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2018年度 修士論文 NBA/NFL チアリーダーに至る経緯と その後のキャリアに与える影響 The road in becoming an NBA/NFL cheerleader and the influence for their carrer 早稲田大学 大学院スポーツ科学研究科 スポーツ科学専攻 スポーツクラブマネジメントコース 延 原 雅 代 Masayo NOBUHARA 研究指導教員: 間野 義之 教授

NBA/NFLチアリーダーに至る経緯と その後のキャ …...2018年度 修士論文 NBA/NFLチアリーダーに至る経緯と その後のキャリアに与える影響

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2018年度 修士論文

NBA/NFL チアリーダーに至る経緯と

その後のキャリアに与える影響 The road in becoming an NBA/NFL cheerleader and the influence for their carrer

早稲田大学 大学院スポーツ科学研究科

スポーツ科学専攻 スポーツクラブマネジメントコース

延 原 雅 代 Masayo NOBUHARA

研究指導教員: 間野 義之 教授

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目 次

第1章 緒言.........................................................1

第1節 用語の整理..................................................2

1-1 チアリーディングとチアダンス.......................................3

1-2 競技チアと応援チア.............................................3

第2章 先行研究の検討...............................................4

第1節 日本人スポーツ選手の海外移動とキャリア形成に関する研究..........4

第2節 キャリアトランジションに関する研究................................4

第3節 TEM に関する研究............................................5

第4節 リサーチクエスチョンの設定.....................................5

第3章 研究方法.....................................................7

第1節 調査対象者.................................................7

第2節 データ収集..................................................8

第3節 方法.......................................................9

第4章 研究結果....................................................11

第1節 研究 1 の結果...............................................11

第2節 研究 2 の結果...............................................12

2-1 対象者 1 の結果...............................................12

2-2 対象者 2 の結果...............................................15

第5章 考察........................................................19

第1節 研究 1.....................................................19

第2節 研究 2.....................................................19

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第6章 結論........................................................21

第7章 研究の限界..................................................22

第8章 今後の展望..................................................22

引用参考文献.......................................................23

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第 1章 緒 言

2017 年 3 月 11 日に映画「チアダン」が公開され、そのモデルとなった高校や競技チ

アにおける高校生や大学生の全米大会進出や優勝などが注目されるようになってきた。

「チアダン」で取り上げられているのは競技チアであり、その他に応援チアと呼ばれるチ

アも存在する。他方で、チアリーディングとチアダンスなど、一見ポンポンを持つという共

通点から区別しづらいが、チアの中にもいくつかの種類がある。

日本チアリーディング協会、日本チアダンス協会、USA など日本の主要なチアリーデ

ィングとチアダンスの競技団体が、登録チームの増加について言及するなど、競技チア

の競技人口は増加してきている。応援チアも同様に、野球やサッカー・バスケットボール

などのプロスポーツチームの専属のチームとして年々増加している。また、子供向けの

習い事としてのチアも、前述のプロスポーツチーム専属チアや競技チアチームの妹分と

してのチアスクールや、大手スポーツクラブのチアクラス、元チアリーダーによるチアスク

ールなど、競技チア応援チアに関わらずチア実施人口は年々増加している傾向にある

と言える。

応援チアの中で、元 AKATSUKI VENUS(バスケットボール日本代表のオフィシャルチ

アリーダー)メンバーが 2018 年シーズン NFL チアリーダーの座を射止めたということがニ

ュースに取り上げられた 1)。2018 年シーズン NFL チアリーダーとして活動する日本人は、

前述のチアリーダーを含め 7 名に及ぶ。また、別の元 AKATSUKI VENOUS(バスケット

ボール日本代表オフィシャルチアリーダー)メンバーが、2018 年 12 月にイングランド・プ

レミアリーグのチアリーダーとして加入したというニュース 2)もあり、今後の日本人チアリ

ーダーの海外での活躍が期待される。

日本チアリーダー界において、NBA や NFL などチアの本場である北米 4 大スポーツ

リーグのチアリーダーとして世界的に活躍する人材が現れたのは 1997 年である。20 年

が経過した現在において約 50 名のチアリーダーが北米 4 大スポーツリーグで活動して

いるが、日本人チアリーダーの世界進出は萌芽期といえる。野球やサッカーその他スポ

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ーツなどはグローバル化し海外へ挑戦する選手は多く、また選手の国際移籍に関して

高橋・佐々木 3)(2012)は、日本人スポーツ選手のキャリア形成に及ぼす海外移動の影

響についてサッカー、野球およびその他の競技種目の状況を述べている。しかし、世界

を経験したチアリーダーにおける、そこに至る経緯や引退後のキャリアについての知見

の積み重ねはなく、今後の日本チアリーダー界の発展のためにも重要な示唆を与えう

ると考えられる。したがって本研究の目的は,NBA/NFL チアを経験したチアリーダーを

対象に、そこに至るまでの経路を整理し、またその後のキャリアに影響を与える要因を

明らかにする。

第 1節 用 語 の整 理

チアリーダーについて、元 NFL サンフランシスコ・49ers チアリーダーの安田愛 4)は著

書 の中 で「前 向 きな姿 勢 」(p.102)「健 康 」(p.103)「チームワーク」(p.103)「見 ている

人を元気づけたり、見ている人から元気を引き出せるのはチアリーダーが最も適してい

る」(p.115)「周りに対する思いやりや愛情を常に持っている」(p.116)「女性として理想

的な存在の代表で、内面と外面の両方を求められる」(p.138,134)と述べている。また、

元 NFL ダラス・カウボーイズチアリーダーの三田智子 5)は著書の中でチアリーダーにつ

いて「最高のパフォーマンスを披露して、観客を楽しませなければならないアスリートで

ある」(p.72)「チアリーダーがエンターテインメントを、プラスアルファにできるのではない

か」(p.80)「チームスポーツの面白さが詰まっている」(p.94)「一人の力ではできない」

(p.94)と述べている。

上記をまとめると、チアリーダーは女性のロールモデルであるとともに、技術的なことだ

けではなく、チームワークや思いやりなどの内面や外面の両方の美しさを求められるア

スリートであり、エンターテイナーだと言える。

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1-1 チアリーディングとチアダンス

チアリーディングとは、応援から始まった特色を生かし、チア・サイドラインといった掛け

声やアームモーション、特殊なジャンプ、組体操技術であるパートナースタンツやピラミ

ッドなど、チアリーディング特有の技術を使って演技を構成し、元気よさや楽しさ、美し

さを表現するスポーツである 6)。

チアダンスとは、チアリーディングから派生したスポーツで、女性のみでマーチングバン

ドの音楽に合わせポンを用いた新しいスタイルのパフォーマンスである。7)チアリーディ

ングのパートナースタンツやピラミッドなどは構成に含まれない。

1-2 競 技 チアと応 援 チア

競技チアとは、競技のチアリーディングと競技のチアダンスのことで、それぞれ協会主

催の競技大会で採点法により順位を決めるものである。日本国内の主要な競技チアの

協会として、公益社団法人日本チアリーディング協会、一般社団法人日本チアダンス

協会、Unitedspiritassociation:USA が存在する。公益社団法人日本チアリーデ

ィング協会は、チアリーディングのための競技大会を開催している 8)。一般社団法人日

本チアダンス協会は、CheerDance 部門、Pom 部門、HipHop 部門、Jazz 部門、トライ

アル部門の総称としてチアダンスの競技会を主催している 9)。USA は、cheerleading

部門、Pom 部門、Song/Pom 部門、Jazz 部門、HipHop 部門、Spiritleading 部門な

どチアリーディングとチアダンス両方の競技会を主催している 10)。

応援チアとは、特定のスポーツチームを応援するチアリーダーのチームのことを示す。

日本国内においては、アメリカンフットボール X リーグや、プロバスケットボールリーグ B リ

ーグ、プロサッカーリーグ J リーグ、日本プロ野球などさまざまなスポーツ応援のための

チアチームが存在しチアリーダーが所属している。応援チアのチアリーダーは、主にホ

ームゲームでの応援やパフォーマンスを行う以外にも、チームの広告塔として社会貢献

活動やボランティア活動などを実施することも多い。また、チアの本場であるアメリカでは、

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北米 4大スポーツリーグの NFL,NBA,NHLなどに専属のチアチームがあり、女の子の憧れ

の存 在 となっている。そして、毎 年 日 本 人 チアリーダーがオーディションに挑 戦 してい

る。

第 2章 先 行 研 究 の検 討 第 1節 日 本 人 スポーツ選 手 の海 外 移 動 とキャリア形 成 に関 する研

野球やサッカーその他スポーツなどはグローバル化し海外へ挑戦する選手は多く、ま

た選手の国際移籍に関して高橋・佐々木 3)(2012)は、日本人スポーツ選手のキャリア

形成に及ぼす海外移動の影響についてサッカー、野球およびその他の競技種目の状

況を述べている。その中で、野球やサッカー以外のその他の種目において海外移動が

可能なスポーツ選手は、国内での一流の成績を残すことができる世界的レベルの実力

を持っており、その貴重性が引退後のキャリア形成に影響を与えていると述べている。

また、スポーツ選手がキャリア形成を考えるとき、海外移動がキャリア形成においてすべ

てプラスに働くわけではなく、その背景や要因、移動の経緯などを慎重に検討し判断す

る必要があると考えられ、今後も本研究の視点は重要であると述べている。

第 2節 キャリアトランジションに関 する研 究

小島 13)(2008)は、エリクソン(1959)の「アイデンティティ形成は、青年期に始まり終わ

るというものではなく(中略)その大半が一生涯を通じて続く無意識的な発達プロセスで

ある」という理論に基づいた生涯発達心理学の視点に立って、ライフサイクルの中で現

役を引退し、キャリアトランジションをすることが、あるアスリートにどのような意味を持ち、

そして、どのような引退後の適応を辿るのかを元アスリートへのインタビューを元に仮説

の検証をしている。その結果から、アスリートのキャリアトランジションに伴うアイデンティ

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ティ再体制化は、アスリートがアイデンティティを形成する過程の特殊性と相まって、困

難であることを述べている。一方、アイデンティティを形成する過程での比類なき自信が、

次なる発達課題にポジティブに対応でき、アイデンティティ再体系化が比較的容易に

なされることが述べている。これらを、生涯発達心理学的視点から捉えれば、各発達段

階がそれぞれ好ましい形で成し遂げられる中で、アスリートの場合、特にアイデンティテ

ィを形成する過程が大切であることを示唆していると述べている。

第 3節 TEM に関 する研 究

質的研究の中でも、人間の経験を時間的変化と文化・社会的文脈との関係の中で

捉 え記 述 するための方 法 論 的 枠 組 みとして、複 線 経 路 ・等 至 性 モデル(Trajectory

EquifinalityModel:以下 TEM と略す)がある。林・土屋 12)によると、オリンピアンを対

象とした望まれる心理的サポートの検討の中で、TEM が採用されている。採用理由とし

て、競技スポーツ文化は非日常で特異的であり、その中で様々な体験をする人間の多

様性、他者との関係性、そして身体性を理解する上で、TEM は有効であると述べている。

また、オリンピアンを取り巻く社会や文化の様相、時間の概念を抜きにオリンピアン独自

の体験を捉えることはできないと述べている。オリンピアンとは一時的なものではなく、日

本代表候補に選出されてからオリンピック大会まで、時間の経過に伴って変化していく

ものである。オリンピアンの体験を TEM 図作成により可視化することによって、オリンピア

ンの詳細な実態が明らかとなり、心理的サポートが必要とされる 4 つの時期と望まれる

心理的介入形態の仮説的知見を得ている。

第 4節 リサーチクエスチョンの設 定

日本チアリーダー界において、北米 4 大スポーツリーグをはじめとる海外移動が進ん

でいる中で、チアリーダーの研究はされておらず、海外移動がキャリア形成においてど

のような影響を与えるか明らかにする必要があると考える。

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アスリートのキャリアトランジションにおいて、アイデンティティの形成は重要な役割を果

たすものである。他方で、アイデンティティの形成においてアスリート時代の経験が重要

であることが報告されているものの、具体的な経験の影響に関してはさらなる知見の蓄

積が求められる。本研究においても、人生の中でチアリーダーとしての経験が、その人

のアイデンティティを形成しているのではないかと予測される。したがって、実際にどのよ

うな経験がアイデンティティを形成しその後のキャリアに影響を与えているのか明らかに

する必要があると考える。

本研究の、北米 4 大スポーツリーグのチアリーダーに至るまでの経緯とその後のキャリ

アにどう影響を与えたのかという目的に対し、北米 4 大スポーツリーグのチアリーダーと

いう一 つの経 験 をするための時 間 経 路 を重 視 しながら、そこに至 るまでの多 様 な経 緯

や、類型化、他者との関係や心的要因を理解する上で、TEM は有効であると考えられ

る。

以上のことから、研究目的を 2つ設定した。NBA/NFL チアを経験したチアリーダーを

対象に、そこに至るまでの経路を整理し、またその後のキャリアに影響を与える要因を

明らかにすることは重要であると考える。

よって本研究のリサーチクエスチョンを以下の通りに設定する。

RQ1:NBA/NFL チアリーダーへはどのような経路をたどっているのか

RQ2:NBA/NFL の経験は引退後のキャリアにどのような影響を与えるのか

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第 3章 研 究 方 法

第 1節 調 査 対 象 者

1.対象チアリーダー

[研究 1]

本研究では、①NBA/NFL を経験し、②引退した元チアリーダー、という 2 つを属性とし

てサンプリングした。

[研究 2]

研究 1 から作成した簡略化 TEM 図の中で、北米 4 大スポーツリーグチアの直前の分

岐である、【日本スポーツ応援チア】と【それ以外のチアチーム】のそれぞれの経路から

北米 4 大スポーツリーグチアに至った 2 名を選出した。

対象者 1.

北米 4 大スポーツリーグチアに至る前の分岐の【日本スポーツ応援チア】経験者であ

る。高校から部活でダンスを始め大学でもダンスサークルにてダンスを継続しており、大

学時代に留学した北米で初めて NBA を観戦しチアリーダーに憧れる。帰国後、日本の

スポーツ応援チアのオーディションを受け、日本プロスポーツの応援チアのチアリーダ

ーとして活動を開始する。その後、フルタイムで働きながら活動を続け、北米 4大スポー

ツリーグのオーディションの受験を開始する。北米 4 大スポーツリーグのチアリーダーと

して 1 シーズン活動した。現在は、日本プロスポーツのチアスクールの運営に携わって

いる。

対象者 2.

北米 4 大スポーツリーグチアに至る前の分岐の【それ以外のチアチーム】経験者であ

る。中学から部活でチアを始め、高校と大学でもチア部で競技大会に出場しており、全

米大会に日本代表としても出場経験がある。当時、北米 4 大スポーツリーグチアの最

年少での合格者であり、取材なども多く受けている。北米 4大スポールリーグのチアリー

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ダーとして 4シーズン活動した。また、日本人初のスーパーボウル優勝経験者でもある。

現在はフルタイムでチア以外の仕事をしながら定期的にチアに関わる仕事をしている。

第 2節 データ収 集

[研究 1]

対象者約 40 名の中から直接連絡が取れる方に質問紙(今までのダンス、チア歴を教

えてください)、その他オープンソースにて情報を収集した。その中から、高校入学時か

ら引退後までの詳細なデータがある 9 名(質問紙 6 名、オープンソース 3 名)分を選択

した。また、質問紙の 6名に関しては情報の正確性を担保するために、Web上の情報を

確認した。

また、TEM 図作成のためのサンプリング人数について、荒川ら(2012)は、経路の類型

に要するサンプル数に関して、9 人程度が望ましいと報告している 14)。したがって本研

究では、北米 4 大スポーツリーグのチアに至るまでの経路を類型化するために、荒川ら

(2012)の指摘に従い 9 名のデータから TEM 図を作成した。

[研究 2]

本研究では事前に、生まれてから現在までの個人史をフローチャートで表現するライ

フラインの作成を依頼した。その後、基幹質問として①北米 4大プロリーグチアをめざす

きっかけになった出来事とエピソード、②最も達成感のあった体験、③最も困難だった

体験、④経験から得られたこと、⑤NBA/NFL チアリーダーをやる意義、⑥引退しその後

のキャリアに影響を与えていること、について 1 対 1 の半構造化面接法によるインタビュ

ー調査を実施した。そこからさらに、ライフラインを基にできるだけ時間の流れに沿って

質問をし、それぞれの分岐の時にどういう外的要因と心理的要因が働いて決断したの

かを聞き取った。

インタビューは、2018年 12月に実施した。時間は一人につき 60〜90分かけてそれぞ

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れ 2 回インタビューを行い、内容はボイスレコーダーに録音し、逐語録を作成した。

第 3節 方 法

[研究 1]

北米 4 大スポーツリーグのチアリーダーに至るまでに、どういう経路があるかを示す。

NBA/NFL を経験し引退したチアリーダーの情報を質問紙とオープンソースより収集した。

その中から、9 名の高校入学から北米チアを経て引退するまでの時間的経緯を TEM に

て図を作成し可視化した。

TEM 図作成にあたり、高校入学からラベルを作成した。高校入学後、高校の部活動と

してのチアを選択したのであれば【高校チア部】、高校の部活動としてダンスを選択した

のであれば【高校ダンス部】、特に部活動や学校外での活動をしていない場合は【高校

不 活 動 】とした。次 に大 学 入 学 後 、部 活 動 サークルとしてチアを選 択 したのであれば

【大学チア】、部活動サークルとしてダンスを選択したのであれば【大学ダンス】とした。

次に、日本のスポーツの応援チアに所属した場合【日本応援チア】、それ以外のチアチ

ームの活動を【それ以外のチア】とした。北米 4大スポーツリーグのチアリーダーを【米国

応援チア】とした。その後のキャリアとして、チアスクール運営やスポーツチームのチアデ

ィレクションなどをしている場合【チア関連】、不定期でチアのワークショップや振付など

を行う場合は【不定期チア】、チアに関わらない仕事をしている場合は【一般】とした。

その図を演繹的に確認するために、オープンソースから入手したサンプルのデータを

使用し、作成した図に当てはめた。当てはまらない場合は、協力者と議論の上、ラベル

の修正及び図の修正を行った。

[研究 2]

研究 1 で作成した図より、その中で分岐の異なる 2 名に追加的にインタビュー調査を

行い、分岐点における決断要因について詳細な情報取得を図った。特に、北米 4 大ス

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ポーツリーグのチアのオーディションを開始した時からのデータを詳細に検討し、その間

の社会的ガイドと心理的な要因がどのようなキャリアに影響を与えたのかを分析する。

また、TEM 図を用いてラベルを統一し、必須通過点を【日本でのチアの経験】、【オー

ディション受験】、【ビザ取得】とし,等至点を【米国応援チアの合格】とした。

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第 4章 研 究 結 果

第 1節 研 究 1 の結 果

図 1 より、北米 4 大スポーツリーグのチアになる前の分岐が 2 つあり、それぞれチアで

あるということから、北米 4 大スポーツリーグのチアリーダーになるためには、日本で何か

しらのチアの経験をしているということが明らかになった。また、この 2 つの分岐より前の

年代では複数の経路があり、多様性があることがわかる。

高校入学後からチアを始めるパターンもあれば、高校時代はダンス部や部活をやって

いないこともある。高校チアの後に大学チアへ行くこともあれば、スポーツ応援以外のチ

アへ行くこともある。高校大学とダンス部で,社会人になって初めてチアを経験すること

もある。北米 4 大スポーツリーグチアの直前の分岐としては、日本のスポーツ応援チア

の経験があることもしくは、スポーツ応援以外のチアを経て北米 4 大スポーツリーグチア

へ行くことがわかった。北米 4 大チアを引退した後は現役のチアリーダーとして活動す

る例はなく、チアチームのディレクターやチアスクール運営などのフルタイムでチアに関

わる仕事の群、フルタイムで別の仕事をしながら時折チアの振付や WS を行う群、全くチ

アとは関わらないという群の 3 つの働き方に分かれた。

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図 1.高校入学後から北米 4 大スポーツリーグのチアに至る経路とその後の経路

第 2節 研 究 2 の結 果

対象者 2名に対して TEM図をそれぞれ作成し、本研究では等至点を【米国応援チア】、

必須通過点を【日本でのチアの経験】、【オーディション受験】、【ビザ取得】として設定

し、そこに至る経緯とその後の活動、引退後について個人の体験を可視化した。また、

グループイベントに伴う必須通過点と社会的方向付けに着目して、1)1回目のオーディ

ションからオーディション合格まで、2)ビザ取得から北米 4 大スポーツリーグのチアリー

ダーとしての活動期間、3)北米 4 大スポーツチームのチアを引退してから現職までの 3

つの区分に分類して記述する。

2-1 対 象 者 1 の結 果

対象者 1 は研究 1 の図の北米 4 大スポーツリーグチアに至る前の分岐で、日本での

スポーツ応援チア活動を経ている。

1)1 回目のオーディションから北米 4 大スポーツリーグチアに至るまでに、オーディショ

大学ダンス 一

チア関連

不定期チア

米国応援チア

日本応援チア

それ以外のチア

大学チア

高校チア部

高校ダンス部

高校不活動

高校入学

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ンを 4 回経験している。その期間中チームの選択やビザに取得において、会社同僚や

北米 4 大スポーツチームチア経験者や家族などのアドバイスなど受けている。また、オ

ーディション合格へ向けて、プロダンサーや日本スポーツ応援チアなどを経験するなど、

受 験 チームに見 合 ったダンススキルの向 上 のために様 々な経 験 やダンスレッスンを受

講している。3 回の挑戦の後、旅行で渡米した際にオーディションを行なっていたチー

ムがあり、4 回目のオーディションに臨み合格している。

そこに至る経緯の中で、心理的な要因についても記述する。1 回目の挑戦の後は、か

なりガックリしたと表現している。そこから、日本でダメなら海外に行く資格はないというこ

ととビザの取得に有利であるのではないかと考え、エンターテイメントのプロダンサーの

オーディションを受け活動をする。その後、プロダンサーとしての活動を経験する中で自

信をもち、前向きな気持ちで 2度目の挑戦をする。2度目はスキル的な面も考慮し受験

チームの対象を変えて挑戦し、ファイナリストまで残る。帰国後、現場に出ていないと不

安だという思いもあり、日本プロスポーツリーグのチアチームの立ち上げに関わり、自身

もチアリーダーとして活動する。年齢的に最後の受験だと思い、受験チームのダンスス

タイルを研究し 3 度目の挑戦をする。ファイナリストまで残るが合格することはできず、北

米 4 大スポーツリーグのチアリーダーになることを諦める。その後、たまたま家族と渡米

する機会があり、万が一に備えて衣装などの準備をしていく。そこで、現地で調べたオ

ーディション前のチームのプレップクラスを受け、ダンススタイルや地域密着型のチーム

であること、ディレクターが好みであることもあり、オーディション受験を決意しその後合

格する。

2)ビザ取 得 に際 し、現 地 の友 人 のアドバイスも受 け無 事 に取 得 できる。活 動 期 間 は、

試合で良いポジションで踊れるというような出来事からディレクターに認められることもあ

った。また、社会貢献活動にも積極的に参加し、最終的にチーム内でシーズン最後に

表彰されるいくつかの賞のうちのベストスピリッツアワードを受賞した。

活動中の心理的な要因について記述する。ビザ取得に関して、今までの経験も生か

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しチームへのアプローチのやり方を工夫した。活動中は、ディレクターやメンバーと積極

的にコミュニケーションをとり、地域貢献活動を含める活動全て 120%フルアウトで臨む

ように心がけながら参加した。また、チアリーダーとしての活動する期間を年齢で決めて

いたため、合格した時から 1 年間の活動後は引退すると決めていた。

3)引退をした後、日本に帰国し現職へ就く。帰国後から現職までの数ヶ月間は、同時

期に北米 4大スポーツリーグでの活動を引退したチアリーダーと共に全国 3都市でチア

WS を開催した。現職は、大学生時代の人との繋がりにて、北米での活動中に現職のオ

ファーがありほぼ決まっていた。

引退後の心理的な要因についても記述する。帰国直後の WS は一人ではできないが、

他チアリーダーと一緒であるならばできると思い決断する。また、受講生にとっても 2 つ

の違うレッスンを受けられるのはいいことだと考えた。現職を選択した理由として、所属し

ていた北米スポーツリーグチアのチームと似ている地域密着型であることと会社の理念

に共感し、お互いの思いが合致したことで決断した。

図2.対象者1の1)1回目のオーディションからオーディション合格まで

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図3.対象者1の2)ビザ取得から北米4大スポーツチームのチアリーダーとしての活動期間と3)

北米4大スポーツチームのチアを引退してから現職まで

2-2 対 象 者 2 の結 果

対象者 2 は研究 1 の図の北米 4 大スポーツリーグチアの前の分岐で、それ以外のチ

ア活動を経ている。

1)家族や友人の後押しもあり、1 回目のオーディションの受験の決断をする。オーディ

ションで合格するがビザの取得ができず、チームへ合流できず帰国することとなった。帰

国後再挑戦を決意し、北米 4 大スポーツリーグの元チアリーダーのアドバイスや紹介さ

れた弁護士を通じて、ビザ取得のための準備をした。また、日本のチアチームに所属し

た。弁護士より、北米のダンススクールに留学し学生ビザ取得を勧められ実行した。そ

こから前回受験チームへアプローチするが、チームとしてビザの手伝いが難しいというこ

とで、北米 4 大スポーツリーグの元チアリーダーからのアドバイスも受け、受験チームを

選択し決定した。2 回目のオーディションを受験し、合格に至る。

その間の心理的な要因について記述する。日本帰国後は無所属であることの危機感

と、元々知っているチームであることや北米 4 大スポーツリーグのチアリーダーを目指す

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にはベストなチームだと思い、そのチアチームに所属することを決断する。北米 4 大スポ

ーツリーグの元チアリーダーのアドバイスにより紹介チームについて調べ、WS に参加し、

好きなダンススタイルであることや地域密着型のチームであるということにより決定した。

2 回目のオーディションにて合格する。

2)ビザに関して、弁護士のアドバイス通りダンススクールの学生ビザから書き換え、また

合格チームが日本人の受け入れの経験もあり、無事に取得できる。1 シーズン目終了

後、次シーズンの継続に関して、家族や友人、同じ境遇の仲間からのアドバイスもあり

継続することを決断する。2 シーズン目にルームシェアを開始する。3 シーズン目 4 シー

ズン目も継続を決意しオーディションを受験し合格する。4 シーズン目終了にて引退を

決意する。

その間の心理的な要因についても記述する。1 シーズン目は、特に一人暮らしは寂し

すぎるという感覚が強く、辛いと思う大きな要因であった。寂しさは友達や家族がいない

ことから実感することが多く、それ以外にも周りのイメージと実際の生活のギャップ、理想

のチアリーダー像と自分のギャップから自信をなくしていた。1 シーズン終了時は辛すぎ

てやめようと思っていたと当時の心境を述べている。2・3 シーズン目は「プロのチアリー

ダーとは何か」という問いの答えを探していたが、見つからなかったので継続するに至っ

た。4 シーズン目に、チームに所属しているという感覚や今シーズンで最後だなと思う瞬

間があり、今辞めても後悔しないと思い引退を決断した。また、チーム内での役割や楽

しむ余裕も出てきたのが、引退を決断する要因でもあった。チーム合流当初から「プロ

のチアリーダーとは何か」という問いの答えを探し続け、自分の中で答えが見つかった

ので引退を決意する。

3)帰国後、不定期にチアの WSや振付などの活動をしながら、フルタイムの仕事をする。

フルタイムの仕事に慣れてきた頃、北米 4 大スポーツリーグの元チアリーダーがやって

いたチアのレッスン枠があるため定期的なレッスンを開始する。その後、定期的なチア

のレッスンを続けながら現職へ転職する。また、不定期な WS や振付なども継続的に実

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施する。現職は,大学時代に知り合った人からの繋がりで就くに至った。

その間の心理的要因についても記述する。帰国後はチアリーダー向けのレッスンをし

たいと思っていた。不定期なチアの WS や振付などとフルタイムの仕事について、元々フ

ルタイムで働きながらチア活動をするのが理想であった。しかし、フルタイムの仕事に慣

れるまでは不定期な開催にし、フルタイムの仕事に慣れてきたところで定期的なレッスン

を開始した。帰国直後にしていた仕事は、とりあえず働かなくてはという事で就いた。そ

の後の転職に際し、やりたいと思っていた分野である事、1 から何かを作ることに携わり

たいという気持ちで決断した。

図 4.対象者 2 の 1)1 回目のオーディションからオーディション合格まで

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図 5.対象者 2 の 2)ビザ取得から北米 4 大スポーツチームのチアリーダーとしての活動期間

図 6.対象者 2 の 3)北米 4 大スポーツチームのチアを引退してから現職まで

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第 5章 考 察

本研究の目的は、NBA/NFL チアを経験したチアリーダーを対象に、そこに至るまでの

経路を整理し、またその後のキャリアに与えた影響を明らかにすることである。

第 1節 研 究 1

北米 4 大スポーツリーグのチアリーダーに至るまでの経路として、高校入学後から、少

なくとも何かしらのチアの経験を日本でしているということになる。高校入学後から北米 4

大スポーツリーグチアの直前の分岐より前は、様々な経路があり多様性があると言える。

またこの結果は、野球やサッカーなど他の海外移動のあるスポーツと比較すると、チア

エリートだけではなく様々な経路からも海外の移動があるという事が、特徴的であると言

える。

また、大学を卒業してからすぐに北米 4 大スポーツチアへ行く進路も考えられるが、今

回調査した 9名に関してそのような傾向は見られなかった。ただし今回 9名のみの分析

なので、それ以外のおおよそ 40 名も含めると経路は多岐にわたるのではないかと考え

られる。また、今回引退しているチアリーダーを対象としたが、現在活動しているチアリ

ーダーを含めると、チアのスクールの普及によりチア開始時の低年齢化も進んでいると

考えられ、より多岐になるのではないかと考えられる。

第 2節 研 究 2

研究 1 で北米 4 大スポーツリーグチアになる直前の分岐である 2 パターンの代表とし

て、2名の分析を行った。研究 1で導き出された経路を辿っているが、必須通過点で細

分化してみてみると、次のことがわかった。まず、必須通過点である日本でのチアの経

験であるが、どちらも北米 4 大スポーツリーグのチアリーダーになるための準備として選

択し、活動していることが類似点であると言える。しかし、細かい内容については異なっ

ており、それぞれがオーディション合格のために何が必要なのか考えて他者からのアド

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バイスも取り入れながら行動しており、多様性があると言える。また、必須通過点である

オーデシション受験であるが、合格するまでに複数回受験しているということも類似点で

あると言える。また、受験するチームも初回受験チームと最終的に合格したチームが異

なるという点でも類似点である。必須通過点であるビザ取得に際し、それぞれがそれま

での経験を生かし、そして他者からのアドバイスも受けながら、工夫して取得しているこ

とも類似点である。必須通過点以外では受験チームの決定に際し、北米 4 大スポーツ

リーグの元チアリーダーなど他者からのアドバイスを受けていることや、実際にチームの

ダンススタイルやチームの地域でのあり方などが受験チーム決定の要因としてあげられ

ているというところも類似点である。また、活動期間中に引退の時期を決定していること、

北米でのチア引退後に現役チアリーダーとしても引退しているところも類似点である。た

だし、引退を決断するに至った心的要因は、それぞれ元々年齢的に決めていたという

ものから、探していた問いの答えが見つかって今辞めても後悔しないと思ったというよう

に、異なる。さらに、帰国後の就職の決断においても、北米でのチアリーダーの経験か

ら選択したということ、学生時代からの人との繋がりから決断しているということも類似点

である。北米のチアリーダーを経験する中で、アピアランスという面識のない方と話す機

会も多く、多くの人と接する経験をしている。オーディション挑戦から合格し活動する期

間に様々な人からのアドバイスも含めた関わりがあること、引退後の仕事の就き方に関

しても人との繋がりから決断していることから、それぞれ細かい内容は異なるが人の繋が

りによって選択をしている傾向にあると言える。

チアリーダーの商品価値について増田(2015)は、「チアリーダー達にとってのコミュニ

ケーション力は非常に重要視される能力だ。なぜならば、彼女たちは親会社やチーム

の広告塔として機能するからである。そのため、地元コミュニティとも深い連携を取る必

要があった。多くのチアグループはボランティア活動にも熱心であり、地域のお祭りや老

人ホーム、チャリティーイベント、小児病院への訪問などを行なっている。こうした活動を

通じて彼女たちは広告塔としての存在感を示し、チームや親会社の宣伝活動を行なっ

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ている。」と述べられている 12)。まさに、北米 4 大スポーツリーグを経験したチアリーダー

は、コミュニケーション力を非常に発揮しながら、そこに至るまでの間を含めその活動期

間中の様々な経験を通し、他者からのアドバイスや人の繋がりから選択してきている。そ

の中で、増田(2015)が示すような能力を発揮しながら活動中の経験を生かし、その資

質を持ちながら次のキャリアへ影響を与えていると考えられる。

第 6章 結 論

研究 1 では、9 名のデータから北米 4 大スポーツリーグチアに至りその後のキャリア形

成までの TEM 図を作成し、経路を可視化した。その結果、北米 4 大スポーツリーグチア

に至るまで、チア以外にも多様な経路があるが、直前の分岐では日本でのチア経験を

しているということが明らかになった。また、その後のキャリアにおいて、チアリーダーの現

役は引退しているが、チアに関わることもあれば、全く関わっていないなど様々であると

いうことが明らかになった。

研究 2 では、研究 1 の TEM図より北米 4大スポーツリーグチアに至る直前の分岐であ

る、【日本応援チア】と【それ以外のチア】の 2 つの経路をたどった 2 名について、分岐

点における決断要因についてインタビューによる詳細な情報取得を図った。それぞれ 1

回目のオーディション挑戦から現在までの新たな TEM 図を作成し、様々な場面の社会

的なガイドや心理的な要因がどのように働き決断したのかを明らかにした。類似点とし

て、そこに至るまでにチームの選択やビザなどを含む様々な場面で他者からのアドバイ

スも多く、その後のキャリアの選択に際しても人との繋がりによって選択する傾向にある

ということが明らかになった。また、チームでの活動を通して多くの人と接する経験をして

いるということも明らかになった。

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第 7章 研 究 の限 界

本研究では当事者のインタビューによって、データを収集している。現在、約 50 名あ

まりの北米 4大スポーツリーグのチアリーダーがいる中、詳細な情報取得ができたのは 2

名にとどまった。また、最初の日本人北米 4大スポーツリーグのチアリーダーが誕生して

20 年経った今、日本のチアリーダーを取り巻く環境も変化しており、チア開始の低年齢

化も見られている。現在活躍している現役の北米 4 大スポーツリーグのチアリーダーは、

研究 1 とはまた違った経路で至っているケースも考えられることから、今の現役チアリー

ダーを含めた経路を明らかにすることを今後の課題にしたい。また 2018 年には、日本

人で初のイングランド・プレミアリーグのチアリーダーも誕生した。チアリーダーの発祥の

地であるアメリカのみならず、海外のプロスポーツチームのチアリーダーとして日本人が

活躍できるということも今後追求していきたいと考えている。

また、今回のリサーチクエスチョン 2 で提示した、NBA/NFL の経験は引退後のキャリア

にどのような影響を与えるのかについて、要因の追求について明確な回答は得られて

いない。今後、どのような方法や手続きをとればその要因を追求できるのか明確にして

いきたいと考えている。

また、チアリーダーの特異性を出すための他のスポーツの研究との比較が十分にでき

ていないので、他のスポーツに当てはめられるような研究方法もしていきたいと考えてい

る。

第 8章 今 後 の展 望

本研究では、人数が不十分であると考えられるので、今後さらなる知見を積み重ねな

がら、人数を増やしていき、より北米 4 大スポーツリーグのチアリーダーに至る経路につ

いて、また、その後のキャリアに与える影響について示していけたらと望む。

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引 用 参 考 文 献

1 ) 【 People 】 チ ア リ ー ダ ー ・ 本 田 景 子 さ ん 特 別 イ ン タ ビ ュ ー .

https://standardpacificgoods.jp/news/keikohonda/(参照日:2019 年 1 月 8

日)

2)プレミアリーグに新たな日本人が!クリスタル・パレスの新チアに

https://qoly.jp/2018/12/29/japanese-cheerleader-monomi-joined-crystal-

palace-kgn-1(参照日:2019 年 1 月 8 日)

3)高橋義雄,&佐令木康.(2012).日本人スポーツ選手の海外移動とキャリア形成

に関する一考察.生涯学習・キャリア教育研究,(8),71-78.

4)安田愛(2003)もっと輝こう!:大きな舞台で華になる、夢のかなえ方.PHP 研究所:東

5)三田智(2002)NFL チアリーダーの美のルール.青春出版社:東京

6)日本チアリーディング協会 チアリーディングについて チアリーディングとは

https://www.fjca.jp/cheerleading/contents_01.php(参照日:2019 年 1 月 8

日)

7)日本チアダンス協会 チアダンスとは

http://www.jcda.jp/about/cheerdance.html(参照日:2019 年 1 月 8 日)

8)公益社団法人日本チアリーディング協会 チアリーディングについて 競技規則

https://www.fjca.jp/cheerleading/contents_03.php(参照日:2019 年 1 月 8

日)

9)一般社団法人日本チアダンス協会 大会要項

http://www.jcda.jp/championship/2017/guideline.html(参照日:2019年 1月 8

日)

10)USAunitedspiritassociation 競技紹介 http://www.usa-j.jp/game(参照

日:2019 年 1 月 8 日)

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11)林晋子・土屋裕睦(2012)オリンピアンが語る体験と望まれる心理的サポートの検討.

スポーツ心理学研究、39(1)、1-14.

12)小島一夫 (2008)あるアスリートのキャリアトランジションに伴うアイデンティティ再体

制化について:生涯発達心理学の視点から.産業社会学部、研究紀要、14、73-85.

13)荒川歩,安田裕子,サトウタツヤ.(2012).複線径路・等至性モデルのTEM図の

描き方の一例.立命館人間科学研究,25,95-107.

14 ) 増 田 和 香 子 (2015)NFLチ ア リ ー デ ィ ン グ に 見 ら れ る 理 想 的 な 女 性 像 :"

WholesomebutSexy"を手がかりに、日本女子大学大学院文学研究科紀要、(22)、

37-47.

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謝辞

本研究を進めるに当たり、早稲田大学スポーツ科学学術院・間野義之教授からは多

大なご助言を賜りました。心より感謝申し上げます。

修士論文審査会において、副査をお引き受けいただき、貴重な指導とご助言を頂き

ました、澤井和彦先生、松本泰介先生、舟橋弘晃先生に心より感謝申し上げます。

博士課程の方々、修士課程の方々、間野ゼミ OBOG の方々から沢山のアドバイスとサ

ポートをいただきました。心より感謝申し上げます。研究データ分析において、博士課

程の藤岡成美さん、遠藤華英さん、修士課程の小木曽湧さん、今野涼太さんに多くの

時間と労力を費やしていただきました。心より感謝申し上げます。

また、本研究のインタビューに際し、お忙しいところ快くご協力頂き、またチアリーダー

の素 晴 らしさを再 確 認 させてくださったチアリーダーの方 々に心 から感 謝 申 し上 げま

す。

そして、社会人修士 13 期の同期の皆様には、常に励まし合い支えあいながら、有意

義な時間を過ごす事ができました。心から感謝申し上げます。

最後に、大学院進学にあたり理解と多大な援助をしてくれた職場の方々と家族に感

謝します。本当にありがとうございました。