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- 1 - 飼養衛生管理基準 防疫は、侵入防止・発生予防、早期発見・ 早期通報、初動防疫による封じ込め(まん延防 )からなる。家畜伝染病(法定伝染病)の発生 が確認された場合には、「家畜伝染病予防法」 に従い、直ちに当該家きんの処分等の防疫措 置を実施する。高病原性鳥インフルエンザお よび低病原性鳥インフルエンザについては、 「高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥 インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫 指針において、発生農場における防疫措置、 食鳥処理場やGPセンターなど家きん集合施 設の運営の制限や各所の消毒ポイントの設置、 清浄性確認等について詳細が示されている。 最新の「飼養衛生管理基準」は平成 29 2 1 日付けで改正された。その「鶏、あひる、う ずら、きじ、だちょう、ほろほろ鳥、七面鳥編」で は、他の家畜のそれとは若干異なり、以下の 26 項目がある。他の家畜との相違点として、例 えば,(6) 「衛生管理区域専用の衣服・靴の設 置および使用」において、「各鶏舎専用の靴を 設置し、鶏舎に立ち入る者に対し、これらを確 実に着用させること」とあり、鶏舎ごとの履物交 換を求めている。また,(12) 「野生動物の侵入 防止のためのネット等の設置、点検および修 繕」および(13) 「ネズミおよび害虫の駆除」に おいて、「網目 2cm 以下の防鳥ネットを設置す ること」および「ネズミおよびハエ等の害虫駆除 を講ずること」と、スズメ等の野鳥侵入防止や 害獣・害虫駆除を求めている。これらは他の家 畜編にはない項目である。 (1) 家畜防疫に関する最新情報の把握 (2) 衛生管理区域の設定 (3) 衛生管理区域への必要のない者の立入 り制限 (4) 衛生管理区域に立ち入る車両の消毒 (5) 衛生管理区域および鶏舎に立ち入る者 の消毒 (6) 衛生管理区域専用の衣服・靴の設置お よび使用 (7) 他の畜産関係施設等に立ち入った者が 衛生管理区域へ立ち入る際の措置 (8) 他の畜産関係施設等で使用した物品等 を衛生管理区域へ持ち込む際の措置 (9) 海外で使用した衣服等を衛生管理区域 へ持ち込む際の措置 (10) 給餌設備、給水設備等への野生動物の 排せつ物等の混入の防止 (11) 飲用水の消毒 (12) 野生動物の侵入防止のためのネット等 の設置、点検および修繕 (13) ネズミおよび害虫の駆除 (14) 家きんの死体の保管場所 (15) 鶏舎等および器具の定期的な清掃また は消毒等 (16) 空舎または空ケージの清掃および消毒 (17) 密飼いの防止 (18) 特定症状が確認された場合の早期通報 ならびに出荷および移動の停止 (19) 特定症状以外の異状が確認された場合 の出荷および移動の停止 (20) 毎日の健康観察 (21) 鶏を導入する際の健康観察等 (22) 鶏の出荷または移動時の健康観察 (23) 埋却等の準備 (24) 感染ルート等の早期特定のための記録 の作成および保存 (25) 獣医師等の健康管理指導(大規模所有 者に関する追加措置) (26) 通報ルールの作成等(大規模所有者に 関する追加措置) 上記のことが遵守されているか否か、チェッ クシートを使用して年1回の飼養衛生管理基 準遵守状況調査がある。しかし、そのチェック は、ハードの面の確認がほとんどで、ソフト面 の確認まで網羅されていない。ソフト面は各生 産者が自覚を持って確認する必要がある。 例として、「 (5) 衛生管理区域および鶏舎に 立ち入る者の消毒」の項目に「消毒設備の設 置」の有無のチェックがあるが、「踏み込み消 毒槽」が設置してあれば OK となる。しかし、そ の「踏み込み消毒槽」は適切に機能しているか 否かについてはチェックできていない。つまり、 ハード面は OK だが、ソフト面は不明のままで 鳥インフルエンザ最前線 ~鶏の飼養管理衛生~ 末吉益雄 宮崎大学農学部獣医学科産業動物衛生学研究室

鳥インフルエンザ最前線 ~鶏の飼養管理衛生~ health2.pdf · - 1 - 飼養衛生管理基準 防疫は、侵入防止・発生予防、早期発見・ 早期通報、初動防疫による封じ込め(まん延防

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Page 1: 鳥インフルエンザ最前線 ~鶏の飼養管理衛生~ health2.pdf · - 1 - 飼養衛生管理基準 防疫は、侵入防止・発生予防、早期発見・ 早期通報、初動防疫による封じ込め(まん延防

- 1 -

飼養衛生管理基準

防疫は、侵入防止・発生予防、早期発見・

早期通報、初動防疫による封じ込め(まん延防

止)からなる。家畜伝染病(法定伝染病)の発生

が確認された場合には、「家畜伝染病予防法」

に従い、直ちに当該家きんの処分等の防疫措

置を実施する。高病原性鳥インフルエンザお

よび低病原性鳥インフルエンザについては、

「高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥

インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫

指針において、発生農場における防疫措置、

食鳥処理場やGPセンターなど家きん集合施

設の運営の制限や各所の消毒ポイントの設置、

清浄性確認等について詳細が示されている。

最新の「飼養衛生管理基準」は平成 29 年 2

月 1 日付けで改正された。その「鶏、あひる、う

ずら、きじ、だちょう、ほろほろ鳥、七面鳥編」で

は、他の家畜のそれとは若干異なり、以下の

26 項目がある。他の家畜との相違点として、例

えば,(6) 「衛生管理区域専用の衣服・靴の設

置および使用」において、「各鶏舎専用の靴を

設置し、鶏舎に立ち入る者に対し、これらを確

実に着用させること」とあり、鶏舎ごとの履物交

換を求めている。また,(12) 「野生動物の侵入

防止のためのネット等の設置、点検および修

繕」および(13) 「ネズミおよび害虫の駆除」に

おいて、「網目 2cm以下の防鳥ネットを設置す

ること」および「ネズミおよびハエ等の害虫駆除

を講ずること」と、スズメ等の野鳥侵入防止や

害獣・害虫駆除を求めている。これらは他の家

畜編にはない項目である。

(1) 家畜防疫に関する最新情報の把握

(2) 衛生管理区域の設定

(3) 衛生管理区域への必要のない者の立入

り制限

(4) 衛生管理区域に立ち入る車両の消毒

(5) 衛生管理区域および鶏舎に立ち入る者

の消毒

(6) 衛生管理区域専用の衣服・靴の設置お

よび使用

(7) 他の畜産関係施設等に立ち入った者が

衛生管理区域へ立ち入る際の措置

(8) 他の畜産関係施設等で使用した物品等

を衛生管理区域へ持ち込む際の措置

(9) 海外で使用した衣服等を衛生管理区域

へ持ち込む際の措置

(10) 給餌設備、給水設備等への野生動物の

排せつ物等の混入の防止

(11) 飲用水の消毒

(12) 野生動物の侵入防止のためのネット等

の設置、点検および修繕

(13) ネズミおよび害虫の駆除

(14) 家きんの死体の保管場所

(15) 鶏舎等および器具の定期的な清掃また

は消毒等

(16) 空舎または空ケージの清掃および消毒

(17) 密飼いの防止

(18) 特定症状が確認された場合の早期通報

ならびに出荷および移動の停止

(19) 特定症状以外の異状が確認された場合

の出荷および移動の停止

(20) 毎日の健康観察

(21) 鶏を導入する際の健康観察等

(22) 鶏の出荷または移動時の健康観察

(23) 埋却等の準備

(24) 感染ルート等の早期特定のための記録

の作成および保存

(25) 獣医師等の健康管理指導(大規模所有

者に関する追加措置)

(26) 通報ルールの作成等(大規模所有者に

関する追加措置)

上記のことが遵守されているか否か、チェッ

クシートを使用して年1回の飼養衛生管理基

準遵守状況調査がある。しかし、そのチェック

は、ハードの面の確認がほとんどで、ソフト面

の確認まで網羅されていない。ソフト面は各生

産者が自覚を持って確認する必要がある。

例として、「(5)衛生管理区域および鶏舎に

立ち入る者の消毒」の項目に「消毒設備の設

置」の有無のチェックがあるが、「踏み込み消

毒槽」が設置してあれば OK となる。しかし、そ

の「踏み込み消毒槽」は適切に機能しているか

否かについてはチェックできていない。つまり、

ハード面は OK だが、ソフト面は不明のままで

鳥インフルエンザ最前線

~鶏の飼養管理衛生~

末吉益雄

宮崎大学農学部獣医学科産業動物衛生学研究室

Page 2: 鳥インフルエンザ最前線 ~鶏の飼養管理衛生~ health2.pdf · - 1 - 飼養衛生管理基準 防疫は、侵入防止・発生予防、早期発見・ 早期通報、初動防疫による封じ込め(まん延防

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ある。詳細は、後述するが、「飼養衛生管理基

準」は一つの指標であって、それで完全では

ない。そのことを念頭に置いて、一つ一つ適切

に実行すれば、農場バイオセキュリティは格段

に強化できる。

日常の衛生管理 衛生管理は有事の際に実行するものではな

く、日常的に畜産業務の一環として実行する

必要がある。とくに、消毒は欠かせない作業の

一つであり、手法は違っても消毒を実施してい

ない養鶏場はないはずである。しかし、適切に

されているか、と言うと実態は危うい。「消毒し

たつもり」は最も怖い落とし穴である。

消毒薬の効果は、消毒薬選定、希釈濃度、

量、温度、反応時間、有機物の存在などにより

著しく影響を受ける。このため、使用目的や環

境に応じて適切な消毒薬を適切な濃度に調

製し、毎日交換することが基本である。有機物

等による汚染がある場合には、より頻繁な交換

が必要となる。冬季の低温下における消毒で

は、気温が消毒効果に大きく影響するため、

使用する消毒液に対する温度の影響を予め

考慮した上で消毒薬を選択し、調製する必要

がある。寒冷地では、不凍液の混合による消

毒効果が検証されている。

農場周辺への消石灰散布による待ち受け

消毒も外部からの病原微生物の侵入防止に

有用である。また、消石灰帯は、白帯として、

「視える化」されているため、第三者に畜産関

係領域帯としてマーキングされて再認識しても

らうために有用である。ただ、消石灰は、空気

中の炭酸ガス反応し、炭酸カルシウムとなると

効力を失うため、外観上薬剤が残ってるように

見えても、消毒資材としての機能を維持するた

めには定期的な散布が必要である。

ここでは、日常の衛生管理として、人、車輌、

農場、鶏舎、機器・器材・資材、飼料・飲水、排

せつ物、野生動物、昆虫、死亡鶏の衛生管理

とワクチンプログラムについて概説する。

1. 外来者・農場従事者・外国人従事者の衛

生管理

農場内への部外者の立入は原則禁止とす

る。やむを得ない外来者の入退場の際には、

農場従事者と同様に、シャワーイン・シャワー

アウトを実施し、場内専用の履物および衣服

に更衣し、手指の洗浄・消毒および踏み込み

消毒槽による履物の消毒を実施する。外来者

は農場従事者と別に出入口を設置することが

望ましい。さらには、外来者には、農場訪問前

日に現地入りし、近隣で前泊し、来訪前に他

施設に寄らない条件を課すことが望まれる。

交差汚染のないように入退場者の動線はワ

ンウェイとし、さらに履物(場外と場内の区別、

外来者と農場従事者の区別)置き場および衣

服保管(洗濯済みと使用済みの区別、外来者

と農場従事者の区別)場所に留意する。また、

持ち物を場内に持ち込ませず、ものを持ち出

させない。農場バイオセキュリティの大原則で

ある。やむを得ず、持ち込む、持ち出す際に

は、入念に消毒するか、清浄なビニル袋で常

時密封する。カメラ、手帳、文具、スマートフォ

ン、クーラーボックスなど要注意である。所持

品を自身のシャワーの時間帯(10 分間程度)に、

紫外線パスボックスで殺菌して、安心している

場面を目にするが、紫外線に照射されていな

い影の部分は未殺菌状態である。パスボックス

を過信せず、可能なら、パスボックス自体を設

置しない覚悟も必要である(図 1)。以後、繰り

返し記すが、消毒したつもりが、最も危ない。

食鳥処理場への出荷時も、部外者の立入

は規制する。やむを得ず、外部の作業員が集

荷作業のため農場内に入退場する場合には、

他の農場からの病原体の持ち込みや自農場

からの持ち出しを防ぐため、清浄な作業衣、手

袋、履物に着替えまたは履き替える。

外国人従事者への衛生教育も、今後、益々、

重要となる。日本語や英語を理解できないで

入国し、農場で研修・従事する場合も増加して

いる。言葉の壁を乗り越え,業務と同様、模範

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行動見習いで、しっかり、習得させる。母国か

らの国際郵便など、肉製品など違法品がない

か、オープンコミュニケーションでの衛生管理

が求められる。それらの意味を伝えるためにも、

入国後の研修期間に数時間でも防疫に関す

る講習を履修する組織的な教育システムが求

められる。

農場バイオセキュリティの極端な例として、タ

イ国のブロイラーメガファームの1例で、農場

単位のオールイン・オールアウトを実行してい

る。しかも、飼養鶏だけでなく農場従事者も全

員入れ替え制である。即ち、農場敷地内に、

約 50 日間の従事者用の生活環境も整え、より

農場内外の接点を遮断するシステムである。こ

れは、飼養期間の短いブロイラー農場、失業

率が高い、農場内生活の快適性、高給、農場

従事者の応募者多い社会背景がないと実現し

にくい。

2. 各種車輌の衛生管理

農場内への車輌の進入は原則禁止とする。

やむを得ず、飼料搬送や集荷等に用いる車輌

で入退場する際には、車輌用消毒槽(プール)

および車輌消毒ゲートで車輌全体を消毒する。

車輌用消毒槽(プール)のメンテナンスは重要

である。排水溝が詰まっていないか。消毒液が

雨水に置き換わっていないか、などに留意す

る。消毒液が有効濃度で維持されていない場

合、スズメなどの野鳥が水浴びしたりして、何

のために設置した消毒槽(プール)か分からな

い。車輌用消毒槽(プール)についても過信は

禁物である。逆にリスクが増すこともあり得る。

また、適切にメンテナンスされた消毒槽(プー

ル)の場合、高頻度で大量の消毒液廃水がで

る。環境問題になるリスクもある。よって、手間

が掛かるが動力噴霧器を用いて、手動で車輌

全体を上、横、裏側、タイヤハウスまで入念に

汚れの除去、除菌・殺菌を目的に洗浄・消毒

するのは有用である。車輌消毒には、腐食性

の低い消毒薬を用いる必要がある。また、処理

場で荷物を下ろした後は、直ちに洗浄・消毒を

実施する。食肉処理場においても入口と出口

は別々に動線を指定し、場内の動線をワンウ

ェイにして、交差汚染防止する。洗浄・消毒な

しで不特定の農場や畜産関連施設に移動す

ることは避ける。

養豚業界では、2013年から 2014年に発生・

流行した豚流行性下痢(PED)の防疫の教訓か

ら、車輌消毒の後の「車輌乾燥」の重要性が再

認識された。「車輌乾燥」処置もできるところか

ら始める必要がある。

3. 農場の衛生管理

農場は幹線道路から離れた場所に設置し、

悪臭対策の一つとして、立地の恒風等を考慮

して、排せつ物処理場等を配置する。

野生動物侵入防止対策として、農場境界に

は、ワイヤーフェンス、電気牧柵を設置する。

鶏舎周辺は、整理・整頓し、常に除草する。実

のなる樹木は植樹しない。

飼料搬入や集荷等に用いる車輌で入退場

する際に、車輌を消毒するために車輌用消毒

槽(プール)および車輌消毒ゲートあるいは手

動用の動力噴霧器を出入口に設置する。入口

と出口は別々に動線を指定し、場内の動線を

ワンウェイにして、交差汚染防止する。

4. 鶏舎の衛生管理

農場出入口では、シャワーイン・シャワーア

ウトを実施するように、各鶏舎出入口には、踏

み込み消毒槽を設置する。長靴等の消毒効

果は有機物の存在により、より著しく影響を受

けるため、踏み込み消毒槽の前に、履物の水

洗・洗浄場を設置し、靴底などの汚れを落とす。

また、踏み込み消毒槽を過信してはならない。

その根拠の一つが、図 2に示すように、踏み込

み消毒槽のメンテナンスの違い(消毒液の更

新、希釈倍率あるいは種類、さらには蓋の有

無など)で消毒槽中から多数の生きた細菌が

分離された。そもそも如何に高評価の消毒液

でも 5℃,10分間で 99.99%程度の殺菌力であ

る。それが低温、有機物混入、瞬間的(数秒

間)の消毒液接触で期待通りの殺菌ができな

いのは容易に理解できる。踏み込み消毒槽に

入れば、菌やウイルスが「ゼロ」になりますよう

に、とのお呪(まじな)いであってはならない、や

ったつもりは最も危険と再認識すべきである。

重要なのは、「靴、衣服」など農場内外、鶏舎

内外の交換であり、手指洗浄・洗顔である。生

きた菌やウイルスが潜んでいる「踏み込み汚染

槽」になっているくらいなら、名ばかりの踏み込

み消毒槽を設置せず、履物の汚れ落としたあ

と、浸漬消毒槽(90 リットルバケツなどを利用し

て)に切り替え設置して、靴の内外の消毒を実

施し、適時乾燥・交換する覚悟があってもいい。

適切に管理された踏み込み消毒槽でも、消毒

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できるのは履物の外側だけで、内側は未消毒

である。カビが繁殖しているケースをしばしば

目撃する。長靴浸漬消毒槽を設置すれば、履

物の内側・外側両方を清潔に保てる。

さらに、鶏舎出入口に、サービスルーム(前

室)を設置し、物理的バリアーとしてベンチある

いはコンパネで仕切るなど(図 3)で鶏舎内外の

交差汚染を防ぐ。育雛舎、育成舎および成鶏

舎の管理は独立して実施し、鶏舎間、鶏群間

で病原体の伝播が起こらないよう注意する。

ブロイラーの出荷などのオールアウト時には、

鶏舎内の排せつ物、敷料および給餌器などの

器具を洗浄・消毒し、鶏舎環境全体をクリーン

状態にする。フローとしては、鶏のオールアウト

後、まず、鶏舎内全体に消毒液を散布し、塵

埃の飛散を抑える。次に、鶏舎内の器具や敷

料・鶏糞等を搬出し、水洗、洗浄した上で十分

に乾燥させ、本消毒し、乾燥のため空舎期間

を設ける。給水タンクやパイプ、給餌システム

についても丁寧に洗浄・消毒する。洗浄の際

に、蒸気の噴出が可能な高圧スチームクリー

ナーなど高温高圧洗浄機を用いると、洗浄と

熱による消毒効果も期待され、より効果的であ

る。洗浄・乾燥後には再度、消毒を実施し、必

要に応じて、複数回これを繰り返す。効果的な

消毒のためには、徹底した洗浄による有機物

の除去が必要不可欠である。壁や天井など、

消毒液との接触時間が長い発泡消毒法は有

用である。さらに、仕上げとして、消毒、乾燥後、

煙霧消毒法も実施されている。散布では届か

ない、隙間、パイプ内などの消毒が期待できる。

但し、この際は人体にも有害なグルタルアルデ

ヒドなど殺菌力の強い消毒薬が選定されること

が多く、他の消毒法よりも作業者の安全態勢

(バイオセーフティ)を整えておく必要がある。

この一連の「消毒」工程の留意点として、水

洗・洗浄後と消毒の間の「乾燥」は重要なステ

ップである。床面や壁面の無数の微細な穴や

溝、また、床と壁の接合箇所の中には病原体

が水分とともに潜伏している可能性がある。床

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面や壁面が見た目乾いていても微細な穴や溝

に水分が残っている状態で、折角、適切な濃

度に調製した消毒薬を散布しても、その病原

体が潜伏している箇所では、残存した水分で

希釈されて、それらの病原体は殺菌できてい

ない可能性がある(図 4)。

採卵鶏の場合、定期的に洗浄・消毒し、集

卵システムについても集卵ベルトや集卵台を

正常に保つため清掃、水洗、洗浄、消毒、乾

燥を実施する。

地鶏など、土壌平飼いの場合、鶏回虫など

の寄生虫寄生、ヒストモナスやコクシジウムなど

による原虫性疾病がしばしば発生しており、定

期的な消石灰散布あるいは生石灰散布などに

よる環境消毒など、予防対策が必要である。

5. 機器・器材・資材の衛生管理

機器・器材・資材等は、使用前後、水洗、洗

浄後、浸漬消毒する。浸漬消毒が困難な場合

には、丁寧に噴霧消毒する。農場間あるいは

鶏舎間での共同利用は原則禁止する。輸送コ

ンテナは、輸送時に鶏糞等で汚染されている

ため、病原体に汚染される可能性が高い。こ

のため、使用後は直ちに洗浄・消毒・乾燥を実

施する。高温高圧洗浄機の使用は効果的であ

る。

6. 飼料・飲水の衛生管理

飼料は、サルモネラ等病原微生物の混入の

ないことを確認するとともに、貯蔵タンクへの野

鳥の侵入や糞便による汚染を防ぐため、隙間

や破損等がないよう管理する。また、飼料や飲

水の微生物検査を定期的に実施し、汚染が確

認された場合には施設の洗浄と消毒を実施す

る。飲水用として、水道水ではなく、井戸水、

地下水、湧き水や沢水などを用いることがある

が、原則として塩素消毒を行った上で給水す

る。飲水時に残留塩素濃度 0.1ppm 以上が望

ましい。生ワクチンの飲水投与の際には、一時

的に、飲水消毒を中止する。

7. 排せつ物の衛生管理

鶏の排せつ物には、多くの病原微生物が排

出される可能性があるので、排せつ物は農場

内で乾燥、発酵、堆肥化等の処理を行い、生

糞の移動は原則禁止とする。また、鶏糞処理

施設への野鳥の侵入を防ぐ目的で防鳥ネット

が使用されている。

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8. 野生動物の衛生管理

野鳥は、ニューカッスル病や鳥インフルエン

ザなど鶏が感受性を示す多くの病原微生物を

伝播する可能性がある。そのため、野鳥の鶏

舎への侵入を防ぐ防鳥ネット(網目一辺が 2cm

以下)が使用されている。それらのネットにはカ

プサイシンなど忌避剤などを塗り込んだものも

あり、その効果が検証されている。防鳥ネット

の連結部は、捲れたり、隙間のないように注意

を払う。オールアウト後の、清掃、洗浄、消毒

作業時に傷ついたり、破損したりすることがあ

るので、作業後は各箇所チェックして、修復す

る。また、壁などはネズミなどに囓られているこ

ともあるので、それらの破損箇所は天気の良い

日を選び、鶏舎内から壁等を見上げたときに、

採光箇所があるので、目印をして空舎のうちに

修復する。

防鳥ネットの設置は、野鳥の侵入防止には

有効だが、一方、埃やクモの巣等で目詰まりを

起こしやすい。よって、防鳥ネットの目詰まり防

止などのメンテナンスにも充分に留意し、換気

失宜等を未然に防止する。

ドブネズミ、クマネズミおよびハツカネズミは、

サルモネラを含む種々の病原体を媒介するこ

とが報告されている。農場外からの侵入防止

のために、忌避剤や殺鼠剤を使用する。その

他、鶏舎周囲をコンクリートで等で固め、巣穴

を作らせないようにする。侵入門戸となる壁の

隙間や穴がある場合には、これらを塞ぐ。鶏舎

付近に樹木が植えられている場合、枝が鶏舎

にかかる場合など小動物の侵入経路の一つと

なる。また、鶏舎周囲に藪や花、果樹が実る樹

木がある場合、ネズミを含む野生動物や野鳥

を誘引する可能性があるので、藪払い、伐採

あるいは枝払いする。また、クマネズミは鶏舎

内に棲みついてる場合も多く、被害として、前

述の伝染病の伝播だけでなく、電気コードを

囓ることで漏電し、火事になることもある。一般

的に最も大きな被害は食害である。通常、ネズ

ミは体重の 10%量の飼料を毎日摂取する。ネ

ズミ駆除の化学的防除法とては殺鼠剤を使用

する。殺鼠剤には、シリロシド、リン化亜鉛、ノ

ルボルマイドなどの急性毒性タイプとクマリン

系誘導体などの遅効性タイプがある。剤型とし

ては、固形、液剤、粉剤がある。物理学的防除

法として、捕獲カゴ、粘着テープ、超音波発生

器などがあるが、大掛かりな駆除にはならない。

生物学的(天敵)防除法として、ネコを導入して

いるところもあるが、ネコは鳥インフルエンザウ

イルスに感受性があり、その他いくつかのネガ

ティブな理由からも推奨されない。ネズミ駆除

は一度で感染駆除は困難であり、継続しなけ

ればならず、畜産専門のネズミ駆除業者に委

託し、効率よく実施することを推奨する。

鶏舎周囲の除草や放置された器材・資材の

整理・整頓もネズミの隠れ場所排除となり、間

接的に鶏舎侵入防止に有効である。ネズミの

他には、タヌキ、キツネ、イタチ、アナグマ、アラ

イグマ、シカ、イノシシ、カラス等やネコ(野良ま

たは飼い猫)(図 5, 6)についても侵入がないよ

う、必要に応じて、金属製の網等で隙間を塞ぐ。

9. 昆虫の衛生管理

ワクモおよびトリサシダニの駆除には、ピレス

ロイド剤を使用する。一部、薬剤抵抗性もみら

れることから、同一薬剤の長期連続使用、薬剤

使用量に注意し、定期的に薬剤の種類を切り

替えるローテーション使用法あるいは違う系統

の薬剤を混合するコンビネーション使用法があ

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る。また、空舎であれば高温高圧洗浄機を使

用して 65℃以上の高温水での洗浄や、火炎

バーナーでのケージなどの金属部分を焼いた

りする方法がある。

堆肥舎や高床式鶏舎の排せつ物の堆積箇

所は、イエバエ、オオイエバエ、ヒメイエバエ、

ハヤトビバエなどのハエが発生しやすく、また、

幼虫の蛆や蛹を摂食する野鳥等が侵入する

可能性がある。昆虫発生防除の基本は、除糞

が原則である。しかし、高床式鶏舎では、床下

に排せつ物が長期間堆積することが多い。そ

のため、昆虫の発生防除には、ピレスロイド系

製剤、有機リン系製剤、カーバメイト系製剤、

昆虫成長制御剤(IGR 剤)の動物用医薬品が

使用されている。殺虫剤の溶液に糖蜜を加え

て毒餌とするベイト法による駆除も有効で、噴

霧器により壁や床、柱等に噴霧する。また、水

田など水場が近い開放式鶏舎では、ニワトリヌ

カカの対策を講じる必要があり、電子蚊取り器

の設置や殺虫剤の噴霧を実施する。この場合、

鶏卵や鶏肉への動物用医薬品の残留がない

よう配慮が必要である。幼虫対策としては、昆

虫成長制御剤(IGR 剤)の鶏糞への散布が有

効である。生物学的(天敵)対策も検討されて

いるが、人為的コントロールが困難な部分があ

り、改良が求められている。低床式鶏舎では、

頻回の除糞が基本である。

その他、ハジラミや庭先養鶏や愛玩鶏で飼

養しているチャボ、烏骨鶏などでは、ニワトリア

シカイセンダニ対策が必要である。

10. 死亡鶏の衛生管理

死亡鶏については、蓋付きの箱内に保管す

る。処理に時間が必要な場合、冷凍庫の準備

も必要となる。放置すると、カラス、イタチ、アラ

イグマなど野生動物が侵入し、農場内外のバ

リアーを破り、病原体の伝播のリスクがある(図

7)。

11. ワクチンプログラム

国内、農場所在地域や農場内における感

染症の疫学情報から、必要に応じてワクチン

接種を行う。鶏へのワクチン接種経路は多様

で、筋肉内、皮下、飲水、混餌、翼膜穿刺、点

眼、点鼻、噴霧、散霧、卵内接種法などがあり、

筋肉内接種が主体の他の家畜とは大きく異な

る。鶏用ワクチンは不活化および生ワクチンの

両方が広く使用されている。不活化ワクチン使

用の際には、水酸

化アルミニウムゲル

やオイルアジュバン

ト等の鶏肉への残

留を考慮する。コマ

ーシャルブロイラー

へのワクチン接種の

際、筋肉内接種は

実施しない。マレッ

ク病生ワクチンは頚

部皮下に、鶏痘生ワ

クチンは翼膜に穿

刺接種する。これら

の生ワクチンは 18

日齢の発育鶏卵に

卵内接種されること

もある。伝染性ファ

ブリキウス嚢病、鶏

脳脊髄炎、鶏貧血ウイルス感染症など、雛で

問題となる感染症の場合、種鶏(親鳥)にワクチ

ンを接種し、コマーシャル鶏に移行抗体を賦

与する。ニューカッスル病や伝染性ファブリキ

ウス嚢病など、育雛期にも生ワクチンを接種す

る場合、生ワクチンが移行抗体により効果を示

さない可能性があるたため、移行抗体の推移

を把握した上でワクチン接種を実施する。

おわりに 鶏の飼養衛生管理は、日常実施が原則で

あるが、高病原性鳥インフルエンザ防疫対策

が主となって推進されている。そのため、その

リスクの低い初夏から初秋にかけて、第三者に

よる農場内、鶏舎内立入検査して、飼養衛生

管理基準の遵守のチェックあるいはその指導

などが実施され(図 8)、ハイリスクの秋から春

(冬の渡り鳥飛来時期)にかけては、養鶏関係

団体のイベントや集会の機会を減らして、生産

農場において厳重な衛生管理が実践されて

いる。

各家畜・家きんの中で、飼養衛生管理基準

で最も厳しく対策取られているのが養鶏(家き

ん)であり、野生動物侵入対策としても「2cm 以

下の網目」の防鳥ネットの設置指導などきめ細

かい。しかしながら、2018 年以来の、豚コレラ

発生と続発の教訓から、野生動物と家畜伝染

病の発生・流行・持続・防疫の関係は深いこと

が再認識された。今後は、全家畜・家きん種に

おいて、動物舎内への侵入防止対策を徹底

Page 8: 鳥インフルエンザ最前線 ~鶏の飼養管理衛生~ health2.pdf · - 1 - 飼養衛生管理基準 防疫は、侵入防止・発生予防、早期発見・ 早期通報、初動防疫による封じ込め(まん延防

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するとともに、そもそも農場敷地内への野生動

物の侵入防止対策(ワイヤーメッシュ・電気牧

柵設置など)が求められる。