト実施を念頭に、炭化水素増進回収法も含め、炭素回収・隔離技術について

引き続き検討する。

M2.10<移行プロセス>

エネルギー集約型産業(セメント、鋼鉄、石油、化学、石油化学など)において、高効

率技術、代替燃料、産業プロセスデザイン、二酸化炭素回収技術を促進させる。

出所:National Climate Change Strategy 10-20-40 Visionを基に日本総研作成

図表 18 2014年「気候変動特別計画」における CCS関連部分

戦略 3.1 エネルギー効率化に対するアクション・プロジェクトを実施する

行動 3.1.4

PEMEX における原油回収向上を図るため、CCUS導入へ向けた道筋をつけ、パイロットプ

ロジェクトを実施する

(担当機関 SENER/PEMEX/CFE)

出所:Programa Especial de Cambio ClimatiCO2014-2018を基に日本総研作成

2014年 3月には個別の政策として SENERが「CCUS Technology Roadmap」を発表し、

今後 10年間の CCUS推進計画を 6フェーズ(インキュベーション、政策、計画、EOR、

発電施設、商業化)に分けて提示した。同ロードマップの主目的は、CCUS事業のパイ

ロットプロジェクト・実証実験を実施し、2020 年頃には商業化を実現することである。

商業化へ向けたインキュベーション(主に市場分析やフレームワークの事前検討)と

計画(候補地の分析など)は 2015年までに終了し、2020年までには CCUSに関する政

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策面(融資制度含む)での整備を終わらせ、その後、商業規模の事業を開始するのが

全体像である。以下に、政策、CCUS事業の具体的なスケジュールを示す。

政策面での具体的なスケジュールとしては、2016 年中に CCUS リサーチセンターを

設立し、2020年までに金融融資メカニズムを確立、民間部門での CCS-EOR導入インセ

ンティブを検討することなどが明示されている。また、2016 年から 2017 年にかけて

国家政策「CCUS Ready」を策定し、現時点で CCS導入を検討していない企業の導入コ

スト低減を促すとしている。2020年頃までに必要な政策は整備される見込みで、人材

育成についてはそれ以降も継続して取り組まれる。

図表 19 2014年「CCUS Technology Roadmap」政策分野の計画

出所:CCUS Technology Roadmap

EORパイロットプロジェクトの具体的なスケジュールとしては、2015 年にパイロッ

トプロジェクトの対象油田選定、ラボでの分析、設計を行い、第一パイロットプロジ

ェクトを 2015年から 2016年にかけて実施し、モニタリング等を行う。2017年には第

一パイロットプロジェクトの評価を行い、CO2を実際に圧入した後、どの程度原油の生

産量が増加するのかを分析する。CCS-EOR のパイロットテストは、2015 年から 2024

年まで継続的に行われる予定。パイロットプロジェクトとは別に、2018 年からは商業

化へ向けた実証実験に取り組み、CCS-EOR の規模設計、EOR における CO2の挙動分析、

フィールド設計を行った後、2018 年から 2020 年にかけて CCS-EOR 設備を建設、2021

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年から CO2の圧入を開始する。

発電設備(CO2ソース)におけるパイロットプロジェクトの具体的なスケジュールと

しては、2014年に石炭・天然ガス火力発電設備の中から最適な候補を選定し、二酸化

炭素回収技術の選定を行う。その後、2014 年から 2015 年にかけて実証実験の計画立

案を行い、2015 年には入札を完了、2016 年からは設備の建設に着手し、2017 年頃か

ら運用・データ分析を進め、2019 年には一連のパイロットプロジェクトを終了する。

これらの計画は世界銀行が実施している CCS 信託基金(World bank CCS trust fund)

の支援を受けて推進されており、2016年からの設備建設に向けて準備が進められてい

る。

2018 年からはパイロットプロジェクトと平行して、20MW 規模の発電設備での実証

実験準備を進め、CO2 の圧入先(油田)についての詳細検討を行う。2019 年には実証

実験の詳細計画、環境調査を行い、入札を経て、2020年から 2021年にかけて CO2パイ

プラインと関連設備を建設する。それと平行して、CO2の圧入実験を最低でも 2つの油

田で行った後、2022 年からは実際に CO2を圧入しモニタリングを実施する。

上記の発電設備(CO2ソース)と EORに関するパイロットプロジェクトと実証実験が

終了した後、2020年頃より商業レベルの CCS-EOR事業に着手する予定。

図表 20 2014年「CCUS Technology Roadmap」EORの計画

出所:CCUS Technology Roadmap

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図表 21 2014年「CCUS Technology Roadmap」発電施設の計画

出所:CCUS Technology Roadmap

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1.2. 本調査の目的

本調査の背景に示した通り、メキシコでは、2013年から開始されたエネルギー改革

を受けて、CCUS Technology Roadmapをメキシコ政府が策定し、CCS-EOR事業の推進環

境が整いつつある状況にある。商業規模の CCS-EOR 実現には大規模な CO2ソースが必

要(CO2削減への貢献度大)であり、その為には既存の大型火力発電所や石油化学工場

の排気ガスからの CO2回収が不可欠である。本調査ではメキシコ南部にて PEMEX が保

有する主要な CO2 ソースに対し、国内外で豊富な納入実績を有する三菱重工業の CO2

回収技術を適用し、回収された CO2を用いた CCS-EOR事業の実現可能性について調査・

検討する。本調査の次段階としては、JCM(二国間クレジット制度)実証事業プログラム

等を活用した CO2 回収装置の導入を見据えており、日本の CO2 回収技術を用いた

CCS-EOR事業の早期実現を目指す。また、CO2を用いた EORの知見を有する国際石油開

発帝石が調査の初期段階から参画することにより、事業評価の確実性向上を図ると共

に、日本企業と PEMEXの関係強化を目論む。

一方、メキシコ側の状況としては、原油生産量世界 11 位の産油国(2014 年)である

が、原油生産量は主力油田の老朽化や新規油田開発の停滞を背景に 2004年以降、急速

に減少しており、過去 10 年間で約 29.5%の減少となっている(図表 22 参照)。このま

ま減少傾向が続いた場合、2020年代後半にはピーク時の半分程度の原油生産量になる

と見込まれており、国内消費量を下回る水準まで減少することになる(図表 23参照)。

国家歳入の 30%以上、輸出の 15%程度を占めている原油生産を立て直すことが急務と

なっており、メキシコ湾の大水深油田やシェール層の開発と並んで CCS-EORによる原

油増産は重要な取組みに位置付けられている。メキシコ政府は、CCS-EOR を計画的に

推進するために、2014年 3月に CCUS Technology Roadmapを策定しており、この中で、

2020年頃を目処に商業規模の CCS-EOR事業を実施するとしている。

本調査コンソーシアムと PEMEX が協働し、CCS-EOR 事業の実現に向け推進すること

はメキシコ政府が抱える課題解決へ大きく貢献するものであり、二国間関係強化へも

寄与するものである。また、CCS-EOR事業を JCMの枠組みで実施し、JCMプロジェクト

化することは、、メキシコ政府及び同国プロジェクト参加者の JCMに対する理解の促進

にもつながるものである。更に、商業規模の CCS-EOR事業の実現により、2015年末の

COP21 にて合意されたパリ協定において新たに規定された温室効果ガス排出削減目標

の達成に向け、大きな一歩を踏み出す事となる。

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図表 22 メキシコにおける原油生産の推移

出所:SENER資料

図表 23 メキシコにおける原油生産量の見通し

出所:SENER資料

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本調査は前述の背景・経緯や、2013年度に実施した地球温暖化対策技術普及等推進

事業「メキシコ国における二酸化炭素分離・回収技術に関する事業可能性調査」の成

果に基づき、日本の CCS関連技術・製品を活用した CCS-EOR事業の実現に向け、メキ

シコにおける JCM に関連する新たな政策と、実際の CCS-EOR事業のスキーム構築・事

業性評価を実施することを目的とした。

なお、事業スキームの検討においては、PEMEX およびメキシコ政府、メキシコ側関

係機関と協力し、PEMEXが保有する主要な CO2ソースのスクリーニングを実施し候補サ

イトを選定した。候補サイト対象に CO2回収設備の概念設計・概算費用見積、CCS-EOR

により増産される原油を収入とした事業成立の条件(事業コスト・原油価格等)の検討

など CCS-EOR事業の具体的な事業化計画について調査・分析した。

また、JCMプロジェクト化するために必要な、CCS-EOR事業を通じて達成される温室

効果ガス排出削減量を計測、報告、検証するための方法論の検討、同方法論を用いた

削減見込量の試算を行った。

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2.二国間クレジット制度と連携した CCS事業の促進に向けた政策

2.1. メキシコ国内の排出権取引制度との連携

メキシコ政府は、キャップ・アンド・トレード型排出権取引制度の実施について明

言していないものの、2017年にはメキシコの排出権市場を California 州、Quebec州、

Ontario州の排出権取引制度とリンクさせることや Quebec州と排出権取引制度に関す

る協定を締結するなど、その実施に向けて準備を進めている。

北米各州の排出権取引制度とメキシコ国内の排出権取引制度に加え、炭素税や CELs

などの気候変動対策関連の制度・政策を連動させることにより、市場メカニズムを通

じて資金や技術がメキシコへ向かいやすくなり、その結果としてメキシコの温室効果

ガス排出削減費用を低減させることや海外の先進的な技術の導入を促進させることを

狙っていると考えられる。

このようなメキシコ政府の意向・動向をふまえると JCMプロジェクト化を目指す際

には、北米各州の排出権取引制度との調和を図りつつ、メキシコ政府やメキシコ側の

プロジェクト参加者が北米各州および JCM の両方を活用できるようにする配慮が必要

となる。

具体的には、メキシコにおいて二国間クレジット制度のプロジェクトを開発する際

には、California州、Quebec州、Ontario州の排出権取引制度との連携も視野に入れ、

これらの制度で採用されている MRV方法論やガイドライン等を参照することを制度化

する。これらの制度に用いられている MRV 方法論は必ずしも二国間クレジット制度の

理念や運用に合致しない部分があると想定されるが、両制度における類似点・相違点

を明確にしておくことにより、メキシコ側のプロジェクト参加者が排出権を創出する

制度を容易に選択できることやメキシコ政府として排出権を活用する際の選択肢を広

げることが可能となる。これは日本側のプロジェクト参加者にとってもメリットがあ

る。メキシコとの協力を進める際に、異なる制度が存在することで二国間クレジット

制度と他の制度が競合してしまう可能性があるが、プロジェクト化を進めてから利用

する制度を選択することが出来れば、初期段階でのプロジェクト化の阻害要因を減ら

すことが出来る。

また、現状では California州、Quebec州、Ontario州の排出権取引制度では存在し

ていない MRV方法論について、二国間クレジット制度において先行して方法論の作成、

プロジェクト化を行うことにより、他の制度へ MRV方法論を「輸出」することも可能

になると考えられる。California州の排出権取引制度は、一部の日本企業も規制対象

になっている(出資等のケースを含む)ことから、二国間クレジット制度と北米各州の

制度がメキシコの排出権取引制度を通じて間接的にリンクすることで、日本企業の規

制対応への選択肢を広げる可能性も期待できる。

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2.2. CCUSセンター運営への協力

メキシコ政府は、「CCUS Technology Roadmap」にて 2016年中に CCUS リサーチセンタ

ーを設立するとしている。この CCUS リサーチセンターについては、米国の国立 CO2回

収センター(NCCC:National Carbon Capture Center)がモデルになっていると想定され

る。

NCCC は、米国 DOE の予算により 2009 年から運営が開始されており、その目的は CCS

に関連する先進技術の商用化の促進と石炭火力発電所からの CO2排出を実質的にゼロに

することである。そのために米国 DOEが資金だけで無く、実証のためのフィールドや高

度に専門的なスタッフを用意するなど、CCSの開発・普及促進に向けた拠点となってい

る。現在、NCCCのプロジェクトには Southern Companyや DUKE Energy、American Electric

Powerなどの米国電力会社だけでなく、日本からも三菱重工業、日立製作所、千代田化

工建設が参加するなど世界各国の CCS関連設備メーカーが集結しており、DOEが実施す

る他のプロジェクトを含めて、米国での CCS商用化を強力に後押ししている。

メキシコ政府も米国の取組を参考に、CCUS に関する研究や実証を行うことが出来る

発電所や貯留サイト、メキシコ企業と各国の CCS関連設備メーカーが参加して技術交流

出来る活動拠点などを設置すると見込まれる。現在、世界銀行の CCS 信託基金(World

bank CCS trust fund)の支援を受けて、CCUS リサーチセンターのコンセプトやそこで

行う実証試験について公募を開始しており、その内容は徐々に固まりつつある段階であ

る。

世界銀行の支援を受けているものの、メキシコ国内には CCS あるいは CCUS に関する

専門家は少なく、その専門家も PEMEXや国立石油研究所など、特定の組織に偏っている

ため、運営から実際の研究・実証まで全体的に人材育成が必要な状況にあると推測され

る。そこで、二国間クレジット制度と連携した政策として、JCMプロジェクトに関与す

るメキシコ側のプロジェクト参加者および CCUS リサーチセンターの関係者について、

「二国間クレジット取得等インフラ整備調査事業(MRV等に関する人材育成)」等の枠

組みを活用し、人材育成へ協力することが考えられる。具体的には、日本にある企業の

研究所や CO2回収装置が設置されている工場、苫小牧で行われている CO2回収・貯留技

術の実証事業サイトなどを活用し、CCSに関する研修を行うことや米国と協力し、日本

企業が参画する DOEのプログラムを中心に、米国での研修や実証事業への長期派遣など

を行う。これらの費用については、CCSで得られる膨大な排出権を原資に、その一部を

日本・メキシコ政府が一定割合徴収(CDM における Registration fee に近い考え方)す

ることでプールし、共同で管理することで持続可能な活動が可能になる。

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3. CCS普及促進に向けた事業計画

3.1. CCS-EOR事業内容の検討

3.1.1. CCS-EOR事業の事業構造・ステークホルダー分析

(1)CO2ソース保有者

CCS-EOR に必要となる主要な CO2 ソースとして、PEMEX の石油化学部門 PEMEX

Petroquímica (PEMEX Fertilizersへ再編予定)の石油化学工場(CPQ Cosoleacaque、

CPQ Molrelos、CPQ Cangrejera等)が挙げられる。

現在、CPQ Cosoleacaque ではアンモニアプラントが 4 基稼働中あり、同製造工程

(シフト反応工程)からは高純度 CO2(約 98%)が排出されている(1基当り 1,780t-CO2/

日の CO2が排出されており、その内 1,000t-CO2/日が CCS-EORに利用可能)。これに加

え、同アンモニアプラントのリフォーマーに CO2回収装置を新設した場合、1 基当り

1,000t-CO2/日の CO2 が追加で回収可能となり、合計で 8,000t-CO2/日の CO2

(2,000t-CO2/日×4 基)が CCS-EOR に利用可能となる(PEMEX による CO2ソースの簡

易評価結果は図表 24参照)。

PEMEX では同プラントの製造工程からから現状排出されている CO2 を利用した

CCS-EOR事業を計画している(詳細は後述)。

なお、本工場の立地する Veracruz州と隣の Tabasco州は PEMEXの原油生産を古く

から支えてきた油田が数多くあり、海上には主力油田の Cantarell 油田

Ku-Maloob-Zaap 油田もある。また、本工場の東側に広がる Cinco Presidentes 油田

群には多数の老朽化油田が存在しており、同地域における CCS-EOR事業のポテンシャ

ルは非常に高いといえる。

図表 24 CO2ソース候補の一覧

出所:PEMEX資料

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(2)EOR実施者

EOR を実施するのは、PEMEX の油田探索・生産部門である PEMEX Exploración y

Producción (PEMEX Upstreamあるいは Drilling へ再編予定)である。CPQ Cosoleacaque

の東側に広がる Cinco Presidentes油田群を開発・管理しているのは現地オフィスの

Activo de Producción Cinco Presidentes (APCP)である。具体的な担当としては、こ

の APCPになると見込まれ、CO2ソース側の CPQ Cosoleacaqueのアンモニアプラント担

当と APCPのアセットマネージャーや油田実務担当、オペレーター等が協働してプロジ

ェクトに取り組むこととなる。

図表 25 PEMEXが検討中の CO2ソースと油田の組み合わせ案

出所:PEMEX資料

(3)設備メーカー

PEMEXではこれまでにアンモニア製造工程(シフト反応工程)での CO2分離など、化

学製品の製造プロセスの一部としての CO2 回収は行っているが、リフォーマー排気ガ

スの様な燃焼排気ガスからの CO2回収については経験が無い。

本調査コンソーシアムの一員である三菱重工業は、関西電力と共に 1990年から CO2

回収技術の開発を開始し、「低エネルギー」、「低吸収液消費量」、「低腐食性」を特徴と

した、幅広い燃焼排気ガスに対応可能な世界最高クラスの性能を有する CO2 回収プロ

セス、“KM-CDR process®”を開発している。同社は 1999年に化学用途(尿素合成用)

の CO2 回収プラント(初号機)をマレーシアに納入し、その後も着実に納入実績を積

み重ね、2015年現在、11基の商業プラントが世界各国にて稼働中である。また、2011

年には米国 Southern Company 社 Plant Barry発電所(米国アラバマ州)向けに CO2回

収実証機(500t-CO2/日)を納入、2016 年末には米国 NRG 社 W.A. Parish 発電所 8 号

機(米国テキサス州)向けの世界最大となる CO2回収装置(4,776t-CO2/日)が稼働予定

である。これらの豊富な実績と高い技術力から、CO2回収については同社設備を前提と

して調査を進めることとした。

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図表 26 三菱重工業の CO2回収装置の実績例

出所:三菱重工業資料

図表 27 世界最大の CCS-EOR向け CO2回収装置完成イメージ

出所:三菱重工業資料

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3.1.2. 商業段階での CCS-EOR事業内容の検討

(1)CO2ソース

3.1.1. (1) に示した通り、PEMEX が保有する CPQ Cosoleacaque アンモニアプラン

トの製造工程(シフト反応工程)からは現状、高純度 CO2(1,780t-CO2/日/基)が排出

されており、その内 1,000t-CO2/日/基(4基合計で 4,000t-CO2/日、80 MMSCFD)がCCS-EOR

へ利用可能。

また、アンモニア製造工程では、天然ガスをプライマリーリフォーマーにて水蒸気

改質する際に、金属触媒を 700~1,000℃程度まで加熱する必要があり、その加熱のた

めに使用される加熱炉からの排気ガスは CO2を多く含んでいる。この CO2を回収しパイ

プラインで近隣油田へ輸送することにより、CCS-EORへ利用可能となる。

図表 28 CPQ Cosoleacaque のアンモニアプラントにおける CO2排出状況

出所:PEMEX資料

1基のアンモニアプラントのリフォーマーから回収可能な CO2は 1,000t-CO2/日であ

る為、仮に 4 基のアンモニアプラント全てに CO2 回収装置を設置した場合、合計

4,000t-CO2/日(約 80MMSCFD)の CO2が回収可能となる。

前述の製造工程(シフト反応工程)から排出されている CO2 と合算すると合計

8,000t-CO2/日(CO2 回収装置と同時に設置する補助ボイラー排気ガスから 200 t-CO2/

日/基の CO2が回収可能であり、これを加えると合計 8,800t-CO2/日)の CO2が回収可能

となり、近隣地域に点在する同社保有の CO2ソースの中では最大規模となる。

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(2)CO2貯留サイト

3.1.1. (1) に示した通り、PEMEX は CPQ Cosoleacaque アンモニアプラントの製造

工程(シフト反応工程)から排出されている CO2を利用した下記 CCS-EOR 事業を計画

している。

【CCS-EOR実証】

(1) 実施時期 : 2016年~2017年(予定)

(2) CO2ソース : 市販 CO2

(3) EOR対象油田 : Brillante油田

(4) 概要 : 市販の CO2を用いた小規模 EORパイロット試験。

同油田の EORラボテストは完了済。

【CCS-EOR商業化 Phase1】

(1) 実施時期 : 2018年あるいは 2019 年開始(予定)

(2) CO2ソース : Cosoleacaqueアンモニアプラントの製造工程から排出されて

いる CO2(1,000t-CO2/日)

(3) EOR対象油田 : Brillante油田、Rabasa油田、Los Soludados油田

(これらの油田について、順次 EORを実施)

(4) 概要 : 上記 3油田を対象とした商業規模 EOR。

CO2輸送は既設パイプラインを利用(一部新設が必要)。

CO2コンプレッサー2機を新設(プラント側・油田側に各 1機)。

商業化 Phase1 での必要な CO2量は上記の通り 1,000t-CO2/日であり、アンモニアプ

ラント製造工程から排出されている CO2 で対応可能(リフォーマー排気ガスからの追

加 CO2回収は不要)。

一方、PEMEX としては上記 CCS-EOR 実証・商業化 Phase1 を経た後、商業化 Phase2

(大規模 CCS-EOR)に進む計画であり、対象油田は Cinco Presidentes 油田群を想定

している。

したがって、商業段階での CCS-EOR事業の対象油田は Cinco Presidentes油田群を

対象として調査を進めることとした。

なお、この Phase2 で必要となる CO2は 4,000t-CO2/日以上であり、現在利用可能な

アンモニアプラント製造工程由来の CO2量(4,000t-CO2/日)では不足する事から、追

加 CO2の調達が必要となる。

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図表 29 CPQ Cosoleacaque と EOR対象油田の位置

出所:PEMEX資料

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3.1.3. CO2回収装置の検討

(1)設備導入対象とする CO2ソース・事業の概要

対象 CO2 ソースについては、3.1.2. (1)に示した通り、同地域で最大規模となる

CPQ Cosoleacaque のアンモニアプラントを選定。同プラントのリフォーマー排気ガス

から CO2を回収し、既設 CO2パイプラインで輸送した後、Cinco Presidentes油田群に

て CCS-EORを実施することを想定。事業概要は以下の通り。

図表 30 プロジェクト実施サイトの概要

CO2ソース関連

事業所名 CPQ Cosoleacaque

所有者 PEMEX Petroquímica

CO2ソース アンモニアプラントリフォーマー排気ガス

補助ボイラー排気ガス (CO2回収装置の蒸気供給源として

新設)

CO2濃度 10%

年間 CO2排出量 約 416,100 t-CO2

(1,200t-CO2/日×1基×365日×稼働率 95%)

参考 : 4基の場合は 1,664,400 t-CO2

CCS-EOR事業関連

EOR実施サイト Cinco Presidentes油田群

CO2ソースから EOR サ

イトまでの距離

約 50km~200km(対象油田による)

圧入する年間 CO2量 約 416,100 t-CO2

期待される原油回収

量(年間)

約 83万バレル

温室効果ガス排出削減効果

温室効果ガス排出削

減量(年間)

約 254,750 t-CO2

出所:PEMEXおよび調査コンソーシアムにて設定

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(2)CO2回収装置の検討

CO2回収設備の概要

本 CO2回収設備は、リフォーマー排気ガスから CO2を回収する設備である。煙突から

排出される排気ガスを排気ガスブロワにより、排気ガス冷却塔を経て、CO2回収装置に

導入する。なお、排気ガスブロワ停止時、排気ガスは既設煙突より直接大気に放出さ

れる。主な機器については、機器リストに示した。

CO2回収装置の構成

本 CO2回収装置は 1) 排気ガス前処理、2)CO2吸収、3)CO2分離及び吸収液再生の 3 つ

のセクションから構成されている(以下のプロセスフロー図参照)。

図表 31 CO2回収装置プロセスフロー図

出所:三菱重工業資料

1) 排気ガス前処理

CO2の吸収を効率良く且つ吸収液の損失を抑える為、リフォーマーの高温排気ガスを、

CO2吸収塔へ導入する前に排気ガス冷却塔で冷却する必要がある。高温排気ガスは、冷

却塔の底部より導入され、塔内で塔頂から供給される循環水と向流接触する事で冷却

される。循環水は排気ガス冷却クーラーによって冷却され、排気ガス冷却塔へ供給さ

れる。

CO2吸収

CO2分離及び

吸収液再生

排気ガス前処理

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2) CO2吸収

CO2吸収塔は下段の CO2吸収部と上段の水洗部に分けられる。

2)-1 吸収部

冷却塔にて冷却された排気ガスを吸収塔底部へ導入し、吸収部充填層において吸収

部上部より供給される CO2 リーン吸収液と向流接触させることで、排気ガス中に含ま

れる CO2が吸収液に吸収される。排気ガス中の CO2を吸収した CO2リッチ吸収液はリッ

チ吸収液ポンプによって、溶液熱交換器を経て再生塔へ送液される。

2)-2 水洗部

吸収塔の吸収部充填層にて CO2 が除去された排気ガスは吸収塔上部の水洗部へ導入

される。水洗部では循環洗浄水と向流接触させることで、排気ガス中の水分を凝縮さ

せ、CO2回収設備全体の水バランスを保つ。また、水洗部は充填層といくつかのデミス

ターにて構成され、吸収液のベーパー及びミストを回収し、アミン損失を抑えている。

デミスターのうちの一つには三菱重工業が開発し、特許を保有する特殊なデミスター

を採用しており、これまで数多くの商用機にて実績がある。最終的に、吸収液のベー

パー及びミストが除去された排気ガスは、大気へ放出される。

3) CO2分離及び吸収液再生

吸収塔底部の CO2リッチ吸収液は溶液熱交換器に送られ、CO2リーン吸収液との熱交

換による加熱後、再生塔の上部へ送られる。リッチ吸収液は再生塔に導入後、再生塔

の充填層において、リボイラーで低圧スチームにより加熱され発生したスチームによ

るストリッピング効果で CO2 ガスを放散して、CO2 リーン吸収液へと再生される。CO2

ガスとスチームは再生塔内を上昇し、再生塔塔頂を経て、再生塔凝縮器で冷却される。

再生された CO2 リーン吸収液は溶液熱交換器において CO2 リッチ吸収液との熱交換

による冷却後、リーン溶液クーラーに於いて CO2 吸収に最適な温度まで冷却され、吸

収塔に送液される。

図表 32 CO2回収装置を構成する主な機器

機器名称 基数 形式 注記

FLUE GAS QUENCHER 1

CO2 ABSORBER 1

REGENERATOR 1

REGENERATOR REFLUX DRUM 1 竪型

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STEAM CONDENSATE DRUM 1 竪型

SOLUTION STORAGE TANK 1

SOLUTION SUMP TANK 1 ピット

CAUSTIC SODA STORAGE TANK 1

RECLAIMED WASTE TANK 1

UP STREAM GUARD FILTER 1 竪型

CARBON FILTER 1 竪型

DOWN STREAM GUARD FILTER 1 竪型

SOLUTION SUMP FILTER 1 竪型

FLUE GAS COOLING WATER COOLER 2 プレート型

WASH WATER COOLER 2 プレート型

SOLUTION HEAT EXCHANGER 4 プレート型

REGENERATOR CONDENSER 1 シェル&チューブ

REGENERATOR REBOILER 2 シェル&チューブ

LEAN SOLUTION COOLER 1 プレート型

RECLAIMER 1 シェル&チューブ 間欠運転

FLUE GAS COOLING WATER PUMP 1 遠心、電動

WASH WATER CIRCULATION PUMP 1 遠心、電動

RICH SOLUTION PUMP 1 遠心、電動

REGENERATOR REFLUX PUMP 1 遠心、電動

LEAN SOLUTION PUMP 1 遠心、電動

SOLUTION SUMP PUMP 1 遠心、電動 間欠運転

STEAM CONDENSATE RETURN PUMP 1 遠心、電動

RECLAIMER CAUSTIC SODA FEED PUMP 1 遠心、電動 間欠運転

RECLAIMED WASTE TRANSFER PUMP 1 キャビティ、電動 間欠運転

RECLAIMED WASTE FEED PUMP 1 キャビティ、電動 間欠運転

CO2 COMPRESSION UNIT 1 ギヤード

COOLING WATER TOWER 1

COOLING WATER TOWER FAN 6

CHEMICAL INJECTION UNIT FOR CW 1

COOLING WATER CIRCULATION PUMP 1 遠心、電動

DEHYDRATION UNIT 1

PACKAGE BOILER UNIT 1

ADDITIONAL PUMP AND HEAT EXCHANGER

出所:三菱重工業資料

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(3)CO2回収装置・運用の特徴等

CO2吸収液

三菱重工業は関西電力と共同で、1990 年より発電所等の排気ガスからの CO2回収技

術の研究開発を実施してきた。従来から用いられていた技術は、CO2の回収エネルギー

が大きく、吸収液の劣化が早く損失が大きい、腐食性が高い等の問題があった。そこ

で、三菱重工業と関西電力は、吸収液の基礎研究から始めて、省エネルギーかつ劣化

の少ない吸収液である,KS-1™吸収液を開発した。

リクレーミングシステム(間欠運転)

運転中 KS-1™吸収液は吸収塔内にて排気ガス中の SOx、NOx及び O2と反応し、熱安定

性塩(HSS)と劣化物を生成する。これらの成分が吸収液中に蓄積すると腐食や吸収液フ

ォーミングの原因となるため、リクレーマーでこれらを除去する必要がある。リクレ

ーマーは系内の HSS濃度が所定濃度に達した際に運転を開始し、回分単蒸留操作でこ

れらの成分を濃縮する。

焼却炉(オプション)

オプションとして、リクレーミング操作で発生するリクレーミング残渣を処理する

焼却炉を供給する事もできる。

(4)費用対効果の分析

CO2回収装置の費用は機器リストに示した設備や設計、工事費など製造・建設に関す

る費用を含めた総額で約 155億円(115円/USDにて換算)となった。CCS-EOR事業では、

CO2回収装置を設置することにより得られる CO2により EORを行い、得られる原油を販

売することにより収益を得る。したがって、CO2ソースから得られる約 416,100t-CO2/

年の CO2 から、どの程度の原油が増産でき、その原油の価格がどの程度になるかによ

って事業性(費用対効果)が大きく変動することになる。

IEAが 2015年 11月に公表した「2015年版・世界エネルギー展望」において、原油

価格の中心シナリオとしては 2020 年にかけて 80 USD/バレルで均衡するとしている。

また、低価格シナリオとして 50 USD 前後が続く可能性もあるとしている。これらを

踏まえて、標準ケースの原油価格としては 80 USD/バレルを設定し、低価格が続くリ

スクを評価するために、40 USD/バレル、60 USD/バレルについてケースを設定した。

原油の生産量については、PEMEX が Brillante 油田で行ったラボテスト及び簡易モ

デルを用いた予測結果や米国で行われている CCS-EORの生産実績を参考に、標準ケー

スの CO2の圧入による原油増産効果(平均)を 2.0 バレル/t-CO2とした。原油増産効果

は、油田の地下構造や EOR攻法適用前の生産方式や残油の分布状況等、様々な要素に

より変動することから、増加・減少の両方の可能性がある。それらの原油増産効果の

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変動を評価するために、1.0 バレル/t-CO2と 3.0 バレル/t-CO2についてケースを設定

した。

標準ケース(80 USD/バレル・2.0バレル/t-CO2)におけるプロジェクト IRRは、16.2%

となった。一般的に油田のプロジェクト IRR は 10%を超えることが期待されており、

標準ケースの場合は、十分な水準の収益が得られる結果となった。一方、原油増産効

果が 1.0バレル/t-CO2の場合は、プロジェクト IRRは 4.7%となり、収益性が大きく低

下することとなった。原油価格については、標準ケースの 80 USD/バレルが 60 USD/

バレルへ低下するとプロジェクト IRR は 10.8%となった。現状で原油価格は 40 USD/

バレル前後で推移しているが、CCS-EOR の事業性の観点からは 60 USD/バレル程度ま

で上昇することが前提になることが示された。

本試算には回収された CO2 を輸送するパイプライン費用や油田において CO2 を圧

入・原油を生産する際の費用(坑井コスト、CO2 リサイクリング等のコスト等)は含

めていないため(正確な費用見積もりをするための分析や情報が不足しているため、

ミスリードを避けるために本試算では除外した)、これらの費用を含めた場合は、IRR

が低下する。したがって、CO2回収装置部分のみでのプロジェクト IRR については、あ

る程度の低下を見込み、15%以上が望ましいと考えられた。その場合、15%を超えるの

は、標準ケースを含めた 3ケースであり、原油価格の上昇と原油増産効果の高い油田

(2~3バレル/t-CO2)の条件が揃った際に CCS-EORが実施できると考えられた。

図表 33 CO2回収装置の費用対効果(プロジェクト IRR・感度分析)

プロジェクト IRR 原油価格

40 USD/バレル 60 USD/バレル 80 USD/バレル

原油

増産

効果

1.0バレル/t-CO2 -3.9% 1.0% 4.7%

2.0バレル/t-CO2 4.7% 10.8% 16.2%

3.0バレル/t-CO2 10.8% 18.7% 26.4%

出所:調査コンソーシアム

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3.1.4. CCS事業を想定したファイナンスの検討

(1)先行事例の概要

CCS-EOR 事業の先行事例としては、米国の老朽化油田に既存の石炭火力発電所から

排出される CO2 を圧入して原油増産を図る事業がある。本事業は、世界最大規模の

CCS-EOR事業であり 2016年第 4四半期から運転開始予定。

本事業は JX石油開発の米国孫会社である JX Nipon Oil Exploration (EOR) Limited

と米国の IPP の NRG Energy,Inc が半々で出資する合弁事業により実施。合弁会社で

ある Petra Nova Parish Holdingsは米国テキサス州の W.A.Parish石炭火力発電所(NRG

Energy,Inc が保有する米国最大の石炭火力発電所)に燃焼排気ガスから CO2を回収す

る世界最大の CO2回収装置を建設し、回収した CO2をテキサス州の West Ranch 油田(同

発電所から南西約 130㎞に所在)の地下に圧入することで、原油増産を図るもの。

図表 34 JX石油開発グループと NRG Energy が進めている CCS-EOR事業の事業構造

出所:三井住友銀行資料

本事業により、従来は大気中に放出されていた CO2を年間で約 160万 t-CO2削減する

ことが出来、かつ現状で 500 バレル/日の原油生産量を 15,000 バレル/日まで増加さ

せることが可能となる。本事業における総事業費の約 60%を出資者である JX Nipon Oil

Exploration(EOR)Limited と NRG Energy,Inc が出資し、残り 40%を外部より調達して

いる。外部調達のうち約 40%を米国エネルギー省からの補助金で手当し、残りをプロ

ジェクトファイナンスで調達しており、JBIC 及び日本の金融機関が貸し出しを行って

いる。また、三菱重工業は、当社米国事業会社である米国三菱重工業(Mitsubishi Heavy

industries America, Inc.: MHIA)を通じて、コンソーシアム・パートナーである米

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国建設会社の The Industrial Company 社(TIC)と、Petro Nova 社から CO2回収装置の

EPC を受注している。

(2)CCS-EOR事業で想定される実施体制及びファイナンス・スキーム

CCS-EOR 事業で想定される実施体制及びファイナンス・スキームとしては、様々な

形態が想定されるが、現状では、① 日本政府のサポートを活用した実証事業のケー

スと② 大規模な CO2回収装置を導入する商業事業のケースの 2ケースが想定される。

① 日本政府のサポートを活用した実証事業のケース

本ケースは、日本政府によるサポートを活用した実証事業モデルである。PEMEX が

サプライヤー兼 EPCコントラクター(例:三菱重工業)へ CO2回収装置の調達・設置を委

託し、設置された CO2回収装置にて回収した CO2を EORへ活用する事業。本件における

事業費の一部として NEDO の委託費を活用。NEDO の委託費以外の事業費については、

PEMEXが拠出する資金以外に、JBIC/NEXIの輸出金融(バイヤーズクレジット)を活

用し、JBIC及び本邦民間銀行から借り入れる等が想定される。

本件ファイナンスにおける論点は、返済原資が PEMEX に依存するため一義的には

PEMEX の財務内容に拠るが、アンモニアプラントの故障リスクなど様々な事業リスク

への手当も重要な論点となることから、各リスクへの手当についても金融機関と協議

が必要となる。

また、NEDO 実証事業では、実証期間中は対象設備の所有権が NEDO に帰属すること

から、実証開始の時点で所有権を有しない設備及びそれに係る建設費に対する融資契

約を締結することが可能かどうかなど、詳細について確認する必要がある。

図表 35 日本政府のサポートを活用した実証事業の事業構造案

出所:三井住友銀行資料

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② 大規模な CO2回収装置を導入する商業事業のケース

本ケースは、PEMEXが CO2回収装置を自社で設置し、自社の EORサイトにおいて活用

する事業である。EPCコントラクター(例:三菱重工業)が CO2回収装置を供給、設置し、

PEMEXは当該 CO2回収装置で収集した CO2を EORへ活用して原油の増産を図る。本事業

にかかる資金は、PEMEXの自己資金、及び JBIC/NEXIの輸出金融(バイヤーズクレジ

ット)を活用し、JBIC及び本邦民間銀行からの借入による調達等が想定される。

実証事業と同様に、金融機関からの借入の返済原資は PEMEXの全事業から生み出さ

れるキャッシュフローにて賄われるため、PEMEX の財務内容が返済条件等に大きく影

響するが、資金使途である本事業が PEMEX へ与える影響等についても検討する必要が

ある。

図表 36 大規模な CO2回収装置を導入する場合の事業構造案

出所:三井住友銀行資料

(3)CCS-EOR事業を想定したファイナンスの留意点

CCS-EOR事業は、本邦企業が高い技術優位性を有する分野であり、また低炭素社会

へ向けた貢献度が高い分野であるが、その導入の為の初期費用が高い傾向があること

から、初期費用の一部を軽減する二国間クレジット制度などの公的資金支援を活用し

ながら、事業者で必要となるファイナンス・スキームを提供できるかが重要となる。

今後、事業化に向けて詳細な実施内容を検討するとともに、ファイナンス・スキー

ムの詳細についても相手国企業と検討を進め、日本政府や相手国政府、相手国企業と

連携しながら具体化を進めることにより、案件の早期実現へ寄与することが望まれる。

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3.1.5. 実証段階での CCS-EOR事業内容の検討

(1)実証事業の検討

NEDO では、二国間クレジット制度を構築した国を対象に、優れた低炭素技術・シス

テム等の温暖化対策技術を生かした具体的な排出源削減プロジェクトについて、JCMの

活用により、温室効果ガス排出削減効果、省エネルギー又は石油代替エネルギー効果等

の当該技術・システムの有効性を実証する実証事業「地球温暖化対策技術普及等推進事

業(JCM 実証事業)」を実施している。本調査で検討をしている CCS-EOR 事業スキーム

は JCM実証事業の要件に合致すると考えられることから、同プログラムを活用した実証

事業について検討した。

(2)実証事業内容

3.1.2. (2)に示した通り、PEMEX は現在 CPQ Cosoleacaque アンモニアプラントの

製造工程(シフト反応工程)から排出されている CO2を利用した CCS-EOR 事業【EOR 商

業化 Phase1】を 2018 年頃から開始する計画を進めているが、この段階における必要

CO2 量(1,000t-CO2/日)は同製造工程由来のもので確保可能であり、CO2 回収装置を設

置して追加で CO2を回収する必要性は低い。

一方、PEMEXとしても、商業化 Phase2の大規模 CCS-EOR事業においては不足する CO2

量を補う為、同アンモニアプラント等への CO2回収装置を追加で設置する必要性は十分

認識している。

そこで、将来の CCS-EOR 商業化 Phase2 を見据え、PEMEX の CO2回収装置に関する技

術理解の促進、運用経験の蓄積や、日本企業によるメキシコへの CO2回収装置の納入実

績を作るために、JCM 実証プログラムを活用した小規模 CO2回収装置の導入を提案する

こととした(実施時期はPEMEXが計画中のCCS-EOR商業化 Phase1開始と同時期を想定)。

実証事業案の概要を次項の図表に示した。

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図表 37 実証事業案の概要

CO2回収装置関連

事業所名 CPQ Cosoleacaque

所有者 PEMEX Petroquímica

対象 CO2ソース アンモニアプラント 6号機・リフォーマー排気ガス

CO2濃度 10%

年間 CO2排出量 約 86,700t-CO2

(250t-CO2/日×1基×365日×稼働率 95%)

主な導入設備 CO2回収装置、CO2コンプレッサー等

CCS-EOR事業関連

EOR実施サイト Rabasa油田、Los Soldados油田

CO2ソースから EOR サ

イトまでの距離

約 50km

圧入する年間 CO2量 約 86,700t-CO2

期待される原油回収

量(年間)

約 17.3万バレル

温室効果ガス排出削減効果

温室効果ガス排出削

減量(年間)

約 63,697 t-CO2

出所:PEMEXおよび調査コンソーシアムにて設定

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図表 38 実証事業案のアンモニアプラント(6 号機)と CO2回収装置設置の位置(赤点線内)

出所: Google Earth画像(画像データ: Google)を使用し日本総研作成

AP No.6 AP No.7

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4.本プロジェクトに適用可能な排出削減方法論の検討、同方法論を用いた排出削減見込

量の試算

4.1. MRV方法論の分析

4.1.1. 米国 The American Carbon Registryにおける CCS-EOR方法論の分析

米国 The American Carbon Registry11により、CCS-EOR のプロジェクトにおける CO2

排出削減量を算定するために、Methodology for GHG Emission Reductions from Carbon

Capture and Storage Project,v1.0が 2015年 4月に公表された。本方法論は、California

州排出権取引制度において利用可能となる見通しである。

本方法論では、Capture(回収工程)、Transport(輸送工程)と Injection and Storage

(圧入・貯留工程)における CO2漏洩と化石燃料や購買電力の消費による CO2排出を算定

対象としている。CO2回収の CO2ソースについては限定せず、発電所や産業分野(天然ガ

ス製造、肥料プラント、エタノール製造)、ポリジェネレーション設備から排出される

CO2を想定している。輸送については、パイプラインや運搬船、鉄道やトラック等のあら

ゆる輸送手段を対象としている。EORの貯留層は米国が定める ClassⅡ以上(ClassⅡ又

は ClassⅥ)の基準を満たすかカナダに定められている同程度の基準を満たす必要があ

る。通常 CCS プロジェクトは 30 年以上の期間を要するが、クレジット発行対象期間は

10年と定めている。

Injection and Storage(圧入・貯留工程)における CO2漏洩については、各設備から

漏洩と地表からの漏洩について算定対象としている。地表からの CO2 漏洩については、

貯留層への圧入開始後の 5年間は監視をする必要がある。監視については、プロジェク

トに則したモニタリング計画を立案の上、モニタリングを行い、漏洩量はプロジェクト

排出量としてカウントする必要がある。

11 http://americancarbonregistry.org/carbon-accounting/standards-methodologies

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図表 39 CCSプロジェクトの CO2の流れと排出源

出所:Methodology for GHG Emission Reductions from Carbon Capture and Storage

Project,v1.0(The American Carbon Registry)

4.1.2. CDMにおける方法論の分析

原油増産回収を伴う CO2回収・貯留および CO2回収・貯留に適用可能と考えられる CDM

方法論は以下の通りである。

NM0167(Recovery of anthropogenic CO2 from large industrial GHG emission

sources and its storage in an oil reservoir (The White Tiger Oil Field

Carbon Capture and Storage (CCS) project in Vietnam))

NM0168(The capture of CO2 from natural gas processing plants and

liquefied natural gas (LNG) plants and its storage in underground

aquifers or abandoned oil/gas reservoirs (The capture of the CO2 from

the Liquefied Natural Gas (LNG) complex and its geological storage in

the aquifer located in Malaysia))

NM名無し(Capture of CO2 from the front-end of integrated Gas-to-Liquid

(GTL) plants, transport via pipeline and long-term containment in

appropriately selected and well-managed geological Storage Complexes.)

本プロジェクトと類似している内容の CDM 方法論は NM0167および NM0168である。こ

れらは 2005年 9月と 2006年 1月に提案された CCS関連の CDM方法論だが、いずれも貯

留する CO2 の漏洩量の正確な把握と長期的な責任について、方法論パネルより十分な検

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討がなされていないとの懸念が示された。

具体的には、IPCCの CCS特別報告書の「期間 100年または 1,000年の漏出量は、いず

れも 90%を超える確率で圧入量の 1%未満である」との報告に基づき、クレジット期間

が 7 年の場合には漏洩割合を 0.7%に、クレジット期間が 10 年の場合には漏洩割合を

1.0%に設定するなどの想定を行っている。また、計測項目や頻度などのモニタリング計

画も詳細まで記載がなされておらず、こうした点が方法論パネルからの指摘を受けた要

因と考えられる。

4.1.3. JCMにおける方法論の検討状況

2014年度及び 2012年度の NEDOの地球温暖化対策技術普及等推進事業において、原油

増産を伴う CO2回収・貯留に関連する調査が 3件実施されている。

環境総合テクノスが実施した調査(2014年度)では、インドネシア国におけるグンデ

ィガス田 CCSプロジェクトについて検討しているが、2016年 1月現在、報告書は公表さ

れていない。

アラビア石油・丸紅・三菱総合研究所が実施した調査(2012年度)では、インドネシ

アにおいて対象とする油田の貯留層情報の精査と詳細な 3D モデルの構築による CO2 貯

留・削減量の算定を行った。この調査では、そうした実査とシミュレーションを基に策

定した貯留サイトの適切性評価の手法・手順や、モニタリング方法・頻度に関して有用

な知見を取りまとめている。

三菱重工業と三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券が実施した調査(2012 年度)では、

同じくインドネシアの具体的なサイトにおいて、前述の CDMの未承認方法論をベースと

した方法論の開発を行った。懸案要素である地表面からの漏出については、IPCCのデフ

ォルト値を利用する方法に加え、地表面からの漏出量を実測によって同定する方法も選

択肢として準備することで、漏出リスクへの配慮を行っている。また、IPCCのデフォル

ト値については 1%を採用しているが、1%の妥当性およびデフォルト値の利用の妥当性

については今後の検討課題として指摘している。

4.1.4. ISO/TC265の検討状況

ISO/TC265 Carbon dioxide capture, transportation, and geological storage は、

CO2回収・輸送・地中貯留(CCS)分野における設計、建設、操業、環境計画とマネジメ

ント、リスクマネジメント、定量化、モニタリングと検証及び関連活動の標準化を行う

ことを目的に、2011 年より検討が行われている。

ISO/TC265 には 6 つのワーキンググループが設立されている。各ワーキンググループ

の活動は次の通り。EORを対象として WG6は、2014年に設立された。現時点では作業段

階であり、特にドラフトも公表されていない。本事業調査における方法論では内容を内

容を反映することは出来ないが、方法論の申請の際には、WG6 の作業状況も確認の上、

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- 44 -

必要に応じて内容を反映することとする。

WG1(回収)

CO2の発生源(火力発電所、製鉄所、セメント/石油精製等の化学プラントなど)

において発生する CO2 を回収する回収システムの技術とプロセスを対象として

標準化を実施

WG2(輸送)

CO2の発生源から貯留施設への回収した CO2の輸送を対象として標準化を実施

WG3(貯留)

回収した CO2の地中貯留を対象として標準化を実施

WG4(Q&V)

CCSによる CO2の排出削減の定量化と検証を対象にして標準化を実施

WG5(クロスカッティングイッシュー)

CCS の各分野(回収・輸送・貯留)において横断的に関連する事項を対象にし

て標準化を実施

WG6(CCS-EOR)

CCSを EORのために適用する場合を対象として標準化を実施

4.2. 排出削減方法論の検討

本プロジェクトに適用する排出削減方法論案は、米国 The American Carbon Registry

において開発された、CCSプロジェクト(EOR含む)における CO2排出削減量を算定するため

の方法論である Methodology for GHG Emission Reductions from Carbon Capture and

Storage Project,v1.0を参考に、本プロジェクトの想定される条件を踏まえて検討した。

図表 40 CCS-EORの流れ

出所:Methodology for GHG Emission Reductions from Carbon Capture and Storage

Project,v1.0(The American Carbon Registry)

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A. Title of the methodology

The capture of CO2 from industrial facilities and its storage in an oil reservoir with

enhanced oil recovery in Mexico.

メキシコにおける産業施設からの CO2回収と原油増進回収のための油層への貯留

B. Terms and definitions

Terms Definitions

Industrial facilities CO2を排出する産業施設は以下を対象とする。

化石燃料による火力発電所

ガス精製プラント

リファイナリープラント

化学プラント

Enhanced oil recovery 油層に CO2を圧入し、地下に残っている原油を回収する。

C. Summary of the methodology

Items Summary

GHG emission reduction

measures

産業施設から大気に放出されるCO2を回収し原油増進回

収のために油層に圧入し貯留することで、大気放出され

るCO2量を削減する。

Calculation of reference

emissions

油層に圧入した CO2 量が産業施設から大気に放出された

場合の CO2量を算定する。

Calculation of project

emissions

CO2回収から原油増進回収のための貯留で利用した化石

燃料と購買電力の消費によるCO2排出量と、以下3つの工

程からのCO2排出量を算定する。

CO2回収工程

CO2輸送工程

CO2圧入・貯留工程

Monitoring parameters CO2回収工程

CO2回収施設へのCO2流量

CO2回収施設にて利用した化石燃料の消費量

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CO2回収施設にて利用した購買電力消費量

CO2輸送工程

CO2輸送施設へのCO2流量

CO2輸送施設にて利用した化石燃料の消費量

CO2輸送施設にて利用した購買電力消費量

CO2圧入・貯留工程

貯留層へのCO2圧入量

圧入井への再利用CO2量

圧入井・生産井と地上設備のCO2放出流量

フレアリングガス量

天然ガスの生産量

原油の生産量

CO2圧入・貯留にて利用した化石燃料の消費量

CO2圧入・貯留にて利用した購買電力消費量

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図表 41 プロジェクトフローとモニタリングポイント(想定)

出所:日本総研作成

D. Eligibility criteria

This methodology is applicable to projects that satisfy all of the following

criteria.

Criterion 1 産業施設から CO2を回収し、その CO2をメキシコ国内の油田に圧入し、原油増

産回収を行うプロジェクトであること。

Criterion 2 対象とする CO2を供給する産業施設に対して、CO2の回収・貯留を義務付ける

メキシコの法律や規制が存在せず、大気中に放散している。

Criterion 3 対象とする井戸は貯留層からの CO2漏洩を回避する仕様を満たしていること。

(例:米国環境保護庁 UIC プログラム ClassⅡやその他の適切な基準を満た

す)

Criterion 4 貯留層からの CO2漏洩がないことを保証する計画があること。

(例:貯留層内の圧力と温度の変化をモニタリングする)

貯留層からの CO2漏洩がないことを確認するために、検証時に保証した計画

について確認すること。

Methodology for GHG Emission Reductions from Carbon Capture and Storage

Project,v1.0(The American Carbon Registry)、CDM における提案済み方法論および JCM

にて過去検討された方法論など類似案件等から貯留層からの CO2 漏洩リスクに留意する要

件の設定を行った。適格性要件 3 及び 4 は、貯留層からの CO2漏洩リスクに留意するため

Source

plant

CO2

capture

system

Injection

well

Production

well

CO2

transportation

system

Gas

Separation

system

Associated

gas

remover

CO2

Reinjection

System

Crude oil

tankoil

gas

Oil reservoir

oil/gas

oil/gas

oil

gas

CO2 CO2 CO2

CO2

CO2

CO2

CO2

CO2

CO2

M

E

Measuring instrument for

gas/CO2 volume

Measuring instrument for fossil

fuels and electricity consumption

M1 M2 M3

M4

E1 E2 E3 E4

E5

E6

E7

E8

VMeasuring instrument for vented

gas volume

V1 V2

V3

V4

V5

M6

M7

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の要件である。また、実際のプロジェクトが決定した際に、より具体的な設定を行うこと

とする。

E. Emission Sources and GHG types

Reference emissions

Emission sources GHG types

産業施設から排出される CO2 CO2

Project emissions

Emission sources GHG types

CO2 Capture

回収工程からの CO2漏洩 CO2

回収施設での化石燃料の使用 CO2

回収施設での購入電力の使用 CO2

CO2 Transport

輸送工程からの CO2漏洩 CO2

輸送施設での化石燃料の使用 CO2

輸送施設での購入電力の使用 CO2

CO2 Injection and Storage

圧入井・生産井と地上設備からの CO2放出 CO2,CH4

随伴ガスの焼却処理 CO2,CH4,N2O

生産される原油・天然ガスに含まれる CO2 CO2

圧入・貯留施設での化石燃料の使用 CO2

圧入・貯留施設での購入電力の使用 CO2

貯留層からの CO2漏洩 CO2

Methodology for GHG Emission Reductions from Carbon Capture and Storage

Project,v1.0(The American Carbon Registry)にて設定されている GHG排出源を元に、想

定されるプロジェクトにおける GHG 排出源の設定を行った。貯留層からの CO2漏洩につい

ては、油田と井戸のスペックより通常は漏洩されないものであるが、IPCCの CCS特別報告

書の「期間 100年または 1000年の漏出量は、いずれも 90%を超える確率で圧入量の 1%未

満である」との報告に基づき、プロジェクト期間 10年に対し、漏洩割合を 1.0%に設定す

ることを想定している。

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図表 42 参考とする GHG排出源

出所:Methodology for GHG Emission Reductions from Carbon Capture and Storage

Project,v1.0(The American Carbon Registry)

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F. Establishment and calculation of reference emissions

F.1. Establishment of reference emissions

メキシコでは産業施設からの CO2排出に対して CO2の回収および貯留の義務を課す制度は存

在しない。また、CO2貯留を用いた原油増産回収も商用ベースで稼動するケースも存在して

いない。

したがって、回収・貯留施設を用いた原油増産プロジェクトが実施される可能性は極めて

低く、産業施設からのCO2排出は大気中に放散され続ける蓋然性が高い。

リファレンス排出量は、貯留層に圧入するCO2量から算定を行う。

純削減量の算定は、CO2の回収工程、輸送工程と圧入施設でのCO2漏洩を含めること、及び

貯留層からのCO2漏洩を保守的に算定することで達成される。

Methodology for GHG Emission Reductions from Carbon Capture and Storage

Project,v1.0(The American Carbon Registry)によると、リファレンスシナリオは、

Projection-based baseline と Standards-based baseline の 2 つの設定方法が提示され

ている。Projection-based baseline は、実プロジェクトで産業施設から回収される CO2

量を大気放出された CO2 量と設定している。多くのプロジェクトが Projection-based

baseline の考え方に基づき、算定することが可能であると記載されている。

Standards-based baseline は技術仕様に基づき、出力単位あたりの CO2量を事前に設定す

る。セクター固有値を利用するため、石炭火力発電所や天然ガス発電所の適用を想定して

いる。

本方法論では、Methodology for GHG Emission Reductions from Carbon Capture and

Storage Project,v1.0 の Projection-based baseline の考え方と、既存施設からの CO2排

出量を考慮しないことで、保守的なリファレンスシナリオを設定することに留意した。

F.2. Calculation of reference emissions

RE𝑝 = ∑(𝑉𝑒𝑜𝑟_𝑐𝑜2𝑖𝑛,𝑝 − 𝑉𝑖𝑛𝑗𝑒𝑐𝑡𝑖𝑜𝑛−𝑤𝑒𝑙𝑙_𝑟𝑒𝑐𝑜2𝑖𝑛,𝑝) × 𝜌𝑐𝑜2

𝑅𝐸𝑝 tCO2/p 期間 pにおけるリファレンス排出量

𝑉𝑒𝑜𝑟_𝑐𝑜2𝑖𝑛,𝑝 m3/p 期間 pにおける油田に圧入される CO2量

𝑉𝑖𝑛𝑗𝑒𝑐𝑡𝑖𝑜𝑛−𝑤𝑒𝑙𝑙_𝑟𝑒𝑐𝑜2𝑖𝑛,𝑝 m3/p 期間 p における再圧入装置から圧入井が受け

入れた CO2量

𝜌𝑐𝑜2 tCO2/m3 CO2の密度

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本方法論ではパイプラインで輸送されて圧入井から油田に圧入される CO2 量の測定値に、

CO2 の密度を乗じることで、CO2 排出量を算定する。Methodology for GHG Emission

Reductions from Carbon Capture and Storage Project,v1.0(The American Carbon

Registry)では、圧入井から圧入される CO2量ではなく、発電所又は産業施設から回収施設

に送られる CO2量を活動量としている。本方法論では JCM制度の考え方に基づき、CO2の回

収工程、輸送工程と圧入施設からの CO2漏洩量も含めた油層に圧入された CO2量を本方法論

での活動量とする。

G. Calculation of project emissions

プロジェクト排出量の算定は、Methodology for GHG Emission Reductions from Carbon

Capture and Storage Project,v1.0(The American Carbon Registry)にて設定されている

ように、CO2回収工程、輸送工程と圧入・貯留工程からの各CO2排出量を算定し、それを足し

合わせて算定する。

𝑃𝐸𝑝 = 𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒,𝑝 + 𝑃𝐸𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡,𝑝 + 𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟,𝑝

𝑃𝐸𝑝 tCO2/p 期間 pにおけるプロジェクト排出量

𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒,𝑝 tCO2/p 期間 pにおける回収工程の CO2排出量

𝑃𝐸𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡,𝑝 tCO2/p 期間 pにおける輸送工程の CO2排出量

𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟,𝑝 tCO2/p 期間 pにおける圧入・貯留工程の CO2排出量

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図表 43 参考とする CCSプロジェクトの CO2の流れと排出源

出所:Methodology for GHG Emission Reductions from Carbon Capture and Storage

Project,v1.0(The American Carbon Registry)

CO2回収工程からのCO2排出量

CO2回収工程は、産業施設からCO2を回収し輸送するまでの間に漏洩するCO2と回収施設で

利用する化石燃料及び購買電力の消費により排出されるCO2を算定する。

CO2漏洩量は、回収施設が受け入れたCO2流量と輸送施設に送られるCO2流量の差分から算

定を行う。CO2流量の差分にCO2密度を乗じることでCO2量を算定する。各CO2流量は、国際基

準またはメキシコ基準にて校正された流量計を用いた実測値を利用する。

化石燃料及び購買電力の消費によるCO2排出量は、化石燃料及び電力の国際基準またはメ

キシコ基準にて校正された計量器を用いた実測値を把握し、メキシコ政府又はIPCCの公表

値の排出係数を乗じることで算定を行う。

𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒,𝑝 = 𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒_𝑙𝑒𝑎𝑘,𝑝 + 𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒_𝑓𝑢𝑒𝑙,𝑝 + 𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒_𝑒𝑙𝑒𝑐,𝑝

𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒,𝑝 tCO2/p 期間 pにおける回収工程から CO2排出量

𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒_𝑙𝑒𝑎𝑘,𝑝 tCO2/p 期間 pにおける回収工程からの CO2漏洩量

𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒_𝑓𝑢𝑒𝑙,𝑝 tCO2/p 期間 p における回収施設の化石燃料の利用に

よる CO2排出量

𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒_𝑒𝑙𝑒𝑐,𝑝 tCO2/p 期間 p における回収施設の電力の利用による

CO2排出量

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回収工程からの CO2漏洩

𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒_𝑙𝑒𝑎𝑘𝑒,𝑝 = ∑(𝑉𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒_𝐶𝑂2𝑖𝑛,𝑝 − 𝑉𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡_𝐶𝑂2𝑖𝑛,𝑝) × 𝜌𝑐𝑜2

𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒_𝑙𝑒𝑎𝑘,𝑝 tCO2/p 期間 pにおける回収工程からの CO2漏洩量

𝑉𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒_𝐶𝑂2𝑖𝑛,𝑝 m3/p 期間 pにおける回収施設が受け入れた CO2流量

𝑉𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡_𝐶𝑂2𝑖𝑛,𝑝 m3/p 期間 pにおける輸送施設が受け入れた CO2流量

𝜌𝑐𝑜2 tCO2/m3 CO2の密度

CO2回収施設での化石燃料の利用

𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒_𝑓𝑢𝑒𝑙,𝑝 = 𝐹𝐶𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒,𝑝 × 𝐸𝐹𝑓𝑢𝑒𝑙

𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒_𝑓𝑢𝑒𝑙,𝑝 tCO2/p 期間 p における回収施設の化石燃料の利用によ

る CO2排出量

𝐹𝐶𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒,𝑝 t,kg,Nm3/p 期間 pにおける回収施設の化石燃料の消費量

𝐸𝐹𝑓𝑢𝑒𝑙 tCO2/t,kg,Nm3 化石燃料の排出係数

CO2回収施設での電力の利用

𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒_𝑒𝑙𝑒𝑐,𝑝 = 𝐸𝐶𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒,𝑝 × 𝐸𝐹𝑔𝑟𝑖𝑑

𝑃𝐸𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒_𝑒𝑙𝑒𝑐,𝑝 tCO2/p 期間 pにおける回収施設の電力の利用による CO2

排出量

𝐸𝐶𝑐𝑎𝑝𝑡𝑢𝑟𝑒,𝑝 MWh/p 期間 pにおける回収施設の電力消費量

𝐸𝐹𝑔𝑟𝑖𝑑 tCO2/MWh 系統電力の排出係数

CO2輸送工程からのCO2排出量

CO2輸送工程は、回収施設からのCO2についてパイプラインを用いて、対象とする油田に輸

送するまでの間に漏洩するCO2量と、輸送施設で利用する化石燃料及び購買電力の消費によ

り排出されるCO2量を算定する。

CO2漏洩量は、輸送施設が受け入れたCO2流量と圧入井に送られるCO2流量の差分から算定

を行う。CO2流量差分にCO2密度を乗じることでCO2量を算定する。各CO2流量は、国際基準ま

たはメキシコ基準にて校正された流量計を用いた実測値を利用する。

化石燃料及び購買電力の消費によるCO2排出量は、化石燃料及び電力の国際基準またはメ

キシコ基準にて校正された計量器を用いた実測値を把握し、メキシコ政府又はIPCCの公表

値の排出係数を乗じることで算定を行う。

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𝑃𝐸𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡,𝑝 = 𝑃𝐸𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡_𝑙𝑒𝑎𝑘,𝑝 + 𝑃𝐸𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡_𝑓𝑢𝑒𝑙,𝑝 + 𝑃𝐸𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡_𝑒𝑙𝑒𝑐,𝑝

𝑃𝐸𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡,𝑝 tCO2/ 期間 pにおける輸送工程の CO2排出量

𝑃𝐸𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡_𝑙𝑒𝑎𝑘,𝑝 tCO2/p 期間 pにおける輸送工程からの CO2漏洩量

𝑃𝐸𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡_𝑓𝑢𝑒𝑙,𝑝 tCO2/p 期間 p における輸送施設の化石燃料の利用に

よる CO2排出量

𝑃𝐸𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡_𝑒𝑙𝑒𝑐,𝑝 tCO2/p 期間 p における輸送施設の電力の利用による

CO2排出量

輸送工程からの CO2漏洩

𝑃𝐸𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡_𝑙𝑒𝑎𝑘𝑒,𝑝 = ∑(𝑉𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡_𝐶𝑂2𝑖𝑛,𝑝 − 𝑉𝑖𝑛𝑗𝑒𝑐𝑡𝑖𝑜𝑛−𝑤𝑒𝑙𝑙_𝐶𝑂2𝑖𝑛,𝑝) × 𝜌𝑐𝑜2

𝑃𝐸𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡_𝑙𝑒𝑎𝑘,𝑝 tCO2/p 期間 pにおける輸送工程からの CO2漏洩量

𝑉𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡_𝐶𝑂2𝑖𝑛,𝑝 m3/p 期間 pにおける輸送施設が受け入れた CO2流量

𝑉𝑖𝑛𝑗𝑒𝑐𝑡𝑖𝑜𝑛−𝑤𝑒𝑙𝑙_𝐶𝑂2𝑖𝑛,𝑝 m3/p 期間 p における輸送施設から圧入井が受け入

れた CO2流量

𝜌𝑐𝑜2 tCO2/m3 CO2の密度

CO2輸送施設での化石燃料の利用

𝑃𝐸𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡_𝑓𝑢𝑒𝑙,𝑝 = 𝐹𝐶𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡,𝑝 × 𝐸𝐹𝑓𝑢𝑒𝑙

𝑃𝐸𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡_𝑓𝑢𝑒𝑙,𝑝 tCO2/p 期間 p における輸送施設の化石燃料の利用によ

る CO2排出量

𝐹𝐶𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡,𝑝 t,kg,Nm3/p 期間 pにおける輸送施設の化石燃料の消費量

𝐸𝐹𝑓𝑢𝑒𝑙 tCO2/t,kg,Nm3 化石燃料の排出係数

CO2輸送施設での電力の利用

𝑃𝐸𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡_𝑒𝑙𝑒𝑐,𝑝 = 𝐸𝐶𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡,𝑝 × 𝐸𝐹𝑔𝑟𝑖𝑑

𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟_𝑒𝑙𝑒𝑐,𝑝 tCO2/p 期間 pにおける輸送施設の電力の利用による CO2

排出量

𝐸𝐶𝑡𝑟𝑎𝑛𝑠𝑝𝑜𝑟𝑡,𝑝 MWh/p 期間 pにおける輸送施設の電力消費量

𝐸𝐹𝑔𝑟𝑖𝑑 tCO2/MWh 系統電力の排出係数

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CO2圧入・貯留工程からのCO2排出量

CO2圧入・貯留工程は、以下の5つの項目のCO2排出量を算定する。

・ 圧入井・生産井と地上設備から放出するCO2

・ 随伴ガスの焼却処理からのGHG(CO2,CH4及びN2O)

・ 生産された原油・天然ガスに含まれるCO2

・ 各施設で利用する化石燃料及び購買電力の消費により排出されるCO2

・ 貯留層から地表に漏洩するCO2

CO2放出量は、設備からのガス流量にCO2とCH4の割合及び密度を乗じることで算定を行う。

設備からのガス流量とCO2及びCH4の割合は、国際基準またはメキシコ基準にて校正された流

量計を用いた実測値を使用する。

随伴ガスの焼却処理からのGHG排出量については、フレアリングガス量を基に算定を行う。

フレアリングガス量については、国際基準またはメキシコ基準にて校正された流量計を用

いた実測値を利用する。

生産された原油・天然ガスに含まれるCO2排出量は、原油と天然ガス生産量とCO2の組成割

合により算定を行う。

化石燃料及び購買電力の消費によるCO2排出量は、化石燃料及び電力の国際基準またはメ

キシコ基準にて校正された計量器を用いた実測値を把握し、メキシコ政府又はIPCCの公表

値の排出係数を乗じることで算定を行う。

𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟,𝑝 = 𝑃𝐸𝑣𝑒𝑛𝑡,𝑝 + 𝑃𝐸𝑓𝑙𝑎𝑟𝑖𝑛𝑔,𝑝 + 𝑃𝐸𝑒𝑛𝑡𝑟𝑎𝑖𝑛𝑒𝑑,𝑝 + 𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟_𝑓𝑢𝑒𝑙,𝑝 + 𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟_𝑒𝑙𝑒𝑐,𝑝 + 𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟_𝑙𝑒𝑎𝑘𝑎𝑔𝑒,𝑝

𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟,𝑝 tCO2/p 期間 pにおける圧入・貯留工程からの CO2排出量

𝑃𝐸𝑣𝑒𝑛𝑡,𝑝 tCO2/p 期間 pにおける設備からの CO2放出量

𝑃𝐸𝑓𝑙𝑎𝑟𝑖𝑛𝑔,𝑝 tCO2/p 期間 p における随伴ガスの焼却処理からの CO2

排出量

𝑃𝐸𝑒𝑛𝑡𝑟𝑎𝑖𝑛𝑒𝑑,𝑝 tCO2/p 期間 p における生産される原油・天然ガスに含

まれる CO2からの CO2排出量

𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟_𝑓𝑢𝑒𝑙,𝑝 tCO2/p 期間 p における圧入・貯留施設の化石燃料の利

用による CO2排出量

𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟_𝑒𝑙𝑒𝑐,𝑝 tCO2/p 期間 p における圧入・貯留施設の電力の利用に

よる CO2排出量

𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟_𝑙𝑒𝑎𝑘𝑎𝑔𝑒,𝑝 tCO2/p 期間 pにおける貯留層からの CO2漏洩量

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圧入井・生産井と地上設備からの CO2放出

𝑃𝐸𝑣𝑒𝑛𝑡,𝑝

= ∑(𝑉𝐵𝑙𝑜𝑤𝑑𝑎𝑤𝑛_𝑖,𝑝 × 𝑅𝐶𝑂2,𝑝 × 𝜌𝐶𝑂2)

+ ∑(𝑉𝐵𝑙𝑜𝑤𝑑𝑎𝑤𝑛_𝑖,𝑝 × 𝑅𝐶𝐻4,𝑝 × 𝜌𝐶𝐻4 × 𝐺𝑊𝑃𝐶𝐻4)

𝑃𝐸𝑣𝑒𝑛𝑡,𝑝 tCO2/p 期間 pにおける設備からの CO2放出量

𝑉𝐵𝑙𝑜𝑤𝑑𝑎𝑤𝑛_𝑖,𝑝 m3/p 期間 p における設備(i)からの圧抜きされたガ

ス流量

𝑅𝐶𝑂2,𝑝 % 期間 p における設備(i)からの圧抜きされたガ

スの CO2割合

𝑅𝐶𝐻4,𝑝 % 期間 p における設備(i)からの圧抜きされたガ

スの CH4割合

𝜌𝐶𝑂2 tCO2/m3 CO2の密度

𝜌𝐶𝐻4 tCO2/m3 CH4の密度

𝐺𝑊𝑃𝐶𝐻4 - CH4の地球温暖化係数

随伴ガスの焼却処理

𝑃𝐸𝑓𝑙𝑎𝑟𝑖𝑛𝑔,𝑝 = ∑ (𝑉𝑔𝑎𝑠𝑓𝑙𝑎𝑟𝑒𝑑_𝑗,𝑝 × ∑(𝐶𝑗 × 𝑦𝑗) × 44.0123.64⁄ )

+ ∑(𝑉𝑔𝑎𝑠𝑓𝑙𝑎𝑟𝑒𝑑_𝑗,𝑝 × (1 − 𝐷𝐸) × 𝑅𝐶𝐻4_𝑗,𝑝 × 𝜌𝐶𝐻4 × 𝐺𝑊𝑃𝐶𝐻4)

+ ∑(𝑉𝑔𝑎𝑠𝑓𝑙𝑎𝑟𝑒𝑑_𝑗,𝑝 × 𝐸𝐹𝑓𝑙𝑎𝑟𝑖𝑛𝑔_𝑁2𝑂 × 𝐺𝑊𝑃𝑁2𝑂)

𝑃𝐸𝑓𝑙𝑎𝑟𝑖𝑛𝑔,𝑝 tCO2/p 期間 p における随伴ガスの焼却処理からの CO2

排出量

𝑉𝑔𝑎𝑠𝑓𝑙𝑎𝑟𝑒𝑑_𝑗,𝑝 m3/p 期間 pにおけるフレアリングガス量

𝐶𝑗 - 炭素原子数

𝑦𝑗 - 炭素含有ガスのモル分率

44.01 - CO2分子量の基準値

23.64 - 15℃・1気圧の標準状態での 1モル量

𝐷𝐸 - フレアの破壊効率

𝑅𝐶𝐻4_𝑗,𝑝 - CH4の割合

𝜌𝐶𝐻4 tCH4/m3 随伴ガスの焼却に伴う N2O排出係数

𝐺𝑊𝑃𝐶𝐻4 - CH4の地球温暖化係数

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𝐸𝐹𝑓𝑙𝑎𝑟𝑖𝑛𝑔_𝑁2𝑂 tN2O/m3 随伴ガスの焼却に伴う N2O排出係数

𝐺𝑊𝑃𝑁2𝑂 - N2Oの地球温暖化係数

CO2圧入・貯留工程での化石燃料の利用

𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟_𝑓𝑢𝑒𝑙,𝑝 = 𝐹𝐶𝑒𝑜𝑟,𝑝 × 𝐸𝐹𝑓𝑢𝑒𝑙

𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟_𝑓𝑢𝑒𝑙,𝑝 tCO2/p 期間 p における圧入・貯留施設の化石燃料の利用

による CO2排出量

𝐹𝐶𝑒𝑜𝑟,𝑝 t,kg,Nm3/p 期間 p における圧入・貯留施設の化石燃料の消費

𝐸𝐹𝑓𝑢𝑒𝑙 tCO2/t,kg,Nm3 化石燃料の排出係数

CO2圧入・貯留工程での電力の利用

𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟_𝑒𝑙𝑒𝑐,𝑝 = 𝐸𝐶𝑒𝑜𝑟,𝑝 × 𝐸𝐹𝑔𝑟𝑖𝑑

𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟_𝑒𝑙𝑒𝑐,𝑝 tCO2/p 期間 p における圧入・貯留施設の電力の利用によ

る CO2排出量

𝐸𝐶𝑒𝑜𝑟,𝑝 MWh/p 期間 pにおける圧入・貯留施設の電力消費量

𝐸𝐹𝑔𝑟𝑖𝑑 tCO2/MWh 系統電力の排出係数

貯留層からの CO2漏洩

𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟_𝑙𝑒𝑎𝑘𝑎𝑔𝑒,𝑝 = 𝑉𝑒𝑜𝑟_𝑐𝑜2_𝑖𝑛,𝑝 × 𝑅𝑙𝑒𝑎𝑘

𝑃𝐸𝑒𝑜𝑟_𝑙𝑒𝑎𝑘𝑎𝑔𝑒,𝑝 tCO2/p 期間 pにおける貯留層からの CO2漏洩量

𝑉𝑒𝑜𝑟_𝑐𝑜2_𝑖𝑛,𝑝 Nm3/p 期間 pにおける油層に圧入された CO2量

𝑅𝑙𝑒𝑎𝑘 % 貯留層からの漏洩率

H. Calculation of emissions reductions

𝐸𝑅𝑝 = 𝑅𝐸𝑝 − 𝑃𝐸𝑝

𝐸𝑅𝑝 tCO2/p 期間 pにおける GHG排出削減量

𝑅𝐸𝑝 tCO2/p 期間 pにおけるリファレンス排出量

𝑃𝐸𝑝 tCO2/p 期間 pにおけるプロジェクト排出量

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I. Data and parameters fixed ex ante

The source of each data and parameter fixed ex ante is listed as below.

Parameter Description of data Source

𝐸𝐹𝑓𝑢𝑒𝑙 化石燃料の排出係数 IPCC default values

provided in table 1.4 of

Ch.1 Vol.2 of 2006 IPCC

Guidelines for National

GHG Inventories.

𝐸𝐹𝑔𝑟𝑖𝑑 メキシコ系統電力の排出係数 Updates on Grid

Electricity Emission

Factors, National

Committee on Clean

Development Mechanism,

Mexico, unless otherwise

instructed by the Joint

Committee.

𝐸𝐹𝑓𝑙𝑎𝑟𝑖𝑛𝑔_𝑁2𝑂 随伴ガスの焼却に伴う N2O排出係数 Updates on Emission

Factors, National

Committee on Clean

Development Mechanism,

Mexico, unless otherwise

instructed by the Joint

Committee.

𝐺𝑊𝑃𝐶𝐻4 CH4: 25

CH4の地球温暖化係数

2006 IPCC Guidelines for

National Greenhouse Gas

Inventories

𝐺𝑊𝑃𝑁2𝑂 N2O: 298

N2Oの地球温暖化係数

2006 IPCC Guidelines for

National Greenhouse Gas

Inventories

𝑅𝑙𝑒𝑎𝑘 1%

貯留層から地表への漏洩率

The IPCC Special Report on

Carbon Dioxide Capture and

Storage

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4.3. 排出削減量の試算

本調査では、商業段階の CCS-EOR事業(アンモニアプラントリフォーマーからの排気ガス

に含まれる CO2(濃度 10%)を日量 950t-CO2回収し、CCS-EOR を行う)を対象に、排出削減量

の試算を行った。2017年から設計・建設を開始し、2020年から実際に CCS-EORを開始する

と仮定して、当初のプロジェクト期間を 2029年まで(10年間)とした。また、CCS-EORに要

するエネルギーについては、プロジェクト期間内で平準化して試算している。

① 温室効果ガス排出削減量

リファレンス排出量からプロジェクト排出量を除し、排出削減量を算定した。年間温室

効果ガス排出削減量は 254,750 t-CO2、プロジェクト期間(10 年間)における排出削減量は

2,547,500 t-CO2となった。

図表 44 温室効果ガス排出削減量

期間

(年)

温室効果ガス排出削減量

(t-CO2/年)

リファレンス排出量

(t-CO2/年)

プロジェクト排出量

(t-CO2/年)

2020 254,750 346,750 92,000

2021 254,750 346,750 92,000

2022 254,750 346,750 92,000

2023 254,750 346,750 92,000

2024 254,750 346,750 92,000

2025 254,750 346,750 92,000

2026 254,750 346,750 92,000

2027 254,750 346,750 92,000

2028 254,750 346,750 92,000

2029 254,750 346,750 92,000

*算定途中では小数点以下を含めているが、結果の記載は小数点以下を切り捨てている

出所: 調査コンソーシアムによる試算

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② リファレンス排出量

本事業では、CPQ Cosoleacaque のアンモニアプラントリフォーマー排気ガスから CO2を

回収し、それを Cinco Presidentes油田群の油田へ圧入し、CCS-EORを行う。この CO2ソー

スから排出されている CO2のうち 95%(950t-CO2/日)を回収して CCS-EORへ使うこととし

た。リファレンス排出量は以下のとおり。

図表 45 リファレンス排出量

期間(年) リファレンス排出量(t-CO2/年)

2020 346,750

2021 346,750

2022 346,750

2023 346,750

2024 346,750

2025 346,750

2026 346,750

2027 346,750

2028 346,750

2029 346,750

出所:調査コンソーシアムによる試算・設定

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③ プロジェクト排出量

プロジェクト排出量については、CO2の回収および圧入により消費される電力や熱由来の

CO2排出量、CO2漏洩、フレアリングにより発生する CO2排出量がある。

メキシコにおける自主的な排出権取引制度 GEI(Gases de Efecto Invernadero)にて算定

された 2013年の系統電力の排出係数 0.4999t-CO2/MWhと SENERが設定した天然ガスの排出

係数 53.66kg-CO2/MMbtuを用いてそれぞれを温室効果ガス排出量へ換算した。

図表 46 プロジェクト排出量

期間(年)

電力 天然ガス CO2漏洩

(t-CO2/年)

合計

(t-CO2/年) 消費量

(MWh)

CO2排出量

(t-CO2/年)

消費量

(MMbtu)

CO2排出量

(t-CO2/年)

2020 25,964 12,979 1,408,000 75,553 3,468 92,000

2021 25,964 12,979 1,408,000 75,553 3,468 92,000

2022 25,964 12,979 1,408,000 75,553 3,468 92,000

2023 25,964 12,979 1,408,000 75,553 3,468 92,000

2024 25,964 12,979 1,408,000 75,553 3,468 92,000

2025 25,964 12,979 1,408,000 75,553 3,468 92,000

2026 25,964 12,979 1,408,000 75,553 3,468 92,000

2027 25,964 12,979 1,408,000 75,553 3,468 92,000

2028 25,964 12,979 1,408,000 75,553 3,468 92,000

2029 25,964 12,979 1,408,000 75,553 3,468 92,000

出所:調査コンソーシアムによる試算・設定

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5.事業化した場合の経済効果及び相手国への影響の分析

5.1. CO2(排出権)価格の事業性への影響分析

標準の事業スキームでは、CO2排出削減による追加的な収入、すなわち排出権収入につい

ては織り込んでいない。メキシコ国内の排出権取引制度における排出権価格が不明である

ことや二国間クレジット制度での排出権価格が定まっていないことから、炭素価格付けに

ついてメキシコに関連する制度の価格を参考に、感度分析を行った。

感度分析の対象としては、メキシコ政府が実施している炭素税税額(3.21 USD/t-CO2)、

カリフォルニア排出権取引制度における排出権(CCA)の価格(13 USD/t-CO2)、クリーンエネ

ルギー証書(CELs)の上限価格(48 USD/t-CO2)を対象とした。試算の結果、最も安い炭素価

格である炭素税相当の場合、プロジェクト IRR への影響は 0.3%の上昇と軽微であった。更

にメキシコ政府がメキシコ国内の排出権市場とのリンクを表明しているカリフォルニア州

排出権取引制度の排出権価格相当の場合は、1.3%の上昇であり、一定の影響はあるものの、

原油価格や原油増産効果が与える影響と比較すると軽微であり、事業性を大きく向上させ

るまでの影響は無い。一方、クリーンエネルギー証書の上限価格相当の場合は、4.9%の上

昇となり、原油価格で 20 USDの上昇、原油増産効果で 0.5バレル/t-CO2の増加に相当する

効果となり、事業性を大きく向上させる影響となった。

CCS-EOR 事業において、排出権取引による収入は副次的であることから、事業性を検討

する際には原油増産による収入が中心となる。一方で、長期的に原油価格が低迷する可能

性も指摘されていることから、原油価格が長期間低迷するリスクを回避するために、CCA

相当あるいはそれ以上の排出権収入を確保することは、事業性の向上に寄与すると考えら

れた。

図表 47 CO2(排出権)価格の事業性への影響

標準ケースと排出権価格の組み合わせ プロジェクト IRR 増減

標準ケース 16.2% -

標準ケース+炭素税相当(3.21 USD/t-CO2) 16.5% +0.3%

標準ケース+CCA相当(13 USD/t-CO2) 17.5% +1.3%

標準ケース+CELs相当(48 USD/t-CO2) 21.1% +4.9%

出所:各種資料から日本総研試算

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5.2. CCS-EOR事業によるメキシコの原油生産への影響分析

メキシコ南部に立地する PEMEX の石油化学工場の生産設備等を対象に回収可能 CO2量を

算出し、これらの CO2を CCS-EOR事業に利用した場合の原油増産量について分析した。

同地域の主要 CO2ソースは CPQ Cangrejera、CPQ Morelos、CPQ Cosoleacaque の 3 工場

から成っており、回収可能な CO2はそれぞれ 6,315 t-CO2/日、5,234 t-CO2/日、8,800 t-CO2/

日、合計 20,349 t-CO2/日となり、年間に換算すると合計 7,056,016 t-CO2/年である。こ

れを CCS-EOR に利用すると標準ケースで採用した原油増産効果:2 バレル/t-CO2の場合、

原油生産量は 40,698 バレル/日、14,112,032 バレル/年となった。この数値は近年のメキ

シコの原油生産量は約 240万バレル/日の約 1.70%に相当する。

なお、メキシコ南部には PEMEX保有の設備以外(製油所やガスプラント)も多数立地して

いることから、今後、これらの CO2 ソースについても詳細な分析を行うことによって、更

に CO2回収可能量は増加し、原油生産量も増加すると考えられる。

図表 48 メキシコ南部の石油化学工場における CO2回収可能量と原油増産効果

工場

CO2

回収可能量

(t-CO2/日)

原油増産量

(バレル/日)

CO2回収年換算

(利用率 95%)

(t-CO2/年)

原油増産量

(バレル/年)

CPQ Cangrejera 6,315 12,630 2,189,726 4,379,453

CPQ Morelos 5,234 10,468 1,814,890 3,629,779

CPQ Cosoleacaque 8,800 17,600 3,051,400 6,102,800

合計 20,349 40,698 7,056,016 14,112,032

出所:各種資料から三菱重工業および日本総研試算

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5.3. CCS-EOR事業によるメキシコの温室効果ガス排出量への影響分析

「5.2. CCS-EOR 事業によるメキシコの原油生産への影響分析」にて示したとおり、メ

キシコ南部の石油化学工場における CO2回収可能量は 7,056,016 t-CO2/年であり、プロジ

ェクト実施に伴い CO2回収に要するエネルギー由来の CO2排出量および CO2貯留サイトから

の漏洩量等の合計となる 1,848,893 t-CO2/年を差し引いた CO2 排出削減量は 5,207,123

t-CO2/年となった。

SENER によるメキシコの 2020 年の温室効果ガス排出量の見通しは、2010 年の 748 百万

t-CO2(MtCO2e)から 212 百万 t-CO2(MtCO2e)増加し、960 百万 t-CO2(MtCO2e)となって

いる。CCS-EOR事業による温室効果ガス排出量への影響については、2020年の温室効果ガ

ス排出量見通しに対しては、0.5%の CO2 排出削減効果となった。また、2010 年から 2020

年にかけて対策を実施しない場合に増加すると見込まれる 212百万 t-CO2(MtCO2e)に対し

ては、2.5%の CO2 排出削減効果となった。本調査では、メキシコ南部の石油化学工場のみ

を対象としており、原油増産効果と同様、他の CO2 ソースについて分析することにより、

CCS-EOR事業の温室効果ガス排出削減効果を上積み出来ると見込まれる。

図表 49 CCS-EOR事業によるメキシコの温室効果ガス排出量への影響

CCS-EOR事業による排出削減量

(t-CO2/年)

2020年排出量に

対する削減割合

2010年→2020 年の温室効

果ガス増加量に対する割合

CO2回収可能量 7,056,016 - -

プロジェクト CO2排出量等 1,848,893 - -

CO2排出削減量 5,207,123 0.5% 2.5%

出所:各種資料から日本総研試算

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6.相手国関係者等の JCMに対する理解の増進や関係強化の取組

6.1. 実施概要

本事業で導入・普及促進を目指している三菱重工業の CO2 回収技術は、日本の国内外で

豊富な実証・導入実績がある。これまでに 11 件の商業機が稼働しており、2016 年末には

世界最大の CCS-EOR向け CO2回収装置が稼働予定である。一方、PEMEXは日本企業の製品・

技術を使用した経験はあるものの、PEMEX が保有する設備や工場全体で見れば、非常に少

ない割合であり、日本企業の技術全般に対して馴染みが無い。特に CO2 回収装置について

は、アンモニア製造工程で使用しているものの、日本製ではなく、その導入は数十年前で

あり知見が不足している。

以上の状況をふまえ、三菱重工業が持つ CO2 回収に関する豊富な実績と確かな技術につ

いて、実際に導入されているサイトの見学やユーザー企業との意見交換により、全体的な

理解を促進することが必要であると考えられた。また、このタイミングで PEMEXの担当者

へ企業の技術力や実績を説明することは、二国間の取り組みを促進することになり、二国

間クレジット制度における CCSプロジェクトを組成する上でも重要である。

PEMEX担当者の米国 CCSサイトへの招聘は 2015年 11月 12日及び 13日の日程で行った。

以下に意見交換・見学先と実施概要をまとめた。

・ 実施目的

PEMEX 等のメキシコ側関係者の CCS-EOR 事業および日本の技術・製品に対する理

解を早期に獲得し、本調査を円滑に進める。

・ メキシコからの参加者

PEMEX

Paulina Serrano 氏(Carbon Finance Manager)

Marcela Arteaga 氏(Superintendent for Secondary and Enhance Oil Recovery)

・ 招聘日程

期間 及び 主なスケジュール

2015年 11月 12 日 メキシコシティ国際空港発-ヒューストン国際空港乗

換-米国アラバマ州モビール着

2015年 11月 13 日 Plant Barry CCS サイト見学

米国アラバマ州モビール発-ヒューストン国際空港乗

換-メキシコシティ国際空港着

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6.2. 意見交換・見学の実施内容

各訪問先における意見交換・見学の実施内容(日時、訪問先/見学先、面会者、実施概要)

と訪問先/見学先での主な見学・説明内容は以下のとおり。

日時 訪問先/見学先 面会者 実施概要

2015 年 11 月

13 日(金)

8:15-11:30

Southern Company,

Alabama Barry

Power Plant, CO2

Capture Plant

・ Mr.Joe,

Southern

Company

Research

Engineer

・ 他 5名

・ 三菱重工業 米より当社

の CCS 関連技術および

Barry Plant の CO2

Capture についての技術

説明

・ CO2 Capture 設備の視察

2015 年 11 月

13 日(金)

12:00-13:30

Denbury,CO2

Stroage Site

・ Mr. Hunter

・ 他 3名

・ Denbury 社と共同してい

る Advanced Resources

社より、CCS Project の

技術概要説明

・ CO2 Storage Siteの視察

Plant Barry CCS サイト見学

Southern Company (米国の電力会社)が操業している、Alabama Barry Power Plant

の CO2 回収装置と Denbury (米国の石油開発会社)が操業している CO2 貯留サイト

を見学した。

CO2 回収装置

Southern Company所有の既設石炭火力発電所に、Southern Company 50%、三菱重

工業 50%の出資比率で CO2回収実証プラントを建設し、2011 年より実証試験を実

施している。プラント容量は 500 t-CO2/日。CO2圧入・貯留は米国 DOE (Department

of Energy, エネルギー省)が担当。

13,000時間で 240,900 t-CO2の CO2を回収し、114,000t-CO2の CO2を圧入・貯留し

ている。

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図表 50 Barry Power Plantに設置された CO2回収プラント

出所:三菱重工業資料

CO2貯留 サイト

2012 年に CO2圧入を開始し、2014 年に圧入を停止(合計 114,000 t-CO2を圧入)。

現在もモニタリングを継続中。

4 inch の Carbon steel pipeline でプラントから 19 km 離れた圧入井に CO2を輸

送。

圧入対象層は、枯渇油層の上部に位置する Multi-Layersの砂岩層。Permeability

は最大 4,000 mD、Porosityは 4.4 – 26.1 %、Net Thicknessは 60 ft、深度 9,436

– 9,800 ft を穿孔している。

CO2圧入井 1 坑に約 300 m離れた位置に 2坑の観測井を設置。坑底圧力・温度、地

表圧力・温度、坑井間 Seismic Tomography、PLT、Pulsed Neutron Log、Soil flux、

流体サンプリング、圧入ガスへの Tracer 注入等により、モニタリングを実施して

いる。CMG GEM による Simulation と PLT 結果により、上部の高浸透性層への CO2

圧入が主要との評価結果が得られている。

本 CO2 貯留プロジェクトは、米国 DOE との共同研究プロジェクト(SECARB

Partnership Anthropogenic Test)。DOEが出資し、Denburyのフィールドを利用

して Advanced Resourcesがスタディーを実施している。

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図表 51 CO2貯留サイトの状況 (右側は Booster Pump)

出所:調査コンソーシアム撮影

図表 52 圧入井 Wellhead

出所:調査コンソーシアム撮影

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6.3. 技術交流活動結果の概要

6.3.1. CO2回収装置関連

今回の技術交流活動へ参加した Paulina Serrano 氏(Carbon Finance Manager)は、PEMEX

における温室効果ガス排出削減プロジェクトのとりまとめ役であり、PEMEX が関心を持っ

ている CCS-EORについても深い知識を持っている。これまでに米国で他の CCS設備の視察

などもしており、技術的な理解は進んでいると見込まれる。三菱重工業の CO2 回収装置が

十分な実績や商業的な規模に対応できることはこれまでも説明してきたが、それについて

実際に設備を見学し、CO2回収を行っている Barry Power Plant の職員と意見交換が出来た

ことは、三菱重工業の CO2 回収装置への理解を深める上で、大いに意義があったと見込ま

れる。

また、Marcela Arteaga氏(Superintendent for Secondary and Enhance Oil Recovery)

は、Cinco Presidentes 油田群での CCS-EOR プロジェクトについて、その実施内容を検討

する際の担当者の一人であり、同氏も Paulina Serrano 氏と並んで事業化を進める際の重

要人物と言える。PEMEX には当面はアンモニア製造工程のシフト工程から得られる純度の

高い CO2 があるため、油田側スタッフの一部には CO2 回収装置に対する関心の低さや誤解

(三菱重工業の CO2 回収装置が商業段階で使われていることを知らない)が散見される。そ

れらの状況を変化させ、PEMEXにおいて早い段階から CO2回収装置についても実証を進めて

いく必要性を理解して頂く観点から、油田側のスタッフである Marcela Arteaga 氏に Barry

Power Plantの CO2回収装置を深く知って頂けたことは大きな成果であった。

6.3.2. CO2貯留サイト関連

PEMEXは石油会社であるため、CO2貯留サイト、すなわち油田については十分な知識を持

っている。また、過去には複数箇所で EORのパイロットテストも行っているため、CO2を地

中に圧入すること自体についても経験がある。そのため、単に CO2 貯留サイトを紹介する

ことだけでは、PEMEX 側の理解を深めることは出来ないと見込まれた。そこで今回は、DOE

のプログラムの一環として Denburyのフィールドを利用して Advanced Resourcesが地中に

おける CO2挙動について研究しているサイトを紹介した。PEMEXは過去に Chicontepecにて

パイロットテストを行った際に、地中での CO2挙動が想定と異なり、EORの生産性が非常に

低くなった経験があることから、CO2の地中での CO2挙動に関する研究については大きな関

心があると見込まれた。現地にて担当者と熱心に意見交換を行っていたことをふまえると、

今後、PEMEX が CCS-EOR に取り組む際に、三菱重工業を通じてこれらの研究にアクセスで

きることは、プロジェクトを円滑に進める上で役立つと考えられた。

以上