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128 機 械 設 計 はじめに カメラのパン・チルトの首振り動作を可能にす るジンバル機構に相当する機能の実現や,ロボッ トアームやロボットハンドの関節を小型・軽量に 構成することを目的として,直交する 2 つの回転 軸を一体化した球状歯車機構を,図1 に示すよう NEC エンベデッドプロダクツからの受託研究 により製作したので報告する。 従来の球面モータには,球体表面に N 極と S が交互に配置された内側のロータとしての永久磁 石と,外側のステータとしての電磁石との間に作 用する磁力を用いるもの 1) ,圧電体の電歪現象に より弾性体ステータに進行波を発生させ,それに よるステータ表面の楕円運動にロータを接触させ て,その摩擦力でロータを駆動するもの 2) ,およ び樽状の受動車輪を放射状に配置した形式の全方 向車輪を 120°おきに等間隔に 3 個,球体表面に 接するように配置して,摩擦車として機能させる ことで,前後左右への並進およびその場旋回の 3 自由度の動作を実現するもの 3) などが存在した。 本研究においては,伝達する動力を,2 つの直 交する回転軸周りのトルクのみに限定して,2 自 由度機構として,歯車構造による動力伝達を行う 機構を開発した。歯と歯の噛み合いにより,動力 を伝達する方式であるため,滑りが発生せず,確 実に大きな動力を伝達することが可能な機構であ るので,出力の大きな球面モータを,小型・軽量 に構成することを可能にするものである。以下に, 図 1 球状歯車機構の全景 内部球核 ピッチ軸 ロール軸 外殻

主要記事 適用の可能性 2つの回転軸を一体化した球 …pub.nikkan.co.jp/uploads/magazine_serial/pdf_595d9d4b98...ヤヘッドの減速比は64倍であり,モータ出力は

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128 機 械 設 計

はじめに

 カメラのパン・チルトの首振り動作を可能にするジンバル機構に相当する機能の実現や,ロボットアームやロボットハンドの関節を小型・軽量に構成することを目的として,直交する 2つの回転軸を一体化した球状歯車機構を,図1に示すように NEC エンベデッドプロダクツからの受託研究により製作したので報告する。 従来の球面モータには,球体表面にN極と S極が交互に配置された内側のロータとしての永久磁石と,外側のステータとしての電磁石との間に作用する磁力を用いるもの1),圧電体の電歪現象により弾性体ステータに進行波を発生させ,それによるステータ表面の楕円運動にロータを接触させて,その摩擦力でロータを駆動するもの2),および樽状の受動車輪を放射状に配置した形式の全方向車輪を 120°おきに等間隔に 3 個,球体表面に接するように配置して,摩擦車として機能させることで,前後左右への並進およびその場旋回の 3自由度の動作を実現するもの3)などが存在した。 本研究においては,伝達する動力を,2 つの直交する回転軸周りのトルクのみに限定して,2 自由度機構として,歯車構造による動力伝達を行う機構を開発した。歯と歯の噛み合いにより,動力を伝達する方式であるため,滑りが発生せず,確実に大きな動力を伝達することが可能な機構であるので,出力の大きな球面モータを,小型・軽量に構成することを可能にするものである。以下に,

主要記事

2つの回転軸を一体化した球状歯車機構の開発と

適用の可能性

山形大学 多田隈 理一郎*

ただくま りいちろう:大学院理工学研究科

機械システム工学専攻 准教授

図1 球状歯車機構の全景

内部球核ピッチ軸

ロール軸

外殻

Page 2: 主要記事 適用の可能性 2つの回転軸を一体化した球 …pub.nikkan.co.jp/uploads/magazine_serial/pdf_595d9d4b98...ヤヘッドの減速比は64倍であり,モータ出力は

129第 61 巻 第 9 号(2017 年 8 月号)

設計理念の確認と新製品開発手順および評価方法

主要記事それぞれの構成部品の特徴を紹介する。これらの

部品は,ポリアセタール樹脂(POM)で製作されており,それらを組み合せた場合の球状歯車全体の重量は374 gである。

球状歯車機構

1.球状歯車の内部球核構造 今回開発した球状歯車は,ボールジョイントのような回転軸支持機構と,歯車による動力伝達機構を融合させ,2 自由度アクチュエータとして,コンパクトに構成した機構である。まず,ボールジョイントにおけるボールに相当する,内部球核の構造について説明する。球状歯車が伝達する 2つの自由度について,本報告においては,図 2,図 3 に示すように,「内部球核」が伝達するトルクの回転軸をピッチ軸,「外殻」が伝達するトルクの回転軸をロール軸と定義することにする。内部球殻は,図 2に示すように,それが動力を伝達するピッチ軸周りに,インボリュート曲線に基づく歯車構造を有し,それに直交するロール軸の方向には,そのインボリュート曲線を,「谷」の中央を中心軸としてロール軸周りに 360°回転させたレール構造を有する。このレール構造は,ロール軸周りのトルクを伝達するための,外殻の内部の平歯車のスライド動作を妨げることがないようにするためのものである。内部球核のインボリュート曲線のモジュールは 2 で,圧力角は 20°,歯数は 30 である。内部球核のインボリュート曲線

のピッチ円までの直径は,60 mmである。

2.内部球核の中の平歯車の構造 内部球核の中には,図 2に示すように,ロール軸周りのトルクを発生するためのマクソン社製のギヤヘッド付き DC モータが設置されている。ギヤヘッドの減速比は 64 倍であり,モータ出力は0.5W である。このモータの出力軸には,ロール軸周りの方向のトルクを伝達するための平歯車が設置されており,そのトルクは,図 3に示すように,左右のロール従動歯車に伝達されている。このロール従動歯車が外殻内側のインボリュート曲線構造や「拘束歯車」と噛み合うことにより,ロール軸周りに,球状歯車機構の「出力軸」としての内部球核を回転させている。 ロール従動歯車は,1 個でも外殻や拘束歯車と噛み合い,動力を伝達するという機能を果たしうるが,偶力をよりスムーズに発生させ,内部球核を回転させやすくするために,今回は 180°おきに 2個のロール従動歯車を図 3に示すように用いている。 ロール従動歯車の歯は,それが内部球核とともにピッチ軸周りに姿勢角を変化させても,外殻の歯車構造と噛み合いつつロール軸周りの動力を伝達することが可能であるように,放射状に歯車の半径方向に伸びる回転軸周りにインボリュート曲線を360°回転させた,「円錐形状」を有している。 この内部球核の中の平歯車の駆動による回転に基づき,球状歯車機構の「出力軸」としての内部

図2 内部球核の周辺構造を示す部分断面図

ロール軸ロール軸用モータ

ロール軸用平歯車

ピッチ軸用モータ

ピッチ軸

外殻

内部球核ピッチ軸用平歯車

XY

Z

図3 外殻の周辺構造を示す部分断面図

ロール軸

ピッチ軸

外殻

ロール従動歯車

内部球核拘束歯車

XY

Z

ロール軸用平歯車