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- 23 - 沖縄県立総合教育センター 前期長期研修員 第 60 集 研究集録 2016 年9月 〈肢体不自由・病弱教育〉 重度・重複障害児の表現する力をはぐくむ「遊びの指導」の工夫 学習到達度チェックリストを活用した「感覚運動あそび」を通して沖縄県立泡瀬特別支援学校教諭 瑞慶覧 美音 テーマ設定の理由 特別支援学校学習指導要領(平成 21 年)では、肢体不自由者である児童に対する教育を行う特別支援学 校において、「体験的な活動を通して表現する意欲を高めるとともに,児童の言語発達の程度や身体の動き の状態に応じて考えたことや感じたことを表現する力の育成に努めること。」とされており、 「表現する力」 の育成に努めることが明記されている。近年では、児童生徒の障害の重度・重複化、多様化が進み、一人 一人の教育的ニーズに対応したきめ細やかな指導や支援が求められている。 肢体不自由を主とする重度・重複障害のある児童生徒は、姿勢を変えることや身体を動かすことが困難 なことが多い。さらに、自ら言葉を発したり、仲間とかかわりながら遊んだりする活動が少ないため、と りまく環境の中で受動的に生活体験を重ねていることが多い。しかし、周囲からの働きかけに対して反応 の少ない児童でも、発達の過程で様々な体験を通して「表現する力」をはぐくむことは心を豊かにするう えで大切である。 沖縄県立泡瀬特別支援学校(以下「本校」とする)は肢体不自由を対象とする特別支援学校であり、小 学部・中学部・高等部の3つの学部が設置され、134 名(平成 28 年4月現在)の児童生徒が在籍している。 本校では、重複障害児童生徒が116名おり、全体のおよそ87%を占めている。本研究の対象となる児童は、 小学部2年生の重複障害学級で、「自立活動を中心とした教育課程」の6名である。日常生活の活動全般に おいて全介助を必要とし、コミュニケーションの面では表情や発声で伝えようとする児童や周囲からの働 きかけに対して反応の少ない児童がいる。体調面においては、元気に手脚を動かし続ける児童や睡眠と覚 醒を繰り返す児童、医療的ケアを必要とする児童など様々である。 知的障害の特性を踏まえた効果的な指導には「各教科等を合わせた指導」があり、領域や教科に盛り込 まれた教育内容を合わせて指導するものである。その中の一つに「遊びの指導」があり、遊びを通して児 童の身体活動を活発にしたり、仲間とのかかわりを促したりすることなどをねらいにし、多くの特別支援 学校小学部において行われている。「遊びの指導」は、児童の実態に合わせて教材・教具を工夫して様々な 取り組みがなされている。 「感覚運動あそび」について大沼直樹(2003)は、「自分の体の存在に感覚(皮膚感覚、前庭感覚、筋肉 運動感覚、聴覚、視覚)を通して気づき、各部位を巧みに使うようになることをねらいの一つ」としてお り、障害が重度な子どもに対しては、ふれあい遊びなど「単純で心地よい情動的・感覚的アプローチ」を 体に働きかけることが発達を促す上で大切であると考えられている。 また、徳永豊(2014)によると、「学習到達度チェックリストは、乳幼児の発達を手がかりに初期発達段 階にある子どもの学びを整理したものである」と述べており、「学びの内容の連続性」を踏まえて「子ども の学びの積み重ね」に着目している。障害が重度な子どもでも対応することができ、学びの到達度を把握 し、適切な目標設定を行うことができるようになっている。 そこで本研究では、「学習到達度チェックリスト2014」を活用することで、発達の段階の実態把握を的 確に行い、「遊びの指導」を通してはぐくみたい「表現する力」を「学びの内容の連続性」の中で捉え、教 科につながる視点で目標設定することができるのではないかと考えた。また、遊びの指導の中で「感覚運 動あそび」を取り入れることで、児童が仲間や教師と安心してかかわり、「おもしろい」、「楽しい」と思え る体験を増やすことができ、自らの気持ちを伝えようとする動きや発声を通して「表現する力」につなが るのではないかと考え、本テーマを設定した。

重度・重複障害児の表現する力をはぐくむ「遊びの …- 23 - 沖縄県立総合教育センター 前期長期研修員 第60 集 研究集録 2016 年9月 〈肢体不自由・病弱教育〉

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沖縄県立総合教育センター 前期長期研修員 第 60 集 研究集録 2016 年9月

〈肢体不自由・病弱教育〉

重度・重複障害児の表現する力をはぐくむ「遊びの指導」の工夫

-学習到達度チェックリストを活用した「感覚運動あそび」を通して-

沖縄県立泡瀬特別支援学校教諭 瑞慶覧 美音

Ⅰ テーマ設定の理由

特別支援学校学習指導要領(平成 21年)では、肢体不自由者である児童に対する教育を行う特別支援学

校において、「体験的な活動を通して表現する意欲を高めるとともに,児童の言語発達の程度や身体の動き

の状態に応じて考えたことや感じたことを表現する力の育成に努めること。」とされており、「表現する力」

の育成に努めることが明記されている。近年では、児童生徒の障害の重度・重複化、多様化が進み、一人

一人の教育的ニーズに対応したきめ細やかな指導や支援が求められている。

肢体不自由を主とする重度・重複障害のある児童生徒は、姿勢を変えることや身体を動かすことが困難

なことが多い。さらに、自ら言葉を発したり、仲間とかかわりながら遊んだりする活動が少ないため、と

りまく環境の中で受動的に生活体験を重ねていることが多い。しかし、周囲からの働きかけに対して反応

の少ない児童でも、発達の過程で様々な体験を通して「表現する力」をはぐくむことは心を豊かにするう

えで大切である。

沖縄県立泡瀬特別支援学校(以下「本校」とする)は肢体不自由を対象とする特別支援学校であり、小

学部・中学部・高等部の3つの学部が設置され、134名(平成 28年4月現在)の児童生徒が在籍している。

本校では、重複障害児童生徒が 116名おり、全体のおよそ 87%を占めている。本研究の対象となる児童は、

小学部2年生の重複障害学級で、「自立活動を中心とした教育課程」の6名である。日常生活の活動全般に

おいて全介助を必要とし、コミュニケーションの面では表情や発声で伝えようとする児童や周囲からの働

きかけに対して反応の少ない児童がいる。体調面においては、元気に手脚を動かし続ける児童や睡眠と覚

醒を繰り返す児童、医療的ケアを必要とする児童など様々である。

知的障害の特性を踏まえた効果的な指導には「各教科等を合わせた指導」があり、領域や教科に盛り込

まれた教育内容を合わせて指導するものである。その中の一つに「遊びの指導」があり、遊びを通して児

童の身体活動を活発にしたり、仲間とのかかわりを促したりすることなどをねらいにし、多くの特別支援

学校小学部において行われている。「遊びの指導」は、児童の実態に合わせて教材・教具を工夫して様々な

取り組みがなされている。

「感覚運動あそび」について大沼直樹(2003)は、「自分の体の存在に感覚(皮膚感覚、前庭感覚、筋肉

運動感覚、聴覚、視覚)を通して気づき、各部位を巧みに使うようになることをねらいの一つ」としてお

り、障害が重度な子どもに対しては、ふれあい遊びなど「単純で心地よい情動的・感覚的アプローチ」を

体に働きかけることが発達を促す上で大切であると考えられている。

また、徳永豊(2014)によると、「学習到達度チェックリストは、乳幼児の発達を手がかりに初期発達段

階にある子どもの学びを整理したものである」と述べており、「学びの内容の連続性」を踏まえて「子ども

の学びの積み重ね」に着目している。障害が重度な子どもでも対応することができ、学びの到達度を把握

し、適切な目標設定を行うことができるようになっている。

そこで本研究では、「学習到達度チェックリスト 2014」を活用することで、発達の段階の実態把握を的

確に行い、「遊びの指導」を通してはぐくみたい「表現する力」を「学びの内容の連続性」の中で捉え、教

科につながる視点で目標設定することができるのではないかと考えた。また、遊びの指導の中で「感覚運

動あそび」を取り入れることで、児童が仲間や教師と安心してかかわり、「おもしろい」、「楽しい」と思え

る体験を増やすことができ、自らの気持ちを伝えようとする動きや発声を通して「表現する力」につなが

るのではないかと考え、本テーマを設定した。

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図1 大島分類(大島、1970年)

図1 大島分類(大島、1970年)

〈研究仮説〉

1 「学習到達度チェックリスト 2014」を活用することで、重度・重複障害のある児童の実態把握を教

科につながる視点で明確にし、目標設定することができるであろう。

2 遊びの指導の中で「感覚運動あそび」を取り入れることで、重度・重複障害のある児童が気持ちを

伝えようとする自発的な動きや発声を促すことができ、「表現する力」につながるであろう。

Ⅱ 研究内容

1 重度・重複障害について

(1) 重度・重複障害について

「重度・重複障害」という用語は特別支援学校で用いられているものであり、その概念について

は、昭和 50年 3月、文部省の特殊教育の改善に関する調査研究会により「重度・重複障害児に対す

る学校教育の在り方」で報告されている。この中で重度・重複障害児については、「①『障害の状況』

において(学校教育法施行令に規定する盲・聾・肢体不自由・病弱の各障害等を)二つ以上の障害

をもっている者,②『発達の状況』からみて,精神発達が著しく遅れていると思われる者,③『行

動の状況』からみて,特に著しい問題行動があると思わ

れる者,④『発達の状況』及び『行動の状況』からみて,

精神発達がかなり遅れており,かつかなりの問題行動が

あると思われる者」と規定している。

また、「重症心身障害」とは、文部科学省の「教育支援

資料」(平成 25年)において「重度知的障害と重度の肢

体不自由を併せ有する障害であり(大島分類1~4),生

活は全介助を必要とする場合が多い」とされている。「大

島分類」とは大島一郎(昭和 45年)により考案された分

類で、分類表の1~4に当てはまる者を「重症心身障害

児(者)」と定義している。そして、5~9に当てはまる

者は「周辺児」と呼ばれ、「重症心身障害児(者)」では

ないものの、障害の程度が軽いわけではない点に注意す

る必要があるとされている(図1)。

(2) 重度・重複障害児の特性

重度・重複障害児の特性として、諸資料によると次のことがあげられている。

身体発育が順調でない場合が多く、低身長、低体重の児童生徒や身体虚弱の児童生徒が多く見ら

れる。また、生理調節機能(呼吸機能、体温調節機能、睡眠・覚醒機能)が十分に働かないことか

ら、様々な体調不良を伴いやすい。摂食・嚥下機能や排泄機能に困難を生じている児童生徒も多く

見られる。認知機能においては、姿勢や運動をコントロールできないため、その基盤となる初期感

覚である触覚、前庭覚、固有覚の活用段階にとどまり、視覚認知が未熟な場合が多く見られる。脳

性まひが基礎疾患の児童生徒には、その 70%に何らかの視覚障害があると推測されている。また、

骨格筋の過緊張・低緊張や不随運動が見られ、姿勢・運動の発達が未熟な場合が多く見られる。言

語・コミュニケーション機能においては、言語の理解や発語、身振りなどで自分の意思や要求を表

すことが難しく、周りの人にとっても相手の表現が理解しにくいため、コミュニケーションを図る

ことが困難である。人間関係や情緒・社会性においては、身体の動きや発語に困難があり自発的な

行動を獲得できず、人間関係において受動的になりやすい。

2 「遊びの指導」について

(1) 各教科等を合わせた指導

「各教科等を合わせた指導」は、知的障害のある児童生徒への教育課程編成における指導形態で

あり、知的障害の特性を踏まえた効果的な指導である。特別支援学校学習指導要領解説(平成 21

年)では「知的障害のある児童生徒の学習上の特性としては,学習によって得た知識や技能が断片

的になりやすく,実際の生活の場で応用されにくいことや,成功経験が少ないことなどにより,主

体的に活動に取り組む意欲が十分に育っていないこと」とし、実際的・具体的な内容の指導が効果

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表1 「学習到達度チェックリスト 2014」 (一部抜粋)

的であると考えられている。

「各教科等を合わせた指導」は、領域や教科に盛り込まれた教育内容を合わせて指導を行うもの

であり、「日常生活の指導」、「遊びの指導」、「生活単元学習」、「作業学習」の4つの形態があげられ

る。これらは、知的障害教育の目標である生活の自立を実現するためにとても有効な指導の形態で

あると考えられている。

(2) 遊びの指導

特別支援学校学習指導要領解説(平成 21年)では、「遊びの指導は,遊びを学習の中心に据えて

取り組み,身体活動を活発にし,仲間とのかかわりを促し,意欲的な活動をはぐくみ,心身の発達

を促していくものである」とされ、子どもの発達を促す重要な活動であると考えられている。

また、重度・重複障害児に当てはまる配慮事項として「自ら遊びに取り組むことが難しい児童に

は,遊びを促したり,遊びに誘ったりして,いろいろな遊びの経験ができるように配慮して,遊び

の楽しさを味わえるようにしていくこと。」と示されている。教師は児童と共に活動し、その中でさ

りげない支援的対応をしていくことになる。それは、教師を介して仲間同士のかかわりを促したり、

一緒に体を動かしたりしながら共に遊びを楽しもうとすることだと考える。

3 学習到達度チェックリストについて

徳永豊(2014年)によると「『学習到達度チェックリスト』は、乳幼児の発達を手がかりに初期

発達段階にある子どもの学びを整理したものである」とされ、「障害が重度であっても、教科の枠組

みでつけたい力を把握し、関係者で共通理解しようと試みた」とされている。教科には「学びの内

容の連続性」があり、「子どもの学びの積み重ね」の実態把握をすることで障害が重度な子どもでも

対応することができ、適切な目標設定を行うことができるようになっている。

学習到達度チェックリストは、発達段階に応じてスコア1~132まで設定され、特に生後1ヶ月

のスコア1から就学前のスコア 60までを 12段階に分けて学びの程度が把握できるようになってい

る。また、生後1ヶ月以降の発達段階の意義を縦軸に、国語や算数など教科の視点で「つけたい力」

を横軸に示されている(表1)。そして、国語や算数などの教科の視点や観点に従い、乳幼児の発達

を基礎として、それぞれの発達段階における行動で、子どもの学びの状況を把握しようとする尺度

を「教科の視点による尺度(Sスケール)」と定めている。Sスケールの考えによって構成された行

動項目の一覧の中から子どもの学びの到達度を把握し、目標設定に活用することができる。

学習到達度チェックリストでは、「国語」と「算数」を基礎となる教科としている。「国語」の発

達段階が1歳未満の場合、「受け止め・対応」が教科の観点「聞くこと」へ、「表現・要求」が教科

の観点「話すこと」へとそれぞれ学びを積み重ねていくことでつながっていくようになっている。

□ □

□ □

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表2 大島分類による実態把握

4 「感覚運動あそび」について

子どもは、遊びを通して様々な感覚(皮膚感覚、前庭感覚、筋肉運動感覚、聴覚、視覚)を働かせ

て体を動かそうとする。動きと体に入ってくる感覚に着目し、運動と感覚の双方の関わりから捉える

のが「感覚運動あそび」である。「感覚運動あそび」は、大沼直樹(2003年)によると「皮膚感覚、

前庭感覚、筋肉運動感覚、聴覚、視覚は学習と関連して最も基本となる感覚」とし、「あそび」により

刺激することで「脳の神経回路を形成していく最も適切な教材・指導内容」と述べている。

「感覚運動あそび」のねらいに、「自分の体の存在に感覚を通して気づき、各部位を巧みに使うよう

になること」がある。そうした力を身につける手立てとして、ふれあい遊びなどを通して子どもの体

によく働きかけることが大切だと考えられている。

Ⅲ 研究の実際

1 対象児童の実態把握

本研究の対象児は小学部2年生の重複障害学級で「自立活動を中心とした教育課程」の6名である。

座位がとれる児童が2名いるが、ほとんどの児童が遊ぶ際には教師の支援を必要とする。コミュニケー

ションでは発声はあるが発語はなく、表情などで快・不快などを伝えようとする。また、医療的ケアを

要する児童が2名おり、体調面での配慮を要する。表2は

大島分類による児童の実態把握であり、1~2はいずれも

「重症心身障害児」とされている。

図2は、「学習到達度チェックリスト 2014」を活用した

実態把握であり、おおよそスコア1(反射的な反応)~8

(物を介したやりとりの芽生え)の段階にあることがわか

った。

図2 学習到達度チェックリスト 2014での実態把握

児童 A B C D E F

分類 1 1 1 2 1 2

スコア 段 階 ・ 意 義

8 ことばへの応答、物を介したやりとりの芽生え、音声や身振りによる働きかけ、活動と結果の

理解、探索的操作、姿勢の保持・変換。

6 学習による行動変化、やりとりの予測・パターン化、音声や表情による対応や模倣、注意の追

従、物のやや複雑な操作、状況に合わせた自体の操作。

4 他者への注意と反応、発声、注意の持続、物の単純な操作、自体の操作。

2 外界の探索と注意の焦点化、自発運動。

1 外界の刺激や活動への遭遇、反射的な反応。

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表3 「感覚運動あそび」における教科につながる視点

表5 「体で感じていっしょに遊ぼう」遊びの目標一覧表(一部抜粋)

表4 遊びの指導・生活・音楽(音楽あそび)の目標

2 「遊びの指導」における教科につながる視点について

「遊びの指導」は「各教科等を合わ

せた指導」のため、展開する際にどの

教科や領域を合わせているのかを意識

して指導することが大切である。表3

は、「感覚運動あそび」の内容を「学習

到達度チェックリスト 2014」を参考に

し、教科につながる視点で目標設定が

可能かどうかを整理したものである。

この表から、どの遊びの内容にも「国

語」や「算数」を関連付けて指導する

ことができることがわかる。

単元名「体で感じて、いっしょに遊

ぼう」(感覚運動あそび)は全7時間を

計画し、検証授業と研究授業にて行っ

た。毎時間の目標は、「遊びの指導」の

目標以外にも関連する「音楽(音楽あ

そび)」と特別支援学校学習指導要領の

知的代替の「生活科」の目標を追加し

た(表4)。

また、教科につながる視点の目標に

おいては、「国語」と「算数」を「学習

到達度チェックリスト 2014」を参考に

して「遊びの目標一覧表」(表5)を作

成し、児童の実態に応じた目標を各担

当教師が選択できるように工夫した。

なお、「生活」と「運動・動作」はスキ

ル面としての目標になっており、「生活

科」とは区別している。

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3 感覚運動あそびの内容について

取り組んだ遊びは、「人とのかかわりあそび」を8つ、「わらべうた・となえことばを使ったあそび」

と「布やハンモックを使ったあそび」を組み合わせた3つを行った。沖縄のわらべうたや音楽を取り入

れたり、同じ遊びを繰り返し行うことで児童にとって「なじみのある活動」になるようにしつつ、遊び

の内容が発展し広がりがもてるように工夫した。また、児童の体調面や健康管理面から無理のないよう

に配慮して毎時間4つの遊びを組み合わせて遊びを体験できるようにした。実際の遊びの内容や様子を

表6に示した。矢印は発展する遊びを示している。

表6 感覚運動あそびの内容

人とのかかわりあそび(3時間)

遊び方 遊びの様子 教材・教具

「おむかいさんとごあいさつ」

輪になり、挨拶をする一組が向かい合い、「おむかい

さんとごあいさつ」の曲に児童の名前を入れて歌う。曲

に合わせて足踏みしたり、友達に触れたり、握手したり

して挨拶をする。待っている児童は手拍子をしたり友達

を見たりして遊ぶ。

ラジカセ

CD

曲:『おむかいさ

ん と ご あ い さ

つ』

「ちゃっぷんこマーチ」

歌いながら、ハンドパペットで体のいろいろなところ

に触れて遊ぶ。①くすぐる、②やさしくひっかく、③つ

っつく、④くしゃみするなどして遊ぶ。児童が喜ぶ部分

を触れるようにする。

ハンドパペット

ラジカセ

CD

曲:『ちゃっぷん

こマーチ』

「かさなりっこ」

教師とのかさなりっこでは軽く揺すったり、抱きしめ

るように圧を加えたりする。教師が児童の上になり、「先

生重いよ~」など言葉かけをする。また、児童同士でも

かさなりっこをし、接触感や圧迫感を体で感じつつ、友

達を意識しながら遊ぶ。

なし

「お山の爆発」

仰向けになった教師の上に児童を2~3人重なり合

うように乗せる。太鼓を小刻みに鳴らしながら「お山が

爆発するよ」と言葉かけをし、体を上下、左右前後に揺

する。最後に大太鼓を「ドン!」と大きく鳴らすのに合

わせ、児童に大きな振動を与えるようにして遊ぶ。

大太鼓

「バスにのって」

座位で教師と児童が交互に一列に並ぶ。『バスにのっ

て』の曲に合わせて、上半身が前後、左右に揺れる感覚

を楽しみながら遊ぶ。

ラジカセ

CD

曲:『バスにのっ

て』

「おしくらまんじゅう」

座位で友達同士一列に並ぶ。「おしくらまんじゅう押

されて泣くな」の歌を聞きながら前後から友達に押され

合いながら遊ぶ。

なし

「洗濯機」

児童を洗濯物にみたてて、①くすぐられる、②揺れる、

③回転する、④リラックスする、⑤扇の風を感じる、⑥

膝や腕などを曲げて小さくなる等の動きを曲に合わせ

て体験し、遊ぶ。

ラジカセ

CD

曲:『洗濯機(6

曲ミックス)』

発展

発展

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図3 児童の実態と個別目標及び評価(一部抜粋)

「お馬さん」

バランスボールに教師と一緒に乗り、曲に合わせて上

下、左右、前後に揺れる。他にもゆっくり揺れたり、早

く揺れたり工夫する。また、教師が畳に座り、児童を膝

の上にのせて揺らす遊びもある。

バランスボール

ラジカセ

CD

曲:『おんまは

みんな』

わらべうた・となえことばを使ったあそび

布やハンモックを使ったあそび

(4時間)

「小さな世界」

畳に仰向けになる。曲に合わせて揺れる布を見たり、

手を伸ばして触れたり、風を感じたりする。また、暗い

色(黒)から明るい色(黄・青)へ布を前半、後半で使

い分け、変化をつける。

布(黒、黄、青)

CD ラジカセ

曲:『いったーあ

んまーまーかい

が』

「風船ふわふわ」

畳に仰向けになる。曲に合わせて揺れる布の上を転が

る風船を見たり、手を伸ばして触れたりする。また、教

師と一緒に布の端を持って布を揺らす遊び方もできる。

風船

ラジカセ

CD

曲:『島唄』

「シーツブランコ」

専用のシーツの中央に児童を仰向けに寝かせ、大人二

人が両端を持ち、わらべうた『花ぬ風車』に合わせて揺

らす。最後に着地したら顔にハンカチをかぶせ、「いな

いいないばー」と言葉かけしながらハンカチを取るよう

に促す。

専用シーツ

風車

ラジカセ

CD ラジカセ

曲:『花ぬ風車』

4 検証授業

(1) 題材名

「体で感じて、いっしょに遊ぼう」(全7時間)

(2) 題材の目標

①「バスにのって」:上半身が前後、左右に揺れる感覚を楽しむことができる。

②「洗濯機」:くすぐられたり、回転したり、体の伸ばしをしたり、風を感じたり、働きかけて

いる部位を感じ取ることができる。

③「小さな世界」:布の動きを見たり、明暗の違いや肌にあたる風に気づいたりすることができる。

④「風船ふわふわ」:友達と一緒に布を揺らしたり、風船の動きを目で追ったりすることができる。

(3) 本時の目標(7/7時間)

・触れ合いを中心とした様々な遊びを、教師とかかわりながら楽しむことができる。

(4) 児童の実態と個別目標及び評価

児童の実態等を図3に示す(抜粋)。実態把握の資料として「学習到達度チェックリスト 2014」

を用いたスコアを参考にすることで、各担当教師が教科につながる視点で目標を設定した。

発展

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表 10 検証結果

表9 各遊びに対する児童の受け止め

(5) 授業の展開

検証授業の展開の抜粋を表7に示す。

(6) 授業仮説の検証と考察

表8に「感覚運動あそび」の中で観察で

きた児童の様々な表出を7つに分類「①顔

→表情、②笑→笑顔、③嫌→好まない・泣

く、④無→無表情、⑤目→追視、⑥動→身

体表現、⑦声→発声」としてまとめた。身

体表現では手や腕の動き、脚の動きや全身

を弾ませるような動きなど、活動時の様子

を把握する共通項目として観察することが

できた。

表9には、取り組んだ遊びが児童にとっ

てどう受け止められたのかを記号で表した

(◎→好き、〇→普通、△→嫌、\→見学・

欠席)。 児童が好む遊びも多く、「感覚運動

あそび」の取り組みの中で児童が気持ちを

伝えるために自発的な動きや発声で表現し

ようとしていたことがうかがえる。

そして、表 10に授業仮説の検証項目と結

果をまとめて示した。教科につながる視点

での目標を7~8割達成することができた

ことが授業後の評価によってわかった。

Ⅳ 研究仮説の検証と考察

検証授業後に学級の教師に対し、今回の取り組みについてアンケート調査を行った。一部抜粋を以下

の図4に示す。

表8 「感覚運動あそび」の中で観察できた児童の表出

の種類

表7 検証授業の展開(一部抜粋)

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図4 アンケートの集約(一部抜粋)

1 「『学習到達度チェックリスト 2014』を活用することで、重度・重複障害のある児童の実態把握を

教科につながる視点で明確にし、目標設定することができるであろう。」について

「学習到達度チェックリスト 2014」を活用したことで、児童の現在の学びの段階を押さえることが

できた。遊びの指導を通して教科につながる視点をもつには、さらに具体的な行動項目を抽出するこ

とが必要なことから、「学習到達度チェックリスト 2014」に当てはまる行動と遊びの中で生起する可

能性がある行動を照らし合わせながら「遊びの目標一覧表」(表5)を作成した。それをもとに各担当

教師に個々の児童の目標を設定してもらった。アンケート(図4の1~3)によると、「学習到達度チ

ェックリスト 2014」は児童の実態把握に「参考になった」と4人が回答し、児童の学びの段階を知る

手がかりになった。また、「遊びの指導において、教科につながる視点をより意識して取り組むように

なりましたか」という項目では「まあまあなった」が3人、「なった」が1人で「教科につながる視点」

をより意識するようになったことがわかる。「遊びの目標一覧表」の使いやすさにおいては、「使いや

すい」から「使いにくい」まで意見が分かれ、今後の授業計画において工夫を重ねていく必要がある

ことがわかった。

1 今回、「学習到達度チェックリスト

2014」を活用することで、児童の実態把

握の参考になりましたか?

2 「遊びの指導」において、教科につなが

る視点をより意識して取り組むようになり

ましたか?

3 個人目標を決める際、「遊びの目標一覧

表」は使いやすかったですか?

5 遊びの中でどのような伝達手段を用い

ていましたか?(複数回答可)

4 「感覚運動あそび」を取り入れた内

容は、児童の「気持ちを伝えようとする

自発的な動きや発声を促すことができ

た」と思いますか?

6 11の遊びの内容のうち、児童が最も好

んだ遊びを教えてください。(複数回答可)

7 11の遊びの内容のうち、児童に合わ

なかった遊びを教えてください。(複数回

答可)

8 全7回の遊びの指導の授業を通して、児

童に少しでも変化があれば、教えてくださ

い。(一部抜粋)

9 今回の取り組みを通して、気づいた点

や改善点、感じたことなど感想を教えてく

ださい。(一部抜粋)

(一部抜粋)

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表 12 各遊びに対する児童の受け止め

2 「遊びの指導の中で『感覚運動あそび』を取り入れることで、重度・重複障害のある児童が気持ち

を伝えようとする自発的な動きや発声を促すことができ、『表現する力』につながるであろう。」につ

いて

「感覚運動あそび」の中で観察できた児童の表出の種類(表 11)と各遊びに対する児童の受け止め

(表 12)からみると、遊びを通して表情や身体の動きなど、様々な反応を観察することができ、多い

ときは3つ以上の表出が生起し、気持ちを表現しようとする手段となって表れていた。しかし、姿勢

保持の難しい児童や胃ろうのある児童にとって「おしくらまんじゅう」や「かさなりっこ」、「お山の

爆発」は安全面での配慮が必要であった。

また、アンケート(図4の4)によると、『「感覚運動あそび」を取り入れた内容は、児童の「気持

ちを伝えようとする自発的な動きや発声を促すことができた」と思いますか?』に対して「思う」が

3人、「まあまあ思う」が1人で実際に一緒に取り組んできた各担当教師も「感覚運動あそび」の有効

性を実感していることがうかがえる。

重度・重複障害児はあらゆる生活経験が十分ではないため、「感覚運動あそび」においても初めのう

ちは緊張し、「何だろう」と感じている表情を見せていた。しかし、繰り返し行うことで、「楽しさ」

や「面白さ」を感じとるようになってきた。各担当教師の意識の変化もみられ、児童とのかかわりの

中で「重いね」、「明るくなったね」、「大きな揺れだよ」、「赤い風船よ」などの「教科につながる視点」

で児童へ言葉かけをする様子も増えた。児童に触れ合いながら絶えず言葉かけや遊びに関連する刺激

を与え、慣れない体験に対しても安心感を与える細やかな配慮のある環境の中で児童は伸び伸びと気

持ちを表現しようとしていたと思われる。

Ⅴ 成果と課題

1 成果

(1) 「学習到達度チェックリスト 2014」を活用したことで、各児童の学びの段階を把握することがで

き、「教科につながる視点」での目標を設定することができた。

(2) 授業における「教科につながる視点」を意識した言葉かけやかかわり方についてさらに工夫する

ようになった。

(3) 「感覚運動あそび」を通して、児童が様々な表出を遊びによって使い分けて気持ちを表現しよう

としていたことを整理し、把握することができた。

2 課題

(1) 「学習到達度チェックリスト 2014」の活用では、授業の内容と照らし合わせた発達段階を考慮し、

継続した実態把握が必要である。

(2) 「感覚運動あそび」を児童の実態に合わせて計画的に取り組み、重度・重複障害児の体調面や健

康管理面に配慮しつつ、気持ちによりそった豊かなコミュニケーションを丁寧に継続して行うこと

が必要である。

(3) 各児童の目標に合わせて、各教師の支援の方法や手立てを明確にし、互いに共有することが必要

である。

表 11 「感覚運動あそび」の中で観察できた児童の表出の種類

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〈参考文献〉

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川間健之介 西川公司 編著 2014 『改訂版 肢体不自由児の教育』 一般財団法人 放送大学教育振興会

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国特別支援学校肢体不自由教育校長会 会長 三室秀雄 編著 2011 『障害の重い子どもの指導 Q&A 自立活動を主とす

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文部科学省 2009 『特別支援学校 教育要領・学習指導要領』

飯野順子 授業づくり研究会I&M 編著 2008 『障害の重い子どもの授業づくり Part2 ボディイメージの形成か

らアイデンティティの確立へ』 ジアース教育新社

斉藤秀元・大沼直樹・加藤裕美子・鴻上みち子・坂本茂・清水聡・中村敬子・野方由美子・平田聖子・森永美保・安永しの

ぶ 2006 『子どもが喜ぶ感覚運動あそび 40選』福村出版

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井上勝子・青木理子・青山優子・小川鮎子・小松恵理子・下釜綾子・瀧信子・松田順子・宮嶋郁恵 共著 1999 『豊かな

感性を育む表現遊び-心と体を拓く-』 株式会社ぎょうせい

〈参考URL〉

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http://www.normanet.ne.jp/~ww100092/network/inochi/page1.html(2016 6.22アクセス)

京都府総合教育センター特別支援教育部 2014 『「各教科等を合わせた指導」ガイドブック~子どもたちの笑顔が輝く授

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http://www.kyoto-be.ne.jp/ed-center/netcommons/tokushi/doc_kakukyoukawo.pdf(2016 4.26アクセス)