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身に着けよう!微生物検査の基本スキル 塗抹検査 平成30年度 東京都臨床検査技師会 微生物検査研究班研修会 2018518() 帝京大学医学部附属病院 中央検査部 石垣 しのぶ

塗抹検査 - ecgo.jp•グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液に よって紫色や赤色に染め分け、球菌か桿菌かの 分類を行う方法。 •前

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身に着けよう!微生物検査の基本スキル

塗抹検査

平成30年度 東京都臨床検査技師会 微生物検査研究班研修会 2018年5月18日(金)

帝京大学医学部附属病院 中央検査部 石垣 しのぶ

本日の内容 塗抹検査とは

・検体の取り扱い

・塗抹標本の作製法について

グラム染色について

・利点、欠点

・種類および方法

・得られる所見

グラム染色以外の染色法

海外では

塗抹検査とは 採取した検体の一部を直接スライドグラス上に塗抹標本を作製し、 無染または染色して、顕微鏡で菌の有無を調べる検査

検査材料の品質が悪いと、感染病巣の状態を反映 したものとはならず、適切な診断や治療に直結しない

D017 排泄物、滲出物又は分泌物の細菌顕微鏡検査 蛍光顕微鏡、位相差顕微鏡、暗視野装置等を 使用 するもの 61点 注: 集菌塗抹法を行った場合には、集菌塗抹法 加算として、32点を所定点数に加算する。

検体の保存

検体は採取直後の新鮮なものを使用する

検査までに時間がかかる場合の保存

・冷蔵保存(4℃)

髄液を除く、ほとんどの検体が対象

尿、便、喀痰、膿汁、胸水、腹水、人工異物など

・ふ卵器内での保存

淋菌や髄膜炎菌を疑う検体

髄液、尿、膣分泌物、尿道分泌物、咽頭など

検体到着時標本 冷蔵24時間後 冷蔵48時間後

グラム染色 (喀痰)

(破壊) (破壊)

採血直後 保存4時間後 保存8時間後 保存12時間後

冷蔵保存

検体保存の影響(好中球の変化)

ギムザ染色 (血液)

検体到着時標本 冷蔵24時間後 冷蔵48時間後 Corynebacterium spp.の増殖?

細菌数の変化:増加 (喀痰)

粘液物質および染色性の変化 (喀痰)

冷蔵24時間後 (粘液物質が染まらない)

検体到着時標本 冷蔵48時間後 (粘液物質が染まらない)

検体の品質評価 (喀痰)

Miller&Jonesの分類

検査に適した喀痰かどうかを肉眼的に観察し 品質管理を行う

分類 略 性状

唾液様検体 M1 唾液、完全な粘液性痰

粘液性痰 M2 粘液性痰の中に膿性痰が少量含まれる

膿性P1痰 P1 膿性痰で膿性部分が1/3以下

膿性P2痰 P2 膿性痰で膿性部分が1/3~2/3

膿性P3痰 P3 膿性痰で膿性部分が2/3以上 M1 P3

白金線(耳)の取り扱い(操作)

1. 白金線を用いる操作

① 集落から塗抹標本を作製する際の釣菌

②分離培地からの集落の釣菌

③各種確認培地への菌の接種

④平板培地の分画部分への純培養

2. 白金耳を用いる操作

①分離培養のための画線塗抹

②液体材料の平板培地への接種

③液体培地からの塗抹標本の作製

④純培養菌の大量採取

同学院微生物検査基本技術講習会テキストより抜粋

白金線(耳)の取り扱い (火炎滅菌)

1) 白金線(耳)を立てて持ち、ニクロム線部分を

バーナーの内炎にいれる

2) ニクロム線部分をそのまま外炎まで引き上げ、

赤くなるまで十分に焼く(火炎滅菌)

3) 柄の部分を火で軽く熱したのち、白金線(耳)を

バーナーから離し冷却する

4) 使用後も白金線(耳)は必ず火炎滅菌を行う

同学院微生物検査基本技術講習会テキストより抜粋

ガス調整ネジ

空気調整ネジ

コック ここを閉めると火が消える

バーナー筒

300℃

500℃

1800℃

1500℃

内炎

外炎

白金線(耳)の冷却方法

1) 空中で振ってさます

・物にはふれないよう注意

2) 滅菌水にいれてさます

3) 分離培地の集落のない部分で冷ます

・選択培地は使用しない

・空中で少し冷まし、余熱を培地で冷却

同学院微生物検査基本技術講習会テキスト改変

塗抹標本作製方法 検体の性状により量を加減し、膿性の強い材料は薄く、透明な材料は厚く塗抹する。塗抹した標本は自然乾燥させた後、固定する。

患者検体 塗抹方法

髄液 白金耳にて1滴滴下し、広げずにそのまま乾燥。 透明な場合には、さらに1滴追加し乾燥させる。

尿 白金耳にて1滴滴下し、広げずにそのまま乾燥。

喀痰 膿性部分を釣り上げ、スライドガラスに薄く引きのばす。

気管洗浄液 大腸洗浄液

遠心後、沈査をスライドガラスに薄く塗抹する。

穿刺液・関節液・胆汁など

白金耳にて1白金耳とり、スライドガラスに薄く塗抹する。

組織 滅菌ピンセットでつまみ、軽くスタンプする。組織が大きい場合には滅菌された外科用はさみなどで切り、割面を軽くスタンプする。

スワブでとられた検体 培地入りのスワブは基本鏡検しないが、必要に応じてスワブ全体をスライドガラスに塗抹する。

CV カテーテルの塗抹標本作製

a. 滅菌したはさみでCVカテーテルを小さく切る。 b. 少量の滅菌生理食塩水を加えて十分にミキシングして カテーテルの内容物を出す。 c.スライドガラスに塗布後メタノールで固定し、グラム染色を 行い 鏡検する。

a b

方法 手順 利点 欠点

Maki 法 カテーテル先端をピンセットでつまみ、培地上で転がして付着させる

操作が簡便 ・グラム染色には不向き

・カテーテル内腔の菌を 検出できない

Cleri 法 液体培地2~10mLにカテーテル先端を入れ、滅菌注射器でカテーテル内腔を刺入口から3回洗浄する

定量培養が可能

・操作が煩雑

・コンタミネーションの機会が多い

Brun-Buisson 法 カテーテル先端を液体培地または滅菌生理食塩水1mLでボルテックスミキサーで1分撹拌する

定量培養が可能

・操作が煩雑

改良Brun-Buisson 法 (細断法)

下記参照

カテーテル内腔の菌を浮遊させやすい

・定量培養ができない

・細断によるコンタミネーションの機会が増える

MEDICAL TECHNOLOGY 2016.Vol.44 No5 P460 引用

塗抹標本の固定 メタノール固定

・生体細胞の核などの内部構造が観察しやすい。

患者検体の標本の固定に適している

方法:

ガスバーナーの炎の中にスライド

グラスの塗抹面を上にしてゆっくり

3回程度通過させる

・加熱しすぎると、菌体の変形, 破壊, 収縮などが起こる ・エアロゾル発生の危険性が高い ・標本は滅菌されていない

火炎固定 菌そのものの標本の固定に適している

方法:

標本にメタノールを満載し約1分程度

たったら捨てて水洗せずに乾かす

グラム染色とは

• グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって紫色や赤色に染め分け、球菌か桿菌かの分類を行う方法。

•名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・クリスチャン・ヨアヒム・グラムによって発明されたことから。

グラム染色の利点 経済的メリット

・不必要な培養検査を省略

・適切な検査法の選択

・有効で安価な抗菌薬の選択

・迅速な適正治療による治療(入院)期間の短縮

迅速な感染症診断と病態把握に有用

不適切な治療による耐性菌出現を予防

・適正なempiric therapy選択に活用

治療効果判定に活用

細菌感染以外の情報を得られることがある

グラム染色の欠点

グラム染色の限界

・菌数が少ないと検出できない

検出限界:≧105/mL

・難染色の細菌がある

・特異性が低い

培養結果と異なることがある

薬剤感受性がわからない

鏡検の解釈に熟練を要する

グラム染色の種類

グラム陽性菌の染色 1%シュウ酸アンモニウム・クリスタル紫液

1%クリスタル紫液 5%炭酸水素ナトリウム液

シュウ酸アンモニウム加ビクトリア青液

グラム陽性菌の媒染 ヨウ素・ヨウ化カリウム液 水酸化ナトリウム加ヨウ素液 20%ピクリン酸・エタノール 分別 95%エタノールまたは

エタノール・アセトン混合液 エタノール・アセトン混合液

後染色 サフラニン液 パイフェル液 サフラニン液またはパイフェル液

利点・欠点 細胞の染まりがよいがエタノール単独では分別に時間がかかる

グラム陽性菌の染色で 1ステップ操作が多い

1ステップ操作が少ないが、標本にムラができやすい

ハッカー変法 バーミー法 フェイバーG法

臨床微生物検査ハンドブック第5版 改訂

染色液

方法

自動グラム染色装置

PREVI Color Gram2

小型自動染色装置GS-20A スギヤマゲン

グラム染色装置 フェニックスサイエンス ビオメリュー・ジャパン

グラム染色手順

1. メタノール固定 約1分

2. クリスタル紫* 約1分

水洗 3. ルゴール(固定) 約1分

水洗 4. エタノール**(脱色) 約30秒

水洗 5. サフラニンまたは パイフェル*** 約30秒

水洗

1. メタノール固定 約1分

2. ビクトリア青 約30秒

水洗 3. ピクリン酸・エタノール 約30秒

水洗 4. サフラニン 約30秒

水洗

ハッカーの変法(バーミー法) フェイバー法

**:粘性の高い検体はアセトン・アルコール

*:バーミー法は重炭酸ナトリウム含有

***:パイフェル液はチールの石炭酸フクシン液を5~10 倍 に希釈したもの。染色性の弱い菌(カンビロバクターや レジオネラなど)に適している

グラム染色の原理

細胞壁の構造・厚さで染色性が異なる

ペプチドグリカン層が厚く 脂質が少ない細胞壁をもつ

ペプチドグリカン層が薄く 脂質が多い細胞壁をもつ

染色性の悪い標本・良い標本

脱色不良により赤血球・好中球が紫に染色されている

赤血球・好中球が赤く染色されている

悪い例 良い例 (血液)

X1000 X1000

グラム染色標本の観察法

喀痰 好中球多数 (x100) 喀痰 肺炎球菌 (x1000)

鏡検法 1. 接眼レンズ10倍X対物レンズ10倍(x100)で全体を鏡検し、白血球の有無を確認する。 2. 白血球の多い部分を表示したままで、イマージョンオイルを載せ、

対物レンズを100倍(x1000)に替えて、観察する。

検体の品質評価 (喀痰) Gecklerの分類

喀痰の顕微鏡による品質管理

検査に適した喀痰かどうか塗抹標本を100倍で観察する

グループ 好中球 扁平上皮細胞

1 <10 >25 2 10~25 >25 3 >25 >25 4 >25 10~25 5 >25 <10 6 <25 <25

・G1とG2は不適切検体 ・G6は経気管吸引法と好中球減少患者の 場合には適用

G1

G5

喀痰の洗浄法

(1)喀痰から膿性部分と予測される部分を生食10 mL入りスピッツに移す。 (2)振とうして, 残った膿性部分を次の生食10 ml入りスピッツに移す。 (3)これを繰り返し, “生食の濁りがなくなったら”残った膿性部分を塗抹, 培養する。

喀痰の洗浄効果

G3

X100

G5

X100

X1000

洗浄前 洗浄後

X1000

観察要素と細菌数および表記法 観察要素 1) 喀痰、尿の場合は検査に適した検体か否かの識別(扁平上皮細胞の数) 2) 細菌感染か否かの識別(好中球の有無、多・少、リンパ球の有無、多・少) 3) その他の細胞の識別(マクロファージ、繊毛細胞、異形細胞など) 4) 存在する細菌の識別 5) 好中球に貪食されている細菌の識別 6) 起因微生物の推定

表示 視野

1+ <1/視野

2+ 1~9/視野

3+ 10~25/視野

4+ >25/視野

表示 視野

1+ <1/視野

2+ 1~5/視野

3+ 6~30/視野

4+ >30/視野

グラム染色標本の細胞の量的表示(100倍にて鏡検)

グラム染色標本の細菌の 量的表示(1000倍にて鏡検)

*≧10~40/視野 観察して判定 *≧20~40/視野 観察して判定

臨床微生物検査ハンドブック第5版から引用

喀痰の塗抹標本

喀痰の塗抹標本

血液の塗抹標本

血液の塗抹標本

中心静脈カテーテルの 塗抹標本

尿の塗抹標本

糞便の塗抹標本

グラム染色による 迅速診断と治療効果判定

抗菌薬投与前 ABPC/SBT 1.5g点滴 投与1時間後

投与6時間後

(喀痰)

菌以外の細胞

菌以外の細胞 グラム染色 ディフクイック染色

喀痰 関節液

X200

ファンギフローラ染色(喀痰)

キニヨン染色(膿汁)

X400

チール・ネルゼン染色(喀痰)

爪や皮膚鱗屑を取る 検体をスライドガラスにのせ、 KOH液をのせる ※KOH・パーカーインク法だと 見やすくなる

カバーグラスをかけて観察する。 ※ホットプレートやアルコールランプなどで 温めると角質が溶けて真菌要素が 見やすくなる。

1) 弱拡大(x100)で、コンデンサーおよび絞りを下げて 疑わしい場所をさがす。 2) 強拡大(x200やx400)でピントをずらしながら、 菌要素か確認する。 節状のくびれはあるが、菌糸の太さはほぼ均一である。 境界は鮮明で、ねじれて見えることはない。

【観察法】

足皮膚のKOHパーカーインキ染色

(Trichophyton rubrum)

x400

KOH直接鏡検法(皮膚隣屑)

WASP 微生物検体処理システム

自動塗抹標本作製装置

本日のまとめ ・塗抹検査は、簡便で迅速に実施することができ

起因菌の推定を行うことで、適切な抗菌薬選択に寄与できたり、治療効果の判定に用いることができる。

・有益な結果を得るためには検査に適した検体を用いることが大切である。

・多くのグラム染色標本を観察し、経験を積むことが、スキルアップの極意である。