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超音波画像診断 超音波画像診断 超音波画像診断 1 1 579 Vol.38 No.5 超音波画像診断 超音波画像診断 超音波画像診断 1 1 心臓の超音波:最近の進歩 桜橋渡辺病院内科 伊藤 浩 はじめに 循環器領域においてCT、MRI、PETなど画像 診断モダリティーの進歩は著しい。このような中 で心臓超音波検査は、ともすれば埋没しがちであ る。しかしながら、緊急の現場での診断、心臓の 病態の把握、治療戦略の決定、そして治療効果の 評価において、心臓超音波は必須の検査であり、 臨床に根付いた検査といえる。 本稿では心臓超音波を用いなければ評価できな い、そして最近の進歩が著しい分野を紹介したい。 それは、①心筋コントラストエコー法による心筋 血流の評価、②左室の機械的収縮時相のずれ、 dyssynchronyの評価、③ストレインを用いた局 所心機能評価である。 心筋血流の定量的評価を目指した 心筋コントラストエコー法 1)心筋コントラストエコー法とは 左室心筋には約45mlの血液が含まれており、 動脈系、毛細血管、静脈系でそれぞれ 1/3 ずつを 占める。直径 200 μ m 以下の血管系を微小循環と 呼び、その容量の90%程度を毛細血管が占める。 平均直径が 7 μ m 毛細血管は心臓に 800 万ほど存 在し、物質や酸素交換の場、そして容量血管とし て重要な働きをしている。心筋コントラストエコ ー法(MCE)で用いられる超音波造影剤レボビス トの微小気泡(平均直径1.2 μm)であり、赤血球 トレーサーとみなすことができる。従って、MCE は冠微小循環の血流動態を評価できるユニークな 方法といえる。その際、心筋信号から微小気泡に 由来する信号を分離して検出することが必要とな る。東芝メディカルシステムズ㈱社製のAplioで は発信周波数の 1.5 倍の高調波信号を解析する 1.5 ハーモニックを用いることにより、両者の分離に 成功している。 超音波で心筋内微小気泡を壊した後に観察する と、心筋エコー強度は徐々に増加する。これは、 毛細血管内の血流速度が1mm/s以下と遅いため である。縦軸に心筋エコー強度を横軸に時間をと り両者の関係を表したものが輝度回復曲線 replenishment curve である(図1)。輝度回復曲 線は、CI (t)=A(1−exp −β t )で近似される。Aは 曲線のプラトー値であり、微小血管の機能的断面 積、すなわち心筋血液量の指標となる。βは曲線 の最初の傾きであり、冠微小循環系、主に毛細血 管における血流速度を反映する。従って、A 値と β値の積、A ×βは心筋血流量の指標となる 1) 2)虚血性心疾患の診断におけるMCEの役割 ①心筋梗塞の診断 心筋梗塞になると冠微小血管床も破壊され、冠 動脈が再疎通しても心筋血流が得られない領域が 出現する。これを no reflow 現象と呼ぶ。MCE で no reflow現象を評価するためには送信間隔を開 けて、心筋に微小気泡を充満させて記録すると良 い。心筋梗塞は、低染影または染影欠損として描 出される。No reflow現象が広範囲に出現する症

心臓の超音波:最近の進歩 - SDL呼び、その容量の90%程度を毛細血管が占める。 平均直径が7μm毛細血管は心臓に800万ほど存 在し、物質や酸素交換の場、そして容量血管とし

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超音波画像診断超音波画像診断超音波画像診断特 集特 集 11

579Vol.38 No.5

超音波画像診断超音波画像診断超音波画像診断特 集特 11集

心臓の超音波:最近の進歩

桜橋渡辺病院内科

伊藤 浩

はじめに

 循環器領域においてCT、MRI、PETなど画像診断モダリティーの進歩は著しい。このような中で心臓超音波検査は、ともすれば埋没しがちである。しかしながら、緊急の現場での診断、心臓の病態の把握、治療戦略の決定、そして治療効果の評価において、心臓超音波は必須の検査であり、臨床に根付いた検査といえる。 本稿では心臓超音波を用いなければ評価できない、そして最近の進歩が著しい分野を紹介したい。それは、①心筋コントラストエコー法による心筋血流の評価、②左室の機械的収縮時相のずれ、dyssynchronyの評価、③ストレインを用いた局所心機能評価である。

心筋血流の定量的評価を目指した 心筋コントラストエコー法

1)心筋コントラストエコー法とは 左室心筋には約45mlの血液が含まれており、動脈系、毛細血管、静脈系でそれぞれ1/3ずつを占める。直径200μm以下の血管系を微小循環と呼び、その容量の90%程度を毛細血管が占める。平均直径が7μm毛細血管は心臓に800万ほど存在し、物質や酸素交換の場、そして容量血管として重要な働きをしている。心筋コントラストエコー法(MCE)で用いられる超音波造影剤レボビストの微小気泡(平均直径1.2μm)であり、赤血球

トレーサーとみなすことができる。従って、MCEは冠微小循環の血流動態を評価できるユニークな方法といえる。その際、心筋信号から微小気泡に由来する信号を分離して検出することが必要となる。東芝メディカルシステムズ㈱社製のAplioでは発信周波数の1.5倍の高調波信号を解析する1.5ハーモニックを用いることにより、両者の分離に成功している。 超音波で心筋内微小気泡を壊した後に観察すると、心筋エコー強度は徐々に増加する。これは、毛細血管内の血流速度が1mm/s以下と遅いためである。縦軸に心筋エコー強度を横軸に時間をとり両者の関係を表したものが輝度回復曲線replenishment curveである(図1)。輝度回復曲線は、CI(t)=A(1−exp−βt)で近似される。Aは曲線のプラトー値であり、微小血管の機能的断面積、すなわち心筋血液量の指標となる。βは曲線の最初の傾きであり、冠微小循環系、主に毛細血管における血流速度を反映する。従って、A値とβ値の積、A×βは心筋血流量の指標となる1)。2)虚血性心疾患の診断におけるMCEの役割①心筋梗塞の診断 心筋梗塞になると冠微小血管床も破壊され、冠動脈が再疎通しても心筋血流が得られない領域が出現する。これをno reflow現象と呼ぶ。MCEでno reflow現象を評価するためには送信間隔を開けて、心筋に微小気泡を充満させて記録すると良い。心筋梗塞は、低染影または染影欠損として描出される。No reflow現象が広範囲に出現する症

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例は心機能改善が悪く、予後も不良である。心筋血流の良し悪しは冠動脈の開存性からはわからない情報であり、そこにMCEを行う意義がある。②心筋虚血の評価 心筋虚血の最も早期に生じるスティール現象、心内膜下虚血など心筋灌流異常の診断にMCEは有用である。不安定狭心症例で冠動脈狭窄が高度の場合には、1心拍に1回のMCE画像を記録するだけで、虚血領域の心内膜側に染影欠損が認められる。心筋灌流異常を誘発するには、ジピリダモールあるいはアデノシン(ATP)負荷をすると良い。抵抗血管の拡張により非狭窄部位では毛細血管の血流速度が3倍以上に亢進し、短い送信間隔

(1心拍に1回)でも十分な心筋染影が得られる。狭窄領域では血流速度の増加は軽度か、高度狭窄

では逆に低下し、1心拍に1回の短い送信間隔で観察すると、心内膜側を中心に染影欠損が出現する(図2)。心電図変化や壁運動異常などが出現する前に、心筋灌流異常が認められることから、冠狭窄の診断には最も感度の高い方法といえる。3)MCEを用いた定量的診断法①パラメトリック・イメージング; Parametric imaging レボビストを持続注入しつつ、1心拍に1回から送信間隔を順次延長し6〜8心拍に1回のMCE画像まで取り込む。心筋のいたる部位で輝度回復曲線を作成・解析し、A値、β値、A×β値を求め、その値に応じてカラーコード化して表示する方法である。心筋梗塞は微小循環障害のためA値、A×β値が低下した領域、心筋虚血は血流が低下

図1 輝度回復曲線いったん心筋内の微小気泡を超音波で壊した後、送信間隔を徐々に延長させると心筋染影性が良好になる様子がわかる。横軸に送信間隔を、縦軸に心筋染影強度をとり、両者の関係を表したものが輝度回復曲線である。曲線は図に示す式で近似することができ、Aはプラトー、βは最初の傾きを示す。両者の積は心筋血流量の指標となる。

図2 左前下行枝に90%狭窄を有する症例における心筋コントラストエコー画像ジピリダモール負荷前に6心拍に1回の送信間隔で観察しても心筋染影性は正常である(心尖二腔断面、図2a)。1心拍に1回の送信間隔にすると前壁の心内膜側に狭帯域の染影欠損が認められた(図2b)。ジピリダモール負荷後には心内膜側の染影欠損は明瞭になった(図2c)。

図2a 図2b 図2c

a:負荷前 1:6、b:負荷前 1:1、c:ジピリダモール負荷後1:1

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するためβ値、A×β値が低下した領域として描出される(図3)。②ボリュメトリック・イメージング; Volumetric imaging 心筋染影強度を心腔の染影強度で基準化して、心筋血液量を求める方法である。レボビストの微小気泡濃度と染影強度との間には直線関係が成り立つことから2)、100%血液である左心腔に対する心筋の染影強度の比を求めることにより、心筋血液量を推定できる。筆者らは心筋染影強度(dB)から近傍の左心腔染影強度(dB)を引いた値を補正心筋染影強度relative myocardial contrast intensity

(RMCI, dB)として算出している3)。デシベルの引き算は、比率を求めることに相当する。この計算により、100g心筋あたりの血液分画が求められる(図4a)。

 正常心筋の補正心筋染影強度は平均−14.5dBであり、これは100g心筋には約4.5mlの血液が含まれることを意味する(図4b)。心筋梗塞巣中心部の心内膜側では補正心筋染影強度が平均−21.5dBとなり、心筋血液量は100g心筋当たり1mlもない。RMCI=−18dBをカットオフ値とし、カラー表示すると、正常心筋と梗塞心筋を識別することが可能である。また、心筋虚血は1心拍に1回のMCE画像で同様の処理をすることにより、RMCIの低下した領域として描出される。1心拍に1回のMCE画像における心筋染影強度は1心拍の間に心筋に流入する微小気泡の量を反映し、心筋血流の指標と考えることができる(図5)。このようにボリュメトリック・イメージングは、心筋血液量という今までPETでしか求めることができなかった指標を、1枚のMCE画像から推定

図3 パラメトリック・イメージング:労作狭心症例症例は左前下行枝近位部に90%狭窄を有する労作狭心症例である。ジピリダモール負荷後の心筋コントラストエコー画像からA値、β値、A×β値、そしてパラメータの分散(SD)をカラーコード化して表示している。値を高値、中位値、低値に3分割し、それぞれ緑、黄、赤に着色して表示している。本例では心室中隔中部から心尖部にかけて、β値、A×β値が低下し、左前下行枝の血流低下を示唆している。

巻頭カラー参照

normal infraction

図4 正常心筋と梗塞心筋における補正心筋染影強度の比較補正心筋染影強度(dB)は、心筋染影強度から近傍左心腔の染影強度を引いて算出される(図4a)。この操作により、音場の不均一性を補正することができる。これは両者の染影強度の比を算出することに相当する。正常心筋の補正心筋染影強度に比べて、梗塞心筋のそれは有意に低値であった(図4b)。

巻頭カラー参照

図4a 図4b

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することを可能とした画期的な方法である。

組織ドプラ法を用いた 心臓の機械的収縮時相のずれの評価

 薬剤治療では治療困難な慢性心不全症例に対する新しい治療法として期待されているのが、両心室ペーシングによる心臓再同期療法;cardiac resynchronization therapy(CRT)である(図6)。心不全症例の中には電気的刺激の伝導が遅延するために、左室収縮の開始時相が部位によりばらつく症例がある。このように収縮時相が部位によりばらつくと、収縮効率が低下する。低心機能症例ほどその影響は甚大である。そのような症例にCRTを施行すると、左室容積の縮小、左室駆出率の改善、僧帽弁逆流の減少、自覚症状や運動耐用能の改善が得られる。しかし、CRTの適応条件を満たしていても、20〜30%程度の症例では症状や心機能の改善が認められない。どのような

症例でCRTが有効であるのか、反対にどのような症例で無効であるのか、治療前に明らかにする必要がある。その予測に有用であるのが、心エコー図法による機械的(mechanical)dyssynchronyの評価である。CRTは機械的収縮時相の非同期性を是正する治療法であることから、元々ずれの認められない心不全症例には無効だからである。 様々な手法が提唱されているが、その中でも組織ドプラを用いた方法は心筋局所の動きを感度良く捉えられることから注目されている。心筋局所にサンプルボリュームを設定し、パルスドプラ法で心筋局所における組織移動速度の経時的変化を求めることは、多くの装置で可能である。QRSの開始から収縮の開始あるいは収縮期移動速度のピーク時相までの時間を求めると、正常例ではピーク移動速度の時相は左室のどの部位でも一致する。しかし、dyssynchronyがあるとその時相にずれが生じるようになる。多点で比較することにより、収縮時相のずれの診断やその重症度評価が

図5 パラメトリック・イメージングとボリュメトリック・イメージングの比較図3で提示した症例である。ボリュメトリック・イメージングでも心室中隔中部から心尖部にかけて補正心筋染影強度が−16dB未満を示す寒色系のカラーで表示され、心筋血流が低下していることを示唆する。両者の所見はよく一致する。

巻頭カラー参照

図6 心臓再同期療法のための両心室ペーシングの植え込み右房リード右室リード:右室側心室中隔左室リード:左室側(冠静脈洞から冠静脈枝に挿入)

巻頭カラー参照

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可能になる。このように、一点、一点の計測を行う代わりに、心尖部アプローチからカラー組織ドプラで一心周期の動画像を記録するだけでも診断できる。そのためには、毎秒100フレーム以上の高いフレーム・レートをもつエコー装置が必要である。 例えば、収縮早期のカラー組織ドプラ画像を記録すると、心室中隔は収縮を開始しており暖色系のカラーを示すが、左室側壁はまだ拡張状態にあるため、探触子から遠ざかる寒色系のカラーを呈する(図7)。詳細にdyssynchronyを解析するには心尖部四腔断面、二腔断面、長軸断面のカラー組織ドプラ画像を記録し、計測したいポイントにサンプルボリュームを置くと良い。その心筋部位における組織移動速度が、自動的に表示される

(図8)。前壁中隔、下壁中隔、前壁、側壁、後壁、下壁における基部base、中間部midの計12領域においてQ波の開始から収縮期、すなわち大動脈弁が開放してから閉鎖するまでの間に存在するピーク移動速度までの時間Q-peak systolic velocityを計測する。それからいくつかの定量的指標が算出される。①最大値と最小値との差が100 msを超えること

をもって陽性。②12領域におけるQ-peak systolic velocityの標準

偏差standard deviation:収縮時相のばらつきの指標(Ts-SD)として求め、それが>33msをもってdyssynchronyとする4)。

③心尖四腔断面の心室中隔と左室側壁の基部におけるpeak systolic velocityの時相差が65 ms以上をもってseptal-to-lateral delayとする5)。

④ピーク移動速度が大動脈弁閉鎖後に存在することをもってdelayed longitudinal contraction(DLC)と定義する。Baseの6領域の中でDLCを示す領域が2領域以上あることをもって陽性。

 これらの指標が陽性であるとCRTによる効果が期待される。また、CRTによりこれらの指標が改善するか評価することにより、急性期効果も判定できる。

局所心機能を解析するストレイン、 ストレインレート

 組織ドプラ法のデータを用いて組織の歪み(ストレイン)を定量化することができる。収縮・拡張を繰り返す心筋におけるストレインは、心筋の長さの変化と考えることができ、心筋局所の収縮能を反映したものといえる。カラー組織ドプラ法で得られた画像において、微小に離れた心筋内における2点の移動速度の差がストレインレートである。ストレインは速度情報であるストレインレートを時間積分したものであり、距離(長さ)情報となる。ストレインは元の長さに対する変化率となる。 ストレイン、ストレインレートを求める際に問題となるのが、ドプラ情報に基づくため、値が角

図7 心臓再同期療法(CRT)施行前後のカラー組織ドプラ画像dyssynchronyを合併する特発性拡張型心筋症例。心尖四腔断面で収縮早期に観察すると、心室中隔は暖色系で収縮、左室側壁は寒色系で拡張と両者が混在しており、左室ポンプ機能にとって不利な状況であることがわかる(図7a)。CRT後、同時相で観察すると、心室中隔、左室側壁とも暖色系となり、収縮時相が同期化されたことがわかる(図7b)。

巻頭カラー参照

図7a 図7b

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図8 カラー組織ドプラによるdyssynchronyの評価カラー組織ドプラ法で心尖部四腔断面を一心周期記録する。心室中隔と左室側壁にROIを設定すると、自動的にその部位の組織移動速度の経時的変化を描出できる。CRT施行前、心室中隔の収縮(上向き)速度のピークから134ms遅れて左室側壁がピークを示し、左室側壁に収縮遅延があることがわかる。CRT後には、その差は40msに縮小していた。

巻頭カラー参照

図9 TDI-Qによる組織ドプラの解析TDI-Qを用いてカラー組織ドプラからストレイン・イメージカラー組織ドプラ画像で左室短軸像を記録すると、収縮期に心室中隔は探触子から遠ざかる寒色、左室後壁は探触子に近づく暖色系のカラーとなる。収縮中心を左室中央に設定し角度補正を行うと、全て収縮中心に向かい運動することを示す暖色系カラーとなる。そこから、組織速度を積分して収縮期における移動距離を求めたのがdisplacement画像である。そこに左室心筋の動きをトラッキングし、左室心筋内の各部位におけるストレインを制度よく表示しているのがストレイン画像である。

巻頭カラー参照

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度依存性に変化することである。この解決法として東芝社では、任意の位置に設定した収縮中心に対して自動的に角度補正を行うことを可能とした解析ソフト(TDI-Q)を開発した。TDI-Qでは、組織の自動トラッキングも行うことができる。トラッキングとは組織のある点のある瞬間における速度情報をもとに次の瞬間の移動距離を推定し、その操作を繰り返すことでその点の軌跡を描くことである。TDI-Qでは角度補正とトラッキング法を組み合わせて、心室壁の動きを追随しつつ左室壁内の壁厚増加方向のストレインを描出することができる。 TDI-Qを用いて、カラー組織ドプラ画像からストレイン画像を表示する過程を図9に示す。左室短軸像のカラー組織ドプラ画像では、左室全体の動きと左室中心に収縮する動きが重なり、そのままでは左室収縮を評価することができない。左室内に収縮中心を設定し、組織速度から移動距離を

求め、そして左室心筋の移動をトラッキングすることにより初めて左室心筋内の詳細な収縮動態の解析が可能になる。このようにして求められたストレイン画像では、収縮期に収縮中心に向かう運動だけが表示されるため、全ての左室壁が伸展(=収縮)を示す暖色で表示される。ストレインが大きいほど明るく表示される。心室中隔に比べて左室後壁が明るく表示されストレイン、すなわち壁厚変化率が大きいことがわかる。また、心筋に注目すると心外膜側に比べて心内膜側の方が明るくなる。ストレイン値は心内膜側の方が2倍ほど大きく、これは実験的検討から予測される値とよく一致する。 心筋虚血や心筋梗塞など、心筋虚血による障害は心内膜側に出現することが知られている。心内膜側によるストレインやストレインレートの低下からこれら虚血心筋障害を感度よく検出できる可能性が指摘され、現在盛んに研究が行われている。

 参 考 文 献

1) Wei K et al: Quantification of myocardial blood flow with ultrasound-induced destruction of microbubbles administered as a constant venous infusion. Circulation 97: 473-483, 1998

2) Schwarz KQ et al: Quantitative echo contrast concentration measurement by Doppler sonography. Ultrasound Med Biol 19: 289-297, 1993

3) Yano A et al: Myocardial contrast echocardiography with new calibration method can estimate myocardial viability in patients with myocardial infarction. J Am Coll Cardiol 43: 1799-1806, 2004

4) Yu CM et al: Tissue Doppler imaging is superior to strain rate imaging and postsystolic shortening on the prediction of reverse remodeling in both ischemic and nonischemic heart failure after cardiac resynchronization therapy. Circulation 110: 66-73, 2004

5) Bax JJ et al: Usefulness of myocardial tissue Doppler echocardiography to evaluate left ventricular dyssynchrony before and after biventricular pacing in patients with idiopathic dilated cardiomyopathy. Am J Cardiol 91: 94-97, 2003