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セルロース及びキチンナノファイバー分散液の水熱ゲル化に よる高強度ハイドロゲル調製 誌名 誌名 応用糖質科学 ISSN ISSN 21856427 著者 著者 長田, 光正 巻/号 巻/号 9巻3号 掲載ページ 掲載ページ p. 172-176 発行年月 発行年月 2019年8月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

セルロース及びキチンナノファイバー分散液の水熱ゲル化に ...処理(1 60~200 圧力0.6~1.6 MPa, l.5 ~120 min) することで,高強度のハイドロゲル(圧

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セルロース及びキチンナノファイバー分散液の水熱ゲル化による高強度ハイドロゲル調製

誌名誌名 応用糖質科学

ISSNISSN 21856427

著者著者 長田, 光正

巻/号巻/号 9巻3号

掲載ページ掲載ページ p. 172-176

発行年月発行年月 2019年8月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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応用糖質科学第 9巻 第3号 172-176(2019) 至j~~gProduction of Self-sustaining Hydrogels by Hydrothermal Gelation of Cellulose and Chi-

tin Nanofiber Dispersions*

セルロース及びキチンナノファイバー分散液の水熱ゲ

ル化による高強度ハイドロゲル調製*第7目i凋隠貨フレッシュシンボジウム

1信州大学繊維学部化学 ・材料学科

長 田 光 正 ( お さ だ み つまさ)1,* *

1 Department of Chemistry and Materials, Faculty of Textile Science and Technology,

Shinshu University

Mitsumasa Osada 1・* *

要旨: セルロースやキチンを原料とした材料づくりでは,自然界での生合成による微細構造や化

学構造を活かすことが重要である.近年,医療材料などの分野で高生体親和性かつ高強度のハイ

ドロゲルに注目が集ま っており, セルロースやキチンはその原料として有望である.従来の高強

度ハイドロゲル調製法では, 化学的架橋剤の派加,電解質の混合,塩酸への浸漬など第 3成分の

添加が必須とされていた今回紹介する水熱ゲル化は,前記のような添加物を一切使用せずに,

自然のセルロースの化学構造を維持したままの新しいハイドロゲル調製法であるまずウォー

タージェットを用いた湿式解繊により,水だけを用いてセルロースナノファイバー (CNF)(直径

!0~15 nm, 長さ 500~1,500 nm, 濃度 1wt%)を調製したさらに,その CNF分散液を,水熱

処理 (160~200℃ 圧力 0.6~1.6MPa, l.5~120 min)することで,高強度のハイドロゲル (圧

縮弾性率~7kPa)を調製したさらに水熱ゲル化は,キチン ナノファイバーや化学修飾された

TEMPO酸化 CNFにも適用可能であることも明らかにした.

キーワード: バイオマス,ナノファイバー,水熱処理,嵩温高圧水,ハイドロゲル

1. はじめに

植物や外骨格を有する動物は外部環境からの機械的応力

や化学的変性から自身の体を保護するため,基本骨格とし

て糖鎖を規則的に配列させたナノファイバー (NF)を利用

している 1-J)_ 植物界と動物界の両方で,長い進化の歴史の

中で NF構造を選択したことから,結晶性多糖の NFには

数多くの優れた特性があるのだろうこの生物の進化が導

き出した最適解である NFを,人類が活用できれば材料

工学の分野での革新が期待できる

セルロースは,高等植物の細胞壁中で多くの分子内・ 分

子間水素結合によって配列し,高結晶性のセルロースナノ

ファイバー (CNF)を形成しているl)_CNFは高強度 ・高生

体親和性を有し,その活用が期待されている CNFは

トップダウ ンの解繊処理によって作製され,水に均一分散

した状態で得られるが,水中で NF同士が単に絡み合った

状態であり,チクソトロピーの性質を示し流動性がある.

一方で,細胞培養の足場材料や植物の培地として利用する

ならば,流動させないため, NF間を架橋し形状を保つ高

強度のハイドロゲルヘの変換が望ましい NFを用いた従

来の高強度ハイドロゲル調製法では, 化学的架橋剤の添

加•>. 電解質の混合叫塩酸への浸漬6)など,第 3成分の添

加が必須とされていた しかし問題点として,架橋剤や電

解質,塩酸の残存が,細胞培養などでハイドロゲルを用い

る際の悪影響となる可能性がある .これに対 し,本稿では

セルロースやキチンの NF分散液に水熱処理を行うだけで

ゲル化が達成できることを紹介する 7--9). 本手法は架橋剤な

どを使用しない,水とセルロースやキチンしか用いないゲ

ル化であり,生体由来の NFが有する高強度と生体親和性

を活かす ことが可能である.

2. ウォータージェットによるセルロースのNF化

図 1は,本研究で CNFゲルを得るために用いた湿式粉

砕と水熱ゲル化プロセスを含む手順を示している .CNF

分散液は湿式解繊プロセスであるスターバース トミニ (ス

ギノマシン製)を用いて調製した10-13). 微結晶セルロース粉

末 (平均粒子サイズ 28μm,日本製紙製)を水中に 1wt¾

で懸濁させた液を 245MPaまで加圧し,直径 100μmのノ

*本原稿は,日本応用糖質科学会第 7回応用糖質フレ ッシュシンポジウム (2018)で一部発表された

**連絡先 (Tel.0268-21-5458, Fax. 0268-21-5391, E-mail: [email protected])

***Key words: Biomass, Nanofiber, Hydrothermal treatment, High-temperature and high-pressure water, Hydrogel

略記: NF, nanofiber; CNF, cellulose nanofiber; TEMPO, 2,2,6,6-tetramethylpiperidine 1-oxyl; FE-SEM, field emission

scanning electron microscope; AFM, atomic force microscope; XRD, X-ray diffraction; FT-IR, Fourier-transform in-

frared; SEC, size exclusion chromatography.

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長田:セルロース及びキチンのナノファイバーの水熱ゲル化 ◆ 173◆

ズルから噴射するこのとき,懸濁液の速度はマッハ 2と

なり,セラミックボールに衝突する.衝突時のエネルギー

やキャビテーションによって解繊される出カエネルギー

が大きいため,中性条件であってもセルロース粉末を NF

へと解繊が可能であるまた大型機では,加圧ピストン 2

台が交互に動作することで連続的に解繊処理が可能とな

り,毎時千 リットルの NF分散液を作製できる.セラミッ

クボールヘの衝突回数により解繊度合いが変わり,本研究

では衝突回数は 5-100回(これ以降 passと呼ぶ)とした.

図 2にCNF分散液 (濃度 1wt%)の物性に及ぽす pass

回数の影聾を示す. CNF分散液の透過率 (固 2A) と貯蔵

弾性率 (図 2(B))はpass回数の増大とともに増大したこ

れは図 2(C)に示す NF径 (FE-SEM観察による)の減少に

由来し,細い NF径は網目構造をより均ーにし,光の多重

散乱を阻害するため,透過率が増大するまた NF径が細

くなると NFの数は増大するため, NF同士はより多くの

絡み合い点を持ち,貯蔵弾性率が増大する .NF長さ (図

2D, AFM観察による)も pass回数にともない減少した.

解繊プロセスは蒸留水だけを用いた中性条件で行われてお

り,酸 ・塩基触媒は分散液中に存在しないためセルロース

の加水分解は進行しない.加えて,スターバーストによ っ

て与えられる運動エネルギー 18.lkJmol・' と見積もられて

おり,これは共有結合エネルギーより明らかに小さい.後

述する分子量測定の結果より,セルロース高分子 1本の長

さは CNFよりも短い. よって CNFを構成するセルロース

高分子同士が引き裂かれて,平均 CNF長は減少したと考

えている

3. CNFの水熱ゲル化

水熱ゲル化の手順は次の通りである (図 1). CNF分散

液 3mLを内容積 6tnLのステン レス製回分式反応器に導

入した水熱処理は,予め 160℃ に設定した溶融塩炉に

反応管を浸漬することで開始した 160℃での反応管内部

の飽和蒸気圧は計算より 0.62MPaである反応管内部の

温度は熱電対を直接挿入する こと で測定した.加熱時間

は, 7-120minである加熱時間の経過後,反応管を溶

融塩炉から取り出し, 25℃ の水を溜めたバケッで冷却し,

ゲル化を停止した作製したハイドロゲルを金網上に回収

し, ピペッ トを用いて少量の蒸留水で洗浄した後シャー

レ上に回収した

CNF分散液 (濃度 1wt%, 50 pass)を 160℃ で水熱処理

したところ,加熱時間 7min以上で仕込み体積 3mLと同

じ円柱型を保ち,自立可能な強度のハイドロゲルが得られ

口三,tCellulose powder

0 Entanglement points Reactor

I .、、 'Material:SUS316

Reactor volume: 6 ml

CNF dispersion: 3 ml

Concentration: 0.1-3 wt.%

Disintegration times 5-100 passes

Nozzle Collision Cellulose Dia. 100μm Cavitation

Wet pulverization

(Star Burst Mini)

図 1. 高強度セルロースハイドロゲルを調製するための湿式と水熱ゲル化の手順

nanofiber

(CNF dispersion)

Molten-salt bath

(KN03-NaN03)

Temp.: 160℃

Time: 7-120 min

Tap water

Temp.: 25℃

0 Adhesion points

ご= CNF hydrogel

(I)ウォータージェッ トを用いた湿式解繊によるセルロース粉末の NF化,(2)高温高圧対応のステン レス製反応器を用いたCNF分散液の水熱ゲル化 (3)得られた CNFハイドロゲルの外観 Reprintedwith permission from ref. 7). Copyright (2019) American

Chemical Society.

(A) (B)

q

0

5

0

5

0

5

0

3

2

2

1

1

苓~]a3uen1 E sue」」.

I ro 120

0 Cl.. ~.

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号 80

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~20 10

.8 Cl) 0

0 20 40 60 80 100120

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25

I゚ 120 I゚。゜゚吾s: 15~ ゜゚LL z

0 20 40 60 80 100120 ゜10

0 20 40 60 80 100 120

(D)

1500

゜゚

10

300100900700

1

1

[E u] 4l5ua1 LLZ ゜ ゜

Disintegration times[-] Disintegration times[-] ・ Disintegration times[-]

図2. セルロースナノファイバー分散液 (Iwt%)の性状に及ぼす解繊回数の影評

(A)透過率 (波長入=600 nm), (B)貯蔵弾性率(各周波数 1.26s・'), (C)セルロースナノファイバーの数平均径, (D)セルロースナノファイバーの数平均長 図2(A)と2(B)中のエラーバーがある点は, 3回測定した標準偏差を示している Reprinted with per-

mission from ref. 7). Copyright (2019) American Chemical Society.

500 0 20 40 60 80 100120

Disintegration times [-]

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◆ 174◆ 応用糖質科学 第 9巻 第 3号 (2019)

水熱処理前の分散液と同じ体積を維持しており,ハイ

ドロゲルの固体分濃度も 1wt%であることを確認した

まり形状や濃度を維持したままゲル強度だけが増大するこ

とができた.

CNFゲルの透過率に及ぽす加熱時間の影響を図 3(A)に

示す.透過率は加熱時間とともにわずかに減少したが,こ

れは図 3(B)に示す NF径の増大によるものである. NF径

は加熱時間とともに約 1.5倍に増大し,これは水熱処理に

よって 2本の NF同士が接着し, 三次元網目構造が発達し

たことを示している .NF径の増大は光を散乱させ,低い

透過率になったと考えている

CNFハイドロゲルを乾燥させて測定した XRDパターン

は,水熱処理前の CNF分散液を乾燥させて測定したもの

とおよそ一致 した. FE-SEM観察から, セルロースのナノ

ファイバー構造は水熱処理後も保たれていたため,結晶構

造は著しく破壊 (加水分解)されていない こと がわかっ

たこの結果から CNFのゲル化は溶解につづく再結晶で

進行しておらず, NF間の相互作用で進行していることが

わか る水熱ゲル化前後でセルロースの結晶化度の増大は

なかっ た微結晶セルロー スは非結晶性領域が少ないた

水熱処理後のアニーリング現象が生じなかったと考え

ている結晶面間隔 (d値)も 変化 しなかった結晶子サ

イズは水熱ゲル化後に微増し, これは NF同士の接着を反

映したものと考えている

CNFハイドロ ゲルを乾燥させて測定した FT-IRスペク

トルは,原料の CNF分散液を乾燥させたものとおよそー

致していた この結果から,水熱処理によってセルロース

の化学的構造は変化していないことがわかった

図4(A)に,サイズ排除クロマトグラフィ (SEC)分離

と光散乱を組み合わせて測定した CNFゲルの数平均重合

度 DPnと重量平均重合度 DPwを示す.溶出体積と規格化

した質量分率と分子量の関係を図 4(B)に示す.両者の重

合度は加熱とと もにわずかに減少した溶出パターンは,

加熱時間と ともに低溶出体積側の高分子量体の割合が減少

し,一方で高溶出体積側の低分子量体の割合が加熱時間と

ともに増大したさらに分子量プロッ トは溶出体積に対し

め,

(1io゚30 60 90 120 150 0 30 60 90 120 150 Heating time [min] Heating time [min]

セルロースナノファイバー分散液 (Iwt%, 50 pass)から得られるハイドロゲルの性状に及ぽす水熱処理時間の影響

(A)透過率(波長入=600 nm), (B)セルロー スナノファイバーの数平均径加熱時間 0minはセルロースナノファイバー分散液の値を示している. Reprinted with permission from ref. 7).

Copyright (2019) American Chemical Society.

262422201816

l

苓]aouernwsueJ」'

゜゚゜゜゜゜

て加熱時間に関わらず似た傾向を示した低溶出体積側で

のプロッ トが重なっていないが加熱時間に依存してい

ない

高分子の SEC分離は,分子量によってではなく,溶媒

中の流体力学半径によ って行われる 例え高分子が同じ流

体力学的半径を有していても ,光散乱法では高分子密度の

違いが検知できる もしヘミアセタールやエステル結合が

セルロース高分子間に水熱処理を通して形成される場合,

同じ流体力学半径でも 高分子密度は増大する.高分子密度

の増大がある場合,溶出体積に対する分子量プロッ トは上

側ヘシフトするが,今回はこのようなシフトを観察できな

かった(図 4(B)). このことから,セルロース高分子間に

化学的架橋が生じていないと結論付けた上述したFT-IR

の測定でも水熱ゲル化前後のスペク トルは一致していた,

以上より ,水熱処理を通して形成した CNFゲルは物理ゲ

ルであることを確認した CNFの DPnはおよそ 100であ

り,グル コー スユニッ トの長さは 0.518runと推定されて

いるため,セルロ ース高分子鎖の長さは 52runと推定さ

(A)

二!口□

o DP n □ DPw

゜゚小

250200150100500

[I]?

d

o」

oUdo

(B)

8

7

5

4

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UO!PBJJl46!8M p8Z!18 E」

O

N

0.6

0.3

0.2

0.1

口 □ 亡l

゜゚ ゜30 60 90 120

Heating time [min] 150

図3.6゚

-CNF

- 30 min

ー 7min - 15 min

ー 60min - 120 min

6 log (molecular mass

I

'])

5

4

3

ーー7 8 9 10 Elution volume [ml]

(A)セルロ ースナノファイバーハイドロゲルの数平均重合度 (DPn) と重最平均重合度 (DPw)に及ぼす水熱処理時間の影響 (B)溶出体積 (溶媒は LiCI/DMAc) と規格化した質量分率及び分子量の関係

Reprinted with permission from ref. 7). Copyright (20 I 9) Amen-

can Chemical Society.

図4

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長田 :セルロース及びキチンのナノファ イバーの水熱ゲル化

れる.図 2(D)に示した通り, 50passした CNFの長さは

730 nmであり ,少なくともセルロース高分子鎖 10個の長

さとなることがわかった.

水熱処理前の CNF内のセルロー ス高分子は,分子間水

素結合 とフ ァンデルワ ールスカで規則正しく配列してい

る水熱処理後の NF同士の接着界面では,いくらかのラ

ンダム性を持って配列していると考えているもし CNF

間の接着が水素結合によるものであれば,水素結合はその

結合距離が決まっているため, XRDで新たな結晶のピー

クが検出されるがそのようなビークは検出されなかっ

た したがって,NFの接着はファンデルワールスカや疎

◆ 175◆

(A)

水性相互作用によるものだと考えている水熱処理におい (B)

て,CNFの接着が生じた原因 として, ①溶媒である水分

子間の水素結合が水熱条件下で弱化することによ るCNF

間の疎水性相互作用の強化, ②水中での CNFの拡散速度

が水熱条件下で大きくなることによる CNF間の接触頻度

の増大,が挙げられるこれを実証するためのさらなる検

討 が必要である.

4. キチン NF及びTEMPO酸化セルロース

NFへの展開

上述の化学処理されていない純粋なセルロース以外の

NFでも ,水熱ゲル化は可能であ る.下記のキチン8,14i,

TEMPO 酸化セルロース NF•i, 硫酸処理で得られたセル

ロースナノクリス タル 15)が,近年報告されている.

キチンはカニ殻やイカ中骨などに含まれ,セルロースと

類似の化学構造であるが, 2位炭素の水酸基がアセトアミ

ド基になっている.このキチンの粉末を湿式解繊し,キチ

ンNFの分散液を調製し,それを水熱処理 (160-200℃,

-960 min)する ことでゲル化で きる ことを確認し てい

るりキチンを水熱処理しても,一定の温度と時間内では

化学構造が安定であるつまり,湿式解繊と水熱ゲル化の

組み合わせは,水しか用いないハイドロゲル調製法とし

て様々な多糖に応用展開ができることを示している.

また現在,セルロース由来の NFのうち日本国内で最も

工業的に大量生産されているものは, TEMPO酸化 CNF

である.セルロースを TEMPOにより触媒的酸化処理を行

うことで, 6位の炭素の 1級ヒ ロドキシ基のみを位置選択

的にカルボキシ基に変換できるこのカルボキシ基が負電

荷もち,セルロース同士の間に電荷反発が生じるため,超

音波ホモジナイザーなど軽微な解繊処理で NF化が可能で

ある叫 このTEMPO酸化 CNFの水熱処理を行ったとこ

ろ, 自立可能な強度のゲルを得ることができたり

また水熱ゲル化は,必ずしも固 lに示した小型のステン

レス製回分式反応器(内容積 6nlL)を用いる必要はなく,

高温高圧対応の反応器内 (200℃以下)で,任意の形状の

型に入れて処理すればハイドロゲルの形状は自在に変え

ることができる固 5に,築者らが所有するオートクレー

ブ (内容積 800mL)を用いて星や猫の形で作製したゲル

図5.TEMPO酸化セルロースナノファイバーの水熱ゲル化で得られたハイドロゲル

(A)星の形, (B)猫の形 Adaptedwith permission from ref. 9). Copyright (20 l 8) American Chemical Society.

を示す.このように任意の形状のゲルを作製できること

は,今後の応用を考える上で重要な特長である.

5. おわりに

セルロース及びキチンのハイドロゲルは,本来,それら

の物質と水のみからできていることが望ましい しかし,

水への分散性やゲル強度を向上させるため, 化学構造の一

部を変化させざるを得ないこと や,その過程で環境負荷の

大きな化学物質を用いるこ とが問題である本稿では,自

然界での化学構造を維持したまま水だけを用いたハイド

ロゲルの調製を紹介した今回紹介した水熱処理条件は,

従来のセルロースやキチンの粉末を対象と した条件と比較

すると低温 (200℃以下)であり ,従来,何の化学反応も

行らないとされてきた温度領域である.従来の水熱処理の

目的は,セルロースやキチンの無触媒下での加水分解であ

り, 300℃ 以上での検討が多い16-20)_ しかし, 200℃ 以下

でも NF同士の相互作用を変えるには十分な条件であるこ

とがわかったまた NF同士の相互作用を操作するという

目的では, 他の溶媒 (有機溶媒やイオン液体など)の利用

も考えられるが 目的とする生成物がハイドロゲルである

以上,溶媒は水であることが望 ましい今後の課題とし

て,ハイドロゲルの細胞培養の基材としての機能性は十分

明らかにな っていないため,その評価と用途開発を様 な々

分野の研究者や技術者が協力して進めていく必要がある

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◆ 176◆

謝辞

本研究は JSPS科研費 JP17 H 04893の助成を受けたもの

です.

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