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1 デンマークとスウェーデンにおけるマイナス政策金利 西本さおり 1 川野祐司 2 2013 1 1.はじめに デンマークの中央銀行であるデンマーク国立銀行(Danmarks Nationalbank / Denmark National Bank)は,2012 7 月に政策金利の一部をマイナスにした.同様の政策は,スウェー デンでも 2009 年から 2010 年にかけて実施されていた.通常,金利はゼロが下限であり,マイナ スにはならないという非負制約(Zero Lower Bound : ZLB)があると考えられている.しかし, 現実には様々な場面でたびたび観察されている.金利と一言で言っても様々な役割のある金利が 多々存在しているため,どの金利がマイナスになったのか,その発生原因や経済学的な意味はど こにあるのか,整理して考えなければならない.本稿で扱うのは,住宅ローン金利や企業の借入 金利といった一般的な経済活動からみて身近な金利ではなく,アクセスできる経済主体が限られ ているやや特殊な世界での金利である. 1970 年代以降に発生しているマイナス金利は 3 つに分けることができる. 第一は,短期金融市場でのマイナス金利である.日本では 2003 6 月に無担保コールレート の加重平均金利が初めてマイナスを記録した 3 .このようなマイナス金利は,為替スワップなどの 取引において比較優位を持つ主体が,スワップで手に入れた資金を運用する際にマイナス金利を オファーすることで発生する.当時の日本では,ジャパンプレミアムが上乗せされて比較劣位に あった邦銀に対して,比較優位にあった外銀が円資金の運用時にマイナス金利をオファーした 4 短期金融市場でのマイナス金利はこのような比較優位に基づく取引が原因となっている. また,欧州では債務危機の影響により,2012 年の夏,デンマークやドイツ,オランダで比較的 年限の短い国債の利回りがマイナスになるという事態が起きた.これも一部はスワップ取引が原 因であるが,その他にも,特定の債券に対する需要が急増したために,結果的に利回りがマイナ スになるケースも考えられる.これは,ポートフォリオのバランスを保つための緊急避難的な措 置であることも多い.特に 2012 年の欧州で見られたマイナス金利は,欧州の債務危機というイ ベントによって生じた特殊例であるともいえる. いずれにしても,このようなマイナス金利をもたらすのは外国の経済主体であることが多く, 1 慶應義塾大学大学院. 2 東洋大学. 3 コールレート(無担保翌日物)は 2003 6 25 日にマイナス 0.001%を記録したが,これは 市場の取引の平均値であり,個別の取引としては 2003 1 24 日にマイナス金利での取引が初 めて成立している. 4 例えば,外銀がスワップによるドルの供給で 1%の上乗せ金利を得ることができれば,運用の予 定のない円をマイナス 0.1%で運用しても差し引きで 0.9%の超過収益を得ることができる.この ような利益があれば,円を必要としていなくてもスワップを行うことが合理的となる.

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1

デンマークとスウェーデンにおけるマイナス政策金利

西本さおり1

川野祐司2 2013 年 1 月

1.はじめに デンマークの中央銀行であるデンマーク国立銀行(Danmarks Nationalbank / Denmark

National Bank)は,2012 年 7 月に政策金利の一部をマイナスにした.同様の政策は,スウェー

デンでも 2009 年から 2010 年にかけて実施されていた.通常,金利はゼロが下限であり,マイナ

スにはならないという非負制約(Zero Lower Bound : ZLB)があると考えられている.しかし,

現実には様々な場面でたびたび観察されている.金利と一言で言っても様々な役割のある金利が

多々存在しているため,どの金利がマイナスになったのか,その発生原因や経済学的な意味はど

こにあるのか,整理して考えなければならない.本稿で扱うのは,住宅ローン金利や企業の借入

金利といった一般的な経済活動からみて身近な金利ではなく,アクセスできる経済主体が限られ

ているやや特殊な世界での金利である. 1970 年代以降に発生しているマイナス金利は 3 つに分けることができる.

第一は,短期金融市場でのマイナス金利である.日本では 2003 年 6 月に無担保コールレート

の加重平均金利が初めてマイナスを記録した3.このようなマイナス金利は,為替スワップなどの

取引において比較優位を持つ主体が,スワップで手に入れた資金を運用する際にマイナス金利を

オファーすることで発生する.当時の日本では,ジャパンプレミアムが上乗せされて比較劣位に

あった邦銀に対して,比較優位にあった外銀が円資金の運用時にマイナス金利をオファーした4.

短期金融市場でのマイナス金利はこのような比較優位に基づく取引が原因となっている. また,欧州では債務危機の影響により,2012 年の夏,デンマークやドイツ,オランダで比較的

年限の短い国債の利回りがマイナスになるという事態が起きた.これも一部はスワップ取引が原

因であるが,その他にも,特定の債券に対する需要が急増したために,結果的に利回りがマイナ

スになるケースも考えられる.これは,ポートフォリオのバランスを保つための緊急避難的な措

置であることも多い.特に 2012 年の欧州で見られたマイナス金利は,欧州の債務危機というイ

ベントによって生じた特殊例であるともいえる. いずれにしても,このようなマイナス金利をもたらすのは外国の経済主体であることが多く,

1 慶應義塾大学大学院. 2 東洋大学. 3 コールレート(無担保翌日物)は 2003 年 6 月 25 日にマイナス 0.001%を記録したが,これは

市場の取引の平均値であり,個別の取引としては 2003 年 1 月 24 日にマイナス金利での取引が初

めて成立している. 4 例えば,外銀がスワップによるドルの供給で 1%の上乗せ金利を得ることができれば,運用の予

定のない円をマイナス 0.1%で運用しても差し引きで 0.9%の超過収益を得ることができる.この

ような利益があれば,円を必要としていなくてもスワップを行うことが合理的となる.

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マイナス金利の影響が及ぶ範囲が特定の金融商品に限定されることが多い. 第二のマイナス金利は,中央銀行が政策金利をゼロ以下にまで引き下げることで生じる.スイ

スでは 1970 年代に政策金利の一部がマイナスとなった5.また,本稿で扱うデンマークとスウェ

ーデンのケースもこれに当てはまる.中央銀行は金融調節の手段として,公開市場操作,常設フ

ァシリティ,最低準備預金制度を持っている.このうち,公開市場操作で用いられる金利が最も

重要な政策金利として位置づけられていることが多いが,常設ファシリティで設定されている金

利も政策金利であり,近年の中央銀行は複数の政策金利を持っていることが多い.デンマークや

スウェーデンの常設ファシリティでは,超過準備に付利される預金金利や中央銀行から市中銀行

が借り入れを行う際に適用される貸出金利が設定されており,このうち預金金利がマイナスにな

った. 第三は,市中銀行の預金金利に発生するマイナス金利である.これはアメリカやカナダ,スイ

スで見られる現象である.アメリカの銀行であるステートストリート(State Street Corporation)とバンクオブニューヨークメロン(The Bank of New York Mellon Corporation)は,デンマーク

クローネ建てとスイスフラン建ての一部の預金にマイナス金利を適用するという計画を 2012 年

10 月に公表している.その動きを追随するかたちで,カナダ最大の銀行ロイヤルバンクオブカナ

ダ(Royal Bank of Canada)も両国通貨を保有する一部の顧客にマイナス金利を導入する旨を発

表した. また,スイスではUBS(Union Bank of Switzerland)やクレディスイス(Credit Suisse)が

一部の預金金利をマイナスにしている.UBSは金融機関向けの決済口座で 2012 年 12 月 21 日よ

りスイスフラン建て預金から手数料を徴収する決定を下した.このような手数料の形でのマイナ

ス金利導入の要因として,スイスフランへの資金流入が続いたために預金量が大幅に増えている

一方で,低金利で運用が難しいスイスフランの持ち高を減らす目的が挙げられている.スイスフ

ランはドルやユーロに対し急激に増価したため修正措置を取る必要が有り,UBSは顧客の現金口

座に対し手数料を請求することとなったのである.また,クレディスイスは,銀行間の取引に利

用されるスイスフラン建ての預金にマイナス金利を適用した6.クレディスイスのマイナス金利導

入の背景には,中央銀行であるスイス国立銀行(Swiss National Bank)の低金利政策がある.

ユーロ地域(euro area)での債務危機が深刻化する中,安全資産とみられるスイスフランへの需

要が急増していた.スイス国立銀行は,スイスフラン高を防ぐために政策金利をほぼゼロに引き

下げている(図表 1-1(右)).また,多量の資金が流入しスイスフラン高が大幅に進んだ 2011年 9 月,スイス国立銀行は 1 ユーロ=1.20 スイスフランを維持するために無制限に介入する政策

を導入した.低金利政策の影響で運用益が得られなくなったスイスの市中銀行は,顧客である金

融機関にマイナス金利を適用したのである.実際に,長期金利は 0.4%を下回っており,スイスフ

ランを多く抱える銀行は運用益を確保できない状態にあった(『日本経済新聞』2012 年 12 月 11日). 5 スイスは 1972 年 7 月,資金流入抑制のための課税としてマイナス金利をスイスの銀行への新規

在外預金に適用した. 6 スイスフラン建ての現金決済口座をもつ市中銀行が対象となっており,一定額以上の残高があ

る場合に限られている.そのため一般の個人顧客には影響がない.このマイナス金利は,2012 年

12 月 10 日より適用されている(『日本経済新聞』2012 年 12 月 4 日).

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図表 1-1 スイスフランの対ユーロレート(左)と政策金利(%,(右))

(出所)データはスイス国立銀行ホームページ. クレディスイスによるマイナス金利導入は一時的にスイスフランの売り材料となった.マイナ

ス金利が適用されることによりスイスフランで預金を保有するコストが高まったため,スイスフ

ランを手放す動きにつながったと考えられる.マイナス金利の導入が伝わった 2012 年 12 月 3 日

から 4 日にかけて外国為替市場でスイスフランは大きく売られ,対ユーロで 2 ヵ月半ぶりのスイ

スフラン安水準となった(図表 1-1(左)). このように,1970 年代以降のマイナス金利は 3 つあるが,このうち,第一のマイナス金利は発

生の原因や経済学的な意味づけの研究は盛んである.第三のマイナス金利は特殊な場面で発生し

ているものであり,その役割ははっきりしている.それらに比べて第二のマイナス金利は近年初

めて生じた現象であり,デンマークについて Jørgensen and Risbjerg (2012) のレポートがある

のみであり,スウェーデンのマイナス金利についてはオフィシャルレポートでもほとんど言及が

ない.政策効果などについての研究は緒に就いたばかりである. このような背景のもと,本稿では,スウェーデンとデンマークで採用されたマイナスの政策金

利の仕組みと効果についてみていく. 第 2 節では,一般的な金融調節の枠組みとマネーマーケットの仕組みについて,ユーロシステ

ム7を例に挙げながら見ていく.第 3 節と第 4 節ではそれぞれスウェーデンとデンマークの金融調

節の枠組みを見ていく.第 5 節ではマイナスの政策金利の効果を明らかにする.第 6 節は結論で

ある.2009 年から 2010 年のスウェーデンのマイナス金利は実効的な意味を持っていないが,デ

ンマークのマイナス金利はクローネの増価を止める効果があった.

7 ユーロシステム(Eurosystem)は ECB とユーロ参加中央銀行から構成されるユーロの金融政

策主体.

1.1950

1.2050

1.2150

1.2250

1.2350

1 EUR in CHF

0.00

0.02

0.04

0.06

0.08

0.10

0.123-Monats-Libor CHF

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2.金融調節の枠組みとマネーマーケット 本節では,中央銀行のバランスシートと流動性の管理に関する一般的な事項とマネーマーケッ

トについて,ユーロシステムとユーロのマネーマーケットを例にしながら述べる. ユーロシステムの金融政策の目標は物価安定の維持であるが,本稿の対象は金融調節であり,

物価安定の維持とは直接的な関係は低い.川野(2012)では金融政策を理解・分析するためのフ

レームワークである金融政策ストラテジーを用いているが,本稿はそのうちの金融政策運営-実

施面-戦術レベルを扱うことになる.金融政策は,オーバーナイト金利(以下,O/N 金利)に代

表される短期金利がより長期の金利に影響を及ぼし,それらが実体経済に浸透していくことで,

インフレ抑制などの最終的な目標の達成を目指す.このような金融政策の波及経路の中では,金

融調節を扱う戦術レベルの金融政策とマクロレベルの金融政策を扱う戦略レベルの金融政策はつ

ながっているが,戦術レベルの金融政策は流動性の管理という他の目的も含んでいるため分けて

考えなければならない. 中央銀行が市中銀行に対して提供する中央銀行当座預金は,市中銀行間の決済に用いられてい

る.本稿では単に当座預金と呼ぶことにするが,市中銀行が慎重(prudent)で健全(sound)な

経営をしていても当座預金が不足することがある.例えば,税金の支払日には民間から政府へ税

の支払いが生じ,当座預金が政府預金に振り替えられて銀行部門全体の当座預金残高が減少する.

この減少分を穴埋めするのも金融調節の役割のひとつであり,この場合は,中央銀行は当座預金

を必要な分だけ供給する.これは単なる技術的な問題であり,マクロ経済学でいうところの金融

緩和ではない.また,政府から民間への資金の移動があれば,これと逆の金融調節が行われるが,

当然ながら金融引き締めではない.このように,金融調節とインフレの推移などのマクロ面での

金融政策とは関係が無い. 図表 2-1 は 3 つの中央銀行のバランスシートであるが8,負債側は現金,当座預金,政府預金

の 3 つに大別できる.これらがそれぞれ,発券銀行,銀行の銀行,政府の銀行の 3 つの役割を表

している.中央銀行による金融調節が全くないときには負債側の合計額は変動せず,その内訳が

変わる.例えば,家計が市中銀行の預金を引き出して現金にすると,市中銀行は現金を手当てし

ようとして当座預金を現金に変換するため当座預金は減少する.このような要因は金融政策では

コントロールができず,自律的要因(autonomous factors)と呼ばれている.自律的要因は当座

預金量を変化させるため,そのままにしておくと銀行部門全体の当座預金が不足して,決済に必

要な当座預金量が確保できなくなる市中銀行が出てくる可能性が生じる.これを防ぐために,金

融調節が必要になる.自律的要因はクリスマスや年末,税の支払日など事前にある程度の日程や

規模が分かっている場合もあるが,外国為替介入のように事前に予測できない場合もある.

8 バランスシートの負債項目はその時々に導入されている金融政策によっても異なるため,一時

点だけのバランスシートを見て比較してもあまり意味はなく,時系列で観察する必要がある.こ

こではあくまでもバランスシートの見本として掲載している.

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図表 2-1 ユーロシステム,リクスバンク,デンマーク国立銀行のバランスシート(2012 年末) ユーロシステム(百万ユーロ)

資産 負債 項目 金額 項目 金額

金準備 外貨準備 金融調節による貸出 その他貸出 証券 その他資産

479,116 292,450

1128,794 225,764 585,152 307,213

流通現金 準備預金 (内訳 最低準備部分) その他の金融機関向け負債 政府預金 非金融機関向け負債 SDR その他 自己資本

913,677 915,849

(456,102) 6,796

108,228 238,529 56,243

693,325 85,552

合計 3,018,198 合計 3,018,198

リクスバンク(百万クローナ) 資産 負債

項目 金額 項目 金額 金準備 外貨準備 証券 その他資産

43,720 294,079

3,152 38,976

流通現金 準備預金 中銀証書発行 その他の金融機関向け負債 SDR その他 自己資本

96,441 26,153

2,998 88,568 22,505 45,859 63,207

合計 345,731 合計 345,731

デンマーク国立銀行(百万クローネ) 資産 負債

項目 金額 項目 金額 金準備 外貨準備 金融調節による貸出 その他貸出 クローネ建て証券 その他

19.4 465.7 66.4 3.2

34.2 37.7

流通現金 準備預金 CD 発行 政府預金 SDR その他 自己資本

65.8 102.6 184.1 162.0 13.5 30.2 68.4

合計 626.6 合計 626.6

(出所)各中央銀行ホームページ.

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市中銀行は当座預金を用いて決済業務を行うが,当座預金の過不足が生じると互いに融通しあ

う.この融通市場がマネーマーケットであり,特にオーバーナイト市場が金融調節との関係が深

い.融通の期間が長くなればなるほど,市中銀行は他の金融市場を考慮しながら取引を行うが,

オーバーナイトの取引では当座預金の融通という技術的な問題や金融調節,今後の政策金利の期

待によって取引が進められる.O/N 金利はイールドカーブの起点ともなる金利であり,金融政策

の波及経路の起点でもあるが,金融調節によってコントロールすることも可能である. 2-1.金融調節 中央銀行は金融調節の政策手段(instruments)として,公開市場操作,常設ファシリティ,最

低準備預金制度の 3 つを持っている.ユーロシステムもこの 3 つを備えているが,スウェーデン

とデンマークには最低準備預金制度がなく,デンマークには貸出ファシリティもない(図表 2-2).これらの手段により中央銀行は当座預金量を調節するという経路でO/N金利をコントロールする

ことができる.また,政策金利の設定や政策金利の変更に関するアナウンスにより,マネーマー

ケットの期待形成に働きかける経路でも O/N 金利がコントロールできる. 図表 2-2 各中央銀行の金融政策手段 ユーロシステム リクスバンク デンマーク国立銀行

公開市場操作

主要オペ 中長期オペ 微調整オペ 構造オペ

主要オペ 微調整オペ 構造オペ

週次オペ 月次オペ

常設ファシリティ 限界貸出ファシリティ 預金ファシリティ

貸出ファシリティ 預金ファシリティ

預金ファシリティ

最低準備預金制度 あり なし なし その他 中銀証書オペ CD オペ

(出所)ECB (2011), Sveriges Riksbank (2012), Danmarks Nationalbank (2009) より作成. 公開市場操作は,中央銀行が市中銀行に対して一定期間の資金貸出を行うものである.ユーロ

システムでは,貸出期間が 1 週間の主要オペ(Main Refinancing Operations : MRO),3 ヵ月の

中長期オペ(Long-Term Refinancing Operations : LTRO),不定期に実施される微調整オペと構

造オペがある.この中でも主要オペが最も重要な地位を占める. 主要オペは毎週行われるオペで,ユーロシステムは 1 週間の資金を市中銀行に貸し出す.その

際には担保が必要であり,市中銀行はユーロシステムが認めた適格担保と引き換えに資金を借り

入れることができる.ただし,市場価格(または評価価額)から一定部分を控除(これをヘアカ

ットという)した金額が担保として認められる.1 週間後には資金と担保はそれぞれ返却される

が,その際の金利が主要オペ金利であり,ユーロシステムの政策金利である.2012 年末現在では,

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ユーロシステムは主要オペを固定金利で実施しており,ユーロの O/N 金利である EONIA (Euro Overnight Index Average) は主要オペ金利付近で推移している. 多くの中央銀行では,市中銀行が中央銀行に持つ当座預金に利子をつける付利を実施している.

しかし,付利される金額には上限があり,それを超える部分には付利されないことが多い.そこ

で,市中銀行は余った当座預金の運用を考えなければならなくなる. 常設ファシリティは市中銀行が当座預金の過不足を調整するためのものであり,中央銀行は通

常,常設ファシリティの利用には制限をつけない.常設ファシリティには貸出ファシリティと預

金ファシリティがあり,ユーロシステムでもそれぞれ限界貸出ファシリティ(marginal lending facility)と預金ファシリティ(deposit facility)を設置している.ユーロの決済システム9は午前

7 時から午後 6 時まで稼働しているが,決済システムが閉まる 15 分前までには資金不足に陥った

市中銀行は限界貸出ファシリティにアクセスし,限界金利を支払って不足分の資金を調達する10.

一方で余剰資金がある市中銀行は預金ファシリティにアクセスして預金金利を得る.そのため,

常設ファシリティはO/N金利の上下限を画すことができる11. 最低準備預金制度は,マクロ経済学ではマネーサプライに影響を与えることができるという意

味で金融政策手段のひとつであり,市中銀行に最低限のバッファーを促すという点で金融システ

ムの安定性にも寄与するが,金融調節の面からみると,準備預金に対する構造的な需要を作り出

すことで金融調節の実効性を高める役割を果たしている.市中銀行は決められた期間に決められ

た一定額を当座預金に入金しておかなければならない12.そのため,一定額の当座預金を期間内

に中央銀行から調達しなければならないため,公開市場操作や常設ファシリティの利用が多くな

る.本稿で対象とするスウェーデンとデンマークには最低準備預金制度がないため,詳細な説明

は省略する.

9 ユーロの決済システムは TARGET2(Trans-European Automated Real-time Gross settlement Express Transfer system)であり RTGS(Real Time Gross Settlement)システムである. 10 ただし,最低準備預金制度で決められた積み最終日には,常設ファシリティのアクセス時間が

午後 6:15 まで延長される. 11 Bindseil (2004) 第 4 章によると,3 つの金融政策手段のうち,常設ファシリティが最も古くか

ら使われている.常設ファシリティは,いったん適切に設置されると中央銀行が日々の調節をし

なくても O/N 金利や当座預金量をコントロールできる. 12 必要な入金額の計算期間と実際に入金しておかなければならない期間との関係は,前積み方式,

準後積み方式,後積み方式の 3 つに分けられる.川野(2003)を参照のこと.また,積み期間中

は毎日同じ金額を入金する必要がないことが多く,市中銀行は積み期間中の金利の推移予想によ

って日々の入金額を調整する.

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図表 2-3 公開市場操作の比較 オペの種類 資金供給方法 資金吸収方法 満期 頻度 手続き

Eurosystem

Main Refinancing Operations Reverse transactions - 1 week Weekly Tender

Longer-term Refinancing Operations Reverse transactions - 1 month Monthly Tender

Fine-tuning Operations Reverse transactions FX Swaps

Reverse transaction Collection of fixed-term deposits FX Swaps

Non-standardised Non regular Tender*1

Structural Operations Reverse transactions Issuance of ECB Debt Certificates

Standardised or non-standardised

Regular and non- regular

Tender

Outright Purchases Outright Sales - Non regular Bilateral

Sweden

Main Operations Repos Credit

Issues (Riksbank Debt Certificates)

1 week Weekly Tender

Fine-tuning Operations Repos Credit FX Swaps

Issues (Riksbank Debt Certificates)

Overnight or non-standardised

Non regular Bilateral Tender

Structural Operations Repos Credit

Issues (Riksbank Debt Certificates)

Standardised or non-standardised

Regular and non- regular

Tender

FX Swaps Outright Purchases

FX Swaps Outright Sales

- Non-regular Bilateral

Denm

ark

Regular Open Market Operations Loans Certificates of deposit 7 days Weekly Open window

Extraordinary Open Market Operations Buy-back of certificates of deposit Sale of certificates of deposit - Non-regular Open window

Monthly Market Operations Loans - 6 month Monthly Open window

(注)*1:通常とは異なった方法(Quick tender)でかつ相対で実施される. (出所)ECB(2011),Sveriges Riksbank(2012),Danmarks Nationalbank (2009)より作成.

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2-2.マネーマーケット 市中銀行は最低準備預金制度で要求された金額を当座預金として保有しなければならない.最低準備

預金制度がないスウェーデンやデンマークでも,日々の決済に必要な金額を当座預金として保有してお

く必要がある.常設ファシリティがあれば余剰資金の運用や不足資金の調達が可能であるが,マネーマ

ーケットを用いた資金の融通も可能であり,多くの先進国では,中央銀行はできるだけマネーマーケッ

トの機能を損なわないように金融調節の仕組みを整えている. 一般的に,マネーマーケットは資金の運用期間が 1 年未満の市場を指す.有担保や無担保の資金貸借

という単純な形の取引だけでなく,スワップや FRA (Forward Rate Arrangement) など様々な商品が

取引されている.ここでは,金融調節に最も関係の深い,オーバーナイトの取引を例に考えてみよう. 図表 2-4 マネーマーケットからの資金調達

(注)取引に関係のない項目はすべて省略してある. 図表 2-4 では,B 銀行が A 銀行から資金を調達している.A 銀行は B 銀行に対して 200 の資金を貸

し出している.このとき,A 銀行では中央銀行に保有している当座預金が 800 から 600 に減少して B銀行への貸し付けが 200 増加する.B 銀行では当座預金が資産側で 200 増加するが同じだけ負債側でも

借り入れが 200 増加する.この取引では,中央銀行の当座預金をやり取りしているため,中央銀行のバ

ランスシートの中では A 銀行の当座預金がB 銀行に移っただけで,全体額は 1000 のまま変わりはない.

つまり,市中銀行がマネーマーケットで取引をしている限りは,その保有者が変わるだけで当座預金量

は変化しない.当座預金が変化するのは自律的要因の発生や金融調節が行われたときのみである.

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図表 2-5 資金調達の選択

図表 2-5 では,B銀行がマネーマーケットから 200 の資金を調達するケース 1 とユーロシステムの

限界貸出ファシリティにアクセスして資金を調達するケース 2 の比較を行っている.B銀行にとっては,

ケース 1 とケース 2 の選択はどちらの方がより低金利であるかによって選択が決まる13.O/N金利がユ

ーロシステムの貸出金利よりも高ければユーロシステムから調達するため,O/N金利は貸出金利よりも

高くなることはない14.ケース 1 では当座預金量は 1000 のままであるのに対して,ケース 2 では当座

預金量が 1000 から 1200 に増えており,中央銀行からみると金融調節が行われたことになる. 公開市場操作(ユーロシステムでは主要オペ)が実施される日には,公開市場操作による資金調達も

選択肢に入る.通常は主要オペ金利(=政策金利)の方が貸出金利よりも低いため,主要オペで資金を

調達しようとする.オペで調達した資金は 1 週間後に返却するが,それまでの間は,自行の当座預金の

資金量に応じて運用を行う.当座預金が余剰であれば,マネーマーケットで運用して O/N 金利を得たり,

預金ファシリティで運用して預金金利を得たりする.

13 ここでは,市中銀行は中央銀行から資金調達する際にインプリシットコストを考慮しない.なぜなら,

限界貸出ファシリティへのアクセスは,担保が必要という条件と主要オペ金利よりも高い貸出金利が必

要だという条件のみが課せられていて,中央銀行からのヒアリングなどのコストやマネーマーケットか

ら信用リスクが高いとみなされるコストがないためである. 14 ユーロの O/N 金利の EONIA は様々な取引の平均値であるため,個別の取引では金利が限界金利よ

りも高くなることがありうる.借入銀行の信用リスクが高い,担保の価値が低いなどの個々の状況に応

じて金利が決まるためである.

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3.スウェーデンの金融調節 3-1.スウェーデンの金融政策 スウェーデンの中央銀行,リクスバンク(Sveriges Riksbank)は 1668 年に誕生した最古の中央銀行

である.スウェーデン銀行法によると,リクスバンクの金融政策の目標は「物価の安定を維持する」こ

とである.リクスバンクはこの目標を低く安定したインフレを保つことと解釈しており,CPI インフレ

率を年率 2%近辺で維持することを具体的な目標としている.また,リクスバンクは安全かつ効率的な

決済システムを促進するという役割も担っている. スウェーデンは 1992 年の欧州通貨危機をきっかけに,ERM (European Exchange Rate Mechanism)

から離脱した15.インフレターゲティングを導入しているスウェーデンはインフレの抑制が最も重要な

目標であるが,2 月,7 月,10 月に発行される「Monetary Policy Report」では,低く安定したインフ

レ率の達成を通じて一般的な経済政策(持続可能な成長と高い水準の雇用)のサポートをすることがで

きるとしている.このような目標の設定の仕方はユーロシステムとほぼ同じものである16. リクスバンクでは,年に 6 回開かれる役員会(Executive Board)17で政策金利であるレポレート(repo rate)が決定される.リクスバンクは現在のレポレートだけでなく,今後のレポレートの推移について

も予測値を公表している.2012 年 12 月 18 日にレポレートが 1.25%から 1.00%に引き下げられたが,

将来のレポレート経路は,2013 年第 4 四半期に 1.1%,2014 年第 4 四半期に 1.8%,2015 年第 4 四半

期に 2.5%となっており,3 年後までの予想値が公表されている.このような将来のレポレートの経路

を公表するのはリクスバンクの特徴のひとつであり,イールドカーブの形成に影響を与えている. レポレートは以下の式のような損失関数を最小化させるものとして計算される.式の第 1 項はインフ

レギャップで第 2 項は GDP ギャップである.

� �π𝑡+𝑘,𝑡 − π∗�2𝑇

𝑘=0+ λ� �y𝑡+𝑘,𝑡 − 𝑦�𝑡+𝑘,𝑡

∗ �2𝑇

𝑘=0

15 当時,スウェーデンは自国通貨クローナを ECU(欧州通貨単位.後に 1ECU=1 ユーロとなった)に

ペッグさせていたが,欧州通貨危機の際にクローナは大幅に下落した.リクスバンクは貸出金利を 500%まで引き上げるという措置をとったが,結局ペッグを諦めフロート制に移行した. 16 Svensson (2011) は,失業率もリクスバンクの政策目標として事実上使われていると主張しているが,

このような主張は FRB のエヴァンス・ルールに大きく影響しているものと思われる.このテーマには,

中央銀行による金融政策が失業率をコントロールできるのか,中央銀行が根底に持っている経済モデル

は何かといったマクロ経済学的な問題だけでなく,単純な VAR モデルのような計量経済モデルで政策

評価が可能なのか,などの問題があるが,本稿の範囲を超えるのでここでは扱わない. 17 役員会は様々な背景,経験,知識を持った 6 人で構成されている.役員会のメンバーは 11 人で構成

される一般理事会(General Council)で任命される.政策決定の投票で過半数にならない場合には総

裁が決定権を持つ.議事録は約 2 週間後に公表される.詳しくは Hallsten and Tagstrom (2009) 参照.

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3-2.オペによる金利のコントロール リクスバンクは毎週火曜日に主要オペを行う他,必要があれば微調整オペを行う.これらのオペによ

り,マネーマーケット金利 STIBOR T/N((Stockholm Interbank Offered Rate))をコントロールして

いる.T/N (Tomorrow Next) は,取引日(T)の次の日(T+1)に資金を借り入れ,さらにその次の日

(T+2)に資金を返還する取引である.資金が運用されている期間は 1 日でオーバーナイトと同じであ

るが,取引日と資金の移動日が異なっているため,正確には O/N 金利ではない.しかし,これが事実上

のオーバーナイト取引として捉えられており,STIBOR T/N は O/N 金利と同じ役割を果たしている. 毎週火曜日の午前 9:30 に主要オペまたは中銀証書売買のアナウンスを行い,市中銀行は午前 9:45までに入札に参加する.その後,午前 10:00 に集計結果と落札額が公表される18.実際の資金移動は

次の日の水曜日に行われ,次の週の水曜日に反対取引が行われることでオペは終了する.市中銀行がオ

ペで資金を得るためには担保が必要であるが,スウェーデンでは適格担保はクラスが 1 から 4 まで分け

られている.ヘアカット率は個別の証券ごとに定められており,クラスが大きくなるにつれてヘアカッ

ト率が高くなるとは一概には言えない. リクスバンクは期間 1 週間19の中銀証書(Riksbank debt certificates)をレポの形で発行している.

中銀証書を保有している市中銀行は,これを担保にマネーマーケットで資金を調達することができる他,

中銀証書の購入オペに参加して資金を調達することもできる.中銀証書は通常,資金吸収のために用い

られ,中銀証書売却オペを行うと市中銀行は中銀証書を手に入れる代わりに当座預金残高が減少する.

中銀証書の金利はレポレートと同じである20.これとは別に,毎日微調整オペが実施される.1995 年に

導入された微調整オペは,午後 4:20 から午後 4:40 の間に実施されている.レポレートから±0.10%の幅で実施されており,T/N金利をレポレート付近で推移させるために行われている.つまり,市中銀

行はレポレートマイナス 0.10%で預金でき,レポレートプラス 0.10%で資金調達できる.微調整オペ

は資金貸出(または預金),レポ,FXスワップで実施されるが,通常は貸出または預金で実施される. スウェーデンではレポレート以外にも常設ファシリティの貸出金利と預金金利がある.そのため,レ

ポレートを中心に上側に貸出金利,下側に預金金利が設定されており,上下に対称的なコリダーが設定

されている.コリダーの幅はレポレートから見て±0.75%に設定されている.コリダーの幅は時々変更

されているが21,2000 年 12 月 6 日の役員会でこのコリダーはあくまでも金利の上下限を画すものであ

り,コリダーの上下限は金融政策のシグナルという解釈をしないことを決定している.その他には参照

金利(reference rate)がある.過去 6 ヵ月間のレポレートの平均を 0.5%刻みで表したものであり,こ

れは半年に 1 回(1 月 1 日と 7 月 1 日)更新される.参照レートは他の政策金利と並べて公表されるが,

政策金利としての役割は担っていない22.

18 Sveriges Riksbank (2005),後述する微調整オペのタイムテーブルも同資料より. 19 ただし,クリスマスや元旦がある 12 月の下旬には期間が 3 週間に延長される.また,2010 年春には

一時的に期間が延長された. 20 中銀証書は割引債の形で発行されるため,発行価格は償還価格よりも低い.その価格差が金利となる. 21 1990 年代には±1.00%や上下に非対称なときもあった.2009 年 4 月から 2010 年 7 月まではレポレ

ートが非常に低い水準だったため,コリダー幅は±0.50%であった. 22 レポレートは 1994 年 5 月までは限界レート(marginal rate),参照レートは 2002 年 6 月までは割

引レート(discount rate)と呼ばれていた.

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図表 3-1 スウェーデンのオペと常設ファシリティ

図表 3-1 の黒線はレポレートを表しており,赤線は常設ファシリティの 2 つの金利を表している.

レポレートが 1.00%であれば,上の赤線が 1.75%,下の赤線が 0.25%となっている.緑の線は微調整

オペの金利を表しており,レポレートが 1.00%の時,上の緑線は 1.10%,下の緑線は 0.90%を表して

いる.よって,スウェーデンは赤線で示される常設ファシリティによるコリダーと緑線で示される微調

整オペによるミニコリダーの 2 つのコリダーを持っていることになる.Nessén et al. (2011) は,リク

スバンクが微調整オペによって短期金利のコントロールを行っていることもあって金融調節の規模は

小さい(90 億クローナ程度,ただし,危機の時には約 100 倍になっていた)ことを指摘しているが,

図表 3-1 からもそれが理解できる.午後 4 時になり,決済システムの RIX が閉まる時間が近づくと,

貸出ファシリティよりも 0.65%有利な条件で微調整オペから資金を調達し,資金余剰があると預金ファ

シリティよりも 0.65%有利な条件で資金を運用できるため,常設ファシリティの利用は必然的に少なく

なる.また,主要オペに参加しなくても微調整オペで資金管理が可能になるため,主要オペの重要性も

小さくなる.第 5 節では,預金金利がマイナスになったケースを分析するが,預金金利がマイナスにな

っても微調整オペの下限金利がマイナスにならなければ政策の効果がないことが予想される. スウェーデンの決済システムはRIXと呼ばれ,RTGSシステムである.Nessén et al. (2011) によると,

RIXの決済額は 1 日あたり 5700 億クローナであり,スウェーデンのGDPの約 5 分の 1 に相当する.RIXの参加者は金融機関(credit institutions),投資信託,クリアリング機関,国家債務局(the Swedish National Debt Office)であり,このうち金融機関が金融調節のカウンターパーティとなる23.RIXの稼

働時間は午前 7 時から午後 5 時までであり,RIXが閉まる 30 分前には市中銀行が赤残を出さないよう

に常設ファシリティを使って資金を供給する.

23 ただし,アウトライト取引に関しては他のカテゴリーの機関もカウンターパーティになることができ

る(Sveriges Riksbank (2012), Terms and Conditions for RIX and monetary policy instruments, D.1.3 (d)).

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4.デンマークの金融調節 4-1.デンマークの金融政策 デンマーク中央銀行法に基づく,デンマーク国立銀行の金融政策の目標は,物価の安定(stable price),安全な決済(safe payments),安定した金融システム(stable financial system)の 3 つを達成させる

ことである.デンマークはERMⅡ24に参加しているため,ユーロとの為替レートを安定的に推移させる

ことが金融政策の目標として重要であり,法律では明記されていないが,事実上最も重要な目標になっ

ている. ユーロとデンマーククローネとの為替レートが固定されているため,デンマークの金融政策はユーロ

の金融政策に適応させる必要があり,政策金利はユーロの政策金利に連動することが多い.特に,後述

する貸出金利は,ユーロシステムの貸出金利と連動させるように決められており,クローネ相場が ERMⅡの中心相場から離れそうなときには,デンマーク側で貸出金利を調整させる.

Danmarks Nationalbank (2012b) は経済成長といった為替レート以外の問題は,金融政策の決定の

際に考慮されないとしている.そのため,次節でみるようにデンマークの金融調節では短期金利のコン

トロールよりも為替レートの安定性が重視され,短期金利の変動は為替レートが安定しているかぎりに

おいて許されることになる25.この点でデンマークは,ユーロシステムやスウェーデンとは全く異なる

システムを採用しているといえる. 4-2.金融調節の枠組み デンマーク国立銀行の金融政策のカウンターパーティは銀行と住宅信用機関である.また,外銀のデ

ンマーク支店も金融政策に参加できる.2008 年末時点でデンマークには約 150 の銀行があるが,その

うち銀行 113,住宅信用機関 5 が金融政策に参加している.デンマークの決済システムは KRONOS と

いうが,少額の決済は KRONOS を経由せずにコルレスバンキングが利用されている.公開市場操作で

当座預金を得る銀行は約 20 で,CD(Certificates of Deposit)を持っている銀行も 50 から 60 と言わ

れている.これらを本稿では,単に市中銀行としておく. デンマークでは,政策金利(current-account rate)の他に貸出金利(lending rate)と CD 金利

(Certificates of Deposit rate)がある.ただし,デンマークには貸出ファシリティはないため,市中

銀行がデンマーク国立銀行と相対で取引することになる.貸出金利と CD 金利は 2009 年 6 月 8 日まで

24 欧州為替相場メカニズムⅡ.1999 年のユーロ導入に伴い ERM から ERMⅡになった.デンマークは

1972 年には EU のスネーク制度に参加しており,ERMⅡ参加国は対ユーロの中心相場を設定し,その

水準から為替レートが一定幅以上変動しないように介入する義務を負っている.デンマークは 1999 年

より±2.25%の変動幅でクローネの対ユーロ相場を固定している.中心相場は 1 ユーロ=7.46038 クロ

ーネ. 25 Drejer et al. (2011) はデンマークの金融政策の波及経路を検討し,デンマークではバランスシート

チャネルや信用チャネルの影響は小さく,金利チャネルが有力だという結論を得ている.この結果から

は,デンマークは ERMⅡの枠組みを守るためとはいっても,金利の変動を自由に認めるわけにはいか

ないだろう.

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は等しかったが,市中銀行が中央銀行のファシリティよりもマネーマーケットでの資金調達を増やすよ

うになり,CD の保有を増やしたために,2 つの金利を分けることになった(Danmarks Nationalbank, 2009).なお,デンマーク国立銀行は割引金利(discount rate)も公表しており,通常は政策金利と等

しいが,これは金融政策のシグナルを表す役割を担っており,この金利に相当する金融政策手段がある

わけではない. 2012 年末現在では政策金利よりも貸出金利が高く,CD 金利が低くなっているためコリダーになって

いるように見えるが,デンマークはコリダーモデルを採用しているわけではなく,これまでは CD 金利

も政策金利よりも高く設定されていた.この CD 金利を 2012 年 7 月 6 日に,政策金利(2012 年 6 月 1日より 0.00%)よりも低いマイナス 0.20%に設定したことで政策金利の一部がマイナスになった. デンマークの金融調節は,当座預金とCDとの量的なコントロールによって行われている.デンマー

ク国立銀行は,市中銀行が持つことのできる当座預金の上限額を設定している26.市中銀行はその金額

を超える当座預金を持つことができず,余剰資金はCDに転換される.デンマークでは,午後 4 時から

翌日の午後 3:30 までが一日とカウントされるため,午後 3:30 から午後 4:00 がオーバーナイトと

なる.KRONOSは午前 7:00 から午後 4:30(ただし午後 3:30 から午後 4:00 を除く)の間稼働し

ているため,午後 3:30 の前までに資金不足となった銀行はマネーマーケットから資金を調達するか,

担保を差し出して貸出金利でデンマーク国立銀行から資金を調達しなければならない.当座預金は午後

3:30 を過ぎて赤残にすることができないためである. 毎週最終営業日(通常は金曜日)には公開市場操作が実施される.公開市場操作では,窓口方式(open window)が採られており,市中銀行は窓口が空いている間は自由に資金調達が行える.ユーロシステ

ムやスウェーデンのように入札は実施されず,無制限に資金が供給される.主要オペの期間は 7 日間27で

ある.同時にCDを売買するオペも行われる.CDにアクセスできるのは公開市場操作にアクセスできる

市中銀行のみであり,CDの売買も同銀行のみが可能である.そのため,CDを担保とした資金貸借では

担保に関する信用リスクはゼロとなる.もちろん,CDを担保とした資金取引によってマネタリーベー

スが変動することはない.市中銀行がCDを保有する理由は,自行の当座預金が赤残になった場合にデ

ンマーク国立銀行から微調整オペ(Extraordinary Open Market Operations)で当座預金を手に入れ

るためである.この操作はCDをデンマーク国立銀行に売り戻す方法で実施される.当座預金の余剰資

金は自動的にCDとなるが,CDの残高が非常に大きく,金融調節の中心にあることがデンマークの特徴

である.期間 6 ヵ月の長期オペ28も毎月最終週の金曜日に実施されているが,こちらは変動金利での資

金供給である.すなわち,毎週政策金利に相当する額の金利が課されることになるため,金利上昇局面

では支払うべき金利の額が徐々に増加する. デンマーク国立銀行がクローネ買い介入を行ったり,民間経済主体から中央政府への資金移動があっ

たりすると,市中銀行部門が全体として当座預金が赤残になる可能性があるが,このようなときには,

26 2012 年 11 月 20 日に最新の限度額が設定され,100 行に対して全体で 1033.5 億クローネを設定して

いる. 27 2007 年 5 月までは期間は 14 日であった. 28 2011 年 12 月 8 日には,期間が 3 年のオペがアナウンスされた.金利は貸出金利に金利プレミアムを

足した変動金利となり,2013 年 7 月 31 日まではプレミアム部分はゼロとなる.2012 年の 3 月 30 日に

190 億ユーロ,9 月 28 日にもオペが実施された.これは ECB の 3 年オペに追随したものだが,デンマ

ークの場合は繰り上げ償還が可能である.

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デンマーク国立銀行は公開市場操作で当座預金の赤残が出ないように流動性を供給するか,当座預金の

上限に達しているときには,CD の売買を行う(赤残が発生している市中銀行は CD を売って当座預金

を増やし,余剰が発生している市中銀行は CD を買う).Danmarks Nationalbank (2009) によると,

平均して月に 3 から 4 回の微調整オペが実施されている. デンマークには貸出ファシリティがない.それは,デンマークがユーロとの為替レートの固定を企図

していることと関係している.デンマークから資金が流出して O/N 金利に上昇圧力がかかると,流動性

は供給不足になるため,クローネ相場の下落を止めることができる.貸出ファシリティがあれば,市中

銀行は貸出ファシリティを通じて得た資金でクローネを売るため,クローネの相場は大きく下落するだ

ろう.ただし,この仕組みはクローネの下落には効果があるが,クローネの上昇には効果がない.ユー

ロ地域で発生した債務問題や経済の悪化により近年デンマークに資金が流入しているが,自動的にクロ

ーネの上昇を止めるシステムがないために,マイナス金利の導入に踏み切らざるを得なかったという側

面もある. ◆ マネーマーケット マネーマーケットは習慣として,午前 7:00 から午後 3:30 まで開かれている.KRONOS が午後 3:30 に閉まるため,マネーマーケットが閉まる時間も午後 3:30 となる.デンマークの短期金利は T/N金利(Tomorrow Next interest rate)である.スウェーデンと同じように,取引日を T とすると T+1に資金を貸出,T+2 に返却する金利である.デンマークのマネーマーケットではオーバーナイトの取引

も行われているが,取引量が少ないため T/N 金利が指標になっている.デンマークの決済システムはや

や時代遅れになっており,家計や企業などの民間経済主体同士の決済は T+1 になっており,T+0 にす

るための議論が始まったばかりであるという背景もあるようだ. 金曜日にはオペが行われるため,他の月曜から木曜までとは異なる方法で金利が決まる.オペが実施

される日(祝日がなければ金曜日)は,T/N 金利は期間 1 日の金利として決まらない.余剰資金がある

市中銀行の場合,余剰部分を 7 日間 CD で運用するか,それとも金曜日から月曜日まで 3 日間マネーマ

ーケットで運用するのかを選択する.Danmarks Nationalbank (2009) によると, r% for 3days + current − account rate for 4days = CD rate for 7days により,金曜日のT/N金利が決まるとしているが,中央銀行からの借り入れは担保ベースであるのに対

して,マネーマーケットでは無担保ベースとなるため,金曜日のT/N金利がこの式と一致するわけでは

ない.しかし,通常は,政策金利よりもCD金利の方が高いため,銀行はCDでの運用を嗜好する.その

ような状況の下,マネーマーケットで資金調達をするためにはやや高い金利をオファーしなければなら

ず,毎週金曜日は金利が高くなりがちである29. デンマークのマネーマーケットでは,2011 年ごろからスワップ取引が増えてきたため,スワップレ

ートである CITA(Copenhagen Interest T/N Average)スワップレートや FX スワップレートも重要な

金利指標になりつつある.

29 CD 金利が政策金利よりも低く設定されると,金曜日の T/N 金利は他の曜日よりも低くなる.そのた

め,T/N 金利を使った分析には,金曜日ダミーが必要となる.

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5.マイナスの政策金利はどのように機能したか 本節では,スウェーデンとデンマークが導入したマイナス金利とその効果について検証する.第 3 節

でみたように,スウェーデンでは預金金利よりも微調整オペの下限金利の方が重要性が高いため,預金

金利の低下が金融調節に及ぼす影響はほとんどない.そこで,本節ではデンマークの例を中心に見てい

くことにする. 5-1.スウェーデンのマイナス金利 スウェーデンでは 2008 年 8 月 23 日に危機対策の政策が始まり,2011 年 1 月 15 日に危機対策を終

了させた.危機対策を始めた当初から出口について議論されており,スケジュール化された危機対策を

打つことができた.本稿の対象の範囲外であるが,このような入り口の段階で出口の設定をする方法は

他の中央銀行にとっても十分に参考となる.このような対策の中でレポレートが段階的に引き下げられ,

レポレートの引き下げに伴って預金金利もゼロ以下に下がった. 2009 年 7 月 8 日にリクスバンクは預金金利を-0.25%に引下げた(図表 5-1).先述したとおりレポ

レートの引き下げに伴う政策であり,世界的な景気後退によってスウェーデン経済も輸出の減少を受け

景気低迷に陥っていた.雇用情勢も急激に悪化したため金融緩和を行い,レポレートは 0.50%から

0.25%へと引き下げられ,預金金利も 0.00%から-0.25%へ,貸出金利も 1.00%から 0.75%となった.

2010 年 7 月 7 日にはレポレートが 0.25%引き上げられ 0.50%となったが,この時に一時的に±0.50%まで狭められたコリダーの幅を±0.75%に戻すために預金金利は-0.25%のままで据え置かれた.最終

的にマイナス金利が解除されたのは,2010 年 9 月 8 日の利上げに伴い 0.00%になった時であり,マイ

ナス金利は約 14 カ月続いたことになる.

図表 5-1 スウェーデンの政策金利の推移(%) 日付 貸出金利 レポレート 預金金利

2009/4/22 1.00 0.50 0.00 2009/7/8 0.75 0.25 -0.25 2010/7/7 1.25 0.50 -0.25 2010/9/8 1.50 0.75 0.00

2010/10/27 1.75 1.00 0.25 2010/12/22 2.00 1.25 0.50

(出所)リクスバンクホームページ.

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図表 5-2 スウェーデンクローナの対ユーロ為替レート

(出所)データはリクスバンクホームページ. 図表 5-2 はスウェーデンクローナの為替レートであるが,左図のように 2007 年から 2009 年にかけ

てクローナ安になった後,2013 年まではクローナ高傾向にある.右図は 2009 年から 2010 年末までを

取り出したグラフであるが,この間,一貫してクローナ高が進んでおり,クローナ高抑制を意図してマ

イナス金利が導入されたわけではないことが分かる. 図表 5-3 スウェーデンの短期金利(%)

(注)T/N は STIBOR T/N,3M は STIBOR 3M を表す. (出所)データはリクスバンクホームページ. 図表 5-3 より,T/N 金利はレポレートとほぼ同じように推移している.3 ヵ月物金利もほとんどの

期間で T/N 金利を上回っており,預金金利のマイナスはマネーマーケットには全く波及していないこと

が分かる.預金金利はマイナスにはなったが,レポレートはプラスを維持しており,レポレートと同じ

金利での CD の購入(0.25%)や微調整オペへの参加(0.15%)により市中銀行はマイナス金利を回避

8.08.59.09.5

10.010.511.011.512.0

2007 2008 2009 2010 2011 2012 20138.59.09.5

10.010.511.011.512.0

2009/1 2009/7 2009/12 2010/6 2010/12

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

2009/1 2009/7 2009/12 2010/6 2010/12

T/N 3M

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することができた.そのため,預金金利のマイナスは金融市場にインパクトを与えることはなく,オフ

ィシャルレポートでの言及もほとんどない.仮に微調整オペの下限金利がマイナスになれば大きな影響

が生じたと考えられる.よって,スウェーデンでは,事実上,マイナスの政策金利は導入されていなか

った評価することができる. しかしながら,危機対策によってスウェーデンの市中銀行の行動に変化がみられるため,見ていくこ

とにしよう.危機対策の一環として,リクスバンクは,2008 年 10 月 6 日に,より期間の長い構造オペ

を導入した.2008 年 10 月 6 日に 1000 億クローナの 3 ヵ月物資金を供給し,その後も構造オペを増や

していった.期間も多様化していき,3,6,12 ヵ月のクローナ資金を供給した30.これにより,市中銀

行はリクスバンクからの調達を増やしたために,市中銀行全体として中央銀行の供給する資金に対する

需要が大幅に増え,ネットのポジションで構造的な赤字が発生した. 一方,2011 年 2 月以降は逆に構造的な黒字が発生している(Nessén et al., 2011).Sellin and Åsberg

Sommar (2012) は,リクスバンクのシーニョレッジが国庫納付金の形で国家債務局に移されたが,国

家債務局が市中銀行に預金したことで市中銀行の流動性が増したことを原因として挙げている.また,

現金に対する需要の減少も挙げている.電子取引や電子マネーの普及が進むと現金への需要が減り,市

中銀行が現金を中央銀行に戻す形で当座預金を増加させることで市中銀行の当座預金は増えている.こ

のような状況はスウェーデンだけでなく,他の国でも今後見られるだろう. スウェーデンでは,国家債務局がリクスバンクのバランスシートに影響している.例えば 2009 年に

は,リクスバンクはドルの支払いに備えるために国家債務局から約 1000 億クローナ相当の外貨を借り

入れており,それがバランスシートに反映されているため,同時期にバランスシートが急拡大している. リクスバンクに対する市中銀行の構造的な黒字は,個別には黒字や赤字になっている市中銀行はあっ

ても,全体としては資金余剰になっていることを意味している.そのため,公開市場操作におけるオペ

による資金供給が事実上無く,市中銀行は中銀証書を購入するか(2012 年末現在金利は 0.25%),微調

整オペに参加して預金するか(同 0.15%)を選択する.Nessén et al. (2011) は今後もこの状況が続く

と予想している.リクスバンクの金融調節の実効性がどのようになるのか,新しい仕組みの導入が必要

となるのか,注意深く観察しなければならない. 5-2.デンマークのマイナス金利 デンマークでも危機対策がいくつか取られたが,それらは金融システムの安定性を守るための政策で

あるのに対し,マイナス金利の導入はクローネ高への対策であり,両者の目的は異なる.そこで,まず

は危機対策について俯瞰した後に,マイナス金利の導入を見ていくことにする. Risbjerg and Sangill (2012) は 3 つの対策を挙げている.第一は適格担保の範囲拡大である.デンマ

ークでは適格担保は 4 つにカテゴライズされ,それぞれにヘアカット率が決められているが,2011 年

30 スウェーデンのターム物金利である STIBOR は,Danske Bank, Handelsbanken, Nordea, SEB and Swedbank の 5 つが報告銀行となっている.通常はこれらの銀行の報告値の平均を取るが,最高値また

は最低値がその次の値よりも 25 ベーシスポイント以上離れている場合は,その数値は取り除いて計算

される.T/N と 1W,1M,2M,3M,6M,9M,12M が報告される.

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10 月には市中銀行自身が保有する優良債権も適格担保となった.これらの適格担保は 4000 億クローネ

に上るとされるが,実際にはデンマーク国立銀行からの資金調達にはあまり使われていない.また,2011年 8 月には一部の株式や政府保証債なども一時的に適格担保とされた.第二は期間 3 年のオペの導入で

あるが,ユーロシステムが導入した期間 3 年の長期オペに追随したものである.第三は毎月最後の金曜

日に期間 6 ヵ月のオペを 2011 年 10 月に導入した.ただし,利用は少なく,例えば,2012 年 2 月のオ

ペではわずかに 1 億クローネの利用しかなかった.その他にも,クレジットラインの設定による信用フ

ァシリティ,FRB や ECB とのスワップラインの一時的な設定などの措置を取った. ECBによる政策金利引き下げを受け31,デンマーク国立銀行も政策金利を 0.00%へ引き下げた.同時

にクローネの増価を防ぐためにマイナス金利を導入し,CD金利はマイナス 0.20%となった. マイナス金利導入の背景には,デンマークへの資金流入によるクローネ高があった.図表 5-4 の黄

色線が ERMⅡの中心相場であり,赤線が変動幅(中心相場±2.25%)を表している. 図表 5-4 デンマーククローネ(DKK)の対ユーロ為替レート

(出所)Danmarks Nationalbank, Monetary Review, 4th Quarter 2012, vol 1, p.16. (注)青線はデンマーククローネの為替レート.黄色線は対ユーロの中心相場(1 ユーロ=7.46038 ク

ローネ).上下の赤線は,±2.25%にあたる変動幅の上下限.

31 ECB は 2012 年 7 月 5 日に主要オペ金利を 1.00%から 0.75%へと引き下げた.

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これまでクローネ相場は極めて安定的に推移しているが,2011 年よりデンマークには資金が断続的

に流入し,2004 年以来のクローネ高となった.デンマーク国立銀行はクローネ売り介入や政策金利の

引き下げで対応し,2012 年 5 月 25 日にも政策金利を 0.15%へと引き下げている.しかし,クローネへ

の買い圧力が終息しなかったため,さらなる政策金利の引き下げに踏み切った. 図表 5-4 からは,クローネの対ユーロ相場は一貫して中心相場に近く,±2.25%の変動幅の上下限

に近づいておらず,デンマークにとっては重要な問題が起きてはいないように見える.それにもかかわ

らずデンマークがマイナス金利を導入した理由は,2011 年以降クローネへ非常に強い上昇圧力が掛か

り始めていたことにある.中心相場から±0.5%という非常に狭いバンドで為替をコントロールしてきた

デンマークにとって,この時期のクローネ高は経験したことのない水準に達していたと言える.デンマ

ーク国立銀行のNils Bernstein総裁は 6 月の時点ですでに,7 年間の総裁在任中でも最も強い上昇圧力

が掛かっていたと語っており,必要であればマイナス金利も辞さない考えを表明していた32.デンマー

クには欧州通貨危機でクローネに対する激しい上昇圧力を受けた記憶がある.この記憶が為替レートの

わずかな変動にも敏感に反応させるのではないかと思われる. デンマークへの資金流入の大きな要因として欧州債務危機が挙げられる.南欧諸国における債務危機

を背景にユーロが売られた一方,北欧通貨は買われていた33.ドイツやデンマークなどでは 1 年未満の

金利だけでなく 2 年物などの国債の利回りも軒並みマイナスになったが,質への逃避が大規模に起こっ

たことが示唆される. マイナス金利の効果はいち早く現れ,クローネ相場は中心相場に向けて減価し,2012 年末にはほぼ

中心相場付近で推移するようになった. 5-3.デンマークにおけるマイナス金利の効果 図表 5-4 にみられるように,マイナス金利はクローネ相場を中心相場に収斂させるという目標を達

成している.ここでは,マイナス金利の導入に伴う金融調節の変化について見ていこう. デンマーク国立銀行は,CDへのマイナス金利導入に伴う当座預金の増加を防ぐため,当座預金の上

限を引き上げた34.図表 5-5 の縦線の所でマイナス金利が導入され,当座預金の上限が引き上げられ

た.デンマークの市中銀行のCD保有額は,マイナス金利が適用された後,約 500 億クローネ減少して

いるが,それでもまだ約 1500 億クローネ保有しているため,年間で約 3 億クローネのデンマーク国立

銀行に対する利子支払いが発生することとなる.しかし,実体経済への影響は軽微であるとみられてお

り,市中銀行の負担額に関してデンマーク国立銀行のNils Bernstein総裁は「銀行の収入から見れば小

さな額で,民間銀行は預金者にマイナス金利を適用したり,貸出金利を引き上げたりしていない.デン

32 The Financial Times, June 17, 2012. 33 スウェーデンクローナは 1 ユーロ=8.27 クローナ台となり約 12 年ぶりの高水準で推移していた.ま

た,ノルウェークローネも対ユーロで約 9 年半ぶりの高水準にあった.このように,北欧通貨は対ユー

ロ相場で上昇が鮮明であった(『日本経済新聞』2012 年 8 月 9 日).欧州債務問題に伴い,ユーロ地域

と比べ経済が堅調な北欧諸国の通貨が資金の一時的な逃避先となっていた. 34 金融市場への負担を軽減するために当座預金の上限額が 231.5 億クローネから 697 億クローネへ上

方修正された.

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マーク経済にとって為替固定から得る利益の方が大きい」としている35. デンマーク国内で業務している市中銀行にとっては小さな影響しか持たなかったが,ユーロからクロ

ーネへと向かっていた資金にとっては状況は異なるようだ.外国の投資家はデンマークの市中銀行に資

金を預けることになるが,CD 金利がマイナスであるということは,クローネの保有に対して「手数料」

が必要だということを意味している.このような手数料を嫌ってクローネからユーロに資金を戻す動き

があり,クローネ安につながったのではないかと考えられる. 図表 5-5 デンマーク市中銀行の保有資産

(出所)Denmarks Nationalbank Monetary Review, 3rd Quarter 2012, Part 1, p.60.

CD金利のマイナスへの引き下げと当座預金上限の引き上げを組み合わせることによって,市中銀行

への悪影響を最低限に抑えつつクローネ高への対策を打つことができた.このとき,政策金利は 0.00%のままであり,一般の預金者にマイナス金利は適用されていないため,貨幣流通量には変化は見られな

かった36.つまり,一般経済への影響を押さえることができているといえる.

35 『朝日新聞』2012 年 11 月 25 日. 36 通常は家計が手に入れると預金に回される 500クローネや 1000クローネといった額面の高い紙幣の

流通高は,マイナス金利導入後も変化していない.市中銀行は一般の預金者にマイナス金利を適用して

いないため,家計の現金保有は増加していない.

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図表 5-6 マネーマーケット金利とイールドカーブを表したものである.左図における CITA スワッ

プは 3 ヵ月の固定金利と T/N 金利を 3 ヵ月分ロールオーバーするスワップを表しており,CITA 金利は

T/N 金利を 3 ヵ月間ロールオーバーした時の金利を表している.左図では,CITA スワップ金利が一番

高く,短期国債と FX スワップ金利がより低くなっており,CD 金利がマイナスになった後はすべてマ

イナス圏で推移している.右図のイールドカーブでは当初は 4 年先まで利回りがマイナスとなっていた

が(黄線),その後は 3 年先までがマイナスとなっており(赤線),イールドカーブの全体的な形状もよ

り垂直に近くなり,金融市場が落ち着きを取り戻しつつあることがうかがえる.

図表 5-6 デンマークのマネーマーケット金利(左)とイールドカーブ(右)

(出所)Jørgensen and Risbjerg (2012), p.66.

このことは,デンマーク国立銀行が行った短期国債の売りオペでも裏付けられる.2012 年 8 月 30 日

には,デンマーク国立銀行は期間が3,6,9ヵ月の短期国債売りオペを行ったが,金利はそれぞれ-0.48%,

-0.40%,-0.35%であり,3 つの国債合計で 115 億クローネが落札された.2012 年 11 月 29 日にも

同様のオペがあり,金利はそれぞれ-0.39%,-0.30%,-0.25%であり,3 つの国債合計で 119 億ク

ローネが落札された.いずれも金利はマイナスではあるが,マイナス幅は徐々に小さくなってきている. 現在のところ,マイナス金利は一部の金融市場にとどまっている.図表 5-7 はデンマークの住宅ロ

ーン金利であるが,変動金利に相当するものである.2011 年から 2012 年にかけて金利が傾向的に低下

しているが,7 月のマイナス金利導入後に低下傾向に拍車がかかったわけではない.金利の低下は低調

な住宅ローン市場にあり,2012 年は第 1 四半期から第 4 四半期まで前期比でマイナスが続いている.

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図表 5-7 デンマークの住宅ローン金利(%)

(注)期間が 1 年未満の住宅ローン金利. (出所)データはデンマーク国立銀行ホームページ. 以上から,デンマークのマイナス金利は実体経済に大きな影響を及ぼすことなく為替レートをコント

ロールすることに成功したと評価することはできる.しかしながら,2012 年後半になってユーロ地域

の債務問題への注目度が薄れ,質への逃避が鈍くなったという外部環境の影響も大きいだろう.デンマ

ークは小国開放経済であるため,常に外部環境の影響を強く受けていることを忘れてはならない. いずれにせよ,クローネ相場が中心相場付近に落ち着いたことで,マイナスの CD 金利はいずれ修正

されることになるだろう.マイナス金利が導入される前までは政策金利よりも CD 金利の方が高かった

ため,市中銀行は自らのポートフォリオを,流動性に重きを置いた当座預金と金利収入に重きを置いた

CD とを比べながら組み立てていた.マイナス金利が終了して再び CD 金利が政策金利よりも高くなれ

ば,市中銀行は再びこのようなポートフォリオバランスによってどの程度公開市場操作に参加するのか

を決めるようになるだろう.デンマーク国立銀行は最適な出口戦略を考えなければならない.

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

2011M01 2011M07 2012M01 2012M07

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6.まとめ マイナスの金利は様々な場面で発生しているが,本稿では,政策金利の一部がマイナスになったスウ

ェーデンとデンマークに焦点を当てた.本稿では北欧 2 ヵ国の金融調節の枠組みを詳解した後,2 ヵ国

で採られたマイナスの政策金利とその効果について分析を行った.フィンランドはユーロに参加してお

り,ユーロシステムの一員であることを考慮すると,北欧の 3 ヵ国はそれぞれ異なる金融政策を採って

おり,金融調節の枠組みも三者三様であることが明らかとなった. まずは,金融調節の枠組みについてまとめておこう.ユーロシステムとリクスバンクはともに,主要

オペ金利やレポレートを中心としたコリダーモデルを持っており,O/N 金利(または T/N 金利)がコリ

ダーの上下限から外れないような仕組みを持っている.しかしながら,スウェーデンは微調整オペ金利

によるミニコリダーも持っており,常設ファシリティのコリダーよりもミニコリダーの方が大きな意味

を持っている.O/N 金利のコントロールを行っている点では両者は共通しているが,ユーロシステムは

公開市場操作(主要オペ)によって O/N 金利のコントロールを行っているのに対して,スウェーデンは

ミニコリダーという事実上の常設ファシリティにより T/N 金利のコントロールを行っており,見た目は

似ていても実は異なるシステムを採用していることが分かった.将来スウェーデンがユーロに参加する

ことになれば,スウェーデンはミニコリダー方式を廃止しなければならなくなるだろう. デンマークは ERMⅡに参加していることから,デンマーククローネを安定的に推移させることが最

も重視されている.そのため,T/N 金利のコントロールへの優先度は低いという点でユーロシステムや

スウェーデンと大きく異なっている.また,スウェーデンとデンマークでは中銀証書や CD が金融調節

において重要な地位を占めており,両国ともにその発行残高は大きくなっている.これは,市中銀行全

体として資金余剰にあることを意味している. 2007 年以降の金融市場の混乱を受けて,スウェーデンでは 2009 年から 2010 年にかけて,デンマー

クでは 2012 年に預金金利がマイナスとなったが,この効果は両国で全く異なったものになった.スウ

ェーデンでは,常設ファシリティによるコリダーよりも微調整オペによるミニコリダーの方が重要な役

割を持っているため,常設ファシリティの下限金利である預金金利のマイナスは金融調節やマネーマー

ケットに影響を与えなかった.一方,デンマークのマイナスの預金金利はクローネ相場を減価させるこ

とに成功した.また,市中銀行は当座預金への需要を増やし,CDへの投資が一部減少した.マイナス

金利はマネーマーケットに広く波及しているが,より期間の長い金利では,マイナス幅は徐々に縮小し

つつある.現在のところはマクロ経済に広く波及するところまでは至っていないが,今後はこれらのマ

イナス金利がどのような影響を及ぼすのか注目しなければならない37. デンマークがマイナス金利を導入した背景には,ユーロ地域の信認が低下することによる質への逃避

への対応があった.もし,デンマークがユーロに参加していれば,この問題は生じなかったであろう.

スウェーデンについてはユーロ地域への輸出の減少による景気悪化が背景にあったが,スウェーデンも

質への逃避でクローナ高が急激に進むリスクをはらんでいる.その時には,微調整オペの下限金利のマ

イナスへの引き下げに追い込まれる可能性がある. 37 例えば,住宅ローン金利が下がることによる住宅価格の値上がりや,本来であれば住宅が購入できな

いような低所得者による住宅ローン組成が進むことなどは,デンマーク経済に大きな負の影響をもたら

すであろう.

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このような預金金利のマイナスへの引き下げは,ユーロに参加せずに自国通貨を維持させることによ

るコストともいえるだろう.また,スウェーデンやデンマークへの信認の低下やユーロ地域への信認の

向上による自国通貨安もコストとなる.インフレターゲティングを導入しているスウェーデンは輸入イ

ンフレに悩まされるだろう.デンマークはクローネが下落しにくい仕組みを備えているものの,CD 金

利の大幅引き上げに追い込まれるかもしれない.このようなコストがどの程度なのか,ユーロに参加す

べきかどうかを検討する際に考えなければならないだろう. ゼロ金利やマイナス金利による弊害はもうひとつある.それは,短期金融市場の機能不全である.図

表 2-5 では,市中銀行はマネーマーケットから資金を調達するか,それともユーロシステムの限界貸

出ファシリティから資金を調達するか,公開市場操作で資金調達するかという選択に迫られた.2012年末現在,ユーロシステムは期間 3 年間で資金上限なしのオペを 2 回行った後であり,2015 年までは

銀行部門全体で資金余剰になっている.スウェーデンやデンマークも大量に資金を供給しており,市中

銀行はマネーマーケットから資金を調達する必要はない状態にある.このような状態が長く続けば,市

中銀行はコスト削減のためにマネーマーケットの担当者を減らしていくであろう.そうなってからでは

出口戦略を採るのは非常に難しくなる.スウェーデンはいち早く危機対策の必要から脱したが,当座預

金に対する資金余剰が続いており,マネーマーケットの機能という点ではマイナスである. 特に,O/N 金利はイールドカーブの起点となり,金融政策の波及経路にとっても非常に重要な金利と

なる.資金を大量に供給して O/N 金利をほぼゼロにしておけば,現在のところはうまく O/N 金利をコ

ントロールしていることになるが,マネーマーケットが機能不全になった後に O/N 金利を引き上げるこ

とが可能なのか,大いに疑問がある.特に,デンマークはマイナス金利にできるだけ頼らずに為替レー

トを安定させる方策を見つけるべきであろう. マイナス金利は他の国でも採用されるべきであろうか.スイスのように小国の開放経済で,自国通貨

の増価を食い止めるためにマイナス金利を導入する国は出てくるであろう.しかし,日本やユーロシス

テムで預金金利(または余剰資金に対する付利)をマイナスにするとどのような影響が出るのか,など

の点を慎重に検討しなければならない.特に,マイナス金利が広く経済に浸透するとどうなるのか,現

段階では不明である.もし,家計保有の預金金利までマイナスになれば,家計は預金をできるだけ引き

出そうとするため,銀行システムそのものが崩壊する可能性がある.このときには,通貨乗数が 1 に向

かって下落し,マネーストックが大幅に縮小することで信用収縮が急速に進むことになるだろう.同時

に急激な自国通貨の減価と激しい輸入インフレに見舞われることになる. 為替レートが金融政策の目標になっていない国では,安易にマイナス金利を導入すべきではないだろ

う.

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