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技報 第 1 号(2003 年) - 1 - トンネル沈下対策工 -敬川トンネル工事- 広島支店 大塚 正 広島支店 角野公彦 広島支店 小林正憲 広島支店 吉田充宏 概要:敬川トンネル工事では,坑口部分が軟弱な地質区間であり地山崩壊防止対策 として,AGF工法と呼ばれる補助工法が採用されていた.特に貫通側坑口付近は 掘削施工中にトンネル沈下および周辺斜面滑動の危険があったため,対策として地 山計測データを基に脚部補強工(ウイングリブ、注入式レッグボルト)を実施した. キーワード:AGF工法,トンネル沈下,脚部補強工,ウイングリブ,レッグボルト 1.工事概要 本工事の概要を以下に示す. ①工事名 :江津道路敬川トンネル工事 ②発注者 :国土交通省中国地方整備局 ③工事場所 :島根県江津市敬川町地内 ④工期 :平成13年10月4日から平成14年11月22日 ⑤工事内容 :工事延長 L=360m(トンネル延長218m,仕上り内空断面約68㎡) (道路改良延長142m,切土掘削工他) 地質 泥質片岩および石英閃緑岩(弾性波速度 0.34.9km/s掘削工法 NATM上半先進掘削および全段面掘削 坑門工 2箇所(延長= 1.6m覆工コンクリート 延長=216.4坑内付帯工 1式 インバート工 延長=158.8m AGF工法 L= 12.5(n=93 ),L=18.5(n=21 ) 注入式フォポーリング L=3.0(n167 ),充填式フォポーリングL= 3.0(n765 ) 脚部補強工 ウイングリブ工法+注入式レッグボルト工法 延長=18.3大塚 正 角野公彦 小林正憲 吉田充宏 土木工事 土木工事 土木工事 土木工事 第二部 第二部 第二部 第二部 写真-1終点側坑口全景 写真-2 起点(貫通)側坑口全景

トンネル沈下対策工 -敬川トンネル工事- 広島支店 大塚 正...3500 t=250 R3= 962 0 350~850 覆工コンクリート 長尺鋼管フォアパイリング(AGF工法)

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技報 第 1 号(2003 年)

- 1 -

トンネル沈下対策工 -敬川トンネル工事-

広島支店 大塚 正 広島支店 角野公彦 広島支店 小林正憲 広島支店 吉田充宏

概要:敬川トンネル工事では,坑口部分が軟弱な地質区間であり地山崩壊防止対策

として,AGF工法と呼ばれる補助工法が採用されていた.特に貫通側坑口付近は

掘削施工中にトンネル沈下および周辺斜面滑動の危険があったため,対策として地

山計測データを基に脚部補強工(ウイングリブ、注入式レッグボルト)を実施した.

キーワード:AGF工法,トンネル沈下,脚部補強工,ウイングリブ,レッグボルト 1.工事概要 本工事の概要を以下に示す. ①工事名 :江津道路敬川トンネル工事 ②発注者 :国土交通省中国地方整備局 ③工事場所 :島根県江津市敬川町地内 ④工期 :平成13年10月4日から平成14年11月22日 ⑤工事内容 :工事延長 L=360m(トンネル延長218m,仕上り内空断面約68㎡) (道路改良延長142m,切土掘削工他) 地質 泥質片岩および石英閃緑岩(弾性波速度 0.3~4.9km/s) 掘削工法 NATM上半先進掘削および全段面掘削 坑門工 2箇所(延長=1.6m) 覆工コンクリート 延長=216.4m 坑内付帯工 1式 インバート工 延長=158.8m AGF工法 L=12.5m(n=93 本),L=18.5m(n=21 本) 注入式フォポーリング L=3.0m(n=167 本),充填式フォポーリングL=3.0m(n=765 本)

脚部補強工 ウイングリブ工法+注入式レッグボルト工法 延長=18.3m

大塚 正 角野公彦 小林正憲 吉田充宏 土木工事 土木工事 土木工事 土木工事 第二部 第二部 第二部 第二部

写真-1終点側坑口全景 写真-2 起点(貫通)側坑口全景

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技報 第 1 号(2003 年)

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本トンネル工事の地質縦断図を図-1に示す.

図-1 地質縦断図

2.起点側(貫通側)地形・地質状況とトンネル掘削方法 起点側坑口の地形は,坑口位置を挟んで凸型斜面の両サイドに沢地形が発達し,その冠頭部には

地滑りにより複数の滑落崖(写真-3)が形成されていた.またこの区間の地質は割れ目が著しい

石英閃緑岩(中生代白亜紀~新生代古第三紀)であり,地表面に近づくにしたがい風化変質して土

砂化または粘土化した脆弱な状態で,弾性波速度0.3~0.4km/s、N値10以下の調査結果であった.

当初設計では,この軟弱な地質区間のトンネル掘削補助工法として,切羽前方へ長さ12.5mの鋼

管(径約114mm)をアーチ状(間隔45cm)に打設し,鋼管周囲を地山改良材を注入することで切羽

トンネル支保工脚部の地耐力(支持力)不足

掘削施工中の地山荷重による支保工脚部の沈下

トンネル支保工全体の沈下

トンネル上部の地山緩み増大

地表の土塊の移動(滑落崖斜面下方の滑り)の発生

写真-3 起点側斜面滑落崖

弾性波速度(km/s)

敬川トンネル L=218m

AGF工法区間 AGF工法区間

脚部補強工区間

支保パターン

覆工厚(cm)

泥   質 石   英

NO.97+49.0

100

50

(  )mm

(  )

補 助 ベ ン チ 付 全 断 面 工 法

( 上 下 半 交 互 併 進 工 法 )

ン閃   緑   岩

片   岩

岩 閃 緑 岩

上 半 先 進 ベ ン チ カ ッ ト 工 法

石 英泥   質   片   岩

( 上 下 半 交 互 併 進 工 法 )

上 半 先 進 ベ ン チ カ ッ ト 工 法

石   英   閃   緑   岩

泥   質   片   岩泥   質   片   岩

1:500

1:500

50

100

NO.95+31.0

HC

MC

LC

CL

L=19.00m

CL

4 0

CL

CM

CH

2 0

N値

CL

Bor.No.2

L=39.

00m

GH=91.12m

1 0

L=27.00m

0

2 0

GH=68.3

6m

DH

4 0

CM

5 03 0

GH=76.11m

DM

DL

5 0

D

CM

CM

4 0

CL

CM

CM

CH

CH

CL

CM

2 0

L=12

.00m

CH

CL

CM

CH

GH=6

3.99m

CM

L=14.00m

N値 4 0

GH=6

5.96m

C ~ L~

20

Bor.No.1

BV-2

BV-1

CL

L~

CL

CL

CM

CH

1 00

CH

Bor.No.4

CM

MC

~CL

3 0

L

CL

M

CM

C

.

2. 1

.

4. 9

CM

30

Qd4.9

1

2. 1

CM

4.9

2

0.3 5

0.3 5

CL

0.9 5

CH

1. 4

1

Sm

CL

(

4

0. 3

dt

CH

CM

Ts

2.1

(

CM

(3.3 )

CH

Qd

Qd ~

Qd

.

)1

Po

CL

CL

4. 9

.

4. 9

Qd

D

D

CM

Po CH

D

D D

D

D

D

6 )

(2.0 )

CM

0.4

0

CM

1.4

2.1

(

CH

CL

.

5

0. 5

CL

0.4

4. 9

CL4)

CM

0. 5

0. 8

CL

.

D

0. 3

0 8

2

CL

. 5

Qd CH

Sm

( Q d )

( S m )

( S m )

( P o )

( Q d )

( P o )

( S m )

( Q d )

( S m )

1:500

1:500

区間長(m)

掘削工法

地 質 名

98+ 0

+80

97+ 0

+20

96+ 0

+80

+60

+40

95+20

+60

+40

+60

+80

+40

+20

坑門工 DⅢa―2 DⅢa DⅠ CⅡ DⅠ DⅢa DⅢ―1 DⅢa―3 坑門工 DⅢa’-2 DⅢa-4 DⅢa’-1

35 35 35 30 30 30 35 35 35 35 35

4.3 16.8 25.0 15.0 57.6 39.0 9.0 12.0 18.0 15.4 4.3

0.9 0.7

0.4 0.35 0.3~0.35 0.95 2.1 4.9 2.1 1.0 1.4 0.3~0.4 0.4

測 点

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技報 第 1 号(2003 年)

- 3 -

1800

3500 1500

R2=

4810

ロックボルト 

R4=

1 680

0

R1=

6380

e=260

250

t=350~850

吹付コンクリート

7807

5177

SL

3500

t=250

φ114.3×6.0×12.64m 注入長L=12.5m

R3=9620

覆工コンクリート350~

850

長尺鋼管フォアパイリング(AGF工法)

完成時道路中心

1500

r4=

17300

トンネル中心

250

暫定時道路中心

L=4000

参考図―1 AGF工 標準断面図 写真―4 AGF工 施工状況

崩壊抑止するAGF工法(参考図-1、写真―4)が採用されていた.しかし、脆弱な地層区間での

トンネル掘削施工では,更に以下に示す問題点があった. 3.脚部補強対策工

本工事では上記の問題点への対策として,当初設計の補助工法に加えて以下を実施した.

(1)斜面挙動監視工(トンネル掘削の斜面滑動への影響監視)

①滑落崖への地表面伸縮計の設置

②追加ボーリンク(K-1)調査の実施

③K-1ボーリング孔への坑内傾斜計の設置

(2)脚部補強工の検討および採用

①上半支保工脚部の地山支持力測定の実施

②上半支保工脚部の支圧面積を大きくする

YMウイングリブの採用

③上半支保工脚部の地山支持力補強対策工

※上半支保工脚部は、上半掘削直後から下半掘 写真―5 起点側坑部 正面全景

削インバート工まで地山荷重等を支える箇所である.

図―2 起点側坑口付近平面図

写真-3 滑落崖位置

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技報 第 1 号(2003 年)

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(3)上半支保工脚部の地山支持力補強対策工 上半脚部支持力を補強することで,次の効果が得られる.

① 地盤反力の低減(掘削による脚部緩み領域の外へ広く地山荷重を分散させる). ② 地盤強度を増加させることで,掘削による脚部地山の緩みの低減・安定化を図る. ③ 下半掘削時の脚部地山に働くせん断変形(地山の測方移動)の抑制.

本工事では全体工程が厳しいため,掘削施工サイクルに影響が少ない3つの工法を確実性・施

工性・経済性より比較検討した結果,注入式レッグボルト工を最適と判断し採用した.

表―1 上半支保工脚部補強工の比較表

注入式レッグボルト工 (地山注入) 脚部補強ボルト工 (地山補強) レッグパイル工法 (AGP工法)

概要図

工法の

概要

支保工脚部に注入ボルトを打設し,ウレタン系注入材(シリ

カレジン)等を圧入して,補強ゾーンを形成する工法.地山の

空隙充填固結・強度増加により,地山の安定や支持力の増加を

図る工法.

全面接着型のロックボルトを打設し,地盤のせん断補強や地盤

の強度増加などにより,地山の安定や支持力の増加を図る工法.

支保工脚部の地山に鋼管を打設した後,ウレタン系(シリカレ

ジン)注入材を圧入して支持耐力の大きい摩擦杭を構築すること

により,脚部沈下の抑制や支保構造の安定を図る工法.

・非常にルーズな崖錐堆積物層の空隙を充填・固結させることで,不

安定な崖錐堆積層を安定化させることができる.

・摩擦杭を形成する鋼管タイプと比較すると,対策工の効果はやや劣

るが,脚部補強工としての施工実績が多い.

・ボルトの削孔径を杭径とする摩擦杭であるため,大きな支持力

は期待できない.

・大きな緩み荷重が想定される締りの悪い脆弱な地層の場合,地耐力

不足による支保工脚部沈下防止の効果は小さい.

・鋼管と注入材が一体となり,摩擦杭的に荷重を支持するため,支持

力は比較案中最も大きい.

・下半掘削時には,鋼管の曲げ剛性が期待できる.

確実性

〇 × ◎

・施工サイクルに組み込める.汎用機を使用するため,大きな段取り

替えはない.

・施工サイクルタイムも鋼管タイプと比較して有利となる.

・施工サイクルに組み込める.汎用機を使用するため,段取り替えは

少ない.

・施工サイクルに組み込むことができ,かつ汎用機械を使用するため,

大きな段取り替えは必要ない.

・鋼管打設を下向きに行う必要があり,鋼管の打設においてやや難施

工が想定される. 施工性

◎ ◎ ○

・鋼管タイプと比較すると,比較的安価に施工可能.多量の注入量を

必要とする場合は,割高となる可能性がある.

・全面接着型のロックボルトを打設するため,比較案中で最も経済的

となる.

・鋼管とシリカレジン注入材の双方を併用する必要があるため,やや

割高となる.

経済性

45万円/m程度 9万円/m程度 87万円/m程度

比較的簡便に施工できる上に,注入で地山を改良することができる.

またレッグパイル工法(AGP工法)と比較すると比較的安価であり,

脚部補強工の初期対応として使用される場合が多い.

施工性,経済性の面では,比較案中最も有利となるが,対策工の目

的である所定の支持力が確保できない.(地耐力不足を補うことが不可

能である.)

脚部沈下防止効果は極めて大きいが,鋼管の打設においてやや難施

工である.経済的に割高となるため,地山注入タイプで効果を得るこ

とができない場合の次の対策とする. 総合評価

◎ × ○

脚部補強

ボルト レッグパイル 地山改良工

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技報 第 1 号(2003 年)

- 5 -

   

SL

     

 

    

32 4(切羽側) (切羽側)

脚部補強対策施工図

YMウイングリブ

シリカレジン注入

(自穿孔ボルト)

レッグボルト L=3.0m N=2

上半

部下

半部

インバート部

上半盤

下半盤

インバートコンクリート

上半支保工脚部

図―3 脚部補強工標準断面図 写真―6 支保工脚部地山支持力試験

写真―7 YMウイングリブ 写真―8 YMウイングリブ設置状況

写真―9 注入式レッグボルト打設状況 写真―10 注入式レッグボルト注入状況

写真―11 注入式レッグボルト注入終了 写真―12 注入量確認

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技報 第 1 号(2003 年)

- 6 -

明かり部

L=2.9m

4.9 km/s

弾性波速度

AGF L=12.5m 3シフト注入式フォアパイ

D a'-1 

L=4.3m

弾性波速度 0.3~0.4 km/s

弾性波速度

1.4 km/s

⑥No.95+50

⑫No.95+39⑧

No.95+46

⑨No.95+44

⑮No.95+34

⑭No.95+36

No,95+60

⑬No.95+37

195

⑪No.95+40

⑦No.95+48

②No.95+58

⑩No.95+42

185165

③No.95+56

④No.95+54

No,95+40

K-1(L=2

8.0)

D a-1 L=18.0m D a-3 L=15.4m

BV-1(L=27.0

No,95+

85.0

No,95+

54.0,

センター右

12.6m

t=0,700

No,95+70No,95+80

⑤No.95+52

No,95+50

D a-4 L=12,0m

坑門工 

地表面伸縮計

滑落崖

175170155

No,95+90

貫通

160 180 200150 205

探り

低速度帯

①No.95+60

No,95+

31

190

支持

力試

Bor.No.

実施

位置

15回

坑 門

弾性波速度 0.40km/s層

削孔

トンネル上半部

No,95+

30.0

(L=17.0

〔平均土被り 5.0m〕

上半

下半

脚部補強工実施区間

図―4 起点側坑口付近縦断図

4.脚部補強工(ウイングリブ,注入式レッグボルト)採用基準の算出

起点側坑口部においてトンネルを構築する場合に必要な地耐力を算定する.検討区間はボーリン

グ調査結果と地山弾性波速度値結果から,0.3~0.4km/s層(以下0.4km/s層と呼ぶ)とする.過年度

のボーリングデータによればウイングリブを設置する地山は,1.4km/s 層からに 0.4km/s 層に急激

に変化している.そのため対策工は0.4km/s層に実施するものとし,両地層境界付近より簡易試験

器(キャスポル)にて支持力チェックを行い,脚部補強工実施の判断基準とした.なお,対策工を実

施する地盤反力の目安としては,坑口部(0.4km/s 層)の平均土被りと物性値にて計算した. (1)地質、地形および諸条件

地質 : 0.4km/s 層のマサ土

粘着力 : 0.0kN/㎡

内部摩擦角 :φ=30°

単位体積重量 :γ=18.6kN/m3

土被り : 5.0mと仮定

トンネル掘削幅: 12.8m

トンネル掘削高: 5.8m

鋼製支保工DⅢa1基の重量 : 12.78 kN

吹付けコンクリート単位体積重量: 22.25 kN/m3 図-5 検討モデル断面図 (2)地山荷重の設定 〔DⅢa-3開始地点~貫通点〕

トンネル作用土圧については,テルツァギーの式が代表的である.トンネルに作用する土圧Pv

は次式で表される.

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技報 第 1 号(2003 年)

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また本トンネルでは掘削に先立ち,拡幅型AGF工法を併用することから,パイプルーフ的な減

圧効果を考慮するものとし,上記緩み荷重の50%が上半アーチ部に作用するものとする. (脚部補強工 技術資料 2000 年 11 月;ジェオフロンテ研究会)

B(γ-2C/B)

Pv=

2K×tanφ

[1-exp(-2K×D/B×tanφ)]×0.5

ここに K :係数K=1 γ:単位体積重量(kN/m3)

D :土被りの厚さ(m) C:粘着力(kN/㎡)

B :B=Bt+2Ht×tan(45-φ/2) φ:内部摩擦角

Bt :トンネル掘削幅(m) Ht:トンネル掘削高(m)

トンネルに作用する土圧Pvは

Pv= 40.3(kN/m2)

(3)支保工脚部への地山荷重

支保工脚部に作用する地山荷重Pは,トンネル支保工脚部片側の奥行き1m当たり P=1/2 × P v × B t したがって P=1/2×40.3×12.8=257.9 kN となる.

(4)支保工脚部の作用荷重

明かり支保工脚部に作用する荷重Pは,トンネル支保工脚部片側の奥行き 1mあたりトンネル鋼

製支保工DⅢa の自重;W1と,支保工外周キーストンプレート(KP-1)重量W2,支保工吹付けコン

クリート重量W3および溶接金網の重量W4の合計重量が荷重Pとなる. W1= 12.78 kN W3= 122.49 kN( 周長;22.02 m × 0.25 m×22.25 kN/m3より) W4= 0.47 kN ( 外周長;22.6 m × 20.58 kN/m3より) P=1/2 × (W1 + W3 + W4) したがって P=1/2×(12.78+122.49+0.47) = 67.9 kN となる.

よって 257.9+67.9 = 325.8 kN (5)トンネル一般部の必要地耐力

・標準支保工を使用する場合 吹付けコンクリートの面積=0.25m×1m=0.25m2

必要地耐力=325.8kN÷0.25m2=1303.2 kN/m2 ・ウイングリブ工法を使用する場合 吹付けコンクリートの面積=0.75m×1m=0.75m2

必要地耐力=325.8kN÷0.25m2=434.4 kN/m2 (6)検討結果

これらの計算結果から,標準支保工で対処可能な必要地耐力は 1303.2kN/m2 以上となる.一

方,例えウィングリブ工法を併用したとしても,地耐力が 434.4 kN/m2 以下の場合は,上半支

支保工脚部の支持力が不十分で,脚部の沈下が懸念される.よってウィングリブ工法+注入式

レッグボルト工を併用することでその対応を行った.保工脚部の支持力が不十分で,脚部の沈

下が懸念される.よってウィングリブ工法+注入式レッグボルト工を併用することでその対応

を行った.

qa > 1303.2 kN/m2 → 標準支保工

434.4 < qa < 1303.2 kN/m2 → ウィングリブ工法

qa < 434.4 kN/m2 → ウィングリブ工法+注入式レッグボルト工

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技報 第 1 号(2003 年)

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5.脚部補強工の実施 本工事にて脚部補強工を施工した際の,検討・実施の流れを図―6に示す.

図-6 検討・実施フロー図 注入式レッグボルトの施工順序を,図-7(写真-9~12参照)に示し,また①から⑦に1施工サ

イクルを示す.

① 穿孔準備(ドリルジャンボ設置、

資材搬入等)

・・・・・・・・10分

② 穿孔(ボルト長3m*4本)

・・・・・・・・16分

③ 穿孔片付け

・・・・・・・・10分

④ 注入準備(注入機設置、配管等)

・・・・・・・・10分

⑤ 口元コーキング(4本)

・ ・・・・・・・12分

⑥ 注入(50kg/本*4本)ポンプ 2 台

使用

・・・・・・・・26分

⑦ 注入片付け

・・・・・・・・10分

1 施工サイクル計88分

注入材シリカレジン約4倍発泡

・圧縮強度;約4N/mm2

図-7 注入式レッグボルト施工順序図

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技報 第 1 号(2003 年)

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6.施工中の計測結果および考察

脚部補強工実施中のトンネル掘削位置と斜面挙動(K-1でのトンネル縦・横断方向の変位)を,

図-8から図-10に示す.また,脚部補強実施区間(No.95+44の位置)での経時変化を図-11

に示す.

図-8 切羽位置5/30〔緑=No.95+60〕での斜面縦断挙動(左)および横断挙動(右)

図-9 切羽位置6/6〔緑=No.95+52〕での斜面縦断挙動(左)および横断挙動(右)

図-10 上半貫通時6/14〔緑=No.95+37〕での斜面縦断挙動(左)および横断挙動(右)

Page 10: トンネル沈下対策工 -敬川トンネル工事- 広島支店 大塚 正...3500 t=250 R3= 962 0 350~850 覆工コンクリート 長尺鋼管フォアパイリング(AGF工法)

技報 第 1 号(2003 年)

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図-11 坑内No.95+44の位置での経時変化図

図-8から図-10 より切羽位置が脚部補強工開始地点(No.95+52)より進行するに従い,斜

面は傾斜方向へ変化している.脚部補強工区間においてトンネル上方への緩みが斜面へ影響を及ぼ

したことがわかる.なお斜面方向への変位は最大でも 20mm 以下であった.また図-11 よりトンネ

ル内変形はほとんど発生せず,トンネルの沈下が上半掘削後に 28mm,下半掘削後に累計 60mm で収

束となり,この区間の計測管理基準値内にて施工できた.

よって今回実施した脚部補強工は,脆弱な地質区間でトンネル沈下抑制の目的を果たしたと考える.

7.おわりに 本工事において検討・実施したトンネル沈下対策工は,当該地質の事前情報(地山の特性値、地

質状況等)を可能な限り集約した上で問題点を抽出し,施工中の坑内坑外計測の多角的な分析から

地質変化に対する施工の安全性・合理性を確認し実施した. トンネル掘削では,地質状態を事前に 100%数値化することができない.そのため当初設計パタ

ーンは,あくまで事前の地質調査結果を基にしたものであり,決して十分なものではない.NAT

M工法の特徴は施工中に得た,より確度の高い情報を以降の施工に反映させ,安全性・経済性の向

上を図る情報化施工であり,本事例はまさにその典型といえる. 謝辞 本工事を施工するにあたり,国土交通省浜田工事事務所の国吉副所長をはじめ,ご指導ご協力頂

いた関係者各位にこの場をおかりして深く感謝の意を表します. 参考文献

1)道路トンネル観察・計測指針(平成5年11月 社団法人 日本道路協会)

2)トンネル標準示方書「山岳工法編」・同解説(平成8年版 社団法人 土木学会)

3)脚部補強工 技術資料(1995 年 12 月 ジェオフロンテ研究会)