Upload
others
View
4
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
電化
ENGINEERINGE-MOTORS
ハイブリッド・電気自動車に最適なカスタムエンジンを開発
するには,複数の電子・機械部品を統合してシステムとして
設計し,テストする必要があります.トレードオフを特定
して選択することは容易ではありませんが,EM-motive 社は
ANSYS のシミュレーションソフトウェアと最適化ソフトウェア
「ANSYS optiSLang」を組み込んだマルチドメインワークフローを開発し,この課題に
取り組みました.
電動モータのエンジニアリング
Marc Brück(ドイツ ヒルデスハイム,EM-motive GmbH, シミュレーション技術担当シニアエキスパート)
46 ANSYS ADVANTAGE ISSUE 3 | 2017
ANSYS optiSLang 内で構築されて運用されたこのパラメトリックワークフローでは,ANSYS のシミュレーションソフトウェアとその他のソフトウェアツールを使用して,感度解析,設計最適化,設計のロバスト性評価を行うことができます.これらのワークフローは,EM-motive 社が厳しい時間・コスト要件を満たしながら電動モータを開発したり,カスタム設計の問題(エンジン設計に対する顧客の要求が開発プロセスの後期に変わるなど)を解決したりするのに役立っています.
一例を挙げると,ある顧客から,特定のエンジンの最大回転数を 1,000rpm 上げるように求められました.しかし,速度を加速させると,遠心力によってロータの設計に不具合が生じる可能性がありました.エンジニアは,ロータ積層体内に埋め込まれる磁石の収納孔のブリッジを厚くして,大きな遠心力に起因する応力に耐えられるようにしようと思いましたが,これを行うと,ロータ自体の漏れ磁束
自動車メーカー Daimler 社が 2011 年に世界最大手の自動車サプライヤー Bosch 社と合弁会社を設立した際,両社のシナジー効果は誰の目にも明らかでした.この合弁会社 EM-motive 社は,Daimler 社が持つ燃料電池とバッテリーに関するノウハウと,Bosch 社が電動モータの開発・生産に関して蓄積してきた知識の両方を活かして,電気・ハイブリッド自動車用の電気トラクションモータを設計し,製造しています.このモータは,モジュール化されているため,広範囲の車種にフィットさせて様々な自動車の仕様を満たすように構成することができます.EM-motive 社は 2012 年以降,電動のモータを 30 万台以上製造し,欧州全土のクライアント企業に提供しています.
このようにノウハウを融合させても,モジュール化されたエンジンの製造は複雑で困難です.主要な技術的な制約(コスト,モータの取り付けスペース,冷却,インバーター仕様の特性)のほか,各種のエンジンに対する顧客の要求はそれぞれ以下のような広範囲の物理領域にまたがっています.
熱力学:冷却材流量および温度,環境温度,巻線と磁石の温度 構造力学:取り付けスペース,トルク,パワー,速度,他の部品に対する公差,軸受に作用する力 電気工学:電圧,電流,インバーター仕様の特性 効率および音響:空気・構造伝搬騒音
さらに問題を大きくしているのは,最適化するパラメータをすべて同時に考慮しなければならないということです.その他にも,NVH(騒音,振動,ハーシュネス),安全性,エンジンのコストなどの要素を考慮に入れる必要があります.
EM-motive 社のエンジニアは,こうした相互作用のある環境では,部品ごとに厳格な仕様を個別に設計してから組み立てる従来型の部品開発システムがもはや機能しないことに気づきました.その代わりに EM-motive 社は,部品間の動的な相互作用や,最適な解決策を特定して設計のロバスト性を確保するために必要なすべてのパラメータを考慮して,シミュレーションを包括的に組み込んだ設計ワークフローを開発しました.
が増加し,トルクとパワーが低下する恐れがありました.この問題を解決する選択肢の 1 つとして,巻線の電流を増加させることが挙げられます(ただし,バッテリーと電気系システムから得られる電流が多い場合に限られる).しかし,この解決策は損失を増大させて効率を低下させるため,この顧客にとっては到底受け入れられるものではありませんでした.したがって,すべての要件に対応するにはエンジン全体を設計し直す必要がありました.
幸いなことに,EM-motive 社のシミュレーションワークフローは柔軟に調整でき,特定のエンジンの要件を解析したり,部品間のすべての動的な相互作用をシミュ
レーションしたり,設計判断を下すたびにトレードオフを顧客に確実に理解してもらったりするのに利用できます.このワークフローは,しばしば相反する目標の最良の妥協点を見つける土台となります.
3つの設計案が顧客の要求をどの程度満たしているかを示すレーダーチャート
電動モータの設計ワークフローには,図に示したすべての内部・外部部品を含めなければならない.
要件 設計 A 設計 Bコスト 制御パワー
制御トルク
制御速度
圧力降下
最大パワー
最大トルク
最大速度
寿命
ロータ慣性
質量
直径
長さ
ピークパワー
効率逆起 EMFピーク時の電流
トルクリップル
THD
オフセット
SNR
アイゲン周波数
アイゲンモード
サウンド圧力
材料
ロバスト性
取り付け
設計 C
ピークトルク
制御回路
制御ユニット
電子相互作用
循環と環境
IoTモノの
インターネット
xECU他の
電気制御ユニット
HTCUハイブリッド
トランスミッション制御ユニット
MCUモータ制御ユニット
BMSバッテリー
管理システム
車両とドライバー パワートレイン
パワートレイン CAN/ シャーシ CAN
電動けん引モータ インバーター バッテリー
熱相互作用 電気相互作用
© 2017 ANSYS, INC. ANSYS ADVANTAGE 47
デジタル探索に対応するワークフロー企画段階では,設計エンジニアが,CAD とリンクし
た ANSYS optiSLang ワークフローと専門的な電磁界 -熱解析ソフトウェアを利用して,顧客の要求を満たす可能性のある設計案とその公差を自由に探索することができます.これにより,設計エンジニアは顧客に迅速に回答できるようになり,顧客はこの回答を踏まえて,現行のモータで要求を満たせるか,それとも新しいモータの開発が必要になるかを判断することができます.
他の要件が加わる一連の反復段階では,関連するすべての物理領域で ANSYS のシミュレーションソフトウェアを用いて,新しいモータの設計と最適化を行います.
設計エンジニアがモータに対するパワーエレクトロニクスシステムの影響を解析する際には,システムシミュレータ「ANSYS Simplorer」との共有インターフェースを使用します.また,ANSYS DesignModeler と CADシステム間の双方向インターフェースを利用できるため,エンジニアはハウジングなどの補助形状のパラメータ化モデルを作成して,このモデルをシステム設計に組み込むことができます.設計者は,これらの ANSYS ソフトウェアを使用することで,特定のシミュレーション結果を別のシミュレーションの境界条件として適用することができます.さらに,ANSYS Maxwell による電磁界シミュレーションで求めた力を,ANSYS Mechanical
による構造機械シミュレーションの初期データとして用いることができます.ANSYS Workbench によってANSYS の様々なソフトウェアを連携させて使用し,電磁界・機械・熱力学・音響の各領域の完全な連成シミュレーションを行うことも可能です.
こうしたパラメトリックワークフローでは,関連する設計空間内ですべての重要な物理領域の感度解析を実施できるだけでなく,公差を求めることもできます.エンジニアは最適化ループをさらに追加することができますが,多くの分野の目標と制約の性質が相反するほか,システムシミュレーションのレベルでモータの挙動を迅速にチェックしなければならないため,次数低減モデル
(ROM)を抽出する必要があります.しかし,このチームは ANSYS Maxwell に統合されている等価回路抽出
(ECE)ツールキットや,ANSYS optiSLang に搭載されている,データに基づく ROM 作成機能を使用して,システム全体のシミュレーションに必要な次数低減モデルを抽出することができます.
システムのモデリングこれらの次数低減モデルを ANSYS Simplorer で連成す
ることにより,システム全体のシミュレーションを行うことができます.前述したように,パラメトリックワークフローは optiSLang 内で構築されていますが,必要に
Engineering E-Motors (続き)
設計を最適化する際には,3段階のワークフローを繰り返す.
「EM-motive 社は,部品間の動的な相互作用を考慮して,シミュレーションを包括的に組み込んだ
設計ワークフローを開発しました.」
モデル転送経路情報転送経路
企画段階 システムエンジニアリング部品開発
要件
熱解析 磁界解析
材料データ
パワーエレクトロニクスシステム + バッテリー
磁界解析
熱解析 形状 構造解析
音響解析
FMI によるモデルの交換とソフトウェアの連携
モデル次数低減(MOR)とシステムシミュレーション
トランスミッション, ギアボックス,
車両などの サードパーティモデル
48 ANSYS ADVANTAGE ISSUE 3 | 2017
アンシス・ジャパン株式会社ANSYS ADVANTAGE Vol.10 Issue 3 Motor 半頁(w210mm, h148mm)
http://www.ansys.com/ja-jp/products/electronics/electric-motors
モータのアプリケーション事例をお探しですか?
下記ウェブサイトにて22 個のモータアプリケーション事例を
ご覧いただけます
ANSYS のモータ設計ソリューションは、モータ機器の特性解析から制御回路、インバータ等周辺回路まで含めた
モータ設計統合環境を提供します
ANSYSのシミュレーションソフトウェアで電化革命を推進(英語)ansys.com/electrification
応じて,トランスミッションモデルや完全な車両モデルなどの他のサードパーティモデルも組み込むことができます.この時点まで来ると,エンジニアがシステムの最適化ループを実行してしまえば,コントローラーなどのパラメータを変更しながら部品間の相互作用を解析することができます.
最後に,上記のモデルと,外部のサードパーティが設計した他のエンジン部品のモデルを交換できるようにするために,設計者が業界標準の FMI(Functional Mock-up Interface)を使用して,各部品のモデル,すなわちFMU(Functional Mock-up Unit)を作成します.サードパーティソフトウェアで作成されるこれらの FMU は,知的所有権を保護しながら簡単に交換できます.この FMUには,標準化された入出力データしか含まれないため,製品固有のノウハウにアクセスできるのは,そのメーカーだけです.FMU のもう 1 つのメリットとしては,現在の様々なシステムシミュレーション用ソフトウェアパッケージにインポートできる FMU によって,顧客や開発パートナーのシミュレーション環境に電子機械などの挙動を 1 つの部品として表現できることが挙げられます.
設計案の理解最後の課題は,様々な設計案とこれらのトレードオフ
を顧客が明確に理解できるように最適化後の設計をプレゼンテーションすることです.EM-motive 社は,要件を標準化値として使用して,すべての性能指標を無次元変数に変換し,1 つのレーダーダイアグラムを作成しまし
た.このダイアグラムは,すべての物理領域とこれらの要件を,背景に色の付いた円グラフで分かりやすく示し,それらの領域を明確に表しています.レーダーダイアグラム内の 100% 基準円の外側にある点は,設計要件を満たしていることを意味します.また,このダイアグラムを見れば,物理領域間の相互作用を容易に確認することができます.たとえば,設計を修正して音響を改善する必要がある場合は,効率への実質的にネガティブな影響が明確に示されます.このチャートにより,変更した設計それぞれにどのような長所・短所があるか,またこの設計が独自の要件をどの程度満たしているか(または満たしていないか)を包括的に把握することができます.
現在の様々な複雑なプロセスと同様,エンジン設計プロセスを成功させるには,協調的で体系的な手法が必要です.EM-motive 社の体系的なエンジン設計手法は,取引先の自動車メーカーが厳しい時間・コスト制約の中で次世代のハイブリッド・電気自動車を開発できるよう,ANSYS のパラメトリックシミュレーション環境と革新的なプレゼンテーション手法を統合しています.
本稿は,CADFEM Journal 誌の編集チームによるインタビューから編集したものです.
© 2017 ANSYS, INC. ANSYS ADVANTAGE 49