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NASH における脂肪毒性と肝臓・腸管相互作用 Lipotoxicity and the gut‐liver axis in NASH pathogenesis J Hepatol. 2017 10.1016/j.jhep.2017.11.014.
【要旨】
非アルコール性脂肪肝疾患 NAFLD の原因,特に少数の患者が肝細
胞障害,炎症,線維化を来してより進行する機序は未だよく分かっ
ていない.このレビューでは,NASH の 2 つの中心的な原因につい
て論じる.まず,過剰な脂質の有毒作用によって起きる肝細胞障害
と炎症の,発症メカニズムを分析する.脂肪毒性を主に決めるのは
肝細胞に蓄積する中性脂肪の量ではなく,特定の種類の脂質が有害
であることを示すデータが増えている.特に,パルミチン酸のよう
な遊離脂肪酸,コレステロール,リゾホスファチジルコリン,セラ
ミドの役割が最近注目されている.これらの脂肪毒性は,シグナル
伝達経路とデスレセプターの活性化,小胞体(ER)ストレス,ミトコ
ンドリア機能の異常,酸化ストレスなど,複数のメカニズムによっ
て細胞の動作に影響を及ぼす.第 2 に,腸と肝臓の間の相互作用に
関与する細胞と分子に言及する.腸内細菌叢が変化すると,腸と細
菌産物のシグナル伝達や腸内で産生されるホルモンに影響して,肝
臓を含む様々な場所における代謝に作用することも論じる.最後
に,胆汁酸による核内受容体の活性化にも言及する.
【はじめに】
NAFLD の特徴は,肝細胞の中に様々な種類の脂質が蓄積すること
である.肝臓と,脂肪組織や腸などの他組織との複雑なバランスに
よって,有害な脂質が蓄積し,肝細胞障害が生じる.最近の研究で
は,腸内細菌叢の変化が NAFLD の病因と脂肪毒性に影響する,肝
臓・腸管相互作用が明らかになってきた.
【脂肪毒性の定義とメカニズム】
脂肪毒性は,脂質環境 and/or 細胞内の脂質組成の調節の異常によ
って有害な脂質が蓄積し,細胞の機能不全,細胞傷害,細胞死を起
こすこと,と定義される.脂肪毒性は,肥満,糖尿病,メタボリッ
ク・シンドロームなど,慢性炎症(代謝性炎症,すなわち代謝が誘
発する炎症)と密接に関連しており,NAFLD と NASH になりやすく
なる.
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キーポイント
脂肪毒性は脂質環境 and/or 細胞内組成の調節の異常であり,細胞内
小器官の機能不全,細胞傷害,細胞死につながる可能性がある.
図 1.脂肪毒性の一般的メカニズム
(1)有害な脂質は,ER やミトコンドリアなどの細胞内小器官の生理と機能に影響する.
(2)更に脂質は細胞内シグナル伝達経路に直接影響するため,代謝と炎症の経路に変化を起こす.
(3)細胞表面や細胞質に位置する脂質とリン酸化酵素(キナーゼ)の相互作用は,シグナル伝達
に間接的に影響し,炎症や他の生物学的効果をもたらす.
活性酸素種
細胞内
シグナル
伝達経路
細胞核
ミトコンドリア
受容体とリン酸化酵素
有害な脂質
炎症 ストレス
細胞死
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【有毒な脂質】
中性脂肪
NAFLD の特徴は,中性脂肪を含む脂肪滴の形で,肝細胞に脂肪が
蓄積することである.インスリン抵抗性によって脂肪組織から遊離
脂肪酸の供給が増加すること,また肝内での脂質の新生,および食
物からの脂質が,中性脂肪が蓄積する主なメカニズムである.
遊離脂肪酸
遊離脂肪酸は CD36 を含む受容体複合体を介して細胞内に取り込
まれる.CD36 の発現はインスリン抵抗性の状態で亢進する.脂肪
酸は,炭素鎖の長さと二重結合の数によって分類される.飽和脂肪
酸にはパルミチン酸(C16:0)やステアリン酸(C18:0)があり,
食事の主成分であり,また炭水化物からも新生される.飽和遊離脂
肪酸,特にパルミチン酸とステアリン酸(C18:0)は,様々な機序
によってアポトーシスと炎症を誘導し,強力な毒性効果を持つこと
が,いくつかの研究により示された.
オレイン酸(C18:1)のようなモノ不飽和脂肪酸の生成は,ステ
アリン酸 CoA 脱飽和酵素に大きく依存する.これらの遊離脂肪酸は
パルミチン酸よりも毒性が低く,脂肪蓄積と脂肪毒性が同義ではな
いことを示す.さらに,これらの脂質は,細胞死,アポトーシス・
タンパク BIM(BCL2L11)と PUMA(BBC3)の値を低下させ,中性脂
肪の中にパルミチン酸を隔離する.
ある種の脂質は実際に細胞傷害に対して保護的である.多価不飽
和脂肪酸(PUFA)は,肝細胞からの脂肪除去に寄与する.NASH の
患者では n‐3 PUFA 値の低下が見られ,この種類の脂質を補給する治
療が,いくつか研究的アプローチとして試された.その結果ではし
かし,脂肪の蓄積は減少したが,NASH 活動性スコアや線維化には
改善は見られなかった.同様に,n‐6 多価不飽和脂肪酸であるα‐リ
ノレン酸は,肝細胞をアポトーシスから保護し,c‐Jun N 末端キナー
ゼ(JNK [MAPK8])の活性化を低下させ,炎症性メディエーターの発
現をもたらすことが示されている.
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図 2.脂肪毒性の「バランス」
肝細胞への脂質の過剰な供給,特に遊離脂肪酸は,主にインスリン抵抗性による脂肪組織の脂質の分
解に由来する.他の供給源は,食事性カイロミクロンや脂質新生である.肝臓では,遊離脂肪酸を中
性脂肪に変換して脂肪毒性から細胞を保護する一方,高濃度の遊離脂肪酸,特にパルミチン酸のよう
な飽和遊離脂肪酸は脂肪毒性が強い.一部の遊離脂肪酸は中性脂肪に取り込まれやすく,脂肪毒性が
低いことがある.セラミドやリゾホスファチジルコリンを含むいくつかの毒性の強い種類の脂質の増
加も,細胞傷害に関連する.様々な種類の脂質のバランスが,非アルコール性脂肪肝疾患の病態に関
与する.
脂肪毒性と糖毒性
NAFLD は複雑な代謝障害であり,糖代謝の異常も認められ,NASH
の病態には糖毒性も関与する.過剰な炭水化物は,アセチル‐CoA カ
ルボキシラーゼ,SCD‐1,脂肪酸合成酵素などのいくつかの脂質生
成経路を活性化して脂肪蓄積に関与する.様々な糖類の中でフルク
トースは,CD36 の発現増加と脂質新生を調節する ChREBP の調節な
どにより,脂肪生成経路を誘導して,強く脂肪蓄積を促進する.こ
れらの異常はインスリン感受性の低下に関わり,NASH の発症に寄
与する.さらに,フルクトースとブドウ糖の添加は,脂質生成転写
因子である ChREBP と SREBP1c の発現を亢進させることが,最近明
らかにされた.両方の糖類が ChREBP‐b を亢進したが,フルクトー
スは独自に SREBP1c と下流の脂肪酸合成遺伝子を亢進させ,脂肪蓄
積を悪化し,肝臓インスリン信号伝達を低下させた.
キーポイント
脂肪毒性と並んで,糖毒性も NASH の複雑な病態に関係している.
インスリン抵抗性
過剰な脂質の供給
パルミチン酸
他の飽和脂肪酸
より安全な脂質の蓄積 脂肪毒性
単純性脂肪肝
中性脂肪
モノ不飽和脂肪酸
多価不飽和脂肪酸
多価不飽和脂肪酸(?) リゾホスファチジルコリン
セラミド
遊離コレステロール
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図3.ER ストレスに関連する経路 脂質の過剰は最初,ER のホメオスタシスを回復させる目的があ
る,ER の折り畳まれていないタンパク質反応を活性化する.しかし,その反応の活性化が長引くと,
アポトーシス,炎症経路,脂肪毒性を引き起こす. IRE-1(ERN1),PERK(EIF2AK3),ATF6
は,ER ストレスの 3 つの主な下流メディエーターであり,アポトーシス遺伝子の発現を調節する.
それらの活性化は,ER から GRP78(HSPA5)が遊離して媒介される. TNF 受容体スーパーファ
ミリーのタンパク質である TRAF2,JNK(MAPK8),CHOP(DDIT3)および XBP1 が下流の
標的である.
【脂肪毒性の分子効果】
ER ストレス
ER は,タンパク質の成熟と折り畳み,脂質の輸送など,重要な細
胞機能を担っている.これらの生理機能の異常,例えば脂質過剰な
どは,ER の「ストレス」になり,これはまず「折り畳まれていない
タンパク質反応」と総称されるシグナル伝達経路を活性化する.こ
れは ER のホメオスタシスを取り戻す防御反応であるが,活性化が
長引くとアポトーシス反応の引き金になり,細胞障害と細胞死につ
ながる.ER ストレスの主要な下流メディエーターは 3 つ同定されて
おり(図 3),このすべてがアポトーシス遺伝子の発現を調節する.
キーポイント
脂質の過剰は,ER ストレスを引き起こし,折り畳まれていないタン
パク質反応を活性化し,長期間続くとアポトーシス経路の活性化を
もたらし,細胞傷害と細胞死をもたらす.
折り畳まれていないタンパク質反応 脂質の過剰負荷
タンパク質折り
畳み反応の異常
ストレス
インスリン抵抗性
細胞毒性
炎症
生存
適応性の
変化
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図 4.Bcl-2 ファミリーのタンパク質による細胞死の調節
このタンパク質群は,ミトコンドリア外膜の透過性の調節において中心的役割を持つ.PUMA
(BBC3)は CHOP(DDIT3)および c-Jun によって活性が亢進する.CHOP はまた,脂
肪毒性の刺激に反応して FOXO3 を介して BIM(BCL2L11)の活性亢進を誘導する.KEAP1
値の低下は,PUMA および BIM の活性亢進を介したアポトーシスを誘導する.BAX は,
PUMA と BIM によって活性化され,カスパーゼ 3 と 7 を活性化する.抗アポトーシス効果
を有する BCL-2 または MCL-1 は,脂肪毒性の刺激に曝露された細胞で低下する.
c‐Jun N 末端キナーゼ
JNK は,MAP キナーゼファミリーに属し,インスリン抵抗性と脂
肪酸による脂肪毒性の重要なメディエーターである.肝細胞では,
JNK 活性化は細胞死を媒介するが,マクロファージでは炎症と M1/2
分極に関係する.JNK 経路はまた脂肪化,PPARαの抑制による脂肪
酸の酸化阻害に関与する.肝臓は JNK1 と JNK2 を発現し,実験では
両方が脂肪性肝炎に関係すると思われるが,より確実な細胞レベル
の証拠は JNK1 について得られている.JNK は,ER ストレス反応の
一部や,酸化ストレスによって活性化し,PUMA の機能亢進をもた
らし,BIM を介して細胞死を引き起こす.BCL‐2 関連 X タンパク質
(BAX)は,c‐Jun(JUN)の下流の別の標的であり,また,ミトコン
ドリア経路のアポトーシスにも関与している.
キーポイント
脂肪毒性物質は,マクロファージや肝臓の他の非実質細胞にも深く
作用する.
ストレス
細胞死
有毒な脂質
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図 6. 腸内細菌叢の異常の影響
健康な腸内細菌叢が存在することで,代謝活性の異なる組織の間のホメオスタシスが維持さ
れる.腸内細菌叢の異常,透過性の亢進した腸粘膜によって,細菌由来の産物は代謝異常の
発症に関与し,脂肪組織の炎症,脂肪肝や NASH を誘発する.
CPTIA,カルニチン・パルミトイル・トランスフェラーゼ; Nlrp3,3 を含む NLR ファミリ
ー・ピリン・ドメイン.
【脂肪毒性と肝細胞以外の細胞】
【腸内細菌叢と NAFLD】
健康な腸内細菌叢 腸内細菌叢の異常
腸管の内腔 腸管の内腔 グラム陰性細菌
緻密結合
インスリン抵抗性
脂肪組織 正常な肝臓 脂肪組織の肥大
マクロファージ
の浸潤
組織のホメオスタシス ↓エネルギー消費
↑遊離脂肪酸
活性酸素種
脂肪毒性による障害
細胞外小胞
エクソソーム
微細小胞
アポトーシス小体
信号タンパク
脂質
肝細胞 クッパー細胞
血管内皮細胞 肝星細胞
炎症細胞
図5.細胞外小胞および脂肪毒性
正常な細胞は異なるサイズの粒子を細胞内に放出する.これらの粒子は大きさと放出の仕組
みによって分類される.脂肪毒性の刺激に肝細胞が暴露されると,細胞外小粒子を放出し,
炎症,線維化,血管新生を誘導する.
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図 7. 腸内細菌叢が NAFLD の病因に関係する機序
NAFLD の発症と進行における腸内細菌叢の関与は,1)脂肪組織および肝臓の両方におい
て脂肪沈着を増加させるリポタンパク質リパーゼ阻害剤 ANGLPTL4 の抑制,2)短鎖脂
肪酸の合成は,肝臓における糖と脂質の新生の基質として働き,GPR41/GPR43 依存性
機構も活性化する.最後に,細菌とその産物は,肝臓内の特異的な TLR 受容体に結合し,
それによって肝細胞の炎症および線維化をもたらす炎症誘発経路を活性化することがあ
る.
ANGLPTL4,アンギオ・ポイエチン like 4; GPR,G タンパク質共役型受容体; PAMP,
病原体関連分子パターン; TLR,トール様受容体.
と
キーポイント
腸内細菌叢を標的とした治療法を開発するには,腸内細菌叢がどの
ような病原性に関与するのか,正確に理解する必要がある.
↑脂質新生
↑糖新生 炎症
線維化
短鎖脂肪酸
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【消化管ホルモンと肝臓】
インクレチンは,食事摂取後にインスリン分泌をブドウ糖依存的
に増強する腸ホルモンである. 2 つのインクレチン,GIP と GLP‐1
が最も研究され,島β細胞に高度に発現する別々の G タンパク質共
役受容体を介してインスリン分泌作用を発揮する.GLP‐1 受容体
(GLP‐1R)はまた,膵島細胞以外の細胞,例えば腎臓,腸の平滑
筋,脳,脂肪組織,心臓,肝臓,胎盤にも広く発現する.これらの
受容体は間接的な代謝作用も持つ.インクレチンの作用時に,経口
のブドウ糖は静脈内投与よりも高いインスリン分泌反応を誘発する
が,健康な個体では血糖値は同等に管理される.この効果は GIP と
GLP‐1 が関与するが,2 型糖尿病の患者では見られない.インクレ
チンの効果が血糖のホメオスタシスの維持に重要であることは,現
在確立しており,インクレチンベースの治療は 2 型糖尿病の最も有
望な新しい治療法の 1 つである.GLP‐1 の半減期は短いため,2 型
糖尿病の治療戦略は 2 つある.DPP‐4 阻害剤は,DPP‐4 の酵素サブ
ユニット(N 末端切断と,GIP と GLP‐1 の不活化に関与する酵素)
に高い選択性を有する,経口投与可能な薬剤である.インクレチン
ベースの第 2 の治療薬は,ヒト GLP‐1 または非哺乳動物 GLP‐1R アゴ
ニストと構造的相同性を示す,注射可能な GLP‐1R アゴニストであ
る.GLP‐1RA は内因性のホルモンと同様に,膵臓のインスリン分泌
を刺激し,グルカゴン分泌を抑制するが,DPP‐4 のタンパク質分解
作用に対して耐性である(GLP‐1 は体内ではで数分以内に分解され
る).
GLP‐1 は,主に腸管の内分泌細胞で産生される.また,抗肥満効
果を発揮する細菌代謝物である酪酸塩などの SCFA によって,GLP‐1
の分泌は刺激される.GLP‐1 はインスリン分泌を刺激するだけでな
く,グルカゴン分泌の阻害もするので,GLP‐1 とグルカゴンは密接
に関連している.短時間作用(2 回/日)または長時間作用(1 回
/日または週)の GLP‐1RA の注射剤は,血糖低下や他の多くの作用
を有する内因性 GLP‐1 の作用を模倣する.GLP‐1RA は,i)中枢神経
系において,脳のブドウ糖代謝を刺激し,食欲と胃内容の排出を低
下させ,結果的に体重を減少させる.ii)心臓に関しては,心機能
を改善する.iii)肝臓では,肝臓のブドウ糖産生を,グルカゴンと
は無関係に,おそらくは肝臓 GLP‐1R への結合を介して,and/or 中
枢/末梢神経系を介して抑制する.GLP‐1 と GLP‐1RA の肝臓における
効果が直接的なのか間接的なのかどうかは(すなわち,インスリン
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図 8.FXR による脂質代謝の調
節
胆汁酸による FXR の活性化は,
脂肪酸代謝の様々な経路を刺激す
る.1)PPARαを活性化し,脂
肪酸の酸化を促進する,2)
SREBP-1c 阻害,その結果
SHP 結合後の中性脂肪の合成,
3)VLDL の産生を調節して,中
性脂肪を低下させる.FXR の活
性化後に腸細胞から分泌されるヒ
トの FGF19(マウス相同体
FGF15)は,肝臓の FGFR4 と
β-Klotho の複合体に結合し,
脂質蓄積を減少させ,インスリン
抵抗性を改善する.
FXR,ファルネソイド X 受容体;
PPARα,ペルオキシソーム増殖
因子活性化受容体-a; SHP,小型
ヘテロ二量体パートナー;
SREBP-1c,ステロール調節エ
レメント結合タンパク質-1c.
の増加とグルカゴン分泌の減少を介する),依然としてよく分かっ
ていない.
キーポイント
インクレチン GIP と GLP‐1 などの消化管ホルモンは,肝臓のブドウ
糖と脂質代謝に大きく影響する.
【胆汁酸,核内受容体と肝臓】
キーポイント
核内受容体,例えば FXR/FGF 系を標的とした治療は,現在いくつか
の臨床試験において検討されている.
β-酸化 ↑脂質新生
↑糖新生 中性脂肪の排泄
胆汁酸