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JPMA NEWS LETTER 2015 No. 167 Topicsトピックス 「第1回 日本‒マレーシアシンポジウム」開催の経緯 1/5 日本国政府は、成長戦略の一環として、健康・医療分野を重点領域と定め、その国際展開として、厚生労働省ならび に医薬品医療機器総合機構は、とりわけ近年、医薬品の臨床開発・製造の現場としてのアジア諸国との連携を深めて いく施策を積極的に展開してきました。この一環として、2013年9月17日に、マレーシア政府と、健康・医療分野にお ける協力覚書を締結しました。このような背景のもと、今般日本とマレーシアの薬事規制の相互理解を深め、両国のよ り良き発展を目指す目的で、3月10日・11日の2日間にわたって、PMDAとマレーシア保健省薬品管理局(National Pharmaceutical Control Bureau、NPCB)の主催、ならびに製薬協とマレーシア医薬業界(Malaysian Pharmaceutical Society、MPS)の後援で、「第1回 日本-マレーシアシンポジウム」が、クアラルンプールのAloft Hotelで開催されました。 シンポジウムの概要 本シンポジウムは、10日から11日の午前中までの両国産業会も参加するオープンセミナーと、11日午後の日本・マレーシ アの官官クローズドミーティングの2部構成で開催されました。クローズドミーティングではさらに踏み込んだ議論も交わさ れました。 日本の官側として、医薬品医療機器総合機構(Pharmaceutical and Medical Devices Agency、PMDA)から理事・技監の 北條泰輔氏、審査第二部長の山田章氏、規格基準部長の宮崎生子氏、規格基準部主任専門員の伹野恭一氏、品質管理部 主任専門員の原賢太郎氏、再生医療部主任部専門員の岸岡康博氏、新薬審査第三部専門員の佐久嶋研氏、国際部長の江 原輝喜氏、国際部調査役の古賀大輔氏、国際部調査専門員の岡島詩織氏ならびに駐マレーシア日本大使館から一等書記官 (厚労省)の野坂佳伸氏が参加しました。さらに、国際製薬団体連合会(International Federation of Pharmaceutical Manufacturers & Associations、IFPMA)傘下の米国研究製薬工業協会(Pharmaceutical Research and Manufacturers of America、PhRMA)理事長のYew Wei Tarng氏(マレーシア)、製薬協からは国際部長の赤坂光三氏、国際委員会幹事の長 岡秋広氏、アジア部会長の堀江清史氏、薬事グループリーダーの佐々木功氏、ほか2名のアジア部会員が参加しました。こ のほか、製薬協会員企業のシンガポール駐在員も7名参加しました。 シンポジウムは、主にマレーシアNPCBや製薬企業、総勢約150名の参加のもと、マレーシア保健省 Senior Director of Pharmaceutical ServicesのYBhg. Dato’ Elsah A. Rahman氏(代理)の開会挨拶に続き、北條氏とNPCB Deputy Directorの Mdm. Siti Aida Abdullah氏から、各々の薬事行政の Update として基調講演がありました。 マレーシア側の基調講演においては、品質・安全性・有効性の視点で医薬品を管理している旨が強調されました。その後 のマレーシア側演者のプレゼンの中でも繰り返され、NPCBの基本概念として浸透されていると感じられました。このほかに、 マレーシア側のUpdatesとして、2014年末時点でのNPCB従業員数が388名で、年々増強を図ってきていることや、東南ア ジア諸国連合(Association of South‐ East Asian Nations、ASEAN)のハーモナイズに対応してガイドラインのUpdate、電 「第1回 日本‒マレーシアシンポジウム」開催の経緯 Topics |トピックス 2015年5月号 No.167 J P M A N E W S L E T T E R 会場風景

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日本国政府は、成長戦略の一環として、健康・医療分野を重点領域と定め、その国際展開として、厚生労働省ならびに医薬品医療機器総合機構は、とりわけ近年、医薬品の臨床開発・製造の現場としてのアジア諸国との連携を深めていく施策を積極的に展開してきました。この一環として、2013年9月17日に、マレーシア政府と、健康・医療分野における協力覚書を締結しました。このような背景のもと、今般日本とマレーシアの薬事規制の相互理解を深め、両国のより良き発展を目指す目的で、3月10日・11日の2日間にわたって、PMDAとマレーシア保健省薬品管理局(National Pharmaceutical Control Bureau、NPCB)の主催、ならびに製薬協とマレーシア医薬業界(Malaysian Pharmaceutical Society、MPS)の後援で、「第1回 日本-マレーシアシンポジウム」が、クアラルンプールのAloft Hotelで開催されました。

シンポジウムの概要 本シンポジウムは、10日から11日の午前中までの両国産業会も参加するオープンセミナーと、11日午後の日本・マレーシアの官官クローズドミーティングの2部構成で開催されました。クローズドミーティングではさらに踏み込んだ議論も交わされました。 日本の官側として、医薬品医療機器総合機構(Pharmaceutical and Medical Devices Agency、PMDA)から理事・技監の北條泰輔氏、審査第二部長の山田章氏、規格基準部長の宮崎生子氏、規格基準部主任専門員の伹野恭一氏、品質管理部主任専門員の原賢太郎氏、再生医療部主任部専門員の岸岡康博氏、新薬審査第三部専門員の佐久嶋研氏、国際部長の江原輝喜氏、国際部調査役の古賀大輔氏、国際部調査専門員の岡島詩織氏ならびに駐マレーシア日本大使館から一等書記官

(厚労省)の野坂佳伸氏が参加しました。さらに、国際製薬団体連合会(International Federation of Pharmaceutical Manufacturers & Associations、IFPMA)傘下の米国研究製薬工業協会(Pharmaceutical Research and Manufacturers of America、PhRMA)理事長のYew Wei Tarng氏(マレーシア)、製薬協からは国際部長の赤坂光三氏、国際委員会幹事の長岡秋広氏、アジア部会長の堀江清史氏、薬事グループリーダーの佐々木功氏、ほか2名のアジア部会員が参加しました。このほか、製薬協会員企業のシンガポール駐在員も7名参加しました。 シンポジウムは、主にマレーシアNPCBや製薬企業、総勢約150名の参加のもと、マレーシア保健省 Senior Director of Pharmaceutical ServicesのYBhg. Dato’ Elsah A. Rahman氏(代理)の開会挨拶に続き、北條氏とNPCB Deputy DirectorのMdm. Siti Aida Abdullah氏から、各々の薬事行政の Update として基調講演がありました。 マレーシア側の基調講演においては、品質・安全性・有効性の視点で医薬品を管理している旨が強調されました。その後のマレーシア側演者のプレゼンの中でも繰り返され、NPCBの基本概念として浸透されていると感じられました。このほかに、マレーシア側のUpdatesとして、2014年末時点でのNPCB従業員数が388名で、年々増強を図ってきていることや、東南アジア諸国連合(Association of South‐ East Asian Nations、ASEAN)のハーモナイズに対応してガイドラインのUpdate、電

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会場風景

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子申請システムのバージョンアップ(現行Quest3からパフォーマンス向上を目的としたQuest3+に現在入札中で、2016年にUpdate予定)などの紹介がありました。 一方、日本側の基調講演では、PMDAの審査業務全体についての紹介のほか、ドラッグ・ラグ解消への取り組みや、MIHARIプロジェクト・先駆けプロジェクトといった、最新のPMDAでの取り組みが紹介されました。 この基調講演の後、「Regulatory Review & Updates」、「Guidelines & References」、「NPCB Session (Malaysia)」、「PMDA Session(Japan)」の4つのセッションで、両者から発表ならびにQ&Aがあり、最後に今後も両国の薬事規制におけるさらなる相互理解と、両者での協働について確認された後、江原氏による閉会挨拶で、盛会のうちに幕を閉じました。 以下に講演要旨を紹介します。

|Session1| Regulatory Review & Updates演題 「Malaysia regulatory system for pharmaceutical Product」Rosilawati Ahmad, Senior Principal Assistant Director (Centre for Product Registration、 NPCB)

 現在のマレーシアにおける医薬品登録体系の詳細が紹介されました。この中でマレーシアの医薬品登録で特徴的なこととして、最終的な消費者であるマレーシア国民の安全を確保する目的で、動物治療薬に対しても、NPCBの管理下で医薬品登録を行うことが挙げられました。 また、Q&Aとして、申請資料の提出書式としての日米EU医薬品規制調和国際会議(International Conference on

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第1回 日本‒マレーシアシンポジウム開催の経緯

基調講演を担当した北條 泰輔 氏

講演するRosilawati Ahmad 氏

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Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use、ICH)のコモンテクニカルドキュメント(CTD)受け入れの可否について質問がありましたが、NPCBより、明確に受け入れ可能である旨の回答がありました。

演題 「Japan regulatory system for pharmaceutical product and    Active Pharmaceutical Ingredients」Hiroshi Yamada, Officer Principal Assistant Director (Office of New Drug II、 PMDA)

 現在の日本の審査制度が詳細に紹介されました。 Q&Aで、マレーシア側より、臨床試験において日本人の臨床試験データの要否や、日本での再審査・再評価制度の位置付けや目的について質問があり、安全性情報の規制や管理に対して関心が高いことがうかがわれました。

|Session2| Guidelines & References演題 「MS 2424-Halal pharmaceuticals : General guidelines」Dr. Tajuddin Akasah, Duputy Director (Centre for Quality Control、 NPCB)

 マレーシアにおけるハラル規制が紹介されました。マレーシアにおけるハラル規制は、医薬品の登録承認後に、医薬品登録を管理するNPCBとは独立した政府機関であるハラル認証機関(JAKIM)に対し、ハラル製品としての申請を行い、基本的に国際的に定められている規制に則って、製造プロセスや表示が適合しているか審査され認証される制度との説明がありました。ハラル認証を医薬品で取得するかしないかは、あくまでも企業の任意の意思であることが、強調されていました。 また、認証取得の意思のある日本企業は、ハラルに関する国際機関とリンクしている、日本ムスリム協会(http://jmaweb.net/)や、NPO法人日本ハラール協会(http://www.jhalal.com/)に確認しながらとり進めるのが効率的との助言がありました。

演題 「Malaysia Herbal Monograph」Mdm. Mazil Muhammad, Senior Principal Assistant Director (Centre for Quality Contorol、 NPCB)

 マレーシアにおける伝統薬・ハーブ薬についての医薬品としての登録制度の変遷が紹介されました。 NPCBとして、伝統薬・ハーブ薬の安全性に配慮する目的で、1990年よりMonographが制定され、その後一部Monographの追補を経て、2013年に国家の重点経済領域として公的予算も配分され、その整備を強化している状況との紹介がありました。

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第1回 日本‒マレーシアシンポジウム開催の経緯

講演するTajuddin Akasah 氏

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演題 「Japanese Pharmacopoeia」Seiko Miyazaki, Office Director (Office of Standards and Guidelines Development、 PMDA)

 医薬品の規格基準書である日本薬局方(Japanese Pharmacopoeia、JP)について説明する中で、3極のハーモナイズについても取り組んでいることが紹介され、JPの国際的な認知向上に努めていました。 また、JPはマレーシアにおける新薬登録において受け入れ可能な規格として認知されているものの、Q&Aの中で日本側から英国薬局方(British Pharmacopoeia、BP)や米国薬局方(United States Pharmacopeia、USP)と同様に取り扱ってもらえないかという要望がありました。さらに、官官のクローズドミーティングにおいても、PMDAからこの働きかけがなされたようです。

|Session3| NPCB Sessions (Malaysia)演題 「Regulatory control for herbal/traditional medicines and health supplements」Darin Shantini a/p Thevendran, Senior Principal Assistant Director (Centre for Product Registration、 NPCB)

 Session2に引き続き、マレーシアにおける伝統薬・ハーブ薬についての医薬品としての登録制度の詳細について説明がありました。マレーシアの伝統薬・ハーブ薬の登録分類として、健康食品的な薬剤、疾病の治療を目的とした高度の管理下で処方される薬剤、およびその中間的な位置づけの薬剤と、3種類に分類され、各々のレベルに応じた有効性・安全性の確認を求める制度であるとの説明がありました。 また、NPCBとして、ASEAN共通のガイドラインに基づき、Monographの整備を推進し、製薬企業で積極的に登録を行ってもらい、安全性および有効性について一元的に管理していく体制に移行したい方針を述べました。しかしながら、古い歴史のある伝統薬やハーブ薬は、なかなかその理解を得ることが難しく、副作用報告などの安全管理に苦慮していることがうかがわれました。

演題 「Regulatory control for generics」Ms. Khirul Falisa Mustafa, Principal Assistant Director (Centre for Product Registration、 NCPB)

 ASEANの調和スキームを推進しながら、またICHの生物学的利用能(Bioavailability、BA)/生物学的同等性(Bioequivalence、BE)のレギュレーションとも調和しながら、簡易審査により、マレーシア政府として国産メーカーのジェネリック産業の育成に努めているとの説明がありました。 一方、安全性に対するリスクの高いバイオ製品はジェネリックの対象外としているとともに、必要に応じて製造所のGMP査察や、ジェネリック品の再登録による管理、市販後における市場製品サンプリングにおける品質確認などで、有効性・安全性の監督を行っているとの説明もありました。

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第1回 日本‒マレーシアシンポジウム開催の経緯

パネルディスカッションの様子

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|Session4| PMDA Sessions (Japan)演題 「GMP Inspection (Risk Based Assessment & Product Recall)」Kentaro Hara, Principal Inspector (Office of Manufacturing/Quality and Compliance、 PMDA)

 日本におけるGMP査察について説明がありました。この説明の中でも、特に日本における査察官の育成プログラムについて、マレーシア側当局者の関心を集めており、NPCBとしても査察官や審査官の育成を重要視していることがうかがわれました。

演題 「Regulatory control for biotherapeutic products including similar biotherapeutic products」Yasuhiro Kishioka, Principal Reviewer (Office of Cellular and Tissue-based Products、 PMDA)

 日本におけるバイオ医薬品に関する規制などが紹介されました。 このQ&Aとして、日本での新薬登録で日本人での臨床データの必要性についての質問がマレーシア側からありました。このことから、マレーシアでのジェネリックやバイオシミラーを、日本で展開できないかと考えていることがうかがわれました。

最後に 今回のシンポジウム開催前に、現在製薬協アジア部会として抱えているマレーシアでの薬事行政に関する課題を、PMDAと共有してシンポジウムに臨みました。その課題の1つとして、日本薬局方のマレーシアでの公的規格として認定してもらうという項目がありました。PMDAからの講演テーマに設定され、官官のクローズドミーティングで議題として取り上げられるなど、産官での連携が図れたと思います。 また、今回のシンポジウムを通じて、シンガポールの製薬協加盟会社の日系企業駐在員とも懇親を図ることができました。今後の製薬協アジア部会の活動においても、貴重な交流だったと思います。 このように、本シンポジウムの機会をとらえ、マレーシア当局のみならず、日本側の産官に対しても、アジア部会として一定の成果が上げられたものと考えられます。官主催のシンポジウムですが、第2回以降のシンポジウムについても、製薬協として全面的にサポートしていきたいと思います。

PMDAリンク先:http://www.pmda.go.jp/int-activities/symposia/0012.html#r=s&r=sNPCBリンク先:http://portal.bpfk.gov.my/newsmaster.cfm?&menuid=52&action=view&retrieveid=488

(国際委員会 アジア部会 情報グループ 東南アジアチームリーダー 大野木 毅)

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第1回 日本‒マレーシアシンポジウム開催の経緯

日本の関係者のみなさん記念品授与の様子