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1.讃岐うどんの聖地 丸亀平野の北東部にある飯野山は、標高 422mの円錐形の孤立峰で、平成 17 年 3 月に「新日本百名山」に選定され
ました。飯野山は富士山に似た形をしていることから讃岐富士と呼ばれていますが、1000 万年以上の歳月をかけて侵
食された残丘で、火山ではありません。
丸亀平野は、土器川と金倉川によって形成された扇状地を主体とする平野で、古代の条里制の区割りの中に多くの
ため池が点在しています。地下水が豊富な扇状地からなる丸亀平野には、おいしいうどん店が集中しています 1)。2007
年に公開された映画「UDON」の松井製麺所のロケセットも丸亀平野に設定されました(上の写真)。讃岐富士とため
池と、讃岐うどんとの関係を考えてみませんか。
2.飯野山の地形と地質 飯野山山麓は花崗岩類からなる緩斜面で、標高 230~250mから山頂にかけて讃岐岩質安山岩(両輝石安山岩)が分
布しています(図1,2)2)。讃岐岩質安山岩にみられる低角度の柱状節理は、その冷却面が鉛直に近いことを示して
おり、讃岐岩質安山岩マグマが花崗岩類に貫入した可能性を示しています。これまで讃岐岩質安山岩は花崗岩を水平
に近い傾斜で不整合に覆っているビュートと考えられていましたが(図1①)、花崗岩に貫入した讃岐岩質安山岩の
火道部分が侵食によって塔状になった火山岩頸の可能性が高いと思われます(図1②)。飯野山は、五色台や屋島の
ようなメサが侵食されたビュートではなく、花崗岩に比べて侵食に強い讃岐岩質安山岩の貫入岩体が、長年の侵食に
よって円錐形の残丘となったと推定されます。
3.讃岐七富士
香川県内にある飯野山をはじめ、三木町の白山(東讃富士), 高松市の六ツ目山(御厩富士), 綾川町の堤山(羽
床富士)と高鉢山(綾上富士), 三豊市の爺神山(高瀬富士), 観音寺市の江甫山(有明富士)の七つの里山は、古く
から讃岐七富士(おむすび山)と地元から親しまれてきました。
讃岐層群をのせる台地では、山頂を覆う安山岩と基盤の下位花崗岩との間に凝灰岩や凝灰角礫岩をはさみます。し
かし、円錐形をしたおむすび山のうち、六ツ目山を除く 6つのミニ富士には、基盤の花崗岩と安山岩が直接接してい
ます。これは、山頂の安山岩類が地表を流れた溶岩ではなく、花崗岩中に貫入した岩脈である可能性を示しています。
また、凝灰岩を欠くことによって、凝灰岩層をすべり面とする地すべりや深層崩壊が発生しにくいため、山体の形を
大きく変えることなく侵食が進んだことを示しています。讃岐のミニ富士山の多くはビュートではなく、爺神山や江
甫草山のような火山岩頸である可能性が高いと思われます。
富士山のように円錐状をした成層火山は、噴火が終了すると侵食によって谷が形成され、やがて美しい円錐形の山
体は消滅します。飯野山のような円錐形の小山には大きな谷ができていません。これは、花崗岩斜面に崩壊と侵食に
よって谷ができても、その谷が地震によって山頂付近から崩壊した安山岩礫を主体とする岩屑(崩積土)によって埋
められるため、谷が成長できないからです(図3②地点)。
参考文献:
1)長谷川修一:おいしい讃岐うどんはどこに多いのか?,地下水技術,Vol.48,No.11,pp.19-23,2006.
2)長谷川修一,鶴田聖子,三野愛香,山中稔;讃岐七富士になる山とならない山, 日本応用地質学会中国四国支部平成 17 年度研究発表会発表論文
集,77-82,2005.
3)国土交通省ホームページ:http://www.mlit.go.jp/river/
4)活断層研究会編:新編日本の活断層―分布図と資料,東京大学出版会,1991.
讃岐ジオサイト(21)
丸亀平野と飯野山
図4 丸亀平野と飯野山周辺案内図(基図は国土地理院数値地図 25000「岡山及び丸亀」を使用,
活断層は活断層研究会編 4) )
図1 飯野山地質断面図
① ビュート説(溶岩に覆われたと推定) ②火山岩頸説(溶岩が貫入したと推定)
瀬
切れ区間
岡田台地
野外活動センター
①宝性寺跡
③崩壊岩塊
④讃岐岩質安山岩
⑤山頂の巨石
⑥土器川河床
⑦岡田断層
⑧上法軍寺断層
岡田断層
上法軍寺断層
法勳寺跡 逆さま川
土器川
大束川
⑨地形に逆らう大束川
②谷を埋める岩屑
[作成] 香川大学工学部安全システム建設工学科 長谷川研究室 (長谷川修一,鶴田聖子)
香川県高松市林町 2217-20 TEL:087-864-2155,URL:http://www.eng.kagawa-u.ac.jp/~hasegawa/
* この地図は国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図 25000(地図画像)を複製したものである。(承認番号 平 24 四複、第 60 号) 許可なく複製を禁ずる。
4.飯野山のジオサイト
5.丸亀平野のジオサイト
丸亀平野の変動地形
岡田台地は丸亀市飯山町から綾歌町にかけての土器川右岸にある台地で、約 10 万年前の土器川の扇状地が段丘になった台地です。岡田台地の北縁の崖は岡田断層による断層崖の可能性が指摘されていますが、崖そのものは南東から北西に流れた古綾川によって侵食された段丘崖です。断層はその北側の平野に伏在している可能性がありますが、確認されていません(図3)。
⑦岡田断層
飯山町上法軍寺の王子神社のある台地は、土器川の中位段丘(約 10 万年前に形成)です。神社の北側の崖に沿って、岡田断層が推定されています。
⑨地形に逆らう「逆さま川」
大束川は、南から北へ緩く傾斜する岡田台地の段丘面を横切り、更に旧法勲寺跡付近から南に向かって(山に向かって)流れ、岡田台地の北縁部に当たってから北東へ流れを変えています(図2)。地元では、大束川が南に逆流する区間を「逆さま川」と呼んでいます。このような地形に逆らう大束川は、人工的な流路でないと説明できません。逆さま川に囲まれた地区には古代寺院である法勲寺跡があるので、この流路は古代の土木遺産かもしれません。また、「逆さま川」は岡田断層の活動による撓曲(地表のたわみによる山側への傾き)を利用している可能性もあります。
⑥土器川の河床
河床の砂岩礫:丸亀平野は土器川と金倉川が流路を変えて形成した扇状地を主体とする平野です。土器川は、讃岐山脈を源流とするまんのう町から丸亀市を流れる全長 33km の一級河川です。土器川河床の礫の大部分は、上流の讃岐山脈に分布する和泉層群に由来する砂岩の亜円礫です。中流域にある花崗岩の丘陵では、地表部の花崗岩は風化してマサ(砂質土)になっているので、花崗岩の礫はわずかです。
瀬切れ:土器川は、中方橋から高柳橋間で渇水期に瀬切れ(扇状地に河川が伏流して、河川の表面を流れる水がなくなる現象 3))が発生しています。
霞堤:土器川には、山地から瀬戸内海に流れ込む急勾配河川であることから、洪水被害を軽減するための霞堤(堤のある区間に開口部を設けた不連続堤防)が設けられていました。
旧流路:土器川は、かつて飯野山の東(大束川の流路付近)を坂出市に向けて流れていました。また、岡田台地の北縁は古綾川の流路で、古綾川の河口部が土器川に合流していた時代もあったようです。
⑧上法軍寺(かみほうくんじ)断層
岡田断層の南にある上流側に低下した段差は、上法軍寺断層による逆向き低断層崖の可能性があります。
段丘面を横断して流れる大束川
瀬切れのため礫からなる河床面が 露出した土器川と飯野山
(現地の地名に従うと、北側を上法軍寺断層,南側を岡田断層と命名すべきですが、活断層研究会(1980)による断層名が定着しています。)
図3 岡田断層,上法軍寺断層模式断面図
上法軍寺 岡田
図2 飯野山の地質図とジオサイト (基図は国土地理院数値地図 25000「岡山及び丸亀」を使用)
山頂付近には、「おじょも伝説」のある安山岩の巨石が点在しています。讃岐岩質安山岩の板状節理はほぼ鉛直で、節理に沿って割れた岩塊は石碑のように立っています。
飯神社
⑤讃岐岩質安山岩巨石
丸亀平野を遠望
坂出市側登山口
丸亀市側登山口
飯山町側登山口
①宝性寺跡の崩落岩塊
宝性寺跡の広場の山道沿いに
ある安山岩の崩壊岩塊。落石が
停止したときに二つに割れまし
た。
②谷を埋める岩屑 古い谷は安山岩の岩屑によって
埋められているため、これ以上谷が成長できにくくなっています。このため円錐形の小山が保たれているのかもしれません。
③崩落岩塊
板状節理が発達した安山岩の岩
塊が山頂付近から崩落しています。
④讃岐岩質安山岩 讃岐岩質安山
岩の低角度の柱状節理は、冷却面が鉛直に近いことを示しています。これは、讃岐岩質安山岩が花崗岩中を鉛直に近い角度で貫入したことを示しています。
野外活動センター 登山出発地点。
トイレ有り。
瀬戸内海を遠望
谷を埋める安山岩礫
凡例