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教育における「費用対便益」の社会学
政策研究大学院大学・教育政策セミナー
昭和女子大学人間社会学部 教授
矢野 眞和
1 誰のため、何のための教育か:費用・便益の社会的意味を考える
2 教育費と進学機会の不平等
3 教育の便益:学び習慣仮説の提唱
4 生涯学習の時代を妨げる「日本的大衆大学」という病
5 結論:高校生のためだけでなく、みんなのための大学政策
1 誰のため、何のための教育
1-1 誰のための教育=費用を誰が負担するか/便益が誰に帰属すると考えているか
:「社会のための大学」から「個人のための大学」へ
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
60 65 70 75 80 85 90 95 00年度
金額
(兆円
)
家計(国立大学授業料+国立大学入学料及検定料+私立大学学生納付金)
国(私立大学国庫補助金+(国立大学支出合計-国立大学収入合計))
03
(出所:教育費研究会中間報告『次世代が育つ教育システムの構築』日本地域文化研究所2007年)
1-2 何のための教育か:経済的価値と社会的価値
①経済的価値の費用・便益(生涯所得の増加分)社会的収益率:税引き前の便益/税引き前の費用私的収益率 :税引き後の便益/税引き後の費用国立大学:私的収益率(6.3%)>社会的収益率(5.2%~6.1%)私立大学:私的収益率(5.6%)<社会的収益率(6.1%)
②公的収益率 :税収入増加の便益/税金投入費用○私学助成は効率的な投資である拙著『高等教育の経済分析と政策』玉川大学出版部 1996年
○税収入増効果+公的支出抑制効果三菱総研「教育改革の推進のための総合的調査研究」2010年4%割引による現在価値法によると卒業生一人あたりの純公的便益243万円(便益-費用)総純便益1兆1千万円
③社会的価値の測定○生活の質 ○健康 ○社会的凝集性W. Craig Riddell, ”The Social Benefits of Education:New Evidence on an Old Question”, in F. Iacobucchi (eds.)Taking Public Universities Seriously, 2005
(進学機会の平等化は効率的である)
1-2 ④高学歴化しているが、大卒の相対賃金は上昇している/高卒は不況と構造変動に弱い:大衆化する知識基盤経済
男子30・40代の大卒労働者数/高卒労働者数 男子30・40代の大卒賃金/高卒賃金
皆のため 自分のため
経済 税金収入の増加
生産性の向上
政府支出依存の縮減
高い所得
雇用
仕事条件の改善
社会 犯罪率の減少
市民生活の向上
社会的凝集性
健康の改善
生活の質の向上
レジャーの多様化
1-3 キャリア教育とシティズンシップ教育:教育効果の多元性を社会が共有化できるか?VS わが子さえ、わが社さえ、よければいいという現代社会
2 教育費と進学機会の不平等
2-1 全入時代が機会の不平等を隠蔽している
3変数モデル 4変数モデル
所得 0.0260 ** 0.0367 **
(4.74) (7.04)
授業料 -0.0021 ** -0.0048 **
(-3.13) (-5.54)
失業率 0.0384 **
(4.03)
合格率0.2398 ** -0.1070(5.79) (-1.16)
定数 0.1453 ** 0.2939 **
(3.58) (5.92)
R2 0.795 0.863
就職率 専門学校進学率
所得-0.0448 ** -0.0083(-9.24) (-2.05)
授業料0.0027 ** 0.0049 **
(3.41) (7.72)
失業率-0.0407 ** 0.0076(-4.59) (1.06)
合格率-0.0164 -0.2037 *
(-0.19) (-2.79)
定数-0.0164 0.0824 *
(-0.19) (2.22)
R2 0.983 0.984
男子大学志願率の規定要因(1970~2004年の時系列分析)
2 教育費と進学機会
2-2 高等教育グランドデザイン策定のための基礎的調査(文部省学術創成科学研究費:代表/東京大学教授金子元久)「高校生調査」の結果より (注)高校生全体の%分布
男子
中学の成績 就職 短期高等 大学 浪人 その他 合計
上/中の上 2.8% 4.8% 31.9% 6.7% 1.3% 47.6%
中 4.9% 5.9% 13.7% 2.5% 1.6% 28.7%
中の下/下 5.9% 5.0% 10.2% 0.9% 1.8% 23.8%
合計 13.5% 15.8% 55.9% 10.1% 4.8% (1726人)
女子
中学の成績 就職 短期高等 大学 浪人 その他 合計
上/中の上 2.2% 13.0% 27.7% 2.8% 1.6% 47.3%
中 3.6% 13.5% 10.2% 0.6% 2.5% 30.4%
中の下/下 4.4% 10.4% 4.8% 0.2% 2.6% 22.3%
合計 10.2% 36.8% 42.7% 3.6% 6.7% (1764人)
2 教育費と進学機会
2-3 教育家族の悲鳴-子ども手当は適切な判断か?
7.6
-7.8
2.2
-11.9
12.213.3
5.9 8.26.3
12.413.5
9.0
-20
-15
-10
-5
0
5
10
15
20
長子2歳以下 長子3~6歳 長子小学生 長子中学生 長子高校生 長子大学生
(%)
子どもの成長段階と家計の貯蓄率(子ども二人世帯)
データ:総務省「全国消費実態調査」平成11年と平成16年版
3 教育の便益:「学び習慣」仮説の提唱
ー 「五大学の卒業生調査」の結果からー
非標準化係数 t値 (定数) -1.315 -12.63 ***年齢 0.117 26.22 ***年齢^2 -0.001 -21.61 ***A大ダミー 0.291 12.77 ***B大ダミー 0.183 8.31 ***C大ダミー -0.015 -0.69D大ダミー 0.102 4.68 ***修士ダミー 0.048 3.11 ***博士ダミー 0.068 2.14 *調整R^2 0.314
①<年齢主義と学歴主義>の経済的構造
対数(所得)の規定要因(E大学基準のダミー変数)
②大学教育無効説の検証
非標準化係数 t値(定数) -1.313 -12.38 ***年齢 0.116 26.01 ***年齢^2 -0.001 -21.35 ***A大ダミー 0.275 11.95 ***B大ダミー 0.166 7.49 ***C大ダミー -0.032 -1.42D大ダミー 0.086 3.9 ***修士ダミー 0.043 2.7 **博士ダミー 0.058 1.79熱心度(一般教育) 0.001 -2.02 *熱心度(サークル) 0.001 1.06熱心度(工学教育) 0.001 0.57熱心度(研究室) 0.003 1.12調整R^2 0.318
○「大学の専門に熱心に取り組んでも、将来の所得向上には役立たない。」
○「一般教育は、むしろマイナスの影響になる?」
○「サークル活動に熱心でも関係ない」
○「博士の所得効果はない。」
③企業内教育効果説の検証:大学と会社の分離仮説
非標準化係数 t値(定数) -2.156 -19.09 ***年齢 0.107 22.99 ***年齢^2 -0.001 -18.43 ***A大ダミー 0.185 7.97 ***B大ダミー 0.1 4.49 ***C大ダミー 0.013 0.56D大ダミー 0.046 2.08 *修士ダミー 0.017 1.11 博士ダミー 0.027 0.791企業規模 0.08 21.58 ***現在知識獲得 0.014 8.52 ***現在読書得点 0.01 2.04 *仕事満足 0.091 11.61 ***時間の圧力 0.059 7.88 ***調整R^2 0.443
○「大企業」就職が有利
○職場の学びや読書が大事
○時間に追われながらも、仕事に満足している人ほど所得が高い。
○仕事環境や本人の頑張り次第で、大学院の効果は消滅する。
○②と③のモデルを合併しても、大きな違いはない。
④ 重回帰分析の罠-サラリーマンの現在の知識能力を支えているのは、大学時代の知識能力-
⑤ 大学時代の学び習慣は、生涯の財産
→重要なポイント=どの大学卒業生も同じ構図
4 生涯学習の時代を妨げている「日本的大衆大学」の病
4-1 強制される生涯学習の時代
○EUの新成長戦略の一つ:「30歳~35歳の大卒者の割合を現在の31%から40%以上に高める」
○日本の30代問題と同じ未熟練労働需要の激減/知識基盤経済の大衆化
○日本の大学は、18歳主義。30代が大学に入る道は、閉ざされている
「大学新入生の80%を占める年齢の分布」アメリカ 26.5歳フランス 26.6歳ドイツ 24.1歳フィンランド 26.6歳スウェーデン 40歳―
○自明視された中退なき卒業主義
4-2「日本的大衆大学」という三つの病
○三点セットの病(一つだけを取り出して解決はできない)① 18歳主義② 卒業主義③ 親負担主義
入学式/卒業式の家族同伴という異常な風景
○家族・大学・雇用の相補的システム
日本的家族/日本的大衆大学/日本的雇用
税金(社会責任)
本人(自己責任)親(家族責任)
5 結論:みんなのための大学政策
○学生を親から解放する方法を探る(親負担主義からの脱却)○入口と出口の適切な規制による質の保証○「明るく中退・元気に復学」の流動化システム○生涯進学率100%への道