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NTT技術ジャーナル 2017.318
将来の大容量光ネットワークを支える空間多重光通信技術の最先端
背 景
通信トラフィックは年々増加しており,日本においてもインターネットトラフィックは2015年では総容量が5.4 Tbit/sに達し,年間50%で増加しています(1).年間40%の増加率を想定した場合は2020年代の中期には,Pbit/s以上の容量になると予測されます.シングルモードファイバ(SMF)の容量の限界としては100 Tbit/sと想定されています.SMFの容量の限界を超えるために,これまでに高密度空間 分 割 多 重(DSDM: Dense Space Division Multiplexing)を適用した伝送技術が検討されています(2).光伝送基盤ネットワークを構築するフォトニックノードにおいても同様に,大容量トラ フ ィッ ク を 扱 う た め に はDSDMの適用が必要になると予想されます(3).
フォトニックノードのスループットSは,方路数N,コア数M,周波数利用効率η,所望帯域Bの積で表されます.方路数,コア数と周波数利用効率と実現できるスループットの関係を図 1 に示します.光通信に主に利用される1.55 μm帯(Cバンド)と1.58 μm帯(Lバンド)の両帯域合わせて10
THzの帯域が利用できます.図中の実線はCバンド,Lバンドを合わせた10 THzの信号波長帯を想定した場合のスループット 1 Pbit/sの容量の光ノードを実現するための周波数利用効率と空間分割多重数(方路数コア数積NM) の 関 係 を 示 し て い ま す.10 Pbit/s級のスループットの実現に向けて,周波数利用効率が 5 bit/s/Hz以上となるPDM-16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)以上の多重度の変調方式を用いた場合,ηは 5 〜 6 bit/s/Hz以上が期待でき,所望帯域B=10 THzとすると,方路数コア数積NMが150〜200程度のSDMフォト
ニックノードが必要になります.このため方路数を 8 方路とすると,20コア超のDSDMを適用したフォトニックノードが必要となることが分かります.これまでROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)を構成していた,波長選択スイッチ(WSS: Wavelength Selective Switch) で はそのポート数は20ポート程度であり,大容量なDSDMフォトニックノードを構成するためには課題があります.
本稿では大容量の光ネットワークの実現のためにDSDM技術を適用するフォトニックノードの概要と実現に向けた技術について紹介します.
空間分割多重 光ノードアーキテクチャ 波長選択スイッチ集積技術
図 1 方路数・コア数と周波数利用効率との関係
実現目標 PDM-64QAM
10010
10
5
1
200
PDM-32QAM
PDM-16QAM
周波数利用効率η
方路数・コア数積N・M
N・M・η・B ≧ 1 Pbit/sBが10 THzの場合
高密度空間分割多重(DSDM)フォトニックノード基盤技術
これまでの大容量のトラフィックを転送する光伝送基盤ネットワークでは光信号を伝送する伝送技術と光信号を波長で多重分離,経路設定を行うROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)などのフォトニックノード技術で構成されています.本稿では,大容量の光ネットワークの実 現 の た め に 高 密 度 空 間 分 割 多 重(DSDM: Dense Space Division Multiplexing)技術を適用するフォトニックノードの概要と可能性について紹介します.
福ふくとく
徳 光みつのり
師 /鈴す ず き
木 賢け ん や
哉
佐さ は ら
原 明あ き お
夫 /犬いぬづか
塚 史ふみかず
一
宮みやもと
本 裕ゆたか
NTT未来ねっと研究所†1
NTT先端集積デバイス研究所†2
† 1 † 2
† 1 † 1
† 1
NTT技術ジャーナル 2017.3 19
特集
DSDMフォトニックノード構成とSDMフォトニックネットワーク
DSDMフォトニックノードは,空間領域という新たな自由度が加わったことにより,ノード構成が複雑化します.このため,SDMフォトニックネットワークに必要な切替機能を提供するノードをシンプルに実現することがDSDMフォトニックノードの課題になります. ■空間モード切替による分類
DSDMフォトニックノードは,空間モードごとに切替を行うか否かにより,①空間モードジョイントスイッチと,②空間モード独立スイッチに大きく分類されます(表 1 ).SDM伝送方式では, 1 心の光ファイバの中に複数のコアを設けたマルチコアファイバ
(MCF), 1 つのコアの中を複数の導波モードが伝搬できるマルチモードファイバ(MMF)がありますが,ここでの空間モードとは,MCF内の各コア,MMF内の各導波モードを指しています.空間モードジョイントス
イッチでは, 1 心の光ファイバに含まれるすべての空間モードを一括して同一の光ファイバに切り替えて出力するのに対して,空間モード独立スイッチでは,空間モードごとに独立して出力する光ファイバを選択します.光ファイバにMMFを用いた場合には,空間モード(導波モード)間で光信号が結合するため,複数の導波モードをまとめて送受信して,受信側で各導波モードに分離する処理が必要になります.1 心の光ファイバから入力された複数の導波モードはすべて同一の光ファイバに出力するため,空間モードジョイントスイッチの切替機能で十分になります.一方,光ファイバにMCFを用いた場合には,空間モード(コア)間の結合が小さく,各空間モードで異なる送受信ノードの光信号を伝搬できます.このため,空間モードジョイントスイッチから空間モード独立スイッチにすることで切替の粒度が小さくなり,より柔軟な切替制御が実現できます.
■切替粒度と切替自由度による分類空間モード独立スイッチにおいて,
波長の単位で切替を行うか否か(波長独立性の有無)と空間モード間の切替の有無で分類したDSDMフォトニック ノ ー ド 構 成 を 表 2 に 示 し ま す.SDM伝送方式では, 1 つのコア,または 1 つの導波モードにおいて,複数の波長の光信号を多重して伝搬することができます.DSDMフォトニックノード構成は,この 1 つの空間モードの中の複数の波長の光信号に対して,①すべての波長をまとめて切替を行うファイバクロスコネクト(ファイバXC)と,②波長ごとに独立して切替を行う波長クロスコネクト(波長XC)に分類できます.さらに,表 2 では,波長XCについて,空間モード間での切替の有無で分類した構成を示しています.各構成について,ファイバXCから波長XCにすることで切替の粒度が細かくなり,さらに,空間モード間の切替を可能にすることで切替の自由度が高くなり,より柔軟な切替制御ができるようになります.
切替粒度と切替自由度のほかに,信号レベル調整と各構成におけるノード実現に必要なスイッチ規模についても表 2 に示します.波長XCで空間モード間の切替を行う構成(②- 2 )は柔軟性の高い切替制御ができ,さらに,伝送路やノードから発生した光信号の空間モード間,波長間両方のばらつきを抑えるレベル調整が可能な特徴がありますが,スイッチ規模が大きくなる側面を持っており,ノードをシンプルに実現することが課題になります.
今後,SDN(Software Defined Networking)* 1などによるネットワー
*1 SDN:ネットワーク機器の動作をソフトウェアで一括制御する技術です.
表 1 空間モード切替による分類
①空間モードジョイントスイッチ ②空間モード独立スイッチ
スイッチ構成
切替機能の柔軟性
×(低)
○(高)
切替粒度 ×(全空間モード一括)
○(空間モード単位)
切替自由度 ×(空間モード間切替不可)
×(空間モード間切替可能)
切替信号の空間モード結合 モード結合有 ・ 無 モード結合無
NTT技術ジャーナル 2017.320
将来の大容量光ネットワークを支える空間多重光通信技術の最先端
クの制御技術が進展して,より柔軟にネットワークを制御することが必要にな る と 予 測 さ れ ま す.こ の た め,NTT研究所では,より柔軟な切替制御が可能なDSDMフォトニックノード構成として,空間モード独立で空間モード間の切替が可能な波長XCの検討を進めています.
DSDMフォトニックノードを適用するネットワークにおいて,ネットワークリソースを効率的に割り当てるためには,空間領域の自由度を考慮する必要があります.SDMフォトニックネットワークに進展することで,ネットワーク収容設計では,従来の波 長 分 割 多 重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)ネットワークにおける通信ルートへの波長領域のリソース割当てに加えて,空間領域のリソースの割当ても含め,リソース利用効率を最適化する必要があります.媒体 と し て の 光 フ ァ イ バ(MCF,
MMF)やフォトニックノードの伝送特性も信号を収容するための条件となります.このため,SDMフォトニックネットワークにおいても光ファイバ特性やフォトニックノード構成が非常に重要な要素となります.
DSDMフォトニックノード スイッチデバイス
DSDMフォトニックノードにおいては,複数のスイッチデバイスが用いられます.SDM技術はWDM通信と合わせて用いられることでスループットを上げることが想定されており,ここでは波長ごとにスイッチングするWSSが必要とされます.したがって,SDMフォトニックネットワークにおいては,複数のWSSを用いて構成する必要があり,ノード装置のフットプリントの増大が課題となり得ます.
私たちは,複数のWSSを 1 つのモジュールに集積するオリジナルの光学
系技術として,導波路光学系* 2 と空間光学系* 3 を組み合わせた空間 ・ 平面光回路プラットフォーム(SPOC: Spatial and Planar Optical Circuit)を開発しています(4).
SPOCプラットフォームを用いた複数WSSの集積の光学系の概略を図 2に示します.複数WSSの集積は光導波路に設置された空間ビーム変換回路
(SBT: Spatial Beam Transformer)と呼ばれる回路要素が重要な役割を果たします.SBT回路は平面状の自由空間領域(スラブ導波路)と長さが均一に設定されたアレイ導波路群からなります.図 2 において,SBT-Comと表記されたSBT回路に対して,ピン
*2 導波路光学系:光集積回路技術の1つである光導波路を用いた光学系です.集積性の高い光通信デバイスの実現に使われています.
*3 空間光学系:レンズや回折格子などを用いた光学系です.導波路光学系に比べて大型になるものの,非常に高い光学性能を実現できます.
表 2 切替粒度と切替自由度による分類
①ファイバXC②波長XC
②- 1 空間モードの切替無 ②- 2 空間モードの切替有
ノード構成
切替機能の柔軟性
切替自由度 ○(空間モード間切替可能)
×(空間モード間切替不可)
○(空間モード間切替可能)
切替粒度 ×(空間モード単位)
○(波長単位)
○(波長単位)
信号レベル調整
×(波長間偏差は等化不可)
○(空間モード間偏差 ・ 波長間偏差
を等化可能)
○(空間モード間偏差 ・ 波長間偏差
を等化可能)
スイッチ規模(スイッチ素子数) (MK)2 W ・ M2K W ・(MK)2
M:方路数 K:空間モード数 W:波長多重数
方路1,空間モード1
方路1,空間モードK
方路M,空間モード1
方路M,空間モードK
MK x MKMatrixスイッチ
方路M,空間モードK
方路M,空間モード1
方路1,空間モードK
方路1,空間モード1 M x M
MatrixスイッチM x MMatrixスイッチM x MMatrixスイッチ
方路M,空間モードK
方路M,空間モード1
方路1,空間モードK
方路1,空間モード1
MK xMKMatrixSW
MK xMKMatrixスイッチ
NTT技術ジャーナル 2017.3 21
特集
クの矢印の入力に光信号が入力されると,光信号はスラブ導波路で平面上に広がり,アレイ導波路を介して空間光学系に出力されます.ここで,各アレイ導波路の長さが等しく設定されているので,出力される光信号の波面は平面波であり,その向きはピンクの点線で示される方向です.入力ポートを,緑のポートに変えたときには,出力される光信号は上向きの緑の点線の方向の平面波となります.それぞれの光信号は,スイッチングエンジンである空間光変調器(SLM: Spatial Light Modulator)のそれぞれ異なる位置に到達して,独立に異なる方向に反射されます.最終的に,それぞれの光信号は,出力側のSBT回路へ光結合して,任意の出力ポートに,独立にスイッチングされます.
複数WSSの集積機能を用いて,私たちはMCF用のWSSを作製しました(5).SPOCプラットフォームにおける光導波路光学系の写真を図 ₃ に示します.MCFは 2 次元のコア配置ですので,平面である光導波路に組み合わせるには 2 次元→ 1 次元変換が必
要です.今回,超短パルスレーザ* 4
を用いた 3 次元導波路技術を使って,2 次元→ 1 次元変換を行うコア配置変換回路を作製し,MCFの光導波路への直接接続を実現しました. 7 コアのMCF用の 1 × 4 WSSの各コアに対するスイッチングスペクトルを図 ₄ に示します.第 1 および第 7 コアに対しては,波長チャネルで異なる波長帯域を持つフレキシブルグリッド動作を,第 2 および第 3 コアに対し
ては,200 GHzのチャネル間隔で, 2つの方路へスイッチングするとともに減衰動作を,第 4 から第 6 コアに対しては,50 GHzのチャネル間隔で 4つの異なる方路にスイッチング動作を設定しました.
いずれの例においても波長選択スイッチとしての動作が実現されてお
Ω
図 2 SPOCプラットフォームによる複数WSS集積の原理
ABCABCABCABCABC
SBT- 1
SBTアレイ レンズ
SLM
ω
S
θmax
SBT- 2
SBT-Com
SBT- 3
SBT- 4
領域A
領域B
領域C
図 3 MCF用WSSにおける光導波路フロントエンド
アレイMCF
レーザ刻印FI/FO
光導波路フロントエンド
FI/FO:Fan-In/Fan-Out
*4 超短パルスレーザ:出力される光パルスが,フェムト秒~ナノ秒オーダの時間幅を持つレーザを指します.
NTT技術ジャーナル 2017.322
将来の大容量光ネットワークを支える空間多重光通信技術の最先端
り,SPOCプラットフォームがDSDMフォトニックノードスイッチに有効であることを示しました.
今後の展開
SPOCプラットフォームは,DSDMフォトニックノードを小型化するキー技術です.NTT研究所では,これらの要素技術の研究開発を加速するために,情報通信研究機構からの委託研究の支援を受け,オープンイノベーショ
ンによる研究開発を行っています(6).
■参考文献(1) ht tp ://www.soumu .go . jp/menu_news/
s-news/01kiban04_02000103.html(2) 宮本 ・ 川村:“大容量光ネットワークの進化
を支える空間多重光通信技術,” NTT技術ジャーナル,Vol.29,No.3,pp.8-12,2017.
(3) H. Takara, A. Sano, T. Kobayashi, H. Kubota, H. Kawakami, A. Matsuura, Y. Miyamoto, Y. Abe, H. Ono, K. Shikama, Y. Goto, K. Tsujikawa, Y. Sasaki, I. Ishida, K. Takenaga, S. Matsuo, K. Saitoh, M. Koshiba, and T. Morioka:“1.01-Pb/s(12 SDM/222 WDM/456 Gb/s) Crosstalk-managed transmission with 91.4-b/s/Hz aggregate spectral efficiency,” Proc. of ECOC 2012,Postdeadline Paper, Th.3.C.1.,Amsterdam,Netherland,Sept. 2012.
(4) K. Suzuk i , K . Seno , and Y . Ikuma:“Application of waveguide/free-space optics hybrid to ROADM device,” IEEE J. Ligh t-wave Technol., Vol.PP,No.99,p.1,August 2016.
(5) K. Suzuki, M. Nakajima, K. Yamaguchi, G. Takashi, Y. Ikuma, K. Shikama, Y. Ishii, M. Itoh, M. Fukutoku, T. Hashimoto, and Y. Miyamoto:“Wavelength Selective Switch for Multi-core Fiber Based Space Division Multiplexed Network with Core-by-core Switching Capability,” Proc. of OECC/PS 2016,WF1-2,Niigata,Japan,July 2016.
(6) 宮本 ・ 佐藤 ・ 福徳 ・ 釣谷 ・ 橋本 ・ ガボリ・中島 ・ 杉崎 ・ 長瀬:“空間多重フォトニックノード 基 盤 技 術 の 研 究 開 発,” 信 学 技 報, Vol. 116, No. 307, PN2016-40, pp. 87-92, 2016.
Output 1
Input
WSS
WSS
WSS
WSS
WSS
WSS
WSS
FO
Output 2FO
Output 3FO
Output 4FO
FI
Output 1
Input
WSS
WSS
WSS
WSS
WSS
WSS
WSS
FO
Output 2FO
Output 3FO
Output 4FO
FI
Output 1
Input
WSS
WSS
WSS
WSS
WSS
WSS
WSS
FO
Output 2FO
Output 3FO
Output 4FO
FI
Output 1
Input
WSS
WSS
WSS
WSS
WSS
WSS
WSS
FO
Output 2FO
Output 3FO
Output 4FO
FI
図 4 7コアMCF用WSSのスイッチングスペクトル例
-70-60-50-40-30-20(dB)
(dB)
(dB)
(dB)
1530 1535 1540 1545 1550 1555 1560 1565
透過率
-70-60-50-40-30-20
透過率
-70-60-50-40-30-20
透過率
-70-60-50-40-30-20
透過率
波長
(a) 第 1 のコア
波長
(b) 第 2のコア
波長
(d) 第 4のコア
波長
(c) 第 3のコア
1530 1535 1540 1545 1550 1555 1560 1565
ATT=0, 5, 10 dBATT=0, 5 dB
1530 1535 1540 1545 1550 1555 1560 1565 (nm)
(nm)
(nm)
(nm)
ATT=0, 5, 10 dB
1530 1535 1540 1545 1550 1555 1560 1565
(左から) 犬塚 史一/ 鈴木 賢哉/ 宮本 裕/ 福徳 光師/ 佐原 明夫
光ファイバの伝送容量限界を超える将来の大容量ネットワークを支えるために,NTT研究所ではデバイス等要素技術をはじめ空間多重光通信技術およびそのネットワークへ適用の検討を行っています.
◆問い合わせ先NTT未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部
TEL 046-859-3011FAX 046-859-5541E-mail pt-hosa-mirai lab.ntt.co.jp