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1 日本の IT 産業の人材育成の推進のために -東欧諸国を参考にして- 4 渋谷 目次 Ⅰ.はじめに・・・p2 Ⅱ.IT 人材について 1.IT 人材の定義・・・p2.スキル・能力・・・p3 Ⅲ.日本の IT 産業の人材不足問題・・・p5 Ⅳ.東欧諸国の IT 産業の発展 1.ルーマニア・・・p7 2.エストニア・・・p9 Ⅴ.日本の IT 産業の人材確保のための方策 1.政府・・・p11 2.企業・・・p12 Ⅵ.おわりに ・・・p15 参考文献・URL

日本の IT 産業の人材育成の推進のためにkatosemi/semi/4thyPDF/shibuya.pdf · 人材が求められるスキル・能力について説明していく。 ... 力、問題解決能力、コミュニケーション能力・チームワーク能力、自立的に学習する能力

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日本の IT 産業の人材育成の推進のために

-東欧諸国を参考にして-

4 年 渋谷

目次

Ⅰ.はじめに・・・p2

Ⅱ.IT 人材について

1.IT 人材の定義・・・p3

2.スキル・能力・・・p3

Ⅲ.日本の IT 産業の人材不足問題・・・p5

Ⅳ.東欧諸国の IT 産業の発展

1.ルーマニア・・・p7

2.エストニア・・・p9

Ⅴ.日本の IT 産業の人材確保のための方策

1.政府・・・p11

2.企業・・・p12

Ⅵ.おわりに ・・・p15

参考文献・URL

2

Ⅰ.はじめに かつて 18 世紀半ばから 19 世紀にかけて、産業の変革とそれに伴う社会構造の変化、産

業革命が起こった。イギリスで蒸気機関の開発により工場製機械工業が設立し、同時期に織物工業や製鉄業などの技術革新や発展も大きく、近代の幕開けといえる変化と言われている。この革命でモノづくりが人の手から機械へと移っていった。

1865 年から 1900 年の間には第 2 次産業革命が起こった。産業革命で工業が大きな躍進を遂げたイギリスだけでなく、フランス、ドイツ、アメリカでも技術革新により工業力が大きくなった。この革命で電力の導入による大量生産が可能となった。工業用品だけでなく飲食料品や衣類などの製造も機械化が進み、消費財の大量生産の仕組みが確立されてきた。

20 世紀半ばから後半にかけて第 3 次産業革命が起こった。コンピュータの発達で工場での機械の自動化が進み、より効率的な量産が可能となった。また IT(情報通信技術)の普及により生産の自動化も可能となった。 そして、近年では IoT(Internet of Things)や AI(人工知能)を用いることで起こる製

造業の革新、第4次産業革命が起きている。IoT は「モノのインターネット」と呼ばれる、あらゆるモノがインターネットと繋がり、情報交換をすることで相互に制御するシステムである。 これらの技術を導入することで、コンピュータが AI などにより自分で判断し動くシステ

ムが確立できるようになる。これにより製造業のさらなるデジタル化・コンピュータ化が進むとされている。1 このように、これまで産業の変革により様々な産業が発展してきた。そして現在は IoTや

AI のような IT産業の発展である。この発展を新しいビジネスとすることで、企業の生産性が向上し、賃金の上昇を通じた経済の好循環につながるとみた政府は、IoT や AI、ロボット等の先進技術が牽引する第 4 次産業革命を成長戦略の柱に位置付けている。2 それほど IT 産業は日本経済の成長にとって重要な役割を担うことが強く期待されてい

る。こうした ITの重要性を踏まえると、付加価値の創出や革新的な効率化を通じて生産性向上等に寄与できる IT 人材を十分に確保することが極めて重要な課題であるといえる。 しかし、現在日本では IT産業の人材不足(以下 IT人材不足)が問題となっており、経

済産業省が発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」では、2020年には 29.3 万人、2030年には 58.6 万人の IT人材が不足すると予測されている。3そのため、

1 コエテコ https://coeteco.jp/articles/10111(2019 年 12 月 29 日アクセス) 2 産経 WEST「関西で深刻な IT 人材不足 3 年後は需要の 4 割 育成組織の立ち上げ不可欠」

https://www.sankei.com/west/news/171026/wst1710260003-n1.html(2019 年 11 月 7 日アクセス) 3 経済産業省「IT 人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」

https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/27FY/ITjinzai_report_summary.pdf(2019 年 11 月 7 日ア

クセス)

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迅速な IT 人材の確保が求められる。IT 人材不足を解消することで日本は IT産業の発展による恩恵を受け、経済及び企業の成長へと繋がっていく。 本稿では、日本の IT 産業の人材育成の推進のために、企業は何をすべきか、東欧諸国を参考にして検討する。東欧諸国における IT産業の発展は世界的にも注目されている。 本稿の構成は次のようになっている。Ⅱ章では、IT 人材とは何かを確認する。Ⅲ章では、日本の IT 産業の人材不足の現状を検討する。Ⅳ章では、東欧諸国の IT産業の発展の背景について検討する。Ⅴ章では、東欧諸国の経験を参考に、日本の IT 産業の人材確保のためにどのような方策が必要かを検討する。 Ⅱ.IT人材について 1.IT人材の定義 まずここで、本稿での IT人材の定義について説明していく。一概に IT人材といっても

いくつか種類があるため、求められるスキルや能力が変わってくる。 IT人材とは大きく分けて 2 種類存在する。それは作る側の IT人材と使う側の IT 人材

である。 作る側の IT人材とは、ソフトウェアやシステム開発に関する専門知識と経験を備えた

人材で、主に SE(システム・エンジニア)や SIer(システム・インテグレーター)が挙げられる。組み込みソフトウェアや情報システム開発において、先端技術を応用した新機能の開発や品質・セキュリティーの確保、生産性の向上など技術面からの高度化を担うことが期待されている。IT自体のイノベーションを生み出す人材とも言われている。 使う側の IT人材とは、経営、マーケティングや非 IT 分野の技術などの専門性を備えつ

つ、ITを使いこなす立場で必要な知識やスキルを身に付けた人材で、近年 IT を利用した事業を展開する企業が増えているが、そういった事業に携わる社員などが使う人材として挙げられる。ITを活用してビジネスや業務を変革し、企業の競争力を高めるといった、企業におけるストラテジストの役割を担うこと、ITを活用した新たなサービスを企画し世の中に提供していくような、新規ビジネスやサービスの立ち上げを期待されている。ITを活用してイノベーションを生み出す人材とも言われている。4 このように、IT 人材には作る人材と使う人材の大きく 2種類に分けられ、それぞれ役割や期待されていることが異なっている。 2.スキル・能力 次に、IT人材が求められるスキル・能力について説明していく。ここでは、一節で述べた作る人材と使う人材を踏まえて説明していく。 まず、IT 人材が求められるスキルは、作る人材にとっても重要なものとなる技術力や専

4 山下[2007]、79-80 頁

4

門知識である。システム開発において考えると、要求分析、設計、プログラミング、テストといった各プロセスを経て行われるが、各プロセスの持つ意義を理解したうえで技術力、知識がないと成り立たない。そのため、技術力と専門知識は求められる。 そして、それらを身に付けるには資格を取る必要がある。例えば、ITパスポートや情報

技術者試験などが挙げられる。このような資格に関しては参考書や問題集を解く勉強時間を確保すれば、大人になってからでも取ることができる。ただ、これから説明していく能力においては、現代の社会で働くうえで必要な能力で、大人になってから培うには遅く、理想は子供のころから養うべき能力である。 それは、実践的な能力である。企業が求めている能力は、現場に参加した際、すぐに実

務に対応するために必要な最低限の知識とスキルである。そして、実戦経験を通じて早期に一人前の IT 技術者として力を発揮してくれることを望んでいる。IT人材になりうる素質・素養を備えた学生が基礎的な ITの専門知識とスキルを持ち、それを実行する能力を身に付けることができると、入社後、企業内の教育研修や実務経験によって短期間のうちにレベルアップを図ることが可能になるためである 5。 こういった技術力、専門知識及び実践的な能力は、2009年 1月のロンドンで開催された

「学習とテクノロジーの世界フォーラム」において立ち上がった「21 世紀型スキルの学びと評価プロジェクト」で、21 世紀を生きていくうえで必要な能力について、批判的思考力、問題解決能力、コミュニケーション能力・チームワーク能力、自立的に学習する能力の 4つのカテゴリーに分けて意見が交わされ、「働くためのツール」として IT リテラシーの育成が重要だという結論として導き出されている。さらに、ITリテラシーについて、「効果的に社会に参加するために、情報にアクセスし、評価・管理し、新たに理解を深め、他社とコミュニケーションすべく、1人ひとりが適切に IT を使う能力」と定義された。6 このように、IT の専門知識とスキルと IT を活用する能力といった実践的な能力、つまり IT リテラシーが世界的に求められていることがわかる。 したがって、現代は高度に発達した情報社会であり、あらゆる社会生活の場で新しい情

報を得てそれを知識とし、さらに技術を身につけ自分の価値を高めていくことが求められる。そこでは、多様化やグローバル化によるより広範な情報が行き交うことになるため、情報を知り、取り扱える人材がこの社会で活躍できる。こういった社会では、情報や情報手段などの IT を適切かつ柔軟に利活用して新たな価値を生み出すような、高度な IT リテラシー7が必要となってくる。そして、「人間性、コミュニケーション能力、意欲・やる気、精神力、論理的思考力、問題発見・解決能力、リーダーシップといった基礎的な職業

5 同上、173・174 頁 6 鈴木[2018]、20・21 頁 7 同上、19 頁

5

能力は、ITを知り、理解し、使いこなす能力の基盤」8でもあるため、これらの能力も合わせて必要となってくる。 Ⅱ.日本の IT 産業の人材不足問題 近年、産業構造が変化し、AI やロボット、IoT といった IT 産業が経済を牽引する第4

次産業革命が起きている。IT は日本の産業の成長にとっても重要な役割を担うことが期待されているため、それを成長戦略の柱に位置付け、より経済を発展させていきたいところである。 そして、そのためにはその IT 産業の担い手である IT 人材を十分に確保する必要があ

る。しかし、現在日本では IT 需要の拡大にも関わらず、その IT 人材が不足しているという問題に直面している。下記のグラフは、IT人材の不足規模に関する予測を示したグラフだが、このグラフを見ると、2022年には 34.7 万人、2030年には 58.6 万人の IT人材が不足すると予測されていることがわかる。

出典 経済産業省「IT 人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」をもとに筆者作成

では、なぜ日本では IT 人材不足に陥っているのか。その原因は主に4つ挙げられる。

1つ目が、「新3K」のネガティブイメージである。近年におけるエンジニアの仕事は「新3K」と呼ばれている。「新3K」とは「きつい」、「厳しい」、「帰れない」である。また、IT業界でよく聞く話は、コストの削減、納期の短縮、長時間労働といったものが多く、こ

8 4に同じ、174 頁

892,511 905,408 918,921 922,491 923,273 916,447 902,789 875,018 856,845

0 0170,700 218,976 268,655 347,611 429,611 524,562 586,598

0

200,000

400,000

600,000

800,000

1,000,000

1,200,000

1,400,000

1,600,000

2010年 2012年 2015年 2017年 2019年 2022年 2025年 2028年 2030年

IT人材の不足規模に関する予測

供給人材数(人) 人材不足数(人)

6

ういったことからネガティブなイメージが定着してしまった。現在では、働き方改革で企業の残業を減らす動きが進んでいることから改善されつつあるが、それでも依然として「新3K」のイメージが拭えていないことが現状である。 2つ目が、IT エンジニアの仕事の賃金の低さである。ITエンジニアの仕事は「新3K」

としてイメージされるように、仕事が過酷なわりに年収が低い。IT 業界は多重下請け構造であり、ピラミッドの頂点にいる元請けから二次請け、三次請けと下に行くにしたがってエンジニアの人数が増え、単価が低くなるという構造になっている。そのため、元請けと下請けではどうしても所得格差が生まれてしまう。最近は大手 IT企業やベンチャー企業を中心にエンジニアに高給を支払う企業も増加してきたが、それはあくまで氷山の一角に過ぎないということも事実である。 3つ目が、IT 技術の進化スピードが速すぎる点である。現在、Web業界や IT業界の拡

大とともに、各企業は事業の幅を広げている状況である。特にWeb アプリや IoT技術の発展は目を見張るものがあり、エンジニアにしてみれば最新の技術を習得した瞬間からその技術が古くなってしまうほど、IT技術の進化スピードが速い。これからは AI など新たな技術が登場することで、この流れはさらに加速するとされる。そのため、スキルの習熟が業界の進化に追いつかず、エンジニアを目指す人が増えないでいる。9

4 つ目が、既存の IT 技術者の高齢化である。IT 分野の中でも、最先端となっている分野に関しては若手が中心となって活躍しているが、既存の業務に関しては、技術者の高齢化が目立ってきている。これまで、社内の業務を支えてきた世代が高齢化してきているのである。また、逆三角形になっている人口ピラミッドも問題となり、世代交代がうまく行われていないのも原因の 1 つである。 そして5つ目に、日本で STEM 教育といった教育政策の導入の遅れである。日本でも、

平成 13 年 1 月に施行された高度情報通信ネットワーク社会形成基本法を踏まえ、「e-Japan戦略」「u-Japan 戦略」「IT 新改革戦略」「i-Japan戦略 2015」など、教育分野を含めた ITに関する様々な国家戦略が策定されてきたが、教育の情報化については、これまで策定された国家戦略に掲げられた政府目標を十分達成するに至らず、また他の先進国に比べて遅れをとっている状況にある。 これら5つの原因により、日本は現在、IT 人材不足に陥っており、今後、IT 人材の確

保は現在以上に難しくなると考えられている。したがって、迅速な IT人材確保が求められてくる。 このように、日本は、第 4 次産業革命による IT産業の発展による経済成長を望んでい

るが、IT 人材不足を抱えているために、この恩恵を完全に受けきれずにいることが現状である。

9 Midworks https://mid-works.com/columns/freelance-career/freelance-selfemployed/1074224(2019年 12 月 28 日アクセス)

7

Ⅲ.東欧諸国の IT 産業の発展 現在、第4次産業革命により、AI や IoT といった IT 産業が発展してきている。IT 産業に強みを持つ国はその恩恵を受け、経済成長や企業の事業拡大や利潤の増大が予測される。そのような中、近年 IT 産業が発展している国として注目されてきている国が存在する。その国は、ルーマニアとエストニアである。両国とも、IT 産業に強みを持っており、その強みを活かして着々と経済成長してきた。そのため、この国で取られている方策を参考にすることで、日本も IT 人材不足を解消することができないだろうか。 この章では、そんな IT産業が発展し、IT 人材が豊富であるルーマニアとエストニアについて説明していく。 1.ルーマニア まずは、ルーマニアである。ルーマニアは首都がブカレスト、面積が約 23.8 平方キロメートル、人口が約 1976万人(2016年)である。10 近年、ルーマニアは IT 先進国のダークホースと呼ばれるなど、IT産業の発展が著し

い。ルーマニアの IT産業は GDPの6%を占め、この国の経済基盤となっている。IT業界の就労者は 9 万人、2020 年までに 11万人を超すとみられている。IT業界で働く女性の割合は、ヨーロッパで 3番目に高く、ルーマニアの大学生の 21%が工学を専攻し、エンジニアの割合は EU で最大である。有資格 IT 技術者の数では、世界で 6 位にランクし、人口当たりの IT 技術者数は、アメリカやインド、中国、ロシアよりも多く 11、IT スペシャリストの資格を持つ人数が 95000 人、世界でトップ 10 に入る。また、IT業界では 80%以上の人材は英語が堪能である。 このように、ルーマニアは優秀な IT人材が豊富にそろっている。その要因はおもに 3

点挙げられる。1つ目が、IT インフラの整備である。下記のグラフは、ヨーロッパ諸国の中でインターネットスピードが速い国をトップ 10 にまとめたものだが、これをみると、2015年時点でヨーロッパ諸国の中で群を抜いてインターネット回線が速いことがわかる。12これにより、山間のリゾート地や地下鉄車内など、どこでも 4G 接続でモバイルインターネットを利用することができる。

10 外務省-ルーマニア基礎データ- https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/romania/data.html (2019 年10 月 16 日アクセス) 11 Daijob HRClub https://hrclub.daijob.com/column/3604/ (2019 年 12 月 17 日アクセス) 12 Statista https://www.statista.com/chart/3348/europes-fastest-downloaders/(2019 年 12 月 17 日アクセス)

8

出典:筆者作成(statista https://www.statista.com/chart/3348/europes-fastest-downloaders/ 参考)

2 つ目が、給与の高さである。IT 技術者の給与は、ルーマニアの給与平均の最大 5倍にも達する。若手開発者の 1 カ月当たりの手取り給与は最低 700 ユーロ(約 9 万 2500 円)だが、より経験の豊富な技術者であれば 1か月あたり 3500 ユーロ(46 万 2900円)を稼ぎ出すことができる。13

3 つ目が、STEM教育を推進していることである。STEM教育はこれからの時代で子供たちが生き抜くために必要不可欠になると言われており、ルーマニアの他にもアメリカやイギリスなどで導入されている。 まず、STEMとは科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学

(Mathematics)の頭文字を取った言葉で、これからの産業は AI やロボットが産業を大きく変えていく第 4次産業革命に突入していく。そのため、IT企業だけでなく様々な企業でも IoTや AI の導入が進み、どのような仕事をする場合でも AI やテクノロジーを使いこなす能力が求められるようになる。このような時代を生きる子供たちにとって、上記の 4分野の知識は、将来社会に出るために身に付けるべき教養となることが考えられる。14 したがって、現在では STEM 教育は文理の領域を超えた教育と呼ばれ、4つの学問の教

育に注力し、IT社会とグローバル社会に適応した国際競争力をもった人材を多く生み出そうとする、21 世紀型の教育システムとして捉えられている。STEM教育はこれからの時代の人材育成の重要な基盤である。そのような STEM 教育を推進していることで、学生のころから高度な理系の知識を身に付けられるように、プログラミングや数学などの授業に力を入れてきた。15

13 ZDNet Japan https://japan.zdnet.com/article/35108423/ (2019 年 12 月 29 日アクセス) 14 TECH::NOTE「STEM 教育とは?プログラミングやロボット教育で導入。各国の事例を解説」https://tech-camp.in/note/technology/46573/ (2019 年 12 月 29 日アクセス) 15 FUSE https://www.fuze.dj/2016/10/post_3-1214.html(2019 年 12 月 29 日アクセス)

67.6657.04

51.7347.42

44.4544.3543.95

41.5741.5

37.05

0 10 20 30 40 50 60 70 80

ルーマニアスウェーデン

オランダリトアニアラトビアスイス

デンマークアイスランド

モルドバフランス

インターネットスピード:ヨーロッパ諸国TOP10(2015年)

9

これら 3つの要因から、ルーマニアでは優秀な IT人材が豊富にそろっている。そのため、近年テクノロジー技術とノウハウを身に付けた彼らによるテックスタートアップが急増し、ここ 5年で 120 から 300 を超えるほど成長している。16また、ルーマニアの優秀なIT人材を求めて、Oracle、IBM、Microsoft といった世界の大手テクノロジー企業がルーマニアをアウトソーシング先として進出し、オフィスを構えている。17こういったことがルーマニアの経済を回し、EU 圏内では 2番目に経済成長している国となっている。 2.エストニア 次に、エストニアである。エストニアは、首都がタリンで、バルト三国の最北に位置

し、人口 135 万人、面積 4.5万k㎡であり、日本と比較すると、エストニアは北海道の6割程度の国土面積という小国の部類に入る 18。エストニアは、行政サービスの 99%が電子化されており、双方の同意が必要な結婚、離婚、土地の売買を除いたあらゆる行政手続きが 24 時間年中無休で行うことができる。この取り組みに対し、各国の政府や企業からの視察は絶えない。こういったことから、世界屈指の IT 大国と呼ばれている。そうなった要因は 3点挙げられる。

1 つ目が、IT インフラである。1991 年 8月に旧ソ連から独立し、エストニア政府は ITとバイオテクノロジーに資本を集中していくことを決定し、国民もそれを支持した 19。この IT 政策は道路や公共施設の建築や農業推進を差し置いて行われた。それだけ政府が ITに注力していたのかがわかる。この時期に、タイガー・リープ・プロジェクト、Wi-Fi無料化の草の根運動の2つの政策が、独立直後の 1996年から 2002 年にわたって実施された。 タイガー・リープ・プロジェクトは 1996 年〜2000 年にかけてタイガーリープ財団(現Information Technology Foundation for Education:HITSA)によって進められた政府主導の教育政策である。経済が急激に発展したシンガポールに代表される東南アジア諸国のように、IT を使用して虎のひと跳びのように先進国を追い越すことを目標に 20、すべての学校でインターネットを利用できる環境が整備され、同時に新しいスキルとして教師に対しインターネット教育が実施された。

Wi-Fi 無料化の草の根運動は有志により 2003 年からが始まった政策で、Wi-Fi の利用環境をレストラン、ガソリンスタンド、空港など多くの場所に構築し、外出先でも簡単にイン

16 HEAPS http://heapsmag.com/romania-it-industry-booming-with-tech-startups-millennials-workforce (2019 年 12 月 29 日アクセス) 17 13 に同じ 18 外務省-エストニア共和国基本データ-https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/estonia/data.html (2019 年11 月 29 日最終アクセス) 19 ラウル・前田[2016] 、95 頁 20 同上、97-98 頁

10

ターネットを利用できるようにした。21 これらの IT 政策を経て、エストニアでは 2007 年の時点で、学校インターネット接続率100%、公共機関インターネット接続率 100%、民間企業インターネット接続率 90%という非常に高い数字が実現した。そして 2016 年時点で、インターネット普及率は 84%、インターネット接続世帯 88%と IT インフラが整備されたと言える 22。こうして ITインフラが整備されたことで、エストニアは電子政府化が進み、次いで行政サービスの電子化が進められた。

2 つ目が、IT 人材育成である。エストニアでは IT 大国へと成長していく過程で、IT インフラ、電子政府だけでなく、子供の頃からコンピュータに触れる機会やプログラミングを学ぶ教育環境も整っていった。その中で実施された政策が、The Look@World プロジェクト、ProgeTiigerである。

The Look@Worldプロジェクトは民間会社数社が主導となった教育政策で、2002 年 4月からエストニアの人口の 10%に当たる約 10 万人に対して無料でインターネット利用の基礎的な教育を行うために実施されたプロジェクトである。23 また、近年では 2012 年から、政府からの支援を受けて科学・技術教育の普及活動を行

っている団体「Tiger Leap Foundation」が、タイガー・リープ・プロジェクトの一貫でもある ProgeTiigerを進めている。これは小学校からプログラミングの授業を実施しようという事業である。24 それに伴い、Skype のオーナーである Microsoft も賛助する半官半民の事業で、10〜19

歳の子供たちがロボット工学とプログラミングとモバイルアプリとWeb デザインを趣味や放課後の活動として学ぶグループも全国で作られている。これはプログラミング教育のフォローアップとして、教室で習ったことに対し、より深い関心を持った子はこれでその関心を具体的に成長させることができるという考えのもと作られた課外活動である。25 このように、IT人材育成に力を注いだことにより、優秀な IT人材がそろい、彼らが率

先してエストニアの IT 大国への成長を支えた。 こうして、エストニアは IT 大国へと成長していった。また、エストニアは近年、起業

支援にも注力しており、自国でスタートアップを図り、新たな事業を展開する IT人材も他国に比べて多い。そして、ルーマニアと同じように、優秀な IT人材を求めた外国から

21 同上、86 頁 22 総務省(2007)「エストニア ID カードの利用状況 - ESTONIA National ID card-」

http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/kojin_ninsho/pdf/070201_si4.pdf(2019 年 12 月 17 日アクセス)

23 19 に同じ、85 頁 24 19 に同じ、170 頁 25 TechCrunch https://jp.techcrunch.com/2012/10/06/20121005estonia-drives-robotics-and-coding-

education-with-smartlab-hobby-groups-backed-by-microsoft/(2019 年 11 月 26 日アクセス)

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のアウトソーシング先としても魅力的である。こういったことも、エストニアの IT 産業を発展させ、経済成長に寄与している。 Ⅳ.日本の IT 産業の人材確保のための方策 これまで、Ⅱ章では日本が抱える IT 人材不足には 5つの原因があることを指摘した。そして、Ⅲ章で、IT産業の発展が著しい世界の国の例としてルーマニアとエストニアについて検討してきた。両国に共通することは、どちらも ITインフラが整備されていること、強力な IT 人材育成による優秀な IT 人材がそろっていることで、これらの要因が IT産業の発展を支えていることがわかった。 この節では、日本が抱えている IT人材不足を改善するために、Ⅲ章で取り上げたルーマニアとエストニアの例を参考にして、これから日本の政府および企業が実施するべき方策について考察していく。 1.政府 まず、政府がこれから実施するべき方策について、3点記述していく。1つ目が、教育

政策の導入である。ルーマニアでは STEM教育、エストニアでは The Look@World プロジェクト、ProgeTiiger のように、IT人材が豊富な国では、IT人材育成のために教育政策を導入・推進している。Ⅲ章でも記述したように、日本ではそのような教育政策の導入、推進の遅れが、IT 人材不足を起こす要因の 1 つとなっている。そのため、これからは迅速な教育政策の導入、推進が求められる。ただ、日本でも教育政策が急速に動き始めた時期があり、2010年、政権交代後、政府が教育に力を入れ始めたのがきっかけで、文部科学省が 2016 年 4月、「学校教育の情報化に関する懇親会」を開催し、総合的な推進方策を検討し始め、2020年に 1人 1台の情報端末とデジタル教科書が使える環境を実現することを政府目標とした。また、「小学校でのプログラミング授業の必修化を検討する」と発表し、STEM 教育の一貫であるプログラミング授業を 2020 年から導入するともしている。総務省も「フューチャースクール」と名付けた学校情報化の実験を強力に推し進めており、このように少しずつではあるが、IT人材不足を補うための教育政策が政府主導で導入されつつある。26

2 つ目が、大学の授業で実践的な経験を積める授業を組み込むことである。Ⅱ章 2節で、IT人材が求められる能力の1つに実践的な能力と説明したが、ルーマニアでは STEM教育で実践的な教育を提供し、経験を積ませるようにしている。それに対し、日本ではデジタル回路、応用理論、特殊応用分野など、基礎や理論系の科目に偏っており、IT 企業が望むモデリングやシステム設計の手法などの実践的な科目組み込んだ大学が少ない。27つ

26 中村・石戸[2010]、4 頁 27 4 に同じ、64 頁

12

まり、大学と企業での需要と供給に差が生じている。そのため、実践的な授業をもっと増やすべきである。学生のうちにこういった基礎的な能力及び実践的な経験を積んでいると、新卒で社会人になり研修を受けることで、すぐに即戦力の人材へと成長できるようになる。そうすれば、日本の IT 人材の質の向上が見込まれ、IT人材不足の 3つ目の原因である既存の IT 技術者の高齢化に対応できるようになる。

3 つ目が、IT インフラの整備である。ルーマニアやエストニアでは ITインフラがしっかりしているため、いろんな場面で IT が導入されており、ITに触れる機会が多い。一方、日本でも街中やオフィスでの ITインフラは整備されているが、学校の IT インフラはまだ発展途上である。具体的な数値として、「教育用コンピュータ 1台当たりの児童生徒数」でみると、韓国では 4.7人に 1台(2011 年)、アメリカは 3.1 人に 1 台(2008 年)、シンガポールでは 2.0人 1 台(2010 年)であるのに対し 28、日本では 2017年 3月の段階でも 5.9人 1 台となっていることが文部科学省の調査で明らかになっている。29電子黒板の整備台数では、日本は 2018年時点で 11 万 3357 台だが、これを全国的にならすと24.4%の普及率となる。一方、イギリスは 80%、デンマークは 53%、アメリカは 41%(いずれも 2011 年)と日本を大きく上回っている。30これらに関して、IT政策は推進されているが、コンピュータ整備に関するデータでみると、実際の教育現場は加速度的には進んでおらず、緩やかな横ばい状態が続いているのが現状である。 やはり、他国と比べて教育現場におけるコンピュータの普及率などで遅れをとっている

ことで、STEM 教育など IT人材育成の方策の導入、推進が遅れる原因となる。したがって、ITインフラの整備もまた政府が実施するべき方策の一つとして挙げられる。 2.企業 次に、企業が実施するべき展開について、6点記述していく。まず 1つ目が、イメージを払拭する広告戦略である。IT人材不足の原因の 1 つ目で前述した、「新3K」のイメージは日本人が持つ特有なイメージである。外国では IT 人材に対してネガティブなイメージを持っておらず、むしろ人気の業界として評価しているところが多い。日本でもネガティブなイメージを払拭し、働きたいと思えるイメージを植え付けるような広告戦略を行うことで、外国のように IT人材が増えるのではないだろうか。例えば、フレックスタイム制やリモートワークなど働き方に関することから、単純に自身の技術力などで見てもらえる評価制度などがあり、また現在では働き方改革で企業の残業を減らす動きが進んでいることから、働きやすい環境へと改善されつつあるため、そういった情報を就職活動などの

28 笹木[2013]、50-63 頁 29 文部科学省「平成 28 年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/03/07/1399330_01.pdf(2019 年 11 月 21 日アクセス) 30 Patricia[2013]

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際に伝えることで、よりポジティブなイメージが生まれ、IT業界を志望する人が増え、IT人材不足の解消が見込まれる。

2 つ目が、従来の慣習を超えた給与水準の設定である。日本は外国と比べ、IT 人材不足の原因の 2 つ目で前述したように給与水準が低い。アメリカやルーマニアのように IT人材が多くそろっている国の IT 企業の給与水準は、他業界の企業の給与水準よりも高く、それが IT 人材になりたいと考える人が増える要因の 1つとなっている。そのため、現実的には容易ではないが、多くの企業が IT人材不足という悩みを抱えている今、いち早く取り組むことでそのものが差別化の大きな要因となり、より優秀な人材を確保できるようになる。そして、即戦力の彼らが事業を拡大することで、結果として利潤の増大も見込める。したがって、給与水準の再設定も実施すべき方策である。31

3 つ目が、経営戦略に IT人材育成も含めることである。IT 業界は日々技術が進歩しており、それに対応した人材の育成が大切なものとなってくる。IT人材不足の原因の 1 つである、IT 技術の進化スピードが速すぎることから、次から次へと新しい技術が必要になってくる。そのための学習が取れないとなると、いずれその人材は企業にとって必要のない人間となってしまう。貴重な人材をそのような形で手放すことは非効率なため、事業を拡大していくにつれ、人材もまた成長させていく必要がある。そのため、経営戦略として人材育成に取り組む必要がある。 4つ目が、人材育成にコストを割くことである。下のグラフは日本と外国の従業員一人

当たりの研修費用を比較したグラフだが、このグラフから日本は欧米に比べ、従業員にかける研修費用が低いことが読み取れる。

31 みずほ情報総研 https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/contribution/2018/mizuho-global1806-07_02.html (2019 年 1 月 7 日アクセス)

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出典 経済産業省「参考資料」(IT 人材育成等の状況等について)をもとに筆者作成

また、JISAが実施する情報サービス産業における 2016年度の売上高教育投資率の統計

では、0.5%未満の企業が大多数を占めており、情報サービス産業では多くの企業が教育にかける費用が非常に少ないのが現状である。32 この現状の中、自ずと勉強し、スキル等を習得する人材はごく一部に限られ、大多数の

場合、会社がコストをかけて教育していく必要がある。また、無料でできるような講習をしたところで人材は育たないうえ、一度や二度やっただけでも意味がない。継続して勉強をする期間や機会を設けることこそ、長期的に見て、会社にとっての利益になる。人材にはそれほどのコストをかける価値がある。 5つ目が、OJT やメンター制度の導入である。これは IT業界に限らず、新人教育に

OJTを導入している企業がほとんどである。先輩や上司にあたる方を OJT担当、またはメンターとして業務に関する基本的なことから指導していくことが望ましいが、IT 業界のように専門的な知識を要する場合、アウトソーシングしてよりその業界に特化した人材をOJTやメンターとして起用することも効果的である。また、疑問点や今後の業務で不安要素となる面をすぐにカバーすることが可能なため、結果的に離職率を抑えることにもつながる。33 6つ目が、外国の優秀な IT 人材の採用である。ルーマニアやエストニアでは、優秀な

32 JISA「2015 年版情報サービス産業 基本統計調査」、25 頁 https://www.jisa.or.jp/Portals/0/report/basic2015.pdf?20160205 (2019 年 12 月 28 日アクセス) 33 TECH::NOTE「IT 人材不足の悩み、その原因と人材育成方法まとめ」 https://tech-camp.in/note/technology/17932/(2019 年 12 月 28 日アクセス)

53,137 47,32234,000

79,577

99,235 100,000106,071

95,285

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

1998年 1999年 2011年

1人当たりの教育研修費

日本 米国 欧州

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IT人材が豊富で比較的給与水準が低いことからアウトソーシングを目的として進出する外国の大手企業が近年増加している。これに倣い、日本の企業も外国の優秀な IT 人材の採用を拡大することで、現在抱えている IT人材不足の解消を目指すべきである。 ただ最近では、教育事業を核に介護や ITなどの事業を展開するヒューマンホールディ

ングスの傘下で、人材事業を手掛ける人材派遣大手のヒューマンリソシアが、ルーマニアの国立大であるブカレスト経済大学と日本文化、芸術、歴史などの文化活動や日本語教育分野で協力する各所を結んだ。これを機に東欧圏の IT 人材の採用を強化する考えである。日本国内では、AI や IoTの普及で経営の IT化が進む中で、IT人材不足が深刻になっている。ヒューマンリソシアは、海外からの IT 人材を日本企業に仲介し、2020 年に現在の 3倍強の 1000 人まで増やす計画である。34 このように日本でもルーマニアの IT人材を採用する動きが見られるようになった。こ

の動きがより他の日本企業にも広まり、IT 人材獲得のために外国の優秀な IT 人材の採用を進めていくことが望まれる。 Ⅴ.おわりに 本稿では、第 4 次産業革命により IT産業が発展し、その恩恵を受けて経済成長を図り

たい日本だが、それに伴い露呈した IT 人材不足問題を解消するために、IT産業が盛んで、優秀な IT 人材が豊富なルーマニアとエストニアの例を参考にして、日本の政府および企業がこれから実施していくべき方策について研究し、考察してきた。 この研究の成果として、日本では IT産業の発展の恩恵を受けるためには、より IT人材

を増加させる必要がある。ただ、日本では IT人材不足が問題となっており、それを改善するために、ITインフラの整備や STEM 教育の導入、推進、大学での実践的な授業の組み込みといった政府による方策と、給与水準の再設定、広告戦略、経営戦略への IT 人材育成の組み込み、人材育成費用の増大、OJT やメンター制度の導入、外国の優秀な IT人材の採用といった企業による方策を実施していくべきである。ITインフラの整備といっても、日本では学校での教育用コンピュータや電子黒板といった学校面における IT環境が他国に比べ、遅れを取っている。そしてそれが要因となって、STEM 教育等の IT人材育成の推進が遅れている。すでに導入している事例もいくつかあるのだが、それはほんの一握りでしかないため、まずは IT環境を整備し、STEM 教育を推進する必要がある。また、企業の IT 人材育成における費用においても他国に比べ低く、企業が IT人材育成に消極的な点が IT 人材不足をより加速させていく。そのため、企業が IT 人材育成により積極的になる必要がある。 ルーマニアとエストニアの事例を見ても、ITインフラの整備や豊富な IT 人材の影響力

34 SankeiBiz https://www.sankeibiz.jp/business/news/181126/bsd1811260500009-n1.htm(2019 年 12月 31 日アクセス)

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は多大であることが明らかであるため、日本も迅速に IT人材を確保するための方策を導入し、推進することができると、IT人材不足は少しずつ解消されていくと思われる。 これらの要点を踏まえ、IT リテラシーを身に付けた IT 人材が増加し、アメリカやルー

マニア、エストニアといった IT人材が豊富な国と肩を並べることができると、その IT人材により日本の IT 産業は支えられ、活性化されていく。そして、IT 産業が活性化することで日本の経済も回り、企業も事業拡大や利潤の増大といった成長が見込める。これが本稿での研究の結果である。 以上、STEM教育などの教育政策の導入及び推進、大学における実践的な授業の組み込

み、ITインフラの整備といった政府が実施していくべき方策と、給与水準の再設定、広告戦略、経営戦略への IT 人材育成の組み込み、人材育成費用の増大、OJTやメンター制度の導入、外国の優秀な IT人材の採用といった企業が展開していくべき方策、これらの方策を推進していくことで、現在抱えている IT人材不足は解消される。 こうして IT人材が増加し、日本の IT産業を支える基盤が強化されれば、日本の IT産

業が活性化され、日本の経済がより潤おうことになる。そして、IT 人材が豊富になることで、AI、IoT、ロボットのような最先端の技術を活用および応用が可能になるため、これらを駆使する企業がさらに増加し、より企業の事業も拡大し、利潤も増大する。 また、優秀な IT人材が増加すると、その IT 人材に目を付けた海外企業がアウトソーシ

ング先として日本に進出してくる。Ⅲ章でも記述したように、ルーマニアやエストニアでは優秀な IT人材が豊富なことから外国企業のアウトソーシング先としても有名であり、こうして進出してくることで、日本で展開していない事業の普及やその業界の競争が激化し、より高品質、高機能なモノやサービスを提供しようと励むため、日本の経済成長および企業の事業拡大が見込まれる。また外国企業の培われたスキルやノウハウも養うことができるため、IT人材のスキル、能力がさらにレベルアップし、より優秀な IT 人材へと成長することもできる。そして、この優秀な IT人材によるスタートアップも増加することが見込まれる。IT 人材不足を解消することでこのような経済効果が見込まれるようになるのだ。 本稿では、日本は東欧諸国と比べ、IT 人材を確保するための方策は遅れていると言及し

てきた。これに関しては紛れもない事実であり、一刻の改善が要求される。しかし、少しずつではあるが、日本も AI 時代に向けて進化してきている。この進化もまた紛れもない事実であり、その進化によって産出された AI 時代に適応したスキルやノウハウを身に付けた人材が、ITを活用、応用して、IT 産業を発展させ、企業の技術力・経営力も向上し、日本の経済を回す重要なキーパーソンとして躍進していく社会になることを望んでいる。 また、本研究ではある点において限界を抱えている。ここではその問題点を指摘し、今後の課題とすることで結びに代えたい。 本研究における問題点とは、IT人材の流動性について触れていない点である。仮に日本

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で政府および企業による IT 人材確保のための方策が普及し、IT 人材が豊富になった場合、その人材は果たして日本の経済発展のために働き続けるのか、自己の成長および利益のために海外へと進出していく人材も出てくるのではないか、といった IT人材の流動性については触れていない。インドでは IT人材が豊富だが、その多くは海外へと進出しているという事例もあり、必ずしも日本では、皆が日本で働き続けるという保証はない。そのため、本研究の質を高めるべく、これからは海外流動性の可能性も踏まえて、日本の IT人材育成ついての研究に今後も勤しんでいきたい。 ■参考文献 ・ Patricia Wastiau[2013],‘‘The Use of IT in Education:a survey of Schools in Europe

‘‘,European Journal of Education,Belgium ・ 山下徹[2007]『高度 IT人材育成への提言 国際競争力の復権にむけて』NHK出版 ・ 鈴木二正[2018]『AI時代のリーダーになる子どもを育てる 慶應幼稚舎 IT教育の実践』

祥伝社 ・ ラウル アリキヴィ、前田陽二 [2016]『未来型国家エストニアの挑戦〜電子政府がひら

く世界』インブレス R&D ・ 中村伊知哉、石戸奈々子[2010]『デジタル教科書革命』SoftBank Creative ・ 笹木恭平[2013]「教育における IT 利活用の重要性」『生活福祉研究』85 号 明治安田生

命福祉研究所 参考URL ・ コエテコ https://coeteco.jp/articles/10111(2019 年 12月 29 日アクセス) ・ 産経 WEST「関西で深刻な IT 人材不足 3 年後は需要の 4 割 育成組織の立ち上げ不

可欠」https://www.sankei.com/west/news/171026/wst1710260003-n1.html (2019 年11 月 7 日アクセス)

・ 経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」 https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/27FY/ITjinzai_report_summary.pdf (2019 年 11 月 7日アクセス)

・ TECH::NOTE「STEM 教育とは?プログラミングやロボット教育で導入。各国の事例を解説」https://tech-camp.in/note/technology/46573/(2019 年 12 月 29 日アクセス)

・ Midworks https://mid-works.com/columns/freelance-career/freelance-selfemployed/1074224(2019 年 12 月 28 日アクセス)

・ 外務省-ルーマニア基本データ- https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/romania/data.html (2019年10月16日アクセス)

・ Statista https://www.statista.com/chart/3348/europes-fastest-downloaders/(2019 年

18

12 月 17日アクセス)

・ ZDNet Japan https://japan.zdnet.com/article/35108423/(2019 年 12月 29日アクセス)

・ FUSE https://www.fuze.dj/2016/10/post_3-1214.html(2019 年 12 月 17 日アクセス)

・ HEAPS

http://heapsmag.com/romania-it-industry-booming-with-tech-startups-millennials-workforce(2019年 12 月 29 日アクセス)

・ Daijob HRClub https://hrclub.daijob.com/column/3604/ (2019 年 12 月 17 日アクセス)

・ 外務省-エストニア共和国基本データ- https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/estonia/data.html(2019 年 11 月 29 日アクセス)

・ 総務省(2007)「エストニア ID カードの利用状況 - ESTONIA National ID card-」 http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/kojin_ninsho/pdf/070201_si4.pdf (2019 年 12 月 17日アクセス)

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・ 文部科学省「平成 28 年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/03/07/1399330_01.pdf(2019 年 11 月 21 日アクセス)

・ 経 済 産 業 省 「 参 考 資 料 」( IT 人 材 育 成 等 の 状 況 等 に つ い て )https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoujo/daiyoji_sangyo_skill/pdf/001_s03_00.pdf(2019 年 12月 28 日アクセス)

・ みずほ情報総研 https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/contribution/2018/mizuho-global1806-07_02.html (2019年 1 月 7日アクセス)

・ JISA「2015 年版情報サービス産業 基本統計調査」、25 頁 https://www.jisa.or.jp/Portals/0/report/basic2015.pdf?20160205(2019 年 12 月 28 日アクセス)

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・ SankeiBiz https://www.sankeibiz.jp/business/news/181126/bsd1811260500009-n1.htm(2019 年12 月 31日アクセス)