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22 アクアネット 2016.2 農林水産物輸出促進策の狙いについて 政府による農林水産物の輸出促進は、平成17年に 発足した「農林水産物等輸出促進全国協議会」 (以 下、協議会)において承認された「我が国農林水産物 等の輸出促進基本戦略」 ( 以下、基本戦略 )がもとに なっている。これは、当時の小泉純一郎首相自らがこ の協議会に出席したことからもわかるように、バリバリ の新自由主義者である小泉首相の強い意向を踏まえ て始まった施策である。 この基本戦略には一言たりともその言葉は出てこ ないが、真の狙いは「農林水産物の輸入を阻止させな いため」である。それは、協議会設立総会(平成 17年 4月27日開催)での小泉首相の以下の挨拶において示 されており、ゆえに経団連会長もわざわざ出席し挨拶 したと思う。 ・農業というのは工業製品と対立するものではない。 「工業の犠牲に農業がなっていいのか。工業製品を売 るために日本の農業が犠牲になっていいのか」という のが、今まで農業関係者の“輸入阻止しなければなら 歴史を振り返れば、江戸時代には俵 たわらもの 物として中 国大陸に「干しアワビ」などが盛んに輸出され、戦 前の北洋漁業によるベニザケは缶詰となってヨー ロッパに輸出され、大いに外貨を稼いだという。現 在も、ホタテやサバなどの輸出で関係漁業者が潤っ ている。水産物輸出は別に新しいものではなく、そ のメリットを否定する考えもない。 しかし、今政府が取り組んでいる水産物輸出促 進策は、むしろ逆に水産物「輸入」促進のための、 わかりやすく言えば「罠」だと思う。現に最近の 5 年間(平成 22年と26年)の輸出入の変化を見ても、 確かに輸出が 387億円増加したが、一方で輸入は 2860億円と輸出の 7倍も増えている(表 1)。 輸出に夢中になり1増えたと喜んでいる裏で、そ の7倍も輸入が増加し、国内市場を奪われているの である。にもかかわらず、輸出のみに着目し「平成 27年1- 11月の輸出も対前年同期比 22 .0%増と好 調な伸びとなっており、最高値を更新」 (平成28年 1月、農林水産省)と喜んでいてよいのだろうか。 これでは、「100円玉拾った」と喜んでいる間にポ ケットから700円落ちたのを気にしないのと同じで ある。 「木を見て森を見ない」「局所にこだわり大局を 見失う」ことのないように、私から見た政府の輸出 促進策への疑問点を以下に挙げておきたい。 政府による水産物輸出促進策への疑問 佐藤 力生 (さとう りきお) 1974年東京水産大学(現:東京海洋大学)を卒業。1976年 水産庁に入庁。モスクワ日本国大使館、宮崎県漁政課長、内 閣官房外政審議室に出向のほか、資源管理、漁協指導、栽培 漁業等の担当を経て、2012年3月に水産庁を定年退職。同 年5月から三重県熊野市、鳥羽市において沿岸漁船漁業、 養殖業を手伝い、現在、同県鳥羽市答志町において漁協の 市場を手伝い中。三重県漁連、鳥羽磯部漁協および熊野漁 協の監事を兼任。著書に『コモンズの悲劇から脱皮せよ』 (2013年、北斗書房)。 平成 22 (2010)年 平成 23 (2011)年 平成 24 (2012)年 平成 25 (2013)年 平成 26 (2014)年 平成 26年 - 平成 22年 輸出(FOB) 194 ,979 173 ,628 169 ,816 221,642 233 ,672 38 ,693 輸入(CIF) 1,370 ,892 1,454 ,679 1,504 ,750 1,579 ,687 1,656 ,887 285 ,995 貿易収支(輸出 - 輸入) ▲ 1,175 ,913 ▲1,281,051 ▲1,334,934 ▲1,358,045 ▲ 1,423 ,215 表1 水産物輸出入額の概況 単位:百万円 資料:「農林水産物輸出入概況」 (農水省国際部国際政策課) (別刷) このPDF ファイルは、月刊『アクアネット』2016年 2月号 に投稿した記事を、同誌発行元の湊文社殿に依頼して、 当ホームページ専用に再製作したものです。

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22 アクアネット

農林水産物輸出促進策の狙いについて

政府による水産物輸出促進策への疑問

(別刷)

このPDFファイルは、月刊『アクアネット』2016年2月号に投稿した記事を、同誌発行元の湊文社殿に依頼して、当ホームページ専用に再製作したものです。

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アクアネット 23

輸出拡大の見通しについて

●日本国内のマーケットは縮小する見込み -我が国の少子高齢化社会の到来●他方、海外には今後伸びていくと考えられる有望なマーケットが存在 -世界的な日本食ブームの広がり -アジア諸国等における経済発展に伴う富裕層の  増加、人口増加

(別刷)

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24 アクアネット

ホタテガイ(447億円)

サバ(115億円)

サケ・マス類(114億円)

マグロ・カジキ類(104億円)

ブリ(100億円)

ナマコ(乾燥)(104億円)

カツオ類(54億円)

その他(1298億円)

輸出総額(2337億円)

エビ(2262億円)

マグロ・カジキ類(1940億円)

サケ・マス類(1901億円)

カニ(614億円)

タラ(505億円)魚粉

(387億円)

その他(8960億円) 輸入総額

(1兆6569億円)

(別刷)