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平成17年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)(Hl7子どもー004) 子どものライフステジにおける社会的養護サビスのあり方に関する研究(主任研究者:庄司順一) 分担研究報告愛着障害の視点からの被虐待児に対する援助治療プログラムの開発 分担研究者 藤岡孝志 日本社会事業大学 教授 研究要旨 虐待等により愛着形成に障害をおった子どもと、その養育支援を行う大人(施設職員、里親等) との間の関係形成をはかり、促進するためのプログラムの作成を目的として、施設職員、里親等を 対象に養育上の困難などについてヒアリングを行うとともに文献的考察を行った。 その結果にもとづいて試行的なプログラムを作成したが、このような援助プログラムヘの養育者か らの二一ズは高いこと、心理療法的なプログラムだけでなく、コンサルテーションのレベルでのグ ループ・プログラムの効果や可能性も示唆された。 研究協力者 加藤尚子 (目白大学) A.研究目的 虐待等で愛着形成に障害をおった子どもと、 その養育支援を行なう大人(施設職員、里親等) との間の愛着形成をはかり、促進するためのプロ グラムを作成することを目的として研究を行なっ た。 それと並行して、里親支援のNPO法人、子ども の虐待防止に関する民間団体、各地区の里親会な どに出向き、今年度末から一部開始、来年度から 本格的に実施する愛着修復プログラムに関する広 報を含めて、愛着関係に関する啓発・研修を実施 した。また、養育家庭支援職員と連絡を取り合い、 プログラムについての説明を行なった。 C.結果 B.研究方法 平成17年度は、プログラム作成の準備として、 プログラムの対象となる①施設職員、②児童相談 所の養育家庭支援職員、③養育家庭、に対して、 プログラムに対する二一ズと子どもの養育におけ る困難、子どもとの愛着関係を深める方法にっい てのヒアリングを行なった。また、内外の文献を 収集し、愛着形成をはかるプログラムについて、 文献的考察を行なった。 これらにより、愛着形成に障害をおった子ども と養育者との関係形成を促進する試行プログラム が作成されている。プログラムの内容は、①子ど もの状態のアセスメント、②養育者へのペアレン ティング技法・心理教育、③養育者と子どものそ れぞれがもつ愛着に関わるトラウマヘのアプロー チ、④相互の愛着関係の深化を図るアプローチ、 ⑤養育者のチーム、養育家庭のパートナー内での 連携の支援、で構成されている。これらに基づい 一”3一

愛着障害の視点からの被虐待児に対する援助 治療プログラムの ...admin7.aiiku.or.jp/~doc/houkoku/h17/67026030.pdf · 2008. 1. 4. · 虐待等で愛着形成に障害をおった子どもと、

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   平成17年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)(Hl7ー子どもー004)

子どものライフステージにおける社会的養護サービスのあり方に関する研究(主任研究者:庄司順一)

分担研究報告2

愛着障害の視点からの被虐待児に対する援助・治療プログラムの開発

分担研究者 藤岡孝志

日本社会事業大学 教授

研究要旨

虐待等により愛着形成に障害をおった子どもと、その養育支援を行う大人(施設職員、里親等)

との間の関係形成をはかり、促進するためのプログラムの作成を目的として、施設職員、里親等を

対象に養育上の困難などについてヒアリングを行うとともに文献的考察を行った。

その結果にもとづいて試行的なプログラムを作成したが、このような援助プログラムヘの養育者からの二一ズは高いこと、心理療法的なプログラムだけでなく、コンサルテーションのレベルでのグループ・プログラムの効果や可能性も示唆された。

研究協力者

加藤尚子  (目白大学)

A.研究目的

 虐待等で愛着形成に障害をおった子どもと、

その養育支援を行なう大人(施設職員、里親等)

との間の愛着形成をはかり、促進するためのプロ

グラムを作成することを目的として研究を行なった。

 それと並行して、里親支援のNPO法人、子ども

の虐待防止に関する民間団体、各地区の里親会な

どに出向き、今年度末から一部開始、来年度から

本格的に実施する愛着修復プログラムに関する広

報を含めて、愛着関係に関する啓発・研修を実施した。また、養育家庭支援職員と連絡を取り合い、

プログラムについての説明を行なった。

C.結果

B.研究方法

 平成17年度は、プログラム作成の準備として、

プログラムの対象となる①施設職員、②児童相談

所の養育家庭支援職員、③養育家庭、に対して、

プログラムに対する二一ズと子どもの養育におけ

る困難、子どもとの愛着関係を深める方法にっい

てのヒアリングを行なった。また、内外の文献を

収集し、愛着形成をはかるプログラムについて、

文献的考察を行なった。

 これらにより、愛着形成に障害をおった子ども

と養育者との関係形成を促進する試行プログラム

が作成されている。プログラムの内容は、①子ど

もの状態のアセスメント、②養育者へのペアレン

ティング技法・心理教育、③養育者と子どものそ

れぞれがもつ愛着に関わるトラウマヘのアプロー

チ、④相互の愛着関係の深化を図るアプローチ、

⑤養育者のチーム、養育家庭のパートナー内での

連携の支援、で構成されている。これらに基づい

一”3一

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て、来年度、個別またはグループでのプログラム

を実施する予定である。

 平成17年度3月に、里親に対して、単回の相談

機会を設け、ケースコンサルテーションを行なっ

た。それらを踏まえて、平成18年度は、上掲のプ

ログラムを用いて、継続した相談機会を持っこと

を予定している。対象としては、養育家庭と、児

童養護施設等の児童福祉施設の養育者と子どもを

予定している。

D.考察

く聴かれた。心理療法的なプログラムだけではな

く、コンサルテーションのレベルでのグループで

のプログラムの効果や可能性も高く感じられた。

E.来年度の課題

 一定のプログラム策定は行われたが、実際の運

営においては、ケースごとの特性や課題の深浅に

よって、あらたな課題が生じることが予想される。

特に、日本的な文化に即した間接的な課題へのア

プローチ法について、抵抗の少ない技法を開発す

ることが必要であると思われる。

 愛着のこじれを持つ子どもの養育を行なう養育

者からの二一ズは高く、プログラムを望む声が多

一114一

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愛着障害の視点からの被虐待児に対する

   援助・治療プログラムの開発

日本社会事業大学藤岡孝志

目白大学   加藤尚子

1 はじめに

 虐待を受けた子ども達への直接的な支援には、

様々な工夫が考えられてきている。そのなかにあ

って、虐待によるトラウマあるいは崩壊した愛着

関係からの被虐待児の回復を考えていく際に、ま

た、虐待を繰り返してしまう親へのアプローチを

考える際に、愛着理論は重要な視点を提供してく

れている。さらには、その臨床的展開である愛着

障害の概念、愛着療法の観点は、近年ますます重

視されるようになってきている。愛着療法は、ボ

ウルビィらによる様々な愛着研究の臨床的適用であり、アメリカ、コロラド州エヴァーグリーン

などを中心に様々なアプローチが開発、精選され

てきている。そのなかで、愛着療法と家族療法を

統合させた修復的愛着療法が、虐待を受けた子ど

もたちへのケアと新たな親子関係の構築に向けた援助に対して大きな効果をもたらすことが確かめられてきている。その研究と臨床的実践を中

心となって推進してきたのが、リヴィーとオーランズ(Levy,T.M.&M.Orlans)1〉である。

π 修復的愛着療法とは

 リヴィーたちによれば、修復的愛着療法は5つの要素からなっている(藤岡 2003 2))。

 ①まず第一に、愛着障害をもつ子どもの理解を

深めることである。子どもがどのように感じ、考

え、行動しているのか、さらには、内的な心理力

動を含めて理解していくということの大事さを指摘している。後に触れる愛着障害の徴候チェッ

クリストは、子どもたちと関わる際の様々な視座

を提供してくれる。愛着という視点を通して、子

ども達の様々な困難な点、課題を見ていくという

ことであり、ここでの愛着障害は、診断を前提に

しているような狭義のヂ反応性愛着障害ゴではない。

 ②第二に、子どもとの強い情動のワーク(作業)

である。この部分が、トリートメントの重要な部

分を占めている。トリートメントの基本的な目的

は,障害を受けた愛着を解決するよう子どもを助

けることである。親へとつながることを助け、自

分の最初の愛着対象への失望や怒りに対してもしっかりと接近することを援助していく。目標は,

愛することや愛されることへの恐れを解決することである。トリートメントを受けにやってきた

子どもたちは皆,権威すなわちコントロールにま

っわる問題を持っている。コントロール,信頼、

親密さに関する課題は、子どもたちの病理の顕著

な特徴であり,これらの課題の解決は,主要なト

リートメントの対象となる。

 ③第三に、親として重要な子育て技能(ペアレ

ンティング)の教育である。子どものもつ病理か

ら子どもたちを守り,子どもに対して必要で修復

的な養育体験を提供することである。重要なペア

レンティングは、子育てに伴う「つらさ・きつさ」

を親に対して押し付けることよりもむしろ、子ど

も自身がっらさ・きっさを体験し対処できるよう

に、親を支援することを意味している。すなわち、

ここでの支援とは、子ども自身の困難への対処の

動機づけを高めていくように、親が子どもをサポ

ートできるように、親を支援することである。こ

のような観点から、親と子の相互性(レシプロシ

ティ)を尊重している。親の器(コンティナー)

としての機能を重視するということである。

 ④第四として、親自身の愛着関係の見直しがあ

る。それは、上記の子どもとの強い情動のワーク

と同様のことが行われ、いわば、愛着の世代問伝

達を、親の世代で見なおしていくという強いセラ

ピー上の方針がある。トラウマティックな体験が

あれば、それに対するワークは、とても重要であ

一115一

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り、子どもやパートナーとの愛着を深めることにもっながる。

 ⑤第五として、両親(里親を含む)の夫婦面接

による夫婦の絆の再構築である。これは、愛着コ

ミュニケーション訓練として位置づけられており、これも重視されている。このことによって、

夫婦の問題に子どもが巻き込まれなくなるということだけでなく、夫婦がカを合わせて子どもへ

と関わっていくという協働作業が可能となる。ペ

アレンティング技法では、夫婦を念頭に置いたものは少ない。

 筆者が実際にリヴィー氏とオーランズ氏らのプログラム・臨床現場に参加した経験によると、

これら第三、第四、第五が、修復的愛着療法の真

骨頂ともいうべき点であり、子どもへの理解と直

接支援(第一、第二〉をより包括的に、より深く支えている。

 修復的愛着療法は、大きくこれらの5つの構成

要素によって体系的に組み立てられている。単に

愛着療法というにはとどまらず、家族療法や夫婦

療法を取り入れることで、まさに、統合的心理療

法であり、「修復的愛着療法」と呼ばれるわけはここにある。

皿 愛着障害のアセスメント

 以下、Levy,TM.&M.Orl&ns(1998)にそって、

まず愛着障害についてみていく。愛着障害は、診

断名として狭く捉える場合と、愛着上の問題として、広く捉える場合とある。

 DSHV(A PA 1994)3〉は乳児期や初期の子ども時代における、二つのタイプの愛着障害を記述している。

・抑制型;そこでは、アンビバレントな、矛盾し

た、抑制的な過剰に感受される反応が、養育者と

の間で起きる(例えば、心地よさへの抵抗)。

・脱抑制型;無差別的な過剰な社会性、選択的な

愛着の欠如(見知らぬ人との過剰な親密性)。

 二つのタイプは、5歳以前から始まり、明らか

に阻害され、発達的に不適切な社会的関係性に関連している。

 この診断は、病原となるケアの歴史を有し、少

なくとも以下のうちのひとつによって検証される。

・心地よさや刺激、情動に対する子どもの基本的

な感情的な欲求の一貫した見逃し。

・子どもの身体的な欲求の一貫した見逃し。

・安定した愛着(stable attaのment)を形成す

るのを阻む、初期の養育者の繰り返される交代。

DSHV-TR(2000)4)においても、内容は踏襲されているが、若干表現が異なっているので以下に見ていく。

A

B

C

D

 5歳以前に始まり、ほとんどの状況において著しく障害され十分に発達していない対人関係で、以下の(1)または(2)によって示される。

(1)対人的相互反応のほとんどで、発達的に

   適切な形で開始したり反応したりでき   ないごとが持続しており、それは過度に

   抑制された、非常に警戒した、または非

   常に両価的で矛眉した反応という形で   明らかになる(例:子どもは世話人に対

   して接近、回避、及び気楽にさせること

   への抵抗の混合で反応する、または固く

   緊張した警戒を示すかもしれない)

(2)拡散した愛着で、それは適切に選択的な

   愛着を示す能力の著しい欠如を伴う無

   分別な社交性という形で明らかになる   (例:あまりよく知らない人に対しての

   過度のなれなれしさ、または愛着の対象

   人物選びのおける選択力の欠如)

 基準Aの障害は発達の遅れ(精神遅滞のような、原文のまま)のみではうまく説明されず、

広汎性発達障害の診断基準も満たさない。

 以下の少なくとも一つによって示される病的な療育

 (1)安楽、刺激、及び愛着に対する子供(原

    文のまま)の基本的な情緒的欲求の    持続的無視 (2)子供の基本的な身体的欲求の無視 (3)主要な世話人が繰り返し変わることに   よる、安定した愛着形成の阻害(例=   養父母が頻繁に変わること)

 基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる(例:基準Aにあげた障害が基準Cにあげた病的養育に続いて始まった)

病型を特定せよ

抑制型  基準Alが臨床像で優勢な場合脱抑制型 基準A2が臨床像で優勢な場合

さら1こ、Lieberman and Pawl(1988)5)は、

幼児精神衛生プログラムにおける幼児とその親に対するアセスメントとトリートメントの文脈

一116一

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での愛着障害の臨床的な指標を明らかにした。そ

れらは、慢性的なさまざまな状況のストレスと同

様に、子どもと養育者の関係性を強調し、以下の

愛着障害の3つのタイプを記述している。

・無愛着(nonattachment)  養育者との感情的

 なつながりを形成する機会をもてずに育てら れた幼児は、人間関係や認知機能、衝動のコン

 トロールを形成するための能力においてとて も重篤な障害をもってしまう。

・不安/両価(anxious/ambivalent) 愛着対象

 との関係をっくることができないが、感情的身

 体的な有効性に関する重い葛藤によって特徴 付けられる。

・崩壊した愛着(disrupted attach血ent) 愛着

 対象(群)とのかなり深くて傷ついた分離と喪

 失は、強度の不安と、発達や信頼感に対する長

 期にわたる否定的な側面を喚起してしまう。

 また、Zeanah,Mammeu,and Lieberman(1993)

6〉は、愛着の障害が、子どもの安全と安心の感情

において深く染みとおるほどの障害を呈してしまうと示唆している。DSHVにおける診断的なカテゴリーを引き合いに出して、彼らは、「我々の

臨床経験は、定義された障害が愛着障害の姿を適

切に捉えていないことを示唆している」と述べている(Zea瞼h etaL1993,p。337〉。 彼らは、

愛着障害の5つのタイプに対する基準を提示している。

・無愛着 参照とすべき愛着対象の発達の失敗

・無差別性(見境のなさ) 見知らぬ場面での養

 育者の確認の失敗と、恐怖心を抱いたときに安

 全基地としての愛着対象を利用することの失敗。おそらく見境なく友好的であり、あるいは

/かつ、向こう見ずで事故を起しやすい傾向。

・抑制 年相応の探索行動をするために愛着対象

から冒険的に離れてみることをしようとしな

 い。おそらくかなりのしがみつきを示すか、強

迫的なほど追従するかのどちらかを示すだろ う。

・攻撃性 怒りと攻撃が愛着対象との関係性にお

いて広く見られる。おそらく、他者との間や自

己に向かっても、怒りや攻撃があるだろう。

・役割逆転 養育者に向かって、世話をすること

 (たとえば、過剰な気遣い)や懲罰的なところ

 (たとえば、しきったり、拒否したり、敵意を

示したりすること)などの養育行動をコントロ

ールする。子どもは、親によるものと通常考え

られている役割や責任をとろうとする。

 1994年には、臨床的幼児プログラムに関する国立センターの診断的分類課題検討チームが診断

的分類rO歳から3歳まで」というのを作り上げた(Zero to Three 19947))。このアセスメン

 トと評価システムは、診断、トリートメントの企

画、専門家同士のコミュニケーション、更なる研

究を促進するために臨床家や研究者に向けての指針を提供するべく企画された。それは、愛着と

その発達の問題に関する知識の現在の段階を反映しており、多軸分類システムを採用している。

 ・1軸碁棚㌧頚(たとえば、トラウマティック

 なストレス障害、反応性の愛着の剥奪/不適切 な扱いの障害〉

・第皿軸鱗盈分辮(たとえば、過剰関与、過 小関与、虐待的)

・第皿軸 身瑚ウ、蕩経学的、発謝ウ、蕎神衡堂

 まの鷹薔(たとえば、言語障害、慢性的な中耳 炎、養育上の失敗)

・第IV軸 の理祉会的なスみレソヴー(たとえば、

 虐待、養育里親家庭への移動、ネグレクト、養

 育上生じる病気、環境下での暴力)

・第V軸麓謝な繍擶発董のクベル(たとえば、 相互の注意とやりとり、相方向性、象徴的で愛

 情のあるコミュニケーションなどについての 能力)

 0から3までの診断上の分類は、3つの基本的な原理に基づいている。最初の原理は、子どもたちの心

理的な機能が彼らの相互作用と関係性の文脈により

発達するということである。2つ目の原理は、気質や

生まれながらの強さや傷つきからの回復力(vulnerabiHty)といった個々人の違いが、人生に

おける経験と経過を決める主要な役割を演じることで

ある。受容や養育、困難な場面での対処の技術とい

った養育者の反応は、子どもの発達を不利にするこ

とがないように、早期の取り組みや危険要因を変化さ

せることができる。3つ目の原理は、子どもの機能や

発達を見守る家族の文化的な文脈について理解することの重要性である。

 子どものアセスメントは、徴候、発達史、内的ワー

キングモデル、現在の人間関係に焦点化される。愛

着障害は、本質的に人間関係の阻害となる。従って、

これまでと現在の家族と他の重要な人間関係の文脈

の中で、子どもを理解することが必要となる。表1に、

子どもの愛着障害のサインを、表2に、愛着障害の

原因を示す。(以下、表1から表5まで、Levy,TM.&M.Orlans,1998参照)

一117一

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表1 子どもの愛着障害のサイン

・愛情の表現

 一温かく情愛に満ちた相互関係の欠如

 一見知らぬ大人との差別的な愛情表現・心地よさの追求

 一打ちのめされたり、傷っいたり、病気のときに、心地よさを追及することの欠如

 一奇妙で両価的な方法での心地よさの追求・援助への信頼

 一極度な依存 一必要なときにサポートのために愛着の対象を求めたり利用したりしない・協働

 一養育者の要求に対する素直さの欠如

 一過剰な要求 一強迫的な服従・探索行動

 一見知らぬ状況で養育者をかえりみることの失敗

 一養育者を離したくないことから来る探索の制限・コントロール行動

 一養育者を過剰にしきりたがり、懲罰的にコントロールしようとする

 一養育者に向けての過剰な気遣いや不適切な世話をする行動・再会場面での反応

 一分離の後、相互作用をもう一度確立することの失敗 一無視や避けること、過剰な怒り、愛情の欠如などを含む

一“8一

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表2 愛着障害の原因

・親や養育者の要因

一虐待 かつ/または ネグレクト

ー効果のない、感受性の乏しい養育

一抑うつ:単極性、双極性、産後

一重篤、かつ/または’漫性的な心理学的な障害:生物学的 かっ/または 感情的

一十代で親になること

一身体的虐待

一世代間の愛着困難:未解決の家族起源の問題、分離・喪失・不適切な扱いの歴史

一長期にわたる不在:刑務所、病院、遺棄

・子どもの要因

一難しい気質:親や養育者との「相性が合うこと、一致」の欠如

一未熟児での出生

一医学的な状態:長く続く痛み(たとえば、内耳)、腹痛

一ホスピタリゼーション:分離と喪失

一「養育行動上の失敗」症候群

一先天性かつ/または生物学的な問題: 神経学的な障害、胎児性アルコール症候群、胎児性の薬物への曝露、身体障害一一般的な要因:精神障害の家族歴、抑うつ、攻撃性、犯罪行為、身体的虐待、反社会的人格

・環境の要因

一貧困

一暴力:被害を受けること かつ/または 目撃すること

一サポートの欠如:父親や親戚の不在、孤立、サービスの欠如

一度重なる家庭外での移動:養育里親システムでの移動、さまざまな養育者

一高いストレス:結婚にまつわる葛藤、家族の無秩序と混沌、暴力的な地域

一刺激の欠如

 以上を踏まえ、アセスメント情報は、いくつか

の資源から収集される。それは、大人のレポート、

子どもの自己レポートチェックリスト(表4徴候チェックリストを参照)、臨床的な観察(例え

ば、セラピー中の親と子どもの相互関係、専門里

親家庭での子どもの行動)、心理力動的なデータ

(たとえば、前もってのテスト、社会性の発達)

である。

 焦点化すべき子どもや家族の機能の重要な領域は以下のような点を含んでいる(表3親と家族

のアセスメント 参照)。

・現在の徴侯や問題(個人的、社会的文脈)

・発達的な歴史(生物学的、心理学的、社会的背

景1愛着の歴史1出産前、中、後の要因)・内的ワーキングモデル(子どもと養育者;これ

まで、現在)

・現在の両親/養育者(愛着の歴史、心理社会的

な要因、結婚その他の重要な人間関係)

・子ども一養育者の関係のパターン

・家族、地域(コミュニティ)、文化システム

・現在の環境的な条件やさまざまなストレッサー

一119一

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表3 親と家族のアセスメント

・親の愛着の歴史

・家族の背景

・付加的な原家族の情報

・教育と仕事の経歴

・アセスメントの方法1自伝、人生脚本、アダルトアタッチメントインタビュー、臨床的インタビュー

・親の現在の機能

・心理社会的、身体的な健康

・夫婦間と他の重要な人問関係

・養育態度と技術

・養育の歴史

・きょうだいとの養育の経験

・愛着障害を持つ子どもとの養育の経験

・親の約束

・家庭外の場所への移動

・養育の哲学と能力

・家族システム

・構造、力動、人間関係のパターン

・支援システム

・ストレス要因とストレスマネージメント

表4 徴候チェックリスト

徴侯チェックリスト

子どもの名前   日付

 あなたの子どもにあるいろいろな徴候について、適切な場所に印(レ)を入れてください。

 各紙面のなかで、それぞれについて、無、軽度、中度、重度の徴候のチェックをしたら、それにつ

いてのあなたの子どもの行動の簡単な短いコメントを書いてください。

無 軽度 中度 重度

 1.衝動コントロールの欠如

 2.自己破壊 3.器物の破損

 4.他者への攻撃性

 5.一貫した責任感のなさ6.不適切な要求やしがみつき

 7.盗み 8.あざむき(嘘、ずるさ)

 9.溜め込み10.不適切な性的行動や態度11.動物への残虐性

一120一

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12.睡眠障害13.遺尿や遺糞14.頻繁なルール無視(反抗的)

15.多動16.異常な食習慣17.火や血、悪事への没頭18.しつこくて無意味な質問や絶え問ないおしゃべり

19.不衛生20.目新しさや変化における困難さ

21.因果思考の欠如22.学習障害23.言語障害24.犠牲者(無力な者)としての自己認知

25,自分が大事という偉そうな感覚26.親(養育者)の言動に対して愛情を表現しない27.激しい怒りの表出(激怒)

28.頻繁な悲しみ、抑諺、無力感29.不適切な情緒的反応(場にそぐわない感情表現)

30.著しい気分の変化31,表面的な愛想や愛嬌32.親密さのためのアイコンタクトの欠如

33.見知らぬ人への無差別的な愛情表現34.仲間関係の欠如又は不安定さ35.制限や外的なコントールに対する耐性の乏しさ36.自分の間違いや問題で他人のせいにして責める37.他者を傷つける(加害、いじめ〉

38.他者から被害を受けやすい39.他者への信頼の欠如40.搾取的、操作的、支配的、しきりたがり

41.慢性的な身体の緊張42.事故の起こしやすさ43.痛みへの高い耐性(がまん強さ)44.接触防衛(触られることをいやがる)

45.遺伝上の素質(実の親の素質を引き継いでいるところが目立つ)

46.(生きることへの)意味や目的の欠如

47.信仰、共感や他の精神的な価値の欠如

48.悪事や人生の暗い側面への同一化49.自責や良心の欠如

 以上のような徴候チェックリストは、あらかじ

め両親(里親含む)によってチェックされ、メー

ルによってあらかじめ送信されており、セッショ

ンの最初のときに、セラピストと一緒に再度、確

認することになる。これは、親とセラピストのラ

ポール形成のために時問としても利用される。

一121一

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表5 子どものアセスメント

問題の提示

6つの徴候のカテゴリー:行動、認知、感情、社会性、身体性、道徳性一精神性

環境の要因

頻度、持続時間、深刻度

問題についての子どもの説明1アセスメント中の行動

家族システムの文脈

発達史

内的ワーキングモァル

  自己と養育者、通常の生活についての核となる信念

  アセスメントの方法:文章完成法(sentence co即1etion〉、最初の1年の愛着のサイクル、

  インナーチャイルド(内なる子ども)のメタファー(隠喩)、描画、サイコドラマの再現

両親と家族の誕生1出産より前と出産前後の要因

出産後の経験と発達時の重大な出来事

愛着の歴史

学校生活の歴史

人間関係の歴史

性的な歴史

強さと資源

付加的な問題と付随的な診断      一“

 このような視点に基づいてアセスメントが行われるが、子どものアセスメントを家族と一緒に

しながら、家族や夫婦関係のアセスメント、地域

のアセスメントも合わせて行なっていく。

 以上が、修復低愛着療法におけるアセスメント

の要点である。DSMIVの診断基準に比べて広義であり、きわめて包括的であり、総合的である。

愛着のアセスメントが、単に個人と養育者の相互

作用という側面だけでなく、それらを取り巻くエ

コ質ジカルな視点を重視していることが示唆される。

IV 2週間トリートメントプログラム

 (Two-Week Treatment Program) 上記のようなアセスメントをふまえながら、実

際にセラピーあるいはトリートメントに入っていく。そのトリートメントを、包括的なセラピー

技法として体系化し、プログラムとして完成させ

たのが、Two-Week Treatment Program(2週間トリートメントプログラム)である。藤岡

(2003)及びLevyら(1998)にそって、このプログラムの特徴をみていく。

 このプログラムは、修復的愛着療法の基本的な

プログラムである。午前中1ケース(3時間、午

前9時から12時)、午後、別の1ケース(3時間、午後1時から4時)の計2ケースを2週間にわたって集中的にトリートメントしていく。現在、

エヴァーグリーン心理療法センターでは、男性2

人、女性1人の複数のセラピストによる共同の2週間トリートメントプログラムが行われている。

このような形態をとることによって、毎日の変化

が起こりやすくなること、セラピーとそれ以外の

場面との関連性・解決などを話題にしやすいこと、

ワークなどを1セッションのなかで余裕を持って行えること、ワークで起きたことをセッション

のなかで十分に時間をかけてシェアー(共有)で

きること、多くのセラピストによって多面的に1

ケースに対してセラピー(ワークを含む)を行え

ること、など多くの利点を有している。一方で、

開業心理臨床という条件を前提に作られたプ覆グラムであり、セラピスト及びクライエントにと

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って時間的にも経済的も負担が大きいこと(アメ

リカでは、開業臨床心理士による心理療法にも保

険が利くので、経済的な負担はクライエントにと

って少なくできるが)、複数のセラピストを必要

とし、スタッフ態勢づくりにおいて課題があるな

どのデメリットも有している。保険を使わない場

合の額は驚くほど高いものであり、コストという

面で、日本でこのまま適用するのは非現実的であ

る。日本での適用を考える際、通常臨床場面ある

いは臨床上の契約として週1回の面接という形態をとっていることが多いことなどを考えると、

どのような形態をとることがよいのか、十分に検

討、留意されなければならないだろう。なお、子

どもは家族と一緒にホテルなどに滞在し、そこか

ら2週間センターに通う。このことで、子どもと

親(里親含む)の愛着関係の形成が、セラピー場

面以外でもさらに促進され、また、セラピー場面

以外での問題性も、面接場面で話題や課題にしや

すくなる。トリートメントの初日に、両親には専

用のノートが手渡され、子育ての際の戸惑いや振

り返りなどが記録され、翌日の面接の最初のほう

で話題にされる。集中型のトリートメントの利点

といってもよいことであろう。

V 愛着臨床の要点

 愛着を臨床的な関わりの中心にすえることを考える際に、大きく3つの概念が重要となる(藤

岡 2003;Levyら1998 参照)。

 ①相互性(reciprocity)

 相互性とは、相方向的な関わりという意味が込

められている。ギブ・アンド・テークあるいはrや

りとり」の意味を強調した表現である.さらに、す

べての子どもたちが尊重され(respectfu1)、責任

感にあふれ(responsible)、可能性に満ちている(resource魚1)と期待されることをセラピーの基本

的な哲学と考えている。これらは、頭文字を取っ

て、3つのRともいわれている(藤岡、2003)。

 敬意は、自分への敬意を基礎に、他者への敬意

身体への敬意、動物への敬意など様々な対象に対

して向けられるものであり、まず、大人が子ども

に対して向けていく敬意こそが重要である。その

具体的な現れが、優しい慈愛に満ちたまなざしで

あり、穏やかで、やりとりと間を大事にする会話

である。敬意と相互性をもった関係性を構築する

ことで、子どもたちに責任感を持たせ、子どもた

ちの持つ様々な可能性を引き出すことができる

と修復的愛着療法ではとらえている。「敬意」と

いう感情は、福祉領域において、特に直接支援場

面で重視する概念である。相互性は、互いのこの

敬意によって、根気強く維持されるものかもしれない。

 ②柔順 Comphance ここでの、柔順は、服従とはちがう。服従は自

分の意思に反して、誰かに従うことだが、ここで

の柔順は、むしろ本人の意思で、権威者、あるい

は養育者に任せてみるということである。そこに

は、「この人は自分には悪いようにはしないはず

だし、自分のことを誠実に考えてくれている」と

いう権威者や養育者への敬意と信頼がある。日本

語には、恭順という言葉があり、恭しく従うとい

うニュアンスがこめられている。従順がもっとも

よく使われると考えるが、従うというニュアンス

が前面に出るのは否めないことであろう。ただ、

恭順という言葉は日常あまり使われることが多くないと考えられることから、ここでは、柔順と

いう訳語を使うこととする。

 同じ漢宇圏の中国語でも、服従(fu congフー・

ツォン)は、軍隊などにける硬い上下関係での命令

に対する服従をさし、その命令は受けるしかないというニュアンスがあるという。また、恭順(gong

shun コン・シュウェン)には、教師と学生の関

係など尊敬を前提として、心から従うというニュ

アンスが含まれている。最もよく使うのは、順従

(shmcong シュウェン・ツォン)という言葉であ

り、服従に近いが一般的な使い方であるという。日本語と同じ柔順(rou shun ロウ・シュウェン)

もあり、やさしく従うというニュアンスが含まれている。

 さらに、漢字も併用することが最近、再度増え

てきている韓国語でも、服従(ポクジョン)と柔順(ユースック)は、同様に区別されており、

一般的には、順従(ツォンジョン)も使われる。

以上を勘案しても、Complianceの訳語として、

漢字の「柔順」をあてることが、もっとも適切ではないかと考えられる。

 一方で、服従は、力関係による一方的な支配で

あり、虐待一非虐待、支配一被支配、パワー・ゲ

ームとも言うべき状況があり、そこには信頼は成

立していない。自分が相手を利用できるが利用さ

れているのか、のどちらかである。ここでの服従

は、英語では、Obed五enceという。柔順と区別し

て、従順と訳すこともある。

 Levyら(1998)を参考に、以下にさらに詳しく見

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ていく。安定した愛着を得た子どもは、子どもの

養育者の規則、基準、期待を参考に基本となる柔

順co即lianceを発達させていく。これは、親の価値の内在化のプロセスと、道徳心と良心の発達

の最初の段階である。安定性愛着の文脈が愛着障

害の子どもに役に立たないことから、子どもたち

は、権威人物に対する基本的な受け入れ(柔順)

という発達を行わない。結果的に、子どもたちは

人間関係において支配的で、反抗的で「いばりた

がり」でカの戦いの中にいるようになる。養育里親と養子縁組里親、教師、きょうだい、仲間達は、

一般的に、これらの子どもたちが他者と折り合っ

ていくことが極端に難しいということを報告している。

 愛着に詳しいセラピストは、権威の基本的な受

け入れ(柔順)を学ぶ子どもを助けるために、愛

着の初期の段階(養育、構造、援助、調律attmement)に関連づけた状況を提供している。

セラピストは、個人的にそして他者との関係にお

いて、コントロールを失った子どものコントロー

ルを受け入れようとし、それを可能にしなくては

ならない。修復的愛着療法では、HNP(抱え養育体勢)を利用するセラピストは、言葉、視覚、体、

そして感情で、多くの感覚の受け入れを促進する。

子どもの言葉での反応、目の合図、体の位置、安

全で安心であるという感覚という、すべてがセラ

ピストの受け入れレベルの増大という形で反映される。子どもの不安のレベルが、安全な大人に

コントロールされていることで減るときに、脱感作は起きてくる。

 柔順的でない(他者を受け入れていない)子ど

もたちをカの戦いの中に巻き込むことを避けることは、必須である。逆説的な介入paradoxical

interventions(「徴候や症状に対して処方するこ

と」)は、このようなコントロールの戦いを避け、

子どもへと責任を変えるのに効果的である。より

抵抗し、支配的な子どもには、より効果的な技術がある。

 セラピストがどのようにカの戦いを回避するかが、共感(「私は…が分かるよ。」)と逆説(「た

ぶん、あなたはずっとこのままだって思ってるんでしょ。」)を結びつけることによって示されてい

る。「変化を起こす」一それは、コントロールを

めぐってセラピストと戦うよりも、「子どもが自

分に希望をもたないこと、悲観、失敗するという

感覚」を分かちあえるようにすることである。子

どもは、カとコントロールの戦いよりも、誠実な

感情につながっていく。その扉は、構成され豊か

なセラピーやトリートメント(新たな選択、柔順

の増大、契約すること)により開かれることにな

る。心からの信頼は、子どもの苦しみを「ともに

生きる」「一緒に生きる」ところから生まれてくる。

 ③緊張一解放一リラクセイションサイクル

 修復的愛着療法では、日々の安定した関わりの

なかとともに、関係性の中で起きるリラクセイシ

ョンに至るプロセスで、愛着が起きると考えてい

る。リラクセイションが臨床的な変化を促す上で

重要なことは従来から指摘されているが、ここでもその点が強調されている。

 リラクセイションを通して、親と子、セラピス

トとクライエント問に信頼やつながりが深まる。

緊張している時ではなく、このリラクセイション

が進んだ状態が愛着の形成に適した時期である。

ただ、あくまでも修復的愛着療法では、親(里親

含む)と子どもの愛着形成が大きな目的であり、

セラピストはその促進・創造・媒介役をとる。セ

ラピストとクライエントがホールディング技法を行なった後、夫婦、あるいは親子がそのポジシ

ョン関係を取る。セラピストはきっかけであって、

愛着形成の主役はあくまでも親子であり、夫婦である。

VI修復的愛着療法の日本への適用における課題

 このような特徴を持っ修復的愛着療法であるが、臼本の臨床現場に適用するにはまだまだ検討

すべき課題が残されていると考えている。以下に

その点を整理してみる(藤岡孝志 2003参照)。

(1)日本における臨床技法の探求と研修の重要性

 十分な研修を積むことではじめて、効果的な修

復的愛着療法を行うことができる。特に、抱え(ホ

ールディング)によるワーク、内なる子ども(イ

ンナーチャイルド)技法によるワーク、役割演技(ロールプレイング)によるワークについては、

特にその必要がある。また、本療法を適用するに

あたっては、臨床的な基本的なトレーニングを受

けていることが前提となっている。その上で、修

復的愛着療法及びペアレンティングの研修が必要となると指摘している。アメリカでも、この修

復的愛着療法はその技法の習得の難しさから十分に広まっていないというのが現状である。今後、

リヴィー氏らから直接指導を受けた方々による

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慎重な臨床的適用と日本の臨床現場に合う形での技法上の工夫などが求められていると言える。

多くの方々に修復的愛着療法への理解が深まることを願いつつ、一方で、慎重な臨床適用と工夫、

継続した研修の機会を得ていただくことが必要となるであろう。

(2)日本的なスタッフ体制(態勢)と契約の重要性

 修復的愛着療法の大きな特徴である複数セラピスト態勢も、一人のセラピストによる個別面接

が基本であることが多い日本では、なかなか難し

い点である。開業セラピストを3人も一日2ケースに張り付けるという贅沢な設定は、今の日本の

保険制度においてはきわめて困難であるとも言える。このような面接構造の再検討は、日本への

適用を考える場合、避けて通れない課題である。

 ロールプレイングなどを考えると、複数制のメ

リットははずせないが、単独のセラピストでもで

きる工夫を、日本においては進めなければならな

いかもしれない。また、単独を基本にしつつ、必

要に応じて、複数のセラピスト態勢に変え、その

効果の向上を図るなどの工夫もあるかもしれない。心理教育プログラムのグループワークなどで

は複数のスタッフ態勢が定着しっつある。このよ

うな実践も参考になるであろう。

(3)日本独自の愛着のあり方の検討、及び愛着

 ペアレンティングなどの技法開拓の必要性

 愛着ペアレンテング(子育て)や夫婦間の愛着

コミュニケーション訓練も、修復的愛着療法にお

いて重要な位置づけになっている。ただ、その内

容をみてみると、日本の育児観を背景とする子育

てにおいて、また、言葉をあまり介さないことも

ある日本の夫婦において、これをそのまま適用す

るには無理のあるところがある。たとえば、言葉

を多用することによって、親子や夫婦それぞれの

考えを伝える作業をする点など、非言語的なコミ

ュニケーションを言語的コミュニケーションと同じくらい重視する我が国において、どの程度ペ

アレンティング技法や夫婦間のコミュニケーション技法として有効かは未知数である。この点は、

実際に子育てサロンや子育て講座、夫婦面接の場

面などにおいて、ほかの多くのペアレンティング

技法、臨床技法と比較・併用しながら、適用を工

夫していかなければならないであろう。

 また、目本では、子どもたちの問題点は、身体

症状へと出現することが多い。肩こり、腹痛、摂

食障害、吃音、チックなどすべて身体と心の心身

一如の観点から理解されるべきことである。スト

レスから身体症状化しやすい。日本の育児が欧米に比べて、「おんぶ」、「だっこ」、「添い寝」、「川

の字3、r高い・高い」、rおうまさん」など身体を

媒介とした関わりが多いことも、身体症状化しや

すいことにつながっているのかもしれない。親子

関係の象徴的な意味合いも身体に込められている可能性はあると考えられる。今後、愛着形成の

技法として、身体を有効活用する技法の開拓が必

要である。その点で、臨床動作法は、日本独自の

優れた臨床技法として、目本人のための愛着形成

に役立っものと筆者は考えている。

(4)日本における社会福祉施設、矯正・更生保護施

 設や里親支援などにおける「愛着」の観点の見

 直し

 今、日本の社会福祉施設(乳児院、児童養護施

設、児童自立支援施設、情緒障害児短期治療施設、

母子生活支援施設など)には被虐待の子どもたち

が多く入所するようになってきており、子どもた

ちへの心理的なケアについての検討が急務となっている。プレイセラピーやカウンセリングなど

が主流ではあるが、それらとあわせて、修復的愛

着療法の適用に向けての工夫が検討されていくが必要であろう。また、施設や児童相談所のなか

のソーシャルワーカーや心理職だけでなく、施設

内のケアワーカーの方々、施設管理・事務や栄養・調理部門の方々の日々の関わりにも、この修

復的愛着療法の考えや技法は役に立っと考えられる。子どもたちの退所、あるいは家族の再統合

に向けての工夫を考える上での一助になることも期待される。

 さらに、里親制度も、施設養護に並んで、重要

な社会的養護である。里親制度の要項には、子ど

もとの愛着の形成を促すこと、その重要性が謳わ

れている。修復的愛着療法の理論と技法が、里親

の方々の研修や臼々の子どもとのやりとりの参考になることを願っている。また、愛着関係の再

構築は、非行少年の矯正や更生保護を考える際に

も重要な課題である。その意味で、愛着障害や修

復的愛着療法の視座が、非行少年あるいは元・非

行少年への理解と支援・援助においても大きな示

唆を提供してくれるものと期待している。矯正・

更生保護に関わっている少年院などの矯正施設や更生保護施設の職員、保護観察官・保護司、調

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査官など家庭裁判所職員・弁護士などの司法領域

の専門家の参考になればと期待される。

(5)修復的愛着療法の技法の日本への適用に

 おける様々な工夫 ①ホールディングについて  この方法は、藤岡(2003)でも、紹介して

  いるが、日本に適用する際、配慮が必要で  あろう。心理的なホールディングともいう

  べき状況を作ることで、十分、修復的愛着  療法の狙いを実現できるものと筆者は考え

  ている。たとえば、ソファーに横になって  もらい、ソファーの脇にセラピストがいて、

  アイコンタクト、やさしくゆっくりとした  言葉がけを設定する。そして、クライエン  トのおなかの上に、テディベアーをおくこ

  とで、インナーチャイルドメタファーは実  現可能となるであろう。

   また、大事なこととして、「子どもを抱っ

  こすることで、実は親が子どもに抱っこさ  れているように感じ、癒されていく」とい  うことがある。この感覚がつかめた親は、

  たとえ、自分自身が被虐待の経験があって

  も、育児活動の中でわが子によって癒され  ていく。修復的愛着療法の中で、筆者は、

  熊のぬいぐるみ(小さいころの自分〉をメ

  タファーとして使うインナーチャイルドが  極めて優れた技法であると感じているが、

  そこにも、熊(小さいころの自分)をいと

  おしく思うことで、逆に熊(悲惨な環境で  あっても精一杯過ごした幼い自分)によっ  て癒され、励まされるということがある、

  とリヴィーたちの臨床場面に立ち会った体  験の中で感じている。

 ②サイコドラマ、ロールプレイングについて  修復的愛着療法では、熟練したセラピストに

  よって、父親、母親、祖父、祖母などの役割

  が 取られ、特に虐待やネグレクトのケース

  では、言葉での心理的虐待場面が再現(再演)

  され、そのときにセラピストとクライエント、

  あるいは、養父母とクライエントの愛着関係

  が促進される。しかし、このようなトラウマ

  ティックな直接的な場面は、二次的な被害の

  場を提供する可能性もある。リヴィーやオー

  ランズなどの熟練したセラピストでは大丈  夫であろうが、日本ではまだ慎重な姿勢を崩

  すべきではないだろう。むしろ、インナーチ

  ャイルド場面で、昔のことを思いだしてもら

うことで十分ではないかと考えられる。

 また、心理劇を取り入れるにして、設定場面については慎重な配慮が必要であろう。

 虐待場面の急激な直面は避けるにしても、食

卓場面、遊び場面など緩やかな導入への配慮が

なされていて、なおかつ、クライエントのそば

に必ずセラピスト、補助自我の役割を取る人が存在していることが大事なことであろう。

 以上の点を考慮しっっ、修復的愛着療法の理論

と諸技法が、日本における愛着理論の臨床的場面

への適用の発展に寄与することを心から願っている。

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