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重要課題解決型研究 中間評価 「新興・再興感染症制圧のための 共同戦略」 研究代表者名:山本 雅 研究期間:平成16年 月~平成21年3月

重要課題解決型研究 中間評価 - JST...新興・再興感染症制圧のための共同戦略 研究の概要 1. 研究計画の概要 プログラム名 重要課題解決型研究

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重要課題解決型研究 中間評価

「新興・再興感染症制圧のための

共同戦略」

研究代表者名:山本 雅

研究期間:平成16年7月~平成21年3月

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究の概要 p.1

研究の詳細と参考資料

1. 研究全体の総括 p.22

2. SARS 制圧に向けた国際研究

2.1. SARS 重症化の分子機構の解明

2.1.1. SARS 発症・重症化関連遺伝子の同定 p.26

2.1.2. SARS 病態形成機序の解明 p.33

2.2. SARS 感染症診断法の確立 p.40

2.3. SARS ワクチンの開発

2.3.1. ワクチニアウイルスを用いた SARS ワクチンの開発 p.44

2.3.2. 粘膜免疫応答の基礎研究 p.49

2.4. SARS 治療法の開発

2.4.1. T 細胞応答を誘導する SARS ウイルス抗原の解析 p.53

2.4.2. 中和ヒト抗体の開発 p.60

3. SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究開発

3.1. エボラウイルス感染症の制圧に向けての応用研究 p.67

3.2. パンデミックインフルエンザワクチンの準備

3.2.1. インフルエンザウイルス遺伝子ライブラリーの構築 p.72

3.2.2. 人工ワクチンの合成 p.81

3.3. プラス鎖 RNA ウイルス増殖過程に関する基礎研究 p.87

3.4. ダニ媒介性脳炎の診断法、疫学および予防に関する基礎的な研究 p.92

3.5. アルボウイルスの流行予測と防疫システムの構築

3.5.1. アルボウイルスの遺伝学的同定と診断法の開発 p.97

3.5.2. 媒介昆虫の生態の解明 p.103

3.5.3. 媒介昆虫の低環境負荷防除法の開発 p.113

3.6. HIV 薬剤耐性とウイルス特異的細胞性免疫に関する研究 p.122

3.7. NK 細胞 receptor における感染細胞認識機構に関する基礎研究 p.127

4. 細菌性新興・再興感染症に関する研究開発

4.1. 粘膜病原細菌による感染症に関する研究 p.132

4.2. 結核菌体成分による免疫アジュバントと抗結核ワクチン開発への応用研究 p.140

4.3. Toll-like receptor による病原認識機構の解明とその制御方法の開発 p.145

5. プリオン病制圧のための基礎ならびに応用研究

5.1. プリオン病の発病機構の解明 p.150

5.2. プリオン株簡易識別法の開発 p.158

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

6. 感染症シミュレーションとリスクアセスメント

6.1. 感染症シミュレーション条件設定および効果評価とまとめ p.164

6.2. 感染症流行モデルの研究

6.2.1. 病院内感染モデリング p.174

6.2.2. 数理モデル p.177

6.3. 感染症リスクアセスメントの研究

6.3.1. 感染症リスクの研究 p.182

6.3.2. リスクアセスメントの研究 p.185

6.4. 感染症シュミレーションシステムの研究 p.189

6.5. 感染症シュミレーションシステムの開発 p.192

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究の概要

1. 研究計画の概要

■ プログラム名

重要課題解決型研究 (中間評価)

■ 研究課題名

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

■ 責任機関名

国立大学法人 東京大学

■ 研究代表者名(所属研究機関名・役職)

山本 雅(東京大学医科学研究所・所長)

■ 研究期間及び研究総経費 (金額単位:百万円)

研究期間:5年, 研究総経費:1208 百万円(3年分)(間接経費含む)

■ 研究規模

サブテーマ数:6, 個別課題数:31, 延べ研究機関:31, 延べ研究者数:27

■ 研究の趣旨

2003 年に SARS が流行した際、患者発生諸国では、医療機関の負担が増大しただけでなく、膨大な社会的・経済的打

撃を被った。SARS 流行のために、米国大手航空会社が倒産寸前にまで追い込まれたのは記憶に新しい。幸い、国内での

日本人 SARS 患者は確認されなかったが、SARS 非流行国である日本でさえ、航空・旅行業界などは間接的に多大な経済

的打撃を受けた。経済的打撃のみならず国民の間に社会的不安を増大させたことも忘れるべきでない。すなわち、新規感

染症が流行すると、いかに人類の脅威となるか、そして我々人類はこれら新規感染症に対し、いかに無防備であるかを

SARS の流行から学んだ。一方、エイズ、BSE、粘膜病原細菌(ピロリ菌や赤痢菌)、インフルエンザ、結核など、既存の新

興・再興感染症に対し、未だにその対策が十分でないことは、これらの感染症が社会的問題となり、膨大な社会的・経済的

損出を引き起こしていることから明白である。また、現在、世界各地で流行している鳥インフルエンザも、ヒトに伝播したこと

からパンデミックを引き起こす危険性をはらんでいる。この必ずしも万全ではない新興・再興感染症対策の現状を打破する

ためには、これら感染症の制圧に向けて、基礎研究(原因病原体の性状解析など)そして応用研究(診断法、ワクチンと治

療・予防薬の開発)はもちろんのこと、新規感染症が今後現れたときに、迅速に対応できるためのシステム構築が火急の課

題である。すなわち国家のリスクマネージメントの視点から重要な研究課題である。

新興・再興感染症の対策には、個々の感染症に特異的な対応が必要であるのはいうまでもないが、新興・再興感染症全

般に共通の対応策も重要である。そこで、本研究は、新興・再興感染症として重要な疾患のいくつかに焦点を絞り、それら

に特異的な対応策を確立することと、そこから得られた理論・技術を未知の微生物による新興・再興感染症対策のモデルと

することを目的とする。

■ 研究の概要

1. 研究全体の統括

新興・再興感染症の多くは、微生物が生物種を超えて伝播することにより発生する。従って、その制圧には、すでに

我々が経験した既存の新興・再興感染症だけでなく、自然界に存在する未知のポテンシャルを持つ微生物による感

染症の対応策についても考慮する必要がある。本研究は、個々の感染症に特異的な対応策を確立すると共に、新

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新興・再興感染症制圧のための共同戦略

興・再興感染症全般に共通の対応策についても確立することを目的とする。

また、当該課題における責任を有する機関として研究を統括し、各参画機関と連携して研究を推進すると共に、国内

外の研究協力機関との協力体制を整備し、効果的・効率的な研究運営を行う。

2. SARS 制圧に向けた国際研究

(1) SARS 重症化の分子機構の解明

① SARS 重症化の分子機構の解明-1 (SARS 発症。重症化関連遺伝子の同定)

SARS 発生時に SARS 感染者に接触した医療従事者の中には、様々な SARS の症状を示したものがある。これらの医

療従事者を発症群と未発症群、さらに発症者を軽症者群と重症者群に分け、それぞれの群の血中の SARS 抗体の量、

免疫誘導に大きな役割をする HLA 遺伝子などの免疫応答関連遺伝子の型を測定比較する。これらのマーカー値と

SARS 症状の相関から、感染の成立、発症及び重症化に関与する遺伝子を明らかにする。

② SARS 重症化の分子機構の解明-2 (SARS 病態形成機序の解明)

SARS コロナウイルス感染症の重症化の本質は、ウイルスの直接的な病原性ではなく続発する過剰な全身性炎症反

応である。本研究では、SARS コロナウイルスの炎症誘発機序の解明を目的とする。

(2) SARS 感染診断法の確立

臨床的に重症急性呼吸器症候群 SARS (Severe Acute Respiratory Syndrome) に酷似した呼吸器感染症は数多く、

病原体の鑑別診断は極めて重要である。病原体検査では、ウイルスや細胞内寄生菌、特殊な培養を要するマイコプ

ラスマ等は、通常の喀痰検査で診断できない。また、インフルエンザウイルスについては、咽頭ぬぐい液の抗原検査、

肺炎球菌やレジオネラ症では尿中抗原検査などが実用化されているが、検査材料、方法など全く異なっている。医療

現場においては、同じ検体を用いて、同じ方法(手技)で多数の異なった病原体が同定できれば極めて有用であると

考えられる。SARS-CoV (SARS coronavirus)に関しては、喀痰を用いた簡便かつ鋭敏な核酸検出法である LAMP 法

(Loop-mediated Isothermal Amplification) が実用化された。LAMP 法は、定常温度で核酸増幅が可能なため、簡単

な装置で行うことができる。本研究は、SARS と鑑別を必要とする呼吸器感染症の起炎病原体を中心に、LAMP 法その

他の核酸検出法による病原体診断を開発し、同一手技により、多数の重要な病原体の鑑別を可能とすることを目標と

する。

(3) SARS ワクチンの開発

① SARS ワクチンの開発-1 (ワクシニアウイルスを用いた SARS ワクチンの開発)

天然痘ワクチンをモデルにした SARS ワクチンの作製を目的とする。実際に予防ワクチンとしての投与実績があり、安

全性および有効性が確認されており、かつ現在製造されている唯一のワクチン株として LC16m8 株を用いる。また、国

立感染症研究所で樹立された、より遺伝的に安定な LC16m8 株関連分離株を用いる。天然痘ワクチンの母体である

ワクシニアウイルスに、抗原と活性のあるSARSウイルス外殻蛋白質領域の遺伝子を入れたワクチン候補を作る。また、

SARS 構造蛋白遺伝子(N,E,M,S 蛋白質)全体をワクシニアウイルスに組み込み、人工的なウイルス粒子を作製する。

これらのSARSワクチン候補株をウサギに接種して、抗 SARS抗体産生および細胞性免疫誘導能などの免疫誘導活性

を比較して、SARS ワクチン候補株を選択する。このワクチン候補株をマウスに接種し、感染防御活性を測定し、ワクチ

ン効果の強い候補株の絞り込みを行う。樹立した SARS ワクチンに関しては、実際にサルを用いた感染防御試験を試

みる。日本国内では試験を行うことができないので、SARS ウイルスを用いた研究が可能な中国などと協力し研究を行

う。抗体の産生効率、細胞性免疫の獲得率、感染防御能について解析し、ワクチンの安全性と性能を評価する。この

段階では、ワクチン製造機関、厚生行政機関などとの共同研究体制の構築も視野に入れて行ってゆく。

② SARS ワクチンの開発-2 (粘膜免疫応答の基礎研究)

1)SARS をはじめとしたウイルス感染に対する粘膜免疫機構の役割についての基礎研究

呼吸器・消化器粘膜免疫機構における抗原取り込みとそれに関連する粘膜関連リンパ組織の発達と関与について基

礎的解明を進め、SARS の侵入とそれに対する粘膜免疫応答についての基礎的情報を提供する。

2)SARS 粘膜ワクチン開発へ向けての基礎研究

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新興・再興感染症制圧のための共同戦略

SARS 粘膜ワクチン(例、経鼻ワクチン)の実現化に向けて、その効果・効率を高める為に必要な粘膜アジュバント・粘

膜免疫節因子の開発を進める。特に、安全性を考えた時、生ワクチンではなくリコンビナント精製タンパク(例、S

(Spike)蛋白)を使用できることが期待される。そこで、粘膜関連微生物由来免疫誘導調節分子・物質や粘膜系サイ

トカインなどに的を絞り、その探索・開発を進める。

SARS ウイルスやインフルエンザウイルスなど呼吸器感染に対する粘膜ワクチン開発に向けてその簡便性、利便性、

容易性などの観点から経口ワクチンの開発も考慮していかなければならない。HA(Hemagglutinin)抗原、S 抗原の効

果的経口ワクチンデリバリー法の開発に向けた基礎研究を進める。

(4) SARS 治療法の開発

① SARS 治療法の開発-1 (T細胞応答を誘導する SARS ウイルス抗原の解析)

キラーT 細胞が認識可能な、HLAクラスI 分子に結合性を示すSARS コロナウイルス(SARS-CoV)蛋白質抗原由

来のペプチドを、迅速に同定するシステムを構築する。さらに、我々が開発した特定の抗原をコードする遺伝子を強

制発現させたマウスおよびサルの ES 細胞から、T 細胞に当該抗原を提示して活性化する能力が高い樹状細胞を

試験管内で分化誘導する方法について、さらに改良してより有効性の高い抗原特異的細胞ワクチンの開発をめざす。

このようなシステムを駆使して、SARS-CoV 感染既往者が存在する中華人民共和国の研究協力者らとともに、

SARS-CoV 抗原に対する T 細胞応答の感染防御機構における意義を解明し、さらにキラーT 細胞を活性化する

ワクチンの開発等の、SARS の予防法および治療法の開発に資する情報を提供する。

② SARS 治療法の開発-2 (中和ヒト抗体作製)

マウスに産生させた人型の抗 SARS ウイルス抗体の中和活性を測定する。この人型中和抗体をサルに投与し、実際

にウイルスの増殖、毒性を抑えるかを検定する。この結果をキリンビールが開発中のヒト型抗体を産生するウシに適応

し、中和抗体産生を量産システムを確立する。

このようにして得られた抗体は、抗ウイルス活性を、サルを用いて再度解析するとともに、それを医薬品申請に向け

た臨床第一相試験に供すための準備を開始する。

3. SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究開発

(1) エボラウイルス感染症の制圧に向けての応用研究

エボラウイルスは 1976 年にヒトへの感染が確認された代表的な新興感染症病原体である。ヒトにおける本ウイルス感

染症の致死率は、90%にも達する。幸い、エボラウイルスが先進諸国で大流行を起こしたことはないが、アフリカある

いはアジアからのサルの輸出に伴い、ドイツならびにアメリカでエボラウイルスが小規模ながら流行した。また、最近は、

その強い病原性のため生物兵器として使用される可能性が危惧されている。しかし、本ウイルス感染症のワクチンそし

て治療薬はいまだ開発されていない。従って、本研究計画は、エボラウイルス感染症の制圧を目的とし、そのために、

半生エボラ・ワクチンの開発と抗エボラウイルス薬スクリーニング系の確立を目標とする。

(2) パンデミックインフルエンザワクチンの準備

① インフルエンザウイルス遺伝子ライブラリーの構築

インフルエンザ A ウイルスの HA と NA 亜型(それぞれ H1~H15 と N1~N9)の組合せには理論的に 135 通りがある。

自然界から得られるウイルス株および実験室内で作出する遺伝子再集合ウイルスをもってすべての亜型のウイルス株

および遺伝子をライブラリー化して、ヒトと動物のインフルエンザの予防、診断と治療に役立てる。

② 人工ワクチンの合成

パンデミックを起こすのはA型インフルエンザウイルスである。インフルエンザは世界各地で家禽、ブタ、ウマやミンク

に流行して、甚大な被害を与えている。インフルエンザはまた、有史以来人類を苦しめてきた。ひとたび新型インフル

エンザウイルスが出現してヒトの間で伝播する性質を獲得すれば、たちまち世界に拡がって社会を翻弄する。すなわ

ち、インフルエンザは地球上に最も広く分布する人獣共通感染症であり、効果的な予防、制圧法が確立されていない

疫病である。そこで、本研究計画では、新型ウイルスの出現に際して迅速に対応し、インフルエンザの大流行を未然

に防止することを目的とし、そのために、135 通り全ての HA と NA の組み合わせのワクチン候補株および診断用抗原

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新興・再興感染症制圧のための共同戦略

を保存、供給する体制を整備することを目標とする。

(3) プラス鎖 RNA ウイルス増殖過程に関する基礎研究

ポリオウイルス感染神経細胞の中に誘導される、ウイルスの翻訳を阻害する物質を、in vitro タンパク合成系とプロテ

オミクスにより同定し、これを踏まえて、新たなポリオウイルス阻害剤の開発を行う。

C 型肝炎ウイルスに関しては、RNA 複製に必要なウイルス側遺伝子を同定する。

(4) ダニ媒介性脳炎の診断法、疫学および予防に関する基礎研究

ダニ媒介性脳炎の新規診断法の開発とダニ媒介性脳炎ウイルスの詳細な増殖機構を解明するとともに、本ウイルス

のワクチン開発の基盤となる技術体系を確立する。

(5) アルボウイルスの流行予測と疫病システムの構築

① アルボウイルスの流行予測と疫病システムの構築-1 (アルボウイルスの遺伝学的同定と診断法の開発)

アルボウイルスの流行予測と防疫システムの構築に向けて、病原体の性状と伝播様式の解明、早期診断法の開発、

媒介昆虫の生態と媒介能の解明、およびウイルスの国際間伝播経路の解明を行うことにより、牛に感染するアルボウ

イルス病の予防法を確立し、アルボウイルス病の流行予測と防除法を確立する。

② アルボウイルスの流行予測と疫病システムの構築-2 (媒介昆虫の生態の解明)

ヌカカによって媒介されるアルボウイルスは、ウシなどの家畜に疾病を引き起こすが、ヌカカの種類やウイルス媒介に

ついては不明な点が多い。本研究では、ヌカカの種類と分布・発生消長を明らかにし、遺伝子塩基配列などからヌカ

カの識別を可能にする。そのために、日本各地のヌカカを採集し、ヌカカの持つウイルスや細菌などの微生物相を明

らかにし、ヌカカの季節変動を調査する。そしてヌカカのリボソーム RNA 遺伝子やミトコンドリア遺伝子の配列からヌカ

カの種や系統を識別できるようにする。それらの結果に基づき、ヌカカの移動経路やアルボウイルスの伝播を推定し、

ウイルス病対策に資する。

③ アルボウイルスの流行予測と疫病システムの構築-3 (媒介昆虫の低環境負荷防除法の開発)

アルボウイルスを媒介するヌカカや蚊などの節足動物に対し選択的な作用を示す毒素を用いて、効果的な防除を

行う境配慮型防除法の開発を目指す。アルボウイルスを媒介する媒介節足動物に強い毒生を持つ B. thuringiensis を

媒介節足動物の生育環境などから単離し、その毒素のタンパク質、および遺伝子の構造を解明する。これを用いて、

媒介節足動物を生活環境内で選択的に駆除する方法を確立し、アルボウイルスの防疫を目指す。

(6) HIV 薬剤耐性とウイルス特異的細胞性免疫に関する研究

世界保健機関(WHO)が、数千年の間人類を苦しめた天然痘に対する撲滅宣言を行ったのは 1980 年のことである。

その翌年に登場した AIDS (後天性免疫不全症候群 Acquired Immune Deficiency Syndrome)は、人類史においても

象徴的な感染症だと考える。抗 HIV (Human Immunodeficiency Virus)薬が進歩し,その併用療法によって HIV 感染者

の予後は著明に改善したが,薬剤耐性ウイルスの出現,薬剤の長期毒性,国内新規感染者の右上がりの増加,今後

爆発的に増加すると懸念されている中国やインドなど近隣諸国での現実と将来、抗 HIV 薬が高価なために今なお恩

恵にあずかれない多数の途上国の存在など、HIV感染症を取り巻く現状は極めて深刻である。本研究では、未だにワ

クチンの開発されていない HIV に関して、その基盤となるべきウイルス特異的免疫について基礎的臨床的研究を行う。

また、わが国においても薬剤耐性ウイルスが次第に問題となっているが、全く新たな視点から抗 HIV 薬耐性検出法の

開発研究を行う。

(7) NK 細胞 receptor における感染細胞認識機構に関する基礎研究

SARS や鳥インフルエンザをはじめとするウイルス性疾患におかる生体防御では、特に抗原により引起こされる免疫

とは別の自然免疫系が重要であることが知られている。この自然免疫系で中心的役割を果たす NK(Natural Killer )

細胞は、ウイルスに感染した細胞を認識し早期に排除することから、NK 細胞の表面にはウイルス感染細胞を認識す

る分子があることが考えられている。

近年、NK 細胞表面にあってその細胞活性を制御する受容体分子の遺伝子が単離されて、NK 細胞での機能と役割

が次第に明らかになってきているが、ウイルス感染細胞の認識に関わる受容体分子は明らかになっていない。本研究

は、NK 細胞の標的細胞認識に関わる受容体分子、またそれにより認識される分子の遺伝子を単離することを目指す。

4

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

また、NK 細胞の活性がその認識によりどのように制御されるかを解明する。これらを通じて、NK 細胞のウイルス性疾

患における役割を明らかにし、臨床につながる基礎研究を行う。

(8) インフルエンザウイルス感染細胞における宿主タンパク質の機能・動態解析

本研究項目ではウイルス感染による重篤化を探る観点から、特にインフルエンザウイルス感染細胞における宿主タ

ンパク質の機能、動態解析をめざす。具体的には感染によって発現が変化する遺伝子について、細胞レベルにおけ

るその遺伝子の機能を解明する。その遺伝子の発現変化等により、リン酸化を主体とする細胞内シグナル伝達系に

変化があるか検討する。またウイルス RNA ポリメラーゼにも注目して解析を行う。

4. 細菌性新興・再興感染症に関する研究開発

(1) 粘膜病原細菌による感染症に関する研究

赤痢菌の病原性を解明するとともに感染に関わる機能性分泌蛋白質(エフェクター)の役割を明らかにし、これを基

盤に細菌性赤痢を予防するための新規ワクチン開発を目指す。またヘリコバクターピロリによる胃粘膜性疾患および

胃ガン発生において重要な、菌から分泌される CagA 蛋白質の胃上皮細胞内機能を解明し、さらにヘリコバクターピロ

リの粘膜感染動態および宿主免疫応答の病態形成への影響を研究する。

(2) 結核菌体成分による免疫アジュバントと抗結核ワクチン開発への応用研究

BCG 接種により国民の約 70%に結核感染に対する抵抗性を賦与できると考えられているが、近年老年層における結

核症の増加や若年層における結核症の集団感染などが国内外で報告され、国民の多くが結核症などの再興感染症

の蔓延を危惧している。BCG より強力な結核ワクチンの開発が期待され、多くの研究が精力的になされている。また、

結核菌はその強い免疫賦活作用(アジュバント活性)を示すので、免疫力の弱い抗原やがん抗原等に対する免疫誘

導、またアレルギーの制御における効果も期待されている。

本研究では、細菌の DNA に特徴的な配列(CpG 配列)やその誘導体などの自然免疫活性化成分、ヒト型結核菌由

来ペプチドなどの獲得免疫活性化抗原を用いて、これまでとは異なる観点から免疫アジュバントと結核ワクチン開発

の応用研究を行うことを目的とする。

(3) Toll-like receptor における感染細胞認識機構の解明とその制御方法の開発

TLR4(Toll-like Receptor 4)構成分子 TLR4-MD-2 は構造的に類似性のない複数のリガンドを認識すると報告され

ているが、リガンドと TLR4/MD-2 との結合は、エンドトキシンを除いて、まだ報告がない。エンドトキシンと TLR4/MD-2

との結合にも、何らかの分子が介在している可能性が我々の結果から示唆されている。そこで我々は、TLR4/MD-2 と

リガンドとの結合には新たな分子が介在しているという仮説に従って本研究を進める。具体的には、TLR4/MD-2 に会

合する分子の検索、同定を試みる。同定できた分子については、TLR4/MD-2 における機能について検討する。エン

ドトキシンをはじめとする複数のリガンドで TLR4/MD-2 を刺激したときに、その会合がどうなるかも検討する。

TLR からのシグナルが過剰になった場合には、サイトカインの過剰産生から組織障害に至り、場合によっては凝固

系の異常をきたして、敗血症性ショックに至る。この治療として、TLR からの過剰なシグナルを抑制する方法が考えら

れる。本研究では、TLR4/MD-2 からのシグナルを制御する方法の開発を試み、その方法をエンドトキシンショックの

治療に応用することを試みる。具体的には、モノクローナル抗体を用いる方法を検討する。TLR4/MD-2 に対するモノ

クローナル抗体を考えているが、さらにリガンド認識に必要な TLR4/MD-2 会合分子が上述の検討で同定できれば、

それらの分子に対するモノクローナル抗体も試みる。TLR4/MD-2 リガンド、エンドトキシンは、過剰量の投与によって

マウスにショック状態を引き起こす。この実験系は、エンドトキシンショックのモデルとして用いられている。TLR4/MD-2、

あるいはその会合分子に対するモノクローナル抗体がエンドトキシンショックを防ぐことができるかどうか検討する。

5. プリオン病制圧のための基礎ならびに応用研究

(1) プリオン病の発病機構の解明

プリオン病の発病メカニズムを明らかにするため、in vitro 及び in vivo の実験系を用いて異常プリオン蛋白質

(PrPSc)の細胞死誘発機構の解明と、病変形成に関与する生体因子の同定を試みる。

5

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

(2) プリオン株簡易鑑別法の開発

ウイルスや細菌などの微生物では、遺伝子解析による遺伝子型別、血清学的性状にもとづく血清型別など、微生物

を簡便に分類する方法がある。しかしプリオンには病原体特異的なゲノムに相当する核酸は存在せず、また、その構

成要素は宿主遺伝子 PrP の産物である異常型プリオン蛋白質(PrPSc)であることから、血清型別も困難である。現在プ

リオン株を分類する方法として、実験動物を用いたバイオアッセイにおける潜伏期および神経病変プロファイルが信

頼度が高いが、2 年近い実験期間を要すること、限られた研究機関でしか実施できないこと、などの問題がある。そこ

で、プリオン株を迅速簡便に鑑別可能な方法の確立を目的として、プリオン株の分類の指標となる生物・生化学性状

を同定して、野外に存在するプリオンのタイピング手法と、ヒトおよび動物へのリスクを評価するための方法論を模索す

る。

6. 感染症シミュレーションとリスクアセスメント

(1) 感染症シミュレーション条件設定および効果評価とまとめ

リスク評価をベースにして、感染症対策の実施時に求められる正当性と最適化を判断する枠組みを研究する。

(2) 感染症流行モデルの研究

① 感染症流行モデルの研究-1 (病院内感染のモデリング)

感染症流行を表現したリンク構造上のモデルである潜伏期間に相当する時間遅れをもつ差分方程式系の定式化に

関する研究を行う。

② 感染症流行モデルの研究-2 (数理モデル)

感染症を制圧するためには、感染症の生物学的な解明のみならず、感染症が社会でどのように広がり、ワクチン接

種などの施策にどの程度の効果が見込まれるかを把握することが不可欠である。例えば、ワクチン接種はコストや副

作用を伴うため、罹患しやすい層に適切に行う必要がある。このためのシミュレーションおよびリスクアセスメントの基礎

となる、感染症流行の数理モデルを確立することが本研究の目的である。

(3) 感染症リスクアセスメントの研究

① 感染症リスクアセスメントの研究-1 (感染リスクの研究)

シミュレーション、数理解析の結果をもとにリンク構造と感染症流行の関係を研究し、リスク要因の抽出を行う。

② 感染症リスクアセスメントの研究-2 (リスクアセスメントの研究)

感染症のリスクの評価をベースとして、感染症対策の実施時に求められる正当性と最適化を判断する枠組みを研究

する。

(4) 感染症シュミレーションシステムの研究

本研究で開発されたモデルを実装した感染症シミュレーションシステムを開発し、リスクアセスメントのベースとなるシ

ミュレーションを行う。

(5) 感染症シュミレーションシステムの開発

感染症シミュレーションを、リスクアセスメントに適用するための高速化システムの開発を行う。

6

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

実施体制

7

研 究 項 目 担当機関等 研究担当者

1. 研究全体の総括

2. SARS 制圧に向けた国際研究

(1). SARS 重症化の分子機構の解明

①. SARS 発症・重症化関連遺伝子の同定

②. SARS 病態形成機序の解明

(2). SARS 感染症診断法の確立

(3). SARS ワクチンの開発

①. ワクチニアウイルスを用いた SARS ワクチンの

開発

②. 粘膜免疫応答の基礎研究

(4). SARS 治療法の開発

① . T 細胞応答を誘導する SARS ウイルス抗原の

解析

② . 中和ヒト抗体の開発

3. SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研

究開発

(1). エボラウイルス感染症の制圧に向けての応用研究

(2). パンデミックインフルエンザワクチンの準備

①. インフルエンザウイルス遺伝子ライブラリーの

構築

②. 人工ワクチンの合成

(3). プラス鎖 RNA ウイルス増殖過程に関する基礎研

(4). ダニ媒介性脳炎の診断法、疫学および予防に関

する基礎的な研究

(5). アルボウイルスの流行予測と防疫システムの構築

① . アルボウイルスの遺伝学的同定と診断法の

開発

② . 媒介昆虫の生態の解明

③ . 媒介昆虫の低環境負荷防除法の開発

(6). HIV 薬剤耐性とウイルス特異的細胞性免疫に関す

る研究

(7). NK 細胞 receptor における感染細胞認識機構に関

する基礎研究

東京大学 医科学研究所

国立国際医療センター

東京医科歯科大学 医歯学総合研

究科

東京大学 医科学研究所

東京大学 大学院医学系研究科

東京大学 大学院医学系研究科

熊本大学 大学院医学薬学研究部

キリンビール株式会社医薬カンパニ

ー 医薬フロンティア研究所

東京大学 医科学研究所

北海道大学 大学院獣医学系研究

東京大学 医科学研究所

東京大学 大学院医学系研究科

北海道大学 大学院獣医学研究科

農業・生物系特定産業技術研究機

構 動物衛生研究所

農業生物資源研究所 昆虫科学領

福岡県工業技術センター 生物食

品研究所

東京大学 医科学研究所

国立国際医療センター 研究所

◎山本 雅 (教授)

○笹月 健彦(総長)

神奈木 真理(教授)

岩本 愛吉 (教授)

松島 綱治 (教授)

清野 宏 (教授)

西村 泰治 (教授)

千住 覚 (助教授)

石田 功 (所長)

○河岡 義裕(教授)

喜田 宏 (教授)

河岡 義裕 (教授)

野本 明男 (教授)

高島 郁夫 (教授)

津田 知幸 (室長)

野田 博明 (ユニッ

ト長)

水城 英一(課長)

岩本 愛吉 (教授)

小笠原 康悦(室長)

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研 究 項 目 担当機関等 研究担当者

(8). インフルエンザウイルス感染細胞における宿主タン

パク質の機能・動態解析

4. 細菌性新興・再興感染症に関する研究開発

(1). 粘膜病原細菌による感染症に関する研究

(2). 結核菌体成分による免疫アジュバントと抗結核ワク

チン開発への応用研究

(3). Toll-like receptor による病原認識機構の解明とそ

の制御方法の開発

5. プリオン病制圧のための基礎ならびに応用研究

(1). プリオン病の発病機構の解明

(2). プリオン株簡易識別法の開発

6. 感染症シミュレーションとリスクアセスメント

(1). 感染症シミュレーション条件設定および効果評価

とまとめ

(2). 感染症流行モデルの研究

①. 病院内感染のモデリング

②. 数理モデル

(3). 感染症リスクアセスメントの研究

① . 感染症リスクの研究

② . リスクアセスメントの研究

(4). 感染症シュミレーションシステムの研究

(5). 感染症シュミレーションシステムの開発

東京大学 医科学研究所

東京大学 医科学研究所

東京大学 医科学研究所

東京大学 医科学研究所

農業・食品産業技術総合研究機構

動物衛生研究所

北海道大学 大学院獣医学研究科

国立感染症研究所 生物活性物質

国立国際医療センター 研究所

順天堂大学大学院 医学研究科

国立国際医療センター 研究所

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所

山本 雅 (教授)

○笹川 千尋(教授)

高津 聖志 (教授)

三宅 健介 (教授)

品川 森一 (セン

ター長)

○横山 隆 (チーム

長)

堀内 基広 (教授)

○鈴木 和男(室長)

山本 健二 (部長)

竹内 史比古(講師)

山本 健二 (部長)

瀬谷崎 裕之 (主

席研究員)

義澤 宣明 (主任

研究員)

寺邊 正大(研究員)

◎ 代表者

○ サブテーマ責任者

8

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

■ 研究運営委員会

氏 名 所 属

◎山本 雅

○笹月 健彦

岩本 愛吉

○笹川 千尋

○横山 隆

喜田 宏

○鈴木 和男

○河岡 義裕

中井 徳太郎

尾崎 史朗

岩附(堀本) 研子

松尾 泰樹

塚原 太郎

中谷 誠

国立大学法人東京大学 教授

国立国際医療センター 総長

国立大学法人東京大学 教授

国立大学法人東京大学 教授

独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 動物衛生研究所

国立大学法人北海道大学 教授

国立感染症研究所 室長

国立大学法人東京大学 教授

国立大学法人東京大学 教授

独立行政法人メディア教育開発センター 教授

国立大学法人東京大学 助手

文部科学省 課長

厚生労働省 課長

農林水産省 研究開発企画官

◎ 研究運営委員長

○ サブリーダー

■ 運営委員会等の開催実績及び議題 (参画機関やサブテーマ間の連携確保のためにとった処置等)

1. 運営委員会

第一回(平成 16 年 8 月 24 日)

議題:H16 年度実施体制・研究方針・活動予定について他

第二回(平成 17 年 1 月 12 日)

議題:H16 年度進捗状況・連携状況について他

第三回(平成 17 年 6 月 8 日)

議題:H17 年度実施体制・研究方針・活動予定について他

第四回(平成 18 年 2 月 23 日)

議題:H17 年度進捗状況・連携状況について他

第五回(平成 18 年 6 月 14 日)

議題:H18 年度実施体制・研究方針・中間評価・活動予定について他

2. 研究成果報告会

第一回(平成 17 年 1 月 12 日)

第二回(平成 18 年 2 月 23 日)

9

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

10

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

2. 研究成果の概要

■ 研究成果の要旨

本研究課題の目的は、新興・再興感染症の制圧である。この目的を達成するために、研究中間時までに、新興・再興感

染症のいくつかについて、ワクチン開発ならびに薬剤スクリーニング系構築の目途をつけることを目標としてきた。これまで

に、SARS ウイルスに関して、ワクチニアウイルスベクターを用いた SARS ワクチンを作製し、動物実験でその有効性を確認し

た。また、SARS ウイルス遺伝子を特異的に検出する LAMP 法を利用したシステムを開発するなどの成果をあげている。今

まさにパンデミックの危険性が問題となっている鳥インフルエンザに関しても、人工ワクチンを効率よく作製する系を確立し、

流行状況の把握、ウイルス株および遺伝子情報の共有化など、緊急時に対策がすぐに取れるための体制をつくるなど、具

体的な成果をあげており、目標は順調に達成されている。さらに、新興・再興感染症原因病原体が個体に感染したときに

起きる自然・獲得免疫反応を、分子・細胞・個体レベルで理解することにより得られたデータを、参画機関の間で情報交換

することにより有効なワクチンならびに治療薬の開発に役立てている。これらの基礎研究ならびに応用研究は、それぞれ進

み具合がテーマごとに異なるが、SARS に関する研究、プリオン、インフルエンザ、リスクアセスメントなどは、研究項目間で

密に連携をとりあい、多くの成果をあげている。

また、基礎・応用研究のみならず、本研究課題では新興・再興感染症が現れたときに瞬時に対応できるような研究ネット

ワークを構築することも目的としており、中国を中心としたアジア諸国との協力関係を築き、国際連携研究の基礎を築いた。

■ 研究目標

① 東京大学医科学研究所を中心として、新興・再興感染症制圧に向けての基礎研究が実施可能な国内トップレベル

の研究者と連携し、得られた研究成果を定期的に研究発表会にて議論することにより、新興・再興感染症制圧に向

けての対策を具現化する。

② 本研究の目標は、新興・再興感染症の制圧である。これら感染症そしてそれを悪用したバイオテロの脅威から国家

社会を守ることにより、国力の充実ならびに経済の活性化が期待されるとともに、安心・安全で快適な社会の構築に

つながる。

③ 感染症のワクチンならびに治療・予防薬の開発には時間がかかるが、民間企業の積極的参入に向けての環境整備、

そしてそれを使って継続展開するための成果を 5 ヵ年で達成する。

■ 目標に対する結果

① 東京大学医科学研究所を中心として、定期的に運営委員会、研究成果発表会、セミナー、国際シンポジウムを開催

した。国内トップレベルの感染症研究者が一同に会し、研究課題全体の情報交換・交流を行い、テーマごとの研究

の促進とサブテーマ間の連携を強化することが出来た。

② 新興・再興感染症発生の場の多くは、アジア諸国である。そのため、アジア諸国と連携をとり、新興・再興感染症の

発生状況を世界規模で把握することが、日本国内にこれらの感染症を入れないこと、ひいては安心・安全で快適な

社会の構築につながることとなる。このためには、アジア諸国との情報ネットワークを広げることが重要であり、これま

でに、中国を中心とした情報交換・交流を行い、国際連携研究の基礎を築いた。

③ SARS ウイルスと H5N1 鳥インフルエンザウイルスのワクチン開発が、5 年後の達成目標に向けて順調に進んでいる。

■ 研究目標の妥当性

3 年目の目標は、①新興・再興感染症病原体のいくつかについて、ワクチン開発の目途をつける。②新興・再興感染症

病原体の基礎研究を通じて、それら病原体の増殖あるいは病原性発現に重要な部分を同定する。③新興・再興感染症病

11

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

原体のいくつかについて、診断キットを開発する。④中国を含む諸外国ならびに国内の共同戦略体制を確立する、の4点

である。①に関しては、SARS ウイルスと H5N1 鳥インフルエンザウイルスのワクチン開発が進み、ワクチン作製法の改良、試

作ワクチンの作製という段階に入っている。特に SARS ワクチンは、参画機関が密に連携し、開発を進めている。②に関して

は、それぞれの担当者が個々の病原体について解析を進めている。③に関しては、SARS ウイルス遺伝子を特異的に検出

する LAMP 法を利用したシステムを開発し、他の疾患との識別を可能とした。④に関しては、中国科学院生物物理研究所、

中国科学院微生物研究所、中国農業科学院ハルビン獣医研究所との強力な協力関係を築き、国際シンポジウムの共催、

研究者の相互訪問などを行うレベルまで達した。こうして築きあげてきた信頼関係、協力関係をもとに、文部科学省「新興・

再興感染症研究拠点形成プログラム」において「中国との連携を基軸とした新興・再興感染症の研究」を立ち上げることに

貢献した。このプログラムは、日中が協力して感染症の研究を行うという、より具体的な共同戦略となっている。また、中国

科学院上海生命科学研究院や中国医学科学院・中国協和医科大学、ベトナムおよび上海のパスツール研究所との交流

を行い、東アジアを中心とした国際連携研究の基礎を築いた。この様に、3年目の目標は妥当であり、全ての目標について

順調に達成されている。

採択時の 5 年目の目標は、①対象とする新興・再興感染症病原体について、臨床試験に耐えうるレベルのワクチン開発

を終える。②薬剤スクリーニング系構築の技術を確立する。③臨床試験に供しうるレベルの抗体治療薬の開発を終える。④

動物実験において有効性を示すヒト型抗体産生系を樹立する。⑤新規感染症出現に備えた、国内および中国を含む諸外

国との共同戦略を確立する、の 5 点であるが、当研究課題を継続することにより、達成しうると考える。

■ 情報発信 (アウトリーチ活動等)について

平成 17 年 8 月に医科学研究所において、主に高校生を対象とした感染症研究の公開セミナー「ラブラボ」及び研究室

見学会を開催した。公開セミナーには約 160 名の参加があり、アンケートをとったところ賞賛の言葉や継続開催を望む意見

が多く寄せられた。また、セミナー参加者の中から特に感染症研究に興味を持っている参加者を対象に研究室見学会に

招待したところ、約 30 名の参加があった。参加者は実際の研究室内の様子を見たり、細胞を顕微鏡で観察したり、そこで

働く研究者と率直な意見交換をした。大変好評で、こうした機会はほとんど無いのでもっと作って欲しい、と強い要望が多く

寄せられた。

平成 18 年度以降も、主に高校生を対象とした公開セミナーと研究室見学会を開催して、新興・再興感染症制圧のための

取り組みや成果の情報発信を継続していく予定である。

■ 研究計画・実施体制について

採択時、SARSのワクチン開発研究課題として、ウイルスベクターを用いた研究項目を2 種類入れていた。「ワクチニアベク

ターを用いた SARS ワクチンの開発(東大・松島)」と、「インフルエンザウイルスベクターを用いた SARS ワクチンの開発(東

大・河岡)」である。しかし、ワクチニアウイルスベクターを用いたワクチンが有効であり、なおかつ安全性が確立していること

から、インフルエンザウイルスベクターを用いた SARS ワクチンの開発は平成 16 年度をもって打ち切りとした。これに変わり、

より効果的なワクチンを開発するため、平成17年度より「SARS粘膜ワクチン開発へ向けての基礎研究(東大・清野)」を新た

な研究項目として加えた。

また、高病原性鳥インフルエンザウイルスによるパンデミックの危険性が高まっていることから、採択時には、「インフルエ

ンザウイルス遺伝子ライブラリーの構築」であった研究項目を「パンデミックインフルエンザワクチンの準備」に変更し、北大・

喜田が「インフルエンザウイルス遺伝子ライブラリーの構築」を担当し、採択時の研究課題を継続して行い、東大・河岡は新

たな研究項目「人工ワクチンの合成」を担当し、両機関が密に連携してパンデミックに備えるワクチン開発を行っている。こ

の変更により、有効なワクチン作製の系を確立することが出来た。さらに平成 18 年度から、「インフルエンザウイルス感染細

胞における宿主蛋白質の機能・動態解析(東大・山本)」を加えた。

さらに HIV も、その重要性から、新項目「HIV 薬剤耐性とウイルス特異細胞性免疫に関する研究(東大・岩本)」として、追

加した。

12

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

その他、SARS の研究項目や、リスクアセスメントの研究項目についても、研究の進捗状況などに合わせて、若干の整理を

行った。この様に、感染症の流行状況や、研究内容の有効性、進捗状況を常に把握し、最も研究を促進出来る体制作りを

行っている。

■ 今後の展開方針、改善点等

本研究計画の目標は、新興・再興感染症の制圧である。これら感染症そしてそれを悪用したバイオテロの脅威から国家

社会を守ることにより、国力の充実ならびに経済の活性化が期待されるとともに、安心・安全で快適な社会の構築につなが

る。感染症のワクチンならびに治療・予防薬の開発には時間がかかるが、これまでの 3 年間で SARS ワクチンと H5N1 インフ

ルエンザワクチンの開発が順調に進んできた。本研究課題を継続することにより、採択時の 5 年後の目標である「臨床試験

に耐え得るレベルのワクチン開発」は達成出来ると考える。さらに、新興・再興感染症は、海外、特にアジアに多く発生して

いる。これまでに中国を中心としたアジア諸国と築き上げてきた信頼関係を礎に、文部科学省「新興・再興感染症研究拠点

形成プログラム」の「中国との連携を基軸とした新興・再興感染症の研究」と連携しながら、アジアにおける感染症研究ネット

ワークを広げ、最終目標である「新規感染症出現に備えた、国内および中国を含む諸外国との共同戦略体制を確立する」

ことが可能となると確信する。リスクアセスメントについては、当初 3 年間の計画であったが、新規感染症発症時に迅速に対

応できるためのシステム構築は、安心・安全な社会の構築のためには必要であり、今後も継続して 5 年間の研究サブテー

マとする予定である。

13

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

3. 所要経費

(直接経費のみ記入してください)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 H16

年度

H17

年度

H18

年度 合計

1. 研究全体の総括

2. SARS 制圧に向けた国際研究

(1) SARS 重症化の分子機構の解明

①SARS 発症・重症化関連遺伝子の同

②SARS 病態形成機序の解明

(2) SARS 感染症診断法の確立

(3) SARS ワクチンの開発

① ワクチニアウイルスを用いた SARS ワ

クチンの開発

② 粘膜免疫応答の基礎研究

(4) SARS 治療法の開発

① T 細胞応答を誘導する SARS ウイルス

抗原の解析

② 中和ヒト抗体の開発

3. SARS 以外のウイルス性新興・再興感

染症に関する研究開発

(1) エボラウイルス感染症の制圧に向け

ての応用研究

(2) パンデミックインフルエンザワクチン

の準備

① インフルエンザウイルス遺伝子ライブ

ラリーの構築

② 人工ワクチンの合成

(3) プラス鎖RNAウイルス増殖過程に関

する基礎研究

(4) ダニ媒介性脳炎の診断法、疫学お

よび予防に関する基礎的な研究

(5) アルボウイルスの流行予測と防疫シ

ステムの構築

① アルボウイルスの遺伝学的同定と診

断法の開発

東京大学 医科学研

究所

国立国際医療センタ

東京医科歯科大学

医歯学総合研究科

東京大学 医科学研

究所

東京大学 大学院医

学系研究科

東京大学 医科学研

究所

熊本大学 大学院医

学薬学研究部

キリンビール株式会

社医薬カンパニー

東京大学 医科学研

究所

北海道大学 大学院

獣医学系研究科

東京大学 医科学研

究所

東京大学 大学院医

学系研究科

北海道大学 大学院

獣医学研究科

農業・生物系特定産

業技術研究機構

山本 雅

笹月 健彦

神奈木 真

岩本 愛吉

松島 綱治

清野 宏

西村 泰治

千住 覚

石田 功

河岡 義裕

喜田 宏

河岡 義裕

野本 明男

高島 郁夫

津田 知幸

41

15

10

17

10

11

(河岡)

9

5

20

29

5

14

19

8

43

17

9

8

10

9

8

10

25

29

12

15

20

8

42

10

8

5

9

9

8

5

22

26

11

14

17

8

126

42

27

30

29

29

25

20

67

84

28

43

56

24

14

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 H16

年度

H17

年度

H18

年度 合計

② 媒介昆虫の生態の解明

③ 媒介昆虫の低環境負荷防除法の開

(6) HIV 薬剤耐性とウイルス特異的細胞

性免疫に関する研究

(7) NK 細胞 receptor における感染細胞

認識機構に関する基礎研究

(8) インフルエンザウイルス感染細胞に

おける宿主タンパク質の機能・動態解析

4. 細菌性新興・再興感染症に関する

研究開発

(1)粘膜病原細菌による感染症に関する

研究

(2) 結核菌体成分による免疫アジュバン

トと抗結核ワクチン開発への応用研究

(3) Toll-like receptor による病原認識機

構の解明とその制御方法の開発

5. プリオン病制圧のための基礎ならび

に応用研究

(1) プリオン病の発病機構の解明

(2) プリオン株簡易識別法の開発

6. 感染症シミュレーションとリスクアセス

メント

(1) 感染症シミュレーション条件設定お

よび効果評価とまとめ

(2) 感染症流行モデルの研究

① 病院内感染のモデリング

② 数理モデル

(3) 感染症リスクアセスメントの研究

① 感染症リスクの研究

② リスクアセスメントの研究

農業生物資源研究

所 昆虫科学領域

福岡県工業技術セン

ター

東京大学 医科学研

究所

国立国際医療センタ

ー 研究所

東京大学 医科学研

究所

東京大学 医科学研

究所

東京大学 医科学研

究所

東京大学 医科学研

究所

農業・食品産業技術

総合研究機構

北海道大学 大学院

獣医学系研究科

国立感染症研究所

生物活性物質部

国立国際医療センター

順天堂大学大学院

医学研究科

国立国際医療センター

株式会社三菱総合

研究所

野田 博明

水城 英一

岩本 愛吉

小笠原 康

山本 雅

笹川 千尋

高津 聖志

三宅 健介

品川 森一

横山 隆

堀内 基広

鈴木 和男

山本 健二

竹内 史比

山本 健二

瀬谷崎 裕

4

4

0

0

0

11

10

11

13

18

8

1

0

1

2

4

4

10

6

0

11

11

11

14

20

10

1

2

0

2

4

4

11

6

7

10

10

10

13

18

9

2

0

1

1

12

12

21

12

7

32

31

32

40

56

27

4

2

2

5

15

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 H16

年度

H17

年度

H18

年度 合計

(4) 感染症シュミレーションシステムの研

(5) 感染症シュミレーションシステムの開

間接経費

株式会社三菱総合

研究所

株式会社三菱総合

研究所

安田 英典

義澤 宣明

寺邊 正大

2

2

88

2

2

98

2

1

86

6

5

272

所 要 経 費 (合 計) 388 431 389 1208

(単位:百万円)

16

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

4. 使用区分

(直接経費のみ記入してください)

研究全体の

総括

SARS 制圧

に向けた国

際研究

SARS 以外

のウイルス

性新興・再

興感染症に

関する研究

細菌性新興・

再興感染症

に関する

研究開発

プリオン病制

圧のための

基礎ならびに

応用研究

感染症シュミ

レーションとリ

スクアセスメ

ント

設備備品費

※ 0 9 59 1 28 1 98

試作品費 0 0 0 0 0 0 0

消耗品費 11 151 190 90 52 13 507

人件費 74 23 54 4 2 19 176

その他 41 20 62 1 14 10 148

0 0 0 0 0 0 0

計 126 203 365 96 96 43 929

(単位:百万円)

※設備備品費の内訳 (購入金額 5 百万円以上の高額な設備備品の購入状況を記入してください)

① オールインワン蛍光顕微鏡, 2005 年 10 月, 8 百万円, SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究

② 分離用超遠心機, 2004 年 5 月, 6.7 百万円, SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究

③ 円二色性分散計,2005 年 5 月,7.8 百万円,SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究

17

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

5. 研究成果の発表状況

■ 研究発表件数

原著論文による発表

(査読付き) 左記以外の誌上発表 口頭発表 合 計

国 内 3 件 67 件 100 件 170 件

海 外 63 件 19 件 74 件 156 件

合 計 66 件 86 件 174 件 326 件

■ 特許等出願件数

2 件 (うち国内 2 件、国外該当なし)

■ 受賞等

8 件 (うち国内 7 件、国外 1 件)

1. 喜田 宏: 第 58 回 北海道新聞文化賞: 「鳥、動物とヒトインフルエンザウイルスの生態学的研究」,2004. 11. 5

2. 喜田 宏: 平成 17 年度 日本農学賞・読売農学賞: 「インフルエンザウイルスの生態に関する研究」,2005. 4. 5 佐

藤太郎、鈴木一、他:「第 5 回科学雑誌優秀論文賞」, 2004.12.10

3. 喜田 宏: 第 95 回 日本学士院賞: 「インフルエンザ制圧のための基礎的研究 —家禽、家畜およびヒトの新型イン

フルエンザウイルスの出現機構の解明と抗体によるウイルス感染性中和の分子的基盤の確立—」,2005. 6. 13

4. 河岡義裕:「文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)」, 2006.4

5. 河岡義裕:「ロベルト・コッホ賞」, 2006.11

6. 小笠原康悦: 「東京免疫フォーラム研究奨励賞」, 2005.5.10

7. 小笠原康悦: 「Human Frontier Science Program Career Development Awards」, 2006.3.30

8. 小笠原康悦: 「文部科学大臣表彰若手科学者賞」, 2006.4.18

■ 主な原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿論文に限る)

国内誌(国内英文誌を含む)

1) Iwata, N. et al.: 「Distribution of PrPSc in cattle with bovine spongiform encephalopathy slaughtered at abattoirs in

Japan」, Jpn. J. Infect. Dis., 59, 100-107, (2006)

2) Yasuda, H. et al.: 「Modeling on Social Spread from Immunity」. Jpn. J. Infect. Dis., 58, S14-S15, (2005)

3) Suzuki, K. et al.: 「International Symposium on Infectious Agent Transmission Models Building -Focusing on

Assesment of Risk to Communities」, Jpn. J. Infect. Dis., 58, S1-S2, (2005)

海外誌

1) Suzuki, M., et al.: 「Interaction of CagA with Crk plays an important role in Helicobacter pylori-induced loss of

gastric epithelial cell adhesion」, J. Exp. Med., 202(9), 1235-1247, (2005)

2) Hamano, E., et al.: 「Polymorphisms of interferon-inducible genes OAS-1 and MxA associated with SARS in the

Vietnamese population.」, Biochem. Biophys. Res. Commun., 329, 1234-1239, (2005)

3) Nishigaki, T., et al.: 「Augmentation of inflammatory chemokine production by severe acute respiratory syndrome

coronavirus (SARS-CoV) X1 and X4 proteins through NF-kB activation」, submitted to J. Virol., (2006) (投稿中)

4) Kubo, M. et al.: 「Suppression of human immunodeficiency virus type 1 replication by arginine deiminase of

18

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

Mycoplasma arginini」, J. Gen. Virology, 87, 1589-1593, (2006)

5) Kurihara, K. et al.: 「Human T-cell leukemia virus type-I (HTLV-I)-specific T-cell responses detected using

three-divided glutathione-S-transferase (GST)-Tax fusion proteins」, J. Immunol. Meth. (2006) (印刷中)

6) Harashima, N. et al.: 「Identification of Two New HLA-A*1101-restricted Tax Epitopes Recognized by Cytotoxic

T-lymphocytes in an Adult T-cell Leukemia Patient after Hematopoietic Stem Cell Transplantation」, J. Virol., 79,

10088-1009, (2005)

7) Kitabatake, M. et al.:「SARS-CoV spike protein-expressing recombinant vaccinia virus efficiently induces

neutralizing antibodies in rabbits pre-immunized with vaccinia virus」, Vaccine, (2006) submitted 1)

8) Ohmura, M. et al.: 「Nontoxic Shiga toxin derivatives from Escherichia coli possess adjuvant activity for the

augmentation of antigen-specific immune responses via Dendritic cell activation」, Infect. Immun., 73, 4088-4097,

(2005)

9) Motomura, Y. et al.: 「Embryonic stem cell-derived dendritic cells expressing Glypican-3, a recently identified

oncofetal antigen, induce protective immunity against highly metastatic mouse melanoma, B16-F10.」, Can. Res., 66,

2414-2422, (2006)

10) Hirata, S. et al.: 「Prevention of experimental autoimmune encephalomyelitis by transfer of ES cell-derived dendritic

cells expressing MOG peptide along with TRAIL or PD-L1.」, J. Immunol., 174, 1888–1897, (2005)

11) Fukuma, D. et al.: 「Cancer prevention with semi-allogeneic ES cell-derived dendritic cells genetically engineered to

express a model tumor antigen.」, Biochem. Biophys. Res. Comm., 335, 5-13, (2005)

12) Matsuyoshi, H. et al.: 「Therapeutic effect of ・-galactosylceramide loaded dendritic cells genetically engineered to

express SLC/CCL21 along with tumor antigen against peritoneally disseminated tumor cells」, Can. Sci., 96,

889-896, (2005)

13) Maeda Y. et al.: 「Live bivalent vaccine for parainfluenza and influenza virus infections」, J. Virol., 79, 6674-6679,

(2005)

14) Kishida, K et al.: 「Co-infection of Staphylococcus aureus or Haemophilus paragallinarum exacerbates H9N2

influenza A virus infection in chickens.」, Arch. Virol., 149, 2095-2104, (2004)

15) Kishida, N. et al.: 「Pathogenicity of H5 influenza viruses for ducks.」, Arch. Virol., 150, 1383-1392, (2005)

16) Liu, J.H. et al.: 「Interregional transmission of the internal protein genes of H2 influenza virus in migratory ducks

from North America to Eurasia.」, Virus Gene, 29, 81-86, (2004)

17) Liu, J.H. et al.:「Genetic conservation of hemagglutinin gene of H9 influenza virus in chicken population in Mainland

China.」, Virus Genes, 29, 329-334, (2004)

18) Bai, G. et al.: 「Evaluation of the ESPLINE INFLUENZA A&B-N kit for the diagnosis of avian and swine influenza.」,

Microbiol Immunol, 49, 1063-1067, (2005)

19) Bai, G. et al.: 「Improvement of a rapid diagnosis kit to detect either Influenza A or B Virus infections.」, J. Vet. Med.

Sci., 68, 35-40, (2006)

20) Isoda, N. et al.: 「Pathogenicity of a highly pathogenic avian influenza virus, A/chicken/Yamaguchi/7/04 (H5N1) in

different species of birds and mammals.」, Arch Virol, in press, (2006)

21) Mase, M et al.: 「Characterization of H5N1 influenza A viruses isolated during the 2003-2004 influenza outbreaks in

Japan」, Virology, 5, 167-176, (2005)

22) Horimoto ,T. et al.: 「The development and characterization of H5 influenza virus vaccine derived from a 2003

human isolate」, Vaccine, 24, 3669-3676, (2006)

23) Neumann, G. et al.: 「An improved reverse genetics system for influenza A virus generation and its implications for

vaccine production」, Proc. Natl. Acad. Sci., 102, 16825-16829, (2005)

24) Kiso, M. et al.:「Resistant influenza A viruses in children treated with oseltamivir: descriptive study」, Lancet, 364,

19

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

759-765, (2004)

25) Le, Q.M. et al.: 「Emergence of an oseltamivir-resistant H5N1 influenza A virus」, Nature, 437, 1108, (2005)

26) Muramoto, Y. et al.: 「Molecular characterization of the hemagglutinin and neuraminidase genes of H5N1 influenza A

viruses isolated from poultry in Vietnam from 2004 to 2005」, J. Vet. Med. Sci., 68, 527-531, (2006)

27) Ogino, T. et al.: 「Membrane binding properties and terminal residues of the mature hepatitis C virus capsid protein

in insect cells」, J. Virol., 78, 11766-11777, (2004)

28) Yanagiya, A. et al.: 「Blockade of poliovirus-induced cytopathic effect in neural cells by monoclonal antibody against

poliovirus or human poliovirus receptor」, J. Virol., 79, 1523-1532, (2005)

29) Hayasaka, D.et al.: 「Sub-genomic-replicons of Tick-borne encephalitis virus.」, Arch Virol, 149, 1245-1256, (2004)

30) Hayasaka, D., et al.: 「Amino acid changes responsible for attenuation of virus neurovirulence in an infectious cDNA

clone of the Oshima strain of tick-borne encephalitis virus.」, J. Gen. Virol., 85, 1007-1018, (2004)

31) Yoshii, K. et al.: 「Single point mutation in tick-borne encephalitis virus prM protein induces a reduction of virus

particle secretion.」, J. Gen. Virol., 85, 3049-3058, (2004)

32) Yoshii, K. et al.: 「Packaging the replicon RNA of the Far-Eastern subtype of tick-borne encephalitis virus into

single-round infectious particles: development of a heterologous gene delivery system.」, Vaccine, 23, 3946-3956,

(2005)

33) Goto, A. et al.: 「Role of the N-linked glycans of the prM and E envelope proteins in tick-borne encephalitis virus

particle secretion.」, Vaccine, 23, 3043-3052, (2005)

34) Yanase, T. et al.: 「The emergence in Japan of Sathuperi virus, a tropical Simbu serogroup virus of the genus

Orthobunyavirus」, Archives of Virology, 149, 1007-1013, (2004)

35) Ohashi, S. et al.: 「Evidence of an antigenic shift among Palyam serogroup orbiviruses」, Journal of Clinical

Microbiology, 42, 4610-4614, (2004)

36) Yanase, T. et al.: 「The resurgence of Shamonda virus, an African Simbu group virus of the genus Orthobunyavirus,

In Japan」, Arch. Virol., 150, 361-369,(2005)

37) Yanase, T. et al.: 「Isolation of bovine arboviruses from Culicoides biting midges (Diptera: Ceratopogonidae) in

southern Japan: 1985-2002」, J. Med. Entomol., 42, 63-67, (2005)

38) Yamakawa, M. et al.: 「Chronological and geographical variations in the small RNA segment of the teratogenic

Akabane virus」, Virus Research, In press, (2006)

39) Ohashi, S. et al.:「Simultaneous detection of bovine arboviruses using single-tube multiplex reverse

transcription-polymerase chain reaction」, J. Virol. Meth., 120, 79-85,(2004)

40) Ohgushi, A. et al. : 「A new insertion variant, IS231I, isolated from a mosquito-specific strain of Bacillus

thuringiensis」, Curr. Microbiol., 51, 95-99, (2005)

41) Ohgushi, A. et al.: 「Cloning and characterization of two novel genes, cry24B and s1orf2, from a mosquitocidal

strain of Bacillus thuringiensis serovar sotto」, Curr. Microbiol., 51, 131-136, (2005)

42) Yokomaku,Y. et al.:「Impaired processing and presentation of cytotoxic-T-lymphocyte (CTL) epitopes are major

escape mechanisms from CTL immune pressure in human immunodeficiency virus type 1 infection.」, J. Virol, 78(3),

1324-1332, (2004)

43) Furutsuki, T. et al.:「Frequent transmission of cytotoxic-T-lymphocyte escape mutants of human immunodeficiency

virus type 1 in the highly HLA-A24-positive Japanese population.」, J. Virol., 78(16), 8437, (2004)

44) Ide, F. et al.: 「Peptide-loaded dendritic-cell vaccination followed by treatment interruption for chronic HIV-1

infection: A phase 1 trial.」, J. Med. Virol., 78(6), 711, (2006)

45) Okuda, J. et al.: 「Shigella effector IpaH9.8 binds to a splicing factor U2AF(35) to modulate host immune responses」,

Biochem. Biophys. Res. Commun., 333 (2), 531-539, (2005)

20

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

46) Suzuki, T. et al.: 「A novel caspase-1/toll-like receptor 4-independent pathway of cell death induced by cytosolic

Shigella in infected macrophages」, J. Biol. Chem., 280 (14), 14042-14050, (2005)

47) Suzuki.T. et al.: 「High vaccine efficacy against shigellosis of recombinant non-invasive Shigella mutant that

expresses Yersinia invasin」 (2006) (投稿中)

48) Tamura, T. et al.: 「The role of antigenic peptide in CD4+ T helper phenotype development in a T cell receptor

transgenic model,」 Int. Immunol., 16(12), 1691-1699, (2004)

49) Hirano, M. et al.: 「Bruton’s tyrosine kinase (Btk) enhances transcriptional co-activation activity of BAM11, a

Btk-associated molecule of a subunit of SWI/SNF complexes」, Int. Immunol., 16, 747 – 757, (2004)

50) Kikuchi, T. et al.: 「Augmented induction of CD8+ cytotoxic T cell response and antitumor resistance by

Th1-inducing peptide」, Immunology, 117(1), 47-58, (2005)

51) Wolf, A. B. et al.: 「Initiation of CD4+ T cell immunity to M. tuberculosis. Tuberculosis」, in press, (2006)

52) Konno, K. et al: 「A molecule that is associated with Toll-like receptor 4 and regulates its cell surface expression」,

Biochem. Biophys. Res. Commun, 339, 1076-1082, (2006)

53) Akashi-Takamura, S. et al: 「Agonistic Antibody to Toll-like receptor 4/MD-2 Protects Mice from Acute Lethal

Hepatitis Induced by Tumor Necrosis Factor-a」, J. Immunol., 176, 4244-4251, (2006)

54) Kobayashi, M. et al: 「Regulatory Roles for MD-2 and Toll-like receptor 4 (TLR4) in Ligand-induced Receptor

Clustering」, J. Immunol., 176, 6211-6218, (2006)

55) Yokoyama, T. et al.: 「Western blot assessment of prion inactivation by alkali treatment in the process of

horticultural fertilizer production from meat meal」, Soil Sci. Plant Nutr., 52, 86-91, (2006)

56) Kobayashi, Y. et al.: 「A solid-phase immunoassay of protease-resistant prion protein with filtration blotting

involving sodium dodecyl sulfate」, Anal Biochem., 349, 218-228, (2006)

57) Sekiya, S. et al.: 「Characterization and application of a novel RNA aptamer against the mouse prion protein」, J.

Biochemistry, 139, 383-390, (2006)

58) Furuoka,H. et al.: 「Effective antigen-retrieval method for immunohistochemical detection of abnormal isoform of

prion proteins in animals.」, Acta Neuropathol., 109, 263-271, (2005)

59) Kataoka, N. et al.: 「Surveillance of chronic wasting disease in sika deer, Cervus nippon, from Tokachi district in

Hokkaido」, J. Vet. Med. Sci., 67, 349-351, (2005)

60) Kurosaki, Y. et al.: 「Polymorphisms of caprine PrP gene detected in Japan」, J. Vet. Med. Sci., 67, 321-323, (2005)

61) Inanami, O. et al.: 「Conformational change in full-length mouse prion: A site-directed spin-labeling study.」,

Biochem. Biophys. Res. Commun., 335, 785-792, (2005)

62) Nakamitsu, S. et al.: 「Sequence variation of bovine prion protein gene in Japanese cattle (Holstein and Japanese

Black).」, J. Vet. Med. Sci., 68, 27-33, (2006)

63) Horiuchi, M. et al.: 「Alymphoplasia mice are resistant to prion infection via oral route.」 Jpn. J. Vet. Med., 53,

150-159, (2006)

■ 情報発信(シンポジウム、一般向けのセミナー、Web 公開等)

1) 日中共同感染症セミナー:「Japan-China Joint Seminar on Infectious Diseases」, 東京大学医科学研究所, 2004.11.9

2) 感染症国際シンポジウム:「Symposium on emerging and reemerging infectious diseases」, 東京大学医科学研究所,

2005.3.3-4

3) 一般公開セミナー:「ラブラボ」, 東京大学医科学研究所, 2005.8.3

4) 第 2 回日中鳥インフルエンザシンポジウム:「BIRD FLU」, 東京大学医科学研究所, 2006.2.6-7

21

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

1. 研究全体の総括

国立大学法人東京大学医科学研究所癌細胞シグナル分野

山本 雅

■ 要 旨

本研究課題では、(1)新興・再興感染症病原体の基礎的研究、(2)病原体宿主の特定と伝播経路の研究、(3)感染個

体における自然・獲得免疫応答の研究、(4)新興・再興感染症の診断・治療法の開発研究を推進することを目的に、研究

を行っている。これらの研究を推進するには、課題全体の研究の方向性を見極め、研究計画を点検しながら、個々の研究

の情報を集約し、且つ有機的に連携させることが必要である。そのため、本研究課題における責任機関として研究を統括

し、各参画機関と連携して研究を推進すると共に、国内外の研究協力機関との協力体制を整備し、効果的・効率的な研究

運営を目指した。

運営会議、研究成果発表会、セミナー、国際シンポジウムを開催して、研究課題全体の情報交換・交流を行ったことによ

り、テーマごとの研究の促進とサブテーマ間の連携を強化することができた。また、中国科学院生物物理研究所、中国科

学院微生物研究所、中国農業科学院ハルビン獣医研究所との強力な協力関係を築き、東アジアを中心とした国際連携研究

の基礎を築いた。

■ 目 的

本研究課題では、(1)新興・再興感染症病原体の基礎的研究、(2)病原体宿主の特定と伝播経路の研究、(3)感染個

体における自然・獲得免疫応答の研究、(4)新興・再興感染症の診断・治療法の開発研究を推進する。これらの研究を推

進するには、個々の研究を有機的に連携させる必要がある。そのため、総括班は研究の方向性を見極め、研究計画を点

検しながら、個々の研究の情報を集約し、推進させることを任務とする。同時にこの総括班組織は、得られた新興・再興感

染症に関する知見をもとに、わが国の感染症対応ネットワークのシステムを強化し、リスクマネージメントにつなげる役割を

持つ。また、新興・再興感染症研究においてはSARS研究において明らかなように、中国等との国際連携が必要であるため、

総括班は国際連携研究を強力に推進する。さらに、感染症公開セミナーや研究室見学会等のアウトリーチ活動を行い、研

究者と一般の方々が直接意見交換する場を設けるなどして、感染症研究について最先端の取り組みや成果を広く知って

いただくことも目的の一つとしている。

■ 目 標

① 感染症研究に関する国内状況と国際動向に注意し、研究参画機関の総合調整をして研究全体を推進する。

② 国内外の研究協力機関と連携し、情報の交換、研究設備の提供等の協力体制を確立し、研究の促進を図る。

③ 国内外の関連研究機関と新規感染症出現時の共同研究体制確立のための条件に関する情報を収集する。

平成 17 年度より、本研究課題での取り組みや成果を一般に広報することにより社会に貢献するため、④の目標を新

規に追加した。

④ アウトリーチ活動を通して、新興・再興感染症制圧のための取り組みや成果を一般に広報する。

22

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 目標に対する結果

① 年間2回の運営会議と年間 1 回の研究成果発表会を開催するなどして、研究課題全体の情報交換・交流を行ったこ

とにより、テーマごとの研究の促進とサブテーマ間の連携を強化することができた。また、平成 16 年度に感染症国際

シンポジウムを、平成 17 年度に日中鳥インフルエンザシンポジウムを主催し、情報交換・研究交流の機会を作ったこ

とにより、研究を促進することができた。

② 中国科学院生物物理研究所、中国科学院微生物研究所、中国農業科学院ハルビン獣医研究所との強力な協力関係

を築き、国際シンポジウムの共催、研究者の相互訪問等を行うレベルにまで到達した。また、中国科学院上海生命

科学研究院や中国医学科学院/中国協和医科大学、ベトナム及び上海のパスツール研究所との交流を行い、東ア

ジアを中心とした国際連携研究の基礎を築いた。

③ 研究者を学会へ参加させたり、海外の優れた研究機関を訪問させるなどして、情報収集・交換を積極的に行ったこと

により、海外での感染症研究に関する最新情報を収集することができた。

④ アウトリーチ活動として、平成 17 年 8 月に医科学研究所において、主に高校生を対象とした感染症研究の公開セミ

ナー及び研究室見学会を開催した。公開セミナーには約 160 名、研究室見学会には約 30 名の参加者があった。本

セミナーは好評を博し、継続開催を望む意見が多く寄せられた。

■ 研究方法

研究の統括としては、感染症研究についての国内状況を常に把握し、且つアジアを中心とする国際動向に注目し、研

究参画機関との総合調整・修正を行った。具体的には、本研究課題内の研究者同士の連携を強化するため、年間 2 回の

運営委員会と年間 1 回の研究課題会議を開催した。また、海外の最新情報や研究動向を調査するため、海外の著名な感

染症研究者を招聘して国際シンポジウムを開催した。さらに、研究者を国際学会へ積極的に参加させた。

研究協力体制の確立としては、本研究課題の業務に必要な研究設備の提供・情報の交換等で協力を得られるよう、国

内外の研究協力機関との間で研究者が相互訪問し、緊密に情報交換や交流を行った。

アウトリーチ活動としては、新興・再興感染症制圧のための取り組みをどの様に行い、どういった形で社会に貢献していく

のかを、一般の方々に広く知っていただくために、公開セミナーを開催し、セミナー参加者の中から、特に感染症研究に興

味を持っている人を対象に研究室見学会を行った。

■ 研究成果

平成 16 年度は 7 月と 1 月、平成 17 年度は 6 月と 2 月、平成 18 年度は 6 月に運営委員会、平成 16 年 1 月と平成 17

年2月に研究成果発表会を開催して、研究課題全体の情報交換・交流を行ったことにより、テーマごとの研究の促進とサブ

テーマ間の連携を強化することができた。また、平成 16 年 3 月に、海外から 14 人の研究者を招聘して「感染症国際シンポ

ジウム:Symposium on emerging and reemerging infectious diseases」を、平成 17 年 2 月に、アメリカから 2 人、中国から 14

人の研究者を招聘して「第 2 回日中鳥インフルエンザシンポジウム」を主催し、情報交換・研究交流の機会を作ったことによ

り、研究を促進することができた。

中国科学院生物物理研究所、中国科学院微生物研究所、中国農業科学院ハルビン獣医研究所との強力な協力関係を

築き、国際シンポジウムの共催、研究者の相互訪問等を行うレベルにまで到達した。こうして築きあげてきた信頼関係、協

力関係をもとに、文部科学省「新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」において「中国との連携を基軸とした新興・再興

感染症の研究」を立ち上げることに貢献した。このプログラムは、日中が協力して感染症の研究を行うという、より具体的な

共同戦略となっている。また、中国科学院上海生命科学研究院や中国医学科学院/中国協和医科大学、ベトナム及び上

海のパスツール研究所との交流を行い、東アジアを中心とした国際連携研究の基礎を築いた。

研究者を学会へ参加させたり、海外の優れた研究機関を訪問させるなどして、情報収集・交換を積極的に行ったことに

より、海外での感染症研究に関する最新情報を収集し、本研究課題に資することができた。

23

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

アウトリーチ活動として、平成 17 年 8 月に医科学研究所において、主に高校生を対象とした感染症研究の公開セミナー

「ラブラボ」及び研究室見学会を開催した。公開セミナーには約 160 名の参加があり、アンケートをとったところ賞賛の言葉

や継続開催を望む意見が多く寄せられた。また、セミナー参加者の中から特に感染症研究に興味を持っている参加者を

対象に研究室見学会に招待したところ、約 30 名の参加者があった。参加者は実際の研究室内の様子を見たり、細胞を顕

微鏡で観察したり、そこで働く研究者と率直な意見交換をした。大変好評で、こうした機会はほとんど無いのでもっと作って

欲しい、と強い要望が多く寄せられた。

■ 考 察

本課題には、12 の研究機関からの 27 人の担当研究者が、6つのサブテーマにわかれて研究を行うという、非常に大規

模な研究グループとなっている。そのため、個々の研究項目の研究の促進を図るだけでなく、課題全体として促進を図るた

めには、サブテーマ内はもちろん、異なるサブテーマ間でも常に情報交換・交流の機会を持って連携していくことが重要と

なる。また、新興・再興感染症制圧のためには、国内だけに目を向けるのではなく、ここ数年の SARS や鳥インフルエンザの

流行状況から明らかなように、海外特にアジアから持ち込まれる危険性のほうが非常に高いため、国外の動向にも注目す

る必要がある。国外での流行状況、最新の研究内容を知るためには、研究者が海外の研究協力機関と緊密に連携し、感

染症研究の国際ネットワークを築くことが不可欠である。

本研究課題全体の業務を遂行するために、特にこの点に重点をおき、積極的に会議、セミナー、シンポジウムを開催し、

機会あるごとに、海外の研究協力機関と研究者の相互訪問を行い、研究者の学会への参加を奨励した。これらの活動は

全て本研究課題の躍進へとつながったと確信している。

■ 参考(引用)文献

該当なし

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許) 該当なし

24

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 1 報 (筆頭著者:0 報、共著者:1 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0 報、国外誌:0 報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:0 回、主催講演:0 回、応募講演:0 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Suzuki M., Mimuro H., Suzuki T., Park M., Yamamoto T. and Sasakawa C.: 「Interaction of CagA with Crk plays an

important role in Helicobacter pylori-induced loss of gastric epithelial cell adhesion」, J. Exp. Med., 202(9),

1235-1247, (2005)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

該当なし

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

該当なし

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

25

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

2. SARS 制圧に向けた国際研究 要旨

サブリーダー・笹月 健彦

SARS の病態解明と克服を目的とし、7 名の分担研究者が中国を始めとする国際間協力を行いながら研究を推進した。そ

のため SARS の予防法・診断法・治療法および重症化予防法の開発を柱とし、密接に連携した SARS 制圧のための包括的

研究システムを構築した。

診断法開発:SARSはインフルエンザなどと症状が類似するため、その診断法確立は極めて重要である。そこで岩本等は

診断法確立のため、SARS ウイルス遺伝子を特異的に検出する LAMP 法を利用したシステムを開発し、他の疾患との

識別を可能とした。

予防法・治療法の開発:SARS ウイルス感染の予防・治療にはワクチン療法、細胞性免疫活性化療法、抗体療法等が有

効と考えられる。清野等は、煩雑な接種法に頼らない経鼻や経口のワクチン投与法開発のため、上気道粘膜および

腸管上皮の免疫関連組織の解析を行った。さらに粘膜免疫の有効性を高めるための免疫増強因子を同定し、これら

を利用して簡便性および利便性を持った SARS ウイルスワクチン開発を進めている。松島等は SARS ワクチン開発のた

め、すでに多くの実績を持つ天然痘ワクチンを利用した SARS ワクチンウイルスを作製し、その有効性を動物実験で確

認した。西村等はウイルス感染症の防御に特に重要である細胞性免疫を誘導するためのSARSウイルス由来抗原を同

定した。さらにウイルス抗原に対する細胞免疫を刺激する方法も確立しており、これらを利用して細胞性免疫の活性化

を目指している。石田等は SARS ウイルスを中和するヒト型抗体を、ヒト型抗体産生組換えマウスを利用して開発してお

り、さらにヒト型抗体産生組換えウシ免疫に必要な大量の抗原を調整するためのシステムの開発に成功した。得られた

抗原はウイルス中和活性を持つ抗体を誘導することをヒト型抗体産生マウスを用いて確認した。引き続き大量の抗体

を調整し、中国と連携して、サルなどのよりヒトに近い動物でその治療・予防効果を検討する。

重症化予防法開発:笹月等は SARS 感染時に重症化例の患者と軽症で治癒した症例の患者の遺伝子型を比較し、特

定の OAS1 遺伝子型を持つ場合に重症化が起きていることを明らかにし、SARS ウイルス感染が発生した場合にリスク

の高い患者を識別する可能性が示された。SARS 患者では死亡に直結すると考えられる強い炎症像を伴う呼吸窮迫

症候群(ARDS)様症状が高頻度に発生する。神奈木等は、その発症機序の解明のため、SARS ウイルスの構成蛋白質

を強制発現させる細胞系を構築した。これらの細胞を利用して炎症関連遺伝子の発現の詳細を解析している。

本研究の成果は SARS のみならず今後発生する可能性のある新興・再興感染症に迅速に対するためのシステムを提供

するものとなろう。

26

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

22

2. SARS 制圧に向けた国際研究

2.1. SARS 重症化の分子機構の解明

2.1.1. SARS 発症・重症化関連遺伝子の同定

国立国際医療センター

笹月 健彦

■ 要 旨

我々は、これまでベトナム SARS 患者対照研究を実施し、SARS-CoV 感染症においてインターフェロン(IFN)誘導性抗ウ

イルス性タンパクである OAS1 遺伝子の exon3 A/G, exon6 A/G 一塩基多型(SNPs)のいずれも A allele が SARS-CoV 感

染に抵抗性を示すことを報告した。OAS1 遺伝子からはalternative splicing により 3 種の異なるOAS1 蛋白が産生されるが、

近、細胞のアポトーシスを誘導する p48 isoform に翻訳される 9-2 transcript が、intron5 の A allele から選択的に誘導さ

れる可能性が報告された。そこで、我々は、本年度、OAS1 exon3-intron5-exon6 SNPs の解析を行い、これらの SNPs が強

い連鎖不平衡にあり、A-A-A, G-A-A, G-G-G の 3 つの主要ハプロタイプから構成されることと、また、手術検体より単離培

養したヒト気道上皮細胞を用いて、splicing variant の発現様式を比較する RT-PCR 系を構築し、A-A-A, G-A-A でのみ、

9-2 transcript の発現が認められることを明らかにした。今後、OAS1 遺伝子由来の P48 isoform のヒト気道上皮における機

能的意義を明らかにするとともに、OAS1 遺伝子の発現調節機構と遺伝子多型との関連について、さらなる検討が必要で

ある。

■ 目 的

重症急性呼吸器症候群(SARS)は SARS コロナウイルス(SARS-CoV)感染により発症する新興感染症である。SARS-CoV

感染・発症・重症化に関わる要因としては病原体側の要因(ウイルス毒性など)、伝達経路(患者との接触度や感染防御対

策など)、および宿主側の要因(免疫能など)の問題がある。この中で、我々は、宿主要因、特に疾患感受性を規定する因

子として、自然免疫系の抗ウイルス蛋白群に注目し、解析を行った。I 型インターフェロン(IFN)は、ウイルス感染初期に産生

され、OAS1, PKR, MxA など IFN 誘導性抗ウイルス蛋白の産生を誘導する。我々はこれまでベトナム人 SARS 患者と接触対

照者および非接触ベトナム人対照者を対象に抗ウイルス蛋白遺伝子 OAS1, PKR, MxA の一塩基多型(SNP)と SARS 感染・

発症・重症化の関連解析を行い、OAS1 遺伝子 exon3 A/G SNP(rs3741981), exon6 A/G SNP(rs2660)が SARS-CoV 感染

に関連していると報告した(参考文献 1)。その後 Bonnevie-Nielsen らは、OAS1 遺伝子 exon6 の splice-acceptor site に

A/G SNP が存在し、この変異によって alternative splicing が起こり、3 種の mRNA が産生され、機能と大きさの異なる OAS1

蛋白が翻訳されることを報告した(参考文献 2)。OAS1 遺伝子からは E16, E18, 9-2 の 3 つの mRNA が産生されるが、こ

の intron5 に存在する A/G SNP が A allele であるとき exon6 の splice-acceptor site が変わることで 9-2 transcript および

新規に同定された E18D1(p52) transcript が産生されるものと推測される。この 9-2 transcript から翻訳される p48 isoform

は、C 末端側に Bcl-2 homology domain 3 を持ち、Bcl-2 ファミリーの抗アポトーシス作用を阻害することで、細胞のアポトー

シスを誘導すると考えられるため (参考文献 3)、我々は、この intron5 A/G SNP と exon3, exon6 A/G SNPs の分布と連鎖

不平衡の状態を検討し、手術検体より得られた、多くのヒト気道上皮細胞を単離培養し、OAS1 遺伝子の splicing variants

の発現パターンとこれらの SNPs の関連を解析することで、SARS 感染・発症・重症化病態における OAS1 遺伝子の意義に

ついて解明できると考え、検討を行った。

27

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 目 標

① SARS 感染・発症・重症化と関連が予想される候補遺伝子の変異をベトナム人の発症者より同定する。

■ 目標に対する結果

① ベトナムSARS患者対照研究を実施し、SARS-CoV感染症においてインターフェロン(IFN)誘導性抗ウイルス性タンパ

クである OAS1 遺伝子の exon3 A/G, exon6 A/G 一塩基多型(SNPs)のそれぞれ A allele が SARS-CoV 感染に抵抗

性を示すことを報告した[原著論文 1)]

■ 研究方法

1) ベトナム SARS 患者と接触対照者における intron5 A/G SNP(rs10774671)の解析

ベトナム人 SARS 患者 44 例、接触対照者として患者収容病院職員の非発症者 103 例を対象に解析を行った。対象者末

梢血から得られた DNA を用いて PCR-RFLP 法で intron5 A/G SNP を解析した。OAS1 intron5 に前方プライマー、exon6

に後方プライマーを設定し、PCR 法で得られた 532bp の増幅産物を制限酵素 Alu I に反応させた。アガロースゲル電気泳

動を行い 306bp のバンドを G、255bp のバンドを A と判定した。ハプロタイプ推定プログラム(PHASE ver2.1.1)を使用し、

OAS1 exon3 A/G(rs3741981), exon6 A/G SNP(rs2660)との組み合わせを決定した。

ベトナム人検体の使用に対しては、ベトナム保健省および当センター倫理委員会の承諾を受けて行われ、対象者に対し

ては書面による説明と同意が行われた。

2) ヒト気管支上皮細胞における OAS1 mRNA の発現の確認

気管支上皮細胞における抗ウイルス蛋白 OAS1 の遺伝子多型と splice variant の発現の差を確認する目的で、手術肺検

体から単離培養された気管支上皮細胞を用いて解析を行った。まず 99 例の手術肺より気管支上皮細胞を単離培養し、

DNA を抽出して OAS1 exon3 A/G, intron5 A/G, exon6 A/G SNP の OAS1 genotyping を PCR-RFLP 法を用いて行った。

次に、刺激を加えずに培養した気管支上皮細胞から RNA を回収し RT-PCR を行い、各ハプロタイプにおける OAS1

mRNA の発現を比較した。細胞培養は type I コラーゲンコートプレート(5x105cells/well)に BEGM 培地を用いて行い、

QIAGEN RNeasy Mini Kit を用いて RNA を回収した。Bonnevie-Nielsen らの方法に従い前方プライマーを exon5、後方プ

ライマーを exon6 上に設定し、PCR 反応を行った。アガロースゲル電気泳動で 417bp が E18 transcript, 416bp が E18D1

transcript, 319 bp が 9-2 transcript と判定した。

3) IFN 刺激時の各 OAS1 mRNA の発現比の検討

サイトカイン刺激により OAS1 mRNA の誘導パターンが変化するかを cell line を使い刺激培養実験で検討した。ヒト気道

上皮細胞株 NCIH292 細胞を 6 穴プレート(5x105cells/well)で培養し、90% confluent で IFN-γ (0.1ng/ml,10ng/ml),

IFN-β (100U/ml,1000U/ml), TNF-α (0.1ng/ml, 50ng/ml), 好中球エラスターゼ(10-8U/ml,10-6Uml), Lipopolysaccharide

(LPS) (1mg/ml,20mg/ml), Interleukin-13 (IL-13) (1ng/ml, 200ng/ml), Poly I:C (10_g/ml, 100_g/ml)の刺激を加え、24, 48

時間後に RNA を回収した。2)と同様の条件で PT-PCR を行い、アガロースゲル電気泳動のバンドパターンから OAS1 の各

mRNA の発現量を比較した。

また、exon3-intron5-exon6 の組み合わせは A-A-A, G-A-A, G-G-G の 3 種が推定されたため、各 OAS1 ハプロタイプ

をホモ接合体でもつ気管支上皮細胞を用いて IFN 刺激培養実験を行い、誘導される OAS1 mRNA の違いを解析した。細

胞培養は type I コラーゲンコートプレート(5x105cells/well)に BEGM 培地を用いて行った。90% confluent で IFN-alpha

(200IU/ml, 1000IU/ml), IFN-beta (100IU/ml, 1000IU/ml), IFN-gamma (0.1ng/ml, 10ng/ml), TNF-alpha (0.1ng/ml,

28

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

50ng/ml), polyIC(10_g/ml, 100_g/ml)の刺激を加え、24,48 時間後に RNA を回収した。OAS1 mRNA の検出を RT-PCR 法

を用いて行った。OAS1 の 4 種の transcript variant はそれぞれ exon6 の splice-acceptor site が異なるため(E16 のみ exon5

read through)、exon1 に前方プライマーを置き、後方プライマーは 3’末から 3 塩基以内に splice-accepter site が入る位置

に設定し、各 transcript variant を特異的に検出する系を作成した。得られた PCR 産物をアガロースゲル電気泳動で判定し

た。

手術検体の使用に関しては当センターの倫理委員会の承認を受けて行われ、患者に対しては書面による説明と同意の

取得が行われた。

■ 研究成果

1)ベトナム SARS 患者と接触対照者における intron5 A/G SNP(rs10774671)の解析

ベトナム SARS 患者 44 例と接触対照者 103 例全例で intron5 A/G SNP の分布パターンは exon6 A/G SNP の分布パタ

ーンと一致した(r2=1, D’=1)。また、exon3 A/G SNP とも強い連鎖不平衡を示した(r2=0.536, D’=0.935)。

exon3-intron5-exon6 の3座位によるハプロタイプとして、A-A-A, G-A-A, G-G-G の 3 種類が同定された。

2) ヒト気管支上皮細胞における OAS1 mRNA の発現

日本人気道上皮検体 99 例における OAS1 genotyping の結果、intron5 と exon6 A/G SNP の分布パターンは、日本人集

団でも完全に一致しており(r2=1, D’=1)、また exon3 と両者も強い連鎖不平衡がみられた(r2=0.25, D’=0.811)。ハプロタイプ

頻度は A-A-A 57.6%, G-A-A 20.2%, G-G-G 22.2%と推定された。各ハプロタイプを homozygote として保有する気管支上

皮細胞から得た mRNA の RT-PCR 結果、A-A-A, G-A-A ハプロタイプを保有する場合のみ 9-2 transcript のバンドが確

認された(図-1)。さらに、A-A-A, G-A-A ハプロタイプでは E18 transcript は認められなかったのに対し、E16 transcript の

発現は強く、G-G-G では逆に E18 の発現が認められたが、E16 の発現は低下していた。

3) IFN 刺激時の各 OAS1 mRNA の発現比

NCIH292 細胞(ハプロタイプ A-A-A/A-A-A)を用いた刺激実験では、OAS1 mRNA は IFN-beta, IFN-gamma,

TNF-alpha で発現の増強が認められた。この際、9-2 と E18/E18D1 の発現はともに増強した。これらの刺激によって、

splicing variant の発現パターンには大きな変化はみられなかった。

図-1 ヒト気管支上皮細胞のハプロタイプによる 9-2 transcript の発現のちがい

■ 考 察

ベトナム SARS 患者対症研究の結果、抗ウイルス蛋白遺伝子 OAS1 の exon3 A/G, exon6 A/G SNPs の A allele は

SARS-CoV 感染に対し抵抗性を示した。一般に、OAS1 は二本鎖 RNA の存在下で活性化され、RNase L を活性化し、局所

E18 / E18Δ1

9-2

A/A G/GA/A

53 67 70(sample No.)

(Haplotype)G-A-A/G-A-A G-G-G/G-G-G

RT-PCR

A-A-A/A-A-A

IFNβ Poly-IC IFNαL H L H

IFNβ Poly-IC IFNαL H L HL

IFNβ Poly-IC IFNαL H L HLC C C

29

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

およびウイルス RNA を分解し抗ウイルス活性を示すとされるが、新たに見いだされた intron5 A allele は、アポトーシス誘導

作用のある p48 isoform を選択的に誘導することで、疾患抵抗性に寄与している可能性が考えられたため、今回の検討で、

我々はまず intron5 A allele が、これまで疾患と関連を示した exon6 A allele と完全に連鎖不平衡にあることを確認し、さら

に、SARS 感染の場であるヒト気管支上皮細胞で、intron5 A allele を有する個体、すなわち exon3-intron5-exon6 が A-A-A

または G-A-A ハプロタイプを示す個体においてのみ、9-2 transcript が発現することを確認した。また exon5 を read

through した結果得られる transcript である、E16 も G-G-G と比較し A-A-A, G-A-A で発現が強く認められたため、variant

の発現パターンと機能解析、特に、p48 OAS1 蛋白が、気道上皮細胞のアポトーシスを誘導するか、今後、明らかにする必

要があるものと考えられた。

■ 参考(引用)文献

1. Hamano, E., Hijikata, M., Itoyama, S., Quy, T., Phi, N.C., Long, H.T., Ha, le D., Ban, V.V., Matsushita, I., Yanai,

H., Kirikae, F., Kirikae, T., Kuratsuji, T., Sasazuki, T., Keicho, N.: 「Polymorphisms of interferon-inducible genes

OAS-1 and MxA associated with SARS in the Vietnamese population.」, Biochem. Biophys. Res. Commun., 329,

1234-1239 (2005)

2. Bonnevie-Nielsen, V., Field, L.L., Lu, S., Zheng, D.J., Li, M., Martensen, P.M., Nielsen, T.B., Beck-Nielsen, H.,

Lau, Y.L., Pociot, F.: 「Variation in antiviral 2',5'-oligoadenylate synthetase (2'5'AS) enzyme activity is controlled

by a single-nucleotide polymorphism at a splice-acceptor site in the OAS1 gene.」, Am. J. Hum. Genet., 76,

623-633 (2005)

3. Ghosh, A., Sarkar, S.N., Rowe,T.M., Sen, G.C.: 「A specific isozyme of 2'-5' oligoadenylate synthetase is a dual

function proapoptotic protein of the Bcl-2 family.」, J. Biol. Chem., 276, 25447-2555, (2001)

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

30

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 1報 (筆頭著者:0 報、共著者:1報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0報、国外誌:0報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:1回、主催講演:0回、応募講演:0回

5. 特許出願 出願済み特許:0件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Hamano E, Hijikata M, Itoyama S, Quy T, Phi NC, Long HT, Ha le D, Ban VV, Matsushita I, Yanai H, Kirikae F,

Kirikae T, Kuratsuji T, Sasazuki T, Keicho N.: 「Polymorphisms of interferon-inducible genes OAS-1 and MxA

associated with SARS in the Vietnamese population.」, Biochem Biophys Res Commun., 329, 1234-1239, (2005)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

該当なし

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

1) Keicho, N. and T. Sasazuki: 「An international collaboration study on identification of risk factors for severe

manifestation of SARS in the Vietnamese population. Infection - symposium on emerging and reemerging infectious

diseases」, Tokyo, Japan, 2005

主催・応募講演

該当なし

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

31

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

該当なし

32

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

2. SARS 制圧に向けた国際研究

2.1. SARS 重症化の分子機構の解明

2.1 .2 . SARS 病態形成機序の解明

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 免疫治療学

神奈木 真理

■ 要 旨

SARS(Severe acute respiratory syndrome)コロナウイルス(CoV)感染では、約10%の感染者が病後期に重篤な呼吸不

全を起こす。重篤な呼吸不全は乳幼児よりもむしろ成人におこり、その病態は成人呼吸窮迫症候群(ARDS, adult

respiratory distress syndrome)に類似する。ARDS は、敗血症や重度熱傷、ショック等に続発する致死率の高い病態で、発

症機序は分かっていないが炎症性サイトカインの大量産生を伴うことが知られている。本研究で我々は、SARS CoV の

ARDS 誘発機序を調べるため、SARS CoV 各遺伝子の強制発現系を作成し、その炎症性遺伝子発現プロファイルおよびサ

イトカイン産生能への影響を検討し、炎症誘発に関与する SARS CoV 遺伝子を同定しその機序解析を行う。これは、同定さ

れた抗原を標的とする新たな重症化予防方法の開発につながることが期待される。

■ 目 的

本研究の目的は、SARS CoV 感染が ARDS 様の病態をひきおこす機序の解明である。

SARS CoV の出現以前にヒトで知られていたコロナウイルスは風邪のような予後の良い疾患をおこすウイルスであった。

SARS CoV 感染においても、感染者全てが重症化する訳ではなく不顕性に近い症例があり、小児の場合は概して軽症であ

る。しかし、重症化の割合(10%)は決して稀とは言えない数字であり、重症例にはそれまで健康であった成人も含まれる。

これらの事実は、SARS CoV で重症化が稀な特異体質やもともと免疫不全のある個体にのみおこるわけではないことを示し

ている。

SARS CoV 感染の重症化でおこってくる肺症状は、成人呼吸窮迫症候群(ARDS, adult respiratory distress syndrome)

に類似する。ARDS は、敗血症や重度熱傷、ショック等に続発し、急性に増悪する呼吸困難を特徴とする病態で致死率が

高い。発症機序は分かっていないが炎症性サイトカインの大量産生を伴い、鎮静化できない全身性の炎症反応の結果と

理解されている。ARDS が小児より免疫能の確立された成人に起こりやすいことも SARS と一致している。同様の病態は、

1977 年に香港で起こったヒトへの H5N1 インフルエンザウイルス感染で報告されており、病態形成機序の共通性が伺われ

る。

SARS の重症化は病後期すなわちウイルス量が減少し始める時期に認められることが多い。従って、この時期に何らかの

理由で激しい炎症反応のひきがねが引かれると考えられる。通常、ウイルス感染症でウイルス量が減少するのは細胞性免

疫応答により感染細胞が破壊されるためである。これらのことから、我々は、感染細胞に発現されるウイルス抗原のどれか

が強く炎症反応を誘導するのではないかと考えた。本研究の目的は、この仮説に基づき病態の本質である炎症を誘導する

ウイルス抗原の同定し、その炎症誘発機序を明らかにすることである。このような抗原は、感染後の重症化予防の治療標的

となり得る。

■ 目 標

① SARS コロナウイルス遺伝子の強制発現系の構築

② 細胞側の遺伝子発現プロファイルおよびサイトカイン産生能の解析

33

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

③ 炎症誘発に関与する候補遺伝子産物候補の同定

■ 目標に対する結果

① SARS コロナウイルス遺伝子の強制発現系の構築。 SARS CoV の部分的な cDNA を入手し(ベトナム由来株、長崎

大・熱研の森田博士から都立臨床研の小原博士を経由して分与された)、いくつかの SARS CoV 遺伝子断片をクロ

ーニングし、レンチウイルスベクターに組み込んだ(大臣確認実験申請を行い確認済み)。これをヒト上皮系の細胞

株に導入し発現に成功した。

② 細胞側の遺伝子発現プロファイルおよびサイトカイン産生能の解析。 機能的なアッセイ方法として、ヒト末梢血単

核球を用いた炎症性サイトカイン誘発実験系を作成した。HIV-1 Nef をモデル抗原として実験を行った結果、炎症

性サイトカイン産生が NK 細胞とマクロファージの協調により増幅されることが分かった。Nef の代わりに SARS CoV

遺伝子を導入した持続発現細胞株を作成中である。

③ 炎症誘発に関与する候補遺伝子産物候補の同定。 炎症性誘発能のスクリーニングとして、個々の SARS CoV の

遺伝子発現ベクターと種々の炎症性サイトカインの発現に関与する転写因子のレポーターを一過性に細胞に共導

入し、遺伝子発現プロファイルをルシフェラーゼ活性で検定した。これまでのところ、SARS CoV の S 蛋白およびウイ

ルス調節蛋白のいくつかに転写促進を認めた。この結果をまとめ論文投稿中である。

■ 研究方法

SARS coronavirus(SARS-CoV) (ベトナム由来株)遺伝子の部分的 cDNA は、長崎大・熱研の森田博士から都立臨床研

の小原博士を経由して入手した。この cDNA から特異的 primer pairs を合成し、これらを用いて、機能不明の非構造蛋白を

コードする X1, X2, X3, X4, X5 各遺伝子、ならびに構造蛋白である spike (S)および nucleocapsid (N)蛋白をコードする S, N

遺伝子を増幅した(図1)。これらの遺伝子をそれぞれクローニングベクターpENTER/D-TOPO(invitrogen 社)に組み込ん

だベクター(エントリークローン)を作成し、次いで、各エントリークローンの蛋白をほ乳類細胞で発現させるために LR 反応

により pLenti6/V5DEST ベクターとの組み替え体を作製した。

各発現ベクターをヒト由来培養細胞 293T 細胞に Lipofectamine2000 を用いて導入し、蛋白の発現をウエスタンブロッテイ

ング法で確認した。X1, X2, X3, X4, X5 各蛋白には V5-Tag を付加してあるので検出には抗 V5 抗体を、S, N 蛋白の検出

には抗 spike 抗体、抗 nucleoprotein 抗体(Zymed 社)を用いた。

炎症性サイトカインやケモカインの転写に必須の NF-kB のレポーターアッセイには、複数の NF-kB site を上流に持つ

luciferace 発現 plasmid と、作成した SARS-CoV 各遺伝子の発現 plasmid を 293T 細胞に導入し、luciferase の発光活性を

ルミノメーターで測定した。ウイルス遺伝子のかわりにGFP遺伝子を組み込んだpLenti6/V5DESTベクターをコントロールと

して用いた。

炎症反応を培養レベルで再現するための反応系の試作のため、健常人末梢血から単核球分画を分離し、種々の細胞

数の NK 感受性細胞 K562 と共培養を行い、培養液中に放出されるインターフェロン、TNF 、ケモカイン等を ELISA(R&D

社)で測定した。マクロファージ、NK 細胞等の分離には MACS 磁気分離法(第一化学社)を用いた。

34

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

S

X1

M

X3

N

X2 X4 X5

図-1 SARS CoV cDNA から調整した各遺伝子断片

35

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 研究成果

SARS-CoV の X1, X2, X3, X4, X5, S, N 各遺伝子を組み込んだレンチウイルスベクターを作成しヒト上皮系の 293T 細胞

株に導入した。それぞれの蛋白発現を western blotting 法により確認したところ、期待される位置に特異的バンドが確認さ

れた(図2)。

次に、種々の炎症性サイトカインおよびケモカインの転写に必須で ARDS 機序の中心的役割を果たすと考えられてい

る NF-kB 活性に対する SARS CoV 遺伝子の影響を調べた。293T 細胞に、SARS-CoV 遺伝子発現レンチウイルスベクター

と NF-kB レポータープラスミドを共導入したところ、NF-kB 活性を反映するルシフェラーゼ活性は X1-5 のうち 2 種類の遺

伝子を発現細胞で強く増幅された。さらに、これらの遺伝子を導入した細胞から、IL-8 や RANTES 等の代表的な炎症性ケ

モカインの産生が誘導されたことも確認した。この成果を英文論文にまとめ現在投稿中である。[原著論文 1)]

今後、上記 X 蛋白の解析のため必要となるリコンビナント蛋白の作成や蛋白精製についても、レトロウイルスの調節蛋白

を用いて研究技術が確立した。[原著論文 2), 3), 4)]

ヒト末梢血単核球を用いた炎症性サイトカイン誘発系をデザインし、HIV-1 Nef をモデル抗原として実験した検討した結果、

NK 細胞とマクロファージが協調して炎症性サイトカインを増幅させることが分かった。この成果は平成 17年の日本ウイルス

学会とエイズ学会で発表した[原著論文 1), 2)]

。 この方法は、今後、炎症誘発を試験管レベルで検定する際に有用である。

45

31

21

14

KD

6

WB: anti-V5

X1 X2 X3 X4 X5

図-2 SARS CoV 各遺伝子を導入した 293T 細胞のウイルス抗原発現

■ 考 察

SARS-CoV の S 蛋白は糖鎖を多量に含むので炎症誘起性や抗原性が高いことが予想されていたが、X 蛋白のような非

構造蛋白が炎症誘発能をもつことはこれまで報告が無く、本研究で新たに発見された事である。特に NF-kB 活性化は

ARDS 発症の中心的役割を担うと考えられている機序であり、NF-kB が SARS-CoV のウイルス蛋白で強く活性化される事

実は、SARS-CoV 感染で ARDS が引き起こされる機序に関連すると思われる。これらの蛋白がウイルス粒子の中に取り込ま

れるか否かは明らかでないが、感染細胞においては発現することが知られている。従って、病後期に感染細胞が免疫応答

によって破壊されはじめると血中に遊離してくる可能性がある。今後、これらの蛋白を発現した細胞内での変化を網羅的に

調べると共に、蛋白としての機能、さらに生体レベルの影響を検定する実験系を作成し、炎症抑制方法の開発へ発展させ

36

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

たい。

■ 参考(引用)文献

1. Moine, P., R. et al.: 「NF-kappaB regulatory mechanisms in alveolar macrophages from patients with acute

respiratory distress syndrome」, Shock, 13, 85-91, (2000)

2. Marra, M. A., et al.: 「The Genome sequence of the SARS-associated coronavirus」, Science, 300, 1399-1404,

(2003)

3. Rota, P. A., et al.: 「Characterization of a novel coronavirus associated with severe acute respiratory syndrome」,

Science, 300, 1394-1399, (2003)

4. Peiris, J. S., et al. : 「Clinical progression and viral load in a community outbreak of coronavirus-associated SARS

pneumonia: a prospective study」, Lancet, 361, 1767-1772, (2003)

5. Law, H. K., et al.: 「Chemokine up-regulation in SARS-coronavirus-infected, monocyte-derived human dendritic

cells」, Blood, 106, 2366-2374, (2005)

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

37

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 4 報 (筆頭著者:0 報、共著者:4 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:2 報、国外誌:1 報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:2 回、主催講演:0 回、応募講演:2 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Nishigaki, T. Hayashi, N. Kanzawa, S. Furukawa, F. Yasui, M. Kohara, K. Morita, K. Matsushima, M. Q. Le, T.

Masuda, and Kannagi,M.: 「Augmentation of inflammatory chemokine production by severe acute respiratory

syndrome coronavirus (SARS-CoV) X1 and X4 proteins through NF-kB activation」, submitted to Journal of

Virology, (2006) (投稿中)

2) Kubo, M., Nishituji, H., Kurihara, K., Hayashi, T., Masuda, T. and M. Kannagi: 「Suppression of human

immunodeficiency virus type 1 replication by arginine deiminase of Mycoplasma arginini」, J. Gen. Virology, 87,

1589-1593, (2006)

3) Kurihara, K., Shimizu, Y., Takamori, A., Harashima, N., Noji, M., Masuda, T., Utsunomiya, A., Okamura, J. and

Kannagi, M.: 「 Human T-cell leukemia virus type-I (HTLV-I)-specific T-cell responses detected using

three-divided glutathione-S-transferase (GST)-Tax fusion proteins」, J. Immunol. Methods. (2006) (印刷中)

4) Harashima, N., Tanosaki, R., Shimizu, Y., Kurihara, K., Masuda, T., Okamura, J., and Kannagi,M.:

「Identification of Two New HLA-A*1101-restricted Tax Epitopes Recognized by Cytotoxic T-lymphocytes in an

Adult T-cell Leukemia Patient after Hematopoietic Stem Cell Transplantation」, J. Virol., 79, 10088-1009, (2005)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1) M. Kannagi, N. Harashima, K. Kurihara, T. Ohashi, A. Utsunomiya, R. Tanosaki, M. Masuda, M. Tomonaga, J.

Okamura: 「Tumor immunity against adult T-cell leukemia」, Cancer Sci., 96, 249-255, (2005)

2) 神奈木真理: 「レトロウイルス感染症」 臨床免疫学(上)-基礎研究の進歩と 新の臨床-(山本一彦編)日本臨

床社、pp508-516, (2005)

国外誌

1) M. Kannagi, T. Ohashi, N. Harashima, S. Hanabuchi, A. Hasegawa: 「Immunological risks of adult T-cell

leukemia at primary HTLV-I infection」, Trends in Microbiology, 12, 346-352, (2004)

書籍出版

38

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

1) Kannagi,M.: 「A Crossing of Infection and Tumor Immunity against Adult T-cell Leukemia」, Sapporo,Japan-US

collaborative meeting for cancer immunosurveillance and cancer vaccine clinical trials, 2005.8.19

2) 神奈木真理:「成人 T 細胞白血病の発症予防と免疫治療の展望」, 熊本, 第 19 回日本エイズ学会シンポジウム,

2005.12.2

主催・応募講演

1) 「非特異免疫に対する HIV-1 Nef の影響」, 横浜, 第 53 回日本ウイルス学会, 2005.11.

2) 「NK 活性とサイトカイン産生に対する HIV-1 Nef の影響」, 熊本, 第 19 回日本エイズ学会, 2005.12.

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

39

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

2. SARS 制圧に向けた国際研究

2.2 . SARS 感染症診断法の確立

国立大学法人東京大学医科学研究所感染症分野

岩本 愛吉

■ 要 旨

臨床的にSARSに酷似した急性呼吸器感染症は数多く、SARSの鑑別診断のためには病原体の特定は極めて重要であ

る。本研究ではLAMP核酸増幅法による病原体核酸同定法を開発し、鑑別上重要な病原体の検出を可能とすることを目的

とする。SARS-コロナウイルス、ヒトコロナウイルス、肺炎マイコプラズマ、インフルエンザウイルス(A型とB型)について、

LAMP法に用いるプライマー・セットを考案し、病原体核酸を至適濃度の蛍光色素存在下でリアルタイム検出できる系を確

立した。蛍光色素標識によって核酸合成を検出する際、目視ではなく客観的に検出できるようになり、キメラ核酸を用いて

設計したプライマーの感度を相互比較する系を確立できたので、感度を調整した機械化が可能になるかもしれない。RNA

ウイルスは変異が豊富であるので、すべてのウイルスを検出できるかどうかは今後の課題の一つである。ヒトメタニューモウ

イルスなどの病原体核酸を同定できるようにする予定である。冬期にインフルエンザ様症状を呈した患者の鼻咽頭から検

体を収集したのでこれら用いて診断法の有用性を確認する予定である。

■ 目 的

臨床的にSARSに酷似した急性呼吸器感染症は数多く、病原体の鑑別診断は極めて重要である。病原体検査では、ウイ

ルスや細胞内寄生菌、特殊な培養を要するマイコプラスマ等は、通常の喀痰検査で診断できない。また、インフルエンザウ

イルスについては、咽頭ぬぐい液の抗原検査、肺炎球菌やレジオネラ症では尿中抗原検査などが実用化されているが、検

査材料、方法など全く異なっている。医療現場においては、同じ検体を用いて、同じ方法(手技)で多数の異なった病原体

が同定できれば極めて有用である。SARSコロナウイルス(SARS-CoV)に関しては、喀痰を用いた簡便かつ鋭敏な核酸検

出法であるLAMP法が実用化された。LAMP法は、定常温度で核酸増幅が可能なため、簡単な装置で行うことができる。本

研究は、SARSと鑑別を必要とする急性呼吸器感染症の起因病原体を中心に、LAMP法による病原体診断を開発し、同一

手技により、多数の重要な病原体の鑑別を可能とすることを目的とする。

■ 目 標

① LAMP核酸増幅法と蛍光色素による核酸検出法を組み合わせて迅速に核酸増幅をリアルタイムにモニターできる系

を確立する。

② 検出までの時間を従来の目視法ではなくコンピューターによる客観的な方法で表す方法を確立する。

③ その方法によって設計したプラマーの感度・特異度を客観的に比較する系を確立する。

④ 臨床検体を用いて上記の診断法の臨床的なfeasibilityと有用性を確認する。

40

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 目標に対する結果

① SARS-コロナウイルス(SARS-CoV)のみならず、SARS 類似の呼吸器疾患(ヒトコロナウイルス(hCoV)、肺炎マイコプ

ラズマ、A 型インフルエンザウイルス(H3N2 および H1N1)、B 型インフルエンザウイルス)について、LAMP 法に必

要なプライマー・セットを考案し、標準標品の病原体核酸が至適濃度の蛍光色素存在下でリアルタイム検出可能な

ことを確認した。

② 蛍光色素標識によって核酸合成を検出する際、蛍光強度が核酸増幅に従って上昇するまさにその上昇開始タイム

ポイントを客観的に判断するアルゴリズムを開発できた。

③ キメラ核酸を用いて設計したプライマーの感度を相互比較する系を確立できた。

④ 冬期にインフルエンザ様症状を呈した患者の鼻咽頭から検体を収集した。

■ 研究方法

コンピュータプログラムを利用しつつも、実際には試行錯誤的にSARS-CoV、hCoV(229E株)、肺炎マイコプラスマ、A型イ

ンフルエンザウイルス(H3N2およびH1N1)、B型インフルエンザウイルスについて、LAMP法に必要なプライマーを少なくと

も数セットずつデザインした。これらを用いてLAMP法で標準株病原体の核酸が特異的に30分以内に増幅可能かどうか蛍

光色素(SYBR Green)検出法で確認した。至適蛍光色素濃度は実験的に定めた。

設計したプライマーの感度を相互に比較するためには、比較対象の基準となる核酸が必要であるので、p24(HIV-1 由来)

の断片を基準断片とした。基準 p24 断片と標的微生物の標的領域を連結させたキメラ核酸を試験管内で T7 RNA ポリメ

ラーゼで合成し感度比較基準核酸とした。この感度比較基準核酸の10倍希釈系列を作製して LAMP 法で検出されなくな

る限界希釈度をそれぞれのプライマーセットで求め感度の比較に使った。

■ 研究成果

① SARS-CoV、hCoV、肺炎マイコプラスマ、A 型インフルエンザウイルス(H3N2 および H1N1)、B 型インフルエンザウ

イルスについて、LAMP 法に必要なプライマーを考案し、標準品の病原体核酸が特異的に増幅可能なことを確認し

た。インフルエンザウイルスについては A 型インフルエンザウイルス特異的プライマーセット、B 型ウイルス特異的プ

ライマーセット、及び、A 型 B 型とも検出可能な汎用セットの3種類がデザインできた。

② 蛍光色素標識によって核酸合成を検出する際、検出までに必要な時間を蛍光強度の時間微分を用いて算定する

アルゴリズムを開発した。これをコンピュータプログラムとして作成しLAMP法で汎用的に利用できるようにした。

③ 設計したプラマーの感度を客観的に比較する系を確立できた:SARS-CoV、hCoV、肺炎マイコプラスマ、A型インフ

ルエンザウイルス(H3N2およびH1N1)、B型インフルエンザウイルスについて、p24検出LAMPプライマーセットよりも

高感度のプラーマーセットが少なくとも1種類はあった。

④ 冬期にインフルエンザ様症状を呈した患者の鼻咽頭から検体を収集した。これら用いて診断法のfeasibilityと有用

性を確認する予定である。

■ 考 察

① SARS-コロナウイルス(CoV)のみならず、SARS 類似の呼吸器疾患(ヒトコロナウイルス(hCoV)、肺炎マイコプラズマ、

肺炎クラミジア、A 型インフルエンザウイルス(H3N2 及び H1N1)、B 型インフルエンザウイルス)について、同じ LAMP

法という手段で検査できるようにした。各病原体に対して感度も特異度も高いプライマーセットを少なくとも1つデザイン

できた。 RNA ウイルスは変異が豊富であるので、全ウイルスを検出できるかは今後の課題の一つである。ヒトメタニュ

ーモウイルス、肺炎クラミジア、RS ウイルス、パラインフルエンザウイルスの検出も今後の検討課題である。

41

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

② 蛍光色素標識によって核酸合成を検出する際、目視ではなく客観的に検出できるようになったので機械化が可能に

なるかもしれない。

③ キメラ核酸を用いて設計したプラマーの感度を相互比較する系を確立できたので試薬や器具のロット差によらず正

確に感度が比較できるようになった。異なる施設間での診断結果を解釈する場合に有用であろう。

④ 冬期にインフルエンザ様症状を呈した患者の鼻咽頭から検体を収集した。これら用いて診断法のfeasibilityと有用性

を確認する予定である。

■ 参考(引用)文献

該当なし

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

42

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 0 報 (筆頭著者:0 報、共著者:0 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:1 報、国外誌:0 報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:0 回、主催講演:0 回、応募講演:1 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

該当なし

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1) Takeshi Fujii, Tetsuya Nakamura, and Aikichi Iwamoto.: 「Current Concept of SARS Treatment.」, J Infect

Chemother., 10(1), 1, (2004)

国外誌

該当なし

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

該当なし

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

43

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

2. SARS 制圧に向けた国際研究

2.3. SARS ワクチンの開発

2.3.1. ワクチニアウイルスを用いた SARS ワクチンの開発

国立大学法人東京大学大学院医学系研究科分子予防医学

松島 綱治

■ 要 旨

痘瘡ワクチンとして日本国内で使用され、安全性が確立しているワクシニアウイルス弱毒株 LC16m8 株を親株として使用

し、SARS-CoV の spike 蛋白質を発現する組換えワクシニアウイルス(RVV-S) を作製し、SARS ワクチンとしての効果を検

討した。 RVV-S を接種したウサギにおいて早期から高力価の SARS-CoV に対する中和抗体が誘導されることが明らかに

なった。また、RVV-S を再接種することにより、ブースト効果も確認された。さらに、痘瘡ワクチンであるワクシニアウイルス

LC16m8 株を既に 2 回接種したウサギに対して RVV-S 接種を行った結果、LC16m8 株の接種により非常に高力価のワクシ

ニアウイルスに対する中和抗体が存在する状態(1:4000)であるにもかかわらず、RVV-S は SARS-CoV に対する中和抗体

を誘導し、これらの個体に誘導された SARS-CoV に対する中和抗体価は RVV-S を単独接種した群と同等であることが判

明した。これらの結果より、RVV-S は SARS の再流行時に短期間にワクチン効果を示し、かつ痘瘡ワクチンを接種している

人々に対しても有効なワクチンとなり得ると考えられる。

■ 目 的

急性ウイルス性疾患の流行を阻止する手段として も効果的な手段はワクチンによる予防である。SARS は感染患者の

血清の接種により感染防御が成立することから、SARS-CoV に対する中和抗体を誘導できるワクチンは効果的であると考え

られる。組換えワクシニアウイルスは既に狂犬病ウイルスやリンダペストウイルスに対する組換え生ワクチンとして野外試験

が実施されており、その感染発症予防効果の優秀性が証明されている。本研究では痘瘡ワクチンとして日本国内で使用さ

れ、安全性が確立しているワクシニアウイルス弱毒株 LC16m8 株を親株とする SARS に対する組換えウイルスワクチンの作

製を目的とする。

■ 目 標

① SARS-CoV の spike 蛋白質を発現する組換えワクシニアウイルスを作製し、その SARS-CoV 感染に対するワクチン効

果を検討する。

② SARS-CoV の全構造蛋白質を発現する組換えワクシニアウイルスを作製し、そのワクチン効果を比較・検討する。

■ 目標に対する結果

① SARS-CoV の spike 蛋白質を発現する組換えワクシニアウイルス(RVV-S)の作製に成功した。また、RVV-S は接種動

物に対して、SARS-CoV の spike 蛋白質に対する結合抗体を誘導し、その抗体は SARS-CoV に対して強い中和活性

を示すことを明らかにした。

② SARS-CoV の構造蛋白質である spike、membrane、nucleocapsid、envelope を同時に発現する組換えワクシニアウイル

44

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

スを作製した。

■ 研究方法

SARS-CoV(Vietnam/NB-04/2003 株)のウイルスゲノムより、spike 蛋白質遺伝子をクローニングし、相同組換え用プラス

ミドベクターに挿入した(pSFJ1-10/SARS-S)。LC16m8 株を感染させたウサギ初代腎臓細胞内に pSFJ1-10/SARS-S を導

入し、LC16m8 株のヘマグルチニン遺伝子領域で相同組換えを引き起こさせ、SARS-CoV の spike 蛋白質を発現する組換

えワクシニアウイルス(RVV-S)を作成した。RVV-S 感染による spike 蛋白質の発現は western blot 法により解析した。動物

への接種はウサギに対して行い、106~108 PFU の RVV-S を day0、42 に皮内より接種し、接種から 1 週間ごとに採血を行

い、血清を得た。また、別の群では 108 PFU の LC16m8 を 2 回接種したウサギに対して、108 PFU の RVV-S の追加接種を

行った。血清の spike 蛋白質に対する結合能は ELISA により、SARS-CoV、ワクシニアウイルスに対する中和活性は in vitro

neutralizing assay により解析した。

■ 研究成果

LC16m8 株を親株として、SARS-CoV の spike 蛋白質遺伝子を導入した組換えワクシニアウイルス(RVV-S)は正常に糖

鎖修飾を受けた spike 蛋白質(約 180kDa)を大量に発現可能であることを示した。108 PFU の RVV-S を接種したウサギは、

spike 蛋白質の複数の中和エピトープに対して結合抗体を誘導すること、早期(接種後 1 週間)にかつ高力価の SARS-CoV

に対する中和抗体(1:100)を誘導すること、2 回接種することによりブースト効果が得られること、SARS-CoV だけでなく、ワ

クシニアウイルに対しても中和抗体を誘導することを明らかにした。また、107 PFU の RVV-S を接種したウサギは 108 PFU

の RVV-S を接種したウサギと同等の SARS-CoV 中和抗体が誘導されること、106 PFU の RVV-S を 2 回接種したウサギは、

高力価(1:300)のSARS-CoVに対する中和抗体が誘導されることを明らかにした。さらに、前もって LC16m8 株を2 回接種

することにより、高力価のワクシニアウイルスに対する中和抗体(1:4000)が存在するウサギにおいても RVV-S は

SARS-CoV に対する中和抗体を誘導すること、その中和抗体価は RVV-S 単独接種群と同等であることを明らかにした[原著

論文 1)]。

■ 考 察

本研究において作製した組換えワクシニアウイルスによる SARS ワクチンは SARS-CoV に対して早期に高力価の中和抗

体を誘導できることから、SARS の再流行が起こった際にも即時に対応できる可能性が示された。また、spike 蛋白質の複数

の中和エピトープに対する抗体を誘導することから、ウイルス変異を起こした異なる variant に対しても中和活性を持つこと

が期待できる。さらに、RVV-S を 2 回接種することにより、ブースト効果が認められることから、接種量を減らすことが可能で

あり、供給人数を増やすことができると予想される。痘瘡ワクチンとしてワクシニアウイルスを接種している人々に対して、

RVV-S はワクチン効果が減弱する可能性が考えられたが、RVV-S は高力価のワクシニアウイルスに対する中和抗体を保

持するウサギに対しても、ナイーブなウサギと同様にSARS-CoVに対する中和抗体を誘導することが明らかとなった。よって、

SARS による致死率の高い高齢者(義務接種により痘瘡ワクチンを接種している)に対しても効果的な SARS ワクチンとなるこ

とが示唆される。今後は RVV-S のワクチン効果を in vivo で証明する必要があるため、RVV-S を接種した個体に対する

SARS-CoV の感染防御実験を行う予定である。

■ 参考(引用)文献

1. Sugimoto,M., Yasuda, A., Miki, K., Morita, M., Suzuki, K., Uchida, N. and Hashizume, S.:「Gene structures of

low-neurovirulent vaccinia virus LC16m0, LC16m8, and their Lister original (LO) strains」, Microbiol Immunol.,

29, 421-428, (1985)

2. Ohishi, K., Inui, K., Barrett, T. and Yamanouchi, K.:「Long-term protective immunity to rinderpest in cattle

following a single vaccination with a recombinant vaccinia virus expressing the virus haemagglutinin protein」,

45

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

J.Gen.Virol., 81, 1439-1446, (2000)

3. Jin, N.Y., Funahashi, S. and Shida, H.:「Constructions of vaccinia virus A-type inclusion body protein, tandemly

repeated mutant 7.5 kDa protein, and hemagglutinin gene promoters support high levels of expression」, Arch Virol.,

138, 315-330, (1994)

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

1) 平成 5 年1月21日, 「ポックスウイルスのA型封入体(ATI)プロモーター及び前期プロモーターを含んで成る外

来遺伝子発現ベクター」, 舟橋 真一 外2名, 志田 壽利, 特許公開平6-237773

ワクシニアウイルスの相同組換え用ベクターおよび発現プロモーターに関する特許

46

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 1 報 (筆頭著者:0 報、共著者:1 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0 報、国外誌:0 報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:1 回、主催講演:0 回、応募講演:5 回

5. 特許出願 出願済み特許:1 件 (国内:1 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表

1) Kitabatake, M., Inoue, S., Yasui, F., Yokochi, S., Arai, M., Morita, K., Murai, F., Shida, H., Kidokoro, M., Le,

M.Q., Matsushima, K. and Kohara, M.:「SARS-CoV spike protein-expressing recombinant vaccinia virus efficiently

induces neutralizing antibodies in rabbits pre-immunized with vaccinia virus」, Vaccine, (2006) submitted 1)

2. 原著論文による発表

該当なし

3. 原著論文以外による発表

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

1) 松島綱治:「組換えワクシニアウイルスによる SARS ワクチンの開発」, 東京, 第 80 回日本感染症学会, 2006.4.21

主催・応募講演

1) 北畠正大,安井文彦,井上真吾,森田公一,鮫島由紀恵,村井深,水野喬介,木所稔,志田壽利,松島綱治,小原道

法:「組換えワクシニアウイルスによる SARS ワクチンの開発」, 札幌, 第 8 回日本ワクチン学会, 2004.10.9

2) 北畠正大,安井文彦,井上真吾,森田公一,鮫島由紀恵,村井深,水野喬介,木所稔,志田壽利,橋本真一,松島綱治,

小原道法:「ワクシニアウイルス弱毒株 LC16m8 株を用いた SARS ワクチンの開発」, 横浜, 第 52 回日本ウイルス

学会, 2004.11.21

3) 北畠正大,橋本真一,松島綱治,小原道法:「SARS 遺伝子組換えワクシニアウイルスによるワクチン効果の検討」,

札幌, 第 34 回日本免疫学会. 2004.12.1

4) 安井文彦,北畠正大,新井正明,井上真吾,森田公一,横地祥司,鮫島由紀恵,村井深,水野喬介,木所稔,志田壽利,

橋本真一,松島綱治,小原道法:「SARS コロナウイルスの構造蛋白質を発現する組換えワクシニアウイルスの作製

及びワクチン効果の検討」, 東京, 第 4 回分子予防環境医学研究会. 2004.12.20

5) Kitabatake M, Yasui F, Inoue S, Morita K, Murai F, Kidokoro M, Mizuno K, Shida H, Matsushima K and Kohara

M:「Development of SARS vaccine using recombinant vaccinia virus derived from LC16m8」, Baltimore, Eighth

Annual Conference on Vaccine Research, 2005.5.9

47

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

5. 特許等出願等

1) 特願 2004-296734

6. 受賞等

該当なし

48

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

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2. SARS 制圧に向けた国際研究

2.3. SARS ワクチンの開発

2.3.2 . 粘膜免疫応答の基礎研究

国立大学法人東京大学医科学研究所炎症免疫学分野

清野 宏

■ 要 旨

1)上気道粘膜に存在する上気道粘膜の要である鼻咽頭関連組織(NALT)の組織形成の分子・細胞メカニズムの特異性

への CXC-R3 の関与について、そのリガンド分子も含めて検討を進めた。腸管上皮細胞層に存在する抗原取り込み能を

有する M 細胞について細胞同定・単離法を駆使してその解析を進めた。

2)粘膜感染性細菌由来の免疫増強分子に関して人為的アミノ酸置換導入による無毒化型アジュバントであるmCT とキメ

ラ型(mCT-A/LT-B)、無毒化志賀毒素アジュバントについての免疫応答増強効果メカニズムなどについて検討した。

■ 目 的

1)鼻咽頭関連リンパ組織(NALT)構築におけるケモカイン/同レセプター、特に CXC-R3 を介したシグナルの重要性を同

遺伝子欠損マウスを駆使して明らかにしていく。また、NALT を含めた鼻腔上皮細胞層に M 細胞様の細胞が存在すること

が示唆されているので、その詳細な解析を進める。

2)毒素由来無毒化・キメラ型アジュバントの安全性と免疫増強効果をマウス、サルで検討し、第三世代アジュバントの開発

を進める。また、粘膜特異的 IL-15 発現マウス(IL-15Tg)を作製し、自然免疫系の活性化について検討を進める。

■ 目 標

① 呼吸器・消化器粘膜機構における抗原取り込みとそれに関連する粘膜関連リンパ組織の発達と関与について基礎

的解明を進め、SARS の侵入とそれに対する粘膜免疫応答についての基礎的情報を提供する。

② A. SARS ワクチン(例:経鼻ワクチン)の実現化に向けて、その効果・効率を高める為に必要な粘膜アジュバント・粘膜

免疫調節因子の開発を進める。

B. SARS ウイルスやインフルエンザウイルスなど呼吸器感染に対する粘膜ワクチン開発に向けてその簡便性、利便

性、容易性などの観点から経口ワクチンの開発の基礎研究を進める。

■ 目標に対する結果

① 1) 鼻咽頭関連リンパ組織(NALT)における CXC-R3 を介したシグナルの重要性が示唆された。

2) NALT を含めた鼻腔上皮細胞層の M 細胞様について検討する技術が開発された。

② 1) 毒素由来無毒化/キメラ型及び無毒化志賀毒素アジュバントの安全性と免疫増強効果を検討した[原著論文 1)]

2) 粘膜特異的 IL-15 発現マウス(TL-15Tg)を作成して検討を開始した。

■ 研究方法

1)上気道粘膜に存在する上気道免疫の要である鼻咽頭関連リンパ組織(NALT)の組織形成ならびに構築の分子・細胞メ

49

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

カニズムのユニーク性について同誘導細胞ならびにケモカイン/同レセプターの関与について、そのリガンドも含めて、腸

管パイエル板と比較しながら検討を進めた。さらに NALT を含めた鼻腔上皮細胞層に存在する抗原取り込み能を有する M

細胞について、その免疫生物学的解析を行った。

2)粘膜感染性細菌由来免疫増強分子(コレラ毒素、易熱性毒素)に関して人為的アミノ酸置換導入による無毒化変異型

アジュバントであるmCT とキメラ型(mCT-A/LT-B)について、その免疫応答増強効果メカニズムなどについて検討を進め

た。また IL-15 について自然免疫系を介した粘膜系 IgA 抗体産生活性化機能や傷害性 T 細胞誘導能について、その応

用性も含めて in vitro と in vivo 両方の系で検討を進めた。

■ 研究成果

① SARS ウイルスの主なる侵入門戸と考えられる呼吸器粘膜面からの抗原取り込み・侵入メカニズムについての情報は

以前少ない。引き続き、上気道粘膜に存在する NALT の組織形成の分子・細胞のメカニズムの特異性について、特

に CXC-R3 の関与についてそのリガンド分子も含めて、腸管パイエル板と比較しながら検討を続けた。さらに NALT

を含めた鼻腔上皮細胞層に存在する M 細胞について、これまでに確立した細胞同定・単離法を駆使して解析を進

めた。

②粘膜感染性細菌由来免疫増強分子(コレラ毒素、易熱性毒素、志賀毒素)に関して人為的アミノ酸置換導入による無

毒化変異型アジュバントであるmCTとキメラ型(mCT-A/LT-B)及びmstx1stxB1について、その免疫応答増強効果メ

カニズムなどについて検討を進めるとともに、第三世代とも言える改良型アジュバント開発を進めた。また、引き続き上

皮細胞由来 IL-15 について、粘膜免疫を介した免疫増強効果を検討した。特に IL-15 について自然免疫系を介した

粘膜系 IgA 抗体産生活性化機能や傷害性 T 細胞誘導能について、その応用性も含めて in vitro と in vivo 両方の

系で検討を進めた。

■ 考 察

消化器粘膜免疫機構における抗原取り込みとそれに関連する粘膜関連リンパ組織の発達と関与について基礎的解明

を進め、その応用として SARS の侵入とそれに対する粘膜免疫応答について基礎的情報を提供していく。

SARS粘膜ワクチン(例:経鼻ワクチン)の実現化に向けて、その効果・効率を高める為に必要な粘膜アジュバント・粘膜免

疫調節因子の開発を進める。特に安全性を考えた時、生ワクチンではなくリコンビナント精製タンパク(例:S 蛋白)を使用で

きることが期待される。今日我々は無毒化志賀毒素及び志賀毒素Bサブユニットにアジュバント効果を見いだした。そこで、

粘膜関連微生物由来免疫増強分子や粘膜系サイトカインなどに的を絞りその探索、開発を今後も進める。

これらのアジュバントを用いてSARSウイルスやインフルエンザウイルスなど呼吸器感染に対する粘膜ワクチン開発を進め

るとともにその簡便性、利便性、容易性などの観点から経鼻ワクチンの他に経口ワクチンの開発も考慮していく。HA 抗原、

S 蛋白抗原の効果的経口ワクチンデリバリー法の開発に向けた基礎研究を進める。

■ 参考(引用)文献

1. Ueta M, Hamuro J, Kiyono H, Kishonishita S.:「Triggering of TLR3 by polyI:C in human corneal epithelial cells to

induce inflammatory cytokiines」, Biochem. Biophys. Res. Commun., 331, 285-294, (2005)

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

50

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

該当なし

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 1報 (筆頭著者:0 報、共著者:1 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:1報、国外誌:1報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:0 回、主催講演:0 回、応募講演:0 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Ohmura M, Yamamoto M, Tomiyama-Miyaji C, Yuki Y, Takeda Y, Kiyono H.: 「Nontoxic Shiga toxin derivatives

from Escherichia coli possess adjuvant activity for the augmentation of antigen-specific immune responses via

Dendritic cell activation」, Infect. Immun., 73, 4088-4097, (2005)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1) 幸 義和、清野 宏:「新興再興感染症のためのワクチン」, 細胞工学, vol.23 No.7, 801-805, (2004)

国外誌

1) Kunisawa, J., Fukuyama, S.and Kiyono, H.. :「Mucosa-associated lymphoid tissues in the aerodigestive

tract:their shared and divergent traits and their importance to the orchestration of the mucosal immune system」,

Current Mol. Med., 5, 557-572, (2005)

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

該当なし

5. 特許等出願等

該当なし

51

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

6. 受賞等

該当なし

52

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

2. SARS 制圧に向けた国際研究

2. 4. SARS 治療法の開発

2.4 .1 . T 細胞応答を誘導する SARS ウイルス抗原の解析

国立大学法人熊本大学大学院医学薬学研究部免疫識別学分野

西村 泰治、 千住 覚

■ 要 旨

これまでの研究成果として、多くのヒトが所有している代表的な HLA クラス I 分子である、HLA-A2 に結合性を示す、

SARS コロナウイルス(SARS-CoV)が産生する蛋白質由来のペプチドを26種類同定した。さらに、ヒトの HLA-A2 遺伝子を

人工的に発現させたマウスを利用することにより、HLA-A2 に結合してマウスキラーT 細胞を誘導する SARS-CoV 抗原ペプ

チドを同定するシステムを構築し、該当するペプチドを6種類同定した。この情報を中国の共同研究者と共有し、HLA-A2

陽性の SARS-CoV 感染既往者の血液検体を用いて、HLA-A2 に結合する当該ペプチドを認識するヒト・キラーT 細胞の存

在の有無について検討を開始した。またマウスおよびサルの胚性幹(ES)細胞から、T 細胞に抗原ペプチドを提示して活性

化する能力が強い樹状細胞(ES-DC)を分化誘導する方法を確立した。さらに ES 細胞に抗原遺伝子を強制的に発現させ、

抗原特異的にT細胞を活性化できるES-DCを誘導することに成功し、その細胞ワクチン開発への応用の可能性を示した。

また倫理審査を経て、ヒト ES 細胞より ES-DC を分化誘導する研究を開始した。

■ 目 的

本研究は、中華人民共和国の研究者らとの緊密な国際共同戦略を構築して、新興感染症 SARS を制圧することを目的と

する。このために、感染免疫を担う生体の免疫応答の中でも T 細胞応答に主眼をおいて研究し、その成果を SARS の予防

法ならびに治療法の開発に資することを目的とする。ウイルス感染症に対する免疫系の生体防御反応において、抗体によ

るウイルスの排除とともに、キラーT 細胞によるウイルス感染細胞の排除が重要な役割を担っている。我々の体を構成する、

ほとんどすべての細胞は、その表面に HLA クラス I 分子を発現している。HLA クラス I 分子はウイルス感染に際して、細胞

内で増殖するウイルスが作り出した蛋白質が分解されて出来たペプチドを結合して細胞表面に提示する。たとえば、

SARS-CoV 感染細胞の表面には、SARS-CoV 蛋白質に由来するペプチドを結合した HLA クラス I 分子が発現する。キラ

ーT 細胞は、これを認識することにより SARS-CoV 感染細胞を正常細胞から区別し、これを破壊して人体を SARS-CoV 感

染症から守っている。そこで、本研究では、キラーT 細胞が認識する HLA 分子クラス I 分子に結合性を示す SARS-CoV 蛋

白質抗原由来のペプチドを、迅速に同定するシステムを構築する。さらに、我々が開発した特定の抗原をコードする遺伝

子を強制発現させたマウスおよびサルの ES 細胞から、T 細胞に当該抗原を提示して活性化する能力が高い ES 細胞由来

の樹状細胞(ES-DC)を試験管内で分化誘導する方法について、さらに改良してより有効性の高い抗原特異的ワクチンの

開発をめざす。このようなシステムを駆使して、SARS-CoV感染既往者が存在する中華人民共和国の研究協力者らとともに、

SARS-CoV 抗原に対する T 細胞応答の感染防御機構における意義を解明するとともに、ワクチン開発等の予防法および

治療法の開発に資する情報を提供する。

■ 目 標

平成16年度に研究課題が採択された当初には、①中華人民共和国で実施されている SARS 研究の支援、および ②マ

ウスモデルを用いた SARS ウイルスに対する免疫応答の解析 を研究目標として掲げた。しかし、平成16年10月に中華人

53

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

民共和国の SARS 研究者を訪問して研究協力体制について会談した結果、より具体的な研究目標として、以下の3点を掲

げることが目的達成のために重要と考えるに至り変更した。

① HLA-A2(A*0201) 結合性 SARS ウイルス抗原ペプチドの同定

HLA 分子は非常に個人差に富み、これが臓器移植の際に強い拒絶反応を誘導することが知られている。そこで、

中国人および日本人を含めた全世界の多様な人種に共通して、高い頻度で存在する HLA-A2(A*0201)分子を選

び、これに結合することによりキラーT 細胞に認識される可能性がある SARS-CoV 抗原ペプチドを多数同定する。

② HLA-A2 トランスジェニックマウスにおける SARS 抗原ペプチドに対する免疫応答の解析

日本には SARS-CoV 感染既往者が存在しないので、1)で同定した SARS-CoV ペプチドをヒト HLA-A2 遺伝子を強

制的に発現させたマウスに接種し、その中から HLA-A2 に結合してマウスのキラ−T 細胞を活性化できるものを同定

する。その情報を SARS-CoV 感染既往者が存在する中華人民共和国の研究協力者と共有することにより、

SARS-CoV 感染既往者の血液中に HLA-A2 分子に結合した当該抗原ペプチドを認識する、ヒトのキラーT 細胞が

存在するか否か検討する。以上の基礎研究の成果を、SARS に対するワクチンの開発に資する情報として提供す

る。

③ ES 細胞より分化誘導した樹状細胞 (ES-DC) を利用した細胞ワクチンの開発

我々がすでに確立した、マウスあるいはサルのES 細胞から試験管内で樹状細胞(ES-DC)を分化誘導する方法を利

用して、ES-DC に特定の抗原および免疫応答増強分子の遺伝子を強制発現させることにより、当該抗原に反応す

る T 細胞を強力に活性化できる ES-DC 細胞ワクチンを開発する。

■ 目標に対する結果

① HLA-A2(A*0201) 結合性 SARS ウイルス抗原ペプチドの同定

SARS コロナウイルス(SARS-CoV)を構成する蛋白質のアミノ酸配列を検索して、既に良く知られている

HLA-A2(A*0201)に結合するペプチドに、共通して観察されるアミノ酸配列を有するものを43種類同定して、これら

を合成した。これらの合成ペプチドについてHLA-A2分子への結合性を検討し、HLA-A2分子に結合するペプチド

を26種類同定した。

② HLA-A2 トランスジェニックマウスにおける SARS 抗原ペプチドに対する免疫応答の解析

ヒトの HLA-A2 遺伝子を人工的に発現させたトランスジェニックマウス を利用することにより、HLA-A2 分子に結合し

てキラーT 細胞を誘導する SARS-CoV 抗原ペプチドを同定できるシステムを構築し、該当するペプチドを6種類同

定した。この情報を中国の共同研究者と共有することにより、HLA-A2 陽性の SARS-CoV 感染既往者の血液検体を

用いて、HLA-A2 分子に結合する当該ペプチドを認識するヒト・キラーT 細胞が存在するか否かについて検討を開

始した。

③ ES 細胞より分化誘導した樹状細胞 (ES-DC) を利用した細胞ワクチンの開発

まずマウスおよびサルの胚性幹(ES)細胞から、T 細胞に抗原ペプチドを提示して活性化する能力が も強い樹状

細胞(ES-DC)を分化誘導する方法を確立した。また ES 細胞に抗原およびケモカインの遺伝子を強制的に発現させ、

抗原特異的に T 細胞を活性化できる樹状細胞(ES-DC)を誘導することに成功し、その細胞ワクチン開発への応用

の可能性を示した。さらに大学および文部科学省の倫理審査による承認を受けた後に、ヒトES細胞よりES-DCを分

化誘導する方法の確立に関する研究を開始した。

■ 研究方法

① HLA-A2(A*0201) 結合性 SARS ウイルス抗原ペプチドの同定

TAP 分子は細胞内の小胞体と呼ばれる袋状の構造物に膜を貫通する形で存在し、核あるいは細胞質に存在する蛋白質

が分解されてできたペプチドを、細胞質から小胞体内に輸送するポンプの役割を果たしている。HLA クラス I 分子は、小胞

54

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

体内でこのようにして輸送されて来たペプチドの中から、特定のアミノ酸配列を有するものを選び出して結合する。したがっ

て、TAP 遺伝子を欠損する細胞では、小胞体内で HLA-A2 分子などの HLA クラス I 分子にペプチドが結合できないため

に、HLA クラス I 分子の構造が不安定となり分解されるため、HLA クラス I 分子を細胞表面に発現できない。このような細胞

に外部から HLA クラス I 分子に結合性を示すペプチドを添加すると、HLA 分子の細胞表面への発現が回復する。このよう

な TAP 欠損細胞の性質を利用して、ペプチドの HLA クラス I 分子への結合性を、ペプチドと TAP 欠損細胞株を共培養し

た後に、細胞表面に発現する HLA クラス I 分子を検出することにより、調べることが可能である。このような方法を用いて、コ

ンピューター解析により探索した、HLA-A2 に結合する可能性のあるアミノ酸配列を有する SARS-CoV 抗原合成ペプチド

について、HLA-A2 分子への結合性を検討した。

② HLA-A2 トランスジェニックマウスにおける SARS 抗原ペプチドに対する免疫応答の解析

HLA-A2 トランスジェニックマウスに、1)で同定した HLA-A2 結合性合成ペプチドを、骨髄細胞を GM-CSF で培養して

得た樹状細胞に負荷してマウスの腹腔内に免疫した後に、脾臓を摘出して脾細胞と免疫した合成ペプチドを試験管内で

共培養した。その後に、HLA-A2 により提示された SARS-CoV 抗原ペプチドを特異的に認識したマウスキラーT 細胞の免

疫応答を、活性化された T 細胞が産生する IFNγを ELISPOT 法により検出することにより定量した。

③ ES 細胞より分化誘導した樹状細胞 (ES-DC) を利用した細胞ワクチンの開発

すでに我々は、マウス ES 細胞由来の樹状細胞の作製に関して、以下のプロトコールを確立している。まず ES 細胞を、

OP9(M-CSF 非産生性の骨髄ストロマ細胞株)とともに 5 日間培養する。次に、ES 細胞由来の分化した細胞を回収し、あら

たに準備した OP9 細胞上で GM-CSF の存在下で 5-6 日間培養する。この結果誘導される ES 細胞由来の細胞を細菌培

養用のペトリディッシュに移し、さらに GM-CSF 存在下で培養を続けると 7-10 日目頃より不規則な樹状突起を有する浮遊

性の細胞が出現する。この細胞は表面マーカーの解析により、ミエロイド系樹状細胞(DC)に相当すると考えられた。これを

さらに TNF-α+IL-4+抗 CD40 抗体で刺激すると、非常に強い T 細胞刺激活性を有する成熟樹状細胞となる。この樹状細

胞は蛋白質抗原を貪食、分解し、抗原ペプチドを MHC 分子に結合した形で T 細胞に対して提示できる。

さらに ES 細胞に卵白アルブミン(OVA)や Glypican-3 などの抗原、および T 細胞を呼び寄せることができるケモカインの

遺伝子を強制的に発現させ、これを上記の方法により ES-DC に分化誘導させた。このような遺伝子改変 ES-DC をマウスの

体内に投与した後に、脾臓を摘出して脾細胞を試験管内で抗原ペプチドと培養し、その後に抗原ペプチドに特異的に反

応するキラーT 細胞が誘導されているか否かについて、2)の ELISPOT 法を利用して検討した。また、霊長類 ES 細胞から

樹状細胞の分化を誘導する技術の開発のために、京都大学再生医学研究所の中辻教授らのグループより、カニクイザル

ES 細胞の恵与を受け、マウス ES-DC の分化誘導法を参考にしてサル ES-DC を分化誘導した。サル ES 細胞にヒト HLA

および抗原の遺伝子を強制的に発現させ、その後に ES-DC を分化誘導した。このようない ES-DC を当該 HLA に結合し

た、当該抗原ペプチドを認識するヒト T 細胞と培養し、T 細胞が免疫応答を示した結果、観察される増殖反応を観察した。

さらに大学および文部科学省の倫理審査による承認を受けた後に、ヒト ES 細胞より ES-DC を分化誘導するための培養条

件の決定に関する研究を開始した。

■ 研究成果

① HLA-A2(A*0201) 結合性 SARS ウイルス抗原ペプチドの同定

まずSARSコロナウイルス抗原(S、MおよびN 蛋白質)のアミノ酸配列の中から、ヒトHLAクラスI分子(HLA-A2(A*0201))

に結合する可能性のあるアミノ酸配列を持つペプチドをコンピューター検索し、43 種類の候補ペプチドを得た。これらのペ

プチドについて、HLA-A2 結合能力を検討した結果、HLA-A2 結合性 SARS ウイルス抗原ペプチドを 26 種類同定すること

ができた。

② HLA-A2 トランスジェニックマウスにおける SARS 抗原ペプチドに対する免疫応答の解析

上記の 26 種類の HLA-A2 結合性 SARS-CoV 抗原ペプチドを、HLA-A2 トランスジニックマウスに接種した後に、マウス

55

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

の体内に抗原ペプチドを認識するキラーT 細胞が誘導されたかどうか検討した。その結果、マウスキラーT 細胞の免疫応答

を個体レベルで誘導できるものを 6 種類同定できた。

③ ES 細胞より分化誘導した樹状細胞 (ES-DC) を利用した細胞ワクチンの開発

抗原および免疫応答調節分子の遺伝子を導入したマウス ES 細胞を樹状細胞(ES-DC)に分化させ、特定の抗原に対す

る免疫反応を増強[原著論文 1), 3), 4)]

あるいは抑制[原著論文 2)]

できる ES-DC を作製できた。特にモデル抗原を発現するマウ

ス ES-DC を用いて、試験管内およびマウス体内の双方において、抗原特異的なキラーT 細胞の誘導を効率良く行うことに

成功した[原著論文 1), 3), 4)]

。またカニクイザルの ES 細胞に、ヒト HLA クラス II 分子および抗原の遺伝子を強制発現させた後

に分化誘導した ES-DC を用いて、ヒトヘルパーT 細胞に抗原を提示させて活性化することに成功した。さらに大学および

文部科学省の倫理審査による承認を受けた後に、ヒト ES 細胞より ES-DC を分化誘導するための至適培養条件を決定しつ

つある。

■ 考 察

SARS-CoV に対する免疫反応を研究するにあたって、日本には SARS-CoV 感染既往者がいないため、これらを擁する中

国人研究者と緊密に協力し合いながら研究を進めた。またキラーT 細胞に SARS-CoV ペプチドを提示する HLA 分子とし

て、全世界の多様な人種に共通して頻度が高い HLA-A2(A*0201)を選んだ。さらに HLA-A2(A*0201)トランスジェニクマウ

スに SARS-CoV ペプチドを免疫することにより、SARS-CoV 感染既往者の血液を用いることなく、また多数のペプチドにつ

いてキラーT 細胞誘導能を迅速に検討できる系を確立した。本研究成果を中国人研究協力者と共有することにより、中国

の SARS-CoV 感染既往者における、キラーT 細胞が認識する SARS-CoV ペプチドの同定が容易になると期待している。

本研究はSARSの流行を契機として、特にアジア地区における新興感染症の勃発に際して、その病態解析ならびに治療法

の開発に関する、国際協力体制を確立することに貢献するものである。抗原遺伝子を発現するES-DC細胞ワクチンについ

ては、今後ヒト ES-DC を用いた研究成果が期待される。

■ 参考(引用)文献

1. Ksiazek, T.G., Erdman, D., Goldsmith, C.S. et al.: 「A novel coronavirus associated with severe acute respiratory

syndrome」, New Engl. J. Med., 348, 1953-1966, (2003)

2. Drosten, C., Gunther, S., Preiser, W., et al.: 「Identification of a novel coronavirus in patients with severe acute

respiratory syndrome」, New Engl. J. Med., 348, 1967-1976, (2003)

3. Kuiten, T., Fouchler, R.M.A., Schutten, M. et al.: 「Newly discovered coronavirus as the primary cause of severe

acute respiratory syndrome」, Lancet, 362, 263-270, (2003)

4. Rota, P.A., Oberste, M.S., Monroe, S.S. et al.: 「Characterization of a novel coronavirus associated with severe

acute respiratory syndrome. Science 300: 1394-1399 (2003)

5. Peiris, J.S.M., Chu, C.M., Cheng, V.C.C. et al.: 「Clinical progression and viral load in a community outbreak of

coronavirus-associated SARS pneumonia: a prospective study」, Lancet, 361, 1767-1778, (2003)

6. Ruan, Y., Wei, C.L., Ee, L.A. et al.:「Comparative full-length genome sequence analysis of 14 SARS coronavirus

isolates and common mutations associated with putative origins of infection」, Lancet, 361, 1779-1785, (2003)

7. Marra, M.A., Jones, S.J.M., Astell, C.R. et al.: 「The genome sequence of the SARS-associated coronavirus」,

Science, 300, 1399-1404, (2003)

8. Senju, S., Hirata, S., Matsuyoshi, H., Masuda, M., Uemura, Y., Araki, K., Yamamura, K-I. and Nishimura, Y.:

「Generation and genetic modification of dendritic cells derived from mouse embryonic stem cells」, Blood, 101,

3501-3508, (2003)

9. Browning, M. and Krausa, P.: 「Genetic diversity of HLA-A2: evolutionary and functional significance」, Immunol

56

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

Today, 17, 165-70, (1996)

10. Pascolo S, Bervas N, Ure JM, Smith AG, Lemonnier FA, Perarnau B.: 「HLA-A2.1-restricted education and

cytolytic activity of CD8(+) T lymphocytes from beta2 microglobulin (beta2m) HLA-A2.1 monochain transgenic

H-2Db beta2m double knockout mice」, J. Exp. Med., 185, 2043-51, (1997)

11. Passoni L, Scardino A, Bertazzoli C, et al.: 「ALK as a novel lymphoma-associated tumor antigen: identification of

2 HLA-A2.1-restricted CD8+ T cell epitopes」, Blood, 99, 2100-2106, (2002)

12. Firat H, Garcia-Pons F, Tourdot S, et al.: 「H-2 class I knockout, HLA-A2.1-transgenic mice: a versatile animal

model for preclinical evaluation of antitumor immunotherapeutic strategies」, Eur. J. Immunol., 29, 3112-21,

(1999)

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

1) 2003.4.14, 「哺乳動物の ES 細胞由来樹状細胞の産生方法」, 千住 覚、西村泰治, 千住 覚、西村泰治、くまも

とテクノ産業財団, 特願 2003-108677

研究成果③に関連して、マウスの ES 細胞を用いて開発した、哺乳動物の ES 細胞から樹状細胞を作成する方

法についての特許である。この発明は、全て我々の研究グループで行った。

2) 2004.8.27, 「霊長類動物胚性幹細胞から樹状細胞の製造方法」, 千住 覚、西村泰治, 千住 覚、田辺製薬株

式会社, 特願 2004 - 249062

研究成果③に関連して、カニクイザルの ES 細胞を用いて開発した、霊長類の ES 細胞から樹状細胞を作成す

る方法についての特許である。この発明は、全て我々の研究グループで行った。

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

57

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 4 報 (筆頭著者:0 報、共著者:4 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:3 報、国外誌:0 報、書籍出版:2 冊

4. 口頭発表 招待講演:0 回、主催講演:0 回、応募講演:7 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Motomura, Y., Senju, S., Nakatsura, T., Matsuyoshi, H., Hirata, S., Monji, M., Komori, H., Fukuma, D., Baba, H.,

and Nishimura, Y.: 「Embryonic stem cell-derived dendritic cells expressing Glypican-3, a recently identified

oncofetal antigen, induce protective immunity against highly metastatic mouse melanoma, B16-F10.」, Cancer

Research, 66, 2414-2422, (2006)

2) Hirata, S., Senju, S., Matsuyoshi, H., Fukuma, D., Uemura, Y. and Nishimura, Y.: 「Prevention of experimental

autoimmune encephalomyelitis by transfer of ES cell-derived dendritic cells expressing MOG peptide along with

TRAIL or PD-L1.」, J. Immunol., 174, 1888–1897, (2005)

3) Fukuma, D., Matsuyoshi, H., Hirata, S., Kurisaki, A., Motomura, Y., Yoshitake, Y., Sinohara, M., Nishimura, Y.,

Senju, S.: 「Cancer prevention with semi-allogeneic ES cell-derived dendritic cells genetically engineered to

express a model tumor antigen.」, Biochem. Biophys. Res. Comm., 335, 5-13, (2005)

4) Matsuyoshi, H., Hirata, S., Yoshitake, Y., Motomura, Y., Fukuma, D., Kurisaki, A., Nakatsura, T., Nishimura, Y.,

and Senju, S.: 「Therapeutic effect of ・-galactosylceramide loaded dendritic cells genetically engineered to express

SLC/CCL21 along with tumor antigen against peritoneally disseminated tumor cells」, Cancer Science, 96, 889-896,

(2005)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1) 塚本博丈,西村泰治:「CLIP 置換型インバリアント鎖遺伝子を利用したペプチド/MHC-II 複合体発現細胞シス

テムの構築」,Medical Science Digest,31(5),163-164,(2005)

2) 平田真哉, 千住覚, 西村泰治:「樹状細胞の移入による免疫抑制療法」, 臨床免疫,43(5):603-607, (2005)

3) 松吉秀武, 千住覚, 西村泰治:「ES 細胞由来の樹状細胞による免疫制御」,感染・炎症・免疫,34(2):32-39,

(2004)

国外誌

該当なし

書籍出版

58

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

1) 「免疫学集中マスター; MHC による抗原提示」, 塚本博丈,西村泰治,羊土社(小安重夫編), p84-92, 2005.3.25

2) 「日本臨牀 2005 年増刊: 臨床免疫学(上)−基礎研究の進歩と 新の臨床−;クラス IIMHC 拘束性抗原提示機

構」, 平田真哉, 西村泰治, 日本臨床社, p299-303, 2005.4.

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

1) Hirata,S., Senju,S., Matsuyoshi,H., Fukuma,D. and Nishimura,Y.: 「Induction of T cells with regulatory function

by adoptive transfer of ES-DC expressing self antigen along with TRAIL」, Kyoto, 4th International Workshop of

Kyoto T cell Conference, 2005.4.8

2) Senju,S., Hirata,S., Matsuyoshi,H., Fukuma,D. and Nishimura,Y.: 「Therapeutic control of immune responses by

genetically modified ES cell-derived dendritic cells」, Kyoto, 4th International Workshop of Kyoto T cell

Conference, 2005.4.9

3) Chen, Y.Z., Hirata,S., Gang, L., Nakatsura,T., Shimomura,M., Senju,S., Matsui,M. and Nishimura,Y.:

「Identification of HLA-A2-restricted and SARS-CoV-derived CTL epitopes by using HLA-A2 transgenic mice」,

Kumamoto, International Symposium-The Cooperative Research Project on Clinical and Epidemiological Studies

of Emerging and Re-emerging Infectious Diseases, 2005.9.16

4) Kurisaki,A., Hirata,H., Matsuyoshi,H., Fukuma, D., Shimomura,M., Nishimura,Y. and Senju,S.: 「Successful

Vaccination by Genetically Modified ES Cell-Derived Dendritic Cells」, Kumamoto, International Symposium-The

Cooperative Research Project on Clinical and Epidemiological Studies of Emerging and Re-emerging Infectious

Diseases, 2005. 9.16

5) 千住覚,平田真哉,松吉秀武,末盛博文,福間大喜,栗崎朱里,下村真菜美,植村靖史,Yu-Zhen Chen,古谷

正敬,中辻憲夫,西村泰治:「ES 細胞から分化誘導した樹状細胞を用いた MHC 拘束性 T 細胞応答制御技術の

開発」、熊本、第 14 回日本組織適合性学会大会、2005.10.4

6) Chen Yu-Zhen, Gang Liu, 中面哲也, 千住 覚, 松井政則, 西村泰治:「HLA-A2 トランスジェニックマウスを用

いた SARS 抗原特異的 CTL エピトープの同定」、熊本、第 14 回日本組織適合性学会大会、2005.10.4

7) Chen Yu-Zhen,Liu Gang,中面哲也,千住 覚,松井政則,西村泰治:「HLA-A2 拘束性 SARS-CoV 抗原特異

的マウス T 細胞応答の解析」、横浜、2005.12.14

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

59

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

2. SARS 制圧に向けた国際研究

2.4. SARS 治療法の開発

2.4 .2 . 中和ヒト抗体の開発

キリンビール株式会社医薬カンパニー医薬フロンティア研究所

石田 功

■ 要 旨

大腸菌で発現させた SARS ウイルス由来のリコンビナント蛋白である S 蛋白の部分ペプチドを4種、M 蛋白の部分ペプチド

2 種と N 蛋白全体を免疫原として、ウサギおよび KM マウスへ免疫し、免疫抗原による ELISA で力価の上昇を確認した。ウ

サギでは 1 万倍以上の血清希釈で、KM マウスでは 1 千倍の血清希釈で、ELISA にて抗原抗体反応を検出できた。KM マ

ウスでは M 抗体は得られなかった。上記のウサギ抗体および KM マウス由来ヒト抗体を用いて、インビトロで SARS ウイルス

中和活性 NT50(50%プラーク減となる血清力価)を測定した。ウサギの S 抗体は、800~1600 倍の力価が見られた。一方、

N および M 抗体は 20 倍以下であり、中和活性はないと考えられた。KM マウスの S 抗体は、中和活性は見られなかった。

また、SARS コロナウイルス感染 Vero 細胞ライセートのウエスタンプロットにおいて、ウサギ血清は S 蛋白を認識したが、KM

マウス血清は認識できなかったことから、KM マウス血清には、S 蛋白を認識する十分な抗体が無いと考えられた。次に、抗原

調製法を変更して、再度 KM マウスおよび B6 マウスに免疫したところ、その血清は SARS 感染 Vero 細胞のライセートのウエス

タンプロットで S 蛋白を認識した。

■ 目 的

SARS ウイルスの感染防御、感染後の SARS 発症予防、さらに SARS 発症後の重症化予防と治療を目指して、ヒトの抗体

遺伝子を導入したヒト抗体産生ウシを用いた SARS ウイルス中和ヒト抗体の開発を行う。従来の SARS ウイルス由来のリコン

ビナント蛋白、不活化ウイルスを抗原とした検討だけでなくだけでなく、遺伝子情報から抗原として有効な合成ペプチドを

設計検討する手法を開発する。それらを抗原として、我々が既に開発したヒト抗体産生マウス、ヒト抗体産生ウシ(米

Hematech 社と共同)へ免疫し、治療薬として使用可能な中和ヒト抗体を作製する道を開発する。中和抗体の感染防御の試

験は中国の協力を得て行う予定。

■ 目 標

① SARS ウイルスに対する中和ヒト抗体の作製

■ 目標に対する結果

① SARS 感染患者血清と反応する SARS コロナウイルス由来 S(spike)蛋白、N(nucleocapsid)蛋白、M(matrix)蛋白上の

エピトープを同定し、そのエピトープを含む合成ペプチドを作製した。本合成ペプチドによる免疫では、ヒト抗体産生

マウス(KM マウス)にて力価が上昇しなかったため、大腸菌で発現させた SARS ウイルス由来のリコンビナント蛋白で

ある S 蛋白の部分ペプチドを4種、M 蛋白の部分ペプチド 2 種とN 蛋白全体を免疫原として使用した。ウサギおよび KM

マウスへ免疫し、免疫抗原による ELISA で力価の上昇を確認した。ウサギでは 1 万倍以上の血清希釈で、KM マウ

スでは 1 千倍の血清希釈で、ELISA にて抗原抗体反応を検出できた。KM マウスでは M 抗体は得られなかった。上

60

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

記のウサギ抗体および KM マウス由来ヒト抗体を用いて、インビトロで SARS ウイルス中和活性 NT50(50%プラーク減

となる血清力価)を測定した。ウサギの S 抗体は、800~1600 倍の力価が見られた。一方、N および M 抗体は 20 倍

以下であり、中和活性はないと考えられた。KM マウスの S 抗体は、中和活性は見られなかった。また、SARS コロナウ

イルス感染 Vero 細胞ライセートのウエスタンプロットにおいて、ウサギ血清は S 蛋白を認識したが、KM マウス血清は認

識できなかったことから、KM マウス血清には、S 蛋白を認識する十分な抗体が無いと考えられた。次に、抗原調製法を

変更して、再度 KM マウスおよび B6 マウスに免疫したところ、その血清は SARS 感染 Vero 細胞のライセートのウエスタ

ンプロットで S 蛋白を認識した。

■ 研究方法

(1)SARS 回復患者血清中の SARS ウイルス特異抗体の同定

SARS ウイルスゲノムにコードされた 15 種の蛋白のうち、S (外皮スパイク)蛋白、M (マトリックス)蛋白、N (ヌクレオキャプシ

ド)蛋白の全領域、蛋白の N 末から 15 個のアミノ酸からなり、かつ隣同士が 5 個のアミノ酸をオーバーラップするようなペプ

チドを合成し、Luminex ビーズに結合させる。本ビーズを SARS 患者血清と混合して結合させることにより、患者血清と反応

するペプチドを同定できる。

(2)ヒト抗体産生マウス(KM マウス)、野生型 B6 マウス、ウサギへの免疫

1で同定したペプチドを合成し、蛋白の N あるいは C 末端に MAP(ポリリジン鎖)またはマウスアルブミンをキャリアーとする

ペプチド抗原を作製する。本抗原をフロインドあるいはリビアジュバンドと混合して免疫を行う。あるいは、S 蛋白の部分ペプ

チド 4 種、M 蛋白の部分ペプチド 1 種、N 蛋白全体を、大腸菌を使って発現・精製した組換え蛋白をフロインドあるいはリビア

ジュバンドと混合して免疫を行う。

(3)SARS 抗体の検出

2で作製した組換え蛋白をウレアで可溶化して、ELISA (enzyme linked immuno absorbent assay)プレートに付着させ、リ

ン酸緩衝液で洗浄し、希釈血清(1 千~1万倍以上)と反応させる。洗浄後標識 2 次抗体を入れて反応させて ELISA リーダ

ーで検出する。また、ウエスタンブロットでは、SARS コロナウイルス感染 VeroE6 細胞のライセートを SDS ポリアクリルアミド電

気泳動したものをメンブレンフィルターにブロットして、希釈血清で S 蛋白のバンドを検出する。(本実験は東京医科歯科大

学山本教授研究室の協力で実施)

(4)中和活性

SARS コロナウイルスと希釈血清を混合し、37℃で加温した後、希釈系列を作製して、Vero 細胞に感染させ、感染プラー

クの数からウイルス力価を算出する。対照バッファーに比べて 50%プラークが減少する血清の希釈倍率を NT50 として表示

する。(本実験は東京医科歯科大学山本教授研究室の協力で実施)

中和抗体作成の戦略

抗原

1.抗原の準備(ペプチド抗原および組換え蛋白質抗原)

3.抗体価測定各抗原の抗原性の評価

(必要に応じて抗原の組合わせを検討)

© 1994 Deneba Systems, Inc.

2.ヒト型抗体産生組換え動物の免疫

© 1994 Deneba Systems, Inc.

SARS

4.ウイルス中和試験

5. 感染動物での実験

61

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

図-1 中和ヒト抗体作成の戦略

■ 研究成果

1) SARS 回復患者血清中の SARS ウイルス特異抗体の同定:

SARS ウイルス構成タンパク質由来ペプチドに対する抗体を網羅的に測定し、SARS ウイルス特異的エピトープを同定し

た。具体的には、感染後6ヶ月のベトナム SARS 患者 78 名から採取した血清を用い、血清 IgG と SARS ウイルス構成タンパ

ク質(S, N 及び M)由来ペプチドの反応性を検討した。その結果、SARS 患者に特異的な3つのペプチド(S 蛋白:

PLKPTKRSFIEDLLF, N 蛋白:QLPQGTTLPKGFYAE, M 蛋白: TDHAGSNDNIALLVQ)を同定した。1)

(図-2)

2) 高抗原性 SARS ウイルスペプチド合成と免疫:

免疫源となる高抗原性 SARS ウイルスペプチドを1)項の実験結果をもとに設計し、合成した。具体的には、抗原性の増

強を考慮し、SARS 患者に特異的な3つのペプチド(S, N 及び M)の N 末あるいは C 末にリジン残基をつけて、ペプチドをタ

コ足状にした MAP(多抗原ペプチド)を作製した。また、これらのSARSペプチドに、B6 あるいは Balb/cマウスの組織適合性抗

原(MHC クラス II)に入るペプチド(インフルエンザ血球凝集素ペプチドまたはユビキチン/卵白アルブミン融合ペプ

チド)を融合し、T細胞の抗原認識を増強させるものを作製した。しかしながら、これらの合成ペプチドに対する抗体は、KM

マウス 2)に対して十分な免疫原性を示さず、またELISAプレー上の大腸菌で作製した組換えS、M、N蛋白に対して、反応

を示さなかった。

本研究の過程で、SARS ウイルス由来 N および M 蛋白由来合成ペプチドが、SARS ウイルスの M 蛋白と N 蛋白の相互作

用を阻害することを見出した。NあるいはM蛋白由来の部分ペプチドが、SARSウイルス感染細胞内のウイルス生成を阻害す

る抗ウイルス剤として有効である可能性が示された。(特許出願)

3) 大腸菌で発現させたSARSウイルス由来ペプチド免疫による抗体作製

S 蛋白の部分ペプチドを4種、M 蛋白の部分ペプチド1種と N 蛋白全体を免疫原として使用した。組換え蛋白のN末側にヒ

スチジンタグを付加し、界面活性剤可による溶化蛋白を、ニッケルカラムを用いて精製した。ヒスチジンタグは、ジペプチジル

エンドペプチダーゼおよび AcTEV プロテアーゼ(蛋白分解酵素)により消化し除去した。(図-3) ウサギ免疫には、ウレアで可

溶化した組換えペプチドをフロインドアジュバンド(免疫増強剤)と混合して、皮下へ免疫した。KMマウスには、リン酸緩衝液

に懸濁された不溶化状態のペプチドをリビアジュバンド(免疫増強剤)と混合して、皮下に免疫した。SARS組換えペプチドに

対する抗体価は、ウレアで可溶化した組換えペプチドを付着させたELISAプレートにリン酸緩衝液で 1 千~1 万倍希釈した

血清を反応させて、SARS抗体価を調査した。ウサギおよび KM マウスで、免疫抗原による ELISA で力価の上昇を確認し

た。(図-4) ウサギでは、1 万倍以上、KMマウスでは1千倍程度の血清希釈で十分に検出可能であった。(図-5) ウサギ抗

体および KM マウス由来ヒト抗体を用いて、インビトロで SARS ウイルス中和活性 NT50(50%プラーク減となる血清力価)を測

定した。ウサギの S 抗体は、800~1600 倍の力価が見られた。一方、N および M 抗体は 20 倍以下であり、中和活性はない

と考えられた。KM マウスの S 抗体は、中和活性は見られなかった。(図-5) また、SARS ウイルス感染 VeroE6 細胞ライセ

ートを SDS ポリアクリルアミド電気泳動により蛋白を分離・転写したメンブレンフィルターを用いて、ウサギおよび KM マウス血

清でウエスタンプロットを行い、S 蛋白の検出の有無を調べた。ウサギ血清では、S 蛋白のバンドが検出されたが、KM マウス

血清では検出できなかった。

4) SARAS 由来 S 蛋白による免疫の工夫

3) の結果より、M および N 蛋白に対する抗体は、少なくともインビトロでのウイルス中和活性が無いことを確認した。S 蛋

白の免疫法を工夫することにより、SARS ウイルス感染 VeroE6 細胞のライセート中の S 蛋白を検出でき、SARA ウイルス中和

活性を持つヒト抗体の力価を上昇させる方法を検討した。ヒスチジンタグを消化した S 蛋白(図-3)を、陽イオン性界面活性

剤で可溶化した状態でフロインドアジュバンドと混合して、KM マウスあるいは B6 野生型マウスの皮下へ免疫した。B6 マウスでは

3 回の免疫により、1000 倍希釈で測定枠を外れるまで ELISA 力価は上昇した。一方、KM マウスでも、5 回の免疫で測定枠

上限近くまで達する個体が出てきた。B6 マウスおよび KM マウスの血清を用いて、SARS ウイルス感染 VeroE6 細胞のライセー

62

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

ト中の S 蛋白検出可否を調べた。B6 マウスの血清(2000 倍希釈)では明瞭な S 蛋白のバンドが検出できた。KM マウス血清

(2000 倍希釈)でも、薄いものの S 蛋白のバンドが検出された。

合成ペプチド抗原

1. SARS由来ペプチドのみ

2. T細胞抗原ペプチドとSARS由来ペプチトの融合

3. MAPペプチド

ペプチド本体(15mer)

インフルエンザHAペプチド

ユビキチン/卵白アルブミン融合ペプチド

SARS由来ペプチド

SARS由来ペプチド

ペプチド本体(15mer)

ペプチド本体(15mer)

ペプチド本体(15mer)

ペプチド本体(15mer)

抗原の精製

1.His-Tag付き蛋白質として発現プラスミドを構築

SARS

2.大腸菌への導入と大量発現の確認

3.Ni結合カラムでアフィニティ精製His-Tag

4.酵素処理によるTag除去

SARS蛋白質

図-2 合成ペプチド抗原 図-3 抗原の精製

ELISAによる抗体価測定

蛋白質・ペプチド

免疫後のヒト型抗体産生マウス血清

HRP標識抗ヒトIgG抗体

実際の測定例

S791

S2

N

M63

Nd1000-100010001000KM ELISA

<20

<20

>10000

N蛋白

<20

800

-

S蛋白mix

<20<20<20<20KM NT50

<20160030800ウサギNT50

>10000>10000>10000>10000ウサギ ELISA

M蛋白S蛋白3S蛋白2S蛋白1

注)NT50:50%プラーク減を生じる血清希釈倍率。 ELISA:検出できた血清希釈倍率。Nd:検出

できず。

ELISA力価および中和力価測定

図-4 ELISA による抗体価測定 図-5 ELISA 力価とインビトロウイルス中和活性

■ 考 察

(ア) 合成ペプチドによる免疫

合成ペプチドは、KM マウスにおいて十分な抗原性を発揮しなかったことから、大腸菌で発現させた SARS ウイルス由来

組換え蛋白を認識できなかったと推測される。

(イ) 大腸菌で発現させた SARS ウイルス由来組換え蛋白による免疫

KM マウスでは、不溶化状態の SARS 由来ペプチドを免疫したことで、中和エピトープを認識できる抗体が余り出来なか

った可能性があると考え、次に可溶化状態の SARS 由来ペプチドを KM マウスに免疫した。KM マウスの抗体価上昇は野生

型 B6 マウスより遅れて上昇してきたものの(免疫期間 1 ヶ月)、2 千倍希釈の血清で SARS ウイルス感染 Vero 細胞中の S

蛋白をウエスタン部ロットで認識可能であった。今後、ウイルス中和活性を調べる。

(ウ) インビボでの SARS ウイルス感染防御、治療効果の評価に向けて

平成 18 年度中に中国医科学院実験動物研究所(秦川所長)で感染実験を進めるべく契約を進めている。

■ 参考(引用)文献

1. Shichijo, S., Keicho, N., Long H.T., Quy, T., Phi, N.-C., Ha, L. D., Ban, V.-V. Itoyama, S., Hu, C.-J., Komatsu,

63

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

N., Kirikae, T., Kirikae, F., Shirasawa, S., Kaji, M., Fukuda, T., Sata,, M., Kuratsuji, T., Itoh, K., Sasazuki, T.:

「Assessment of synthetic peptides of severe acute respiratory syndrome coronavirus recognized by long-lasting

immunity.」, Tissue Antigens, 64, 600-607, (2004)

2. Ishida, I., Tomizuka, K., Yoshida, H., Tahara, T., Takahashi, N., Ohguma, A., Tanaka, S., Umehashi, M., Maeda,

H., Nozaki, C., Halk, E. and Lonberg, N.: 「Production of human monoclonal and polyclonal antibodies in

TransChromo (TC) animals.」, Cloning & Stem Cells, 4, 91-102, (2002)

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

1) 「Chimeric animal and method for constructing the same.」, Kazuma Tomizuka, Hitoshi Yoshida, Kazunori Hanaoka,

Mitsuo Oshimura and Isao Ishida, WO 97/07671, 特許第 3030092 号, US6632976 (US patent),台湾特許 223585,

EU 特許.

ヒト抗体産生マウスに関する基本特許

2) 「Transgenic transchromosomic rodents for making human antibodies.」, Kazuma Tomizuka, Isao Ishida, Nils Lonberg

and Ed Halk, 米国仮出願番号 US60-250340(2000. 11. 30), WO 02/43478、特開 2005-230020、日本特許第

3523245 号,US patent.

現在使用しているヒト抗体産生マウス(KM マウス)に関する特許

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

1) 2005.11.9: 「SARS コロナウイルスの M 蛋白質と N 蛋白質の結合を阻害し、ウイルス粒子の形成を阻害する物質、

および該物質のスクリーニング方法の提供」, 畠山精介、秋山徹、切替照雄、笹月健彦、石坂幸人、七條茂樹、

石田功, 特願 2005-325436

SARS ウイルス由来合成ペプチドを用いた実験で生み出された成果。

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新興・再興感染症制圧のための共同戦略

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■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 0 報 (筆頭著者:0 報、共著者:0 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0 報、国外誌:0 報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:0 回、主催講演:0 回、応募講演:1回

5. 特許出願 出願済み特許:1件 (国内:1件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

該当なし

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

該当なし

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

1) 秋山徹、畠山精介、切替照雄、笹月健彦、石田功、伊藤恭吾、七條茂樹、小松誠和:「SARS: -CoV の

Nucleocapsid-protein 内の Membrane-protein 結合部位の同定」, 第 53 回日本ウイルス学会, 2005.7.11.

5. 特許等出願等

1) 2005.11.9: 「SARS コロナウイルスの M 蛋白質と N 蛋白質の結合を阻害し、ウイルス粒子の形成を阻害する物質、

および該物質のスクリーニング方法の提供」, 畠山精介、秋山徹、切替照雄、笹月健彦、石坂幸人、七條茂樹、

石田功, 特願 2005-325436

SARS ウイルス由来合成ペプチドを用いた実験で生み出された成果。

6. 受賞等

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該当なし

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新興・再興感染症制圧のための共同戦略

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3. SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究開発 要旨

サブリーダー・河岡 義裕

RNA ウイルスはこれまで度々ヒト以外の動物からヒトに伝播し、新興ウイルス感染症の原因となっている。今まさにパンデミ

ックの危険性が高まり、問題となっている鳥インフルエンザウイルスはその代表的なものである。本研究課題では、代表的

な RNA ウイルスである、エボラウイルス、インフルエンザウイルス、プラス鎖 RNA ウイルス(ポリオウイルスおよび C 型肝炎ウ

イルス)、ダニ媒介性脳炎、アルボウイルス、HIV ウイルスの 7 種のウイルスに関して、10 名の分担研究者が連携をとり、基

礎ならびに応用研究を進めている。

基礎研究:野本らは、ポリオウイルスの野生型ウイルスと欠陥干渉粒子の間に病原性発現に関する差が存在することを

見出し、さらにC型肝炎ウイルス株間のRNAレプリコン活性の違いを決めている部位を特定した。高島らは、ダニ媒介性

脳炎ウイルスレプリコンパッケージング系を構築した。この系は、一回のみの感染性を有するウイルスを作製することが可

能なことから、ダニ媒介性脳炎ウイルスのゲノムパッケージング機構の分子生物学的研究や、新たなワクチンの開発など

に有効である。津田、野田、水城らの研究チームは、アルボウイルスの遺伝子解析による流行予測や、媒介動物である

ヌカカの塩基配列による識別方法や、Bacillus thuringiensisの媒介節足動物に対するスクリーニングなど、アルボウイル

スの流行予測や防疫に重要なデータを得た。HIVはその重要性から平成 17 年度より新規研究項目として追加した。岩

本らは、抗HIV療法中に梅毒を発症した患者において、梅毒感染により耐性変異の集団が増加することを見出した。さ

らに、小笠原らは、これらのウイルス性疾患において自然免疫系の中心的役割を果たすNK細胞の標的細胞認識機構を

解明するために有効となる、レセプターおよびリガンドのクローニングに必要な高感度なレポーター細胞の作製に成功し

た。これらの基礎研究で得られた成果は、今後のワクチン開発や治療・予防薬の開発に重要な情報となる。

応用研究:河岡らは、インフルエンザウイルスベクターを用いたエボラウイルスの半生ワクチンを作製し、この半生ワクチ

ンが抗体誘導能をもち、有効なワクチンとなり得る可能性を示した。また、喜田、河岡らは、今、 もパンデミックの危険

性が高まっているインフルエンザウイルスの流行状況を把握しワクチンを準備するために、HAおよびNA遺伝子ライブラ

リーの充実と、ウイルス株および遺伝子情報のデータベース化・インターネットを通じての世界への発信、すなわちデー

タの共有化をおこない、迅速にワクチンを作製するための方法を開発した。

本研究で得られた成果が、それぞれのウイルスの制圧に有効であることは言うまでもないが、未知の微生物による新興・

再興感染症が出現した際に、本研究課題で構築された研究者ネットワークは迅速な対応をする上で重要な組織となり得

る。

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新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

3. SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究開発

3.1 . エボラウイルス感染症の制圧に向けての応用研究

国立大学法人東京大学医科学研究所ウイルス感染分野

河岡 義裕

■ 要 旨

致死率 90%以上に達するエボラウイルス感染症には、未だ有効なワクチンや治療・予防薬が存在しない。そこで、本研

究ではエボラウイルスワクチンの開発を行った。インフルエンザウイルスベクターに、エボラウイルスの GP1 遺伝子(膜糖蛋

白質 GP の細胞外領域の一部)を挿入した半生ワクチン(Flu-Ebola)を作製し、その抗体誘導能について検討した。ワクチ

ン接種ルートとして、経鼻接種と腹腔内接種を比較したところ、Flu-Ebola の抗エボラ GP 抗体の誘導においては経鼻接種

の方が効果的であることが分かった。現在、Flu-Ebola で免疫したマウスをカナダの BSL-4 施設を借りて攻撃実験するため、

準備を行っている。

さらに、エボラウイルスの VP40 遺伝子を持つ半生インフルエンザウイルス(Flu-EboVP40; 細胞に一度だけ感染し、

VP40 を発現するが、増殖に必須のウイルス蛋白質(HA 蛋白質)を発現しないために新たな感染性粒子を生産しないインフ

ルエンザウイルス)を作製した。エボラウイルスの VP40 蛋白質は宿主の自然免疫を強く誘導するため、Flu-Ebola と同時に

接種することでワクチン効果を高めることが期待される。

■ 目 的

エボラウイルスは、1976 年にヒトへの感染が確認された代表的な新興感染症病原体である。ヒトにおける本ウイルスの致

死率は、90%にも達する。幸い、エボラウイルスが先進諸国で大流行を起こしたことはないが、アフリカあるいはアジアから

のサルの輸出に伴い、ドイツならびにアメリカでエボラウイルスが小規模ながら流行した。また、 近は、その強い病原性の

ため生物兵器として使用される可能性が危惧されている。しかし、本ウイルス感染症のワクチンそして治療薬はいまだ開発

されていない。これまで、エボラウイルス感染症のためのワクチンが各種開発されてきたが、そのほとんどがマウスでは感染

防御効果が認められるものの、サルでは全く効果を示さない。これらは、いずれも増殖性をなくしたウイルス粒子や精製ウイ

ルス蛋白質を用いた不活化ワクチンである。唯一の例外は、アデノウイルスをベクターとしたワクチンである。すなわち、霊

長類では、ワクチンを接種された個体で感染防御に重要なウイルス蛋白質が産生され、それに対する細胞性免疫が誘導さ

れなければならず、不活化ワクチンのようにこの作用の無いワクチンは効果が無いことが示された。しかしながら、多くのヒト

はすでにアデノウイルスに感染しており、ベクターに対する免疫応答のためヒトでの有効性は疑問視されている。一方、

我々は、インフルエンザウイルスを用いて、半生ワクチンという新しい概念のワクチンの開発に成功している(参考文献 1)。

半生ワクチンとは、細胞に一度だけ感染し、感染防御に必要なウイルス蛋白質は発現するが、ウイルス増殖に必須の蛋白

質を発現しないため、感染細胞からは新たなウイルス粒子が出来てこない半生ウイルスを基にしたワクチンである。このワク

チンは、不活化ワクチンの長所(安全性; 感染性ウイルス粒子が出来ない)と生ワクチンの長所(細胞性ならびに粘膜免疫

の誘導)を備え持ち、両ワクチンの短所(不活化ワクチン、細胞性と粘膜免疫誘導の欠如; 生ワクチン、病原性復帰の可能

性)をなくした理想的なワクチンである。そこで、本研究ではエボラウイルス半生ワクチンの開発を試みる。

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新興・再興感染症制圧のための共同戦略

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■ 目 標

① インフルエンザウイルスをベクターとした半生エボラ・ワクチンの開発

② 抗エボラウイルス薬スクリーニング系の確立

■ 目標に対する結果

① HA 遺伝子の代わりにエボラウイルスの GP1 遺伝子(膜糖蛋白質 GP の細胞外領域の一部)を持つ組換えインフル

エンザウイルス(Flu-Ebola;半生ワクチン)を作製した。この Flu-Ebola をマウスへ経鼻投与するとエボラ GP に対する

抗体が有意に誘導されることから、ワクチンとして有効であることが確認できた。

② ①で作製したエボラ半生ウイルスのウイルス様 RNA にレポーター遺伝子(分泌型アルカリフォスファターゼ)を挿入

した半生ウイルスを作製し、ウイルスの細胞への侵入、ウイルス RNA の複製を抑制する薬剤のスクリーニングに使用

する予定である。

■ 研究方法

インフルエンザウイルスの HA 遺伝子の代わりにエボラウイルスの GP1 遺伝子(膜糖蛋白質 GP の細胞外領域の一部)

を持つ組換えインフルエンザウイルス(Flu-Ebola)を、リバースジェネティクス法により作製した。本ウイルスは増殖に必須な

HA 蛋白質の代わりに分泌型の GP1 を発現するため、普通の培養細胞では増殖が出来ない、半生ワクチンである。そこで、

インフルエンザウイルスの HA 蛋白質を恒常的に発現する株化細胞を作出した。HA 発現株化細胞では、細胞が HA 蛋白

質を供給するために HA 遺伝子を欠損した半生ウイルスの増殖が可能となる。HA 発現株化細胞で増殖させた半生ワクチ

ン Flu-Ebola を用いて、ワクチン効果を検討した。

■ 研究成果

まず、インフルエンザウイルスベクターの半生ワクチンとしての有効性を検討するため、パラインフルエンザウイルスの遺

伝子を挿入し、解析を行ったところ、両ウイルスに対するワクチン効果が認められた[原著論文 1)]

。そこで、次にインフルエン

ザウイルスのHA遺伝子の代わりにエボラウイルスのGP1 遺伝子を持つ組換えインフルエンザウイルス(Flu-Ebola)を作製し

た。Flu-Ebolaのワクチン効果を調べるために、マウスに麻酔下で経鼻投与した。ワクチン接種は 3 週間ごとに 3 回行い、各

回の接種 2 週間後に血清を採材し、それに含まれる抗エボラGP抗体をELISAで測定した。その結果、コントロールの

Flu-GFP(HA遺伝子の代わりにGFP遺伝子を持つ半生ウイルス)接種群ではエボラGPに対する抗体が誘導されていない

のに対し、Flu-Ebola接種群ではエボラGPに対する抗体が誘導された。

次に、Flu-Ebola の効果的な接種ルートの検討として、腹腔内接種について調べた。Balb/c マウスに Flu-Ebola、

Flu-GFP、またはPBS を3 週間ごとに 3 回腹腔内接種し、各回の接種 2 週間後に血清を採材し、抗エボラ GP 抗体をELISA

で測定した。その結果、Flu-Ebola はコントロールと比べて有意に抗体誘導しないことが分かった。すなわち、Flu-Ebola の

抗エボラ GP 抗体の誘導においては経鼻接種の方が効果的であることが分かった。

現在、Flu-Ebola のマウスにおけるエボラウイルス感染防御能の検討を行っている。エボラウイルスの感染防御におい

ては液性免疫のみならず体性免疫も重要な役割を果たすことが知られているので、今回、ワクチン接種ルートとしては経鼻

接種と腹腔内接種の両方を検討することとした。これまでに、Balb/c マウスに Flu-Ebola、 Flu-GFP、または PBS を 3 週間

毎、3 回接種した。この被検マウスをカナダの BSL-4 施設へ輸送し、エボラウイルスで攻撃する予定である。

さらに、インフルエンザウイルスの HA 蛋白質を恒常的に発現する株化細胞を用いて、HA 遺伝子の代わりにエボラウイ

ルスの VP40 遺伝子を持つ半生インフルエンザウイルス(Flu-EboVP40; 細胞に一度だけ感染し、VP40 を発現するが、増

殖に必須のウイルス蛋白質(HA 蛋白質)を発現しないために新たな感染性粒子を生産しないインフルエンザウイルス)を作

製した。

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新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 考 察

これまでの研究により、Flu-Ebola 半生ワクチンの作製に成功し、さらに、この Flu-Ebola ワクチンがマウスへの経鼻接種で

有意に抗体を誘導することが明らかとなり、有効なワクチンとなり得ると考えられた。そこで、Flu-Ebola のマウスにおけるエ

ボラウイルス感染防御能の検討を行うことになったが、日本には使用可能なBSL-4 実験施設が無いため、研究の実施場所

としてカナダの Canadian Science Centre for Human and Animal Health を平成 17 年度途中より追加し、この施設を借りてマ

ウスおよびサルを使った検定試験を行うこととなった。現在、被検マウスの輸送準備中である。日本に BSL-4 施設がないこ

とが、エボラウイルス感染症の研究にとって障害となっている。日本国内で全ての研究を行うことが出来ないことは大きな問

題である。この様な状況下でありながら、本研究で作製した半生ワクチン Flu-Ebola は、有効なエボラワクチンとなり得ると期

待される。さらに、Flu-Ebola に改良を加えた Flu- EboVP40 は、VP40 蛋白質が宿主の自然免疫を強く誘導するため、

Flu-Ebola と同時に接種することでワクチン効果を高めることが出来ると考え、今後これらの接種方法などを検討する予定で

ある。

■ 参考(引用)文献

1. Watanabe,T., Watanabe, S., Neumann, G., Kida, H., Kawaoka, Y.: 「Immunogenicity and protective efficacy of

replication-incompetent influenza virus-like particles」, J. Virol., 76(2), 767-773, (2002)

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

70 70

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 1 報 (筆頭著者:0報、共著者:1 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:2 報、国外誌:2 報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:1 回、主催講演:0 回、応募講演:0 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Maeda, Y., Hatta, M., Takada, A., Watanabe, T., Goto, H., Neumann, G., Kawaoka, Y.: 「Live bivalent vaccine

for parainfluenza and influenza virus infections」, J. Virol., 79, 6674-6679, (2005)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1) 高田礼人、河岡義裕:「フィロウイルスの細胞への侵入」, 細胞工学, 24, 141-144, (2005)

2) 高田礼人、野田岳志、河岡義裕:「フィロウイルスと細胞膜」, 膜, 30, 68-72, (2005)

国外誌

1) Jasenosky, L.D. and Kawaoka, Y.: 「Filovirus budding」, Virus Res., 106, 181-188, (2004)

2) Kawaoka, Y.: 「How Ebola virus infects cells」, New Eng. J. Med., 352, 2645-2646, (2005)

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

1) 河岡義裕:「Enigmas of emerging viral infectious」, Kyoto, Foreign Anniversity Report US-Japan

Cooperative Medical Science Progrum, 2004.12.8

主催・応募講演

該当なし

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

71 71

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

3. SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究開発

3.2. パンデミックインフルエンザワクチンの準備

3.2 .1 . インフルエンザウイルス遺伝子ライブラリーの構築

国立大学法人北海道大学獣医学研究科 微生物学教室

喜田 宏

■ 要 旨

インフルエンザはインフルエンザ A ウイルスがヒトや動物に感染して起こる人獣共通感染症である。すべてのインフルエ

ンザ A ウイルスは、野生水禽と北方圏の営巣湖沼水の間で維持されている非病原性のウイルスに起源がある。ウイルスは

粒子表面のヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)糖タンパクの抗原特異性により、H1~16、N1~9 の亜型に

分けられる。本研究は新型インフルエンザの出現に備えた先回り対策の基盤形成のために、動物インフルエンザのグロー

バルサーベイランスの実施と、分離されたインフルエンザウイルス株およびその遺伝子クローンのライブラリー構築を目標と

している。インフルエンザAウイルスの HA と NA 亜型の組合せは 144 通りである。現在までに 127 通りのウイルス株を系統

保存した。さらにこれらのウイルスから 97 の HA と NA 遺伝子をクローニングした。これらのウイルス株および遺伝子の情報

をデータベース化し、インターネットを通じて世界に発信する事業を開始した。ライブラリー化されたウイルス株と遺伝子クロ

ーンはインフルエンザワクチンの開発と診断技術の向上に活用され始めた。

■ 目 的

これまでの研究成果から、20 世紀に出現した新型インフルエンザウイルスは、ヒトで流行していたウイルスと水禽から持ち

込まれたウイルスがブタに混合感染し、遺伝子再集合体として生まれたものであることがわかっている(参考文献 1,2)。

すなわち新型インフルエンザウイルスの出現には鳥インフルエンザウイルスが主役を演ずる。現在、H5 亜型の高病原性鳥

インフルエンザウイルスが世界各地の家禽に流行しており(参考文献 3,4)、ヒトへの感染例も報告されている(参考文献

5)。このような状況から、次の新型インフルエンザウイルスはH5 亜型のウイルスであると信じられている。しかしながらこれま

での新型ウイルスの出現メカニズムを踏まえると、H5 亜型だけでなく全ての亜型のウイルスが次の新型ウイルスとなる可能

性がある(参考文献 6)。これまでのインフルエンザ対策は、病気が発生してからその予防や診断方法を開発する「後追い

型」である。全ての亜型のインフルエンザウイルスに対する予防と診断の方策をあらかじめ準備しておくことにより「先回り

型」の感染症対策が可能となる。本研究では、現在同定されている全てのHA とNA の亜型のウイルス株を系統的に保存す

るとともに、これらのウイルス株の HA および NA 遺伝子をクローニングし、遺伝子ライブラリーを構築することを企画した。こ

れらのウイルスや遺伝子のライブラリーがヒトや動物のインフルエンザの予防や診断法の開発のバイオリソースとして利用さ

れるよう、得られたウイルス株やその遺伝子の情報はデータベース化し、世界保健機構(WHO)や国際獣疫事務局(OIE)

などと連携しながら世界に公表する。また、実際にこれらのウイルスライブラリーからワクチン株の選抜、ワクチンの試製を行

い、有効性を動物試験で評価する。以上のように、ウイルス株およびウイルス遺伝子のライブラリーの構築は、ヒトと動物の

インフルエンザの診断と予防に有用であり、新型インフルエンザウイルスの出現に備えた先回り対策の基盤が形成される。

■ 目 標

① インフルエンザ A ウイルスの HA と NA 亜型(それぞれ H1~H16 と N1~N9)の組み合わせ 144 通りのうち既に 63

通りの組み合わせのウイルス株がこれまでに得られ、保存されている。残り 81 通りの HA と NA の組み合わせのウイ

72 72

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

ルス株を自然界から得られるウイルスおよび実験室内で作出するウイルスをもって準備し、すべての亜型のウイルス

株の系統保存を完了する。

② 系統保存したウイルスの HA および NA 遺伝子をクローニングし、遺伝子ライブラリーを構築する。さらに、遺伝子解

析等の結果からワクチン製造株、診断抗原用ウイルス株を選定する。

③ ウイルス株および遺伝子の情報をデータベース化し、公表する。

④ 産官との連携を図りつつ、ウイルス株と診断抗原の供給体制を整備する。

⑤ 選定されたウイルス株を基にワクチンを試製し、マウスやニワトリにおける免疫原性、発症防御効果などを評価する。

一連の診断用抗原は、その有用性を評価する。また、ウイルス株および遺伝子ライブラリーは年次更新する。

■ 目標に対する結果

① グローバルサーベイランスによって自然界から得られたインフルエンザウイルスおよび実験室内で遺伝子再集合体

として作出されたウイルスにより、新たに 64 通りの HA と NA 亜型の組み合せのウイルス株を系統保存に追加した。

これにより、本研究開始前に系統保存されていた 63 通りの組み合わせのウイルスと合わせて 127 通りのウイルスの

系統保存を完了した。今後、まず H1~H15 と N1~N9 の組み合わせ 135 通りのウイルスの系統保存を完了するた

めに残り 8 通りの組み合わせのウイルスをライブラリーに追加する。さらに 2005 年に新たに報告された H16 亜型の

ウイルス(7)を入手し、H16 亜型ウイルスのすべての NA 亜型との組み合わせ計 9 通りのウイルスを実験室内で作出

し、ライブラリーに追加することとした。

② 系統保存したウイルスの HA および NA 遺伝子を RT-PCR により増幅し、塩基配列を決定した。塩基配列をもとに遺

伝子解析を行い、ワクチン製造や診断抗原に有用と思われるウイルス株の選定を行った。またそれぞれの遺伝子を

プラスミドベクターにクローニングした。これまでのところ、H5 および H7 亜型の HA 遺伝子を中心に 31 の HA 遺伝

子をクローニングした。また、66 の NA 遺伝子を同様にクローニングし、遺伝子ライブラリーを整備した。

③ 系統保存されたウイルス株が分離された動物種、分離地、分離年、ウイルス分離後の継代歴、HA および NA 亜型、

動物に対する病原性の有無などの情報を取りまとめ、データベース化した。本データベースに、新たにクローニング

したウイルス遺伝子の情報を追加した。本データベースは年次更新し、 新のデータを収載するよう努めている。こ

のデータベースは試行的にインターネット上で公開を開始した(http://133.87.208.104/vdbportal/view/index.jsp)。

これらのデータベースの有効利用を目的に OIE や WHO などの国際機関との情報交換を継続している。

④ 試験研究を目的として他研究機関にウイルス株や診断抗原の供給を開始し、バイオリソースセンターとしての活動

を開始した。

⑤ 選定されたウイルス株を基にワクチンを試製し、マウスやニワトリに対する免疫原性、発症防御効果などを評価した。

さらに産官との連携を図りながら、H5 および H7 亜型の鳥インフルエンザに対する国産ワクチンの開発を開始し、こ

れまでよりも省力的、かつ効果的なワクチンの開発に成功した。本ワクチンは 2006 年末には動物用医薬品としての

認可を取得し、鳥インフルエンザ緊急用ワクチンとして国内に備蓄される見込みである。

■ 研究方法

日本、中国、オーストラリア、モンゴルにおいて野生水禽(カモ、ハクチョウおよびミズナギドリ)の糞便を採取した。抗生物

質を含む PBS と糞便を混和後、上清を発育鶏卵に接種した。鶏卵は 35℃で 48 時間培養後、尿液を回収し、ウイルスの有

無を HA 試験により調べた。ウイルス分離陽性のサンプルは HI および NI 試験により HA および NA の亜型を同定した。こ

の HA および NA の亜型に基づいてウイルス株を系統保存した(図1)。また、グローバルサーベイランスにおいて家禽から

分離された鳥インフルエンザウイルスについても HA および NA 亜型の同定を行い、系統保存に加えた。

実験室内で遺伝子再集合体を作出するために、HA および NA 遺伝子の供給源となる 2 つのウイルスを発育鶏卵内に同

時接種した。48 時間の培養後にウイルス液を回収し、プラック法によりウイルスクローンを回収した。回収したウイルスクロー

73 73

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

ンの HA および NA の亜型を同定し、目的とする HA およ

び NA 遺伝子を有する遺伝子再集合体を選抜した。これら

の遺伝子再集合体ウイルスも同様にHAおよびNAの亜型

に基づいて系統的に保存した。

HA および NA 遺伝子のクローニングは以下のように行

った。まず系統保存されたウイルス液から RNA を抽出し、

RT-PCR 法によりインフルエンザウイルスの HA および NA

遺伝子の全長をそれぞれ増幅した。この PCR 産物をそれ

ぞれクローニング用ベクター(pCR 2.1-TOPO)に定法に

基づきクローニングした。クローニングされたHAおよびN

全長遺伝子の塩基配列を決定した。得られた遺伝子情報

アミノ酸配列であることを確認した。ウイルス遺伝子がクローニングされたプラスミドベクターはウイルス株と同様に系統的に

保存した。

A

から HA 蛋白の開裂部位のアミノ酸配列を推定し、弱毒タイプの

系統保存されたウイルス株が分離された動物種、分離地、分離年、ウイルス分離後の継代歴、HA および NA 亜型、動物

に対する病原性の有無などの情報を取りまとめ、データ管理ソフト(FileMaker)を使ってデータベース化した。本データベ

ースにクローニングされた遺伝子ライブラリーの塩基配列情報も追加した。これらのデータベースの情報をより多くの人に利

用してもらうためにサーバーにデータを移管し、インターネット上でのデータベース検索が出来るようにした。本データベー

スの国際的な利用に向けて、国際獣疫事務局(OIE)や世界保健機構(WHO)などと意見交換を行い、システムの改良を行

った。

これらのライブラリー化されたウイルスおよびウイルス遺伝子をヒトおよび動物のインフルエンザ対策に活用するため、北

海道大学微生物取扱い規程を遵守し、ウイルス株を他研究機関に供給した。また、系統保存されたウイルス株のうち、H5

および H7 亜型の鳥インフルエンザワクチンの原株として 適な株を選抜し、動物用医薬品協会を経由して国内の動物用

ワクチンメーカーに供給した。本ウイルス株を基に不活化ワクチンを試製し、ニワトリにおけるワクチン効果を動物試験で評

価した。さらに迅速診断キットの開発においてキットの特異性を評価するために、系統保存されたウイルス株を標準抗原と

して使用した。また H5 亜型の鳥インフルエンザウイルスの病原性比較試験の対照株として、系統保存されている弱毒型

H5N1 ウイルスを動物接種試験に利用した。

図1.野生水禽類の糞便材料の採取(A)と分離されたインフルエンザウイルスの系統保存(B)

A B

■ 研究成果

日本、中国、オーストラリア、モンゴルで採取した糞便材料

からウイルス分離を実施し、229 株のインフルエンザAウイルス

を分離した。これらのウイルスのHA亜型はH13、H14、H16 を

除く 13 の亜型に、NA亜型はN1 からN9 のすべてに区分された

(図2)。これらのウイルス株は全て系統保存に追加した。さら

に、実験室内で遺伝子再集合体としてウイルス株を作出し、同

様に系統保存に追加した。これらのウイルス株により新たに 64

通りのHAとNA亜型の組み合せのウイルスが系統保存に追加

された。これにより、本研究開始前に系統保存されていた 63

通りの組み合わせのウイルスと合わせて 127 通りのウイルスの

系統保存が完了した(図3)。今後、残りの全てのHAとNAの組み合わせのウイルスの系統保存を行い、ウイルスライブラリー

を完成させる。家禽のサーベイランスにおいて分離されたH9N2 およびH5N1 亜型の鳥インフルエンザウイルスの遺伝子お

よび病原性の解明を行ったところ、これらの分離ウイルスはニワトリやカモに高い病原性を示すウイルスであることが明らか

になった[原著論文 1), 2)]

モンゴル (100株)

H2N2 (1) H2N3 (2) H3N2 (1) H3N6 (8) H3N8 (38) H4N2 (1) H4N6 (31) H8N1 (1) H8N4 (1) H9N2 (1) H10N3 (11) H10N5 (3) H10N7 (1)

北海道 (121株)

H1N1 (1) H2N5 (1) H3N2 (1) H3N8 (16)

H4N6 (13)H6N1 (6)

H6N8 (4)H8N4 (4)

H9N2 (2) H9N4 (1) H10N5 (7) H10N6 (1) H11N9 (1) H12N2 (1) H12N5 (1) H15N8 (2)

H4N2 (8)H5N3 (3)H6N2 (17)H7N7 (31)

中国 (2株)H3N8 (1)H4N6 (1)

オーストラリア (6株)H2N5 (6)

図2. グローバルサーベイランスで分離・同定されたインフルエンザウイルス(2004~05年度)

74 74

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

系統保存したウイルスのHAおよびNA遺伝子を

RT-PCRにより増幅し、塩基配列を決定した。塩基配列

をもとに遺伝子解析を行い、ワクチン製造や、診断抗原

に有用と思われるウイルス株の選定を行った[原著論文 3),

4)]。またそれぞれの遺伝子をプラスミドベクターにクロー

ニングし、これまでのところH5 およびH7 亜型のHA遺伝

子を中心に 31 のHA遺伝子をクローニングした。また、

66 のNA遺伝子を同様にクローニングし、遺伝子ライブ

ラリーを整備した(図4)。系統保存されたウイルス株が

分離された動物種、分離地、分離年、ウイルス分離後の

継代歴、HAおよびNA亜型、動物に対する病原性の有

無などの情報を取りまとめ、データベース化した。本デ

ータベースにクローニングされた遺伝子ライブラリーの

情報も追加した。作成されたデータベースは年次更新

し、常に 新のデータベースを維持している。現在デー

タベースは試行的にインターネット上での公開を開始し

ている

(http://133.87.208.104/vdbportal/view/index.jsp)。

H5 およびH7 亜型のウイルスの抗原性解析を行うた

めに、モノクローン抗体をそれぞれ 20 クローンずつ作出

し、H5 およびH7 亜型のウイルスの抗原解析を行った。

本成績や遺伝子解析の成績を基にワクチン候補株を選抜し、これを基にワクチンを試製した。本ワクチンのマウスやニワトリ

に対する免疫原性、感染防御効果などを評価し、ワクチンとしての有効性を確認した。さらにライブラリー化されたウイルス

株はインフルエンザウイルスの抗原検出用迅速診断キットの開発における標準抗原として使用し、キットの特異性の評価に

利用された。その結果、開発中の診断キットはライブラリーに保存されている全てのインフルエンザAウイルスと特異的に反

応することが試験管レベル、および動物実験で確認された[原著論文 5), 6)]

。またH5 亜型の鳥インフルエンザウイルスの病原

性試験の対照株として、ライブラリーに保存されている弱毒型H5N1 ウイルスを動物接種試験に利用した[原著論文 7)]

。以上

のように、ライブラリー化されたウイルス株や遺伝子クローンはインフルエンザのワクチン開発や診断技術の向上に活用さ

れ始めている。

図3. インフルエンザウイルス株の系統保存

図4.インフルエンザウイルスHAおよびNA遺伝子の系統保存

■ 考 察

インフルエンザAウイルスには理論的に 144 通りの HA と NA 亜型の組み合わせがある。これらのウイルスおよびウイルス

遺伝子の系統保存が本研究の目標である。これらのウイルス株はワクチン製造用として、また診断用標準抗原として等、

様々な利用が見込まれる。ウイルス株およびその遺伝子のライブラリーの完成と本ライブラリーの国際的な共有は、ヒトと動

物のインフルエンザに対するグローバルな「先回り対策」を可能とするであろう。なお、本研究プロジェクト開始後にカモメか

ら新たに H16 亜型の鳥インフルエンザウイルスがヨーロッパで分離された(7)。今後も新たな亜型のウイルスが分離されるこ

とが予想されるので、必要に応じてウイルスおよび遺伝子ライブラリーの補充、更新を行う。ライブラリー化されたウイルス株

および遺伝子クローンはワクチンや診断法の開発に利用され始めており、産官との連携をさらに強化し、インフルエンザに

対する先回り対策のための具体的なツールを準備する計画である。

本研究は概ね計画通りに進行しているが、新型インフルエンザウイルスの出現に対する危機感が高まっているので、計

画を前倒しで実行すべく尽力する。

75 75

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 参考(引用)文献

1. Ito, T., Couceiro, J.N., Kelm, S., Baum, L.G., Krauss, S., Castrucci, M.R., Donatelli, I., Kida, H., Paulson, J.C.,

Webster, R.G. and Kawaoka, Y.: 「Molecular basis for the generation in pigs of influenza A viruses with pandemic

potential.」, J Virol, 72, 7367-7373, (1998)

2. Yasuda, J., Shortridge, K.F., Shimizu, Y. and Kida, H.: 「Molecular evidence for a role of domestic ducks in the

introduction of avian H3 influenza viruses to pigs in southern China, where the A/Hong Kong/68 (H3N2) strain

emerged.」, J. Gen. Virol, 72, 2007-2010, (1991)

3. Easterday, B.C., Hinshaw, V.S. and Halvorson, D.A.: 「Influenza.」 In: Calnec BW (ed) Diseases of Poultry, 10th

ed. Iowa State University press, Ames., IA, pp 583-605, (1997)

4. Mase, M., Tsukamoto, K., Imada, T., Imai, K., Tanimura, N., Nakamura, K., Yamamoto, Y., Hitomi, T., Kira, T.,

Nakai, T., Kiso, M., Horimoto, T., Kawaoka, Y. and Yamaguchi, S.:「Characterization of H5N1 influenza A viruses

isolated during the 2003-2004 influenza outbreaks in Japan.」, Virology, 332, 167-176, (2005)

5. Claas, E.C., Osterhaus, A.D., van Beek, R., De Jong, J.C., Rimmelzwaan, G.F., Senne, D.A., Krauss, S., Shortridge,

K.F. and Webster, R.G.: 「Human influenza A H5N1 virus related to a highly pathogenic avian influenza virus.」,

Lancet, 51,472-477, (1998)

6. Kida, H., Ito, T., Yasuda, J., Shimizu, Y., Itakura, C., Shortridge, K.F., Kawaoka, Y. and Webster, R.G. 「Potential

for transmission of avian influenza viruses to pigs.」, J Gen Virol, 75, 2183-2188, (1994)

7. Fouchier, R.A., Munster, V., Wallensten, A., Bestebroer, T.M., Herfst, S., Smith, D., Rimmelzwaan, G.F., Olsen, B.,

and Osterhaus, A.D.:「Characterization of a novel influenza A virus hemagglutinin subtype (H16) obtained from

black-headed gulls.」, J Virol, 79, 2814-2822, (2005)

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

76 76

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 7 報 (筆頭著者:0 報、共著者:7 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:12 報、国外誌:3 報、書籍出版:1 冊

4. 口頭発表 招待講演:19 回、主催講演:0 回、応募講演:6 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 3 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Kishida, K., Sakoda, Y., Eto, M., and Kida, H.: 「Co-infection of Staphylococcus aureus or Haemophilus

paragallinarum exacerbates H9N2 influenza A virus infection in chickens.」, Arch Virol, 149, 2095-2104, (2004)

2) Kishida, N., Sakoda, Y., Isoda, N., Matsuda, K., Eto, M., Sunaga, Y., Umemura, T. and Kida, H.: 「Pathogenicity

of H5 influenza viruses for ducks.」, Arch Virol, 150, 1383-1392, (2005)

3) Liu, J.H., Okazaki, K., Mweene, A., Bai, G.R., Shi, W.M., Mweene, A. and Kida, H.: 「Interregional

transmission of the internal protein genes of H2 influenza virus in migratory ducks from North America to Eurasia.」,

Virus Gene, 29, 81-86, (2004)

4) Liu, J.H., Okazaki, K., Mweene, A., Shi, W.M., Wu, Q.M., Su, J.L., Zhang, G.Z., Bai, G.R. and Kida, H. :「Genetic

conservation of hemagglutinin gene of H9 influenza virus in chicken population in Mainland China.」, Virus Genes, 29,

329-334, (2004)

5) Bai, G., Sakoda, Y., Mweene, A.S., Yamada, T., Minakawa, H., and Kida, H.: 「Evaluation of the ESPLINE

INFLUENZA A&B-N kit for the diagnosis of avian and swine influenza.」, Microbiol Immunol, 49, 1063-1067, (2005)

6) Bai, G., Sakoda, Y., Mweene, A.S., Fujii, N., Minakawa, H. and Kida, H.: 「Improvement of a rapid diagnosis kit

to detect either Influenza A or B Virus infections.」, J Vet Med Sci, 68, 35-40, (2006)

7) Isoda, N., Sakoda, Y., Kishida, N., Bai, G.R., Matsuda, K., Umemura, T. and Kida, H.: 「Pathogenicity of a

highly pathogenic avian influenza virus, A/chicken/Yamaguchi/7/04 (H5N1) in different species of birds and mammals.」,

Arch Virol, in press, (2006)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1) 喜田 宏: 「鳥インフルエンザとは何か」, 公衆衛生, 68, 760-763, (2004)

2) 喜田 宏: 「新型インフルエンザと鳥インフルエンザ」, 現代化学 別冊 (11 月号), 27-31, (2004)

3) 喜田 宏: 「高病原性インフルエンザウイルスの起源」, 化学療法の領域, 20, 1649-1654, (2004)

4) 村本 裕紀子, 喜田 宏, 河岡 義裕: 「インフルエンザウイルスの病原性の分子基盤」,化学療法の領域, 20,

1663-1667, (2004)

5) 迫田 義博, 喜田 宏: 「インフルエンザワクチンの候補株ライブラリー」, 化学療法の領域, 20, 1669-1672, (2004)

6) 野田 岳志, 喜田 宏, 河岡 義裕: 「インフルエンザウイルス粒子形成過程の解析 −ゲノムパッケージングのメカニ

ズム−」, 化学療法の領域, 20, 1683-1688, (2004)

77 77

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

7) 岸田 典子, 喜田 宏: 「鳥インフルエンザ」, 化学療法の領域, 21, 1419-1423, (2005)

8) 喜田 宏: 「鳥とヒトのインフルエンザの予防対策ーインフルエンザウイルスの起源と進化に基づいて」, 綜合臨床,

54, 275-277, (2005)

9) 喜田 宏: 「人獣共通感染症」, The Lung perspectives, 13, 298-301, (2005)

10) 喜田 宏: 「人獣共通感染症克服のための包括的研究開発ー北海道大学の取り組み」, 文部科学時報 (Month. J.

MEXT), No. 1551, 40-41, (2005)

11) 喜田 宏: 「ヒトのインフルエンザウイルスの起源としての鳥 H5N1 インフルエンザウイルス」, ビジュアルレビュー, 35,

219-227, (2005)

12) 喜田 宏: 「高病原性鳥インフルエンザ、SARS とフィロウイルス感染症」, 検査と技術, 33, 1170, (2005)

国外誌

1) Kishida, N., Eto, M., Sunagawa, Y. and Kida, H.: 「Enhancement of pathogenicity of H9N2 influenza A viruses

isolated from chicken in China by co-infection with Staphylococcus aureus and Haemophilus paragallinarum.」,

International Congress Series 1263, 481-485, Elsevier, Amsterdam, (2004)

2) Sakoda, Y., Ito, T., Okazaki, K., Takada, A., Ito, Y., Tamai, K., Okamatsu, M., Shortridge, K.F., Webster, R.G.,

and Kida, H.: 「Preparation of a panel avian influenza viruses of different subtypes for vaccine strains against

future pandemics.」, International Congress Series 1263, 674-677, Elsevier, Amsterdam, (2004)

3) Kida, H. and Sakoda, Y.: 「Library of influenza virus strains for vaccine and diagnostic use against highly

pathogenic avian influenza and human pandemics.」, Dev Biol., 124, 69-72, (2006)

書籍出版

1) 「人獣共通感染症」, 木村哲、喜田宏 (編), 医薬ジャーナル社, 2004. 8. 10

4. 口頭発表

招待講演

1) Kida, H.: 「Avian influenza: pathogenesis and control」,Bangkok, OIE Seminar on Biotechnology; Recent Advances

in Vaccination and Diagnosis, 2003.11.10

2) Kida, H.: 「Present status of influenza virus strain library」, San Francisco, US/Japan Cooperative Medical Science

Program Acute Respiratory Infections Panel Meeting, 2004.3.21

3) Kida, H.: 「Emerging influenza」, Sapporo, Annual Meeting of Japanese Society for Pathology Symposium, 2004.6.11

4) 喜田 宏: 「新興・再興感染症;インフルエンザ」, 大阪, 第 45 回臨床ウイルス学会, 2004. 6.12

5) 喜田 宏: 「高病原性鳥インフルエンザウイルスについて」, さいたま市, 衛生微生物技術協議会 教育講演,

2004.7.8

6) 喜田 宏: 「鳥インフルエンザと新型インフルエンザ」,札幌, 平成 16 年度地方衛生研究所全国協議会 北海道・東

北・新潟支部 微生物研究部総会, 2004.10.14

7) Kida, H.: 「Influenza viruses circulating in ducks as the origin of highly pathogenic avian influenza and human

pandemic strains」, Sapporo, Annual Meeting of Japanese Society for Immunology Symposium, 2004.12.4

8) Kida, H.: 「Avian influenza viruses as the origin of highly pathogenic avian influenza and human pandemic strains」,

Kyoto, US/Japan Cooperative Medical Science Program; Emerging Viral Diseases, 2004.12.8

9) 喜田 宏: 「高病原性鳥インフルエンザの国際的状況」, 東京, 平成 16 年度食肉衛生技術研修会, 2005.2.21

10) 喜田 宏: 「鳥インフルエンザ対策」, 東京, 平成 16 年度厚生労働科学研究 国際健康危機管理ネットワーク強

化推進事業 シンポジウム 私達の身近に迫る健康の危機 —経験から導かれる 先端の予防対策、そして未来へ

78 78

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

の提言—, 2005.3.11

11) Kida, H. and Sakoda, Y.: 「Library of influenza virus strains for vaccine and diagnostic use against highly

pathogenic avian influenza and human pandemics」, Paris, OIE/FAO International Conference on Avian Influenza,

2005.4.7

12) Kida, H.: 「Avian Influenza: Natural History, Current Status Pandemic Potential」, NIH, Bethesda, Presentation

and Chairing at Brainstorming Meeting on Ecology of Infectious Disease, under the auspices of Heads of

International Research Organizations, sponsored by The Fogarty International center of the National Institutes of

Health and The United States National Science foundation, 2005.5.17

13) 喜田 宏: 「インフルエンザウイルスの生態」,札幌, 第 57 回日本衛生動物学会大会シンポジウム, 2005.6.3

14) Kida, H.: 「Ecology of influenza viruses in birds and mammals」, Sapporo, Symposium on Emerging Zoonoses, IX

International Mammalogical Congress, 2005.8.1

15) 喜田 宏: 「鳥とヒトのインフルエンザ」,札幌, 第 64 回日本公衆衛生学会総会 シンポジウム, 2005.9.14

16) 喜田 宏: 「高病原性鳥インフルエンザ」, 名古屋, 第 48 回日本感染症学会中日本地方会総会 教育講演,

2005.11.5

17) 喜田 宏: 「新型インフルエンザウイルス出現に備えた予防対策」, 津, 第 37 回日本小児感染症学会総会・学術

集会 特別講演, 2005.11.12

18) Kida, H. and Sakoda, Y.: 「Genetic and pathobiological analyses of H5N1 influenza virus isolates from feral water

birds dead in Mongolia in 2005 summer and the present status of the influenza A virus library」, Galveston, Acute

Respiratory Panel of the US-Japan Cooperative Medical Science Program, 2006.1.24

19) Kida, H.: 「Ecology of influenza viruses: Is H5N1 virus alone as a pandemic strain candidate ?」, Nagoya,

International Workshop organized by Fujita Health University COE Research Program; Can monoclonal antibodies

regulate flu ?, 2006.2.24

主催・応募講演

1) 曽田 公輔, 磯田 典和, 迫田 義博, 喜田 宏:「野生水禽類から分離された H5 インフルエンザウイルスの遺伝

子および抗原性解析」, 第 52 回日本ウイルス学会学術集会, 2004.11.21

2) 喜田 宏, 伊藤 壽啓, 高田 礼人, ムイネ アーロン, 岸田 典子, 亀山 健一郎, 磯田 典和, 五十嵐 寛高,

迫田 義博:「動物インフルエンザのグローバルサーベイランスとすべての亜型ウイルスライブラリー」, 第 52 回日本

ウイルス学会学術集会, 2004.11.21

3) 岸田 典子, 迫田 義博, 磯田 典和, 梅村 孝司, 喜田 宏: 「高病原性鳥インフルエンザウイルスのカモに対

する病原性」, 第 52 回日本ウイルス学会学術集会, 2004.11.21

4) 迫田 義博, 白 貴蓉, Manzoor Rashid, 荒木 素子, 上川 雄之, 曽田 公輔, 坂部 沙織, 喜田 宏: 「2004 年

に分離された野生水禽由来インフルエンザウイルスの抗原性および遺伝子の解析」, 第 139 回日本獣医学会学術

集会, 2005.3.30

5) 坂部 沙織, Aaron Mweene, 曽田 公輔, 磯田 典和, 岸田 典子, 迫田 義博, 喜田 宏: 「野生水禽から分離

された H7 亜型鳥インフルエンザウイルスの遺伝子および抗原性解析」, 第 53 回日本ウイルス学会学術集会,

2005.

6) 迫田 義博, 喜田 宏: 「鳥インフルエンザのワクチン開発」, 第 141 回日本獣医学会学術集会シンポジウム,

2006.3.21

5. 特許等出願等

なし

79 79

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

6. 受賞等

1) 喜田 宏: 第 58 回 北海道新聞文化賞: 「鳥、動物とヒトインフルエンザウイルスの生態学的研究」,2004. 11. 5

2) 喜田 宏: 平成 17 年度 日本農学賞・読売農学賞: 「インフルエンザウイルスの生態に関する研究」,2005. 4. 5

3) 喜田 宏: 第 95 回 日本学士院賞: 「インフルエンザ制圧のための基礎的研究 —家禽、家畜およびヒトの新型イン

フルエンザウイルスの出現機構の解明と抗体によるウイルス感染性中和の分子的基盤の確立—」,2005. 6. 13

80 80

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

3. SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究開発

3.2. パンデミックインフルエンザワクチンの準備

3.2 .2 . 人工ワクチンの合成

国立大学法人東京大学医科学研究所ウイルス感染分野

河岡 義裕

■ 要 旨

高病原性鳥インフルエンザウイルスのパンデミックに備えるため、人工ワクチン作製の方法を検討すると共に、海外での

流行状況の解析を行った。人工ワクチン作製方法として、日本で分離した H5N1ウイルスを用いて、弱毒改変型組換えウイ

ルスを作製し、臨床試験としてヒトに投与されたワクチンの製造基材細胞である Vero 細胞で、効率よく増殖できる系を確立

した。また、海外のウイルスを分離することにより、韓国の農場での流行株が H1N2 型であり、H9 その他の流行やリアソータ

ントは確認できなかったこと、さらにベトナムでタミフル耐性 H5N1 ウイルスが存在することを明らかにした。これらの結果は、

今後のパンデミック対応策を検討するために重要な情報となった。

■ 目 的

今、人類は高病原性鳥インフルエンザウイルスによるパンデミックの危機に晒されている。ヒトでの感染および死亡は、ア

ジア各地のみならず、今や中近東、東ヨーロッパへと徐々に広がっている。そして、人への感染と死亡者数も増加してきて

いる。この様な危機的状況の中、早急なワクチン開発の重要性と必要性は言うまでもないが、現在臨床試験中の試作ワク

チンが果たして本当に実用化されるかどうかは不明であり、また仮に実用化されたとしても、今後出現する H5N1 ウイルスに

抗原性の変化(antigenic drift)がおきた場合に、それが対応できるかどうかは不明である。

インフルエンザウイルスには、A、B、C の 3 つの型が存在するが、パンデミックをひき起こすのは、A 型ウイルスである。A

型インフルエンザウイルスの表面には 2 種類の糖蛋白質、赤血球凝集素(hemagglutinin; HA)とノイラミニダーゼ

(neuraminidase; NA)が存在し、感染防御抗原として重要な役割を担っている。A 型ウイルスの場合、HA と NA はその抗原

性により、HA が 16 種(H1-H16)、NA が9種(N1-N9)の抗原亜型に分類される。HA 亜型と NA 亜型の組み合わせ 144

通りのウイルスが新型ウイルスとして出現する可能性がある。本研究では、新型ウイルスの出現に際して迅速に対応し、イン

フルエンザの大流行を未然に防止することを目的とし、そのために、迅速にワクチンを供給できる体制を整備することを目

標とする。

■ 目 標

① 新型インフルエンザウイルスの出現に際して迅速に対応し、インフルエンザの大流行を未然に防止する。

② 144 通り全ての HA と NA の組み合わせのワクチン候補株および診断用抗原を保存、供給する体制を整備する。

■ 目標に対する結果

① 新型インフルエンザウイルスの出現を予測するために、今海外で流行しているウイルスを解析し、ウイルス性状を把

握して流行防止体制を整えている。

② ワクチン候補株作製に用いるための弱毒改変型組換えウイルスを作製した。さらに、ヒト用ワクチンの製造基材であ

る化血研 Vero 細胞で効率よく増殖させる系を確立した。

81 81

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 研究方法

A 型インフルエンザウイルス山口株[A/chicken/Yamaguchi/7/04 (H5N1)]の HA および NA 分節を、リバースジェネティク

ス用のプラスミドにクローニングした後、HA の解裂部位配列(RERRKKR)を 3 種類の弱毒型配列に改変した(RETR, TETR,

IETR)。これらの改変 HA および NA と、それ以外の遺伝子が発育鶏卵高増殖性 PR8 株[A/Puerto Rico/8/34 (H1N1)]由来

のウイルスをリバースジェネティクス法により作製した。細胞は、293T 細胞あるいは化血研 Vero 細胞(臨床試験としてヒトに

投与されたワクチンの製造基材細胞)を用いた。

さらに、韓国の 400 頭のブタの鼻腔拭い液から培養細胞または発育鶏卵を使用してウイルスの分離を行い、解析を行った。

また、その他の国で流行しているウイルスについても、解析を行った。

■ 研究成果

山口県のニワトリから分離した山口株[A/chicken/Yamaguchi/7/04 (H5N1)] [原著論文 1)]の弱毒化HAとNA、PR8 株の

PB1、PB2、PA、NP、M、NS分節をもつ弱毒改変型組換えウイルスを、293T細胞あるいは化血研Vero細胞を用いて作製し

た。また、Vero細胞への遺伝子導入効率を上昇させるために、エレクトロポレーションの使用を検討した。293T細胞では非

常に効率よく組換えウイルスが作製できたが、化血研Vero細胞を用いた場合にはその効率は非常に低かった。そこで、トラ

ンスフェクションの方法、あるいは培養条件の変更を検討したところ、組換えウイルス作製効率の上昇が認められた。いず

れの組換えウイルスも発育鶏卵でよく増殖した。これらの結果から、化血研Vero細胞を用いて組換えウイルスの作製が可

能となった[原著論文 2)]

。 さらに、ワクチン作製のために、より効率の良いリバースジェネティクス法についても、検討を行っ

た[原著論文 3)]

韓国の 2 ヶ所の農場から採取した 400 頭分のブタの鼻腔拭い液にそれぞれ等量の抗生物質溶液を加えたものを試験検

体とした。MDCK 細胞および AX4 細胞(ヒト型レセプター発現 MDCK 細胞)に無希釈、10 分の 1 および 100 分の 1 希釈し

たものを感染させ、トリプシン存在下 37℃2~7 日間培養した。10 日令の発育鶏卵にも同様に接種し、37℃で培養した。細

胞変性効果および回収した培養液または尿膜腔液の赤血球凝集活性によってウイルスの有無を判定し、31 サンプルにつ

いてウイルスを分離回収した。分離した 31 サンプルのウイルス液から RNA を抽出し、インフルエンザウイルス特異的な末端

の共通配列のプライマーによって相補的 DNA を増幅した。さらに各遺伝子特異的なユニバーサルプライマー(8 種類)を使

用して PCR し、各遺伝子全長 DNA を増幅した。ユニバーサルプライマーはサブタイプ間で共通な配列を使用しているため、

いずれのサブタイプの遺伝子でも増幅することが可能である。増幅した各遺伝子 DNA は pCR-BluntII-TOPO にクローニン

グし、遺伝子ライブラリーとした。

また、ベトナムで流行しているウイルスについても解析を行い、2004 年および 2005 年の間、異なる系統のH5N1 ウイルス

が度々ベトナムに侵入していることが示唆された[原著論文 4)]

■ 考 察

いつ高病原性鳥インフルエンザウイルスによるパンデミックが起きてもおかしくない現状から、本研究では、ワクチン作製

をより効率よく作製できる方法を検討し、有効なワクチン候補株作製方法を開発した。また、海外のウイルス株の性状を調

べることにより、今回解析した韓国の2ヶ所の農場で流行したウイルスが H1N2 型と判定でき、H9 その他の流行やリアソータ

ントは確認できなかったこと、さらにベトナムからタミフル耐性ウイルスが見つかったことなどから、新型ウイルスの出現に迅

速に対応するためには今後も常に家禽やブタおよび臨床検体のサーベイランスを行う必要があると考えられた。

早急なワクチン開発の重要性と必要性はいうまでもないが、現在臨床試験中の試作ワクチンが実用化された場合、今後

出現する H5N1 ウイルスの抗原性の変化(antigenic drift)に、それが対応できるかどうかは不明である。そこで、今後は試作

ワクチンの作製についても検討する。

■ 参考(引用)文献

82 82

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

該当なし

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

83 83

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 4 報 (筆頭著者:0 報、共著者:4 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:17 報、国外誌:1 報、書籍出版:2 冊

4. 口頭発表 招待講演:15 回、主催講演:0 回、応募講演:6 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 2 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Mase, M., Tsukamoto, K., Imada, T., Imai, K., Tanimura, N., Nakamura, K., Yamamoto, Y., Hitomi, T., Kira, T.,

Nakai, T., Kiso, M., Horimoto, T., Kawaoka, Y., and Yamaguchi, S.: 「Characterization of H5N1 influenza A viruses

isolated during the 2003-2004 influenza outbreaks in Japan」, Virology, 5, 167-176, (2005)

2) Horimoto, T., Takada, A., Fujii, K., Goto, H., Hatta, M., Watanabe, S., Iwatsuki-Horimoto, K., Ito, M.,

Tagawa-Sakai, Y., Yamada, S., Ito, H., Ito, T., Imai, M., Itamura, S., Odagiri, T., Tashiro, M., Lim, W., Guan, Y., Peiris,

M. and Kawaoka, Y.: 「The development and characterization of H5 influenza virus vaccine derived from a 2003

human isolate」,Vaccine, 24, 3669-3676, (2006)

3) Neumann, G., Fujii, K., Kino, Y. and Kawaoka, Y.: 「An improved reverse genetics system for influenza A virus

generation and its implications for vaccine production」, Proc. Natl. Acad. Sci., 102, 16825-16829, (2005)

4) 4) Muramoto, Y., Le ,T.Q.M., Phuong, L.S., Nguyen, T., Nuyen, T.H., Sakai-Tagawa, Y., Iwatsuki-Horimoto,

K., Horimoto, T., Kida, H. and Kawaoka, Y.: 「Molecular characterization of the hemagglutinin and neuraminidase genes

of H5N1 influenza A viruses isolated from poultry in Vietnam from 2004 to 2005」, J. Vet. Med. Sci., 68, 527-531, (2006)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1) 堀本泰介、河岡義裕:「トリインフルエンザウイルスのヒトへの脅威」, インフルエンザ, 5(2), 74-79, (2004)

2) 堀本泰介、河岡義裕:「インフルエンザワクチン:何が求められるか?」, 細胞工学, 23(7), 780-784, (2004)

3) 村本裕紀子、河岡義裕:「鳥インフルエンザの基礎知識」, 飼料, 74, 4-8, (2004)

4) 木曽真紀、河岡義裕:「小児におけるアマンタジン耐性ウイルス出現状況」, インフルエンザ, 5(4), 342-346,

(2004)

5) 村本裕紀子、喜田宏、河岡義裕:「インフルエンザウイルスの病原性の分子基盤」, 化学療法の領域, 20(11),

1663-1667, (2004)

6) 藤井健、堀本泰介、河岡義裕:「インフルエンザウイルスの人工合成~新たな夜明け~」, 化学療法の領域,

20(11), 1675-1681, (2004)

7) 野田岳志、喜田宏、河岡義裕:「インフルエンザウイルス粒子形成過程の解析-ゲノムパッケージングのメカニ

ズム-」, 化学療法の領域, 20(11), 1683-1688, (2004)

8) 木曽真紀、三田村敬子、坂井(田川)優子、白石京子、川上千春、木村和弘、菅谷憲夫、河岡義裕:「小児にお

けるオセルタミビル耐性ウイルス」, 化学療法の領域, 20(12), 1867-1870, (2004)

84 84

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

9) 坂井(田川)優子、河岡義裕:「抗ウイルス薬に対するインフルエンザウイルスの耐性とメカニズム」, ウイルスレポ

ート, 31-37, (2004)

10) 藤井健、河岡義裕:「インフルエンザウイルスのゲノム解析」, ゲノム医学, 4(5), 561-567, (2004)

11) 藤井健、河岡義裕:「インフルエンザ-分類と鳥インフルエンザ-インフルエンザウイルス事始め-」, 診断と治

療, 92(12), 2227-2232, (2004)

12) 野田岳志、喜田宏、河岡義裕:「ゲノムパッケージングを視る」, 実験医学, 22(16), 2275-2279, (2004)

13) 堀本泰介、河岡義裕:「パンデミックは再来する 鳥インフルエンザに隠された殺人鬼の影」, 日経サイエンス, 3

月号, 30-35, (2005)

14) 木曽真紀、河岡義裕:「薬剤耐性インフルエンザウイルス」, インフルエンザ, 6(1), 21-26, (2005)

15) 野田岳志、喜田宏、河岡義裕:「A 型インフルエンザウイルス粒子は8本のウイルスゲノムを選択的に取り込む」,

細胞工学, 25(3), 270-271, (2006)

16) 岩附(堀本)研子、河岡義裕:「鳥インフルエンザ 新の状況」, インフルエンザ, 7, 31-35, (2006)

17) 村本裕紀子、野田岳志、河岡義裕:「インフルエンザウイルスの選択的ゲノムパッケージング機構」, 蛋白核酸

酵素, 印刷中

国外誌

1) Horimoto, T. and Kawaoka, Y.:「Influenza: lessons from past pandemics, warnings from current incidents」,

Nature Rev. Microbiol., 3, 591-600, (2005)

書籍出版

2) 「Biology of Negative Strand RNA Viruses: The Power of Reverse Genetics」: Kawaoka Y ed, Springer London

UK, 2004

3) 「インフルエンザ危機」, 河岡義裕, 集英社新書, 2005.10.19

4. 口頭発表

招待講演

1) 河岡義裕:「インフルエンザ」, 東京, 日本感染症学会, 2004.4.6

2) 河岡義裕:「インフルエンザ: 近の話題」, 沖縄, 第 52 回日本化学療法学会, 2004.6.4

3) 河岡義裕:「Why Influenza kills…and will kill again」, USA, The Scripps Research Institute, 2004.6.8

4) 河岡義裕:「Why Influenza kills…and will kill again」, 札幌, WHO Animal Influenza training course, 2004.8.18

5) 河岡義裕:「インフルエンザ:その制圧は?」, 横浜, 第 77 回日本生化学学会, 2004.10.14

6) 河岡義裕:「新型インフルエンザウイルス」, 東京, 第 45 回熱帯医学会大会, 2004.10.16

7) Kawaoka Y:「Why Influenza kills…and will kill again」, USA, 44th ICAAC, 2004.10.30

8) Kawaoka Y:「Why Influenza kills…and will kill again」, INSTRUM SYMPOSIUM, Netherlands, 2004.11.4

9) 河岡義裕:「インフルザ: 近の話題」, 東京, 第 36 回小児感染症学会総会, 2004.11.12

10) 河岡義裕:「インフルエンザウイルスの謎」, 横浜, 第 52 回日本ウイルス学会, 2004.11.22

11) 河岡義裕:「Why Influenza kills…and will kill again」, 札幌, 第 34 回日本免疫学会, 2004.12.2

12) Kawaoka Y::「Enigmas of emerging viral infectious」, Kyoto, Foreign Anniversity Report US-Japan Cooperative

Medical Science Program, 2004.12.8

13) 河岡義裕:「Why Influenza kills…and will kill again」, 京都, 日米国際新興・再興感染症会議, 2004.12.10

14) 河岡義裕:「インフルエンザウイルスの謎」, 神戸, 第 27 回日本分子生物学会, 2004.12.11

15) Kawaoka, Y.:「Influenza Pathogenesis」, Switzerland, 15th Challenge in Virology, 2005.1.15

85 85

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

主催・応募講演

1) Kawaoka, Y.: 「Influenza Pathogenesis」, Beijing, First China-Japan Bilateral Symposium on Avian Influenza,

2004.10.18

2) 山田晋弥、藤井健、伊藤睦美、堀本研子、田川優子、高田礼人、五藤秀男、城野洋一郎、堀本泰介、河岡義

裕:「H5N1インフルエンザウイルス山口株の弱毒改変型HAをもつワクチンの化血研Vero細胞を用いての試作」,

札幌, 第 138 回日本獣医学会学術集会, 2004.9.11

3) 堀本泰介、藤井健、山田晋弥、伊藤睦美、岩附(堀本)研子、坂井(田川)優子、高田礼人、五藤秀男、城野洋一

郎、河岡義裕:「H5N1 インフルエンザワクチン候補株の Vero 細胞を用いての試作」, 横浜, 第 52 回日本ウイル

ス学会, 2004.11.21

4) Neumann, G., Fujii, K., Kino, Y and Kawaoka, Y.: 「Improved reverse genetics system for influenza A virus

generation and its implications for vaccine production」, San Francisco, XIIIth International Congress of Virology,

2005.7.24

5) Hatta, M., Maeda, Y., Shinya, K., Watanabe, S., Kimu, J.H. and Kawaoka, Y.: 「Pathogenicity of H5N1 influenza

A viruses isolated from humans and birds in Vietnam in 2004」, San Francisco, XIIIth International Congress of

Virology, 2005.7.24

6) 堀本泰介、村本裕紀子、藤井健、山田晋弥、岩附研子、城野洋一郎、河岡義裕: 「インフルエンザ不活化ワクチ

ンの製造基材である発育鶏卵でより効率よく増殖する H5N1 ワクチンシードウイルス候補株の作出」, 横浜, 第

53 回日本ウイルス学会, 2005.11.20

7) Nidom, C.A., Iwatsuki-Horimoto, K., Indiyanti, N.P.L., and Kawaoka, Y.: 「Molecular analysis H5N1 subtype of

avian influenza virus genome in Indonesia」, Tianjin, 2005 CAS-JSPS Asian Science Seminar, 2005.12.22

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

1) 河岡義裕:「文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)」, 2006.4

2) 河岡義裕:「ロベルト・コッホ賞」, 2006.11

86 86

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

3. SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究開発

3.3 . プラス鎖 RNA ウイルス増殖過程に関する基礎研究

国立大学法人東京大学大学院医学系研究科微生物学分野

野本 明男

■ 要 旨

感染 2 時間後のポリオウイルス(PV)感染神経細胞に、抗 PV 抗体または抗 PV 受容体抗体を添加すると、神経細胞は細

胞変性(CPE)を示さない。この PV 抵抗性について解析したところ、PV の一回の感染サイクルに対し、感染 7 時間後に PV

特異的蛋白質の合成が阻止されており、感染 11 時間後には PV 特異的プロテアーゼ 2A が核内に移行し、感染 24 時間

後にはウイルス抗原が消失してしまうことを見出した。そこで神経細胞の PV 抵抗性を解析するため、まず PV による神経細

胞の CPE 発現機構を解析した。これまでに、一回感染のみ起こす PV の欠陥干渉(DI)粒子を使用した実験を行なってきた

が、PV の野生型スタンダードウイルスと DI 粒子の間にも病原性発現に関する差が存在することを見出している。C 型肝炎

ウイルス(HCV)の二つの株からの RNA レプリコン活性の違いを決めている部位を、両株の組換え体と作製し、その活性を

観察することによりマップした。その結果、塩基番号 1 と 4 の違いにより活性のあるなしが決定されていることを明らかにし

た。

■ 目 的

すべてのウイルスは各ウイルス科(family)に分類されており、同じ科のウイルスの複製過程は類似している。したがって、

新興ウイルス感染症に対応するには、すべてのウイルス科の代表的ウイルスの研究を進めておく必要がある。事実、SARS

コロナウイルスへの対応に関しては、マウスコロナウイルスの研究者が大活躍した。

本研究では、ピコルナウイルス科の PV、およびフラビウイルス科の HCV を取り上げ、複製・増殖と病原性発現メカニズム

の研究を展開し、両ウイルス科の感染現象を分子レベルで明らかにし、ピコルナウイルス科およびフラビウイルス科のウイル

スによる新興感染症に対処できる知見を蓄積することを目的とする。同時に抗ウイルス薬の開発を目指す。

PV は小児マヒの病因である。WHO のポリオ根絶計画では、経口生ポリオワクチン(OPV)が使用され、多大の効果を示し

ている。しかしながら、野生株による感染者が減少するにつれ、ワクチン接種による発症者が目立ち始めた。またワクチン接

種率の低下した地域では、変異したワクチン株が伝播し、強毒株の性質を持つウイルスとなり、これによる発症者が出ること

も判明している。したがって、今後は OPV から不活化ワクチン(IPV)へとワクチンを転換する必要がある。この時に問題とな

るのは、ワクチンの価格である。IPVはOPVに比べ圧倒的に高価であるため全世界でIPVを使用することは不可能である。

IPV に替わり PV 感染を制御できる薬剤の開発が望まれている。本研究では、神経細胞の PV 抵抗性に着目し、薬剤の創

製を目指す。

HCV の病原性発現機構および複製・増殖機構は謎に満ちている。これまで、効率良くウイルス増殖を行なわせる培養細

胞系が存在しなかったことがその大きな原因である。 近になり、細胞癌化の中心的役割はコア蛋白質であることが示され、

また HCV の RNA を RNA レプリコンとして複製させる実験系が整った。そこで、コア蛋白質の細胞内での存在状態を解析し、

さらにリバースジェネティックスを使用した RNA 複製研究を遂行することを目的とした。本研究では、HCV 複製機構に着目

した薬剤の創製も目指す。

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新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 目 標

① 神経細胞の PV 抵抗性、とくに PV 特異的翻訳メカニズムの阻害機構や PV 特異的プロテアーゼ 2A の働きを封じ込

めるメカニズムに着目し、PV に対する抗ウイルス薬開発を目指す。

② HCV の RNA 複製メカニズムを RNA レプリコンの活性を中心に解析し、その知見を踏まえ、HCV の RNA 複製阻害

薬の開発を目指す。

■ 目標に対する結果

① PV の一回の感染に対し神経細胞が示す抵抗性メカニズムを解析するために、PV 抗体や PV 受容体抗体を使用せ

ずに、PV の一回感染を再現するための実験系を構築した。すなわち、キャプシド蛋白質領域のコーディング領域を

欠損している PV ゲノムを持つ欠陥干渉(DI)粒子による感染系である。実際に PV の DI 粒子の感染による神経細胞

の CPE 発現は微弱であり、神経細胞の抵抗性を証明したかに思えた。しかしながら、DI 粒子の複数回の感染に対

しても神経細胞は抵抗性をしめすことが判明した。このことは、PV の野生型スタンダードウイルスと DI 粒子との違い

を示している可能性があり、神経細胞は PV のキャプシド蛋白質の連続発現に対し CPE を呈する可能性が示唆され

た。このように、プロテアーゼ 2A の連続発現による CPE 発現の可能性は低くなったが、まだ可能性があり、引き続き

解析する必要がある。また神経細胞が、PV 感染に呼応し、産生すると考えられる PV の IRES 阻害物質が果たしてト

ランスアクティングな分子であるかを検討する実験系をアデノウイルスベクターを使用して確立した。

② HCV のジェノタイプ 2a の活性のあるサブジェノミックレプリコン(JFH-1 由来)を都神経研の脇田博士から分与してい

ただいた。それと我々独自で作製した 2b のサブジェノミックレプリコン(MA 由来)の活性を、Huh-7 細胞を使用して

検討した。その結果、JFH-1 由来のレプリコンは高い複製活性を示し、MA 由来のレプリコンの活性はほとんど検出

できなかった。そこで両レプリコンの組み換え体を作製し RNA 複製にとって重要な RNA 部位の探索を行なった。そ

の結果、前者レプリコンの塩基番号 1 と 4 を後者レプリコンに導入すると、後者も前者と同様のレプリコン活性を示す

ことが明らかとなった。HCV の RNA 複製にゲノムの 5’末端構造が重要な働きをしていることを示す結果である。現

在、JFH-1 はウイルスとしても培養細胞で増殖可能であることが示されたので、JFH-1 ウイルス粒子からゲノムを抽

出し、その 5’末端構造を化学的に決定することを目的に実験を進めている。

■ 研究方法

PV の感染には、HeLa 細胞およびニューロブラストーマ細胞である SK-N-SH 細胞を用いた。DI 粒子を作製するために

PV の全ゲノムに相当する cDNA のキャプシド蛋白質コーディング領域に約 800 塩基の欠損を導入した。PV キャプシド蛋白

質発現ワクシニアウイルスベクターを HeLa 細胞に感染させ、その後欠損を持つ PV cDNA を鋳型に合成した RNA をトラン

スフェクションし、欠損ゲノムをパッケージし、DI 粒子とした。アデノウイルスベクターには、第一シストロンに CAT、第二シス

トロンに betaGal を持つジシストロニック mRNA の cDNA を組み込んだ。

HCV のコア蛋白質をバキュロウイルスベクターを使用し発現させ、コア蛋白質の細胞内での状態を、細胞分画法および

質量分析法を使用して解析した。HCV の RNA レプリコン活性は、RNA レプリコンから発現されるネオマイシン耐性遺伝子

の活性を利用して測定した。すなわち、RNA レプリコンを Huh-7 細胞に導入後、G418 耐性の細胞コロニーの出現数で判

定した。

■ 研究成果

神経細胞はPVの一回の感染に対し、抵抗性を示すことが明らかとなった[原著論文 2)]

。またHeLa細胞とは異なり、神経

細胞はPV特異的プロテアーゼ 2Aに対する毒性に対し抵抗性を持つこと、PVのキャプシド蛋白質に対し感受性を持ってい

る可能性などが示された。さらに、神経細胞はHeLa細胞に比べ、ウイルス干渉作用が弱く、複数回の感染が比較的高いレ

ベルで起こることを証明した。

HCVのコア蛋白質は小胞体に強く結合していること、またN末端のメチオニンは外され、次のセリンがアセチル化されてい

ること、C末端は 177 番目のアミノ酸であるフェニルアラニンであることを明らかにした[原著論文 1)]

。HCVのRNA複製にと

88 88

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

って、RNAの 5’末端付近の構造が非常に重要な機能を持っていることを明らかにした。また、ジェノタイプ 2aとジェノタイプ

2bのRNAポリメラーゼは互いに交換可能であることも示した。

■ 考 察

PV の感染による細胞の CPE 発現は、これまで、PV 特異的プロテアーゼ 2A の機能によると考えられてきた。しかしなが

ら、細胞による違い(HeLa 細胞と SK-N-SH 細胞の違い)が存在する可能性が強く示唆された。また、同種のウイルスによる

重感染は、ウイルス干渉作用によって阻止されるという考えが、これまで信じられてきたが、この干渉作用は考えられていた

より厳しいものではなく、細胞によってもその強さに差が見られることを明らかにした。

HCV の RNA 複製に関し RNA の 5’末端の重要性を明らかにすることが出来た。HCV ジェノタイプ 2b の活性ある RNA レ

プリコン作製は世界で初めての業績である。

■ 参考(引用)文献

1. A. Yanagiya, Q. Jia, S. Ohka, H. Horie, & A. Nomoto: 「Blockade of poliovirus-induced cytopathic effect in neural

cells by monoclonal antibody against poliovirus or human poliovirus receptor」, Journal of Virology, 79, 1523-1532,

(2005)

2. T. Wakita, T. Piestchmann, T. Kato, T. Date, M. Miyamoto, Z. Zhao, K. Murthy, A. Habermann, H. G. Krausslich,

M. Mizokami, R. Bartenschlager, & T. J. Liang: 「Production of infectious hepatitis C virus in tissue culture from a

cloned viral genome」, Nature Medicine, 11, 791-796, (2005)

■ 関連特許

1.基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2.参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

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新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 2 報 (筆頭著者:0 報、共著者:2 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0 報、国外誌:0 報、書籍出版:1 冊

4. 口頭発表 招待講演:6 回、主催講演:0 回、応募講演:3 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Ogino, T., Fukuda, H., Imajo-Ohmi, S., Kohara, M. and Nomoto,A.:「Membrane binding properties and terminal

residues of the mature hepatitis C virus capsid protein in insect cells」, Journal of Virology, 78, 11766-11777, (2004)

2) Yanagiya, A., Jia, Q., Ohka, S., Horie, H. and Nomoto, A..: 「Blockade of poliovirus-induced cytopathic effect in

neural cells by monoclonal antibody against poliovirus or human poliovirus receptor」, Journal of Virology, 79,

1523-1532, (2005)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

該当なし

書籍出版

1) 「ポリオウイルス」, 野本明男, 南山堂, 2005

4. 口頭発表

招待講演

1) 野本明男: 「ポリオウイルス感染とその戦略的防御」, 東京ガーデンパレス, ウイルス感染と防御, 2005.2.28

2) Nomoto,A.: 「Anti-poliovirus response of neural cells」, Institute of Medical Science University of Tokyo,

Infection Symposium on emerging and reemerging infectious diseases, 2005.3.3-5

3) Nomoto,A.: 「Molecular Mechanism of Poliovirus Pathogenesis」, Beijing, UT forum, 2005.4.29

4) 野本明男: 「ウイルスの種および組織特異的感染メカニズム」, 日本学術会議, 微生物学研究連絡委員会シン

ポジウム, 2005.7.2

5) Nomoto,A.: 「Poliovirus receptor and pathogenesis」, 一ツ橋講堂, International Symposium on “Molecular Bases

Underlying Microbial Infections and the Host responses”, 2005.7.19-20

6) 野本明男: 「ポリオウイルスの複製と病原性発現機構」, 仙台, 日本薬会第 126 年会 特別講演, 2006.3.28

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新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

主催・応募講演

1) 松田法恵、柳谷朗子、大岡静衣、野本明男: 「欠陥干渉(DI)粒子を用いた神経細胞のポリオウイルス抵抗性の

解析」, 横浜, 第 52 回日本ウイルス学会, 2004.11.21-23

2) Yoshino,Y., Ohka,S., Matsuda,N. and Nomoto,A.: 「2A protease gene is not essential for poliovirus RNA replicon

activity」, San Francisco, XIII International Virology Congress, 2005.7.23-28

3) Matsuda,N., Ohka, S. and Nomoto,A.: 「Analysis of anti-poliovirus response of neural cells」, San Francisco, XIII

International Virology Congress, 2005.7.23-28

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

91 91

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

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3. SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究開発

3.4 . ダニ媒介性脳炎の診断法、疫学および予防に関する基礎的な研究

国立大学法人北海道大学大学院獣医学研究科公衆衛生学教室 高島 郁夫 ■ 要 旨

ダニ媒介性脳炎(TBE)ウイルスの準ウイルス様粒子(SPs)の分泌機構の解析と ELISA による血清診断法への応用を行っ

た。TBE ウイルス E タンパクの糖鎖付加と prM タンパクの 63 番目の 1 ヶ所のアミノ酸変異が SPs の分泌に重要であった。

SPs を用いたヒト用の IgG-ELISA と IgM-ELISA を開発した。TBE ウイルス Oshima 株の感染性 cDNA クローンを作出し、こ

れを用いて E タンパクの 1 ヶ所と非構造タンパク NS5 の 2 ケ所のアミノ酸変異がマウスにおける神経毒力の低下に関与し

ていた。TBE ウイルスレプリコン RNA と構造タンパクを発現するプラスミドを順番に 293T 細胞にトランスフェクトすることによ

り、TBE ウイルスレプリコン RNA を内含する感染性粒子を産生させることに成功した。さらに挿入した GFP および Neo 遺伝

子を TBE レプリコン RNA とともに、ウイルス粒子内に取り込ませることにより、外来遺伝子の導入・発現が可能となった。

■ 目 的

ダニ媒介性脳炎はフラビウイルスによる致死率 30%にも及ぶ人獣共通感染症である。人はウイルス感染マダニの吸血に

より感染発症する。毎年、ロシアおよび中央ヨーロッパを中心に1万人前後の患者が発生している。わが国にはこれまでダ

ニ媒介性脳炎の発生の報告はなかったが、1995 年に北海道の上磯町で原因不明の脳炎患者が発生し、これがわが国で

初のダニ媒介性脳炎と血清学的に診断された(参考文献 1)。その後、我々が実施した疫学調査で、原因のダニ媒介

性脳炎ウイルスがおとり犬、マダニおよび野ネズミから分離したことから、北海道にダニ媒介性脳炎ウイルスの流行巣の存

在を証明した(参考文献 1、2、3)。さらに 2001 年にオーストリアに滞在していた日本人男性がダニ媒介性脳炎に罹患し死

亡した。このことからダニ媒介性脳炎のわが国における汚染地を特定し、予防対策を立案するとともに海外の旅行者に対し

ても感染防止策を講ずることが急務となってきた。したがって、本研究はダニ媒介性脳炎の予防・制圧を目的とし、1)動物と

ヒトを対象とした診断法を開発する。2)ダニ媒介性脳炎汚染地の特定とリスク評価を行う。3)ウイルスの感染環を解明し、ウ

イルス間の進化的関係を解明する。4)ウイルス病原性の分子基盤を解明する。

■ 目 標

① ダニ媒介性脳炎(TBE)の動物とヒトを対象とした診断法を開発する。

② ダニ媒介性脳炎汚染地の特定とリスク評価を行う。

③ TBE ウイルスの感染環を解明し、ウイルス間の進化的関係を解明する。

④ ウイルス病原性の分子基盤を解明する。

■ 目標に対する結果

① TBE ウイルスの準ウイルス様粒子(SPs)の分泌機構を解明するとともに SPs を用いたヒト用の IgG-ELISA と

IgM-ELISA を開発した。

② TBE 流行地の極東ロシアで疫学情報を収集し、汚染地の特定を計った。

③ 北海道の流行地においてマダニ類と野ネズミを採集しウイルス検出を行った。

④ TBE ウイルスのレプリコン RNA および感染性 cDNA クローンを用いて、マウスにおける TBE ウイルスの病原性を解

析した。

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新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 研究方法

TBE ウイルスの prM と E 領域をクローニングしたプラスミド DNA を人腎細胞由来 293T 細胞にトランスフェクトさせ、準ウ

イルス様粒子(SPs)分泌系を作出した。この SPs 分泌系の prM と E に変異を導入して、SPs の細胞外分泌に与える影響を調

べた。

TBE ウイルスゲノム約 11kb の全長 cDNA を増幅する。PCR 産物を PBR322 ベクターに挿入し、プラスミドクローンから転

写反応により RNA を得て、マウス脳内に接種し感染性を確認した。マウスに感染性を示したプラスミドクローンをもとに、感

染性 cDNA クローンを作出した。この感染性 cDNA クローンに変異を挿入し、マウスにおける病原性を調べた。

TBE ウイルス Oshima 株のレプリコン RNA と構造タンパクを発現するプラスミドを BHK 細胞に順番にトランスフェクトさせ

て、TBE ウイルスレプリコン RNA を内包する感染性ウイルスを作出した。さらに GFP ならびに Neo 遺伝子をレプリコン RNA

に挿入し、これを BHK 細胞にトランスフェクトした。

■ 研究成果

TBEウイルスのprM-Eタンパクを発現するプラスミドを用いた準ウイルス様粒子(SPs)分泌発現系を使用してTBEウイルス

のEタンパクの糖鎖がSPsの分泌に重要であることを明らかにした[原著論文 5)]

。さらにこのSPs分泌系を用いて、prMタンパ

クの 63 番目のアミノ酸がSPs分泌に重要な役割を果たしていることを示した[原著論文 3)]

TBEウイルスOshima株の安定な感染性cDNAクローンは親株と比較して 4 コのアミノ酸の置換を有していた。これらのアミ

ノ酸置換とマウスにおける毒力の関連について調べた。Eタンパクの 40 番目のアミノ酸置換と非構造タンパクの 378 番目と

674 番目のアミノ酸置換がマウスにおける神経毒力の低下に相乗的に関与していることを明らかにした[原著論文 2)]

TBEウイルスOshima株の構造タンパクを欠損させたプラスミドからのm-RNAを細胞にトランスフェクトさせてTBEウイルスレ

プリコンを作出した[原著論文 1)]

。さらに、このTBEウイルスレプリコンRNAをトランスフェクトしておき、続いてウイルス構造タ

ンパクを発現するプラスミドをトランスフェクトすることにより、TBEのレプリコンRNAを内包した粒子(ウイルス様粒子:VLPs)

を分泌させることに成功した[原著論文 4)]

。VLPsは一度のみの感染性を有しており、その感染性はTBEウイルス特異的な

中和抗体により阻止された。さらに緑色蛍光物質(GFP)やネオマイシン耐性(Neo)遺伝子などを組み込んだレプリコンRNA

をウイルス粒子内にパッケージングさせることで、外来遺伝子を導入し発現されることが可能となった。

■ 考 察

TBE ウイルスのE-タンパクの154 番目の糖鎖付加部位を欠損させた変異準ウイルス様粒子(SPs)の細胞外分泌量が減少

していたことから SPs の分泌に E タンパクの糖鎖付加が重要であることが明らかとなった。 近、ウエストナイルウイルスの E

タンパク糖鎖付加がマウスにおける神経侵入性毒力に関与することが示された。TBE ウイルスの E タンパクの糖鎖付加がウ

イルスの毒力に与える影響について検討する必要がある。

この SPs 分泌系を用いて TBE ウイルスの粒子形成と分泌に関与する prM タンパクの役割について調べた所、63 番目の

アミノ酸変異により SPs の分泌が減少した。このことより prM がウイルス粒子の出芽に重要な役割を果たしていることが示さ

れた。

TBE ウイルス Oshima 株の感染性 cDNA クローンの作出に成功した。これは TBE ウイルス極東株において 初の報告で

ある。この感染性 cDNA クローンを用いて E タンパクの 40 番目のアミノ酸置換と非構造タンパク NS5 の 378 番目と 674 番

目のアミノ酸置換がマウスにおける神経毒力の低下に関与していた。今後、この TBE ウイルス感染性 cDNA クローンを用い

てウイルスの病原性の解析が飛躍的に進展するものと考えられる。

今回構築した TBE ウイルスレプリコンパッケージング系は、一回のみの感染性を有することから、安全に TBE ウイルスの

ゲノムパッケージング機構の分子生物学的研究や、新たなワクチン系の開発などに有効に利用可能である

■ 参考(引用)文献

1. Takashima, I., Morita, K., Chiba, D., Hayasaka, D., Sato, T., Takezami, C., Igarashi, A., Kariwa, H., Yoshimatsu, K.,

Arikawa, J. and Hashimoto, N. : 「A case of tick-borne encephalitis in Japan and isolation of the virus.」, J. Clin.

93 93

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

Microbiol., 35, 1943-1947, (1997)

2. Takeda, T., Ito, T., Chiba, M., Takahashi, K., Niioka, T. and Takashima, I. :「Isoletion of tick-borne encephalitis

virus from Ixodes ovatus (Acari:Ixodidae) in Japan.」, J. Med. Entomol., 35, 227-231, (1998)

3. Takeda, T., Ito, T., Osada, M., Takahashi, K. and Takashima, I.: 「Isolation of tick-borne encephalitis virus from

wild rodents and a seroepidemiologic survey in Hokkaido, Japan.」, Am. J. Trop. Med. Hyg., 60, 287-291, (1999)

■ 関連特許

1.基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2.参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

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新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 5 報 (筆頭著者:0 報、共著者:5 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:3 報、国外誌:0 報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:9 回、主催講演:0 回、応募講演:9 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Hayasaka, D., Yoshii, K., Ueki, T., Iwasaki, T., and Takashima, I.: 「Sub-genomic-replicons of Tick-borne

encephalitis virus.」, Arch Virol, 149, 1245-1256, (2004)

2) Hayasaka, D., Gritsun, T.S, Yoshii, K., Ueki, T., Goto, A., Mizutani, T., Kariwa, H., Iwasaki, T., Gould, E. A.

and Takashima, I.: 「Amino acid changes responsible for attenuation of virus neurovirulence in an infectious cDNA clone

of the Oshima strain of tick-borne encephalitis virus.」, J. Gen. Virol., 85, 1007-1018, (2004)

3) Yoshii, K., Konno, A., Goto, A., Nio, J., Obara, M., Ueki, T., Hayasaka, D., Mizutani, T., Kariwa, H. and

Takashima, I.: 「Single point mutation in tick-borne encephalitis virus prM protein induces a reduction of virus particle

secretion.」, J. Gen. Virol., 85, 3049-3058, (2004)

4) Yoshii, K., Hayasaka, D., Goto, A., Kawakami, K., Kariwa, H. and Takashima, I.: 「Packaging the replicon RNA of

the Far-Eastern subtype of tick-borne encephalitis virus into single-round infectious particles: development of a

heterologous gene delivery system.」, Vaccine, 23, 3946-3956, (2005)

5) Goto, A., Yoshii, K., Obara, M., Ueki, T., Mizutani, T., Kariwa and H. Takashima, I.: 「Role of the N-linked

glycans of the prM and E envelope proteins in tick-borne encephalitis virus particle secretion.」, Vaccine, 23, 3043-3052,

(2005)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1) 高島郁夫:「ダニ媒介性脳炎」, 日本内科学会雑誌, 93, 73-78, (2004)

2) 高島郁夫:「ダニ媒介性脳炎」, 化学療法の領域, 20, 39-47, (2004)

3) 高島郁夫, 早坂大輔, 後藤明子, 好井健太朗, 苅和宏明:「日本と極東ロシアのダニ媒介性脳炎ウイルスの系統

解析と病原性」, ウイルス, 55, 35-44, (2005)

国外誌

該当なし

書籍出版

該当なし

95 95

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

4. 口頭発表

招待講演

1) 高島郁夫: 「ウエストナイル熱の現状と対策」, 熊本, 第 26 回家畜衛生協議会, 2004. 8. 3

2) 高島郁夫: 「日本と極東ロシアのダニ媒介性脳炎ウイルスの系統解析と病原性」, パシフィコ横浜, 第 52 回ウイ

ルス学会, 2004.11.22

3) 高島郁夫: 「アルボウイルス性脳炎の 近の話題」, 札幌, 第 76 回日本神経学会北海道地方会, 2005. 3. 5

4) 高島郁夫: 「 近話題の人獣共通感染症について」, 札幌, 日本内科学会北海道支部主催 第 33 回生涯教育

講演会, 2005.6.5

5) 高島郁夫: 「人獣共通感染症の 近の動向」, 札幌, 第 16 回日本小児科医会セミナー, 2005.6.12

6) 高島郁夫: 「West Nile ウイルス感染症の病態と診断検査」, 札幌, 平成 17 年度北海道輸血療法検討会,

2005.7.9

7) 高島郁夫: 「 近話題の人獣共通感染症の対策~ウエストナイル熱について~」, 札幌, 平成 17 年度鶏病研

究会北海道・東北地区技術研修会, 2005.9.9

8) 高島郁夫: 「ウエストナイル熱の現状と侵入防止について」, パシフィコ横浜, 平成17年度関東地区獣医師大会,

2005.9.25

9) 高島郁夫: 「ダニ脳炎」, 東京, 第 6 回トラベラーズワクチンフォーラム研修会, 2005.11.5

主催・応募講演

1) 川上和江、好井健太朗、後藤明子、苅和宏明、高島郁夫: 「ダニ媒介性脳炎ウイルス組み替え蛋白を用いた

ELISA による野ネズミ血清スクリーニング法の開発」, 藤沢, 第 137 回日本獣医学会, 2004.4.2

2) 好井健太朗、早坂大輔、後藤明子、苅和宏明、高島郁夫: 「replicon を利用したフラビウイルス様粒子の作成」,

藤沢, 第 137 回日本獣医学会, 2004.4.2

3) 後藤明子、好井健太朗、小原真弓、植木智隆、水谷哲也、苅和宏明、高島郁夫: 「ダニ媒介性脳炎ウイルス E

蛋白の糖鎖修飾がウイルス粒子分布に与える影響」, 藤沢, 第 137 回日本獣医学会, 2004.4.2

4) 好井健太朗、後藤明子、川上和江、苅和宏明、高島郁夫: 「フラビウイルスのウイルス様粒子分泌におけるユビ

キチンープロテアソーム系の関与」, 札幌, 第 138 回日本獣医学会, 2004.9.11

5) 白戸憲也、三好洋嗣、後藤明子、赤穂芳彦、植木智隆、苅和宏明、高島郁夫: 「ウエストナイルのエンベロープ

蛋白における糖鎖付加領域がマウスへの神経侵襲にあたえる影響」, 横浜, 第 52 回日本ウイルス学会,

2004.11.22

6) 好井健太朗、早坂大輔、後藤明子、苅和宏明、小西英二、高島郁夫: 「レプリコンを利用したフラビウイルスのキ

メラ様粒子の作成」, 横浜, 第 52 回日本ウイルス学会, 2004.11.22

7) 伊川綾恵、好井健太朗、川上和江、後藤明子、小原真弓、苅和宏明、高島郁夫: 「ダニ媒介性脳炎ウイルス組

み換え蛋白を用いた ELISA 法による野鼠血清スクリーニング法の開発」, 鹿児島, 第 140 回日本獣医学会学術

集会, 2005.9.30

8) 好井健太朗、後藤明子、小原真弓、伊川綾恵、苅和宏明、高島郁夫: 「フラビウイルス prM 蛋白のアミノ酸配列

保存領域のウイルス粒子出芽への影響」, 横浜, 第 53 回日本ウイルス学会, 2005.11.20

9) 伊川綾恵、好井健太朗、後藤明子、小原真弓、苅和宏明、高島郁夫: 「ダニ媒介性脳炎ウイルス組み換え蛋白

を用いた ELISA 法による野鼠血清スクリーニング法の開発」, 横浜, 第 53 回日本ウイルス学会, 2005.11.20

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

96 96

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

3. SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究開発

3. 5. アルボウイルスの流行予測と防疫システムの構築

3.5 .1 . アルボウイルスの遺伝学的同定と診断法の開発

独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構動物衛生研究所九州支所

津田 知幸、 山川 睦、 梁瀬 徹

■ 要 旨

牛や吸血昆虫から分離したアルボウイルス(節足動物媒介ウイルス)の遺伝子解析を行った。血清学的解析と合わせた

試験により、1999 年以降、これまで日本での流行が見られていなかった新規のアルボウイルスが次々と確認された。また、

ウシヌカカがウイルス媒介に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。牛のアルボウイルス病の中で も重要視され

ているアカバネ病の原因ウイルス(アカバネウイルス)の分子疫学的解析を行ったところ、日本では固有のウイルス株が常

在し、流行しているのではなく、毎年のように様々な遺伝子型のウイルスが海外から侵入し、その一部が一過性に流行する

というパターンを繰り返していることが判明した。

日本での流行が確認されている牛アルボウイルスの遺伝子情報をもとに、アカバネ、アイノ、チュウザン、イバラキおよび

ブルータングウイルスなどを同時に検出することが可能なマルチプレックス PCR(遺伝子増幅)法を開発した。今後、アルボ

ウイルス病の迅速かつ高感度な診断や疫学調査への有効利用が期待される。

■ 目 的

アルボウイルスは、節足動物に感染して増殖し、吸血を介して人や家畜を含む脊椎動物に伝播するウイルスの総称であ

り、分類学上少なくとも 6 科 10 属 500 種のウイルスの存在が知られている。アルボウイルスを媒介する節足動物は世界中に

分布しているが、その生息環境によって種類や個体数が制限され、結果的に地域性を持った分布が形成されている。しか

し、温暖化等気象要因による生息環境の急激な変化や、世界規模の人的、物的輸送の増大により、その分布域の拡大が

起こりつつある。その結果、新たな地域へのアルボウイルスの侵入・蔓延の危険性が増大している。アルボウイルス病の制

圧のためには、ウイルス学的アプローチや脊椎動物宿主を対象とした臨床的研究のみならず、流行地域での疫学的解析

やウイルスと媒介節足動物との相関関係の解析等を行うことによって総合的な防疫システムを構築する必要がある。本研

究では、畜産上多大な経済的損失をもたらす牛のアルボウイルスをモデルとして、その性状と伝播様式の解明、それによ

って引き起こされる様々な疾病の早期診断法の開発、さらに媒介節足動物(吸血昆虫)の生態と媒介能の解明を試みる。

■ 目 標

① 牛のアルボウイルスを分離・収集し、遺伝情報の解析と蓄積を行う。得られた遺伝情報をもとにアルボウイルスの変

異機構や分子疫学的特徴を明らかにする。

② 各種ウイルスの遺伝情報をもとにアルボウイルス病の診断や疫学調査に利用可能な遺伝子を検索・特定する。特定

した遺伝子を用いた遺伝子診断法や、その発現タンパク質を用いたウイルス特異抗体の検出法を確立する。

③ アルボウイルス病流行地における吸血昆虫の採集と同定、その活動の消長や地域分布の調査を実施するとともに、

採取された吸血昆虫からのアルボウイルスの検出・分離を行う。昆虫培養細胞の作出や昆虫を用いた感染実験系を

開発する。

97 97

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 目標に対する結果

① アルボウイルス分離株の遺伝子解析により、本邦初となるウイルスの流行が確認された。40 年以上にわたって分離、

収集されたアカバネウイルスの遺伝学的多様性、疫学的特徴が明らかになった。

② 牛のアルボウイルス病の原因ウイルス数種類を同時に検出できる遺伝子診断法(マルチプレックス PCR 法)を確立し

た。

③ アルボウイルス病流行地における媒介昆虫の種類や活動状況など生態学的特徴が明らかとなった。

■ 研究方法

おとり牛から定期的に採血を行うとともに、牛舎にライトトラップを仕掛けて媒介昆虫を採取した。これら牛血液や媒介昆

虫からハムスター由来の培養細胞を用いてウイルスを分離し、アルボウイルスに対する抗血清を用いたドットイムノブロット

法や交差中和試験によって血清学的同定を行った。ウイルス遺伝子の塩基配列を決定し、遺伝子解析ソフトを用いて相同

性解析や分子系統樹解析を実施した。

代表的な牛のアルボウイルスであるアカバネ、アイノ、チュウザン、イバラキ、ブルータングウイルスの遺伝情報を基にプ

ライマーを作製した。これらを混合し、逆転写酵素、耐熱性 DNA 合成酵素を加えて PCR 反応液を調整した。各ウイルス培

養液から抽出した RNA をそれぞれ PCR 反応液に添加して、逆転写反応(50℃30 分)後、94℃30 秒、55℃30 秒、68℃45

秒のサイクルを 35 回行い、アガロース電気泳動法によってウイルス遺伝子の特異的増幅を確認した。

■ 研究成果

国内で分離・収集されたアルボウイルスの解析の過程で、日本では新規となるウイルスが牛や媒介昆虫であるヌカカから

分離され、近年海外からの新しいウイルスの侵入が相次いでいることが確認された[原著論文 1), 2), 3)]

。また、吸血昆虫の調

査により、ウシヌカカがウイルス媒介の中心的役割を果たしていることが判明した[原著論文 4)]

。我が国で問題となっている牛

の流行性異常産(流産、死産、早産および体型異常子牛の出産)の主原因であるアカバネウイルスの遺伝学的特徴と流行

パターンが明らかになった[原著論文 5)]

。各種アルボウイルス遺伝子の検出を簡便・迅速かつ高感度に行えるマルチプレッ

クスPCR法を確立した[原著論文 6)]

図-1 ヌクレオカプシドタンパク質遺伝子の塩基配列に基づくオルソブニヤウイルス属の分子系統樹解析(矢印が日本新規のウイルス)

98 98

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

10%変異

MP496

(ケニア 1972)

B8935 (オーストラリア 1968)

R7949 (オーストラリア 1968)

ISR-01 (イスラエル 2001)

NT-14 (台湾 2000)

PT-17 (台湾 1992)

CY-77 (台湾 1993)

JaGAr39 (1959)

OBE-1

Iriki 526CE

Iriki 956-5-A

1994年(沖縄)、1995年

1974年、1977年、1979年

1988年、1989年(沖縄)、1991年(沖縄)、

1994年、1997年(沖縄を含む)、1998年、1999年

1982年、1987年、1990年、1998年(千葉)

1984年、1985年(沖縄を含む)、1990年(沖縄)、1998年(沖縄)

1984年、1993年(沖縄)

1998年(沖縄)、2000年、2001年(沖縄を含む)、2003年

I

II

III

IV

図-2 アカバネウイルス野外分離株のヌクレオカプシドタンパク質遺伝子の塩基配列に基づく分子系統樹解析

BBTTVV

EEHHDDVV

SSiimmbbuu

PPaallyyaamm

M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

EHDV Palyam BTV Simbu

M. 分子量マーカー

1-2. イバラキウイルス

3. シカ流行性出血熱ウイルス

4. チュウザンウイルス

5. Palyam ウイルスDPP66

6-7. D’Aguilar ウイルス

8. ブルータングウイルス

図-3 マルチプレックス PCR 法を用いた各種牛アルボウイルス遺伝子の検出

99 99

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 考 察

日本で流行を繰り返してきたアカバネ、アイノ、チュウザン、イバラキ等のウイルス以外の新しいアルボウイルスの侵入が確

認されたことやウイルス媒介の主体が明らかにされたことから、おとり牛およびヌカカからのウイルス分離を中心としたアルボ

ウイルス監視体制の重要性が証明された。また、従来から日本に常在していると考えられてきたアカバネウイルスは、実際

は海外に存在して進化を続け、毎年のように日本に侵入して流行を繰り返していると考えられた。ウイルス培養液や野外材

料から各種アルボウイルスを検出・同定できるマルチプレックス PCR 法を開発した。この方法は、アルボウイルス病の迅速

かつ高感度な診断や疫学調査に極めて有用であると考えられた。

■ 参考(引用)文献

1. Yanase, T., Fukutomi, T., Yoshida, K., Kato,T., Ohashi, S., Yamakawa, M., Tsuda, T.: 「The emergence in Japan

of Sathuperi virus, a tropical Simbu serogroup virus of the genus Orthobunyavirus」, Archives of Virology, 149,

1007-1013, (2004)

2. Ohashi, S., Matsumori, Y., Yanase, T., Yamakawa, M., Kato, T., Tsuda, T.: 「Evidence of an antigenic shift among

Palyam serogroup orbiviruses」, Journal of Clinical Microbiology, 42, 4610-4614, (2004)

3. Yanase, T., Maeda, K., Kato, T., Nyuta, S., Kamata, H., Yamakwa, M., Tsuda, T.: 「The resurgence of Shamonda

virus, an African Simbu group virus of the genus Orthobunyavirus, In Japan」, Archives of Virology, 150, 361-369,

(2005)

4. Yanase, T., Kato, T., Kubo, T., Yoshida, K., Ohashi, S., Yamakawa, M., Miura, Y., Tsuda, T.: 「Isolation of bovine

arboviruses from Culicoides biting midges (Diptera: Ceratopogonidae) in southern Japan: 1985-2002」, Journal of

Medical Entomology, 42, 63-67, (2005)

5. Yamakawa, M., Yanase, T., Kato, T., Tsuda, T.: 「Chronological and geographical variations in the small RNA

segment of the teratogenic Akabane virus」, Virus Research, In press, (2006)

6. Ohashi, S., Yoshida, K., Yanase, T., Kato, T., Tsuda, T: 「Simultaneous detection of bovine arboviruses using

single-tube multiplex reverse transcription-polymerase chain reaction」, Journal of Virological Methods, 120, 79-85,

(2004)

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

100 100

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 6 報 (筆頭著者:6 報、共著者:0 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:4 報、国外誌:0 報、書籍出版:1 冊

4. 口頭発表 招待講演:0 回、主催講演:0 回、応募講演:7 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表

1) Yanase, T., Fukutomi, T., Yoshida, K., Kato,T., Ohashi, S., Yamakawa, M. and Tsuda, T.: 「The emergence in

Japan of Sathuperi virus, a tropical Simbu serogroup virus of the genus Orthobunyavirus」, Archives of Virology, 149,

1007-1013, (2004)

2) Ohashi, S., Matsumori, Y., Yanase, T., Yamakawa, M., Kato, T., and Tsuda, T.: 「Evidence of an antigenic shift

among Palyam serogroup orbiviruses」, Journal of Clinical Microbiology, 42, 4610-4614, (2004)

3) Yanase, T., Maeda, K., Kato, T., Nyuta, S., Kamata, H., Yamakwa, M. and Tsuda, T.: 「The resurgence of

Shamonda virus, an African Simbu group virus of the genus Orthobunyavirus, In Japan」, Archives of Virology, 150,

361-369,(2005)

4) Yanase, T., Kato, T., Kubo, T., Yoshida, K., Ohashi, S., Yamakawa, M., Miura, Y. and Tsuda, T.: 「Isolation of

bovine arboviruses from Culicoides biting midges (Diptera: Ceratopogonidae) in southern Japan: 1985-2002」,

Journal of Medical Entomology, 42, 63-67, (2005)

5) Yamakawa, M., Yanase, T., Kato, T. and Tsuda, T.: 「Chronological and geographical variations in the small RNA

segment of the teratogenic Akabane virus」, Virus Research, In press, (2006)

6) Ohashi, S., Yoshida, K., Yanase, T., Kato, T. and Tsuda, T:「Simultaneous detection of bovine arboviruses using

single-tube multiplex reverse transcription-polymerase chain reaction」, Journal of Virological Methods, 120, 79-85,

(2004)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1) 津田知幸: 「牛アルボウイルスの脅威と対策」, 酪農ジャーナル, 2006 年 1 月号, 40-43, (2006)

2) 梁瀬 徹: 「新たに国内で確認された牛のアルボウイルス」, 畜産技術, 610 号, 11-14, (2006)

3) 津田知幸: 「日本における牛のアルボウイルスの監視体制と流行状況」, 家畜診療, 53 巻 4 号, 215-223,

(2006)

4) 山口成夫、関崎 勉、真瀬昌司、梁瀬 徹、小西美佐子、辻 尚利: 「感染病研究の展開」, 獣医畜産新報,

59 巻 3 号,193-197,(2006)

国外誌

該当なし

101 101

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

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書籍出版

1) 「酪農場の防疫バイオセキュリティ」, 津田知幸(永幡 肇編), 酪農総合研究所, 2006.3

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

1) 梁瀬 徹、小林貴彦、山川 睦、加藤友子、津田知幸: 「アカバネウイルス流行株の遺伝学的解析」, 那覇市,

第 42 回日本ウイルス学会九州支部総会, 2005.7.8

2) 加藤友子、高吉克典、仲村圭子、国場 保、梁瀬 徹、山川 睦、津田知幸: 「沖縄で分離されたブニヤンベラ

血清群、バタイウイルス(Batai virus)」,鹿児島市,第 140 回日本獣医学会学術集会,2005.9.29

3) 山川 睦、梁瀬 徹、加藤友子、津田知幸: 「アカバネウイルス野外分離株の分子疫学的解析」, 鹿児島市, 第

140 回日本獣医学会学術集会,2005.9.30

4) 小林貴彦、長野史郎、宮原徳治、松尾和夫、梁瀬 徹、山川 睦、加藤友子、津田知幸: 「アカバネウイルス野

外分離株の M RNA セグメントの解析」, 鹿児島市, 第 140 回日本獣医学会学術集会,2005.9.30

5) 梁瀬 徹、山川 睦、加藤友子、津田知幸、小林貴彦: 「アカバネウイルス野外分離株の遺伝子再集合の可能

性」, 鹿児島市, 第 140 回日本獣医学会学術集会,2005.9.30

6) Yanase, T., Yamakawa, M., Kato, T. and Tsuda, T.: 「Bovine arbovirus and their vector insects in Japan」,40th

United States-Japan cooperative program in natural resources panel of animal and avian health meeting,

2005.11.18

7) 梁瀬 徹、加藤友子、国場 保、片桐慶人、荒木美穂、相澤真紀、高吉克典、山川 睦、津田知幸: 「沖縄県で

の Culicoides 属ヌカカの採集とウイルス分離」,鹿児島市,第 58 回日本衛生動物学会大会,2006.3.1

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

102 102

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

3. SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究開発

3.5. アルボウイルスの流行予測と防疫システムの構築

3.5.2. 媒介昆虫の生態の解明

独立行政法人農業生物資源研究所

野田 博明、 松本 由記子、 梁瀬 徹、 津田 知幸

■ 要 旨

アルボウイルスを媒介するヌカカの種および系統識別を容易にするために、遺伝子配列を利用した識別方法を検討した。

1)ヌカカ 25 種を用い、リボソーム RNA 遺伝子の ITS 領域(ITS1 - 5SrDNA - ITS2a - 2SrDNA - ITS2)の塩基配列を決定

し、種間の比較を行った。2)ヌカカのミトコンドリアゲノム領域(cox1 (シトクロムオキシダーゼサブユニット1) – tRNA - cox2

領域)の塩基配列を解読し、比較検討した。一部ヌカカ種ではミトコンドリア遺伝子の配列順序に変化が生じていた。3)ヌ

カカの共生細菌の存在の有無、種類を調べた。16S rDNA 領域を PCR 増幅し配列決定したところ、CFB 細菌(Cardinium

属)、Wolbachia 細菌、リケッチア様細菌の存在が判明した。CFB 細菌は5種類のヌカカで見られたが、決定した 16S rDNA

領域がそれぞれ宿主によってわずかずつ異なっていた。以上より、ヌカカで決定した領域の塩基配列や長さ、構造、共生

細菌の DNA 配列など種を識別する重要なデータを得た。

■ 目 的

牛の異常出産を引き起こすアルボウイルスは、ヌカカ Culicoides によって媒介される。我が国では、九州を中心に全国

でヌカカによって媒介されたと思われるウイルス疾病が発生している。これらのウイルス疾病を予測し、早期に対策をとること

は、和牛生産にとって重要な課題である。しかし、ヌカカは種数が多い上(世界で約 1,000 種、我が国で約 80 種)に、研究

者も少なく、種の同定、地域系統の違い、発生状況、生息場所などについては十分な調査が行われていない。ウイルスの

疫学的な観点から、ヌカカの容易な識別方法を確立し、発生の実態を究明する必要がある。本研究は、我が国ならびに周

辺諸国のヌカカの種および地域系統を識別する方法を確立し、ヌカカの移動を解明し、ウイルス発生との関連を解明しよう

とするものである。種および地域系統の識別に関しては、遺伝子配列情報などを利用した確実で簡便な方法を樹立する。

■ 目 標

アルボウイルスを媒介するヌカカ類の種類と分布を調査し、その結果を、アルボウイルスの伝播、流行予測へ結びつけ

る。

① 従来成虫の形態のみで分類されてきたヌカカを、リボソーム RNA 遺伝子、ミトコンドリア遺伝子の部分配列を基にし

て分類する。また、ヌカカの種類により、運ばれるアルボウイルス、微生物に差があるか調査する。

② 日本各地のヌカカの採集とヌカカが持っているウイルス・細菌などの微生物種の分布、その季節変動を調査する。

③ ①および②の結果からヌカカの移動経路、それにより媒介移動されるアルボウイルス伝播の経路を推定し、防疫に

つながる予測を試みる。

■ 目標に対する結果

① a) 全国12 カ所から採集したヌカカ 25 種 105 個体についてリボゾーム RNA 遺伝子 ITS 領域とミトコンドリアの

103 103

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

cox1-cox2 遺伝子間の遺伝子を解読した。

b) 鹿児島の野外採集ヌカカでの6種のウシのウイルス病調査において、ウシヌカカ、ニワトリヌカカ、ホシヌカカ、ル

ンチヌカカ、アマミヌカカからウイルスが分離され、特に、ウシヌカカからの分離が多かった(引用文献 5)。

② ヌカカに感染する細菌の 16S リボゾーム遺伝子の配列を決定した。ヌカカ 5 種が CFB 細菌に感染しており、他に

Wolbachia 感染、リケッチア様細菌感染も認められた。

③ 同定した塩基配列ならびに細菌感染から、日本における 25 種のヌカカは DNA レベルで分類が可能となった。今後、

海外のヌカカを調査することと、ウイルス媒介主要種であるウシヌカカの地域系統間差異を明らかにすることによっ

て、アルボウイルスの伝播の経路を推定する。

■ 研究方法

供試虫:国内 12 地点(青森県、石川県、茨城県、兵庫県、高知県、長崎県諫早市、長崎県大村市、鹿児島県、沖縄県与

那国町、沖縄県石垣島、沖縄県那覇市、沖縄県八重山)でヌカカを採集した。成虫の形態観察により種類を同定した。

ヌカカ1個体ずつから DNA を抽出し (Quiagen, DNAeasy)、特定のプライマー(下表)を用いて ITS 領域およびミトコンドリ

ア領域をそれぞれ PCR 増幅した。PCR 反応には、dNTP 各 0.15 mM,プライマー 10 pmol、テンプレート 1 ul を用いて、

20 ul 溶液で行った。94℃3 分で加熱後、95℃30 秒、52℃30 秒、72℃90 秒で 30-35 サイクル増幅し、 後に 72℃で 5 分

保持した。

プラスミド pGEM (Promega) にクローニング後、大腸菌 DH5α株を形質転換した。2〜4 サンプルについて両端からシー

クエンスを行い配列決定した。ヌカカについて通常得られる PCR 産物は、ITS 領域で 700-1000bp、ミトコンドリア領域で

2000bp 弱であった。ただしミトコンドリア領域については一部の種ではこれらプライマーがうまく働かなかったためさらにプラ

イマーを設計(データ省略)して PCR した。共生細菌についても、同様に細菌 16S rDNA 約 1400bp を細菌特異的なプライ

マーで PCR 増幅させ配列を同定した。

(表1)供試したヌカカの種類

Culicoides species 和名 採集地点 個体数

C. actoni オクマヌカカ 3 3

C. arakawae ニワトリヌカカ 8 16

C. brevipalpis ウスチャヌカカ 2 2

C. brevitarisis オーストラリアヌカカ 2 4

C. cylindratus ツツヒゲヌカカ 3 3

C. dubius オオモンヌカカ 1 1

C. jacobsoni キタオカヌカカ 3 4

C. japonicus ヤマトヌカカ 1 2

C. maculatus ミヤマヌカカ 7 9

C. matsuzawai マツザワヌカカ 4 5

C. nipponensis ニッポンヌカカ 2 3

C. ohmorii オオモリヌカカ 3 4

C. oxystoma ウシヌカカ 8 14

C. pregrinus トツグニヌカカ 2 3

C. punctatus ホシヌカカ 6 7

C. wadai ワダヌカカ 2 3

C. aterinarvis キモンヌカカ 1 1

C. kibunensis キブネヌカカ 1 2

C. lungchiensis ルンチヌカカ 6 10

C. pictimargo ウスシロフヌカカ 1 2

C. erairai エゾヌカカ 1 1

C. sumatrae アマミヌカカ 2 3

C. charadraeus ムモンヌカカ 1 1

C. paraflavescens ニセカズミヌカカ 1 1

C. verbosus ヤエヤマヌカカ 1 1

25 種 種あたり最大 8 地点 105 個体

104 104

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

(表 2)プライマー

primer 名 引用文献

ITS5 5’-GGAAGTAAAAGTCGTAACAAGG-3’ 1 ITS

ITS28TC 5’-TGCTTAAATTTCAGGGGGT-3’ 2 を改変

C1J1718 5’-GGAGGATTTGGAAATTGATTAGT-3’ 3 を改変 ミトコンドリ

ア C2N3665 5'-CCACAAATTTCTGAACATTG-3 3 を改変

fd1 5’-AGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3’ 4 細 菌 16S

rDNA rp2 5’-AACGGCTACCTTGTTACGACTT-3’ 4

■ 研究成果

1) ITS 領域の解析

(表 3) ヌカカ ITS 領域の長さと AT contents

ITS1 (bp) 5S (bp) ITS2a (bp) 2S (bp) ITS2 (bp) 全長 (bp)

Culicoides 306-585

64.9-75.7(%) 123

48.4-49.6(%) 35-41

75-80(%) 30

50(%) 200-267

66.4-87(%) 695-1043

D. melanogaster 726

(73.0%)

123

(49.6%)

28

(82.1%)

30

(56.7%)

385

(80%)

1292

A. gambiae 343

(53.6%)

161 (ITS2a 領域をもたない)

(49.7%)

434

(45.4%)

938

数値の上段は配列の塩基数、下段は AT contents (%)

Anopheles gambiae (accession No. X67157)、Drosophila melanogaster (accession No. M21017)

ヌカカでの ITS 領域の配列を同定した。ゲノム上に数十コピー存在するため、同一個体からの配列でも多型が存在した。

大部分の真核生物では、ITS 領域は ITS1-5.8S rDNA-ITS2 という3つの部分から構成されており、5.8S rRNA は 155-170

bp からなる。しかし双翅目の一部では 5.8S rRNA が ITS2a 領域で分断され 5S rRNA と 2S rRNA を生じる。Drosophila、ガ

ガンボ、ユスリカなどがそうである。一方、双翅目のうち、Anopheles や Culex、Culicoides では 5.8S rRNA のままである。ヌカ

カ Culicoides は、5S rRNA、2S rRNA を生じるグループに入ると考えられる。全長は種によって異なり、695-1043bp であっ

た。各部分の長さと AT contents とを表にした。この領域はまとめて転写されたあと ITS1, ITS2a, ITS2 領域が切除され、5S、

2S rRNA を含めた機能リボゾーム RNA ができる。ITS 各部位、特に ITS1 部位はヌカカの種によって長さ、配列とも大きく異

なり、また AT contents が高い。一方で 5S、2S 部位の配列はほぼ同一であり、また AT contents は約 50%と ITS 各部位に

比べ低かった。この領域での AT contents の高低は D. melanogaster と同様であり、不要となる部位の AT contents が高

い。A. gambiae では ITS 部位と 5.8S rDNA 部位の AT contents はそれほど差がない。

ITS1 部位は、種によって、長さや配列の違いが大きかった。そこで、MFOLD

(http://www.bioinfo.rpi.edu/applications/mfold/old/rna/form1.cgi ) により二次構造を予測した。ヌカカ各種でのITS1 部

位の長いものと短いものの比較において、長いものでは配列の挿入が見られ、長さの違いは中途にIndel領域が入るか入ら

ないかの違いがあることが示唆された。これ以外のステムループの数や構造は互いに似ていた(図 1)。

105 105

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

1

2

(図 1)予想される ITS1 ( ITS 領域前半) の二次構造

18S rRNA 3’末端 32 bp + ITS1 + 5SrRNA 5’末端 40 bp を MFOLD により計算させた。

1. ニワトリヌカカ(ITS1 が長いものの代表), 2. ウシヌカカ(ITS1 が短いものの代表)

106 106

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

(図 2)予想される 5S rRNA–ITS2a–2S rRNA–ITS2–28S rRNA の二次構造

ニワトリヌカカの 5SrRNA 3’末 いて MFOLD で計算。矢印は

一方、5SrRNA 3’末端 11 bp - 5SrRNA – ITS2a – 2SrRNA – ITS2 – 28SrRNA 5’末端 21 bp についても MFOLD で計算

個体内でも異なる配列が見られるが、現在、地域系統を識別するために、同一種の地域系統

端 11 bp - 5SrRNA – ITS2a – 2SrRNA – ITS2 – 28SrRNA 5’末端 21 bp につ

プロセシングを受けると予想される位置。

した(図 2)。ヌカカの 5SrRNA, 2SrRNA,および 28SrRNA 5’末端の配列はほぼ同一である。図はニワトリヌカカの予想二次構

造であるが、他のヌカカでも同様の構造が予想された。2S rRNA の配列に対し、5SrRNA 3’末端と 28SrRNA 5’末端とが塩基

対を形成することが予想される。ITS2a 部位は 35 から 41 bp の長さで種によって配列が一部異なるが、いずれの種でも図の

ようにステムループ構造を作ることが予想される。ITS2 部位は ITS2 だけが飛び出した形でステムループを形成した。プロセ

シングを受けると考えられる位置の構造もヌカカ間でほぼ同じであったため、リボゾームのプロセシングにはこの構造が重

要であることが示唆される。

ITS 領域は変異が大きく、

間での配列比較などを行っている。

107 107

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

2) ミトコンドリア領域の解析

0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000

ニワトリ

キタオカ

ツツヒゲ

ムモン

オオモリ

アマミ

キモン

オオモン

オクマ

ウシ

bp

cox1noncodingtRNAnoncodingtRNAnoncodingcox2

(図 3) ヌカカミトコンドリア領域の構造と長さ

ウシヌカカな

ど多数

I Q M nd2 W C Y cox1 L cox2 K D atp8 atp6 cox3

ツツヒゲ S Q M nd2 C Y W cox1 L, K cox2 なし D atp8 atp6 cox3

オクマ 未決定 C cox1 D cox2 K M なし なし cox3

ムモン 未決定 cox1 N(?), L cox2 K 未決定

キモン 未決定 nd2 W な

cox1 なし。非コード領

域 307 bp

cox2 K 未決定

キタオカ 未決定 cox1 なし。非コード領

域 1195 bp

cox2 未決定

オオモン cox1-L 間に非コード領域が 116 bp

アマミ cox1-L 間に非コード領域が 216 bp

オオモリ L-cox2 間に非コード領域が 300 bp 以上

ニワトリ L-cox2 間に非コード領域が約 1800 bp

(図4) ヌカカミトコンドリア領域の周辺構造

色付けした部位は一般的なミトコンドリア構造と遺伝子が異なることを示す。

アルファベット大文字:tRNA のアミノ酸コード、斜体:タンパクコード遺伝子

矢印は今回決定したミトコンドリア遺伝子領域。

ヌカカミトコンドリアの cox1 (3’側およそ 1300bp) からcox2 (5’側およそ 580bp) 間の領域配列を決定した。これまで調べら

れている昆虫の多くではこの領域はcox1-tRNA(Leu)-cox2 という遺伝子順であり、また遺伝子と遺伝子の間には非コード

領域がほとんどないと考えられている。供試したサンプルを特異的プライマーでPCR増幅したところ、25種のうち、17種では、

PCR産物はほぼ 2000 bpであった。しかし、他種ではそれよりも長いPCR産物が得られた(図 3)。配列決定し、tRNA

scan-SE 1.21 (http://www.genetics.wustl.edu/eddy/tRNAscan-SE/) によってtRNAの位置と構造を予想した(図4)。cox1

108 108

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

およびcox2 遺伝子領域はいずれもオープンリーディングフレームが示された。16 種では他昆虫と同様の遺伝子、構造であ

ったが、1種(オクマ)はtRNA(Leu)ではなくtRNA(Asp)になっており、1種(ツツヒゲ)はtRNA(Leu)の下流にtRNA(Lys)が加わ

っていた。別の1種(ムモン)では、tRNA(Leu)の上流にtRNA(Asn)が加わっていた。tRNAが見られないものが 2 種(キモン、

キタオカ)あり、4 種(オオモン、アマミ、オオモリ、ニワトリ)については遺伝子順は同じだがtRNA(Leu)の上流か下流に非コ

ード領域が 116-1800bp挿入されていた。非コード領域はAT richであった。以上のようにミトコンドリア遺伝子の配列位置の

リアレンジメントが生じていることが示唆されたため、数種類についてこの領域の上流下流についてさらに配列を決定した。

図4に示したように、他のミトコンドリア領域でも既知の遺伝子順とは異なっているヌカカ種が見られた。さらに詳細に検討す

る必要がある。

OKYN13IB4KG13-1KG13-2IS8KC12NG1HG8

OKIG23KG2AM2KG4OKIG19-1OKIG19-2NGO24-1

NGO24-2IS2AM6AM7OKYN18AM11

AM11bHG6NG2

OKYN12KC11KC10HG7NGO25-2NGO25-1OKIG20-2OKIG20-1OKNH16-2OKNH16-1KG11-2KG11-1 IB5

IS6KG15-1KC9KG15-2

KG8KG9KC4

AM5OKNH17-1OKNH17-2OKYN5OKYN6OKYN10OKYN11OKIG22

IB3AM8IS3IS4HG3HG4KC6KC7OKYN8OKYN9OKYY26OK1YN4OKYN15

KC5OKIG21OKYN4

IB1KG12-2HG5IS5NG3KG12-1AM9AM10

KC8KG5KG6KC15IS7KC13

KC14KG1OKYN1KC1

0.02 オクマ

オオモリ

ムモン

ミヤマ

キタオカ

トツグニ

ルンチ

ニッポン

キモン

ツツヒゲ

マツザワ

ウシ

ウスシロフ

キブネ

エゾ

ヤマト

オオモン

ホシ

ニセカズミ

ウスチャ

ヤエヤマ

オーストラリア

アマミ

ニワトリ

A. gambiae

100

100

86

100

100

100

100100

100100

100

96

89

98

95 100

100

85

(図5) ミトコンドリア領域による系統解析と形態による亜属分類との比較

AM(青森県サンプル)、IS(石川県サンプル)、IB(茨城県サンプル)、HG(兵庫県サンプル)、KC(高知県サンプル)、NG(長崎県諫早市サ

ンプル)、NGO(長崎県大村市サンプル)KG(鹿児島県サンプル)、ONYN(沖縄県与那国サンプル)、OKIG(沖縄県石垣島サンプル)、

109 109

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OKNH(沖縄県那覇市サンプル)、OKYY(沖縄県八重山サンプル)。数字は各地域でのナンバリング。

日本の Culicoides 属は和田(引用文献 6)によって形態(雌複眼、雌受精嚢、雄交尾器の形など)に基づきさらに6亜属に

分類されている。Culicoides(図5の青、以下同じ), Beltranmyia(オレンジ), Oecacta(赤), Avaritia(紫), Trithecoides(緑),

Monoculicoidesである。今回同定したヌカカ種のミトコンドリア領域 CO1のアミノ酸配列430残基+CO2のアミノ酸残基194

ないし 195 残基の配列を用いて ClustalX にかけ NJ 法により系統解析を行った。図5がその結果である。outgroup として A.

gambiae の同部分配列を用いたところ、図中央部点線の位置で上下に系統が分かれた。亜属 Monoculicoides のヌカカ種

は今回のサンプルには含まれていない。亜属 Avaritia(紫)は上部の系統にいずれも入り、亜属 Oecacta(赤)はムモンヌカ

カを除き下部の系統に入った。亜属 Beltranmyia(オレンジ)には今回のサンプルからはニワトリヌカカのみ属すが、これは

下部の系統に入った。一方で、亜属 Culicoides(青)は上部、下部どちらにも複数の種が入った。亜属 Trithecoides(緑)は

マツザワヌカカが上部に、ニセカズミヌカカが下部の系統に入った。ミトコンドリア領域による系統解析では、形態分類によ

る亜属がきれいにグルーピングされない箇所も多い。一部のアミノ酸配列からのみの系統解析であり、これだけで論じること

はできないが、今後分類を考える上での手がかりのひとつになると考えられる。

3) ヌカカの共生細菌

細菌 16S リボゾーム遺伝子に特異的なプライマーを用いてヌカカサンプル 105 種を鋳型に PCR 増幅した。得られた配列

を決定したところ、ヌカカ 25 種中 5 種(ニワトリ、オオモリ、ルンチ、トツグニ、マツザワ)から CFB 細菌と考えられる配列が得

られた。うち1種は Wolbachia 細菌との二重感染(トツグニ)であった。その他に、Wolbachia 単感染が1種(ニセカズミ)、リケ

ッチア様細菌感染種が1種(ヤマト)見られた。これら種のヌカカ個体のすべてから感染が示唆されたわけではない。得られ

た 1448 塩基を比較すると、宿主のヌカカ種によってCFB 細菌 16S リボゾーム遺伝子が互いに数塩基ずつ異なっていた(表

4)。現在、この多型は9カ所見られる。

(表4) 得られた細菌 16S リボゾーム 1448 塩基中での多型

塩基

宿主 126 番目 146 160 188 202 432 804 1273 1290

ニワトリヌカカ

マツザワヌカカ T C T C G C C A T

ルンチヌカカ T T C T A T C A T トツグニヌカカ C C T C R C C G C オオモリヌカカ C C T C G C T A T

■ 考 察

日本に生息する25種のヌカカについて、ゲノムリボゾーム遺伝子とミトコンドリア遺伝子の配列を決定した。これらの配列

からヌカカ種を同定することが可能となった。また、共生細菌 CFB の感染の有無とその遺伝子配列からもヌカカ種の判別が

可能であることが示唆された。今後、海外で採集した種を含めて解析し、特定のアルボウイルス媒介種を特定できる PCR

用プライマーを設計する必要がある。これにより、幼虫期でも種の識別ができるようになり、野外の生活環の解明、ウイルス

の移動経路推定など疫学上の重要知見を明らかにしていくことができる。また、九州地域でのウイルス媒介重要種と考えら

れるウシヌカカについては、これまで知られているように関東以北ではサンプルが得られなかった。しかしアルボウィルスの

流行はウシヌカカが採集されない地域でも起きており、これら地域でのウイルス媒介ヌカカの実態解明も重要な課題であ

る。

■ 参考(引用)文献

1. White,T. et al.:「PCR protocols: a guide to methods and applications」, Academic Press, San Diego, CA., USA (1990)

2. Porter, C. H. and Collins, F. H.: 「Species-diagnostic differences in a ribosomal DNA internal transcribed spacer

from the sibiling species Anopheles freeborni and Anopheles hrmsi (Diptera: Culicoidae)」, Am. J. Trop. Med. Hyg.,

110 110

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

45(2), 271-279 (1991)

3. Simon, C. et al.: 「Evolution, weigting and phylogenetic utility of mitochondrial gene sequences and a compilation of

conserved polymerase chain reaction primers.」, Ann. Ent. Soc. Am. 87(6), 651-701 (1994)

4. Weiburg, W. G. et al.:「16S ribosomal DNA amplification for phylogenetic study」, J. Bacteriol. 173(2), 697-703

(1991)

5. Yanase, T. et al.: 「Isolation of bovine Arboviruses from Culicoides biting midges (Diptera: Ceratopogonidae) in

southern Japan: 1985-2002」, J. Med. Entomol. 42(1), 63-67 (2005)

6. 和田義人: 「日本の Culicoides 属ヌカカ (diptera: Ceratopogonidae)」, 長崎県生物学会誌, No. 50, 46-70 (1999)

■ 関連特許

1.基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2.参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

111 111

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■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 0 報 (筆頭著者:0 報、共著者:0 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0 報、国外誌:0 報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:0 回、主催講演:0 回、応募講演:4 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

該当なし

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

該当なし

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

1) 野田博明: 「ヌカカ類の種および系統識別:リボソーム RNA 遺伝子配列と感染細菌」, 玉川大学, 第49回日本

応用動物昆虫学会大会兼平成17年度日本農学会大会分科会, 2005.3.25

2) 松本由記子: 「アルボウィルスを媒介するヌカカ属 Culicoides の ITS 領域およびミトコンドリア領域の解析」, 福岡

ヤフードーム, 第28回日本分子生物学会年会, 2005.12.8

3) 松本由記子: 「アルボウィルスを媒介するヌカカ属 Culicoides の ITS 領域およびミトコンドリア領域の解析」, 筑波

大学, 日本応用動物昆虫学会第50回大会, 2006.3.28

4) 松本由記子: 「ヌカカの分子学的な種の識別:ITS領域およびミトコンドリア遺伝子」長崎大学, 第58回日本衛生

動物学会, 2006.4.8

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

112 112

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3. SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究開発

3.5. アルボウイルスの流行予測と防疫システムの構築

3.5 .3 . 媒介昆虫の低環境負荷防除法の開発

福岡県工業技術センター生物食品研究所

水城 英一

■ 要 旨

Bacillus thuringiensis を用いてアルボウイルス媒介節足動物の低環境負荷防除法を開発するため、媒介節足動物の成

育環境等から B. thuringiensis の分離を行い、媒介節足動物に対するスクリーニングを行った。その結果、水田やカの生育

環境等から合計 479 株を分離することができた。全体の分離頻度は 9.3%で、土壌からの分離より高い値を示した。日本国

内で分離した 3,314 株の B. thuringiensis を用いたウシヌカカに対するスクリーニングでは、H 血清型 5ac と 5ab/21 に分類

される 7 株の活性株を得ることができた。両血清型の分離株は、ともに周囲を厚い膜で覆われた球状の Parasporal

inclusion を生産していたが、SDS-PAGE による比較ではそれぞれ異なるタンパク質組成を示し、serovar israelensis に対す

る抗体とも交差反応を示さなかった。チカイエカに対するスクリーニングで選抜した B282 株は、serovar israelensis の約 10

倍の活性を示したが、serovar israelensis が生産する Cry タンパク質のうち Cry4、Cry10 の発現や cry4、cry10 遺伝子は確

認できかった。

■ 目 的

アルボウイルスは、節足動物に感染して増殖し、吸血を介してヒトや家畜を含む脊椎動物に伝播するウイルスの総称で

あり、分類学上少なくとも 6 科 10 属 500 種のウイルスの存在が知られている。アルボウイルスを媒介する節足動物は世界的

に分布しているが、その生息環境によって種類や個体数が制限され、結果的に地域性を持った分布が形成されている。し

かし、温暖化等の気象要因による生息環境の急激な変化や、近年の世界的な人的、物的輸送量の増大により、節足動物

の分布域の拡大が起こり、その結果、新たな地域へのアルボウイルスの侵入・蔓延の危険性が増大している(参考文献

1)。これまで、このような媒介節足動物の防除には合成化学農薬や殺虫剤が広く利用されてき。しかし人畜を含めた非対

象生物への影響や、殺虫剤に対する抵抗性の発達、自然環境の破壊など多くの問題が生じている。そこで、ヒトや動物の

アルボウイルス病の制圧のためには病原および脊椎動物宿主を対象とした基礎的研究から、媒介昆虫の特性を解明し総

合的な防除システムを構築することが求められている。

1901年、石渡繁胤によって世界で 初に発見されたBacillus thuringiensis は、芽胞形成期に結晶性タンパク質を生産する

好気性グラム陽性細菌である。この結晶性タンパク質は、昆虫に対して選択的な殺虫活性を示すため、人畜に対して全く

負の影響を与えない、環境に対する安全性が極めて高い微生物農薬・殺虫剤として世界的に利用されている。アルボウイ

ルスのベクターとなる双翅目昆虫に対する殺虫剤として、B. thuringiensis serovar israelensis を利用した製剤が 20 年以上

にわたり利用されてきたが、近年これに抵抗性を示すベクターの出現が報告された(参考文献 2)。

我々はこれまで、国内の様々な場所からB. thuringiensisの分離を行い(参考文献 3,4,7,10)、その双翅目昆虫に対す

る殺虫活性を明らかにしてきた(参考文献 8,9,11,12,13,14)。本研究においては、これまで分離した菌株や新たに

分離する株を用いて、アルボウイルス媒介節足動物に対し選択的に殺虫活性を有し、serovar israelensis の代替となる新た

な B. thuringiensis の探索を行うとともに、その結晶性タンパク質の性状を明らかにし、環境負荷が少ない媒介節足動物の

防除方法の開発を目指している。

■ 目 標

113 113

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

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① アルボウイルス媒介節足動物の生育環境等からBacillus thuringiensis株を分離し、バイオアッセイ体制を構築する。

② アルボウイルス媒介節足動物に対して活性を示す Bacillus thuringiensis を選抜し、殺虫活性タンパク質(トキシン)

の性状を明らかにする。

■ 目標に対する結果

① 媒介節足動物の生育環境等から 479 株の B. thuringiensis の分離し、

② ウシのアルボウイルスを媒介するウシヌカカに対して殺虫活性を示す Bacillus thuringiensis 株を 7 株、ウエストナイ

ルウイルスを媒介するチカイエカに対して殺虫活性を示す 1 株を選抜し、トキシンタンパク質及び遺伝子の性状の

検討を行った。

■ 研究方法

① Bacillus thuringiensis の分離

Bacillus thuringiensis の媒介節足動物生育環境下からの分離は、様々な土壌・水を滅菌水で 10~100 倍に希釈したの

ち、芽胞形成細菌を選抜する目的で、パスチャライズ処理(65℃で 30 分間インキュベート)を行った。インキュベート後、階

段希釈して寒天培地(1% ポリペプトン、1% 肉エキス、0.2% NaCl、2% 寒天)に塗布し、28℃で 3 日間培養した。生育したコ

ロニーのうち、セレウス属の特徴(白色、無光沢)を示すコロニーを位相差顕微鏡で観察し、細胞内に芽胞と共に結晶性タ

ンパク質(副芽胞封入体:Parasporal inclusion)を産生したコロニーを B.thuringiensis と同定し分離を行った。分離した各

B. thuringiensis 株は上記培地を用いて 28℃で 5 日間培養を行ったあと、終濃度が 250mg/ml となるように蒸留水に懸濁し

た。さらに各懸濁液は 5 株毎に混合しユニット懸濁液とし、一次スクリーニングに用いた。

② 媒介節足動物に対するスクリーニング

媒介節足動物に対するスクリーニングでは、ユニット懸濁液を用いた一次スクリーニングと、活性を示したユニットに対し、

一株毎に二次スクリーニングを行う方法で行った。

ウシヌカカ(Culicoides oxystoma)は実験室内での飼育方法が確立されておらず、継代飼育が困難である。そこで 2005

年 8 月から 11 月に、鹿児島県内の牛舎でライトトラップ法により採集した本種成虫から採卵した卵を 25℃でインキュベート

し、孵化後 2 日目の幼虫を実験に用いた。ウシヌカカ幼虫のバイオアッセイは、200µl の蒸留水を分注した 48 穴マルチウエ

ルプレートの各ウエルに、孵化後 2 日目のウシヌカカ幼虫を 5 頭ずつ投入し、2µl の Bt ユニット懸濁液を投与した。25℃で

3 日間飼育し、24 時間ごとに観察を行い生死の判定を行った。定量的アッセイは 40 頭の供試虫を用いて、48 時間後の反

応数から算出した。

チカイエカは実験室内で飼育した幼虫を供試虫とした。成虫は 200×300×200mm のゴースネットを張ったケージを用い、

1%ショ糖溶液を餌として与え、25℃で飼育を行った。幼虫の飼育は、汲み置きした水道水を深さ約 15mm まで入れた 200×

300×50mm のプラスチック容器を用い、粉砕したマウス飼料を餌料として与え、25℃で飼育を行った。バイオアッセイは、

3ml の蒸留水を分注した 12 穴マルチウエルの各ウエルに、4 日齢の幼虫をそれぞれ 5 頭ずつ投入し、Bt ユニット懸濁液を

5µl ずつ投与した。25℃で 2 日間飼育し、6、24、48 時間後に観察し、生死を判定した(参考文献 13)。

■ 研究成果

日本国内の媒介昆虫が生育する場所など、様々な環境から Bacillus thuringiensis の分離を行った結果を表-1 に示した。

セレウス属の形態を示した 5,125 コロニーを顕微鏡観察し、479 株の B. thuringiensis を新たに分離することができた。

ウシヌカカ幼虫の成育が確認された鹿児島県の水田や、カの発生源となっている久留米市内の溜水から、高い頻度で

B. thuringiensis を分離した。また媒介節足動物の成育環境となりうる各種浄化水層の活性汚泥からは、著しく高い頻度で

B. thuringiensis を分離することが可能であった。一方気候が温暖で、媒介節足動物の密度が高い西南諸島の河川水や、

河川の微小浮遊物を沈殿させた浄水場の原水汚泥からは、B. thuringiensis は比較的低い頻度でしか分離されなかった。

114 114

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

国内で分離された 3,314 株の B.thuringiensis を用いたウシヌカカに対するバイオアッセイを実施した。ウシヌカカは実験

室内での飼育方法が確立していないため、実験に使用する幼虫の生態もほとんどわかっていない。そのため本実験で用

いたアッセイ方法は、体長が 0.3~0.5mm の極めて若齢の幼虫を使用するため、生死の判定が困難な場合が多かった。多

くのB. thuringiensis感受性の昆虫では、運動が停止することにより容易に死亡判定が可能で、さらに数時間~12時間後に

は体色の黒変が見られる。ウシヌカカの場合、体長が極めて小さく、運動の停止による死亡判定が困難であったため、図-

1に示した写真のように、死後の硬直と体色の変化を指標に判定を行った。

スクリーニングの結果 7 株の活性株を選抜した(表-2)。このうち 6 株は西南諸島の黒島で分離され、H血清型はいずれの

株も 5ab/21 に分類された。残る 1 株は東京都の土壌から分離され、H血清型は 5ac(serovar canadensis)に分類された。そ

れぞれの血清型に属する株のうち各 1 株について 72 時間後のLC50値を測定したところ、B1605 株が 375µg(wet weight)

/ml、A1442 株が 657µg(wet weight)/mlであった。一方、多くの双翅目昆虫に強い殺虫活性を示すB. thuringiensis serovar

israelensisの基準菌株を含むH14 の血清型に分類される株は、ウシヌカカに対して全く殺虫活性を示さなかった。

血清型 5ab/21 に分類された菌株のうち、2 株(B1596 株, B1605 株)を選択し位相差顕微鏡、電子顕微鏡を用いて

Parasporal inclusion (PI)の形態的な比較を行った(図-2)。どちらの株も位相差顕微鏡で丸い PI が観察され、SEM での観

察では、ほぼ真球に近い形状であることが明らかとなった。さらに TEM においては、周囲を電子密度の高い膜で囲まれ、

内部は均一の組成を持つ PI が観察された。また A1442 株においても、位相差、SEM、TEM 全ての顕微鏡観察で、血清型

5ab/21 に分類された菌株の PI とほとんど同様の形状が観察された。

表-1 日本国内で分離した Bacillus thuringiensis の分離頻度

23.4 29124沖縄泡盛工場活性汚泥

2.2 8364浄水場原水汚泥

1.6 311935石垣島、西表島の河川水

9.4 66701鹿児島県水田

No. of B. cereus group

colonies examined

B. thuringiensis /

B. cereus (%)

No. of B.

thuringiensis

5125 9.3 479Total

675 2.2 15福岡県水田

398 18.8 75久留米市蚊発生源の淡水

331 37.5 124屠畜場活性汚泥

Source

21.9 131597福岡県食品工場活性汚泥

500µm 500µm アッセイ前のウシヌカカ幼虫 アッセイ開始 48 後のウシヌカカ幼虫

図-1 ウシヌカカ幼虫に対する Bacillus thuringiensis のバイオアッセイ

PI を構成するタンパク質を SDS-PAGE で比較したところ、血清型 5ab/21 に属する 2 菌株は、ほぼ同じパターンを示した

115 115

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

- soil Kuroshima-5ab/21 B1596

- soil Kuroshima-5ab/21 B1595

657 soil Tokyocanadensis5ac A1442

- soil Kuroshima-5ab/21 B1597

375 soil Kuroshima-5ab/21 B1605

- soil Kuroshima-5ab/21 B1600

- soil Kuroshima-5ab/21 B1594

LC50 Flagellar

表-2 ウシヌカカ幼虫に殺虫活性を示す Bacillus thuringiensis の

図-2 ウシヌカカに殺虫活性を示す分離株の位相差顕微鏡、SEM、TEM 写真

、血清型 5ac の A1442 株とは異なっていた(図-3)。またこれらの分離株は serovar israelensis の SDS-PAGE パターンとも

全く異なっており、さらに serovar israelensis の PI に対する抗体を用いたイムノブロットにおいても、構成タンパク質に対して

の交差反応は示さなかった(図 2)。

SS

SS

SS

1

2

3

SEM TEM Phase-contrast

1 A1442 5ac serovar

; ( canadensis)、2 B1605 5ab/21; ( )、3 B1596 5ab/21; ( )

116 116

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研究成果の詳細報告

150

100

75

50

37

2520

15

10

M 1 2 3 4 M 1 2 3 4

250

97.4

21.5

31

45

66.2

14.4 6.5

116.3

200

M, Protein marker

1, israelensis

2, A1442

SDS-PAGE Immunoblot

図-3 ウシヌカカに殺虫活性を示す分離株の SDS-PAGE と Immunoblot 解析

西ナイルウイルスを媒介するチカイエカ(Culex pipiens molestus)に対するスクリーニングを行い、強い殺虫活性を示す

B282 株を選抜した。この菌株は媒介節足動物の生育環境として考えられる、屋久島の河川水から分離したものであった。

精製したPIを用いたチカイエカに対するLC50値は、serovar israelensisの約 10 倍の活性を示し、ハマダラカ(Anopheles

stephensi)やネッタイシマカ(Aedes aegypti)に対してもserovar israelensisと同等以上の強い殺虫活性を示した(表-4)。

表-4 カに対する殺虫活性の比較

B282 株の PI を構成するタンパク質を serovar israelensis と比較したところ、israelensis が発現しているトキシンタンパク質

のうち、Cry11 と Cyt1 トキシンは発現していたが、Cry4 トキシンに相当する130kDaタンパク質のバンドは確認することがで

きなかった(図-5)。さらに israelensis のプラスミド DNA にコードされている、cry4、cry10、cry11、cyt1、cyt2 遺伝子を選択的

に認識するプライマーを用いて PCR を行ったところ、B282 株では cry4と cry10 遺伝子の存在を確認することができなかっ

た(図-6)。

カに殺虫活性を示すB. thuringiensisとして、我々がこれまでに選抜してきた株のうち、ネッタイシマカ(Aedes aegypti) や

ハマダラカ(Anopheles stephensi) にのみ活性を示し、チカイエ(C. pipiens molestus)には活性を示さない、殺虫選択性が

著しく高いB. thuringiensis serovar sotto株(Ohgushi et al 2003)のcry24B and s1orf2 のクローニングを行った[原著論文 1)]

クローニングしたCry24B タンパク質はCryタンパク質に共通の 5 つの保存領域を保持していた。またS1ORF2 のアミノ酸配

117 117

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

列はB. thuringiensis serovar jegathesanのORF2 タンパク質と高いホモロジーを示した。また、これらの遺伝子をクローニン

グするなかで、IS231 のバリアントであるIS231Iを見出した[原著論文 2)]

。IS231Iのアミノ酸配列を他のIS配列と比較したところ

IS231A と IS231Bに対し 89%、IS231M と IS231Nに対し 65-66%、IS231Wに対し 38%の相同性を示した。

-5 B282 株と serovar israelensis の Cry トキシンの比較 図-6 B282 株および serovar israelensis 株の PCR 法による cry

遺伝子の確認

■ 考 察

昆虫の防除に広く利用されている serovar israelensis が全く活性を示さないウシヌカカに対して、7 株の活性

双翅目媒介

株を選抜した。これらの菌株のうち 6 株は分離源が同じで、同一の血清型に分類され、SEM・TEM 観察や SDS-PAGE の

結果から、同一の菌株であることが考えられた。血清型 5ac に分類された A1442 株の PI は、血清型 5ab/21 の菌株と非常

に似た形状が観察されたが、SDS-PAGE では全く異なるパターンを示したことから、ウシヌカカに活性を示す少なくとも 2 種

類の新規トキシンの存在が示唆された。B282 株は、cry4、cry10 遺伝子を持たないにもかかわらず、チカイエカに対して

serovar israelensis より強い活性を示したことから、PCR で確認された cry11、cyt1、cyt2 遺伝子が、より活性の高いトキシ

に部分的に変異している可能性、若しくは新たに新規トキシンが存在する可能性が示唆された。本研究で選抜したウシヌ

カカとチカイエカに活性を示すほとんどの菌株は、アルボウイルス媒介昆虫の飼育環境となる西南諸島や屋久島の河川水

から分離したものであったことから、分離源と活性の関連性が見られた。アルボウイルス媒介昆虫の防除に有効に利用する

ため、今後さらに分離菌株とトキシンの緒性質を明らかにしていく必要がある。

■ 参考(引用)文献

, T., Kubo, T., Yoshida, K., Ohashi, S., Yamakawa, M., Miura, Y. and Tsuda, T.: 「Isolation of

2. d Scott, J.G.: 「Insecticide resistance in Culex pipiens from New York.」, J.

3. M., Akao, T., Yamashita, S., Kim, H.S., Ichimatsu, T. and

1. Yanase, T., Kato

bovine arboviruses from Culicoides biting midges (Diptera: Ceratopogonidae) in southern Japan: 1985--2002.」, J.

Med. Entomol., 42(1), 63-67., (2005)

Paul, A., Harrington, L.C., Zhang, L. an

Am. Mosq Control Assoc., 21(3), 305-309, (2005)

Mizuki, E., Maeda, M., Tanaka, R., Lee, D.W., Hara,

Ohba, M..: 「Bacillus thuringiensis: a common member of microflora in activated sludges of a sewage treatment

plant.」, Curr Microbiol., 42(6), 422-425, (2001)

118 118

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

4. , T., Yamashita, S. and Ohba, M.: 「Isolation of Bacillus

5. ion of a

6. g, S.H., Park, Y.S., Higuchi, K., Mizuki, E. and Ohba, M.: 「Cloning and characterization of a

7. urally occurring in the Ryukyus, a

8. oth-fly specific larvicidal activity between two

9. leesis that

10. ., Nishimura, K., Akao, T., Saitoh, H., Higuchi, K. and Ohba, M..: 「Occurrence of Bacillus

11. of mosquito larvicidal parasporal

12. is against the

13. Bacillus thuringiensis natural isolates;

14. to, K., Higuchi, K. and Mizuki, E.: 「Bacillus thuringiensis serovar higo (flagellar

Maeda, M., Mizuki, E., Hara, M., Tanaka, R., Akao

thuringiensis from intertidal brackish sediments in mangroves.」, Microbiol Res., 156(2), 195-198, (2001)

Ohgushi, A., Wasano, N., Shisa, N., Saitoh, H., Mizuki, E., Maeda, M. and Ohba, M..: 「Characterizat

mosquitocidal Bacillus thuringiensis serovar sotto strain isolated from Okinawa, Japan.」, J. Appl. Microbiol., 95(5),

982-989, (2003)

Saitoh, H., Hwan

Bacillus thuringiensis serovar higo gene encoding a novel class of the delta-endotoxin protein, Cry27A, specifically

active on the Anopheles mosquito.」, Syst. Appl. Microbiol., 23(1), 25-30, (2000)

Ohba, M., Wasano, N. and Mizuki, E..: 「Bacillus thuringiensis soil populations nat

subtropic region of Japan.」, Microbiol. Res., 155(1), 17-22, (2000)

Higuchi, K., Saitoh, H., Mizuki, E. and Ohba, M..: 「Similarity in m

serologically unrelated Bacillus thuringiensis strains.」, FEMS Microbiol. Lett., 169(2), 213-218, (1998)

Higuchi K, Saitoh H, Mizuki E, Hwang SH, Ohba M.: 「A novel isolate of Bacillus thuringiensis serovar

specifically exhibits larvicidal activity against the moth-fly, Telmatoscopus albipunctatus.」, Syst. Appl. Microbiol.,

21(1), 144-150, (1998)

Ichimatsu, T., Mizuki, E

thuringiensis in fresh waters of Japan.」, Curr. Microbiol., 40(4), 217-220, (2000)

Saitoh, H., Higuchi, K., Mizuki, E., Hwang, S.H. and Ohba, M.: 「Characterization

inclusions of a Bacillus thuringiensis serovar higo strain.」, J. Appl. Microbiol., 84(5), 883-888, (1998)

Saitoh, H., Higuchi, K., Mizuki, E. and Ohba, M.: 「Larvicidal toxicity of Japanese Bacillus thuringiens

mosquito Anopheles stephensi.」, Med Vet Entomol., 12(1), 98-102, (1998)

Saitoh, H., Higuchi, K., Mizuki, E. and Ohba, M.: 「Larvicidal activity of

indigenous to Japan, against two nematoceran insect pests occurring in urban sewage environments.」, Microbiol.

Res., 151(3), 263-271, (1996)

Ohba, M., Saitoh, H., Miyamo

serotype 44), a new serogroup with a larvicidal activity preferential for the anopheline mosquito.」, Lett. Appl.

Microbiol., 21(5), 316-318, (1995)

■ 関連特許

1.基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2.参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

119 119

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 2 報 (筆頭著者:0報、共著者:2 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0報、国外誌:0報、書籍出版:0冊

4. 口頭発表 招待講演:0回、主催講演:0回、応募講演:5 回

5. 特許出願 出願済み特許:0件 (国内:0件、国外:0件)

6. 受賞件数 0件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Ohgushi, A., Saitoh, H., Wasano, N., and Ohba, M.: 「A new insertion variant, IS231I, isolated from a

mosquito-specific strain of Bacillus thuringiensis」, Curr. Microbiol., 51, 95-99, (2005)

2) Ohgushi, A., Saitoh, H., Wasano, N., Uemori, A., and Ohba, M.: 「Cloning and characterization of two novel

genes, cry24B and s1orf2, from a mosquitocidal strain of Bacillus thuringiensis serovar sotto」, Curr. Microbiol., 51, 131-136, (2005)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

該当なし

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

1) 斎藤浩之、日下芳友、樋口和彦、水城英一、大庭道夫: 「イエカ幼虫に強い殺虫活性を示す Bacillus

thuringiensis B282 株と B. thuringiensis serovar israelensis 基準菌株との比較」, 京都女子大学, 日本農芸化学

会大会, 2006.3.26

2) 樋口和彦、梁瀬徹、日下芳友、齋藤浩之、水城英一、津田知幸、大庭道夫: 「ウシヌカカ幼虫に殺虫活性を示

す Bacillus thuringiensis のスクリーニング」, 筑波大学, 日本応用動物昆虫学会, 2006.3.28

3) 樋口和彦、斉藤浩之、日下芳友、水城英一、梁瀬徹、津田知幸、大庭道夫: 「双翅目昆虫に対する低環境負荷

防除法の開発」, 長崎県, 第 41 回日本脳炎ウイルス生態学研究会, 2006.5.26-27

120 120

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

4) 齋藤浩之、樋口和彦、日下芳友、水城英一、大庭道夫: 「A novel Japanese isolate of Bacillus thuringiensis with

strong larvicidal activity against mosquitoes of Culicidae」, 福岡市, 6th International Congress of Dipterology,

2006.9.23-28

5) 樋口和彦、梁瀬徹、日下芳友、齋藤浩之、水城英一、津田知幸、大庭道夫:「Larvicidal activity of Japanese

Bacillus thuringiensis isolates against the biting midge, Culicoides oxystoma (Diptera: Ceratopogonidae)」, 福岡

市, 6th International Congress of Dipterology, 2006.9.23-28

5. 特許等出願等

「チカイエカに活性を示す Bacillus thuringiensis 分離株」に関する特許を 9 月までに出願予定

6. 受賞等

該当なし

121 121

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

3. SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究開発

3.6 . HIV 薬剤耐性とウイルス特異的細胞性免疫に関する研究

国立大学法人東京大学医科学研究所感染症分野

岩本 愛吉

■ 要 旨

抗 HIV 療法中に梅毒を発症した患者の解析を通して、薬剤耐性 HIV による重感染の可能性について検討を行った。梅

毒感染前後での保存 PBMC を用いたプロウイルス配列の系統樹解析の結果、耐性ウイルスの重感染を認めた例はなかっ

たが、梅毒感染前から少数の薬剤耐性変異を保持していたことの分かった2例では、梅毒感染と同時期にさらなる耐性変

異の獲得が認められた。患者体内ウイルス集団中の少数の耐性クローンを検出する方法の開発が引き続き必要と考えられ

た。また、日本人感染者の HIV に共通して見られる CTL エピトープ部のステレオタイプな変異に対する、患者 CTL の特異

性について検討を行った。

■ 目 的

世界保健機関(WHO)が、数千年の間人類を苦しめた天然痘に対する撲滅宣言を行ったのは 1980 年のことである。その

翌年に登場した AIDS は人類史においても象徴的な感染症だと言える。抗 HIV 薬が進歩し,その併用療法によって HIV 感

染者の予後は著明に改善した。しかし、薬剤耐性ウイルスの出現,薬剤の長期毒性,国内新規感染者の右上がりの増加,

今後爆発的に増加すると懸念されている中国やインドなど近隣諸国での現実と将来、抗 HIV 薬が高価なために今なお恩

恵にあずかれない多数の途上国の存在など、HIV 感染症を取り巻く現状は極めて深刻である。

先進工業国で行われている抗ウイルス薬による治療が内包する問題の一つは薬剤耐性ウイルスの出現である。欧米で

は新規感染者の 10~20%が耐性ウイルスに感染する地域があり、わが国でも 2003~2004 年の新規感染者の 5%が薬剤

耐性を持つウイルスに感染していたとの報告もある。本研究では、性行為による HIV 感染を主体とするわが国の現状に即

して、薬剤耐性ウイルスの伝播に関する臨床研究及び感度の高い薬剤耐性ウイルス検出法の開発を行う。

また、未だにワクチンの開発されていない HIV に関して、その基盤となるウイルス特異的免疫について基礎的臨床的研

究を行う。我々はこれまでに日本人に多い HLA-A24 や HLA-B35 拘束性の CTL エピトープを解析し、日本人 HIV 感染者

において CTL エスケープ変異体と考えられるステレオタイプなアミノ酸変異が蓄積していることを明らかにした。本研究で

は、CTL による野生型及び変異型エピトープの認識に関する詳細な解析を行い、HIV の免疫逃避機構を明らかにする。

■ 目 標

① ハイリスクな性行為における薬剤耐性ウイルス感染の可能性を検証する。

② 感度の高い新たな耐性 HIV 検出法を開発する。

③ CTL による HIV 特異的認識機構の解析により、HIV の免疫からの逃避機構を明らかにする。

■ 目標に対する結果

① 抗 HIV 療法中に梅毒を発症した患者において、梅毒感染前後での HIV プロウイルスを解析した結果、薬剤耐性

122 122

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

HIV による重感染を認めた例はなかったが、梅毒感染前から少数の薬剤耐性変異を保持していた2例では、梅毒

感染とともにさらなる耐性変異の獲得が認められた。

② 患者血液から薬剤耐性変異を含む HIV 断片を増幅し、試験管の中で薬剤耐性ウイルスを選択的に検出する方法

を開発することが可能であるとの初期的な結果を得た。

■ 研究方法

① 患者血液からのウイルス核酸の抽出は常法によった。HIV 遺伝子の一部を PCR 法で増幅し、塩基配列の解析を行

い、アミノ酸配列を推定した。

② 薬剤耐性変異を含む断片をプラーマー配列を工夫した PCR 法により増幅し、試験管内で制限酵素切断の後、プラ

スミドにクローニングし、大腸菌をトランスフォーメーションした。

■ 研究成果

HIV 感染症の治療経過が良好に推移し、血漿中の HIV RNA 量が検出限界以下(< 50 コピー/ml)を続けていた症例が、

梅毒を発症し、同時期に血漿中の HIV RNA 量が急激に上昇した(>14,000 コピー/ml)。HIV の薬剤耐性についてジェノタ

イプ検査を行ったところ、増加した HIV には多数の耐性変異が入っていることが判明した。梅毒に感染するということは、リ

スクのある性的接触があったということであり、それまでの治療経過を考慮すると、梅毒と同時期に多剤耐性 HIV に感染し

た可能性も考えられた。そこで、この症例をインデックスケースとして、HIV 感染症の治療中に梅毒に罹患し、その前後の血

液が入手可能であった患者の梅毒感染前後の HIV 遺伝子を検索した。その結果、4 例において HIV の重感染は認められ

なかったが、うち 2 例において梅毒罹患後に薬剤耐性変異が増加していた。

耐性ウイルスと野生型ウイルスが混在する中から少数の耐性ウイルスを検出する方法として、HIV 遺伝子を野生型、耐性

型が混在するものとして増幅した後、試験管内の反応で耐性ウイルスを選択的に検出する方法の開発を目指した。その考

えを実現できるとの見通しを持てる初期成果を得た。

■ 考 察

欧米の大都市と同様、東京など日本の大都市においても HIV や梅毒の性感染が増加している。HIV 感染者においても

梅毒発症例が増加していることは、ハイリスクな性的接触が行われたことを示唆する。梅毒と同時に多剤耐性ウイルスを検

123 123

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

出した症例を経験し、薬剤耐性ウイルスの重感染を考え検討したが、調べた症例の中には重感染は証明し得なかった。し

かし、ハイリスクな性的接触を示唆する症例が増加していることから、引き続き薬剤耐性ウイルスの蔓延について検討して

いくことが重要である。

■ 参考(引用)文献

該当なし

■ 関連特許

1.基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2.参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

124 124

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 3 報 (筆頭著者:0 報、共著者:3 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0 報、国外誌:0 報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:0 回、主催講演:0 回、応募講演:5 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1. Yokomaku, Y., Miura, H., Tomiyama, H., Kawana-Tachikawa, A., Takiguchi, M., Kojima, A., Nagai, Y., Iwamoto, A,,

Matsuda, Z. and Ariyoshi, K.:「Impaired processing and presentation of cytotoxic-T-lymphocyte (CTL) epitopes are

major escape mechanisms from CTL immune pressure in human immunodeficiency virus type 1 infection.」, J. Virol,

78(3), 1324-1332, (2004)

2. Furutsuki, T., Hosoya, N., Kawana-Tachikawa, A., Tomizawa, M., Odawara, T., Goto, M., Kitamura, Y., Nakamura,

T., Kelleher, A.D., Cooper, D.A. and Iwamoto, A.:「Frequent transmission of cytotoxic-T-lymphocyte escape

mutants of human immunodeficiency virus type 1 in the highly HLA-A24-positive Japanese population.」, J. Virol.,

78(16), 8437, (2004)

3. Ide,F., Nakamura, T., Tomizawa, M., Kawana-Tachikawa, A., Odawara, T., Hosoya, N. and Iwamoto, A.:

「Peptide-loaded dendritic-cell vaccination followed by treatment interruption for chronic HIV-1 infection: A phase 1

trial.」, J. Med. Virol., 78(6), 711, (2006)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

該当なし

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

該当なし

主催・応募講演

1) 中村仁美 et al: 「HIV/HBV 重感染と多剤併用療法について」, 静岡, 第 18 回日本エイズ学会, 2004.12.10

2) 立川愛 et al: 「野生型及び変異型エピトープを提示する MHC クラス I テトラマーを用いた多重染色による HIV

125 125

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

特異的 CD8 陽性 T 細胞の解析」, 静岡, 第 18 回日本エイズ学会, 2004.12.10

3) 立川愛 et al: 「ヒト免疫不全ウイルス感染症に対する特異的免疫療法と計画的抗ウイルス薬の中断(免疫学的

解析)」, 熊本, 第 19 回日本エイズ学会, 2005.12.3

4) 中村哲也 et al: 「ヒト免疫不全ウイルス感染症に対する特異的免疫療法と計画的抗ウイルス薬の中断(臨床学

的解析)」, 熊本, 第 19 回日本エイズ学会, 2005.12.3

5) 宮崎恵梨子 et al: 「Analysis of HIV-1 specific Cytotoxic T Lymphocytes (CTL) with HLA-class1 tetramer」, 上

海, The 12th East Asia Joint Symposium on Biomedical Reserch, 2005.11.20

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

126 126

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

3. SARS 以外のウイルス性新興・再興感染症に関する研究開発

3.7 . NK 細胞 receptor における感染細胞認識機構に関する基礎研究

国立国際医療センター研究所難治性疾患研究部臨床免疫研究室

小笠原 康悦

■ 要 旨

SARS や鳥インフルエンザをはじめとするウイルス性疾患において、特に自然免疫系が生体防御に重要である。自然免

疫系の中心的役割を果たす NK 細胞は、初期のウイルス感染細胞の排除に必須であって、前感作なしにウイルス感染細

胞を認識できることが知られている。そのため、NK 細胞の防御機構を解明することは新興、再興感染症の制圧に向けて感

染症の予防、早期診断、的確な治療法の確立をめざすために重要である。我々は、NK 細胞の標的細胞認識機構を、レセ

プターおよびリガンドのクローニングを通して解明するため、レセプターおよびリガンドのクローニングに必要な高感度なレ

ポーター細胞の作成に成功した。

■ 目 的

SARS や鳥インフルエンザをはじめとするウイルス性疾患において、特に自然免疫系が生体防御に重要であることが知ら

れている。自然免疫系の中心的役割を果たす NK 細胞は、初期のウイルス感染細胞の排除に必須である。NK 細胞は、前

感作なしにウイルス感染細胞を認識できることが知られており、このことは、NK 細胞自身にウイルス感染細胞を認識するレ

セプターが存在することを強く示唆するものである。近年、NK 細胞上の活性化および抑制性レセプターがクローニングされ、

NK 細胞の機能と役割が次第に明らかになってきているものの、NK 細胞のウイルス感染細胞の認識機構が充分理解され

ているとはいえない。本研究は、新興、再興感染症ウイルスに対する NK 細胞の防御機構を解明し、新興、再興感染症の

制圧に向けて感染症の予防、早期診断、的確な治療法の確立をめざすために基礎医学的、免疫学的情報を提供すること

を目的とする。

本研究は、NK 細胞の標的細胞認識機構を、レセプターおよびリガンドのクローニングを通して解明し、そのシグナル伝

達機構まで追究することにより、NK 細胞のウイルス性疾患における役割を明らかにし、臨床につながる基礎研究を遂行し

ようとするものである。

■ 目 標

① NK 細胞レセプター、ウイルス感染細胞上に発現する新規リガンドをクローニングするための高感度なレポーター細

胞を作成する。

② NK 活性化レセプターの新たな役割について追究する。

③ NK 活性化レセプター、ウイルス感染細胞上に発現する新規リガンドをクローニングする。

■ 目標に対する結果

① NK 細胞レセプター、ウイルス感染細胞上に発現する新規リガンドをクローニングするための高感度なレポーター細

胞を作成に成功した。

② NK 活性化レセプター、NKG2D, NK1.1、ICOS をクローニングし遺伝子導入細胞を作成し、目標に向けて準備がで

きた。今後、NK 活性化レセプターの新たな役割について追究する。

127 127

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

③ NK 細胞レセプター、ウイルス感染細胞上に発現する新規リガンドをクローニングするための高感度なレポーター細

胞の作成に成功、目標に向けて準備ができた。今後クローニングを進める。

■ 研究方法

まず NK 活性化レセプターおよびリガンドをクローニングするための手段として、転写因子 NFAT が活性化、NFAT 結合領

域に結合すると細胞が蛍光を発するようなレポーター細胞を作製するため、細胞株に NFATGFP を遺伝子導入した。

転写因子 NFAT が結合する DNA 配列は、マウス Interleukin-2 (IL-2) プロモーター領域にある NFAT 結合領域

(5'-TTGAAAATATGTGTAATA-3')をクローニングした。NFAT 結合領域を6回繰り返した配列を DNA 合成し、実験に供

した。レポーター細胞の感度をさらに高めるため、NFAT 結合領域の上流にエンハンサー配列を組み込んだプラスミドを作

成した。転写因子 NFAT が活性化し、NFAT 結合領域に結合すると細胞が蛍光を発するようにするため、NFAT 結合領域

の下流には、Green Fluorescent Protein (GFP)の遺伝子を結合した。細胞株を薬剤選択できるよう、neo 遺伝子が組み込ま

れている plasmid を作成した。

細胞株は、遺伝子導入しやすいとされているDT40 細胞、およびJurkat細胞を用いた。遺伝子導入はエレクトロポレーション

法によって行った。遺伝子導入条件は、Plasmid DNA X ug、5x106個の細胞を用い、250V、975uFの電圧をかけた。遺伝

子導入されている細胞を選択するため、24時間後に薬剤G418 を3mg/mlの濃度で添加し、2週間培養し限界希釈法によ

りクローンを得た。

NFAT x6

X GFP

従来の方法

NFAT x6

GFP

我々の方法

Transfection の容易なDT40を用いて評価 (anti-IgM, PMA)

図−1 レポーター細胞の作成のためのプラスミド構築

■ 研究成果

本年度、NK 細胞レセプター、ウイルス感染細胞上に発現する新規リガンドをクローニングするための高感度なレポーター

細胞の作成に成功した。NK 活性化レセプターは、リガンドと結合すると活性化シグナルを細胞内に伝達するが、その際、

NFAT とよばれる転写因子を用いることが知られている。我々はその点に着目し、NFAT が結合し転写活性を有すると、細

胞が蛍光を発するようなレポーター細胞を作成し、NK 細胞レセプターおよびウイルス感染細胞上に発現する新規リガンド

をクローニングしようとしている。レポーター細胞は、感度が良いこと、遺伝子導入しやすいことが求められている。そのため

我々は NFAT 結合領域を6回繰り返した配列を用いること、NFAT 結合領域に上流にエンハンサー配列を加えるという工夫

をした。レポーター細胞が蛍光を発するようにするため、NFAT結合領域下流にGreen Fluorescent Protein (GFP)の遺伝子

を結合させた。

遺伝子導入しやすい細胞株としてDT40 を用い、NFAT-GFP遺伝子を導入したレポーター細胞を5株樹立した。レポータ

ー細胞が機能していることを検証するため、IgM 抗体刺激、および TPA+ionomysin による刺激でレポーター細胞が蛍光を

発するか否かを検討した(図2)。

128 128

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

結果、従来のレポーター細胞の10分の1以下の抗体刺激で十分蛍光を検出できることから、10倍程度の感度をもつレポ

ーター細胞を樹立することができた(図3)。

(従来) - anti-IgM (5ug/ml) PMA+ionomysin

GFP(我々)

0 200 400 600 800 1000FSC-Height

Data.028

0 200 400 600 800 1000FSC-Height

Data.034

0 200 400 600 800 1000FSC-Height

Data.036

0 200 400 600 800 1000FSC-Height

Data.001

0 200 400 600 800 1000FSC-Height

Data.010

0 200 400 600 800 1000FSC-Height

Data.009

0.7 4.8 14.4

2.4 37.9 79.4

図-2 NFAT-GFP レポーター細胞の検出感度1

0 200 400 600 8001000FSC-Height

Data.028

0 200 400 600 8001000FSC-Height

Data.029

0 200 400 600 8001000FSC-Height

Data.030

0 200 400 600 8001000FSC-Height

Data.034

0 200 400 600 8001000FSC-Height

Data.019

0 200 400 600 8001000FSC-Height

Data.020

0 200 400 600 8001000FSC-Height

Data.021

0 200 400 600 8001000FSC-Height

Data.009

0 200 400 600 8001000FSC-Height

Data.036

0 0.2 0.5 5 P+I

(従来)

(我々)

0 200 400 600 8001000FSC-Height

Data.008

Anti-IgM (ug/ml) stimulation (16h)

2.4 15.0 20.8

37.9 71.5

1.10.6 0.7 0.8 13.2

GFP

図-3 NFAT-GFP レポーター細胞の検出感度2

■ 考 察

本年度は、まず NK 活性化レセプターおよびリガンドをクローニングするための手段として、細胞株に NFATGFP を遺伝子

導入し、高感度のレポーター細胞を作製した。エンハンサー配列を加えるという我々の工夫が実った結果であった。今後

各種不活化ウイルスを繊維芽細胞に感染させ、レポーター細胞との共培養により NFAT の活性化が認められるか否かを検

討し、リガンドおよびレセプターのクローニングを通して、感染防御機構を解明する。

これと平行して、NK活性化レセプターであるNKG2Dのリガンドが各種不活化ウイルスにより誘導されるか否かを検討する。

129 129

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

近の報告では、マウスサイトメガロウイルス感染において、NKG2D のリガンドが発現低下する場合も示されており、他の

ウイルス感染においても NKG2D リガンドの発現がどのような挙動を示すか興味がもたれる。加えて、NKG2D リガンドのみな

らず、他の NK 活性化レセプター、NKp46 や NKRP1、costimulatory 分子である ICOS,CD28 等のリガンドの発現についても、

各種不活化ウイルスを感染させた際、その発現に変化があるかを検討する。

■ 参考(引用)文献

1. Lanier, L. L.: 「NK cell recognition.」, Annu. Rev. Immunol., 225-274, (2005)

2. Sato, K., Hida, S., Takayanag,i H., Yokochi, T., Kayagaki, N., Takeda, K., Yagita, H., Okumura, K., Tanaka, N.,

Taniguchi, T. and Ogasawara, K.: 「Antiviral response by natural killer cells through TRAIL gene induction by

IFN-a/b.」, Eur. J. Immunol., 11, 3138-3146, (2001)

3. Hamerman, J.A., Ogasawara, K. and Lanier, L.L.: 「NK cells in innate immunity.」, Cur. Opn. Immunol., 17, 29-35

(2005)

4. Arase, H., and Lanier, L.L.: 「Specific recognition of virus-infected cells by paired NK receptors.」, Rev. Med.

Virol., (2), 83-93, (2004)

5. Lodoen, M., Ogasawara, K., Hamerman, J.A., Arase, H., Houchins, J.P., Mocarski, E.S. and Lanier, L.L.:

「NKG2D-mediated NK cell protection against cytomegalovirus is impaired by gp40 modulation of RAE-1

molecules.」, J. Exp. Med., 197, 1245-1253, (2003)

6. Ogasawara, K. and Lanier, L. L.: 「NKG2D in NK and T cell-mediated Immunity」, Clin. J. Immunol., in press (2006)

■ 関連特許

1.基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2.参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

130 130

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 0 報 (筆頭著者:0 報、共著者:0 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0 報、国外誌:1報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:0 回、主催講演:0 回、応募講演:0 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 3 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

該当なし

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

1) Ogasawara, K. and Lanier, L.L.: 「NKG2D in NK and T cell-mediated Immunity」, Clin. J. Immunol., in press (2006)

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

該当なし

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

1) 小笠原康悦: 「東京免疫フォーラム研究奨励賞」, 2005.5.10

2) 小笠原康悦: 「Human Frontier Science Program Career Development Awards」, 2006.3.30

3) 小笠原康悦: 「文部科学大臣表彰若手科学者賞」, 2006.4.18

131 131

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

4. 細菌性新興・再興感染症に関する研究開発 要旨

サブリーダー・笹川 千尋

細菌性疾患により今日も多くの人命が失われている。細菌性疾患は、菌の局所あるいは全身への感染過程で菌から分

泌される毒素、菌体成分、あるいは粘膜感染による炎症反応に起因する生体の機能異常・破綻が原因となるが、感染の成

立と宿主免疫応答機構については不明な点が多い。本研究開発では、細菌感染成立の分子機構、宿主の病原体認識機

構の解明、および感染制御法の開発、の三つの研究を相互に連携して行い、その知見を通じて細菌性新興・再興感染症

に対処する研究開発基盤を強化することを目的とした。

細菌感染成立機構の研究開発(笹川千尋)では、ヘリコバクターピロリと赤痢菌をモデルとして、前者の慢性胃粘膜感染

機構および炎症誘導機構の解明、また後者は急性腸管感染機構と新規弱毒赤痢ワクチン開発を計画した。ヘリコバクター

ピロリから分泌される CagA は慢性胃炎、胃潰瘍の発症に深く関与していることが推定されている。胃上皮細胞へ分泌され

た CagA は細胞増殖に関わる c-Met 下流のシグナル伝達を活性化する。本研究により CagA は Crk に直接結合し上皮細

胞運動、増殖を促進する一方、細胞間接着も抑制し、これらの活性が本菌による胃粘膜増殖・障害誘導に重要な役割を果

たしていることが示唆された。従来の弱毒赤痢ワクチン株は細胞侵入能を有しておりしたがってマクロファージへの細胞死

誘導能も保持しており、これが炎症反応(発熱、下痢といった副作用)の誘導の一因になると考えられた。そこで細胞侵入

能は有するがマクロファージに感染後の食胞からの離脱能を欠失した弱毒赤痢変異株を作成し、低炎症性の新規ワクチ

ン株になる可能性を検討した。その結果、マウス経鼻感染モデルでは新規ワクチンとして高い防御効果があり副作用も少

ないことが示唆された。

細菌の感染が全身に及ぶ過程で、リポポロサッカライド(LPS)をはじめとする様々な菌体成分が過剰に血中に遊離する。

その結果、Toll-like receptor(TLR)下流のシグナルが撹乱されエンドトキシンショックに陥り生命が脅かされる。TLR による

病原認識機構の解明とその制御方法の開発(三宅健介)では、TLR4/MD-2 複合体に特異的に会合する分子を種々の方

法で検索した結果、TLR に会合する新規タンパク質として PRAT4A(protein associated with TLR4A)を同定した。PRAT4A

は TLR4 の細胞内分布を制御することも示唆されることから、さらに細胞内機能を検討する。TLR4/MD-2 に対するモノクロ

ーナル抗体を用いて、エンドトキシンショックの予防ができるかどうか、LPS とガラクトサミンを加えて、肝細胞アポトーシス誘

導モデルを用いて調べたところ、TLR4/MD-2 に対する2種のモノクローナル抗体のひとつが阻止できることが明らかとなっ

た。その作用機序を調べた結果、本単抗体は TLR4/MD-2 からのシグナルを誘導して、肝細胞で A20 などのアポトーシス

抑制遺伝子発現を亢進することによることが判明した。本抗体の作用機序は抑制ではなく、TLR4 を介してシグナルを入れ

ることによることから、本抗体が直接エンドトキシンショックの治療に利用しうるかは不明である。しかし TNF-αの産生にお

いて作用が異なることから、この違いに関する遺伝子を同定できれば、TNF-α産生を制御する新たな治療法への糸口とな

る可能性があり、今後さらに検討を進める。

老年や若年に結核が増加し、また結核の集団感染も国内外で多く報告され、さらに多剤耐性結核の蔓延も危惧されて

いる。したがって、BCGよりさらに強力な結核ワクチンの開発が望まれている。一方、結核菌は強い免疫賦活作用(アジュバ

ント活性)を示すことから、免疫原性の低い抗原に対する免疫誘導効果も大いに期待されている。本研究では(高津聖志)、

ヒト型結核菌由来たんぱく質やペプチドなドの獲得免疫活性化抗原を探索し、免疫アジュバントと抗結核ワクチン開発の応

用研究を行うことを目的とした。その結果、結核菌の分泌するAg85BとそのペプチドPeptide-25 が強力なTh1 細胞誘導活

性と免疫アジュバント活性を示すことを明らにした、またPeptide-25 とI-Abを認識するTCR (P25 TCR)を発現するTCR-Tgマ

ウスを作出し、Th1 細胞分化への分子機構の解析系を確立した。さらにP25 TCR-Tgマウスを用いて、抗結核免疫アジュバ

ントのアッセイ系の基盤を確立することができた。

132

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

4. 細菌性新興・再興感染症に関する研究開発

4.1 .粘膜病原細菌による感染症に関する研究

国立大学法人東京大学医科学研究所感染免疫部門細菌感染分野

笹川 千尋

■ 要 旨

本研究では、ヘリコバクターピロリ感染および炎症誘導機構の解明および新規弱毒赤痢ワクチン開発の基礎的研究を

行っている。これまでにヘリコバクターピロリのエフェクターCagA の新規宿主標的分子としてアダプタータンパク質 Crk を同

定した。Crk は、ヘリコバクターピロリの感染によって誘導される胃粘膜上皮細胞の増殖と障害誘導機構において重要な役

割を果していることが明らかになった。一方、赤痢菌の感染には多数のエフェクターが関与している。今回、機能未知のエ

フェクターのうち宿主遺伝子発現に作用するエフェクターについて機能および標的分子を明らかにし、赤痢菌の複雑な感

染機構の一端を明らかにした。また、新規弱毒赤痢ワクチン開発の第一段として、細胞侵入性を示すが強い炎症を誘導し

ない組換え変異株を作製した。本株は安全で高い感染防御効果を示す新規ワクチン株としての可能性が示唆された。

■ 目 的

本研究では、胃粘膜に長期定着し様々な疾患を起こすヘリコバクターピロリと、大腸粘膜内に感染し急性の炎症性下痢

を起こす赤痢菌について、感染現象と発症機序の解明を行う。ヘリコバクターピロリは、1982年に胃炎・消化性潰瘍の起

因菌として同定され、世界の約半数が感染していると推定され、胃癌のリスクファクターとして認定されている。一方赤痢菌

は、その発見から一世紀が経過した今でも下痢による死亡原因の首位を占め、開発途上国では依然として大きな脅威とな

っている。いまだに安全かつ有効なワクチンはない。本研究では、これらの粘膜病原細菌の感染症に有効に対処するため

の基礎的知見を蓄積することを目的として、ヘリコバクターピロリ感染における急性および慢性炎症応答が菌の定着と胃粘

膜傷害に与える影響を解明するとともに、腸粘膜感染に関わる赤痢菌側および細胞側因子間の相互作用を解明し、それ

を基に新規弱毒赤痢ワクチン開発の基礎的研究を行う。

■ 目 標

① ヘリコバクターピロリ感染および炎症誘導機構の解明

② 新規弱毒赤痢ワクチン開発の基礎的研究

■ 目標に対する結果

① エフェクターCagA の新規な宿主内結合因子としてアダプタータンパク質 Crk を同定した。Crk は、ヘリコバクターピロ

リの感染によって誘導される胃粘膜上皮細胞の増殖と障害誘導機構において重要な役割を果していることが明らか

になった。

② 新規エフェクターの機能および標的分子を明らかにした。IpaH9.8はU2AF(35)に結合して炎症性サイトカイン誘導抑

制に機能していることが明らかになった。エルシニアの細胞侵入因子インベイシンの遺伝子を導入した細胞侵入性

欠損株を作製してその評価を行った結果、新規弱毒赤痢ワクチンとして安全でありかつ高い防御効果をもつことが

明らかになった。

133

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 研究方法

① リン酸化 CagA に結合する新規宿主タンパク質を同定するために、リン酸化チロシン残基と結合する SH2 ドメインを保有

する各種宿主タンパク質と GST-CagA の融合タンパク質を用いた pull-down assay を行った。CagA が誘導する細胞運動

亢進(スキャッタリング)に Crk タンパク質が関与するかどうかは、胃上皮細胞株 AGS に Crk ドミナントネガティブ体を過剰

発現させた細胞、または siRNA によって Crk をノックダウンした細胞にヘリコバクターピロリを感染させ、CCD カメラを用い

たタイムラプスイメージングもしくは固定した後に蛍光免疫染色を行った感染細胞の蛍光顕微鏡観察によって判定した。

CagA に依存した細胞間接着の乖離は、菌を感染させた胃上皮細胞 MKN74 または NCI-N87 細胞、もしくは乳がん由来

細胞株 T47D の蛍光免疫染色によって解析した。CagA/Crk に依存した細胞間接着乖離能の解析は、Crk のドミナント

ネガティブ体を過剰発現させた MKN74 細胞を用いた感染実験によって行った。CagA によるβ-カテニンの局在変化は、

GFP-CagA の過剰発現 MDCK 細胞、または、Crk を siRNA によってノックダウンした MKN74 細胞に対して感染後の蛍

光免疫染色により判定した。CagA によるアドヘレンスジャンクションの乖離は、CagA を過剰発現させた E-カドヘリン発現

L 細胞の細胞形態観察により判定した。CagA によるスキャッタリングにおける Crk の下流のシグナル伝達系の解析は、

Crk の SH3 領域に結合することが知られている Sos1、C3G および Dock180 のプロリンリッチ領域を過剰発現させた AGS

細胞を用いた感染細胞の形態観察により行った。さらに、Sos1、C3G および Dock180 の下流で活性化する H-Ras、Rap1

および Rac1/WAVE の関与を調べるために各ドミナントネガティブ体過剰発現細胞を、また、Raf/MEK/ERK 経路の関

与を調べるために、各阻害剤(Rafキナーゼ阻害剤:BAY43-9006およびGW5074、MEK阻害剤:PD98059またはU0126)

を添加した細胞を用いて感染実験を行い、細胞間接着の乖離を解析した。

② 赤痢菌の III 型分泌装置を介して分泌される未同定のエフェクターの機能解明を行った。具体的には当該エフェクター

欠損株の表現型について、培養細胞あるいはマウス肺炎惹起モデルを用いた。また当該エフェクターの遺伝子をクロー

ニング後、発現ベクターに組み込み培養細胞へのトランスフェクションを行った。常法に従い異所性発現を行うが、細胞

へ致死的影響をもたらすエフェクターの場合にはテトラサイクリン等の薬剤による発現誘導系を用いた。さらにエフェクタ

ーの発現によって誘導される細胞機能(たとえば細胞骨格、遺伝子発現、細胞周期へ与える影響等)について細胞生物

学的な各種手法により解析し、エフェクターの機能を明らかにした。次にエフェクターの宿主標的分子を同定した。エフ

ェクターと GST との融合蛋白を用いた pull-down assay で共沈した蛋白を質量分析による解析によって同定するか、ある

いは yeast two-hybrid system によって会合する分子を同定した。また宿主標的分子のドミナントネガティブ体の過剰発

現、siRNA によるノックダウン、あるいはノックアウトマウスが入手可能な場合には胚性繊維芽細胞を用いることによってエ

フェクターと宿主標的分子の相互作用およびそれらの感染における役割を解明した。

さらに新しい弱毒赤痢ワクチン開発のために各種エフェクター欠損株あるいはリコンビナント株をワクチン株としての評価

を行った。まず、マウス肺炎惹起モデルを用いることにより各種ワクチン株のマウスに対する致死性、肺炎の重篤度、炎

症性サイトカイン誘導、炎症性細胞の浸潤等について免疫学的な解析を行った。また投与数週間後の血清あるいは気

管肺胞洗浄液中の抗赤痢菌抗体価を測定し抗体価の上昇率を解析した。さらにワクチン株投与後に致死量の赤痢菌

野生株を投与しマウスの生存率を解析した。以上によりワクチン株候補としての評価を総合的に行った。

■ 研究成果

① ヘリコバクターピロリ感染および炎症誘導機構の解明

胃炎、胃潰瘍、胃 MALT リンパ腫の発症原因となるヘリコバクターピロリの胃粘膜への感染と炎症誘導には、cag

pathogenicity island (cag PAI) とよばれる病原性遺伝子塊にコードされる病原因子をはじめ多くの因子が関与している。本

菌の病原因子のなかで、cag PAI にコードされる IV 型分泌装置を通じて、菌体成分であるペプチドグリカンおよび CagA タ

ンパク質とよばれる病原因子が宿主細胞へ分泌・注入され、胃粘膜の炎症の主たる原因となることが提唱されている。この

分泌装置を介して分泌される蛋白性因子として唯一同定されている CagA タンパク質は、胃上皮細胞内でリン酸化および

非リン酸化の二つの状態で存在する。いずれも c-Met の下流の細胞シグナル伝達を活性化して胃上皮細胞の増殖を亢進

するとともにアポトーシスを抑制し(三室、未発表)、その結果、胃粘膜の新陳代謝を抑制し、発癌リスクの一つとなることが

134

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

示唆されている。

これまでの研究で、リン酸化CagAは宿主細胞内でSHP-2およびCskと、またリン酸化/非リン酸化CagAはGrb2と結合し、

細胞運動能や細胞増殖を促進することが報告されており、CagAは様々なシグナル伝達分子を結合しうる多機能タンパク質

であることが明らかになりつつある。さらに我々は新たにリン酸化CagAの新規な宿主内結合因子として、アダプタータンパ

ク質Crkを同定した。ドミナントネガティブ体の過剰発現、もしくはsiRNAによるCrkのノックダウンの結果、ヘリコバクターピロ

リの感染によって誘導される胃細胞運動、増殖、細胞間接着のいずれもが抑制された。また、阻害剤等を用いた実験から、

Crkによるシグナルカスケードの下流で活性化されるH-Ras, Rap1, Rac1 の活性化がCagAに起因する宿主細胞応答に必

要であることを明らかにした。今回我々は、CagA/Crkのシグナルが胃上皮細胞 の細胞間接着機構に関与することを見い

出した。CagAによってCrkが活性化された結果、細胞間接着が破壊され正常細胞では細胞間接着部位に存在するβ-カ

テニンが核内へ移行することが明らかになった。β-カテニンは核内でTCF/LEFと複合体を形成することによってサイクリン

D1 やMMP-7 等の細胞増殖促進に関与する遺伝子の転写活性を促進されることが知られている。したがって、CagA/Crk

の作用によるβ-カテニン核内移行促進が、ピロリ菌の胃粘膜増殖過多に関与する可能性が示された。以上により

CagA/Crkを介したシグナル伝達の活性化が、ピロリ菌感染に伴う胃粘膜増殖・障害機構において重要な役割を果してい

ることが示唆された(図-1)[原著論文 1)]

図-1 ヘリコバクターピロリ CagA によるシグナル伝達

②新規弱毒赤痢ワクチン開発の基礎的研究

新規エフェクターIpaH9.8の機能を明らかにした。赤痢菌が上皮細胞に侵入すると宿主の病原体認識蛋白の 1 つNod1 が活

性化され、NF-κBの核移行を介した種々のサイトカイン遺伝子の発現が誘導される。赤痢菌のIpaH9.8エフェクターは核に

移行し宿主のRNAスプライシングファクターU2AF(35)に結合してRNAのスプライシングを阻害することによってサイトカイン

遺伝子発現を抑制することが示された。これにより赤痢菌は宿主の感染防御機構を抑制し感染に有利な環境を作り出して

いることが明らかになった[原著論文 2)]

。赤痢菌がマクロファージに侵入し食胞から細胞質に離脱するとネクローシス様細胞

死と局所の激しい炎症が誘導され、それに伴いIL-1βおよびIL-18 の活性化が引き起こされるが示された[原著論文 3)]

。従

来の弱毒赤痢ワクチン株は細胞侵入能を有しておりしたがってマクロファージへの細胞死誘導能も保持しており、これが炎

症反応(発熱、下痢といった副作用)の誘導の一因になると考えられた。そこで細胞侵入能は有するがマクロファージに感

135

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

染後の食胞からの離脱能を欠失した弱毒赤痢変異株を作成できれば、理想的な低炎症性の新規ワクチン株になる可能性

があると考えられた。そこで、エルシニアの細胞侵入因子インベイシンの遺伝子を導入した細胞侵入性欠損株(IpaBエフェ

クターの欠損株)を作製した。この株は細胞侵入性を持つがマクロファージに感染後細胞死を誘導せず、細胞死に伴って

大量に分泌されるIL-1βおよびIL-18 量も低下していた。マウス経鼻感染モデルを用いインベイシン発現変異株による感

染防御効果等の免疫学的解析を行った結果、投与後の肺病理所見では中程度の好中球浸潤像がみられたが各種炎症

性サイトカインの顕著な上昇は認められなかった。また外見上の病的症状、体重減少といった副作用がほとんど観察され

なかった。一方、投与 1 ヶ月後の血清中および気管支肺洗浄液中の抗赤痢菌LPS-IgG、-IgA抗体価の有意な上昇がみら

れ、さらに致死量の赤痢菌野生株感染に対する高い防御効果が示された。これらのことからインベイシン発現変異株が新

規ワクチンとして有用であることが示唆された[原著論文 4)]

■ 考 察

本研究によって、ヘリコバクターピロリのCagAと宿主分子Crkを介したシグナル伝達の活性化が、ピロリ菌感染に伴う胃

粘膜増殖・障害機構において重要な役割を果していることが示唆された。しかし菌の感染を介して誘導される炎症性サイト

カインはCagA非依存的であるとされている。今後、これら炎症性サイトカインの誘導機構および菌の定着と胃粘膜傷害に

与える影響を精査していく必要がある。赤痢菌の新規エフェクターの機能および標的分子を解明し、IpaH9.8はU2AF(35)に

結合して炎症性サイトカイン誘導抑制に機能していることが明らかになった。これまでに報告されたエフェクターとは異なり

新規な機能を持つことが示され、赤痢菌のエフェクターの多彩な機能が明らかになってきた。しかしながら機能が未知のエ

フェクターが多数存在しており、その解明が今後の課題である。また、未同定のエフェクターの中には宿主免疫応答に抑

制的に作用するものが示唆されており、それらの変異株がワクチン株として今後有望である可能性がある。

■ 参考(引用)文献

1. Mimuro H., Suzuki T., Takaka J., Asahi M., Haas R., and Sasakawa C.: 「Grb2 is a key mediator of Helicobacter

pylori CagA protein activities」, Mol. Cell., 10(4), 745-755, (2002)

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

136

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 4 報 (筆頭著者:0 報、共著者:4 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:3 報、国外誌:7 報、書籍出版:1 冊

4. 口頭発表 招待講演:6 回、主催講演:1 回、応募講演:9 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Suzuki, M., Mimuro, H., Suzuki, T., Park, M., Yamamoto, T. and Sasakawa, C.: 「Interaction of CagA with Crk plays

an important role in Helicobacter pylori-induced loss of gastric epithelial cell adhesion」, J. Exp. Med., 202 (9),

1235-1247, (2005)

2) Okuda, J., Toyotome, T., Kataoka, N., Ohno, M., Abe, H., Shimura, Y., Seyedarabi, A., Pickersgill, R. and Sasakawa

C.: 「Shigella effector IpaH9.8 binds to a splicing factor U2AF(35) to modulate host immune responses」, Biochem.

Biophys. Res. Commun., 333 (2), 531-539, (2005)

3) Suzuki, T., Nakanishi, K., Tsutsui, H., Iwai, H., Akira, S., Inohara, N., Chamaillard, M., Nunez, G. and Sasakawa C.:

「A novel caspase-1/toll-like receptor 4-independent pathway of cell death induced by cytosolic Shigella in infected

macrophages」, J. Biol. Chem., 280 (14), 14042-14050, (2005)

4) Suzuki T, Yoshikawa Y, Ashida H, Iwai H, Toyotome T, Matsui H, and Sasakawa C.: 「High vaccine efficacy against

shigellosis of recombinant non-invasive Shigella mutant that expresses Yersinia invasin」 (2006) (投稿中)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1) 田中二郎, 笹川千尋: 「ピロリ菌の IV 型分泌機構」, 蛋白質核酸酵素, 50 (1), 36-43, (2005)

2) 小川道永, 笹川千尋: 「オートファジーと細菌感染」, 実験医学, 23 (17), 2632-2640, (2005)

3) 笹川千尋: 「オートファジーと病原細菌の攻防」, Molecular Medicine, 42 (臨時増刊号), 222-229, (2006)

国外誌

1) Takahashi, T., Matsumoto, T., Nakamura, M., Matsui, H., Kiyohara, H., Sasakawa, C. and Yamada, H.: 「A novel

in vitro infection model of Helicobacter pylori using mucin-producing murine gastric surface mucous cells」,

Helicobacter, 9(4), 302-312, (2004)

2) Ogawa, M., Yoshimori, T., Suzuki, T., Sagara, H., Mizushima, N., and Sasakawa, C.: 「Escape of Intracellular

Shigella from Autophagy」, Science, 307 (5710), 727-731, (2005)

3) Ohya, K., Handa, Y., Ogawa, M., Suzuki, M., and Sasakawa, C.: 「IpgB1 is a novel Shigella effector protein

involved in bacterial invasion of host cells: Its activity to promote membrane ruffling via Rac1 and Cdc42

activation」, J. Biol. Chem., 280 (25), 24022-24034, (2005)

4) Ogawa, M. and Sasakawa, C.: 「Intracellular Survival of Shigella」, Cell. Microbiol., 8(2), 177-184, (2005)

137

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

5) Sasakawa, C. and Hacker, J.: 「Host-microbe interaction: bacteria」, Curr. Opin. Microbiol., 9(1), 1-4, (2005)

6) Ogawa, M. and Sasakawa, C.: 「Bacterial evasion of the autophagic defense system」, Curr. Opin. Microbiol., 9(1),

62-68, (2005)

7) Morita-Ishihara, T., Ogawa, M., Sagara, H., Yoshida, M., Katayama, E. and Sasakawa, C.: 「Shigella Spa33 is an

essential C-ring component of type III secretion machinery」, J. Biol. Chem., 281(1), 599-607, (2006)

書籍出版

1) 「微生物感染学」, 笹川千尋(分担執筆), 南山堂, 2005.11.10

4. 口頭発表

招待講演

1) Sasakawa, C.: 「Molecular mechanisms of Shigella infection of intestinal mucosa and host cell responses」, Seoul,

Korea, JSPS-Asian Symposium at IVI, 2004.10.26-27

2) Sasakawa, C.: 「Shigella exploitation and subversion of host cell functions」, Hitotsubashi Memorial Hall, Tokyo,

Japan, Molecular Bases Underlying Microbial Infections and the Host Responses (Organized by Grant-in-Aid for

Scientific Research on Priority Areas, MEXT), 2005.7.19-20

3) Sasakawa, C.: 「Bacterial exploitation and subversion of host cell function: the case of Shigella」, Beijing, China,

University of Tokyo Forum 2005 in Beijing Molecular Medicine (Organized by University of Tokyo), 2005.4.29

4) Sasakawa, C.: 「Escape of Shigella from autophagy」, Kobe, Japan, Symposium on Autophagy unveiled: defense and

survival by self-eating. The 78th Annual Meeting of the Japanese Biochemical Society, 2005.10.19-20

5) Sasakawa, C.: 「Intracellular survival strategy of Shigella」, Shonan Village Center, Japan, The 18th Naito

Conference on Innate Immunity in Medicine and Biology, 2005.10.25-28

6) Sasakawa, C.: 「Bacterial exploitation and subversion of host cell function」, Tokyo, Japan, IMSUT-Pasteur

Institute Symposium, 2006.4.18-19

主催・応募講演

1) Sasakawa, C.: 「Shigella infection of intestinal mucosa and the host responses」, 東京, 第 78 回日本細菌学会総

会, 2005.4.4

2) 小川道永, 鈴木敏彦, 笹川千尋: 「赤痢菌の上皮細胞感染におけるオートファジー阻害機構の解析」, 東京, 第

78 回日本細菌学会総会, 2005.4.4

3) 大屋賢司, 小川道永, 鈴木仁人, 鈴木敏彦, 笹川千尋: 「赤痢菌の III 型分泌機構より分泌される IpgB1 は上皮

細胞侵入に関与する新規病原因子である」, 東京, 第 78 回日本細菌学会総会, 2005.4.4

4) 鈴木仁人, 三室仁美, 鈴木敏彦, 笹川千尋: 「ピロリ菌 CagA の活性に必須な宿主因子の解析」, 東京, 第 78

回日本細菌学会総会, 2005.4.4

5) 鈴木敏彦, 笹川千尋: 「マクロファージに対する赤痢菌の細胞死誘導機構」, 東京, 第 78 回日本細菌学会総会,

2005.4.4-5

6) 永松環奈, 笹川千尋: 「Helicobacter pylori は IL-1αを介して MIP-2 産生を誘導する」, 金沢, 第 79 回日本細

菌学会総会, 2006.3.29

7) 鈴木仁人, 笹川千尋: 「ピロリ菌 CagA による胃上皮細胞間接着の脱制御機構」, 金沢, 第 79 回日本細菌学会

総会, 2006.3.29

8) 半田浩, 鈴木仁人, 大屋賢司, 笹川千尋: 「赤痢菌の上皮細胞侵入における IpgB1 の機能解析」, 金沢, 第 79

回日本細菌学会総会, 2006.3.29

9) 森田朋子, 小川道永, 笹川千尋: 「赤痢菌の III 型分泌装置における Spa33 の局在と役割」, 金沢, 第 79 回日本

138

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

細菌学会総会, 2006.3.29

10) 小川道永, 笹川千尋: 「Listeria monocytogenes の感染におけるオートファジーの解析」, 金沢, 第 79 回日本細

菌学会総会, 2006.3.29

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

139

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

4.細菌性新興・再興感染症に関する研究開発

4.2 . 結核菌体成分による免疫アジュバントと抗結核ワクチン開発への応用研究

国立大学法人東京大学医科学研究所免疫調節分野

高津 聖志

■ 要 旨

近年、老年層における結核症の増加や若年層における結核症の集団感染などが国内外で報告され、国民の多くが

結核症の蔓延を危惧している。BCGより強力な結核ワクチンの開発に向けて、多くの研究が精力的になされている。ま

た、結核菌は強い免疫賦活作用(アジュバント活性)を示すので、免疫原性の低い抗原に対する免疫誘導効果も期待さ

れている。本研究は、ヒト型結核菌由来たんぱく質やペプチドなドの獲得免疫活性化抗原を探索し、免疫アジュバントと

抗結核ワクチン開発の応用研究を行うことを目的とする。これ迄に、1) 結核菌の分泌するAg85Bとそのペプチド

Peptide-25 が強力なTh1 細胞誘導活性と免疫アジュバント活性を示すことを明らかにし、2) Peptide-25 とI-Abを認識す

るTCR (P25 TCR)を発現するTCR-Tgマウスを作出し、Th1細胞への分化の分子機構を解析した。3) P25 TCR-Tgマウス

を用いて、抗結核免疫アジュバントのアッセイ系の基盤を確立した。

■ 目 的

BCG 接種により国民の約 70%に結核感染に対する抵抗性を賦与できると考えられているが、近年老年層における結核

症の増加や若年層における結核症の集団感染などが国内外で報告され、国民の多くが結核症などの再興感染症の蔓延

を危惧している。BCG より強力な結核ワクチンの開発が期待され、多くの研究が精力的になされている。また、結核菌はそ

の強い免疫賦活作用(アジュバント活性)を示すので、免疫力の弱い抗原やがん抗原等に対する免疫誘導、またアレルギ

ーの制御における効果も期待されている。本研究では、細菌の DNA に特徴的な配列(CpG 配列)やその誘導体などの自然

免疫活性化成分、 ヒト型結核菌由来たんぱく質やペプチドなドの獲得免疫活性化抗原を用いて、これ迄とは異なる観点

から免疫アジュバントと結核ワクチン開発の応用研究を行うことを目的とする。

■ 目 標

① 結核菌体由来成分による Th1 免疫応答誘導と免疫アジュバント活性の探索。

② 抗結核免疫応答を強化するシステムの確立。

③ Th1 応答誘導の分子機構の解明。

■ 目標に対する結果

① 結核菌体由来成分による Th1 免疫応答誘導と免疫アジュバント活性の探索: ヒト型結核菌が分泌する Ag85B やそ

のペプチド(Peptide-25)が、マウスに免疫原性を示し、Th1 細胞の分化を選択的に誘導すること、免疫アジュバント活

性を示し共存抗原のTh1応答や細胞障害性T細胞の生成を促進することを見出した。

② 抗結核免疫応答を強化するシステムの確立:Ag85B や Peptide-25 を認識するT細胞抗原レセプター(TCR)を発現す

るトランスジェニックマウス (P25 TCR-Tg) マウスを作出した。P25 TCR を発現するT細胞はヒト型結核菌 (Ag85B

を発現)感染マクロファージに応答し増殖することを見出した。このシステムを用い、抗結核免疫のアッセイ系を開発

している。

③ Th1 応答誘導の分子機構の解明: Peptide-25 特異的TCRを発現するP25 TCR-TgマウスのナイーブCD4+ T細胞を

用い、Th1 応答誘導の分子機構の解析システムを確立し、Th1 への分化の決定にTCRからのシグナルが重要な役

140

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

割を果たすことを明らかにした。

■ 研究方法

結核菌体成分による Th1 誘導活性とアジュバント活性の検索: 細菌性 CpG DNA など結核菌体成分の活性物質の樹

状細胞 (DCs)活性化、Th1 細胞分化誘導とアジュバント活性を検索する。 Peptide-25 による DCs 活性化と Th1 細胞分化、

Ag85B 由来の Peptide-25 とその修飾ペプチドによる DCs 活性化、Th1 細胞分化誘導活性、アジュバント活性を検索する。

その分子機構を解明するために、Peptide-25 を認識する T 細胞抗原受容体 (P25 TCR) 過剰発現マウスを作出し、抗

TCR 抗体を調製する。

■ 研究成果

(1) 結核菌が分泌するAg85Bおよびそのペプチド、Peptide-25 のアジュバント活性

Peptide-25 のアジュバント活性を卵白アルブミン (OVA) に対する細胞傷害性T細胞 (CTL) の誘導を指標に解析

した。[原著論文 3)]

1) C57BL/6 マウスをPeptide-25 とOVAで共免疫すると、OVA 単独免疫グループに比べ、

OVA特異的なCTL前駆細胞の頻度や成熟CTL生成が増加した。2) Pepdide-25 によるOVA特異的 CTL生成の

増強はPepdie-25 とOVAを同一部位に免疫した場合に観察されたがIFN-g 欠損マウスでは観察されなかった。3)

Peptide-25 のアジュバント活性はTh1 誘導活性と相関した。

(2) 抗結核免疫応答を強化するシステムの確立を目指して

ヒト型結核菌H37Rv感染したマクロファージは、Peptide-25 特異的TCRを発現するトランスジェニック(P25

TCR-Tg) マウス のT細胞を刺激し、その増殖とIL-2 産生を惹起した。Ag85Bを欠損するH37Rv感染したマクロファ

ージにはその作用がなかった。[原著論文 4)]

(3) Th1 応答誘導の分子機構の解析

1) Peptide-25 刺激によるTh1 細胞分化の誘導機構を解析するため、Peptide-25 特異的TCRを発現するトラン

スジェニックマウス(P25 TCR-Tg)を作出した。P25 TCR-TgマウスのナイーブCD4+ T細胞を抗原提示細胞

存在下にPeptide-25 で刺激すると選択的にTh1 に分化した[原著論文 1), 2)]

2) P25 TCR CD4+ T細胞のTh1 への分化誘導にはIL-12, IL-18, IFN-γや副刺激シグナルは必須でなかっ

た。

3) P25 TCR を特異的に認識する抗 P25 TCR 抗体 (KN7) を作出した。

■ 考 察

我々の実験結果より、Peptide-25 は、Peptide-25 特異的な Th1 応答を強力に惹起すると共に共存する抗原提示細胞を

活性化することが明らかになった。その結果、Peptide-25 はアジュバント活性を示し、他の抗原を共存させるとその抗原に

特異的な Th1 応答を誘導する。すなわち、Peptide-25 は Th1 応答誘導型ヘルパーペプチドであると解釈できる。これ迄免

疫原性を示すペプチドは数多く知られているが、共存する他の抗原に対する免疫応答を増強するペプチドの報告は稀で

あり、Th1 反応誘導型ヘルパーペプチドとして Peptide-25 やその関連ペプチドは多種多様に活用できるものと期待できる。

■ 参考(引用)文献

Takatsu, K., and Kariyone, A.: 「Immunogenic peptide for the Th1 development. Int. Immunopharmacol」, 3(10),

783-800, (2003)

Tamura, T., Ariga, H., Kinashi, T., Uehara, S., Kikuchi, T., Nakada, M., Tokunaga, T., Wen,X., Kariyone, A., Saito,

T., Kitamura, T., MaxWell, G., Takaki, S. and Takatsu, K.: 「The role of antigenic peptide in CD4+ T helper

phenotype development in a T cell receptor transgenic model.」, Int. Immunol., 16(12), 1691-1699, (2004)

141

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

Kikuchi, T., Uehara, S., Ariga, H., Tokunaga,T., Kariyone, A., Tamura, T., and Takatsu, K,.: 「Augmented induction

of CD8+ cytotoxic T cell response and antitumor resistance by Th1-inducing peptide.」, Immunology, 117(1), 47-58,

(2005)

Wolf, A., Linas, B., Tamura, T., Takatsu, K. and Ernst, Jj.e.: 「Initiation of CD4+ T cell immunity to M. tuberculosis.

Tuberculosis」, in press, (2006)

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

142

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 4報 (筆頭著者:0 報、共著者:4 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0 報、国外誌:0 報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:4 回、主催講演:0 回、応募講演:5 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

Tamura, T., Ariga, H., Kinashi, T., Uehara, S., Kikuchi, Y., Nakada, M., Tokunaga, T., Wen, X., Kariyone, A., Saito,

T., Kitamura,T., MaxWell, M., Takaki, S. and Takatsu, K.: 「The role of antigenic peptide in CD4+ T helper

phenotype development in a T cell receptor transgenic model,」 Int. Immunol., 16(12), 1691-1699, (2004)

Hirano, M., Kikuchi, Y., Nisitani, S., Yamaguchi, A., Satoh, A., Ito, T., Iba, H. and Takatsu, K.: 「Bruton’s tyrosine

kinase (Btk) enhances transcriptional co-activation activity of BAM11, a Btk-associated molecule of a subunit of

SWI/SNF complexes」, Int. Immunol., 16, 747 – 757, (2004)

Kikuchi, T., Uehara, S., Ariga, H., Tokunaga, T., Kariyone, A., Tamura, T., and Takatsu,K.: 「Augmented induction

of CD8+ cytotoxic T cell response and antitumor resistance by Th1-inducing peptide」, Immunology, 117(1), 47-58,

(2005)

Wolf, A, Linas, B., Tamura, T., Takatsu, K. and Ernst,J.E.: 「Initiation of CD4+ T cell immunity to M. tuberculosis.

Tuberculosis」, in press, (2006)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

該当なし

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

1) 高津聖志: 「Role of IL-5 in the Innate Immune System and Disease Control」, Keio Plaza Hotel, Tokyo, The

UEHARA Memorial Foundation Symposium on the Innate Immune System: Strategies for Disease Control,

2005.7.11-13

2) 高津聖志: 「Basic Immunology Considerations for TB/Leprosy Product Development」, Seattle, US-Japan

143

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

Cooperative Medical Science Program, Joint TB/Leprosy Panel and Immunology Board Workshop, 2005.7.27

3) 高津聖志: 「Role of TCR Signal in the Th1/Th2 Regulation: A P25 TCR Transgenic Model」, US/JAPAN

Immunology Board Symposium, Seattle, 2005.7.27

4) 高津聖志: 「Ag85B of M. tuberculosis and its Peptide Elicit Effective Cytotoxic T cell Response and Antitumor

Resistance through Activation of Robust Th1 Immunity」, New Delhi, 8th FIMSA/IIS Advanced Immunology

Course Focus on Clinical Immunology, 2006. 3.1-5

主催・応募講演

1) 菊池剛史, et.al.: 「Th1 誘導ペプチドによる抗腫瘍免疫増強機構の解析」, 札幌, 第 64 回日本癌学会学術総

会, 2005.9.14-16

2) XU Wen, et al.: 「CpG ODN-Mediated Prevention from Oval-bumin-induced Anaphylaxis in Mouse through B

Cell Pathway」, 横浜, 第 35 回日本免疫学会総会・学術集会, 2005.12.13-15

3) 下袴田陽子, et al.: 「TCR シグナルを介する Th1 分化における転写因子 T-bet の役割:T-bet ノックアウト

マウスを用いた解析」, 横浜, 第 35 回日本免疫学会総会・学術集会, 2005.12.13-15

4) 刈米アイ, et al.: 「結核菌蛋白 Ag85B 由来 Peptide-25 によるクロスプライミングの増強」, 横浜, 第 35 回日本

免疫学会総会・学術集会, 2005.12.13-15

5) 徳永岳史、田村敏生, et al.: 「TCR :抗原ペプチド MHC 複合体の相互作用による IL-12p35 の制御」, 横浜,

第 35 回日本免疫学会総会・学術集会, 2005.12.13-15

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

144

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

4. 細菌性新興・再興性感染症に関する研究開発

4.3 . Toll-like receptor による病原認識機構の解明とその制御方法の開発

国立大学法人東京大学医科学研究所感染遺伝学分野

三宅 健介

■ 要 旨

感染症の症状は病原体に対する宿主応答によるものが多い。病原体を認識して宿主応答を誘導する分子として

Toll-like receptor (TLR)が同定されている。本研究においては、TLR が病原体をどのように認識するか、エンドトキシンの

認識に焦点を絞って、分子レベルでの解明を目指す。また宿主応答が過剰となったために起こるエンドトキシンショックの

治療法として、エンドトキシンのレセプターである TLR4 に対する抗体が有効かどうか、検討することを計画している。現在ま

でに、TLR4 によるエンドトキシン認識において、coreceptor である MD-2 が必須であり、リガンドとの結合、TLR4 同士の会

合の両方にかかわっていることを明らかにした。さらに MD-2 に加えて、新たに TLR4 に会合する分子を同定した。TLR4 に

対する抗体が、エンドトキシンによって誘導される肝細胞アポトーシスを予防できることが明らかとなった。その作用機序とし

て抗体が TLR4/MD-2 に作用して、抗アポトーシス遺伝子を肝細胞において発現させることによることが考えられた。さらに

交代の作用機構を明らかにすることで、エンドトキシンショックの新たな制御法の可能性を探る必要がある。

■ 目 的

ウイルス性、細菌性、プリオン等、さまざまな病原体による新興再興感染症が大きな問題となっており、これまでの病

原体を標的とした感染症治療法に加えて、新たな感染症治療法が必要とされている。新規治療法開発のためには、感染

症の発症メカニズム解明を通して、新たな標的分子を検索することが必須である。感染症の症状は病原体と宿主の相互作

用の結果であることを考慮すると、発症メカニズムを解明するためには、病原体と宿主双方の研究を進めることが重要であ

ることは言うまでもない。これまで、抗生物質に代表されるように病原体側の分子を標的とする治療法の研究が感染症研究

の主体であり、宿主側の病原体認識、応答機構についての研究が不十分であったことは否めない。その原因のひとつとし

ては、宿主による病原体認識、応答の機構が分子レベルでの理解に至っておらず、たとえば病原体の違いによる宿主応

答の違いをこれまでの免疫学ではうまく説明できなかったことがあげられる。

Toll-like receptor(TLR)は、抗体や T 細胞レセプターとはまったく異なる病原体認識分子であり、病原体成分を直接

認識して宿主応答を発動する分子である。宿主応答が不十分かあるいは過剰である場合に、感染症が発症することを考え

ると、TLR による病原体の認識、シグナル伝達についての知見は、感染症発症のメカニズムを理解するうえで、重要である

ことは間違いない。本研究では TLR の中でも、TLR4 と、会合する MD-2 からなる TLR4-MD-2 複合体を中心として研究を

進める。TLR4-MD-2 は、TLR リガンドのなかでも最も活性の強い、グラム陰性菌の膜成分エンドトキシンを認識するばかり

でなく、ウィルス由来エンベロープタンパクをも認識する。したがって、その認識機構の解明は細菌感染ばかりでなくウィル

ス感染発症機構の理解にも貢献しうることが予想される。本研究においては、TLR による病原体認識機構の解明、および

そこで得られた知見に基づいた TLR の機能を制御する方法の開発を目的とする。

■ 目 標

① TLR に会合し、TLR による病原体認識を制御する分子の検索、同定、機能解析

TLR4/MD-2 に会合する分子の検索、同定を試みる。さらに、ほかの TLR による病原体成分認識を制御する分子

の検索、同定も進める。

145

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

② TLR4 に対する抗体を用いて、TLR4 を標的とする新たなエンドトキシンショック治療法開発の検討

TLR4-MD-2 に対するモノクローナル抗体がエンドトキシンショックを防ぐことができるかどうか検討する。

■ 目標に対する結果

① TLR に会合する遺伝子としては、現在 TLR4 に会合する分子 PRAT4A(protein associated with TLR4A をクローニン

グした。この分子は TLR4 の細胞内分布を制御する可能性を示唆する結果を得ており、現在検討を進めている。

② TLR4/MD-2 に対するモノクローナル抗体を用いて、エンドトキシンショックの予防ができるかどうか、LPS とガラクトサ

ミンを加えて、肝細胞アポトーシスを誘導するモデルを用いて調べたところ、TLR4/MD-2 に対するモノクローナル抗

体 2 つのうち、ひとつが予防できることが明らかとなった。その作用機序としては、抗体が TLR4/MD-2 からシグナル

を入れ、肝細胞で、A20 などアポトーシス抑制遺伝子を誘導することによることがわかった。

■ 研究方法

① TLR に会合する分子の検索は、TLR を免疫沈降し、共沈する分子をアミノ酸配列の決定、あるいは質量分析で同定

する。PRAT4A の場合には、TLR4 で免疫沈降し、共沈する RPAT4A のアミノ酸配列を決定した。

② エンドトキシンショックの予防についての実験は、エンドトキシンとガラクトサミンをマウスに投与すると、肝細胞の死滅

が誘導され、肝不全でマウスは 10 時間以内に死滅する。このモデルを用いて、TLR4 に対する抗体を前投与して、

その効果を生存で調べたところ、モノクローナル抗体 2 つのうち、ひとつが予防できることが明らかとなった。そこで、

さらに LPS 投与後の血清サイトカインの濃度などを測定し、その作用機序としては、抗体が TLR4/MD-2 からシグナ

ルを入れ、肝細胞で、A20 などアポトーシス抑制遺伝子を誘導することによることがわかった。

■ 研究成果

TLRに会合する遺伝子としては、TLR4 に会合する新規の分子、PRAT4A (Protein Associated with TLR4 A)をクローニン

グし、またPRAT4Aと相同性を有する分子PRAT4Bもクローニングした[原著論文 1]

。これらはともにTLR4 に会合するが、

TLR2 には会合しない。現在gene silencingを用いて、これらの分子のTLR4/MD-2 に対する機能、LPS応答における役割に

ついて検討している。

TLR4/MD-2 に対するモノクローナル抗体Sa15-21 が、LPSとガラクトサミンによる肝細胞アポトーシスを前投与により抑制

できることがわかった[原著論文 2]

。その作用機構としては、Sa15-21 抗体がTLR4/MD-2 からシグナルを入れ、肝細胞でLPS

と同等のNF-kB活性化を誘導し、A20などの抗アポトーシス遺伝子を誘導することが明らかとなった。しかしながら、LPSと異

なりTNF-α産生はほとんど検出されない。したがって、TNF-α産生においてLPSと抗体はTLR4 に対する作用が異なるこ

とが考えられた。

MD-2 のLPS認識における役割としては、MD-2 のミュータントを用いて、LPSとの結合、その後のTLR4-clusteringについ

て検討したところ、MD-2 はどちらのステップも制御すること、それぞれに特異的に関与するアミノ酸があることが明らかとな

った[原著論文 3]

。この結果は、MD-2 がLPSとTLR4/MD-2 との結合、その後のTLR4-clusteringの両方のステップを独立し

て制御していることを示している。

■ 考 察

TLR4/MD-2 による LPS 認識においては、MD-2 が認識そのものに関与していることが、MD-2 ミュータントの結果から明

らかとなった。今回、126 番目のフェニルアラニンと 129 番目のグリシンが TLR4-clustering に重要であるという結果を得たが、

両方のアミノ酸がリガンド結合にも重要であるという部位(119-132)に含まれている。したがってこの部位はリガンド結合、

TLR4-clustering の両方を制御していることになり、TLR4/MD-2 を制御する薬剤の標的部位として、有望ではないかと考え

られる。

抗体を用いたエンドトキシンショックの治療であるが、抗体を用いた結果では、前投与にのみ効果があった。またその作

用機序も抑制ではなく、TLR4 を介してシグナルを入れることによることが明らかとなった。抗体がそのまま治療に使えるかど

146

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

うかはわからないが、TNF-αの産生において、作用が異なることが明らかとなっており、この違いに関する遺伝子を検索す

れば、TNF-α産生を制御する新たな方法への糸口が見つかるかもしれない。現在そのような遺伝子の検索を進めている。

■ 参考(引用)文献

該当なし

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

147

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 3 報 (筆頭著者:0 報、共著者:3 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0 報、国外誌:0 報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:0 回、主催講演:0 回、応募講演:0 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表(査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Konno, K. et al.: 「A molecule that is associated with Toll-like receptor 4 and regulates its cell surface

expression」, Biochem. Biophys. Res. Commun., 339, 1076-1082, (2006)

2) Akashi-Takamura, S et al.: 「Agonistic Antibody to Toll-like receptor 4/MD-2 Protects Mice from Acute

Lethal Hepatitis Induced by Tumor Necrosis Factor-a」, J. Immunol., 176, 4244-4251, (2006)

3) Kobayashi, M. et al.: 「Regulatory Roles for MD-2 and Toll-like receptor 4 (TLR4) in Ligand-induced

Receptor Clustering」, J. Immunol., 176, 6211-6218, (2006)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

該当なし

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

該当なし

5. 特許等出願等

該当なし

148

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

6. 受賞等

該当なし

149

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

5. プリオン病制圧のための基礎ならびに応用研究 要旨

サブリーダー・横山 隆

本項目は基礎研究としての「プリオン病の発病機構の解明」および応用研究としての「プリオン株簡易識別法の開発」の2

課題より成り立っている。

スクレイピー、牛海綿状脳症(BSE)などでは異常プリオン蛋白質(PrPSc)の蓄積とそれに伴う海綿状変性が病態として知ら

れている。細胞培養系を用いて空胞変性を再現させることを目標とした。スクレイピー感染マウスでは、神経細胞に限らず

多くの中枢神経系の細胞内にPrPScが蓄積することが知られている。そこで、本研究課題では感染に伴って増生するミクロ

グリアを対象として、持続感染細胞を作出した。作出したミクログリア細胞株はBSE、および複数のスクレイピープリオン株に

感受性を示した。しかし、現在までのところ、スクレイピー感染マイクログリアは共培養した神経細胞に変性を引き起こすに

は至っておらず、さらなる検討が必要である。

プリオンには生物学的性状の異なる株が多数あることが知られている。しかし、プリオンには病原体特異的なゲノムに相

当する核酸が存在しないことから、その分類はマウスを用いた伝達試験によって行われ、1 年以上の期間を要するなどの問

題がある。各種の抗プリオン蛋白質に対する抗体との反応性、グアニジンに対する変性能の差およびレクチンブロットの反

応性の差によりPrPScの性状比較を行い、それをもとにプリオン株の分類を行った。PrPScのPK抵抗性、PrPScの分子量、モノ

クローナル抗体(mAb106)との反応性からスクレイピープリオンは 3 群に分類することが示された。またBSEと既存のスクレイ

ピーのPrPScの性状は異なっていた。しかし、これらの生化学性状による分類とマウスへの伝達性に基づく分類は必ずしも

一致しておらず、両者の一致性の高い生化学性状プロファイルの検討が必要である。

150 150

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

5. プリオン病制圧のための基礎ならびに応用研究

5.1 . プリオン病の発病機構の解明

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所プリオン病研究センター

品川 森一、 横山 隆

■ 要 旨

遺伝子組換えマウス(tga20、PrP0/0 マウス)および野生型マウスよりミクログリア由来不死化細胞を樹立した。マウスPrPC

を高発現するマウスより樹立した細胞(MG20)にスクレイピーChandler株を感染させたところ、持続感染ミクログリア

(ScMG20/Chan)細胞が樹立された。この細胞を野生型マウスに接種し、感染細胞接種マウスと陽性コントロール感染脳乳

剤接種マウス間で病変分布・潜伏期・PrPScイムノブロットパターンの比較を行なったところ、作製した持続感染細胞はプリオ

ンの株の性質を維持することを示した。またMG20 細胞は、複数のスクレイピープリオン株およびBSEプリオンに対しても感

受性を示した。各プリオン株の持続感染細胞が樹立された。ScMG20/Chan細胞のいくつかのサブラインとマウス小脳皮質

から分離した顆粒ニューロンとの共培養を行い、神経細胞に対するプリオン持続感染ミクログリアの影響を調べたが、両者

を共培養しても、神経細胞の変性は認められなかった。

■ 目 的

牛海綿状脳症(BSE)、羊・山羊のスクレイピーなどのプリオン病が社会的な問題となっている。プリオンの本態は未だ明確

にはされていないが、宿主の持つ正常プリオン蛋白質(PrPC)の構造異性体である異常プリオン蛋白質(PrPSc)がその主要構

成成分であり、中枢神経系やリンパ組織におけるPrPScの検出が診断の指標となっている。脳ではPrPScの蓄積とともに神経

細胞死が認められるが、脾臓の濾胞樹状細胞(FDC)ではPrPScの蓄積は認められるものの顕著な細胞死は観察されない。

ある条件下では、サブクリニカルな病態が再現されるが、この場合も脳におけるPrPScの蓄積量と神経細胞死の出現が一致

していない。これらの報告は神経細胞死という病態の発現はPrPScの蓄積量のみに規定されていないことを示唆し、未同定

の要因または因子が細胞死を誘導するシグナリングカスケードのスイッチを入れていると考えられる。プリオン病において細

胞死が誘起されるメカニズムを明らかにすることは、本病の発病機構の解明に重要である。

■ 目 標

① In vitroにおける細胞死の誘発の検討:スクレイピー持続感染細胞(ScN2a)はPrPScを含有しながらも顕著な細胞死を

示さない神経系細胞株である。この細胞とスクレイピー感染および非感染マウス由来のアストロサイトまたはグリア細

胞を共培養し、PrPScの蓄積した神経細胞を取り巻く細胞または環境が細胞死誘導の引き金になるか否かを検討す

る。さらに、スクレイピー感染マウスの脾臓からPrPSc持続感染FDCの培養を試み、異なる細胞種を用いた検討を行

う。

② 病変形成に関与する因子の同定:感染マウス、非感染マウスの脳、脾臓で発現量の異なる因子をディファレンシャ

ル・ディスプレー法、プロテインチップ、2 次元電気泳動法を用いて mRNA, 蛋白質レベルで網羅的に検索する。組

織の差が病変形成に及ぼす可能性について検討し、脳における神経細胞死の誘導に関与する因子の同定を試み

る。

③ In vivoにおけるサブクリニカルステージの病態解析: 末梢神経組織、リンパ組織ではPrPScの蓄積は細胞障害に至

151 151

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

らない。中枢神経系においてPrPScが蓄積するが、症状を示さないサブクリニカルステージの再現を目指し、あわせて

病態の発現に必要な因子の探索を行う。

■ 目標に対する結果

① ScMG20 細胞を用いた in vitro における細胞死の誘発について検討する。プリオン持続感染ミクログリアとマウス初代

神経細胞との共培養により、共培養された初代神経細胞に神経死を誘発するための条件を検討する。

② Power Blot analysis と cDNA マイクロアレイを用いたスクレイピー感染ミクログリア細胞における網羅的遺伝子・タンパ

ク質発現解析を行う。約 1000 種類の抗体を用いたウエスタンブロット(Power Blot analysis)を行い、スクレイピー感染

MG20 細胞と非感染対照 MG20 細胞で発現量の異なる因子を探索した。その結果、発現量に 3 倍以上の差が見ら

れたタンパク質が 40 個見出された。発現量に差があったタンパク質の再現性を確認する。マイクロアレイによる発現

量の異なる遺伝子の解析も行う。

③ In vivo におけるサブクリニカルステージについて検討する。プリオン病感染動物におけるサブクリニカルの再現には

成功しておらず、接種条件を検討する。

■ 研究方法

1) マウス小脳皮質からの顆粒ニューロンの分離

生後 1 日目のマウス新生仔から脳を採取し、小脳を分離・細断した後に、初代顆粒ニューロンを分離した。分離された初

代顆粒ニューロンは、ニューロン培養用培地にて培養した(参考文献 1)。

2) 神経細胞死誘発の検討

1)で分離した顆粒ニューロンを8 チャンバースライドグラスに培養し、播種した顆粒ニューロンに対して最大 10%に相当す

る数(100,000 cells/ well)の ScMG20/Chan 細胞および非感染対照ミクログリア(MockMG20)を加えて8日間共培養した。

細胞を 4℃に冷却したエタノール・酢酸(99:1)にて固定後、神経細胞を抗 MAP2 抗体を用いて免疫染色を行い神経死誘

導の有無を検討した。

3) BSE 持続感染ミクログリア細胞の作出

BSE感染マウスの脳をPBSで 10% (w/v)になるようにホモジナイズした後、1%(w/v)になるように培地で稀釈した。35 mm2

細胞培養ディッシュに予めMG20 細胞を 1×105 を一晩培養し、BSE感染マウス脳乳剤と 5 日間インキュベートした。PBSに

て細胞を洗浄し、トリプシンにて細胞を分散させた後、96wellマイクロプレートに 50 cells/wellでサブクローニングを行った。2

週間培養後PrPSc陽性細胞をELISA(セプリオンアッセイ)にて選択した(参考文献 2)。陽性サブクローンは、1:5 の稀釈に

て 3~4 日おきに継代を行った。

4) 持続感染細胞からのPrPScの検出

5×105 個の細胞を、0.5 mlのlysis bufferで溶解し、20 μg/mlのプロテイナーゼK(PK) で消化した。溶解液を 200, 000×

gで遠心後、沈殿物をSDS-PAGEしPVDF膜に転写した。膜を 5%スキムミルクでブロッキングした後HRP標識抗PrPモノクロ

ーナル抗体(T2-HRP)と反応させた(参考文献 3)。検出は化学発光を用いて行い、冷却CCDカメラを用いて記録した

5) マウスバイオアッセイ

感染細胞(5×106)を 200μlの滅菌PBSに懸濁し、凍結融解を 2 回繰り返した後、超音波にて破砕した。CD-1 マウスに 20

μl/headで脳内接種した。発症後死亡したマウスの延髄におけるPrPScの蓄積をイムノブロットで確認した。

■ 研究成果

1) スクレイピー持続感染ミクログリア細胞におけるスクレイピー株の性状維持の確認

スクレイピーChandler株持続感染ミクログリア(ScMG20/Chan)細胞が、接種したChandler株の性状を維持しているか確

認するため、ScMG20/Chan細胞を野生型マウスであるCD-1 マウスに接種(マウスバイオアッセイ)を行い、感染細胞接種マ

ウスと陽性コントロール感染脳乳剤接種マウス間で病変分布・潜伏期・PrPScイムノブロットパターンの比較を行った。感染細

胞接種CD-1 マウスは典型的なスクレイピーの症状を示し、およそ 144 日で死亡したのに対し、陽性コントロール感染脳乳

152 152

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

剤接種CD-1 マウスではおよそ 147 日で死亡し、両者の潜伏期はほぼ同一であることが示された (表 1)。tga20 マウスでの

潜伏期を指標にした感染価の推定を行った[原著論文 1)]

。このことは樹立した細胞がプリオンの感染性を有し、その感染価は

感染脳乳剤とほぼ同等であったことを示している。死亡したマウスにおけるPrPScの蓄積はイムノブロットで確認した。その際、

糖鎖修飾(0,1,2-箇所)された各PrPのシグナル強度をグラフ化した (図 1)。その結果、感染細胞接種CD-1 マウスと陽性コ

ントロール感染脳乳剤接種CD-1 マウスで蓄積したPrPScのイムノブロットパターンは非常に類似していた。死亡したマウスの

脳をホルマリン固定後、脳各部位における病変の程度を調べ、グラフ化した (図 2)。その結果、感染細胞接種CD-1 マウス

において、スクレイピーChandler株の特徴である小脳・大脳皮質・視床下部における軽度な病変が観察された。

Inoculuma Mice Incubat ion t imeb

ScMG20/Chan cell lysate tga20 60 ± 0.9 ( 8/8)CD-1 144 ± 7.9 ( 5/5)

MG20/Mock cell lysate tga20 >500 ( 0/8)CD-1 >500 ( 0/5)

Chandler scrapie-infectedbrain homogenate

tga20 59 ± 1.3 ( 6/6)CD-1 147 ± 4.4 (7/7)

表 1. 感染細胞を接種した野生型マウスの潜伏期

感染脳乳剤接種マウス

感染細胞接種マウス

prop

ortio

n of

gly

cofo

rms

(%)

0

10

20

30

40

50 (n=4) (n=4)10

2

図 1. 感染細胞および感染脳乳剤を接種した各野生型マウスにおけるPrPScイムノ

ブロットパターンの比較

0

1

2

3

4

5

1 2 3 4 5 6 7 8 9Position in brain

Vacu

olat

ion

scor

e ● 感染細胞 接種 マウス

■感染脳乳剤  接種マウス

1, the dorsa l medulla; 2, the cerebellar cortex; 3, the superior cortex; 4, the hypotha lamus; 5, the thalamus; 6 , the hippocampus; 7, the septal nuclei of the paraterminal body; 8, the cerebral cortex at the level of 4 and 5; 9, the cerebral cortex at the level of 7 .

図 2. 感染細胞および感染脳乳剤を接種した各野生型マウスにおける病変分布の比較

153 153

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

2) マウス馴化 BSE 持続感染ミクログリア細胞の作出

マウス馴化BSE 感染脳乳剤に暴露後、ELISA[原著論文 2)]

で陽性を示したMG20 細胞のサブクローンにおけるPrPScの蓄

積をイムノブロットで確認した。スクレイピー感染マウスとBSE感染マウスを比較した際、糖鎖付加されていないPrPScの分子

量はBSE感染マウスの方が小さいことが知られている (図 3A矢印)。スクレイピー感染MG20 細胞とBSE感染MG20 細胞に

おける糖鎖付加されていないPrPScにおいても同様の現象 (図 3B矢印)が観察された。

39

28

19

14

kDa

Infected mice brains infected ce ll cultures

mock Chan ME7 Obi BSE mock Chan ME7 Obi BSE

39

28

19

14

kDa

Infected mice brains infected ce ll cultures

mock Chan ME7 Obi BSE mock Chan ME7 Obi BSE

32.5

25

kDasheep cattle

BSEScrapie

A B

図 3 BSE 持続感染ミクログリア細胞のイムノブロット解析

3) ScMG20 細胞を用いた in vitro における細胞死の誘発の検討

ScMG20/Chan細胞のいくつかのサブラインとマウス小脳皮質から分離した顆粒ニューロンとの共培養を行い、神経細胞

に対するプリオン持続感染ミクログリアの影響を調べた。播種した顆粒ニューロンに対して最大 10%に相当する数(100,000

cells/ well)のScMG20/Chan細胞および非感染対照ミクログリア(MockMG20)を加えて 8 日間共培養したが、生存神経細

胞数には大きな変化は認められなかった (図 4)。一方、これらの共培養系をLPSと インターフェロンγで刺激した場合で

は、加えたミクログリアの数に応じて顕著な神経細胞死が誘発され、ScMG20/Chan細胞とMockMG20 細胞ではLPSとインタ

ーフェロンγによる神経細胞死の誘発能に大きな差は無いことが示された。これらの細胞画分とPrPC、PrPScに特異的な抗

体、アプタマー[原著論文 3)]

との反応性について検討を行っている。

■ 考 察

1) 病変分布・潜伏期・PrPScイムノブロットパターンにおいて両者はほぼ一致した。持続感染細胞においてスクレイピーの

株の性質が維持されていることが示された。

2) BSE 感染 MG20 細胞は BSE の性状を維持していることが示唆された。

3) プリオン持続感染ミクログリア細胞は、共培養された初代神経細胞に短期間に顕著な影響を与えるほどの活性化は起

きていない可能性が示唆された。

■ 参考(引用)文献

1. Takenouch, T., Ogihara, K., Sato, M. and Kitani, H.: 「Inhibitory effects of U73122 and U73343 on Ca2+ influx and

pore formation induced by the activation of P2X7 nucleotide receptors in mouse microgrial cell line.」, Biochem.

Biophys. Acta., 1726, 177-186, (2005)

2. Lane, A., Sanley, C.J., Dealler, S. and Wilson, S.M.: 「Polymeric ligands with specifity for aggregated prion proteins.」,

Clinical Chemistry, 49, 1774-1775, (2003)

3. Hayashi, H., Yokoyama, T., Takata, Y., Iwamaru, M., Ushiki, Y.K. and Shinagawa, M: 「The N-terminal cleavage site

of PrPSc from BSE differs from that of PrPSc from scrapie」, Biochem. Biophys. Res. Commun., 328, 1024-1027, (2005)

154 154

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

155 155

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 3 報 (筆頭著者:1 報、共著者:2 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 1 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:2 報、国外誌:0 報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:1 回、主催講演:0 回、応募講演:3 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表

1) Yokoyama, T., Shimada, K., Tagawa, Y., Ushiki, Y.K., Iwamaru, Y., Hayashi, H.K. and Shinagawa. M: 「Western blot

assessment of prion inactivation by alkali treatment in the process of horticultural fertilizer production from meat

meal」, Soil Sci. Plant Nutr., 52, 86-91, (2006)

2) Kobayashi, Y., Kohno, N., Wanibe, S., Hirayasu, K., Uemori, H., Tagawa, Y., Yokoyama, T. and Shinagawa, M.: 「A

solid-phase immunoassay of protease-resistant prion protein with filtration blotting involving sodium dodecyl sulfate」,

Anal Biochem., 349, 218-228, (2006)

3) Sekiya, S., Noda, K., Nishikawa, F., Yokoyama, T., Kumar, P. K. R. and Nishikawa, S: 「Characterization and

application of a novel RNA aptamer against the mouse prion protein」, J. Biochemistry, 139, 383-390, (2006)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

1) Yokoyama, T., Kimura, K.M. and Shinagawa, M.: 「Bovine spongiform encephalopathy (BSE) in Japan.」, In Kitamoto

T (Ed) Prions food and drug safety, Springer-Verlag Tokyo, 99-108, (2005)

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1) 横山隆:「牛海綿状脳症(BSE)の現状」, 化学療法の領域, 22 (1), 29-36, (2006)

2) 横山隆:「日本における牛海綿状脳症(BSE)の現状と防疫対策」, 臨床神経科学, 24 (3) , 279-281, (2006)

国外誌

該当なし

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

1) Yokoyama T, and Tsutsui T:「Epidemiological analysis of bovine spongiform encephalopathy (BSE).」, Seoul,

Korea, 24th Conference of the OIE Regional commission for Asia, the Far East and Oceania, 2005.11.19

主催・応募講演

1) 岩丸祥史, 星野めぐみ, 竹之内敬人, 高田益宏, 今村守一, 葭葉幸子, 舛甚賢太郎, 横山隆, 木谷裕: 「マ

156 156

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

ウス順化スクレイピー持続感染ミクログリア細胞株の樹立」, プリオン研究会, 2005.8.26-7.

2) 岩丸祥史, 星野めぐみ, 竹之内敬人, 高田益宏, 今村守一, 葭葉幸子, 舛甚賢太郎, 横山隆, 岡田洋之, 木

谷裕, 品川森一: 「PrP 過発現マウス由来のミクログリア細胞株はマウス順化スクレイピー株と BSE 株に持続感染

する」, 第 28 回分子生物学会年会, 2005.12.7-10.

3) 岩丸祥史, 星野めぐみ, 竹之内敬人, 高田益宏, 今村守一, 葭葉幸子, 舛甚賢太郎, 横山隆, 岡田洋之,

木谷裕, 品川森一: 「プリオン蛋白質過発現マウス由来ミクログリア細胞は複数のマウス馴化プリオン株に持続感

染する」, 第 76 回日本獣医学会学術集会, 2006.3.19-21.

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

157 157

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

5. プリオン病制圧のための基礎ならびに応用研究

5.2 . プリオン株簡易識別法の開発

国立大学法人北海道大学大学院獣医学研究科プリオン病学講座

堀内 基広

■ 要 旨

プリオンには生物学的に性状が異なる“株”が存在するが、ゲノムに相当する核酸がないことから、株の分類は容易では

ない。プリオンの株は、マウスへの伝達性と病変分布という生物学的性状で識別されてきたが、この方法は 2 年余りの期間

を要する。そこで、迅速なプリオン株の鑑別法の開発を目的として、プリオンの主要構成要素である異常型プリオン蛋白質

(PrPSc)の生化学性状をプロファイル化し、プリオン株の分類への応用について検討した。羊スクレイピーおよびBSE由来

PrPScの、蛋白分解酵素抵抗性、分子量、糖鎖型、抗PrP抗体パネルに対する反応性、および変性剤感受性の差異を比較

した。これらの生化学性状のプロファイル化により、10 種の羊スクレイピーを 4 群に分類可能であった。しかし、PrPScの生化

学性状に基づく分類は、マウスへの伝達性(プリオンの生物学的性状)に基づく分類と一致する要素がある一方、完全な一

致には至らなかった。従って、PrPSc生化学的性状のプロファイル化はプリオン株の簡易識別法として有用であるが、プリオ

ンの生物学的性状に基づく分類との一致性を高めるために、より多くのPrPSc生化学性状を試験する必要がある。

■ 目 的

ウイルスや細菌などの微生物では、遺伝子解析による遺伝子型別、血清学的性状に基づく血清型別など、微生物を簡

便に分類する方法がある。しかしプリオンには病原体特異的なゲノムに相当する核酸は存在せず、また、その構成要素は

宿主遺伝子PrPの産物であるPrPScであることから、血清型別も困難である。現在、プリオン株を分類する方法として、実験動

物を用いたバイオアッセイにおける潜伏期および神経病変プロファイルが信頼性が高いが、1 年以上の実験期間を要する

こと、限られた研究機関でしか実施できないこと、などの問題がある(参考文献 1,2)。一方、プリオンの株によりPrPScの生化

学性状が異なる場合があることも明らかとなりつつある(参考文献 3-6)。プリオンのヒトや動物への感染リスクを評価するた

めには、迅速なプリオン株の識別が必要である。そこで、プリオン株を迅速簡便に鑑別可能な方法の確立を目的として、プ

リオン株の分類の指標となるPrPScの生化学性状を複数同定し、それらのプロファイル化を行う。プリオンの生物性状に基づ

く分類と一致性の高い、PrPSc生化学性状プロファイルに基づくプリオン分類法を確立し、野外に存在するプリオンのタイピ

ング、および、そのリスク評価に寄与することを目的とする。

■ 目 標

① PrPScの抗原性、変性剤感受性、糖鎖構造の相違の同定

② プリオン株の鑑別に応用可能な分子プローブの開発

■ 目標に対する結果

① PrPScの蛋白分解酵素に対する抵抗性、抗PrP抗体パネルとの反応性、変性剤の感受性の相違などに基づくPrPSc生

化学性状のプロファイル化は、プリオン株の分類・識別に応用可能であることが明らかとなったが、生物学的性状に

158 158

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

基づく分類との一致性を高めるために、より多くの生化学性状を試験する必要がある。

② 抗 PrP 抗体パネルのうち、mAb106 および B225 は、羊スクレイピーの分類、および BSE と羊スクレイピーの識別に有

用であることが明らかとなった。レクチン GS-II, LCA がプリオン株の識別に使用可能であることも明らかとなった。

■ 研究方法

スクレイピー羊、BSE感染牛、およびプリオン感染小動物の脳組織からPrPScを含む画分を粗精製し、認識するエピトープ

が異なる 9 種の抗PrP抗体から構成される抗体パネルを用いて(参考文献 7)、ウエスタンブロット(WB)にて解析した。

Proteinase K (PK)に対する抵抗性、PrPScの分子量、抗体で検出されるバンドの有無、および糖鎖パターンの各種生化学

性状を調べ、これらのプロファイルを実験動物の伝達性と比較した。

変性剤感受性の解析:プリオン感染動物の脳乳剤を各種濃度の塩酸グアニジン(GdnHCl)で処理した後、PK処理した。

PrPScをWBにて検出し、LAS3000 化学発光解析装置で定量解析を行った。PrPSc量を 50%に減少させるGdnHCl濃度

(Gdn1/2)を決定し、変性剤に対する感受性の指標とした。

PrPSc糖鎖組成の解析:まず、スクレイピー感染動物の脳乳剤から簡便にPrPScを精製・濃縮するために、免疫沈降法の条

件を検討した。乳剤をPK処理して正常型プリオン蛋白質(PrPC)を除去し、その後 4Mグアニジンチオシアンサン塩

(GdnSCN)で、PrPScを解離・変性させた。GdnSCNを希釈した後、protein G-spepharoseに共有結合させた抗PrP抗体を用い

て、免疫沈降を行った。精製したPrPScをWBし、酵素標識レクチンを使用してレクチンブロットを実施した。WGA, LCAなど、

計 13 種のレクチンを使用した。

■ 研究成果

エピトープの異なる抗PrP抗体 9 種類を用いて、羊スクレイピー自然例および実験感染例の脳組織からPrPScの検出を行

った[原著論文 1), 2), 3)]

。反応性の有無、検出されるバンドの分子量を指標にできる抗体の選別を行ったところ、羊

PrPaa93-95 と反応するmAb106(図1)と羊PrPaa218-232 と反応するB225 がPrPScの分類に有用であることが判明した。

1)PrPScのPK抵抗性、2)PrPScの分子量、3)mAb106 との反応性、および 4)B225 により検出される 10kDaのバンドの有無、の 4

種の生化学性状を指標にすると、使用した 10 種の羊スクレイピーは 3 群に分類可能であった。また、調べたBSE自然例は

同一の性状を示した。このうち、スクレイピー自然例SBのPrPScは、分子量とmAb106 との反応性がBSE由来PrPScと類似して

いたが、糖鎖型が異なることから、両者は同一ではないと考えられた[原著論文 6), 7)]

さらに、PrPScの変性剤に対する感受性の差がプリオン株の分類に応用できるかについて検討した[原著論文 1), 4)]

。プリオ

ン感染動物の脳乳剤を1-4Mのグアニジン塩酸塩(GdnHCl)で 1 時間処理した後にPK消化を行い、PrPSc量を半減させる

GdnHCl濃度(Gdn1/2)を求めた(図 1)。Gdn1/2を上記の 4 種の生化学性状によるプロファイルに加えると、羊スクレイピーを 4

群に分類することが可能となった(S-a1,2, S-b, S-c)。しかし、生化学性状プロファイルによりS-a1 に分類される羊スクレイピ

ーが、マウスへの伝達性に基づく分類では異なるグループに分かれることから、現時点では、生化学性状による分類とマウ

スへの伝達性に基づく分類は、必ずしも一致していない(表 1)。

PrPScは複合糖鎖を有しており、プリオン株により、糖鎖組成に違いがある可能性が示唆されている。糖鎖組成を簡便に

調べる方法としてレクチンブロットを試みた。まず、プリオン感染動物脳乳剤から、PrPScを簡易精製するための免疫沈降法

の確立を行った[原著論文 5)]

。脳乳剤を蛋白分解酵素処理によりPrPCを除去した後、グアニジンチオシアン酸(GdnSCN)によ

りPrPScを変性し、GdnSCNを希釈後に、抗PrP抗体を用いた免疫沈降を実施することで、簡便に効率良くPrPScを回収するこ

とが可能となった。protein Gと抗体を共有結合させることで、免疫沈降に使用する抗体がレクチンブロット検出系に及ぼす

影響を排除することが可能となった。上記の免疫沈降法により精製・濃縮したPrPScを抗原として、レクチンブロットを実施し

た。レクチンの糖鎖に対する親和性は、抗原抗体反応の親和性と比べて低いことから、安定したレクチンブロットの実施に

は 4µg程度のPrPScが必要であることが判明した。また、13 種のHRP標識レクチンのうち、少なくともGS-II, LCAの 2 種が

PrPScの型別に応用可能であることが示唆された(図2)。

159 159

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

系列2

図-1 羊スクレイピー野外例由来 PrPSc の分子量の相違(左)と GdnHCl への感受性の相違(右)

表-1 マウス伝達性に基づく羊スクレイピーおよびBSEの分類と、PrPSc生化学性状プロファイルに基づく分類の対比

図-2 プリオン感染脳乳剤から免疫沈降により精製・濃縮したPrPSc(C)と、HRP標識レクチンGC-II(A)およびLCA(B)によるレクチ

ンブロット

■ 考 察

本研究の結果から、抗PrP抗体パネルとの反応性、変性剤に対する感受性など、複数の生化学性状のプロファイル化は、

プリオン株の分類に有用な手段となることが確認できた。欧州ではBSE様病原体に感染していた山羊が発見されたことに

端を発して、スクレイピーとBSE病原体の厳密かつ迅速な識別が求められているが(参考文献 8)、複数のPrPSc生化学性状

のプロファイルを用いることで、速やかに識別が可能になるかもしれない。現状では、BSEや羊スクレイピー株の分類は、マ

ウスの伝達試験の結果により判断されている。この試験には 1 年以上の観察期間が必要である。本研究の目標の一つは、

マウス伝達試験にとって変わるプリオン株識別法の開発である。しかし、本研究で示したPrPSc生化学性状プロファイルによ

B3 S1 S2 S6KH2 G1 Y2 Y4SB Y5 TO

-di-mono-non

系列3

系列4

系列5

系列6

50

100

150

Rel

ativ

e Pr

PSc (

%)

0 1 32 4GdnHCl (M)

HY (B)KUS (B)B3 (S)SB (S)Y5 (S)

Gdn1/2

2.43.23.5

Group IIIB3 (Exp)A1 (Exp)

Group IIG1 (Exp)

SBY5Y2

KH2Group I

マウス伝達性に基づく分類

2.72.8

S3S2S1

PrPScプロファイ

ルに基づく分類

B-aB-a

S-a1S-a1S-a1

S-dS-d

S-aS-c

S-a2S-a2S-a1

PrPSc生化学性状プロファイル

2.8--BLNTTEB

SSS

SS

SSSSS

糖鎖型

2.8--L NTKUSGroup IV(BSE)

HHH

LL

HHHHH

PK抵抗性

NT3.13.1

2.4NT

NT3.13.53.53.2

Gdn 1/2

HHH

HH

HLHHH

PrP分子量

+++

+NT

+-

+++

mAb106との反応性

---

+NT

-----

C10fragment

29-

GS-II Anti-PrP mAbLCA

Ob

I3/I5

G1

KU

S

Y5 263K

Ob

I3/I5

G1

KU

S

Y5 263K

Ob

I3/I5

G1

KU

S

Y5 263K

A B C

160 160

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

る羊スクレイピーの分類と、マウスの伝達試験による分類は、必ずしも一致しない。今後さらに、プリオンの生物学的性状に

よる分類と一致性の高い生化学性状プロファイルを検討していく必要がある。

■ 参考(引用)文献

1. Bruce, M., A., Chree, I. McConnell, J. Foster, G. Pearson, and H. Fraser.: 「Transmission of bovine spongiform

encephalopathy and scrapie to mice: strain variation and the species barrier.」, Phil. Trans. R. Soc. Lond. B, 343,

405-411, (1994)

2. Bruce, M. E., R. G. Will, J. W. Ironside, I. McConnell, D. Drummond, A. Suttie, L. McCardle, A. Chree, J. Hope, C.

Birkett, S. Cousens, H. Fraser, and C. J. Bostock.: 「Transmissions to mice indicate that ‘new variant’ CJD is

caused by the BSE agent.」, Nature, 389, 498-501, (1997)

3. Bessen, R. A., and R. F. Marsh.: 「Biochemical and physical properties of the prion protein from two strains of the

transmissible mink encephalopathy agent.」, J. Virol., 66, 2096-2101, (1992)

4. Collinge, J., K. C. L. Sidle, J. Meads, J. Ironside, and A. F. Hill.: 「Molecular analysis of prion strain variation and the

aetiology of ‘new variant’ CJD.」, Nature, 383, 685-690, (1997)

5. Safer, J., H. Wille, V. Itri, D. Groth, H. Serban, M. Torchia, F. E. Cohen, and S. B. Prusiner.: 「Eight prion strains

have PrPSc molecules with different conformations.」, Nature Med., 4, 1157-1165, (1998)

6. Horiuchi, M., Nemoto, T., Ishiguro, N., Furuoka, H., Mohri, S. and Shinagawa, M.: 「Biological and biochemical

characterization of sheep scrapie in Japan.」, J. Clin. Microbiol., 40, 3421-3426, (2002)

7. Kim, C-L., Umetani, A., Matsui, T., Ishiguro, N., Shinagawa, M., and Horiuchi, M.: 「Antigenic characterization of

an abnormal isoform of prion protein using a new diverse panel of monoclonal antibodies.」, Virology, 320, 41-52,

(2004)

8. Eloit, M., Adjou, K., Coulpier, M., Fontaine, J. J., Hamel, R., Lilin, T., Messiaen, S., Andreoletti, O., Baron, T.,

Bencsik, A., Biacabe, A. G., Beringue, V., Laude, H., Le Dur, A., Vilotte, J. L., Comoy, E., Deslys, J. P., Grassi, J.,

Simon, S., Lantier, F. and Sarradin, P.: 「BSE agent signatures in a goat.」, Vet. Rec., 156, 523-524, (2005).

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

1) 平成18年3月24日,「ヒトプリオン病を処置するための組成物」,堀内 基広,本望 修,地子 徳幸,国立大学法

人 北海道大学、北海道、NCメディカルリサーチ株式会社,特願 2006-82037

本研究で使用した mAb106 および 110 の反応性、重鎖および軽鎖遺伝子の塩基およびアミノ酸配列、およびヒト

プリオン病治療への応用の可能性について述べている。

161 161

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

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■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 7 報 (筆頭著者:1 報、共著者:6 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:4 報、国外誌:0 報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:8 回、主催講演:0 回、応募講演:6 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Furuoka, H., Yabuzoe, A., Horiuchi, M., Tagawa, Y., Yokoyama, T., Yamakawa, Y., Shinagawa, M., and Sata,

T: 「Effective antigen-retrieval method for immunohistochemical detection of abnormal isoform of prion proteins in

animals.」, Acta Neuropathol., 109, 263-271, (2005)

2) Kataoka, N., Nishimura, M., Horiuchi, M., and Ishiguro, N.: 「Surveillance of chronic wasting disease in sika deer,

Cervus nippon, from Tokachi district in Hokkaido」, J. Vet. Med. Sci., 67, 349-351, (2005)

3) Kurosaki, Y., Ishiguro, N., Horiuchi, M., and Shinagawa, M.: 「Polymorphisms of caprine PrP gene detected in

Japan」 , J. Vet. Med. Sci., 67, 321-323, (2005)

4) Inanami, O., Hashida, S., Iizuka, D., Horiuchi, M., Hiraoka, W., Shimoyama, Y., Nakamura, H., Inagaki, F., and

Kuwabara, M.: 「Conformational change in full-length mouse prion: A site-directed spin-labeling study.」, Biochem.

Biophys. Res. Commun., 335, 785-792, (2005)

5) Horiuchi, M., Furuoka, H., Kitamura, N., and Shinagawa, M.: 「Alymphoplasia mice are resistant to prion

infection via oral route.」 Jpn. J. Vet. Med., 53, 150-159, (2006)

6) Nakamitsu, S., Miyazawa, T., Horiuchi, M., Onoe, S., Ohoba, Y., Kitagawa, H., and Ishiguro, N.: 「Sequence

variation of bovine prion protein gene in Japanese cattle (Holstein and Japanese Black).」, J. Vet. Med. Sci., 68,

27-33, (2006)

7) Iwata, N., Sato, Y., Higuchi, Y., Nohtomi, K., Nagata, N., Hasegawa, H., Tobiume, M., Nakamura, Y.,

Hasegawa, K., Furuoka, H., Horiuchi, M., Yamakawa, Y., and Sata, T.: 「Distribution of PrPSc in cattle with bovine

spongiform encephalopathy slaughtered at abattoirs in Japan」, Jpn. J. Infect. Dis., 59, 100-107, (2006)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1) 堀内 基広:「異常型プリオン蛋白質の生合成と伝達」,膜,30, 78-83, (2005)

2) 堀内 基広:「BSE 診断法の開発と現状」,Virus Report, 2, 20-27, (2005)

3) 堀内 基広:「人獣共通感染症としてのプリオン病」,ウイルス,55, 45-55, (2005)

4) 堀内 基広:「動物由来感染症としてのプリオン病」,日本臨床,63, 2213-2220, (2005)

国外誌

該当なし

162 162

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

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書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

1) Horiuchi, M: 「BSE screening in Japan」, Ames, USA, The animal prion disease and USA, 2004.10.15

2) 堀内基広: 「人獣共通感染症としてのプリオン病」,横浜,第 52 回日本ウイルス学会,2004.11.22

3) Horiuchi, M: 「Inhibition of PrPSc formation by anti-PrP antibody in vitro and in vivo」, Tokyo, Japan, Symposium

on emerging and reemerging infectious diseases, 2005.3.3

4) 堀内基広:「牛海綿状脳症(BSE)と医薬品」,横浜,第 49 回日本未熟児新生児学術集会,2004.12.5

5) 堀内基広:「BSE 問題とプリオン病研究の現状」,七飯町,BMS コンファレンス,2005.7.2

6) 堀内 基広:「牛海綿状脳症(BSE)の現状と問題点」,札幌, フロンティアテクノフォーラム,2005.9.13

7) 堀内基広:「BSE 問題の現状と BSE 制圧にむけて」,札幌, 第 64 回日本公衆衛生学会, 2005.9.14

8) 堀内基広:「プリオン病研究の現状と課題」,東京, 日本尿路ウイルス研究会, 2005. 9. 26

主催・応募講演

1) Horiuchi, M., Tamura, Y., and Furuoka, H.: 「Comparative analyses of three mouse-adapted scrapie strains G1,

Obihiro, and I3/I5 and pathogenesis of G1 strain-induced polyuria in ICR mice.」, International Symposium Prion

Disease Food and Drug Safety, Sendai, Japan, 2004.10.31

2) 金チャンラン、堀内 基広: 「培養細胞における正常プリオン蛋白質の新たな細胞内局在」, 天童, 2005 年プリオ

ン研究会,2005.8.25

3) Nakamitsu, S., Ishiguro, N. and Horicuhi, M.: 「Sequence variation of bovine prion protein gene in cattle in

Japan.」, Sapporo, Japan, The 9th International Symposium for Zoonosis Control, 2005.8.29

4) Yamaguchi, S., Uzawa, T., Nishida, Y. and Horiuchi, M.: 「Inhibition of PrPSc by artificially-sulfated glycosides

and their polymers.」, The 9th International Symposium for Zoonosis Control, Sapporo, Japan, 2005.8.29

5) 瓜生匡秀、堀内 基広: 「マウス神経芽腫細胞Neuro-2aのプリオン感受性はPrPC以外の因子により規定される」,

横浜, 第 53 回日本ウイルス学会, 2005. 11. 20

6) 堀内基広、品川森一: 「蛍光相関分光法による未変性条件下での異常型プリオン蛋白質の検出」, 横浜, 第 53

回日本ウイルス学会, 2005. 11. 20

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

163 163

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

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6. 感染症シミュレーションとリスクアセスメント 要旨

サブリーダー・鈴木和男

感染症流行シミュレーションのサブグループの研究は、国立感染症研究所、国立国際医療センター、三菱総合研究所

および順天堂大学での共同研究によった。本研究には、種々のシミュレーションのモデルを構築し利用する。SIR モデルを

感染症数理原型モデルとし、様々な感染症に関する地域性、ホストの免疫力、フリースケールでの人と人とのコンタクトの

差、生活習慣、地域・地理、気候風土など、他のパラメーターの設定を加える。また、現実に近い疫学的な側面をもって感

染症の広がりの予測を提案や、米国テロ対策として仮想都市を利用した大掛かりな生活密着の感染症シミュレーション法も

加味する。

(1)感染症流行モデルの研究―リンク構造上の感染症モデルの数理的研究

感染症を制圧するためには、感染症の生物学的な解明に加え、社会でどのように広がり、ワクチン接種などの施策に

どの程度の効果が見込まれるかを把握することが必須である。人は固有のリンクを形成して活動している。リンク構造は、

不均一であり、どのような位置に感染症が発生すると大流行が生じるのであるかをモデリングにより予測する。接触により

伝播する感染症を対象とし、接触のネットワークに焦点を当ててモデル化し、中規模(10 万人程度)の感染シミュレーシ

ョンを行い、ワクチン接種の効果についても調査した。接触ネットワークで各人が他人と接触する数にばらつきがあり、多

くの人と接触しているハブが存在するときには、感染症が広がりやすいことを確認した。一方ワクチン接種については、

ばらつきの大小に依らず、予防的な全人口の特定の割合への無作為な接種、あるいは勃発後に感染経路を封じ込める

ように、感染者の周辺への同じ割合の接種により、同等の効果が期待できることを明らかにした。

院内感染は、巨大病院が増える傾向とリンクしている。巨大病院化は、院内感染の大流行をもたらし、核家族が進む結

果現れた老健施設が、社会の構造を変化させインフルエンザの大感染を容易に起こすための準備状況となっていること

が予想できる。院内感染のシミュレータをSIRモデルと確立的プロセスを利用してシステムを構築した。そのシミュレータ

を利用してベッド数を一つのパラメーターとして一つの病院での大流行をシミュレーションした。ベッド数に比例して大流

行を起こす病院が増えていくことが判明した。

(2)感染症リスクの研究―リスクアセスメントの研究

開発すべき感染症シミュレーションシステムの枠組みを策定した。新型インフルエンザあるいはバイオテロなどが現実

のものとなり、大きな被害が生じるリスクを無視できなくなってきており、現在活用できる最良の方策は感染症伝搬のシミ

ュレーションである。本研究では,リスクアセスケントの観点から感染症シミュレーションの調査研究を実施して開発すべ

きモデルの枠組みを設定した。感染症のシミュレーションモデルはSIRモデルとIndividual based modelに大きく分類する

ことができる。本研究では人々の日常行動には Individual based model をベースとするが、感染場で SIR モデル的に取り

扱う新たなシミュレーションモデルを提案した。

(3)感染症シュミレーションの開発―数値解析手法およびシュミレーションシステムの開発

感染症伝搬のシミュレーションは、感染症伝搬モデルと妥当な時間で計算可能性の両者を満足するモデルの研究開

発を行う必要がある。人々の日常生活におけるコンタクトモデルの構成方法を開発し、コンタクトモデルは感染症シミュレ

ーションシステムの実装に供することができた。本研究のコンタクトモデルの開発では日本人の国民生活時間調査をベ

ースにし、我が国に特徴的なものとして大都市近郊の通勤の影響をモデルに取り込んだ。東京郊外の中央線沿線のシ

ミュレーションのために国交省関連機関の統計データをモデル化し、大都市近郊の通勤場は、リスクアセスメントの観点

から重要であると考えられる。

164

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

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(4)リスクアセスメント研究の推進とまとめ

平成16、17年度は、「感染症の数理モデリング」に関する研究を推進するための会議の推進に努めた。16年度は、

米国NIH視察、第一回Transmission Models for Infectious Diseases(TMID)国際会議を開催し、日英米の国際的研究者

を招聘した。17年度は、国内数理モデル研究者によるワークショップを開催し、予想されるインフルエンザのパンデミック

流行へのモデリング等について論議した。また、17年度末には、第二回TMIDの国際会議を「Preparing for Pandemic

Influenza」と題して開催し、多数の国からの発表者を世界に発信する国際会議として定着しつつある。18年度は、その

モデルを、国立感染症研究所の定点データと照合して有用性を検証する。

以上の成果について、マスメディアでも取り上げられた (日経サイエンス June 2005 及び 74、Medical Tribune

38(36) September 8 2005, 24)。

165

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

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6. 感染症シミュレーションとリスクアセスメント

6 .1 . 感染症シミュレーション条件設定および効果評価とまとめ

国立感染症研究所

鈴木 和男

■ 要 旨

「感染症シミュレーション条件設定および効果評価とまとめ」に関する研究として、平成16、17年度は、「感染症の数理

モデリング」に関する研究を推進するための会議の推進に努めた。16年度は、米国NIHを視察し、年度末には、第一回

Transmission Models for Infectious Diseases (TMID)の国際会議を開催し、日英米において国際的に活躍している研究者

を招聘した。17年度は、それをふまえて、国内での数理モデル研究者によるワークショップを開催した。本ワークショップは、

「感染症アウトブレイクの脅威に対処するための数理モデリング」と題して行い、今後予想されるインフルエンザのパンデミッ

ク流行へのモデリング等について論議した。その後、世界各国からパンデミックインフルエンザの脅威から早急な対策が発

表されるなど、タイムリーな会議となった。また、17年度末には、第二回TMIDの国際会議を2日間にわたり「Preparing for

Pandemic Influenza」と題して開催し、日英米の研究者に加えドイツ、オーストラリアからの招聘も行い、世界に発信する国際

会議として定着しつつある。18年度は、そのモデルを、国立感染症研究所の定点データと照合して有用性を検証する。

■ 目 的

「感染症シミュレーション」の条件設定および効果評価とまとめ」について、以下の目的により実施した。2003 年には、

SARS がアジアを中心に流行し、また、その後、鳥インフルエンザの感染が脅威となっており、ヒト-ヒトへの感染力をもつ可

能性も大きくなってきている。一方、欧米では、西ナイルウイルスの感染による死亡やBSE問題から輸血や献血への影響も

大きく深刻な問題を投げかけている。これら新興感染症のアウトブレイクパンデミック(感染爆発)に対策は重要な課題とな

っているのが現状である。一方、感染症は、完全撲滅が最終目的かどうかも考えさせられる今日の状況である。また、感染

症は、社会構造や経済の背景と密接に関連しており、単にアカデミックな研究のみでは解決できないのも大きな特徴であ

る。そこで、その対策として、「感染症シミュレーション感染症シミュレーションとリスクアセスメント」を研究することを目的とし

た。例えば,ハブの位置にワクチンを接種すると流行の拡大を阻止することが出来るかを考える。リンク構造を変えた場合

に感染症流行を終焉させることができるのであるか。潜伏期間が異なればリンクの制限をどうのように変えればよいのか。あ

る機関に感染症対策の情報がうまく伝達されないときの対応が必要である。感染症のリスクアセスメントのためには、このよう

な知見が必要である。このため、モデルの数理的な研究とシミュレーションによる研究を行う。そのモデルは、国立感染症

研究所の定点データと照合して有用性を検証する。

■ 目 標

感染症流行モデルシミュレーションの研究

①感染症流行シミュレーションの研究:モデルを調査する。

②感染症流行シミュレーションの研究:現実に即したモデルを構築する。

③感染症流行シミュレーションの研究:モデルを改修し、完成をめざす。

■ 目標に対する結果

① 感染症流行シミュレーションの研究:モデルを調査する。

166

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

② 感染症流行シミュレーションの研究:現実に即したモデルを構築する。

インフルエンザ流行予測シミュレーションについて免役パラメーターを使って構築した。地域移動のシミュレーション

を第二回国際TMID会議にて発表した。

③ 感染症流行シミュレーションの研究:モデルを改修し、完成をめざす。18年度は、免役パラメーターを使って構築し

たインフルエンザ流行予測の地域移動のシミュレーションを、国立感染症研究所インフルエンザ情報の定点観測デ

ータの実データと照合させ、シミュレーションモデルの改修および完成をおこない、論文発表の予定である。

■ 研究方法

感染症流行シミュレーションのサブグループの研究は、国立感染症研究所、国立国際医療センター、三菱総合研究所

および順天堂大学での共同研究によって施行した。本研究には、種々のシミュレーションのモデルを構築し、利用した。こ

れらのシミュレーションは、SIR(Susceptible, Infected and recovery)モデリングを基礎としてそのモデルを意識してその発展

上にあるといっても良い。英国 Robert May らによって提唱された SIR モデル(参考文献 1)が、現在の感染症数理モデル

を原型とした。それに様々な感染症に関する地域性、ホストの免疫力、フリースケールでの人と人とのコンタクトの状況の差、

生活習慣、地域・地理、気候風土など、他のパラメーターの設定をパラメーターとして加えた。また、Koopman らによる現実

に近い疫学的な側面をもって感染症の広がりの予測を提案(参考文献 3)や、Eubank らによる、米国テロ対策として仮想

都市を利用した大掛かりな生活密着の感染症シミレーション(参考文献 2)の方法も加味した。

一方、招聘したユーバンクによる天然痘の拡大モデル、新型インフルエンザなどの新興感染症の拡大を制御するモデル

としては,ミシガン大学のクープマンのモデルも参考にした。グループ内の安田英典(城西大学)と私は個人の生活パター

ンデータや抗体の有無からシミュレートし、学級閉鎖などについて検討した。竹内史比古(順天堂大学の)は、人間どうしの

接触人数が多い「ハブ」に着目ワクチン投与効果を推論をした。また、山本健二(国際医療センター)は、院内感染につい

てシミュレートした。 ■ 研究成果

感染症は、社会構造や経済の背景と密接に関連しており、単にアカデミックな研究のみでは解決できないのも大きな特

徴がある。そこで、本研究では、「感染症シミュレーション感染症シミュレーションとリスクアセスメント」を研究することを目的

とした。また、構築した感染症シミュレーションのモデルは、国立感染症研究所の定点データと照合して有用性を検証す

る。

平成16、17年度においては、「条件設定および効果評価とそのまとめ」として、「感染症の数理モデリング」に関する研

究を推進するための会議の推進に努めた[原著論文 1), 2)]

1)第一回 TMID の国際会議の開催

16年度末は、米国 NIH を視察し、その後、第一回 TMID の国際会議(2005 年 2 月 15 日)を開催した。日英米において

国際的に活躍している研究者を招聘した(図1)。

167

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

図1.第一回 TMID の国際会議

2) 感染症アウトブレイクの脅威に対処するための数理モデリング」に関するワークショップ

17年度は、国内での数理モデル研究者によるワークショップを開催した。本ワークショップは、今後予想されるインフル

エンザのパンデミック流行へのモデリング等について論議した。その後、世界各国からパンデミックインフルエンザの脅威か

ら早急な対策が発表されるなど、タイムリーな会議となった。(プログラムは以下) 「感染症アウトブレイクの脅威に対処するための数理モデリング」に関するワークショップ

日時 8月8日(月) 10時~16時 会場 ルビーホール(東京)

TIMD Project の概要 (Transmission Models for Infectious Diseases)

鈴木和男(国立感染症研究所・生物活性物質部)

新興・再興感染症に備えての問題提起

工藤宏一郎(国立国際医療センター・国際疾病センター)

釜山APECに向けてのバイオテロ対策会議からの報告

重松美加(国立感染研・感染症情報センター)

168

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

HIV/AIDS 流行の数理モデル

稲葉 寿(東京大学・数理科学、数理生物学)

HIV-1 新規感染者にみる薬剤耐性 HIV-1感染拡大モデル

杉浦 亙(国立感染症研究所・エイズ研究センター)

Inferring natural selection operating on viral proteins

鈴木善幸(遺伝研)

ワクチン接種による免疫力の失活を伴う伝染病の感染ダイナミクスに関 する数理モデル解析

瀬野裕美(広島大学大学院理学研究科・数理分子生命理学)

感染症流行の古典モデルから新興感染症へ

梯正之(広島大学大学院保健学研究科)

伝染病伝播の反応拡散モデルについて

細野雄三(京都産業大学工学部)

接触感染の流行ダイナミクス-Scale-Free ネットワーク構造と成長の影響-

林 幸雄 (北陸先端大・知識科学、ネットワーク)

動的スモールワールド・ネットワークを用いた SARS 流行モデル

○増田直紀 1,2、杉峰伸明 2、大塚一路 3、今野紀雄 4、合原一幸 2,3

1 理化学研究所脳科学総合研究センター

2 科学技術振興機構ERATO合原複雑数理モデルプロジェクト

3 東京大学生産技術研究所

4 横浜国立大学大学院工学研究院

ネットワークにおける伝播ダイナミクス

西浦廉政、一宮尚志(北海道大学 RIES)

ibm(individual based model)を用いたパンデミックプランニング

大日康史(国立感染研・感染症情報センター)

Effectiveness of vaccination strategies for infectious diseases according to human contact networks

竹内史比古(順天堂大・医)

インフルエンザの Spread

安田英典、義澤宣明、鈴木和男(城西大・理、国立感染症研究所・生物活性物質部、三菱総研)

感染症流行の現象論的モデリングとワクチン接種戦略

尾又一実、山本健二(国立国際医療センター研究所)

第二回国際 TMID 会議(Tokyo)のプランの概要

鈴木和男(国立感染症研究所・生物活性物質部)

まとめ

山本健二(国立国際医療センター研究所) 3)Global Pandemic Initiative Steering Meeting でパンデミック会議(ニューヨーク)

パンデミックインフルエンザの脅威から、米国ニューヨークにて 11 月 14 日-15 日、Global Pandemic Initiative Steering

Meeting でパンデミック会議が開催され、WHO, CDC, APEN/EIN, FAO のメンバーの発表と対策の公表とともに、パンデミ

ックインフルエンザのモデリングのオリジナルデータを発表し、厚生労働省14日発表の日本でのパンデミック対策について、

資料他公開資料を提供した。

4)第二回 TMID の国際会議の開催

17年度末には、第二回 TMID の国際会議を2日間にわたり「Preparing for Pandemic Influenza」と題して開催し、(2006 年 1

169

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

月 19-20 日)、日英米の研究者に加えドイツ、オーストラリアからの招聘も行い、世界に発信する国際会議として定着しつつ

ある。また、本会議では、TeleVideo-Conference を施行し、国立感染研にて、Preparing for Pandemic Influenza を中心とし

て、数理モデルのリスクアセスメントへの応用の問題をどのように解決してゆくべきかを模索した(図2)。本会議は、題名、

会期を含め、16年度末に開催した第一回 TMID 国際会議の運営委員会で決定したもので、きわめてタイムリーであった。

図2.第二回 TMID の国際会議

■ 考 察

英国 May らによって提唱された SIR モデルを原型とし、現実の感染症・地域性、免疫力、人と人とのコンタク

ト状況など、他のパラメーターの設定を加えたモデルが提案されてきた。われわれのグループが主催した TMIDに参画した米国ユーバンクやクープマンらが実際の場面に即した社会構造やワクチン接種状況のモデルを提案し、

われわれのグループとのモデルの異同についても論議ができたことは、今後の研究の展開に重要な意義を持つ。

また、個人の生活パターンや抗体を使ってシミュレートし、学級閉鎖の必要日程を導いた。また、人の接触人数

が多い「ハブ」となる人がいる社会は感染に弱いが、ワクチン投与でこれを効果的に防げるという推論も得て予

定通り進展した。また、HIV 感染の研究としてオクスフォード大のマクリーンは、易感染の遺伝子の変異からモ

デル化を提唱し、モデリングの幅の広さを示した。世界のモデリング研究者との交流を通じ、われわれのグルー

プの優位性の顕在化は、今後の感染症リスクアセスメントの研究に有用である。18年度は、これらのシミュレ

ーションのモデルを国立感染症研究所の定点データと照合させ、リスクアセスメントに利用できるように有用性

を高める。

170

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 参考(引用)文献

Anderson, R. M. and R. M. May: 「Infectious diseases of humans : dynamics and control.」, Oxford, Oxford University

Press, all pages (1991)

Eubank, S., Guclu, H. et al.: 「Modelling disease outbreaks in realistic urban social networks.」, Nature, 429, 180-184,

(2004)

Koopman、J.S.: 「Infection transmission science and models.」, Jpn. J. Infect. Dis., 58, S3-S8, (2005)

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

171

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 2 報 (筆頭著者: 1 報、共著者: 1 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌: 0 報、国外誌: 0 報、書籍出版: 3 冊

4. 口頭発表 招待講演: 5 回、主催講演: 4 回、応募講演: 1 回

5. 特許出願 出願済み特許: 0 件 (国内: 0 件、国外: 0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Suzuki, S., Yamamoto,K. and Yoshikura,H.: 「International Symposium on Infectious Agent Transmission Models

Building -Focusing on Assesment of Risk to Communities」, Jpn. J. Infect. Dis., 58, S1-S2, (2005)

2) Yasuda,H., Yoshizawa, N. and Suzuki, S.: 「Modeling on Social Spread from Immunity」. Jpn. J. Infect. Dis., 58,

S14-S15, (2005)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

該当なし

書籍出版

1) 「感染症を抑え込め:大規模予測モデルの実力ー監訳」, 鈴木和男, 日経サイエンス, 2005 年 6 月号 pp66-75

2) 「感染症モデリング」, Medical Tribune, 38(36), September 8, 2005, 24

3) 「生体防御医学事典」「感染症伝搬のシミュレーション」, 安田英典, 鈴木和男, 朝倉書店, (印刷中)

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

1) 鈴木和男: 「TIMD Project の概要 (Transmission Models for Infectious Diseases)」, ルビーホール, 「感染症ア

ウトブレイクの脅威に対処するための数理モデリング」に関するワークショップ, 2005.8.8

2) 安田英典、義澤宣明、鈴木和男: 「インフルエンザの Spread」, ルビーホール, 「感染症アウトブレイクの脅威に

対処するための数理モデリング」に関するワークショップ, 2005.8.8

3) 鈴木和男: 「第二回国際 TMID 会議(Tokyo)のプランの概要」, ルビーホール, 「感染症アウトブレイクの脅威に

対処するための数理モデリング」に関するワークショップ, 2005.8.8

172

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

4) Suzuki, K.:「Summary of TeleVideo-Conference」TeleVideo-Conference on Clinical Observations in Hospitals in

Japan, Vietnam and Asian Pacific Countries, The 2nd International Symposium on Transmission Models for

Infectious Diseases Preparing for Pandemic Influenza, 2006.1.19-20

5) Suzuki, K.:「losing Remarks」 TeleVideo-Conference on Clinical Observations in Hospitals in Japan, Vietnam and

Asian Pacific Countries, The 2nd International Symposium on Transmission Models for Infectious Diseases

Preparing for Pandemic Influenza, 2006.1.19-20

国際会議

1) Suzuki, K.:「Summary of TeleVideo-Conference」TeleVideo-Conference on Clinical Observations in Hospitals

in Japan, Vietnam and Asian Pacific Countries, The 2nd International Symposium on Transmission Models for

Infectious Diseases Preparing for Pandemic Influenza, 19-20.1. 2006

2) Suzuki, K.:「losing Remarks」TeleVideo-Conference on Clinical Observations in Hospitals in Japan, Vietnam

and Asian Pacific Countries, The 2nd International Symposium on Transmission Models for Infectious Diseases

Preparing for Pandemic Influenza, 19-20.1. 2006

国内会議

1) 鈴木和男:「TIMD Project の概要 (Transmission Models for Infectious Diseases), ルビーホール, 「感染症ア

ウトブレイクの脅威に対処するための数理モデリング」に関するワークショップ, 2005.8.8

2) 安田英典、義澤宣明、鈴木和男:「インフルエンザの Spread」, ルビーホール, 「感染症アウトブレイクの脅威に

対処するための数理モデリング」に関するワークショップ, 2005.8.8

3) 鈴木和男:「第二回国際 TMID 会議(Tokyo)のプランの概要」, ルビーホール, 「感染症アウトブレイクの脅威に

対処するための数理モデリング」に関するワークショップ、2005.8.8

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

173

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

6. 感染症シュミレーションとリスクアセスメント

6.2. 感染症流行モデルの研究

6.2 .1 . 病院内感染モデリング

国立国際医療センター研究所

山本 健二

■ 要 旨

院内感染対策は、病院統合などにより巨大病院がたくさん作られる傾向にあり、一方中小の病院は、老健施設に変化し

ている。これは、本研究結果をみる上で、一方の成果である巨大病院がもたらす院内感染の大流行をもたらし、核家族が

進む結果現れた老健施設が、社会の構造を変化させインフルエンザの大感染を容易に起こすための準備状況となってい

ることが予想できる。

■ 目 的

院内感染対策は、病院統合などにより巨大病院がたくさん作られる傾向にあり、一方中小の病院は、老健施設に変化

している。これは、本研究結果をみる上で、一方の成果である巨大病院がもたらす院内感染の大流行をもたらし、核家族が

進む結果現れた老健施設が、社会の構造を変化させインフルエンザの大感染を容易に起こすための準備状況となってい

ることが予想できる。この大流行を予想し対策を考えるため本研究をはじめた。

■ 目 標

① 病院内感染モデリング

■ 目標に対する結果

① 院内感染のシミュレータをSIRモデルと確立的プロセスを利用してシステムを構築した。そのシミュレータを利用し

てベッド数を一つのパラメータとして一つの病院での大流行をシミュレーションした。

具体的には、100床のベッドを持つ病院、250床のベッドを持つ病院、500床のベッドを持つ病院、1000床のベ

ッドを持つ病院を各々100病院計算機内で確立的に発生させ、上記のシミュレーションを各々個別に行った。病院

のすべてのベッドの半数の患者が院内感染を受けた場合を大流行したと定義した上で上記のシミュレーションの結

果を解析してみると、ベッド数に比例して大流行を起こす病院が増えていくことが判明した。

このモデルから、院内感染についてベッド数が重要な主因子の一つであり、病院設計で十分に検討すべきである

という結論を得た。合理性の問題上大病院の方が経営が有利であると考えるのは、院内感染が一定の頻度で抑える

ために返って大きな支払いを行わなければ成らなく成るからである。

■ 研究方法

使用したハードウエアーは、ULUTORA10,SUNを用いOSは、SOLALISを用いた。シュミレーションプログラムは

C言語を用いて作成した。できあがったシミュレータを用い100床のベッドを持つ病院、250床のベッドを持つ病院、500

174

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

床のベッドを持つ病院、1000床のベッドを持つ病院を各々100病院計算機内で確立的に発生させ、上記のシミュレーショ

ンを各々個別に行った。

■ 研究成果

院内感染のシミュレータをSIRモデルと確立的プロセスを利用してシステムを構築した。そのシミュレータを利用してベ

ッド数を一つのパラメータとして一つの病院での大流行をシミュレーションした[原著論文 1)]

国際的に重要な感染症についてベッド数が小さいほど大流行が起こりにくいことが判明した。この結果から推察できるこ

とは、一人サイズの病院を作ることができれば、院内感染が抑えられることを示した。具体的にその方法について検討した。

■ 考 察

院内感染による大パンでミックは、病床数が大きければ大きいほど高くなることが判明した。

またこれとは逆に、病床数が一つの病院なら院内感染として理想的な、環境となると予想する。

今後このシミュレーション結果と実際のデータとの合致性を検証することも必要である。

■ 参考(引用)文献

該当なし

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

175

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 0報 (筆頭著者:0 報、共著者:0 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 1 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0報、国外誌:0報、書籍出版:0冊

4. 口頭発表 招待講演:1回、主催講演:0 回、応募講演:0 回

5. 特許出願 出願済み特許:0件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Yamamoto, Y.: 「The hospital with more beds has a higher probability of experiencing an outbreak of the hospital

infection」, Jpn. J. Infect. Dis., 58(6), S18, (2005)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

該当なし

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

1) Yamamoto, Y.: 「The hospital with more beds has a higher probability of experiencing an outbreak of the hospital

infection」, Tokyo, 2nd Transmission Model for Infectious Diseases; Pandemic Influenza, National Institute of

Infectious Diseases., 2006.1

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

176

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

6. 感染症シミュレーションとリスクアセスメント

6.2.感染症流行モデルの研究

6.2 .2 . 数理モデル

順天堂大学大学院医学研究科

竹内 史比古

■ 要 旨

感染症を制圧するためには、感染症の生物学的な解明のみならず、感染症が社会でどのように広がり、ワクチン接種な

どの施策にどの程度の効果が見込まれるかを把握することが不可欠である。例えばワクチン接種はコストや副作用を伴うた

め、罹患しやすい層に適切に行う必要がある。このためのシミュレーションおよびリスクアセスメントの基礎となる、感染症流

行の数理モデルを確立することが本研究の目的である。特に、人と人との接触により伝播する感染症を対象とし、そのよう

な接触のネットワークに焦点を当ててモデル化し、中規模(10 万人程度)の感染シミュレーションを行った。またワクチン接

種の効果についても調査した。その結果、接触ネットワークで各人が他人と接触する数にばらつきがあり、多くの人と接触し

ているハブが存在するときには、感染症が広がりやすいことを確認した。一方でワクチン接種については、そのようなばらつ

きの大小に依らず、予防的な全人口の特定の割合への無作為な接種、あるいは勃発後に感染経路を封じ込めるように行う、

感染者の周辺への同じ割合の接種により、同等の効果が期待できることを明らかにした。またこれらを組み合わせた感染対

策の効果についても定量的な評価をした。

■ 目 的

感染症を制圧するためには、感染症の生物学的な解明のみならず、感染症が社会でどのように広がり、ワクチン接種な

どの施策にどの程度の効果が見込まれるかを把握することが不可欠である。例えばワクチン接種はコストや副作用を伴うた

め、罹患しやすい層に適切に行う必要がある。このためのシミュレーションおよびリスクアセスメントの基礎となる、感染症流

行の数理モデルを確立することが本研究の目的である。感染症流行については、従来より疫学的な研究がなされてきたが、

近年発展した IT 技術を活かしたより精密なシミュレーションが可能になりつつある。しかしそれを実現するためには、その基

礎となる新たな数理モデルが必要となっている。

本研究では特に、人と人との接触により伝播する感染症を対象とし、そのような接触のネットワークに焦点を当ててモデ

ルを開発する。なぜ接触ネットワークが重要かというと、例え病原体が同じで人と人の平均的な接触の仕方も同じであった

としても、接触ネットワークが異なると、感染症の広がり易さが変わるからである。実際、各人の接触人数が、平均的に同じ

であっても、個々人によりばらつきがあると、感染症は広がり易くなる (参考文献 1)。これは、多くの人と接触する「ハブ」と

なる人物が、スーパースプレッダとなって多くの人に感染を広げるからである。現実に、2003 年の SARS 流行においても、ス

ーパースプレッダがおり、接触ネットワークを用いた感染症流行モデリングの重要性が裏付けられることになった。

■ 目 標

① 感染症流行の数理モデルを確立する

177

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 目標に対する結果

① 社会における人と人の間の接触のネットワークを様々にモデル化し、中規模(10 万人程度)の感染シミュレーションを

行った。またワクチン接種の効果についても調査した。その結果、接触ネットワークで各人が他人と接触する数にば

らつきがあり、多くの人と接触しているハブが存在するときには、感染症が広がりやすいことを確認した。一方でワク

チン接種については、そのようなばらつきの大小に依らず、予防的な全人口の特定の割合への無作為な接種、ある

いは勃発後に感染経路を封じ込めるように行う、感染者の周辺への同じ割合の接種により、同等の効果が期待でき

ることを明らかにした。またこれらを組み合わせた感染対策の効果についても定量的な評価をした。

■ 研究方法

感染症流行のモデル化は二つの要素からなっている。体内での感染状態のモデル化と、人々の間で感染症を伝播しうる

ような接触のモデル化である。モデル化に当たっては、まず感染症ごとの伝播方法・伝播率・潜伏期・治癒率などを調査し

た。これを踏まえ、感染状態を SIRV モデルとして定式化した。このモデルでは、未感染・感染中・治癒後の免疫獲得の三

つの状態の他に、ワクチンを接種した状態も扱える。これにより、ワクチン接種の効果を定量的に評価する枠組みができ

た。

接触ネットワークは感染症の伝播方法により異なる。その様々な性質の中でも、各人の他人との接触数(次数)のばらつき

の影響を評価するために、接触ネットワークをランダムなネットワークとして抽象化し、その主要な性質を決める次数分布を

調節した。ハブ(多くの人と接触している人)が最も多いスケールフリーネットワーク、ハブがより少ない指数ネットワーク、そ

して次数が一定でハブが存在しない定数ネットワーク、の三つを構成した。これらについてシミュレーションを行うことにより、

接触ネットワークが感染症流行に及ぼす影響を評価することができた。

ワクチン接種については、現実に実施可能な二つの戦略について評価を行った。一つは予防的に全集団から一定の割

合を無作為に選んで接種する「ランダムワクチン接種」であり、もう一つは勃発後に感染者と接触のある周囲の人から一定

の割合を無作為に選んで接種する「リングワクチン接種」である。

上記で開発したモデルに基づき、中規模(10 万人程度)の感染シミュレーション実験を行い、感染症流行モデルを検証し

た。そのために、ワークステーション(Blade2500)および数式処理ソフトウェア(Mathematica)を導入した。感染症流行モデ

ルは、多くの要素(人)が相互に影響し合う複雑系ネットワークに該当するため、その挙動を研究するには、実際にその規

模に応じたシミュレーション実験をする必要がある。

■ 研究成果

社会における人と人の間の接触のネットワークを様々にモデル化し、中規模(10 万人程度)の感染シミュレーションを行っ

た。またワクチン接種の効果についても定量的に評価した。その結果、接触ネットワークの次数にばらつきがあり、多くの人

と接触しているハブが存在するときには、感染爆発を起こしやすいことを確認した。これはつまり、伝播率−−感染中の人が

未感染の人に接触しているときに実際に伝播する確率−−が低い病原体でも広がり得るということである。

一方でワクチンを接種すると、ワクチンを接種した割合に伴って感染症の広がり易さが減少する。これは、伝播率が高い

病原体のみが感染爆発を起こすようになるからであるが、その上昇率は接触ネットワークの次数のばらつきに依らないこと

を明らかにした。予防的な全人口の特定の割合へのランダムワクチン接種では、具体的には、接種し残した割合の逆数に

比例して、感染爆発を起こすのに必要な病原体の伝播率が上昇した。つまり流行を防ぐには、病原体の強さに応じて、接

種し残す割合を小さくしておけばよいことになる。一方で、勃発後に感染経路を封じ込めるように行う、感染者の周辺への

同じ割合のリングワクチン接種でも、同等の効果が期待できた。しかしながら、ランダムワクチン接種とリングワクチン接種は

同じ割合で実施しても、リングワクチン接種の場合は集団全体でなく感染者の周りのみについての接種なので、実際の接

種数は大幅に抑えられる。さらに、これらの二つのワクチン戦略を組み合わせると、かけ算の効果で効いてくるとことを明ら

かにした。

178

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

この成果について学会発表を行い[口頭発表 1), 2)] 、総説を執筆し、またマスメディアでも取り上げられた[日経サイエンス

June 2005, 74] [Medical Tribune 38(36) September 8 2005, 24]。

■ 考 察

様々な次数分布の接触ネットワークによる感染流行モデルとそのシミュレーションから、感染伝播の背景にある次数分布

に依存せずに、ワクチン接種の効果を定量的に評価できることを明らかにした。これにより、次のようなワクチン接種戦略を

提案することができる。先ず感染症の伝播率を予測し、また勃発後のリングワクチン接種で実施可能な割合を評価し、その

不足分を補う割合で予防的にランダムワクチン接種しておけばよい。

■ 参考(引用)文献

Pastor-Satorra、R.and Vespignani A.: 「Epidemic spreading in scale-free networks」 Phys Rev Lett. (86) 3200-3,

2001

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

179

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 0 報 (筆頭著者:0 報、共著者:0 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:2 報、国外誌:0 報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:0 回、主催講演:0 回、応募講演:2 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

該当なし

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1) Takeuchi, F.:「Effectiveness of vaccination strategies for infectious diseases according to human contact

networks」, in Proc. 16th Annual Conference of the Japanese Society for Bio-Defense Research, Tokyo, 52.,

(2005)

2) Takeuchi, F.:「Effectiveness of vaccination strategies for infectious diseases according to human contact

networks」, Jpn. J. Infect. Dis. 58, S16-S17,(2005)

国外誌

該当なし

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

1) Takeuchi, F. and Yamamoto, K.:「Effectiveness of vaccination strategies for infectious diseases according to

human contact networks」, in Proc. 54th Japan National Congress for Theoretical and Applied Mechanics, Tokyo,

131--132, 2005.1.25

2) Takeuchi, F. and Yamamoto, K.:「Effectiveness of vaccination strategies for infectious diseases according to

human contact networks」, in Proc. 5th International Conference on Computational Science (ICCS 2005), Atlanta,

Lecture Notes in Computer Science 3514, Springer-Verlag, 2005, 956--962, 2005.5.22

180

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

181

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

6. 感染症シュミレーションとリスクアセスメント

6.3. 感染症リスクアセスメントの研究

6.3 .1 . 感染症リスクの研究

国立国際医療センター研究所

山本 健二

■ 要 旨

院内感染対策は、病院統合などにより巨大病院がたくさん作られる傾向にあり、一方中小の病院は、老健施設に変化し

ている。これは、本研究結果をみる上で、一方の成果である巨大病院がもたらす院内感染の大流行をもたらし、核家族が

進む結果現れた老健施設が、社会の構造を変化させインフルエンザの大感染を容易に起こすための準備状況となってい

ることが予想できる。

■ 目 的

院内感染対策は、病院統合などにより巨大病院がたくさん作られる傾向にあり、一方中小の病院は、老健施設に変化

している。これは、本研究結果をみる上で、一方の成果である巨大病院がもたらす院内感染の大流行をもたらし、核家族が

進む結果現れた老健施設が、社会の構造を変化させインフルエンザの大感染を容易に起こすための準備状況となってい

ることが予想できる。この大流行を予想し対策を考えるため本研究をはじめた。

■ 目 標

① 感染症リスクの研究

■ 目標に対する結果

① 社会構造と感染伝播の関連性を解析するため老人、成人、子からなる従来の日本の家族構成と老人は老人同士の

家に住み、親と子が核家族となるモデルを検討している。特にインフルエンザをモデル疾患として老人、成人、子の

感染率(抵抗率)を定義し上記二つの家族構成にした都市を考え現在検討している。

■ 研究方法

使用したハードウエアーは、ULUTORA10,SUNを用いOSは、SOLALISを用いた。シュミレーションプログラムは

C言語を用いて作成した。できあがったシミュレータを用い100床のベッドを持つ病院、250床のベッドを持つ病院、500

床のベッドを持つ病院、1000床のベッドを持つ病院を各々100病院計算機内で確立的に発生させ、上記のシミュレーショ

ンを各々個別に行った。

■ 研究成果

国際的に重要な感染症について社会構造が関与すると考えられる疾患に興味を持ち、如何に関与するかを考察した。

特にインフルエンザのわが国における死亡者数と老人用集合住宅の増加との関係が重要な要因であると推察した[原著論文

1)]。

182

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 考 察

院内感染による大パンでミックは、病床数が大きければ大きいほど高くなることが判明した。

またこれとは逆に、病床数が一つの病院なら院内感染として理想的な、環境となると予想する。

今後このシミュレーション結果と実際のデータとの合致性を検証することも必要である。

■ 参考(引用)文献

該当なし

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

183

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 0 報 (筆頭著者:0 報、共著者:0 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 1 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0 報、国外誌:0 報、書籍出版:0 冊

4. 口頭発表 招待講演:0 回、主催講演:0 回、応募講演:0 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Suzuki, K., Yamamoto, K. and Yoshikura, H.: 「International Symposium on infectious agent transmission

model building –focusing on a assessment of risk to communities」, Jpn. J. Infect. Dis., 58(6), S1-S2, (2005)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

該当なし

書籍出版

該当なし

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

該当なし

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

184

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

6. 感染症シミュレーションとリスクアセスメント

6.3. 感染症リスクアセスメントの研究

6.3 .2 . リスクアセスメントの研究

株式会社三菱総合研究所

瀬谷崎 裕之、 義澤 宣明、 安田英典

■ 要 旨

感染症リ対策の策定支援の観点から、リスクアセスメトに必要となる感染症シミュレーションの調査・検討を行った。文献

調査、海外調査、国際ワークショップの開催などの成果をベースに、開発すべき感染症シミュレーションシステムの枠組み

を策定した。

■ 目 的

感染症の出現を予測することは困難であるが、新型インフルエンザあるいはバイオテロなどが現実のものとなり、大きな

被害が生じるリスクを無視できなくなってきている。リスクアセスメントの観点からも、もし感染症が出現したならばどのように

推移するかを知っておく必要がある。そのためには過去の事例は貴重な情報を提供する。しかし、時の経過とともに社会環

境は変わっており、また新型インフルエンザやバイオテロなどに適用できる情報は限られている。現在活用できる最良の方

策は感染症伝搬のシミュレーションである。最近の IT 技術の進歩がこのアプローチを可能とした。本研究では、リスクアセス

メントの観点から感染症シミュレーションの調査研究を実施して開発すべきモデルの枠組みを設定した。

■ 目 標

① 感染症対策の正当性と最適化を評価するための感染症のリスクのシミュレーションの枠組みを研究する

■ 目標に対する結果

① 感染症シミュレーションに必要となる要件を検討し、離散的な個人を基本単位として用いる Individual based

model とよばれるモデルに伝統的な SIR モデルの要素を取り込んだ実用性の高いモデルの枠組みの設定を行っ

た。

■ 研究方法

文献調査、米国で感染症シミュレーションのモデル開発を行っているNIHおよびシガン大学の研究者とのミーティング、

海外の研究者を招いたワークショップの成果をベースにモデルの有効性に関する調査・研究を行った。

■ 研究成果

感染症のシミュレーションモデルはSIRモデルとIndividual based modelに大きく分類することができる。伝統的な感染症の

伝染モデルとしてSIRモデルとよばれる数理人口学的なモデルがある(参考文献 1)。SはSusceptible, IはInfected, Rは

RecoveredまたはRemovedの頭文字であり、感染する可能性のある人数、感染者数、感染から回復または死亡した人数で

ある。SIRモデルでは人々を集団に分けて各集団に属する人数を連続変数として取り扱う。 これに対し、Individual based

modelは、誰が誰にコンタクトしたのかという人と人のコンタクトをベースとする。人と人のコンタクトは伝染の因果関係でもあ

る。 このため、感染パターンを支配する伝染の因果関係を理解できると考えられている。しかし、計算時間がかかるなどの

計算資源の要求が厳しいものがある。感染症対策のためには数多くのパラメータランをこなす必要がある。このため、本研

185

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

究では人々の日常行動にはIndividual based modelをベースとするが、感染は学校、家庭などの感染場でSIRモデル的に取

り扱う新たなシミュレーションモデルを提案した[原著論文 1)]

八王子 立川 吉祥寺 東京

図2 仮想中央線沿線のインフルエンザの拡大

(感染者が発病後 4 日で隔離されるケースである。丸は感染者を示す。列車中の感染者は四角で示されている、点は非

感染者である。上段は流行発生後 24 日目午後5時の感染者の分布を示す。インフルエンザは八王子で流行しており、立

川、吉祥寺、都内にも感染者が現れている。下段は流行発生後 35 日目午後5時の感染者の分布を示す。都内で拡大した

流行が吉祥寺、立川に伝搬している。

感染症の伝染モデルには現実を単純化する仮定が用いられているので、モデルの妥当性の検証が重要である。モデル

は実世界を単純化しているので完全な検証というものはありえない。検証できるのは意志決定に対して齟齬をきたす仮定

があるかどうかという点である(参考文献 2)。

モデルの検証においては、モデルは必要なディーテイルを含んでおり意志決定の支援に用いることができることを示さね

ばならない。 インフルエンザでは、子供の感染が流行拡大の要因であるとの知見がある。このため、モデルでは成人と子

供は異なった属性を持つものとした。この取り扱いの有効性は学級閉鎖のシミュレーションにおいて有効であった。次に、

成人、子供を含めて家庭、学校、会社などの感染場の地理的な要素もモデル化した。大都市近郊の通勤者による感染拡

大の問題は我が国特有の問題である。地理的要素のモデル化は、中央線に沿った東京郊外の地域でのインフルエンザ流

行拡大のシミュレーションにおいて有効であることが示された[原著論文 1)]

186

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 考 察

本研究では、リスクアセスメントの研究からモデル開発、システム化、シミュレーションの実施の一連の研究開発が行われ

た。研究開発の成果として、八王子でインフルエンザが発生するとしたケースの結果を示す。インフルエンザは最初八王子

の子供たちの間で流行した。学校が主たる感染場である。次に、八王子で発生したインフルエンザは通勤通学者によって

都内に伝搬し、都内の会社、学校で流行が拡大した。その後、流行は中央線に沿って都内から吉祥寺、立川へと戻ってき

た。発病 4 日後に隔離されるケースのインフルエンザ発生から 24 日目と 35 日目の午後 5 時の感染者の分布を図 2 に示

す。丸は感染者、四角は列車内の感染者、点は非感染者を示している。

■ 参考(引用)文献

1. Anderson, R.M. and May, R.M.,: 「Infectious diseases of humans」, Oxford University Press, Oxford, 757, (1991)

2. Koopman, J.S.,: 「Modeling infection transmission」, Annu. Rev. of Public Health, 303-326, (2004)

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

187

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 1 報 (筆頭著者:1 報、共著者:0 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0 報、国外誌:0 報、書籍出版:1 冊

4. 口頭発表 招待講演:0 回、主催講演:3 回、応募講演:1 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Yasuda H., et al.: 「Modeling on social spread from immunity」, Jpn. J. Infect. Dis., 58, S14-15, (2005)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

該当なし

書籍出版

1) 「感染症伝搬のシミュレーション(感染症防御辞典,鈴木和男編)」,安田英典,鈴木和男,朝倉, 2006.12

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

1) Yasuda, H.: 「Spread of Influenza, in Case of Suburban Railroad of Tokyo」, The Second International Models for

Infectious Disease, 2006.1.19-20

2) 安田英典: 「インフルエンザの SPREAD」,感染症アウトブレイクの脅威に対処するための数理モデリングに関する

ワークショップ,2005.8.8

3) 安田英典: 「感染症のシミュレーション」,日本生体防御学会学術総会,2005.8.6

4) Yasuda, H.: 「Modeling on Social Spread from immunity」, International Symposium on Trends in Transmission

Models for Infectious Disease, 2005.2.15

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

188

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

6. 感染症シミュレーションとリスクアセスメント

6.4 . 感染症シュミレーションシステムの研究

株式会社三菱総合研究所,城西大学

義澤 宣明、安田 英典

■ 要 旨

シミュレーションモデルをシステム的に開発する手法の研究開発を行った。システムは感染症対策の策定支援に供する

ものであるので、PC上で妥当な時間で実行可能なものである必要がある。感染症シミュレーションのモデルの枠組みの中

でこの要件を満足するものとして、人々の日常生活のコンタクトモデルに感染症病状のシナリオを組み入れたシステムの研

究開発を行った。

■ 目 的

新型インフルエンザのような新興感染症や天然痘によるバイオテロなどを想定したとき、感染症伝搬のシミュレーションの

果たすべき役割は拡大防止策の策定支援である。ワクチン接種はどのような方針で行うべきか。対策発動までの時間的余

裕はどの程度あるのか。このような課題に答えるためには、必要なディテールを含む枠組みを感染症伝搬モデルはみたさ

なければならない。他方、モデルは妥当な時間で計算可能である必要がある。両者を満足するモデルの研究開発を行う。

■ 目 標

① 感染症伝搬モデルの枠組みの中で、計算可能なモデルのシステム化の検討を行う。

■ 目標に対する結果

① PC上で実行可能なモデルの実装の設計を行った。また、シミュレーションに必要となるパラメータの検討を行っ

た。

■ 研究方法

日本人の生活時間の統計を用いて、人々の日常生活のコンタクトモデルを開発した交通データを用いて人々の地理的

な移動をモデル化した。

また、感染症発症のシミュレーションによって潜伏期間,発症,治癒(死亡)のシナリオのパラメータの検討を行った。さら

に、シミュレーションシステムの設計と実装を行った。

■ 研究成果

人々の日常生活におけるコンタクトモデルの構成方法を開発した[原著論文 1)]

。コンタクトモデルは感染症シミュレーショ

ンシステムの実装に供することができた。

コンタクトモデルでは。最初に、対象地域の人口に相当するだけの人々を生成する。人々はそれぞれ独身者,カップル

あるいは父親,母親と子供たちからなる家族に属している。次に、人々のコンタクトの発生する場所である家庭,学校,会社

などを生成する。これらを感染場とよぶ。最後に、人々の活動を設定する、人々の活動は在宅,通勤通学,会社勤務などか

らなる。各活動をイベントとよび、各人に1日のイベントヒストリーを割り当てる。人々はイベントヒストリーに従ってある感染場

から次の感染場へ移動する。感染は感染場内での確率的なコンタクトによって生じるものとする。感染の病状はシナリオで

指定する。基本的なシナリオは感染ののち潜伏期を経て発病し一定期間たつと回復するというものである。

189

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 考 察

感染症拡大対策のためのシミュレーションモデルは、対象となる地域の実際の人々の生活パターンと感染症の発症シナ

リオに基づいている必要がある。東南アジアのインフルエンザ伝搬のシミュレーションでは、データの整備されているタイ国

の統計をベースとしている(参考文献 1、2)。

本研究のコンタクトモデルの開発では日本人の国民生活時間調査[参考文献3]をベースにした。また、我が国に特徴的

なものとして大都市近郊の通勤の影響をモデルに取り込んだ。東京郊外の中央線沿線のシミュレーションのために国交省

関連機関の統計データをベースにモデル化を行った。大都市近郊の通勤の問題は、リスクアセスメントの観点から非常に

重要であると考えられる。

■ 参考(引用)文献

1. Longini I.M. Jr. et. al.,: 「Containing pandemic influenza at the source」, Science, 309, 1083-1087, (2005)

2. Ferguson N.M. et. al.,: 「Strategies for containing an emerging influenza pandemic in Southeast Asia」, Nature, 437,

209-214, (2005)

3. 2000年国民生活時間調査(NHK)

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

190

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 1 報 (筆頭著者:1 報、共著者:0 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0 報、国外誌:0 報、書籍出版:1 冊

4. 口頭発表 招待講演:0 回、主催講演:3 回、応募講演:1 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Yasuda, H. et al.: 「Modeling on social spread from immunity」, Jpn. J. Infect. Dis., 58, S14-15, (2005)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

該当なし

書籍出版

1) 「感染症伝搬のシミュレーション(感染症防御辞典,鈴木和男編)」,安田英典,鈴木和男,朝倉, 2006.12

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

1) Yasuda, H.: 「Spread of Influenza, in Case of Suburban Railroad of Tokyo」, The Second International Models for

Infectious Disease, 2006.1.19-20

2) 安田英典: 「インフルエンザの SPREAD」,感染症アウトブレイクの脅威に対処するための数理モデリングに関す

るワークショップ,2005.8.8

3) 安田英典: 「感染症のシミュレーション」,日本生体防御学会学術総会,2005.8.6

4) Yasuda, H.: 「Modeling on Social Spread from immunity」, International Symposium on Trends in Transmission

Models for Infectious Disease, 2005.2.15

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

191

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

6. 感染症シミュレーションとリスクアセスメント

6.5 . 感染症シュミレーションシステムの開発

株式会社三菱総合研究所,城西大学

寺邊 正大、 義澤 宣明、安田 英典

■ 要 旨

感染症シミュレーションシステムを用いたシミュレーションを実施した。シミュレーション結果はアニメ化した。シミュレーショ

ンの結果は国際ワークショップにおいて発表した。

■ 目 的

研究開発されたモデルを実装したシステムによって必要なシミュレーションが実施可能であることを示す。最初のケース

は、学級閉鎖の効果を検討したもので、1つの町の規模での風邪の流行を対象とした。次のケースでは、通勤列車の影響

を考慮して、大都市郊外でのインフルエンザの流行について検討した。郊外と大都市の間を通勤通学する人々による感染

症拡大の脅威は、我が国にとって重大な問題である

■ 目 標

① 本研究で開発されたモデルを実装した感染症シミュレーションシステムを開発し、リスクアセスメントのベースとな

るシミュレーションを行う。

■ 目標に対する結果

① シミュレーションシステムを用いて、インフルエンザ伝搬に関した学級閉鎖の効果、通勤電車の影響を取り入れ

た東京郊外のシミュレーションを実施した。

■ 研究方法

シミュレーションのためにシステムの高速化などの検討を行った。さらに、PC上にて想定されるケースのシミュレーション

を実行し、パラメータの校正などを行った。また、シミュレーション結果を可視化するためのアニメーションを作成した。

■ 研究成果

以下では、主として学級閉鎖のシミュレーションの成果を述べる。日本人の生活パターンに基づいたコンタクト(人と人の

接触)モデルを用いてシミュレーションを行ったが発生してから 4 日後に学級閉鎖を実施し、流行が終焉するまで授業を再

開しなかったケースをシミュレーションすると、感染者数は約 17%減少した。現実には流行の終焉を待たずに授業を再開す

ることが多いため、カゼ発生から 13 日後に授業を再開したケースでシミュレーションすると、感染者数の減少は見られず、

ピークが後ろにずれただけだった。この成績から、現在行われているような学級閉鎖では明らかな効果は得られず、実施す

るなら流行終焉まで徹底して続けない限りあまり意味がないことが示唆された[原著論文 1)]

。シミュレーションはPCで1ケース

数時間で実行可能である。計算例を以下に示す。

192

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

0

100

200

300

400

500

600

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70

感染

者数

再開ケース

学級閉鎖ケース

基本ケース

基本ケース(子供)

再開ケース(子供)

学級閉鎖ケース(子供)

1.感染者数の推移(太い線は総感染者数,細い線は子供の感染者数を示す.)

出典:Yasuda H., Yoshizawa N. and Suzuki K., Modeling on social spread from immunity., Jpn. J. Infect. Dis. 58,

S14-15(2005))

■ 考 察

感染症のリスクアセスメントに必要な情報をえるためには、対策のレベルに応じたパラメータランを短期間で数多く実施

する必要がある。この観点は、米国で実施された感染症伝搬の状況を詳細に解析するための計算とは大きく異なるもので

ある(参考文献 1)。米国ではスーパーコンピュータによる詳細な計算が1ケース実施された。本研究では、リスクアセスメン

トに必要な情報を得ることにターゲットを絞り目的のために効率よい計算方法を検討し、PC上に実装されたシステムによっ

て実際的な想定に基づくパラメータランを実施できることを実証した。

■ 参考(引用)文献

1. Eubank S. et. al.,: 「Modeling disease outbreaks in realistic urban social networks」, Nature, 429, 180-184, (2004)

■ 関連特許

1. 基本特許 (当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)

該当なし

2. 参考特許 (当該課題に関連する周辺特許)

該当なし

193

新興・再興感染症制圧のための共同戦略

研究成果の詳細報告

■ 成果の発表

(成果発表の概要)

1. 原著論文による発表(査読付き) 1 報 (筆頭著者:1 報、共著者:0 報)

2. 原著論文による発表(査読なし) 0 報

3. 原著論文以外による発表

(レター、レビュー、出版等)

国内誌:0 報、国外誌:0 報、書籍出版:1 冊

4. 口頭発表 招待講演:0 回、主催講演:3 回、応募講演:1 回

5. 特許出願 出願済み特許:0 件 (国内:0 件、国外:0 件)

6. 受賞件数 0 件

1. 原著論文による発表 (査読制度のある雑誌への投稿のみ。本文中の成果の番号と対比)

1) Yasuda, H. et al.: 「Modeling on social spread from immunity」, Jpn. J. Infect. Dis., 58, S14-15, (2005)

2. 原著論文による発表 (査読制度のない雑誌への投稿)

該当なし

3. 原著論文以外による発表(レター、レビュー、書籍出版等)

国内誌(国内英文誌を含む)

該当なし

国外誌

該当なし

書籍出版

1) 「感染症伝搬のシミュレーション(感染症防御辞典,鈴木和男編)」,安田英典,鈴木和男,朝倉, 2006.12

4. 口頭発表

招待講演

該当なし

主催・応募講演

1) Yasuda, H.: 「Spread of Influenza, in Case of Suburban Railroad of Tokyo」, The Second International Models for

Infectious Disease, 2006.1.19-20

2) 安田英典: 「インフルエンザの SPREAD」,感染症アウトブレイクの脅威に対処するための数理モデリングに関す

るワークショップ,2005.8.8

3) 安田英典: 「感染症のシミュレーション」,日本生体防御学会学術総会,2005.8.6

4) Yasuda, H.: 「Modeling on Social Spread from immunity」, International Symposium on Trends in Transmission

Models for Infectious Disease, 2005.2.15

5. 特許等出願等

該当なし

6. 受賞等

該当なし

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