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歩行者用道案内図における目印の効果的な表現方法に関する研究 A research for the representation of landmarks in pedestrian navigation maps 76161 There are many types of tools for pedestrian navigational aids such as discourse, paper maps and GPS-based mobile devices. This research focuses on paper maps as which are currently the most helpful tool for pedestrian navigation, and two experiments were conducted in order to make clear two things as follows: 1) what is the best location of landmarks which are along long segments? 2) What is the best representation of landmarks? Results indicated that combination of graphic and linguistic representation made map users feel easier. It was also found that maps with “the minimal” number of landmarks could hardly satisfy users. 1. 研究の背景と目的 1.1 研究の背景 常⽣活を送る上で、私たちはさまざまな形 のナビゲーション⽀援ツールに接している。 そのでも現在もっとも性の⾼いものが、 紙に印刷された案図である。 案図のもっとも重な構成素はスタ ートと目およびその 2 間を移す るルート、目印である。案図に関する研究 は現在までに数⾏われてきた。そのうちの くが目印に関するものである。目印の役割は、 Michon and Denis (2001)によると ①どこで⾏をとるべきなのかを⽰す ②より目にりにくい目印の場所を⽰す ③正しいを歩いていることを確かめさせ 3 つであり、案における目印の重性は Deakin (1996)Daniel and Denis (1998)などに より数指されている。 では、目印をどのようなタイミングでえる と効果なのだろうか。過去の研究では⽅向 換をする交差やいセグメント上のいく つかのが指されている。 また、える目印の表現⽅法については、ド ライバーを象とした図をいた研究やモ バイルデバイスの図のためのデザインガ イドラインの研究が⾏われている。 1.2 研究の目的 以上をまえたうえで、本研究では以下の 2 つの目を設し、市空間において 2 回の歩 ⾏実験を⾏った。 ⼀に、セグメントの目印がどのような 場所に必なのかを具に明らかにするこ とである。これにより、案図にどのような 目印をどのような場所に組み込めばよいのか が明らかになる。 に、案図に必な目印をどのように 表現すればよいのかを明らかにすることであ る。 これらの目を成することにより、者 が潜在に求めているものにより近い案 図を作ることができれば、⼈々が市空間でナ ビゲーション⾏を⾏う際により自信を持つ ことができ、ナビゲーション⾏そのものをよ り楽しめるようになるだろう。 なお、本研究において使する⾔の意味を 次のように義する。 ・ナビゲーション⾏:ある場所から別の場 所までたどりく⾏のこと。 ・ルート:案図において、スタート とゴールとを結ぶ筋のこと。 ・セグメント:ルートを構成するの素の こと。ルートをリンクとノードの概でと らえた場合のリンクのことを指す。 2008 岡部 教授 浅⾒ 司 教授 広 幸 准教授

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歩行者用道案内図における目印の効果的な表現方法に関する研究

A research for the representation of landmarks in pedestrian navigation maps

76161 平⽥ 翠

There are many types of tools for pedestrian navigational aids such as discourse, paper

maps and GPS-based mobile devices. This research focuses on paper maps as which

are currently the most helpful tool for pedestrian navigation, and two experiments were

conducted in order to make clear two things as follows: 1) what is the best location of

landmarks which are along long segments? 2) What is the best representation of

landmarks? Results indicated that combination of graphic and linguistic representation

made map users feel easier. It was also found that maps with “the minimal” number of

landmarks could hardly satisfy users.

1. 研究の背景と目的

1.1 研究の背景

⽇常⽣活を送る上で、私たちはさまざまな形態のナビゲーション⽀援ツールに接している。その中でも現在もっとも有用性の⾼いものが、紙に印刷された道案内図である。

道案内図のもっとも重要な構成要素はスタート地点と目的地およびその 2 点間を移動するルート、目印である。道案内図に関する研究は現在までに多数⾏われてきた。そのうちの多くが目印に関するものである。目印の役割は、Michon and Denis (2001)によると

①どこで⾏動をとるべきなのかを⽰す

②より目に⼊りにくい目印の場所を⽰す

③正しい道を歩いていることを確かめさせる

の 3 つであり、道案内における目印の重要性はDeakin (1996)や Daniel and Denis (1998)などにより多数指摘されている。

では、目印をどのようなタイミングで与えると効果的なのだろうか。過去の研究では⽅向転換を要する交差点や⻑いセグメント上のいくつかの点が指摘されている。

また、与える目印の表現⽅法については、ドライバーを対象とした地図を用いた研究やモバイルデバイス用の地図のためのデザインガイドライン等の研究が⾏われている。

1.2 研究の目的

以上を踏まえたうえで、本研究では以下の 2

つの目的を設定し、都市空間において 2 回の歩⾏実験を⾏った。

第⼀に、セグメント途中の目印がどのような場所に必要なのかを具体的に明らかにすることである。これにより、道案内図にどのような目印をどのような場所に組み込めばよいのかが明らかになる。

第⼆に、道案内図に必要な目印をどのように表現すればよいのかを明らかにすることである。

これらの目的を達成することにより、利用者が潜在的に求めているものにより近い道案内図を作ることができれば、⼈々が都市空間でナビゲーション⾏動を⾏う際により自信を持つことができ、ナビゲーション⾏動そのものをより楽しめるようになるだろう。

なお、本研究において使用する⾔葉の意味を次のように定義する。

・ナビゲーション⾏動:ある場所から別の場所までたどり着く⾏動のこと。

・ルート:道案内図において、スタート地点とゴール地点とを結ぶ道筋のこと。

・セグメント:ルートを構成する道の要素のこと。ルートをリンクとノードの概念でとらえた場合のリンクのことを指す。

2008

岡部 篤⾏ 教授 浅⾒ 泰司 教授 貞広 幸雄 准教授

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2. 不安を感じる距離に関する歩行実験

(実験 1)

2.1 実験の概要

本実験は、セグメントの途中ではどのような場所に目印が必要なのを明らかにすることを目的として⾏った。実験の期間は 2007 年 12

⽉から 2008 年 2 ⽉まで、対象地は⼩伝⾺町駅周辺、所要時間は 30〜40 分であった。

図 1 実験 1 対象地

実験の被験者は男性 7 名、⼥性 3 名の計 10

名で、全員が東京大学の学⽣であった。また、被験者の年齢は 22 歳から 27 歳であった。

2.2 実験の手順

被験者とは東京メトロ⼩伝⾺町駅で待ち合わせ、まず最初に⽅向感覚質問用紙(Santa

Barbara Sense-of-Direction)に回答してもらった。これは主観的な⽅向感覚(⽅向感覚得点=SOD)をはかるためのものであり、算出された値が大きいほど⽅向感覚が良いことを⽰す。その後、4 つのセグメントそれぞれについて、「道なりに歩いて、○○(セグメント終端近くの目印)の角を右へ曲がってください」という指⽰の通りに歩いてもらった。そして、「目印はまだ?」や「もう目印は過ぎた?」等の不安を表すような⾔葉を⼝に出した地点を記録した。

なお、セグメント 4 については便宜上、実際

には存在しない目印を指⽰し、より⻑い距離を歩いてもらうようにし、何も反応がなかった場合は⾺喰町の交差点において歩⾏を終了した。

最後に歩⾏中の不安度(1=まったく不安でない、7=とても不安であるの 7 段階)や実験の感想等を尋ねるアンケートを⾏い、実験を終了した。

2.3 実験の結果とその考察

被験者が「目印はまだ?」や「もう目印は過ぎた?」等、不安を⼝にした位置をそれぞれのセグメントの始点からの距離で表すと次のようになった。

図 2 被験者が不安を口にした距離(m)

この図からは、被験者が不安を⼝にする距離が 180〜320m 程度のところに集中していることがわかる。また、これは交差点の数にすると4〜5 個に相当する。

この距離と不安度との相関係数はR=-0.13でほとんど相関がなかったことから、被験者は不安を感じた時にすぐそれを⼝に出したわけではないようである。不安を⼝にするのは不安が限界に達したときだと考えられるため、本実験の結果である 180〜320m よりも少し短い間隔で目印を与えれば、地図利用者の不安を必要以上にあおることがなくなるだろう。

また、SOD との相関係数は R=0.26 でほとんど相関がなかったことから、被験者がナビゲーション⾏動に自信をもっているかどうかは不安を感じる距離にはほとんど影響しないといえる。

ただし、SOD と不安度との相関係数はR=-0.74 で、有意⽔準 5%で相関があるという結果が出た。このことより、不安を⼝にするまでの距離には個⼈差がないが、SOD の低い⼈ほどナビゲーション⾏動に不安を持っているということがわかった。そのため、SOD の低い⼈には不安を和らげるために、与える目印の量を増やすとよいだろう。

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3. 地図の表現方法に関する歩行実験(実

験 2)

3.1 実験の概要

本実験は、

①実験 1 により明らかになった「不安を⼝にする距離」を過ぎるとナビゲーション⾏動に間違いが⽣じるかどうかを検証すること

②被験者に異なるタイプの地図を用いて都市空間でのナビゲーション⾏動を⾏ってもらうことにより、どのようなタイプの地図がより有効なのかを検証すること

の 2 つを目的としてパート 1、パート 2 の 2 つに分けて⾏った。実験の期間は 2008 年 11 ⽉から 2008 年 12 ⽉まで、対象地は JR ⽔道橋駅から東京メトロ淡路町駅付近、所要時間は約 60

分であった。

図 3 実験 2 対象地(パート 1)

図 4 実験 2 対象地(パート 2)

実験の被験者は男性 11 名、⼥性 4 名の計 15

名で、全員が東京大学の学⽣であった。また、被験者の年齢は 23 歳から 25 歳であった。被験者は用いた地図の種類(後述)により、A グループ、B グループ、C グループの 3 つグループに分けた。

3.2 実験の手順

被験者とは JR ⽔道橋駅で待ち合わせ、まず最初に⽅向感覚質問用紙に回答してもらった。

実験のパート 1 では「ここからこの⽅向(指で⽰す)へまっすぐ歩き、○○(セグメント終端近くの目印)の角を右/左へ曲がってください」という指⽰をセグメントごとに出した。セグメントは 5 つあるうちから被験者ごとにそれぞれ 3 つ選択した。

パート 2 では、スタート地点において被験者に 3 パターンの地図(地図 A=目印を⽂字で表したもの、地図 B=目印をロゴで表したもの、地図 C=目印を写真で表したもの)のうちひとつを⼿渡した。この地図にはあらかじめ被験者に対する指⽰が印刷されており、これを読んでから地図に記載されたルート通りに歩いてもらう。被験者のパフォーマンスをはかる指標として、所要時間を計測した。またパフォーマンスに影響するであろう指標として、出発前に要した時間、歩⾏中に地図を⾒返した回数を計測した。

最後に、用いた地図を 100 点満点で評価してもらう質問、用いた地図を改良してもらう質問、実験の感想等を尋ねるアンケートを⾏い、実験を終了した。

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図 5 実験 2 で使用した地図の例

3.3 実験の結果とその考察

3.3.1 パート 1

パート 1 においては累計 45 のセグメントに関するデータが得られたが、この中で間違いがあったのはたったの 1 つであった。この結果からは、セグメントの始点から 1 つ目の目印までの距離は、間違いを犯すかどうかには関係がないということが⾔えるだろう。また、実験 1

ではある程度の距離を歩いても目印がないと被験者が不安を感じることがわかったが、不安を感じることと道を間違えることがまったく別のことだということも⾔えるだろう。つまり、セグメント途中の目印は地図利用者の間違いを防ぐためではなく、彼らの不安を和らげたり取り除いたりするために必要であるということが明らかになった。

3.3.2 パート 2

パート 2 においては、グループ間で所要時間やその他のナビゲーション⾏動に影響するであろう指標に有意な差は得られなかった。また、地図の評価に関しても、有意な差は得られなかった。

このことから、目印の表現をどのように変えても同じような効率で必要な情報を仕⼊れる

ことができたと⾔ってよい。また、⼀⾒わかりやすそうだが使ってみるとわかりにくい、逆に⼀⾒わかりにくそうだが使ってみるとわかりやすいといった使用前後の感想が変わる地図がなかったということも⾔える。

地図の改善点に関しては、地図の要素に関するもの、指定したルートの周辺まで広い視野で⾒せてほしいというもの、目印に関する情報を充実させてほしいというものに大別できた。このうち目印に関する情報については B グループ・C グループの被験者から「目印の下に固有名詞を⽂字で載せてほしい」という指摘を受けた。

以上のことから、

・「間違えない地図」と「満⾜できる地図」は別のものであること

・目印の表現は 1 か所につき 1 種類だけを用いればいいというものではないということ

という 2 つの⽰唆が得られた。

4. 地図の表現方法に関する追加アンケ

ート

4.1 アンケートの概要

実験 2 の終了後に⾏ったアンケートでは、地図の改良や自由回答の質問に対してたくさんの注目すべきコメントが得られた。これらのコメントをもとに、どのような地図表現が好まれるのかをより深く知ることを目的に、追加アンケートを⾏った。

実験 2 の被験者を対象に 2008 年 12 ⽉ 17 ⽇に E メールで質問票を送付し、同⽇〜2008 年12 ⽉ 25 ⽇に全員から回答が得られた。

4.2 アンケートの質問項目

本アンケートは大きく分けて 2 つの部分から成り⽴っている。1 つ目は地図表現に関する質問項目、2 つ目は不安に関する質問項目である。前述の通り回答者は実験 2 の被験者と同じなので、⽅向感覚に関する質問は⾏わなかった。

地図表現に関しては、5 つの目印表現をそれぞれ 100 点満点で評価してもらう質問、5 つの

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地図全体の表現を 100 点満点で評価してもらう質問、地図に必要だと思うものを選択肢から選んだり自由回答で挙げてもらう質問、過去に使った地図の中でわかりやすかった地図の特徴を述べてもらう質問を⾏った。 ① ② ③

点 点 点

④ ⑤

点 点

スターバックス スターバックス

スター

バック

図 6 アンケートで用いた目印表現の例 ① ② ③

点 点 点

④ ⑤

点 点

図 7 アンケートで用いた地図全体の表現の例

不安に関しては、清⽔、今栄(2001)によるState-Trait Anxiety Inventory(以下 STAI)の⽇本語版(大学⽣用)を用いた。この質問紙は、被験者の不安⽔準を短期間の緊張⽔準の変動により⽣じる不安⽔準(State Anxiety = A-State)と⻑期的な性格特性としての不安⽔準(Trait

Anxiety = A-Trait)に分けて測定するものであり、算出された値が大きいほど不安⽔準が⾼いことを⽰す。

4.3 アンケートの結果とその考察

4.3.1 目印表現の評価

目印表現については、表現を 1 種類の⽅法のみにしているものより 2 種類の⽅法を併用しているものの⽅が有意⽔準 1%で⾼い評価を得た。さらに、⽂字のあるものとないものでは有意⽔準 1%で⽂字のあるもののほうが⾼い評価を得た。

STAIのA-Traitとそれぞれの目印表現の評価からは、不安⽔準の⾼い⼈はロゴを用いた表現

を好み、不安⽔準の低い⼈は写真を用いた表現や⽂字のみの表現を好む傾向がみられた。

4.3.2 地図全体の表現の評価

地図全体の表現については、道路をすべて⼆本線で描いたものの⽅が⼀本線で描いたものより有意⽔準 1%で⾼い評価を得た。この理由としては、実験 2 終了後のアンケートのコメントにあった「交差点の四隅のどこに目印があるのかわからなかった」ことが挙げられるだろう。 4.3.3 地図に必要だと思う要素

本質問項目のうち選択肢を設定した部分では、交差点名(⽅向転換を要する交差点)、⽅位記号、スケールを大多数の被験者が選んだ。また自由回答に関しては、通りの名前や通りの先の地名(「⾄○○」等)、目的地までのおおよその距離と時間等の 3 つに大別できた。

この結果からは、被験者が指定されたルートの外側に関する知識を貪欲に求めていることがうかがえる。

4.3.4 わかりやすかった地図の特徴

本質問項目の回答からは、被験者が地図に求めているもののバリエーションがとても広いということが明らかになった。実験 1、実験 2

ともに地図の主な構成要素を目印と道に絞って⾏ってきたが、この 2 つの要素だけでは間違いのないナビゲーションは可能でも満⾜できる地図にはならないということが⾔える。図形要素だけではなく、⽂字や数字による情報を適度に組み合わせることによって、より満⾜のいく地図ができると考えていいだろう。

4.3.4 実験 2 の結果に関する追加分析

本アンケートの回答から得られた A-Trait と、実験2の終了後に⾏った3種類の地図の評価に関して相関分析を⾏った。

相関係数と有意⽔準は次の通りである。

表 1 A-Trait と地図タイプの分析結果

地図タイプ 相関係数(R) 有意⽔準

A 0.58 5%

B 0.61 5%

C 0.76 1%

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この結果からは、不安⽔準の⾼い⼈にとって、地図が重要な役割を果たしているということがうかがえる。

5. 結論

5.1 本研究の結論

本研究では、セグメント途中にどのような間隔で目印が必要なのかを明らかにすること、道案内図に必要な目印の表現⽅法を明らかにすることの 2 つを目的に、2 回の歩⾏実験と 1 回の追加アンケートを⾏った。

この結果、セグメント途中ではおおむね 180

〜320m、交差点の数では 4〜5 個より短い間隔で目印を与えれば案内図の利用者が安⼼してナビゲーション⾏動を⾏えることがわかった。また、目印の表現⽅法については、実験で用いた 3 つのタイプの地図ではパフォーマンスに差が⾒られなかった。その代わりに、1 つの表現⽅法のみを使うのではなく、複数の表現⽅法を組み合わせるとよいことが分かった。なお、未知の空間におけるナビゲーション⾏動に大きな不安を持っている⼈には⽂字とロゴを組み合わせたものを、あまり不安のない⼈には⽂字と写真を組み合わせたものを目印として与えるとより安⼼できるようである。

5.1 研究の発展可能性について

本研究では、歩⾏者用の道案内図の表現⽅法について、どのようなものが効果的なのかを明らかにしてきた。この結果を用いて、わかりやすい地図には必要最低限以上の要素が載っているということを指摘した。今後は、この「必要最低限以上の要素」の表現⽅法がよい研究対象になるのではないだろうか。

また、不安⽔準や SOD の⾼低によっても効果的な目印表現に違いがあることが分かってきた。たとえば、前節でも述べたように不安⽔準の⾼い⼈には⽂字とロゴを組み合わせたものを、不安⽔準の低い⼈には⽂字と写真を組み合わせたものを目印として提供することなどである。

形態や対象者にかかわらず、道案内図のデザ

イン提案等に関して個⼈属性を考慮した研究はまだ少ない。今後は万⼈を対象とした研究だけでなく、個⼈の空間能⼒に応じた案内⽅法などに研究対象を広げていくことに期待したい。

謝辞

情報学環・総合分析情報学コースの⽯川徹准教授には実質的な指導教官としてテーマ決定から分析⼿法に⾄るまで、多くの時間を割いてご指導いただきました。また、研究室会議では岡部篤⾏教授、浅⾒泰司教授、貞広幸雄准教授をはじめ、学⽣の皆様からたくさんのアドバイスをいただきました。

貴重な時間を割いて実験にご協⼒くださった皆様、どうもありがとうございました。

主な参考文献

・Marie-Paule Daniel and Michel Denis, 1998,

Spatial Descriptions as Navigational Aids: A

Cognitive Analysis of Route Directions,

Kognitionswissenschaft, Vol.7, pp.45-52

・Ann K. Deakin, 1996, Landmarks as Navigational

Aids on Street Maps, Cartography and

Geographic Information Systems, Vol.23/No.1,

pp.21-36

・Mary Hegarty, Anthony E. Richardson, Daniel R.

Montello, Kristin L. Lovelace and Ilvamil

Subbiah, 2002: Development of a Self-Report

Measure of Environmental Spatial Ability,

Intelligence, Vol.30, pp.425-447

・Pierre-Emmanuel Michon and Michel Denis,

2001, When and Why Are Visual

Landmarks Used in Giving Directions?,

Lecture Notes in Computer Science, Vol.2205,

pp.292-305, Springer-Verlag Berlin Heidelberg

・清⽔秀美、今栄国晴、1981、STATE-TRAIT

ANXIETY INVENTORY の⽇本語版(大学⽣用)の作成、教育⼼理学研究第 29 巻第 4 号別冊、pp.347-352