屋上に階段 を増築する 屋上に橋を増築 交差点 ( バディ・チョウディバル ) アーケード 日時計 住宅 住宅 住宅 レストラン レストラン カフェ カフェ ヴォリュームを くり抜き道を通す それぞれのボイドや周囲の屋上空間 を経由して様々な人々が行き交う 1 月24日の太陽の軌道の変化によっ て日の光が地下空間まで差し込む 奥行きのあるルーバーによって日 射を遮りつつ、室内に風を通す 段階的に屋上の公共空間は広がっていく 全方向を見渡せる 屋上回遊公園 多目的スペース 住居 本屋 屋上に屋根を架けて日影をつくる 屋上コンコース レストラン 店舗 オフィス 階段市場 地下鉄駅 貯水槽 貯水槽 中庭 壁に開いたを通して様々な方向か ら日時計をみることができる 上方へ広がるボイドでは各層毎に様々な 活動が広がる ボイドまわりの階段によって円環状につながっ たボイド空間を立体的に回遊できる 「空」内包建築 「空」円環建築 日時計としてのボイドを中心として螺旋状に回る階 段によって、空間化された時間を多様に体験できる フードコート ボイドを中心とした同一平面が垂直方向に連続する、伝統的建築が集合して形成されているジャイプルでは、 そこで暮らす人びとにとって水平に広がる2次元的な都市空間が実際の生活の場であり、 そして彼らの世界観の素地を形作っていた。 立体マンダラ建築は、「空」を中心する伝統的建築のあり方を、現代的に発展させることを志向し、 ボイドを三次元的に構造化して地上と屋上をつなげることで、 都市空間を三次元的な都市空間に展開させることができる。 一つのボイドを中心とした建築に一つの世界観の素地がある。 人びとは風に包まれて、様々なボイドを、「世界」を渡り歩いていく。 こうして立体マンダラ都市へ進化するのである。 風のマンダラ都市となるのである。 風のマンダラ都市 ジャイプルの伝統的建築を参照した立体マンダラ建築の考案 Breezing Mandala City Architecture as Sterical Mandala Reffering to Traditional Space of Jaipur A-A'/B-B' 都市断面パースペクティブ 1/500

ジャイプルの伝統的建築を参照した立体マンダラ建 …...Pitha Mandala (3×3) マンダラの中心は空とされ、ジャイプルでは周縁の高密度な住

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: ジャイプルの伝統的建築を参照した立体マンダラ建 …...Pitha Mandala (3×3) マンダラの中心は空とされ、ジャイプルでは周縁の高密度な住

屋上に階段を増築する

屋上に橋を増築

交差点 ( バディ・チョウディバル )

アーケード

日時計

住宅

住宅

住宅

レストラン

レストラン

カフェ

カフェ

ヴォリュームをくり抜き道を通す

それぞれのボイドや周囲の屋上空間を経由して様々な人々が行き交う

1月24日の太陽の軌道の変化によって日の光が地下空間まで差し込む

奥行きのあるルーバーによって日射を遮りつつ、室内に風を通す

段階的に屋上の公共空間は広がっていく全方向を見渡せる屋上回遊公園

多目的スペース

住居

本屋

屋上に屋根を架けて日影をつくる

屋上コンコース

レストラン

店舗

オフィス階段市場

地下鉄駅

貯水槽貯水槽

中庭

壁に開いたを通して様々な方向から日時計をみることができる 上方へ広がるボイドでは各層毎に様々な

活動が広がる

ボイドまわりの階段によって円環状につながったボイド空間を立体的に回遊できる

「空」内包建築 「空」円環建築日時計としてのボイドを中心として螺旋状に回る階段によって、空間化された時間を多様に体験できる

フードコート

ボイドを中心とした同一平面が垂直方向に連続する、伝統的建築が集合して形成されているジャイプルでは、

そこで暮らす人びとにとって水平に広がる2次元的な都市空間が実際の生活の場であり、

そして彼らの世界観の素地を形作っていた。

立体マンダラ建築は、「空」を中心する伝統的建築のあり方を、現代的に発展させることを志向し、

ボイドを三次元的に構造化して地上と屋上をつなげることで、

都市空間を三次元的な都市空間に展開させることができる。

一つのボイドを中心とした建築に一つの世界観の素地がある。

人びとは風に包まれて、様々なボイドを、「世界」を渡り歩いていく。

こうして立体マンダラ都市へ進化するのである。

風のマンダラ都市となるのである。

風のマンダラ都市ジャイプルの伝統的建築を参照した立体マンダラ建築の考案

Breezing Mandala CityArchitecture as Sterical Mandala Reffering to Traditional Space of Jaipur

A-A'/B-B' 都市断面パースペクティブ 1/500

Page 2: ジャイプルの伝統的建築を参照した立体マンダラ建 …...Pitha Mandala (3×3) マンダラの中心は空とされ、ジャイプルでは周縁の高密度な住

図 3. ボイドの断面構成

図 2. ボイドの平面構成

配列規則規則あり

規則なし求心 線

差あり

差なし

多種

二種

サイズ

0 0 4

4 1 2

2 2 0

上階 - 地面地面のみ上階

ボイドの底面の位置 ボイドの組み合わせ

地面

図 1. ジャイプルの街区構成とマンダラ図

Pitha Mandala (3×3)マンダラの中心は空とされ、ジャイプルでは周縁の高密度な住宅街に対してボイドを多数含む王宮が中心に位置づく。ジャイプルの都市空間と伝統的建築はマンダラ図に基づいた入れ子構造的な関係を成している。

「空」

城門城壁

王宮

敷地

中心街区の中庭

建築の中庭

建築の中庭

Jaipur

チョウパルを中心とした歩行者ネットワークを提案する。バディ・チョウパルに接続する敷地から人々を屋上へ導き、屋上拠点を介して街区内へ向かう人々の屋上ネットワークを経由した流れをつくり出す。

図 9. チョウパルを中心とした屋上ネットワーク

地下鉄新駅

バディチョウパル

人の流れ

屋上の公共空間

交差点屋上ネットワーク

屋上拠点

屋上へ人々を導く 拠 点 と し て

「空」内 包 建 築を計画し、屋上ネットワークの拠点として「空」円環建築を計画することで、歩行者のための屋上空間の構築を試みる。

地下鉄新駅

Ramganji Bazar

Joha

ri Ba

zar 卍

図 10. 地下鉄駅と屋上拠点の接続と計画敷地

屋上へ人々を導く拠点 歩行者のための屋上ネットワークの拠点

屋上の公共空間

「空」内包建築

「空」円環建築

地下鉄バディチョウパル

バディチョウパル

小街路

8

9 11

図 4. ボイドの面する壁面表現 図 5. ボイドの地面表現

上部開放列柱重層壁エレメントあり空間的 (19)

111 78

面的 (8) なし

図 6. 増改築と屋上空間 (左 :Jains House / 右 :Hardyon Haveli)

既存住宅

学習塾の増築

1920’s

2016

屋上に中庭を増築

休み時間の屋上

チョウパルに地下鉄駅が新設され、街区内で自動車交通が制限されることで、チョウパルに人の流れが集中。

図8. 現在の都市計画

大街路のみの自動車交通

図7.建築の所有システム

行政土地

借地権

土地管理費

屋上の増改築が発生

賃貸料

土地税

屋上システムの管理

所有権利用権

民間室

民間建築

土地管理者建築

主体所有物

をつくる上で重要な拠点になると考えられる ( 図9 )。本計画では、都市全体におけるチョウパルを中心とした開発を想定し、その一例としてガート・ダルワージャ北西地区のバディ・チョウパルに接続する敷地に、屋上へ人々を導く拠点として「空」内包建築を、この近傍にある小街路の交差点に、屋上の公共空間をつなぐための屋上ネットワークの拠点として「空」円環建築を計画することで、歩行者のための屋上空間の構築を試みる ( 図 10)。ボイドを複層的に内包する「空」内包建築では、建築の中心から、日時計の機能をもつボイド、チョウパルや地下鉄駅と屋上とをつなぐボイド、居住・商業・業務機能が複合する ( 図11 )。この建築の内部では、日時計の機能をもつボイドのまわりで人々が都市活動を営む ( 図12 )。日時計のボイドには大小様々な開口が設えられ、地下鉄駅から屋上までをつなぐボイドに、時間や季

節の変化に応じて異なる光を投射する。階段市場にいる人々、ボイドの中を螺旋状に回り屋上へ導かれる人々は、様々な方向からの日時計の光を感じる。ループ状のボイドで計画される「空」円環建築では、教育・居住・業務・商業機能が入るボリュームに囲まれた上方に広がる、もしくは下方に広がる異なる形状をもつ4つのボイドが相互に連結し円環状の構造を成す ( 図13 )。様々な機能に囲まれたボイドが屋上階と地上階の間をスケールを変化させながら連続し、人々はボイドの中に設えられた螺旋状の階段によって建築内を立体的に回遊する。屋上階においてはオフィスや店舗、住居などといった異なる活動が表出するコンコースが展開される。以上のように、ネットワークの拠点となる「空」内包建築と「空」円環建築によって地上と屋上が連続し、屋上の公共空間のネットワークにおいて人々の様々な活動が連続する。こうしてジャイプルはボイドを中心とした屋上空間に風に包まれ、多様な人々の生活風景が広がる風のマンダラ都市となる。

4. 結  本研究では、ジャイプルの伝統的建築についてボイドの表現を整理した上で、ボイドが三次元的に構造化された2つの立体マンダラ建築を考案した。このことによって地上空間と屋上空間を接続することで、風に包まれて様々な「空」を三次元的に渡り歩く風のマンダラ都市を提示した。そしてこれは現代のジャイプルにおいて、「空」を中心としたヒンドゥー的都市理念を紡ぐものとしての建築形式を、都市規模で継承するあり方を示すものだと考える。

図 11. 立体マンダラ建築の断面計画ダイアグラム

街の人々を屋上へ誘う

人々を屋上空間へ広げる

屋上空間と地上空間を接続

「空」内包建築

「空」円環建築

街路

ボイド屋上空間

屋上カフェ屋上レストラン

屋上空間

ボイド

住宅

レストラン

商業施設

商業施設

業務施設

既存建物

既存建物

既存建物

商業施設 業務施設

日時計としてのボイド

貯水槽

貯水槽

地下鉄

バディ・チョウパル

1. 序  北インドに位置するジャイプルは、18 世紀初頭にヒンドゥー的都市理念1)に基づいて計画された、現存する数少ない都市である。この都市は、マンダラ図に基づいた同心方格囲帯状の街区構成をとり、それぞれの街区は伝統的な中庭型建築が密集している ( 図 1)。近年では、都市人口の増加に伴う街区の高密化や建物の高層化が進み、更に都市の近代化を背景とした中庭のない無性格な建物への建替が進行している。今後、都市の文化的価値を生かした観光都市としての開発が予想されるジャイプルでは、伝統的な建築形式を継承するための建築的戦略が求められている。そこで本計画では、ジャイプルの伝統的建築を参照し、地下鉄新駅に接続する敷地を対象に、ボイドが三次元的に構造化された建築を立体マンダラ建築として考案することで、建物の境界を超えて街路から屋上まで人や風の行き来する公共空間が広がる都市建築群を提示する。

2. マンダラ図に基づく伝統的建築の表現2-1. 伝統的建築の特徴と都市における位置づけ マンダラ図において最も重要である中心は「空」2)とされる。ジャイプルには、マンダラ図に基づいて都市全体、街区、建物といった様々なスケールで、「空」を表す大小の中庭がボイドとして設えられている。このように、ジャイプルの都市空間と伝統的建築はマンダラ図に基づいた入れ子構造的な関係を成している。2-2. 伝統的建築にみるボイドの複合表現  

ジャイプルに残る伝統的建築の中でも宮殿や邸宅などには、多数のボイドが複合された多様な建築表現がみられる。そこで、これらのうち15軒を資料にボイドの複合のあり方を検討した。まず、ボイドの配列の規則とサイズの違いから平面構成を整理した ( 図2 )。その結果、2種のサイズのボイドが求心的に配列されているもの、多種のサイズのボイドが不規則に配列されているものなどがみられた。次に、ボイドの断面構成を検討したところ、ボイドの底面が地面に位置するものと上階に位置するものとの組み合わせで捉えられた ( 図3)。2-3. ボイドの面する壁面と床面の表現および屋上空間伝統的建築には前節で検討したボイドの複合表現以外にも、ボイドの面する壁面や床面の表現に特徴がみられたため、19 軒の現地調査を行い、これらの表現について整理した3)。壁面には回廊などにより奥行きを感じさせる空間的な表現が多くみられ ( 図4)、床面では噴水などにより中心性を強調する表現や無地の仕上げにより空白の状態を強調する表現がみられた ( 図5 )。また、住宅のような生活が息づいた建築では、部分的な増改築によって、ボイドのまわりに様々なレベル差をもつ一連の屋上空間が発生し、夕涼みや談笑などの豊かな活動がみられた ( 図6)。

3. 風のマンダラ都市3-1. 地上と屋上を接続する都市建築  都市化の進むジャイプルでは、街路の過密化に伴い人々の活動を受け入れる新たな公共空間が求められている。こうした中で、既存の建築が個人によって自由に分譲されている状況を鑑みると、屋上を行政が買い取り、一体的な公共空間として開放していくことは、屋上空間が隣家と連続することが多いジャイプルにおいて有効であると考えられる ( 図7 )。そこで、過密化した地上から屋上の公共空間へ人々を導くネットワークの拠点として、ボイドが三次元的に構造化された立体マンダラ建築を考案する。3-2. 計画  現在のジャイプルでは、開発の一環としてチョウパル(大街路の交差点広場)に地下鉄駅を新設し、それに合わせて自動車交通を大街路に限定することが計画されている。このことから、チョウパルは人の流れが集中し ( 図8 )、都市における歩行者ネットワーク

『曼荼羅都市-ヒンドゥー都市の空間理念とその変容』(布野修司著 / 京都大学出版会)によると、一般に、ヴァストゥ・プルシャ・マンダラに従って計画され、宇宙の構造を具象化しようとする都市理念である。目に見えるもの(「有」)ではなく何もないこと(「無」)でもない、すべてのエネルギーの源のことを指す。マンダラ図に基づく建築 19 軒のうち 20 件のボイドを対象としている。

注)1)

2)3)

街路

街路街路

貯水槽

地下階

円環ボイド

「空」積層ボイドダイアグラム

「空」円環建築構成ダイアグラム

屋上都市へ 屋上都市へ

街路 街路

「空」内包建築から

「空」内包建築から

貯水槽

住居が付帯するボイド

商業施設が付帯するボイド

オフィスが付帯するボイド

学校が付帯するボイド

交差点

貯水槽

ボイド

冬至

夏至

階段市場

地下鉄駅

日時計としてのボイド

地上と屋上をつなげるボイド

「空」内包ボイドダイアグラム

「空」内包建築構成ダイアグラム

屋上都市へ

日時 計としてのボイド

チョウパルと屋上を接続するボイド

チョウパルと屋上を接続

日時計の周りを 螺 旋 状に 回りな がら上る

多 数の窓により付帯施設と日時計を結ぶ

商業・業務・居住機能を複合施設

屋上都市へ

駅から

チョウパルから

屋上レストラン

夏至と冬至に2つの穴から光が降る

配置図 1/1250

Page 3: ジャイプルの伝統的建築を参照した立体マンダラ建 …...Pitha Mandala (3×3) マンダラの中心は空とされ、ジャイプルでは周縁の高密度な住

1 階平面図 1/600地階平面図 1/600(「空」内包建築)

4 階平面図 1/600

3 階平面図 1/800(「空」内包建築)

西側立面図 1/400(空内包建築)

2 階平面図 1/800(「空」内包建築) 5 階平面図 1/800(「空」内包建築)

6 階平面図 1/800(「空」内包建築)

階段市場

新設地下鉄駅へ

バディ・チョウパル

オフィス

店舗

貯水槽

レストラン

屋上レストラン

カフェ

店舗

住居

住居

屋上レストラン

住居

日時計のボイドと階段市場のボイド(空内包建築)

チョウパルから透けて見える階段市場のボイドと日時計のボイド(空内包建築)

Page 4: ジャイプルの伝統的建築を参照した立体マンダラ建 …...Pitha Mandala (3×3) マンダラの中心は空とされ、ジャイプルでは周縁の高密度な住

Haldion Ka Rsta 断面図 1/400(空円環建築)

1 階平面図 1/600(「空」円環建築)

地階平面図 1/800(「空」円環建築)

2 階平面図 1/800(「空」円環建築)

4 階平面図 1/600(「空」円環建築)

3 階平面図 1/800(「空」円環建築)

5 階平面図 1/800(「空」円環建築)

住居

貯水槽

浄水槽

オフィス

オフィス

住居

教室

フードコート

店舗

教室

ホステル

多目的スペース

講義室

オフィス

会議室

オフィス

露店

住居

ホール

屋上コンコース

レストラン

ブックストア

ボイド内の螺旋階段によって屋上へ接続する / 下からフードコート、本屋、露店、レストラン(空円環建築)

ボイドに外接する螺旋状の階段によって屋上へ接続する / 下から住居、多目的スペース、屋上コンコース(空円環建築)