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毛脂腺 立毛筋 毛隆起 神経線維 毛乳頭 毛球 毛器官の特徴 毛器官は体温維持,体表面の保護など,生命の維持に とても重要な役割を果たしている.ヒトの毛器官は掌 蹠,陰部の一部を除く全身の皮膚に分布する.毛器官は 硬毛と軟毛,胎生毛に分けられ,頭毛,眉毛,鬚毛,睫 毛,腋毛,陰毛や体部の粗大な毛包は硬毛であり,硬毛 の分布しない体表面を覆う細く短く軟らかい毛が軟毛で ある.胎生毛は胎生期の軟毛や硬毛になる前の毛器官で あり,構造は軟毛とほぼ同じである.頭毛は成人 1 人あ たり平均 10 15 万本である.成長期,退行期,休止期 2 6 年の毛周期をくり返しており,ヒトの頭毛では 85 90 %が成長期毛である. 1 日に休止期の毛髪が 50 100 本近く抜け落ちるが,発毛により体表面の毛器官の 密度はほぼ一定に保たれている.この毛周期の維持には 毛包幹細胞が重要な役割を果たしている. 毛器官の構造 成長期にある毛器官の最深部には毛球が存在し,その 中に血管を伴う結合組織が入り込み毛乳頭を形成する 図1 ).毛乳頭の周囲には毛母が存在し,毛球から上方 に向かって毛幹,内毛根鞘,外毛根鞘の各層に分化する 前駆細胞やメラノサイトが分布する.毛母細胞間のメラ ノサイトは生成したメラノソームを毛髄や毛皮質の細胞 に供給する.毛乳頭は毛母細胞と基底膜を境として乳頭 状を呈する間葉系の組織で,線維芽細胞様の毛乳頭細胞, 毛細血管,細胞間基質などで構成されている.毛幹は毛 髄,毛皮質,毛小皮から成る.毛母から毛幹を中心に伸 びる内毛根鞘,外毛根鞘を毛包と呼ぶ.内毛根鞘は内側 から内毛根鞘小皮,ハックスレー層,ヘンレ層の 3 層に 分けられる.これらは毛包中央部で融合し,毛包峡部で 消失する.さらに上方には立毛筋が付着してやや隆起す る膨隆部に毛隆起 (バルジ領域) があり,その上に毛脂 腺が付着する. 毛周期 毛器官は毛周期と呼ばれる組織再生と退縮をくり返す 北里大学医学部皮膚科主任教授 天羽康之 AMOH Yasuyuki 図 1 毛器官の構造 P36 〜 37 掲載メディカルイラスト ©SAIKOU 最新基礎講座 BASIC COURSE 顔面の皮膚の生理学 第4回 毛包・脂腺系 合線維性 根鞘 内毛根鞘 ( ) Bella Pelle Vol.3 No.1 2018–2 36 36 SAMPLE Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.

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毛脂腺

立毛筋

毛隆起神経線維

毛乳頭毛球

毛器官の特徴 毛器官は体温維持,体表面の保護など,生命の維持にとても重要な役割を果たしている.ヒトの毛器官は掌蹠,陰部の一部を除く全身の皮膚に分布する.毛器官は硬毛と軟毛,胎生毛に分けられ,頭毛,眉毛,鬚毛,睫毛,腋毛,陰毛や体部の粗大な毛包は硬毛であり,硬毛の分布しない体表面を覆う細く短く軟らかい毛が軟毛である.胎生毛は胎生期の軟毛や硬毛になる前の毛器官であり,構造は軟毛とほぼ同じである.頭毛は成人1人あたり平均10~ 15万本である.成長期,退行期,休止期の 2~ 6年の毛周期をくり返しており,ヒトの頭毛では85~ 90%が成長期毛である.1日に休止期の毛髪が 50~100本近く抜け落ちるが,発毛により体表面の毛器官の密度はほぼ一定に保たれている.この毛周期の維持には毛包幹細胞が重要な役割を果たしている.

毛器官の構造 成長期にある毛器官の最深部には毛球が存在し,その

中に血管を伴う結合組織が入り込み毛乳頭を形成する(図1).毛乳頭の周囲には毛母が存在し,毛球から上方に向かって毛幹,内毛根鞘,外毛根鞘の各層に分化する前駆細胞やメラノサイトが分布する.毛母細胞間のメラノサイトは生成したメラノソームを毛髄や毛皮質の細胞に供給する.毛乳頭は毛母細胞と基底膜を境として乳頭状を呈する間葉系の組織で,線維芽細胞様の毛乳頭細胞,毛細血管,細胞間基質などで構成されている.毛幹は毛髄,毛皮質,毛小皮から成る.毛母から毛幹を中心に伸びる内毛根鞘,外毛根鞘を毛包と呼ぶ.内毛根鞘は内側から内毛根鞘小皮,ハックスレー層,ヘンレ層の 3層に分けられる.これらは毛包中央部で融合し,毛包峡部で消失する.さらに上方には立毛筋が付着してやや隆起する膨隆部に毛隆起(バルジ領域)があり,その上に毛脂腺が付着する.

毛周期 毛器官は毛周期と呼ばれる組織再生と退縮をくり返す

 ヒトの毛器官は掌蹠,陰部の一部を除く全身の皮膚に分布しており,毛器官は生命の維持に重要な役割を果たしている.毛髪は毛周期に応じた生理的な脱毛と発毛をくり返し,毛の密度を一定に保っている.この生理的な毛周期に障害が生じ,毛が欠如しているか疎になった状態が脱毛症である.また,毛包に付着する毛脂腺の活動性亢進から皮脂の分泌が増加し,さらに毛包漏斗部の角化亢進により皮脂の毛包内貯留をきたすと面皰となり,痤瘡を生じる.脱毛症や痤瘡は,美容医療においても重要な疾患である.

北里大学医学部皮膚科主任教授

天羽康之AMOH Yasuyuki

図1 毛器官の構造

P36〜 37掲載メディカルイラスト©SAIKOU

最新基礎講座BASIC COURSE

顔面の皮膚の生理学第4回

毛包・脂腺系

毛小皮毛皮質毛髄

毛幹

内毛根鞘小皮ハックスレー層ヘンレ層有棘層基底層硝子膜内輪走線維層 結合線維性結合線維性

毛根鞘毛根鞘

外毛根鞘

外輪走線維層

内毛根鞘内毛根鞘

毛乳頭

メラノサイト

毛母

( ) Bella Pelle Vol.3 No.1 2018–236 36( )36( )

仕上サイズデータ 登録275210左アキ

275210左

天地左右アキ

DIP

制作

4課 

9K

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