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- 181 - 過去のいじめによる外傷体験と否定認の変容に関する調査 東京成大学臨床理学,16号,2016,181-192 原著 過去のいじめによる心的外傷体験と否定的認知の変容に関する調査 1, 2 寺井 治樹 3, 4 郁夫 5 近年いじめ問題はPTSDとの関連がされるほどに深刻なものとして扱われ, 過去のいじめ被害 体験における影響が指摘されるようになってきた。本では, 第1に, 大学が過去のいじめ体 験がどのくらいPTSDの診断基準に該当するのか検討することであり, 第2に, いじめ体験による PTSD状や否定な認変容を緩和する要因として, どれほどいじめ体験への味づけが抑制効 果をすのかについて検討することをとし, 268名の大学を対象に質問紙調査を実施した。そ の結果, 95名がいじめ被害体験を経験し, その内の37名(39%)がPTSD状の基準を満たした。いじ め体験時のとPTSDの間には関連が認され, ポジティブな味づけ, 特に自身と他者が共に あるというような自他連帯を持つことはトラウマ状や否定認な変容を低減, 抑止すること が明らかとなった。同時に自己卑下のようなネガティブな味づけを行うことでトラウマ状と 否定な認変容に繋がることが認され, 味づけの重要が唆された。これらの結果から, い じめ被害体験者に対しては孤立化などのネガティブな味づけを促進する状況下には置かず, ポジ ティブな味づけを促すような, 周囲からの長期なケアの要がされた。また, 今回の調査に よっていじめ未経験者の半数以上の人が他者がいじめられている現場を撃しているのにも関わら ず, その大半がいじめは止めるべきものと認識していながら傍観者の立場にしてしまっているこ とが明らかとなったため, 深刻化するいじめへの対策として, 多数の傍観者がいる状況を改善する ことが要であると唆された。 キーワード:いじめ,PTSD,味づけ 問題と目的 近年,我が国におけるいじめ問題は深刻なものと なっている。代表なものとしては,2011年に滋賀 大津市の市立中学校で起きたいじめによって当時中学 二年の子が飛び降り自殺をした事件が挙げら れる(日本経済新聞,2012)。更に,最近ではインター ネットの普及や,LINEなどのSNSの広まりによって 奈良橿原市の市立中学で女子が自殺した事件 (経ニュース,2013)などのネットいじめ,LINEい じめといった,旧来では存在しなかった全く新しい 類のいじめがし,いじめ行為の多様化に加え, ネットを介すことによる不透明化が起こっている。ま た,小中学校でのいじめ経験によってその後の人を も左右されるケースも指摘されており(邉,2014), いじめ問題は無視することが許されない大きな会問 題となってきているといえる。 このようないじめの多様化・深刻化を受けて文部 学では,いじめ防止対策推進法が成立されている。 これによって各学校や自治体だけではなく国レベルで のいじめ対策が始まっており,それに合わせて改めて いじめに関して定義づけを行なっている(文部学, 東京成大学大学院理学 東京成大学理学部臨床理学 2014年度東京成大学理学部臨床理学に提出し た卒業論文を加筆・修正したものである。 学校メンタルヘルス学会第19回大会での表内容を加筆・ 修正したものである。 調査にご協力頂きました様により謝し上げます。 2013)。その中でいじめの定義とは,“児童等に対して、 当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童 等と一定の人間関係にある他の児童等が行う理又は 物理な影響を与える行為(インターネットを通じて 行われるものも含む。)であって,当該行為の対象と なった児童等が身の苦をじているもの”とされ ている。こうした定義づけの上で,文部学におい てはいじめの早期見や,談体制の整備などの対策 を施行している(文部学,2013)。一方で理学 なにおいても,いじめは非常に重大なテーマと して,さまざまな観点からがなされている。例え ば,いじめ加害者の観点からのがある。小林・三 輪(2013)によると,いじめ加害者特としての仮 有能を検討したもの(松本ら,2009)や,いじ め加害者達の会スキルの高さによって,いじめを 行う期間も長くなることを明らかにしたもの(大野, 2008)が存在する。また,いじめられている被害者 側の背景要因を検討するものとして,いじめられてい る幼児の会スキルの不足とその補填の要( 山・山崎,2003)を指摘するものや,孤立傾向,自己

過去のいじめによる心的外傷体験と否定的認知の変 …...- 182 - 寺井 治樹 眳村 郁夫 否定などといったいじめ被害者の特必を分析したも

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Page 1: 過去のいじめによる心的外傷体験と否定的認知の変 …...- 182 - 寺井 治樹 眳村 郁夫 否定などといったいじめ被害者の特必を分析したも

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過去のいじめによる心的外傷体験と否定的認知の変容に関する調査東京成徳大学臨床心理学研究,16号,2016,181-192  原著

過去のいじめによる心的外傷体験と否定的認知の変容に関する調査1, 2

寺井 治樹3, 4  石村 郁夫5

 近年いじめ問題はPTSDとの関連が示されるほどに深刻なものとして扱われ, 過去のいじめ被害

体験における影響が指摘されるようになってきた。本研究では, 第1に, 大学生が過去のいじめ体

験がどのくらいPTSDの診断基準に該当するのか検討することであり,  第2に, いじめ体験による

PTSD症状や否定的な認知変容を緩和する要因として, どれほどいじめ体験への意味づけが抑制効

果を示すのかについて検討することを目的とし, 268名の大学生を対象に質問紙調査を実施した。そ

の結果, 95名がいじめ被害体験を経験し, その内の37名(39%)がPTSD症状の基準を満たした。いじ

め体験時の感情とPTSDの間には関連性が確認され, ポジティブな意味づけ, 特に自身と他者が共に

あるというような自他連帯感を持つことはトラウマ症状や否定的認知な変容を低減, 抑止すること

が明らかとなった。同時に自己卑下感のようなネガティブな意味づけを行うことでトラウマ症状と

否定的な認知変容に繋がることが確認され, 意味づけの重要性が示唆された。これらの結果から, い

じめ被害体験者に対しては孤立化などのネガティブな意味づけを促進する状況下には置かず, ポジ

ティブな意味づけを促すような, 周囲からの長期的なケアの必要性が示された。また, 今回の調査に

よっていじめ未経験者の半数以上の人が他者がいじめられている現場を目撃しているのにも関わら

ず, その大半がいじめは止めるべきものと認識していながら傍観者の立場に徹してしまっているこ

とが明らかとなったため, 深刻化するいじめへの対策として, 多数の傍観者がいる状況を改善する

ことが必要であると示唆された。

 キーワード:いじめ,PTSD,意味づけ

問題と目的

 近年,我が国におけるいじめ問題は深刻なものと

なっている。代表的なものとしては,2011年に滋賀県

大津市の市立中学校で起きたいじめによって当時中学

二年生の男子生徒が飛び降り自殺をした事件が挙げら

れる(日本経済新聞,2012)。更に,最近ではインター

ネットの普及や,LINEなどのSNSの広まりによって

奈良県橿原市の市立中学で女子生徒が自殺した事件

(産経ニュース,2013)などのネットいじめ,LINEい

じめといった,旧来では存在し得なかった全く新しい

種類のいじめが発生し,いじめ行為の多様化に加え,

ネットを介すことによる不透明化が起こっている。ま

た,小中学校でのいじめ経験によってその後の人生を

も左右されるケースも指摘されており(磯邉,2014),

いじめ問題は無視することが許されない大きな社会問

題となってきているといえる。

 このようないじめの多様化・深刻化を受けて文部科

学省では,いじめ防止対策推進法が成立されている。

これによって各学校や自治体だけではなく国レベルで

のいじめ対策が始まっており,それに合わせて改めて

いじめに関して定義づけを行なっている(文部科学省,

4 東京成徳大学大学院心理学研究科

5 東京成徳大学応用心理学部臨床心理学科

1 2014年度東京成徳大学応用心理学部臨床心理学科に提出し

た卒業論文を加筆・修正したものである。

2 学校メンタルヘルス学会第19回大会での発表内容を加筆・

修正したものである。

3 調査にご協力頂きました皆様に心より感謝申し上げます。

2013)。その中でいじめの定義とは,“児童等に対して、

当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童

等と一定の人間関係にある他の児童等が行う心理又は

物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて

行われるものも含む。)であって,当該行為の対象と

なった児童等が心身の苦痛を感じているもの”とされ

ている。こうした定義づけの上で,文部科学省におい

てはいじめの早期発見や,相談体制の整備などの対策

を施行している(文部科学省,2013)。一方で心理学

的な研究においても,いじめは非常に重大なテーマと

して,さまざまな観点から研究がなされている。例え

ば,いじめ加害者の観点からの研究がある。小林・三

輪(2013)によると,いじめ加害者特性としての仮想

的有能感を検討したもの(松本ら,2009)や,いじ

め加害者達の社会的スキルの高さによって,いじめを

行う期間も長くなることを明らかにしたもの(大野,

2008)が存在する。また,いじめられている被害者

側の背景要因を検討するものとして,いじめられてい

る幼児の社会的スキルの不足とその補填の必要性(畠

山・山崎,2003) を指摘するものや,孤立傾向,自己

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寺井 治樹  石村 郁夫

否定などといったいじめ被害者の特性を分析したも

のがある(神原・河井,1985)。更に,児童期のいじ

め被害体験が青年期にまで及ぼす影響(野中,永田,

2010)についても調査がされており,児童期のいじめ

被害体験が大学生時点での周囲への同調傾向や他者へ

の評価の過敏さに影響を及ぼすことが明らかになって

いる。加えて,いじめを受けた後の影響については,

小田部・加藤(2007)がいじめられ体験を持つ人が

その体験に基づいた歪んだ認知的な枠組み「心の傷ス

キーマ」を形成していることを示唆しており,いじめ

を受けた者が不合理な認知的枠組みを持って生きてい

くことについて言及している。このように,児童・青

年期におけるいじめ被害体験がその後の人生において

も人間関係の在り方や認知的枠組みに深刻な影響を及

ぼす報告がされている。

 このいじめ被害体験がその後に及ぼす影響に関連

する現象として概念化されたものには,いじめ後遺

症(文部科学省,2011)が挙げられる。いじめ後遺症

とは,いじめを受けたことによってうつ病を発症した

り,生きている意味を見失って自殺行動に走ったり

するような,精神的なストレス反応を示すものであ

る(あなたの健康百科,2014)。例えば,吉川・今野

(2011)によれば,小学校時代にいじめを受けていた

中学生が,その後遺症として学業そのものに通常より

もストレスを感じていたことを明らかにしている。学

業に対して通常よりもストレスが高いということは,

そのまま成績不振にもつながることであり,進学や就

職などの進路決定にも影響を及ぼすのではないかと考

えられる。また,石橋・若林・内藤・鹿野(1999)に

よれば,いじめ被害体験のある大学生は,被害体験の

ない大学生に比べて対人恐怖心性が高く,その傾向は

いじめ体験当時の苦痛の強さに比例して高くなるとさ

れる。いじめ後遺症によって対人恐怖を持ったまま生

きていくことは,対人関係においてで大きなハンディ

キャップを抱えることに繋がり,社会的な生活を送る

上での障害となり得るのではないかと予想される。こ

のように,いじめ後遺症は人間関係の在り方や認知的

枠組みに重大な影響を与えており,いわばPTSDに類

似したものであり,学業や対人関係など,将来的な選

択などに深く関わりのあるものへ影響するため,治療

や対策においてはPTSDに対するものと同格の扱いを

する必要性が示唆されると考えられる。このいじめ後

遺症とPTSDの関連性についてノルウェーのある中学

2 ~ 3年生963名を対象とした大規模調査においては,

小中学校におけるいじめ被害体験を受けている生徒の

内,男子27.6%,女子40.5%にPTSDの症状を呈するこ

とが確認されており (Idsoe,Dyregrov,& Idosoe,

2012),いじめがPTSDの症状を引き起こすほどに衝

撃の強いトラウマ体験であることを示唆している。以

上のように,過去のいじめ被害体験がその後の友人

への同調的な関わり方に影響を及ぼすだけでなく,

PTSD発症との関連すらも報告されており,事実,い

じめによるPTSD症状を示したとする事例論文(永澤,

2004)も幾つか見られており,いじめとPTSDには密

接な関係性が確認されはじめている。

 PTSDとは,災害や事故などのトラウマ体験を原因

として生じる,特徴的なストレス症候群であり(飛鳥

井,2008),症状としては主に三つのものが存在する。

第一に,再体験症状である。これは,トラウマ体験を

フラッシュバックしたり,悪夢として見るなどに代表

される症状である。第二に,回避・精神麻痺症状であ

る。トラウマ体験について考えないようにしたり,思

い出させるような事物から避けようとすることや,興

味や関心が乏しくなり,自然な感情が麻痺したよう

に感じられることに代表される症状である。第三に,

過覚醒症状である。これは,睡眠障害やいらいら感,

ちょっとした物音にも反応する過敏状態に代表される

症状である。PTSDの治療法としては,現在認知療法

などが用いられ,各症状には薬物療法もおこなわれ

るが,特に効果的とされているものはPE(Prolonged 

Exposure)療法(持続エクスポージャー療法とも呼

ばれる,以下PE療法)という認知行動療法の一種で

ある(小西,2011)。PE療法とは,トラウマとなった

場面や関連するものをあえてくり返しイメージし,ト

ラウマに関することを思い出しても危険はない,と意

味づけていく治療法である(厚生労働省,2011)。こ

のような方法でトラウマ体験に意味づけを行い,トラ

ウマに関する記憶とトラウマ反応の生起の結びつきを

弱くさせることによってPTSDの治療を行うことが重

要視されており,治療効果に対しても確認がされてい

る(飛鳥井,2011)。一方で,いじめ被害者の心の傷

の回復について触れた報告(香取,1999)もなされて

おり,いじめ被害体験の克服には,人から頼りにされ

たり,いじめられた体験を活かそうとすることや,心

の整理をつけたりするなどの意味づけを促進すること

が効果的であると指摘されている。このことから,い

じめ後遺症,いじめ被害体験によるPTSDに類似した

症状に対しても意味づけを促進させることがいじめ後

遺症やPTSD症状を軽減する効果が望めるのではない

かと推測できる。もしそうであるなら,いじめ被害者

の青年期におけるいじめ後遺症であるPTSD症状を軽

減・緩和させたりなど,後遺症に対するケアとして意

味づけを取り上げ,いじめ後遺症によってストレスフ

ルな状態にある被害者を減らしていくことができるは

ずである。

 以上のことを踏まえ,本研究では以下の二点を目的

とする。第一に,いじめとPTSDの間に関連性がある

ことは事例などで示されてきているものの,いじめ被

害経験がPTSD様の症状と直接的に関連するかを指摘

する研究が本邦では見受けられないことから,過去の

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過去のいじめによる心的外傷体験と否定的認知の変容に関する調査

いじめ体験によって大学生がどのくらいPTSDの診断

基準に該当するのか検討することを目的とする。第二

に,PTSDの治療研究からいじめ体験に対する意味づ

けの獲得がトラウマ症状の低減に重要な役割を果たし

ているとの指摘を踏まえて,本研究においても,い

じめ体験によるPTSD症状や否定的な認知変容を緩和

する要因として,どれほどいじめ体験への意味づけが

抑制効果を示すのかについて検討することを目的とす

る。

方  法

調査協力者

 関東圏の理系大学の学生124名(男性113名、女性11

名)と心理系大学の学生144名(男性61名、女性83名)

からなる268名の大学生に調査を依頼した。平均年齢

は19.48±1.19歳であった。

調査時期

 平成26年7‐9月の3 ヶ月間。

調査方法

 無記名の質問紙調査を実施した。質問紙の配布はそ

れぞれの大学の講義内に行われた。

調査内容

 質問紙の内容は,表紙,いじめ体験の有無,いじ

めの内容やいじめられていた時期,場所,いじめら

れた当時の感情,相談の有無について尋ねるものと,

PTSDや認知の変容との関連を調べるために後述する

3つの尺度を用いた。

1.いじめ状況に関する質問項目

 調査協力者に対し,まず文部科学省(2006)による

いじめの定義を呈示し,その上でいじめの内容,いじ

められていた時期を自由記述で訊ねた。いじめ内容に

ついては“いじめ追跡調査2010-2012 いじめQ&A(生

徒指導・進路指導研究センター,2013)”を参考に,“悪

口をいわれる”や“物を壊される”などの複数選択

可の17種類のいじめのチェック項目を作成し,受けた

ことのあるいじめ全てにチェックを入れてもらった。

チェック項目の最後の一つはその他とし,自由記述で

記入する欄を設け,項目にない種類のいじめも調査で

きるよう配慮した。

2.いじめ体験による感情体験尺度

 いじめられた当時の感情については既存の尺度がな

かったために“辛い”“苦しい”などの項目を新たに

作成し実施した。10項目5件法であった。

3.いじめの相談の有無

 いじめ体験当時,他者にいじめを相談したかどうか

を“はい”か“いいえ”で訊ね,相談したことがある

と答えた協力者にはどんな相手に相談を行ったかにつ

いて“母親”“友人”などの11種類のチェック項目に

複数選択可でチェックを入れてもらった。いじめ状況

と同様に,その他と共に自由記述欄を設定した。

4.いじめの目撃の有無

 いじめを受けたことがない,という協力者に対し,

他者のいじめ体験を目撃したことがあるかについて

“有”か“無”で訊ねた。あると答えた協力者に対しては,

“いじめが行われていた時期,場所”“どんないじめが

行われていたか”“目撃した際どんなことを思ったか”

について,それぞれ自由記述にて回答してもらった。

5.IES-R(改訂出来事インパクト尺度日本語版, 飛鳥

井)

 米国のWeissらが開発した心的外傷性ストレス症状

を測定するための自記式質問紙。日本語版(飛鳥井)

はPTSD関連症状のスクリーニング尺度として用いら

れる。回答方法には全くなし,少し,中くらい,かなり,

非常に,までの5件法を採用しており,3つの下位因子,

“睡眠の途中で目がさめてしまう”“別のことをしてい

ても,そのことが頭から離れない”などの侵入症状8

項目,“そのことを思い出させるものには近よらない”

“そのことは考えないようにしている”などの回避症

状8項目,“イライラして,怒りっぽくなっている”“神

経が過敏になっていて,ちょっとしたことでどきっと

してしまう。”などの過覚醒症状6項目の全22項目から

構成されている。総合得点24/25点でカットオフポイ

ントが設けられており,この得点を越えるとPTSDに

該当すると判断される。

6.JPTCI(日本版外傷後認知尺度,長江・増田・山田・

金築・根建・金. 2004)

 長江・増田らが開発した,外傷体験者の認知を測る

尺度である。回答方法には,まったくそう思わない,

ほとんどそう思わない,あまりそう思わない,どちら

ともいえない,少しそう思う,とてもそう思う,まっ

たくそう思う,までの7件法を採用しており,3つの下

位因子,“自分には将来がない。”“自分は,だめな人間

である。”などの自己に関する否定的な認知22項目,

“あの出来事が起きたのは,自分の振る舞い方が原因で

あった。”“自分にはあの出来事を起こす何かがあっ

た。”などのトラウマに関する自責の念5項目,“誰に危

害を与えられるかわからない。”“いつでも用心して

いなければならない。”などの世界に関する否定的な

認知7項目,“感情がコントロールできないので,何か

とんでもないことになってしまいそうだ。”“あの出来

事を考えることには耐えられないし,自分が壊れてし

まうだろう。”などのダミー項目3つを加えた36項目か

ら構成される。教示文は“「いじめ」を体験したあと,

あなたの頭には様々な考えがうかんだことと思います

が,そうした考えについてお尋ねします”に変更した。

7.自己感情尺度(松下,2007)

 松下(2007)が開発した,自らのネガティブな経験

についての意味づけや自己感情を測る尺度である。教

示文は,いじめ被害体験を想定させるように“いじめ

体験をした自分をどう感じていますか”であった。回

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寺井 治樹  石村 郁夫

答方法にはまったくそう感じない,あまりそう感じな

い,少しそう感じる,とてもそう感じる,までの4件

法を採用しており,4つの下位因子,“自分は頑張り屋

だと感じる。”“自分は褒めるに値すると感じる。”な

どのネガティブな体験をした自分を褒め、価値を高め

るような自己感情を意味する自己高揚感5項目,“自分

は他人とは距離があると感じる”“自分は他の人とう

まくやっていけないと感じる。”などのネガティブな

体験をした自分に他者との距離や相違を感じているこ

とを意味する自他相違感4項目、“自分を大事に思って

くれる人はいると感じる。”“自分はひとりぼっちでは

ないと感じる。”などのネガティブな体験をした自分

に他者とのつながりを感じていることを意味する自他

連帯感5項目、“自分は他の人に迷惑をかける人間だと

感じる。”“自分は誰の役にも立てないと感じる。”な

どのネガティブな経験をした自分の価値を低めるよう

な自己感情を意味する自己卑下感3項目から構成され

る。

結  果

本研究で使用した尺度分析

1.いじめ体験による感情体験尺度の因子分析

 いじめ体験による感情体験尺度10項目に対して最尤

法・プロマックス回転による因子分析を行った。固有

値の減衰状況と因子の解釈可能性から三因子解を採用

した。結果をTable 1に示す。

 第一因子は“辛い”“苦しい”“悲しい”“自殺願望

を抱く”といった,いじめ体験をひどく辛いものとし

て感じている4項目で構成されていることから,「辛苦」

と命名した。第二因子は“無力感がある” “虚しい”“絶

望感がある”“無感情”といった,落ち込んだり,感

情が麻痺していることを連想させる4項目で構成され

ていることから,「虚無感」と命名した。第三因子は“憎

い”“苛々する”といった,いじめ体験に対して怒り

や攻撃性を向ける2項目で構成されていたために,「敵

意」と命名した。

 また,尺度の信頼性を測定するためにクロンバック

のα 係数を測定したところ,(辛苦α =.86,虚無感α

=.79,敵意α =.68)となった。以後の分析では,下

位尺度毎に加算し,それぞれの尺度得点を構成した。

2.改訂出来事インパクト尺度日本語版(IES-R)の

尺度構成

 本尺度は,“侵入症状”“回避症状”“過覚醒症状”の

三下位尺度から構成されており,先行研究(長江・増田,

2004)にならって,それぞれの下位尺度の得点はそれ

ぞれの項目得点を加算し,算出した。尺度の信頼性係

数は,それぞれ.90,.85,.85であり,尺度の内的整合性

は十分であった。また,三下位尺度の得点を加算し,

IES-R全体得点とした。先行研究では,本尺度が24あ

るいは25点以上の際に,PTSDの診断可能性が高まる

とされ,先行研究にならい,24点以上の人をPTSD該

当者とした。

3.日本語版外傷後認知尺度(JPTCI)の尺度構成

 本尺度は,自己に関する否定的な認知,トラウマに

関する自責の念,世界に関する否定的な認知の三下

位尺度から構成されており,先行研究(長江・増田,

2004)にならって,それぞれの下位尺度の得点はそれ

ぞれの項目得点を加算し,算出した。尺度の信頼性係

数は,それぞれ.94,.79,.89であり,尺度の内的整合

性は十分であった。また,三下位尺度の得点を加算し,

IES-R全体得点とした。

4.自己感情尺度の尺度構成

 本尺度は,自己高揚感,自他相違感,自他連帯感,

自己卑下感の四下位尺度から構成されており,先行研

究(松下,2007)にならって,それぞれの下位尺度の

得点はそれぞれの項目得点を加算し,算出した。尺度

の信頼性係数は,それぞれ.88,.79,.93,.78であり,

尺度の内的整合性は十分であった。また,三下位尺度

の得点を加算し,IES-R全体得点とした。四下位尺度

の平均値は,2.33±.75点(自己高揚感),2.65±.76点(自

他相違感),2.91±.81点(自他連帯感),2.74±.76点(自

己卑下感)であった。

いじめ体験による感情体験尺度,IES-R,JPTCI,自

己感情尺度の相関分析

 本研究で使用した,いじめ体験による感情体験尺度,

IES-R,JPTCI,自己感情尺度の計4つの尺度全てに

相関分析を行った。いじめ体験尺度とIES-R間におい

ては全てが有意な正の相関を示しており,いじめ体験

時の感情によって大学生時点においてのトラウマ症状

を強くすることが推測された。また,いじめ感情尺度

はJPTCIならびに自己感情尺度との間では,有意な相

関が見られておらず,いじめ体験時の感情は否定的な

認知や意味づけには影響しないといえる。自己感情尺

度の下位因子である自他連帯感ではIES-R、JPTCIと

の間全てで有意な負の相関が確認され,自分と他者が

Table 1 いじめ体験による感情体験尺度の因子分析結果

No 項目内容 因子1 因子2 因子3 共通性 平均値 標準偏差

辛苦(α= .86)

1 辛い .94 .92 3.73 1.17

2 苦しい .90 .82 3.53 1.21

4 悲しい .80 .66 3.38 1.33

9 自殺願望を抱く .53 .34 2.01 1.39

虚無感(α= .79)

7 無力感がある .86 .81 2.93 1.46

8 虚しい .82 .74 2.83 1.43

6 絶望感がある .80 .69 2.77 1.43

10 無感情 .33 .13 2.13 1.34

敵意(α= .68)

3 憎い .78 .63 3.47 1.47

5 苛々する .67 .48 3.33 1.48

  寄与率 47.38 7.11 7.79

  累積寄与率 47.38 54.49 62.28

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過去のいじめによる心的外傷体験と否定的認知の変容に関する調査

つながっているという意味づけはトラウマ症状やネガ

ティブな認知を軽減する効果があるといえる。また自

己高揚感においてもJPTCIとの間で有意な負の相関が

見られ,自分を励ますような意味づけは否定的な認知

を抑制することがいえる。

過去のいじめ体験の状況

1.いじめ体験者の割合

 A大学では,124名中23名(18%)であり,B大学で

は144名中72名(50%)であった。A大学は理系の難

関大学であり,B大学は心理学を専攻する臨床心理学

科であった。

2.いじめ体験の時期

 いじめ体験の時期を,いじめが開始された時期を

参考にまとめた結果,記憶なし2 %,高校3%,小学校

57%,中学校31%,保育幼稚園6%,となった。このこ

とからいじめは小学校,中学校の頃を中心にして発生

していることがわかった。

3.いじめ体験の加害者

 加害者に対する記述から分類ラベルを作成したと

ころ,クラスメイト76% 部活仲間9% 友達6% 同級生

6% 近所の人1% 不明1%となった。そのことから,

いじめが起こりやすい場所は学校であることが推測で

きる。

4.いじめの種類

 複数選択可で該当するいじめ全てを選択してもらっ

たところ,無視される49%,物を壊される16%,仲間

外れにされる64%,暴力を振るわれる27%,罠をしか

けられる17%,悪い噂を流される41%,物を隠される

37%,殴られる16%,いじられる41%,変なあだ名を

つけられる39%,SMSなどで悪口を言われる10%,か

らかわれる51%,  蹴られる9%,暴言を吐かれる40%,

金品をたかられる4%,いやがらせのメールを送られ

る4%,何かすることを強要させられる20%,その他

16%,となった(Table 3)。その他については自由記

述でどのようないじめだったのかを記入してもらっ

た。その結果,部活をやらせてもらえない,友人と話

すのを邪魔される,おどされる,変な遊びをやらされ

る,知らない人に個人情報を流された,水をかけられ

た,性的なこと,などが挙がった。

5.いじめ体験の相談相手

 いじめを受けたことを95名中60名の回答者が相談

し,35名がしないことが示された。相談をしたと答

えた人に複数選択可でどんな相手に相談したかを訊

ねた(Table 4)。結果として,クラスメイト13%,友

人42%,父33%,母70%,兄弟5%,担任の先生40%,

部活の顧問8%,仲の良い先生12%,祖父5%,祖母5%

Table 2 いじめ感情体験尺度,IES-R,JPTCI,自己感情尺度の相関分析表

各変数 M SD 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

いじめ感情体験尺度

1 辛苦 12.61 4.28 1  (97) (96) (96) (96) (96) (96) (96) (96) (96) (96) (93) (93) (92) (92)

2 虚無感 10.68 4.44 .71** 1  (96) (96) (96) (96) (96) (96) (96) (96) (96) (93) (93) (92) (92)

3 敵意 6.80 2.57 .41** .34** 1  (95) (95) (95) (95) (95) (95) (95) (95) (92) (92) (91) (91)

4 IES-R 7.62 15.07 .46** .38** .37** 1  (98) (98) (98) (98) (98) (98) (98) (93) (93) (92) (92)

5 侵入症状 2.38 5.46 .50** .41** .35** .94** 1  (98) (98) (98) (98) (98) (98) (93) (93) (92) (92)

6 回避症状 3.11 6.03 .36** .25* .31** .92** .79** 1  (98) (98) (98) (98) (98) (93) (93) (92) (92)

7 過覚醒症状 2.12 4.60 .38** .34** .32** .93** .87** .78** 1  (98) (98) (98) (98) (93) (93) (92) (92)

8  JPTCI 44.69 66.99 .092  .09  .22* .76** .67** .75** .74** 1  (96) (96) (96) (93) (93) (92) (92)

9 自己に対する否定的認知 28.74 43.82 .136  .13  .22* .77** .68** .75** .75** 1.00** 1  (96) (96) (93) (93) (92) (92)

10 トラウマに関する自責の念 6.05 9.39 .026  .08  .04  .68** .58** .67** .66** .96** .95** 1  (96) (93) (93) (92) (92)

11 世界に対する否定的認知 9.91 14.90 -.027  -.05  .28** .74** .63** .75** .72** .96** .94** .87** 1  (93) (93) (92) (92)

自己感情尺度

12 自己高揚感 2.33 .75 .04  .00  -.06  -.16  -.10  -.14  -.18  -.46** -.46** -.30** -.37** 1  (94) (93) (93)

13 自他相違感 2.65 .76 .09  .07  .13  .40** .36** .29** .45** .33** .33** .13  .37** .01  1  (93) (93)

14 自他連帯感 2.91 .81 .02  -.11  -.20  -.43** -.37** -.43** -.35** -.58** -.59** -.32** -.50** .48** -.38** 1  (93)

15 自己卑下感 2.74 .78 .19  .12  .20  .34** .29** .25* .41** .59** .57** .45** .48** -.33** .40** -.20  1 

N ote 1.括弧内は度数を表す

N ote 2.n.s. p >.10, * p <.05, ** p <.01, *** p <.001

Table 3 被害を受けた いじめの種類の割合

体験あり 体験なし

いじめの種類 度数 割合 度数 割合

無視をされる 49 (51.0) 47 (49.0)

物を壊される 18 (18.8) 78 (81.3)

仲間外れにされる 60 (62.5) 36 (37.5)

暴力を振るわれる 26 (27.1) 70 (72.9)

罠をしかけられる 13 (13.5) 83 (86.5)

悪い噂を流される 35 (36.5) 61 (63.5)

物を隠される 32 (33.3) 64 (66.7)

殴られる 15 (15.6) 81 (84.4)

いじられる 35 (36.5) 61 (63.5)

変なあだ名をつけられる 37 (38.5) 59 (61.5)

SMSなどで悪口を言われる 10 (10.4) 86 (89.6)

からかわれる 48 (50.0) 48 (50.0)

蹴られる 9 (9.4) 87 (90.6)

暴言を吐かれる 38 (39.6) 58 (60.4)

金品をたかられる 4 (4.2) 92 (95.8)

いやがらせのメールを送られる 4 (4.2) 92 (95.8)

何かすることを強要させられる 19 (19.8) 77 (80.2)

その他 15 (15.6) 81 (84.4)

Page 6: 過去のいじめによる心的外傷体験と否定的認知の変 …...- 182 - 寺井 治樹 眳村 郁夫 否定などといったいじめ被害者の特必を分析したも

-  186  -

寺井 治樹  石村 郁夫

となった。以上のことから,半数以上の人が誰かに自

身のいじめ体験を相談し,中でも七割もの人は母親に

相談を行うことが示された。

6.いじめ目撃体験

 本研究の調査において,いじめ体験がないと答えた

人に他者のいじめを目撃したかどうかを訊ねたとこ

ろ,51%もの人が目撃したことがあると答えていた。

目撃した際の感情について自由記述をおこなったとこ

ろ,無関心などの意見は出たものの,大半の人はいじ

め行為に対して否定的な感情を抱いていたのにも関わ

らず,自分の身の心配をして傍観に徹するような感情

を持っていた。

7.PTSD発生率

 95名中,37名(39%)がIES-Rでカットオフポイン

ト24点以上を示しており,PTSDの可能性が示唆され

た。

PTSD該当・非該当における各意味付け高低群のトラ

ウマ症状(IES-R)や認知の変容(JPTCI)

 IES-RとJPTCIの全体得点におけるPTSD該当・非

該当と意味付けの関連性を調べるために,分散分析

を行った(Table 5)。その際に,各意味づけ得点は,

平均値を基準にして低群・高群の二群にわけた。そ

の結果,IES-Rの全体得点と自他連帯感についての

み,PTSDと意味づけの有意な交互作用が見られた

(F  (1,86) = 5.87,p  <.05)。単純主効果の検定により,

PTSD該当・非該当(F  (1,86) = 206.11,p  <.001)な

らびに自他連帯感(F  (1,86) = 8.47,p<.01)の両方で

有意差がみられ,さらにPTSD該当における多重比

較の結果,自他連帯感高群は低群よりもIES-R全体得

点が軽減されることが示された(F  (1,86) = 13.94,p  

<.001)。

 また,すべての意味付けの高低群においてIES-Rに

対してPTSDの主効果が確認され(それぞれ自己高揚

感:F  (1,87) = 218.90,p  <.001; 自他相違感:F  (1,87) 

= 231.86,p<.001; 自他連帯感:F  (1,86) = 206.11,p  <.001; 

自己卑下感:F  (1,86) = 191.40,p  <.001.),意味づけ

の主効果も自他相違感と自他連帯感においてのみ確認

された(それぞれ自他相違感:F  (1,87) =6.71,p  <.01;

自他連帯感:F  (1,86) = 8.47,p  <.01.)。

 JPTCI得点において有意な交互作用は確認されな

かったが,PTSD該当・非該当,意味づけの主効果が

全てで確認された(PTSDにおいて自己高揚感:F  ( 

1,87) = 9.86,p  <.01; 自他相違感:F  (1,87) = 8.94,p  <.01; 

自他連帯感:F  (1,86) = 6.58,p  <.05;  自己卑下感:F  

(1,86) = 8.67,p  <.01. (意味づけにおいて自己高揚感:

F  (1,87 ) = 22.97,p  <.001; 自他相違感:F  (1,87) = 5.78,

p  <.05; 自他連帯感:F  (1,86) = 24.06,p  <.001; 自己卑

下感:F  (1,86) = 14.44,p  <.001.)。

 以上の結果から,PTSD該当・非該当に関わらず,

自他連帯感が高まると全体的なトラウマ反応を低減で

き,否定的な認知変容へのリスクが回避できる。また,

自他相違感,自己卑下感が高まると、全体的なトラウ

マ反応が高まり,いじめ体験による否定的な認知変容

へつながってくるといえる。

PTSD該当・非該当における各意味付け高低群の各ト

ラウマ症状の変容

 Table 3で全体的なトラウマ反応について分散分析

を行ったが,どの症状について影響を及ぼしているの

かを細かく見るために,IES-Rの下位因子である侵入

症状,回避傾向,過覚醒症状に変えて分散分析を試み

た(Table 6)。

 結果として,過覚醒症状と自己高揚感,自己卑下感

の二つで有意な交互作用が確認された(それぞれ自己

高揚感:F  (1,87) = .473,p  <.05; 自己卑下感:F  (1,86) 

= 8.19,p  <.01). PTSD該当における多重比較におい

ては侵入症状全て(それぞれ自己高揚感:F  (1,87) = 

57.94,p  <.001; 自他相違感:F  (1,87) = 71.17,p  <.001; 

自他連帯感:F  (1,86) = 52.24,p  <.001; 自己卑下感:F  

(1,86) = 81.83,p  <.001),過覚醒症状全てで有意差が

確認されたが(それぞれ自己高揚感:F  (1,87) = .964,

p  <.05; 自他相違感:F  (1,87) = 80.08,p  <.001; 自他連

帯感:F  (1,86) = 48.06,p  <.001; 自己卑下感:F  (1,86) 

= 94.75,p  <.001),回避症状では自己高揚感と自他連

帯感でのみ有意差が示された(自己高揚感:F  (1,87) 

= 35.16,p  <.001; 自他連帯感:F  1,86) = 37.12,p  <.001)。

また交互作用においては,回避症状と自他連帯感の間

と(F  (1,86) = 2.81,p  <.10),侵入症状と自己卑下感

の間で(F  (1,86) = 2.91,p  <.10),有意傾向が示された。

意味づけの有意な主効果は過覚醒症状と自他相違感が

最も高く(F  (1,87) = 18.83,p  <.001),そのほかにお

いても有意差,有意傾向が確認された(それぞれ自己

高揚感:F  (1,87) = .485,p  <.05; 自他相違感:F  (1,87) 

= 8.43,p  <.01;  自他連帯感:F  (1,86) = 3.0,p  <.10)。

PTSDの主効果については全ての症状で有意差が示さ

れた。

 以上の結果から,いじめ体験に対してポジティブな

Table 4 いじめ被害体験について 相談を行う相手の割合

相談あり 相談なし

相談相手 度数 割合 度数 割合

クラスメイト 8 (13.3) 52 (86.7)

友人 25 (41.7) 35 (58.3)

父 20 (33.3) 40 (66.7)

母 42 (70.0) 18 (30.0)

兄弟 3 (5.0) 57 (95.0)

担任の先生 24 (40.0) 36 (60.0)

部活の顧問 5 (8.3) 55 (91.7)

仲の良い先生 7 (11.7) 53 (88.3)

祖父 3 (5.0) 57 (95.0)

祖母 3 (5.0) 57 (95.0)

その他 2 (3.3) 58 (96.7)

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-  187  -

過去のいじめによる心的外傷体験と否定的認知の変容に関する調査

意味づけである自己高揚感や自他連帯感によって主に

過覚醒症状(過剰な警戒や睡眠障害のような)を低減

する効果が確認され,特に自他連帯感においては回避

症状に対しても低減の効果が示された。また過覚醒症

状においてはネガティブな意味づけである自他相違感

や自己卑下感を感じることによって,症状が増大する

といったことも確認されたため,各症状の中で最も意

味づけによる影響を受けやすいといえる。

PTSD該当・非該当における各意味付け高低群の各認

知の変容

 Table 5で全体的な認知変容について分散分析を

行ったが,どの認知について影響を及ぼしているの

かを細かく見るために,PTCIの下位因子である自己

に対する否定的認知,トラウマに関する自責の念,

世界に関する否定的認知に変えて分散分析を試みた

Table 5 PTSD該当・非該当における各意味づけ高低群のトラウマ症状や認知の変容

自己感情尺度

合  計 PTSD非該当 PTSD該当 主効果 交互作用 PTSD該当における多重比較平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD

PTSD

F

意味づけ

F

PTSD×意味づけ

F

IES

自己高揚感低群(N=45) 25.47 (19.46) 10.00 (7.13) 43.14 (12.61)

218.90*** 2.25n.s. .36n.s. 1.85n.s.高群(N=46) 18.70 (17.71) 8.07 (6.93) 38.62 (14.07)

自他相違感低群(N=54) 18.30 (16.23) 8.23 (6.95) 36.84 (11.15)

231.86*** 6.71** 2.72n.s. 124.65***高群(N=37) 27.51 (21.06) 10.21 (7.16) 45.78 (14.05)

自他連帯感低群(N=31) 32.06 (21.27) 9.75 (7.51) 46.16 (13.33)

206.11*** 8.47** 5.87* 13.94***高群(N=59) 16.15 (14.21) 8.68 (6.96) 34.59 (10.03)

自己卑下感低群(N=46) 15.78 (14.45) 8.79 (6.44) 35.58 (12.29)

191.40*** 3.32+ 2.76n.s. 133.86***高群(N=44) 27.75 (20.35) 9.15 (8.09) 43.25 (12.98)

JPTCI

自己高揚感低群(N=45) 152.02 (44.26) 139.38 (37.77) 166.48 (47.52)

9.86** 22.97*** .00n.s. 4.84*高群(N=46) 107.04 (40.05) 97.47 (30.96) 125.00 (49.33)

自他相違感低群(N=54) 118.07 (39.87) 106.51 (37.18) 139.37 (36.49)

8.94** 5.78* .19n.s. 2.86+高群(N=37) 145.65 (53.61) 133.74 (39.37) 158.22 (64.18)

自他連帯感低群(N=31) 164.23 (44.53) 151.58 (32.46) 172.21 (49.88)

6.58* 24.06*** .06n.s. 5.20*高群(N=59) 113.12 (35.94) 105.95 (35.95) 130.82 (30.06)

自己卑下感低群(N=46) 110.59 (36.98) 104.24 (36.44) 128.58 (33.63)

8.67** 14.44*** .05n.s. 5.62*高群(N=44) 151.77 (45.20) 136.25 (37.90) 164.71 (47.42)

p <.001***, p <.01**, p <.05*, p <.10 +, p >.10 n.s.

Table 6 PTSD該当・非該当における各意味づけ高低群のトラウマ症状や認知の変容

自己感情尺度

合計 PTSD非該当 PTSD該当 主効果 交互作用 PTSD該

当における

多重比較平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD

PTSD

F

意味づけ

F

PTSD×意味づけ

F

侵入症状

自己高揚感低群(N=45) 7.78 (7.73) 2.13 (2.74) 14.24 (6.39)

127.21*** .146n.s. .11n.s. 57.94***高群(N=46) 6.04 (7.34) 2.07 (2.10) 13.50 (7.88)

自他相違感低群(N=54) 5.65 (6.31) 1.97 (2.18) 12.42 (5.80)

130.63*** 2.74n.s. 1.75n.s. 71.17***高群(N=37) 8.73 (8.82) 2.32 (2.77) 15.50 (7.89)

自他連帯感 低群(N=31) 10.35 (8.54) 2.25 (3.33) 15.47 (6.59)110.839*** 3.33+ 2.69n.s. 52.24***

高群(N=59) 4.83 (6.00) 2.05 (2.08) 11.71 (6.97)

自己卑下感 低群(N=46) 4.52 (5.79) 2.12 (2.14) 11.33 (7.41)108.38*** 2.69n.s 2.91+ 81.83***

高群(N=44) 9.05 (8.25) 2.05 (2.80) 14.87 (6.53)

回避症状

自己高揚感 低群(N=45) 10.00 (7.98) 4.25 (4.57) 16.57 (5.58)98.83*** .81n.s. 1.99n.s. 35.16***

高群(N=46) 8.02 (6.68) 4.80 (4.26) 14.06 (6.24)

自他相違感 低群(N=54) 8.31 (6.89) 4.69 (4.54) 15.00 (5.29)98.12*** .08n.s. .38n.s. .36n.s.

高群(N=37) 10.00 (8.03) 4.32 (4.14) 16.00 (6.65)

自他連帯感 低群(N=31) 12.71 (7.93) 5.25 (3.98) 17.42 (5.89)84.08*** 6.11* 2.81+ 37.12***

高群(N=59) 6.78 (5.93) 4.36 (4.50) 12.76 (4.70)

自己卑下感 低群(N=46) 7.37 (6.86) 4.41 (3.94) 15.75 (6.52)89.32*** .03n.s. .27n.s. .198n.s.

高群(N=44) 10.34 (7.35) 4.80 (5.12) 14.96 (5.51)

過覚醒症状

自己高揚感 低群(N=45) 7.69 (6.07) 3.63 (3.87) 12.33 (4.62)122.42*** 4.85* .473* .964*

高群(N=46) 4.63 (5.90) 1.20 (1.67) 11.06 (5.62)

自他相違感 低群(N=54) 4.33 (4.87) 1.57 (1.96) 9.42 (4.51)137.50*** 18.83*** 3.24+ 80.08***

高群(N=37) 8.78 (6.89) 3.58 (4.23) 14.28 (4.40)

自他連帯感 低群(N=31) 9.00 (6.99) 2.25 (3.60) 13.26 (4.89)105.19*** 2.86+ 3.0+ 48.06***

高群(N=59) 4.54 (5.08) 2.29 (2.97) 10.12 (4.97)

自己卑下感 低群(N=46) 3.89 (4.28) 2.26 (3.10) 8.50 (3.83)103.52*** 8.43** 8.19** 94.75***

高群(N=44) 8.36 (6.98) 2.30 (3.13) 13.42 (4.93)

p <.001***, p <.01**, p <.05*, p <.10 +, p >.10 n.s.

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寺井 治樹  石村 郁夫

(Table 7)。

 結果として,自己に対する否定的な認知において弱

いものの,有意な交互作用が確認され(それぞれ自己

高揚感:F  (1,87) = .02,p  <.10; 自他相違感:F  (1,87) 

= .09,p  <.10; 自他連帯感:F  (1,86) = .04,p  <.10; 自己

卑下感:F  (1,86) = .02,p  <.10),PTSD該当における

多重比較においても有意差及び有意傾向が示された

(それぞれ自己高揚感:F  (1,87) = 4.58,p  <.05; 自他相

違感:F  (1,87) = 3.40,p  <.10; 自他連帯感:F  (1,86) = 

3.96,p  <.10; 自己卑下感:F  (1,86) = 5.31,p  <.05). ま

た,世界に関する否定的認知については,自他連帯感

との間でのみ,同じく弱い交互作用が見られ(F  (1,86) 

= 3.09,p  <.10),多重比較における有意差も示された

(F  (1,86) = 11.06,p  <.01). またPTSDの主効果につい

ては自己に対する否定的認知と世界に対する否定的認

知の全てで有意差が確認されたが,トラウマに関する

自責の念では確認されなかった。意味づけの主効果に

おいてはトラウマに関する自責の念と自他相違感との

間でのみ有意差が示されなかった。

 以上の結果から,自己に対する否定的認知に対して

ポジティブな意味づけを行うことで低減することがで

き,反対にネガティブな意味づけを行うとネガティブ

な認知が増大することが示された。また,世界に関す

る否定的認知においては自他連帯感をもつことによっ

て抑制されることが確認された。

過去のいじめ体験に対する意味づけが大学生時点での

トラウマ反応、認知変容に及ぼす影響

 いじめ体験時の感情がどのように意味づけられ,ト

ラウマ反応や認知変容に影響を及ぼしているのかを調

べるために共分散構造分析を行った。結果をFigure 1

に示す。

 結果としては,辛苦,敵意から自他連帯感へ有意な

パス(辛苦:β= .36,p<.05 敵意 : β= -.26,p<.05)が

みられたが,他の意味づけについては有意ではなく,

自己卑下感が独立してトラウマ反応(β= .24,p<.05)

と認知変容(β= .3,p<.05)へと有意なパスを示して

いた。自他連帯感からはどちらにも有意な負のパス

(トラウマ反応 : β= -.35,p<.05 : 認知変容 : β= -.34,

p<.05) が み ら れ た。 ま た、 辛 苦(β= .29,p<.05),

敵意(β=.22,p<.05)からはトラウマ反応へ直接的

に有意なパスが見られたが,虚無感には直接的なもの

は見られなかった。

 以上の結果から,いじめ体験時に苦しいと感じた者

は自他のつながりを持ち,反対に敵意を持った者は自

分と他者が共にあることを意識しにくいことが推測さ

れた。また,自他連帯感ではトラウマ反応や否定的な

認知変容を抑制できるが、自己卑下感では反対にトラ

ウマ反応や否定的な認知を強めてしまうといえる。

Table 7 PTSD該当・非該当における各意味づけ高低群のトラウマ症状や認知の変容

自己感情尺度

合計 PTSD非該当 PTSD該当 主効果 交互作用PTSD該

当における

多重比較平均値 SD 平均値 SD 平均値 SD

PTSD

F

意味づけ

F

PTSD×意

味づけ

F

自己に対する否定的認知

自己高揚感低群(N=45) 99.56 (31.16) 90.00 (26.98) 110.48 (32.61)

10.41** 24.66*** .02+ 4.58*高群(N=46) 67.24 (27.87) 60.73 (21.27) 79.44 (34.81)

自他相違感低群(N=54) 75.37 (28.82) 67.34 (26.17) 90.16 (28.20)

9.53** 5.76* .09+ 3.40+高群(N=37) 94.68 (36.97) 85.53 (27.81) 104.33 (43.40)

自他連帯感低群(N=31) 108.71 (31.18) 97.83 (24.92) 115.58 (33.35)

7.03* 26.93*** .04+ 3.96+高群(N=59) 71.24 (25.16) 66.86 (24.94) 82.06 (22.93)

自己卑下感低群(N=46) 69.63 (26.44) 64.97 (25.03) 82.83 (26.89)

8.72** 14.98*** .02+ 5.31*高群(N=44) 99.32 (31.67) 88.65 (26.71) 108.21 (33.24)

トラウマに関する自責の念

自己高揚感低群(N=45) 20.07 (7.44) 18.92 (7.27) 21.38 (7.59)

.70n.s. 10.04** .58n.s. .00n.s.高群(N=46) 15.24 (6.85) 15.20 (6.59) 15.31 (7.54)

自他相違感低群(N=54) 16.85 (6.95) 16.26 (7.37) 17.95 (6.11)

.00n.s. 1.05n.s. 1.05n.s. .45n.s.高群(N=37) 18.76 (8.24) 17.95 (6.57) 19.61 (9.82)

自他連帯感低群(N=31) 20.84 (7.44) 19.83 (6.51) 21.47 (8.08)

.56n.s. 6.57* 0.61n.s. .164n.s.高群(N=59) 16.24 (6.79) 16.00 (7.08) 16.82 (6.17)

自己卑下感低群(N=46) 16.07 (6.40) 15.94 (6.75) 16.42 (5.53)

.74n.s. 4.34* .32n.s. 1.13n.s.高群(N=44) 19.66 (7.83) 18.40 (7.55) 20.71 (8.06)

世界に関する否定的認知

自己高揚感低群(N=45) 32.40 (9.83) 30.46 (8.19) 34.62 (11.21)

9.26** 9.87** 1.16n.s. 8.20**高群(N=46) 24.57 (10.70) 21.53 (8.57) 30.25 (12.18)

自他相違感低群(N=54) 25.85 (9.68) 22.91 (8.95) 31.26 (8.77)

7.89** 5.54* .97n.s. 1.46n.s.高群(N=37) 32.22 (11.71) 30.26 (8.65) 34.28 (14.24)

自他連帯感低群(N=31) 34.68 (9.53) 33.92 (6.82) 35.16 (11.07)

5.44* 10.53* 3.09+ 11.06**高群(N=59) 25.64 (9.82) 23.10 (8.74) 31.94 (9.74)

自己卑下感低群(N=46) 24.89 (9.94) 23.32 (9.70) 29.33 (9.64)

8.59** 8.23** .02n.s. 5.24**高群(N=44) 32.80 (9.79) 29.20 (7.92) 35.79 (10.34)

p <.001***, p <.01**, p <.05*, p <.10 +, p >.10 n.s.

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過去のいじめによる心的外傷体験と否定的認知の変容に関する調査

考  察

 本研究の結果,まずいじめ被害者95名のうち37名,

つまり39%もの人がIES-R得点において24点以上で

PTSDに該当しており,いじめ体験時に抱いた感情と

トラウマ反応において関連が示された。いじめ体験時

の感情と否定的な認知変容においては直接的な関連性

はあまり見出せなかったが,意味づけを介することに

よって影響を及ぼし,トラウマ反応と否定的な認知変

容を増大,あるいは促進することが確認された。いじ

め体験の開始時期は小中学校が半数以上を占めてお

り,実際に行われたいじめの種別は“仲間はずれにさ

れる”に代表される関係性いじめや,物的証拠の残ら

ない言葉によるいじめであり,加害者の76%がクラス

メイトであったことから,学校内,特にクラス内で頻

度が高かったと推測される。また,いじめ体験者の内

半数以上は他者に相談を行うことが示され,その中の

七割の人は母親に相談を行ったことがあると回答し

た。いじめ被害未経験者の半数は他者がいじめられて

いる現場を見たことがあり,目撃時には無関心あるい

はいじめが自分の身に降りかかる心配をするといった

感情を抱くことがわかった。以上の結果から,考察を

述べる。

 いじめ体験がPTSD,あるいは類似したトラウマ症

状を引き起こす原因となり得ることが示されたこと

は,荒川(2014)と一致しており,サンプルに課題は

残しつつも,十分な成果が得られたといえる。本研究

において調査したいじめ被害体験は小中学校が大半を

占めていたことから,小中学校の頃に受けたいじめに,

少なくとも大学生時点では振り回されて生活をしてい

る人が半数には及ばないが37名(39%)も確認されて

おり,いじめ被害体験による深刻な影響が確認されて

おり,いじめ被害者への長期的な心理的ケアの必要性

があるといえる。

 また,今回の結果においてはトラウマ症状や否定的

な認知変容に対してポジティブな意味づけによってあ

る程度低減をする効果が示されており,飛鳥井(2011)

で触れられているように意味づけによるいじめ被害後

のPTSD症状の治療や,周囲からの情緒的サポートを

促進することが可能ではないかと考えられる。その中

でも,特に自身と他者につながりがあると感じる自他

連帯感を持つことによる効果が最も確認されたため,

PTSD症状や否定的認知を持ついじめ被害者に対して

は,周りの人々とのつながりを感じられる環境を作る

ことが有効になると推測される。同時に,ネガティブ

な意味づけによって症状が悪くなることも示されたた

め,当然のことではあるが,たとえばいじめ発生直後

に教師が被害者の気持ちに配慮しつつ迅速な対応を示

し,スクールカウンセラーとも連携していじめが起き

た後の心理的ケアを行っていくことにより,いじめ被

害者の孤立化を防ぎ,ネガティブな意味づけを促進す

る状況に追い込まないようにする対策も推進していく

べきである。

 また,今回の結果として,いじめを受けたことを誰

に相談したかという質問において,半数以上の人が誰

かにいじめ体験についての相談をしており,中でも七

割もの人が母親に相談を行っていたことが示された。

このことは,いじめ被害体験に関して,母親の存在が

何らかの鍵を持っている可能性を示唆しているものと

いえる。そのため,いじめ体験時に母親がどのような

役割を担っているのかを調べ,場合によってはいじめ

の実態調査として母親に,こどものいじめ体験を訊ね

る調査を実施することも今後考えられる手法である。

 またいじめ体験のない人達においても,多くの人が

いじめの目撃者となっていることは,いじめ発生率の

高さを表す指標である。このように,いじめはある程

度周りの者から見えている問題ではあるが,いじめを

目撃している者が,他者のいじめ被害を見て,なんと

も思わない,あるいはいじめは悪いこと,止めるべき

ことという認識を持っているにも関わらず,保身のみ

Figure 1 過去のいじめ体験に対する意味づけが大学生時点でのトラウマ反応、認知変容に及ぼす影響

注)実線は正のパス,破線は負のパス,数値は標準偏回帰係数,カッコ内は決定係数を示す(5%水準で有意)。

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寺井 治樹  石村 郁夫

を優先して傍観する立場を取ってしまっている状況に

あるのは,いじめの予防においては大きなマイナスで

ある。このことから,傍観者を減らし,何らかの形で

予防的介入を行える者を増やすための研究を行う必要

性があると考えられる。

 本研究の問題は,PTSD該当・非該当を判断する際

に,厳密な定義に即しきれなかったことが挙げられる。

実際のPTSDの診断ではトラウマ的出来事を体験した

際に危うく死ぬような,重傷を負うような危険を感じ

たかが扱われる。しかし,本研究においてはPTSDの

該当・非該当をIES-R得点でのみ判断を行い,生命の

危機を感じたかを訊ねる質問を欠いたため,PTSD該

当・非該当の基準を下げてしまった可能性が考えられ

る。

 また,今回調査を行うにあたって,対象とした大学

生が理系と心理学系であったため,取り上げたサンプ

ルがやや特徴的となっている可能性も想定される。そ

のため, 今後はより精密な質問紙の作成を目指すと共

に,より広い範囲で調査を行っていくことが必要では

ないかと考えられる。

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寺井 治樹  石村 郁夫

Survey on Cognitive Changes Caused by Traumatic

Experiences with Past Bullying

Haruki TERAI (Graduate School of Psychology, Tokyo Seitoku University)

Ikuo ISHIMURA (Tokyo Seitoku University)

  In recent years the problem of bullying has been treated as a severe one, to the extent that 

a connection to PTSD has been shown, as the influence of harmful experiences of past bullying 

has come to be shown. This study first investigated to what degree university students’ past 

experiences of being bullied meet  the diagnostic criteria for PTSD, and then conducted a 

questionnaire survey targeting 268 university students, with the goal of investigating to what 

extent the significance attached to experiences of being bullied exhibits an inhibiting effect, as 

a primary factor in alleviating PTSD symptoms and negative cognitive changes brought about 

by experiences of being bullied. In the results, 95 people had gone through experiences of being 

bullied, and among that group 37 people (39%) were determined to be exhibiting symptoms of 

PTSD. A relationship between their emotions at the time of the bullying experience and the 

period of PTSD was confirmed, and it was demonstrated that attaching positive significance 

to experiences, and particularly having a sense of solidarity between oneself and others, staves 

off and reduces symptoms of trauma and negative cognitive changes. At the same time, it was 

confirmed that attaching negative significance to the experience, such as reduced feelings of 

self-worth, prompts trauma symptoms and negative cognitive changes; thus, the importance of 

attaching a positive significance to experiences was suggested. These results indicated that it is 

important for people victimized by bullying to receive long-term care from one’s surroundings 

so as to promote the attachment of positive significance to experiences, and not being placed 

in circumstances which encourage the attachment of negative significance, such as isolation. 

In addition, despite the fact that more than half of the people in the present study who had not 

experienced being bullied themselves had witnessed others being bullied, it was revealed that 

the majority of them, although aware that the bullying was something that ought to be stopped, 

remained bystanders and let it pass. Hence, it was suggested that it is important to improve 

situations in which there are a large number of bystanders as a countermeasure to worsening 

state of bullying.

Keywords: Bullying, PTSD, Attachment of Significance

Bulletin of Clinical Psychology, Tokyo Seitoku University

2016, Vol. 16, pp. 181-192