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1 小児股関節、成人股関節の診療について <取り扱い疾患・障害> 小児から成人、高齢者まで、股関節周辺の疾患・障害の診療を幅広く行っています。小児疾患では先天性 股関節脱臼、ペルテス病、大腿骨頭すべり症など、また、成人疾患では変形性股関節症、大腿骨頭壊死、 リウマチ性股関節障害などが中心となります。最近では、高齢者の骨粗鬆と関連した脆弱性骨折や急速破 壊型股関節症、活動的な成人に多く見られる大腿骨臼蓋インピンジメント障害、関節唇損傷なども増加し つつあります。 <当科における診療の特徴と手術術式について> 小児と成人の股関節疾患、障害の代表的なものについて、当科で行っている治療の概略を、症例の X 写真とともにお示しします。 I. 小児股関節疾患の治療について 小児股関節における代表的な疾患は、先天性股関節脱臼とその治療後の遺残障害、ペルテス病、大腿 骨頭すべり症などです。 先天性股関節脱臼 は、生後3か月検診など早期に発見されたものの多くは外来での装具治療により治癒 が期待できますが、発見が遅れたものや脱臼度が強いものでは入院での牽引療法、あるいは手術的な整 復術が必要となります。脱臼に合併する寛骨臼形成不全が高度の場合は、観血的整復術に加え同時に骨 盤骨切り術を行う場合もあります。 2 4 か月で発見された左先天性股関節脱臼> <観血的整復術+骨盤骨切り術後>

小児股関節、成人股関節の診療について - 東京慈恵 …先天性股関節脱臼治療後の遺残障害としては、大腿骨頭の亜脱臼、変形、壊死、あるいは寛骨臼形成不

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小児股関節、成人股関節の診療について

<取り扱い疾患・障害> 小児から成人、高齢者まで、股関節周辺の疾患・障害の診療を幅広く行っています。小児疾患では先天性

股関節脱臼、ペルテス病、大腿骨頭すべり症など、また、成人疾患では変形性股関節症、大腿骨頭壊死、

リウマチ性股関節障害などが中心となります。最近では、高齢者の骨粗鬆と関連した脆弱性骨折や急速破

壊型股関節症、活動的な成人に多く見られる大腿骨臼蓋インピンジメント障害、関節唇損傷なども増加し

つつあります。 <当科における診療の特徴と手術術式について> 小児と成人の股関節疾患、障害の代表的なものについて、当科で行っている治療の概略を、症例のX線

写真とともにお示しします。 I. 小児股関節疾患の治療について

小児股関節における代表的な疾患は、先天性股関節脱臼とその治療後の遺残障害、ペルテス病、大腿

骨頭すべり症などです。 先天性股関節脱臼は、生後3か月検診など早期に発見されたものの多くは外来での装具治療により治癒

が期待できますが、発見が遅れたものや脱臼度が強いものでは入院での牽引療法、あるいは手術的な整

復術が必要となります。脱臼に合併する寛骨臼形成不全が高度の場合は、観血的整復術に加え同時に骨

盤骨切り術を行う場合もあります。 <2歳4か月で発見された左先天性股関節脱臼> <観血的整復術+骨盤骨切り術後>

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先天性股関節脱臼治療後の遺残障害としては、大腿骨頭の亜脱臼、変形、壊死、あるいは寛骨臼形成不

全などがさまざまな程度に混在しています。障害の状況に応じて骨盤骨切り術や大腿骨骨切り術を行い

ますが、その時期としては3歳から8歳あたりが対象となります。 <先天性股関節脱臼遺残障害> <大腿骨内反骨切り術+ペンバートン骨盤骨切り術後> ペルテス病は成長中の大腿骨頭に、血行障害による壊死を生じる原因不明の疾患です。原則的に外来で

の装具治療が第一選択となりますが、年齢、壊死部分の重症度、その他の因子を総合的に考慮して手術

治療を選択する場合もあります。術式としては、大腿骨の内反骨切り術や骨盤骨切り術から選択されま

すが、いずれもその目的は、壊死により陥没して球形を失おうとしている大腿骨頭を、まるい寛骨臼に

深く収めることによって骨頭の球形を維持、あるいは取り戻そうとすることです。 <ペルテス病で陥没変形した骨頭> <大腿骨内反骨切り術+ペンバートン骨盤骨切り術後>

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大腿骨頭すべり症は、成長のスピードが増す 10〜14 歳頃に多く、骨頭先端の丸い骨端部が成長線を境

として徐々に、あるいは急激に、ずれを生じる疾患です。ずれが少しずつ進行し、痛みや跛行があって

も歩行が可能なものを安定型といい、これに対し、急激にずれが進行して骨端部がぐらぐらとなり、ま

ったく歩行不能となるものを不安定型といいます。 安定型で、ずれの程度が軽いものに対しては、当科では、そのままの位置で1本のスクリュー固定を

行っています。この時、スクリューの外側端を骨から長く突出させることにより、骨頭の発育障害を防

止しようとするダイナミック法を採用しています。 <右安定型大腿骨頭すべり症に対するダイナミック法スクリュー固定術後> 安定型で、ずれの程度が比較的大きいものに対しては、骨頭より下方で骨切り術を行い、ずれた骨端

部を関節内の正しい位置へと呼び戻すような治療法をとっています。基本としているのは転子部での屈

曲骨切り術であり、ずれの方向に応じて少々の内反や外反を加味しています。

<高度大腿骨頭すべり症> <大腿骨転子間部屈曲骨切り術後>

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当科では、上の症例のような難易度の 高い手術に際しては、術前に3次元CT 画像による立体的な評価を行っています。 右図では、変形した右大腿骨(ピンク) を、正常である左大腿骨の像を反転した もの(緑)と対比しながら評価して います。 次に、コンピューター上でシミュレーション 手術を行います。右図のように、骨切りする 部位、傾ける角度、固定方法などをシミュ レーションして決定していきます。 さらに、得られたCTデータをもとに、 特殊な技術を用いて実物大の石膏モデル を作成します。実際の手術では骨の全容 を直視下におくことはできず、骨の一部 のみを見ながら手術を行うことになるた め、この石膏モデルを参考にして骨の3 次元形態をイメージすることに役立てま す。骨切りの位置、方向、骨片移動、2種 類の固定材料(A、B)の刺入位置と方向 などを計画通りに行うための指標として 活用しました。

A B

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不安定型大腿骨頭すべり症は、骨端部が安定性を失って股関節内でふらふらしている状態です。このタ

イプのすべり症は非常に重症型とされ、骨頭壊死など合併症を生じる危険性が高く予後不良とされていま

す。当科では、すべりの状態を直視下に確認するとともにできる限り骨頭壊死のリスクを低減するという

目的で、全身麻酔下に関節を開き、骨端部の血行状態を確認した上で愛護的に骨端の整復を行いスクリュ

ー固定するという治療方針をとっています。 <不安定型大腿骨頭すべり症> <整復で形を整えた後スクリュー固定> II. 成人の変形性股関節症に対する関節温存手術 90年を超える慈恵医大整形外科学講座の長い歴史において、股関節の診療・研究は常にその中心的役割を

果たしてきましたが、その中でも特徴的であることは、変形性股関節症の患者さんを数多く診療してきた

という点です。変形性股関節症に対しては、通常、いくつかの手術法を使い分けながら治療を行いますが、

当科ではできる限り多くの術式に精通しそれらの中から個々の病状や年齢に応じて最も適切で侵襲の少な

い術式を選択していくよう心がけています。

骨盤側術式

1)寛骨臼回転骨切り術

骨盤を、寛骨臼の形に沿って球形にくり抜くように骨切りし、骨頭の被覆が不足している部分をカバー

するように回転移動させて新しい寛骨臼を作り上げる術式です。まだ関節軟骨が十分に残っている初期の

変形性股関節症が対象となり、とくに骨頭の形が球形に近い場合が良い適応となります。

当科ではOllier変法という、股関節外側のU字型皮膚切開と大転子切離法で進入し術野全体を立体的に

把握しやすい展開法を用いています。彎曲骨切りには、個々の体格に最適な骨切りができるよう4種類(通

常2種類)の曲率半径のノミを用意し、必ずエックス線透視を用いて正確で安全な骨切りを行うことをル

ールとしています。寛骨臼骨片の固定はX線に写らない吸収性ピン、大転子の再固定には金属スクリュー

を用います。

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<初期変形性股関節症> <寛骨臼回転骨切り術後>

2)寛骨臼棚形成術

寛骨臼被覆が不足して外側にはみ出している骨頭部分を上方から被ってあげるように、骨盤から採取し

た板状の骨片をあたかも棚を作るように寛骨臼上部に打ち込み、新しい寛骨臼を形成する術式です。初期

の変形性股関節症で骨頭に変形がある場合などが良い適応となります。

通常はSmith-Petersen法という前方進入で1枚の棚形成を行いますが、当科では、高度な寛骨臼形成不

全股には前述の大転子切離法を用いて2枚の棚を広範囲、立体的に形成することも行っています。

<初期変形性股関節症> <寛骨臼棚形成術+大腿骨外反骨切り術後>

3)キアリ骨盤骨切り術

骨盤を寛骨臼上方で外側から内側へ横断するように骨切りし、下方骨片を内側へ、上方骨片を外側へと

移動する術式です。骨頭が内側へ、腸骨翼が外側へと移動することにより、また、不足していた骨頭被覆

が増加することにより、股関節を取り囲む力学環境が大きく改善されます。当科では、股関節外側の弧状

皮切と大転子切離法で進入し、骨盤を立体的なドーム状に骨切りする方法を採用しています。

初期から末期までさまざまな病態に応用可能な術式ですが、当科ではしばしば進行した変形性股関節症

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で人工関節にはまだ若いという場合に応用しています。

<進行期変形性股関節症> <キアリ骨盤骨切り術+大腿骨外反骨切り術後>

大腿骨側術式

大腿骨側では「骨頭の向きを変化させる」ことを目的として大腿骨骨切り術を行います。つまり、頚部

のやや下方で大腿骨をいったん2分し、角度を変化させた上で再固定して骨癒合を待ち、新しい大腿骨形

態を作ることで股関節に力学的に有利な状態を作ります。骨頭〜頚部を内側に倒すようにするのを内反骨

切り術、上方へ起こすようにするものを外反骨切り術と呼びます。また、骨頭から頚部の捻れ状態を調整

することもあり、前方への捻れを減らすように行うものを減捻骨切り術、減捻と内反を組み合わせるもの

を減捻内反骨切り術と呼びます。大腿骨の内固定には金属プレート、スクリュー、ピン、ワイヤーなどを

状況によって使い分けます。

骨盤+大腿骨の複合術式

骨盤または大腿骨どちらか一方の術式のみでは効果が不十分と思われる場合は、しばしば両者を組み合

わせた手術を行います。すなわち、上記の寛骨臼側術式のうちのひとつと大腿骨骨切り術を同時に行うこ

とにより、より良い形態的適合、より良い力学的環境を獲得しようとするものです。

筋解離術

当科で1960年から伝統的に行ってきた方法です。現在の術式は、股関節前方の小さな皮切から2つの筋

肉の解離と関節包靭帯解離、関節内処置を行い、最後に内転筋の皮下切腱を追加するものです。骨に手を

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加えないので非常に低侵襲な術式です。一般に、除痛効果に優れた手技として認められていますが、当科

では多くの症例の検討から、適切な手術適応を選択することによってX線学的な関節修復効果も得ること

ができる方法として行っています。末期変形性股関節症で人工関節にはまだ若いという症例のうち、増殖

性骨形成が旺盛で広い骨接触面が再構築されている、関節接触面の糜爛状骨破壊が強い、疼痛が強い、と

いった臨床的特徴を持つ場合に応用しています。

<末期変形性股関節症> <筋解離術後>

III. 成人の大腿骨頭壊死症に対する骨切り術 大腿骨頭壊死症は骨頭の血流が障害されて生じる疾患です。骨組織が壊死し力学的に弱くなったところ

に体重がかかるため、治療を行わなければ、押しつぶされて骨頭陥没を生じ、次第に二次性変形性股関節

症となっていきます。 当科では、大腿骨頭壊死症に対しては、年齢、壊死部の位置と大きさなどを考慮して治療方針を決定し

ています。比較的若年の方では、なるべくご本人の大腿骨頭を残す、骨切り術という治療法を検討します。

一方、比較的高齢の方、若年でも壊死範囲が非常に広範な場合などは、人工股関節による治療を検討する

ことになります。 1)彎曲内反骨切り術 大腿骨頭壊死症では、大腿骨頭の中に壊死している領域と健常に残されている領域があります。そこで、

骨頭の健常な部分を関節荷重部へ、そして、壊死部分をあまり荷重がかからない部分へと移動させるのが

大腿骨骨切り術による治療法です。壊死部分が比較的小さく骨頭外側に健常部が残っている場合は、骨頭

を内側に傾けることで健常部を関節荷重部へと移す大腿骨内反骨切り術を行います。骨切りによる下肢短

縮を最低限にするため、彎曲内反骨切り術という方法を用いています。 <右大腿骨頭壊死症> <大腿骨彎曲内反骨切り術後>

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2)大腿骨頭回転骨切り術 壊死部分が比較的大きい場合、骨頭の前方や後方に健常部が残っている場合は、大腿骨頭〜頚部をその

軸の周りに回転させるように移動する大腿骨頭回転骨切り術を行います。骨頭を前方へ回転する場合を前

方回転骨切り術、後方へ回転する場合を後方回転骨切り術と呼び、状況に応じて、さらに骨頭を内側へ傾

斜させるような移動(内反)を加味します。 どのような骨切り術を行うかの詳細については、X線、MRI、CTなどの検査結果から検討し、細かい手

術計画を立てていきます。 <右大腿骨頭壊死症> <大腿骨頭前方回転骨切り術後> IV. 当科の人工股関節治療について 上記のように、当科ではなるべく侵襲の少ない治療を行うこと、若年では人工関節を回避することに努

めていますが、実際には人工関節治療が適応となる患者さんは大変多く、今日の股関節疾患治療の主役を

演じる術式であることは事実です。その理由は、今日の人工股関節におけるインプラントテクノロジーと

手術技術、術後管理システムが大きく進歩しており、手術の安全性、確実性の点でとても信頼できる治療

法となっているからです。 人工股関節置換術の方法は、骨とインプラントをどのように固定するかによって大きく2つの方式に分

けることができ、ひとつは骨セメントという固定材料を用いる方法(セメント人工股関節)、もうひとつは

骨セメントを用いずに骨とインプラントの直接結合をめざす方法(セメントレス人工股関節)です。世界

の動向としては、人工関節技術が発展を始めた当初の1970年代から1980年代にかけてはセメント方式が

主流でしたが、1990 年代から 2000 年代へとセメントレス方式が大きく見直されて主流となり、今日では

本邦で行われている人工股関節の75%以上がセメントレス方式で行われています。 慈恵医大整形外科学教室は、セメントレス人工股関節の研究と臨床経験において本邦で最も古い歴史を

持つ施設のひとつであり、1970年から一貫して日本人の変形性股関節症に適したセメントレスインプラン

トの研究と臨床応用を進めてきました。日本人が初回手術として受ける人工股関節置換術には大きな特徴

があり、それは、原因疾患のほとんどが小児期の先天性股関節脱臼や生来の寛骨臼形成不全を基盤とした

二次性変形性股関節症であるという点です。臨床的には、骨の変形程度が強い、軟部組織の拘縮が強い、

その結果として姿勢異常や跛行が著しいといった特徴があります。このような問題点を踏まえ、当科にお

ける人工股関節治療の特徴としては、1)個々の骨、関節の形態に応じて、いくつかの再建法やインプラ

ントの中から、最も適していると考えられるものを選択して治療を行う(下図)、2)強い拘縮に対しては

術中に軟部組織解離処置による調整を十分に行う、3)術後のリハビリには独自に開発した運動療法を取

り入れて姿勢と跛行の改善に努める、といった治療プログラムを組んでいます。

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<フラットテーパーステム> <ショートタイプステム> <モデュラーステム> <セメント再建>

人工股関節の入れ換え手術(再置換術)について: 既存の人工股関節を新しいインプラントに入れ換える再置換手術では、長年の使用によりインプラント

の緩みや移動が起こり、また、ポリエチレンの摩耗に由来する骨溶解も生じる結果、インプラント周囲に

はしばしば高度な骨欠損を伴っています。ここに新しいインプラントをしっかりと再建するためには、ま

ず、この骨欠損に十分な骨移植を行うことで骨盤、大腿骨を量的、質的に改善しておくことが必要です。

骨移植としては自分自身の別の部位の骨を採取してくる自家骨移植と、冷凍保存された他人の骨を利用す

る同種骨移植がありますが、多くの場合は多量の移植骨を必要とするため、同種骨を利用します。同種骨

移植では、内蔵の臓器移植や輸血のように免疫応答による拒絶反応を示すことは基本的になく、したがっ

て、血液型や免疫タイプを適合させる必要はありません。通常、母床の骨と良好になじみ、少しずつ自分

の骨へと置き換わって行きます。 <56年前に手術された人工骨頭 <同種骨移植を用いた骨盤再建術後> と巨大な骨盤骨欠損>

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<22年前に手術された人工股関節再置換術 <同種骨を用いた大腿骨再々置換術後> と巨大な大腿骨欠損> V. 股関節鏡を用いた診断と治療、関節唇障害、大腿骨寛骨臼インピンジメント障害について 今日、外科的治療全般において、診断や治療をできる限り低侵襲に行おうとする努力がなされています。

整形外科領域における低侵襲手技の代表である関節鏡技術は、膝関節や肩関節において積極的に行われて

いるものの、股関節領域における普及は遅れており、股関節内には自由に操作可能な空間が少ないこと、

また、関節が皮膚から非常に深部にあることなどがその主な理由です。慈恵医大整形外科では、新橋の本

院を中心として、10年以上前から股関節鏡技術を導入し、積極的に股関節唇損傷、化膿性股関節炎その他

の診断と治療に応用してきました。 股関節唇損傷に対する考え方も、ここ数年で大きく変化しつつあります。以前は、寛骨臼形成不全を伴

わない股関節唇損傷の発生メカニズムは明らかではなく、治療としては断裂した関節唇を関節鏡下に切除

することにとどまっていました。しかし、近年、多くの関節唇障害が大腿骨頭〜頚部と寛骨臼辺縁との衝

突(インピンジメント)によって発生することが明らかとなり、その治療の考え方も変化しつつあります。

すなわち、結果として生じている関節唇の処置を行うにとどまらず、原因となった骨同士の衝突自体を治

療すべきという考え方です。下に示す症例は、大腿骨頭から頚部への移行部が盛り上がっているという形

態異常を原因として関節唇損傷を生じた、Cam-typeと呼ばれる大腿骨寛骨臼インピンジメント障害であり、

この方の場合は大腿骨頭を外科的に脱臼させて骨頭から頚部の形態を整えるという治療を行いました。今

後、関節唇損傷に対しては、関節鏡下に行う治療と、関節を開いたり骨頭を外科的に脱臼させたりして行

う治療とを使い分けていくことになると思われます。関節鏡による難易度の高い治療については新橋の本

院での治療も視野に入れて検討いたします。

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<大腿骨頭から頚部の突出変形(矢頭)> <骨頭を外科的脱臼させての形成術後(矢頭)>

以上、慈恵医大第三病院整形外科の股関節診療についてご紹介しました。現在、専門外来としては、

股関節専門外来(主として成人) : 毎週木曜日 午前・午後 :大谷卓也

小児整形外科および股関節専門外来 毎週月曜日と火曜日の午後 :川口泰彦

を行なっております。やや込み合っております関係上、診療ご希望の方は、まず、現在おかかりの先生か

ら紹介状をいただき(可能であれば. なくても受診可能です.)、電話でご確認の上で来院されますようお

願い申し上げます。