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JETI 77 Vol.58,No.2(2010) ダイセル・エボニックは,1970 年にダイセル化 学工業社とドイツのヒュルス社(現:エボニック デグサ社)との合弁企業として,ヒュルス社が世 界に先駆けて商業販売を開始したポリアミド 12 (PA12,あるいはナイロン12とも呼ぶ)を日本及 びアジア市場で拡販するために設立された。当社 は,その後ヒュルス社が社名を数度変更したのに 合せて,ダイセル・ヒュルス,ダイセル・デグサ を経て,2008 年 1 月からはダイセル・エボニック となり現在に至っている。 ダイセル・エボニックは,第1表のようなエボ ニック デグサ社の製品を輸入販売,あるいはニー トレジンを輸入し,これを原料としてコンパウン ドした樹脂ペレット,あるいは冷凍粉砕したパウ ダーを製造販売することで,輸入販売・コンパウ ンド会社として日本及びアジアで業績を伸ばして きた。 本稿では,ダイセル・エボニックの樹脂製品を 使用した自動車用途例,及び新規製品の超耐熱性 樹脂PEEK(ポリエーテルエーテルケトン),PPA (芳香族ナイロン),植物由来のPA610 (ポリアミ ド 610),部品販売となる PMI(ポリメタクリル ダイセル・エボニックの 自動車用材料の紹介 清水 琢已 (しみず・たくみ) ダイセル・エボニック㈱ エンジニアリングポリマー営業部 自動車・押出グループリーダー 取 扱 製 品 法 等 PMI(ポリメタクリルイミド)の硬質発泡 ROHACELL 軽量サンドイッチ構造のコア材 として提供 PEEK (ポリエーテルエーテルケトン) ベスタキープ 押出,射出,ブロー等 PPA (ポリフタルアミド) VESTAMID HT plus PA610 (ポリアミド 610) VESTAMID Terra HS PA12 (ポリアミド 12) ダイアミド,VESTAMID PA612 (ポリアミド 612) ダイアミド,VESTAMID PAE (ポリアミド 12 系エラストマー) ダイアミド,VESTAMID 透明ポリアミド トロガミド PMMA (ポリメチルメタアクリレート) PLEXIGLAS,PLEXALLOY PMMI (ポリメチルメタクリルイミド) PLEXIMID m PPE (変性ポリフェニレンエーテル) ベストラン 樹脂/ゴム直接接着用 共重合ポリアミド (CoPA) ベスタメルト ホットメルト接着等 PA12 パウダー ダイアミド,ベストジント 流動浸漬塗装,静電塗装 第1表 ダイセル・エボニックの製品一覧 自動車の材料技術

ダイセル・エボニックの 自動車用材料の紹介todo1104.sakura.ne.jp/takagi/test/daicel03/news_release/...Vol.58,No.2(2010) JETI 77 は じ め に ダイセル・エボニックは,1970年にダイセル化

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JETI 77Vol.58,No.2(2010)

は じ め に

 ダイセル・エボニックは,1970 年にダイセル化

学工業社とドイツのヒュルス社(現:エボニック

デグサ社)との合弁企業として,ヒュルス社が世

界に先駆けて商業販売を開始したポリアミド 12

(PA12,あるいはナイロン 12 とも呼ぶ)を日本及

びアジア市場で拡販するために設立された。当社

は,その後ヒュルス社が社名を数度変更したのに

合せて,ダイセル・ヒュルス,ダイセル・デグサ

を経て,2008 年 1 月からはダイセル・エボニック

となり現在に至っている。

 ダイセル・エボニックは,第1表のようなエボ

ニック デグサ社の製品を輸入販売,あるいはニー

トレジンを輸入し,これを原料としてコンパウン

ドした樹脂ペレット,あるいは冷凍粉砕したパウ

ダーを製造販売することで,輸入販売・コンパウ

ンド会社として日本及びアジアで業績を伸ばして

きた。

 本稿では,ダイセル・エボニックの樹脂製品を

使用した自動車用途例,及び新規製品の超耐熱性

樹脂 PEEK(ポリエーテルエーテルケトン),PPA

(芳香族ナイロン),植物由来の PA610(ポリアミ

ド 610),部品販売となる PMI(ポリメタクリル

ダイセル・エボニックの自動車用材料の紹介

清 水 琢 已(しみず・たくみ)

ダイセル・エボニック㈱ エンジニアリングポリマー営業部自動車・押出グループリーダー

  取 扱 製 品 商 品 名 成 形 方 法 等

新 

製 

PMI(ポリメタクリルイミド)の硬質発泡体

ROHACELL 軽量サンドイッチ構造のコア材として提供

PEEK (ポリエーテルエーテルケトン) ベスタキープ

押出,射出,ブロー等

PPA (ポリフタルアミド) VESTAMID HT plus

PA610(ポリアミド 610) VESTAMID Terra HS

従  

来  

PA12 (ポリアミド 12) ダイアミド,VESTAMID

PA612 (ポリアミド 612) ダイアミド,VESTAMID

PAE (ポリアミド 12 系エラストマー) ダイアミド,VESTAMID

透明ポリアミド トロガミド

PMMA (ポリメチルメタアクリレート) PLEXIGLAS,PLEXALLOY

PMMI (ポリメチルメタクリルイミド) PLEXIMID

m - PPE (変性ポリフェニレンエーテル) ベストラン 樹脂/ゴム直接接着用

共重合ポリアミド (CoPA) ベスタメルト ホットメルト接着等

PA12 パウダー ダイアミド,ベストジント 流動浸漬塗装,静電塗装

第1表 ダイセル・エボニックの製品一覧

自動車の材料技術

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イミド)の硬質発泡体の「ROHACELL」を中心

にご紹介する。

 1.自動車用途での採用状況

 1.1 PA12 及び PA612 について

 PA12 製の押出成形品・射出成形品は,古くか

らトラック・バス用エアーブレーキ樹脂チューブ,

燃料配管用樹脂チューブ(写真1)とそのコネク

ター(写真2),各種ファスナー及びクランプ,

ABS ボビン等として自動車分野では広く採用さ

れている。

 ここ最近,自動車燃料配管分野では,バイオエ

タノール入り燃料の E10,E85,E100 へ対応でき

る材料,あるいはクリーンディーゼル車用の

RME(菜種油原料のバイオディーゼル燃料)等へ

対応できる材料の開発が安全面から急務となって

いる。ダイセル・エボニックはバイオエタノール

入り燃料用として,フッ素樹脂を内層にした多層

チューブ用 PA12 や低燃料透過を実現すべく

EVOH をバリヤー層とした多層チューブ用の

PA12 の開発を完了した。また,バイオディーゼ

ル燃料用としても高耐熱 PA12(または高耐熱

PA612),あるいは多層チューブ用 PA12 材料の開

発を行ってきており,既に多くの欧米自動車メー

カー,日系自動車メーカーで採用されている。

 次に,今のところ欧州自動車メーカーが主導し

ているが,高機能なカーナビシステム等の情報端

末に要求される情報伝達量の増大,あるいは電磁

波低減の有効策として MOST 仕様の POF(プラ

スチック光ファイバー)用の PA12 の採用が増え

てきている(写真 3)。

 1.2  変性 PPE(樹脂/ゴム直接接着用途)に

ついて

 ダイセル・エボニックでは,変性 PPE,PA612

など耐熱性に優れた樹脂からなる成型品と各種ゴ

ムとの直接接着技術(「K&K」と称す)を開発し

用途開拓を進めてきた。当 K&K 技術を採用する

ことにより,従来技術では欠かす事が出来なかっ

た接着材塗布,脱脂処理等の工程が不要となるた

め,大幅な工程削減が可能となりコストダウン効

果が期待できる。さらに,前処理・接着工程削減

により溶剤が不要となるため,今まさに求められ

ている環境に優しい技術としてよりニーズが高

まっている。第1図に,樹脂とゴムとの直接接着

技術を用いた自動車用途への採用例を示す。

 1.3 PMMA について

 エボニック レーム社は,1933 年以来 75 年間に

亘 り PMMA の 製 造 販 売 を 行 っ て お り,

「PLEXIGLAS」の名前で欧州をはじめ世界市場

で確固たる地位を築いてきた。当社では,特にユ

ニークな用途として,特殊カーボンブラックを配

写真 3 プラスチック光ファイバー

写真 2 燃料配管用クイックコネクター

写真 1 燃料配管用樹脂チューブ

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JETI 79Vol.58,No.2(2010)

合した高光沢ピアノブラック調の「NTA」グレー

ドを活用した非塗装内外装部品(例えば,ピラー

カバー,スポイラー,ミラーハウジング)の市場

開拓に注力している。当用途は欧州において,塗

装レス化による大幅なコストダウン,かつ環境に

優しい技術として既に数年の実績を誇っており,

さらに年々その採用が拡大している(写真 5,6)。

 1.4 PEEK について

 従来 PEEK 樹脂は,Victrex 社が唯一の供給

メーカーであったが,エボニック デグサ社は 2007

年4月に2社目の供給メーカーとして市場参入し

た。自動車業界においては CO2 の排出削減に直接

繋がる燃費改善のための軽量化が強く求められて

おり,今後ますます金属代替のための樹脂化が進

むものと期待されている。他方では自動車の耐久

性向上,長寿命化も強く求められておりプラス

チックスに関してもより信頼性の高い高機能材料

が求められている。PEEK 樹脂「ベスタキープ」

により,高耐熱性,高剛性,高温での高い摺動性

の要求される分野で貢献していきたい。第2図に

「ベスタキープ」による各部品の軽量化,機能性

アップを提案したい。

 1.5 PPA について

 2008 年にエボニック デグサ社が「VESTAMID

HT plus」として開発上市したのを受けて,ダイ

第1図 樹脂/ゴム直接接着技術を用いた自動車への採用例

写真 5 ピラーカバー及びミラーカバー

写真 6 リヤースポイラー

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80 JETI Vol.58,No.2(2010)

セル・エボニックでも日本市場での販売を開始し

た。「VESTAMID HT plus」の特徴は,ガラス転

移温度が 126℃とナイロン樹脂中最も高く耐熱性

に優れること,かつ高強度であることである。ガ

ラス繊維強化グレード,難燃グレード他を用意し

ている。また,前述の K&K 技術を応用したゴム

との直接接着グレードもラインアップしており,

高耐熱・高い薬品性を持つ複合部品として自動車

用途への採用に向けてアピールを行っている。さ

らに,最近はグループ会社のダイセルポリマー㈱

の長繊維強化技術を応用した高導電性タイプも上

市し,紹介活動をスタートした。

 1.6 PA610 について

  「VESTAMID Terra HS」(PA610)は,2009

年からエボニック デグサ社の上海工場で製造開

始し上市した新しい製品である。原料に植物由来

のセバシン酸を 62%使用したバイオポリマーで

ある(第3図参照)。

 「VESTAMID Terra HS」の特徴は,物性は

PA612 に非常に近く,価格が安いことから,

PA612(あるいは PA12)の代替用途として期待さ

れている。

 また,PA12 同様に低吸水で,寸法安定性の良

いことから,PA6,PA66 の用途においても補完

的な役割が期待されている。

 1.7 「ROHACELL」について

 「ROHACELL」は,PMI 製の硬質発泡体であ

り,密度が 0.05 ~ 0.11g/cm3 と非常に軽く,硬い

ため,通常は軽量サンドイッチ構造のコア材とし

て 使 用 さ れ る。 第 4 図 に 示 す 通 り 表 皮 層 /

第2図 PEEK 樹脂の自動車用途における採用可能性部位

N N

O6 8 O

n

H H

植物由来成分

第3図  PA610 の構造式

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JETI 81Vol.58,No.2(2010)

ROHACELL/ 表皮層のサンドイッチ構造部品と

して,特に自動車の構造部材の軽量化に顕著な貢

献ができるため大いに有望視されている。

欧州自動車メーカーでは床構造材として,フロ

アベースパネル,サイドシルパネル,トンネル,

フロントパネル,また,ボンネット,モノコック

ボディー等に多数の採用がなされてきたが,去年

遂に日系大手自動車メーカーのスポーツカーにも

採用が決定し,いよいよ日本市場においても

「ROHACELL」が爆発的なヒットを生むのではな

いかと期待している(写真 7)。

 2.まとめと今後の課題

 上記の通り,本稿ではダイセル・エボニックの

樹脂材料,樹脂製部品の自動車用途における採用

例を中心に紹介を行ったが,地球温暖化防止の観

点及び石油資源の枯渇防止の観点から今後も自動

車の軽量化のための樹脂化へのニーズはますます

強くなることと予想される。他方では“もったい

ない”の言葉がひろまっているように使い捨ての

時代が終焉しつつあり,自動車においても今後さ

らに耐久性の改善,耐用年数の向上が求められて

いくであろう。そのような環境の中,金属の置換

えによる軽量化要請やコストダウン要請にお応え

できる信頼性のより高い高機能プラスチック材

料,環境負荷の低減に貢献できる新規技術への要

請がますます増えていくものと考えられる。

 ダイセル・エボニックでは今後も引続き時代の

ニーズを先取りした新しい材料・技術を開発し市

場投入をすることで,自動車産業の発展に貢献し

て行きたい。

〔問合せ〕ダイセル・エボニック㈱

エンジニアリングポリマー営業部

東京 TEL 03 - 5324 - 6332

大阪 TEL 06 - 6342 - 6712

[email protected]

写真 7 ロハセルの採用部位例

top

ROHACELL

Bottom第4図 サンドイッチ構造の例

 東レと東レセハン(韓国ソウ

ル市,TSI)は,中国で高機能

ポリプロピレン長繊維不織布

(PP スパンボンド)事業を展

開している東麗高聚化(南通)

有限公司(TPN)に年産 2 万 t

の設備を増設する。投資額は約

50 億円で新規設備は 2011 年 3

月の稼働開始をめざす。増設後

の TPN 社の生産能力は年産 3

万 8,000t となる。

 東レグループの PP スパンボ

ンド事業は,韓国の TSI 社で

年産約 5 万 t 規模の設備を有し

ている。一方,中国の TPN 社

は中国の急速な需要拡大が見込

まれる衛生材料やメディカル用

途向け,PP スパンボンドを中

国国内で供給するため,2006

年 11 月に設立し,2008 年 2 月

から稼働を開始し,現在ではフ

ル生産の状況が続いている。

今回の増設に伴い,TPN 社は

既存設備を含めると年産 3 万

8,000t となり,TSI 社の同 5 万

t を加えると東レグループ全体

で同 8 万 8,000t となる。

 東レ

中国での高機能ポリプロピレン長繊維不織布を増強

■トピックス                                       ■