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10 機 械 設 計 協働ロボットへの期待と利用への機運 少子高齢化により生産年齢人口(16歳以上65歳 未満)の減少が進んでおり,求人しても応募者が 少ない,採用しても長続きしないなど,人手不足 が深刻化している。日本は欧米に比べ生産性が低 く,人件費も高いことから製品コストも高くなっ ている。また,従来,国内の規制においては,モ ータの定格出力が 80 W を超える産業用ロボット は柵または囲いにより人の作業空間とロボットの 作業空間を隔離する必要があった。そのため,ロ ボットの設置には広い空間が必要であり,作業内 容の変更に伴うレイアウトの変更などに多大のコ ストと技術的困難性があった。 2013 年 12 月 24 日の厚生労働省通達により, ISO 10218-1:2011 およびISO 10218-2:2011 により, それぞれ設計,製作および設置された産業用ロボ ットを,その使用条件に基づき適切に使用するな らば,柵または囲いの設置をしなくても良いとい う,規制緩和が行われた。これにより,人とロボ ットが同じ作業空間で作業することができる協働 ロボットの導入が一気に進むこととなった。 ISO/TS 15066 の作成の背景と経緯 ISO 10218-1/-2 は産業用ロボットの一般的な要 求事項について規定しており,その一部として協 働ロボットについて規定している。それらだけで は実際に協働ロボットを導入するための検討事項 として不十分である。 ISO 10218-1/-2 で規定している協働ロボットに 対する安全要求仕様,作業環境,補足の要求およ びガイダンスとして ISO/TS 15066「協働ロボッ ト技術仕様」を作成した。TS 作成は,2010 年か ら開始され 2016 年に発行された。 ISO 10218-1 10218-2,ISO/TS 15066 の要求事項 1.ISO 10218-1:2011の要求事項 ISO 10218-1「ロボットおよびロボティックデ バイス産業用ロボットのための安全要求事 第 1 部:ロボット」の目次は以下となってい る。 1.適用範囲 2.引用規格 3.用語および定義 4.危険源同定およびリスクアセスメント 5.設計要求事項および保護方策 6.安全要求事項および保護方策の検証および 妥当性確認 7.使用上の情報 附属書 A 重要な危険源リスト 附属書 B 停止時間および停止距離の測定方法 附属書 C 3 ポジションイネーブル装置の機能 的特徴 附属書 D 任意選択の機能 附属書 E ラベル 附属書 F 安全要求事項および方策の検証手順 解説 1 国際規格に基づく協働ロボットシステムの 導入要点 ―ISO 10218―1 と―2,ISO/TS 15066 に基 づくリスク低減― 村田機械 大西 正紀 *おおにし まさのり:クリーンFA 事業部 技術部

国際規格に基づく協働ロボットシステムの 導入要点 …pub.nikkan.co.jp/uploads/magazine_introduce/pdf_5a02600...第61巻 13号(2017年12月号) 11 協働ロボットシステムのリスクアセスメントと安全確保

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10 機 械 設 計

協働ロボットへの期待と利用への機運

 少子高齢化により生産年齢人口(16歳以上65歳未満)の減少が進んでおり,求人しても応募者が少ない,採用しても長続きしないなど,人手不足が深刻化している。日本は欧米に比べ生産性が低く,人件費も高いことから製品コストも高くなっている。また,従来,国内の規制においては,モータの定格出力が 80 W を超える産業用ロボットは柵または囲いにより人の作業空間とロボットの作業空間を隔離する必要があった。そのため,ロボットの設置には広い空間が必要であり,作業内容の変更に伴うレイアウトの変更などに多大のコストと技術的困難性があった。 2013 年 12 月 24 日の厚生労働省通達により,ISO 10218-1:2011および ISO 10218-2:2011により,それぞれ設計,製作および設置された産業用ロボットを,その使用条件に基づき適切に使用するならば,柵または囲いの設置をしなくても良いという,規制緩和が行われた。これにより,人とロボットが同じ作業空間で作業することができる協働ロボットの導入が一気に進むこととなった。

ISO/TS 15066の作成の背景と経緯

 ISO 10218-1/-2は産業用ロボットの一般的な要求事項について規定しており,その一部として協働ロボットについて規定している。それらだけでは実際に協働ロボットを導入するための検討事項

として不十分である。 ISO 10218-1/-2で規定している協働ロボットに対する安全要求仕様,作業環境,補足の要求およびガイダンスとして ISO/TS 15066「協働ロボット技術仕様」を作成した。TS 作成は,2010 年から開始され2016年に発行された。

ISO 10218-1 お よ び 10218-2,ISO/TS 15066の要求事項

 1.ISO 10218-1:2011の要求事項 ISO 10218-1「ロボットおよびロボティックデバイス―産業用ロボットのための安全要求事項―第 1部:ロボット」の目次は以下となっている。 1.適用範囲 2.引用規格 3.用語および定義 4.危険源同定およびリスクアセスメント 5.設計要求事項および保護方策 6. 安全要求事項および保護方策の検証および

妥当性確認 7.使用上の情報 附属書A 重要な危険源リスト 附属書B 停止時間および停止距離の測定方法 附属書C  3 ポジションイネーブル装置の機能

的特徴 附属書D 任意選択の機能 附属書E ラベル 附属書F 安全要求事項および方策の検証手順

解説1

国際規格に基づく協働ロボットシステムの導入要点―ISO 10218―1 と―2,ISO/TS 15066 に基づくリスク低減―

村田機械 大西 正紀*

*おおにし まさのり:クリーンFA事業部 技術部

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11第 61 巻 第 13 号(2017 年 12 月号)

特集1協働ロボットシステムのリスクアセスメントと安全確保

 引用規格として以下が主なものとして示される。 ・ ISO 12100 機械類の安全性―設計のための一般原則―リスクアセスメントおよびリスク低減

 ・ ISO 13849-1:2006 機械類の安全性―制御システムの安全関連部―第 1部:設計のための一般原則

 ・ ISO 13850 機械類の安全性―非常停止―設計原則

 ・ ISO 10218-2 ロボットおよびロボティックデバイス―産業用ロボットのための安全要求事項―第 2部:ロボットシステムおよびインテグレーション

 ・ IEC 60204-1 機械類の安全性―機械の電気装置―第1部:一般要求事項

 ・ IEC 62061:2005 機械類の安全性―安全関連の電気・電子・プログラマブル電子制御システムの機能安全

 ロボットの設計者は,ISO 10218-1 以外に上記規格を熟知していないとロボットの設計ができない。 協働ロボットに関しては規格の 5.10 項に「協働運転要求事項」として規定されている。協働運転のために設計されたロボットは,協働運転中であることを示す視覚表示を備えなければならず,「安全適合の監視停止」「ハンドガイド」「速度および間隔の監視」「本質的設計または制御による動力および力の制限」の 1つ以上の要求事項に適合しなければならない。とくに安全適合の監視停止には,人間が協働作業空間内に存在するときは,ロボットは停止しなければならない。停止機能は,以下に適合しなければならない。 ISO 13849-1(5.4 項)で規定するカテゴリ 3(二重系)のアーキテクチャで PL=d または,IEC

62061で規定するプルーフテスト間隔が20年以上で,ハードウェアフォールトトレランスが 1(二重系)の SIL2 に適合するように設計しなければならない。また保護停止機能(外部保護装置に接続するために設計した 1 つ以上の保護停止)も持たなければならない。 次の規定が協働運転を可能とする項目である。人間が協働作業空間から離れると,ロボットは自

動運転に復帰しても良い。また,ロボットは,IEC 60204-1 に従った停止カテゴリ 2(駆動源が入った状態での停止)としても良い。この停止は,一旦停止したら ISO 13849-1(5.4項)で規定する安全関連制御システムによって監視しなければならない。安全適合の監視停止機能の不具合(故障)は,停止カテゴリ 0(駆動源の即遮断)としなければならない。ISO 10218-1:2011 は JIS B 8433-1:2015として日本語で読めるので,参照されたい。 2.ISO 10218-2:2011の要求事項 ISO 10218-2「ロボットおよびロボティックデバイス―産業用ロボットのための安全要求事項―第 2部:ロボットシステムおよびインテグレーション」の目次は以下となっている。 1.適用範囲 2.引用規格 3.用語および定義 4.危険源の同定およびリスクアセスメント 5.安全要求事項および保護方策 6. 安全要求事項および保護方策の検証および

妥当性確認 7.使用上の情報 附属書A 重要な危険源リスト 附属書B 保護装置に関する規格間の関係 附属書C 材料の搬出入口に対する安全防護 附属書D 2台以上のイネーブル装置の操作 附属書E プロセスの観察 附属書G 安全要求事項および方策の検証手段 参照規格として,ISO 10218-1 の参照規格プラス,20 以上の規格が示されている。すなわち,ロボットの設計に比べて,より広い安全規格を熟知していることが必要とされる。 協働ロボットに関しては規格の 5.11 項に「協働ロボットの運転」として規定されている。協働とは,共通の作業空間を共有する人とロボットとの間の特別な運転である。次のすべてを満たす場合に限る。 ・あらかじめ決められたタスクに使われる。 ・必要な保護方策が作動中に可能である。 ・ ISO 10218-1 に適合する協働運転のために特

別に設計された特性をもつロボットである。 インテグレータは,協働運転に求められる安全