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136 ■自由論考 ( 授業研究ノート) 英語授業におけるアクティブ ・ ラーニングの一考察 中井 弘一 — How active learning works in English class 抄 録 アクティブ ・ ラーニングは 「能動的学習」 「積極的学習」 「主体的学習」 とも呼ばれ、 新学習指導要領改訂での大きなキーワードの一つになっ ている。 アクティブ ・ ラーニングはなぜ効果があると考えられているのか。 アクティブ ・ ラーニングには発見学習、 問題解決学習、 体験学習、 調 査学習などが含まれ、 教室内での集団議論、 討論会、 グループ ・ ワークなども有効な方法とされている。 それは学習内容ではなく、 学習方法 である。 生徒が主体的に参加する能動学習といっても形態面に囚われていては、 効果はない。 本稿では、 個々の生徒の学習意欲や学習能力 を高めるためにはどのようにアクティブ ・ ラーニングという学習方法を英語の授業で活用すればよいのか、 アクティブ ・ ラーニングを実質化するた めの考え方やその工夫を考察する。 Key-words: アクティブ ・ ラーニング 思考力 能動的学習 主体的学習 学習形態 “Active learning” is one of the main keywords in the revision of next Course of Study in Japan. Why is active learning taken up as an effective learning method? Discovery learning, problem solving learning, experience learning, and exploratory learning are included in active learning, and group activities such as group discussion, group work are regarded as effective learning methods. However, active learning is not learning contents but learning methods. It would be not effective enough as long as we are hung up with the learning forms even if it is an active learning method. This paper describes what the key concept of active learning is, and suggests what are requested to conduct active learning methods. 1. はじめに 次期学習指導要領の改訂では、 学ぶことと社会とのつながりを意識し、 「何を教えるか」 という知識の質・量の改善に加え、 「ど のように学ぶか」 という、 学びの質や深まりを重視することが必要であるとして、 どのように学ぶのかに着目し改訂が図られると文 部科学省は発表している。 ただ、 どのように学ぶかのプロトタイプとして、 課題の発見 ・ 解決に向けて主体的 ・ 協働的に学ぶ学 習 ( いわゆる 「アクティブ ・ ラーニング」 ) の充実と、 アクティブ ・ ラーニングが金科玉条のように唱えられている。 アクティブ ・ ラー ニングは新学習指導要領の宝刀であるかのようである。 文部科学省が定義するアクティブ ・ ラーニングは、 「教員による一方向的 な講義形式の教育とは異なり、 学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授 ・ 学習法の総称。 学修者が能動的に学修す ることによって、 認知的、 倫理的、 社会的能力、 教養、 知識、 経験を含めた汎用的能力の育成を図る。 発見学習、 問題解決 学習、 体験学習、 調査学習等が含まれるが、 教室内でのグループ ・ ディスカッション、 ディベート、 グループ ・ ワーク等も有効 なアクティブ ・ ラーニングの方法である」 としている。 これをそのまま読めば、 協同学習を行うことがアクティブ ・ ラーニングの典 型的なひな型であるように思える。 こうした動きに学校現場の教員は戸惑いを覚えていると思われる。 学習方法は対象となる生徒によっても異なる。 一律にアクティ ブ ・ ラーニングを求められても、 今までの指導方法はアクティブ ・ ラーニングと言えないのか、 自分の指導法に不安を感じる教員 もいると思われる。 本稿では、 一般化されたアクティブ ・ ラーニングを再考し、 個々の生徒の学習意欲や学習能力を高めるため にはどのようにアクティブ ・ ラーニングという学習方法を英語の授業で活用すればよいのか、 アクティブ ・ ラーニングを実質化する ための考え方やその工夫を考察する。 2. アクティブ ・ ラーニング推進の背景 文部科学省塩見みづ枝高等教育局大学振興課長は、 「大学教育の質的転換と教員養成への期待」 の講演で、 文部科学省 がまとめている資料を使って、「グローバル化の進展」 に対応する 「真の学ぶ力」 を育む教育改革の必要性を取り上げている。 「子 供たちの 65% は、 大学卒業後、 今は存在していない職業に就く——キャシー ・ デビッドソン氏 ( ニューヨーク市立大学大学院セン ター教授 )」「今後 10 〜 20 年程度で、約 47% の仕事が自動化される可能性が高い——マイケル・A ・オズボーン氏 ( オックスフォー ド大学准教授 )」 という状況の中、 「先を見通すことの難しい時代において、 生涯を通じて不断に学び、 考え、 予想外の事態を 乗り越えながら、 自らの人生を切り拓き、 より良い社会づくりに貢献していくことができる人聞を育てることが必要」 とし我が国に長

自由論考(授業研究ノート) 英語授業におけるアクティブ・ラー … · included in active learning, and group activities such as group discussion, group work

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136

■自由論考 ( 授業研究ノート)

英語授業におけるアクティブ ・ ラーニングの一考察

中井 弘一 

— How active learning works in English class —

抄 録

 アクティブ ・ ラーニングは 「能動的学習」 「積極的学習」 「主体的学習」 とも呼ばれ、 新学習指導要領改訂での大きなキーワードの一つになっ

ている。 アクティブ ・ ラーニングはなぜ効果があると考えられているのか。 アクティブ ・ ラーニングには発見学習、 問題解決学習、 体験学習、 調

査学習などが含まれ、 教室内での集団議論、 討論会、 グループ ・ ワークなども有効な方法とされている。 それは学習内容ではなく、 学習方法

である。 生徒が主体的に参加する能動学習といっても形態面に囚われていては、 効果はない。 本稿では、 個々の生徒の学習意欲や学習能力

を高めるためにはどのようにアクティブ ・ ラーニングという学習方法を英語の授業で活用すればよいのか、 アクティブ ・ ラーニングを実質化するた

めの考え方やその工夫を考察する。

Key-words: 

アクティブ ・ ラーニング 思考力 能動的学習 主体的学習 学習形態

“Active learning” is one of the main keywords in the revision of next Course of Study in Japan. Why is active learning taken up

as an effective learning method? Discovery learning, problem solving learning, experience learning, and exploratory learning are

included in active learning, and group activities such as group discussion, group work are regarded as effective learning methods.

However, active learning is not learning contents but learning methods. It would be not effective enough as long as we are hung up

with the learning forms even if it is an active learning method. This paper describes what the key concept of active learning is, and

suggests what are requested to conduct active learning methods.

1. はじめに

次期学習指導要領の改訂では、 学ぶことと社会とのつながりを意識し、 「何を教えるか」 という知識の質・量の改善に加え、 「ど

のように学ぶか」 という、 学びの質や深まりを重視することが必要であるとして、 どのように学ぶのかに着目し改訂が図られると文

部科学省は発表している。 ただ、 どのように学ぶかのプロトタイプとして、 課題の発見 ・ 解決に向けて主体的 ・ 協働的に学ぶ学

習 ( いわゆる 「アクティブ ・ ラーニング」 ) の充実と、 アクティブ ・ ラーニングが金科玉条のように唱えられている。 アクティブ ・ ラー

ニングは新学習指導要領の宝刀であるかのようである。 文部科学省が定義するアクティブ ・ ラーニングは、 「教員による一方向的

な講義形式の教育とは異なり、 学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授 ・ 学習法の総称。 学修者が能動的に学修す

ることによって、 認知的、 倫理的、 社会的能力、 教養、 知識、 経験を含めた汎用的能力の育成を図る。 発見学習、 問題解決

学習、 体験学習、 調査学習等が含まれるが、 教室内でのグループ ・ ディスカッション、 ディベート、 グループ ・ ワーク等も有効

なアクティブ ・ ラーニングの方法である」 としている。 これをそのまま読めば、 協同学習を行うことがアクティブ ・ ラーニングの典

型的なひな型であるように思える。

こうした動きに学校現場の教員は戸惑いを覚えていると思われる。 学習方法は対象となる生徒によっても異なる。 一律にアクティ

ブ ・ ラーニングを求められても、 今までの指導方法はアクティブ ・ ラーニングと言えないのか、 自分の指導法に不安を感じる教員

もいると思われる。 本稿では、 一般化されたアクティブ ・ ラーニングを再考し、 個々の生徒の学習意欲や学習能力を高めるため

にはどのようにアクティブ ・ ラーニングという学習方法を英語の授業で活用すればよいのか、 アクティブ ・ ラーニングを実質化する

ための考え方やその工夫を考察する。

2. アクティブ ・ ラーニング推進の背景

文部科学省塩見みづ枝高等教育局大学振興課長は、 「大学教育の質的転換と教員養成への期待」 の講演で、 文部科学省

がまとめている資料を使って、「グローバル化の進展」 に対応する 「真の学ぶ力」 を育む教育改革の必要性を取り上げている。 「子

供たちの 65% は、 大学卒業後、 今は存在していない職業に就く——キャシー ・ デビッドソン氏 ( ニューヨーク市立大学大学院セン

ター教授 )」 「今後 10 〜 20 年程度で、約 47% の仕事が自動化される可能性が高い——マイケル・A ・オズボーン氏 ( オックスフォー

ド大学准教授 )」 という状況の中、 「先を見通すことの難しい時代において、 生涯を通じて不断に学び、 考え、 予想外の事態を

乗り越えながら、 自らの人生を切り拓き、 より良い社会づくりに貢献していくことができる人聞を育てることが必要」 とし我が国に長

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らく続いた学力観を転換し、 成熟社会にふさわしい 「真の学ぶ力」 を育成 ・ 評価できるよう抜本的な意識改革 ・ 制度改革を早

急に図ることが必要であるとしている。

これまでは、「ゆとりの教育」 「詰め込み教育」 とを二項対立的に教育を見てきたが、これからは、①知識・技能の習得、②知識・

技能を活用して、 自ら課題を発見しその解決に向けて探究し、 成果等を表現するために必要な思考力 ・ 判断力 ・ 表現力等の

能力の育成、 ③主体性を持ち、 多様な人々と協働しつつ学習する態度を持ち合わせる 「真の学ぶ力」 の育成を教育目標として

いると文部科学省の考えを説明している。 新学習指導要領では、 「何ができるようになるか」 を中心に、 「何を学ぶか」 「どのよう

に学ぶか」 を視点に改訂が進められる。

この 「どのように学ぶか」 において取り上げられているのがアクティブ ・ ラーニングである。 文部科学省の資料にも、 どのように

学ぶかは 「アクティブ ・ ラーニングの視点からの普段の授業改善」 とある。 その観点は、

・ 習得 ・ 活用 ・ 探究という学習プロセスのなかで、 問題発見 ・ 解決を念頭に置いた深い学びの課程が実現できているか

どうか

・ 他者との協働や外界との相互作用を通じて、 自らの考えを広げ深める、 対話的な学びの過程が実現できているかどうか

・ 子供たちが見通しを持って粘り強く取り組み、 自らの学習活動を振り返って次につなげる、 主体的な学びの過程が実現

できているかどうか

である。 確かに従来の授業 (板書を見ながら教員の話を聞き、 ノートに筆写する) のままでは、 学ぶことの楽しみを与えることが

難しいであろう。 一斉教育がこれからの教育に充分には機能しないと考えられていることが、 アクティブ ・ ラーニングが登場した背

景であろう。しかしながら、アクティブ・ラーニンを学習形態や指導形態のフレームを示すだけの文部科学省の説明が並べられても、

アクティブ ・ ラーニングの概念やどのように指導することがアクティブ ・ ラーニングになるのか、 またそれはなぜ有効なのか実証的

な説明はされていない。

3. アクティブ ・ ラーニングとは何か

3.1 アクティブ ・ ラーニングの概念の捉え方

新学習指導要領に基本構想にアクティブ ・ ラーニングが取り上げられてから、 アクティブ ・ ラーニングに関する書籍や論文が出

回りだした。 アクティブ ・ ラーニングの研究者として新聞紙上でいつもコメントを求められている溝上 (2014) は、 まずもって英語

では active learning と二語表記のアクティブ ・ ラーニングを 「アクティブラーニング」 と従来の能動的学習の概念を刷新するとし

て一語扱いし、 その定義を、 「一方的な知識伝達型講義を聴くという (受動的) 学習を乗り越える意味での、 あらゆる能動的な

学習のこと。 能動的な学習には、 書く ・ 話す ・ 発表するなどの活動への関与と、 そこで生じる認知プロセスの外化を伴う」 として

いる。 溝上の定義もやや曖昧である。 「学習を乗り越える」 という文学的表現を説明するものとして、 「書く ・ 話す ・ 発表するなど

の活動への関与」 「認知プロセスの外化」 を加えている。 「学び自体は受動的なものではない。 講義を聴くことも主体的な学習

である」 とする批判に対し、 溝上は 「講義」 において学習者が受動 ・ 能動的であるという問題ではなく、 学び方をより能動的に

行うことに意味があると主張している。

石井 (2015) も、 「やっていることの意味がまったくわからなくなったとき、 わかった感 ・ 納得感がまったく得られなくなったとき、

子どもたちは勉強についていけなくなります。 そして、 勉強が苦手な子は、 学び方のレベルでつまずいていることが多いのです。

実際に活動したり対話したりすることは、 思考の成立を子ども任せにせずに、 頭を使って意味を構成する実質的な機会を保障し

ていくことや、 一人では出来なくてもクラスメートと一緒なら出来たという達成感や納得感を子どもたちに残していくことつながる」 と

今、 求められる学力と学びとしての協同学習の有効性を 『今求められる学力と学びとはーコンピテンシー ・ ベースのカリキュラム

の光と影』 で述べている。

しかしながら、 active とは何なのかという概念の理解の混乱や文部科学省のお題目的な伝達による 「アクティブ ・ ラーニング」

という用語が独り歩きしている影響なのか、 2017 年に実施した中高教員対象の授業デザインスキルアップ演習 ( 「アクティブ・ラー

ニングとは何か、その方略を考える」) において、受講者の学校教員には戸惑いを話す者が多かった。 それは、自分が普段よく行っ

ているPPP型の授業形態 [ 第1段階は文法規則の提示 (presentation)、 第2段階はその練習活動 (practice)、 第3段階は発表活

動 (production)] という講義を基にした授業が全面否定されているのではないか、 協同学習をやるだけで英語力が付くのかという

思いであった。

松下 (2015) は、 「網羅に焦点を合わせた指導」 と 「活動に焦点を合わせた指導」 と対立的に 「アクティブラーニング」 が捉

えられることに課題があるとしている。 両者が一体として扱われることが効果的な学習に繋がるとしている。 また、 「アクティブラー

ニング」 導入後の課題として、

・ 知識 ( 内容 ) と活動の乖離

アクティブラーニングを行うと、 活動に時間が取られて、 知識 (内容) の伝達に使える授業時間は減る。 また高次の

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思考を行わせるには、 それに見合う知識 ( 内容 ) の獲得が必要である。

・ 能動的学習をめざす授業のもたらす受動性

アクティブラーニングでは、 活動が構造化され、 学生を活動に参加させる力が強く働く分、 逆に学生は自らの意志で

活動に参加することを求められなくなる。 往々にして、グループ活動として行われるため、個々の学生の責任がかえっ

て曖昧になることがある。

・ 学習スタイルの多様性

「アクティブラーニング型授業が良い授業だ」 という価値観の下での授業に馴染まない学生は、 学びを忌避している

と見られやすい。 学習の多様性は考慮されているか。 グループ活動は、 学習を促進するばかりでなく、 抑制する方

向に働く場合もある。

を挙げている。 そこで、 「ディープ ・ アクティブラーニング」 と学習をめぐる深さの有用性を、 表 1 を使って説いている。

表1 学習へのアプローチの特徴

深いアプローチ…………意味を追求すること  

  意図 : 概念を自分で理解すること  

                                    〈によって〉

・ 概念を既有の知識や経験に関連づける

・ 共通するパターンや根底にある原理を探す

・ 証拠をチェックし、 結論と関係づける

・ 論理と議論を、 周到かつ批判的に吟味する

・ 必要なら、 暗記学習を用いる

  〈その結果〉

・ 理解が深まるにつれ、 自分の理解のレベルを認識する

・ 科目の内容に、 より積極的な関心をもつようになる

浅いアプローチ…………再生産すること  

  意図 : 授業で求められることをこなすこと  

  〈によって〉

・ 授業を、 互いに無関係な知識の断片としてとらえる

・ 事実をひたすら暗記する、 決まった手続きをひたすら繰り返す

・ 目的もストラテジーも検討することなく勉強する

  〈その結果〉

・ 新しい概念を意味づけることが困難となる

・ 授業や設定された課題にほとんど価値も意義も見出せない

・ 課題に対して、 過度のプレッシャーや不安を感じる

( 出典 ) Entwistle (2009, p.36) より訳出。 松下佳代 ( 編 ) (2015) 『ディープ ・ アクティブラーニング』 勁草書房

3.2 アクティブ ・ ラーニングに求められる学習形態構造

アメリカの National Training Laboratories の調べによると、

授業から得た内容を覚えているかを半年後に調べたところ、 定

着率の高い学習方法を定着率の高い順に並べると、 「他の人

に教える」、 「自ら体験する」、 「グループ討論」 の順で、 最も

定着率の低い学習方法は、 ただ黙って講義を聞くという結果

であった。 つまり、 より能動的 ・ 主体性が必要になるほど学習

定着率が高い=教育効果が高いと言える研究結果である。 こ

の図をもとに、 講義形式の授業は学習の定着結びつかない指

導形式であると主張されることが多い。 たしかに、 他の学習者

に説明できることは学習の定着を証明していると言える。 しかし

ながら、 これは学習の一面を捉えているように思われる。 授業

の最初から活動を行ったり、 他者への説明などを行ったりする

ことは無理であり、 それらだけを行って学習定着率が高くなる

とは思えない。

図1 Learning Pyramid (National Training Laboratories)

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また、 図2で示すような生徒主体の学びがすべてであるなら、 生

徒は自学自習すればよく、 学校教育の必要性はない。 授業の中

で教員が教えて生徒に考えさせる学習構造こそ、 より深い学びに

なる。 図 3 のように学びを Active か Passive かのどちらであるべき

かという2元論で判断するものでない。 両方のバランスが必要で、

講義のみの授業に終始することは問題であるが、 講義型の授業が

すべて教育的でない、 教育効果がないというものではない。

斎藤 (2007) は、 学ぶ構えの基本を、

受動的であることに積極的な 「積極的受動性」 である。 自己表現の意欲があるのは構わない。 表現するためにいろ

いろなものを読んで、 自分のものにしてそれで表現するのが、 筋道なのだ。 モーツァルトが音楽の技法 ・ 文法を修得

して表現したように、 である。 知識や技を吸収するときには、 人の言っていることに耳を傾けるという素直な態度が必要

である。 素直であるということが、 学ぶという活動そのものの持っている本質なのだ

と述べている。 講義を素直に聞く中に積極的な学びはある。 アクティブ ・ ラーニングであれ、 素直にものごとを吸収するところ

に学びはある。

したがって、 Learning Pyramid は図 4 のように変形して考えられるべきもの

であろう。 つまり、 “lecture” , “Reading” , “Audio Visual” , “Demonstration”

の組み合わせ指導と “Discussion Group” , “Practice by Doing” , “Teach

Others” を統合させることが、 生徒の主体的な学習とより深い学びをもたらす

と考える。 学習の定着率を上げるにはこれらの要素の相互の働きで強化される

ものである。 学びの内化があって、それが外化に繋がると言える。 ただ同時に、

外化がないと学びが強固なものになっているかどうかわからないことも事実であ

る。

学習者である生徒が教材の内化を自身の力でこなしうる場合もあるであろう

が、 図 5 で示すように教員の指導が教材の内化に必要である。 したがって、

アクティブ ・ ラーニングは一授業すべての学習形態を指すものでなく、 場面に

応じた指導 ・ 学習形態であると捉えるべきものである。 教材の外化 ( 深い学び ) には生徒の主体的な学習活動が不可欠である

ことは言うまでもない。

Bonwell & Eison (1991) は、 様々な Active Learning の解釈が散見され、

定まったものはないとしながらも、 授業においてアクティブ ・ ラーニングを推

進する共通の特徴を以下のように示している。

・ Students are involved in more than listening.

・ Less emphasis is placed on transmitting information and more on     

 developing students’ skills.

・ Students are involved in higher-order thinking (analysis,

 synthesis, evaluation).

・ Students are engaged in activities (e.g., reading, discussing,

 writing).

・ Greater emphasis is place on students’ exploration of their own attitudes and values.

アクティブ ・ ラーニングの成否は、 根本的には 5 つ目にある 「生徒自身の教材への考え方や重要性への探究」 であろう。 生

徒自身が学びへの探究に意欲を持たないと好結果を生み出さない。 もう一つの重要な要素は、 思考 (thinking) である。 教材

の内化 ・ 外化を行う力は思考力である。 生徒の思考力を活性化し育成する指導がアクティブ ・ ラーニングの成否を握る。

Active能動

Active能動

Passive受動

Passive受動

InactiveInactive

詰め込み ゆとり

教師主導型 生徒主導型

静的 動的

二元論・二項対立で判断して良いのか

受動的な学習というものはあるのか

学習=act

Reactive図2 Passive learning vs. Active learning

図3 学びは二元論 / 二項対立?

図4 台形型学習構造

図5 教材の内化と外化 松下佳代 ( 編 ) (2015) 『ディープ ・ アクティブラーニング』 勁草書房を参考に作成

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3. 3 アクティブ ・ ラーニングの技法

表2 アクティブ ・ ラーニングの技法

類 型 技    法

受動的学習 教員主導型 Chalk & Talk の一方的講義

アクティブ ・ ラーニング 講義中心型 発問応答、 コメントシート、 小テスト、 ショートレポート、 振り返りシート, 宿題

生徒参加型 議論、 発表などの言語活動、 体験学習、 反転授業

生徒主導型 協同学習、 調べ学習、 ディベート、 課題解決学習、 プロジェクト学習、 学び

の協同体、 ジグソー法、 総合学習

 表 2 にあるように、 講義型の授業においても生徒の能動的な関わりを促すことができる。 アクティブ ・ ラーニングは生徒主導型

の授業形式をすべて行うということではない。 生徒の思考を活性化させ、 主体的に取り組ませ、 自分の考えを述べさせることに留

意することが求められる。 溝上 (2014) は表 3 のようにアクティブ ・ ラーニングの技法を更に細かく分類してまとめている。

表 3 「アクティブラーニング」 の技法とその概要

溝上慎一 (2014) 『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』 東信堂より

 ここにリストアップされている技法は、 中学校 ・ 高等学校の授業では従来から取り入れられているものが数多くある。 したがって、

教員はアクティブ・ラーニングを協同学習、 調べ学習、 ディスカッション、 ディベートなどに限られた学習形態と考える必要はない。

 2016 年夏季の現職中高英語科教員講習の受講者に行ったアンケート (資料1) で 26 人からの回答結果を得た。 その中で実

際によく実施されている技法は表4のとおりである。

カテゴリー 技法名 技法の概要 カテゴリー 技法名 技法の概要

思考・ペア・シェア少しの時間、個人で考える。その後、パートナーと話し合い、お互いの回答を比較する。その後、クラス全体で共有する。

構造化された問題解決 問題解決のための構造化されたフォーマットにしたがう。

ラウンド・ロビン ひとりずつ順番に自分の考えを話す。 分析チーム批判的に文章課題を読み、講義を聴き、ピデオ視聴する際、メンバーはそれぞれの役割と課題を担う。

バズ・グループ 科目内容に関連した質問を小グループで話し合う。 グループ研究 より深い研究プロジェクトを計画・実施・報告する。

トーキング・チップグループの話し合いに参加し、話すごとにトークンを提出する。

似たもの同士をまとめるアイディアを考え、共通のテーマを見つけ、アイディアを並べ替え、まとめる。

三段階インタビューベアでお互いにインタビューし、パートナーから学んだ内容をほかのベアに報告する。

グループ・グリッドひとまとまりの情報が与えられ、カテゴリーにしたがって、グリッドの空いたセルに挿入する。

批判的デイベート ある問題について、自分とは異なる立場から議論する。 チーム・マトリックス定義に用いる重要な特徴の有無をチャートで確認して、類似した概念を区別する。

ノートテイキング・ペアパートナ一同士でそれぞれがとったノートを見せ合い、より良いノートをつくる。

シークェンス・チェイン 一連の出来事や行為、役割や決定を分析し、図解する。

ラーニング・セル読書課題やほかの課題について、自ら考えた質問をパートナーにおこない、お互いに小テストをする。

ワード・ウェブ関係したアイディアのリストを作り、それらを図解し、結びつきを示す線や矢印を書き、関係性を見いだす。

フィッシュ・ボウル同心円を作り、内側の学生があるトピックについて話し合いをし、外側の学生はその話し合いを聞き、観察する。

交換日誌日誌に自分の考えを書き、ベアで交換し合ってコメントや質問を書く。

ロール・プレイ自分と異なる人物を想定し、ある場面でその人物の役割を演じる。

ラウンド・テーブル与えられたテーマに対する回答や語句を短い文章で紙に書き、次の人に渡す。渡された人も同じことを行う

ジグソー ある話題について知識を学び、他者にその知識を教える。 ペア・レポートレポート用の質問と、その質問に対する模範解答を作成する。質問をベアで交換し合い、その質問への回答を書いた後で、模範解答と比較する。

テスト・チームグループで試験勉強をし、一人ひとりで試験を受けた後、同じグループで再度試験を受ける。

ピア・エディティングパートナーが書いた小論文やレポート、議論、研究論文などを批判的に読み、校正を加えながら論評する。

問題解決タップス(TAPPS:Think AloudPair Problem Solving)

パートナーに対して、自分の思考過程を声に出しながら問題を解決する。

協調ライティング グループでフォーマルな原稿を書き上げる。

問題解決伝言ゲームグループとして一つの問題を解決する。次に、その問題と解決案を隣のク'ループに送り、次々にこれを繰り返していく。最後のグループが解決案を評価する。

チーム資料集グループで批評しながら、科目に関連する課題図書用の資料集を作成する。

事例研究現実世界の出来事を検討し、そこにあるジレンマの解決策を考える。

論文プレゼンテーション

論文を書き、その論文のプレゼンテーションをおこなう。グループの中から選抜された数名の学生により公式な批評を受け、グループ全体で論文に対する総合的なディスカッションをおこなう。

図解

文章作成

問題解決

話し合い

教え合い

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 表 4 アクティブ ・ ラーニングの技法の実践     ( 単位 : % )

    よくやる やったことがある 合計

1 思考 ・ ペア ・ シェア 57.7 38.5 96.2

2 バズ ・ グループ 15.4 61.5 76.9

3 ジグソー 11.5 46.2 57.7

4 ラウンド ・ ロビン 11.5 42.3 53.8

5 三段階インタビュー 3.8 50.0 53.8

6 批判的ディベート 3.8 38.5 42.3

7 ロール ・ プレイ 7.7 34.6 42.3

「思考・ペア・シェア」 は現職教員にはなじみのある指導活動形態である。 「バズ・グループ」 が次いで多かった回答であるが、

「思考 ・ ペア ・ シェア」 ほど 「よくやる」 というものではない。 「ジグソー」 リーディングなど準備に時間がかかるものを手がけてい

る教員もいる。

3. 4 アクティブ ・ ラーニングがうまく機能しない状況

上記の技法を踏まえた上で、 実際の授業において、 アクティブ ・ ラーニングがうまく機能しないことも起こりうる。 特にグループ

学習やペア学習で行う形態で考えられる課題は、 ①グループで活動すると英語でやりとりをすることを促しても日本語を話す生徒

がいる、 ②課題を完了する時間がグループにより異なり未消化の場合がある、 ③英語が得意な生徒がすべてをこなして英語が苦

手な生徒は何もしないことがある、 ④グループ学習が苦手な生徒がいる、 ⑤グループ活動を行うと騒々しくなりすぎてクラスを管

理できない、 ⑥グループ活動中の英語の誤りが多すぎて指導しきれず、 返って誤った英語を身につけることになる、 ⑦グループ

活動を取り入れると試験のための勉強ができなくなる、 などは研修受講者からよく聞く課題である。

これらの課題への対策としては以下のようなものが考えられる。

・ グループ学習を日常化することで、 時間的にスムーズに行えるようになる。

・ グループ全員が貢献できる活動 ・ タスクを考える。

・ グループ活動中には、 リーダー、 発表役など一人一役の役割を与える。

・ 日本語を使う生徒が多い場合、 難しすぎない課題を与えるようにする。

・ 指導内容の点検や実際の例を事前に行っておく。

・ 早く活動を終える生徒には teacher's helper として他のグループの支援をさせる。

・ 生徒が常にフィードバックできるチェックシートを準備する。

・ 資料は二人に一つ配付することで、 単独でなく協同作業をさせるように環境を作る。

・ 黒板に進捗状況や考える手立てなどを板書し、 共有の掲示板とする。

 他にそうした状況の要因として、 教員 ・ 生徒双方に想定されるものは表 5 のようになると考える。

 表5 アクティブ ・ ラーニングを効果的に実施できない要因

教員側の問題 ・ 課題   生徒側の問題 ・ 課題

・ 自学自習を生徒に促進させる技量がない   ・ 独りよがり ・ 独断で決めつける

・ サブノートプリント学習など過剰介入して指導する   ・ 内容の浅い議論、 雑談に終止する

・ 学習の目的を的確 ・ 明確に伝達できない   ・ 討論の前提となる一般教養 ・ 知識の不足

・ 成績評価が授業にフィードバックされない   ・ 安易な解答に満足する

・ 指導の段取りを充分に準備しておかない   ・ 提出課題が未消化で未提出

・ 指導に生徒の気づきの段階を考慮しない   ・ 協同学習のリーダーの力量不足

・ 教員と生徒、 生徒同士の連携関係の認識不足   ・ 協同学習に対するやらされ感

・ アクティブ ・ ラーニング授業をやらされている感   ・ 思考訓練の量的 ・ 質的不足

4. 様々な技法を使った指導例

4.1 講義中心型での技法 : コメントシート、 小テスト、 振り返りシートなど

a. コメントシート or ミニッツ ・ ペーパー

中高では、 ノート指導で行う。 授業内容のポイントやまとめなどを書かせるコーナーやブランク部分を予め作成させておき、 そ

のまとめなどを点検しコメントを付して指導する。 また、 授業内容やテキストに関する質問を書かせて、 それについて回答する。

また、 いくつかの質問を授業で取り上げ全員に披露し、 他の生徒にも考えさせたりする。 生徒自身に質問を考えさせることで授

業への関わりを強める。

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142

b. 小テスト

・ 授業のはじめに行う小テスト

 テストの波及効果として、 事前の学習の定着率が高くなる。 それによって授業に集中させることができる。 前時の学習の復習を

促すことで授業での理解の向上を図りより積極的に授業に参加する意欲を引き出すことを心がける。

・ 授業の途中で行う小テスト

 解説説明型の授業では、 生徒が受け身的状況に終始することになる。 その解説が教材の内化に必要なステップであるとしても、

それでは生徒の集中力が切れる。 学習内容に関して自ら考えるきっかけやフィードバックさせる時間を持つことによって、 生徒自

身に自分の理解度を確認させ、 わからないことがあれば、 そのことについて再考を促すことになる。

・ 授業の終わりに行う小テスト

 まとまった内容の理解度を再確認させる。 理解が不十分な箇所を把握させ、 復習のポイントを明確にする。 これらの小テストは、

単語の確認、 文法 ・ 構文の理解、 教材内容の理解の確認などと様々な目的内容があるが、 大切なことは資料1のように生徒に

思考を促すことである。 暗記による解答は避けるべきである。

    資料1 文章理解の思考を促す小テスト  (京都市立西京高等学校 西村久仁美教諭作成)  

C. 振り返りシート

 ワークシートなどに help コーナーや振り返りチェックのコーナーを設けている場合がある。 鳴門市立第一中学校日下美香教諭

作成の資料2などは 「Help コーナー」 を儲け生徒の主体性を引き出したり、 「ふりかえりましょう」 で自己点検をしたりするのに有

効であると考える。 ただし、 教員からのフィードバックとしてのコメントを付すことが双方向のやりとりとなる。

資料2 振り返りシート例 (鳴門市立第一中学校 日下美香教諭)

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4. 2 生徒参加型での技法 : 議論、 発表などの言語活動など

特別なトピックや課題を与えて、 それらについて発表活動を行わせると、 日常の授業からの距離感があり特別授業として捉えら

れることがある。 日常扱う教科書などのテキストから発展するように考える方が望ましい。 output 活動 ( 教材の外化 ) を行うには、

intake 活動という教材の内化 ( 内在化 ) が必要である。 そのためには、 授業中において効果的な発問を豊富に行っておくことが

必要となる。 三省堂 Crown の 「英語コミュニケーションⅠ」 で例示する。

 

授業の構成として以下のことに留意する。

■導入 Pre-reading 活動の Interaction

・ 教材に対する意欲 ・ 関心を高める…心を開く動機付け

・ テキストの挿絵 ・ 写真を活用し教材を身近に感じさせる

・ 読めば謎が解ける、 読めば筆者の思いが分かるしかけづくり…キーワードが持つ意味の展開 ( 比較的に短い時間で行う )

■展開 1 : 理解の活動の Interaction In-reading 活動

・ 理解のための問いかけの効果的なステップ…概略から詳細へ

・ 「キーワードは何か」

・ テキストの情報理解 「〜の理由原因は何?」

・ true or false の問いかけ

■展開2 : 思考の活動の Interaction  In-reading 活動

・ 主題に対するより深い部分を尋ねる。 根底にあるテーマは何か

・ 多様な回答を求める。 正解は一つでない

・ ここから推測されることは何か

・ 筆者の思いや主張はどのように表現されているか

・ このことば ( 単語 ) や表現が使っている筆者の気持ち ・ 主張はなんであろう。 機能文法からの分析

・ テキストに付随しているグラフの情報を読み取らせる

・ それぞれのパラグラフのつながりから筆者の論理展開はどうなっている

・ キーワードの確認

・ Topic sentence は?

資料3 Unit 8 Not So Long Ago, “Crown English Communication I”、 三省堂

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・ コンテント ・ マップを描かせる。

・ 「登場人物の心情はどのように変化しているか」

・ パラグラフの要約

この展開構成で、 発問を工夫する。 事前に教員はどのような発問が有効か検討する。 以下は本学の英語科教育法 II における

模擬授業で学生に指導する発問例である。

・ What do you see in this picture?

・ How old do you think the boy is?

・ What do you think he is watching?

・ What is he carrying on his back?

・ How does the baby on his back look?

・ What kind of attitude does he have?

・ What is the main idea/message of this passage?

・ In which sentences do you find how the author is feeling?

・ How do you think the author feels when the boy went away silently?

・ Which sentences describe the boy's feeling?

・ What word do you think the ultimate key word?

・ Why do you think the boy stood there for 5 or 10 minutes before the men in white masks walked over to him?

・ Why did the men in white masks begin to take off the rope?

・ Why do you think the boy not its parent held the baby on his back?

・ Why was the boy biting his lower lips so hard?

・ Why did the boy turn around and walk silently away?

その上で、 発表 ・ 表現活動を取り入れる。 発問は思考を推進する原動力である。

◆本気に考えさせる表現活動例

・ テキスト内容の今後の展開を考えて発表する。 ターゲット表現を指定してもよい。

・ スキットを作る

・ パワーポイントを使ったプレゼンテーション

・ リサーチをさせ、 調べた結果を発表させる

・ テキスト内容に関連する別テキストをさがさせ、 その論旨を発表させる

・ テキストのテーマをもとにディスカッションする

・ Oral Interpretation として朗読表現する

◆ターゲット表現での自己表現例

・ 語法習得としてのターゲット表現の英文創作

・ 語法習得としてのターゲット表現の英文創作+自己メッセージ

・ グループによる語法習得のためのストリー創作

資料4 学生の作成した表現活動例

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4. 3生徒主導型での技法 : ジグソー法、 プロジェクト学習など

・ ジグソー法

ジグソー法とは、 参加者がそれぞれ情報をもち, 課題を達成する

ためにはお互いの情報を出し合わなければならない協調的な学習

方法の一つである。 大学発教育支援コンソーシアム推進機構が進

める 「知識構成型ジグソー法」 は、 「協調学習であり、 自分の言葉

で説明したり、 他人の説明に耳を傾けたり、 わかろうとして自分の考

えを変えたりといった、 一連の活動を繰り返すことで、 考え方や学

び方そのものが学べることがわかってきています」 とその有効性を述

べている。 一連の方法は、

STEP.0 問いを設定する

STEP.1 自分のわかっていることを意識化する

STEP.2 エキスパート活動で専門家になる

STEP.3 ジグソー活動で交換 ・ 統合する

STEP.4 クロストークで発表し、 表現をみつける

STEP.5 一人に戻る

ここでのエキスパート活動は、 グループで与えられた教材を読み合ってその内容に関して理解を深め、 担当している教材につ

いて少し詳しくなる活動である。 ジグソー活動で異なる教材を読んだもの同士が集まり、 それぞれは自分の考えで集った者に自

分の教材の内容を自分の言葉で説明する。 その上でそれぞれのパートを組み合わせ課題の解釈や回答をまとめる。 その後、 新

しいグループ毎に考えた課題の解釈や回答を発表する。 それぞれのグループの様々な発表 ・ 報告を聞いた後に、 最後には一

人で最終回答をまとめる。 これが流れである。

この活動には、 教材の準備が必要である。 教科書を扱っている場合、 たとえばその内容の賛成意見、 反対意見を ALT の協

力を下に作成し、 総合した課題問題を加えるなど事前の準備をすることが求められる。 第一級の教材として、 英字新聞などの記

事を 3 分割し、 それらをジグソー活動の課題にするなど、 教材となる素材を常に収集することが肝要である。

問題解決型のタスクにすると、 合理的な判断力が必要で容易い活動にはならないが、 解決時の達成感は他の学習方法では

得られないものがある。 実生活上の問題を扱うタスクにすると、 自己の経験などの述べることができ、 より関心を持って臨むことが

できる。

・ プロジェクト学習

 中学校の英語教科書に見られるプロジェクト学習は表 6 のようなものがある。

鈴木敏恵 (2012) は、 「プロジェクト学習は、 意志ある学びを実現する、 自分で考え判断, 行動できる人間を育てる、 現実の中

で行い、 現実に役立つ成果を生み出す」 とその効果を挙げている。 プロジェクトの課題としては、 取り組んでいる学習教材を基

「エキスパート活動」

課題解決のヒントとなる部品をグループごとに1つずつ分担し、その内容を理解するための話し合いをします。

「ジグソー活動」

エキスパート班から1人ずつ集まって新しいジグソー班を作り、部品を持ち寄って話し合い、メインの課題を解決します。

「クロストーク」

ジグソー班ごとに課題の解とその根拠を説明し、全体で共有・意見交換の話し合いをします。

知識構成型ジグソー法知識構成型ジグソー法

表 6 中学校教科書に見るプロジェクト活動

図6 知的ジグソー法 大学発教育支援コンソーシアム推進機構

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にする学習課題、 生とが自分で解決したいと考える 「個人課題」、 社会にとって必要なものは何かを考える 「社会的課題」 など

がある。 教員は最終結果のまとめだけを評価するのでなく、 形成的評価として、 当初計画目標への進捗状況に対するアドバイス

を与えなければならない。 伝えたいことは明確になっているか、 論理展開に整合性があるか、 分かりやすい図解を取り入れてい

るか、 文章表現が適切かなどをフィードバックしながら生徒の思考を深めさせてゆくことが肝要である。 したがって、 プロジェクト学

習を行う際には、 結果としての発表を見るだけでなく、 その都度の進捗状況や疑問点などを報告ポートフォリオとして提出させ、

コメントを返してゆくことが大切である。 生徒の思考の整理のサポートをすること、 生徒により深い思考を求めていくことである。

 卒業論文の指導を行っている本学 4 年生戸田が行った中学 1 年生 (251 名 ) 対するアンケート結果を整理活用したものが表 7

である。 初期の英語学習者にはグループ・ペア学習が欠かせないことがわかる。 対象が高校生となってくると、 単にペアやグルー

プで行う協同学習と考え活動を行うことはできない。 思考力を活性する素材内容や知的内容を伴う者が必要であろう。 高校生の

興味を惹く Discussion のトピック、 調べ発表学習のテーマとして、 “Hot topics Japan” には以下のようなトピック例がある。

People & Society

・ Personal Space

・ Japanese Restaurant Culture

・ Collectivism

Health & Fitness

・ Natural vs. Artificial Ingredients in Snacks

・ Medical Masks in Japan

・ Japanese Tea

Children & Education

・ Youth Subcultures in Japan

・ Juku Culture

・ Studying Abroad

Science & Technology

・ Cell Phone Etiquette in Public Places

・ Vending Machines

・ Robotics Research

Art & Culture

・ Manga

表7 分かりやすい授業に関するアンケート結果 ( 中学 1 年生 )

N 251, 単位 : %

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・ Karaoke

・ Japanese Gardens

5. おわりに

 2500 年ほど前の中国の故事名言の一つに 「聞いたことは、 忘れる。 見たことは、 覚える。 やったことは、 わかる (What I hear,

I forget. What I see, I remember. What I do, I understand.)」 があるが、 これはアクティブ ・ ラーニングの効果の根拠を説いてい

ると考えられる。 ただ、わかるにも段階がある。 いきなりわかるというものでもない。 大半の生徒は「わかろうとしている」段階から「わ

かる」 段階へ移行する。 したがって、教員は図 5 にあるように、「わかっていない」 あるいは 「わかろうとしている」 生徒の実態 (授

業で考慮すべき教材の適性と対象とする生徒の個性や英語力、クラスの雰囲気など) を検討した上でアクティブ・ラーニングの 「や

る」 形態を計画する必要がある。 生徒同士お互いに話し合わせる、 質問させるなども当然必要な活動であるが、 授業は生徒の

活動だけに終始するなら教員は必要ない。 アクティブ・ラーニングそのものは、 「学び」 に焦点を当てた用語である。 授業は 「学

び」 だけで構成されるものではない。 「教える」 ことも必要である。 つまり、 「教える」 ことと 「学ぶ」 こととは切り離すことができな

い表裏一体のものである。 教員の分かりやすい説明を生徒が吸収することを通して深い学びが生まれる。 それを促すものは 「思

考」 である。 したがって、 アクティブ ・ ラーニングという学習形態を実施する前に、 教員は生徒の思考を活性化する説明 ・ 解説

力を磨かなければならない。 たとえば、 「自分の言葉で情報を伝達する」 「例示を行う」 「様々な考えを複合的に考え整理して伝

える」 「結果を予測する」 「賛成 ・ 反対の意見などを投げかける」 など、 生徒の思考を活性化する問いかけをともなう解説 ・ 説明

が必要である。

 アクティブ ・ ラーニングは一つの学習形態であって、 授業すべてがアクティブ ・ ラーニングの形態を行うものでもない。 図6にあ

るように授業場面に応じ、 育成内容にも応じて、 その学習形態を取り入れていくことが望まれる。

図7 生徒の理解を促す学習活動を行う際の確認事項

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引用 ・ 参考文献

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Chickering, A. W., & Gamson, Z. F. (1987). Seven principles for good practice in undergraduate education. AAHE Bulletin

Blah, D. (1994). Foreign Language Teacher's Guide to Active Learning. Routledge

Silberman, M. (1996). Active Learning 101 Strategies to Teach Any Subject. Allyn & Bacon

Willis, D and Willis, J. (2007). Doing Task-based Teaching. Oxford University Press

市川伸一 (2008). 『「教えて考えさせる授業」 を創る』 図書文化

石井英真 (2015). 『今求められる学力と学びとはーコンピテンシー ・ ベースのカリキュラムの光と影』 日本標準ブックレット

大下邦幸 (2009). 『意見 ・ 考え重視の英語授業ーコミュニケーション能力養成へのアプローチ』 高陵社書店

假屋園昭彦 (2009). 『対話を中心とした授業デザインおよび教師の対話指導方法の開発的研究』 鹿児島大学教育学部教育

実践研究紀要第 19 巻

斎藤孝 (2007). 『教育力』 岩波新書

鈴木敏恵 (2012). 『プロジェクト学習の基本と手法―課題解決力と論理的思考力が身につく』 教育出版

田中耕治 (2008). 『教育評価』 岩波テキストブック

田村学 (2015). 『授業を磨く』 東洋館出版

松下佳代 ( 編 ) (2015). 『ディープ ・ アクティブラーニング』 勁草書房

溝上慎一 (2014). 『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』 東信堂

愛知県総合教育センター :

http://www.apec.aichi-c.ed.jp/shoko/98syuu/kyouka_eigo/part2all.pdf

黒上晴夫 (2012). 『シンキングツール ~考えることを教えたい』 :

http://ks-lab.net/haruo/thinking_tool/short.pdf

国立教育政策研究所プロジェクト研究 (2013) 「教育課程の基準における 資質 ・ 能力の示し方について」 ( 平成 21~25 年度 )

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/095/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2013/12/04/1341804_04.

pdf

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http://coref.u-tokyo.ac.jp/archives/14883

Task Based Learning( タスク を基にした活動 ) の基本的 な考え方とタスク活動例 :

http://shien.ysn21.jp/contents/teacher/shidou/houkoku/apd1_8_2009020819162742.pdf

第5回学習指導基本調査 (高校版) :

      http://benesse.jp/berd/center/open/report/shidou_kihon5/kou_hon/index.html

中央教育審議会 (2012). 『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、 主体的に考える力を育成

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        http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm 

ベネッセ教育総合研究所 (2014). 『中高生の英語学習に関する実態調査 2014』 http://berd.benesse.jp/global/research/

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山梨大学 (2014). 『アクティブラーニングガイド』 :

http://www.che.yamanashi.ac.jp/modules/activelearning/index.php?content_id=1

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所属:□中学校   □高等学校 N-26

No カテゴリー 技法名 技法の概要 良くやるやったこと

がある良くやる

やったことがある

合計

1 思考・ペア・シェア 少しの時間、個人で考える。その後、パートナーと話し合い、お互いの回答を比較する。その後、クラス全体で共有する。 15 10 57.7 38.5 96.2

2 ラウンド・ロビン ひとりずつ順番に自分の考えを話す。 3 11 11.5 42.3 53.8

3 バズ・グループ 科目内容に関連した質問を小グループで話し合う。 4 16 15.4 61.5 76.9

4 トーキング・チップ グループの話し合いに参加し、話すごとにトークンを提出する。 3 0.0 11.5 11.5

5 三段階インタビュー ベアでお互いにインタビューし、パートナーから学んだ内容をほかのベアに報告する。 1 13 3.8 50.0 53.8

6 批判的デイベート ある問題について、自分とは異なる立場から議論する。 1 10 3.8 38.5 42.3

7 ノートテイキング・ペア パートナ一同士でそれぞれがとったノートを見せ合い、より良いノートをつくる。 6 0.0 23.1 23.1

8 ラーニング・セル 読書課題やほかの課題について、自ら考えた質問をパートナーにおこない、お互いに小テストをする。 5 0.0 19.2 19.2

9 フィッシュ・ボウル 同心円を作り、内側の学生があるトピックについて話し合いをし、外側の学生はその話し合いを聞き、観察する。 2 0.0 7.7 7.7

10 ロール・プレイ 自分と異なる人物を想定し、ある場面でその人物の役割を演じる。 2 9 7.7 34.6 42.3

11 ジグソー ある話題について知識を学び、他者にその知識を教える。 3 12 11.5 46.2 57.7

12 テスト・チーム グループで試験勉強をし、一人ひとりで試験を受けた後、同じグループで再度試験を受ける。 1 0.0 3.8 3.8

13タップス(TAPPS:Think Aloud PairProblem Solving)

パートナーに対して、自分の思考過程を声に出しながら問題を解決する。 1 7 3.8 26.9 30.8

14 問題解決伝言ゲーム グループとして一つの問題を解決する。次に、その問題と解決案を隣のク'ループに送り、次々にこれを繰り返していく。最後のグループが解決案を評価する。 6 0.0 23.1 23.1

15 事例研究 現実世界の出来事を検討し、そこにあるジレンマの解決策を考える。 4 0.0 15.4 15.4

16 構造化された問題解決 問題解決のための構造化されたフォーマットにしたがう。 1 5 3.8 19.2 23.1

17 分析チーム 批判的に文章課題を読み、講義を聴き、ピデオ視聴する際、メンバーはそれぞれの役割と課題を担う。 1 0.0 3.8 3.8

18 グループ研究 より深い研究プロジェクトを計画・実施・報告する。 1 8 3.8 30.8 34.6

19 似たもの同士をまとめる アイディアを考え、共通のテーマを見つけ、アイディアを並べ替え、まとめる。 8 0.0 30.8 30.8

20 グループ・グリッド ひとまとまりの情報が与えられ、カテゴリーにしたがって、グリッドの空いたセルに挿入する。 7 0.0 26.9 26.9

21 チーム・マトリックス 定義に用いる重要な特徴の有無をチャートで確認して、類似した概念を区別する。 2 0.0 7.7 7.7

22 シークェンス・チェイン 一連の出来事や行為、役割や決定を分析し、図解する。 1 5 3.8 19.2 23.1

23 ワード・ウェブ 関係したアイディアのリストを作り、それらを図解し、結びつきを示す線や矢印を書き、関係性を見いだす。 7 0.0 26.9 26.9

24 交換日誌 日誌に自分の考えを書き、ベアで交換し合ってコメントや質問を書く。 1 8 3.8 30.8 34.6

25 ラウンド・テーブル 与えられたテーマに対する回答や語句を短い文章で紙に書き、次の人に渡す。渡された人も同じことを行う 3 5 11.5 19.2 30.8

26 ペア・レポート レポート用の質問と、その質問に対する模範解答を作成する。質問をベアで交換し合い、その質問への回答を書いた後で、模範解答と比較する。 1 3 3.8 11.5 15.4

27 ピア・エディティング パートナーが書いた小論文やレポート、議論、研究論文などを批判的に読み、校正を加えながら論評する。 2 8 7.7 30.8 38.5

28 協調ライティング グループでフォーマルな原稿を書き上げる。 4 0.0 15.4 15.4

29 チーム資料集 グループで批評しながら、科目に関連する課題図書用の資料集を作成する。 1 0.0 3.8 3.8

30 論文プレゼンテーション 論文を書き、その論文のプレゼンテーションをおこなう。グループの中から選抜された数名の学生により公式な批評を受け、グループ全体で論文に対する総合的なディスカッションをおこなう。 2 0.0 7.7 7.7

溝上慎一(2014)『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』東信堂をもとに作成

人数 (N=26) 割合

図解

文章作成

話し合い

教え合い

問題解決

アクティブラーニングの技法と実践アンケート   

資料 アクティブ ・ ラーニング技法実施状況アンケート結果