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平成24年度厚生労働科学研究 (成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業) ( ) 乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)における訪問拒否等対応困難事例 支援体制に関する研究 Healthy Families Pine l l as(HFP)プログラムの紹介 研究協力者 石井栄子(NP0法人乳幼児親子支援研究機構代表) 研究分担者 中村 敬(大正大学名誉教授) Healthy Families Pine11as(HFP)は フロリダ州ピネラス郡で、 1992年に開始された、新生 児から5歳までの子どもを持つ家族を対象としたホ ムビジティング(家庭訪問) プログラム である。 その目的は、 虐待やネグレクトを含む子ども の不適切な養育を防ぐために、 家庭内 での親教育や支持的なサ ビス を通じて支援することにあり、 対象は、 プログラム開始当初か ら現在に至るまで、 子ども の虐待やネグレクトのリスクが高いとアセスメントにより抽出さ れた家族となっている。ここでは、ファミリ ・サポ ト・ワ と呼ばれる家庭訪問員が 親子とパ トナ シップを取りながら、 必要に合わせたサ ビスを使い、 親子の地域での自立 生活を促し、地域の一員としての生活をンパワメントしている。 HFPには、現在14のホ ムビジティングチ ムが存在し、75名のファミリ ー・サポ ト・ワ が、毎年およそ2,300 を超える世帯に家庭訪問支援を行つている。 このプログラムは、 日本における乳児家庭全戸訪問事業や養育支援訪問事業の受け皿や補完 的支援としても、 子育て支援における予防事業としてもモデルになりうると考える。 HFPプログラムは、 Healthy FamiliesAmerica(HFA)を基本としており、その哲学や12 重大原則に基づいている。以下、2012年に視察したフロリダでのH m の現状を紹介し、今後 の日本における乳児全戸訪問事業に応用したい。 見出し語 フロリダ州 Healthy Families America (HFA) I . 乳児家庭全戸訪問事業の調査からは、その内容も方法も自治体により温度差があることは明ら かとなっている。 これは地域性の違いや自治体の方針にもよるところがあろう。 しかしどの地域においても、訪問時に何かしらの不安事項や課題が見つかった場合は、保健 セン夕一等からの専門相談機関が対応することとなっている。そこでは、 どの様な親子が対象と なり、 どの様に対応されているかも課題となると思われる。 また、対象となり得なくとも不安を - l 5 3 -

Healthy Families Pine as(HFP)プログラムの紹介admin7.aiiku.or.jp/~doc/houkoku/h24/19010A040.pdfHFPプログラムは、Healthy FamiliesAmerica(HFA)を基本としており、その哲学や12

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平成24年度厚生労働科学研究 (成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)

( 分 担 研 究 報 告 書 )

乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)における訪問拒否等対応困難事例への

支 援 体 制 に 関 す る 研 究

Healthy Families Pinel las(HFP)プログラムの紹介

研究協力者 石井栄子(NP0法人乳幼児親子支援研究機構代表)

研 究 分 担 者 中 村 敬(大正大学名誉教授)

研 究 の 概 要

Healthy Families Pine11as(HFP)は、 フロリダ州ピネラス郡で、 1992年に開始された、新生

児から5歳までの子どもを持つ家族を対象としたホームビジティング(家庭訪問) プログラム

である。 その目的は、 虐待やネグレクトを含む子どもへの不適切な養育を防ぐために、 家庭内

での親教育や支持的なサービスを通じて支援することにあり、 対象は、 プログラム開始当初か

ら現在に至るまで、 子どもへの虐待やネグレクトのリスクが高いとアセスメントにより抽出さ

れた家族となっている。ここでは、ファミリー・サポート・ワーカーと呼ばれる家庭訪問員が

親子とパートナーシップを取りながら、 必要に合わせたサービスを使い、 親子の地域での自立

生活を促し、地域の一員としての生活をエンパワメントしている。 HFPには、現在14のホー

ムビジティングチームが存在し、75名のファミリー・サポート・ワーカーが、毎年およそ2,300

を 超 え る 世 帯 に 家 庭 訪 問 支 援 を 行 つ て い る 。

このプログラムは、 日本における乳児家庭全戸訪問事業や養育支援訪問事業の受け皿や補完

的支援としても、 子育て支援における予防事業としてもモデルになりうると考える。

HFPプログラムは、Healthy FamiliesAmerica(HFA)を基本としており、その哲学や12

重大原則に基づいている。以下、2012年に視察したフロリダでのHmの現状を紹介し、今後

の 日 本 に お け る 乳 児 全 戸 訪 問 事 業 に 応 用 し た い 。

見出し語 フロリダ州 Healthy Families America (HFA)

I . は じ め に

乳児家庭全戸訪問事業の調査からは、その内容も方法も自治体により温度差があることは明ら

かとなっている。 これは地域性の違いや自治体の方針にもよるところがあろう。

しかし、 どの地域においても、訪問時に何かしらの不安事項や課題が見つかった場合は、保健

セン夕一等からの専門相談機関が対応することとなっている。そこでは、 どの様な親子が対象と

なり、 どの様に対応されているかも課題となると思われる。 また、対象となり得なくとも不安を

-l 5 3-

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抱え、それを声にすらできないでいる母親に代表される保護者もいるのではないであろうか。

自治体等で専門相談機能がある機関としては、 保健センタ ー 、 療育センター、 子ども家庭支援

センター、さらに対象年齢をあげるならば、教育相談センタ一等がある。しかし 、 これらにおけ

る相談においても 、 申請制のもとで、 アクセスがなければ対応できないという現実がある。 と す

る と 、 こ こ で も 、 申 請 も で き ず 、 取 り 残 さ れ て し ま う 親 子 の 存 在 が 懸 念 さ れ る 。 サー ビスがどの

よ う に 充 実 し て い よ う と 、 本 当 に サ ー ビスを必要としている親子にサー ビスが届いていないので

はないかという疑間は常に挙げられている。

これは子育てひろば等の子育て支援拠点事業においても同様で、参加できないでいる親子への

対応が常に課題となっている。 例えば、 療育においては、 併行通園を行つている幼稚園・保育園

からの要請に応じてアウトリ ーチはされている。 しかし、 それ以外の乳幼児親子対応におけるア

ウ ト リ ーチやデリバリーサー ビスについて見聞きされることは少ない。

ここで紹介するHealthy Families Pine11as (HFP)は、フロリダ州ピネラス郡で、 1992年に開

始された、新生児から5歳までの子どもを持つ家族を対象としたホームビジティング(家庭訪問)

プログラムである。その目的は、虐待やネグレクトを含む子どもへの不適切な養育を防ぐために、

家庭内での親教育や支持的なサー ビス を通じて支援することにあり 、 対象は、 プロ グラム開始当

初から現在に至るまで、子 ど もへの虐待やネグレクトのリスクが高いとアセスメントにより抽出

された家族となっている。ここでは、 フ ァ ミ リ ー ・ サ ポー ト ・ ワー カーと呼ばれる家庭訪問員が

親子とパー トナーシップを取りながら、必要に合わせたサー ビスを使い、親子の地域での自立生

活を促し、地域の一員としての生活を エ ンパワメントしている。 HFPには、現在14のホームビ

ジティングチームが存在し 、 7 5 名 の フ ァ ミ リ ー ・ サ ポー ト ・ ワーカーが 、 毎 年 お よ そ 2, 300を

超える世帯に家庭訪問支援を行つている。

このプログラムは、日本における乳児家庭全戸訪問事業や養育支援訪問事業の受け皿や補完的

支 援 と し て も 、 子育て支援における予防事業としてもモデルになりうると考える。

HFPプログラムは、 Healthy FamiliesAmerica (HFA)を基本としており、その哲学や12重大

原則に基づいている。

II . 基本とされたHealthy FamiliesAmerica (HFA) について

1.HFAとは

HFAは、アメリカ全土を中心とした家庭訪問事業プログラムである。1992年、虐待防止のため

に設立された民間団体 Prevent Child Abuse Anerica (PCAA) (児童虐待予防アメリカ)とロナル

ド ・ マクドナルド慈善基金との共同出資で始まった。

その目的は、 家庭訪問事業を通じて、 親子関係を支援し、 子どもの健全な心身発達を促し 、 虐

待やネグレクトを予防すること、更に、将来子どもたちが社会に貢献できるよう養育することに

あ る 。

活動としては、子どもの心身の発達の知識や子育ての技術に関するトレーニングを受けたファ

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ミ リ ー ・サポー ト ・ ワーカーが、 特定のアセスメントにより支援が必要とされた家庭に、 定期的

に行う家庭訪問が挙げられる。 ここでは、子どもの発達だけに注目するのではなく、広く、家庭

内の安全 ・・健康面へのチェ ックを行いながら、広く親の子育てをサポー トしていく。親を指導す

る立場ではなく、常に家族の持つ「ストレングス(強み)や長所」に焦点づけ、子どもを真ん中

に親とパー トナー シップをとりながら、家族が良い関係を築き、 自立して生活していけるような

支 援 も 行 つ て い る 。 フ ァ ミ リ ー ・ サ ポー ト ・ ワーカーは、 HFA規定のカリキュラムやトレーニン

グを受けることで、 HFAから認定される准専門職である。

また HFAでは、家庭訪問事業の資質向上維持のため、幾つかの査定・認定制度基準を設けて

お り 、 プログラムを実施する際にはHFA本部による認可が必要となる。

それらの基盤となっているのが、 l2 の基本理念と言われているものであり 、 プログラムを採

用する地域では、その基本理念に沿つて実施することが義務付けられている。ここには、アメリ

カの虐待問題等子育てに関する研究から導き出された理念と具体的方法が示されているが、プロ

グラムの内容については、使用する地域の地域性を加味して工夫することが許されており、 プロ

グラムの事業名もそれぞれ地域でつけられることが可能となっている。

HFAの体制は以下のとおりである。

現在、 州 レベルでは、 50州35プログラム 、 郡 レベルでは、 3088郡400プログラムが実施され

て い る 。

2. 基本とされるHFAの12重大原則とは

12重大原則は、サー ビスの開始時期、内容、管理と大きく3つに分けられている。

1 ) 家 族 に 対 す る サー ビスの開始時期

①ホームビジティングサー ビス を出産前か出産直後から開始すること

②標準化された評価方法を用いて最も支援が必要な家族を発見すること

2 )家庭訪問の内容

③親の自由意思で行われること

④確立した基準に基づく規則的なスケジュールで実施されること

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⑤利用者の文化に沿つて行う こ と

⑥ 「 親 」 「 子 ど も 」 「 親 子 の 相 互 作 用 」 と い う 3 つに焦点を当てること

⑦必要に応じて家族を健康、 教育、 社会的資源等につなぐこと

HFAのプログラムでは、 家庭訪間は親の自由意思で始めることを原則としている。 そして 、

家族と信頼関係を築けるように、 継続的な支援を行つていく。④では、 それが義務付けられ

ており、例えば家庭訪問は、最低週1回というように、集中的に一貫した基準に沿つて訪問

の回数を決め、 継続的に行われる。 また、 ⑥に関して言えば、 本事業の職員は訪問する地域

の文化的、言語的、地理的、人種的、民族的多様性に沿つて雇用され、訪問に当たるファミ

リ ー ・ サ ポー ト ・ ワーカーも訪問する家庭の文化的な違いを理解し 、 支援を行うことが基本

となっている。また、⑥の支援方法においては、焦点づけられている3者に対し、家族のス

トレングスに焦点を当てる方法が取られている。

3 ) 良い家庭訪問を実践するための管理運営機構

⑧ フ ァ ミ リ ー ・サポー ト ・ ワ一カーの担当件数は、担当する家族の持つ課題の重大性を考慮す

る こ と

⑨ス夕 ツ フ は 、 学歴以上に、 その人に個人的な特性や能力によって訪問する家族と信頼を気づ

く こ と の で き る 人 を 採 用 す る こ と

⑩ フ ァ ミ リ ー ・ サ ポー ト ・ ワーカーに質の高いトレーニングや支援を与えること

⑪ フ ァ ミ リ ー ・サポー ト・ワ一カーは義務付けられた十分な研修(個人スーパー ビ ジ ョ ン ) を

受 け る こ と

⑫安定した質の高いサー ビスを継続実施するための管理機構が整備されていること

以 上 は 、 フ ァ ミ リー ・サポー ト・ワ一カーの 質 の 向 上 と と も に 、 フ ァ ミ リ ー ・ サ ポー ト ・ ワー

カーのサポー ト体制とも言える。⑧では、家族の個別のニーズに十分にこたえられるように、

担当件数が制限されている。⑪では、ファミリ ー ・ サ ポー ト ・ ワーカーがその役割を果たす

ために十分な、 家族のアセスメントと家庭訪問に関する特別な集中研修が用意されている。

また、継続的に、 スーパー ピジョンを受ける義務も課せられており 、 より効果的な支援方法

についても学ぶことができる。 また、 ここは自分自身の仕事での疑問や心配事の解決から不

満や愚痴等までの解消の場ともなっている。

3.家庭訪問の流れ

1 ) 妊 娠 時 、 出 産 時 に 両 親 調 査 ( 決 め ら れ た ア セ ス メ ン ト ( ケ ン プ ア セ ス メ ン ト ) を 使 用 )

2 ) HFA本部での対象親子の抽出

3 ) 親 の サ ポー トの意思の確認

4 ) 担当者が両親とともに両親調査(ケンプアセスメント) の結果を踏まえ、 家族個別支援

計画を立てる

5 ) フ ァ ミ リ ー ・ サ ポー ト ・ ワ 一 力一が両親と話し合つて、具体的で実現的な目標を立て、

6 ・ ケ 月 間 集 中 的 ( 週 1 回 ) に 訪 問 支 援 す る 。

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4.支援方法と支援内容

方法 、

・ストレングス (強み、長所)に焦点を当てた支援

・家族の文化や価値観を尊重する

内容

・子どもの発達・愛着・情緒的な絆(ボンディング)を育む支援を中心に作成されたHFA

独自のGrowing Great Kids カリキュラムに沿つた支援 ,

・発達質問紙(赤ちゃんの発達、親子の相互作用)の活用

発達段階別に用いる玩具(手作りおもちゃ等)、遊びの提供

・必要に応じて、 地域の保健医療サー ビスとの橋渡し

Iii. HFPについて

l . HFPを実施しているピネラ ス郡の地域性

ピネラス郡は、アメリカフロ リダ州内67郡の一つであり、人口約935, 000人で、フ口リダ州

の中でも人口密度の高い地域と言える。

地形的には、フロリダ半島西部の小さな半島で、海辺は風光明媚な観光地であり、アメリカの

他地域で定年を迎えた人々の老後の転入地としても有名である。 海辺の地域には、 彼らの邸宅や

リ ソ ー トマンションやリソー トホテルが立ち並んでいる。 しかし 、その一方でメキ シ コに近いこ

と も あ り 、 マイノリティに属する人々の住む地域も存在し、そこでは貧困やアルコールドラッグ

中毒等の問題も多くみられている。 、

2. HFPの中心となる本部

ピネラス郡では、 5つの保健局が地域保健に携わっている。 HFP本部は、 ピネラ ス郡保健局内

に置かれており、この保健局におかれた事業所を含めて3つの事業所を中心としてホームビジテ

ィングサー ビス を行つている。

本事業は、 ピネラス分の中部にあるセントピ一夕一ズバー グ市から始められているが、その理

由 と し て は、 この地域に犯罪、 アルコールやドラッグなどの薬物乱用、 10代の妊娠出産が多発

していること、同時に低出産体重児の出生率や高校中退率が高い等の問題が多いことが挙げられ

て い る 。

3. ピネラスで実践されている HFPの特徴

HFPは、アメリカ全土にある400以上の認可されたHFAの中でも最も成功しているプログラ

ムの一つと言われている。その理由は以下の3点により質の高いプログラムが維持されていると

こ ろ に あ る 。

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① 郡全体の専門機関の連携が取れている。

② ラ ッ プ ア ラ ウ ン ド (包み込む) サー ビスといわれる、 専門職によるプログラム全体の

サポー トシステムを充実させ、 専門性の高いプログラムを実施している。

③ 郡の委員会から出資される特別な税金によりプログラム運営されている。

そして 、 更にこれらが、 具体的支援の基本となる、「必要に応じた早期・総括的介入」、「財源

とマンパワーの確保」、 「マンパワーの活用におけるスーパーヴァイズ、 充実した研修、 マニュア

ル等具体的方法の提示」、 「地域連携を基本とした社会資源の活用」 を促進させている。

以上の3点を具体的に述べていく。

_1)郡全体の専門機関の連携が取れていること

HFAは通常一つの機関が責任を持つてプログラムを実施しているが、 HFPは、ピネラ ス郡にあ

る6つの機関が協働体制をとっている。その機関とは、郡の保健活動の拠点であるピネラス郡保

健局、 プログラムの初めに行う両親面接を行う医療機関、 薬物乱用の専門的介入プログラムを行

うオぺレー ション・バー、精神保健セン夕一等である。 これらの機関が、 保健局を中心に、それ

ぞれの専門性を生かし、ホームビジティングサー ビスを受ける家庭の問題に合わせた支援が行え

る よ う に ネ ッ ト ヮークを作つている。

医療 一 1 モー ト ン ・ プ ラ ン ト ・ ヘ

ルス ・ ケ ア

医療 一 2 ベ イ フ ロ ン ト ・ メ デ ィ カ

ル ・セン夕一

医療 一 8 セ ン ト ピ 一 夕 一 ズ バー

グ総合病院

薬物治療 ォぺレーシ ョ ン ・ バー

精神保健 サンコー ス ト ・ セン夕

【各機関の役割】

* 保 健 所 : ピ ネ ラ ス郡保健局(1936年に設立されたフロリダ州7番目の保健局、現在は7か所

のオフイ スで600人以上の職員が勤務している。感染症対策から飲料水の管理、防災

等地域の幅広いニー ズに応じた公衆衛生業務を行つている。)

特徴:保健・福祉・医療面のサー ビスでは、 予防の観点にまで幅を広げた活動行つている。

ヘ ルシ ー ・ ス タ ー ト ・ プ ロ グ ラ ム ( 母 子 保 健 ) (妊婦の健康と赤ちゃんの健康

の た め の プ ロ グ ラ ム ) と 、 ヘルシー ・ フ ァ ミ リ ー ・プログラム(虐待や不適切な養

育の予防) (子どもにとって幸せで健康で安全な観光を提供するためのプログラム)

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を行つている。

連携:3か所の医療機関でアセスメントされた妊婦デー タは、保健局に集められ、 必要に応

じて関係機関と共有し活用される。

* 医 療 機 関 : 妊 娠 初 期 と 出 産 後 の ア セ ス メ ン ト を 行 い 各 種 サー ビスに結び付けるためのス

ク リ ーニングを実施

特徴:他の州では第1子のみを対象とすることが多いのですが、フロリダ州では第2子以

下も含めすべての赤ちゃんにアセスメントを実施。

*薬物乱用者支援提供機関:オぺレー シ ョ ン ・ バー

(0peration ParentalAwareness and Responsibility INC)

女性と子ども、または親子の薬物乱用の予防・介入・治療等を行うNP0。現在は4

つの郡に支部があり、 17州のプログラムを行い500人が働いている。また、ポラ

ンティアが運営に関わり、 専門職と准専門職とが連携して活動している。

*精神保健センター :精神疾患の治療サー ビス 、 麻薬治療サー ビス 、 老人のためのメンタルヘル

ス 、 児童虐待予防サー ビス 、 ト ラ ウマ治療サー ビス 、 レイプ被害者への治療サー ビ

ス等がある。

特徴:子どもから高齢者まで全ての年齢層の人を対象としており、家庭の中でカウンセリ

ングを行うサー ビスや外来カウンセリングサー ビスもある。精神的に不安定な人で

も歩いていける範囲でカウンセリングが受けられるよう、 30か所でのサー ビスが

用意されている。

HFPとの関係:メンタルヘル ス 力 ウ ン セ ラ ー 「 フ ァ ミ リ ー ・ ア ド ポ ケ イ ター」 と い う 精 神

保健スぺシャリストが保健所に派遣され、 HFPに協力している。

_2 ) ラ ップアラウン ドサー ビスが実施されているこ と

フ ァ ミ リ ー ・ サ ポー ト ・ ワーカーは、 5 職 種 の ス ぺ シ ャ リ ス ト に よ り 支 え ら れ る ラ ッ プ ア ラ ウ

ンドサー ビスにより、プログラム自体を孤立させることなく、地域と連携しながら効果的な支援

が実施できている。 各専門職が協力し合いながら支援することで、 対象家族のニーズに応じた個

別支援が提供でき、対象家族にとっても、 フ ァ ミ リ ー ・サポー ト ・ ワ一カーにとっても安心が確

保されている。別の視点から言えば、専門性の連携の隙間を埋めているのがファミリ ー ・サポー

ト ・ ワーカーと も 言 え る 。

他の地域のプログラムでは准専門職であるファミリ ー ・サポー ト・ワ一力一が中心で支援を行つ

ているだけだが、 各領域における専門職が支援に当たるこの体制は、 画期的な体制といえる。 こ

の体制が取られたのは、 ピネラス郡では、HFAのホームビジティングのみでは対応不可能であり、

専門的な支援を必要とする問題を抱えた家族が多いことに由来している。 フ ァ ミ リ ー ・ サ ポー

ト ・ ワ一カーが家族の抱える困難な問題に直面し疲弊することを回避するために、ファミリ ー ・

サポート・ワ一カーをスぺシャリストたちで包み込み、 適切な支援を行えるよう支える体制が考

えだされた。これが、スぺシャリストがホームビジティングサー ビスを「包み込む(Wrap Around)」

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体制サー ビスである。

【スぺシャリストの存在】

HFPには、メンタルヘルス ・カウンセラー、正看護師、薬物乱用 スぺシャリスト、 父親支援ス

夕 ツ フ、資源スぺシャリストの5種類のスぺシャリストがいる。

更にHFPを支える体制として、提携する6機関に所属しながらHFPプログラムに関わるスぺシ

ャ リ ス ト も 存 在 す る 。 これらの体制のもと、専門性が有効に機能し、問題の取りこぼしが予防で

き る こ と と な っ て い る 。 -

こ れ ら の ス ぺ シ ャ リ ス ト の 介 入 は 、 フ ァ ミ リ ー ・サポー ト ・ ワーカーが必要性を認めた場合に

初 め て 検 討 さ れ る 。 フ ァ ミ リ ー ・サポー ト ・ ワーカー と家族との間で築かれた信頼関係がさまざ

まなスぺシャリストからの支援と提供する基盤となっている。また、それぞれのスぺシャリスト

には、 役割に準じた仕事が書面で明示され詳細に定められており、 互いの仕事の領域を侵さず、

専門性を尊重し合いながらプログラムが実施されている。

【それぞれの役割】

* フ ァ ミ リ ー ・ サ ポー ト ・ ワ 一 カー : ホームビジティングプログラムの中心となる家庭訪問スタ

ッフ。准専門職であり、基準を満たすトレ一二ングを受けながら、親への教育の仕方や子育て

の技術を身につけていく。 ホームビジティングにおいて、母親に教育する際には、カリキュラ

ムが必要となり 、 これは HFAで使用されているプログラム (GrowingGreat Kids) を使つてい

る 。 ここでは特に言語発達を進める分野が強化されていて、 具体的には絵本の読み聞かせや、

母子が一緒に遊べる遊びなどを、子どもの発達に合わせて実施することを促している。 フ ァ ミ

リー ・ サ ポー ト ・ ワ 一 カーは、 一人当たり20̃25のケー スを受け持つている。

*レジス夕一 ド ・ ナース (正看護師):HFPで最初にとりいれられたスぺシャリスト。

現在6名の正看護師が所属しており、ホームビジティング14チームのうち、4チームを担当、

500ケースを受け持つている。

主な役割:・医療ケアが必要な場合の医療機関への連結。

予防接種実施の勧めに従わない家族に対し、 家庭での予防接種実施。

家族計画(バー スコ ン ト ロール ) 支 援 。

訪問先の家族の身体疾患に対するケア。

母親と子どもが健康を損なわないための予防教育

訪問方法:生後4週間以内に、ファミリ ー ・ サ ポー ト・ワ一カーと共に家庭訪問し、赤ち

ゃんの発達やお母さんの体調についてチェ ツ ク 、家庭でのバースコ ントロー ル

の注射や予防接種を実施。 その後は、 3ヶ月毎に子どもの発達チェックのため

に 訪 問 。 こ の 他 、 フ ァ ミ リ ー ・サポー ト ・ ワーカーからの要請に応じて訪問が

さ れ る 。

*メンタルヘルス 力ウンセラー :現在地域の精神保健センターから派遣された5人が所属。

主 な 役 割 : ・家庭内で心理社会的なアセスメント実施。

カ ウ ン セ リ ン グ 、 グルー プワー ク等の実施。

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・ 精神保健セン夕一等の他機関との連携。

立場:HFPのチームの一員ではあるが、地域の精神保健機関に雇用され、 HFPとの連携維

持に貢献。

*父親支援ス夕ツフ:父親向けのプログラムを提供するス夕ツフ。 プログラムの対象であ

る周産期からl歳前の期間を支援。

効果:父親が、 自 ら の 関 わ り に よ り 、 子どもが成長していく 姿を 見 る こ と に よ り 、 父親

としての自覚、 ま た 役 割 を 実 感 で き る こ と と な る 。

プ ロ グ ラ ム : ・ ホームビジティングで行う個別プログラム

父親グループプログラム

*薬物乱用 ス ぺ シ ャ リ ス ト :薬物乱用の問題に巻き込まれている家族を対象とする専門チ

ームで、 14あるHFPのホームビジティングチーム の う ち 3 チームがこれに当たる。

現在2名のスぺシャリストが常駐。

立場:地域の薬物乱用支援提供機関である「オぺレーション・バー」 を 通 し 、派遺され、

HFPの「へルシー フ ァ ミ リ ー ピネラスプラス (HFP十 ) 」 と い う チームに所属。

主な仕事:・薬物乱用に ついてのアセス メ ン ト 。

薬物乱用の問題のある女性を、 専門機関への通院あるいは入院させること

により、治療につなげる。

連携:病院のアセスメントで妊娠中印麻薬を使つていたことがわかった全ケースを対象

に、 ホームビジティングを実施。(妊娠中からの薬物乱用は、その子どもも麻薬に

さ ら さ れ て し ま う た め 、 細やかな見守りが必要となる) ァセスメントで同定され

た薬物乱用による影響の重症度により、 母親への麻薬治療の仕方を検討。 麻薬に

曝された赤ちゃんについては、 体内に麻薬が残らないように、 病院で医療処置が

施されるが、 それ以外は、 薬物乱用 スぺシャリストの継続的な発達へのアセスメ

ントとHFPプラスのホームビジティングが対応。

*資源スぺシャリスト:居住の問題、経済的な問題を専門に取り扱い、 フ ァ ミ リ ー・サポ ー ト ・

ワーカーや家族を助ける地域の社会資源を紹介するスぺシャリスト。

主な仕事: ・家族が求めている仕事の情報提供。

履歴書の書き方、面接の仕方の指導・練習補助、就職活動の準備等就

労援助

永続的に暮らせる住居を探したり、そのための家計のやりくりや住居

の維持方法等の教育

家族に対して様々な学習プログラムについての情報提供

3 ) 財 源

HFAを実施している事業団の多くは、 州や郡の公費を運営資金としているため、 経済不況や財

政難に影響されやすく、例えば、全米で注目された家庭訪問事業ヘルシー ・ ス夕一 ト ・ プ ロ グ ラ

ムを最初に立ち上げたハ ワイ州は、 財政的な問題で、 一つのプログラムを残すばかりになってい

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る 。

しかし、 HFPはピネラス郡の財政とは独立した複数の機関からの出資を得ているため、 安定し

たプログラムの維持が可能となっている。 例えばそれらには、 以下のようなものがある。

JWB:青少年福祉委員会児童サー ビス評議会̃ この財源は、不動産業者等の企業から徴収する 「子

どものためのプログラムにしか使わない税金」

HSC:健康な出発協議会 (NP0) ̃企業の社長や意思や地域リ ー ダーや当事者など人材が参加して

いる

健康な家族フロリダ̃虐待予防事業のための資金提供する NP0

両親支援サークル̃親や養育者たちによる団体

4. HFPの成果

HFPの成果は以下のとおりであり、 これらは、 家族と子どものためのプログラムの評価機構で

ある家族子ども協議会や児童虐待防止アメリカにより承認されている。

2388世帯をホームビジティングの対象とした。 (ピネラス郡でホームビジティングを必要と

している世帯の98%に当たる)

・実施訪問回数は目標訪問回数を超えている。

・ サ ー ビスを受けた対象者のうち99%が「満足している」と評価している。

訪問世帯の96%の子どもたちが予防接種を受けている。

サー ビス実施家庭の98%は不適切な養育に至らなかった。

個別成果として

高卒資格の取得や夜間学校就学より地域の教育 レベルが向上した。

自宅を持つことが可能となった。

経済的に自立できた。

父親の育児参加率の向上した。

等が挙げられている。

「V.本事業視察からの考察

ここでは、 初めに、 日本における乳児全戸訪問、 養育支援訪問事業等とHFPとを比較し 、 HFP

から学べることを中心に述べていくこととする。 (表 一 l、 表 一 2参照)

表 一 1 乳児家庭全戸訪問事業との比較

乳児家庭全戸訪問事業 HFPの家庭訪問事業

親子関係支援を通し、 子どもの健全な心

身発達を促し、 虐待等の予防を図り、 更

目的 乳児家庭の孤立化を防ぎ、乳児の

健全な育成環境の確保を図る。

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Page 11: Healthy Families Pine as(HFP)プログラムの紹介admin7.aiiku.or.jp/~doc/houkoku/h24/19010A040.pdfHFPプログラムは、Healthy FamiliesAmerica(HFA)を基本としており、その哲学や12

に、将来子どもたちが社会に貢献できる

よ う 養 育 支 援 を 行 う 。

対象 生後4ヶ月までの乳児の全家庭 新生児が出生前、 及び直後にリスクがあ

る と ア セ ス メ ン ト に よ り 抽 出 さ れ て い

る新生児から5歳までの子どもを持つ家

訪問時期

と回数

対象乳児が生後4ヶ月を迎える前の

間 に 1 回

1 回 / 週 、 必要に応じて5歳まで

訪問者 保健師、助産師、看護師の他、保育

士、母子保健推進人、愛育班員、児

童委員、母親クラブ、子育て経験者

フ ァ ミ リ ー ・ サ ポー ト ・ ワーカー

訪 問 者 の

研修

市町村独自に設定 導入研修、 ステップアップ研修、 スーパ

ーヴァイズが義務化

実施内容 ・育児に対する不安等の傾聴、

相談

・ 子育て支援に関する情報提供

・ 親子の心身の状況や養育環境等

の把握や助言

・支援が必要な家庭に対し、 適 切

なサー ビス提供に向けて連絡

・ 出生直後からの親子の愛着の絆形

成支援

・子育て技術の促進

・家族の健康な発達に必要な情報提供

・家族の機能を促進

訪 問 員 の

立場

乳児のいる家庭と地域社会を繋ぐ

最初の機会

可能な限り保健師等の専門職がで

きるだけ早期に訪問

親の子育てパー ト ナーとして存在

サポ一夕一の要請により専門職と直ち

に連携

要 支 援 対

表 一 2 養育支援訪問事業との訪問における比較

目的 養育支援が特に必要であると判断した

家庭に家庭訪問し 、 養育に関する指導、

助 言 等 を 行 う こ と に よ り 、 当該家庭の

適切な養育の実施を確保することを日

的 と す る

親子関係支援を通し 、 子どもの健全な心

身発達を促し 、 虐待等の予防を図り、 更

に、 将来子どもたちが社会に貢献できる

よ う 養 育 支 援 を 行 う 。

対象 本事業が必要とされる対象者

①若年妊婦や妊娠からの継続的支援

を特に必要とする家庭

新生児が出生前、 及び直後にリスクがあ

る と ア セ ス メ ン ト に よ り 抽 出 さ れ て い

る新生児から5歳までの子どもを持つ家

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②育児ノイローゼ等の問題により、 子

育てに対し強い不安、 孤立感を抱え

る家庭

③不適切な養育状態にある等虐待等

のリスクがあり支援が必要と認め

られる家庭

④児童用簿施設等の対処または里親

委託終了後児童が復帰した後の家

アセスメントの評価項目より抽出

訪問

回数

短期支援型、 中期支援型等、 対象に合

わせて決定

1 回 / 週 、 必要に応じて継続

訪問者 保健師・助産師・保育士等 フ ァ ミ リ ー ・ サ ポー ト ・ ワーカー

訪問者

の研修

訪問者の能力と必要性に合わせて計画

的に実施

導入研修、 ステップアップ研修のほか、

ス ーパー ヴ ァ イ ズ の ト レーニングを受

けた保健師、助産師、保育士、ソ ー シャ

ルワーカ一等から

1 回 / 週 スーパー ビジョンを受ける。

訪問員

の立場

指導者・助言者 親の子育てパー トナー

日本においても、子育てにおいてハイリスクと思われる親支援を早期に開始する必要性が課題

となっている。子育てにおける問題は、対処療法ではなく予防こそが必要とされている。例えば、

親の子育て方法についての知識不足や子どもの発達等への認識不足から子育てへの困難感を持

ったり、子どもが発達段階で、発達障碍等の疑いがかけられ、その対応や受け止めに戸惑つたり、

子育てにおいて 、 自分自身の受けた子育てにおけるマイナスのイメージが浮き上がり、 自分の子

育てが肯定的に提えられなかったり 、 と、子育て中の課題はこれまで、 さ ま ざ ま な と こ ろ で、 親

自身の問題、 子どもの問題、 親子関係の間題、 環境による問題と取り上げられてきた。 そして、

それら課題から、 更に虐待等の二次的課題を生みだす可能性の高さも示唆されてきた。 そして、

それらを解決すべく、 乳幼児支援に関する制度やサー ビスの展開も進んでいる。 しかし、 HFA 、

HFP事業を見る限り、 日本における、 予防的支援の遅れが実感された。

乳児全戸訪問においても、市町村により、地域性、文化が重視されての方法の異なりとは言え

ない課題が山積していると思われる。訪問員の専門性や研修方法 、 訪問後の訪問の振り返り等も

その一つと言えよう。本事業が乳児家庭の社会化の始まりであるならば、 この事業の持つ意図は

限 り な く 大 き い と 言 え る 。

ま た 、 その先、課題があるとされた親子支援への継続支援も課題となろう。 これを担つている

養育支援訪問事業の担当者の訪問では、 「課題があるとされた家庭に訪問する」 時点で、 その対

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象となる家庭の親と信頼関係を作ることは容易なことではないと考えられる。対象となる親は、

対象となった時点で、 子育てへの不安だけではなく、 自分の子育てへのマイナスの判定を下され

たと感じていたとしたら、 信頼関係を作るのは、 容易なことではないと考える。

HFPでは、産院等と連携をとりながら、特定のアセスメントシー ト ( ケ ン プ ア セ ス メ ン ト ) を

使用し 、妊産婦全員にアセス メントを実施している。そこで、ハイリスクと思われる親を抽出し 、

更に、 居住地の保健局を中心とする日常的で、 定期的、 支援が時間をかけて提供されている。 日

本においては、 常に、 子育てに何らかの課題を抱える親子の支援において、 制度やサー ビス と ど

う結び付けるかが課題となっている。 HFPに見る方法では、 これら親子に相当する親子との信頼

関 係 を フ ァ ミ リーサポ一夕一がとりながら、親子と同列に並び、親子の気持ちや声を代弁しなが

ら、子育て力だけでなく、 地域での生活力もつけている。 この信頼関係のあるファミリ ーサポー

ターの存在があれば、その存在を頼りに、また、サポーターを仲介に、保健師をはじめとする専

門職の意見や指導も受け入れやすくなると考える。

実際、 日本においても、 この方法をとっている地域も見受けられる。 ここでの課題は、 フ ァ ミ

リ ーサポ一夕一の人材発掘と養成、 HFPのようなラップアラウンド等の環境整備、 更に財源とな

っている。

HFP事業の成果を作り出しているものは、 ラップアラウンドと地域連携の二重構造と、 更に、

基盤となる考え方や方針、 方法がシステム化されている点にあると考える。

各専門機関においては、その専門性ゆえに、サー ビス内容が独立していたり、支援対象が限定

されたりすることが多々見られる。そしてそれが、機関同士の連携を困難にしていたり、横のつ

ながりの弱さを作り出していることが多い現状で、本事業における専門機関の連携が不可欠な支

援体制を環境として整えるという視点は見習うところである。 HFPにおいては、 保健局が中心と

なり、連携を広げ、更に深めて言つているが、 保健局担当者の保健局罪責は、少なくても10年

を く だ ら な い 。 こ れ も ま た 、 じっくりと事業に取り組める環境要因であろう。

また、ラップアラウンドサー ビスについては、日本における専門職やサポ一夕一等の准専門職

の教育や支援体制への大きな警鐘とも言えると考える。本事業の要ともなるサポ一夕一養成にお

いては、 しっかりとした導入教育が施され、採用に当たっては、サポー トとしての資質等もしっ

かりと見極められている。また、支援については、基本となるカリキュラムが位置づけられ、そ

れがサポーターにとり拠り所となっている。実際の仕事を実践しながら、 各専門分野からの教育

やサポー ト体制が得られていることで、自分の持つ専門性と人間性が十分に発揮されることとな

っている。また、事業の展開においては、 HFAという基盤となるシステムが原則、方法等を提示

し た う え で 、 地域性を加味した変更を柔軟に認めながら、 事業についての評価機構が整備されて

いる。事業におけるチェ ック機構の必要性は言うまでもないが、 HFAにおいては、そのチェック

項目もはっきりと打ち出され、 結果も明確化されている。

以上HFPのプログラムについての幾つかのポイントを述べてきたが、 本プログラムを参考に、

日本文化に照らし合わせた方法で、子育て支援における予防的継続家庭訪問を広く実践していく

ことが望まれる。

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