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曲面・結び目・多様体の トポロジーの研究 大学  学ゼミ S04S021 S04S028 S04S029 S04S049 S04S079

曲面・結び目・多様体の トポロジーの研究surgery.matrix.jp/math/ridai/kika2007a.pdf · 目次 0 導入 1 1 同相写像と平面モデル 2 2 多様体、曲面への構造の導入

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曲面・結び目・多様体のトポロジーの研究

岡山理科大学 理学部 基礎理学科

 幾何学ゼミ

担当教授  山崎  正之S04S021   片岡  美絵S04S028   木下  拓也S04S029   木村  泰彰S04S049   内藤   優S04S079   山口 由加里

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目次

0 導入 1

1 同相写像と平面モデル 2

2 多様体、曲面への構造の導入 6

3 グラフとトポロジー 19

4 結び目理論 25

0 導入

我々は「曲面・結び目・多様体のトポロジー」(S.C.カールソン著 金信泰造 訳)をテキストにして一年間

ゼミを行った。このテキストはタイトルにあるように、曲面・結び目・多様体に焦点を絞ったトポロジーの解

説書であり、6つの章に分かれている。

第1章「イントロダクション」に続いて、第2章「多様体」では、結び目(1次元多様体の特別な例)や曲

面(2次元多様体の特別な例)をふくむような位相的な図形が一つの集まりをなしていることを学び、また3

次元多様体についても簡単にふれた。

第3章「コンパクトな曲面の分類」では、どのようなコンパクトな曲面も、いくつかの簡単な曲面の連結和

として構成されることを学びさらに、コンパクトな曲面の分類定理を証明した。またこの証明をする際に、曲

面の代数や循環則、数学的帰納法と言ったものが必要となり、大変難しい証明となった。

第4章「曲面への構造の導入」では、与えられた曲面に対し、タイル張り・パターン・複体などの構造の概

念が導入された。またその概念からオイラー標数とよばれる数が定まることも学んだ。そこからさらに、地図

の塗り分けという問題にも取り組んでいった。

第5章「グラフとトポロジー」では、グラフの概念が導入された。グラフを空間内の点の集合とみて、図形

としてのグラフのトポロジー的性質を調べた。

第6章「結び目理論」では、結び目や絡み目が同位であることと、ライデマイスター移動で変形可能である

ことが同値であることを使って様々な分類方法を学んだ。

本卒業論文では、各章末の問題の解答を作ることを目標とする。各節においては重要な定義や定理等を紹介

した後、問題と解答を記す。ゼミではすべての章末問題を解いたが、ここでは一部の非常に複雑な図を必要と

するもの、3年次の講義ですでに学んだものは省いてある。テキストとの対応は以下の通りである。

第1節 :テキスト第1章

第2節 :テキスト第2章、第4章

第3節 :テキスト第5章

第4節 :テキスト第6章

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論文作成の作業は次のように分担して行った。

導入…木下

第 1章

   編集…片岡、山口

   問題…問 1.1(山口)、問 1.2(片岡)

第 2章

   編集…山口

   問題…問 2.1(内藤)、問 2.2(山口)、問 2.3(片岡)、問 2.4(山口)、問 2.5(木下)、

      問 2.6(木下)、問 2.7(片岡)、問 2.8(片岡)

第 3章

   編集…木下

   問題…問 3.1(片岡)、問 3.2(木村)、問 3.3(木下)、問 3.4(山口)、問 3.5(片岡)、

      問 3.6(木村)

第 4章

   編集…片岡

   問題…問 4.1(山口)、問 4.2(山口)、問 4.3(内藤)、問 4.4(木村)、問 4.5(木下)、

   問 4.6(片岡)、問 4.7(内藤)

1 同相写像と平面モデル

定義 1.1. ある図形を連続的に変形して他の図形にすることができるとき、これら 2つの図形は同位(イソト

ピック)である、または互いに同位であるという。

例 1.1. “缶詰め”の缶から蓋と底の部分を切り取ったものと同位な図形を円筒とよぶことにする。ただし、

蓋と底の境界の円周部分もふくまれると考える。ここでは紙で円筒を作る方法を紹介する。まず、長方形の紙

切れを用意して筒状に曲げる。最後に、両方の縁をのりやテープで貼り付ける。

例 1.2. 例 1.1の円筒を紙で作った方法をまねて、数学でもっとも有名な図形の一つを作ることができる。そ

れはメビウスの帯である。ふたたび長方形の紙切れを用意する。今度は、上下の横の辺が左右の縦の辺よりも

いくぶん長めの帯状の紙が都合がよい。円筒のときのように紙を曲げるが、左右の辺を貼り合わせる前に、帯

を半回ひねる。このようにして完成した図形がメビウスの帯である。円筒とメビウスの帯の(一部分である)

境界線は、貼り合わせる前は紙の帯の上下の辺であった。この上下の辺を注意深く観察すると、メビウスの帯

ではつながって 1本の円周となるが、円筒の境界ではばらばらの 2本の円周となる。もしも境界線をもつ 2つ

の曲面が同位ならば、それらの境界の集合も同位なはずである。したがって、円筒とメビウスの帯は同位では

ない。

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図 1.1 円筒とメビウスの帯は同位ではない

定義 1.2. X と Y を空間の集合とし、f を定義域 X、余領域 Y の関数とする。X の任意の点 xに収束する

X の点列 {xn} に対して、Y の点列 {f(xn)} が f(x) に収束するとき、f は連続であるという。ここでは、

ユークリッドの距離関数による距離を測って“近い”と考えている。

定義 1.3. X と Y を空間内の 2つの点集合とする。X から Y への連続な全単射があり、その逆写像も連続

なとき、X と Y は同相であるという。このような全単射を X から Y への同相写像という。また、2つの図

形が同相なときにそれらは“位相的に同値”であるともいう。

定理 1.1. 同位な 2つの図形は同相である。

例 1.3. 半開区間 [0,1)と x2 + y2 = 1で表される単位円周は、位相的に同値でない。図 1.2の区間の変形過

程は、円周への連続変形に近いものにみえる。しかし、最後の、区間の端点の“貼り合わせ”であるが、区間

の両方の端点は接近し、切れ目のない円周になる。また、区間の内部の点を取り除くと区間は 2つの部分に分

かれるが、円周ではどの点を取り除いても 2つの部分に分かれない。このような点を切断点とよぶ。ある図形

から他の図形への同相写像において、切断点は切断点に写像される。したがって、区間と円周は同相でないこ

とがわかる。

図 1.2 この折り曲げの変形は位相的に同値な変形ではない。

定義 1.4. 単位閉円板と同相な平面の多角形領域において、各辺に a、b、…などのラベルを向きを表わす矢印

がつけられているものを考える。同じラベルの付いた 2本の辺全体を矢印の示す向きが一致するように貼り合

わせることにより図形を構成することができる。(実際に貼り合わせてるときには、辺どうしをきちんと合わ

せるために平面の領域をいくらか引き延ばすが、そのとき 4次元に広げることもある。)このラベルや矢印の

付いた多角形領域のことを、構成された図形の平面モデルとよぶ。

例 1.4. 図 1.3で示されているのは、円筒とメビウスの帯の簡単な 4角形平面モデルである。どちらのモデル

においても、a,cのラベルの付いた辺は他の辺と貼り合わされることはない。これらは、完成した図形におけ

る境界の集合となる。

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図 1.3 円筒とメビウスの帯の平面モデル

問 1.1. X を境界上に“半開弧”をもつ開円板、Y を内側の境界上に 1点をもつ開アニュラス、Z を外側の境

界上に“半開弧”をもち内側の境界上に 1点をもつ開アニュラス、Dを開円版とする。これらの平面上の集合

は図 1.4に示されている。これらのどの 2つも同相ではないことは事実として仮定する。

(a) 例 1.3で半開区間を曲げて円周に変形したように、X を変形してX から Y の上への連続な全単射を構

成せよ。(まず、例 1.3の半開区間の代わりになるように X を細長い長方形に変形せよ。)

(b) (a)と同様に考えて、X から Z の上への連続な全単射を構成せよ。

(c) Y から D の上への連続な全単射があることを証明せよ。さらに、X から D への上への連続な全単射

があることを証明せよ。

(d) (b)ではX から Z への上への連続な全単射があることを証明したが、今度は、Z からX への上への連

続な全単射があることを証明せよ。このことは、X と Z が同相でないことに矛盾しないか、説明せよ。

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図 1.4 平面の 4つの集合

解. (a) X を長方形にし、上と下の辺を“貼り合わせる”。そうすると、半開区間によって長方形の上端と

下端がつながり円環状になり、Y と同相な図形ができる。よって、X から Y の上への連続な全単射が

構成された。

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(b) (a)と同様に、X を長方形にし、上と下の辺を“貼り合わせる”。そうすると、半開区間によって長方形

の上端と下端がつながり円環状になり、Z と同相な図形ができる。よって、X から Z への上への連続

な全単射が構成された。

(c) Y の穴を小さくしていくと、穴がなくなり、D になる。よって、Y から D への上への連続な全単射が

構成された。

������

(a)で作った X から Y への上への連続な全単射と、今作った Y から D への上への連続な全単射を合

成すればよい。

(d) Z の穴を小さくしていくと、穴がなくなり、X になる。よって、Z から X への上への連続な全単射が

構成された。

����

����

矛盾しない。なぜならば (b)、(d)で作った写像は、互いに逆写像でないから。X の点 pは、(b)への

写像で q にうつり、q は (d)の写像で X の中心にうつり、pに戻らない。

問 1.2. 図 1.5の 3角形の平面モデルを考えよう。“a”のラベルの付いた 2辺は全体を貼り合わせて、“b”の

ラベルの付いた辺はそのままにしておき、できあがる図形の境界とする。ここで“a”の辺の貼り合わせ方が

2通りある。それぞれの場合の図形がどうなるか考えよ。これら 2つの図形は、ある図形と同相である。その

図形とは何か。

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図 1.5 三角形の平面モデル

解. 下図は円板と同相になる。

� �

下図はメビウスの帯と同相になる。

� �

2 多様体、曲面への構造の導入

定義 2.1. 空間内における点の集合が 1次元多様体であるとは、各点が実数直線の開区間と同相な近傍をもつ

ときをいう。

空間内における点の集合が 2次元多様体であるとは、各点が平面の開円板と同相な近傍をもつときをいう。

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定義 2.2. X を空間内の点の集合とする。

(a) X がちょうど 1つの成分だけからなるときに、X は 連結であるという。

(b) X のどのような 2点間の距離もある数以下のときに、X は 有界であるという。

(c) X 内のどのような点列の極限も X 内に含まれるときに、X は閉であるという。

(d) X が有界かつ閉であるとき、X は コンパクトであるという。

定義 2.3. 連結な 2次元多様体を曲面という。

定義 2.4. コンパクトな曲面がメビウスの帯と同相な部分集合をふくむとき向き付け不可能といい、ふくまな

いとき向き付け可能という。

定理 2.1. 平面モデルがコンパクトな曲面を表現するための必要十分条件は、その平面モデルが、n個の異な

る辺のラベルによって対になる 2n本 (偶数本)の辺をもつことである。

定義 2.5. X と Y を 2個のコンパクトな曲面とする。このとき、次のようにして得られるコンパクトな曲面

を X と Y の連結和という。

(a) 集合 X と Y のそれぞれから小さな開円板を取り除く。すると、それぞれの曲面上の円周が境界として

残る。

(b) 境界の円周を貼り合わせて得られたものが連結和である。X と Y の連結和を X#Y で表す。

定義 2.6. トーラスを T、射影平面を P、クラインの壷をK で表す。コンパクトな曲面は、mT (m = 0)また

はmP (m = 0)の形で表すことができる。ただし、0T は球面 S を表すものとする。また、向き付け不可能な

曲面は K#mT (m = 0)または P#mT (m = 0)の形で表すこともできる。これらを標準形曲面とよぶ。例え

ば、K#K は、4P およびK#1T と書ける。

定義 2.7. コンパクトな曲面 X 上に有限個の多角形が次の条件をみたすように配置されているとき、この配

置を X 上のタイル張りという。

(a) 多角形が X 全体を覆っている。

(b) 多角形が交われば、それは頂点または辺全体で交わっている。

タイル張りにおいて、多角形をタイル張りの面、多角形の頂点および辺をタイル張りの頂点および辺とよぶ。

定義 2.8. コンパクトな曲面のタイル張りに対して、

タイル張りの頂点の個数を V、

タイル張りの辺の本数を E、

タイル張りの面の個数を F

で表すことにする。

定義 2.9. コンパクトな曲面 X に対して、与えられた平面モデルを表現する語とは、平面モデルの辺のラベ

ルを、ある頂点から時計まわりの順に並べたリストである。ただし、反時計まわりの方向の付いた辺のラベル

には −1ベキ指数をつける。

このようにして得られた語は、コンパクトな曲面 X を表現するともいう。

また、2つの語M1 とM2 が表現するコンパクトな曲面が同相のとき、M1 とM2 は同相な語であるといい、

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M1 ∼ M2 とかく。

定理 2.2. コンパクトな曲面の基本タイル張り予想

X をコンパクトな曲面とする。X のどのようなタイル張りに対しても V −E + F の値は一定である。この整

数を χ(X)で表し、X のオイラー標数とよぶ。

定義 2.10. M をコンパクトな曲面を表現する長さ 2nの語とし、M に関する平面モデルの 2n個の頂点の個

数を v とする。このとき、数 χ(M) = v − n + 1を語M のオイラー標数とよぶ。

定理 2.3. M1 とM2 をコンパクトな曲面を表現する語で、M1 ∼ M2(すなわちM1 とM2 は同相なコンパク

トな曲面を表現する)とする。このとき、χ(M1) = χ(M2)である。すなわち、語のオイラー標数、あるいは

また、平面モデルから得られる V − E + F の値は、その語が表現するコンパクトな曲面にのみ依存する。

定理の証明のかわりに、次の例を示すことにする。

例 2.1. 図 2.6は、立方体の表面として与えられた球面のタイル張りである。1つの面のまわりの 3本の辺に

沿って立方体の表面を切ってそれを引き延ばしたのが、境界に 6本の辺をもつ図の平面モデルである。この平

面モデルの内部には、タイル張りの 9本の辺と 4個の頂点が現れている。したがって、V − E + F = 2であ

る。この平面モデルを、次から示す (1)から (5)の手順で内部の辺や頂点を取り除き、V −E + F の値は変わ

らないことを示していく。

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図 2.6 内部の辺や頂点を取り除いても V − E + F の値は変わらない。

(1) e1 を取り除くと、面が 1個減る。e1 を取り除くことで元は 2個あった面が 1個の面になってしまう。

よって、E は F 一つずつ減ることになり、V − E + F の値は変わらない。

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(2) e2、e3、頂点 Aを取り除く。取り除くことで面が 2個あったが、1個減った。よって、V は 1、E は 2、

F は 1それぞれ減り、V − E + F の値の変化はは −1 − (−2) − 1 = 0である。

(3) e4、e5、頂点 B を取り除く。面がまた 1個減るので、3個減ったことになる。V は 1、E は 2、F は 1

それぞれ減り、V − E + F の値の変化は −1 − (−2) − 1 = 0である。

(4) e6、e7、e8、頂点 C、頂点 D を取り除く。面は 1個減り、合計 4個減ったことになる。V は 2、E は

3、F は 1それぞれ減り、V − E + F の値の変化は −2 − (−3) − 1 = 0である。

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(5) e9 を取り除く。面がまた 1 個減るので、これで 5 個減った。V は 0、E は 1、F は 1 それぞれ減り、

V − E + F の値の変化は 0 − (−1) − 1 = 0である。

よって、(1)から (5)の手順で内部の辺や頂点を取り除いても、V −E + F の値は変わらないことが示された。

定理 2.4.

m = 0のとき, χ(mT ) = 2 − 2m.

m = 1のとき, χ(mP ) = 2 − m.

m = 0のとき, χ(K#mT ) = −2m.

m = 0のとき, χ(P#mT ) = 1 − 2m.

定理 2.5. 2つのコンパクトな曲面が同相となるための必要十分条件は、次の (a)と (b)を両方をみたすとき

である。

(a) それらが同じオイラー標数をもつ。

(b) ともに向き付け可能、または、ともに向き付け不可能である。

定義 2.11. コンパクトな曲面上のタイル張りにおける頂点の小さな近傍の中には、その頂点につながる辺の

一部である線分がみえる。そのような頂点につながる線分の本数を頂点の価数とよぶ。

定義 2.12. コンパクトな曲面上のタイル張り、および整数 a (= 1)と b (= 1)に対して、

このタイル張りにおける a角形の面の個数を Fa で表す。

このタイル張りにおける価数 bの頂点の個数を Vb で表す。

定理 2.6. コンパクトな曲面上のタイル張りに対して次の式が成り立つ。

2E = 1V1 + 2V2 + 3V3 + 4V4 + 5V5 + · · ·,2E = 1F1 + 2F2 + 3F3 + 4F4 + 5F5 + · · ·.

定義 2.13. コンパクトな曲面上のパターンで次をみたすものを複体という。

(a) 2角形の面や価数が 2の頂点をもたない。

(b) 面は、たとえ頂点においても自分自身では交わらない。

(c) 異なる 2つの面は、1個の頂点、または、1本の辺全体において、高々 1度しか交わらない。

定義 2.14. コンパクトな曲面 X 上のパターンで、各頂点の価数が3以上のものを地図という。

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正の整数 N に対して、コンパクトな曲面上の地図が N 彩色可能であるとは、N 色の異なる色が与えられ

たとき、同じ辺を共有する2つの異なる面が異なる色で塗られるように地図の各面を N 色のうちの1色で塗

ることができるときをいう。

ある地図が N 彩色可能であるが (N − 1)彩色可能でないとき、N をその地図の染色数と定義する。

定義 2.15. X をオイラー標数が負のコンパクトな曲面とする。このとき曲面 X のヒーウッド数を次のよう

に定義する。

H(X) =

⌊7 +

√49 − 24χ(X)

2

定理 2.7. X をオイラー標数が負のコンパクトな曲面とする。X 上のすべての地図はH(X)彩色可能である。

したがって、H(X)は X 上の地図の染色数の上界である。

問 2.1. X と Y をコンパクトな曲面とすると、

χ(X#Y ) = χ(X) + χ(Y ) − 2

が成り立つことを証明せよ。X と Y の平面モデルを組み合わせて (X#Y )の平面モデルを構成していく様子

をスケッチし、オイラー標数を調べよ。

解. X、Y それぞれの平面モデルから、1つの頂点に接するように連結和のための穴をあける。(図 2の点線)

� �

図 2.7 X と Y の平面モデル

X の頂点の個数を VX、辺の本数を EX とし、Y の頂点の個数を VY、辺の本数を EY、とする。この時、そ

れぞれの面の個数 FX、FY は共に 1である。

この時の X と Y のオイラー標数は

χ(X) = VX − EX + 1

χ(Y ) = VY − EY + 1

である。X#Y の平面モデルは次のようになる。

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�����

図 2.8 X#Y の平面モデル

X#Y の頂点、辺、面の個数は、VX + VY − 1、EX + EY、1となり、そのオイラー標数は

χ(X#Y ) = VX + VY − 1 − EX − EY + 1

= VX − EX + VY − EY

= (VX − EX + 1 − 1) + (VY − EY + 1 − 1)

= (VX − EX + 1) + (VY − EY + 1) − 2

= χ(X) + χ(Y ) − 2

となる。よって χ(X#Y ) = χ(X) + χ(Y ) − 2が証明された。

問 2.2. 2つの異なる向き付け不可能な標準形曲面 (すなわち、K#mT (m = 0) または P#mT (m = 0)が同

相にならないことをオイラー標数を使って証明せよ。(ここでは実際、3種類の対を比較しなければならない

ことに注意せよ。)

解. K#m1T とK#m2T、K#m1T と P#m2T、P#m1T と P#m2T それぞれのオイラー標数を比べるこ

とで、同相か同相でないかを判定することができる。

(1) K#m1T ∼= K#m2T ⇐⇒ m1 = m2

もしも同相ならば、− 2m1 = χ(K#m1T ) = χ(K#m2T ) = −2m2より、

m1 = m2となる。

(2) K#m1T と P#m2T オイラー標数が偶数と奇数になるので同値ではない。

(3) P#m1T ∼= P#m2T ⇐⇒ m1 = m2

もしも同相ならば、1 − 2m1 = χ(P#m1T ) = χ(P#m2T ) = 1 − 2m2より、

m1 = m2となる。

よって、(1)(2)(3)より同相ではないことが証明された。

問 2.3. コンパクトな曲面上のタイル張りの面が、ある奇数 a (= 1) に対して a 角形となるとき、その面を

“奇数面”とよぶ。コンパクトな曲面上のタイル張りの奇数面の数は偶数であることを示せ。

解. 定理 2.2の公式2E = 1F1 + 2F2 + 3F3 + 4F4 + 5F5 + · · ·

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において、左辺は偶数である。また、

右辺 = 1F1 + 2F2 + 3F3 + 4F4 + 5F5 + · · ·= 1F1 + 3F3 + 5F5 + · · · + 2F2 + 4F4 + · · ·= 1F1 + 1F3 + 1F5 + · · · + 2F3 + 4F5 + · · · + 2F2 + 4F4 + · · ·

となり、1F1 + 1F3 + 1F5 + · · · が偶数でなければならない。つまり、奇数面の面の数は偶数個である。

問 2.4. コンパクトな曲面上のパターンが、整数 a(= 2), b(= 2)に対して、すべての面が a角形で、すべての

頂点が bのとき正則であると定義する。

(a) 2角形の面からなる正則なパターンは球面上または射影平面上にしか現れないことを証明せよ。

(b) 球面上の 2角形の面からなる正則なパターンとなる可能性のある場合をすべて求めよ。また、それらが

実際にすべて実現されることをスケッチを描いて示せ。

解. (a) 下図は 2角形の右側の辺から出発して、隣り合う 2角形と順次貼り付けた様子を表わしている。最

終的に最初の 2角形の左の辺に貼りつく。よって、2角形の面からなる正則なパターンは球面上または

射影平面上にしか現れない。

(b) 下図は球面の 2角形による正則なパターンを示したものである。2角形の個数は 2個以上なら何個でも

よい。

13

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問 2.5. 23T 上の地図はすべて 23彩色可能であることを示せ。また、23色より少ない色で 23T 上の地図を

すべて塗り分けるのは可能か。

解. 定理 2.4より

χ(23T ) = 2 − 2 × 23 = −44.

よってヒーウッド数は 20となる:

H(23T ) =

⌊7 +

√49 − 24 × (−44)

2

⌋= b20.12 · · · c = 20.

定理 2.7より、20色で塗りわけられるので 23彩色可能となる。

上の問では、負のオイラー標数をもつコンパクトな曲面に対する結果であるが、H(X)の定義式はオイラー

標数が 2,1,0のコンパクトな曲面についても適用することができて、H(S)=4,H(P )=6,H(T )=7,H(K)=7と

なっていく。したがってどのような場合でも、ヒーウッド数はこれらの基本的な曲面上の地図の染色数の上界

を与えている。テキストには、χ(X)が 2から −4までのヒーウッド数の表が以下のように載っている:

X χ(X) H(X)

S 2 4P 1 6T または 2P (K) 0 73P (P#T ) −1 72T または 4P (K#T ) −2 85P (P#2T ) −3 93T または 6P (K#2T ) −4 9

表 1,曲面やその他のいくつかの曲面に対するヒーウッド数を表したもの。

問 2.6. X をコンパクトな曲面とする。X 上のある地図を塗り分けるために 72色を必要とする。また、X 上

の地図はすべて 75色あれば塗り分けられるとする。以上の条件をみたすコンパクトな曲面X は、同相なもの

は同じとみていくつあるか調べよ。

解. H(X) が 72 以上 75 以下のとき χ(X) がいくつになるかを求める。すると H(X) が 72 から 75 のとき

χ(X)は −780から −873と求められた。これを先程の表のようにしてみると、以下のようになる:

14

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X χ(X) H(X)

S 2 4P 1 6T または 2P (K) 0 73P (P#T )   −1 7

......

...781P −779 71

391T または 782 P −780 72783P −781 72

......

...437T または 874P −872 75875P −873 75

438T または 876P −874 76

この表の条件を満たすmT の形の曲面は 94個、mP の形の曲面は 47個ある。合計 141個である。

問 2.7. 各点が開いた平面上の円板、または“半円板”

{(x, y) : x2 + y2 < 1 かつ y = 0}

と同相な近傍をもつ空間内の集合を 2次元の境界をもつ多様体という。とくに、2次元多様体は境界をもつ 2

次元多様体である。

(a) 次の各条件をみたす 2次元多様体でない境界をもつ 2次元多様体の例をあげよ。連結な例、連結でない

例、コンパクトな例、コンパクトでない例。

(b) 2次元の境界をもつ多様体となるための平面モデルのみたす条件を求めよ。

解. (a) 連結な例

連結でない例

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コンパクトな例

コンパクトでない例

(b) 同じラベルの辺の個数が 1つか 2つであることが求める条件である。任意の点で、開円板か半円板の近

傍をもつことを 3つの場合に分けて示す。

(1) 多角形領域の頂点で点を取った場合は、その点で頂点とする多角形たちが閉じる場合(下図左)と閉じ

ない場合(下図右)があり、それぞれ開円板または半円板と同相な近傍をもつ。

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(2) 多角形領域の頂点以外の辺で点を取った場合は、その辺のラベルをもつ辺が 2つの場合(下図左)と 1

つの場合(下図右)があり、それぞれ開円板または半円板の近傍をもつ。

(3) 多角形領域の内部で点を取った場合は、開円板の近傍をもつ。

問 2.8. 問 2.7において、2次元の境界をもつ多様体を定義した。さて、2次元の境界をもつ多様体を縁付き

曲面と定義しよう。

(a) コンパクトな曲面ではないコンパクトな縁付き曲面の具体的な例を考えよ。その例の平面モデルにそれ

ぞれタイル張りを描いてから、それを基準にして、考えている例のオイラー標数をどのように定義すれ

ばよいか考察せよ。

(b) このように定義したコンパクトな縁付き曲面のオイラー標数としてどのような数が現われるか。

解. (a) 具体例

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上の例で、2つの異なるタイル張りを考える。

� � � �

上の左図は、V = 6、E = 10、F = 4で、V − E + F = 6 − 10 + 4 = 0となる。右図は、V = 12、

E = 21、F = 9で、V − E + F = 12 − 21 + 9 = 0、となり、2つのタイル張りの V − E + F の値は

一致する。よって、どのようなタイル張りに対しても V −E + F は一定であると推測できる。従って、

オイラー標数を V − E + F と定義すればよい。  

(b) X が縁付き曲面であるとする。X のコピーを 2つ用意し、縁で貼り合わせて曲面 Y をつくる。X の

縁の上にある頂点および辺の個数を α, β とおく。このとき、Y の頂点・辺・面の個数は次で与えら

れる。

VY = 2VX − α,

EY = 2EX − β,

FY = 2FX .

α = β であることを用いて、Y のオイラー標数は次のように計算できる:

χ(Y ) = 2VX − α − 2EX + β + 2FX

= 2(VX − EX + FX) − α + β

= 2(VX − EX + FX)

= 2χ(X).

曲面のオイラー標数は 2 以下であるから、2χ(X) 5 2 つまり χ(X) 5 1 を得る。X = D2 とすると

χ(X) = 1である。また k = 1に対し、X としてD2 から k個の小開円板をとりのぞいた図形を考える

と、χ(X) = 1− kとなり、0以下の整数値がすべて実現できる。以上より、1以下のすべての整数が現

れることがわかる。

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3 グラフとトポロジー

定義 3.1. V を有限集合、E を V の 2点からなる部分集合からなる集合とする。このとき、V と E からなる

組をグラフという。V の元をグラフの頂点、E を元のグラフの辺とよぶ。

定義 3.2. n個の元からなる頂点集合をもち,(n2

)= n(n−1)

2 個からなるすべての頂点対を辺集合とするグラフ

を n頂点の完全グラフという。n頂点の完全グラフをKn で表す。

定義 3.3. Gを頂点集合 V ,辺集合 E のグラフとする。V が 2つの空でない互いに交わらない集合 V1 と V2

の和集合で、Gのすべての辺が V1 の頂点と V2 の頂点をつなぐとき、Gを 2部グラフという。さらに、aを

V1 の頂点とし、E が {a,b}のような辺全体からなる集合のときに、Gを完全 2部グラフという。V1 がm個

の頂点からなり、V2 が n個の頂点からなるとき、この完全 2部グラフを、Km,n で表す。

定義 3.4. グラフの頂点 v を端点としてもつ辺の本数を、頂点 v の価数という。すべての頂点の価数が同じグ

ラフを正則グラフという。

定義 3.5. グラフにおいて、{v1, v2}, {v2, v3}, · · · , {vm−1, vm}のような辺の有限列を道という。ただし、この列では同じ辺は1度しか現れないものとする。このようなときに、この道は v1 から vm に行くという。ま

た、v1 を道の始点、vm を終点という。

始点と終点が一致するグラフの道を閉じた道または回路という。

グラフのすべての頂点対に対して、その一方から他方への道があるとき、そのグラフは連結であるという。

定義 3.6. グラフにおいて、すべての辺をふくむ道をオイラー道という。閉じたオイラー道をオイラー回路と

いう。連結でオイラー回路もつグラフをオイラーグラフという。

定理 3.1. オイラーグラフに関する主定理

Gを連結なグラフとする。Gがオイラーグラフであるためには、Gのすべての頂点の価数が偶数であるこ

とが必要十分である。

注意. Gが頂点ひとつから成り、辺をもたない場合は、空の回路がオイラー回路と考えることにする。

定義 3.7. グラフの各頂点をちょうど一度だけ通る道をハミルトン道という。閉じたハミルトン道をハミルト

ン回路という。ハミルトン回路をもつグラフをハミルトングラフという。

定義 3.8. グラフ図式において、辺を表す弧が、共通の端点である頂点を表す点以外で平面上で互いに交差し

ないときにそのグラフ図式は余分な交点をもたないという。グラフが、余分な交点をもたないグラフ図式をも

つとき、そのグラフは平面グラフである。

定義 3.9. X をコンパクトな曲面、Gをグラフとする。Gの頂点が X 上の点として表され、Gの辺が X 上

の頂点をつなぐ弧として表されているとする。ただし、X 上で辺を表すどの 2本の弧も端点の頂点以外では

交差していないものとする。このとき、Gは X に埋め込まれているという。また、Gがこのように表されて

いるときに、余分な交点をもたないという。

問 3.1. 頂点集合 V , 辺集合 E からなるグラフを G とする。頂点集合 V , {{a, b} : a, b ∈ V, a 6= b, か

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つ {a, b} /∈ E} で定義される辺集合からなるグラフ Gを Gの補グラフという。

(a) Kn グラフの補グラフを求めよ。

(b) Km,n グラフの補グラフを求めよ。

(c) 4個の頂点からなるグラフでその補グラフと同形となる例を求めよ。4個の頂点の代わりに 5個の頂点

でそのような例をみつけることができるか。6個の頂点ではどうか。

解. (a) n = 3, 4, 5 の場合は下図のようになる。

��� ��� ���

��� ��� ���

以上のように、Kn は、n個の頂点と 0本の辺からなるグラフである。

(b) (m, n) = (3, 2)、(3, 4)の場合は下図のようになる。

��� � � ��� � �

��� � � ��� � �

20

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以上のように、Km,n は、Km とKn の和である。

(c) 4個の頂点の例

� �

5個の頂点の例

� �

Gが 6個の頂点をもつ場合は、K6 の辺の本数が 15本で、奇数であるから、G 6= Gである。

問 3.2. 6人が出席するパーティーがあった。このとき、互いに知り合いの3人がいるか、あるいは、まった

く知り合いでない3人がいるかのいずれかであることを証明せよ。(ヒント:6人の出席者をそれぞれ頂点と

し、2人が互いに知り合いのときは対応する頂点を辺で結ぶグラフを考えよ。)

解. 6人の出席者を頂点で表す。互いに知り合いの場合、黒の辺で結び、互いに知り合いでない場合、赤の辺

で結ぶ。1つの頂点 Aに注目すると、その頂点から5本の辺が出ていて、そのうち3本以上が同じ色で塗られ

ている。その色が黒であるとしても一般性を失わない。その3本の辺を AB,AC,ADとする。辺 BC,CD,DB

のいずれか、1本が黒であるならば黒の三角形ができる。辺 BC,CD,DBのどれも黒でないならば赤の三角形

BCDができる。よって互いに知り合いの3人がいる、あるいはまったく知り合いでない3人がいるのいずれ

かである。�

問 3.3. 次の条件をみたす正の整数 nをそれぞれ求めよ。また、そのようになる理由を説明せよ。

21

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(a)完全グラフKn はオイラーグラフである。

(b)完全グラフKn はハミルトングラフである。

解. (a) Kn がオイラーグラフとなるのは、nが奇数のときである。なぜならば Kn の各頂点の価数 n − 1が

偶数である必要があるからである。

(b)n= 3 のとき:頂点を v1, v2, · · · , vn とおく。{v1, v2}, {v2, v3}, · · · , {vn−1, vn}, {vn, v1} には同じ辺が現れないのでこれはハミルトン回路となる。よって、Kn はハミルトングラフといえる。

n=2のとき:{v1, v2}, {v2, v1}は同じ辺を通るので回路でない。よってK2 はハミルトングラフではない。

n=1のとき:このとき、空の回路しか存在しない。これが唯一の頂点を通ると考えるか、通らないと考える

かによって答えが変わってくる。ここではとりあえず通らないと考えると K1 は、ハミルトングラフでないこ

とになる。

以上より、Kn がハミルトングラフとなるのは、n= 3のときである。

問 3.4. 次の条件をみたす正の整数の対mと nをそれぞれ求めよ。また、そのようになる理由も説明せよ。

(a) 完全 2部グラフKm,n はオイラーグラフである。

(b) 完全 2部グラフKm,n はハミルトングラフである。

解. (a) すでに見たように、すべての頂点の価数が偶数であることがオイラーグラフであるための必要十分

条件であった。さて、Km,n の頂点の価数はmまたは nである。従って、mと nがともに偶数である

とき、Km,n はオイラーグラフである。

��� � � ��� � �

(b) まず、Km,n がハミルトングラフであるとする。Km,n の頂点は m個の点の集合 V1、n個の点の集合

22

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V2 にわかれ、Km,n の辺は V1 と V2 の点を結んでいるとする。ハミルトン回路上には V1 の点と V2 の

点が交互にあらわれるのだから、m = nでなければならない。逆に、m = nのとき Km,n はハミルト

ン回路である。なぜならば、下図のようにハミルトングラフ (赤で塗った部分)を作ることができるか

らである。

��� � � ��� � � ��� � �

問 3.5. 図 3.9のグラフ図式は、平面上に余分な交点をもつ 8面体グラフのグラフ図式である。明らかに、こ

のグラフの頂点や辺は球面上のパターンを表すので平面グラフである。平面上に余分な交点をもたない 8面体

グラフの図式を描け。

余分な交点をもつ 8面体グラフのグラフ図式

図 3.9 余分な交点をもつ 8面体グラフのグラフ図式

解. 余分な交点をもたない 8面体グラフの図式を次に示す。

問 3.6. (a)下図のペテルセングラフの部分グラフの中でK3,3 と同相な部分グラフをみつけて、ペテルセング

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ラフが平面グラフでないことを示せ。(ヒント:図において X の印が付いた頂点の集合と O の印の付いた頂

点の集合に注目して考えよ。)

� �

(b)ペテルセングラフの種数に関して予想を立てよ。またその証明を試みよ。

解. (a)下図で赤く塗った部分が K3,3 と同相である。K3,3 は平面グラフではないから、ペテルセングラフも

平面グラフではない。

� �

(b) 下図のようにハンドルを1つ取り付けて、ハンドルの間やハンドルに沿って線を引くことで種数は1で

あることがわかる。

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� �

4 結び目理論

定義 4.1.

(a) 3次元空間内における単位円周と同相な部分集合を結び目という。

(b) 有限個の互いに交わらない結び目の和集合を絡み目という。絡み目を構成する個々の結び目を成分とよ

ぶ。(したがって、結び目とは 1成分からなる絡み目、すなわち連結な絡み目である。)

(c) 2つの絡み目が 3次元空間の中で同位となるとき同値であるという。

定義 4.2.

(a) 単位円周 {(x, y, 0) : x2 + y2 = 1}と同値な結び目を結ばれていない結び目、またはアンノットという。アンノットを表す記号として U を用いる。

(b) {(x, y, i) : x2 + y2 = 1, i = 1, . . . , n}と同値な絡み目を n成分のアンリンクという。n成分のアンリン

クを表す記号として Un を用いる。

定義 4.3. 結び目や絡み目の射影図から同値な結び目や絡み目の別の射影図へ変換することができる。結び

目や絡み目の射影図のこのような変換は、射影図の交点の近くのごく小さい部分における 3つの基本的な移動

と、平面の同位変形とよばれる射影図の交点を変えない平面上の単純な変形を繰り返しおこなうことで得ら

れる。図 4.10 において示された移動がこの 3 つの基本的な移動でライデマイスター移動という。それぞれ、

R1, R2 R3 という記号で表すことにする。

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���

���

���

図 4.10 ライデマイスター移動

定理 4.1. 2つの絡み目の射影図が同値な絡み目を表すための必要十分条件は、一方が他方に有限回のライデ

マイスター移動と平面の同位変形によって変形することができることである。

定義 4.4. 向きの付いた絡み目の射影図の交点を考える。上を通る矢印からみて、下を通る矢印が右から左に

向かっているとき、この交点を右巻きの交点とよぶ。そうでない交点を左巻きの交点とよぶ。

右巻きの交点 左巻きの交点図 4.11 右巻きの交点と左巻きの交点

定義 4.5. 2成分の向きの付いた絡み目の絡み数を、その絡み目の射影図に対して次のように定義する。

(a) 異なる成分が交わる交点において、右巻きの交点には +1を、左巻きの交点には −1をそれぞれ対応さ

せる。

(b) 異なる成分が交わる交点があるときは (a)で与えた +1と −1を足し合わせて 2で割った数を、またそ

のような交点がなければ 0を、向きの付いた絡み目の絡み数と定義する。

定義 4.6. 3色の色を用意する。結び目や絡み目のある射影図の各アークに対して、次の条件をみたすように

色を塗ることができるとき、その結び目または絡み目は 3彩色可能であるという。

(a) 全体で少なくとも 2色が使われている。

(b) 2色以上が現われる交点では、3色がすべて現われる。

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下図左の結び目(三葉結び目)は 3彩色可能である。また、下図右の U2 も 3彩色可能である。

� �

� �

注)右図の射影図は 2色しかないが交点がないので 3番目の色は必要ない。

定義 4.7. 平面上の向きの付いた絡み目 Lの射影図を考えて、適当に選んだ 1つの交点に注目しよう。すると

この交点は右巻きか左巻きである。交点の上下を入れ換えると、交点の型は(そして射影図そのものも)変化

する。いま選んだ交点が右巻きのときは Lを L+、交点の上下を入れ換えて左巻きにしたものを L− とする。

反対に、いま選んだ交点が左巻きのときは L を L−、交点の上下を入れ換えて右巻きにしたものを L+ とす

る。このように L+ と L− を決めると、どちらか一方がもとの Lである。さらに、3番目の絡み目 Ls を、L

(あるいは、L+ または L−)において、いま選んだ交点を“滑らかにして”得られるものとする。すなわち、

交点の近くの 2点で絡み目を切って交点をなくして、さらに、もとの絡み目の向きと合うようにつなぎ直した

ものを Ls とする。図 4.12はこの交点の近くにおける L+、L−、Ls の様子を表している。

��� ��� ���

図 4.12 選んだ交点の近くにおける L+、L−、Ls の様子。

定義 4.8.

(a) アンノット U のコンウェイ多項式を ∇U (z) = 1と定義する。

(b) 上で述べたような関係をもつ絡み目 L+、L−、Ls について、それらのコンウェイ多項式は次の関係を

みたす。∇L+(z) −∇L−(z) = −z∇Ls(z)

例 4.1. 左手系ホップ絡み目のコンウェイ多項式を計算しよう。図 4.13 には、左手系ホップ絡み目は L−

として示されている。(ホップ絡み目のうち、両方の交点が左巻きの場合は、この絡み目を左手系ホップ

絡み目とよぶ。両方の交点が右巻きの場合は、この絡み目を右手系ホップ絡み目とよぶ。) このとき、L+

は 2 成分のアンリンクで、Ls はアンノットである。したがって、∇L+(z) − ∇L−(z) = −z∇Ls(z) より、

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0 −∇L−(z) = −z · 1。よって、∇L−(z) = z を得る。

��� ��� ���

図 4.13 この中で左手系ホップ絡み目は L− として現れている。

定義 4.9. 向きの付いていない絡み目の射影図を考える。交点の近くで少し回転すると、上に通るひもが“南

西”から“北東”に向かうように配置することができる。各交点をこのように配置して、次に交点をなす 2本

のひもをそれぞれ切って、ひもの端点をつないで交点を“平滑化”する方法が 2通りある。一つは“北西”の

端点と“南西”端点をつなぎ、“北東”の端点と“南東”の端点をつなぐ方法である(これを A型の平滑化とい

う)。もう一つは、“北西”の端点と“北東”の端点をつなぎ、“南西”の端点と“南東”と端点をつなぐ方法で

ある(これを B 型の平滑化という)。図 4.14には、このような交点における 2種類の平滑化が示されている。

� ��� � � � � � �

図 4.14 (a)適切に配置した交点、(b)A型の平滑化、(c)B 型の平滑化

定義 4.10. 向きの付いていない絡み目 Lの射影図で、交点を上で述べたように配置したものをDとする。D

の各交点において、A型または B 型の平滑化をおこなって得られた射影図を D のステイトという。

Dの各ステイト S において、< D|S >= ta−b と定義する。ただし、aは A型の平滑化の数、bは B 型の平

滑化の数である。

射影図Dのカウフマンのブラケット < D >を、Dの各ステイト S について < D|S > (−t−2 − t2)|S|−1 と

いう形の項を求め、それらの総和と定義する。ただし、|S|は S における円周の本数とする。以上のことを、

記号的に< D >=

∑S

< D|S > (−t−2 − t2)|S|−1

とかく。

定理 4.2. Lを向きの付いた絡み目とする。Lのどの 2つの射影図からカウフマンのブラケット多項式を求め

てもそれらは等しい。すなわち、Lのカウフマンのブラケット多項式といういい方が許される。この多項式を

FL(t)とかくと、FL(t) = (−t)−3(r−l) < D >

である。ただし、D は Lのかってな射影図、< D >は D のカウフマンのブラケット、r と l はそれぞれ D

の右巻きの交点の個数、左巻きの交点の個数とする。

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また、Lが結び目のときは、FL(t)は Lの向きの選び方によらない。すなわち、FL(t)は向きの付いていな

い結び目の不変量である。

問 4.1. 交点がちょうど 2個の射影図をもつ結び目はどのような結び目か。

解. そのような結び目は必ずアンノットである。

これを示すために交点のちょうど 1個の射影図をもつ結び目はアンノットであることを示す。下図のように

1個の交点を先において、線分の端点同士を互いに交わらない弧で結ぶことを考える。隣同士の辺をつなげる

場合は、必ず R1 によって交点をなくすことができるのでアンノットである。一方、隣同士の辺をつなぐので

はなく一つの辺をとばしその隣の辺とつないでしまうと、行き場のない辺ができてしまい射影図はできなく

なってしまう。以上より、交点数 1の射影図をもてばアンノットである。

さて、2個の交点をもつ射影図を考えよう。2個の交点を先に取って、線分の端点同士を互いに交わらない

弧で結ぶことを考える。隣同士の辺をつなげる場合は R1 で交点をへらすことができるので上の結果よりアン

ノットになる。したがって以降、隣り合う端点同士は結ばない場合のみを考える。すると、右の十字の端点を

右の十字の端点に結ぶとすると可能なのは、同じ線分の反対側しかない。しかし、これはありえない。従っ

て、右の十字の端点は左の十字の端点に結ばなければならない。

次に、下図を見てみる。まず、pを aにつなげると行き場のない辺ができるためありえない。bにつなげる

と絡み目になってしまう。cにつなげると行き場のない辺ができるためありえない。つまり、下図の場合はあ

りえない。

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また下図を見てみると、先ほどのように行き場のない辺ができるか、絡み目ができてしまうのでこの場合も

ありえない。

従って、交点数 2をもつ結び目はアンノットである。

問 4.2. 射影図をたどっていくと、交点において上、下を交互に通るとき、その射影図を交代射影図という。

また、交代射影図をもつような結び目を交代結び目という。例えば、三葉結び目は交代結び目である。

(a) ちょうど交点を 4個もつアンノットの交代射影図を描け。

(b) 交点数がちょうど 3の射影図をもつ結び目と同値であるが、交点数 2以下の射影図をもつ結び目とは同

値ではない、交点数がちょうど 4の結び目の交代射影図を描け。

(c) 交点数が 3 以下の射影図をもつ結び目と同値でない、交点数がちょうど 4 の結び目の交代射影図を

描け。

解. 図は左から順に (a)(b)(c)の交代射影図である。

(a) 交点が 4個のアンノットの射影図である。交点を見てみると交互に通っているので、交代射影図になっ

ている。

(b) 三葉結び目は交点数が 3の射影図をもち、交点数 2以下の射影図をもつ結び目 (アンノット)とは同値

ではない。また、交点数 3の射影図において、辺を一つだけ捻り新しい交点をつくると、交点数がちょ

うど 4の交代射影図をつくることができる。このとき、交点が交互になるように注意し捻ると交代射影

図にすることができる。

(c) 8の字結び目は交点数が 3以下の射影図をもつ結び目 (アンノットと三葉結び目)と同値でないし、交点

数がちょうど 4の射影図をもつ。また、交点を見てみると、交互に通っているので交代射影図である。

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問 4.3. 図 4.15のような射影図をもつ結び目はアンノットである。ライデマイスター移動を用いてアンノッ

トの単純な円周の射影図に変形せよ。

図 4.15 アンノットの射影図

解. 図 4.15を下の図のようなライデマイスター移動によって単純な円周の射影図に変型させることができる。

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問 4.4. 下図の射影図をもつ 2成分の向きの付いた絡み目を Lとする。

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(a) Lの絡み数を求めよ。

(b) Lの向きを無視して考える。Lは 3彩色可能か。もし 3彩色可能ならば射影図のアークを 3色で塗り、

3彩色可能でないならばその理由を説明せよ。

解. (a)

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上図より Lの絡み数は次のようになる:

1 + 1 + 1 + 1 + 1 + 12

= 3 .

(b)

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上図より、3色全部を使って 3彩色されているので 3彩色可能である。

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問 4.5. 向きの付いたホワイトヘッド絡み目のコンウェイ多項式を 4.16の射影図から求めよ。

図 4.16 向きの付いたホワイトヘッド絡み目の射影図

解. 5つある交点から、下図のように左上の交点を選ぶ。この交点は右巻きであるので、この絡み目 L+ とす

る。次にこの交点の上下を入れ換えて新しい絡み目 L− を作る。さらにもとの絡み目の向きと合うようにつな

ぎを直していくと、以下の右図のような左手系三葉結び目 Ls が出来上がる。

定義より∇L+(z) −∇L−(z) = −z∇Ls(z)

つまり∇L+(z) − z = −z(z2 + 1)

となる。この時の注意として、選んだ交点の上下を入れ換えると交点の型は変化し左巻きになるので

∇L−(z) = z と表され、また最後につなぎ直してできた左手系三葉結び目のコンウェイ多項式は、∇L+(z) =

z2 + 1になることを押さえておく。さらに計算すると、

∇L+(z) − z = −z3 − z

∇L+(z) = −z3

となる。この向きの付いたホワイトヘッド絡み目のコンウェイ多項式は、−z3 となる。

問 4.6. 図 4.17の 8の字結び目のコンウェイ多項式を求めよ。

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図 4.17 8の字結び目

解. 図の 4.18では L+ が 8の字結び目として示されている。このとき、L− はアンノットで、Ls は左手系ホッ

プ絡み目である。

∇L+(z) −∇L−(z) = −z∇Ls(z)

∇L+(z) − 1 = −z · z∇L+(z) = −z2 + 1

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図 4.18 この中で L+ が 8の字結び目である。

問 4.7. 図 4.19の交点を 3個もつアンノットの射影図から求めたカウフマンのブラケット多項式が 1になる

ことを示せ。

図 4.19 アンノットの射影図

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解. 上の S1 から S8 までの図はアンノットの射影図のステイトを表している。この 8個のステイトよりアン

ノットの射影図のカウフマンのブラケットを計算するために必要な情報を表にまとめると、次のようになる:

a b |S| < D|S >= ta−b < D|S > (−t−2 − t2)|S|−1

S1 3 0 2 t3 −t − t5

S2 2 1 3 t t−3 + 2t + t5

S3 2 1 1 t t

S4 2 1 1 t t

S5 1 2 2 t−1 −t−3 − t

S5 1 2 2 t−1 −t−3 − t

S5 1 2 2 t−1 −t−3 − t

S6 0 3 1 t−3 t−3

この表より

< D >= −t − t5 + t−3 + 2t + t5 + 2t + 3(−t−3 − t) + t−3

= −t − t5 + t−3 + 2t + t5 + 2t − 3t−3 − 3t + t−3

= 2t−3 − 3t−3

= −t−3

3交点での向きは r = 1, l = 2となる。したがって Dのカウフマンのブラケット多項式は

FD(t) = (−t)−3(r−l) < D >

= (−t)−3(1−2)(−t−3)

= −t3(−t−3)

= t0

= 1 .

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参考文献

[1] S.C.カールソン『曲面・結び目・多様体のトポロジー』金信泰造 訳 培風館

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