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小学校・中学校のランニング教育 ―「気持ちいい」から「かっこいい」まで ― 教授用資料 小・中学校体育

小学校・中学校のランニング教育4 (5)校庭探検ランニング (スクールアドベンチャーランニング) 普段あまり行かないような校舎裏など,非日

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  • 小学校・中学校のランニング教育―「気持ちいい」から「かっこいい」まで―

    教授用資料小・中学校体育

  • 目 次

    はじめに…………………………………………………………………… 1

    小学校低学年・中学年のランニング………………………………… 2

    小学校高学年・中学生のランニング………………………………… 5

    中学生の長距離走………………………………………………………… 8

    ランニング強化につながる運動………………………………………11

    執筆者一覧…………………………………………………………… 裏表紙

  • 1

    児童生徒に不人気な運動の代表格に,持久走と長距離走(以下,総称する場合はランニング)が挙げられます。理由を尋ねると,「苦しい」「疲れる」「単調」といった声が聞こえてきます。「次の体育からは持久走です」と教師が告げようものなら,「え~っ !!」という児童生徒の落胆の声が返ってきます。一方で,社会では空前のランニングブームが起こっています。街路や公園ではそれぞれのペースでランニングを楽しむ姿を多く見かけます。ある調査によると,2004 年度のフルマラソンの完走者は8万人弱であったのに対し,2017 年度では 37 万人に迫る勢いのようです。フルマラソン出場の抽選に漏れ続ける「マラソン難民」という言葉まで生まれる状況です。

    このように,学校におけるランニングと社会におけるそれとでは,大きな乖離が生じています。豊かなスポーツライフの実現を謳う体育 ・ 保健体育授業の現状としては問題があると言えます。

    学習指導要領解説には,小学校低 ・ 中学年では,体つくり運動の「体を移動する運動(遊び)」としてかけ足が,高学年では,「動きを持続する能力を高めるための運動」として持久走が例示されています。中学校でも小学校高学年と同じように体つくり運動として持久走が示されており,加えて,陸上競技の長距離走も例示され,1,000 m~3,000 m 程度の距離を自身のペースを守って走ることが明記されています。つまり,どちらもランニングという運動ですが,全身持久力の向上を目指す体つくり運動としての持久走と,達成や競争の面白さを味わうための陸上競技としての長距離走が位置付いているのです。一部の学校

    では,このねらいの異なる運動を混同して実践してしまうことがあるようです。また,走るという動作はさほど難しい技術を必要としません。特に指導をしなくても,多くの児童生徒は何となく走れてしまいます。そのため,走り方の技術指導がされることは稀で,「頑張れ !!」「気合いだ !!」という根性論の指導に終始することも少なくないようです。これでは,児童生徒からの不人気さが増すことも頷けます。

    ランニングの実施には様々な効果があるという報告があります。例えば,ランニングは児童生徒のポジティブな感情を育てるとか,ランニングによる全身持久力と学力に正の相関があるなどです。ランニング嫌いを生んでしまっては,こういった付随的な効果を得る機会を失うことになりかねません。「そんなことはわかっていますよ。でも,ど

    のように指導したらよいのかがわからないから困っているのです」という先生方の声が聞こえてきそうです。本資料は,ランニング指導でお困りの先生方に実践のヒントを提供するために作成されました。児童生徒が楽しみながら気持ちよく走るかけ足と持久走,生徒がかっこよく走る長距離走,これらの学習の様々な工夫と,ランニング指導の際に活用できる準備運動や補強運動を紹介します。

    豊かなスポーツライフを実現するための運動としてランニングは最適です。いつでもどこでも,気軽に実施できるからです。もっと児童生徒が「楽しい」「気持ちいい」「かっこいい」と体育 ・ 保健体育授業で感じ,その積み重ねによってランニングの実践力が育まれ,そして社会でも実践する。そんな近未来を想像しながら,ともにランニングの実践を進めようではありませんか !!

    執筆者代表 佐藤善人

    はじめに〜豊かなスポーツライフへつながる�� ランニングの学習〜

  • 2

    (1)歩く・走るの日常化~肯定感を高める~ 「歩く」「走る」という運動は,登校,教室移動,買い物…色々な場面で意識せずとも,いつでもどこでも誰とでも楽しむことができる「生活密着型の運動」です。また,「オギャー」とこの世に生まれてから,寝返り→ハイハイ→立つ→歩く→走る,という順でその能力を獲得し,その都度,家族が歓声をあげて喜んだり,写真を撮ったりと感動に満ちた運動なのです。

    しかしながら,いつの間にか「走る」=「疲れる」「苦しい」「ペナルティー」という負の印象が生まれ,ランニング嫌いが生み出されているように思われます。その原因には,「速く走れることが評価される」,「(自分のペースを無視して)競争させられる」などがあるようです。長距離走では,速さや順位を競うこともありますが,かけっこにおいては,自分のペースや楽しみ方を知って,「歩く」「走る」ことへの肯定的な感情をもたせたいものです。

    時計回りと反時計回りで走る人(チーム)を分け,たくさんの友達とハイタッチをして,交流することを楽しみながら走ります。ラインやコーンでコースを分け,交錯しないようにします。ハイタッチだけでなく,特定の人を決めて,その人と出会ったら足の裏同士を合わせる,お尻とお尻を合わせるなど,合わせる部位を変えると様々な楽しみ方ができます。また,じゃんけんをして勝った回数を競ったり,あいこの数(=気の合うぺア)を競ったり,負けたら逆周りをする(逆周チームに吸収される)といった楽しみ方もできます。

    (2)対面ハイタッチランニング

    小学校低学年・中学年のランニング

    小学校低学年,中学年でのランニングの位置付け…� 【体つくり運動】体を移動する運動遊び/体を移動する運動小学校低学年の例示…無理のない速さでのかけ足を2~3分程度続けること小学校中学年の例示…無理のない速さでのかけ足を3~4分程度続けること(下線は筆者)� (文部科学省[2017]「小学校学習指導要領解説 体育編」)

  • 3

    (3)会話ランニング 集中していないと思われるからか,おしゃべりしながら走っている児童を注意した経験がある人もいるかもしれません。

    会話を楽しみながら走ることができる速さは「無理のない速さ」と言えます。会話が楽しめるくらいの速さで走ることは「ニコニコペース」や

    「スロージョギング」として広く知られ,最大酸素摂取量の向上や高血圧・高血糖の改善に有効であるなど,運動能力や健康面への効果が実証されています。会話だけでなく,しりとりやなぞなぞを楽しみながら走ることも推奨してあげるとよいでしょう。

    (田中宏暁[2005]ニコニコペースの効用 , 体力科学,54[1] 39-41)

    4~6人が1列となり先頭を交代しながら走ります。先頭の人は後ろの仲間が付いて来られる程度の速さで走ります。後ろの人は,先頭の人を真似して走ります。先頭の人がジグザグに走れば後ろの仲間もジグザグ,先頭の人が他のチームとハイタッチをすれば後ろの仲間もハイタッチ,先頭の人がタイヤ跳びをすれば後ろの仲間もタイヤ跳び…という感じで,ただ走ることにこだわらず,楽しみながら行うとよいでしょう。きれいな列で走れているチームを価値付けするような声掛けをすることで,仲間を思いやるチームワークの良い走りができます。

    20 ~ 30 秒を目安に教師が合図し,先頭を交代します。先頭にいた人は列の一番後ろに付きます。全員が先頭を担当すれば,あっという間にねらいとする時間(2~4分間)のランニングが実践できます。

    (4)先頭交代ランニング(パシュートランニング)

    今日の給食はカレーだねえっ,

    ほんと?やったね!

    次は後ろについて先頭の人のマネをしよう

    よーし,今度は僕が先頭だ!

  • 4

    (5)校庭探検ランニング  (スクールアドベンチャーランニング)

    普段あまり行かないような校舎裏など,非日常感や特別感のある所をコースとします。教師が思っている以上に児童のモチベーションを高めることができます。見通しが良くない所や足場が不安定な所もあると思いますが,そうした場所を避けさせるのではなく,注意喚起をするとともに挑戦欲求を高めるような声掛けでワクワク感を演出してあげるとよいでしょう。走るだけでなく,歩いたり,時に立ち止まったりして,草花に目を向けたり,鳥のさえずりや風の音に耳を澄ましたりして,身近な環境への再発見を促すことで,生活科や理科などの学習と関連付けて楽しんだり,学びを深めることも期待できます。各自,発見したものを発表させると,様々なものが挙がり,「次は私も発見したい!」とランニングへの意欲付けにつながるでしょう。

    校内や校庭を大いに活用して,チーム対抗のクイズラリーを実施してみましょう。例えば,「校長室の前で問題に答えよ。」「次は,遊具のあたりで問題に答えよ。」など,問題と指示を書いた紙を任意の場所に掲示しておきます。問題の設置場所や順番を工夫することで,時間や運動量を調節することもできます。学校に関係のある問題(例:校長先生の名前は?)や最近学習した内容を問題にすると,思いのほか盛り上がるでしょう。正解数とタイム(速い or 任意のタイム)のポイント制にして競います。校舎内を走ってしまったり,ばらばらになってしまったりしたチームは減点とするオプションルールを加えるのも面白いでしょう。ランニングとは無関係のようにも感じられるかもしれませんが,クイズラリーを通して楽しく「体を移動する運動(遊び)」を実践し,体力と知力,そしてコミュニケーション力を育むことができます。

    (6)クイズラリー

    鳥の鳴き声あ,風の音も聞こえる

    心臓がバクバクいってる

    えーっと,校長先生の名前は…?

    えーっと,ひろ子?ひろみ?

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    小学校高学年・中学生のランニング

    (1)場の設定

    通常の持久走であれば,あらかじめ設定されている150 ~ 200 m 程度のトラックを反時計回りに周回することが多いです。しかし,それでは単調な学習となる場合があり,そこでの目標は,前を走る人に追いついたり追い越したりすることのみに陥る危険性もあります。常に抜かれてしまう児童生徒に恥ずかしい思いをさせることもあります。こういった学習は「苦しい」「疲れる」「惨め」といった否定的感情を生みやすいです。

    そこで,多様な場を準備しましょう。トラックコースだけでなく,外周コースも設定して,逆走を可とします。また地域性を活かし,校外へ出て走るということも検討したいです。例えば,近隣に大きな公園がある,河川敷にランニングコースがあるなど,安全に走れる環境がある場合は,積極的に校外で持久走を実施しましょう。校外で実施する際は,地域ボランティアのサポートをお願いするなどして,安全面の確保に留意してください。

    小学校高学年,中学校でのランニングの位置付け…� 【体つくり運動】動きを持続する能力を高めるための運動小学校高学年の例示…無理のない速さで5~6分程度の持久走をすること中学校1,2年の例示…�走やなわとびなどを,一定時間や回数,又は,自己で決めた時間や回

    数を持続して行うこと(下線は筆者)※�中学校 3年生では「実生活に活かす運動の計画」が内容として示されており,①ねらいは何か,②いつ,どこで運動するのか,どのような運動を選ぶのか,どの程度の運動強度,時間,回数で行うのか,などに着目して運動の計画をして実施する学習が求められています。�� (文部科学省[2017]「小学校学習指導要領解説 体育編」「中学校学習指導要領解説 保健体育編」)

    外周コース

    トラックコース

    公園

    河川敷

    基点で逆走可↓

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    (2)ペア学習 学習はペアで行い,走る前,走っている最中,そして終了後の体調をお互いで確認するとよいでしょう。また,ランナーの周回を記録して伝えることで,児童生徒は自身が走った距離とペースとの関係から,学習を振り返ることができます。息づかいや走り方を見ながら,「少しペースが速いよ」「少し楽すぎない?」といった声かけをすることはランナーの走り方の修正に効果的です。観察者にとっては,ランナーを観察することで,次の自身の走り方に活かすことができ,

    「見る」学習になります。

    小学校高学年では5~6分の持久走が例示されていますが,児童の実態に応じて走る時間を延ばしましょう。短い時間では無理をして

    「苦しい」走りとなり,持久走に否定的な思いを抱かせてしまう危険性があります。無理のない速さで 10 ~ 15 分程度の持久走を行うことで,快感情と全身持久力は向上するという先行研究※があります。同様に,中学校においても,無理のない速さで自己が設定した少し長めの時間を走る学習を展開しましょう。※(佐藤善人・ 樺山洋一[2011]小学校体育における持

    久走に関する研究-「機能的特性」に依拠した授業における児童の態度と持久力の変容 ,ランニング学研究 23[1])

    持久走には,黙 と々走らなければならない印象があります。これが「苦しい」ペースでの持久走を導く要因の1つと考えられます。低 ・ 中学年の実践では「会話ランニング」を紹介しましたが,ここでは音楽を聴きながらのランニングを推奨します。街路や公園では音楽を聴きながら楽しげに走るジョガーの姿をよく見かけます。ゆっくりしたペースを生み出すために,音楽も穏やかな曲を選びましょう。児童生徒から流行の曲をリサーチし,選曲してもよいでしょう。

    (3)ロングランニング

    (4)音楽ランニング

    少しペースが速いよ

    少し苦しいからペースを落とそう

    あっ!好きな曲だ!

    10分走るからゆっくり走ろう

    ちょっとペースを落とそう

  • 7

    (5)ポジティブランニング ランナーに対して,「頑張れ !!」というはげましの声をかけることはよくあります。しかし,そもそも持久走に挑戦しているランナーは頑張っています。もっと肯定的気分になれる声かけをしましょう。例えば,「ナイスラン」「ナイスペース」「スマイル」など,すれ違う仲間に対しても声をかけられるとよいでしょう。苦しそうな様子を見かけたら,「もっとゆっくり」と声をかけると仲間の安定した走りを導きます。すれ違う際にハイタッチをしたり,手で「いいね」とサインを送ったりすると,さらに楽しく走ることができます。

    近年,学校において ICT 機器が活用されることは少なくありません。例えば走っている姿をタブレットで撮影し,走り方や呼吸の仕方について交流するとよいでしょう。また,GPS 機能の付いた時計を活用して,走った距離やペースを測定し,そのデータから自身の走りを振り返ったり,前時までのデータと比較したりして,次の学習へ活かすことも可能です。こういった時計は,消費カロリーも測定できます。運動離れが深刻な中学生女子生徒のモチベーションを高めることにもなります。

    中学校の学習では,地域のマラソン大会やウォーキング大会と連携した学習も可能です。例えば,「3km の完走」という目標を設定し,それに向かってどんな練習をすればよいのかを考え計画を立てます。その計画を実行したり,修正したりしながら完走を目指すのです。こういった学習を行うことで,卒業後には「5km に挑戦してみよう。そのためにはどんな計画が必要かな」と考えて挑戦したり,ボランティアとして「支える」側になったりと豊かなスポーツライフの実現につながります。学校で完結させない体育・ 保健体育授業のあり方も検討していきましょう。

    (6)ICT の活用

    (7)実生活とのつながり

    ナイスラン! スマイル!

    前半少しペースが速いね

    体育だけでなく帰宅後も週 3回ジョギングするよ

    来月に3 kmマラソンに出て完走を目指すよ

    だから苦しかったのか

  • 8

    中学生の長距離走

    (1)長距離走の面白さとは… 秋から冬にかけて,多くの中学校で長距離走は実践されています。その様子を観察すると,決められた距離(1,000 m ~ 3,000 m)をただ黙々と走り,表情をゆがめている生徒の姿を見ることは少なくありません。長い距離を走ることは身体的苦痛を伴うため,「辛い」「きつい」といった声はたくさん聞こえてくるのではないでしょうか。

    長距離走は,陸上競技の1種目であり,他者と競い合うこと,自己の記録を更新していくことが,その「面白さ」といえます。しかし,他者との競争に重きをおいて学習を進めると,能力差から生徒にとって辛い長距離走の学習になる危険があります。そのため,自分に合ったペースを見つける「ペース走」を単元の中で取り入れ,自己のペースを守りながら目標タイムを更新していく「面白さ」,つまり達成型の特性に重きを置いて長距離走の学習を進めるとよいでしょう。

    与えられた距離をただ黙 と々走りぬくのではなく,予め自分に合ったペースをペース走の中で見つけ(ペース走の導入),そこから,トラック1周を何秒で走ればよいのかを自分自身で考えることで,自分の走りを分析する能力(思考判断)にもつながっていきます。長距離走が面白いと思える授業にしていきましょう。

    中学校での長距離走の位置づけ…【陸上競技】中学校1,2年の例示…�自己のスピードを維持できるフォームでペースを守りながら,一定の

    距離を走り通し,タイムを短縮したり競走したりできるようにする。※�「ペースを守り一定の距離を走る」とは,あらかじめ決めたペースで,設定した距離を走ることである。�中学校では,走る距離の目安は1,000 m~3,000 mが一般的。中学校 3年の例示…�自己に適したペースを維持して,一定の距離を走り通し,タイムを短縮

    したり,競走したりできるようにする。※�「自己に適したペースを維持して走る」とは,目標タイムを達成するペース配分を自己の技能・体力の程度に合わせて設定し,そのペースに応じたスピードを維持して走ることである。�� (文部科学省[2017]「中学校学習指導要領解説 保健体育編」)

    あと少し,いけるよ!

    ラストスパート!ファイト!

  • 9

    速く走るためには,やはり,コツがあります。どうしたら「かっこよく走る」ことができるのか。ここでは,長距離走の技術的なことについて紹介します。これを知るだけで走りが変わるはずです。

    ①呼吸の仕方走るリズムに合わせて「呼吸」をすることはと

    ても大切なことです。今までただ何となく走っていた走りから,「呼吸」の仕方を意識して走ってみましょう。特に,息を吐くことを強調できるとよいでしょう。

    2 呼 2 吸(はく・はく・すう・すう),2 呼 1 吸(はく・はく・すう),1 呼 2 吸(はく・すう・すう)など,自分に合った呼吸法を意識してみましょう。呼吸が整ってくると,楽に走れるようになります。

    ②走法(ピッチとストライド)走法には,ピッチ走法とストライド走法があり

    ます。ピッチ走法では,ピッチを強調して走ります。歩幅をあまり広くとらずに,小刻みにリズミカルに足を回転させて走っていきます。

    ストライド走法では,ストライドを強調させて走ります。歩幅を広めにし,ぐいぐいと前へ出る感じで走っていきます。自分はどちらのタイプなのかを確認するのもよいでしょう。

    ③フォーム(腕・脚・腰)「腕」は,肩の力を抜き,リラックスします。

    腕は軽く曲げ,肘を後ろに引くことを意識します。上体を安定させると走りやすくなります。「脚」は,拇

    ぼ指し

    球きゅう

    全体でとらえながら接地し,地面を踏んだ反発をもらって前方へと振り出していきます。特に接地が大切なので,そこを意識するだけで大きく変わります。「腰」は,腰の位置(高さ)に注意します。で

    きるだけ高い位置をキープして,全身の上下動を少なくします。

    (2)かっこよく走るためには…

    ピッチ走法

    ピッチ・テンポが速い

    ストライドが広い

    この2つで上体が安定する

    ストライド走法

    腕はリラックス肘は後ろでしっかり引く

    腰を高い位置でキープ

    ハーハー スッスッ

    ハッハッ スー

  • 10

    一定の長い距離を走るだけでは,自己に適したペースをつかむことは難しいです。通常 走る距離(例えば 2,000 m)を 600 m,400 m,1,000 mと分割して,ペース配分をつかませるためのペース走の時間を設けます。ペース走でつかんだペースを次時の記録会で活かして自己ベストの達成をねらうために「ペース走+記録会」という2単位時間を1セットと考えて取り組ませ,1単位時間の中で,一定のペースで何回か違った距離を走ることにより,めあてとするペース配分を自分の体に刻むとよいでしょう。また,記録会での反省を活かして,次時ではペース配分を考え直し,改めて目標タイムを設定して走るという学習過程を組んでみるとよいでしょう。

    陸上競技は個人競技という印象がありますが,ペア学習を効果的に取り入れることで,自己のタイム短縮だけでなく,仲間のタイムも縮めようとする教え合い,励まし合いも生まれてきます。また,ペアを前半と後半に分けて,ペアはできるだけ走力に差のある 2 人で組ませます。前半組を上位群,後半組を下位群で走らせることによって,能力差に応じた競争を楽しめる工夫もよいでしょう。

    アドバイスをする際には,個人の学習カードや1周ごとのラップタイムが書かれたラップ表を活用します。学習カードでは,ラップタイムや目標タイムを書き,それをもとに,ペアがアドバイスをしやすいように工夫します。ラップタイム表を利用することで,目標タイムまでを逆算することができ,ペアから正確なタイムを伝えることができます。また,「今,○秒遅れているよ」とアドバイスをすることもできます。走っている仲間がいれば,一緒になって走ったり,励ましの声をかけたりするように促します。ペア学習を取り入れることで,仲間の支えの大切さにも気付けます。

    (3)ペース走の導入

    (4)ペア学習の導入

    長距離走の単元指導計画の工夫単元指導計画を作成する際には,毎時間,一定の距離を走らせて記録を測定するのではなく,ペース走と記録会を交互に行うサイクルを効果的に活用すると,自分に合ったペース配分をつかむことができます。ペース走(2,000 m)600 m,400 m,1,000 m の 3 回に分けて,ペース配分をつかませる学習をする。記録会(2,000 m)前時のペース走でつかんだペースで,目標タイムを設定して記録に挑む。

    あと少しでゴールだよ諦めないで!自己新が出るよ!

    必死になって頑張る姿最後まで応援する姿=

    ペア学習の大切さ

    このペースなら行ける!ファイト!

  • 11

    ランニング強化につながる運動

    (1)授業の準備運動1 運動の前に行う準備運動ですが,普段行っている準備運動で十分です。しかし,準備運動は慣れてくると何も考えずに行ってしまう傾向にあります。大切なのは「何故準備運動を行うか」を理解することです。体の準備が不十分であれば関節の可動範囲が狭まり,動きもギクシャクします。動きが悪いと,ランニングフォームが乱れ,怪我のリスクが高まります。準備運動を行う時は,体の先端まで意識して,伸ばす・曲げる・捻るなどの動きをしっかり行いましょう。先端まで意識が行き渡ると体の動かし方や使い方の感覚がよくなり,そうすると,より一層体を動かす準備が整います。最初はなかなか意識ができませんが,自分の指先や足先を見ながら準備運動を行うと先端まで意識ができるようになります。

    ランニングをする上で重要な要素は多々ありますが,その1つに姿勢が挙げられます。

    近年,普段の姿勢が悪い人が増えている傾向にあります。普段の姿勢が悪いと,ランニングの姿勢も悪くなり,早めに疲れてしまい長く走れなくなります。疲れが出てしまうときついという意識が先行してしまい,ランニング本来の楽しみが失われてしまいます。ランニングに適した姿勢を意識させ,体に覚え込ませることが大切です。

    準備運動が終わり,体の機能が高まったところで姿勢作りを行うと効果的です。左図のように,足を肩幅程に開き,頭の後ろで手を組み胸も程よく張ります(①)。次につま先立ちをしながら腕を高く上げ背伸びを行い(②),そのまま脱力します(③)。上手く脱力できれば,程よく胸が張れ,綺麗に腰が入り,足の裏全体にまんべんなく体全体の重心が乗る姿勢が整います。この姿勢を普段から意識できるようになると,ランニング姿勢も改善され,楽に長く走れるようになります。

    (2)�授業の準備運動2�ランニングに適した姿勢を作る

    伸ばす

    伸ばす

    捻る

    曲げる

    ② ③

  • 12

    (3)体の軸を作る運動・補強運動 普段あまり使わない筋肉に刺激を与え,使いやすいように動かすことができれば,本来もっている体の動きができ,体の軸を意識することができるようになります。

    ①ツイストジャンプ上半身はなるべく動かさないように意識し,

    骨盤を中心に回転させます。ポイントは,両足の膝とつま先をピッタリくっつけて同じ方向を向いていることと,腕を上手く振り骨盤の回転速度を上げることです。両足の膝とつま先が離れてしまうと,体の軸が意識しづらく,骨盤の回転がぎこちなくなります。

    ②ランジウォークランニングで大切な筋群の中に,臀

    でん部ぶ

    ・ハムストリングスがあります。比較的大きな筋肉でランニングの推進力となる部位です。ランジウォークを行うことにより臀部・ハムストリングスに刺激を与え,使う意識を高めます。ポイントは,膝下を出す時はかかとを膝よりも前に出し接地することです。膝の真下や後ろで接地してしまうと,大腿四頭筋がよく使われ,臀部やハムストリングスがあまり意識できません。また,歩幅を大きくすることでバランスをとる事が難しくなり,より体の軸を意識しやすくなります。

    へその下辺りに力を入れることを意識しながら様々な動きを取り入れて,体幹を強化していきます。へその下への意識が弱いのであれば,各運動の前にへその下を軽く叩いて意識しましょう。体幹が強化されれば,体が安定し,スムーズに足が前に出てランニングが楽になります。

    ①逆立ち歩行(ペア)逆立ちをして不安定な状態を作り出し,腕を

    使い前後に進みます。

    (4)体幹運動

    大腿四頭筋

    ハムストリングス

    臀部かかとは膝下より前

    へそは常に前を向いている

  • 13

    ②ブリッジブリッジを行い,上体を上げ下げします。背

    中のアーチが綺麗になると,体幹全体が意識できます。

    ③スケーティングスピードスケートのポーズを取り,左右に大

    きくジャンプします。両サイドに目印になる線やマーカーなど設置すると,目標ができて大きなジャンプができます。また,上体が起きてくると負荷が軽くなるため,地面と平行になるくらい低く保てるとより効果的です。

    ④ラッコ体幹運動ラッコのような姿勢を作り,へその辺りを,貝

    が乗っているイメージを持ち,手で押さえます。肩と脚先を少し上げ,前後左右に体を揺らします。上半身,下半身がバラバラに動くとあまり効果がありませんので,1本の棒になったように,体全体が一緒に揺らせるように注意しましょう。

    ⑤トンボ体幹運動(ペア)手を広げトンボが飛んでいる姿勢を作り,片

    足立ちをします。この時,上半身は地面と平行になるのが望ましいです。補助者が支持足の逆足を持ち一瞬だけ引っ張りバランスをワザと崩します。引っ張り終えたらまた最初の姿勢を作り,繰り返し引っ張ります。強く引っ張る必要はありませんが,前後左右まんべんなく引っ張ったり,相手が不意を突かれるような方向に引っ張ったりするとより効果的です。

    前後

    左右

    支持足

  • 執筆者一覧

    ▪小学校低学年 ・ 中学年のランニング髙田由基 帝京科学大学 教育人間科学部 特任助教東京学芸大学大学院修了後,北海道旭川市立知新小学校,名古屋市立弥富小学校を経て,2018 年より現職。並びに同大学女子駅伝チーム監督。100 ㎞マラソンの日本代表として世界選手権6回出場。2014 年世界選手権個人5位。100 ㎞のベストタイムは6時間 40 分 37 秒。

    ▪小学校高学年 ・ 中学生のランニング佐藤善人 東京学芸大学 教育学部 准教授岐阜県の小中学校,東京学芸大学附属大泉小学校,岐阜聖徳学園大学教育学部を経て2016 年より現職。専門は体育科教育学。特に小中学校におけるランニングの授業づくり,運動遊びを活用した授業づくりの研究を進めている。趣味で走るマラソンの記録は,フル3時間21分,ハーフ1時間32分。2017年ランニング学会 学会賞受賞。

    ▪中学生の長距離走田口智洋 岐阜県高山市立中山中学校 教諭岐阜大学教育学部を卒業後,可児市立広見小学校,下呂市立東第一小学校,岐阜大学教育学部附属中学校を経て,2013 年より現職。同校では,陸上部・駅伝部顧問。駅伝では,男子が4年連続5回目,女子は2年連続8回目の全中駅伝に出場(2018 年現在)。2017 年度は男子が全国6位入賞,女子が全国 13 位。本人は,走高跳で国民体育大会に出場経験あり。今年は人生で初めてハーフマラソンを走る。

    ▪ランニング強化につながる運動揖斐祐治 岐阜経済大学 経済学部 講師麗澤大学,東亜大学を経て現職。2013 年より同校で駅伝部監督に就任し,全日本大学駅伝,出雲駅伝に出場を果たす。現在はランニングフォームの効率化を図り,パフォーマンス向上を目指した「ランニングエコノミー」の研究を進めている。競技実績は,高校時代,全国高校駅伝で2・3年と1区で日本人トップ,駒澤大学では,出雲駅伝・全日本大学駅伝・箱根駅伝の3大駅伝を1年から4年まで全て走り,区間賞6回獲得。その後,エスビー食品に進み,クロスカントリー種目で日本代表となる。

    本    社 /〒112ー0012東日本支社 /〒112ー0012東 京 支 社 /〒112ー0012中 部 支 社 /〒464ー0075関 西 支 社 /〒530ー0044九 州 支 社 /〒810ー0042https://www.dainippon-tosho.co.jp

    東京都文京区大塚3ー11ー6東京都文京区大塚3ー11ー6東京都文京区大塚3ー11ー6名古屋市千種区内山1ー14ー19高島ビル大阪市北区東天満2-9-4千代田ビル東館6階福岡市中央区赤坂1ー15ー33ダイアビル福岡赤坂7階

    ☎ 03(5940)8675☎ 03(5940)8689☎ 03(5940)8674☎ 052(733)6662☎ 06(6354)7315☎ 092(688)9595

    011811109