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藻岩山の話
(北海道林業技士会作成資料)
■札幌市の地形
藻岩山や幌南小学校の位置を下の図で確認しましょう。
札幌市は、豊平川が山から土砂を運び扇のような形に積もった場所(扇状地といいます)に発達したま
ちです。北大植物園、道庁、札幌駅のあたりが扇の先端で、ここから地下水がわき出ていました(今もわ
き水が見られます)。この近くでは昔、アイヌの人たちが家をたて、産卵に上ってくるサケやマスをとって生
活をしていました。
札幌市のサッポロは、豊平川のアイヌ名サッポロペッ(サッ=乾いた、ポロ=大きな、ペッ=川)であった
ので、そこから名前がつけられたそうです。
円山から見た藻岩山
-1-
約 150 年以上前の札幌と扇状地の先端
■藻岩山の誕生
―藻岩山は、200万年前は火山だったー
藻岩山や手稲山など札幌付近の山々は、海底に噴出ふ き だ
していた溶岩が今から約 200 万年前、大噴火し
て海上に顔を出してつくられました。その後、火山活動が終わり、雨水によって地表が少しずつ、削けず
られて
現在のような姿になりました。
それでは、藻岩山が何故、火山とは呼ばれていないのでしょう。それは大昔、火山活動で出来た山でも、
噴火口ふ ん か こ う
などのもとの形がなくなっている山は「火山」と呼ばないという決まりがあるからだそうです。
登山道に見られる岩石は安山岩といって火山活動で出来た岩石です。今、この歩道は木の階段となり。岩石はかくれています。
藻岩山誕生のイメージ
今から3年前、南太平洋のトンガ王国(170の島
からなる国)の沖おき
で大規模な海底火山がありま
した。藻岩山付近の山々も今から200万年以上、
このような様子で生まれたのではないかと想像そうぞう
しました。
トンガ王国沖の海底火山の噴火
―200万年前、藻岩山が誕生したころ、すでに人類の祖先が誕生していたー
最古の人類の祖先ではないかと考えられる約 440
万年前の人骨(女性)の化石が1994年、エチオピアで
発見され、アルディと名づけられました。
この藻岩山が海底の火山活動によってつくられて
いたとき、遠いアフリカでは、その200万年以上前の気
の遠くなるほどの昔、すでに人類の祖先が誕生し、活
動していたというのは驚きです。
-2-
2 藻岩山と人々のかかわり
(1)藻岩山の名前の由来
藻岩山はアイヌ語でインカルシベと呼ばれていました、インカルシベとは「いつもそこに上って見張りをす
るところ」という意味で、アイヌの人の見張りをする山でした。開拓当時の人々はインカルシベを発音から
「笑柯山(えんがるやま)」などと呼んでいたそうですが、それがいつしか「モイワヤマ」と呼ばれるようにな
りました。モイワとはアイヌ語で「小さい山」という意味で、「円山」のことを指しています。いつしか円山のア
イヌ語の名前を藻岩山の名前にしてしまったと言うわけです。
(2)藻岩山の森林がたどった歴史
今から約 140 年前、江戸時代から近代国家の明治時代になり、札幌は北海道の首都になりました。その
後、藻岩山や円山地区に本州から人々が移住してきました。それまでの原始林は農地や市街地に変わっ
ていきました。藻岩山や円山の原始林からは多くの樹木が公共用材や薪炭材として伐り出されました。
その後、間もなく、政府は円山や藻岩山は自然が優れているとして木を伐ることを禁止しました。しかし、
札幌市が発展し、多くの市民が増加し、建築用材や薪炭材が必要となり、明治 19年頃には、ある程度の伐
採はやむをえないと言うことで規制がゆるめられました。
明治 25 年(1892)、アメリカのハーバード大学の高名な樹木学者、サージエント教授が、藻岩山の森林に
ついて、「この狭い地域にこれだけ多くの種類の樹木があるのが世界的に珍しい」と折り紙をつけました。
そのことがきっかけとなり、大正 10 年(1921)には、北海道における国の第一号の天然記念物に指定され、
木を伐ることが禁止され、大切に保護されることになりました。なお、現在、藻岩山全体からみると、北斜
面の天然記念物として保護されている区域とスキー場や南斜面の林地に区分されています。
現在、藻岩山頂上には展望台が設置され、多くの市民がマイカーや観光バス、ロープウエーで簡単に
頂上にたどりつき、遠くの山並みや札幌の市街を展望することができます。しかし、本当の藻岩山のこと
は、実際に森の中に入って感動するなど体験してみないと分かりません。
私たちは、幌南小学校の皆さんに、是非、天然記念物藻岩山を登山して藻岩山の歴史や保護されて
いる世界でも有数といわれる美しい自然を自分の目で確認してほしいと願っています。
-3-
天然記念物・保護区域
保護区域外・林地
藻岩山頂上
スキー場
3 藻岩山の森林
(1)登山道(慈啓会コース)脇で見られる主な樹種
登山道を登っていくと適当な間隔をおいて、シナノキ、ハルニレ、カツラ、ハリギリなど樹齢何百年もた
ったと思われるような大樹が見られます。
シナノキ
シナノキのシナは、アイヌ語の「結ぶ、縛しば
る」の意のシナ
によるという説がある。建築材などに使用される。アイス
クリームのヘラ。花から採れる蜂蜜は香りがよく有名であ
る。
オオバボダイジュ(大葉菩提樹)
シナノキの仲間。名前は大きな葉を持つ菩提樹ぼ だ い じ ゅ
の意。
なお、菩提樹とはお釈迦し ゃ か
さんが木の下で菩提(悟り)を
開いたとされる木でシナノキの中ではない別の種類の
木である。その木の代用としてこの木が寺院などに植え
られ、「菩提樹」と名づけられたとされる。
ハルニレ(春楡)
春に花をつけるニレの意味。ニレとは皮をはぐとヌルヌ
ルしていることから。ヌル→ヌレ→ニレとなった。英国名で
エルム。北大構内に大きく成長したニレの木がある。北
大のシンボル(エルムの学園)
<神話を生む美しい巨木>
1 北欧の神話によると天地を創造した首神(オーディン)がニレの
木に魂を与え、エンプラと名づけ、人類最初の女性とした。以
後、神は遠慮してこの木には雷を落とさないという伝説を生
んだ。
2 ユーカラに語り伝えられるニレは女神である。ハルニレ姫は
天上の神々が見とれるほど美しかった。ついに雷神が足を滑ら
せハルニレ姫のうえに落ちてしまう。姫は身ごもり、男の子アイヌラッ
クルを産んだ。アイヌラックルは神のもとで成長し人間界に帰り、悪魔
から人間を守った。従ってハルニレは、神様の位では最高の「火
の神」として敬われた。
-4-
藻
岩
山
カツラ(桂)
カツラは、香りが出る意味のカズラがなまってカツラにな
ったという説がある。春の芽吹きは赤紫で森の中で目立
って美しい。材は均質で軽く加工しやすく。建築、家具材に
用いられる。 秋はとてもいい香りがし、黄葉は美し
い。
オニグルミ
表面がなめらかなヒメ(姫)グルミに対して凸凹があり、
ゴツゴツしているので鬼(オニ)の名がつけられた。クルミ
は、黒実(クロミ)がクルミになったという説あり。中性ヨーロ
ッパでは、しわの多い実は人間の脳に似ていることから
すりつぶしたクルミ
の実に草を混ぜて
精神病薬にしたと
いう。
オヒョウ
名前はアイヌの人達がこの木を「「オピウ」と呼
んでいたことに由来しています。
この木の樹皮は、アイヌの代表的な織物アットウシ
(「厚司織」)の材料に用いられる。若木の樹皮を採取
し、水にさらすとどろどろとした繊維せ ん い
だけが残る。
これを干し、糸を紡いで織ります。この木の特徴は、葉の
形です。一般に樹木の葉は一定の形をしていますが、こ
の木の葉は、不定形で先が尖り、ギザギザで一枚一枚が
違う形をしています。 なお、この木の樹皮は、エゾシカの
大好物で知床原生林でも樹齢 200 年以上の大木が食
害にあっています。なお、オヒョウの他ハルニレやシナノキ
などもエゾシカの食害にあっています。
-5-
(2)藻岩山で発見された植物
藻岩山に生育する植物は種類が多く、藻岩山は植物の宝庫となっています。この冊子では植物を紹介すること
はできませんが、藻岩山で最初に発見されて、その植物名にモイワをつけた植物を紹介しましょう。
モイワシャジン(藻岩沙参)
藻岩山で発見されたシャジン。シャジンとは沙参(漢
名)と書き、この草の根を、漢方薬でのどに炎症が起き
た時の痰たん
をとる薬にした。
ヤマハナソウ(山鼻草)
この植物が、札幌市山鼻地区(藻岩山)で発見さ
れたのでヤマハナソウと名付けられた。
モイワラン(藻岩蘭)
札幌の藻岩山で発見されたランという意味である。サ
イハイランに似ているが葉がないのが特徴である。
モイワナズナ(藻岩薺)
名は藻岩山で発見されたナズナの仲間の意。近
い将来、絶滅する危険性が高いとされる植物である。
モイワボダイジュ(藻岩菩提樹)
シナノキの仲間。名前は藻岩山で発見された
菩提樹ぼ だ い じ ゅ
の意。なお、菩提樹とはお釈迦し ゃ か
さんが木の下
で菩提(悟り)を開いたとされる木でシナノキの仲間
ではない別の種類の木である。その木の代用として
この木が寺院などに植えられ、「菩提樹」と名づけら
れたとされる。
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