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高次脳機能障がいの
理解と対応の基礎
いわてリハビリテーションセンター
総合相談科長 上田大介
はじめに
高次脳機能障がいは、適切な支援を行うことで障害の影響を軽減することが可能です。しかし、当事者や周りの人が障がいに気づきにくいという特徴があるため、支援につながりにくく専門職の気づきが必要になることが少なくありません。
高次脳機能障がいについて振り返り、初期対応時にどのような所に気をつければいいか理解を深めていきましょう。
高次脳機能障がいとは? けがや病気で脳に傷がついた時に、現れる注意、記憶、言語、思考、判断、情緒などの認知機能の低下
・記憶障害
・注意障害
・遂行機能障害
・半側空間無視
・社会的行動障害
(感情・欲求のコントロール、固執、退行など)
※広義の意味では失語、失行、失認も含まれる
代表的な症状
具体的な症状は? ・新しいことを覚えることができない
・同じことを何回も聞く
・長時間集中できない
・探し物が苦手になった
・複数のことを同時に進めることができない
・こだわりが強くなった
・言われないと行動できない
・予定通りいかないと混乱してしまう
・欲しいものがあると後先考えずに買ってしまう
・ちょっとしたことでイライラして一瞬でキレてしまう
・左側のものにぶつかる
・症状があるのにないと言う
など様々だが、現れる症状は一人ひとり症状は違う。
高次脳機能障がいの症状があると、今までできていたことが思うようにできなくなる
同じ高次脳機能障がい者でも、症状、回復の速さや予後、障害の理解度、効果的な対応方法などが異なる
環境の影響を受けやすく、特定の場面でのみ能力を発揮できなくなることがある
一人ひとり違うので オーダーメイドの支援が必要
本人は高次脳機能障がいに気づきにくい
適切な支援や工夫があると、高次脳機能障がいが残っていても、困ることが少なくなる。
しかし、当事者は症状の存在や周りの困り度に気づきにくく、問題だと思っていないことも多い。
周りが必要だと感じても、本人が「いらない」と感じている場合、一方的な支援になるので関係が悪くなる。良い支援方法も効果的ではなくなる。
まずは本人の意思を尊重することが大切になることも。
高次脳機能障がいは周りの理解を得られにくい
見た目は変わらないのに!
さっきまではできてたのに!
同じことを何回も言ってるのに!
何でやらないの! 怠けてるんじゃないの!? 頑張ればできるでしょ!?
周りの評価
本人は怠けているつもりはなく 精一杯、頑張っている! でも、なぜか思うようにできない・・・
障害のせいでできないのに、理解してもらえない。
高次脳機能障がいの対応 ○本人の対応 本人の努力や心がけ、障害への気づき ・ 努力や心掛けだけでは限界がある ・ できないことを認めたり気づくことは辛い体験 ・ やったことがないことは馴染みにくい
○周囲の対応 ・ 本人や家族を支える、見守る。 ・ 苦手なことでもできるように支援する ・ できるところにも目を向ける
○環境調整 ・ 生活しやすいように環境を整える ・ 一人で抱え込まずに他機関に依頼や相談をしたり、 制度を活用する
本人の状態に合わせて、様々な支援を組み合わせることで、効果的な支援に繋がる
初期相談時にお願いしたいこと
1.高次脳機能障がい者や家族が困っていること
や、辛いことなど話せるような地域の窓口に
なってほしい
2.高次脳機能障がいに気づいて、適切な支援機
関に繋げてほしい
でも、高次脳機能障がいにどう
やったら気づくことができるのか・・・
まずはじっくり話を聞いてください
支援機関に繋がっていない当事者や家族の中にはじっくり話を聞いてもらう経験をしていない方も多い。
最初は、指示的にならずに訴えや想いを聞いてください。
必要な情報を集めていきましょう
情報が不足していると、判断を誤りやすくなるが、相談の時間は限られているし、確認したいことは山ほどある。人によっては何回も相談に来れない場合もあるので、狙いをしぼっていくことも必要
高次脳機能障がいかどうか当たりをつけるためにどのような情報があるといいか、診断基準に沿って考えてみましょう。
高次脳機能障害の診断基準 Ⅰ.主要症状等 1.脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。 2.現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。
Ⅱ.検査所見 MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。
Ⅲ.除外項目 1. 脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する。 2.診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。 3.先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。
Ⅳ.診断 1.Ⅰ〜Ⅲをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。 2.高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。 3.神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。
高次脳機能障がいは必ず脳に損傷を与えるけがや病気がある。
・脳卒中
・低酸素脳症(心臓疾患や自殺企図による)
・交通事故
・転倒、転落 など
いつから困るようになったのか?
病気になったり事故に遭ったことはないかを確認
原因となるエピソードがあったか、
確認する
相談内容や困っていることの主たる原因
が高次脳機能障がいの症状である
・ 高次脳機能障がいの症状があるか意識しながら本人、家族の両方から話を聞く。
○当事者と家族で困っていることや 問題意識が解離していることがある。 ○本人が「大丈夫です」と話していても、実際には周りがとても困っていることがある。当事者の前だと家族も本音では話せないこともあるので、慎重に
当事者と家族の困り度が解離していること が多い。本人だけではなく家族の話も聞く
チェックリストを使って認識のズレを確認することも一つの 方法。しかし、結果がどうであれ責めないよう気を付ける。
病気や事故の既往だけでは高次脳機能障がいとは判断できない。
○CT、MRIなどの画像診断を受けていない場合は、検査が可能な病院につなぐ。 病識がない場合、症状があっても「仕事が忙しいから」などと断る人もいる。無理強いしすぎると、そこで支援が途切れる可能性もあるので、受け入れが悪い時は繋がりを 残しつつ一旦引くことも大切。
症状だけではなく、CTやMRIなどの検査を受 けているかどうか確認する。
除外項目について確認をする
以下の場合に除外される ①元々の性格や発症前からの症状 ②身体障害はあるが高次脳機能障害の主要 症状が確認できない ③先天性疾患や発達障害、進行性の疾患に よって生じている症状 ⇒ 生活歴や既往歴を確認 判断が難しい場合が多いので、無理せ ず医療機関に相談
生活歴や既往歴の聞き取りだけで判断が難し い場合、医療機関に相談する。
高次脳機能障がいかな?と思ったら
当事者や家族のニーズを確認し、状況に合わせて、適切な支援が提供できる機関に繋ぐ
※高次脳機能障がいかどうか判断に迷った時は、
最寄りの診断可能な医療機関または、いわて
リハビリテーションセンターまでご相談ください。
どこに繋いだり相談したらいいか?
最寄りの支援機関(支援マップで確認してください)
通院している場合は、通院先の病院の主治医に相談
近くに支援可能な機関がなかったり、どこに繋ぐか
迷った時は、いわてリハビリテーションセンターに
連絡ください。 ※支援マップは岩手県高次脳機能障害支援普及事業のホームページにも
あります。http://www.irc.or.jp/koujinoukinoushougai/index.html
他機関に繋ぐ時の情報提供について
情報はできるだけたくさん欲しい。
○基本情報
○医学情報(受傷時の様子~経過)
○サービス利用状況
○検査結果
○本人・家族からの聞き取り など
※センターでは「障がいの確認と情報提供の
ための初期相談時簡易チェック表」(配布
資料)」に沿って確認しています。
まとめ 同じ高次脳機能障がいでも症状、困り度、障がいの重症度や理解度などが異なる
特定の場面でのみ症状が現れることがあるため、誤解されやすい
時には、当事者や家族の理解度に合わせてゆっくり進めることも大切
当事者に合わせたオーダーメイドの支援が必要
まとめ
当事者が必要性を感じていない場合、一方的な支援となりやすく、無理強いすることで関係が悪化することもある。
周囲の理解が不足していると、「やれるのにやらない」などと誤解されやすい
当事者の障がいに対する理解度に合わせて徐々に関わることも大切
「できない事」ではなく「できること」に目を向ける。
まとめ 高次脳機能障がいへの対応は ①本人の対応 ②周囲の対応 ③環境調整 の3つをうまく組み合わせながら対応を行うと効果的
まとめ 初期相談でお願いしたい役割 ①高次脳機能障がい者及び家族の話 を聞く、相談窓口になってほしい ②高次脳機能障がいに気づいて、適 切な機関に繋いでほしい
まとめ 高次脳機能障がいに気づくポイント
①病気やけがなど、原因となりそうなエピソードがあるか?
②当事者の困り度が、家族や周囲と比べて低くないか?
③CTやMRIで脳の損傷は確認されてい るか?高次脳機能障がいの診断はつ いているか? ④除外項目に該当していないか?
まとめ ○じっくり話を聞いてもらうだけで救 われる場合もあります。まずは当事 者や家族の思いを聞いてください ○高次脳機能障がいかな?と思ったら 支援機関に繋いでください。判断に 迷ったら、地域の支援機関やリハセ ンターに相談してください。 ○他機関につなぐ時は、情報をできる だけたくさん伝えてください